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みずほ情報総研レポートとは
みずほ情報総研株式会社コンサルティンググループ
に所属するコンサルタントが、企業経営分野・公共
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・工学分野等のトピックスを専門的見地から採り上
げ、論述したレポート集です。
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社会動向レポート
国内外における税制グリーン化の最新動向と日本への示唆 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2
環境エネルギー第1部 地球環境チーム チーフコンサルタント 元木 悠子
コンサルタント 内藤 彩
日本の省エネ政策の検討状況と短期的に想定される動きについて ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・18
環境エネルギー第2 部
コンサルタント
桐原
貴大
廃棄物・リサイクル法体系の一元化に向けて ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・25
環境エネルギー第1部
コンサルタント
水上
碧
後発医薬品のさらなる使用促進のために ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・36
~ 後発医薬品使用促進に向けた地域での取組み ~
社会政策コンサルティング部
マネジャー
田中
陽香
わが国医療産業の海外展開のあり方に関する考察 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・41
ICT を活用した効果的で効率的な医療の輸出
社会政策コンサルティング部
日諸
コンサルタント
恵利
未就学児を中心とした子どもの情報通信端末の利用実態と効果 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・52
~ 保護者の意識調査の結果から ~
経営・IT コンサルティング部
岡松
コンサルタント
さやか
技術動向レポート
国土地理院の標高タイル・ベクトルタイルに見る地理空間情報の活用促進の可能性 ・ ・ ・ ・ ・60
情報通信研究部
井上
チーフコンサルタント
敬介
ハイパフォーマンスコンピューティング技術が切り開くものづくり ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・66
サイエンスソリューション部
対
マネジャー
山出
吉伸
談
「みずほグローバルアグリイノベーション」を通じて結ぶ日本式農業とアフリカ ・ ・ ・ ・ ・74
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vol.11
2016
社会動向レポート
国内外における税制グリーン化の最新動向と日本への示唆
環境エネルギー第1部
元木
チーフコンサルタント
悠子
地球環境チーム
コンサルタント
内藤 彩
昨年度に引き続き、国際的に注目を集める税制グリーン化の最新動向について、対象国を日本、
欧州、北米、豪州の計16カ国に拡大し、政府関係者など各国の税制の専門家に対するヒアリン
グ調査をもとに整理した。また、各国の取組みを比較し、そこから示唆される日本の税制グリー
ン化の課題や今後の方向性について論じた。
(3)
界的な潮流に逆行しているとの指摘もあり
はじめに
、
日本の取組みに対する世界の目はますます厳し
2015年12月に、地球温暖化防止を目指す新
くなりつつある。
たな国際協力の枠組み「パリ協定」が COP21(国
日本は今後、規制や経済的手法などあらゆ
連気候変動枠組み条約第21回締約国会議)で採
る政策ツールを総動員して、世界に遅れること
択された。米国や中国を含むすべての国が、温
なく、再生可能エネルギーと省エネの一層の
室効果ガス削減の自主目標を提出し、着実に実
拡大に力を注ぐべきであるが、環境税はそのた
施していくことが規定された。さらに産業革命
めの重要なツールである。経済協力開発機構
前からの気温上昇を2度未満に抑える目標を明
(OECD)によれば、環境税(あるいは環境関連
記した上で、1.5度に抑えるよう努力する意思
税)には、エネルギー製品に対する「エネルギー
(1)
。加えて2015年9月には持続可能な
課税」
、自動車やその他の輸送手段に対する「車
開発目標が国連で採択され、従来の貧困撲滅に
体課税」
、および廃棄物や天然資源等に対する
焦点を当てた目標から、すべての国を対象に環
「その他の課税」があり、いずれも価格シグナ
境対策に注力した開発目標が合意され、各国が
ルを通じて、汚染者である企業や消費者が環境
(2)
汚染の費用を確実に考慮に入れることで、消費
日本は経済大国として、低炭素化の率先した
における排出削減や生産技術の向上等を促すこ
も示した
「持続可能な成長」の実現に向け舵を切った
。
(4)
取組みが求められる立場にあるが、2030年の
とができる点に特徴がある
温室効果ガスの削減目標(2013年度比26%削
税には政府に歳入をもたらすなどのメリットも
減、1990年比18%削減)は、欧州連合(EU)の
ある。
目標(1990年比40%削減)と比べると見劣りす
。加えて、環境
環境税を用いて税制を環境負荷に応じたもの
(5)
る。また昨今の国内における火力推進の動きに
に変えていこうとする「税制グリーン化」
対しては、英国や米国における火力発電に対す
動きは、特に欧州諸国で過去20年余り、「環境
る規制強化や、「ダイベストメント」と呼ばれ
税制改革(Environmental Tax Reform)」や「環
る化石燃料に関わる企業からの投資撤退等の世
境 財 政 改 革(Environmental Fiscal Reform)」
の
2
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国内外における税制グリーン化の最新動向と日本への示唆 
として実践され、その動きは年々広がりを見せ
(2%)、欧州(1.8 ~ 3.9%)より小さく、最も大
ている。筆者らは、国内外における税制グリー
きなデンマークとは2.5倍の開きがある。税収
ン化の取組みについてこれまで 2 年間、調査を
構成は国により違いがある。今回調査した16
行ってきた。昨年、欧州主要国の状況について
カ国のうち、オランダを除くすべての国で、
「エ
(6)
取りまとめたところであるが
、本稿では対
ネルギー課税」と「車体課税」が環境税収全体
象を16カ国(日本、ドイツ、英国、フランス、
の9割以上を占めている。残る「その他の課税」
イタリア、スウェーデン、デンマーク、フィン
には廃棄物やリサイクル、公害関連、天然資源
ランド、スイス、アイルランド、ポルトガル、
や生態系保全などを目的とする様々な税があ
オランダ、ベルギー、米国、カナダ、豪州)に
り、中には、オランダ、デンマーク、フランス
拡張し、政府関係者など各国の税制専門家に対
のように環境税全体の10%割前後とかなりの
するヒアリング調査を行った。本稿ではその成
割合を占める国もある。
果を踏まえ、各国の税制グリーン化の最新動向
以下では、日本、欧州、北米、豪州、それぞ
を整理するともに、各国の比較を通じて、今後
れの地域で、どのような「税制グリーン化」の
日本が取組むべき課題や方向性などについて、
取組みが行われているかを具体的に見ていきた
筆者らの意見を述べたい。
い。各地域の主な環境税の導入状況については
図表 2 を参照されたい。
1. 国内外における税制グリーン化の取
組み
(1)日本
図表1に、日本および諸外国の環境税の税
エネルギー課税には、化石燃料の輸入・採取
額と構成、そして環境税の税収が GDP 全体に
段階で課税される石油石炭税と、石油製品の流
占める割合を示した。これを見ると、日本の
通段階で燃料ごとに課税される揮発油税、地方
GDP 比率は1.5%程度(約7.4兆円)であり、米
揮発油税、石油ガス税、軽油引取税、航空機燃
国(0.7%)やカナダ(1.1%)を上回るが、豪州
料税、販売電力に対して課税される電源開発促
図表1
環境関連税からの税収と GDP に占める割合(2013年)
(資料)OECD, Database on instruments used for environmental policy 等よりみずほ情報総研作成。
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図表2
2016
各国における主な環境税の導入状況
(注1)日本の地球温暖化対策税は石油石炭税の一部、フランスの炭素税は石油製品内国消費税等の一部。
(注2)ベルギーの埋立税 ・ 水質汚濁税 ・ 地下水税はフラマン地方、廃棄物税 ・ 取水税はワロン地方の地方税、米国の自動車
登録税 ・ 自動車使用税はニューヨーク州の地方税、カナダの自動車燃料税・LNG 税 ・ 炭素税 ・ タイヤ税 ・ バッテリー
税 ・ 鉱物採取税はブリティッシュ・コロンビア州の地方税。
(資料)ヒアリング調査および各国政府資料をもとにみずほ情報総研作成。
4
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国内外における税制グリーン化の最新動向と日本への示唆 
進税の7つがある。また、石油石炭税に上乗せ
して徴税される地球温暖化対策のための税(地
(2)欧州
欧州における税制グリーン化の取組みは、
球温暖化対策税)が、2012年10月に導入され、
フィンランドの炭素税、スウェーデンやデン
すべての化石燃料に対して CO 2 排出量に応じ
マークの CO 2 税など、1990年代初頭の北欧諸
た税率が等しく課税されている。税率は3年半
国における取組みに端を発する。これらの国は、
かけて 3 分の1ずつ引き上げられ、2016年4月
既存のエネルギー課税に環境対策の観点をいち
の最後の引上げを経て、最終的に289円 / tCO 2
早く取り入れただけでなく、今日に至るまで課
となる。地球温暖化対策税の税収は、エネルギー
税を強化し続けている環境先進国である。その
対策特別会計に繰り入れられ、エネルギー起源
後、エネルギー課税については、オランダやベ
CO 2 の排出削減を目的とする事業に充当され
ルギー、英国、ドイツが北欧諸国に続く形で、
ている。その他のエネルギー課税はすべて国や
鉱油税や燃料税の新設や税率の引上げを行っ
地方自治体の一般財源に入る。
た。2000年代に入ると、EU が2003年に定めた
(8)
車体課税には、自動車の取得に対して課税さ
「エネルギー税制指令」 が駆動力となり、オラ
れる自動車取得税と、保有に対して課税される
ンダやドイツにおける環境財政改革など多くの
自動車重量税、自動車税、軽自動車税があり、
国で改革が進展した。さらに、EU の「エネル
エコカー減税やグリーン化特例と呼ばれる燃費
ギー税制指令」改正(CO 2 排出量に応じた課税
に応じた軽減措置が設けられている。税収は基
(9)
(炭素税)の新設と最低税率の引上げ)の議論
本的に一般財源に入るが、自動車重量税の一部
を受け、フィンランドやデンマークで、課税方
は、公害健康被害補償財源として活用されてい
式の変更や課税対象の拡大、炭素税率の引上げ
る。なお、2017年4月の消費税率10%時点で自
が行われた。またこの間、スイス、アイルラン
動車取得税を廃止し、自動車税と軽自動車税の
ド、フランス、ポルトガルで炭素税が創設され
取得時の新たな課税として環境性能割(仮称)
た。炭素税を含むエネルギー課税の税収は一般
(7)
を設置することが決まっている
。
その他の環境関連税はいずれも地方税で、税
収すべてを足し合わせても環境税収全体の1%
に満たない。汚染関連では、2016年1月時点で、
財源として、多くの場合、税収中立の観点から、
法人税や所得税等の減税や、社会保障費の削減
による雇用創出喚起等に活用されている。
車体課税に関しては、2000年代以降、それ
三重県など28団体で導入されている産業廃棄
までの排気量や重量から、環境に直結する CO 2
物税と福井県など14団体で導入されている原
排出量や排出ガスへの課税標準の転換が多くの
子力関連税がある。資源分野では、法定税であ
国で行われた。取得税では、英国の社有車税や
る狩猟税と、住民税に上乗せして徴収される森
フランスのボーナス・ペナルティ制度(Bonus-
林環境税が高知県など36団体で導入されてい
Malus)、アイルランドの自動車登録税などであ
る。このほか、特定の自治体で、遊漁税(山梨
り、保有税ではスウェーデン、フランス、アイ
県富士河口湖町)
、砂利採取税(京都府城陽市
ルランドの自動車税、フランスの年間ペナル
等 2 団体)等が導入され、地域の自然環境保全
ティ制度(Annual Malus)、ポルトガルの自動
などに税収が使われている。
車流通税などである。さらに2009年に、EU が
「CO 2 排出規則」と呼ばれる世界で最も厳しい
新車乗用車の2015年排出目標(130g CO 2 / km)
5
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2016
(10)
を制定したことを受け
、フィンランドやオ
ダでは、燃料物品税からの税収の 6 割程度は一
ランダで取得税の課税標準の見直しが行われ、
般会計に入るが、残りは、ガス税基金に積み立
また、ドイツ、フランスでは保有税の見直しが
てられ、各州の道路整備等に充当されている。
行われた。すでに自動車税の課税標準を CO 2
米国、カナダともに、税率は非常に低い水準
としていた英国では、2年度目以降の税率と比
である。米国では、1993年以降、ガソリンは約
べ、CO 2 排出量に応じた重課・軽課をより強化
6円/ L、軽油は約8円/ Lで固定されている。カ
した初年度特例課税(First - Year - Rate)を新
ナダでも、ガソリン
(約 9 円)は1995年以降、軽
たに導入した。この制度は日本が2017年4月に
油(約 4 円)は1988年以降、引上げが行われて
新たに導入する環境性能割(仮称)の検討にお
いない。そのため特に米国では、税収縮小に伴
いて参考とされた制度である。
うインフラ整備資金の不足等が課題となってい
その他の環境関連税に関しても、オランダ、
る。一方で、環境に配慮した取組み
(再生可能
フランス、デンマーク、ベルギー、イタリアな
エネルギー設備導入、バイオディーゼル 精製、
どを中心に、日本で未導入のリサイクル関連(容
次世代自動車購入等)に対する所得税控除等を
器包装税等)や公害関連(SO2税、NOx 税、騒
行うことで、こうした低い税率の下でも、企業や
音税等)、水資源保全(取水税等)を含む、様々
消費者の経済的インセンティブを担保し、一定
な税が導入されている。
の環境効果を見込むための工夫がなされている。
このように、エネルギー課税、車体課税、そ
車体課税について見ると、米国では、連邦レ
の他の環境関連税いずれにおいても、欧州は、
ベルで燃費に着目した取得時の課税があるが、
北米や日本を上回る先進的な取組みを数多く実
22.5mpg(243gCO 2 / km 相当
施している。EU における「税負担を労働や所
る燃料多消費車税(Gas Guzzler Tax)のみであ
得から消費や環境にシフトすべき」との方向性
る。保有税は基本的に州に権限が付与されてお
(11)
も後押しとなり
(12)
)を基準値とす
、欧州は今後も世界のトッ
り、例えばニューヨーク州では、重量に応じた
プランナーとして、税制グリーン化を牽引する
課税が導入されている。一方、カナダでは、連
役割が期待される。
邦レベルでグリーンレビー(Green Levy)と呼
ばれる燃費に応じた課税が導入されているが、
(3)北米
米国、カナダともに、連邦レベルのエネルギー
課税として燃料物品税があり、主にこれらの税
収は基金化され、特定の目的に使われている。
(13)
基 準 値 が13L / 100km(302gCO 2 / km 相 当
)
と欧州の2015年排出目標と比較すると低い水
準である。
なお、米国では、2016年 2 月に、オバマ大統
米国では、ガソリンや軽油からの税収の大半は
領が、任期最後となる予算教書において、石油
道路整備等(幹線道路信託基金)に、残りの1%
に対する新たな課税(fee on oil)の導入を提案
程度は石油の流出事故対策等(地下貯留槽石油
した。5 年間で 1 バレル当たり10.25ドル(約 8
漏出信託基金・石油流出信託基金)に充てられ
円 / L)まで段階的に税率を引き上げ、税収は低
ている。また、石炭からの税収は炭鉱労働者の
炭素型の交通インフラ整備等に充てられる
塵肺対策(塵肺信託基金)に、内陸水路航行船
また、カナダでは、2015年10月に発足したト
の燃料消費からの税収は内陸水路の整備(内陸
ルドー(Justin Trudeau)政権が「環境・気候
水路信託基金)に充てられている。一方、カナ
変動省」を設立するなど、両国ともに連邦レベ
(14)
。
6
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国内外における税制グリーン化の最新動向と日本への示唆 
ルでの取組みの進展が期待される。
(Carbon Pricing Mechanism)がある。当初は、
以上の連邦レベルの取組みに加え、北米で
産業界への影響を軽減するため、導入から5年
は州レベルで独自の取組みが進められている。
を か け て 税 率 を 段 階 的 に25.4AUD / tCO 2( 約
カナダのブリティッシュ・コロンビア州(BC
2,200円)まで引き上げ、2015年に欧州排出量
州)は、2008年に炭素税を北米で初めて導入
取引制度(EU-ETS)と接続すること(変動価
し、欧州の仕組みと同様に、税収を企業や市民
格への移行)が予定されていた。しかし、EU-
に還流し、CO 2 削減と経済成長の顕著な実績
ETS 価格の暴落と国内電力価格の高騰を受け、
(デカップリング)を残している。BC 州はこの
労働党から保守党に政権交代した2014年7月、
ほかにも鉱物採取税やバッテリー税などの州独
炭素価格付け制度は廃止された。但し、2015
自の環境税を導入している。また、2013年に
年9月 に 元 環 境 大 臣 の タ ー ン ブ ル(Malcolm
キャップアンドトレード(C&T)制度を開始し
Turnbull)氏が新たに首相に就任し、2016年内
たカナダのケベック州は、米国カリフォルニア
に総選挙が予定されているなど、豪州の炭素税
州との市場統合を行った上(2014年)、輸送燃
を巡る情勢は流動的である。
料を対象範囲に加えるなど(2015年)、制度を
拡張している。こうした環境先進地域(カリフォ
ルニア州、ケベック州、BC 州)の間で定期的
2. エネルギー課税の比較と日本に対す
る示唆
な議論が行われ、国を超え、州政府間で知見の
本章では、エネルギー課税に焦点を当て、各
共有が図られているのが特徴である。今後もカ
国の最新の税制の動向を踏まえ、「燃料別の課
ナダでは、アルバータ州が2017年の炭素税導
税水準」と「炭素税の設計」の2つのポイント
(15)
入を表明したほか
、オンタリオ州も C&T 制
(16)
度の導入を進めている
など、州レベルでの
先進的な取組みに注目が集まっている。
(4)豪州
豪州では、エネルギー課税、車体課税に加
から比較・検討を行い、そこから示唆される日
本のグリーン化の方向性について、筆者らの考
えを述べたい。
(1)燃料別の課税水準に関する比較
はじめに、各国のエネルギー課税の税率を、
え、オゾン層保護税や廃棄物税等も導入されて
輸送用(ガソリン・軽油)と産業用(石炭・天然
いる。車体課税の保有税など各州の裁量による
ガス・重油)に分けて比較する。エネルギー消
部分もあるが、基本的に環境税は、連邦政府が
費に対する税目には、物品税(Excise Tax)と
管轄している。国全体の傾向としては、図表 1
して課す既存のエネルギー税と、化石燃料の炭
にある通り、環境関連税収が GDP の2%に相当
素含有量に応じて等しく課す炭素税(Carbon
するなど、日本を上回る取組みの実施が伺える。
Tax)の二つがある。本稿では、これらの税の
灯油、重油、LPG、天然ガスの税率が日本や
合計を CO 2 排出量 1 トン当たりの税率に換算し
北米と比べ圧倒的に高く、また軽油に対してガ
た上で比較を行う。
ソリンと同程度の課税を行っていることも、先
進的な取組みと言える。
(輸送用燃料)
近年の豪州の大きな動きに、2010年に導入
図表 3 の輸送用燃料(ガソリン・軽油)につ
され、2014年に廃止された炭素価格付け制度
いて見ると、日本の場合、ガソリンは北米、豪
7
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図表3
2016
輸送用燃料(ガソリン・軽油)の税率比較
(注)税率は2015年時点。但し、日本の地球温暖化対策税は2016年4月以降の税率。また、米国はニューヨーク州、カナダ
は BC 州の州税を含む。排出係数は特定排出者の事業活動に伴う温室効果ガスの排出量の算定に関する省令(平成18年
経済産業省・環境省令第3号)、為替レートはみずほ銀行外国為替相場2015年4月から10月の月中平均値。
(資料)EU(2015)EXCISE DUTY TABLES および各国資料をもとにみずほ情報総研作成。
図表4
産業用燃料(石炭・天然ガス・重油)の税率比較
(注)オランダの天然ガス(産業用)に対する課税は4段階に分けられており、ここでは最も税率の低い10.000m3以上を天然
ガス(大)、最も税率の高い170m3未満を天然ガス(小)と表示している。試算の条件は図表3と同じ。
(資料)EU(2015)EXCISE DUTY TABLES および各国資料をもとにみずほ情報総研作成。
8
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国内外における税制グリーン化の最新動向と日本への示唆 
州に次ぐ低い水準で、軽油は米国の次に低い。
国では、産業部門にも高い税率を等しく課した
地球温暖化対策税は、ガソリン税率の1%程度、
上で、後述のようなきめ細やかな減免措置を講
軽油税率の2%程度を占めるに過ぎない。
じることで、経済への影響を緩和し、環境と経
ガソリン、軽油ともに、最も税率が高い国は
済の両立を図ろうとしている。
英国で、日本の 3 倍程度である。また、米国、
英国、豪州、スイスを例外として、多くの国で、
(2)炭素税の制度設計に関する比較
ガソリンの税率が軽油を大幅に上回り、最大5
次に、燃料への課税のうち、日本の地球温暖
割程度の開きがある。リットル当たりに換算す
化対策税を海外の炭素税と比較するため、日本
ればその差はさらに広がり、軽油には税制上の
および炭素税を導入している海外8カ国(フィ
優遇措置が講じられていることが分かる。しか
ンランド、スウェーデン、デンマーク、スイス、
し、ディーゼル車の排ガスによる健康被害や大
アイルランド、フランス、ポルトガル、カナダ
(17)
気汚染のリスクに鑑み
、フランスでは2016
年の炭素税の引上げに伴う増税に加え、軽油に
BC 州)の制度の特徴を、炭素税率と、炭素税
収の使途および軽減措置により比較する。
対する追加課税を行った。ベルギーやスイスで
も同様の取組みが予定されているなど、欧州で
は軽油とガソリンの税率格差の是正に向けた動
きが強まっている。
(炭素税率)
図表5の炭素税率の推移を見ると、日本の地
球温暖化対策税の税率は極めて低い水準である
上、2016年4月に289円 / tCO 2 に引き上げられ
(産業用燃料)
図表4の産業用燃料(石炭・天然ガス・重油)
た後、現時点ではさらなる引上げは予定されて
いない。
について見ると、日本の税率はいずれも低い水
一方、海外では、顕著な税率の引上げが行
準であり、そのうち、地球温暖化対策税は、石
われている。例えばフランスでは、2014年の
炭税率の49%程度、天然ガス税率の42%、重
導入時の税率7EUR / tCO (
を、2020
2 約950円)
油税率の27%程度を占めている。最も高いデ
年に8倍の56EUR(約7,600円)、2030年に約15
ンマークとは、石炭で24倍、天然ガスで41倍、
倍の100EUR(約13,500円)に引き上げようと
重油で4倍程度の開きがある。
し て い る。 ま た、2008年 に12CHF / tCO (
2 約
海外では、炭素税を導入している国の多くで、
1,500円)の炭素税を導入したスイスでは、直
既存のエネルギー税と同程度あるいはそれ以上
近の CO 2 の削減実績を踏まえて税率を定める
の炭素税が産業用燃料に課税されている。従来
こととしており、2018年時点で最大120CHF
のエネルギー税では、輸送用燃料と比較して産
(約15,300円)に引き上げる予定である。前年
業用燃料の税率を大幅に軽減していたのに対し
の EU-ETS 価格の年間平均値をもとに翌年の
て、温室効果ガスの抑制など環境の観点で導入
炭素税率を定めるポルトガルのような事例で
された炭素税の場合、産業用も含む幅広いエネ
は、国際的な炭素価格のトレンド次第では、将
ルギー消費に等しく課税することが特徴と言え
来の大幅な税率の引上げもあり得る。なお、将
る。フランスやスイスなどの炭素税導入国は、
来の炭素価格については、複数の国際機関が試
今後、炭素税率の引上げを通じて、産業用燃料
算を行っており、これを平均すると、2030年
に係る税率を引き上げる予定である。これらの
の炭素価格は CO 2 排出量1トン当たり約1万円
9
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図表5
2016
各国における炭素税率の推移と見通し
(注1)スイスの2018年の炭素税率は96 ~ 120CHF / tCO2と幅があるが、ここでは最も高い税率を適用。
(注2)為替レートは、みずほ銀行外国為替相場2015年4月から10月の月中平均値。
(資料)ヒアリング調査および各国政府資料をもとにみずほ情報総研作成。
(18)
となり
、欧州の取組みは、これらに比肩を
る付加価値税の課税開始のタイミングで、増収
取らない意欲的な目標と言える。加えて、この
分を法人税率の大幅な引き下げ(1990年53%、
ように将来の炭素価格を明示することは、企業
1991年30%、2015年22%)に充てることで、企
が投資判断を行う際の不確実要因を取り除くこ
業の負担軽減を図った。こうした取組みはフィ
(19)
とにもつながり
、実際にカナダ BC 州では
このような効果を見越して、導入時に 5 年先ま
(20)
での炭素税率を予告し、広く周知を行った
。
ンランドやカナダ BC 州においても実施されて
いる。
このほかにも、欧州では、国際競争にさらさ
(21)
れる企業の保護や炭素リーケージ
(炭素税収の使途・軽減措置)
図表 6 に示したとおり、日本の地球温暖化対
の防止、炭
素税と排出権による二重の負担の回避等を目的
に、EU-ETS対象企業への課税が免除されてい
(22)
策税の税収はすべてエネルギー対策特別会計に
る
入り、エネルギー起源 CO 2 削減を目的とする
は日本でも講じられている措置であるが、対策
事業に充てることで、環境面の効果を高めよう
余地の少なさや小規模農家への影響緩和等を目
としている(
「財源効果」と呼ばれる)。一方、
的に、農業部門に対する課税を軽減している場
海外では、環境面の効果はすべて税率の引上げ
合もある。また、フランスのように、炭素税導
による省エネ行動等の誘因(
「価格効果」と呼
入に伴う急激な価格上昇を回避するため、初年
ばれる)に委ね、税収は一般財源に入る。世界
度のガソリンと軽油の炭素税率を据え置く一方、
で最も高い炭素税1,120SEK / tCO (
2 約16,000
エネルギー税の課税部分を炭素税分とその他に
円)を有するスウェーデンでは、1991年に環境
分け、炭素税分を2年目以降に徐々に引き上げた
税制改革を行い、税収中立の観点から、炭素税
ケースもある。このように、海外では税収の活
や SO 2 税の導入およびエネルギー消費に対す
用や細やかな減免措置を通じて、産業への影響
。またEU-ETS対象外であっても、これ
10
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国内外における税制グリーン化の最新動向と日本への示唆 
図表6
各国における炭素税の概要
(注1)税率は2016年1月時点。但し、日本の地球温暖化対策税は2016年4月以降の税率。
(注2)税収は取得可能な直近の値。但し、日本の地球温暖化対策税は2016年度(平年度)の見込値。
(注3)為替レートは、みずほ銀行外国為替相場2015年4月から10月の月中平均値。
(資料)ヒアリング調査および各国政府資料をもとにみずほ情報総研作成。
を回避し、経済と環境の両面で最大限のプラス
り、また、「税負担を労働や所得から消費や環
の効果を得るための工夫がなされている。
境にシフトすべき」という動きが世界的な潮流
となりつつあるなか、日本においても、地球温
(3)日本のエネルギー課税の今後のグリーン化
の方向性
暖化対策税の税率の大幅な引上げに加え、揮発
油税や軽油引取税など既存のエネルギー課税の
日本と海外の比較を踏まえ、エネルギー課税
炭素税化についても検討していくことが必要と
のさらなるグリーン化の進展に向け、今後、日
考えられる。日本の地球温暖化対策税の CO 2
本が実施すべき点を以下のとおり整理する。
削減効果は2%程度とされているが
○エネルギー税率(特に炭素税率)引上げ
による「価格効果」の最大化と、企業の
不確実性要因を取り除くための「将来の
炭素価格」の明示
○税収の経済活性化への活用
(23)
、効果の
大半は、「財源効果」によるものである。今後
は税率を引き上げ、海外のように「価格効果」
を最大化することが必要である。
地球温暖化対策税に対して、日本の産業界か
らは、「課税の廃止を含め、抜本的に見直すこ
(24)
とが喫緊の課題」との反対の声が根強いが
、
世界の情勢は大きく変わりつつある。2015年
(エネルギー課税の税率引上げ)
まず、
(1)で見たように、日本より高額のエ
ネルギー課税を導入している国が欧州に多数あ
には、シェルやトタルなどの石油メジャーが、
「炭素価格付け制度は我々にとり負担となるが、
炭素価格付け(carbon pricing)が将来の投資へ
11
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vol.11
2016
のロードマップを明確にする」と声明を出した
(25)
ほか
、
74カ国1,000以上の企業が参画する「炭
素価格付けパネル(Carbon Pricing Panel)」が
2つのポイントから比較・検討を行い、そこか
ら示唆される日本の車体課税のグリーン化の方
向性について、筆者らの考えを述べたい。
(26)
国連事務総長の指揮の下に設置されるなど
、
炭素税を歓迎する意向を示す民間セクターも増
えている。これより、日本は今後「価格効果」
(1)標準的な車の取得・保有・走行に係る税負
担の比較
の最大化に向けた税率の引上げを行うことが望
はじめに、各国の乗用車の取得・保有・走行
ましく、その際は、企業にとっての不確実性を
に係る税負担額を比較する。対応する税目には、
取り除くため、カナダ BC 州やフランス、スイ
車体課税(取得・保有)に加え、車の取得や走
スで実施されているように、長期的な「将来の
行時の燃料消費に係る消費税やエネルギー税が
炭素価格」の見通しを示していくことが一層重
ある。本稿では、これらの税を合計した上で、
要と考えられる。
比較を行う。
図表 7 にあるように、取得に係る税はドイ
(税収の経済活性化への活用)
ツと英国を除くすべての国で導入されており、
現在の日本の地球温暖化対策税は、海外の多
CO 2 や燃費を課税標準に採用している国が多
くの国と異なり、税収の使途をエネルギー起源
く、日本のように価格のみを課税標準とする国
CO 2 削減策に限定している。これは「財源効果」
はむしろ少数である。保有に係る税は、カナダ
として、環境面の効果を最大化するための措置
を除くすべての国で導入されており、取得税同
であるが、そうではなく、法人税減税や社会保
様、多くの国で CO 2 や燃費が単独であるいは
障改革と一体となった、十分な「価格効果」を
重量や排気量など他の要素との併用で、課税標
有する大型炭素税などの「カーボンプライシン
準として採用されている。
グ」の導入が有効であるとの提言も環境省の有
(27)
識者会議から出されている
。こうした施策を
以 上 の 各 国 の 税 体 系 を 当 て は め、 日 本 の
2015年度燃費基準相当の燃費を有する標準的
国内で実際に展開するに当たっては、
(2)でみ
なガソリン車と、同クラスのディーゼル車を、
た海外の事例が参考になる。税収相当分を法人
12年間保有した場合の税負担を計算した。
税減税や社会保障費の削減として活用すること
図表 8 を見ると、日本の場合、税負担(ガソ
は、ドイツやスウェーデンなどに多くの実績が
リン車約127万円、ディーゼル車100万円)の5
ある。加えて日本のように莫大な財政赤字を抱
割程度が車体課税によるもので、その多くは保
える国にとっては、アイルランドで実践された
有に係るものである。また、ガソリン車とディー
ように、税収を赤字補填の財源とすることも、
ゼル車を比較すると、日本のケースではガソリ
今後極めて重要な選択肢になると考えられる。
ン車とディーゼル車が同じ重量、排気量クラス
となり、これによる税負担は同じとなる。一方、
3. 車体課税の比較と日本に対する示唆
ディーゼル車には、車両価格による負担増より
も大きな燃費による減税効果があり、さらに、
続いて、車体課税に焦点を当て、各国の最新
軽油のエネルギー税率が低いため、結果、取得・
の税制の動向を踏まえ、「標準的な車に係る課
保有・走行いずれにおいてもディーゼル車の税
税水準」と「燃費に応じた税制の導入状況」の
負担が軽い。
12
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国内外における税制グリーン化の最新動向と日本への示唆 
図表7
各国における乗用車の取得・保有に係る税等
(注1)ベルギーの車体課税はフラマン地域、スイスの保有税はジュネーブ州、米国の保有税はニューヨーク州の場合。
(注2)米国の売上税はニューヨーク州とニューヨーク市の合計、カナダの売上税は連邦付加価値税とBC 州売上税の合計。
(注3)車体課税、消費税、エネルギー税の税率は2016年1月時点。為替レートは、みずほ銀行外国為替相場2015年 4月
から10月の月中平均値。
(資料)ヒアリング調査および各国政府資料をもとにみずほ情報総研作成。
欧州は、スウェーデン、ドイツ、フランス、
負担が小さくなっている。
英国、イタリアなど、国産自動車メーカーを有
する国の課税水準が低く、デンマークやオラン
ダなど課税水準の高い国とは10倍以上の開き
がある。また、2(1)のエネルギー課税と同様、
(2)燃費に応じた税制の導入状況―燃費を変化
させた場合の税負担額の比較-
次に、ガソリン車およびディーゼル車に対す
デンマーク、オランダ、ベルギーのように、大
る課税が、燃費の違いによって、どの程度変化
気汚染や健康被害等の観点から、ディーゼル車
するかを検討する。
に追加的な税を課す国もあり、こうした動きは
図表 9 は、(1)で用いた標準的な車に加え、
年々広がりを見せている。このほか EU では車
2種類の代替車(一定程度燃費が良い車と燃費
の取得や走行時に19 ~ 25%と高い付加価値税
の悪い車)を用意し、基準時からの税負担の増
がかかるため、総じて日本よりも高い税負担と
減を、ガソリン車とディーゼル車をそれぞれ試
なっている。
算した結果である。代替車の燃費については、
北米と豪州は、車体課税の負担水準が低いこ
EU の排出目標(2021年95gCO 2 / km)が、現状
とに加え、特に米国は、他地域よりエネルギー
(2015年130gCO 2 / km)から3割程度の改善を
税率が突出して安いこともあり、走行に係る税
求めていることを踏まえ、基準時からの変化率
13
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vol.11
図表8
2016
標準的な自動車1台当たりの取得・保有・走行に係る税負担額
(注1)乗用車(ガソリン車:ディーゼル車)の設定は次の通り。車体価格180万円:210万円(税抜)、排気量1,800cc:2,000cc、
車両重量1.5t:1.6t、燃費15.3㎞ /L:18.4㎞ /L(JC08モード)、馬力142PS(共通)。排出係数2.32kgCO 2 / L、年間
走行距離10,000km、耐用年数12年の想定のもと計算。燃費はカタログ燃費。
(注2)ガソリン価格(税抜)は IEA, Energy Prices and Taxes, Volume 2015 Issue 4の2015年第 2 四半期、第 3 四半期
の各国平均値。為替レートは、みずほ銀行外国為替相場2015年 4 月から10月の月中平均値
(注3)図表 7 の制度を各国に当てはめて計算。税率は2016年 1 月時点。但し、ベルギーのフラマン地域、スイスのジュネー
ブ州、米国のニューヨーク州に加え、フランスの取得税はパリ市、イタリアの車体課税はローマ市、オランダの
保有税は北ホラント州、豪州の保有税にはニューサウスウェールズ州の税率を適用。
(資料)ヒアリング調査および各国政府資料をもとにみずほ情報総研作成。
排出ガスに応じた税制の強化を図り、環境性能
をそれぞれ30%とした。
これを見ると、日本の増減の幅(ガソリン車
約46万円、ディーゼル車約36万円)は、北米と
に優れた車(エコカー)の普及を加速化してい
く見通しである。
豪州を上回るものの、欧州のいずれの国よりも
小さい。日本と欧州を比較すると、欧州の増減
(3)日本の車体課税の今後のグリーン化の方向性
の幅は日本の1.5 ~ 10倍程度である。また、オ
日本と海外の比較を踏まえ、車体課税のさら
ランダ、デンマーク、アイルランドなど増減の
なるグリーン化の進展に向け、今後、日本が実
幅が大きい上位の国ほど、その大半を車体課税
施すべき点を以下のとおり整理する。
が占めており、特に燃費に応じた重課が徹底し
○燃費に応じたメリハリの効いた税制
(燃費
ている。
こうした税制も寄与し、EU 全体での2014
年の乗用車の平均排出量は123.4gCO 2 / km で、
課税)
の導入
○燃費課税の両輪となる燃費規準の厳格化
(28)
2015年目標を前倒しで達成した
。より一層
厳しくなる CO 2 排出目標や排ガス規制の達成
に向け、欧州各国は今後も、CO 2 排出量や燃費、
14
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国内外における税制グリーン化の最新動向と日本への示唆 
図表9
異なる燃費の自動車1台当たりに係る税負担額変化
(注)試算の条件は図表8と同じ。
(資料)ヒアリング調査および各国政府資料をもとにみずほ情報総研作成。
(燃費に応じたメリハリの効いた税制の導入)
まず、
(1)や(2)で見た通り、今回の調査で
つながりかねない。また、事実上の減収となり、
地方財政にも影響しかねない。
改めて、日本は、車の燃費や CO 2 排出量など
「平成28年度与党税制大綱」によれば、環境
の環境性能による税負担の増減が、欧州と比べ
性能割の税率区分は 2 年毎に見直しが行われ
て極端に小さいことが明らかとなった。日本が
る。制度導入後速やかに、燃費改善やエコカー
今後目指すべきは、欧州のように、車の環境性
技術開発の動向、地方財政への影響等に関する
能に応じた重課・軽課を徹底する、よりメリハ
検証を行い、環境の観点から相応の見直し案の
リの効いた税制(燃費課税)である。
提案を行っていくことが肝要である。さらに
日本では、2017年4月に、自動車取得税に代
ユーザーの税負担額の大きさや税収の観点から
わり新たに、燃費性能に応じて課税する環境性
みれば、日本の場合、取得税より保有税(自動
能割が導入される。しかし、燃費による免税ラ
車重量税、自動車税、軽自動車税)の重要性が
(29)
高い。今後は、燃費課税の導入など、保有税の
エコカー減税などで基準の強化が継続的に図ら
恒久的な税制グリーン化の仕組みの検討に着手
れてきた経緯を踏まえれば、今回の環境性能割
すべきと考える。
インは2015年度よりむしろ後退している
。
の設計は極めて異例であり、エコカー購入イン
センティブの後退やエコカー開発意欲の低下に
15
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vol.11
2016
(燃費基準の厳格化)
だけでなく「経済」にとっても最大限プラスと
欧州における税制の強化(課税標準の CO 2 へ
なるように設計し、デンマークやスウェーデン
の変更、減税基準の厳格化等)の背景には、た
では、経済成長を実現しながら CO 2 排出量を
ゆまぬ努力を要する厳しい CO 2 排出目標があっ
削減するデカップリングの顕著な実績を残して
た。日本にも同様の燃費基準があるが、目標
いる。日本も、税制グリーン化を通じて、持続
値 は2015年 度16.8km / L、2020年 度20.3km / L
可能な成長の実現を目指すべきであろう。
(30)
(138gCO 2 / km 相当、
114gCO 2 / km 相当
海外には、エネルギー課税や車体課税は勿
)と、
欧州(2021年95gCO 2 / km)や米国(2025年143g
(31)
論、汚染に係る税や資源に係る税など幅広い税
]
)と比べると
が導入されている。これらはいずれも「第 4 次
見劣りする水準である。日本の過去の燃費推移
環境基本計画」で掲げた「低炭素社会」、
「循環
を見る限り、目標は容易に達成される見込みで
型社会」、
「自然共生型社会」、
「安全が確保され
CO 2 / mile[89gCO 2 / km 相当
(32)
あり
、これではさらなる技術開発のインセ
ンティブが働かない。
今回取り上げた以外の国(例えば中国)でも、
日本よりも厳しい燃費基準の導入が検討されて
(33)
る社会」の構築に寄与するものである。日本で
はこれまで、地方が率先して森林環境税や産業
廃棄物税を導入してきたが、フロン税、取水税、
地下水税、容器包装税、排水税、騒音税、漁業
。世界屈指の自動車大国として、世界
税など、未導入の税がまだいくつもある。国が
の潮流に乗り遅れることなく、燃費基準の厳格
主導するのみならず、地方が特色を生かし、自
化と燃費課税との両輪で、自動車のグリーン化
治体が率先して導入に取り組むことに期待し
を進めていくことが必要と考えられる。
たい。
いる
冒頭に述べたように、
「パリ協定」や「持続
4 . おわりに
本稿では、2 年におよぶ調査成果を踏まえ、
可能な開発目標」
が採択された今こそ、2030年、
2050年、あるいはその先を視野に入れ、日本は
あらゆる施策を総動員して CO 2 の大幅削減や持
国内外16カ国の税制グリーン化の最新動向を
続可能な成長の実現に取り組まなければならな
整理した。その結果、昨年度と同様、程度の差
い。世界の取組みに注目しつつ、日本において
はあるにせよ、いずれの国においても税制グ
税制グリーン化を推進するための方策等につい
リーン化の取組みが活発化しつつある状況が伺
て、さらなる検討を深めていきたい。
えた。
とりわけ欧州では、環境課税へのシフトの方
向性が EU および加盟国間で共有され、多くの
国で毎年のように環境税の税率引上げが行われ
ていた。また、炭素税については、スウェーデ
ン、スイス、フランスなどで導入当初の10倍
以上に相当する炭素税を導入あるいは今後も予
定しており、こうした価格の「見える化」が、
企業にとっても不確実性をなくす、歓迎され得
る政策と分かった。欧州では、環境税を、
「環境」
注
外務省「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議
(COP21)
,京都議定書第11回締約国会合(CMP11)
等 」(2015年12月28日 )http://www.mofa.go.jp/
mofaj/ic/ch/page18_000435.html
(2) United Nations, 2015, Transforming Our World:
The 2030 Agenda for Sustainable Development,
A/RES/70/1.
(3) E3G, 2015, Japan isolated as USA leads the way
in G7 move beyond coal.
(4) OECD, 2 0 1 0 , Taxation, Innovation and the
Environment など。
(1)
16
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国内外における税制グリーン化の最新動向と日本への示唆 
(5)
(6)
(7)
(8)
(9)
(10)
(11)
(12)
(13)
(14)
(15)
(16)
(17)
(18)
(19)
(20)
(21)
(22)
環境省「税制全体のグリーン化の推進に関するこ
れまでの議論の整理(中間整理)」(2012年9月4日)
http://www.env.go.jp/press/files/jp/20610.pdf
社会動向レポート「日本および欧州における税制
グリーン化の最新動向」(みずほ情報総研 元木悠
子・内藤彩、2015年2月)
http://www.mizuho-ir.co.jp/publication/report/2015/
mhir09_greentax_01.html
財務省「平成28年度税制改正の大綱」
http://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/
outline/fy2016/20151224taikou.pdf
Council Directive 2003/96/EC – Energy taxation
Directive.
2011年に欧州委員会により提案がなされたものの、
発効には全加盟国の承認が必要であり、現在まで
実現に至っていない。
Regulation(EU)No 333/2014, Regulation(EC)
No 443/2009.
European Commission, 2 0 1 3 , Annual Growth
Survey 2014など。
1mpg = 0.425km / L、1L = 2.32kg CO 2 で換算。
1L = 2.32kg CO 2 で換算。
Budget of the United States Government, Fiscal
Year 2017
https://www.whitehouse.gov/sites/default/files/
omb/budget/fy2017/assets/budget.pdf
Government of Alberta, Climate Leadership
Plan, Carbon Pricing.
http://www.alberta.ca/climate-carbon-pricing.cfm
Ontario, Cap and trade.
https://www.ontario.ca/page/cap-and-trade
OECD, 2014, The Cost of Air Pollution.
国際エネルギー機関(欧州連合の値を採用)
、米国
環境保護庁、英国エネルギー・気候変動省の試算
結果を基に平均値を算出。(出典)IEA, 2015, World
Energy Outlook 2 0 1 5、EPA, 2 0 1 5 , The Social
Cost of Carbon、DECC, 2015, Updated short-term
traded carbon values used for UK public policy
appraisal.
Global Council on Economy and Climate, 2014,
Better Growth, Better Climate.
Pedersen, T., F. and Elgie, S., 2015, A template for
the world: British Columbia’s carbon tax shift.
炭素リーケージとは、炭素価格が地域毎に異なる
ことにより、生産拠点(CO2発生源)が、炭素価格
のより低い地域に移転すること。
一方、産業界への過度な優遇措置は炭素税の効果
を損なうとの指摘もあり、スウェーデンでは、産
業界に対する軽減措置(本則税率の60%)を2018年
にかけて段階的に廃止する予定。
(出典)Andersen,
M., S., 2 0 1 5 , Reflections on the Scandinavian
Model: Some Insights into Energy-Related Taxes
in Denmark and Sweden、Ministry of Finance
Sweden, 2015, Environmental taxes in Sweden.
(23) 地球温暖化対策税の価格効果や財源効果について
は、環境省「地球温暖化対策のための税の導入」
http://www.env.go.jp/policy/tax/about.htmlを参照。
(24) 日本経済団体連合会
(2015)「平成28年度税制改
正 に 関 す る 提 言 」https://www.keidanren.or.jp/
policy/2015/075_honbun.html#s3-4を参照。
(25) BG, BP, Eni, Royal Dutch Shell, Total, 2 0 1 5 ,
“Letter to UNFCCC.”
(26) Carbon Pricing Leadership,“Leaders Unite in
Calling for a Price on Carbon”
.
http://www.carbonpricingleadership.org/carbonpricing-panel
(27) 環境省気候変動長期戦略懇談会
(2016)
「提言~温
室効果ガスの長期大幅削減と経済・社会的課題の
同時解決に向けて~」http://www.env.go.jp/press/
teigen.pdf を参照。関連して、第3回懇談会(2015
年11月29日)における伊藤元重委員の発言「炭素
税や環境税の導入による相当な税収は必ずしも環
境対応に使わなければいけない訳ではない。環境
税のメリットは、環境コストを消費者や企業に
理解してもらうことを通じて行動を変容させるこ
と。その副産物である税収分を、産業界への理解
を醸成するため法人税を引き下げる、あるいは国
民の理解を醸成するため、社会保障の保険料負担
を低くするといった議論がおそらく2020年以降、
非常に重要な政治経済的問題としてあがってく
る。」http://www.env.go.jp/policy/kikouhendou/
kondankai03/gijigaiyou.pdf を参照。
(28) EEA, 2 0 1 5 , Monitoring CO 2 emissions from
passenger cars and vans in 2014.
(29) 日 本 経 済 新 聞
(2015年12月11日 )「 車 買 う と き、
17年度からは 燃費良いほど税率低く」を参照。
(30) 1L = 2.32kgCO2で換算。
(31) 1mile = 1.60934km で換算。
(32) 国土交通省「乗用車の燃費・CO2排出量」http://
www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_fr 1 0 _ 0 0 0 0 2 4 .
html を参照。
(33) ICCT, 2 0 1 4 , “Development of test cycle
conversion factors among worldwide light-duty
vehicle CO2 emission Standards.”
17
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vol.11
2016
社会動向レポート
日本の省エネ政策の検討状況と短期的に想定される
動きについて
環境エネルギー第 2 部
コンサルタント
桐原
貴大
2015年末のパリ協定を受け、各国の温室効果ガス削減目標が定まった。本稿では、削減目標
の達成に向けてわが国で検討が進みつつある省エネ政策を整理し、そこから想定される今後の省
エネ政策の動きについて考える。
はじめに
標は大幅な省エネ対策の実現を前提としてい
る。今回のパリ協定においては26% 削減の数
昨年末に開催された COP21で「パリ協定」が
値目標の達成は義務とはなっていないが、数値
合意された。これは京都議定書の代わりとなる
目標の達成に向けた取り組み状況がレビューさ
新たな法的枠組みであり、条約加盟国の全てが
れることとなっており、国が実施していく対策
参加する初めての枠組みとなっている。本協定
が 5 年毎に国際的な視点から評価されることに
の中では、地球の気温上昇を産業革命以前の水
なる。従って、省エネ推進に向けて国がこれま
準と比べて 2 度より十分低く抑え、1.5度に抑
で以上に対策を講じていくことは確実な情勢で
えるための取組を推進することが言及されてお
あり、それに応じて企業にも省エネ対策が求め
り、それに向けた対策の実施が各国に求められ
られることになるだろう。
ることになる。
本稿では、わが国の省エネ政策に着目して
このパリ協定に先立ち、途上国を含め世界中
その検討状況について整理し、そこから想定さ
の国々が CO 2 等の温室効果ガス排出量の削減
れる短期的な省エネ政策の動きについて言及
目標を掲げている。わが国も2030年度までに
する。
2013年度比で26% 削減を掲げており、パリ協
定を経てこれが国際公約となった。この“26%
1. 省エネ政策の最近の検討状況
削減”を策定するに当たり、前提となったの
わが国の省エネ政策は日本全体をカバーすべ
が長期エネルギー需給見通し(2015年7月)であ
く、産業・業務・家庭・運輸の各分野において
り、その中でわが国の2030年度時点での電源
検討が進められているところであるが、本稿で
構成等が定められた。同見通しにおいては、徹
は一般の企業に対して影響が大きいと推察され
底した省エネルギーの推進を通じた大幅なエネ
る産業・業務部門に着目し、検討が比較的進ん
ルギー効率の改善が見込まれており、石油危機
でいる政策の中から重要と考えられるものにつ
後並みの抜本的なエネルギー効率の改善が必要
いて提示する。
とされている。
上述の通り、わが国の温室効果ガスの削減目
18
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日本の省エネ政策の検討状況と短期的に想定される動きについて
(1)省エネ取組状況に応じた事業者のクラス
分け評価
ある。S クラスを獲得した事業者は優良事業者
として公表される一方で、B クラス、C クラス
エネルギーの使用の合理化等に関する法律
に分類された事業者は国からの指導等の措置が
(以下、
「省エネ法」という)では、一定規模以
集中的に講じられる見込みであり、これまでよ
上のエネルギーを消費する事業者に対して、国
りもメリハリのある対応が2016年度から開始
へのエネルギー使用状況の報告(定期報告)を
されることになっている(図表 2 )。
義務付けている。この定期報告においては、事
業者に対して中長期的に見て年平均 1 % のエネ
(2)業務部門におけるベンチマーク制度の導入
ルギー消費原単位改善の努力目標を課している
(1)で述べた 1 % の努力目標は過去の自社と
ところである。
の比較であり、省エネ対策を継続して進めてき
しかしながら、この努力目標を達成できて
た事業者にとっては、次第に省エネ余地量が小
いるのは定期報告書を提出している事業者の
さくなってしまい、いずれエネルギー消費原単
約2 / 3であり、残りの約1 / 3の事業者は目標を
位の改善状況が頭打ちになってしまうことが想
達成できていない状況にある(図表 1 )。事業者
定される。他方、そのような事業者を同業他社
のより一層の省エネ努力を促すため、国は現
と比較した場合、省エネ取組が非常に進んでい
在、省エネ取組状況に応じて事業者をクラス分
るケースもあり(図表 3 )、既に省エネが進んで
けして評価する政策を検討中であり、1% 削減
いる事業者を公正に評価できる制度の導入が望
努力目標の達成状況やベンチマーク制度(次節
まれることとなった。このような背景から導入
で後述)の目標達成状況等に応じて、事業者は
された制度が“ベンチマーク制度”であり、
「特
S クラスから C クラスまでに分類される予定で
定の業種・分野について、当該業種に属する事
図表 1
直近 5 年間におけるエネルギー消費原単位の平均年間変化率別の事業者数
(資料)資源エネルギー庁 「取りまとめ(案) 参考資料集」
総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 省エネルギー小委員会(第15回)
(2015年8月)
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vol.11
図表 2
2016
事業者クラス分け評価制度におけるクラス分類の基準とクラス別の国の対応
(資料)資源エネルギー庁 「ベンチマーク制度に関する今後の方針について」
総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 省エネルギー小委員会 工場等判断基準ワーキング
グループ(第 3 回)
(2015年12月)
業者の省エネ努力を可視化するとともに省エネ
エネトップランナー制度を、本年度中に流通・
取組が他社と比較して進んでいるか遅れている
サービス業へ拡大し、3 年以内に全産業のエネ
かを明確にし、非常に進んでいる事業者を評価
ルギー消費の 7 割に拡大する」という方針を示
するとともに、遅れている事業者には更なる努
していることから、業務部門へのベンチマーク
力を促すための制度」として2008年・2009年
制度導入の検討はこれまで以上に進んでいくと
にエネルギー多消費型の産業部門に対して導入
考えられる(図表 5 )。業務部門における上記6
された。同制度に基づき、各社の省エネ取組状
業種において、現時点で最も検討が進んでいる
況を客観的に判断するための評価指標と、そ
のがコンビニエンスストアであり、唯一ベンチ
の目標水準が設定され、現在では 6 業種10分野
マーク指標やその目指すべき水準の案が提示さ
に対してベンチマーク制度が運用されている
れたところである(2015年10月)。
(図表 4 )
。
現在、産業部門におけるベンチマーク制度の
業務部門においては、震災前からベンチマー
対象事業者は国にベンチマーク指標を報告して
ク制度の導入が検討されていたものの、現在ま
おり、これは業務部門ベンチマーク制度におい
で同制度が導入されていない。震災後、2014年
ても同様の運用になる見込みである。各社が既
度には「業務部門における省エネ取組の評価制
に収集している情報から算出できる指標となれ
度に関する研究会」が設置され、業務部門の
ばよいが、場合によっては新たな情報を企業内
代表的な 6 業種(ショッピングセンター、スー
で収集する必要が生じることもあるだろう。現
パー、百貨店、業務用ビル、コンビニエンスス
在検討中の業種全てがベンチマーク制度の対
トア、ホテル)について検討が進められてきた。
象となった場合、エネルギー消費量ベースで
また、2015年11月には「未来投資に向けた官
は業務部門の約5割をカバーすることになると
民対話」の中で安倍総理が「製造業向けの省
されていることから、新制度の導入による影響
20
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日本の省エネ政策の検討状況と短期的に想定される動きについて
を受ける事業者も多いと想定される。また、例
る。換言すれば、多角的に事業を営む事業者で
えば主に百貨店業を営む事業者であったとして
あるほど、国への報告項目が増え、事業者負担
も、その一部としてスーパー業を営んでいる場
も増加してしまう可能性があるということであ
合、それが一定以上のエネルギー量を超えてい
る。従って、現在ベンチマーク制度の導入に向
れば、両方のベンチマーク指標を報告しなけれ
けて検討が進んでいる業務部門 6 業種を営む事
ばならない可能性がある点にも注意が必要であ
業者は、それが主たる事業であろうと従たる事
図表 3
ベンチマーク制度の導入の背景(イメージ)
(資料)各種資料より著者作成
図表 4
産業部門におけるベンチマーク制度の設定状況
(資料)資源エネルギー庁 「取りまとめ(案) 参考資料集」
総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 省エネルギー小委員会(第15回)
(2015年8月)
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2016
業であろうと、評価指標や目標水準について最
理化の範囲に含めて検討していくことが明言さ
新の検討状況を注視しておく必要がある。
れており、今後、事業者にとっては化石燃料と
他方、産業部門のベンチマーク制度において
再生可能エネルギーの両方を足したエネルギー
も、導入から 5 年以上が経過しており、各業種
使用量全体としてのエネルギーの使用の合理化
の省エネ進展度合いに応じて目指すべき水準の
が求められていくことについて言及されてい
見直しが進められているところである。また、
る。これは省エネ法における“エネルギー”の
今般の電力自由化を踏まえて、電気供給業に関
定義の拡大を意味し、同時に省エネ法のカバー
するベンチマーク制度の規制対象の見直し等が
範囲の拡大を意味している。
実施されており、産業部門においてもベンチ
マーク制度の更なる検討が進められている。
2. 今後想定される省エネ政策の動きに
ついて
これまでに見てきたように、省エネ法はその
(3)省エネ法における再生可能エネルギーの
扱いについて
現行の省エネ法では、エネルギーの使用の合
カバー範囲の拡大を続けているところである。
また、上記では触れていないものの、例えばトッ
(1)
プランナー制度
においても、その対象製品
理化の対象が化石燃料に限定されている。従っ
の範囲が拡大されつつあり、近年では“エネル
て、例えば太陽光発電等の再生可能エネルギー
ギーを自ら消費する機器”に加えて“自らエネ
による電力を使う限りにおいて、一定の条件下
ルギーを消費しなくても、他の建築物や機器等
では、そのエネルギーの使用の合理化を求めら
のエネルギーの消費効率の向上に資する機器
れることはなかった。ところが、2015年 8 月の
(断熱材やサッシ等)”が加えられた。今後、国
省エネルギー小委員会で提示された「今後更な
が主導して省エネ政策を促進していこうとする
る検討が必要な課題について」では、再生可能
姿勢は、パリ協定を受けて益々強くなっていく
エネルギーも省エネ法のエネルギーの使用の合
ことが想定される。
図表 5
ベンチマーク制度の拡充の方針
(資料)資源エネルギー庁 「ベンチマーク制度に関する今後の方針について」
総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 省エネルギー小委員会 工場等判断基準ワーキング
グループ(第 3 回)
(2015年12月)
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日本の省エネ政策の検討状況と短期的に想定される動きについて
しかしながら、国は規制だけを強めている訳
「省エネ法におけるエネルギーの定義の拡大」、
ではなく、支援措置も同時に実施していること
「電力自由化を踏まえた法改正の可能性」は国
について言及しておく必要があるだろう。例
が進めようとしている省エネ政策の一部であ
えば2016年度の省エネ補助金は、予算案にお
り、これらが政策として取りまとめられれば、
いて515億円が提示されており、前年度の当初
各事業者における事業活動に何らかの形で影響
予算から100億円程度が増加している。ベンチ
が生じることは必至であり、事業者はより一層
マーク制度に関しては、その導入とセットで補
の省エネに対する取組が求められることになる
助政策も検討中である。例えば、ベンチマーク
だろう。
水準を達成した事業者からの提案や、ベンチ
また、これまで見てきたように、省エネ法は
マーク制度上の目指すべき水準を達成するため
そのカバー範囲の拡大を通じて省エネ政策の充
の提案を、国として重点的に支援する仕組みの
実化を図っている。従って、これまで省エネ法
検討を行っていく方向性が示されている。具体
の定期報告の対象となっていない事業者が、あ
的にどのような支援策が用意されるかは未定で
る日以降、報告対象になる可能性がある。現在
あるが、規制と支援の両輪で、わが国全体とし
の省エネ法の報告対象となっている事業者はも
ての省エネ促進を進めていく姿勢が見て取れ
ちろんのこと、これまで報告対象となっていな
る。
い事業者についても、今後の省エネ政策の動向
また、本年から開始する電力自由化により、
省エネ法においても新たな法改正が加えられる
可能性がある。最近は多様な業種から電力業界
への参入が続いており、テレビ CM 等でもその
広告を目にすることが多くなってきた。それら
の事業者は電力料金の低減を謳っていることが
多く、他事業者も触発されてわが国の電力価格
が全体として少しずつ下がっていくことが予想
される。そうなった場合、工場や事業所での電
力使用量が増加してしまう可能性が生じるた
め、国として、省エネ促進の観点から対策を講
じていく必要がある。現在、国において本件の
検討に着手したところであり、欧米の先行事例
を踏まえつつ、わが国でも何らかの政策が電力
小売り事業者に講じられることが想定される。
3. おわりに
昨年末のパリ協定を踏まえ、これまで以上に
わが国の省エネ政策が強化されていくことが予
想される。本稿で言及した「クラス別評価」、
「業務部門におけるベンチマーク制度の導入」、
に着目し、早めの対策を講じていくことが望ま
れる。
注
(1)
トップランナー制度:エネルギー消費機器の製造・
輸入事業者に対し、3 ~ 10年程度先に設定される
目標年度において最も優れた機器の水準に技術的
進歩を加味した基準(トップランナー基準)を満た
すことを求め、目標年度になると報告を求めてそ
の達成状況を国が確認する制度
参考文献
1. 資源エネルギー庁 省エネルギー対策課「省エネ法
の改正について」
(2014年4月)
2. 資源エネルギー庁「省エネルギー小委員会 取りま
とめ(案)
」
総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エ
ネルギー分科会 省エネルギー小委員会(第15回)
(2015年8月)
3. 資源エネルギー庁「取りまとめ(案)参考資料集」
総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エ
ネルギー分科会 省エネルギー小委員会(第15回)
(2015年8月)
4. 資源エネルギー庁「今後更なる検討が必要な課題
について」
総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エ
ネルギー分科会 省エネルギー小委員会(第15回)
(2015年8月)
5. 日本フランチャイズチェーン協会「コンビニエン
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2016
スストアの省エネ法ベンチマークの策定について」
総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネ
ルギー分科会 省エネルギー小委員会 工場等判断
基準ワーキンググループ(第 2 回)(2015年10月)
6. 首相官邸「未来投資に向けた官民対話(第 3 回)」
(2015年11月)
7. 資源エネルギー庁 「ベンチマーク制度に関する今
後の方針について」
総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネ
ルギー分科会 省エネルギー小委員会 工場等判断
基準ワーキンググループ(第 3 回)
(2015年12月)
24
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廃棄物・リサイクル法体系の一元化に向けて 
社会動向レポート
廃棄物・リサイクル法体系の一元化に向けて
環境エネルギー第 1 部
コンサルタント
水上
碧
循環元年といわれた2000年から15年が経過した。世界的には国連の SDGs の「持続可能な
消費と生産」目標や EU の Circular Economy の新政策パッケージの発表、国内では廃棄物処
理法の見直しの議論の開始や5月の G7富山環境大臣会合の開催予定など、更なる「循環型社会」
形成への機運が国内外で高まっている。一方で、過去からの議論を振り返ると、循環型社会形成
推進基本法制定当時からの課題が今なお残されている。本稿では、過去の経緯を振り返りながら、
今後への期待を述べた。
中心に、資源の効率的な利用の促進は多くのビ
はじめに
ジネスにとってその競争力と収益性の改善に
2000年に日本で「循環型社会形成推進基本
つながるものであるとの認識のもと、廃棄物政
法」
(以下、
「循環基本法」ともいう。)が制定
策と資源政策のリンクだけでなく経済政策・社
されてから15年が経過した。この間、世界の
会政策ともリンクした、資源効率の向上及び資
人口は増え続け、また新興国が目覚しい経済
源の循環的利用の促進の流れが大きくなって
発展を遂げるに従い、世界の資源利用量は増
きている。
している。国連環境計画(UNEP)の国際資源
(1)
パネル
による報告書では、20世紀に総物質
こうした流れを受けて、2015年度には 3 つの
注目すべき世界的な動きがあった。
採取量は約 8 倍に増加していること、多くの資
源が生産の限界に達しつつあることが書かれて
(2)
いる
。また、
「持続可能な開発のための世界
① G7エルマウ・サミットにおいて「資源効率
の向上」が謳われた
経済人会議(WBCSD)」は、持続可能な社会へ
2015年 6 月に行われた G7エルマウ・サミッ
のビジョンの中(Vision 2050 The new agenda
トの首脳宣言では、「天然資源の保護と効率的
for business)で、2050年までに資源効率を4 ~
な利用は、持続可能な開発に不可欠である。我々
(3)
10倍高める必要があるとした
。
は、産業の競争力、経済成長と雇用、並びに環
このような世界的な持続可能な発展のため
境、気候及び惑星の保護のために極めて重要と
の資源利用の問題意識等から、EU をはじめ諸
考える資源効率性の向上に努める」と述べられ
外国でも天然資源の利用量削減や資源の循環
ており
的な利用の促進を進め、環境負荷を減らしてい
が入れられた意義は大きいとされている。
(4)
、首脳宣言においてこのような一文
くための検討や取組が進められてきた。また、
世界的な経済の停滞という背景の中で、EU を
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2016
② 国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)の
する法律」(以下、「廃棄物処理法」という。)
中で「持続可能な消費と生産」が目標として
の見直しに向けた議論が行われており、循環型
掲げられた
社会形成推進基本計画の見直しに向けた準備も
2015年 9 月に採択された国連の「持続可能な
これから始まる。更なる循環型社会形成に向け
開発目標」
(Sustainable Development Goals)
て、どのような新しい目標や仕組みが入れられ
では17個のゴールを設定しているが、そのうち
るのか、今後の議論が注目されている。
のゴール12では「持続可能な消費と生産」を掲
このように、世界的に高まる「資源を効率的
げ、
「天然資源の持続可能な管理及び効率的な
に利用し、廃棄物を削減し、それにより経済成
利用の達成」や「廃棄物の発生防止、削減、再
長にもつなげる」という議論は、捉えようとし
生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅
ている範囲が、経済・社会、そして「廃棄物」
(5)
に削減する」こと等をターゲットとしている
。
から「資源」の視点へとより広がりつつあるも
のの、日本がこれまで取組み及び議論を重ねて
③ EU が 循 環 経 済(Circular Economy)政 策
きた「循環型社会」の形成と通じるものである。
パッケージを打ち出した
本稿では、基本に立ち返り、日本の循環型社会
2015年12月2日に欧州委員会が打ち出した
形成推進基本法制定当時の思いを振り返りなが
「循環経済(Circular Economy)政策パッケー
ら、今後への期待を述べたい。
(6)
ジ」 では、「我々が過去に頼っていた経済成
長の線型モデルはもはや今日のグローバル化
1. 「循環型社会」とは
された現代社会のニーズには適していないこ
まず、日本では、「循環型社会」を「① 廃棄
とは明らかである。我々は『採る、つくる、捨
物等の発生抑制、② 循環資源の循環的な利用
てる』のモデル上にはもう未来を築くことはで
及び適正な処分が確保されることによって、
(7)
きない」とし
、循環経済を進めることで経
済・雇用が向上するとし、モノの流れの輪を結
③ 天然資源の消費を抑制し、環境への負荷が
(10)
できる限り低減される社会
」と定義してい
(11)
ぶ(Closing the loop)ための各種目標・廃棄物
る(循環基本法 第 2 条
法案の改正案・アクションプラン等が出されて
ジとして中央環境審議会循環型社会計画部会
)。循環型社会のイメー
(12)
いる。
(第11回(2002年))
このような世界的な流れを受けて、2016年
では図表 1 のような図
が示されている。
は日本でも、廃棄物削減、資源効率の向上及び
日本は、江戸時代には循環型の社会を形成し
資源の循環的利用などの議論が活発化するタイ
ていたものの、その後の開国及び西欧諸国を
ミングを迎える。2016年5月には富山県で G7
手本とした成長の中で大量生産・大量消費型
(8)
環境大臣会合が開かれる
。ここでは、前述
(13)
の社会を歩んだ
。そして日本の廃棄物政策
の G7 エルマウ・サミットの首脳宣言を受け、
は、そのような大量生産・大量消費型の社会の
廃棄物管理・資源有効利用の先進国であると認
歩みや経済発展にともない質・量ともに変化す
(9)
知されている日本
として、また議長国とし
る廃棄物に関する課題へ対応を進めるかたちで
て、先進的な議論を主導していくことが期待さ
進んできた。最初は公衆衛生向上の観点から始
れる。
まり、その後は公害対策・生活環境保全、そし
さらに、現在は「廃棄物の処理及び清掃に関
て最終処分場の逼迫等への対応等を経て現在へ
26
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廃棄物・リサイクル法体系の一元化に向けて 
図表 1
循環型社会のイメージ
(資料)中央環境審議会循環型社会計画部会(第11回)(資料2 「循環型社会のイメージについて」
)
(2002年8月28日)
とつながっている(図表 2 )。特に廃棄物の発生
環境政策の根幹を定めた環境基本法の下に循
量の高水準での推移や不法投棄の増大及び豊島
環基本法がある。その循環基本法の下に、廃棄
で起こった大規模な廃棄物の不法投棄問題によ
物の排出抑制及び適正処理のための「廃棄物処
る社会的注目、ダイオキシン問題等により一層
理法」、資源の有効利用及び廃棄物の再生利用
増した廃棄物処理施設の設置の困難性による最
の推進の必要性から制定された「資源有効利用
終処分場残余年数の逼迫という喫緊の課題が生
促進法」(旧再生資源利用促進法)があり、さ
じる中、大量生産・大量消費・大量廃棄型経済
らに個別物品の特性に応じて制定された 6 つの
社会からの脱却の必要性からつくられたのもの
個別リサイクル法と「再生品等の供給面の取組
が、「目指すべき『循環型社会』」の姿であり、
に加えて需要面からの取組が重要である」との
理念である。
観点から制定された「国等による環境物品等の
2. 循環型社会形成のための法制度の概要
次に、「循環型社会」の形成を推進するため
の法体系は、図表 3 のようになっている。
調達の推進等に関する法律」(グリーン購入法)
がある。循環基本法には、同法に基づく施策の
総合的且つ計画的な推進を図るため、「循環型
社会形成推進基本計画」を策定することが定め
27
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図表 2
2016
日本における循環型社会に係る主な課題及び法制度の変遷
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循環型社会の構築
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公 害 問 題 と 生活 環 境 の 保 全
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公 衆 衛 生の 向 上
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‫؞‬
‫؞‬
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(14)
(資料)環境省 大臣官房廃棄物・リサイクル対策部企画課循環型社会推進室「日本の廃棄物処理の歴史と現状」 より筆者作成
られている。また、その時々の状況に応じた計
うか。制定当時を振り返ると、図表4のように
画とするため、概ね 5 年ごとに計画の見直し・
なる。循環基本法は、「廃棄物・リサイクル対
改正を行うことが定められている。廃棄物処理
策を総合的かつ計画的に推進するための基盤を
法や個別リサイクル法等も、その時々の課題に
確立するとともに、個別の廃棄物・リサイクル
対応するため、定期的な見直し・改正が図られ
関係法律の整備と相まって、循環型社会の形成
ている。例えば、2012年 8 月には、循環の輪か
に向け実効ある取組の推進を図る」
らはずれていた携帯電話等の小型電子機器等を
狙いとして制定されたものである。もう少し踏
対象として、そこに含まれる金属等の有用な資
み込んで言えば、「廃棄物の適正処理」と「資
源の再資源化を促進するため、「使用済小型電
源の有効利用の促進」を一体的に考える、すな
子機器等の再資源化の促進に関する法律」(小
わち廃棄物・リサイクル法体系の一元化を目指
型家電リサイクル法)が制定された。
したものであった。
(15)
ことを
循環基本法とは、このような各種法制度の
図表 4 にまとめた経緯の中での意見等は「関
上位に位置づけられた、循環型社会形成推進
係諸法の整合性・一貫性」、「『廃棄物』と『廃
のための基本的な理念や考え方を定めた法律
棄物等(循環資源)』の区分問題」に関する内容
である。
を中心に抜粋したものである。このように、
「廃
3. 循環基本法制定経緯及び現在に通じ
る論点
棄物処理」と「リサイクル推進」の 2 つに分
それでは、循環型社会形成推進のための基本
棄物』の定義の見直し」が課題として様々な場
的な理念や考え方を定めている「循環進基本法」
は、どのような経緯・思いでつくられたのだろ
断されている法制度を一体的にすることや「『廃
で挙げられ、議論されていたことがわかる。
また、循環基本法は、自民党案である「循環
28
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廃棄物・リサイクル法体系の一元化に向けて 
図表 3
循環型社会を形成するための法体系
(資料)環境省 大臣官房廃棄物・リサイクル対策部企画課循環型社会推進室「日本の廃棄物処理の歴史と現状」
型社会基本法案(仮称)
」
、公明党・自由党案で
「廃棄物・リサイクル法体系の一元化・統合」
ある「循環型社会形成推進法案(仮称)」を基
を目指した野心的なものであったことがうかが
(16)
が、制定当時
われる。そのほか、民主党案では、廃棄物の定
は、廃棄物・リサイクル問題が注目を浴びてい
義の見直し、廃棄物分類の見直し、製造者への
たこともあり、政府及び与党による案のほかに、
引き取り義務等による設計段階からの省資源担
民主党も法案を作成していたことがわかる。こ
保、焼却税・埋立税の導入等、現在の議論にも
の民主党案を見てみると、「資源循環・廃棄物
通じる大胆で興味深い提案が行われている
管理法」という法案名(当時)がつけられてい
点も注目すべき点であろう。
としてつくられたものである
(17)
るとおり、廃棄物処理法と再生資源利用促進法
を再編・統合することを掲げたものであり、現
行の循環基本法の基礎となった他案よりも強く
29
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図表 4
2016
循環型社会形成推進基本法形成に関する主な流れと一元化に向けた議論等
時期
出来事
1991年 2月
衆議院予算委員会15号において、当時準備中であった厚生省の「廃棄物処理法の改正」及び通商産業省の「再生
資源の利用の促進に関する法律案」の考え方が資源循環型社会への転換という考えに立っていると考えられるのか
どうかの質疑が行われる。また、環境庁として一時、「『循環型社会形成法案』というようないわば理念をうたった
法案」が準備されようとしていた時期もあったが、政府部内の調整あるいは立法技術上の点から、結論とて独自の
理念の法案を提出はせずに、「再生資源の利用の促進に関する法律案」の主務大臣の一人として、環境庁が環境保
(18)
全の観点から参画するということにしたとのことが述べられる。
1997年 11月
環境庁 中央環境審議会廃棄物部会により「廃棄物にかかる環境負荷低減対策の在り方について(第一次答申)
」が
出される(19)。
1998年 1月~ 環境庁 中央環境審議会廃棄物部会に「総合的体系的な廃棄物・リサイクル対策の在り方に関する課題と方向性
5月
のワーキンググループ(座長:平岡部会長)」が設置され( 1 月)、ワーキンググループにおける検討が実施される
( 2 月~ 5 月)(20)。
6月
有識者(浅野直人、大塚直、高橋滋、柳憲一郎、松村弓彦)による「総合法制ワーキンググループ」から環境法政
策学会において、廃棄物・リサイクルに関する総合法制枠組みについての提案が報告された。廃棄物処理法とリサ
イクル法の2本立てのシステムが物質循環を 2 つの世界に分断し、今日の問題を生じさせやすくしているというこ
と、廃棄物・リサイクル法体系の一元化が必要であること等が提案される(21)。
7月
環境庁 中央環境審議会廃棄物部会として、総合的体系的な廃棄物・リサイクル対策の基本的考え方のたたき台を
とりまとめる。(22)
8月~ 総合的体系的な廃棄物・リサイクル対策の基本的考え方のたたき台をもとに、意見の公募やヒアリング等を実施
(23)。
11月 ( 8 月~ 10月)し、意見募集結果を整理・公表し、審議が行われる(11月)
※環境庁 中央環境審議会廃棄物部会(第20回)では、廃棄物・リサイクルに関する全国的な活動を行っている団体
からのヒアリングが行われ、「廃棄物の定義や一般廃棄物と産業廃棄物の区分等の見直しが必要」、「物質循環全体
の理念を示すような総合的法枠組みが必要」であること等が述べられた(24)。
1999年 1月
全国市長会が「廃棄物政策に関する意見」を決定。本意見の中で、廃棄物処理とリサイクル推進の2つの法律体系
になっているが、今後は、発生抑制、リサイクル、適正処理を一元的にとらえ総合的な廃棄物対策を進めていくこ
とが強く求められるとし、そのために「資源循環・廃棄物法」のような総合的な法律の整備を行うべきであるとい
うこと等が述べられる(25)。
3月
環境庁 中央環境審議会廃棄物部会が「総合的体系的な具体的な廃棄物・リサイクル対策の基本的考え方に関する
とりまとめ」を公表。本とりまとめは、「循環型社会の構築の観点から、廃棄物対策と資源の循環的再利用を一体
的に進めるための廃棄物・リサイクル対策に関する基本原則、役割分担、政策手法などについての基本的考え方を
とりまとめた」もの(26)。
経済企画庁総合計画局 構造改革推進研究会 のリサイクル(循環型経済社会の実現に向けて)ワーキンググループが
報告書を発表し、その中で、「効率的かつ円滑なリサイクルを促進する観点から、廃棄物の定義の明確化等、現行
の廃棄物処理制度やその運用の改善を図る必要がある」としている(27)。
7月
通商産業省 産業構造審議会 廃棄物リサイクル部会合同基本問題小委員会から報告書「循環型経済システムの構築
に向けて」が出される(28)。本報告書の中で、廃棄物の定義、一般廃棄物・産業廃棄物の区分に係る見直しを検討
していく必要があること等が述べられている(29)。
10月
自民党・自由党・公明党の連立政権発足に際する与党政策合意において「平成12年度を『循環型社会元年』と位
置づけ、基本的枠組みとしての法制定を図る」こととされる(30)。
11月
与党 3 党(自民党・自由党・公明党)による「循環型社会の構築に関するプロジェクトチーム」が発足する(31)。
環境庁を中心とし、厚生省、農林水産省、通商産業省、運輸省、建設省、自治省の関係課室長からなる「循環型社
会の構築に関する関係省庁連絡会議」が設置される(32)。
12月
2000年 1月
環境庁 中央環境審議会第 26 回廃棄物部会の議論において、部会長より「個人的には、廃棄物処理法とリサイクル
法を一緒にして、廃棄物の定義を見直して、それが横糸とおっしゃった基本法というのでしょうか、それが、それ
に各省庁の施策がずっとつながっているという形になれば理想的かなという気がする。」と意見が述べられる。また、
水質保全局長より、この時点では、法案の骨となる項目は「今暗中模索というところである」と述べられる(33)。
関係省庁連絡会議において「循環型社会基本法(仮称)」の大枠がとりまとめられる(34)。
2月
与党三党は自民党案である「循環型社会基本法案(仮称)」、公明党・自由党案である「循環型社会形成推進法案
(仮称)」をとりまとめ・議論を実施、民主党は「日本版『循環経済法』」として「資源循環・廃棄物管理法案(仮称)
」
のとりまとめを実施(35)。
4月
(36)。日本弁護士
循環型社会形成推進基本法案が閣議決定され(4月14日)、第147回通常国会へ提出される(同日)
連合会が「循環型社会形成推進基本法案に対する意見書」を公表。本意見書の中で、「政府提出の『循環型社会形
成推進基本法案』の問題点」の中の 1 つとして「廃棄物の定義においてすら、第 2 条第 2 項一で、廃棄物処理法の
定義をそのまま引きずっており、ドイツの循環経済・廃棄物法のように『~(略)~』といった循環型社会の基本
法に相応しい定義の見直しすら行われていない。」ことが挙げられる(37)。
5月
循環型社会形成推進基本法 制定( 5 月26日)。そのほか、廃棄物処理法等の改正、再生資源利用促進法の改正
(資源有効利用促進法と改称)、建設資材リサイクル法の制定、食品リサイクル法の制定、グリーン購入法の制定。
※意見等は「関係諸法の整合性・一貫性」、「廃棄物と廃棄物等(循環資源)の区分問題」に関する内容等を中心に抜粋した
ものである。
(資料)各種資料をもとに筆者作成
30
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廃棄物・リサイクル法体系の一元化に向けて 
の循環的な利用が困難になるからである。しか
4 . 今なお残る課題
し、廃棄物か否かは、その物の性状、排出状
循環基本法は、新たな理念を掲げた理念法と
況、通常の取扱い形態、取引価値の有無、事業
して、循環型社会への転換を強く意識させるも
者の意思等を総合的に勘案して判断され(総合
のとはなったが、実際の運用上は、廃棄物・リ
判断説)
、ケースバイケースでの判断となるた
サイクル法体系を一元化・統合させるものとは
め、同じ物であっても自治体による判断の違い
ならず、形骸化している向きもある。
や市況による価格変動にともない判断が異なる
現在の法制度では、理念法である循環基本法
(変わる)ことがある等の課題がある。このため、
が後からできたこと(循環基本法で新たに取り
ある物が「廃棄物なのか資源なのか」が曖昧に
入れたれた概念との調整が不十分であるという
なっており、資源の循環的な利用を行う上での
こと)
、個別リサイクル法が対象物品の特性に
ハードルとなることがある
(42)
。
応じた制度となっていること等から、基本的枠
そのほか、「廃棄物」が物の性質ではなく処
組法である「循環基本法」と関係諸法との整合
理責任と関連し一般廃棄物と産業廃棄物とに
性が必ずしもとられていない(循環基本法の理
区分されていることや地域によって一般廃棄
念が他の法律に十分に対応していない)ことが
物(事業系一般廃棄物)となるか産業廃棄物と
(38)
課題とされている
なるかが異なるといった区分の曖昧さが存在す
。
例えば、
「『廃棄物』と『廃棄物等(循環資源)』
の区分の問題」がある。循環基本法では、「廃
(39)
棄物等
」や「循環資源(廃棄物等のうち有
(40)
る。そして、区分が違うことで同じ物でも許可
の取得方法や処理方法を変えなくてはいけな
い、一体的に処理できない等が発生し、「廃棄
用なもの) 」を定義し、廃棄物等の循環的な
物なのか資源なのか」と同様に事業者が更なる
利用の積極的推進、「廃棄物等を否定的にとら
資源を有効に利用するための取組を難しくして
える見方を改め『資源』として捉え直すという
いる可能性がある
(41)
意識転換」等を図っている
(43)
。
。つまり、循環
詳細はここでは述べないが、
「廃棄物」と「廃
型社会を更に進めていくという観点から従来は
棄物等(循環資源)」の区分、「一般廃棄物」と
「廃棄物」とされていた物でも適切に利用可能
「産業廃棄物」の区分に関する課題も、法制定
な物は可能な限り「資源」として循環的な利用
当時の議論をみると、同様に現在と同じ問題意
をしていくということを示しているといえる。
識をもち議論が行われていたことや、現在課題
しかし、実際にリサイクル等の資源の循環的な
となっている点を当時から懸念していたことが
利用を進めようとするとき、事業者にとって
わかる。つまり、法制定当時の課題・論点は今
は、その物が廃棄物処理法上の「廃棄物か否か」
もなお残されている。
が重要となる。廃棄物の排出抑制と適正処理に
より生活環境の保全と公衆衛生の向上を図るこ
5 . 長年の課題解決に向けて
とを目的として制定された廃棄物処理法は、不
循環基本法の形骸化は、規制等から大きな存
適正処理の未然防止等のために厳しい規制等を
在感をもっていた廃棄物処理法や、対象物品の
定めており、「廃棄物」となると、その取扱い
特性に応じた固有の制度をもち既に動いていた
を行う事業者は、業の許可の取得など様々な要
個別リサイクル法、環境省・経済産業省の両省
件がかかり、大きな負担がかかるために、資源
所管の資源有効利用促進法へ循環基本法の理念
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2016
を波及させるだけの大きな流れがなかったから
ではないだろうか。廃棄物・リサイクル法体系
を一元化させることは、「資源」と「廃棄物」
の境界を考えることであり、それ故に「資源」
と「廃棄物」の管轄省庁の違い(経済産業省と
環境省)はこれまでもそして今後も大きな問題
として考えられる。課題の解決に向けては、世
界的な動きそして世論の高まり等による後押し
が必要となるだろう。
しかし、国内外ともに気運が高まっている今、
そろそろ一歩を踏み出すべきではないだろうか。
例えば、EU では、前述の循環経済のほかに
(44)
も、「第 6 次環境行動プログラム
」や「資源
(45)
効率的な欧州に向けたロードマップ
」等、
これまでにも積極的に「循環型社会」への転
換 に 向 け た 動 き が 図 ら れ て き た が、2008年
には廃棄物政策と資源戦略をリンクした廃棄
(46)
物枠組指令
の大改正が行われ、「副産品」
(47)
(By-product
)と「廃棄物性の終了」(End of
(48)
Waste
)を定義し、廃棄物か否かを明確にし、
「廃棄物から資源へ」の流れを推進している。
日本においても、廃棄物や循環資源の概念をも
う一度整理し、廃棄物と資源の定義を明確にし
てはどうだろうか。もちろん、適正処分の確保、
環境負荷の最小限化は大前提であるため、物の
特性等に応じた対応をするため、官民が一体と
なった慎重な議論が必要となるだろう。
更なる循環型社会形成への転換に向けて、今
度こそ、過去の議論も振り返りながら、政府や
業界等の各主体が一丸となり、循環型社会を形
成するための全ての関係諸法を循環基本法の理
念の下で一元化していくために、必要な改正を
実施することを期待したい。
注
(1)
地球規模での経済活動の拡大に伴い、天然資源の
持続可能な利用の確保が国際社会の大きな課題と
なっていることから国連環境計画(UNEP)によっ
て2007年11月に設立された。持続可能な資源管
理に係わる分野の著名な専門家と各国政府や EC、
OECD、UNEP 等の国際的な機関からなる運営委
員会で構成される。天然資源の持続可能な利用及
び資源利用によるライフサイクルにわたる環境影
響に関する、独立した科学的評価の提供等を目的
としている。
(2) UNEP「デカップリング 天然資源利用・環境影響
と経済成長との切り離し」http://www.unep.org/
resourcepanel-old/Portals/24102/Decoupling%20
summary%20(Japanese).pdf
(3) W o r l d B u s i n e s s C o u n c i l f o r S u s t a i n a b l e
Development“Vision 2050 The new agenda for
business”
http://www.wbcsd.org/vision2050.aspx
(4) 外務省「2015 G7 エルマウ・サミット首脳宣言
(仮
訳)」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page4_
001244.html
(5) 環境省 中央環境審議会総合政策部会
(第82回)資
料5「
「持続可能な開発のための2030アジェンダ」
と「持続可能な開発目標」
(SDGs)」
https://www.env.go.jp/council/02policy/y020-82b.
html
外務省「持続可能な開発のための2030アジェンダ
(仮訳)
」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000101402.pdf
(6) European Commission ”Circular Economy
Strategy”
http://ec.europa.eu/environment/circulareconomy/index_en.htm
(7) European Commission Press Release Database
“Circular Economy Package: Questions &
Answers”
http://europa.eu/rapid/press-release_MEMO- 1 5 6204_en.htm
(8) 環境省 G7 富山環境大臣会合2016
http://www.env.go.jp/earth/g7toyama_emm/
(9) WORLD ECONOMIC FORUM ”Towards the
Circular Economy: Accelerating the scale-up
across global supply chains” など
www3.weforum.org/docs/WEF_ENV_Towards
CircularEconomy_Report_2014.pdf
(10) 環境省「循環型社会形成推進基本法の概要」
https://www.env.go.jp/recycle/circul/kihonho/
gaiyo.html
(11) 循環型社会形成推進基本法 第 2 条では「製品等が
廃棄物等となることが抑制され、並びに製品等が
循環資源となった場合においてはこれについて適
正に循環的な 利用が行われることが促進され、及
び循環的な利用が行われない循環資源については
適正な処分(廃棄物(ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚
泥、ふん尿、廃油、廃 酸、廃アルカリ、動物の死
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廃棄物・リサイクル法体系の一元化に向けて 
体その他の汚物又は不要物であって、固形状又は
液状のものをいう。以下同じ。)としての処分をい
う。以下同じ。)が確保され、もって天然資源の消
費を抑制し、環境への負荷ができる限り低減され
る社会)」と定義されている。
(12) 環境省 中央環境審議会循環型社会計画部会
(第11
回)資料 2「循環型社会のイメージについて」
(2002
年8月28日)
http://www.env.go.jp/council/former2013/
04recycle/y040-11/mat02.pdf
(13) 例えば、平成20年版環境・循環型社会白書「総説2
循環型社会の構築に向け転換期を迎えた世界と我
が国の取組」の第2節では「我が国は、江戸時代
に循環型の社会を形成していましたが、その後の
開国と、西欧諸国を手本とした歩みの中で、生産
様式や物に対する考え方も変化し、大量生産・大
量消費型の社会を歩みました。」としている。
(14) 環境省 大臣官房廃棄物・リサイクル対策部企画
課循環型社会推進室「日本の廃棄物処理の歴史と
現状」
https://www.env.go.jp/recycle/circul/venous_
industry/ja/history.pdf
(15) 環境省「循環型社会形成推進基本法の趣旨」
(平成
12年6月 環境庁)
https://www.env.go.jp/recycle/circul/kihonho/
shushi.html
(16)「ジュリスト
No.1184」(有斐閣)p.2 ~ p.16「循
環型諸立法の全体的評価」(学習院大学教授 大塚
直)、「地方行政」(時事通信、2000年2月24日 第
9252号)、
「ネットワーク月報 JACO 」(2000年4月
3日、日本環境認証機構技術部)、民主党 ニュース
「『循環経済法』(資源循環・廃棄物管理法案)自民
案等との比較」(民主党循環社会 PT、2000年2月
22日)
http://www1.dpj.or.jp/news/files/
000222KA0004.pdf など
(17) 民主党
ニュース「日本版「循環経済法」
(資源循
環・廃棄物管理法案)のポイント(民主党循環社会
PT 、2000年2月22日)
http://www1.dpj.or.jp/news/?num=11120
民主党 ニュース 「『循環経済法』
(資源循環・廃
棄物管理法案)自民案等との比較」
(民主党循環社
会 PT 、2000年2月22日)
http://www1.dpj.or.jp/news/files
/000222KA0004.pdf など
(18) 第120回国会 衆議院予算委員会15号 会議録
(1991
年2月21日)
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/120/
0380/12002210380015.pdf
(19)「廃棄物に係る環境負荷低減対策の在り方につい
て」(第 1 次答申)
https://www.env.go.jp/council/former/tousin/
haiki1.html
環境庁 報道発表資料「中央環境審議会廃棄物部会
「総合的体系的な具体的な廃棄物・リサイクル対策
の基本的考え方に関するとりまとめ」について」
(21)「NBL
652号」(商事法務研究会)p.71 ~ 63「廃
棄物・リサイクルが一体となった健全な物質循環
を促進する総合法制枠組(提案) 総合法制ワーキ
ンググループ」
「ジュリスト No.1147」
(有斐閣)p.55 ~ p.62「廃
棄物・リサイクルが一体となった健全な物質循環
を促進する総合法制枠組(提案)
」
(総合法制ワー
キンググループ)
http://www.env.go.jp/press/2096.html
(22) 環境庁 報道発表資料「中央環境審議会廃棄物部会
「総合的体系的な具体的な廃棄物・リサイクル対策
の基本的考え方に関するとりまとめ」について」
(23) 環境庁 報道発表資料「中央環境審議会廃棄物部会
「総合的体系的な具体的な廃棄物・リサイクル対策
の基本的考え方に関するとりまとめ」について」
(24) 環境庁 中央環境審議会第20回廃棄物部会議事要旨
(1998年9月29日)
http://www.env.go.jp/council/former/yousi 1 1 /
y110-020.html
(25) 全国市長会「廃棄物政策に関する意見
(平成11年
1月27日)」
http://www.mayors.or.jp/p_opinion/o_teigen/
1999/01/1999.1.27haiki.php
(26) 環境庁 報道発表資料「中央環境審議会廃棄物部会
「総合的体系的な具体的な廃棄物・リサイクル対策
の基本的考え方に関するとりまとめ」について」
(27) 構造改革推進研究会 リサイクル
(循環型経済社会
の実現に向けて)ワーキンググループ報告書(平成
11年3月5日、経済企画庁総合計画局)
http://www5.cao.go.jp/99/e/19990305e-recycle.pdf
「ZERO N0.36」
(公共投資総研 編集・発行、1999
年3月11日)p.50「経済企画庁リサイクルワーキン
ググループ『循環型社会実現に向けて』の報告書
公表」
(28)「ZERO N0.45」
(公共投資総研 編集・発行、1999年
7月22日)p.31「産業構造審議会<通産省>『循環
型経済システムの構築に向けて』提言」
(29)「官公庁公害専門資料 第34巻第6号」
(公害研究対
策センター)p.63 ~ p.100「循環型経済システムの
構築に向けて」
(30) 環境省「循環型社会形成推進基本法
経緯」
https://www.env.go.jp/recycle/circul/recycle.html
「ジュリスト No.1184」
(有斐閣)p.2 ~ p.16「循環
型諸立法の全体的評価」(学習院大学教授 大塚直)
では、
「与党内では公明党がこの法案に最も熱心で
あったとみられる」としている。
(31)「ZERO
N0.52」
( 公 共 投 資 総 研 編 集・ 発 行、
1999年11月25日)p.22「自民、自由、公明の与党
3 党『循環型社会の構築に関するプロジェクトチー
ム』を11月12日に発足 新法案の来年3月国会提
(20)
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vol.11
2016
出目指す」
N0.53」( 公 共 投 資 総 研 編 集・ 発 行、
1999年12月9日)p.26「『循環型社会の構築に関す
る関係省庁連絡会議』設置される 循環型社会の
構築に関する枠組法大枠を検討」
(33) 環境庁 中央環境審議会第26回廃棄物部会議事要旨
(1999年12月10日)
https://www.env.go.jp/council/former/yousi 1 1 /
y110-026.html
(34)「ZERO
N0.56」( 公 共 投 資 総 研 編 集・ 発 行、
2000年1月27日)p.34「循環型社会の構築に関する
関係省庁連絡会議基本的枠組み法案の大枠まとめ
る『循環型社会基本法(仮称)』」
「日本経済新聞」(2000年1月21日 夕刊)
(35)「ジュリスト
No.1184」(有斐閣)p.2 ~ p.16「循
環型諸立法の全体的評価」(学習院大学教授 大
塚直)、「地方行政」(時事通信、2000年2月24日
第9252号)、「ネットワーク月報 JACO 」(2000年
4月3日、 日 本 環 境 認 証 機 構 技 術 部 )、 民 主 党
ニュース 「『循環経済法』(資源循環・廃棄物管
理法案)自民案等との比較」(民主党循環社会 PT、
2000年2月22日)
http://www1.dpj.or.jp/news/files/
000222KA0004.pdf など
(36)「循環型社会形成推進基本法の解説」
(循環型社会
法制研究会編、ぎょうせい発行、2000年12月25日)
(37) 日本弁護士連合会「循環型社会形成推進基本法案
に対する意見書」(2000(平成12)年4月28日)
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/
opinion/year/2000/2000_12.html
(38) 例えば、
「18歳からはじめる環境法」
(法律文化社、
2013年 4 月25日)の「11 ゴミの管理をどうするか」
(福士明 北海学園大学教授 著)では、リサイクル
法の課題として、「すべてのリサイクル関係法が循
環基本法の理念のもとで体系的に調整されて整備
されているわけではないため、循環基本法との整
合性およびリサイクル関係法の横断的な整合性を
保つことも課題となっている。」としている。また、
「 平 成22年 度 循 環 型 社 会 形 成 推 進 基 本 法 制 定 後
10年間の法制度関係成果の整理、分析等業務報告
書」(平成 23 年 3 月、商事法務研究会)では、「循
環基本法における発生抑制・再使用・再生利用・
熱回収・適正処分と各法律における主たる用語の
対象範囲の関係」を整理しており、その結果によ
ると、各法律が規定する範囲はじゅんかん基本法
の範囲と必ずしも一致していないとされている等、
各法律で使用されている用語の統一もなされてい
ないという課題も様々なところで指摘されている。
(39) 廃棄物処理法で定義された「廃棄物」及び使用済
物品、収集・廃棄物品及び人の活動に伴い副次的
に得られた物品のこと。循環型社会形成推進基本
法第 2 条第 1 項において、次のように定義されて
いる。
(32)「ZERO
「この法律において「廃棄物等」とは、次に掲げる
物をいう。 1. 廃棄物 2. 一度使用され、若しくは
使用されずに収集され、若しくは廃棄された物品
(現に使用されているものを除く。)又は製品の製
造、加工、修理若しくは販売、エネルギーの供給、
土木建築に関する工事、農畜産物の生産その他の
人の活動に伴い副次的に得られた物品(前号に掲
げる物を除く。
)」
(40) 循環型社会形成推進基本法第 2 条 1 項において、次
のように定義されている。
「この法律において「循
環資源」とは、廃棄物等のうち有用なものをいう。
」
「循環型社会形成推進基本法の解説」(循環型社会
法制研究会編、ぎょうせい発行、2000年12月25日)
によれば、「
『有用なもの』とは循環的な利用が可
能なもの及びその可能性があるものをいう。」とさ
れ、
また「可能性という点ではすべての『廃棄物等』
は循環的な利用が可能であり、したがって、実態
的にみれば『廃棄物等』と『循環資源』は同じも
のを指す」とされている。
(41)「循環型社会形成推進基本法の解説」
(循環型社会
法制研究会編、ぎょうせい発行、2000年12月25日)
(42) 例えば、
「ロースクール環境法(第2版)」(成文堂、
松村弓彦ら著、2010年4月20日)の p.256では、使
用済みのレンズ付きフィルムを事例に廃棄物の定
義に関する課題を述べている。また、
「月刊 環境
管 理 Vol.50 No.8」( 産 業 環 境 管 理 協 会、2014年
8月10日)の「総合判断説・再考」
(北村喜宣 上智
大学法科大学院長著)では、
「企業関係者にヒアリ
ングをすると、リサイクルを進めようとしても廃
棄物処理法が邪魔をして(すなわち、手元マイナ
スゆえに当該物品がとりあえずは廃棄物だと行政
によって判断されるために)
、不要と思われる規制
がかかってくるというボヤキを耳にすることが多
い。
」とされている。
(43) 例えば、
「日経エコロジー 2015年4月号」(日経 BP
社)の「特集 1 廃棄物処理法 改正のススメ」では、
具体的な課題事例として、アスクル株式会社やユ
ニーグループ ・ ホールディングス株式会社の事例
を挙げている。
(44) European Commission“The Sixth Environment
Action Programme of the European Community
2002-2012”
http://ec.europa.eu/environment/archives/actionprogramme/strategies_en.htm
(45) The Roadmap to a Resource Efficient Europe
(COM(2011)571)
http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/
TXT/?uri=CELEX:52011DC0571
(46) Waste Framework Directive
(Directive 2008/98/
EC)
http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/
TXT/?uri=CELEX:32008L0098
(47) Waste Framework Directive
(Directive 2008/98/
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廃棄物・リサイクル法体系の一元化に向けて 
(48)
EC)第 5 条第 1 項で定義されている。物質又は物
体であって、 生産過程において生成され、 当該生
産過程の主要な目的が当該物質又は物体の生産で
はない場合、 次の要件が全て満たされると廃棄物
ではなく副産品であるとみなされる。要件とは ①
今後の利用が明らかであること。 ② 通常の産業で
の慣習以外のさらなる処理を行うことなく直接利
用可能であること。 ③ 生産過程の不可分の一部と
して生成されること。④ さらなる利用が合法であ
ること(つまり、当該物質又は物体は、 その利用
に求められる関連する製品、 環境健康の保護のた
めの要件を満たし、環境や人の健康への全体的な
有害な影響を及ぼさないこと)。
Waste Framework Directive(2008/98/EC)第 6 条
第 1 項で定義されている。一定の限られた廃棄物
は、 リサイクルを含むリカバリー行為を経て、 次
の要件に基づき策定される具体的な基準を遵守し
ている場合に、廃棄物ではなくなる。 要件とは
① 特定の目的で一般的に用いられること。② 市場
もしくは需要が存在すること。③ 技術的要求を満
たしており、 適用される既存の法令や基準を満た
していること。 ④ 利用により環境や人の健康に対
する全体的な有害な影響を及ぼさないこと。
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vol.11
2016
社会動向レポート
後発医薬品のさらなる使用促進のために
~後発医薬品使用促進に向けた地域での取組み~
社会政策コンサルティング部
マネジャー
田中
陽香
後発医薬品の使用促進にあたっては、都道府県単位、さらにはそれよりも狭い地域単位で関係
者を集めた協議等の具体的な取組みが実践されるようになっている。後発医薬品の使用促進には
使用する側の体制や意識を変えていくことが必要であり、薬価や診療報酬等、国の医療保険政策
による誘導だけではなく、地域の顔の見える関係性を築く等の地道な取組みも重要である。本稿
では、そうした後発医薬品の使用促進に向けた取組みを紹介する。
1. 後発医薬品使用対策の現状
(1)国全体での目標値を掲げての後発医薬品使
用対策
までに、後発医薬品の使用割合を60%までに
するという目標値も盛り込まれていた。
ロードマップの公表後、後発医薬品の使用
割合は順調に伸びており、公表時点の平成25
ジェネリック医薬品とも呼ばれる後発医薬品
年4月の時点で53.8%だったものが、平成27年
は、我々が疾病の治療の際に使用する医療用医
2月の時点では58.2%となり、ロードマップの
薬品の中でも、治療効果を発揮する有効成分や
目標値は、早々に達成されることが見込まれる
使い方についての特許がきれた医薬品と同じ
状態となっている。これは、ロードマップにも
有効成分で、効き目や品質、安全性が同等であ
明記された関係者たちの努力の結果であると言
る医薬品である。研究開発や特許取得にかかる
えるが、国は規制改革等の流れの中で、後発医
コストが抑えられるため、後発医薬品は新規に
薬品についてのさらなる使用促進を求め、ロー
開発される新薬と比べ、低価格に設定されて
ドマップの時点よりも前倒しかつ高い目標とし
いる。
て、2015年の経済財政運営と改革の基本方針
そのため後発医薬品は医療費適正化の切り札
(骨太の方針)において、平成29年度央の時点
としての役割が期待され、近年国が中心とな
で70%以上、平成30 ~ 32年度の間に80%以上
り、使用促進に向けた取組みが展開されてき
が設定された。
た。平成19年10月に公表された「後発医薬品
の安心使用促進アクションプログラム」に続き、
(2)地域で異なる後発医薬品の使用割合
平成25年4月には「後発医薬品のさらなる使用
より高い目標値の達成を実現するには、後発
促進のためのロードマップ」
(以下「ロードマッ
医薬品メーカーによる増産をはじめとして供給
プ」という)が示され、国をはじめとした行政
側の努力が必要なことは言うまでもないが、後
機関・メーカー・卸・医療機関・薬局等が一丸
発医薬品を使用する側の体制や意識を変えてい
となって、使用促進に取組み、平成30年3月末
くことも一つの大きな要素となる。その際着目
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後発医薬品のさらなる使用促進のために ~後発医薬品使用促進に向けた地域での取組み~
すべきは、後発医薬品の使用割合は、地域に
よって大きな違いがあることである。平成27
年5月時点での国全体の後発医薬品の使用割合
2. 地域での後発医薬品使用対策
(1)都道府県レベルでの後発医薬品使用対策
は、58.8%であるものの、もっとも使用割合の
後発医薬品の使用に関して都道府県のレベル
高い県と低い県の間では20ポイント以上の差
で医師会、薬剤師会、保険者の代表者、有識者
が見られる。
等の関係者が集っての協議は、平成16年度に
このように、後発医薬品の使用状況について
富山県において「ジェネリック医薬品利用促進
は、地域ごとにそれぞれ事情も異なることか
研究会」が設置されたのが端緒となった。その
ら、厚生労働省は平成20年度より、後発医薬
後、いくつかの県で自発的に後発医薬品につい
品の使用に関し、都道府県単位で関係者を集め
ての協議会が設置、検討がなされていたが、平
た協議会を開催することを委託事業とし、地域
成20年度より厚生労働省が後発医薬品の使用
単位での取組みを促進してきた。こうした地域
促進に関する協議会の運営を都道府県への委託
単位での取組みは、全国一律での施策だけでは
事業としたことにより、協議会設置の動きは全
他人事となりがちなことを、地域の身近な関係
国各地に広がっていった。
者での議論により、自分事としてとらえる機会
関係者が集っての都道府県協議会は、必ずし
ともなり、具体的な取組みの実行にもつながる
も後発医薬品の使用に前向きではない関係者も
ものとなっている。そこで、本稿では、後発医
いたため、地域によってその名称は様々で、
「後
薬品の使用促進に大きな役割を果たすことが期
発医薬品適正使用」であったり、「後発医薬品
待される地域単位での取組みについて紹介する
安心利用」というようなものも用いられていた。
こととする。
そうした背景のもと、協議会では後発医薬品を
積極的に使用するための土壌を作るための議論
ばかりではなかったが、後発医薬品の使用促進
図表1
滋賀県後発医薬品採用マニュアル(滋賀県後発医薬品安心使用促進協議会)の抜粋
(資料)滋賀県ホームページ http://www.pref.shiga.lg.jp/e/imuyakumu/generic/files/100330manual.pdf
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に資する具体的な取組みに向けた議論を展開し
ざまであり、地域によって同じ有効成分ごとの
てきたところも多い。都道府県協議会による具
メーカー別の採用病院数や病院ごとの採用メー
体的取組みとして実行されてきたものとして
カー名が分かったりする。メーカー別の採用病
は、一般住民や医療機関関係者等を対象とした
院数が分かると、後発医薬品の採用を検討する
実態調査の実施、後発医薬品の使用促進のため
際に複数のメーカーの間で比較検討し採用する
の計画の策定や目標の設定、後発医薬品の採用
後発医薬品を選定する作業に十分な人員を割く
を判断するためのツール類(評価基準、採用マ
余裕のない規模の小さい医療機関や薬局にとっ
ニュアル、後発医薬品リスト等)の作成、啓発
ては、
「採用病院数が多い」=「ある程度使用実
資料(リーフレット・ポスター等)の作成・配布、
績が積み上げられている」≒「安心して使用でき
セミナー・シンポジウム・研修会の開催、地域
る後発医薬品である」という代替的な指標とし
協議会の開催が主なものとして挙げられる。
て参考にされる。さらに、地域の入院医療を担
上記の取組みのうち、後発医薬品の評価基準
う医療機関の院内採用薬と同じメーカーのもの
や採用マニュアルについては、それまで後発医
採用するということは、患者が退院して地域に
薬品の採用に積極的ではなった機関が、より安
戻った際に、同じ医薬品を使い続けることがで
心して使用できる後発医薬品を選ぶ際の手助け
きることになるため、地域の基幹病院等の採用
となるものとして、都道府県内の関係機関向け
後発医薬品に関する情報は、周辺の医療機関や
に発信されていた。
薬局にとっても参考になると思われる。その他、
また、多くの都道府県において、地域の実
一部地域では、卸業者の在庫情報をもとにリス
情を反映できる具体的なものとして作成されて
トを作成し、地域で流通している後発医薬品が
いるのが、後発医薬品の採用リストである。掲
分かるようになったり、リストに薬価(作成時
載されている情報の項目や単位、情報源はさま
点のもの)の情報も盛り込んでいる場合もある。
図表2
後発医薬品リストの情報源や掲載情報
都
道
リストの情報源
府
県
名
北海道 道内7モデル病院
岩手 県医療局
福島 県内中核16病院
県内19病院
栃木
県内薬局
埼玉 熊谷地域における卸業者
富山 県内25病院
長野 県内薬局
静岡 県内59医療機関
滋賀 県内45病院
兵庫 県内138病院、1572薬局
鳥取 県内45病院
岡山 県内23病院
広島 県内18病院
山口 県内18病院
香川 県内18病院
愛媛 県内55病院
高知 県内5病院
福岡 県内基幹12病院
佐賀 県内8病院
長崎 県内薬局
熊本 県内中核62病院
大分 県内基幹7病院
掲載内容
後発医薬品
名称
規格
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
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○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
薬価
○
○
先発医薬品
メーカー
名称
規格
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
薬価
メーカー
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
一般名
医薬品
コード
その他
採用病院名
○
○
○
薬効
分類
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
採用病院名
取扱・在庫あり薬局数
取扱卸業者名
販売会社名、採用病院名
後発医薬品への変更実績件数
採用医療機関数
採用病院数、採用薬局数
採用病院数
採用病院数、一部採用病院名
購入数量
採用病院数
採用病院数、一部採用病院名
採用病院数、名
地区別採用病院数
○
地区別採用病院数
採用病院数
(資料)各県ホームページより筆者作成
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後発医薬品のさらなる使用促進のために ~後発医薬品使用促進に向けた地域での取組み~
(2)より顔の見える地域レベルでの後発医薬品
使用対策の取組み
成する」というような具体的な作業が見えない
となかなか議論が進まない。そのため、福岡県
こうした県レベルでの取組みとあわせて、い
の各地区では、保険者(国保)が被保険者に対
くつかの県では、具体的な活動を進めるため
しての差額通知事業やジェネリック医薬品希望
に、より顔の見える関係性が築きやすい単位で
カードの配布を共同で行うことや、それぞれの
ある保健所管轄地域ほどの単位で協議会をつく
地区で多く使用される後発医薬品を選定し、地
る取組みが進められている。その中でも最も活
域において共同で備蓄しようという試みを進
発な取組みがなされているのが福岡県であり、
めてきた。
平成23年度より筑紫地区と飯塚地区で福岡県
その中の一例として挙げられるのが、後発医
ジェネリック医薬品使用促進協議会のモデル事
薬品の備蓄のための体制整備である。筑紫地
業として地域単位での協議をはじめ、各種取組
区、飯塚地区とも地域協議会のもとに備蓄体制
みを進めてきたことを皮切りに、北九州地区、
等検討委員会を設け、地域の基幹病院の薬剤部
福岡地区、八女筑後地区と県内の複数の地域に
と薬局の代表者がメンバーとなり、具体的な体
おいて地域協議会での検討を進めてきている。
制整備のための検討を行った。地域における後
ただし、単に医療機関、薬局、保険者等の代
発医薬品選定基準を作成・公表し、実際に地域
表者が集って単に後発医薬品の使用を促進す
において共同で備蓄する後発医薬品を選定、選
るべく議論する場を作っても、「汎用リストを作
定した後発医薬品を地域の基幹薬局に備蓄し、
図表3
筑紫・飯塚地区をモデル地区とした地域協議会
(資料)福岡県ホームページ http://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/life/106555_17822914_misc.pdf
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後発医薬品の融通を行った。また、地域で選定
え、その分を新薬の開発等、これまで治療する
した後発医薬品についてはそのリストをポス
ことができなかった分野で使用できるようにす
ターにもして、一般の患者も薬局で目にするこ
るということは必要不可欠なことである。そう
とができるようにした。
した一端を担うという考えのもと、各地域にお
3. まとめと考察
国全体として後発医薬品の使用促進をさらに
いて、地域の実情に応じた創意工夫を行いなが
ら、後発医薬品の使用促進に向けた具体的な取
組みを期待したい。
進めていくには、同時に薬価や診療報酬等、国
の医療保険政策も大きな影響を与えるものであ
本稿は、平成27年5月29日の行政改革推進会
る。事実、過去には何回も後発医薬品の使用割
議歳出改革ワーキンググループ重要課題検証サ
合を高めるべく、診療報酬等での誘導がなさ
ブ・グループで筆者が行った発表内容をもとに
れてきた。特に平成24年度の診療報酬改定で、
したものである。
医師が薬を処方する際、商品名ではなく成分名
(一般名)で処方する一般名処方に対し加算が
導入された際には、後発医薬品の使用割合が大
きく伸びた。また、平成26年度改定において、
DPC 病院(入院診療費を病気の種類と診療の内
容によって分類された DPC という区分に基づ
いてあらかじめ国が定めた1日当たりの定額部
分と出来高による部分とを組み合わせて計算す
る方式を採用している病院)の機能評価係数の
一つとして後発医薬品が盛り込まれたことによ
り、入院医療における後発医薬品の使用も進ん
だのではないかと考えられる。
こうした誘導策は即効性があり、目に見えて
使用が進むものではあるが、後発医薬品を使う
側の医師、薬剤師をはじめとした医療者、さら
にはエンドユーザーたる患者の意識を変えるに
は、マスコミ等を通じた普及啓発と並んで、地
域の顔の見える関係での地道な取組みが重要に
なると思われる。それには、国や県レベルで広
域での検討だけではなく、地域協議会のよう
な、ある程度狭い範囲で具体的な作業項目を設
定しながら、議論を繰り返していくという取組
みは、一定の効果があるものと思われる。
止めることのできない高齢化により医療費が
増え続ける中、効率化できる部分で医療費を抑
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わが国医療産業の海外展開のあり方に関する考察 ICT を活用した効果的で効率的な医療の輸出
社会動向レポート
わが国医療産業の海外展開のあり方に関する考察
ICTを活用した効果的で効率的な医療の輸出
社会政策コンサルティング部
コンサルタント
日諸
恵利
新興国の経済成長に伴い、医療機器の世界市場が進展している中、欧米トップメーカーの海外
展開戦略が高度化している。そこで、みずほ情報総研株式会社では、2015年度に、医療機器
メーカー、ICT 事業者、医療現場の有識者を招聘し、ICT を活用したわが国の新しい海外展開戦
略のあり方について検討した。また、検討結果については、輸出対象国となる新興国(ベトナム)
の有識者と意見交換を行い、有効性の検証を行った。
本稿は、それらの一連の取組みから得られた気づきをとりまとめたものである。
はじめに
成長戦略において、医療産業の海外輸出が
が強みを有する戦略のキーワードは「インフラ」
と「人材育成」である。
そこで、2014年度に、みずほ情報総研株式会
重要政策として掲げられているところである
社は、特にこの医療機器産業分野を中心として、
が、「医療産業」は大きく分けて医薬品、医療
欧米諸国の有力プレイヤーとも対等に戦えるよ
機器、サービスに分けられると考える。このう
うな、わが国医療産業の海外展開のあり方を検
ち、サービスについては、わが国では、近年本
討すべく、みずほ銀行産業調査部との共同事
格的に輸出産業としての取組みが始まったばか
業として、医療機器メーカー、医療現場、医療
りである。一方、医薬品市場は既に成熟期にあ
ICT 事業者といった関連する様々な主体から有
り、世界市場規模が約100兆円、医薬品売上高
識者を招聘し、検討会を実施した。また、検討
世界トップ20に国内製薬企業が 3 社、トップ50
会におけるとりまとめ結果は、輸出対象国候補
までに10社がランクインしている状況である。
のひとつであるベトナムにおいて、有識者にア
次に、医療機器市場は現在急速に成長している
イディアの有効性に関する意見交換を行った。
市場であり、世界市場は約33兆円、市場成長
本稿は、それらの一連の取組みから得られた
率は5.3%(2010 ~ 2014年)となっているもの
の、医療機器売上高世界トップ20には、最下
位に 1 社がランクインするのみとなっている。
ここで、ものづくりに強みを持ち、高度な微
気づきをとりまとめたものである。
1. 新興国の現状
(1)経済成長とともに進展する医療水準
細加工技術や豊富な素材という強みを有する日
医療水準は、経済成長とともに進展する。
本が、医療機器市場で欧米諸国のプレイヤーに
具体的には、一人あたり GDP が高い国ほど、
劣後するのはなぜかという疑問が浮かぶ。その
GDP における医療費支出割合は高くなる傾向
答えは、「戦略」の差にある。中でも欧米企業
がある。ちなみに、下図において、低所得国
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の GDP における医療費支出割合は高くなって
定化している中で、上記のような新興国市場獲
いるが、これば ODA 支援等によるものである
得に対する戦略が求められている。
と考えられる。また、高所得国のうち、OECD
加盟国以外の国としては中東産油国などが挙げ
られる。
今後、さらなる経済成長が期待される新興国
は、医療機器市場の拡大が見込まれる。
(3)社会保障に対する選択肢
社会保障モデルには、一般的に「高福祉・低
福祉」と「高負担・低負担」という軸があり、
北欧を代表とした高福祉・高負担モデル、アメ
リカを代表とした低福祉・低負担モデルの国に
(2)医療機器市場の急速な拡大
2013年現在、地域別の医療機器市場規模は、
アメリカ州が最も多く約16兆円となっており、
分けられる。日本は、中福祉・低負担モデルと
言われている。
高福祉・高負担モデルは、高齢化の進展にと
次いで西ヨーロッパ約9.3兆円、アジア太平洋
もない、政府の財政負担の増加という深刻な課
州約7.5兆円となっている。しかし、今後の医
題に直面している。一方、低福祉・低負担モデ
療機器市場の成長エンジンは新興国に移行して
ルは、所得格差が即医療格差につながり、かつ
いくことが予想されており、当社の試算では、
診療報酬制度のような価格統制の仕組みがない
2030年までに、中東・アフリカで現在の市場
ため、医療サービスの価格が青天上的に高騰す
規模の約9.4倍の約8.3兆円、アジア太平洋州で
るリクスをはらんでいる。
現在の市場規模の約3.7倍の約27.2兆円に達す
る見込みである。
今後、わが国医療機器メーカーの世界市場獲
得にあたっては、既に先進国市場の勢力図が固
図表1
上記のように、先進国の間でも絶対的な正解
を見出せずにいる中で、新興国は、経済成長に
ともない今後、どのような社会保障モデルを採
用するのか悩ましいところである。ちなみに、
対 GDP 比の医療費割合
(資料)World Bank(2013時点データ)よりみずほ情報総研作成
42
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わが国医療産業の海外展開のあり方に関する考察 ICT を活用した効果的で効率的な医療の輸出
インドネシアやベトナムといった ASEAN 諸国
ており、これらの問題を解決するためには、医
では、国民皆保険を目指し、高福祉国への道を
療の効率化が不可避となっている。
目指す動きが見られているところである。
2. わが国の医療の特色と課題
(1)日本の医療の強み
医療の効率化としては、
「医療の機能分化」
「経
営管理の合理化」「政策決定の合理化」が挙げ
られると考える。
「医療の機能分化」については、現在、政府
わが国の医療の強みとしては「コストパフォ
でも医療と介護の分離、病床機能報告制度や地
ーマンスの高さ」が挙げられると考える。具体
域医療計画の策定、在宅医療の推進といった取
的には、わが国の健康水準は世界的に見ても突
組みが実施され、各地域で偏りなく必要な医療
出して高い一方、医療費(対 GDP 比)は、アメ
が受けられ、かつ病院ごとに機能分化の上、連
リカやドイツ、フランスといった先進諸国より
携することで医療インフラの効率性を高める試
も低い水準に抑えられている。これは、国民皆
みがなされている。
保険制度を前提とした医療へのアクセシビリテ
「経営管理の合理化」としては、従来、他業
ィの高さ、医師を筆頭とする医療従事者の質の
種と比較して圧倒的に ICT 化が進んでおらず、
高さ、健診を含む生活習慣改善支援の仕組みと
かつ戦略的な IT 投資もなされてこなかった医
いった背景があると考える。
療現場において、医療情報の電子化による情報
蓄積・利活用、現場オペレーションの効率化と
(2)日本の医療の課題
いった工夫が求められている。
日本の医療の課題としては、急速な高齢化に
「政策決定の合理化」としては、現在、政府
伴う医療需要の急増が挙げられる。それにより、
の動きとして、限りある財源の中、医療経済的
医療財政の逼迫、インフラの不足(地方格差、
な観点から、医療保険の保障範囲の選択に費用
療養や救急といった特定の病院機能の不足、特
対効果の考え方を導入するといった動きが見ら
定診療科の人材不足等)といった問題が発生し
れている。
図表2
各国の医療費と健康水準
(資料)OECD Health Data 2015、World Health Statistics 2015よりみずほ情報総研作成
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また、医療の効率化に関する大きな政府動向
としては「次世代医療 ICT 基盤協議会」が挙げ
られる。「次世代医療 ICT 基盤協議会」は、
「次
3. 医療機器産業の海外進出における課題
(1)日本の医療機器産業の強みと弱み
世代医療 ICT タクスフォース」を前身とし、平
日本の医療機器産業は、高度な微細加工技術
成27 年4月に健康・医療戦略推進本部に設置さ
と豊富な素材を有し、特に診断系機器に強みを
れた協議体である。当該協議会では、ICT とい
有している。一方、わが国の治療系機器は輸入
う切り口から、臨床現場の徹底的かつ戦略的な
超過であるが、市場成長は治療機器分野の方が
デジタル化及び生成デジタルデータの戦略的利
大きいという課題がある。また、弱みとしては、
活用を行うことで、より高度で効率的な次世代
現地化カスタマイズ(ex. Reverse Innovation)
医療を実現することを目的とし、各種テーマ別
といった現地ニーズへの対応が不十分であるこ
WG に分かれて議論がなされている。具体的な
と、世界トップ企業の事業規模や資金力を活か
テーマとしては、健康・医療分野における ICT
した周辺サービス(ex. 機器購入にあたっての
化に係る基盤整備(次世代医療機器や病院シス
資金調達サポート、現地拠点をベースとした自
テムの研究開発・実用化を推進を含む)、電子
社によるメンテナンスサポート、経営コンサル
処方箋の実現、医療情報連携ネットワークの普
ティング等)に比べると、わが国医療機器メー
及促進、地域包括ケアに関わる多様な主体の情
カーのサービスには制約があることといった点
報共有・連携の推進等、革新的医薬品開発に資
が挙げられる。
するシミュレーション技術の更なる高度化等が
挙げられている。
今後、特に重要となる戦略としては「医療イ
ンフラ構築へのコミット」と「人材育成」が挙
げられる。現地化カスタマイズや病院コンサル
ティング等のサービスを提供可能にする医療現
図表3
日本の医療機器産業の SWOT
(資料)各種資料よりみずほ情報総研作成
44
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わが国医療産業の海外展開のあり方に関する考察 ICT を活用した効果的で効率的な医療の輸出
図表4
欧米有力プレイヤーの戦略
(資料)各社 IR 情報等よりみずほ情報総研作成
場に立脚した情報収集を行うためには、医療イ
カーの取組みは、機器売りや小規模なサービス
ンフラ構築へのコミットを深める必要がある。
提供といった「点」での販売戦略に留まってい
また、日本製品のユーザーやメンテナンス人材
ると言わざるを得ない。
を増やすための人材育成といった取組みも必要
になると考える。
上記をふまえ、わが国医療機器メーカーは、
新興国市場獲得に向けて、ALL JAPAN 体制も
視野に入れた新たな戦略が求められる時期に来
(2)海外有力企業の成長戦略
欧米諸国のトッププレイヤーの戦略として
は、資本規模の違いや薬事規制上の強み等と
いった差はあれど、まさに上記で日本の課題と
ていると考える。
4. 検討会としての提言
冒頭にご紹介したとおり、みずほ情報総研株
して挙げた「医療インフラ構築へのコミット」
式会社では、みずほ銀行産業調査部との共同事
と「人材育成」に力を入れているという点に特
業として、医療機器メーカー、医療現場、医療
徴がある。「医療インフラ構築へのコミット」
ICT 事業者といった医療産業輸出に関連する
としては、新興国に対して、医療機器メーカー
様々な主体から有識者を招聘し、特に「医療イ
が医療保健分野の政策レベルから関与し、政策
ンフラ構築へのコミット」と「人材育成」とい
目標達成のための支援や、官営企業とのパート
う観点を中心として、海外展開のあり方に関す
ナーシップによる課題解決へのコミットを行う
る検討会を実施した。とりまとめ内容は、以下
ことで、その後の展開につなげている。また、
「人
のとおりである。
材育成」としては、保健省と連携して大規模な
研修コースを提供したり、現地医師の留学支援
等を行うことで自社製品のユーザー層を増やす
ことにつなげている。このような、時に大規模
投資を伴う現地医療への入り込みを通じて、新
興国における市場規模を伸ばしている欧米プラ
イヤーに対し、相対的に、わが国の医療機器メー
(1)問題意識
検討会を実施する上での問題意識は、下記の
通りである。
□輸出戦略を検討するにあっては、成長著し
い新興国市場をターゲットとする。
□新興国市場への医療輸出を行うにあたって
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は、日本の医療の強みを活かしつつ、輸出
そこで、具体策として、医療現場における
対象国の現地事情をふまえ、現地の課題解
①「次世代診療支援システム」、② IoT 化され
決に資するソリューションを提供すること
た医療機器、③ それらを支える基盤データプ
が重要である。
ラットフォームの導入という 3 点が有効である
□日本の医療の強みは、医療人材の質の高さ
や医療現場のオペレーションを基盤とした
と考えた。
①「次世代診療支援システム」とは、わが国
「コストパフォーマンスの高さ」にあるが、
及び現地の熟練医師の診療におけるノウハウを
輸出戦略を再考するにあたっては、「次世
デジタル化し、新興国における医療現場の診療
代医療 ICT 基盤協議会」で議論が進めら
スピードや診療精度の向上を図るためのシステ
れているような、ICT を通じてよりいっそ
ムである。② IoT 化された医療機器は、
検査デー
うの高度化と効率化が図られた日本式医療
タを直ちに送信するなど、診療支援システムを
モデルが国際競争力を有すると考える。
円滑に稼動させるにあたって必須となる。③ 基
盤データプラットフォームは、新興国でも導入
(2)日本式医療が世界展開を進めるためのパッ
ケージ
日本の医療産業輸出を通じ、新興国における
課題解決に積極的にコミットすることで市場獲
及び維持管理が可能な低コストモデルであるこ
とを前提に、医療情報を扱うにあたっての標準
化やセキュリティ等への対応も備えた基盤を提
供することが必要である。
得を目指す戦略としては、医療インフラにおけ
るオペレーションの効率化支援、効果的な人材
育成・人材供給支援ツール提供を強みとした
パッケージ輸出が効果的であると考えた。
図表5
(3)パッケージにより実現できること
診療支援システム、IoT の医療機器、基盤デー
タプラットフォームの 3 点により実現できるこ
ASEAN 諸国の医療費
(資料)WHO World Health Statistics 2014、IMF 資料よりみずほ情報総研㈱作成
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わが国医療産業の海外展開のあり方に関する考察 ICT を活用した効果的で効率的な医療の輸出
図表6
ASEAN 諸国の医療インフラ
(資料)WHO World Health Statistics 2014よりみずほ情報総研㈱作成
図表7
(1)
ASEAN 諸国の病院内訳
(1)CL =クリニック
(資料)・ インドネシア、マレーシア、フィリピン:「2013年海外情勢報告」(厚生労働省)
・シンガポール: Yearbook of Statistics Singapore, 2014
「平成25年度新興国マクロヘルスデータ、規制・制度に関する調査」
(経産省)
・タイ:Statistical Yearbook Thailand 2013 、
・ ベトナム: Statistic Yearbook of Vietnam 2013
ととしては、「医療インフラ整備」「人材育成・
機関における熟練医師のノウハウ共通を通じた
人材供給」に加え「現地医療の高度化」が挙げ
高度な医療サービスの提供といった効果が期待
られると考える。
できる。また、診療技術そのものだけではなく、
「医療インフラ整備」としては、パッケージの
同時にオペレーションの変革を支援することで、
導入により、医療サービスが十分に供給できて
日本が強みを有する効率的な現場運営のノウハ
いない地域におけるコメディカル等の活用を通
ウを現地医療現場に提供できると考える。
じたプライマリな医療サービスの提供や、医療
「人材育成・人材供給」としては、マンツーマ
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図表8
2016
ベトナムの医療インフラの階層構造
(資料)「ベトナム国における保健医療の現状」国際医療研究センター よりみずほ情報総研作成
ンの人材育成では量的・時間的な限界がある部
分について、一部、次世代診療支援システムを
(1)ベトナムの概要
ベトナムは、GDP は1853.5億ドル(2014年)
含むパッケージを活用することで、より効率的
とまだ低いものの、政府発表によれば、2015年
な人材育成及び人材供給が可能になると考える。
の成長率は6.68%(推定値)で過去 5 年間で最
「医療の高度化」としては、次世代診療支援
高の伸びとなるなど、今後の経済成長が期待さ
システムを通じて、一定程度標準化された医療
れる。また、人口規模も89,708.9千人と比較的
情報が基盤プラットフォームに蓄積されること
大きく、短気予測でも2019年には95,473千人
で、医学研究の促進や、治療の最適化などが可
に達することが予想されている。
能になると考える。
政治体制は社会主義であるが、市場の対外開
これらは、現時点で医療インフラが脆弱な新
放を方針とするドイモイ政策をとり、外資の受
興国でこそより魅力的なコンテンツとなりうる
け入れには積極的で、医療分野でも、税制優遇
ことが期待され、また、
「日本式医療」をパッケー
を行っている。対日関係も友好であることから、
ジとして展開する新たな戦略となりうるのでは
次の市場として期待の高い国となっている。
ないだろうか。
5. ベトナムの医療の現状と課題
(2)ベトナムの医療制度
総医療費の対 GDP 比は ASEAN の主要国の
みずほ情報総研株式会社では、上記の提案の
中で最も高く、医療分野に対する投資意識は高
有効性を確認すべく、2014年度に、日本式医
いと考えられる。また、医師数や病床数といっ
療の輸出対象国候補であるベトナムの有識者と
たインフラについても、マレーシアと同程度と
の意見交換を行った。
なっている。ただし、医療機関は公立がほとん
どであり、私立医療機関はまだ少ない。このこ
とから、ベトナムは、最低限の医療水準は確保
48
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わが国医療産業の海外展開のあり方に関する考察 ICT を活用した効果的で効率的な医療の輸出
されつつ、今後、医療インフラの高度化が求め
てでも直接上位の医療機関を訪れる患者が増加
られるフェーズにあるのではないかと考えられる。
している状況である。
また、ベトナムの医療は下記のような階層構
造になっている。一次医療施設では、プライマ
ベトナム保険制度の、日本の保険制度との比
較した際の違いは、下記の通りである。
リーケア(軽症治療、分娩、栄養教育など)を
提供している。保険診療として扱われるために
(3)ベトナムの医療における課題
は、下位の医療機関から順に上位医療機関に進
ベトナムの医療における大きな課題として
むという、地域ごとに管轄医療機関が定まるレ
は、上述の一次医療施設の信頼の低さによる、
ファラルシステムに従う必要があるが、下位の
上位医療インフラの逼迫状態が挙げられる。
医療機関への信頼が低いため、保険外診療とし
図表9
ベトナム現地からの情報によれば、一次医療
ベトナムと日本の保険制度比較
項目
医療
保険
制度
日本
基本思想
骨格
患者のアクセス
拠出方式
適用医療機関
財政維持手段
保険料算定
保険適用対象
薬剤の
保険適用範囲
請求業務
支払方式
運用
実態
ベトナム
・皆保険を目指している
(2020 年に公的
医療保険加入率 80%を目標とする)
・国民皆保険
・強制保険対象者と任意保険対象者が
・フリーアクセス
混在している
・所得再分配方式
・所得再分配方式
・フリーアクセス
・レファラルシステム
・税方式・社会保険方式の混合(被保
・社会保険方式
険者カテゴリにより異なる)
・すべて
・一部(2012 年時点で約 2 割)
・現在は保険料の引き上げが中心。今
・保険料引き上げが中心
後は税負担を増やす。
・所得額もしくは最低賃金に応じた定
・所得額に応じた定率算定
率算定
・被用者・雇用者で負担を按分
・被用者・雇用者で負担を按分
・(強制加入)被用者/社会保障受給者/
子供/学生等
・国民全体
・(任意加入)被用者の被扶養者 / 農業
従事者/自営業者/組合員
・ほぼ全ての薬剤
・基本的な薬剤が対象
・医療機関が実施
・社会保障機関が実施
・出来高払い(主に中央病院、省病院)
・出来高払い、包括払い(DPC) ・人頭払い(主にCHC。県病院に適
用される可能性も)
保険単位
・世帯単位/個人単位
高額医療費
・高額療養費制度により、本人 ・保険支払に上限。最低月額給与の40
か月分を超えた分は自己負担となる
負担額が制限されている
制度の実効性
・あり
・審査制度及び制度の周知によ
り標準化されている
・病院情報システム(電子カル
テシステム、医事会計システム
など)
医療情報システム
・保険者業務に携わるシステム、
の活用
保険者業務に関するシステム
・審査支払に関するシステム
・地域医療連携システム など
標準化情報
・世帯単位
・強制加入対象者の未加入など、実態
とは乖離もみられる
・制度周知や審査制度等により標準化
・医療情報システムは未整備
※外資系病院等での活用、日本の
ODA活用
(実証実験段階)など
(資料)各種資料よりみずほ情報総研作成
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施設は閉まっていることも多く、医療機関の入
相決定において、(1)公的保険率を2015年まで
り口に、その一次医療施設に配属されている医
にベトナム国民の70%、2020年までに80%以
師が経営している個人クリニックへ患者の斡旋
上とすること、という目標が掲げられているが、
を行う看板が掲げられているようなケースもあ
上述のように、保険診療として扱われるために
るという。
は、下位の医療機関から順に上位医療機関に進
ベトナムにおける一次医療施設がうまく機能
むというレファラルシステムに従う必要がある
していない理由としては、上位の医療機関の医
ため、実際には保険を使わずに医療サービスを
療費請求の仕組みが出来高払いとなっているの
受ける国民も多く、一次医療施設のレベルの低
に対し、一次医療施設の医療費請求システムが
さが保険加入率向上の妨げにもなっている。
地域の人口によって医療費が割り当てられる
「人頭割り」となっているため、“サービスは提
6 . ベトナムにおける日本 式 医 療 の展 開
~ベトナム有 識 者の反 応~
供すればするほど損になる”という構造になっ
(1)ベトナム医療の改善策としてのパッケージ
ていることが起因しているのではないかと考え
る。一次医療施設の提供する医療サービスの水
の評価
上記のような課題をふまえ、ベトナム有識者
準を向上させるためには、一次医療施設にも、
に対し、現状として、上位医療機関に患者が殺
「出来高払い」の仕組みを導入する必要があり、
到し慢性的な逼迫状態が続いていることから、
その下地として、医療現場において診療情報を
病床が不足しているという状況に対し、新たに
記録し、適切に把握できる仕組みを導入する必
上位医療機関の増設をするという対症療法的な
要があるであろう(
「人頭割り」では、診療行
打ち手になっているという問題点を指摘した。
為に基づく請求の要請がないため、診療がまと
その方法では、人材育成スピードはハードの建
もに行われず、当然診療情報もまともに記録さ
設スピードに必ずしも対応しない上、政府の医
れていない)。
療費負担も上がってしまう。そこで、医療イン
また、ベトナムで、2013年に発令された首
図表10
フラの整備のあり方の一例として、下記のアイ
提案内容
(資料)みずほ情報総研作成
50
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わが国医療産業の海外展開のあり方に関する考察 ICT を活用した効果的で効率的な医療の輸出
ディアを提示した。
的には、問診段階の患者情報を把握できれば、
具体的には、一次医療施設において適切な診
医療機関を訪れる患者の個人データやその症状
療行為が行われ、軽症患者のスクリーニングが
等の統計データを正確に収集することができる
行われる仕組みを提供する必要があると考え
と考える。その後、段階的に検査データや処方
た。そこで、一次医療施設の診療に対するイン
等に関する情報項目を増やしていくことで、診
センティブ付けは別途政策的に行うとして、医
療行為における全プロセスの ICT 化及び医療
師の診療レベルに関しては、プライマリケアの
情報の収集・利活用が可能になると考える。
診療支援を行う次世代診療支援システムパッ
これらの取組みを通じて、将来的には、医療
ケージを導入することで、患者の信頼性を向上
の ICT 化を通じた世界的な Universal Health
することができるのではないかと考えた。これ
Coverage の実現と新たな医療産業モデルの創
により、上位医療機関は本来の二次医療・三次
出・展開を目指すことができれば幸いである。
医療を必要としている患者の診療に集中するこ
とができ、上位医療機関のハードへの過剰投資
をせずとも、適切な医療インフラ整備が行える
可能性がある。
7. 今後の方向性
一次医療施設に次世代診療支援システムパッ
ケージを導入することは、患者スクリーニング
だけでなく、医療現場における診療情報を正確
に捕捉する仕組みを提供することにも寄与する
と考える。
具体的には、次世代診療支援システムパッ
ケージから得られる標準化された診療情報を通
じて、医療現場の診療行為及び実績をシステム
的に把握することができるようになれば、請求
業務が飛躍的に簡便になるため、国全体の仕組
みとして出来高払い制を導入し、結果的に国民
の保険加入率向上にもつなげてていくことがで
きるのではないだろうか。
そこで、我々は次世代診療支援システムパッ
ケージの現場導入にあたり、2015年度は、デ
モシステムのユーザビリティ評価を行うことと
した。特に、問診、画像診断、臨床検査、治療
という診療行為の一連のプロセスのうち、患者
との最初の接点となる「問診」の部分における
システム導入が重要になると考えている。具体
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2016
社会動向レポート
未就学児を中心とした子どもの情報通信端末の利用実態と効果
~保護者の意識調査の結果から~
経営・IT コンサルティング部
コンサルタント
岡松
さやか
弊社では、総務省の委託を受け、0 ~ 6歳児の未就学児と小学生の保護者を対象に情報通信端
末の利用状況や保護者の意識の把握を目的とした調査を実施した。本稿では、当該調査の結果か
ら分析と考察を行う。
はじめに
スマートフォンやタブレット端末といった操作
が容易な端末の普及や、低年齢の子どもを対象
~ 3年生の長子を有する保護者、第 2 子以降を
有する保護者で100名ずつ、小学4 ~ 6年生の
長子を有する保護者、第 2 子以降を有する保護
者で100名ずつを回収した)。
としたアプリケーション
(以下、アプリ)の登場
本調査では、子どもの ICT 端末の利用状況
により、近年、0 ~ 6 歳児(以下、未就学児)が
を明らかにするため、事前にスクリーニング調
情報通信端末(以下、ICT 端末)に触れる機会
査を実施し、スマートフォン、タブレット端末、
が急速に拡大している。保護者は子どもに教育
ノートパソコン、デスクトップパソコン、携帯
や遊び等の目的に応じて端末を使用させてい
電話・PHS の中で少なくとも一つ以上を子ど
ると考えられるが、その現状は明らかになって
もに利用させたことのある保護者を対象とし
いない。そこで、総務省 情報通信政策研究所
た。なお、ICT 端末の利用には、子どもが自発
では、「未就学児の ICT 利活用に係る保護者の
的に利用する以外にも、保護者が子どもに見せ
意識に関する調査」を実施し、未就学児を中心
たり、使わせている場合も含まれる。
とした子どもの ICT 端末やアプリの利用状況、
ICT 端末を利用することの効果等についての調
査を実施した。本稿では、総務省から委託を受
けて実施したアンケート結果の分析と考察を
(1)
行う
。
1. 調査方法
2. 調査結果
(1)ICT 端末利用率
~ 4 ~ 6歳児の4割以上が ICT 端末を利用 ~
調査対象者を選定するスクリーニング調査
(回答数:15,806)の結果から、対象年齢の子
どものいる保護者に対して、スマートフォン、
2015年3月に0 ~ 6歳児の未就学児の保護者
タブレット端末、ノートパソコン、デスクトッ
1,350名を対象に、ウェブアンケート調査を実
プパソコン、携帯電話・PHS を少なくとも一
施した(図表 1 )。また、未就学児の結果と比
つ以上利用させたことがあると回答した保護者
較することを目的に、小学1 ~ 6年生の保護者
の割合を示した結果を図表 2 に示す(本稿では、
400名にウェブアンケートを実施した(小学 1
この割合を「ICT 端末利用率」と呼ぶ)。この
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未就学児を中心とした子どもの情報通信端末の利用実態と効果 ~保護者の意識調査の結果から~
結果によると、0 ~ 1歳児は10%程度、2 ~ 3
長子よりも第 2 子以降の方が高い結果となった
歳児は30%程度、4 ~ 6歳児は40%程度である。
(図表 3 )。この傾向は未就学児において年齢が
なお、小学生の結果を見ると、小学1 ~ 3年生
低い方が顕著に現れており、1 歳児では第2子
は51.8%、4 ~ 6年生は68.7%であった。
以降の利用率が長子の約 2 倍、0 歳児では第 2
本調査では、同一年齢の長子、第 2 子以降で
子以降の利用率は長子の約 5 倍である。小学生
結果が比較できるよう調査対象者を抽出した。
においても長子よりも第 2 子以降の ICT 端末利
同一年齢で ICT 端末利用率を比較したところ、
用率が高い傾向が見られた。
図表1
回答者の構成(名)
(資料)総務省 情報通信政策研究所「未就学児等の ICT 利活用に係る保護者の意識に関する調査」(2015)よりみずほ情報
総研作成
生
小
学
4〜
6年
生
児
6歳
学
1〜
3年
小
児
5歳
児
4歳
児
3歳
児
2歳
1歳
0歳
児
未就学児の ICT 端末利用率
児
図表2
(資料)総務省 情報通信政策研究所(2015)「未就学児等の ICT 利活用に係る保護者の意識に関する調査」より転載
図表3
長子・第2子以降別に見た ICT 端末利用率(%)
(資料)総務省 情報通信政策研究所「未就学児等の ICT 利活用に係る保護者の意識に関する調査」(2015)よりみずほ情報
総研作成
53
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vol.11
2016
(2)ICT 端末・アプリ等の利用状況
英語、歌等)へ興味/関心が高まった」
「知りた
~ 3歳児以下の68.5%がスマートフォンを利用、
い情報を探したり、検索することができるよう
年齢が上がるにつれて端末の種類は多様化 ~
になった」
「もっといろいろなことを知りたがる
本調査の対象となった子どもが利用している
ようになった」といった学習に関連する効果に
ICT 端末を見ると、0 ~3歳児は68.5%がスマー
ついて一つ以上回答した保護者の割合を見ると、
トフォンを利用しているが、年齢が上がるほど
0 ~3歳児は34.8%、4 ~6歳児は45.8%、小学1
(2)
その利用率は下がり、ゲーム端末
、パソコン
等他の端末の利用率が上がる傾向が見られた。
~ 3 年生は48.5%、小学4 ~ 6年生は57.0%と年
齢が上がるにつれてその割合が上昇した。
小学生はゲーム端末の利用率が高く 7 割程度と
未就学児のときに ICT 端末を使っていた、現
なった(図表 4 /以下、未就学児の結果は0 ~ 3
在小学生の保護者を対象にした調査の結果をみ
歳児と4 ~ 6歳児のカテゴリ別に示す)
。
ると、「未就学児のときに、ICT 端末を使った
子どもが利用している ICT 端末の種類の数
楽しい経験を覚えている」に、あてはまるとい
を見ると、0 ~ 3歳児の80.2%が 1~ 2種類の端
う回答した割合は34.7%である(図表8)。「未
末を利用しているのに対し、小学生では 6 割程
就学児のときに ICT 端末を触っていたので、
度が2 ~ 3種類の端末を利用している(図表 5 )。
現在、端末の操作につまづくことはない」は、
この結果より、年齢が上がるにつれて利用率が
あてはまるという回答の割合は37.0%である
低下する端末も見られるが、未就学児から小学
(図表 9 )。
生へと子どもの年齢が上がるにつれ、利用端末
の種類が増え、ICT 端末の利用が多様化してい
ると読み取れる。
(4)ICT 端末利用の際のルールと習得方法
~ 4 ~ 6歳児の34.7%が自発的に操作方法を取得 ~
利用している ICT 端末の機能やアプリとし
ICT 端末の利用にあたって、保護者と子ども
て、未就学児の65%以上が動画閲覧機能を利
で取り決めている約束事の有無を見ると、4歳
用している。次いで写真閲覧機能の利用が多く
児以上の約8割、0 ~ 3歳児の約6割は、子ども
5 ~ 6割で、知育アプリは0 ~ 3歳児の39.6%、
の ICT 端末の利用にあたって、何らかの約束
4 ~ 6歳児の36.7%が利用している(図表 6 )。
事を決めている。約束事の内容としては利用時
ゲームは、4 ~ 6歳児の43.2%が利用しており、
間や利用内容に関するものが多く、4 ~ 6歳児
小学生の利用率はさらに上昇する。小学生では、
の49.5%が利用時間に関する約束を定めている
インターネット検索機能の利用割合が高く、小
学4 ~ 6年生で39.0%が利用している。
(図表10)。
子どもが ICT 端末を使いこなす能力を習得す
るための保護者の取組の結果を見ると、4 ~ 6 歳
(3)ICT 端末を利用することの効果
児の保護者の34.7%は「特に取り組んでいない
~ 年齢が上がるにつれて保護者は学習効果を実感 ~
が、ICT 端末の操作を自発的に取得している」と
ICT端末を利用する効果として、0 ~ 3歳児の
回答した
(図表11)
。4 ~6 歳児の保護者の52.0%
保護者の半数以上は、
「保護者の手を煩わせない
が子どもに ICT 端末を使いこなす能力を身に付
時間ができたこと」や「子どもの機嫌がよくなっ
けさせるために指導・注意を行っている。小学
たこと」を挙げた(図表7)
。また、
「学習ができ
生においても、6 割程度の保護者が指導・注意
た」
「アプリで取り扱っている対象(文字、数字、
を行っている。
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未就学児を中心とした子どもの情報通信端末の利用実態と効果 ~保護者の意識調査の結果から~
図表4
利用している ICT 端末の種類
(資料)岡松さやか(みずほ情報総研株式会社)・安藤満佐子((前)総務省 情報通信政策研究所)「未就学児の ICT 利活用に
係る保護者の意識調査の結果から-未就学児の情報通信端末の利用実態と効果-」(2015)よりみずほ情報総研作成
図表5
利用している ICT 端末の種類の数
(資料)総務省 情報通信政策研究所「未就学児等の ICT 利活用に係る保護者の意識に関する調査」(2015)より転載
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vol.11
図表6
2016
利用しているアプリや機能(%)
(資料)総務省 情報通信政策研究所「未就学児等の ICT 利活用に係る保護者の意識に関する調査」(2015)よりみずほ情報
総研作成
図表7
端末やアプリに触れることの効果(%)
※本調査における学習に関連する効果の項目
(資料)総務省 情報通信政策研究所「未就学児等の ICT 利活用に係る保護者の意識に関する調査」(2015)よりみずほ情報
総研作成
56
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未就学児を中心とした子どもの情報通信端末の利用実態と効果 ~保護者の意識調査の結果から~
図表8 「幼少期に ICT 端末を使った楽しい経験を現在も覚えている」という評価
(資料)総務省 情報通信政策研究所「未就学児等の ICT 利活用に係る保護者の意識に関する調査」(2015)より転載
図表9 「幼少期に ICT 端末に触っていたので、操作でつまずくことはない」という評価
(資料)総務省 情報通信政策研究所「未就学児等の ICT 利活用に係る保護者の意識に関する調査」(2015)より転載
3. 考察と今後の課題
本調査では、これまでほとんど明らかになっ
ていなかった未就学児の ICT 端末やアプリの
子どもが使う ICT 端末の数(種類の数)は増え
ていく傾向が見られたが、今後、子どもが利用
する端末や機能・アプリは、より一層多様化し
ていくと考えられる。
利用実態や効果等を明らかにした。国内のス
本調査の結果から ICT 端末に触れることの
マートフォンの世帯普及率は、2010年末は1割
効果として、未就学児においては特に、あやす
程度であったが、2013年末に5割を超えた。現
ための道具としての効果を実感している保護
在小学生の子どもが未就学児の時期と比較し
者の実態が明らかになった。また、「保護者の
て、今の未就学児が触れる端末は多様化してい
手を煩わせない」「子どもの機嫌が良くなる」
る。本調査の結果から年齢が上がるにつれて、
という効果を感じている0 ~ 3歳児の保護者の
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vol.11
図表10
2016
利用の際に取り決めている約束事(%)
(資料)総務省 情報通信政策研究所「未就学児等の ICT 利活用に係る保護者の意識に関する調査」(2015)よりみずほ情報
総研作成
図表11
ICT 端末を使いこなす能力を習得するための取組状況
(資料)岡松さやか(みずほ情報総研株式会社)・安藤満佐子((前)総務省 情報通信政策研究所)「未就学児の ICT 利活用に
係る保護者の意識調査の結果から-未就学児の情報通信端末の利用実態と効果-」(2015)よりみずほ情報総研作成
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未就学児を中心とした子どもの情報通信端末の利用実態と効果 ~保護者の意識調査の結果から~
20%が「ICT 端末におもりをさせていることに
罪悪感がある」と回答した(0 ~ 3歳児の保護
者全体で見ると18.1%が「罪悪感がある」と回
答)
。保護者の都合による利用は保護者の罪悪
感を生む可能性が指摘される。保護者が感じる
罪悪感を直接的に緩和させる措置も必要ではあ
るが、ICT 端末に触れることによって子ども自
身に何らかの効果を生むことを保護者が実感で
きるようになればこの種の不安は軽減されるの
ではないかと考えられる。子どもが ICT 端末
に触れることの効果を解明し広く共有していく
ことは、今後の未就学児の ICT 利用の普及の
ポイントのひとつとなると考えられる。
(2)
に加筆して作成している。
スクリーニング調査では、スマートフォン、タブ
レット端末、ノートパソコン、デスクトップパソ
コン、携帯電話・PHS、ゲーム端末、音楽プレー
ヤーの利用状況について複数回答可として調査を
行った。
(1)の ICT 端末利用率は、この結果から、
スマートフォン、
タブレット端末、
ノートパソコン、
デスクトップパソコン、携帯電話・PHS のいずれ
か一つ以上を利用している回答者数をもとに算出
している。
参考文献
1. 総務省「情報通信政策研究所「子どもの ICT 利活
用能力に係る保護者の意識に関する調査」(2014)
2. 総務省「情報通信政策研究所「未就学児等の ICT
利活用に係る保護者の意識に関する調査」(2015)
3. 総務省「通信利用動向調査」
(2013)
また、一定数の保護者が未就学児と約束事を
取り決めた上で ICT 端末を利用させているが、
その一方では、未就学児の3割程度は特に教え
ることなく ICT 端末を使いこなす能力を取得
していた。この結果から、多くの保護者は未就
学児の ICT 端末の利用に介入しようとしてい
るものの、未就学児が独力で使いこなしてい
る(保護者の目が届かないところで利用してい
る)様子もうかがえる。子どもの ICT 端末の利
用は、保護者の利用状況と関連性のあることが
一部では指摘されており、今後は保護者の利用
状況を含めて子どもの ICT 端末の利用状況を
注視していくことが必要である。今後も、定点
的に未就学児の ICT 端末の利用状況を測定し、
保護者の不安や子どもの利用に際して介入すべ
きところを整理し、保護者の不安を解消する施
策の検討や子どもの効果的な利用に繋げること
が必要である。
注
(1)
本稿は、第41回全日本教育工学研究協議会の発表
原稿、岡松さやか(みずほ情報総研株式会社)
・安藤
満佐子(
(前)総務省 情報通信政策研究所)
「未就学
児の ICT 利活用に係る保護者の意識調査の結果か
ら-未就学児の情報通信端末の利用実態と効果-」
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2016
技術動向レポート
国土地理院の標高タイル・ベクトルタイルに見る
地理空間情報の活用促進の可能性
情報通信研究部
チーフコンサルタント
井上
敬介
筆者は 2014年11月に「地理空間データを活用したサービスの普及と今後の展望」という題
(1)
でコラム
を執筆し、地理空間情報の概要と活用の現状について報告した。地理空間情報に関連
したソフトウェアの開発と普及、データの公開はその後も進展を続けている。
筆者は特に、地理空間情報の数値計算など科学技術分野への活用に着目してきたが、2015年
(2)
10月12日に開催された FOSS4G 2015 TOKYO コアデイ
に参加した際、拝聴した講演の
中に特に興味を持った話題があった。国土地理院の藤村氏が登壇し、近年の国土地理院の取り組
(3)
みについてご報告された内容である。本レポートでは、ご報告された内容のうち地理院タイル
での標高タイルとベクトルタイルの公開について取り上げて解説し、今後の展望について私見を
述べてみたい。
1. 地理院タイルとは
まず初めに、画像タイルと地理院タイルとい
う用語の解説から始めたい。
画像の縮尺は1つズームレベルが上がるごとに
縮尺が 2 倍になるように定義されている。すな
わち 1 つズームレベルが上がれば、 1 枚で表示
されていた内容が 4 枚の画像で表示されること
近年、多くの方がウェブサイト上で地図を見
になる。ズームレベル 0 では、地球全体が 1 枚
たり、活用したりした経験をお持ちのことと思
の画像に収まる。画像のサイズはどのズームレ
う。店舗位置の表示や道先案内など、位置情報
ベルでも256ピクセル×256ピクセルである。画
を扱うサイトでは必ずと言ってよいほど利用さ
像タイルとズームレベルの関係を図表 1 に示す。
れている。近年ウェブサイトで利用されている
多くのサービスでズームレベル20程度まで
地図のほとんどは、マウス操作で表示範囲を移
の膨大な縮尺が用意されているため、ユーザは
動したり縮尺を変更したりできる。表示される
実質的に任意の縮尺で地図を表示することが可
領域が変更されると、新たに必要になった画像
能になっている。
がタイル状の画像として次々に読み込まれ、隙
画像タイルを利用した地図の表示という方
間なく並べて表示される。この際利用される画
式は世界中で様々なサービスで採用されてお
像を、画像タイルと呼ぶ。
り、また画像タイルをダウンロードするための
画像タイルは、地球上の表面をメルカトル図
URL を公開して誰でも利用できるようにして
法によって平面上に投影し、様々な縮尺で同じ
いるサービスも多数ある。このような形で公開
大きさの正方形の領域に分割し、各領域の画像
された画像タイルは、マッシュアップ
(地図や航空写真など)を作成したものである。
(4)
によ
りユーザ独自のデータと重ね合わせて表示する
60
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国土地理院の標高タイル・ベクトルタイルに見る地理空間情報の活用促進の可能性
際のベースマップとして幅広く利用できる。
限らずウェブ上で地理空間情報を扱う「タイル」
そして、国土地理院が公開している日本国土
といえば、「画像タイル」のことであった。し
に関する画像タイルが、地理院タイルである。
かし、近年国土地理院は、全国の標高データと、
URL が公開されており、利用規約に従えば誰
基盤地図情報のうち道路中心線、鉄道中心線な
でも無料で利用することができる。電子国土基
どのデータを、画像タイルと同じ正方形領域ご
本図と呼ばれる基盤データから作成された地図
とに分割したファイルとしてウェブ上で公開す
のほか、白地図、土地利用図、衛星写真など多
る試みを行っている。これらのことを、標高タ
様な画像タイルが公開されている。また、大雨
イル・ベクトルタイルと呼んでいる。標高タイ
や火山噴火などの災害発生直後の現場付近の画
ルは GeoJSON
像なども、領域を限定したデータとして公開さ
ルタイルは GeoJSON 形式で配信されている。
(5)
れている。国土地理院が運営する地理院地図
(7)
形式と CSV 形式で、ベクト
画像タイルが画像であるのに対し、標高タ
を利用すれば、地理院タイルとしてどのような
イルとベクトルタイルは数値データ(ラスター
データが公開されているか実際に見ることがで
データ、ベクトルデータ)であり、分析・加工・
きる。なお、国土地理院は、地理院タイルの利
表示方法の変更などが容易に行える。それが、
用に関連する技術仕様やサンプルコード、ツー
タイル状のデータとしていつでもインターネッ
ルなどを技術者向け SNS「GitHub」を通じて
トから入手できるようになった。
(6)
提供
している。
2. 標高タイルとベクトルタイル
ここまで述べてきたように、地理院タイルに
図表1
(1)標高タイルやベクトルタイル配布の意義
標高タイルやベクトルタイルに含まれる標高
データ、道路中心線、鉄道中心線などの情報は
画像タイルとズームレベルの関係
(資料)国土地理院のウェブページ(http://maps.gsi.go.jp/development/siyou.html) より引用
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vol.11
2016
初めて公開されるものではなく、従来から基盤
(8)
ムレベル15で定義される正方形の領域別に分
で誰でも無
割されており、小さい領域単位でデータをダウ
料で入手できた情報である。しかし、標高タイ
ンロードできる。なお、ベクトルデータの場合
ル・ベクトルタイルという形で利用できるよう
は、ラスターデータのように単純なデータ量の
になったことには、以下の意義があると筆者は
削減は行えないため、ズームレベルは1種類し
考えている。
か用意されていない。
① データの取得範囲、解像度に関する高い自
②マッシュアップが可能なサービスの提供
地図情報ダウンロードサービス
由度の提供
ウェブブラウザ上で動作する Javascript 言
標高データは基盤地図情報ダウンロードサー
語で簡単に処理できる形式でデータが公開され
ビスでは、5m メッシュと10m メッシュの二種
たこと、またログインなどを必要とせずにデー
類の解像度で配布されている。データを取得
タをダウンロードできるようになったことか
する時は、領域を選択して zip 形式で圧縮した
ら、ベクトルタイルをベースマップとしたウェ
ファイルとしてダウンロードするのだが、ファ
ブ地図を作成するなど、マッシュアップでの利
イルごとに含まれる領域が比較的大きいため、
用が可能になった。
ダウンロードするファイルは数メガバイト単位
画像タイルはそのまま表示する以外の使い方
と大きなものとなる。また、データはオリジナ
は困難であるが、標高タイルやベクトルタイル
ルの解像度のみで公開されているため、広範な
であれば色や線の太さをユーザが変更するな
範囲についてラフな分析を行いたいなど、詳細
ど、より高い自由度で活用できる。
なデータが必要ない場合は、ユーザが自らデー
タ加工を行い、必要な解像度にする必要がある。
一方標高タイルでは、データは256ピクセル
×256ピクセル、ファイルサイズでは数十キロ
③ 地理空間情報の数値情報をウェブで配信す
る新しい仕様の試行
国土地理院の標高タイルとベクトルタイルの
バイトと比較的小さい単位に分割されており、
公開という取り組みには、地理空間情報の数値
ユーザは本当に必要な範囲のデータだけをダウ
情報をウェブで配信する新しい仕様を提案し、
ンロードすることができる。またズームレベ
有用性の実証実験を行うという意義があるよう
ルが0 〜 14と多くの解像度で用意されている。
に思う。
そのため、狭い領域の詳細なデータを取得した
これまで地理空間情報の数値情報を、ウェ
い場合は高いズームレベル、広い領域の大まか
ブ上で取り扱いやすい共通した仕様で配信する
なデータを取得したい時は低いズームレベルの
サービスは、十分普及していない。例えば、イ
データをダウンロードすることで、ユーザが自
ンターネットで公開されている地球全体の標
ら加工せずともニーズに合った解像度のデータ
高 デ ー タ と し て は、GEBCO
を取得することができる。
(9)
(10)
、ETOPO
、
(11)
SRTM
などがあるが、配信の仕方はまちまち
ベクトルタイルについても状況は類似してい
である。それぞれ独自のウェブページで公開さ
る。基盤地図情報ダウンロードサービスでは
れており、ダウンロードしたい範囲の指定方法
比較的大きな領域単位で zip ファイルでダウン
やファイルフォーマットの指定方法は異なる。ダ
ロードするのに対し、ベクトルタイルでは、ズー
ウンロード可能なファイルの形式も、GeoTiff
(12)
62
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国土地理院の標高タイル・ベクトルタイルに見る地理空間情報の活用促進の可能性
(13)
だ っ た り と、 標 準 的 な
イムに表示することも簡単に実現できるし、ま
フォーマットを採用してはいても、サービスに
た標高によって地面を色分けしたいわゆる「色
よって異なる状況になっている。
別標高図」を生成することもできる。標準的な
だ っ た り NetCDF
地理空間情報の数値情報をウェブで配信す
色別標高図は地理院タイルでも既に公開されて
る標準仕様は、存在しないわけではない。地
いるが、グレースケールなどに色を変えたいこ
理空間情報の仕様に関する標準化団体である
ともあれば、特定の高さの範囲(例えば海岸付
(14)
が、ラスターデータの 配 信 用 に WCS
近)での標高の変化を強調して表示するために
(Web Coverage Service)
、ベクトルデータの配
標準とは異なるカラーマップで色別標高図を作
信用に WFS(Web Feature Service)という仕様
りたいこともあるだろう。標高タイルを活用す
を策定し、公開している。しかし、これらの仕
れば、クライアント側で簡単に実現できる。
OGC
様でデータを配信するサービスはそれほど普及
していないように思う。これは WCS や WFS が
ウェブ地図が普及している今、これらの使い
方が当面主要な活用方法となるだろう。
サーバの負荷が比較的高く、多くのクライアン
トにデータを配信するには課題があることが原
因ではないかと考える。WCS や WFS では、
デー
タを取得したい範囲やファイルフォーマットを
② 数値計算や設計での活用
発展的な活用方法として、数値計算や設計な
どの場面での活用が期待できる。
クライアントが指定できる。これらはクライア
標高データは、もともと数値計算で広く使わ
ントからすれば便利な機能ではあるが、サーバ
れている。例えば、河川で氾濫が発生した際の
で動的処理を行うことが必要になるため、サー
浸水範囲や津波発生時の津波到達範囲を予測す
バの負荷につながってしまう。また仕様が比較
る場合など、枚挙にいとまがない。ベクトルタ
的複雑で、学習に時間がかかることも普及を妨
イルで公開されているデータは、例えば渋滞予
げる要因ではないかと思われる。
測には道路中心線が使われるし、都市計画など
このような状況を踏まえ、国土地理院は既
に普及している画像タイルの仕様や GeoJSON
で重要になる情報が多く含まれている。
現在はこれらのデータを利用したい場合は、
ファイルフォーマットなどを組み合わせてシン
事前にダウンロードするなどしてデータを入手
プルな仕様を作り、ウェブでの利用に適した新
することが一般的である。しかし、デスクトッ
たな配信仕様を提案し、試行しているように思
プ GIS や CAD などが標高タイル、ベクトルタ
える。
イルに対応すれば、ユーザが解析対象の領域を
選んだ時点で瞬時に必要なデータを入手できる
(2)標高タイルとベクトルタイルの活用方法
次に、標高タイルとベクトルタイルの活用方
法について考えてみたい。
ようになり、データ準備の手間を著しく軽減で
きる。また、事前にダウンロードするなどして
準備した場合と異なり、国土地理院が現在公開
している最新のデータを利用できることにな
① ウェブサイトでの活用
る、というメリットもある。
まず容易に思いつくのは、ウェブサイトでの
標高タイルが様々なズームレベルで公開され
活用である。標高タイルを利用すれば、ウェブ
ていることのメリットは、数値計算で利用され
地図上でマウスカーソル位置の標高をリアルタ
る場合にも大きい。例えば津波発生時の解析を
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行う際、沖合部では解像度の低い格子を使い、
重要である。例えば先に例に上げた地球全体の
詳細な解析をしたい都市部に近づくほど解像度
標高データが国土地理院の標高タイルと同一の
の高い格子を使う手法がよく用いられる。この
仕様で公開されれば、世界中の標高データを全
ような格子の例のイメージを図表 2 に示す。こ
く同様に入手できるようになり、世界中でこの
の場合、作成したい格子の解像度に合わせた標
仕様のデータのユーザが増える。この仕様で公
高タイルを入手して利用すれば、効率的に格子
開できるデータは、標高データに限らない。植
生成を行うことができる。もしもオリジナル
生高や建物高なども標高データと同一仕様で公
の解像度の標高データを入手して使った場合、
開されれば、自然科学や都市計画などの分野に
データ加工に多大な時間を要することになる。
需要があると考えられる。同一仕様で公開され
るデータが増加すれば、アプリケーションがこ
3. 今後の展望
の仕様に対応することの意義も大きくなり、対
最後に、今後の標高タイルとベクトルタイル
応するアプリケーションが増えていくだろう。
さらに発展的な使い方として、
「数値計算の
に関する展望について述べてみたい。
まず、標高タイルやベクトルタイルを簡単に
ウェブ上でのマッシュアップ」というアイデア
活用できるソフトウェア環境の整備が望まれ
も考えられる。例を上げてみよう。現在、地球
る。既に標高タイルやベクトルタイルを活用
温暖化による気温変化の予測値など多種多様な
した Web サイトの構築例は公開されているが、
数値計算の結果が国内外のウェブサイトで公開
ライブラリという形で整備することでより容易
されているが、これらも同じ仕様で流通できる
に利用できるようになるだろう。
データである。気温変化の予測値をもとに農業
(15)
など
への影響を評価するなどの解析をする場合、現
ウェブマッピング用ライブラリにこの仕様の
在はデータのダウンロードやファイル形式の変
データの描画機能が組み込まれるという形が、
換など、煩雑な作業を経由して行う必要がある。
速やかな普及に有効と思われる。
しかし数値計算の結果がこの仕様で公開されて
具体的には、OpenLayers、Leaftlet
また、同一仕様で公開されるデータの増加も
図表2
津波の解析で利用する格子の例
いれば、ウェブ上でマッシュアップ的に行うこ
とも可能になる。用途は Javascript で実装で
きる程度の計算負荷の低い解析に限られるが、
それでも有効活用できる場面は少なくないので
はないだろうか。
標高タイルとベクトルタイルの公開をきっか
けに、ウェブを利用して最新の地理空間情報を
いつでも簡単に入手でき、活用できる環境が
整っていくことに期待したい。
注
(1) 「地理空間データを活用したサービスの普及と今後
(2)
の展望」
:http://www.mizuho-ir.co.jp/publication/
column/2014/1104.html
FOSS4G 2015 TOKYO:
http://www.osgeo.jp/events/foss4g2015/tokyo
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国土地理院の標高タイル・ベクトルタイルに見る地理空間情報の活用促進の可能性
(3)
(4)
(5)
(6)
(7)
(8)
(9)
(10)
(11)
(12)
(13)
(14)
(15)
地理院タイル:
http://maps.gsi.go.jp/development/siyou.html
マッシュアップ:ウェブ上に公開されている情報
を加工、編集して組み合わせることで、新たなサー
ビスを構築すること
地理院地図:地形図、写真、標高など日本の国土
の情報を発信するウェブ地図。
http://maps.gsi.go.jp/
国土地理院情報普及課公式 GitHub アカウント:
https://github.com/gsi-cyberjapan
GeoJSON:JSON 形式を用いて地理空間情報を表
現し、メタデータと関連付けるファイル形式。
基盤地図情報ダウンロードサービス:日本の基盤
地図情報ダウンロードするために国土地理院が公
開するサービス。http://fgd.gsi.go.jp/download/
GEBCO: 大 洋 水 深 総 図(General Bathymetric
Chart of the Oceans)全世界の海底地形図。
http://www.gebco.net/
ETOPO:アメリカ海洋大気庁(NOAA)が公開す
る 数 値 標 高 モ デ ル。https://www.ngdc.noaa.gov/
mgg/global/global.html
SRTM(Shuttle Rader Topography Mission):米
国スペースシャトルに搭載したレーダーで取得
したデータから作成した数値標高モデル。http://
www2.jpl.nasa.gov/srtm/
GeoTIFF:TIFF ファイルに地理的位置に関する
情報を埋め込む仕様を追加したファイル形式
NetCDF:多次元の配列データを格納するための
ファイル形式。
OGC(Open Geospatial Consortium): 地 理 情 報
システムの標準化団体。
http://www.opengeospatial.org/
OpayLayers、Leaflet:オープンソースのウェブ
マッピング用のライブラリ。Javascript のプログ
ラムと CSS ファイルなどからなり、マッシュアッ
プによるウェブ地図を簡単に作成できる。
参考文献
1. 地理空間情報の基本と活用 橋本雄一編 古今書院
2. FOSS4G HAND BOOK 森 亮(OSGeo 財団日本
代表)監修
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vol.11
2016
技術動向レポート
ハイパフォーマンスコンピューティング技術が切り開く
ものづくり
サイエンスソリューション部
マネジャー
山出
吉伸
コンピュータの性能は1年に2倍、10年に1000倍のペースで発達している。本稿ではコン
ピュータの性能向上の動向およびこれがものづくりに与えるインパクトに関して示すとともに、
スーパーコンピュータによるハイパフォーマンスコンピューティング技術のものづくりへの適用
事例を紹介する。
1. 計算機の発達
スーパーコンピュータ(以下、スパコン)は、
を果たし、その間に、国民総生産(GDP)やエ
ネルギー消費量は年々増え続けた(図表 1 )。国
民総生産とエネルギー消費量はこの1970年か
生命科学、創薬、物質科学、防災、ものづくり
ら2010年の間の40年間でそれぞれ2.9倍、1.9倍
等幅広い分野において活用され、各分野の研究
に成長したが、その年平均の成長率はそれぞれ
開発をドライブする原動力になっている。後述
2.9%、1.6% である。一方、コンピュータの性
するように、スパコンの性能は飛躍的なペース
能はムーアの法則によれば、成長率100%(GDP
で向上するため、筆者が携わるものづくり分野
やエネルギー消費量の成長率の数十倍)で性能
においてもスパコンを活用したハイパフォーマ
向上するので10年で1,000倍、20年で100万倍
ンス技術の適用により、実験に匹敵する精度で
の性能向上を果たすことになる。スパコンの
製品性能を評価できる事例が増えつつある。本
性能評価は、1 年に 2 度更新され、世界最速か
稿ではまず、スパコンの性能向上についてふれ
ら上位500位までのスパコンが公開されている
ておきたい。
(以下トップ500ランキングと称す。)。図表2
皆さんは「ムーアの法則」をご存知だろうか?
にトップ500ランキングとして公開されてい
半導体メーカインテルの創始者のひとりである
るスパコン性能の推移を示す。図表 2 には 1 位
ゴードン・ムーアが、50年前(1965年)に経験
(No 1)、500位(No 500)および 1 位から500位
則に基づいて示したコンピュータの処理能力に
の合計値(sum.)の推移が示されている。縦軸
対する法則である。これによるとコンピュータ
の FLOPS(フロップス)は Floating Operation
の性能は毎年およそ 2 倍のペースで発達する。
per second の略であり、1 秒当たりに実行でき
毎年 2 倍(前年度比100% 増)と簡単にいうがこ
る演算回数である。FLOPS の前の頭文字は G
の成長率は驚異的である。少し乱暴な比較であ
(ギガ)、T(テラ)、P(ペタ)、E(エクサ)と読
るが、コンピュータの処理能力の驚異的な成長
む。G(ギガ)は10億(10の9乗)を意味し、頭
を実感してもらうため、他の年次推移データと
文字がひとつ変わるごとに1,000倍される。つ
比較してみたい。我が国は戦後急激な経済発展
まり T(テラ)は 1 兆、P(ペタ)は1,000兆、E(エ
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ハイパフォーマンスコンピューティング技術が切り開くものづくり 
図表1 国内のエネルギー消費量および実質GDP の推移
(資料)h
ttp://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/
2013html/2-1-1.html より引用
図表2 スーパーコンピュータトップ500ランキングの推移
(資料)http://www.top500.org/ より引用
クサ)は100京である。我が国においても、最
パクトを与える。流体解析では、対象となる空
近では、地球シミュレータが 2002年6月から
間(例えば、車の流れのシミュレーションであ
の 2 年間、京が 2011年6月から1 年間、世界最
れば、車のまわりの空間)を計算格子と呼ばれ
速コンピュータとしてランキングされている。
る小さな小領域に分割し、ここで定義される流
世界で初めて10 PFLOPS の壁を超えた京が開
れの状態(速度や圧力)をシミュレーションす
発された 2011年よりの17年前の1994年に当時
る。スパコンの発達により、計算格子を細かく
の航空宇宙技術研究所のスパコン Numerical
することでより詳細な(現実に近い)流れを計
Wind Tunnel(NWT)が124GFLOPS で世界最
算することが可能となる。年 2 倍の成長が10年
速となっているが、この17年間の間に実にスパ
継続するとおよそ1,000倍の性能向上となるわ
コンの性能は 8 万倍に向上した。この17年間の
けだが、この結果、非常にラフな見積もりを
平均成長率は 94% であり、およそムーアの法
すると計算格子数を1,000倍にすることができ、
則にほぼ従っていることがわかる。世界最速の
これは 1 方向あたりの格子幅を1 / 10にできる
コンピュータだけでなく、500位および500位
ことを意味している(実際はマシンアーキテク
までの合計値に関して同じ17年間の性能比は、
チャが変わり、このため計算の実行効率も低下
500位では10万倍、合計値では 4 万倍と同様に
する傾向にある等の影響があり、問題は単純
大きく性能向上していることがわかる。
ではなく、ここに示す見積もりは楽観的であ
筆者は、スパコン等の大規模計算機を用いて
る)
。例えば、10年前は 1 cm の解像度でシミュ
工業製品のまわりの流体(空気もしくは水)の
レーションしていた現象を、現在は 1mm で、
流れをシミュレーションすることにより(以下
10年後は0.1mm の解像度で計算することがで
これを流体解析と称する。)、製品の性能を予
きる。筆者が携わってきた車、船、ターボ機械
測するためのソフトウエアの開発に携わって
等の工業製品への適用を例にとると、ピーク性
きた。上記した成長率100% の性能向上はもの
能40TFLOPS の地球シミュレータを用いた場
づくりにおける流体解析にとっても大きなイン
合の計算規模はおよそ 1 億グリッド以下であっ
67
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vol.11
2016
たのに対し、ピーク性能10PFLOPS の京を活
めに、設計段階で車室内騒音を予測することお
用した解析では数十億~数百億グリッド規模の
よびこれにより音源と伝搬経路を特定すること
解析が実現可能になっている。これにより、車
が重要であり、そのための予測技術の確立が求
体空力、船舶、ターボ機械等のものづくり分野
められている。車室内騒音の音源としては、エ
で実験(風洞試験や水槽試験)に匹敵する精度
ンジンノイズ、ロードノイズ、空力騒音等があ
で製品性能を予測できる技術が確立されつつあ
げられるが、高速走行時には空力騒音が主音源
る。本稿では、これ以降、スパコンを用いた流
となる。本節では、スパコンの製品への適用事
体解析事例として、筆者が携わった解析事例に
例として車室内騒音の空力騒音の予測について
ついて紹介する。
紹介する。
2. ものづくりへの HPCの適用事例
空力騒音の音源は車体まわりの非定常な空気
の流れであるため、これを流体解析により精度
本節ではスパコンによる大規模な流体解析事
良く予測することが求められる。時速100 km
例として、流体解析ソフトFrontFlow / blue(以
程度で高速走行する車の表面にはミリオーダー
下、FFB と称する)による流体解析事例を紹介
の小さな渦が無数に存在する。通常、自動車
する。FFB は東京大学生産技術研究所で開発
メーカ等では数千万グリッドから数億グリッド
されたソフトである。FFB は物体まわりある
程度の計算格子を用いた流体解析が実行されて
いは機械内部の非定常な水や空気の流れを精
おり、この規模の計算では上記のような小さな
度よく予測できる特長を有しており、筆者も
渦の効果を車体全体にわたって全て取り込むこ
FFB の開発およびこれの実証に携わってきた。
とは困難である。一方、現在のスーパーコン
ピュータ京を用いれば最大数百億グリッドの計
(1)車室内騒音の予測
算格子での計算が実行できる。図表 3 に車両表
自動車運転時の快適性という観点より、車室
面近傍の微細渦構造の可視化結果を示す。この
内騒音の低減が重要である。遮音・防音対策に
計算では50億グリッド(この分野では世界最大
より車室内騒音の低減が可能であるが、これら
規模)の計算格子を使用しており、この計算で
の効果は生産コストとトレードオフの関係にあ
はミリオーダーの小さい渦の挙動まで計算に取
るため、量産品では限られた設計条件のなかで
り込むに成功している。微細な渦の動きを捉
騒音を低減することが求められており、このた
えることができるということは、速い(高周波
図表3
車体表面近傍の微細渦構造の可視化結果
左:全体、中央:サイドウインド近傍、右:ルーフ
68
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ハイパフォーマンスコンピューティング技術が切り開くものづくり 
の)流体加振を精度良く計算できることを意味
ものであり、まさにスパコンの性能向上により
している。図表 4(a)
にサイドウインドにおけ
もたらされた成果である。
る圧力の変動パワースペクトル(各周波数にお
車室内の騒音を予測するためには、流体解析
ける圧力変動の分布)の風洞試験との比較を示
で予測した車体表面の流体加振データを用い
す。図表 4(a)
の予測結果のうち、赤色で示す
て、車体ボディの振動および車室内の音響場を
データは比較的小規模の計算であり高周波側で
計算する必要がある。この振動・音響の計算に
計測結果との不一致が確認できるが、青色で示
関してもコンピュータの性能向上が重要な役割
すデータでは試験結果とほぼ一致することが確
を担っている。振動・音響の計算に関しては従
認されている。このような流体加振の高精度予
来では、統計的エネルギー解析手法
(Statistical
測は大規模な計算を実行して初めて実現できる
Energy Analysis Method、SEA 法)が適用され
図表4 サイドミラーにおける圧力変動スペクトルの比較
てきた。SEA 法は解析対象をパーツに分割し、
パーツごとに入力パワー、散逸パワー、伝達パ
ワーの平衡を仮定することにより振動・音響の
計算を行う。本手法は計算コストが低いことも
あり、車室内騒音の予測ツールとして有効であ
るが、解析対象を比較的大きなパーツに分割す
るため、車体表面の流体加振がどのように車室
内に伝播するかを詳細に調べるには限界があ
る。本解析事例では、車体ボディの振動および
車室内の音場を直接的に計算する振動・音響連
成解析を実施した。上記の計算手法で予測した
車室内騒音は風洞試験により計測データと数
(資料)図表中のLESとラベルされたデータが計算結果、
Coarseは8千万グリッド、Fineは50億グリッドを使用
図表5
dB の誤差で一致することを確認している(図
表 5)。
車室内騒音の比較(SAE Technical Paper 2016-01-1616, 2016)
69
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vol.11
2016
(2)風車の性能予測
風力発電システムにおける風車の設計では、
通常時、故障時、始動時、停止時などの様々な
実施を申請しこれが採択された。この利用研究
課題では、風況および風車まわりの流れに対し
て大規模流体解析を実施した。
運転状況に対し、風車の構造的、機械的、電気
的および制御システムを考慮して、安全性およ
① 風況計算
び発電量などの性能を確保することが要求され
国内に風車を設置する場合、地形の影響を含
る。風車の設計や性能予測にはこれまで翼素運
む風況が風車に与える影響を把握しておく必要
動 量 理 論(BEM:Blade Element Momentum
がある。ここでは、風況予測の精度検証とし
theory)が広く用いられてきた。BEM は 2 次元
て積丹半島を対象とした地形周りの流れ解析
翼型の性能データを利用して設計点付近の性能
を実施した。計算は積丹半島北部の1 / 2000ス
を精度良く簡易に予測できるため、実用的にも
ケールモデルの風洞試験と同じ条件において行
用いられている。しかしながら、BEM は 2 次
い、平均速度分布や変動速度分布を計測データ
元理論であるため、翼の曲面形状の考慮は勿
と比較した。地形モデルは図表 6 に示すように
論、本来、3 次元の複雑かつ非定常挙動である
直径 8 km の円形領域であり、国土地理院が発
風況の影響を風車に的確に取り入れることはで
行する地形データから積丹半島の部分を抽出し
きず、特に非設計点の性能評価に用いることは
た。計算に使用した計算格子のグリッド数は約
難しい。また、通常翼に流入する風速はブレー
3000万である。図表中の点 A ~ G は計測点で
ドの断面位置により変化するため、様々なレイ
ある。石原・山口らによる風洞試験では地形モ
ノルズにおける 2 次元翼型の性能データが必要
デルをターンテーブルに設置し、45度ずつ回
となるが、実験データからこれら全てを補うの
転させることにより 8 方向からの流入条件にお
は困難であるため、実際には代表的なレイノル
いて流れを測定している。風洞試験との比較と
ズ数を用いて計算が行われている。このような
してここでは風向が北東(NE)のケースの検証
ことから、BEM に基づく風力発電の予測量と
結果を示す。計測点(A、B、F、G)における平
実際の発電量には差異があると考えられるが、
明確な比較は存在していないと思われる。風力
図表6 積丹半島地形
発電量を高精度に予測するには風況(風速、流
入乱れ、地形の影響)、ピッチおよびヨー制御、
翼の曲面形状など様々な複雑な条件を考慮する
必要があるため、流体解析が有効なツールに成
り得ると考えられており、近年、流体解析によ
る性能予測の検討が多く行われている。これら
を踏まえ、当社ではこれまで培った流体解析の
技術を風力発電の性能予測に活かすことを目的
として、HPCI 利用研究課題(課題名:風況デー
タを用いた実機風車の性能評価シミュレーショ
ン、実施期間:2012年9月~ 2014年3月)とし
て風車性能予測のためのベンチマークテストの
(資料)土木学会論文集、No731/1-63 195-211, 2003より引用
70
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ハイパフォーマンスコンピューティング技術が切り開くものづくり 
均速度の鉛直分布を実験値と比較した結果を図
3 億である。NREL による実験では風速や風向、
表 7 に示す。点 G のように急峻な地形の背後に
ピッチやヨーを変化させた様々な条件下におい
位置する点では予測誤差が大きいがその他の点
て計測が行われており、得られたデータは数値
の速度分布は風洞試験と概ね一致しており、本
計算のベンチマークとしても用いられている。
ベンチマークテストにより地形の効果を概ね再
本研究では、ピッチおよびヨー制御が無い場合
現できることが確認できた。
において風速として 7 m / s および10 m / s を与
えたベンチマーク計算を行った。図表 8(b)
に
② 風車まわり流れ計算
流れ場の可視化の例として風車に向かう方向の
アメリカ国立再生可能エネルギー研究所
風速の分布を示す。精度検証として翼面の圧力
(NREL)が NASA の超大型風洞で行った実験
分布を風洞試験結果と比較した結果を図表9に
に用いた 2 枚翼のモデル風車(NREL S809)を
示す。風速 7 m / s のケースの誤差は比較的小さ
対象にして、風車周り流れの検証解析を実施
いが、10m / s の場合は試験結果との誤差が大
した。対象とする風車モデルを図表 8(a)
に示
きい。本ベンチマークテストでは格子点数が不
す。計算に使用した計算格子のグリッド数は約
足しているため十分な精度が出ていない課題が
図表7
計測点における平均速度の比較
図表中の LES とラベルされたデータが計算結果
図表8
風車形状および風車回り流れ場の可視化
71
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vol.11
図表9
2016
翼面上の圧力分布の比較
左:風速7 m/s 右:風速10 m/s
図表中の LES とラベルされたデータが計算結果
確認された。
2.
本節では風力発電の性能予測への流体解析の
事例として風況計算および風車まわり流れのベ
ンチマークテスト結果を紹介した。これらのベ
ンチマークテストでは予測精度に関して課題が
3.
あることも確認されたが、前述のとおり、大規
模解析技術は風車の性能予測に貢献できる技術
であると考えており、今後も風車の性能予測向
4.
上に取組んでいきたい。
3. まとめ
本稿ではスパコンの性能向上およびこれが流
5.
体解析技術にあたえるインパクトについて示す
とともに、具体的な適用事例として車室内騒音
の予測および風車性能の予測について紹介し
た。スパコンを利用した大規模な流体解析技術
6.
のものづくり分野への適用は他の製品に対して
も成果をあげその有用性が実証されつつある。
今後はこれらの技術の実用化が重要な課題であ
り、筆者も各分野の方々と連携しその実現に貢
7.
献したい。
参考文献
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onto integrated circuits”, Electronics Magazine
8.
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Makihara, T., Kitamura, T., Yamashita, T.,
Maeda, K., er al., "Identification of Vortical
Structure that Drastically Worsens Aerodynamic
Drag on a 2 -Box Vehicle using Large-scale
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Yamade, Y., Kato, C., Nagahara, T., and Matsui,
J., "Large Eddy Sumulation of Unsteady
Vortices in a Pump Sump," presented at
AJK2015, AJK2015-FED140753, 2015, Seuol
Guo, Y., Kato, C., Yamade, Y., Ohta, Y., et al.,
"Computation of Noise from the Internal Flow
72
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2016/03/17 10:04
ハイパフォーマンスコンピューティング技術が切り開くものづくり 
in a Centrifugal Blower", presented at The
1 3 th Asian International Conference on Fluid
Machinery, AICFM13-137, Japan, 2015.
9. Lyon,R.H. and DeJong,R.G., Theory and
application of statistical energy analysis second
edition,(1995), ButterworthHeinemann.
10. Iida, K., Onda, K., Iida, A., Kato, C., Yoshimura,
S., Yamade, Y., Hashizume, Y. and Guo, Y.,
“Prediction of aeroacoustical interior noise of a
car, part- 2 Structural and acoustical analyses,”
SAE Technical Paper 2016-01-1616, 2016.
11. 廣﨑淳、風況データを用いた実機風車の性能評価
シミュレーション、平成25年度 HPCI 利用研究課
題 利 用 報 告 書(https://www.hpci-office.jp/output/
hp120221/outcome.pdf)
12. Atsushi Yamaguchi, Takeshi Ishihara, Yozo
Fujino“Experimental study of the wind flow
in a coastal region of Japan”, Journal of Wind
Engineering and Industrial Aerodynamics 9 1
(2003)247-264
13. H a n d M . M , S i m m s D . A , e t a l , U n s t e a d y
Aerodynamics Experiment Phase VI: Wind
Tunnel Test Configurations and Available Data
Campaigns. Technical Report NREL/TP- 5 0 0 29955, National Renewable Energy Laboratory,
Golden, CO, 2001.
73
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2016/03/17 10:04
対 談
対談
「みずほグローバルアグリイノベーション」を通じて結ぶ
日本式農業とアフリカ
佐藤芳之 氏
(ルワンダ・ナッツ・カンパニー会長、オーガニック・ソリューションズ・ルワンダ会長)
畠山
剛
(みずほ情報総研
常務執行役員)
74
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「みずほグローバルアグリイノベーション」を通じて結ぶ日本式農業とアフリカ
佐藤 芳之 氏
畠山 剛(みずほ情報総研 常務執行役員)
Profile
佐藤芳之 氏
ルワンダ・ナッツ・カンパニー会長、オーガニック・ソリューションズ・ルワンダ会長
1974年に食品加工会社「ケニア・ナッツ・カンパニー(KNC)」を立ち上げ、1990年代にはマカ
ダミアナッツ生産量で世界トップ 3 となる。2008年、KNC を幹部社員に譲渡。「オーガニック・ソ
リューションズ・ルワンダ」など、アフリカや南米で新事業を次々と立ち上げる。著書に『 歩き続け
れば大丈夫 アフリカで25万人の生活を変えた日本人起業家からの手紙 』
(ダイヤモンド社)
、
『 OUT
OF AFRICA アフリカの奇跡 世界に誇れる日本人ビジネスマンの物語 』
(朝日新聞出版)など。
アフリカと日本をつなぐ共同研究
畠山
本日は、私どもの新事業「みずほグロー
ことを今でも覚えています。ルワンダは平均気
温が約20度で、1年を通してあまり温度変化の
ない環境だそうですね。
バルアグリイノベーション」の一環である、岩
佐藤氏
手県八幡平市および国立大学法人岩手大学との
2000 m 以上あり、気温は高い時でも30度、低
ルワンダ共和国における共同研究がいよいよ始
い時でも10度前後で過ごしやすい気候です。
まったということで、アフリカにおけるビジネ
実は、ルワンダのような熱帯の高原地帯は野菜
スに長年携わってこられ今回のプロジェクトに
や花を作るのに適した気候条件ということで注
もご協力いただいた佐藤会長に、お話を伺う場
目を浴びており、今さまざまな国が進出し始め
を設けさせていただきました。
ています。
私が佐藤会長に初めてお会いしたのは2014
畠山
はい。実験農場のあるキニギは標高が
そのような、佐藤会長からお教えいただ
年ですから、もう 1 年になりますか。赤道直下
いた情報をベースにしながら、ビジネスのさま
の地で何かを栽培することが本当にできるのか
ざまな可能性を検討して立ち上げたのが、「み
と思っていたのですが、ルワンダは素晴らしい
ずほグローバルアグリイノベーション」です。
農業環境の国であるとお伺いし、非常に驚いた
本事業では、日本の農林水産業の海外進出を支
75
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対 談
援するため、日本ブランドの農産物の栽培や農
業機械などの技術移転に関する研究、および実
証実験に取り組んでいます。目標とするところ
は、日本の農業の持続的な発展と、進出先の地
域の経済的な発展、そして進出する企業の円滑
な支援、マーケット開拓の推進サポートです。
ルワンダでのリンドウ栽培事業に関する共同研
究は、その第一弾となります。
我々のビジネスはコンサルティング業務です
が、このプロジェクトではお客さまや共同研究
者と共に現地に赴き、諸々の課題に対して当事
者の一人として解決に当たるなど、パートナー
として共に汗を流すつもりです。単に机上の企
画やコーディネートを行うだけでなく、リアル
すので、大変心強く感じていますし、骨太のプ
なサービスを提案します。実際、当事業では、
ロジェクトになるという予感があります。
生育調査のため日本のリンドウの苗をルワンダ
畠山
へ運んで植えるといった仕事も行っています。
大変嬉しく思います。
佐藤会長はもとより、ルワンダの皆様に大変
なお力添えをいただいたおかげで、プロジェク
そのように感じていただくことができ、
アフリカに賭けたアントレプレナーシップ
トが非常に良い形で進んでいると感じています。
畠山
佐藤氏
たと伺っていますが、何語をご専攻されたので
そうですね、とても良い関係が構築で
佐藤会長は東京外国語大学をご卒業され
きている現場だと思います。今回提携させてい
すか。
ただいている我々のグループ企業は、2008年
佐藤氏
からルワンダで農業を行い経験を積んでいま
トルコ語を学びました。アフリカで仕事をした
す。そこに、豊かな知見と経験、幅広いネット
いという思いはすでに持っていたのですが、当
ワークをお持ちのみずほ情報総研がマッチング
時はアフリカの言語を学ぶことのできる学科は
することで、アフリカと日本のコラボレーショ
ありませんでした。そこでいろいろと調べたと
ン、またヨーロッパ市場開拓を目指しインター
ころ、当時のアフリカではインド系の商人が経
ナショナルに活動していくという、とても良い
済の実権を握っているということが分かりまし
形ができていると思います。
たので、まずはインド語を選んだのです。
今後は、今おっしゃったようなコンサルティ
畠山
インド語、アラビア語、ペルシャ語、
若い頃からアフリカで働きたいという思
ングを超えた現場での仕事の中で、課題解決の
いがあったのですか。
ための適切なアドバイスや、海外進出を目指す
佐藤氏
日本企業とのネットワークをつないでいただけ
夢をただ追いかけて歩き続けてきただけだ、と
ればと期待しています。みずほ情報総研との連
いう感がありますね。
携プロジェクトということで、日本の企業も安
畠山
心して我々と連携していただけることと思いま
けただけで到達できるような道ではありません
はい、少年の頃からありました。その
いや、佐藤会長のご成功は、単に歩き続
76
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「みずほグローバルアグリイノベーション」を通じて結ぶ日本式農業とアフリカ
よ。どのようなお考えや行動があったのでしょ
てた KNC をケニアの社員へ譲渡されましたで
う。最初はどのようなビジネスを始められたの
しょう。もっと大きくするというお考えはな
ですか。
かったのですか。
佐藤氏
最初はリヤカーを作ろうと考えまし
佐藤氏
いえ、これ以上大きくしてはいけない
た。しかしそのビジネスは失敗したため、次に
と思ったのです。ビジネスには適正な規模とい
鉛筆工場を立ち上げました。鉛筆工場の次は製
うものがあります。世界の市場で貴重に扱われ
材所を手掛けたのですが、そこで「木を切る」
求められているあたりがちょうどいいのです。
という行為に、どこか後ろめたさを感じてしま
社員も4000人を超えましたし、後進へと道を
いました。それならば、次は木を植える仕事を
拓く必要もありました。でも一番の理由は、ビ
しようと考えました。
ジネスをよく理解したケニアの優秀な社員がた
畠山
なるほど。そうした発想からケニア・ナッ
くさん育ち、私の出る幕がなくなったというこ
ツ・カンパニー(KNC)創業へとつながったの
とかもしれません。そこで、「このビジネスは
ですね。
君たちが手がけなさい。私は他の仕事をやる」
佐藤氏
と伝えたのです。送別会も一切必要ないと言っ
はい。植林するならば、環境のためと
いうだけではなく、実のなる木を作りたいと考
て、すぐに辞職しました。
えました。もしその実に市場性があれば、ビジ
畠山
ネスになるだろう。しかしコーヒーのような国
非常に大きな決断ですね。その後ルワンダへ移
際競争が激しい商品は相場が変動しますから、
られたのは、何がきっかけだったのですか。
潜在需要は100万トンあるが 5 万トン以下の供
佐藤氏
給しかされていないようなニーズのあるものが
し不衛生だと感じたのです。その時ちょうど微
いい。そのような木を探し歩いて、巡り合った
生物のビジネスを始めていたものですから、微
のがマカダミアナッツでした。それからはナッ
生物を使って浄化を行おうと考えました。そこ
ツのビジネスを一心不乱にやりました。
で市とコラボレーションしてスラムや地方の学
畠山
校のトイレ浄化を行いました。今ではケニアで
でも、そうして世界規模の企業へと育
そこできっぱり辞職されたというのは、
たまたま会議で出向いた時に、街が少
も学校トイレ浄化プロジェクトを実施していま
す。微生物を使ったビジネスは拡大しており、
微生物を利用した生肥料がケニアのバラ園で利
用されるなど、売上げを伸ばしています。
今はとにかくいろいろなビジネスを手がけた
いと思っています。アイデアがどんどん浮かぶ
のです。ケニアではジャガイモの農場を1万ヘ
クタール確保しましたので、エタノールや工業
用の澱粉、ウオツカ造りもいいなと考えていま
す。タンザニアではサツマイモを植え始めたの
ですが、それでアフリカ産のおいしい焼酎を造
りたいと思っています。
畠山
しかしすごいものですね、いろいろな事
77
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対 談
業を展開されていらっしゃる。ご著作にもあり
は盛んになっており、みずほフィナンシャルグ
ましたが、佐藤会長がビジネスのアイデアを口
ループとしても注力し始めています。みずほ銀
にしても、最初は誰も本気にしてくれないそう
行はケニアの投資庁と業務協力覚書を締結して
ですね。でも「やるんだ」と言い続けて、本当
いますし、南アフリカではスタンダード銀行と
に実現される。
業務協力協定を締結しています。
佐藤氏
言わないと実現しないものですよ。で
アフリカの人口はまだ10億人程度の規模感
すから、ついつい皆に言ってしまう。そうする
かと思いますが、今後も右肩上がりの人口増加
と、自分がその言葉に縛られて、やらざるを得
が期待されていますし、そのようなエリアは世
なくなるでしょう。
界でもアフリカだけではないでしょうか。さま
畠山
そうした事業は一つを終わらせてまた次
ざまな日本企業が進出を考えています。一時は
へということではなく、同時並行的に手がけら
波が引いた感があったものの、今はまた動に転
れるのですか。
じているように感じているのですが、いかがで
佐藤氏
しょうか。
全て同時です。70歳代も半ばになり
ますと、一つのことに集中するのは時間がもっ
佐藤氏
たいないと思うのです。考えられる全てのこと
るのは、1993年から始まった「TICAD(Tokyo
を同時進行で進めたいし、やろうと思えば実際
International Conference on African
にやれるのです。
Development /アフリカ開発会議)」が、2016
畠山
一口でワールドワイドと言いますが、そ
年に初めてアフリカで開催されるということも
れを体現されておられる方のお話となると、迫
理由の一つでしょう。これまでは東京にアフリ
力が違いますね。佐藤会長の起業家精神には本
カ各国の首脳クラスを集めて開催していました
当に感服します。力強く、ダイナミックな精神
が、いよいよ現地での開催となります。先日、
をお持ちでいらっしゃる。しかも、形のある
ケニアが開催地となることが正式に発表されま
「ものづくり」につなげていらっしゃるところ
が、大変素晴らしいと思います。
活気づく日本企業の対アフリカ投資
畠山
最近、アフリカに対する日本からの投資
そうですね。今ドライブがかかってい
した。
国際的に見ると、中国が今すさまじい勢いで
アフリカへ進出しており、エチオピアで「中国・
アフリカ協力フォーラム」を開催しています。
最近、ケニア人は僕を見ると「ニーハオ」と呼
びかけてきます。日本人だと分かると、
「まだ
いたの」と言われるのです。
畠山
そういう言葉が返ってくるのですか。日
本人のプレゼンスが下がっているのですね。
佐藤氏
そのような、中国を始めとした各国に
対抗すべく、2013年の TICAD では、安倍首相
が、今後 5 年間で官民合わせて 3 兆 2 千億円の
出資を行うと宣言しました。そこで日本企業は
投資する案件を熱心に探しています。
ところが、橋や港湾建設などいわゆる公的な
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「みずほグローバルアグリイノベーション」を通じて結ぶ日本式農業とアフリカ
インフラ事業ではさまざまな案が出ても、イン
フラ完成後に取り組む具体的なビジネスについ
てはまだまだ動いていません。ですから、「み
ずほグローバルアグリイノベーション」が、具
体的なビジネスの旗振り役となってくだされば
と感じています。
畠山
我々が、扉を開く役回りを果たすことが
できるかもしれませんね。みずほ銀行も、アフ
リカにおける銀行としての役割を模索している
最中ですので、我々がまず先発隊となって、具
体的なビジネスへとつないでいきたいと思って
スなものを作り、大農場での大量生産とは異な
います。
る市場を開拓していくことが重要だと思いま
佐藤氏
す。今は逆風が吹いているかもしれませんが、
鍵となるのは、やはり情報だと思いま
す。技術に関する情報、お客さまや市場に関す
ヨットと同じで、進む方向を見据えて、向かい
る情報。その点について詳しい御社から、助言
風を前に進む力に使えばいい。そういう発想が
や支援をいただければと思います。
大事ではないでしょうか。
技術を武器に、日本の農業を世界へ
畠山
2015年10月には環太平洋戦略的経済連
40年以上農産物を作る仕事に携わって分かっ
たのは、農業とは基本的には技術産業であると
いうことです。地球という工場の中で、年々変
携協定(TPP)も大筋合意となり、日本の農業
化する環境に適応することが求められますし、
は今厳しい環境に直面しています。佐藤会長
土地によっても土や水などさまざまな条件が異
は、日本の農業をどのようにご覧になっていま
なります。気候変動や降雨量などの現象と戦い
すか。
ながら、毎年ベストなやり方を模索していく必
佐藤氏
素晴らしいと思います。高い技術があ
要がある、総合アートのようなものなのです。
りますし、品質を追及する意識が高く、妥協し
畠山
ない。イチゴのトチオトメは、中東では大きな
て捉えると、みずほ情報総研としてお手伝いで
桐の箱に入った貴重品として販売されていま
きることは色々あるのではないかと感じます。
す。そこには、日本の農家にしか作ることので
佐藤氏
きない技術があります。
ベーションを起こし、技術やマーケティングの
畠山
そうですね。海外へ目を向ければ、日本
思想を組み込んで、R&D や商品開発を進めて
の農業はもっと伸びる可能性があるのではない
いくかということが、これからは重要です。ま
でしょうか。今の環境変化をポジティブに捉え、
た、そうした農業技術を海外へ展開していくと
集積や法人化はもとより、日本再興戦略でも掲
いうのは、良い狙いどころだと思います。
げられているように、海外展開できる農業へと
確かにそうですね。農業を技術産業とし
従来の農業に、どのようにしてイノ
この度のルワンダでの共同研究は、日本農業
変わることが必要ではないかと感じています。
の再チャレンジといいますか、日本農業が今ま
佐藤氏
そう思います。日本の農業が持つ技術
で培ったものを持って海外市場へと切り込んで
は高いのですから、ハイグレード・ハイプライ
いくということですからね。みずほ情報総研が
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対 談
持つ豊かな情報を基に、日本の農業にイノベー
我々も微力ながらお手伝いできればと思いま
ションを起こす。非常にドラマチックな、ドラ
すし、この事業に参加できることに高揚感を得
マの始まりに今立っておられるのだなと思いま
ています。まずはリンドウに注力し、それが花
す。花卉ビジネスを通して進出した国で外貨を
開いたら、さらに先へと拡大しましょう。
稼ぐことができれば、アフリカが今抱えている
畠山
貧困の問題を解決することにも役立つでしょ
功させたいと思っております。お話が面白く、時
う。みずほ情報総研が社会に対して今すべきこ
間がたつのがあっという間でした。お付き合い
とは何なのか、そうした大きな目的を純粋に考
いただき、本当にありがとうございました。
ありがとうございます。必ずこの事業を成
えた延長上にあるプロジェクトだと感じます。
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「みずほグローバルアグリイノベーション」を通じて結ぶ日本式農業とアフリカ
みずほグローバルアグリイノベーション
〈サービス内容〉
本サービスでは、海外における農業生産、品種改
良、農業機械等資材開発・製品化、流通体制構築な
〈概要〉
我が国の農林水産業は、小規模兼業農家が多く、
高齢化や後継者不足の深刻化など多くの課題を抱え
ています。これらの課題解決のため2015年6月に公
表された「『日本再興戦略』改訂2015」では、農林
水産業における「攻めの経営」の確立を掲げており、
農地集積・集約化に向けた取り組みの加速や、農林
水産物・食品の輸出促進を掲げています。
当社は長年培った農林水産業の施策立案、アグリ
ビジネスに関連するコンサルティングの経験を踏ま
え、少量高品質の日本の農林水産物の輸出促進には
限界があり、特に日本ブランドの農林水産物の輸出
産業化のためには、世界に安定した量、品質の供給
を可能とする体制作りが必須であると考えています。
一方、アフリカに関する調査研究の経験から、東ア
フリカ地域は広大な耕 作可能地をはじめ、安定した
ど実験・実証、事業のインキュベーションのご支援
を実施しております。
また、当該国における輸入可能商材の探索、製品
の共同開発などお客様のパートナーとしてビジネス
成功につながるサービスを展開して参ります。
〈サービス例〉
ルワンダ共和国
ルワンダ共和国では、現地実験圃場、育種用培養
設備、国内コールドチェーン、欧州市場への輸送ルー
トを確立しております。お客様は本プラットフォームを
活用し、アグリビジネスに関連する実証試験、本格的
な生産を実施することが可能です。また、輸出を行う
場合にはキガリ国際空港からオランダへの直行便がご
ざいます。
気候や豊富な労働力など農業生産における高いポテン
シャルを有しているにも関わらず、付加価値の高い農
産物を生み出せていない実態を把握しています。
これらの状況を踏まえ、日本の農業技術を活用し
た日本ブランドの農産物を東アフリカにおいて生産
することは、日本、東アフリカ双方にとってメリッ
トがあり、当社としても日本企業の進出を促すプラッ
トフォームを構築することが重要施策と考え、東ア
フリカを皮切りとした海外進出支援事業を実施する
「みずほグローバルアグリイノベーション」を立ち上
げました。
各ステージにおけるサービス内容
※「みずほグローバルアグリイノベーション」は、株式会社みずほフィナンシャルグループの商標です。
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Environment and Energy
環境・エネルギー
Management and IT
経営・IT戦略
Information and Communication
情報通信
Social Policy
社会保障
Science
サイエンス
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vol.11
2016年 3月31日 発行
発行:みずほ情報総研株式会社 コンサルティング業務部
〒101−8443 東京都千代田区神田錦町2−3
[email protected] 電話:03−5281−5301
http://www.mizuho-ir.co.jp/
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