光電子材料と薄膜センサーの開発に関する研究

光電子材料と薄膜センサーの開発に関する研究
フォト・りソグラフィー法におけるネガ型レジスト・パターン作製条件の最適化一
材料環境部
平井智紀臼井一郎玉井富士夫
フォト・りソグラフィー(コンタクト露光)法におけるネガ型レジスト・パターン作製
条件の最適化を品質工学の直交実験により行った.その結果,(1)今回抽出した要因の中で
転写後のパターン幅を制御するにはレジストの低粘度化と短時問露光を行う必要がある
また,レジストの調整ではエッチング而村生も考慮しなけれぱならない.(2)動特性の傾きが
得られたことにより,所望のレジスト・パターンを得る際に,マスクの設計で調整するこ
とができる.(3)今回選定した要因以外にもぱらつきを生じさせるものの存在がある.併せ
て,最適化した条件により4インチシリコンウェハー上に可視光干渉用回折格子を作製し,
2μmの線幅が広い領域に対して精度よく加工できることを示した
イ
1.はじめに
現在の電子機器および光学機器はますます小型化,
高機能化が必、要とされている.これらの多くは微細
加工の技術に支えられている.その中でもフォト・リ
るため,① ⑧の工程を対象とした.①では基板と
なるシリコンウェハーを純水などで洗浄し,②で水
分を蒸発させた.③の塗布にはスピンコーターを用
ソグラフィ法は集積回路およびメモリの配線パター
い,レジストにはネガ型のOMR-83(東京応化工業)を
使用した.鯏R-83の主成分はビスアジドと環化ゴム
ン,光学素子, N促MS (Micro E]ectro Mechanical
であり,70%の溶媒(キシレン)を含んでいる.ま
Syst師S)などにおいて重要な役割を果たしており,
今後も様々な製品の開発において必、要な技術と推測
た膜厚に影響を及ぽす粘度は30mpo・Sである.④の
プリベークは溶媒のキシレンを揮発させるために行
されている
い,⑤では転写後の寸法がマスクと同じになるコン
タクト露光法(光源波長λ・365 m)を用いた.⑥の
フォト・りソグラフィとは,光を照射して被加工物
である基板に回路パターンを形成する方法である
レジストと呼ばれる感光樹脂を基板に塗布し,あら
現像では光が遮られた部分を溶かし,⑦は現像液の
かじめパターンカ訪伍されたフォト・マスクの升会伏を光
2.2 実験条件
すすぎ,⑧はレジストの焼き締めである
上記の各工程から制御因子を抽出した.表1に各
で転写することで,その後行うエッチングに対する
これまで行ってきた基礎実験では,転写されたレ
要因と水準を示す.ここで要因Bのレジスト含有率
はレジストをキシレンで希釈し,粘度の調整を行う
ジスト・パターンの寸法再現性が乏しく,パターン
指標である.また,フォト・マスクには約2,3,6 μ m
同士が繋がることがあり,その後のエッチング加工
のL&S (Line&space)パターンを作製し,このLine
幅を信号因子とした.今回用いたレジストはネガ型
保護膜を形成する
ヘ大きな影響を与えることが分かってきた.そこで,
本報告ではフォト・りソグラフィ法の中でも重要な
王程であるレジスト・パターンの作製条件について,
であるため,パターン転写後マスク上のLineは基板
品質工学を用いて最適化を試みた
表1
レジスト・パターン作製工程は①基板洗浄,②乾
A.露光a岬占(託C)
B.レジスト含有率(%)
C.レジスト圖nv)
燥,③レジスト塗布,④プリベーク,⑤紫外線露光,
D.塗布回゛云製即nD
⑥現像,⑦りンス,⑧ポストベーク,⑨エッチング,
⑩洗浄,⑪レジスト除去の順である.今回は2 6μ
mのレジスト・パターンについて作製条件を最適化す
E.澗E回卿寺,胡(託d
Fフ゜りべークi品度(゜C)
G.現像時問(加田
H.ポストベーク温度(゜C)
-27ー
水地
0.1
0.5
水鞠
30
15
25
1
1.5
2
4000
6000
8000
20
如
釦
60
80
100
1
2
4
120
150
180
ftーレ,﹁ずノ子ミミt
2.1 実験方法
水準1
く i
2.実験方法
各要因と水準
4
上でSpaceとなる.基板におけるSpace幅を測定する
ことで,マスク形状の転写性を評価し,動特性のSN
リコン基板凸部の幅を測定した.また,エッチング
速度はエッチング後の加工段差を測定し導き出した
比で評価した.また誤差因子として,同じ基板上3ケ
所にパターンを作製した
2.5 線幅測定
2.3 実験の割り付け
フォト・マスクのSpece1順およびレジストLine幅,
エッチング後のシリコン凸部の線幅はレーザー顕微
表1の制御因子に信号因子を加えて,表2に示す
鏡(オリンパス光学製,OLS110のにより求めた.通
L18直交表に割り付けをおこなった.また,誤差因子
常,高倍率の観察には走査型電子顕微鏡を用いるが,
これらの測定では電子線によりレジストが溶けるこ
である繰り返しはn=3 とした
とが懸念されたためレーザー顕微鏡で測定した.ま
表2
測が行えるため,エッチング加工後の段差測定も併
ク温度
G
せて実施した
信号因子
ポストベ
F
現像時問
E
プリベーク温度
D
L18直交表
塗布回転時問
C
塗布回 転 数
B
レ、ジ ス ト 量
レジスト含有率
露光時間
A
た,レーザー顕微鏡は共焦点光学系により3次元計
3.実験結果
3.1 測定結果および評価
加工後の基板のSP印e幅を測定したデータおよび
M1
M2
M3
2.2
2.5
5.フ
μm
μm
μm
H
SN比を表3 に示す. SN比は以下の式より導出した
ー(S四ーレ')
リ= 1010g
2
3
2
2
2
2
2
2
3
3
3
3
3
3
2
2
3
3
3
3
2
2
2
3
2
4
7
3
8
3
2
2
9
3
3
10
2
11
2
2
12
2
3
13
2
2
14
2
2
2
15
2
2
3
16
2
3
17
2
3
2
18
2
3
3
3
3
2
で割って求めた.誤差変動S。は
2
3
3
2
2
3
3
2
2
2
3
3
3
2
Sβ= 1ル(ulyl + Uユy2 + U3y3)、
S/=個々のデータの2乗和
2
3
3
3
2
3
3
同表より,マスクの幅よりも基板上の幅が大きく
なるものが多い結果となった、なお,測定値が0と
2
2
2
2
と表せる.また y,,yヅyJ才個々のヨ十測データであり,
M,,M.,MJ才信号としたマスク線幅である
2
3
2
2
2
S,は信号因子の 1次効果, S,は全2乗和であり
3
3
β
3
【
S
2
3
S
2
2
L冒
e
2
6
ここで,誤差分散V は誤差変動S を誤差の自由度
S
5
(d召)
兀
3
3
表3
2.4 エッチング耐性試験
測定結果およびSN比
MI=22μm
=
n
今回抽出した要因の中で,レジスト含有率はキシ
n二2
n=3
n=1
M2=2.5 μm
n=2
"=3
n=1
M3=57μm
n=2
n=3
20
2.0
2.9
3.8
3.4
3.4
フ.1
フ.1
70
2
3.1
3.2
38
3
31
31
33
3.4
4.5
11
13
1,フ
5
16
1.1
23
6
2.4
2.0
2.3
72
フ.9
58
59
72
78
1.2
24
チング液は HF:HNofcH工0OH=9:171:20 とした.これ
7
0.0
0.0
00
28
00
8
25
2.4
2.6
はシリコン基板に対する等方性のエッチング液であ
9
0.0
0.0
2.4
3.4
35
38
32
3.9
0.0
27
33
0.0
42
33
4.5
2.6
12
13
22
0.0
3.4
27
3.1
0.0
38
43
1.フ
18
2.8
00
2.フ
24
72
79
4
37
4.5
16
23
27
00
2.5
28
0.0
0.0
レンで希釈し調整するため,エッチング液に対する
而村生が低下する懸念がある.そこで,エッチング液
に対するレジストの耐食性を評価した.なお,エッ
リ,エッチング速度が高く,表面は平滑になると言
われている n.また,フォトレジストをそのままエッ
チングのマスクとして使用できるなどの特徴があ
るD.エッチング而村生を評価するため,1分間のエッ
チングおよびレジスト除去工程を経て加工されたシ
-28-
10
11
32
57
6.1
SN比
(.)
9.143
10565
8133
6.1
1943
58
ご
69
69
6.9
5555
16.785
38
39
3.9
ーフ610
6.5
6
69
13.803
59
6.
6.1
-3.670
46
フ.フ
フ.9
8.0
8.006
33
67
6.6
6.8
16.742
40
フ.4
フ.5
0,0
4.9
5.2
75
5,0
ーフ.617
ーフ 624
10.681
14
0.0
00
0.0
00
00
0.0
4.8
5.1
51
15
00
0.0
0.0
0.0
00
00
4.5
4.4
3.フ
ーフ751
16
00
0.0
00
0,0
0.0
0.0
3.6
00
46
-12.887
17
00
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
3.0
3.4
3.0
ーフ674
18
0.0
00
00
0.0
00
00
4.0
39
39
ーフ610
分散分析を行い,各要因の寄与率を算出した.その
の寄与率が大きいことがわかる.一方,誤差が大き
く,今回の実験で抽出した以外の要因がぱらつきに
影響している結果となった.次に,図 1に各水準の
12
5
10
1
結果を表4に示す.これより,要因Bおよび要因A
14
(Ξご豊妻二令ヘKト
いうのは,レジストのパターン問が現像で溶けきれ
ず繋がってしまった状態を示している.次にSN比の
8
6 卜
4
一線形近似
2
0
影響を示す.この結果より,別, AI, H, C2の順に
SN比が高く,特に要因Bのレジスト含有率および要
0
3
2
4
5
6
7
8
因Aの露光時問が重要であることがわかる
基板の SP.ce幅(μ m)
表4分散分析表
2
C
13993728
2
70,0
D
44.94135
2
22.5
E
25.19129
2
12.6
F
120.43973
2
60.2
G
46.56685
2
23.3
H
5873113
2
29.4
265.40492
2
132.フ
誤差 e
Total
1666.39304
279.9
8.8
342.6
25.2
66.0
17
100.0
0、吠
68525114
図2 確認実験
寄与率(%)
O、
279.92935
B
分散V
X
A
自由度f
(旦)武鰹素令巡、入卜入H
平方和S
09876
要因
\
盆で)"誘
10、
0、
5
10
15
30
レジスト線幅(糸勺2 μ m)に対する
エッチング後の線幅の比
ここで縦軸はエッチング前のレジスト線幅とエッチ
ング後のシリコン基板凸部の線幅の比であり,比率
が大きいほど加工後のパターン線幅の変化が小さい
エッチング後のシリコン基板に形成された段差を
-400
-600
要因
図1
25
.
20%
図3
、゛
'
、0
(ン
々
0
ゞ
゛゛.
20
40、
30、
レジスト含有率四陶
i
800
L
1000
.
50X
0
1200
.
.
要因効果図
レーザー顕微鏡により測定したところ,使用した
エッチング液のシリコン基板に対するエッチング
3.2 確認実験
直交実験により各因子の影響がわかったので,確
レートは487nm/minであった.同図から,レジスト含
有率が15%付近で線幅変化率が極端に低下している
認実験を行った.条件はA1十別+C2+D3+EI+FI+G3+田
これは,レジストの線幅より細く加工されてしまい,
とし,直交実験と同様に3回の繰り返し実験を行っ
レジストのエッチング耐性が低いことを意味する
た.その結果を図2に示す'伺図に示した直線は最
逆にレジスト含有率が 18 25%で,エッチング耐性
が高い結果となった
小二乗法により導き出し, y=1.5X となった.幅が 2
3μmと微細な領域では基板側の幅は近似直線よ
り広くなり,それよりも広い6μm以上では狭くなっ
た
3.4 可視光干渉用回折格子の作製
以上の実験結果が広い領域に適用できるかを確認
するために,4インチシリコンウェハー上に可視光
干渉用回折格子を作製した.この回折格子のフォト・
3.3 エッチング耐性
レジスト含有率を 15,玲,20,25%に調整し,2 μ m
幅のパターンを作製,その後エッチング液により
エッチングを1分間行った.その結果を図3に示す
マスクは50mm角の領域に 1辺が500μmの六角形を
配列し,さらに六角形内部に2μmのL&Sが形成され
ている.このフォト・マスクを用いて露光からエッチ
-29-
^
幅で調整が可能であることを意味している.しかし,
今回抽出した要因以外の影響がばらつきに関係する
判、ト
可能性があるため,再度要因を選定し,再実験を行
、、、
う必要がある.また,レジスト含有率が15%付近で
はエッチング耐性が低下する結果となり,レジスト
、辻袋",,尋、,、
パターン転写精度とエッチング耐性の両立にはレジ
,゛
、ミ
'干乢、.、.、、゛一鳥.,゛4
スト含有率は18 20%が適当だと考えられる
5.おわりに
(D 今回抽出した要因の中で転写後のパターン幅を
制御するにはレジストの低粘度化と短時間露光
を行う必要がある.一方,レジストの調整では
図4 4インチSiウェハーに形成した
可視光干渉用回折格子
エッチング耐性も考慮しなければならない
(2)動特性の傾きが得られたことにより,所望のレ
ング,レジスト除去までを行い,作製した回折格子
を図4に示す.同図は,ウェハー上の50mm角の領域
で紫色から赤色の可視光を安定して反射しており,
ジスト・パターンを得るにはマスクの設言十で調
整することができる
(3)今回選定した要因以外にもぱらつきを生じさせ
るものの存在がある
広い領域に対して約2μmのL&Sが精度よく転写され
(4)今回の実験を基に,4インチシリコンウェハー
ていることを示している
に可視光干渉用回折格子を作製し,2μmのL&
Sが広い領域に対して加工できることを確認し
4.考察
実験の結果は,要因Aの露光時問と要因Bのレジ
スト含有率の影響が大きいことを示していた.要因
Aでは露光時間が短いことにより,遮光部に光が当
た
たる回折現象が引き起こす架橋反応の促進を抑制し
最後に,今回の実験に対して多くのご助言,ご支
援をいただきました品質工学研究会の会員の皆様に
ていると考えられる.また,要因Bではレジスト含
感謝の意を表します
有率が小さく,すなわち低粘度にすることによりレ
ジストの薄膜化が行われ,回折光や干渉光の影粋を
参考文献
抑えたことに起因すると考えられる
確認実験の結果から動特性の傾きが得られたこと
は,今後所望のパターン幅を得るにはマスクの[ine
D M.エノレベンスポーク, H.V'ヤンセン:シリコン
マイクロ加工の基礎,シュプリンガー・フェアラー
ク東京株式会社(20OD,即.199-200
ナ
-30-