歯科医院を目指す 増患戦略

Available Information Report for Corporate Management
経 営 情 報 レ ポ ー ト
地域に愛される
歯科医院を目指す
増患戦略
1 地域一番診療所を目指す差質化戦略
2 アンケート結果にみる差質化への方向性
3 差質化対策の具体的な活動内容
4 院内における差質化への取り組み
地域に愛される 歯科医院を目指す増患戦略
地域一番診療所を目指す差質化戦略
1│増患から増収へ
まずはじめに、増患を進める目的は、結果的には「収益の拡大」だと考えています。し
かし、最近では、「増患の結果が収益の拡大にはつながらないのではないか」
「単純に患者
を増やすことが本当に良いことなのか」という疑問もあります。
ここでいう増患とは、
「大量生産時代」
「工業化社会」
「高度成長時代」といった右肩上が
りの時代の考え方であり、多くの患者を集めることによって「数量×単価」の世界で収益
が拡大するという構図でした。
特に歯科医院、医療機関においては、健康保険制度がしっかりしていた時代の考え方で
あったといえます。
単
価
×
数
量
=
収
益
今までは、収益を拡大するには、単純に「数量」を増やせばよいという考えでしたが、
これからは、数量は変えずに「単価(価値)」を上げることで、結果的に収益を増やそうと
いう考え方が広がってきています。これからの「脱・工業化社会」
「人口減少社会」という
状況の中で、収益拡大という目的を達成するためには、これが正しい方針であると考えて
います。
したがってこれからは、増患ではなく、
「いかにして増収を目指すか」ということに考え
方をシフトしていく必要があります。単価も数量も両方取るということは、限りある時間
や人員の中では限界があり、それを超えて求めるのは難しいことです。
2│顧客価値と差質化戦略
前述の考え方を顧客にとって価値のあるサービスなのか商品なのかという「顧客価値」
を高めるための数式として表すと、下記のようになります。
顧客価値
=
サービスの質(受けるサービス)
コスト(その人が払うコスト)
1
歯科経営情報レポート
地域に愛される 歯科医院を目指す増患戦略
単純に顧客価値を高めるには、分子のサービスの質を上げて分母のコストを下げればよ
いのですが、コストを下げて、サービスの質を上げるということは、ビジネスの世界では
成り立ちません。現実には、下記に挙げるどちらかの戦略に的を絞る必要があります。
●低価格戦略
:
サービスの質を落としながら、コストをグッと下げる
●差異化戦略
:
コストを少し上げるが、それ以上にサービスの質も上げる
しかし、歯科医療という特性上、
「あそこの歯科医は腕は悪いけど、安いから行く」など
ということは、あり得ません。「あそこは少し高いけど、しっかりやってくれるから行く」
というのが、健全な考え方だと言えますから、「低価格戦略」の選択は考えられません。
したがって、選択する戦略は「差異化戦略」となります。
3│サービスの質とコストの中身
「差異化戦略」を推進するためには、
「コストの中身」と「サービスの質」がキーワード
になります。
(1)コストの中身
コストは、大きく下記の2点に分類できます。
■コストの中身
●価
格
●その他の費用
:
いいものは費用がかかるので上げても良い
:
できるだけ下げていく
その他の費用のひとつめは、
「待ち時間」です。患者さんも無駄な時間をかけたくないと
考えているため、これは短くする(少なくする)ことができます。
もうひとつは、心的なコストです。
例えば、行き慣れない高級ホテルに行ったときに、どうやって振舞えばよいか分からな
いとプレッシャーを感じます。その時、従業員に「場違いな所にきて」という態度をされ
ると、心的コスト(プレッシャー)が上がります。反対にさりげないサポートがあると、
心的コストは下がります。
価格だけではなく、あらゆることがコストになります。価格は上げながら、コストを維
持する、あるいは、下げるための工夫が必要です。
2
歯科経営情報レポート
地域に愛される 歯科医院を目指す増患戦略
(2)サービスの質
サービスの質は下記のように表すことができます。
サービスの質
=
結
果
+
過
程
■歯科治療の場合
●結
果
=
良い治療を受けられた
●過
程
=
その治療を受けるプロセスが安心して、あるいはリラックスしてと
ても良い感じの中で受けられた
これらを併せることで総合的にサービスの質を高めていきます。しかし、歯科医療技術
者は、この「結果」だけを見てしまう傾向があります。
しかし、患者さんからの評価は、その場ですぐに出るものではなく、
「先生の言う通りに
通院して治療をして良かった」と思ってもらう結果が出るまでに、何年もかかってしまう
こともあります。
この時に重要なのが「過程」なのです。サービスとは、その時間の経過の中で受け取る
もの、体験したものであり、まさに「結果」と「過程」の両方を受け取るものとなります。
3
歯科経営情報レポート
地域に愛される 歯科医院を目指す増患戦略
アンケート結果にみる差質化への方向性
1│差質化へのアンケート
差質化戦略が歯科界で言われ始めたのは、1997 年健康保険の個人負担が1割から2割に
上がった年です。この時、多くの歯科医院がパニックになりました。
こうした状況を受けて、ある歯科医師会が会員向けに調査した結果があります。
■Q.あなたの歯科医院の収入・患者数はどうなりましたか?
■収入・患者数減少の理由
●歯科医院が多くなったから
●競争が激しくなったから
●健康保険の個人負担率が上がったので患者さんの足が遠退いたから
差質化戦略が言われ始めたこの頃は、バブル経済が崩壊した時期であり、長引く不況の
中、上記のような理由によって歯科医院の経営も厳しさを増してきました。
一方で、患者が増えた歯科医院というのは、どのような状況・対応をとっていたのでし
ょうか。患者が増えた要因として、
「患者が歯科医院を選ぶようになった」ことが挙げられ
ます。
これにより、外的な要因だけで患者が集まるのではなく、「腕が良い」「対応が良い」歯
科医院であることが周知されれば、患者さんは集まることが分かったのです。
4
歯科経営情報レポート
地域に愛される 歯科医院を目指す増患戦略
■Q.今後あなたの歯科医院を活性化するための方策をお持ちですか?
これにより、実に7割の歯科医院において今後の方向性が明確になっていないことが分
かります。しかも、前設問で患者が減ったと回答した割合から鑑みると、具体的方策を持
つことが、患者を増やすか減らすかの大きな分かれ道であると考えることができます。
それでは、企業においてはどのような理由で顧客を減らしているのでしょうか。
■企業が顧客を失う理由
●死
亡
●転
居
●
友
●ライバル
⇒ 顧客が死亡
⇒ 近くにいたがよそに引っ越した
⇒ そこの商品は良くないから自分の使ってるほうがいいよと勧められる
⇒ 近くに同業他社が出店してきた
企業が顧客を失う理由のうち 18%は、その企業の実態とは関係ない「外的要因」です。
しかし、残りの 82%は、その企業が 嫌だ という直接的な理由によって、顧客を失って
います。
5
歯科経営情報レポート
地域に愛される 歯科医院を目指す増患戦略
これを歯科医院の患者の減少理由に当てはめてみると、健康保険の問題や景気の問題だ
けに収入減・患者減を結びつけるのは、必ずしも当たっているとは言えません。問題の本
質は「内部」にあると考えるべきです。
2│差質化はソフトウェアの争い
■このアンケートで分かったこと
企業の気に入らない所
●製品自体が
14%
●ソフト面が
68%
重要なのは「製品は良くないといけないが、競争をして、勝負を決めるのはソフト面で
ある」ということです。現代社会は、優秀なハードを持ったもの同士によるソフトの争い
です。
これを歯科医院に置き換えると、
「技術が悪い所は競争にも入れない」ということになり
ます。技術が良いことを当然の条件として、どこで勝負をするのかということや技術以外
のもの、これらを「ソフト」として扱います。
(1)ソフト面の「無関心」
ソフト面での顧客に対する「無関心」というのがあります。売るまでは必死でも、売っ
た後は知らないという状態のことです。
高級車を買いに来て、結局買わなかった顧客にアンケートをとった結果「買いにきたけ
れど、誰にも声を掛けられなかった」
「この人には高級車は買えないだろうと思われた」と
いった回答が寄せられました。この顧客は「この車は買うが、あそこでは買わない」と誓
うはずです。このような、対応などのソフト面に対する無関心というのがあります。
(2)ソフト面が重要となった背景
●原点は 1945 年の敗戦 : 生産力はゼロ、ただし需要はあった
●1980 年代半ばから、生産が復興。需要を追い抜き、物不足・数量が必要であった
時代から、物余り・量よりも質という価値観への変化が出てきた時代になった
●日本では、1985 年あたりからバブル経済になり、物の価値がなくなった。気が付
いたら生産調整に入り、過剰在庫・過剰債務・過剰人員を調整しなければならな
くなった。多くの企業が大量生産社会から「質」重視に変化した
歯科医院の経営は、このような影響をあまり受けずに営まれてきました。健康保険制度
に守られていたことが、その大きな要因になっています。国家の保護があった産業は、銀
行をはじめ建設業など、その後、多くの企業が衰退・整理されていきました。
6
歯科経営情報レポート
地域に愛される 歯科医院を目指す増患戦略
(3)健康保険制度と医業収益
●健康保険制度ができた時代は 1961 年 : 戦後 16 年
全体的に貧しく、満足に医療を受けることができない時代だったため、皆で平等
に負担しようという社会正義が存在した時代
●現在の生活はガラリと変わったが、健康保険制度だけは平等の医療ということで
変わらず存在している
しかし、最近では平等な医療を求めない人が増えています。お金は払うから、より良い
医療を提供して欲しいという人達です。健康保険制度に自分の健康を委ねるのではなく、
自分の収益を委ねているのが医療機関だという考え方です。本来では、健康保険制度は患
者のために存在していたものですが、現在では医療機関のために存在しているようになっ
ています。
2割負担・3割負担を反対するのは医療機関ですが、本当は負担を強いられている国民
が反対をすべきところです。しかし、国民からはさほど反対の声が起こらない。健康保険
が改正すると、反対するのは医療機関です。医療制度は一体誰のために存在するものなの
でしょうか。
「社会の価値観が変わっているのに、保険制度にばかり収益の全体を委ねていてもいい
のか。そういうことをしていると、足元をすくわれるよ」と医療機関に対する警鐘をなら
しています。このような社会変化の中で変わるべきものは変わらなければなりません。し
たがって、歯科医院の収益を健康保険には委ねない姿勢が必要となってきます。
公定価格
−
原
価
−
経
費
=
利
益
上記の算式で利益を上げるには、公定価格は変えられないため原価を下げて経費を下げ
るしか方法はありません。しかし、お金のかかる検査や材料を購入して人件費もそれなり
に使わないと気持ちのこもったサービスが提供できないことも事実です。
この式では短期的には、少しの収益が上がるかもしれませんが、長期的にみると、絶対
に利益は上がりません。そこで、公定価格の数量だけをこなそうとして、増患という発想
になり、「×数量や×分院」といった考え方になります。
そもそも、ここで利益を上げようと考えてはいけません。利益は自由診療で上げるべき
です。価格は自分で相手と交渉してより良いものを説明して、治療内容に見合う利益をも
らうようにするべきです。
原
価
+
経
費
+
利
7
益
=
自由設定価格
歯科経営情報レポート
地域に愛される 歯科医院を目指す増患戦略
そのためには、まずは、原価ありきです。必要な設備等はきちんと購入して、良い検査
をして、良い治療ができる環境作りを行い、そしてそれを提供できるグレードの高いスタ
ッフを雇用します。その上で適正な利益をプラスして価格を決めていくべきです。
このように設定された価格が「自由設定価格」です。これを自分で意識して利益を出し
ていくことが大切です。
健康保険制度を利用して、こうして欲しいと要望を出している患者さんへの対応も重要
です。しかし、それらの対応を多く実施することによって利益を上げてはいけません。
利益は自分が本来、これで上げようと思ったものの中からやっていく。これからのやり
方としてはこれが正しい姿であると考えますし、そのような歯科医院がこれからは求めら
れていくと考えます。
従来の増患対策とは異なった「収益を重視」した診療のやり方を考えていく必要があり
ます。
8
歯科経営情報レポート
地域に愛される 歯科医院を目指す増患戦略
差質化対策の具体的な活動内容
1│サービス・プロフィット・チェーン
サービス・プロフィット・チェーンとは、サービスと利益は輪のように繋がっていると
いう意味です。より良いサービスを提供すれば結果として利益になって返ってくるという
ことを表しています。
この利益をもたらすのは誰かというと、顧客ロイヤリティー(忠誠心の高い顧客)です。
■顧客ロイヤリティーの形成
●顧客満足(CS)の確保
■顧客満足はどのように高めるのか
●提供するサービスの質・価値
●スタッフの定着率(高くなくてはいけない)
●スタッフの生産性
サービス提供者という意味では、院長も含めて考えてください。こういった点が
高まっていかないと、いいサービスは提供できません
■定着率や生産性は何によってもたらされるのか
定着率や生産性は従業員満足(ES)によってもたらされます。ESを高めることによ
って、スタッフの定着率や生産性は向上します。また、ESは院内サービスの質によって
ももたらされるものであり、院内サービスの質は結果として利益をもたらします。これが
チェーンのように繋がっていくのです。
2│院内サービスの質
(1)職場環境の整備
良い職場になっているか、学習する組織、スタッフが成長する組織であるか
職場環境の整備、具体的にはミーティングルームの有無です。多くの歯科医院はこのミ
ーティングルームを作れません。医局ではスタッフルームと兼用しているケースが多いで
すが、実際には兼用できる雰囲気ではないでしょう。休憩室なのでリラックスしていいの
9
歯科経営情報レポート
地域に愛される 歯科医院を目指す増患戦略
ですが、ミーティングルームを兼用しているということを定義づけなければなりません。
例えば、ホワイトボードの設置や小さくても各自のデスクがあったほうが良いでしょう。
実際に、改装時などにそのような整備を実践した歯科医院は成功しています。
(2)職域の整備
スタッフそれぞれが行う職務を明確にすること
「歯科衛生士」
「受付」兼「アシスタント」兼「掃除」など全員が兼務している歯科医院
が多く存在します。はたして兼務させることで、そのスタッフのモチベーション向上につ
ながっているのかについては、疑問があります。
歯科衛生士は本来の歯科衛生士というスペシャリストとしての技能をまっとうすべきで
す。歯科助手についても歯科助手としての独立した仕事をきちんと職務分担すべきです。
大切なことは歯科助手にも優秀な人間を入れることです。優秀な歯科助手が優秀な歯科衛
生士を育てるのです。
誰もが嫌がる掃除などは、パートや外注業者に依頼するなどして、それぞれが自分の職
務に誇りを持てるようにすることが大切なのです。
■歯科助手の職務例
●院内の衛生・安全担当として、レベルの維持、責任を負わせることが大切です
●歯科医師や歯科衛生士の立場は専門家ですから、素人発想がなかなかできない部
分があります。患者の立場が分かるのは、立場の近い歯科助手なのです
●資格はありませんが、患者の気持ちを一番つかめるような立場にいるため、最大
限にそれを活かしてもらうべきです
以上のような取り組みによって歯科助手が活きてきます。そして、歯科衛生士も歯科医
師も活きてきます。これが院内サービスの品質の1つです。
(3)福利厚生面の整理
●これからの展望として「託児施設」などの設置で継続して勤めてもらう、あるい
は小さな子供がいるお母さんでも通院できるような工夫をする。様々な意味で託
児施設は使い勝手がよく、付加価値を生みます
●退職者を予備役制度・OGサークルに入れて管理します。将来、環境が変化して
再び勤務できるようになった場合にはスムーズに勤めていただける仕組み作り
を行ないます
●長年、現場から離れていると不安になります。そのため、サークル(予備役)に
入り、年に2回程度、院内で研修を行い、新しい医療を勉強して勇気づけあう。
そのような制度を取り入れることが大切です
10
歯科経営情報レポート
地域に愛される 歯科医院を目指す増患戦略
このような院内サービスの品質について、他とは違う色合いを打ち出すことが、結果と
してスタッフサービスに繋がっていきます。また、スタッフ満足の根本は給料です。給料
が低いと良い人材の採用や確保はできません。
(4)最近のビジネスのキーワード
●「か」
=
感
動
●「け」
=
健
康
●「い」
=
癒
し
歯科医院には、この3つのすべてが関係します。従業員満足を高めていくためには、給
料だけではなく、内的報酬(承認)も重要となります。
従業員満足に大切な要素
外的報酬
=
給料
内的報酬
=
承認
人間が社会生活を営む上で大切な「重要感」(必要とされている)、「有能感」(すごいな
と思われる)
、
「好感」
(好かれる)という3要素があります。その万人共通に持っている気
持ちを認めてあげることが動機づけになります。
(5)定着率は高めた方が良い
スタッフは定着してくるとミスも減り、効率も良くなります。余裕ができるので患者さ
んとのコミュニケーションもとれます。スタッフが代わってばかりいると患者さんに長続
きしない歯科医院だという印象を与えてしまいます。
スタッフが定着しない歯科医院に患者は定着しません。また、スタッフを募集しても応
募がない医院には患者も来ません。従業員満足(ES)と顧客満足(CS)は基本的には
同じと考えても良いでしょう。ただし、デメリットは惰性に陥ってしまうということです。
その点に注意することが必要です。
(6)スタッフその人自身が商品
医療機関は、健康を売っているビジネスです。そのため、スタッフがイキイキしている
ことが大切です。こうしたことが、提供サービスの品質を決め、価値を高めることに結び
つきます。
常に自分たちが提供しているサービスの質は高いのか、あるいは価値として受け取って
もらえるかを把握しておく必要があります。
11
歯科経営情報レポート
地域に愛される 歯科医院を目指す増患戦略
■事
例
●「今日はどうでしたか?」「いかがでしたか?」と声をかけます。ドクターは良
いことしか言わないため、そのフォローが、助手の仕事になります。助手が見て
いて気づいたこと「痛そうでしたが大丈夫ですか」
「時間は大丈夫ですか」など、
患者さんに声をかけることが重要です
●治療が終わって待合室に戻るまでリサーチ(PS)をしてあげることが大切です
●リサーチは必ずレポートとして蓄積していきます
●カルテと一緒に病歴とは関係のない、患者さんとの会話の中で出た顧客情報を別
のシートに記録します。細かく記載すると膨大になってしまうため、メモ程度に
止めます。それが、コミュニケーションの原点です
●インシデントレポート(ヒヤリ・ハット体験)を導入します。業務上「このよう
なヒヤッとしたことがありました」という情報を1人で止めてしまわずに医院全
体で共有し、事故を防ぐ仕組みを作ることが重要です。また、突発的なアクシデ
ント(地震・火事など)にも対応ができるよう年一回くらいは訓練をしておく必
要があります
顧客満足(CS)を高めていくことは重要ですが、リサーチ(PS)を行うことも大切
です。CSに満足せずに大きな喜び(デライト)を相手に与える取り組みを行なわなくては
なりません。大きな喜びを与えるためには、1人1人個別に対応することが必要なのです。
(7)顧客ロイヤリティーが向上する
患者さんが何人来るかではなく、誰が来院するのかが大切なことです。その患者さんに
合わせて、どのような診療・治療を施すのかが重要であり、こういった取り組みによって、
ロイヤリティーを高めることにつながります。
■歯科医院の顧客は半径約 500m以内〜1km がマーケットになる
歯が悪くなる
痛くなる
我慢する
我慢
しきれなくなり
初診に来る
「初診」として来院するまでには、上記のようなプロセスがあります。通常ならば、そ
の患者さんは再診として通院しますが、この段階で、失ってしまう患者さんも多いです。
■事
例
真面目に通院しているロイヤリティーの高い患者さんを守るべきですが、飛び込
みでやってきた患者さんを優先して診療するなど、営業的に患者を逃さないという
発想が、ロイヤリティーの高い顧客に誠実さを欠いていると思われる。結果的には、
診察時間の予約(約束)をしているのに、待たせてしまうことになる
12
歯科経営情報レポート
地域に愛される 歯科医院を目指す増患戦略
守るべきものは何かを考えて、ロイヤリティーの高い患者さんを多く育てていくことが
大切です。そして、完治した患者を「固客」にしていくと継続的な関係になります。価値
観の合った患者さんを大切にしていくことが重要です。
3│顧客(患者さん)の格付け
現在、自分の医院に患者さんが何人いるか?その内、メンテナンスで通院している患者
さんは何人か?初診は何人か?完治まで1ヶ月ぐらいの人は何人か?紹介を受けてきた人
は何%か?などという顧客分析のレベルになるとできていない医院がほとんどです。
顧客ロイヤリティーを高めるための1つの方法として、少なくても年1回は顧客の棚卸
的なことをやった方が良いでしょう。
■棚卸し方法(点数表)
A
事例
○さん
G
K
H
縦
軸
A:完治してメンテナンスに入ったが3年以上来てくれている
B:完治後メンテナンスで通院中の人
C:完治後再来院(一日ぐらい)
D:初診後通院中(将来はわからない)
E:完治したがリコール
F:中断したがまた来てくれた
G:中断しっぱなし
横
軸
H:遅刻もキャンセルもしない(約束を守る)
I:遅刻が多いがキャンセルはない
J:遅刻はないがキャンセルが多い
K:約束を守らない
縦軸A・横軸Hが一番ロイヤリティーが高い状態です(完治後のメンテナンスに入った
が3年以上来てくれ、遅刻もキャンセルもしない)。このように、点数をつけると患者格付
けが分かりやすくなります。これをスタッフの患者育成の成果として考えて活用します。
個人的な目標や励みが明確になり、患者格付けの向上にもつながります。
13
歯科経営情報レポート
地域に愛される 歯科医院を目指す増患戦略
院内における差質化への取り組み
1│診療手順のマニュアル化
より良い医療サービスを提供するための手順をまとめたオリジナルの「診療手順マニュ
アル」を作成します。
作成は、悪い部分について調査し、診断を行なうことから始めます。続いて治療方法に
ついて検討します。歯科医療では、「材質は?」「費用は?」など、患者さんに提示・打合
わせをして合意するというプロセスが無視されることが多いのが現状です。そのため、マ
ニュアルを作成して手順の標準化を図ることが必要なのです。
■歯科治療の行程表
①患者の悩みを聞きだす
②入念な検査を行う
③的確な診断を下す
④治療方法の提示
⑤使用する材料の種類と特徴
⑥費用についての説明をする
⑦科学的根拠に基づいた治療計画を立てる
⑧治療計画書・治療見積書・工程表を提出する
⑨契 約
⑩治療開始
⑪治療を終了
⑫完治後の注意事項の説明書を提示して、的確なフォローアップを継続する
⑬新たな治療が発生したり、顧客の紹介がある
今までのような保険診療が中心の時代には、保険内での治療が前提であったため患者さ
んも何も言いませんでした。しかし、これからはもっと患者さんにとって「最善の治療」
を行なうことに注力するべきです。
最善の治療が保険の範囲内であれば、そのままで構いませんが、保険外であっても良い
治療法があるのであれば、その方法を患者さんに伝えるべきです。このような具体的な診
療内容に係わることは、医師が直接言わなければ分からないことです。治療にかかる期間
や費用についても同様に伝えるべきです。
中には、患者さんに保険外診療の内容を伝えない理由として、
「金儲け主義だと思われる
のが嫌だから」と答える医師もおりますが、あくまでも患者さんが判断することであるた
め、伝えなければ始まりません。
14
歯科経営情報レポート
地域に愛される 歯科医院を目指す増患戦略
また、完治した後のフォローアップは継続して行なうことが大切です。クレームについ
ても、きちんと対応することで信頼感が生まれ、後に繋がります。
■このマニュアル作りの効果
●マニュアル作りにかかわったスタッフが手作りし、名前が残ることで、モチベー
ションが高まる
●顧客ロイヤリティーを高められる
●業務手順をしっかりすることによって、良い治療がきちんと出来る
●提供出来るサービスの品質と価値がブレないようにする効果がある
2│スタッフへのアンケートも有効
スタッフに対するアンケートの実施も差質化に効果があります。普段、業務を行ないな
がら感じていることなどを「当院についての率直な意見をお願いします」という形でくみ
取ります。医院の潜在的な問題点などが明らかになります。
■アンケートの設問例
①あなたは、当院のどのようなところが気に入っていますか。または嫌いですか
②当院の行っていることの中で、おかしいと思うことを5項目挙げてください
③当院で、スタッフが話題にすることを恐れている問題は何ですか
④もし、あなたが当院の経営者なら、どの部分でやり方を変えますか
⑤患者が当院のことを嫌だなと感じるとしたら、どのようなところだと思います
か。また、良いと思うところはどのようなことだと思いますか
⑥当院が、最も対応出来ていないと思う患者層はどのような人達だと思いますか
⑦当院は、よりよい成果や生産性に対して他の歯科医院より高い報酬を与えること
で報いていますか。あるいは、他の歯科医院よりもスタッフを大切にする組織文
化を築いていると思いますか
⑧競合する歯科医院が、当院よりも多くの患者に支持されているのは彼らの技術や
設備が当院より優れているからだと思いますか。それとも、患者との関係づくり
が上手だからだと思いますか
⑨当院は、変化の速度を認識できていますか。それとも、古いビジネスモデルがい
まだに有効だと思うふりをしていますか
⑩最近、当院が実践した最高の成功例は何だと思いますか
アンケートの回収方法は、各自がコンサルティング会社に郵送するようにします。誰が
書いたか分からないように統計を出すことで、ある程度、本音を聞きだすことができ改善
のきっかけになる効果があります。
これからの歯科医院は、バリューによる差異化が重要になります。
15
歯科経営情報レポート
地域に愛される 歯科医院を目指す増患戦略
●どういうことを考えている、何を大切だと思っている人達か
●どういうことを提供しようとしているのか
これからは患者さんの共鳴や共感に基づいて歯科医院が選別される時代になります。
例えば、女性下着メーカーのワコールでは、下記のような価値観に基づいて事業を進め
られてきました。
■ワコールの価値観
創業以来、
「女性に美しくなって貰う」こと、
「女性が美しくなることをお手伝いす
る」こと、「女性の
美しくありたい
という願いの実現に役立つ」ことを事業の
目的として努力してきました。
同様に「歯科医院の仕事は何なのか」と問われた時に、単なる歯の修理屋で終わったの
では、まさに枠の中の話なのです。
そうではなく、
「日本の社会に活力を与える」これが我々の仕事なのです。というような
理念を抱いて仕事をして欲しい、と常に思います。それを聞いたスタッフは、前向きにや
る気になります。
誇りを持って仕事に取り組むことで、日本の社会に活力を与えることができると思いま
す。
※本稿は、平成 19 年9月 27 日に開催された『BMC医業コンサルティング特別講座』
(講師:㈲DBMコンサ
ルティング 代表取締役・コンサルタント 宮原秀三郎氏)の講義録を基に編集・作成しております。
16
歯科経営情報レポート