リーダーシップセミナー - ガールスカウト日本連盟

World Association of Girl Guides and Girl Scouts
WAGGGS Leadership Support Resource Material
あなた自身のリーダーシップをみつけよう
Exploring Your Leadership
2012.10
リーダーシップセミナー
参考資料
目次
はじめに
4
リーダーシップ理論の流れについての概論
6
あなた自身のリーダーシップを見つけよう―――
リーダーシップとは、リーダーとはなにか?
9
リーダーシップについての考え方
15
WAGGGSにおけるリーダーシップを理解する
26
あなたがリーダーシップを発揮できる分野とは
31
エンパワーメントとリーダーシップ
34
行動計画を立てる
36
おわりに
39
はじめに
リーダーシップについてのこの冊子は、各連
盟のリーダー育成や連盟自身の成長発展を支
援するためにうまれました。リーダーシップにつ
いての理論や議論すべきポイント、実行に移す
ためのヒントや個人的な振り返りに役立つ気づ
きなどを提供する実践的なものとなるよう作られ
ています。また、WAGGGSリーダーシップ開発プ
ログラム(WLDP)で用いられて成果をあげた方
法論や行動指針、学習法などをもとにしており、
あなた自身や連盟がリーダーシップを開発する
ための道のりを一歩ずつ進む際の手助けとなる
でしょう。
この冊子はWAGGGSリーダーシップ開発プログ
ラムの利点を分かち合いたいという加盟連盟の
要請に応えたもので、さらには、WLDPの戦略をそ
れぞれに取り入れようとする各地域の各連盟の
動きを支援するものでもあります。
まだ試行的なものなので、実際に利用してみた
感想やフィードバックは大歓迎です。加盟連盟か
らの要望をどの程度満たした内容になっていたか、
2011年後半にいくつかの連盟に尋ねたいと思って
います。とりわけ、フォーマットや内容についての
コメントや提案をいただければ幸いです。今後の
資料作成に生かしていきたいと思います。
モジュール全体のねらい
個人、チーム、連盟といったそれぞれのレベル
でのリーダーシップについて、時代を先取りした考
え方をより深く掘り下げて体感することがねらいで
す。具体的には、次に挙げる課題に取り組むこと
になります。
・個人、チームの一員、そして連盟を構成するメン
バーとしてのあなた自身にとって、リーダーシッ
プ開発はどのように関わりがあるのか、また、リ
ーダーシップをどう理解・実感しているかについ
て話し合う
・連盟内でリーダーシップがどのように実践されて
いるか、また、リーダーシップについてどのような
アプローチや定義が用いられているか、より深く
知る
・さまざまなリーダーシップ・スタイルの違いについ
て、また、リーダーシップ・スタイルが個人や組織
内でどのように発展していくか、見分けられるよ
うになる
・連盟の発展に、あなたがリーダーシップを発揮し
て寄与できるような情報を理解し、実際に活用で
きるようになる
4
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
Introduction
学習の方法
対象となる層
この資料は、経験や学説から得られ、実践に応
用することも可能な学びの方法を基につくられて
います。WLDPでは、次の考え方を基本原則として
います。
この資料は、各加盟連盟の理事を主な対象とし
て作られました。連盟全体を先導する役割を個人、
またはチーム全体として果たせるようにするのが
目的です。
結びつけて考える:参加者の立ち位置がどこか、
そこから考え始める――参加者が経験から得て
きた学習法を確認し、なにを知っているのかを出
発点にする
リーダーシップと学び
殻を破る:新たな考え方や方法論から、新たな学
びの方法を取り入れる
挑戦してみる:従来とはまったく違う視点から考え
てみるよう促し、ぬるま湯から飛び出して新しいこ
とにチャレンジするよう勧める
実際に行動する:望ましい変化をもたらすための
斬新なアクションプランが生まれるよう、あらゆる
方策をとってみる
この資料ではラーニング・ログ(学びの記録)を
紹介しています。これはリーダーシップ開発プログ
ラムにおける個人の学びや感情の動き、アクティ
ビティや経験、それを通じて思ったこと、また、新
たな行動のための構想を記録していくツールです。
課題を行っている間、気づいたことがあればいつ
でも記入してみましょう。各セクションの終わりに
スペースを設けてあるので、自分だけの学習記録
としてのちに利用できるよう、自由に活用してみて
ください。
指導者としての学びに終わりはありません。結
果を出すリーダーは、自ら学び、考え、そこからな
んらかの意味を見いだす能力を持っています。ま
た、あらゆる経験を基に得られる新たな考え方や
学びをしっかり受けとめ、一生学び続けていく大
切さを知っているひとです。リーダーとしての自分
について知る過程では個人的な考え方の癖に悩
まされることもあるかもしれませんが、それ以上に、
あらたな考え方をたくさん吸収する機会に恵まれ
るでしょう。
この資料にある課題を行うことによって、あなた
自身や連盟はリーダーシップについてより深く学
び、発展させられるでしょう。それはとりもなおさず、
あなたの指導力がもっている可能性をフルに生か
し、さらに強化することにつながるでしょう。
このresource(資料)の使い方
まる一日のワークショップの材料として、たとえ
ば理事会でのディスカッションなどに使うこともで
きますし、個人的に読んで考える手助けにもなる
でしょう。また、チーム全体で用いることもできます
が、ファシリテーターがいるとスムーズに学ぶこと
ができるでしょう。
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
5
リーダーシップ理論の流れについての概論
リーダーシップという言葉がもつ意味合いも変
わりつつあります。肩書きだけのリーダーや上下
関係だけによるリーダー、力で押しつけてくるリ
ーダーに独裁的なリーダー、任務を終えたかどう
かだけを気にするリーダーといった、リーダーシ
ップについての従来の考え方は実態に合わなく
なってきています。というのも、今日の世界では
リーダーに求められるものも変化しており、予測
不可能で不確実な状態が当たり前になっている
からです。経済や社会の変化が地球規模で起こ
っている現在、柔軟な考えを持って敏感に反応
を示し、周囲と協力しながら独創性を発揮できる
リーダーが必要なのです。リーダーは、ともに活
動する個人やチームを巻き込んで、その成長を
促すよう求められており、先行き不透明なこの時
代ではこれまでとは異なるレベルのリーダーシッ
プやスタイルが必要なのです。
「……今日では、リーダーシップとは〝突出し
たもの〟であってはいけない。どこから見てもわ
かりやすいものでなければならないのだ。そして、
変わり続ける世界を生き抜くために企業はみな、
組織内いたるところで若いリーダーを養成するよ
う積極的に動き、世代が上のリーダーたちが持
てる知識を下の世代に継承するよう働きかけて
いくべきである。リーダーシップとはいまや、だれ
もが備えておくべき標準的な能力であり、例外的
な能力ではない……。リーダーシップとは、企業
のトップに君臨する優秀な指導者がもっているだ
けのものではないのだ……」
バリー・ザルツバーグ デロイト会計事務所CEO
6
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
過去10年間における、リーダーシップ
理論の変遷
著しい変化としてあげられるのは、〝俺につい
てこい〟というヒーロー的なリーダーではなく、周
囲との協力を重んじて自ら先頭に立つ人物が望
ましいとされるようになった点です。白馬にのっ
て颯爽と現れて、ぎりぎりのところで窮地を救っ
てくれる男性がリーダーだという時代は終わった
のです。リーダーについての概念や、リーダーシ
ップをどのように育むべきかといった問題につい
て特筆すべき三つの点を次に紹介します。
リーダーが〝なに〟をすべきかではなく、
リーダーが〝どう〟動いたか
1960~70年代のリーダーシップ理論は〝リー
ダーがなにをしたか〟、特に、どのような〝行動〟を
とったかといった問題に関心を向けていました。
従って、リーダーシップ開発も、ある特定の行動
ができるよう教え込むことにばかり特化していま
した。しかし、この十年間は、リーダーと呼ばれ
る人びとが〝どう〟動いたかという問題のほうに
より重きを置かれるようになってきました。たとえ
ば〝道徳的に正しい〟リーダーシップや〝賢明な〟
リーダーシップ、〝政治的な問題に気配りができ
る〟リーダーシップへの関心が高まってきたの
です。これは、リーダーの行動において価値観
が中心的な役割を占めるようになったことの現
れです。また、そういった価値観を意識して活動
できるリーダーを育てるような開発プログラムで
なければならない、ということに他なりません。
Trends in leadership – an overview
リーダー個人に目を向けるのではなく、
チーム全体で協力して、構成員ひとり
ひとりが能力を出し合えるようなリー
ダーシップに着目するようになった
〝分散型リーダーシップ〟という考え方があり
ます。これは、タスクを遂行するために必要な専
門的技術や知識をもった複数の人物がそれぞれ、
自分の得意とする分野において、指導的役割を
リレー形式で果たしていくというものです。重要
なのは、リーダーシップを発揮するのがひとりだ
けではないという点です。タスクを遂行するため
なら、リーダーはその立場に固執せず、降りる
べきときは降り、フォロワー(リーダーに付き従っ
てきた人)でも、必要なときにはリーダーシップを
取る立場に立たなければならないのです。その
ためには、あるタスクを遂行するグループの構
成員各自がもっている固有の特性や才能にきち
んと目を配り、敏感に反応することが必要です。
また、リーダーの側には、フォロワーが一歩踏
みだして指導的地位に立てるような度量の大き
さを持つことが求められます。
こうあるべきというリーダーシップでは
なく、徐々に発達するリーダーシップ
に移行
最近では、リーダーシップとはさまざまな側面
によってもたらされた結果だ、という見方が大勢
を占めています。実のところ、ちょうどいいときに
ちょうどいい(あるいは、誤った)場所にいたに過
ぎないということです。リーダーたるもの、個々
の状況において何が必要とされているのか、ま
た、どうすれば自分が最善の貢献ができるのか
といった問題に気を配らなければなりません。
先の見通しが立ちにくい時代とともに生き、精神
的な安定を育むための緊急的な課題に取り組
めるリーダーを育てることが、リーダーシップ開
発の目指すべきところでしょう。また、話をじっく
り聞いて、違いをよく理解したうえで周囲ととも
に活動する能力も必要です。
将来におけるリーダーは、コミュニティやその
構成員がもつ才能を高める人物でなければなり
ません。気候変動や主要な資源の減少といった
地球規模の関心事がうまれ、貧富の格差がま
すます大きくなっている昨今では、違いを越えた
対話や倫理的な問題に積極的に関与できる資
質がリーダーには求められます。また、リーダー
としての自分の役割を謙虚に見つめ、他者にそ
の立場を任せたり、先見性をもつことも必要でしょ
う。
ドナ・ラドキン博士、Centre for Executive
Learning and Leadership、クランフィールド大学
ビジネススクール
(ラドキン博士はWLDP開発の協力者のひとり)
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
7
Trends in leadership – an overview
メ モ
8
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
あなた自身のリーダーシップを見つけよう――
リーダーシップとは、リーダーとはなにか?
わたしたちは日々、あらゆる場面でリ
ーダーシップに遭遇しています。わたし
たちは自らを導き、他者を導き、また、
他者に導かれています。このセクション
では、あなたのリーダーシップがどこか
ら生まれて発展してきたのかを探り、
連盟の理事、意思決定者、そして他者
を導くべき指導者としての役割に関連
づけて考えていきます。
あなたはリーダーシップをどのように理解していま
すか?
また、リーダーシップに関する体験はどういったも
のですか?
「他者を知るのは理解。自己を知るのは真の智慧。
他者を支配するのは強さ。自己を支配するのは真の
力」(老子『道徳経』)
リーダーシップを体験してみよう
目的
リーダーシップ体験を共有するため
さまざまなリーダーシップ体験の理解をより深めるため
手順
3~4人のグループになり、「語り手」「インタビュア
ー」「観察して記録をとる人」の役割を順番にやって
みる。
参加者はそれぞれ、自分のリーダーシップ体験を
話す。自分がリーダーを務めたときのことでもいいし、
ほかのリーダーに従った際のことでもいい。よかった
体験だけでなく、そうでなかったことについても話して
みよう。インタビュアーは、その体験をより深く理解す
るための質問をする。話が終わったら、観察して記
録をとる人は、どんな感情を感じったか、どんなとこ
ろにリーダーシップを感じたかを話す。全員が話し終
えたら、そこから気づいたことをグループでまとめる。
この課題の結果や感想を共有してみよう――自分
自身や、グループ内のほかのひとについて、またリ
ーダーシップについてなにを学んだか?
リーダーシップとは、それを発揮する人物の能力や
力量、適性に左右される。
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
9
Exploring Your Leadership – What is Leadership and who is a Leader?
実習1B:目隠し体験
リーダーシップに必要な適性とは?
自分が尊敬するリーダーを思い浮かべて、その
ひとが持っている能力や知識、適性についてリス
トアップしてみる。
リストアップしたものを二人一組で、また、大人
数のグループで共有する。
今までとは違う目を向けて、リーダーシップを新
たに理解できたら、この課題の重要な部分にチャ
レンジしてみよう――あなた自身のリーダーシップ
を見つけるのだ。
実習1A:ミラー・エクササイズ
目的
他者を導き、導かれるとはどういうことか、それ
を実感する
手順
二人一組となり、一方が〝鏡〟、もう一方が〝
実在するもの〟を演じる。
二人の間に見えない線を引き、それを鏡とする。
合図とともに〝実在するもの〟を演じるひとが動
きだしたら、〝鏡〟を演じるひとはそれをできるだ
けまねてみる。動作を模倣するだけではなく、鏡を
表す線からの距離も同じくなるようにすること。
最長2分間やったら、役割を交換する。
ペアを組んだ二人で感想を述べあい、その結果
を全体でも簡単に報告する。
・〝鏡〟になってみて、どう感じたか?
・相手を導く立場にたって、どう感じたか?
・この実習をやっての感想や気分に対して、どう思
ったか?
・この実習から、リーダーシップについてどんなこ
とが学べるか?
目的
慌ただしい状況でひとを導き、また導かれるとは
どういうものかを体感する
リーダーとそれに従うフォロワーの関係における
信頼のもつ側面について学ぶ
手順
二人一組となり、一方が目隠しをする。
目隠しをしたひとは目隠しをしていないひとにすべ
てを委ねて導いてもらう。
五分経ったら、役割を交換する。
導く立場のひとは、自分に従ってくれるフォロワ
ーに話しかけたり、なにが見えるかを話したりして
もいい。また、フォロワーをどこへ連れて行っても
良い。フォロワーは、なにが見えるのか質問しても
構わない。
体験を終えたら、全体で次の点について話し合う
・ひとにすべてを委ねて導いてもらうと、どんな感
じがするか?
・逆に、他者を導く立場(リーダー)となるのは、ど
んな感じがするか?
・目隠ししたひとを導く際に、どんなことが役立った
か?
・また、どんなことが支障となったか?
・体験中、意外に思ったのはどんなことだったか?
・この体験をもっと効果的にするのは、どんなこと
だと思うか?
・この体験から、リーダーシップについてなにを学
んだか?
「数は多くないとはいえ、思慮深く献身的な人び
とが世の中を変える力を持っていることを疑って
はいけない。実際、世界を変えてきたのは、そういう
ひとたちだけだったのだから」 マーガレット・ミード
リーダーシップやマネージメントについて、〝導く
ひと=リーダー〟の果たすべき役割や責務につ
いてはいろいろな考え方があります。
あなたが所属する連盟や理事会でリーダーシッ
プ開発をどのように進めていくか考える前に、まず
はリーダーシップに関連するキーポイントをどう定
義するか話し合ってみましょう。
10
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
Exploring Your Leadership – What is Leadership and who is a Leader?
全体に関わるディスカッション・ポイント
次に挙げる語句について考えて、現在持っている
知識に基づいた、自分なりの定義を書いてみよう。
リーダーシップ(Leadership)
指導的役割を果たす人(Leader)
リーダーとリーダーシップについて理解する
“
「それぞれが持つ類似点によって、個人はグ
ループを形成する――そして、グループがチー
ムを形成するのはそれぞれが持つ差異のため
である」
連盟の理事に選ばれたら、連盟を構成する会
員を率いて、資金の配分や事業展開を行い、現
在のみならず将来にわたって他者の人生に影
響を与えるような決断をすることが求められます。
つまり、あなた自身がチームにどのように寄与
することができるか、そして他者の貢献にどう関
わっていくかという問題を強く意識することが必
要なのです。
マネージメント(Management)
能力開発(Development)
学び(Learning)
理事としてのあなたにとっての利害関係者とは
どういった人物かを見極めてる。そして、彼らの
視点からみてあなたのリーダーシップはどうあ
るべきかを説明してください。
リーダーが及ぼす感化力にはさざ波効果があ
ります。だから、利害関係者の視点からあなた
のリーダーシップを考えることが大事です。よき
リーダーとは、会員や資金、よりよい機会をもた
らすことができるひとで、悪しきリーダーとは、そ
ういったものを遠ざけてしまうひとを指していま
す。
目的
リーダーシップについて、さまざまな利害関係
者の視点から想像してみる
今は、すべての語句についての定義が思い浮か
ばないかもしれません――あとでまた考えても構
いません。
同僚の理事と意見交換してみましょう。その結果
として見方が変わったら、それに応じて定義も書き
直してみましょう。
手順
グループ(最大5人)になって、次の人びとの視
点から見たリーダーシップ、そしてリーダーにつ
いてふさわしいと思われる定義について話し合
い、具体的に説明してみる
・あなたが属する連盟の会員
・ガールガイド/ガールスカウトの保護者
・あなたと同等の立場にあるひと
・あなたとチームを組んでいるひと
・連盟に資金を提供しているひと
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
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Exploring Your Leadership – What is Leadership and who is a Leader?
リーダー、リーダーに導かれる人、あるいは外部か
ら見ているだけの存在――自分の置かれた立場に
よって、リーダーシップとはいろいろな解釈が可能で
す。また、個人の生い立ちや文化背景、リーダーシ
ップをどのように理解しているかによっても、解釈は
異なるでしょう。
リーダーシップの理解には、社会的状況や相互関
係も関わってきます。つまり、生い立ちや文化、経歴
からみてどういう人間なのか、それもまた、あなたの
リーダーシップ・スタイルに影響を及ぼすのです。こ
ういった考え方は社会的構築 * と呼ばれ、グループ
や組織が互いに発展を遂げるためには必要なもの
です。
社会的構築を形成する基となっているのは、体験
や理解、意見を共有する人びとであり、これらは次
の三つの行動によって決定されます。
・他者の考えや感じたことに耳を傾ける
・あなた自身が感じたことや、他者に対して思った
ことを表現する
・あなたが本当に考えたことや感じたことを自覚す
るよう、内省を深める
人びとが交流する際は、それぞれが捉えている
〝現実〟というものの解釈の上にお互いが関わりあ
っており、その結果、〝現実とはこういうもの〟とい
う考えがそれぞれの頭の中で再生産されていきます。
そういった意味では、現実は社会的に構築されたも
のだと言えます。
体験を共有する場合、わたしたちはしばしば、話題
に上っている状況について新たな理解を深めていま
す。つまり、他者が捉えた状況(自分が理解していた
ものとは異なるもの)が心に残るのです。
(*訳注:社会的構築主義とは、現実の社会現象や、
社会に存在する事実や実体、意味などはすべて、人
びとの頭のなか〈感情や意識〉で作り上げられたも
のであり、それを離れては存在しないという社会学
の立場である)
12
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
ガールガイド・ガールスカウトの歴史を見てみ
ると、コミュニティや世界レベルで指導的立場に
ある女性の多くは、以前ガールガイド・ガールス
カウトとしての経験がある(だけではなく、現在も
会員である)ということがわかります。ガールガ
イド・ガールスカウトとして経験したことが自信や
自尊心を育て、リーダーとしての能力を育む下
地となったと語るひとが大勢いるのです。変化
に対応する能力や、他者をきちんと評価するこ
と、リーダーとしての力量や国際理解を深める
のに役立ったということでしょう。
初めてのリーダー体験
手順
1)最初にリーダーの役割を体験したときのことを
説明する
2)それを読んでみて(もしくは聞いてみて)、そこに、
どのようなリーダーとしてのスキルがあったと思
いますか? そのスキルは、今もあなたのパーソ
ナリティを形づくる要素となっていますか?
これまで行ってきた課題は、個人として、またはグ
ループ(理事会や委員会)の構成員としてリーダー
シップをどのように捉え、理解しているかを意識す
るのに役立つと思います。次のセクションでは連盟
組織の外に目を向け、わたしたちを取り巻く世界で
リーダーシップはどのように定義されているか、そ
れをより深く探ってみましょう。
議論のポイント
1)自分自身が持っているリーダーとしての資質を
評価するのは、どのくらいスムーズにできました
か? 他者のリーダーとしての資質を評価する
ほうが簡単でしたか? あなたの意見がよくわか
る例をいくつか挙げてください。
Exploring Your Leadership – What is Leadership and who is a Leader?
2)〝ヒーロー〟としてのリーダーから、〝あること
を可能にするひと〟としてのリーダーへと、リー
ダーシップについての考え方が変わると、自分
自身や他者がもっているリーダーとしての資質
を評価する能力はどのように変化するでしょう
か?
3)あなたがリーダーシップとしての力量を高める
のに、ガールガイド・ガールスカウト運動はどの
ように役立ちましたか?
リーダーシップを発揮するチーム
グループが異なれば、リーダーシップの捉え方
や理解も異なります。たとえば、少女がもっている
視点は少年のものとは違います。また、その少女
が①ガールガイド・ガールスカウトの会員だったり、
②あるアクティビティやプロジェクトを率いる立場
にあったり、③将来を左右する洞察力(ビジョン)を
明確に定義するような存在だったりした場合、リー
ダーシップに対する理解も異なるでしょう。いま挙
げた三つについてはそれぞれ順に、〝体験によっ
て得られるリーダーシップ〟〝活動によって得ら
れるリーダーシップ〟〝戦略上のリーダーシップ〟と
呼ぶことができます。
p11で書いた、自分なりの定義を見返してみまし
ょう。上記で挙げた三つのリーダーシップという観
点から見て、変わったところはありませんか? 加
筆訂正すべき点があったら、書き直してみましょう。
p11で書いた、自分なりの定義を見返してみまし
ょう。
リーダーシップ、マネージメント、ガバナンス(統
括)の違いは?
加筆訂正すべき点があったら、書き直してみまし
ょう。
研究者によるとリーダーシップ理論は、人びとに
こうしろと命じるヒーロー/ヒロインや、なにをすべ
きかといった〝物事〟から、リーダーとチームの
関係、彼らを取り巻く状況との〝関係性〟に重点
が移っているとのことです。
次に挙げるリーダーシップ理論は、リーダーを取
り巻く状況やWAGGGSのリーダーシップに対する
取り組みに影響を与えたものです。それには、リ
ーダーシップとは結果や成果だけではなく、動機
づけの方法やプロセスにもかかわるものであり、
ものごとに肯定的に対処する包括的なアプローチ
だという考え方が含まれています。
WAGGGSにおいては、グループやチームから生
まれたアイデアから成果が生まれており、現代の
少女や若い女性が直面する課題にも深く関わっ
ています。
自発的なリーダーシップ、または協調
的なリーダーシップ
ボランティアが中心となった女性だけの団体、あ
るいは男女合同の団体において、リーダーシップ
開発やリーダー募集、リーダーの保持に関する強
みや弱み、課題となるのはなんでしょうか?
有給職員とボランティアの間で見られるリーダー
シップの違いとはなんでしょうか?
「マネージメントは物事を正しく行うこと。リーダー
シップとは、正しい行いをすること」
ピーター・ドラッカー
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
13
Exploring Your Leadership – What is Leadership and who is a Leader?
リーダーシップの進化
目的
あなたが属するガールガイド・ガールスカウトの
連盟の歴史において、リーダーシップ養成の取り組
みがどのように変化してきたかを調べる。
手順
可能ならば、連盟がいままで使用してきた指導者
養成のための手引きの変遷を調べたり、別々の時
期に指導者として活躍した先輩方に話を聞いてみ
る。
リーダーシップの定義や、結果を出せるリーダー
はどういったタイプの人物か、時代とともにどのよう
に変わってきたのかを調べる。
メ モ
14
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
リーダーに求められる振舞いや、フォロワーか
ら見てふさわしいリーダーの振舞いについて話
し合ってみる。
現在に至るまでの変遷について、年表を作っ
てみる。
全体で感想や結果を聞いてみる
この課題から、リーダーシップについてどんな
ことが学べましたか?
次のセクションでは、WAGGGS内や世界で広く
論議され、展開しつつあるリーダーシップ理論に
ついて詳しく学びます。そのうえでほかのリーダ
ーと議論することにより、自分自身のリーダーシ
ップ・モデルやスタイルについて新たな発見がで
きるでしょう。できれば、自分が率いる人びとと
の協働作業において役立つようなものだといい
ですね。
リーダーシップについての考え方
このセクションでは、カリスマ的リーダ
ーや独裁的リーダー、交流型リーダー
(メンバーの関心に訴え、利益を提供
することによって彼らを動機づける)と
いった、従来のリーダーシップについて
はあまり触れません。その代わり、真
価を発見して伸ばそうとするリーダーや
協調的なリーダー、奉仕するリーダー
に変革型リーダーといった、現在よく見
られるリーダーシップについての考え
方を紹介します。といっても、リーダー
シップについての研究の初期段階のリ
ーダーシップ理論が間違っていたとか、
まったく無意味だというわけではありま
せん。それは今日のリーダーシップ理
論の基礎となるものであり、わたしたち
が体験するリーダーシップにもその痕
跡がまだ残っています。
リーダーシップについての考え方を支
える理論について深く学び、それが現代
のリーダーや理事会にどのように関連
するのかについて考えてみましょう。
真価を発見して伸ばすリーダーシップ
このアプローチ法が前提としているのは、実にシ
ンプルですが、奥深いものです。職場でなにがう
まくいかなかったのかに注目するのではなく、うま
くいったことから学び、それを基に新しくなにかを
作り上げていこうとする姿勢に重点を置くのです。
人間の潜在能力をポジティブな力に変え、相互関
係や建設的なプロセスの礎にしようとするもので
す。それを支えている価値観は、個人が持ってい
る自信やエネルギー、個人が職場や世界におい
て肯定的な変化をもたらそうと努力することや熱
意といったものを次々と引き起こしていきます。
真価を発見して伸ばすリーダーシップは、価値
向上の探求という理論(Appreciative Inquiry)に端
を発したものです。このリーダーシップ・スタイルで
は正しいことに注目し、また肯定的なことを作り上
げ、強化していくのをモットーとしています。また、
社会的構構築を通じて、世界をいままでとは違う
目で見ることが奨励されています。ひとはそれぞ
れ異なった視点や現実をもっていることを認めつ
つ、変化に対して抵抗感をもたないものとしている
のです。価値向上の探求という理論は、そこにあ
るなかで最上のものを発見するのに役立ちます。
真価を発見して伸ばすリーダーシップでは、以
前の経験から得られた利点や成功から学び、そ
れを発展させることに重きを置いています。
このスタイルのリーダーシップを発揮する場合、
次の点に留意しましょう。
・現在うまくいっている、または過去に成功した事
柄について考えてみる
・ただし、過去を振り返ってなぞるのではなく未来
を見越して考える
・すべての行動は、それが起こった時点や状況に
おいては善意のものであったと信じる(わざと悪
意からなされたものではない)
・前向きで肯定的な言葉を使う
・個人的な立場、個人と個人の関係、そしてそれ
にとらわれない別の視点(=メタ視点:高い次元か
ら自らを俯瞰し、冷静に省みる視点)といった三
つの立場から、状況を考えてみる
・答えを求めるのではなく、問いかけることで答え
を導き出す
・組織が目指すものや使命、ビジョンにひとりひと
りが貢献できるよう力づけ、管理を行う
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
15
Leadership approaches
状況対応型リーダーシップ
21世紀の世界で管理運営を行う立場の人は、
〝命令で統制をはかる〟アプローチをとっていて
は、人びとの能力を最大限に生かすことはできな
いと分かっています。
また、すべての状況でうまくいくただひとつのリ
ーダーシップ・スタイルが存在しないことも分かっ
ています。成功をおさめるリーダーならば、それぞ
れの状況をよく検討したうえで、もっとも適切な介
入のしかたを決断するのです。
このように、リーダーシップとは融通のきくものだ
という考え方はハーシーとブランチャードの研究
(1985)から生まれ、状況対応型リーダーシップと
して知られています。この考え方が特に役立つの
は、効果的なリーダーシップを振舞いや行動とい
った観点、たとえば、人びとはリーダーが示す行
いを見てリーダーシップを体験していると説明して
いるところです。成果をあげるリーダーシップにつ
いて、また、それを他者の仕事ぶりのマネージメ
ントとどう関連づけるか、この考え方からはさまざ
まなことが学べます。
状況対応型リーダーシップという考え方は、つぎ
の要因に基づいている:
・リーダーによって与えられるガイダンスと命令
(指示的行動)の量と、リーダーの支援(協労的
行動)の量の関係
・チームメンバーの能力レベルと、チームメンバー
の自信や責任感レベルの度合い
・リーダーシップとは、指示的行動と協労的行動
のコンビネーションである。
この考え方(下記を参照)は、リーダーがメンバ
ーひとりひとりの能力を伸ばし、高い目標を達成
するために果たす役割について多くの示唆を与え
てくれます。わたしたちはそれぞれ、好みのリーダ
ーシップ・スタイルを持っていますが、ハーシーと
ブランチャードの提唱する考え方に従うと、フォロ
ワーが必要としている支援に基づいて、特定の状
況においてそれぞれ最適なリーダーシップ・スタイ
ルを選ぶことができるのです。
指示的行動 (TASK BEHAVIOUR)
協労的行動 (RELATIONSHIP BEHAVIOUR)
リーダーが個人や集団に対して〝なにを〟〝ど
のように〟〝いつ〟〝どこで〟〝だれがどうすべ
きか〟指示すること(ガイダンス)。つまり:
・目標を設定
・個々の役割を明確に設定
・期限を決める
・仕事を進めるうえでの道案内をする
・全体の管理運営
リーダーが双方向コミュニケーションをとり、次の
分野で支援や激励を部下に送る行動
・意思の疎通をはかる
16
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
・相互関係を促す
・部下の言葉に積極的に耳を傾ける
・フィードバックをきちんと返す
Leadership approaches
この考え方では、リーダーの取るべき行動には
指示的行動と協労的行動の二種類があります。
指示的行動とはタスク志向(〝仕事をきちんと終
わらせよう〟)から生まれ、一方協労的行動では、
チームを構成するメンバーの意欲を高めて彼らと
ポジティブな関係を築き、維持することに重きを置
いています。
終わらせなければならないタスクの性質や、
個々のメンバーの技能と成熟度によって、リーダ
ーは教示的、説得的、参加的、委任的という四つ
のリーダーシップ・スタイルから一つを採用し、指
導的役割を果たすことになります。
リーダーシップ理論の多くは、組織の目標達成
に最善な策を見つけることに焦点をあてています
が、変革的リーダーシップ・モデルでは、組織を構
成するメンバーのニーズや倫理観、価値観に注目
しているのが特徴です。
次のような点が変革的リーダーシップの特徴と
言えます。
・理想化された影響力(カリスマ:非凡な統率力)
・ひとを鼓舞して、やる気を引き出す
・知的な刺激を与える
・メンバー個々にあわせた配慮
ガールガイド・ガールスカウトの集団に
おける状況対応型リーダーシップ
あなたの連盟内において、いままで述べてきた
リーダーシップ・スタイルが発揮されたり、必要とさ
れた状況の例についてみんなと共有してみましょ
う。
タスクに特化したアプローチとは、特定の目標を
達成するためにリーダーが〝ボス〟として指示を
与えるようなやり方です。タスク志向のリーダーは
たいてい、なにが解決策なのか、なにをすべきな
のか、それをどうやってすべきかをチームメンバー
に〝命令〟し、彼らの仕事ぶりを管理、監督する
傾向にあります。
変革的リーダーシップ、価値観に基づくリーダーシ
ップ、倫理的リーダーシップ
変革的リーダーシップとは、個人やチーム、組織
が持っている潜在能力の形を変革させる能力のこ
とです。変革型リーダーは自分が持っている価値
観や、チームメンバーひとりひとり、組織全体が共
有する価値観を明確に特定し、その価値観の導く
ところに従って、とるべき行動を方向付けていきま
す。影響力とはリーダーだけが持っているのでは
なく、個々のメンバーの間にも広く存在しているの
です。他者の潜在能力を伸ばすために影響力を
行使するという考え方がこのリーダーシップ・スタ
イルを支えており、利害関係者の参加の重要性
が、変革的リーダーシップの長期的な影響を大き
く左右する鍵を握っています。
変革型リーダーシップは、WAGGGSやYMCA、
Boys Brigade、Girls Brigade(訳注:キリスト教の理
念を基にした少年団/少女団)といった、価値観
を基にした活動を行っている団体と高い親和性を
もっています。こういった団体で意思決定を司る人
びとは、会員がもっている価値観や意見に敏感で
なければなりませんし、ひとりひとり会員の見解や、
総会などの場で出てきた意見に基づいて、団体の
ビジョンや使命、戦略、目標などを決めていくべき
でしょう。
変革型リーダーシップ
次のような意見について、話し合ってみましょう。
「ある団体の構成員がすべて同じ目標を持って
いるわけではない場合、また、変革型リーダーが
共通のビジョンを自発的に受け入れるよう全員を
説得できなかった場合、個人の目標やビジョンの
ほうを優先させたいと思う人びとはどんな状態に
なるだろうか? リーダーが全員の意識を変革さ
せ、興味や関心、利害関係を完全に一致させるこ
とができなかったら……変革型リーダーシップと
は単に、声の大きい多数派を生み出すだけなの
ではないだろうか」
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
17
Leadership approaches
ガールガイド・ガールスカウト活動の内外におい
て、変革型リーダーに出会った例をみんなと共有
してみましょう。
サーバント・リーダーシップ
サーバント・リーダーシップという語句は、ロバ
ート・K・グリーンリーフが生み出したものです。
「サーバント・リーダーとはまず、他者に奉仕す
るひとである……他者のニーズに応えたいという
自然な感情が最初に生まれ、それから、他者を
導きたいという意識的な選択へとつながっていく。
こういったタイプの人間は、自分がリーダーだとい
う気持ちが最初に来るひととは大きく異なる。後
者はたぶん、パワーを手にしたいという尋常じゃ
ない気持ちや、物質的な豊かさを求める心が強
いのだろう……まずはリーダーという意識のひと
とまず、他者に尽くすというひとは、互いにひどく
かけ離れた両極端の存在だ。その間には、無限
ともいえる人間の本性がさまざまに混ざり合った
微妙な差異が存在する。この二種類のリーダー
の違いがいちばん現れているのは、サーバント・
リーダーはまず、他者自身がもっとも優先順位が
高いと思っているニーズを満たそうと、あれこれ
気を配る点だろう。
違いを実感するには、次の問いかけをしてみる
といい。ただし、答えを見つけるのは難しい。「サ
ーバント・リーダーに奉仕された側は、それで人
間として成長したか? 以前より健康で賢く、自由
になり、より自律した行動をとれるようになって、
自分自身もまた、他者に奉仕するような人間にな
っただろうか? さらには、社会でもっとも弱い立
場にある人びとへの影響はどうだろうか? 彼ら
はサーバント・リーダーシップの恩恵を受けている
か? あるいは、少なくとも、以前ほど搾取される
ことはなくなっただろうか?」
18
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
協力的リーダーシップ
協力的リーダーという概念は、まずリーダーあり
きではなく、従来とは異なるタイプのリーダーシッ
プを必要とする団体の協調的な状態から生まれ
ました。協力的リーダーシップの基礎となっている
のはトップダウンの命令ではなく、全体で共有さ
れるパワーやマネージメントの在り方です。また、
構成員が共有している責任感や相互の信頼、協
力関係、明確な目的意識、メンバー個々の成長
や自省の心にも根ざしています。
協力的リーダーは、協調するという前向きなプ
ロセスをあらたに築くことによって、すべての参加
者を巻き込んでいきます。
リーダーシップのさまざまなかたち
リーダーシップについての理論やスタイルにつ
いて、あなたが今まで聞いたことがあるのはどれ
ですか? また、あなたの社会人生活のなかやガ
ールガイド・ガールスカウト活動のなかで、どのリ
ーダーシップ・スタイルの役割を経験したことがあ
りますか?
自分の考えや意見をグループで共有してみまし
ょう。
学習記録
これまでに学んだことをふりかえってみましょう
Leadership approaches
メ モ
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
19
課題:個人やグループそれぞれが
異なる視点をもっていることを探るため
トライアングル・ゲーム
(参加者は最大で8人:所要時間8~10分)
あなた
バディ
バディ
目的
・チームのメンバーが相互に依存している関係を
に見える形で示す
・チームのメンバー全員が互いに影響を及ぼしあ
ていることを知る
・他のひとよりも大きな影響を及ぼす人間がいるか
うかを観察する
手順
どの参加者も、ほかに二人を頂点として、上空から
見たとして、正三角形を作るゲーム。
だれを選んだのかわからないようにして、ひそかに
(バディ)を二人選ぶよう、指示する。この二人のバ
ディが、三角形の頂点となる。
今立っているところから二歩動いてそこで静止する
よう指示する。自分以外の頂点が(ひとりでもふたり
でも)動いたら、それに応じて自分も位置を調整する。
参加者が全員三角形になったら、ひとり、あるいは
それ以上のひとの位置を動かしてみましょう――非
公式にリーダーとして振舞ったひとを見抜くことがで
きたら、そのひとを動かしてみましょう。
20
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
課題を終えて、感想を述べあってみる
どんなことが起こったか?
ゲームの間、どんな気持ちがしたか?
ゲームで得た反応を、(理事としての)チームの様
子と比べてみる
どんなことが学べたか?
予想されるのは……:
笑い、我慢できないというイライラ、好奇心、〈だ
れが自分を〝バディ〟に選んだのか〉がわかった
瞬間の気持ち
あなたの連盟のチャートをつくる
目的
連盟内の組織がどのようにつながっているか、
相互の関係について図を描く
手順
連盟内の組織の関係や現状を図に表す。
連盟を活気あるものにするために重要なつなが
り/リンクに印をつける
連盟内ではリーダーシップはどのように発達し
ているか? 影響力をもっているのはだれか?
p11で書いた、自分なりの定義を見返してみま
しょう。加筆訂正すべき点があったら、書き直して
みましょう。
Leadership approaches
メ モ
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
21
Leadership approaches
組織やグループ内での相互関係の様子につい
てわかりやすく図示するために〝トレフォイル・ク
オリティ・モデル〟を使ってみます。
この図は、ある組織における主な利害関係者
(グループであれ、個人であれ)の相互関係につ
いて示しています。
1:連盟
意思決定を司る要素(理事会など);組織を公
的に代表するところであり、戦略やプログラム、
方針、ルールを決定する
2:会員
方針を実行に移していく担い手;決定されたプ
ログラムをもとに活動し、規則に従う
3:外部の世界
この部分は、連盟などの活動そのものに直接
的な影響を及ぼさない。会員や意思決定機関
に意見を述べて、行動を起こすよう説得するこ
とによってのみ、影響を与えることができる。
トレフォイル・クオリティ・モデル
1
連盟
意思決定機関
A
文化
指導法
人事を巡る駆け引き
価値観
動機づけ
B
プロフィール
特定のブランドづけをする
コミュニティ内での評判
情報
活動の質
2
会員
活動の主体/
リーダー/
活動方針を実行に
移すひと
3
外部の世界
顧客
C
イメージ
直接的な相互作用
理解
22
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
この相互関係は、さまざまな捉え方を引き起こす:
Leadership approaches
A 文化
意思決定機関と会員の関係、組織の体制や構造、
個人の行動や姿勢、定款のような公的な側面や、
伝統といった形式張らない側面によって形成される。
B プロフィール
連盟のイメージを高める活動(ウェブサイトやロゴ、
制服など)によって連盟が外部の世界からどのよう
に見られるかということ。意思決定機関によって形
成され、その成果を評価される。一般への認知度
や意見、偏見などによって影響を受ける。
C イメージ
外部の世界が連盟をどう認識しているかというも
ので、相互に影響しあう状況からうまれる直接的な
現実例によって判断される。
イメージというのは連盟にとって重要な要素で、
いちばん変えやすいものでもあります。
あなたの連盟を形づくっているものはな
に?
p11で書いた、リーダーシップについての自分な
りの定義を見返してみましょう。加筆訂正すべき点
があったら、書き直してみましょう。
理事会のジレンマ:だれが行動を起こす
べきか?
目的
理事会が取り扱うのに適切な/不適切な問題は
どれかを考える
手順
対応しなければならない問題や状況をカードに書いて、
グループのまんなかに裏向けで置く。問題や状況
についての例としては:
・会員の母親が会長に電話してきて、機関誌につ
いての不平を言っている
・過重な仕事量を理由に、事務局長が辞表をだしてきた
目的
・一般リーダーが、次の団キャンプのためのアイデ
アについて手紙で尋ねてきた
連盟のプロフィールや、活動のクオリティに影響を
与えている要素はなにかを考えてみる
・新聞記者が、連盟の使命や目的について聞きき
たいと言っている
手順
・トレフォイル・モデルの図をボードなどに描く。
・三、四人のグループになって、連盟に固有の行動
様式やプロフィール、また、あなたが連盟に対して
抱いているイメージを話し合う。
・出てきた意見はすべてポストイットなどに書いて、
話し合いが終わった時点でボードのモデル図に貼
っていく。
出てきた意見のなかで良いものや、もっと改善で
きるものについて全体で話し合ってみる。そういっ
た要素について理事会としてなにができるだろう
か?
・一般リーダー二人のもめごとについて、理事が
述べている
・理事二人のもめごとについて、ほかの理事が述
べている
ひとりずつ順番にカードを引いて、そこに書かれ
ている問題となっている状況について読みあげ、
対処するのにふさわしいのはだれか、意見を述べ
る。
それについて、グループ全体でコメントをしたら、
次のカードに移る。
ゲームの間に、新しくカードを書き足してもよい。
課題を終えて、感想を述べあう
理事会が対処すべき問題とはどんなカテゴリーか?
また、そうでない問題は?
「継続性と変化の間のバランスをとるには……ボ
ールをただ待っているのではなく、ボールがやって
くる方向へこちらから向かっていくこと」
この課題から、リーダーシップについてなにが学
べるか?
この課題をやってみると、意思決定機関である理
事会の一員としての義務や責任について、いまい
ちど確認したくなるでしょう。
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
23
Leadership approaches
連盟―学びと成長を続ける組織
WAGGGS という
組織とリーダーシップへの取り組み
理事会(わたしたち)
―戦略を考え、意思決定を行う機関
グループを率い、
与えられた任務を果たし、
連盟を公的に代表し、組織運営を行う
適切な能力を備えた、
責任あるメンバー
わたし
―自らを導いていける人間
あなたの連盟の戦略的リーダーシップには、な
にが含まれているか?
B-P のことば
最初は思いつきだったものが予見となりました。
私が始めたのは“運動”ですが、気を付けないと
組織をつくっただけに終わってしまいがちなので
す。
24
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
リーダーシップとは、たまねぎのような多重
構造になっているという比喩があります。中心
に個人が位置していて、グループやチーム、
理事会、連盟という層がその個人をつぎつぎと
覆っていき、いちばん外側に統括団体としての
WAGGGSがあるというものです。上記の図を
見ると、相互に関連しあっているのがよくわか
ります。これはまた、多くの要素が組織を形成
しているのだということも示しています。つまり、
個人(理事やリーダー)は地域や全国レベル、
そして地球規模のこの層――自分を取り巻き、
支援してくれるもの――とつねにつながってい
なければならないのです。
Leadership approaches
メ モ
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
25
WAGGGSにおけるリーダーシップを理解する
リーダーシップについては、実業界の
みならず、ボランティアやNGOの団体内
でもよく議論されるテーマです。
WAGGGSにおいても長年話し合いを続
け、リーダーシップについての学術的研
究における傾向や、WAGGGS内部で文
化的にどのように発展してきたかといっ
た問題について研究してきました。
リーダーシップの議論は、次の点を中心に進め
られてきました。
・リーダーと、彼女たちがなすべきこと
・周囲との協調をはかるリーダーや、構成員全員
がリーダーの役割を果たすスタイルを認める
・リーダーシップとはどのようにして生まれるのか
今日、リーダーシップ理論は次の四つのテーマ
を中心に研究が進められています。
・プロセス(一連の過程)としてのリーダーシップ
・リーダーシップのもつ影響力と権限
・集団という状況におけるリーダーシップ
・リーダーシップと目標達成
集団を目標へ導こうとするリーダー、あるいは結
果を管理しようとするリーダーなど、リーダーシップ
のタイプによって、上記の四つの点は異なります。
p11で記した、リーダーシップについての自分な
りの定義を見返してみましょう。加筆訂正すべき
点があったら、書き直してみましょう。
26
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
Understanding Leadership in a WAGGGS environment
導くか、従うか、さもなければ、邪魔だからど
いてくれ!
自分がどこへ向かっているのかわからなか
ったら、どうやってたどり着くつもりですか?
目標を達成するには、それがなんなのか、き
ちんと見えていなければなりません。リーダ
ーは、ほかのひとが目指すべき目標をしっか
り捉えるための見通しを示し、目標実現に必
要なツールを与えなければなりません。今日
におけるリーダーや管理者が自分の役割を
果たすには、メンターやコーチングのスキル
も必要なのです。あれをしろ!と命じることが
できればいい、という時代は終わったのです。
リーダーは、自分が率いる人びとを成功に導
くために努力する責務があります。
しかし、人びとを成功に導くために努力する
とは、いったいどういうことでしょうか? それ
はとりもなおさず、現代のリーダーや管理者
は他者の才能を伸ばすという重荷を背負わ
なければならないということです。ジグ・ジグ
ラー* は、部下を教育したのに失ってしまうこ
とより最悪なのは、彼らをまったく教育せずに
放置しておくことだと言っています。
21世紀に突入したいまを表すのに、これ以
上ふさわしい格言はないのではないでしょう
か。多くの人びとが、成功をおさめるための
準備など何ひとつしない状態で職場へやって
きます。教育システムでは掬いきれなかった
こういう人びとを、実務の場で救ってやらなけ
ればならないのです。つまり、経営者や管理
者には、いままで求められていなかった手段
を用いてこういった人びとを教育し、自信を与
え、能力を育てる責務がうまれたのです。
( 『 Making It Happen: Leadership Keys for
People Who must Produce Results』の前書
きより)
*
訳注 ジグ・ジグラー(1926~)叩き上げで成
功を収めたビジネスマン。現在は人びとのモ
チベーションを鼓舞する内容の演説をフルタ
イムで行っている。
「リーダーとしての技量は生まれもってのもの
か、それとも教育などによって獲得されるもの
か?」という昔ながらの命題がありますが、実際
には、次のように問い直したほうがよいのではな
いかと思います。「仲間内、あるいは自分が属す
るコミュニティで指導的役割を果たす機会を若者
に与えたら、なにが起こるだろうか?」
WAGGGSにおいては、その問いに対する答え
をもう知っています。機会を与えられた若者は、
自分から働きかけてコミュニティの構成員を巻き
込み、創造力を生かしながら、自分たちだけで
はなく他者の人生をもよりよいものにしていくよう
になります。確かに、リーダーシップをとりたいと
いう欲求をうまれながらにもっているひとは存在
します――とにかく、ひとを従えていたいというタ
イプです。しかし、若い人びと、特に若い女性に
指導的役割を果たすよう促してみると、リーダー
としての自分たちの行動に対するフィードバック
や意見、リーダーシップを発揮した結果などをき
ちんと受けとめたうえで、ほんの蕾に過ぎなかっ
たリーダーとしての才能を見事に開花させるの
です。
WAGGGSが創始以来ずっと提供してきたプロ
グラムや活動は、若い女性が対等な仲間のなか
で、そしてより大きな地域社会でリーダーとして
の役割を果たす大切な機会を与えてきたと言え
るでしょう。
ドナ・ラドキン博士
Centre for Executive Learning and Leadership
クランフィールド大学 ビジネススクール
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
27
Understanding Leadership in a WAGGGS environment
WAGGGSではリーダーシップをどのよ
うに定義しているか
WAGGGSにおけるリーダーシップ開発
はさまざまなレベルで行われている
この百年間、ガールガイド・ガールスカウト運動
ではリーダーを育ててきました。創立百周年を迎
えるにあたって、リーダーシップの名の下にわた
したちは何を、どのように行ってきたか、そして、
その背後にある信念はなんだったのかを思い起
こしてみましょう。
団や連盟、地域、WAGGGSといった国際的なレ
ベルや地球規模になるものなど、それぞれの段
階においてリーダーシップを発揮する場がありま
す。団や連盟レベルでのリーダーシップは実際に
体験したり、また、自分がリーダーになった経験
があるためなじみも深く、共感もしやすいでしょう。
地域やWAGGGS全体というレベルでのリーダー
シップは、わたしたちにはとても及ばないところに
あるように見えるかもしれませんが、それも
WAGGGSの活動の一部です。
・リーダーシップとは、あるグループが目標と定め
たものを実現するために影響力を及ぼす一連
のプロセスそのものである
・グループ内でのリーダーシップとは、そのグル
ープ自体の活動と、構成員である個人の人生
や活動に明確な定義を与え、またそれに影響を
与えるような関係のことを指す
・リーダーとは、グループがもっている気力や活
力を育み、なおかつ、構成員がリーダーシップ
を発揮する役割を担当するよう促すひとを指す
では、上に挙げた点がWAGGGS内の活動にど
のようにあてはまるか、見ていきましょう。まず、
ガールガイド・ガールスカウト運動で実践されて
いるリーダーシップについて探っていきます。
パトロールシステムを通じて、少女や少年、若
い女性や男性、リーダーは指導的役割を果たす
よう励まされ、教育されます。家族や社会、そし
てガールスカウトの組織内で、人びとを導くような
立場に立つ機会をどのようにして与えられてきた
か、また、それに関してどんな支援を受けてきた
か、あなた自身のことを振り返ってみましょう。
加盟連盟
レベル
地域レベル
少女
世界レベル
28
WAGGGS
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
地域レベルでのリーダーシップ開発の機会は、
さまざまな国からやってきた参加者がともに学び、
経験を共有する場です。WAGGGS全体のレベル
になると、多種多様な環境を背景にもつさまざま
なリーダーシップの形やスタイルを経験すること
ができます。
また、国連やYWCA、WOSMといったNGOや教
育団体と共同する場合など、WAGGGSの枠組み
の外においてもリーダーシップ開発の機会は存
在します。
こういった経験はみな、リーダーを育てていく活
動の一環です。ガールガイド・ガールスカウト運
動の内外を問わず、だれかと交流する場合はい
つも、自分たちのリーダーシップを実践したり、目
標を達成するために役立つ考え方や理論を学ぶ
ことになります。
今日、WAGGGSが直面しているのは、より大き
な課題です。少女や若い女性がこの変わりつつ
ある世界で指導的役割を果たすよう準備するの
にふさわしい、リーダーシップ開発の機会を与え
るという課題です。
Understanding Leadership in a WAGGGS environment
WAGGGSでは、以下の信念に基づいて
リーダーシップ開発を行っている
1 リーダーシップと学びを切り離して考えることは
できない
2 リーダーシップと学びは他者と共有すべきものだ
3 どのレベルにおいても、リーダーシップは発揮
されるべきものだ
4 協調して仕事を進めるという方法は、チームと
個人双方の力を強める
5 研究から導きだされる批判的な見方(どこから
の影響も受けていないもの)は不可欠なものだ
6 変化のない行き詰まった現状や、自明の理と
いわれているものはいま一度、問い直してみよう
7 学ぶことを奨励する環境をつくりだすことが大
事だ
8 創造的思考や分析的思考を促進することも必
須だ
わたしたちはある信念に基づいてリーダーシップ
を取り上げ、研究してきましたが、それについては
後ほど触れることにします。
リーダーシップや学習法についてはいろいろな
考え方がつぎつぎ生まれています。WAGGGSでは
それに基づき、リーダーシップに対する取り組み
方を絶えず見直しています。
WAGGGSでは次の点に注目して、リーダ
ーシップやリーダー開発に取り組んでい
ます
1 ひとりひとりの経験や慣習、価値観や信念を理
解する
2 会員が物事をどう解釈して納得するか、それを
理解する
3 ひとりひとりが置かれている状況や前後関係に
配慮する
4 脅して物事をやらせるのではなく、前向きな影
響力を与える機会をつくるよう協調する
わたしたちが理想とするリーダーシップは、個人
のさまざまな文化的背景を尊重し、それがリーダ
ーシップの実践にも作用することをきちんと認める
ものです。しかし、わたしたちの体験はリーダーシ
ップに関する信念を強めこそすれ、決して妨げと
なるものではありません。
経験から得たものでリーダーシップをより高め、
互いに学びあい、肯定的な経験を糧として他者に
いい影響を与えるよう願いたいものです。
WAGGGSのリーダーシップに対する取り組み方
に関連するのは、次のような振舞いや行動です。
1 一連のプロセスを問い直してみる――機会を
自ら求めて体験し、それにともなうリスクをあえ
て冒してみる
2 共有できるようなビジョンを生み出す――将来
の見通しを立て、チーム全体をサポートする
3 他者が行動できるよう、前向きな影響力を行使
する――チーム全体が協調するよう促し、フォ
ロワーが個人的にも成長できるよう支援する
4 進むべき道を示す――手本を見せる
5 思いやりの心を表す――チームメンバーの貢
献をきちんと評価し、成し遂げた成果を称賛す
る
リーダーにはこんな振舞いをしてほしい、という
特別な期待がありますが、それはわたしたち自身
が育んできた態度や心構えによるところが大きい
でしょう。
ガールガイド・ガールスカウト活動や、日々の生
活のなかで出会ったリーダーの行動や習慣のな
かで、これはすばらしいという例があったら、共有
してみましょう。
p11で記した、リーダーシップについての自分な
りの定義を見返してみましょう。加筆訂正すべき
点があったら、書き直してみましょう。
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
29
Understanding Leadership in a WAGGGS environment
あなたの連盟におけるリーダーシップ
と学びのかたち
今日のリーダーはどのようにして、自分のリー
ダーとしての力量を高めているか、話し合ってみ
よう。
リーダーシップについて実地の場で学ぶのと、
座学と、彼女たちはどちらがいいと思っているだ
ろうか?
リーダーシップと学びは、どのようにして連携し
ているだろう?
メ モ
30
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
リーダーシップについては、ただ講義するの
ではなく、学ぶ側が自分たちで気づきを得て、理
解を深めるよう促すという方法に移りつつありま
す。
p11で記した、リーダーシップについての自分
なりの定義を見返してみましょう。加筆訂正すべ
き点があったら、書き直してみましょう。
あなたがリーダーシップを発揮できる分野とは
組織内のどのレベルにおいても、リー
ダーシップを発揮するためには異なる課
題を果たさなければなりません。リーダ
ーシップを発揮できる分野には、次の五
つがあります。
・与えられたタスクについて指導する―
グループの目的を明確にする
・人びとを導く――グループ内の人的
資源の管理
・組織の管理運営――グループのため
に企画立案、文書作成、フォローアッ
プや報告を行う
・公的な代表の役割を務める――グル
ープと、上の階層に位置する組織をつ
なぐ存在となる
・自分自身を導く――自己のもつ力量
やリソースを高め、時間を管理し、自
己修養に努める
五つの分野について、優先順位をつけ
る
目的
指導的役割を果たす際のさまざまな課題につい
てよく考え、優先すべき事柄はなにかバランスをと
る
手順
理事としての任務や責務をすべて挙げてみる。
五つの分野に従って、任務や責務を分類してみる。
そのうえで、次の点について考える。
・バランスを取る必要があるのはどの分野か
・現在、五つの分野の内容はバランスが取れてい
るか
・あなたは、どんなバランスが望ましいと思ってい
るか
バランスをとるために必要なこと、現状、そして望
ましい状態の三つについて、表や図をつかってわ
かりやすく整理する。
ふりかえり
現状はバランスが取れている望ましい状態に近
いのか、それとも大きくかけ離れているのかに従
ってそれぞれ、自分になにができるのかを考えて
みましょう。
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
31
Arenas of your leadership
やってみよう:とんでもない嘘つき
自らの適性や任務を整理するために
目的
理事会に与えられた使命に応じて、優先順位や、
自分が取り組むべき分野について考える
理事会に合致した戦略を企画する
手順
理事は全員、p31でつくったバランスシートを持っ
てくる
理事会全体が取り組むべき任務を挙げて、五つ
の分野でバランスが取れているかどうかを話し合
う
ほかの理事のバランスシートを見ながら、次の
点について話し合ってみよう
・十分にカバーされている分野はどれ?
・もっと集中して取り組まなければならない課題は
なに?
・課題相互のバランスをとるために、あなたには
なにができる?
理事会がきちんと機能するための戦略を作成し
よう
課題
組織の
管理運営
公的な代表を
努める
人びとを導く
自己修養
32
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
目的
・昔からある論点を、あたらしい視点から見てみる
・第一印象の正当性について探る
・既成概念にとらわれない考え方や創造性を促す
・社会的構造やシステム思考(より大きな全体
の一部として物事を捉える)を体験してみる
・個々の性格やものの見方、態度、振舞いにつ
いてじっくり考えてみる
手順
チームでの会議の冒頭、今日は自分以外の
だれかになる機会を体験するということを説明
する
どの人物になってみたいか各自決めたら、会
議の間はそれを秘密にしておく
会議での発言や意思決定の際も、なってみた
いと決めた人物になりきって
(たとえば、尊敬を集めている財界首脳や科学
者、環境保護問題の専門家、模範となるロール
モデル、政治家などでも可)。
ほかの人物にはなりきることはせず、いつもど
おりの自分のままで振舞ってもよいが、その場
合もそれは秘密にしておく
会議が終わりに近づいたら、それぞれ本名を
述べてから、自分がなりきった人物を明らかにし
て、なぜ、その人物を選んだのかを述べる
さらに時間的余裕があれば……
どの人物になりたいか、チームメンバー全員
が決めたら、全体を三、四人の小グループに分
けて、それぞれ、自分がなりきる人物をそのな
かで明かす
その日一日、あるいは会議が終わるまで、そ
の人物のまねをしたまま過ごす
(例えば、大富豪になりきると決めたなら、財産
や豪勢な旅行の自慢話をしたり、自らの地位を
ひけらかしたりする)
Arenas of your leadership
課題を終えてみて:下記のポイントを
話し合ってみよう
・「とんでもない嘘つき」になってみて、どんな感
じだった?
学習記録
これまで学んできたことをふりかえって、
どんな感想を持ちましたか?
・ほかの人びとが「なろう」と思って選んだ人物に
ついて驚いた?
・第一印象派、彼女たちに対する感情にどのよ
うに影響を及ぼした?
・自分以外のだれかになってみて、自分自身に
関してどう思った?
・自分以外の人格を演じてみて、あなたの意思
決定や会議での発言、自分の見方を他者と共
有することに関する安心感はどう変わった?
・この課題をやってみて、連盟を導く理事として
なにを学んだ?
メ モ
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エンパワーメントとリーダーシップ
権限とリーダーシップは互いに切り離
せない関係にあります。
・他者を導いたり、やる気を起こさせよう
として影響力を建設的な意味で用いた
場合、それはエンパワーメントの体験
例として残ります。とても強くて肯定的、
しかも創造的な力となり得るものです。
・しかし、その影響力を後ろ向きな意味
で用いた場合、個人がもっている自尊
心や潜在能力を抑えるという弊害を及
ぼすことが考えられます。
・良きリーダーシップとは、権限や権威
を他者に委譲できることをも意味して
います。
・個人やチームとリーダーの間において、
建設的あるいは否定的な意味合いで
パワーの移動が起こり得ます。
リーダーが複数の個人と協調したり、やる気を起こさ
せようと動機づけするにはいろいろな方法があります。
・リーダーが完全に関与する――互いに刺激を与え
あう状況で協調する
・リーダーの関与は部分的――お互いに相談し、指
示を与えあう
・リーダーはまったく関与しない――関係者は自分た
ちだけの力でやっていけるという信頼のもと、必要
最低限のコミュニケーションだけで済ませる
「自分たちの無力さの原因がどこにあるのか、女
性が考えを改め、自分たちを抑圧しようとする組織的
な力の存在を意識し、自分たちが置かれた状況を変
えようと立ちあがったとき、エンパワーメントは生まれ
る」
(『Women and the Politics of Empowerment』アン・ブ
ックマン、サンドラ・モーゲン共著)
p11で書いた定義を見返して、加筆訂正すべき点が
あったら書き直してみましょう。
リーダーとしてのわたしの力量が劣って
いるところはどこか
同じく理事を務めるメンバーのことを思い浮かべな
がら、自分自身の積極性や力量、与えられた課題を
解決する能力を振り返り、リーダーとしてもっと伸ばし
たいと思う分野のリストを作ってみる。
そのリストをほかのひとと共有しあい、どうしたら能
力を伸ばすことができるか、アドバイスしあってみる。
議論のポイント
ここで得られた情報は、組織内のリーダーシップを
育むためにどのように活用できるだろうか?
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Empowerment and Leadership
メ モ
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行動計画を立てる
1)あなたのチームがもっている能力について、
客観的に評価してみる
3)あなたのチーム内でリーダーシップはどのよ
うに実践されていますか?
リーダーシップ開発のうえであなたのチームは
どの位置にいるのか、そして、支援が必要だった
り、成長すべき点があるのはどの分野かを見極
めるのにとても重要な課題です。
成果をきちんと挙げるチームでは、その任務
を果たすのにうってつけの人物が、ちょうどいい
タイミングで成すべきことを成すのが当たり前で
す。チームが目標をみごと達成するためには、
チーム構成そのものや、個々のメンバーが協力
しあって仕事を遂行することが不可欠です。最
上のチームでは個々のメンバーが自分がもって
いる異なる長所をそれぞれ持ち寄って、チーム
全体が成すべき課題を果たしていくのです。
指導力を発揮するためには、リーダーが自分
のもっている適性や能力について振り返る必要
があります。
組織内では、個人やチームもリーダーシップに
貢献しています。そういった観点からみて、上記
の課題1で得た知識をどう応用したら、組織の成
長発展にリーダーシップを発揮できるでしょう
か?
2)この冊子の課題をやって得たものについてふ
りかえり、どのようにこれから活用していこうか、
じっくり考えてみる
チームという形態での活動は、意思決定の方
法だけでなくそれをどう実行に移すかといったこ
とにも影響を受けます。人間は、自分が意思決
定に関わった問題については、積極的に実行し
ようとする性質があるようです。これはチームプ
ロセス(チームが目標を追求するなかでのメンバ
ー間の相互作用)に関連していて、チーム全体
の課題達成と均衡がとれた状態になるよう調整
されなければなりません。
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World Association of Girl Guides and Girl Scouts
4)ロールモデル
これまでに出会ったロールモデルや見習いた
いと思った人物は――意識的にせよ無意識に
せよ――あなたの行動や、リーダーとしてのス
タイルに影響を与えています。ロールモデルが
与える影響にはポジティブなものも、ネガティブ
なものもあります。だからこそ、自分が誰の振舞
いをお手本にしているのかを振り返ってみると、
とても役立つのです。
ふりかえり:
あなたが手本としているロールモデルについ
て考えてみましょう。リーダーとしてのスタイルと
いう点で、そのひと独自のものはなんですか?
自分自身のリーダーシップ開発を進めてきて
みて、どんなタイプのリーダーシップが自分に合
っていると思いますか ? そして、その理由
は?
それは、あなたのチームや連盟にどんな利点
をもたらすでしょうか?
Action planning
連盟におけるリーダーシップの定義とは
リーダーシップ(Leadership)
指導的役割を果たす人(Leader)
マネージメント(Management)
能力開発(Development)
学び(Learning)
リーダーシップとはこういうものだという定義、リーダーシップへの取り組み方、リーダーシップのための
戦略を実現させていくため、わたしたちは連盟内で
までの期間に、以下の行動に取り組
みます
1. (目標と活動内容を記す)
2. (目標と活動内容を記す)
3. (目標と活動内容を記す)
4. (目標と活動内容を記す)
5. (目標と活動内容を記す)
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Action planning
学習記録
これまで学んできたことをふりかえってみて、どんな感想を持ちましたか?
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World Association of Girl Guides and Girl Scouts
おわりに
皆さんはこの冊子でリーダーシップ
の理論や実践について学び、実際に
リーダ ーとして連盟内 や WAGGGSの
枠内で指導的役割を果たすにはどう
したらよいかという道を探り始めたば
かりです。
リーダーシップについての議論に終
わりはなく、世界各地から聞こえてくる
いろいろなアイデアによって、異なる
文化や伝統をもつ地域においてさまざ
まな形のリーダーシップが実践されて
いることがわかります。
この冊子で触れたのは、そのなかの
ほんの一部に過ぎませんが、あなた
が連盟を未来へ導いていくための関
心や意識を高めるための支援ができ
たものと確信しています。
も、じっくり考えた自分なりの意見や学んで得たこ
とを地図に記していく旅のようなものです。旅をして
いくうちに、ここは一番の見どころだったという部分
も現れてくるでしょう。実際の旅行と同じように、あ
なたは決して一人きりで旅をしているのではありま
せん。ともに歩んでくれるチームや、惜しみなく協
力してくれる組織の存在を背後に感じることでしょ
う。この旅はグループ全体での体験で、参加者全
員に果たすべき役割があり、貢献できるなにかをも
っているのです。
リーダーシップとは、なにかひとつの働きや作用
だけを示すものではありません。考え方や感じ方、
感情や行動そのものが必然的に含まれています。
そういった考えや感情は、過去から現在にかけて
のさまざまな出来事や経験を基にして生まれたも
のです。リーダーシップは、ある人間が世界とどう
つながっているかを表しており、それは個人によっ
てそれぞれ異なります。リーダーシップをどう発揮
していくか、それもひとによってさまざまです。しか
し、リーダーシップとは、WAGGGSの使命やビジョ
ンをあなたの連盟がどう実現させていくかの道筋を
つける手助けとなるべきもので、それがいちばん
大切なことなのです。
この冊子はまだ序章にすぎません。あなたがリー
ダーシップについての理解を深め、より実践に映し
ていくためのトピックスをわたしたちはこれからも紹
介していきます。
リーダーシップ開発は一度限りの体験というより
World Association of Girl Guides and Girl Scouts
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Conclusion
学習記録
この資料で学んだことをふりかえって、いま、どのようなことを思いますか?
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World Association of Girl Guides and Girl Scouts
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