国立音楽大学附属図書館所蔵の ベートーヴェン初期楽譜コレクション ― その概要および研究意義について ―(*) 藤本 一子 (*)本 稿 は 1998 年 6 月 国 立 音 楽 大 学 で 行 わ れ た 日 本 音 楽 学 会 関 東 支 部 例 会 に お け る 発 表 を も と に、 以 後 の 情 報 を と り こ み な が ら 加筆 ・ 修 正を 行 っ た も の で あ る 。 なお 2002 年の Web 開 示 に あ た り 、 僅 かな字句修正を行ったことをおことわりしておく。 序 国立音楽大学附属図書館は、世界でも有数かつ貴重と思われるルートヴィヒ・ヴァン・ ベ ー ト ー ヴ ェ ン ( 1770 −1827 年 ) の 初 期 印 刷 楽 譜 の コ レ ク シ ョ を 所 蔵 す る 。 ち な み に こ こ で い う 「 ベ ー ト ー ヴ ェ ン の 初 期 印 刷 楽 譜 」 と は ベ ー ト ー ヴ ェ ン の 存 命 中 お よ び 19 世 紀 末 ま で に 出 版 さ れ た 印 刷 楽 譜 を さ す 。1999 年 4 月 に 発 足 し た 当 ベ ー ト ー ヴ ェ ン 研 究 部 門 は 、 こ の初期印刷楽譜コレクションの調査・研究を、課題のひとつに掲げた。現在、この楽譜コ レクションは学内教員の研究、大学院授業、またこれに類する研究目的に対して開かれて は い る も の の 、一部 を 除 い て 一 般 公 開 は な さ れ て い な い 。し た が っ て そ の 概 要 は も と よ り 、 存在自体を知る人も多くはないのが現状である。以下、本稿においてこの楽譜コレク ショ ンの概要および研究意義について紹介したい。 Ⅰ.コレクションの概要 1)収集経緯と楽譜の数 これから紹介する「ベートーヴェンの初期楽譜コレクション」は国立音楽大学附属図書 館においては「貴重楽譜」として分類されており、特定の名称はつけられていない。ここ では便宜的に「国立音楽大学ベートーヴェン・コレクション」あるいは「K ベートーヴェ ン・コレクション」と略称することとする。 さ て 「 国 立 音 楽 大 学 ベ ー ト ー ヴ ェ ン ・ コ レ ク シ ョ ン 」 は 、 総 数 1313 点 を 所 蔵 す る ベ ー トーヴェンの初期印刷楽譜のコレクションである。これらは系統的な見通しのもとに一括 収 集 さ れ た も の で は な い 。 最 も 早 い購 入 は 1970 年 頃 。 古 書 楽 譜 商 ハ ン ス ・ シ ュ ナ イ ダ ー 社 お よ び ヨ ア ヒ ム ・ シ ュ タ ー ル 社 な ど か ら 、78 点 の ベ ー ト ー ヴ ェ ン 初 期 印 刷 楽 譜 を 購 入 し た 。 本 格 的 な 収 集 の 端 緒 が 与 え ら れ た の は そ の あ と の 1983 年 、日 本 を 代 表 す る ベ ー ト ー ヴ ェ ン 研 究 者 、 児 島 新氏 が 亡 く な ら れ た 際 に 、 ご 遺 族 に よ り 児 島 氏所 蔵 の 楽 譜 資 料 お よ び 文 献 が 国 立 音 楽 大 学 に 寄 贈 さ れ た こ と に よ る 。「 児 島 コ レ ク シ ョ ン 」 の 中 に は 「 初 版 楽 譜 」 を 含 む ベ ー ト ー ヴ ェ ン の 初 期 楽 譜 153 点 が 含 ま れ て い た 。 こ の 貴 重 な 楽 譜 を 生 か す べ く 、 以 後 の 収集が開始された。その意味では、児島 氏の遺志が同大学図書館のベートーヴェン・コレ ク シ ョ ン を 促 し た と も い え る 。 や が て 1989 年 に ハ ン ス ・ シ ュ ナ イ ダ ー 社 か ら 767 点 と い う 多数の初期楽譜を購入。同年、その内容を補充するためにフェルスター社から 151 点、さ ら に ハ ン ス ・ シ ュ ナ イ ダ ー 社 か ら 5 5 点 を 購 入 。 こ こ に 合 計 ほ ぼ 1300 余 点 か ら な る 膨 大 か つ貴重なベートーヴェン初期印刷楽譜のコレクションが成った。 こ の う ち 初 期 に 購 入 し た 楽 譜 、 お よ び 児 島 コ レ ク シ ョ ン か ら の 楽 譜 の 計 231 点 に つ い て は 、 同 大 学 附 属 図 書 館 刊 行 の 目 録『19 世 紀 の 印 刷 楽 譜 』に 収 載 さ れ 、 す で に 完 全 公 開 が な さ れ て い る 。 そ れ ら を 含 め た 「 ベ ー ト ー ヴ ェ ン 初 期 印 刷 楽 譜 」 全 体 の 所 蔵 目 録 は 、2001 年 初めの刊行をめどに、目下、大学図書館において作成中である。英文表記のこの目録が刊 行 さ れ れ ば 、 楽 譜 は 全 面 的 に 公 開 さ れ る こ と に な ろ う 。( * 当 研 究 年 報 刊 行 後 、『 ベ ー ト ー ヴ ェ ン 初 期 印 刷 楽 譜 目 録 』 は 当 「 音 楽 研 究 所 ベ ー ト ー ヴ ェ ン 研 究 部 門 」 か ら Web 刊 行 さ れ ることとなり、2002 年 3 月に英語版が開示された。 ) 2)コレクションの内容と特色 「K ベ ー ト ー ヴ ェ ン ・ コ レ ク シ ョ ン 」 を 年 代 別 に み る な ら 、 ベ ー ト ー ヴ ェ ン 存 命 中 ( 1770 −1827 年 ) に 出 版 さ れ た も の が 566 点 、 ベ ー ト ー ヴ ェ ン 没 後 19 世 紀 末 ま で が 747 点 と な る。存命中の出版楽譜が重要であることはいうまでもないが、近年は作品の受容に関する 関心がとみに高まってきている。その資料として作曲家没後の出版楽譜が不可欠であるこ とはいうまでもなく、これほど多くの資料を所蔵している意義は、いくら強調されても過 ぎることはない。 ジ ャ ン ル 別 で は お お よ そ オ ペ ラ 43 点 、 交 響 曲 1 6 5 点 、 協 奏 曲 53 点 、 そ の ほ か の 管 弦 楽 曲 45 点 、 室 内 楽 曲 444 点 、 ピ ア ノ ・ ソ ナ タ 253 点 、 そ の ほ か の ピ ア ノ 曲 129 点 、 歌 曲 59 点 、 ミ サ 曲 18 点 、 劇 作 品 36 点 、 合 唱 作 品 12 点 、 そ の ほ か 『 総 目 録 』 で 付 録 Anh.に 収 め ら れ て い る 作品 11 点 。 そ し て 曲 集 ( た と え ば ピ ア ノ・ ソ ナ タ 集 な ど )36 点 ほ か と な る 。 ここには編曲楽譜も多く含まれている。これについては後で簡単に触れたい。 最大の特色は所蔵点数であろう。全体数もさることながら、主要作品の楽譜数の多さが 目 を ひ く 。 た と え ば ベ ー ト ー ヴ ェ ン 初 期 の 人 気 作 品 《 7 重 奏 曲 》 作 品 20 に つ い て は 、 種 々 の編曲を含む 2 4 点の楽譜を所蔵。また3つの稿で知られるオペラ《フィデリオ》関係では 台本、序曲を含めて 43 点もの資料を有する。 さらにコレクションの価値を高めているのは、その数に応じた楽譜の多様さであろう。 「 初 版 楽 譜 」、 さ ま ざ ま な 種 類 の 「 後 続 楽 譜 」、 さ ら に そ れ ら の 「 異 刷 り 楽 譜 」 を 多 数 所 蔵 し、目録記載上はほとんど同一だが、実体が異なる楽譜も複数みられる。結論を先取りし ていうならば、この楽譜の多様さこそ、同コレクションを意義深いものとしているのであ る。 ち な み に こ の こ と は 、 購 入 の 経 緯 に 由 来 し て い る 。 上 に 述 べ た よ う に 、K コ レ ク シ ョ ン は一括して系統的に購入したものではなく、寄贈楽譜を基に補充・拡大したものであり、 そ の 過 程 で 楽 譜 の 重 複 が 生 じ た 。 そ れ ゆ え に “ 巧 ま ず し て ”種 々 の 楽 譜 が 収 め ら れ る こ と となったのである。 いま述べた楽譜の種類について少し詳しく述べておこう。資料価値の見地からみるなら ば、一般的には「初版楽譜」が最も貴重とされる。ベートーヴェンの場合、楽譜作成は「自 筆楽譜→写譜師による印刷底本用楽譜→作曲家自身による校正→初版→(場合によって修 正 ) → 初 版 の 異 刷 り → 後 続 楽 譜 」 と い っ た プ ロ セ ス を た ど り 、「 初 版 楽 譜 」 は 作 曲 者 の 意 図 を 忠 実 に 反 映 し た 確 率 が 最 も 高 い か ら で あ る 。 同 コ レ ク シ ョ ン は 「 初版楽譜」を(「 異 刷 り 」 を含めて)117 点所蔵する。その内容は後記する。 さ て ベ ー ト ー ヴ ェ ン の 楽 譜 は 1 度 の 印 刷 で 完 全 な も の と なった わ け で は な い 。 刷 り を 重 ね、訂正を重ねておそらく作曲者が意図したものに近づいていった。そのことはベートー ヴ ェ ン が 出 版 社 に 宛 て た 多 数 の 手 紙 が 示 し て い る 。 そ れ ら の 多 く に 、 誤 植 に つ い ての 抗 議 が 記 さ れ て お り 、 ト ラ ブ ル は ほ ぼ 日 常 的 で あ っ た と 想 像 さ れ る 。《 弦 楽 五 重 奏 曲 》 作 品 29 の 場 合 な ど 裁 判 に 及 ぶ ほ ど で あ っ た。 こ れ ら か ら わ か る こ と は 、「 初 版 楽 譜 」 が 重 要 で あ る こ と は い う ま で も な い が 、と き に 「 後 続 楽 譜 」 が 重 要 な 場 合 も あ る と い う こ と だ 。 し か も 「 初 版 楽 譜 」 に 関 す る 情 報 は 多 い が 、「 後 続 楽 譜 」 や 各 版 の 「 異 刷 り 」 は 紹 介 さ れ る こ と が 少 な く 、 個 々 の 実 例 に あ た っ て は じ め て 実 際 を 知 る こ と が で き る 。K ベ ー ト ー ヴ ェ ン ・ コ レクションが「後続楽譜」を数多く所蔵していることの意義はこの点でも大きい。 同コレクションは、目録記載上は同じとみられる楽譜を複数、所蔵している場合がある と述べた。これについて例をあげるなら、たとえば《アデライーデ》第2版の楽譜を3点 有する。これらは購入の過程で、偶然に重複してしまったものである。3つの楽譜は目録 情報としては同一であっても、詳細に比較した結果、同じ刷りの楽譜ではないことが判明 した。系統的でない入手方法のたまものというべきだろう。 このように K コレクションは「初版楽譜」およびその改題版、後続楽譜およびその改題 版、編曲楽譜、その後続版、それら各版の異刷りなどを、多様に所蔵する。これはベート ーヴェン楽譜研究においては驚嘆に値する資料宝庫といってよく、おそらくは、ボンのベ ー ト ー ヴ ェ ン ・ ア ル ヒ ー フ 、ア メ リ カ の サ ン ノ ゼ 州 立 大 学 の ベ ー ト ー ヴ ェ ン 研 究 セ ン タ ー 、 オーストリアの国立図書館ホーボーケン・コレクション、ミュンヒェンのバイエルン国立 図書館などに続くものだろう。 3)国立音楽大学ベートーヴェン・コレクションから−事例紹介 それでは K コレクションから興味深い楽譜の例をいくつか、点描的にあげてみたい。 【 】は附属図書館の所蔵番号である。 ( 1 ) 初版楽譜 これについては所蔵するすべての楽譜をあげておきたい。別掲資料「初版楽譜所蔵リ ス ト 」を ご ら ん い た だ き た い 。作品名の表記は『総目録』( キ ン ス キ = ハ ル ム )に よ る 。( ) 内 は 目 録 作 成 者 に よ る 英 文 注 記 で あ る 。 な お こ の リ ス ト の 中 に は 、「 初 版 楽 譜 」の「 異 刷 り 」 も含まれていることをおことわりしておく。 (2)交響曲の編曲楽譜 楽譜内容の点で最も関心をひくもののひとつに「編曲楽譜」がある。当時は大編成の管 弦楽曲を聴く機会などそう多くはなかったから、人々は狭い空間で“室内楽 編成の交響曲” を 楽 し ん で い ただ ろ う 。 そ う し た こ と に つ い て の 手 が か り を 与 え て く れ る の が 編 曲 楽 譜 で あ る 。 そ れ ら の う ち に は ベ ー ト ー ヴ ェ ン 自 身 が 関 与 し た 編 曲 も あ れ ば 、自 ら は 関 与せ ず 、 出版社 側 が 勝 手 に 編 曲 ・ 出 版 し た 例 も あ る 。 後 者 に つ い て ベ ー ト ー ヴ ェ ン は 激 し い 抗 議 の 手 紙 を 送 っ た り も す る の だ が 。 い ず れ に せ よ 、 編 曲 楽 譜 の 実際 を み る こ と は 、 わ れ わ れ に とって、重要な課題となろう。 さて K コレクションは編曲を含めた交響曲の楽譜をどの程度所蔵しているのだろうか。 ま た そ れ ら は 他 の 図 書 館 に お い て も 所 蔵 さ れ て い る も の だ ろ う か 。K コ レ ク シ ョ ン の 質 的 なレヴェルをはかるために、重要と思われる編曲楽譜を他の図書館所蔵楽譜と対照させて み た ( 1998 年 時 の 調 査 に 基 づ く )。 資 料 2 「 全 交 響 曲 、 作 品 123、 作 品 124 の 1830 年 頃 ま での初期楽譜所蔵リスト」を参照されたい。他の所蔵機関名については以下のように略記 し た : H = オ ー ス ト リ ア 国 立 図 書 館 ホ ー ボ ー ケ ン・ コ レ ク シ ョ ン 、 B S B = バ イ エ ル ン 国 立図書館、BL=ブリティッシュ・ライブラリー。 K コレクションは全ての交響曲について初版楽譜を所蔵するわけではないが、たとえば 交響曲第2番の「管楽9重奏版」など興味ある編曲楽譜を所蔵している。これらの編曲楽 譜を実際の演奏に生かすことにより、ベートーヴェンの作品受容研究に新しい視野が開け ることが期待される。 (3)改題版 改 題 版 Titelauflage と は 、 楽 譜 の 本 文 テ キ ス ト は そ の ま ま に 、 表 紙 ペ ー ジ の み を 一 新 し た 版 を い う 。 こ の 場 合 、 興 味 を ひ く の は 記 載 内容 の 変 更 で あ る 。 最 も多 い の は 値段 の 変 更 だろう。しかし 、 まれに本文テキストにも 修正が施されている場合がある。誤植の訂正 な ど が お も な も の で あ る が 、 こ れ に よ っ て 、 ど の 段 階 で “ 正 し い 楽 譜 ”が 作 成 さ れ て い っ たかを知る手がかりが与えられることがある。表紙が改変された理由はさまざまである。 人気曲であったため印刷を重ねるうちに表紙のプレートが磨耗した例、逆に売れ行きが悪 くて表紙を一新した例、版権が移譲されて表紙のみ改変した例、値段を変更した例など。 いずれも作品受容のあり方を知るために好適の材料となりうる。代表的な事例として交響 曲第5番のスコア初版とその改題版をあげておこう【S12-434】 【S11-984】 。 (4)異刷り−《ヴァルトシュタイン》ソナタ作品 53 を例に 異 刷 り Variant と は 、 版 全 体 と し て は そ の ま ま だが 、 ご く 一 部 が な ん ら か の 理 由 に よ っ て 改 変 さ れ た 楽 譜 を い う 。た だ し 改 変 に つ い て 、 そ れ と 購 買 者 に 知 ら せ な い か 、 む し ろ 元 の イ メ ー ジ 内 で 作 成 し て い る こ と が 特 徴 で あ る 。理 由 は 、 や は り 、 さ ま ざ ま だ 。 プ レ ー ト が 磨 耗 し た た め に 表 紙 の プ レ ー ト の みそ っ と 差 し 替 え る 。 あ る い は 本 文 テ キ ス ト の 誤 植 を 修 正し て お く な ど で あ る 。 表 紙 の プ レ ー ト を 大 々 的 に 一 新 しな い 背 景 に は 、 元 の 表 紙 イ メ ー ジ を 壊 し た く な い 理 由 が あ る 。 人 気 作 品 の 場 合 な ど は こ れ に あ た る 。そ う し た 例 と し て 《ヴァルトシュタイン》作品 53 初版の表紙をあげよう。 この作品の初版楽譜は、数多く確認されているが、それぞれ微妙に表紙が異なっており、 い ず れ が 早 い 出 版 な の か が 問 題 に さ れ て き た 。 ヴ ァ イ ン ホ ル ト ( 参 考 文 献 Weinhold) は 、 ベ ー ト ー ヴ ェ ン の 初 期 楽 譜 に 関 す る 論 考 の 中 で 、「 初 版 」と し て 以 下 の 楽 譜 を 報 告 し て い る 。 「 リ ュ ー ベ ッ ク 図 書 館 所 蔵 」「 ベ ー ト ー ヴ ェ ン ・ ハ ウ ス 所 蔵 」「 ホ ー ボ ーケ ン ・ コ レ ク シ ョ ン 所 蔵 」「 そ の ほ か 」。 ヴ ァ イ ン ホ ル トは こ れ ら の 楽 譜 の 印 刷 順 序 を 推 定 す る に あ た り 、 表 紙 デ ザ イ ン の 精巧 度 」 を 判 断 基 準 と し た が 、 最 終 的 な 決 め て を 欠 い て い た 。K コ レ ク シ ョ ン は 初 版 楽 譜 を 2 点 所 蔵 し て お り 、じ つ は そ の 比 較 か ら こ こ に 解 決 を 与 え る こ と が で き た 。 ヴ ァ イ ン ホ ル ト も 結 論 を 出 し か ね た そ の 2 点 ① 【S11−920 】② 【S11 −921】 を ご ら ん い た だ き た い( 図 版 参 照 ) 。2 つ の 表 紙 は 、 一 見 し て デ ザ イ ン が 同 じ イ メ ー ジ の ま ま 作 成 さ れ て はいるものの、微妙に変更されていることがおわかりいただけるだろうか。明らかな 特徴 と し て 、 表 紙 プ レ ー ト の 「 ひ び 割 れ 」が あ げ ら れ る 。 ① は 「 ひ び 割 れ 」 が 目 立 ち 、 ② に は これがみられない。しかしひとたびページを追ってゆくと、①の楽譜プレートは「ひび割 れ 」の 状 態 が 若 い が 、 ② で は む し ろ 同 じ 個 所 で さ ら に 「 ひ び 割 れ 」 が 進 展 し て い る 場 合 が みられる。これらの事実から次のように推測することができるだろう。2つの楽譜は基本 的 に 同 じ プ レ ー ト を 用 い た 「 異 刷 り 」 楽 譜 で あ る 。 前 者 の プ レ ー ト が 磨耗 し た た め、 後 者 で 楽 譜 ペ ー ジ の 「 ひ び 割 れ 」 は そ の ま ま に 、 表 紙の み わ ず か に 改 変 し て差 し 替 え た 。 表 紙 と楽譜内部の「ひび割れ」の度合いが一致しないのは、以上の理由によっ て説明がつく。 したがって順序としては後者があとの印刷であろう。人気作品ゆえの現象であろうか。ち な み に 紙 質 に 関 し て い え ば 、 ① は「 す か し 」 入 り 、② は「 す か し 」な し 。た だ し 「 す か し 」 の有無が印刷順序の判定において有力な決めてとなるかどうかは、微妙である。このよう に時期が接近した場合においては、難しいといわざるをえない。 (5)後続楽譜 K コ レ ク シ ョ ン か ら 3 つ の 作 品 を 例 に 、後 続 楽 譜 Nachdruck の 重 要 性 に つ い て の べ よ う 。 事 例 と し て 《 ゲ レ ル ト に よ る 歌 曲 集 》 作 品 48、《 友 情 の 幸 福 Das Gluck der Freundschaft》 作品 88、弦楽五重奏曲作品 29 をとりあげよう。 《 ゲ レ ル ト 歌 曲 集 》 作 品 48 は 、 ゲ レ ル ト の 詩 集 か ら ベ ー ト ー ヴ ェ ン が 6 つ の 詩 を 選 ん で 歌曲 集 と し た も の 。 従 来 は 、 各 曲 1節 の 詩 か ら な る 緊 張 感 の あ る 歌 曲 集 と し て 知 ら れ て き た 。 し か し 『新 全 集 』 は 、 当 時 の 筆 写 楽 譜 の 状 況 か ら 、 各 曲 と も 有 節 歌 曲 で あ る 可 能 性 を 示 唆 し た 。 出 版 楽 譜 と し て は 「 初 版 」( モ ロ 社 1803 )、「 第 2 版 」( ジ ム ロ ッ ク 1803 年 )、 「 第 3 版 」( ホ フ マ イ ス タ ー & キ ュ ー ネ ル 社 1 8 0 3 年 ) が 基 礎 資 料 と し てあ げ ら れ る。 3 つ の 出 版 楽 譜 は 、 そ れ ぞ れ 曲 順と 歌 詞 詩 節 の つ け 方 が 異 な る 。 「 初 版 」は1 詩 節 の み 。従 来 知 ら れ て い る 形 だ 。「 第 2 版 」は 筆 写 譜 を 反 映 し て 有節 歌 曲 。「第 3 版 」 も こ れ に 続 く 。 1990 年に出された『新全集』は後続楽譜を評価し、有節歌曲とした。 《 人 生 の 幸 福 》 作 品 88 では 、 作 品 タ イ ト ル と 歌 詞 に 関 す る 問 題 が 起 こ っ た 。 こ の 歌 曲 は 1803 年 春 −10 月 作 曲 。 『 新 全 集 』は 「 初 版 」( レ ッ シ ェ ン コ ー ル 1803 年 )「 第 2 版 」( ジ ム ロ ッ ク 1803 年)【S12 −096】、「 第 3 版 」( ホ ー フ マ イ ス タ ー & キ ュ ー ネ ル 1803 年 )【S12 −095】 を 重 要 資 料 と す る 。「 初 版 」 は ド イ ツ 語 、「 第 2 版 」 も ド イ ツ 語 、「 第 3 版 」 は ド イ ツ 語 と イ タ リ ア 語 が 付 さ れ て い る 。 弟 子 リ ー ス に よ れ ば 、 ベ ー ト ー ヴ ェ ン は 「 初 版」 の タ イ ト ル (《 友 情 の 幸 福 》) と歌 詞 が 誤 っ て い る の で正 す よ う にと 、 リ ー スに 正 し い 歌 詞 を 送 っ てき た 。し か し 「 第 2 版 」( ジ ム ロ ッ ク )は そ の 時 点 で す で に 版 刻 を 了 え て お り 、 か た わ らで出所不明ながらホフマイスターからベートーヴェンが修正したものとほぼ同じタイト ル と 歌 詞 を も つ 楽 譜 が 出 版 さ れ た(「 第 3 版 」)。こ こ に は イ タ リ ア 語 も 付 け ら れ て い た 。「 第 3版」の音符は「第2版」と同じ。ただし「初版」とは異る個所がある。この歌曲をめぐ る 状 況 は 複 雑 だ が 、 結 論 を 述 べ る な ら 、「 初 版 」 の 音 符 と 「 第 3 版 」 の タ イ ト ル ・ 歌 詞 が ベ ー ト ー ヴ ェ ン の 意 図 し た も の で あ る と 判 断 さ れ る 。後 続 楽 譜 が 見 逃 せ な い 、よ い 例 で あ る 。 《 弦 楽 五 重 奏 曲 》 作 品 29 の 場 合 は 、 ブ ラ イ ト コ プ フ & ヘ ル テ ル 社 が 初 版 を 準 備 し て い る う ち に (1802 年 末 )、 い つ の 間 に か 版 下 が ( お そ ら く ) 盗 用 さ れ 、 ア ル タ リ ア 社 か ら 誤 植 の 多 い 楽 譜 が出 さ れ た (1803 年 )。 の ち に 「 ベ ー ト ー ヴ ェ ン 自 身 の 修 正 」 と 銘 打 っ て 改 訂 出 版 が な さ れ た (1 8 0 3 年 )。『 総 目 録 』に よ れ ば ア ル タ リ ア は 、 ま ず版 刻 番 号 な し で 、つ い で 版 刻 番 号 つ き で 誤 植 ペ ー ジ だ け を差 し 替 え て 印 刷 し 直 し た 。K コ レ ク シ ョ ン は こ の 作 品 のブ ラ イ ト コ プ フ 版 【S11−830 ,831】( 2 点 は 値 段 の 表 記 方 法 が 微 細 に 異 な る が 内 部 は 同じ)とアルタリア修正版【 S11−833 版 刻 番 号 つ き 】を 所 蔵 す る。両 者 を 比 較 し て み る と 、 アルタリアが急遽ページを差し替えたあとが明らかだ。美しいブライトコプフ版と劣悪な アルタリア版をみるとき、当時の出版技術の状況を目の当たりにする思いがある。 (6)初版楽譜またはその改題版の表紙ヴィグネット 印刷楽譜の場合、通常は本文テキストに関する比較検討が研究対象とされるが、表紙そ のほか視覚的な事例も興味深い。これらは実際の楽譜に即してみてこそ、豊かなイメージ がえられる。またまったく同じ種類の楽譜であっても、プレートの磨耗度によって外観の 印象が異なる。こういったプレート磨耗の観点から印刷部数の多寡を推定する手がかりが えられることもある。 K コレクションはベートーヴェンの印刷楽譜のうち 、最も精巧で美しい表紙をもつこと で 知 ら れ る 3 つ の 楽 譜 、す な わ ち《 ヴ ァ イ オ リ ン ・ ソ ナ タ 》作 品 9 6 の 初 版【S12 −136 ,137, 138】、《 遥 か な 恋 人 に よ せ て 》 作 品 98 の 初 版 ( 改 題 版 )【S12−143 】、《 フ ィ デ リ オ 》 作 品 72 の ピ ア ノ ・ ヴ ォ ー カ ル ス コ ア 初 版 【 S12 −015 】 を 所 蔵 す る 。 と く に リ ト グ ラ フ が 見 事 と される作品 96 については、3点を所蔵する。 (7)被献呈者名の別刷りページ 印刷楽譜では通常、表紙に献呈を受ける人物の名前が記載されるが、ときに別ページを 挿 入 し て そ の 名 を 特 別 に 刷 り こ む こ と が あ る 。 こ の よ う な 例 を 《 フ ィ デ リ オ 》 作 品 72 ピ ア ノ・ ヴ ォ ー カ ル ス コ ア( ル ー ド ル フ 大 公 )【S12−015 】な ど 1 4 の 楽 譜 に み る こ と が で き る 。 そ の記 載 方 法 な ど 詳 細 に み て ゆ く と 、 楽 譜 を 通 し て の 献 呈 と い う 一 般 的 な 情 報 に 加 え て 、 それぞれの献呈の重みなどをうかがい知ることもできる。 (8)予約者リストの挿入ページ 当時、楽譜が予約出版されたことはよく知られている。この場合、各楽譜には予約者の リストが付されるのだが、私たちがその実際を目にする機会は多くはないだろう。ベート ー ヴ ェ ン の 場 合 、 予 約 者 リ ス ト が 刷 り こ ま れ た 楽 譜 と し て 3 件 が 知 ら れ て い る が 、K コ レ クションではそのうち2つの 重要な事例をみることができる。ひとつは《フィデリオ》作 品 7 2 第 3 稿 の ス コ ア 初 版 。 オ ン ス ロ ー 、 プ レ イ エ ル な ど 5 7 名 の 予 約 者名 が 刷 り こ ま れ て いる【 S12 −011】。 華 麗 な 予 約 出 版楽 譜 と し て は 《 ミ サ・ ソ レ ム ニ ス 》 ・《 第9 》・《 序 曲 献 堂 式》の 3 作 品 一 括 予 約 出 版 が よ く 知 ら れ て い る 【 S12 −194】。予約者の名前は『 総 目 録 』 (キ ンスキー=ハルム)などを通して知ることはできるが、その壮麗な予約者リストをまのあ たりにするとき、この出版にかけた作曲者と出版社の意欲がリアルに迫ってくる。 (9)広告ページの差込み 出版社が広告を掲載することは当時、さかんに行われていた。しかしその内容について の情報はほとんど報告されていないため、実例をみながら網羅的に調査する以外はなさそ うだ。これによって作品の知名度、出版社の広告事情などさまざまな情報をえることがで き る だ ろ う 。K コ レ ク シ ョ ン 所 蔵 楽 譜 で は 、15 点 の 事 例 を み る こ と が で き る 。 こ こ で は ベ ー ト ー ヴ ェ ン 中 期 の 《 交 響 曲 第 7 番 》 作 品 92 の 五 重 奏 編 曲 版 を 例 に あ げ て お こ う 【S12− 113】。新 作 の 各 編 曲 楽 譜 の 紹 介 と 並 ん で 、オ ン ス ロ ー や フ ン メ ル の 作 品 が 宣 伝 さ れ て い る 。 (10)ウォーターマーク(すかし) ところで、実際の楽譜を手にしてはじめて調査が可能になる領域がある。紙質について の 研 究 は 、 ま さ に こ れ に あ た る だ ろ う。 ベ ー ト ー ヴ ェ ン の 場 合 、 生 前 の 出 版 楽 譜 の ほ と ん ど は 手 漉 き 紙 であ り 、「 簾 の 目 入 り laid paper」 と 「 簾 の 目 な し woved paper」 に わ け ら れ る 。 さ ら に 上 の ( 3 ) で 述 べ た よ う に 、 楽 譜 の 年 代 順 序 を 推 定 し よ う と い う と き 、「 ウ ォ ー タ ー マ ー ク 」( す か し ) が ポ イ ン ト に な る 場 合 も お こ っ て こ よ う 。K コ レ ク シ ョ ン で は 1300 点 の う ち 約 4 0 0 点 に「 ウ ォ ー タ ー マ ー ク 」( す か し )が み ら れ 、そ の う ち 約 3 分 の1 が 「 ゆ り」マークに属することが判明しているが、そのヴァリアントはじつに多彩だ 。 「ウォータ ー マ ー ク 」 は 面 白 い 問 題 を 多 々 含 ん で い る 。 こ れ に つ い て は別 論 考 ( 長 谷 川 ) を 参 照 さ れ たい。 Ⅱ.初期楽譜における「異刷り」ヴァージョンの重要性について −《アデライーデ》作品 46 を比較する 《 ア デ ラ イ ー デ 》 作 品 46 は 、 ベ ー ト ー ヴ ェ ン 初 期 の 人 気 歌 曲 で あ る 。 マ テ ィ ッ ソ ン の 詩 は 1790 年 の『 ム ー ゼ ン ・ ア ル マ ナ ハ 』誌 に 掲 載 さ れ 、 の ち に『 マ テ ィ ッ ソ ン 詩 集』に 再 録 さ れ た 。 ベ ー ト ー ヴ ェ ン は お そ ら く こ の 詩 集 か ら 詩 を 選 ん だ と さ れ る 。作曲は 1795 年 ま た は 1796 年 と さ れ る が 、 自 筆 楽 譜 は 散 逸 。 自 筆 書 き 込 み の あ る 筆 写 楽 譜 も 現 存 せ ず 、“ 正 しい”楽譜の決め手になるのは、現在の段階では印刷楽譜に限られている。 《 ア デ ラ イ ー デ 》 は 1797 年 に ウ ィ ー ン の ア ル タ ー リ ア か ら 出 版 さ れ 、 高 い 人 気 を え て またたくまに多種の後続楽譜が印刷された。ベートーヴェン作品中、最も多くの種類の楽 譜 が 出 さ れ た も の の ひ と つ で あ ろ う 。K コ レ ク シ ョ ン は 1 8 3 0 年 代 ま で の 印 刷 楽 譜 の う ち 9 点 を 所 蔵 す る 。こ れ ら の 楽 譜 を 調 査 し た と こ ろ 、 興 味 深 い 事 実 が 浮 か び 上 が っ て き た 。 以 下、要点を記しておきたい。 1) ヴ ァ イ ン ホ ル ト( 参 考 文 献 Weinhold)は、ベ ー ト ー ヴ ェ ン の 初 期 楽 譜 に つ い て の 論 考 の 中 で 《 ア デ ラ イ ー デ 》に 注目 し た 。 印 刷 楽 譜 の 種 類 が じ つ に 多 様 で 、 当 時 の 出 版 状 況 を 知 る た め に 恰 好 の 材 料 だ か ら で あ る 。 論 考 で 確 認 さ れ て い る の は 1 9 種 25 点 の 楽 譜 。 一 方 、K コ レ ク シ ョ ン が 所 蔵 す る の は 9点 。ヴ ァ イ ン ホ ル ト の丹 念 な 追 跡 に も か か わ ら ず 、 Kコレクション所蔵楽譜のうち7点までがヴァインホルトのリスト外のものであること が 判 明 し て い る 。と り わ け ハ ノ ー ヴ ァ ー の ク ル シ ュ ヴ ィ ツ か ら 刊 行 さ れ た 楽 譜 は 類 似 楽 譜 の 報告 も な い 。ク ル シ ュ ヴ ィ ツ と い う 出 版 社 は K コ レ ク シ ョ ン に み る か ぎ り 他 の 作 品に は あ ら わ れ て こ ない 。 あ る い は マ イ ナ ー の 出 版 社 な の か も 知 れ な い 。 こ の 楽 譜 は 『 総 目 録 』 に 記載 は あ る も の の 、『 新 全 集 』 も 参 照 し て な い も よ う で あ る 。 い ず れ に せ よ K コ レ ク シ ョンにはきわめて珍しい版が含まれていたことになる。 2 )『新 全 集 』が 校 訂 資 料 と し て あ げ て い る 楽 譜 は「 初 版 」( ア ル タ リ ア 1797 年 2 月 )「 第 2 版 」( ホ ー フ マ イ ス タ ー & キ ュ ー ネ ル 社 1803 年 半 ば )「 第 3 版 」( ジ ム ロ ッ ク 1 8 0 3 年 末 ) である 。 『 新 全 集 校訂報告』は 第 2 版 の 歌 詞 を ド イ ツ 語 と イ タ リ ア 語 と し て い る が 、 お そ ら く誤り 。 K コ レ ク シ ョ ン は 第 2 版 に つ い て 3 点 の 楽 譜 を 所 蔵 す る が 、 い ず れ も ド イ ツ 語 、 イタリア語、フランス語が付されている。 『総目録』や ほ か の 図 書 館 所 蔵 の 第 2 版 も 、フ ラ ンス語歌詞が付されていることを伝えている。 《アデライーデ》について、いくつか主な箇所を比較した。所蔵各楽譜の重要点の比較 表と譜例①―⑤を参照されたい。 譜 例 ① 第 4 小 節 歌 唱 声 部 の 装 飾 音 形 :「 初 版 」 は A 音 形 、「 第 2 版 」 で B 音 形 と な り 、 こ れを「第3版」が A に修正している。 『新全集』は、別の記譜方法 C をとっている。 譜例②下の変ホ音8分音符はイタリア語/フランス語がつけられてから、はじめて書か れ た と 想 像 さ れ る 。 す な わ ち も と の ド イ ツ 語 歌 詞版 に は 書 か れ て い な い。 現 在 、 ド イ ツ 語 歌詞にもかかわらずこの 8 分音符を装飾音風につけて演奏しているディスクが出ているが、 イタリア語用の楽譜を誤って用いていると推測される。 譜 例 ③ 第 9 2 小 節 の ピ ア ノ 伴 奏 右 手 の 分 散 和 音 音 形 :「 初 版 」 は ↑ 音 を a 音 と し た が 誤 り 。 印 刷 底 本 が す で に 間 違 っ て い た か 、 あ る い は 次 ペ ー ジ に と ん だ の で 間 違 っ た の か 。「 第 2 版 」 は こ れ を f 音 に 修 正 し て い る 。「 第 2 版 」 が こ れ を 間 違 い と 認 識 し た の は 、「 初 版 楽 譜」に修正が入ったものを持っていたと推測される。あるいはベートーヴェン自身が訂正 を 行 っ た 可 能 性 も あ る 。1802−0 3 年頃 の ベ ー ト ー ヴ ェ ン は 、 ホ ー フ マ イ ス タ ー と 親 し く コ ンタクトをとっていたからである。 「第3版」は「初版」を踏襲しているが、以後の楽譜は すべて「第2版」の修正をとりこんでいる。 譜例④『新全集』の校訂報告を参照してみると、次のことが明らかになる。すなわち新 全 集 は 第 100 小 節 に ク レ ッ シ ェ ン ド ・ガ ー ベ ル ( 松 葉 記 号 ) を 書 き こ み 、 そ の 校 訂 報 告 に 「 初 版 に は な い 」 と 記 載 し て い る が 、こ の 記 号 はK コ レ ク シ ョ ン 所 蔵 の 初 版 の 2 つ の 改 題 版 、お よ び ジ ム ロ ッ ク の 3 つ の 楽 譜 す べ て に み ら れ な い 『 。 新 全 集 』が な ぜ 書 き 入 れ たの か 、 資料上の根拠は不明である。 譜 例 ⑤ 第 1 5 0 小 節 の 歌 唱 声 部 最 初 の 音 :「 初 版 」 は 2 点 fis 音 。「 第 3 版 」 は 2 点 g 音 。 こ の 音 の 異 同 は 大 切 だ 。『新全集』は「「 第 3 版 」( ジ ム ロ ッ ク ) 以 後 は そ れ が 踏 襲 さ れ て い る の で 、 ジ ム ロ ッ ク 版 に な ら っ た 」 と し て い る が 、 こ れ は 正 し く な い 。「 第 3 版 」 以 後 に 出 さ れ た カ ッ ピ 版 は 、 修 正 し て 「 初 版 」 に 一 致 さ せ た 。『 新 全 集 』 の 校 訂 者 は 、 よ り 多 く の 版 を検討する余地があるのではないだろうか。場合によっては「初版」を生かす可能性が残 されているかも知れない。 こ れ ら 以 外 に も 詳 細 に 比 較 し た 結 果 、 次 の こ と が 導 き 出 さ れ た 。K コ レ ク シ ョ ン の 「 初 版」改題版2点は同一の刷りではない。すなわち「異刷り楽譜」である。表紙の異同は値 段 の 有 無 だ け で あ る 。 値 段 な し の 楽 譜 の 方 に は 、 楽 譜 内 部 に 誤 植 が あ り ( 歌 詞 の ヌ ケ )、値 段 つ き の 楽 譜 の 方 で こ れ が 修 正 さ れ て い る ( そ の ほ か は 異 同 な し )。 こ れ に よ っ て 、 こ れ ま でよく言われてきたこと、すなわち「楽譜はまず値段なしで出版されすぐあとで値段が付 される」という慣習が、これらの楽譜から証明された。また K コレクションの「第3版」 3点は2種類の「異刷り楽譜」である。最初の2点はまったく同じだが、第3の楽譜が異 なる。第3の 楽 譜 は 、 プ レ ー ト の 「 ひ び 割 れ 」 が 激 し い ペ ー ジ と そ う で な い ペ ー ジ が あ り 、 その様態から次のことが推測される。つまり、プレートが磨耗して「ひび割れ」がすすみ、 その結果、いくつかのページだけプレートを新規に製造した。この際、差し替えページに おいて、前の版にはなかった誤植が多数生じた。 こういったさまざまのことから、ベートーヴェンの正本楽譜をさだめる際には「初版」 だけでなく、その「異刷り」や「後続楽譜」が資料として重要な役割をはたすことが、あ らためて確認されるのである。 Ⅲ.19 世紀後半の楽譜から−《第9交響曲》作品 125。カストナーによる書き込み楽譜 最後にKコレクション所蔵の没後の楽譜から、興味ある楽譜を紹介しておこう。 没後の楽譜は受容史をみる上できわめて重要と思われるものが多い。とくにベートーヴ ェンと直接、深い関わりがあったチェルニーやモシェレスの校訂によるピアノ・ソナタ全 集、あるいは弟子ではなかったがベートーヴェンから強いインパクトをうけたフランツ・ リスト校訂によるピアノ・ソナタ全集などがそれで、これらの楽譜資料は、のちの時代が ベートーヴェン作品をどのように理解していたかを知る重要な材料となろう。 ここで は 、 ほ と ん ど 知 ら れ て い な い 楽 譜 を 1 点 、 紹 介 し た い 。 ラ イ プ ツ ィ ヒ と ヴ ィ ン タ ー ツ ゥ ー ア の J.Rieter-Bidermann か ら 出 版 さ れ た ク リ ュ ザ ン ダ ー 編 纂 の 1869 年 出 版 の《 第 9 》ス コ ア で あ る 【S12 −199】。 興 味 深 い こ と に 、こ の 楽 譜 に は 1872 年付 け で カ ス ト ナ ー に よ る 鉛 筆 の 記 入 が あ る。そ れ に よ れ ば 楽 譜 内 の 書 き こ み は 、ヴ ァ ー グ ナ ー が 1872 年 に 演 奏した楽譜から筆写したとのことである 。この鉛筆による書き込みはおもに第2楽章と第 4楽章においてみられる。第2楽章の記入はさほど多くはない。注目されるのは、第4楽 章 だ。 カ ス ト ナ ー の 書 き こ み に よ れ ばヴ ァ ー グ ナ ー は バ リ ト ン 独 唱 の レ チ タ テ ィ ー ヴ ォ を 一 部 カ ッ ト し 、 ま た 合 唱 部 分 で も 「Freunde」 を お そ ら く ( 歌 唱 声 部 全 体 を ) ま ず カ ッ ト 。 次の「 Freunde」 の あ と 「Freude Schoner」 で は 、{Freude}の 歌 詞 反 復 を せ ず に そ の 音 符 に 「schoner」 の 歌 詞 だ け でメ リ ス マ 風 に 歌 わ せ た と い う こ と で あ る ら し い ( 譜 例 参照 )。 この楽譜は大変興味をそそられる。詳細に検討することにより、ヴァーグナーの《第9》 演奏についての手がかりが得られるだろう。 ほ か に も 指 揮 者 ベ ー ム の 手 に よ る R . シ ュ ト ラ ウ ス の 序 文 つ き の《 交 響 曲 第 1 番 》【 プ レ ー ト は 1870 年頃 S12 −551】 の 楽 譜を 所 蔵 す る。 こ の 楽 譜 に は 内 部 に も ベ ー ム に よ る 詳 細な書き込みがあ り、演奏解釈という点で、ベーム・ファンならずとも興味ひかれること だろう。 結び−コレクション研究の意義と課題 国立音楽大学ベートーヴェン・コレクションは、質量の両面においてきわめて貴重な印 刷楽譜コレクションである。上に述べてきたように、初期楽譜の意義は「初版楽譜」にと ど ま ら な い 。“ 正 し い ” オ リ ジ ナ ル 楽 譜 の 研 究 に お い て 、 あ る い は 、 今 後 の ベ ー ト ー ヴ ェ ン 研 究 を 支 え る キ ー ワ ー ド で あ る 「 受 容 」 研 究 に お い て は 、 む し ろ 、「 後 続 楽 譜 」 や 「 異 刷 り 楽譜」の存在が大きいと思われる。 さて、膨大な初期楽譜資料を前に、われわれの課題は限りなく大きく横たわっている。 当 面 の テ ー マ と し て は 、「 編 曲 楽 譜 に み る ベ ー ト ー ヴ ェ ン 作 品 」「 ベ ー ト ー ヴ ェ ン の ピ ア ノ ソナタ全集の系譜」などがあがってこよう。これらの課題に対しては、かなりの数の楽譜 資料と調査時間が必要とされるため、その重要性が指摘されていながら、研究はなお緒に ついたばかりといってもよい。おそらくは、あるプロジェクトのもとで、共同研究によっ て進められることが望ましい。いずれは国際的な研究協力というかたちも視野に入ってこ ようが、まずは日本において 1 歩が期待されている。 おもな参考文献 1)Ludwig van Beethoven. Erst- und Fruhdrucke.Katalog Nr.289. Musikantiquariat Hans Schneider D8132 Tutzing 1986 2)Ludwig van Beethoven. J.Voerster, Antiquariat fur Musik und Deutsche Literatur. Antiquariats-Katalog 6.Stuttgart 1989. 3)Beethoven. Das Werk Beethovens thematisch-bibliographisches Verzeichnis seiner samtlichen vollendeten Kompositionen von Georg Kinsky. Nach dem Tode des Verfassers abgeschlossen und herausgegeben von Hans Halm. Henle, Munchen 1955 4)Katalog der Sammlung Anthony van Hoboken in der Musiksammlung der Osterreichischen Nationalbibliothek. Musikalische Erst-und Fruhdrucke. Band 2:Ludwig van Beethoven. Bearbeitet von Karin Breitner und Thomas Leibnitz. H.Schneider, Tutzing 1983 5)Bayerische Staatsbibliothek. Katalog der Musikdrucke. BSB-Musik. K.G.Sauer, Munchen, New York, London, Paris 1989 6)The Cotalogue of Printed Music in the British Library to 1980. K.G.Sauer, London, Munchen, New York, Paris 1981 7)Liethbeth Weinhold, Die Erst-und Fruhdrucke von Beethovens Werken in den Musik-Sammlungen der Bundesrepublik Deutschland und West-Berlins. Verzeichnis und Kommentar. in; Beitrage zur Beethoven-Bibliographie. Studien und Materialien zum Werkverzeichnis von Kinsky-Halm. Herausgegeben von Kurt Dorfmuller. Henle, Munchen 1978 8)Beethoven Werke. Abt.XII/Bd.1. Lieder und Gesange mit Klavierbegleitung herausgegeben. von Helga Luhning. Henle,Munchen 1990 9)Beethoven Werke Abt.XII/Bd.1. Kritischer Bericht. Herausgegeben von Helga Luhning. Henle, Munchen 1990 10)Beethoven. Briefwechsel Gesamtausgabe. Herausgegeben von S.Brandenburg. Henle, Munchen 1996-1998. 11)Alexander Weinmann,Tobias Haslingers “Gesamtausgabe der Werke Beethovens”.In:Beitrage zur Beethoven Bibliographie.Herausgegeben von Kurt Dorfmuller ,Henle,Munchen 1978 資料1―初版楽譜所蔵リスト(目録作成者による提供。1999 年末時点。) 作品番号 2 5 8 9 12 14-1 15 24 25 26 29 29 30 33 34 35 35 37 45 47 47 53 53 54 56 61a 64 68 69 70 70-2 72 72 75-4 77 81a 86 89 90 90 91 95 96 96 97 101 105 105 105 106 作品名 所蔵番号 3 Klaviersonaten S11-660 2 Sonaten fur Klavier und Violoncell S11-689 Serenade fur Violine, Bratsche und Violoncell S11-701 3 Trios fur Violine, Bratsche und Violoncell S11-705 3 Sonaten fur Klavier und Violine S11-723 Ubertragung der Klaviersonate Opus 14 1 fur Streichquartett S11-748 Klavierkonzert (Nr.1) S11-751 Sonate fur Klavier und Violine S11-815 Serenade fur Flote, Violine und Bratsche S11-817 Klaviersonate S11-818 Streichquintett S11-830 Streichquintett S11-831 3 Sonaten fur Klavier und Violine S11-840 7 Bagatellen fur Klavier S11-854 6 Variationen fur Klavier S11-855 15 Variationen mit einer Fuge fur Klavier S11-857 15 Variationen mit einer Fuge fur Klavier S11-858 Klavierkonzert (Nr.3) S11-874 3 Marsche fur Klavier zu vier Handen S11-893 Sonate fur Klavier und Violine S11-904 Sonate fur Klavier und Violine S11-905 Klaviersonate S11-920 Klaviersonate S11-921 Klaviersonate S11-922 Konzert fur Klavier, Violine und ... S12-417 Ubertragung des Violinkonzerts Opus 61 als Konzert fur Klavier S12-429 Sonate fur Klavier und Violoncell S11-675 Symphonie Nr.6 S11-993 Sonate fur Klavier und Violoncell S12-002 2 Trios fur Klavier, Violine und Violoncell S12-005 2 Trios fur Klavier, Violine und Violoncell S11-487 Fidelio (piano score without text) S12-022 Fidelio (score. second impression) S12-011 6 Gesange Nr.4 (Allg. musik. Ztg.) S12-450 Fantasie fur Klavier S12-054 Klaviersonate (french title) S12-063 Messe S11-438 Polonaise fur Klavier S12-097 Klaviersonate S12-101 Klaviersonate S12-461 Wellingtons Sieg oder... S12-104 Streichquartett S12-132 Sonate fur Klavier und Violine S12-136 Sonate fur Klavier und Violine S12-137 Trio fur Klavier, Violine une Violoncell S12-140 Klaiversonate S12-146 6 variierte Themen fur Klavier (German edition) S12-472(Ⅰ) 6 variierte Themen fur Klavier (German edition) S12-150(Ⅰ) 6 variierte Themen fur Klavier (German edition) S12-473(Ⅱ) Klaviersonate S12-151 出版年 1796 1797 1797 1798 1799 1802 1801 1802 1802 1802 1802 1802 1803 1803 1803 1803 1803 1804 1804 1805 1805 1805 1805 1806 1807 1808 1807 1809 1809 1809 1809 1814 1826 1810 1810 1811 1812 1815 1815 1815 1816 1816 1816 1816 1816 1817 1819 1819 1819 1819 108 113 121b 121b 122 123 123 124 125 126 127 127 127 127 130 130 130 130 131 131 131 132 132 132 133 133 134 135 135 136 136 136 138 WoO6 WoO7 WoO25 WoO36 WoO40 WoO41 WoO45 WoO45 WoO58-1 WoO58-1 WoO71 WoO73 WoO74 WoO78 WoO78 WoO78 WoO80 WoO104 WoO118 WoO129 WoO134 WoO135 WoO136 WoO148 WoO185 25 Schottische Lieder (German edition) Musik zu A. v. Kotzebues Festspiel Opferlied (score) Opferlied (piano score) Bundeslied(piano sore) Missa solemnis (score) Missa Solemnis(piano score) Ouverture Symphonie Nr.9 (score) 6 Bagatellen fur Klavier Streichquartett (parts) Streichquartett (parts) Streichquartett (parts) Streichquartett (score) Streichquartett (score) Streichquartett (parts) Streichquartett (parts) Streichquartett (parts) Streichquartett (score) Streichquartett (parts) Streichquartett (parts) Streichquartett (parts) Streichquartett (parts) Streichquartett (parts) Grosse Fuge fur Streichquartett (parts) Grosse Fuge fur Streichquartett (score) Fuge fur Streichquartett f. Klavier zu 4 Handen Streichquartett (parts) Streichquartett (parts) Preis der Tonkunst Preis der Tonkunst (parts) Preis der Tonkunst (piano score) Ouverture I zur Oper Leonore Rondo fur Klavier mit Begleitung (piano) 12 Menuette f. Orchester (piano score) Rondo (Arr. for piano 4 hands) 3 Quartette f. Klavier, Violine, 12 Variationen Rondo f. Klavier u. Violine 12 Variationen f. Klavier und Violoncell 12 Variationen f. Klavier und Violoncell Kadenz zu Mozarts Klavierkonzert d moll Kadenz zu Mozarts Klavierkonzert d moll 12 Variationen fur Klavier 10 Variationen fur Klavier Ich denke dein 7 Variationen fur Klavier 7 Variationen fur Klavier 7 Variationen fur Klavier 32 Variationen fur Klavier Gesang der Monche "Seufzer eines Ungeliebten" u. "Gegenliebe" Der Wachtelschlag Sehnsucht (original or its Titleauflage?) Die laute Klage Andenken So oder so (first as a single work) Edel sei der Mensch, ... S12-154 S12-164 S12-186 S12-187 S12-192 S12-194 S12-196 S12-197 S12-198 S12-206 S12-212 S12-203 S11-440 S12-211 S12-214 S12-215 S11-582 S11-587 S12-490 S11-583 S12-216 S11-584 S12-219 S12-220 S12-222 S12-493 S12-223 S12-224 S12-225 S12-227a S12-227b S12-228 S12-230 S11-497 S12-496 S12-237 S12-238 S12-497 S12-579 S12-241 S12-242 S12-506 S12-254 S12-272 S12-279 S12-281 S12-291 S11-072 S12-292 S12-299 S12-301 S12-303 S12-304 S12-305 S12-303 S12-306 S12-311 S12-317 1822 1823 1825 1825 1825 1827 1827 1825 1826 1825 1826 1826 1826 1826 1827 1827 1827 1827 1827 1827 1827 1827 1827 1827 1827 1827 1827 1827 1827 1837 1837 1837 1828 1829 1795 1829 1828 1794 1808 1797 1797 1836 1797 1797 1799 1805 1804 1797 1797 1807 1839 1837 1804 1810 1837 1810 1817 1823 資料2― 全交響曲、作品 123、作品 124 の 1830 年頃までの初期楽譜所蔵リスト [ ]の図書館には所蔵なし。 交響曲第1番作品 21 交響曲第2番作品 36 交響曲第3番作品 55 交響曲第4番作品 60 交響曲第5番作品 67 交響曲第6番作品 68 交響曲第 7 番作品 92 交響曲第8番作品 93 交響曲第9番作品 125 ミサ曲 作品 123 献堂式 作品 124 スコア初版(2 点) 編曲版:弦楽五重奏[BSB]、P 四重奏[H]、連弾(2種所蔵) スコア初版(2点) 編曲版 :管 楽 九 重 奏 [H,BL,BSB] 、 弦 楽 五 重 奏[H,BL],P 四 重 奏 [BL],P 三 重奏、連弾(3種所蔵) スコア初版(3 点) 編曲版:P 四重奏[H,BSB]、連弾(4種所蔵) スコア初版(1点) 編曲版 : 弦 楽 五 重 奏 [H,BSB]、P 四 重 奏[BL]、2 台 P[BSB] 、連弾、独奏 P(2 点) スコア初版(1点) 編曲版:P 四重奏[H,BL]連弾(3種5点所蔵)、独奏 P(2点) パ ー ト 譜 初 版 ( 1 点 )、 ス コ ア 初 版 ( 1 点 )、 ス コ ア 初 版 の 改 題 版 (1 点) 編曲版:P 四重奏[H,BL]、連弾(2種所蔵)独奏 P パート譜初版の改題版(1 点)、スコア第2版(2点)、スコア後続版 (1点) 編曲版:初版時にオリジナル楽譜と同時出版された編曲版。弦楽五重 奏[H,BL]、連弾、独奏 P パート譜初版の改題版(1 点)。スコア第2版(2点) 編曲版:初版時にオリジナル楽譜と同時出版された編曲版。弦楽五重 奏[H,BSB]。連弾の改題版(2 点) スコア初版(1点。予約者リストなし) 編曲版:チェルニー校訂連弾( 1 点)、カルクブレンナー校訂独奏 P(1 点)、リスト校訂独奏 P(1 点)、リスト校訂 2 台 P(1 点) スコア初版(1点。予約者リストつき)。 編曲版:初版時のピアノヴォーカルスコア第2版(2 点) スコア初版(1点。予約者リストなし)
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