第54回生物生産科学科卒業論文発表会 − プログラム・発表要旨集 − 日 時 : 2005年2月17日 午前9時から 場 所 : 京都府立大学大学会館2階 多目的ホール 京都府立大学農学部 生物生産科学科 発表会タイムスケジュール 9:00〜 9:55 ポスタービューイング 9:55〜10:00 開会挨拶 (久保康之 教授) A班 10:00〜10:50 発表(セッションⅠ) A-01 イオンビームサージェリによるヒラナス生長点における細胞間および細胞層間の相互作用の分析 青木 知子 (作物学・育種学研究室) A-02 簡易 Differential Display(DD)法による雑種致死関連遺伝子の検索と同定 陰山 朱美 (作物学・育種学研究室) A-03 Fosmid を使用したタバコ栽培種 Nicotiana tabacum L. の核型分析における新 FISH プローブの単離 下村 晃一郎 (作物学・育種学研究室) A-04 イネ(Oryza sativa L.)における FISH による染色体特異的反復配列の検出と Fosmid クローンを利用した FISH プローブの作 出 住谷 真理子 (作物学・育種学研究室) A-05 DIG-DNA プローブを用いたタバコ種間 F1 雑種(Nicotiana gossei Domin × N. tabacum L. )培養細胞のマクロアレイによる遺 伝子発現解析システムの開発 三井 涼子 (作物学・育種学研究室) 10:50〜11:20 フリーディスカッションⅠ 11:20〜12:10 発表(セッションⅡ) A-06 タバコ種間雑種 Nicotiana gossei Domin×N. tabacum L. 培養細胞での細胞死関連タンパク質の検索 山口 有希 (作物学・育種学研究室) A-07 カモミールの生育に及ぼす肥培管理の影響並びに発育特性について 成澤 孔美 (蔬菜園芸学研究室) A-08 水耕栽培によるブロッコリー・ラブの周年栽培の可能性の検討 水野 俊幸 (蔬菜園芸学研究室) A-09 リン施与制限が水耕サラダナの成長に及ぼす影響 椋本 裕美 (蔬菜園芸学研究室) A-10 栽培期間中の光強度および温度がトマト果実の粉質性の発達に及ぼす影響 八代 友美子 (蔬菜園芸学研究室) 12:10〜12:40 フリーディスカッションⅡ 12:40〜13:40 写真撮影,昼食,ポスタービューイング 13:40〜14:40 発表(セッションⅢ) A-11 トマトの子室褐変果の発生に関する研究 吉川 沙織 (蔬菜園芸学研究室) A-12 Lactobacillus plantarum と Megasphaera elsdenii の経口給与は,仔ブタ腸管 IgA 分泌を促進し,結腸酪酸の上昇によって粘膜 組織を発達させる A-13 Realtime-PCR 法による PRRS ウイルス迅速検出法の確立 A-14 酵母抽出物を栄養要求しない新規エタノール生成好熱性細菌の特性 下條 信行 (動物生産学研究室) 砂場 ちなつ (動物生産学研究室) 津島 俊樹 (動物生産学研究室) A-15 プロバイオティック乳酸菌によるアレルギー性炎症反応の抑制 −炎症抑制における投与乳酸菌の役割− 中村 友紀子 (動物生産学研究室) A-16 温度勾配ゲル電気泳動法を用いたチンパンジー腸内細菌叢の解析 平口 真里 (動物生産学研究室) 14:40〜15:10 フリーディスカッションⅢ 15:10〜16:10 発表(セッションⅣ) A-17 酵母抽出物を栄養要求しない新規エタノール生成好熱性細菌によるオカラと稲ワラからのエタノール生成 山野 愛理 (動物生産学研究室) A-18 トウガラシ類青枯病抵抗性に関する遺伝解析用集団の作成と抵抗性検定 A-19 ダイコンの連鎖地図作成と根こぶ病抵抗性遺伝子座の解析 A-20 SSR 及び AFLP マーカーを用いたメロン連鎖地図の作製 A-21 SSR マーカーを利用した日本産ダイコン系統の系統解析 A-22 SSR マーカーによるナツハゼ類野生集団の遺伝変異解析 16:10〜16:40 フリーディスカッションⅣ 16:40〜16:50 閉会挨拶 (吉安 裕 教授) 景山 朋子 (細胞工学研究室) 亀井 章人 (細胞工学研究室) 才野木 博子 (細胞工学研究室) 松本 直子 (細胞工学研究室) 吉村 早百合 (細胞工学研究室) 発表会タイムスケジュール 9:00〜 9:55 ポスタービューイング 9:55〜10:00 開会挨拶 (久保康之 教授) B班 10:00〜10:50 発表(セッションⅠ) B-01 ユスラウメ台と'おはつもも'台のモモ樹における芽接ぎ部の形態 荒井 聡子 (果樹園芸学研究室) B-02 モモとユスラウメのヤニの分泌に関する研究 伊豆 直幸 (果樹園芸学研究室) B-03 青色光および赤色光がアーバスキュラー菌根菌の菌糸生長および胞子形成に及ぼす影響 三輪 由佳 (果樹園芸学研究室) B-04 乳酸菌による植物病害防除機構の解明に向けて 〜植物病原糸状菌に対する抗菌作用及び植物との相互作用の検討〜 井上 裕貴 (植物病理学研究室) B-05 ウリ類炭疽病菌の活性酸素生成に関与する遺伝子 ClaNox1、ClaNox2 の単離と機能解析 大澤 貴紀 (植物病理学研究室) 10:50〜11:20 フリーディスカッションⅠ 11:20〜12:10 発表(セッションⅡ) B-06 アブラナ科野菜類炭疽病菌における網羅的な遺伝子機能解析実験系確立の試み B-07 イネ白葉枯病菌における hrp 依存分泌タンパク質の単離・同定 坪井 基枝 (植物病理学研究室) 野口 由香里 (植物病理学研究室) B-08 イネ白葉枯病菌における hrp 発現抑制関連遺伝子 lon の単離と同定 真嶋 綾子 (植物病理学研究室) B-09 アブラナ科野菜類炭疽病菌 337-5 株に対するシロイヌナズナ抵抗性遺伝子 RCH337 の同定に向けて 渡辺 慎也 (植物病理学研究室) B-10 アブラムシの捕食性天敵ホソバヒメカゲロウの薬剤感受性およびミヤマヒメカゲロウの生活史形質の調査 大田 啓 (応用昆虫学研究室) 12:10〜12:40 フリーディスカッションⅡ 12:40〜13:40 写真撮影,昼食,ポスタービューイング 13:40〜14:40 発表(セッションⅢ) B-11 京都府河川における 2 種トビケラ幼虫への PCB の蓄積と食性との関連 出井 香織 (応用昆虫学研究室) B-12 炭水化物(ハチミツ)の給餌がハモグリミドリヒメコバチの寿命、寄生数および寄主体液摂取数に及ぼす影響 鳴戸 淑恵 (応用昆虫学研究室) B-13 リンドウの新害虫キオビトガリメイガの発育および幼生期の形態 二杉 篤典 (応用昆虫学研究室) B-14 ダイコンアブラバチを用いたバンカープラント法における代替寄主アブラムシの探索 深津 浩介 (応用昆虫学研究室) B-15 Genetic variation and phylogeny of the invasive plant Erigeron annuus (Asteraceae) in Japan (日本における侵入植物ヒメジョオンの遺伝的変異および系統) 榎本 修二 (農業生態学研究室) B-16 ブドウ台木の倍数性が 巨峰 樹水分生理および果実成熟に与える影響 小林 佐稔 (農業生態学研究室) 14:40〜15:10 フリーディスカッションⅢ 15:10〜16:10 発表(セッションⅣ) B-17 ブドウ園におけるカバークロップが土壌環境ならびに arbuscular 菌根菌定着に及ぼす影響 島田 早苗 (農業生態学研究室) B-18 4 倍体台木がブドウ樹の生育と着果率、収量ならびに果実品質に及ぼす影響 松浦 史生 (農業生態学研究室) B-19 農村暮らしの成立条件に関する研究 ―「農のあるライフスタイル実現」のための意向調査分析― 井上 千恵美 (農業経営学研究室) B-20 食品加工業者における企業戦略と原料調達の関係に関する研究 笹壁 友輔 (農業経営学研究室) B-21 農村における新規定住の現状と課題 〜京都府南丹市美山町・砂木集落を事例として〜 定石 壮平 (農業経営学研究室) 16:10〜16:40 フリーディスカッションⅣ 16:40〜16:50 閉会挨拶 (吉安 裕 教授) A-01 イオンビームサージェリによるヒラナス生長点における細胞間および細胞層間の相互作用の分析 青木 知子 (作物学・育種学研究室) イオンマイクロビーム照射では、個々のイオンの飛跡を制御することができ、微細部位への照射が可能である。 また、深度制御照射では、照射体の一定の深度部位に均一にイオンを照射することができる。イオンマイクロビー ム照射および深度制御照射を利用し、生長点の特定部位を不活化させる方法を開発し、それにより生長点の細 胞間および細胞層間の相互作用について分析した。マイクロビーム照射では、照射径が 20μm および 60μm の マイクロアパーチャーを用いて、直径が約 180μm のヒラナス生長点への「重ね打ち照射」を行い、照射葉原基の 伸長・生存への影響を調べた。生長点中心に直径 40μm 円形の範囲では、220MeV C イオン(飛程 1110μm)およ び 460MeV Ar イオン(飛程 110μm)の照射で、イオン種に関わらず、葉原基は致死せず正常に伸長した。しかし、 60μmφ円形以上の範囲の C イオンの照射および、90×90μ㎡以上の範囲の Ar イオンの照射で生存率は低下し た。また、深度制御照射により、18MeV C イオンおよび 9MeV He イオンを L1 層の細胞のみに照射した時、生存率 は低下した。さらに、生長点ドームでの球状の突起物および密生葉などの形態異常が多く見られた。これらの結果 から、ヒラナス生長点ドーム中心に 40〜90μmφの範囲で起こった障害は周辺細胞によって補償されることならび に L1 層の不活化のみで生長点の正常な機能が失われることが明らかになった。 A-02 簡易 Differential Display(DD)法による雑種致死関連遺伝子の検索と同定 陰山 朱美 (作物学・育種学研究室) 雑種致死をおこすタバコ種間 F1 雑種(N.gossei Domin×N.tabacum L.)より誘導した培養細胞 GTH4 とその致死 抑制型突然変異細胞 GTH4S での発現遺伝子の比較解析から雑種致死関連遺伝子を検索した。計 30 組み合わ せのプライマーを用いた簡易 DD 法による 1 次スクリーニングにおいて両細胞間で違いのあった cDNA を 2 次スク リーニングにより更に選別し、GTH4 と GTH4S それぞれに特異的なバンド計 5 本からクローンを得た。これらの塩 基配列をもとに、それぞれに特異的なプライマーを設計して、RT-PCR による発現解析を行うと共に、データベース に対して相同性検索を実施した。遺伝子発現の程度は、単離したクローンのうち GTH4 の 3 クローン(1-13、 2-12-1、2-12-3)が GTH4S に対し、GTH4S では 1 クローン(2-19)が GTH4 に対してより強いことを確認した。相同 性検索については、得られたクローンの長さが短かったために多くは公開された EST 情報にヒットした。それぞれ のクローンの ORF 情報を得るため、GTH4の cDNA ライブラリーを鋳型とした 5´RACE 法により、遺伝子のより長 い断片を増幅し、これをベクターにクローニングした。その結果、GTH4S のクローン 2-19 のみ全長の情報を得るこ とに成功し、Nudix 加水分解酵素と相同性の高いタンパク質をコードしていることが分かった。 A-03 Fosmid を使用したタバコ栽培種 Nicotiana tabacum L. の核型分析における新 FISH プローブの単離 下村 晃一郎 (作物学・育種学研究室) FISH(Fluorescence in situ hybridization)法は、蛍光染色した DNA プローブを用い、染色体上の DNA 配列を蛍光 シグナルとして検出することにより、その位置やサイズを顕微鏡下で検定する技術であり、巨視的な遺伝子マッピ ングを行うことができるという点に特徴のある細胞遺伝学的手法である。最近の FISH 法において、プローブの作 成の際には 100kb-150kb のインサートがクローニング可能である BAC を用いる方法が主流である。しかし、BAC ライブラリーの作成には熟練した技術が必要であるので、本研究ではより簡便な Fosmid システムを使用したライ ブラリー作成を行った。栽培タバコである N. tabacum L. (2n=48) において Fosmid ライブラリーからの新規 FISH プ ローブのスクリーニングを行った。作成したライブラリーの中から、およそ 150 クローンを用いて FISH を行った。N. tabacum は複二倍体であるので、半数のクローンは染色体全体または S・T サブゲノムのどちらか全体にハイブリ ダイズしたが、これらは GISH 法に代わる S・T ゲノムの分別法の開発に利用することができるであろう。その他、核 型分析に有用な染色体部位特異的にハイブリダイズするプローブを合計 3 種類得ることができた。それぞれ、一 対の染色体のテロメア領域に存在する反復配列、48 本中の 22 本の染色体に特徴的なバンドパターンを示す高度 反復配列、および非常に弱いシグナルを 3 対 6 ヶ所生じるクローンであった。 A-04 イネ(Oryza sativa L.)における FISH による染色体特異的反復配列の検出と Fosmid クローンを利用した FISH プロ ーブの作出 住谷 真理子 (作物学・育種学研究室) Fluorescence in situ hybridization (FISH)法は、化学物質で標識した DNA を染色体にハイブリダイズして顕微鏡 下で DNA 配列の物理的位置やその有無を検出する方法である。従来法で安定した検出をするには、50-100kb 以 上の大きさが必要である。シグナル増幅をして 10kb 以下の配列を検出したという報告はあるが、安定した技術で はない。数 kb 程度のシグナルを安定して検出できれば形質転換体の外来 DNA の位置・数の確認や、特定遺伝子 の有無の確認などに FISH 法が有効に活用できるようになる。そこで検出限界の向上に向けて、イネの FosmidDNA ライブラリーの作成と FISH 法による検出を試みた。Fosmid は約 40kb の DNA をインサートとして組込 むことができる。そのクローンをダイレクトラベリング法で標識して FISH を行った。その結果、推定 40kb のユニーク な配列のシグナルが6種類のクローンにおいて検出できた。また、対照実験としてイネ反復配列の 5S rDNA、17S rDNA、45S rDNA、TrsA のシグナル検出も行った。それぞれのプローブについて FISH でシグナルの出る染色体の 位置は既に明らかになっているが、本実験では報告されていない染色体領域に TrsA のシグナルが存在すること を確認できた。新たに検出できた TrsA サイトは2ヶ所で、その内の一つは第 10 染色体上であることが確認できた。 A-05 DIG-DNA プローブを用いたタバコ種間 F1 雑種(Nicotiana gossei Domin × N. tabacum L. )培養細胞のマクロアレ イによる遺伝子発現解析システムの開発 三井 涼子 (作物学・育種学研究室) 雑種致死の原因遺伝子の特定は、交雑不親和性を軽減する技術開発につながり遠縁交雑育種法の能率を高 めると期待される。しかし、従来の遺伝学的手法では雑種致死遺伝子(群)を特定することは困難である。これに対 し、タバコ種間 F1 雑種(N.gossei×N.tabacum)の培養細胞 GTH4 とその致死抑制型突然変異細胞 GTH4S では両者 の発現遺伝子の差違から致死に関連する遺伝子が探索可能であると考えられる。しかし、真核細胞では常時千 以上の遺伝子が発現しているため、その中から目的の遺伝子を効率よく見いだすことは容易ではない。近年、 DNA アレイ技術を用いた発現遺伝子解析が多くの実績をあげるようになっており、関与する遺伝子が特定できな い雑種致死の遺伝子研究にもアレイ技術は有効と思われる。しかし、タバコでは一般に公開された DNA アレイが ないため、同じナス科のトマトで公開されている DNA アレイの利用を計画した。本研究では非放射性プローブによ る検出が利用可能であるかを検討するため、GTH4 cDNA ライブラリより 480 個の cDNA クローンを調整し、ナイロ ン膜に固着して小規模なマクロアレイを作成した。そして逆転写反応により GTH4 と GTH4S の RNA から DIG-DNA プローブを作成し、その性能を評価した。その結果、17 クローンが GTH4 において GTH4S よりも強いシグナルを示 し、本法が有効なことを確認した。 A-06 タバコ種間雑種 Nicotiana gossei Domin×N. tabacum L. 培養細胞での細胞死関連タンパク質の検索 山口 有希 (作物学・育種学研究室) 幼苗期に雑種致死を起こすタバコ種間 F1 雑種(Nicotiana gossei Domin×N. tabacum L. ) より得た培養細胞 GTH4 は,37℃から 26℃に移すと直ちに細胞死を起こす.他方,GTH4 の突然変異細胞 GTH4S は細胞死が完全 に抑制される. GTH4 の 26℃での細胞死には 37℃での遺伝子発現が必要であることが阻害剤処理実験から明ら かにされ,GTH4S ではその遺伝子(群)が発現していない可能性が示されている.故に,GTH4 と GTH4S の比較に よる致死関連遺伝子やその産物であるタンパク質の特定が可能と考えられる.本研究では,両者が生産するタン パク質をクロマトグラフィーと電気泳動で解析し,その違いから細胞死関連タンパク質の単離を試みた. 37℃で培 養した両細胞から可溶性タンパク質を常法により抽出し,塩析濃縮・脱塩して試料を調整した.イオン交換クロマト グラフィーでの分画後,SDS-PAGE による比較電気泳動を行い,両細胞間でのタンパク質の違いを Zinc 染色法で 検出した.違いが検出されたタンパク質の分析で,調整電気泳動によるタンパク質の濃縮と PVDF-膜への転写に よるタンパク質固定の二種類の方法を試みた.前者では,目的タンパク質は濃縮できなかった.後者では供試タン パク質の内,3 種類のタンパク質の PVDF-膜への転写を確認し,アミノ酸シークエンスと BLAST 検索により,内 2 種類に相同性のあるタンパク質を確認した. A-07 カモミールの生育に及ぼす肥培管理の影響並びに発育特性について 成澤 孔美 (蔬菜園芸学研究室) カモミールは古くから重要なハーブの1つで、紅茶や薬用としても現在価値が高く、需要の増加が今後見込まれ る。しかし日本ではカモミールの発育に関する研究はまだ十分ではないため、以下の 4 つの実験を行った。実験1 はジャーマン・カモミールとローマン・カモミールの出らいと生育に及ぼす施肥効果を、処理区 A(少肥区)、B(通常 区)、C(多肥区)を設けて調査した。その結果、処理区 C>B>A の順番で出らいが増加した。また、処理区 C の開 花数は A の 2 倍程度となり、収量が最も多くなった。実験 2 ではジャーマン・カモミールの成長解析を行い、乾物重 の部位別変化を調査した。出らいに伴って花重は増加し、葉重の全体に対する割合が大きく減少した。そこで出ら いまでに葉重が十分増加していることが必要だと考えられた。さらに開花 20 日後から結実期に向かい花の乾物重 が増加した。実験 3 では、春に研究圃場で採種した株立型・株張型の分枝特性を調査した。株立型では冬至芽が 生じ、ロゼットして抽台せず、株張型では分枝伸長が早く、開花した。このことより株立型には低温要求性のあるこ とが考えられた。実験 4 では 4 種類の種子の特性を調査した。市販のジャーマン・カモミール種子では発芽が最も 早くなったが、他の種類より細長くて発芽率は 50%であった。株立型(圃場で採種)では発芽数の増加はゆるやか であったが、長径・短径が 4 種類中最も大きく千粒重(g)も重くなった。また、発芽率が 92%と高くなった。 A-08 水耕栽培によるブロッコリー・ラブの周年栽培の可能性の検討 水野 俊幸 (蔬菜園芸学研究室) ヨーロッパ原産の花菜であるブロッコリー・ラブ(Brassica rapa L.)品種 BR40 は生育期間が短いうえに花芽分 化に対する低温要求性がほとんどないとされ、水耕栽培による効率的な周年栽培の可能性が考えられる。本研究 ではブロッコリー・ラブを濃度の異なる培養液で水耕栽培を行い、周年栽培の可能性および最適な培養液組成を 検討した。2.5 葉期の幼苗を、園試処方 25%、50%および 100%濃度の培養液で水耕栽培した。春期および秋期 栽培では頂花らいの大きさおよび新鮮重に培養液濃度による差はなかった。しかし、100%区では他の 2 区に比べ 収穫までの日数が 2〜4 日長くなる傾向が認められた。6 月 15 日播種の夏期栽培では栽培期間中ほとんど出らい せず、低温要求性の存在が示唆された。そこで 8 月播種では発芽 6 日目から 6 日間、5℃の低温処理を行った後、 25%および 50%濃度培養液で栽培したところ、対照区よりも早期に出らいし、出らい個体数も増加した。春期およ び秋期栽培において各培養液濃度で収量に差がなかったことから、最も濃度の低い園試処方 25%濃度区の養水 分吸収量からみかけの養分吸収濃度を計算し、最適培養液組成を算出したところ、各養分の最適濃度は園試処 方 25%から 50%濃度の間にあると考えられた。以上の結果から、ブロッコリー・ラブの水耕栽培による周年栽培技 術を確立するには、夏期に育苗時の低温処理などの花芽分化促進処理を行う必要があると考えられた。 A-09 リン施与制限が水耕サラダナの成長に及ぼす影響 椋本 裕美 (蔬菜園芸学研究室) レタスやサラダナなどの葉菜類は、水耕栽培では成長速度が速く、葉色、葉厚とも薄く軟弱になりやすい。本実 験では、園試処方 1/2 単位濃度液で水耕栽培したサラダナを異なる葉期にP-free の園試処方 1/2 単位濃度液に 移してリンの施与を制限し、サラダナの成長および品質に及ぼす影響を調査した。供試品種は'岡山サラダナ'で、 栽培方式は湛液式水耕栽培とした。いずれの葉期でも、P-free 培養液に移植後も成長を続けた。移植が早いも のほど成長抑制の程度が大きかったが、比較的遅い時期に移植したものでは、栽培後半の急激な成長が抑えら れた。P-free 培養液で栽培したものは、対照区(園試処方 1/2 単位濃度液で栽培)に比べ、明らかに葉色が濃く、 乾物率が高くなった。また、茎の伸長も抑制された。収穫後の新鮮重の減少速度は処理区による差はなかったが、 P-free 培養液に移植したものは外見上の萎れが対照区よりも弱かった。葉身および葉柄の汁液分析を行った結 果、P-free 培養液で栽培したものは、対照区に比べ,P濃度が葉身と葉柄で著しく低下した。P-free 培養液で栽培 したサラダナの下葉に褐色斑点状のP欠乏症があらわれたとき、葉中のP濃度はおよそ 0.2〜0.3%であった。今後、 培養液の各養分濃度、P-free 培養液へ移植する植物体の各養分の含量、さらに処理葉期とその後の成長との関 連を検討することにより、水耕栽培のサラダナの成長速度の制御と品質の改善がはかれるものと考えられる。 A-10 栽培期間中の光強度および温度がトマト果実の粉質性の発達に及ぼす影響 八代 友美子 (蔬菜園芸学研究室) トマト果実の粉質性は品種や収穫後の貯蔵温度により異なることが明らかになっているが、実際栽培において 粉質性が発達する条件は明らかになっていない。本研究では春夏作における遮光および秋冬作における加温が トマト果実の粉質性の発達に及ぼす影響について検討した。春夏作では官能試験による粉質性の評価は対照区 と遮光区の間に有意差は見られなかった。一方、果汁含量は遮光区が対照区より有意に高く、Brix は対照区が遮 光区より有意に高かった。秋冬作では官能試験による粉質性の評価は無加温区と比較して粉質性が強くなった。 一方、果汁含量は加温区と無加温区の間に有意差は見られず、Brix および乾物率に関しては無加温区が加温区 よりも有意に高かった。春夏作および秋冬作いずれにおいても粉質性の官能試験と果汁含量の相関はこれまで の結果とは異なった。秋冬作の加温区の果肉の破断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、細胞の崩壊はほ とんど認められなかったが、粉質性の強い品種および低温貯蔵した果実とは異なり、細胞表面および接着面に糸 屑状のミドルラメラ残存物がほとんどなく、針状の物質が多く見られた。以上のことから、光条件に関して夏季の遮 光は粉質性の発達に影響を及ぼさず、温度条件に関して冬季の加温は粉質性を発達させることが明らかになった。 また、冬季の加温によって発達する粉質性は異なる品種間および低温貯蔵によって発達する粉質性とは組織学 的に異なることが明らかになった。 A-11 トマトの子室褐変果の発生に関する研究 吉川 沙織 (蔬菜園芸学研究室) トマトの子室褐変果とは、子室のゼリー部表面や内果皮表面が褐変する生理障害果で、発症すると品質が著し く損なわれる。現在、この障害果が発生する原因は明らかにされておらず、有効な防止策がない。本実験では、子 室褐変果の形態的特徴と発症する条件、特に着果促進処理の影響について調査した。品種 スーパー優美 を用 い、園試処方の 1/2 単位および 1 単位濃度の培養液で水耕栽培した。開花時にトマトラン(着果促進剤)の 500 倍 希釈液と 2000 倍希釈液、ジベレリン酸(GA)0ppm と 15ppm の組み合わせ、計 4 種類の混合液を散布処理した。 培養液濃度の違いによる子室褐変果発生率への影響は認められず、トマトラン 2000 倍希釈+GA15ppm 区の発 生率が高かった。症状は肥大途中の若い果実から起こっており、子室褐変果は健全果に比べ、果頂部に穴があ いているもの(穴あき果)が多く、重量、子室数、がく数も多かった。多くの子室褐変果で、果頂部の穴から褐変し た子室までつながった間隙が観察された。処理区に関わらず、穴あき果は穴のない果実に比べ、子室褐変果の 割合が高かった。トマトラン 2000 倍希釈では、GA 添加により穴あき果の発生率が増加した。以上の結果から、開 花後の心皮癒合がうまく進まず、果頂部が完全に塞がらない現象を、着果促進剤の希釈倍率が高い条件で GA が 助長すること、心皮の多い子房ほどこの現象が起こりやすいこと、そして心皮癒合の異常が子室褐変の発生と深 く関わっていることが示唆された。 A-12 Lactobacillus plantarum と Megasphaera elsdenii の経口給与は,仔ブタ腸管 IgA 分泌を促進し,結腸酪酸の上昇に よって粘膜組織を発達させる 下條 信行 (動物生産学研究室) 離乳期の仔ブタは、免疫が未発達なため種々の伝染性腸疾患に感染しやすい。この状況は、飼料用抗菌剤の 使用をしない場合に極めて顕著である。腸管に分泌される IgA は、感染防御の最前線を構成しており、乳酸菌の 経口給与によって分泌を刺激すれば感染抵抗性を増すことが可能である。また、仔ブタは飼料への不適応によっ て非病原性の下痢を好発する。大腸で酪酸生成を増加させて、大腸粘膜組織の増殖と機能昂進を図ることで消 化不良性の下痢への対処が可能である。Megasphaera elsdenii は、乳酸から酪酸生成をする腸内細菌である。本 研究では、Lactobacillus plantarum Lq80 株と M. elsdenii ブタ単離株の経口給与を行い、小腸粘膜免疫の向上と 大腸粘膜組織の健全化を図ることを目的とした。20 日齢ブタ 9 頭を導入し、3 日間馴致した後 3 群に分け、Lq80 投与群(L)、Lq80+M. elsdenii 混合投与群(LM)、無投与対照群(C)とした。Lq80 は 1010 個、M. elsdenii は 109 個を 腸溶性あるいは大腸崩壊性カプセルに充填し 14 日間給与した。その結果、糞便中および空腸と回腸への IgA 分 泌量が L および LM 群で高値を示した。結腸の酪酸濃度が LM 群で有意に高値を示し、同時に結腸粘膜上皮細胞 数が高値を示した。これらの結果、LM 群では便性状が改善され、期間中の体重増加が LM 群と L 群で改善され た。 A-13 Realtime-PCR 法による PRRS ウイルス迅速検出法の確立 砂場 ちなつ (動物生産学研究室) 豚繁殖・呼吸障害症候群(Porcine Reproductive and Respiratory Syndrome; PRRS)は、日本で 1990 年代以降に 発生するようになったブタのウイルス感染症で、感染すると母豚では繁殖障害が、子豚では食欲不振や呼吸障害 が起こる。現状では ELISA 法で測定する血中抗体価から感染の有無を判断する方法が確立されているが、この方 法では感染初期や緩解期の抗体検出は難しい。本症候群の病原体である PRRS ウイルス(PRRSV)を検出する方 法として二段階 PCR 法が報告されているが、2 回の PCR 反応に 4 時間以上を要する。二次感染やウイルスの常 在化を未然に防ぐ為には PRRSV のより迅速かつ正確な検出が必須である。本実験では PRRSV の迅速検出法の 確立を目的とした。試料からの RNA 抽出、cDNA への逆転写条件の至適化を行い、新規に設計したプライマーを 用いて Realtime RT-PCR によるウイルス検出を行った。その結果、二段階 PCR 法以上の検出力を持つ手法を新 たに確立できた。本検出法は、コスト、所要時間の点で従来の二段階 PCR によりも優れており、従来法では不可 能であったウイルス量を数値化できるので、ウイルス量と病態の関係や感染予防効果を定量的に検討することが 可能となる。また、迅速な感染豚の隔離が可能になり、感染の拡大を効果的に防ぐことができる。 A-14 酵母抽出物を栄養要求しない新規エタノール生成好熱性細菌の特性 津島 俊樹 (動物生産学研究室) 現在オカラは食品廃棄物としてそのほとんどは乾燥、焼却処理されている。そこで低コストで環境負荷の少ない 微生物を用いた処理方法を開発するため、オカラを分解してエタノールを生成する菌を探索し、その中でも好熱性 細菌にターゲットを絞った。昨年度、このような条件を満たすエタノール生成細菌の単離に成功したが、酵母抽出 物を栄養要求するため培養コストがかさみ、実用的ではなかった。本年度、酵母抽出物を栄養要求しない細菌を 探索した結果、S2 株および S5 株の単離に成功した。そこで本研究では、単離された新規細菌の特性を調べ、そ の利用価値に関して考察することを目的とした。増殖の至適温度を調べた結果、2 菌株とも 55℃であることがわか った。しかし、エタノールの生成量に関しては、S2 株は 65℃で、S5 株は 55℃で最も多く生成していた。増殖の至適 pHは、2菌株とも pH5〜6であった。これらの細菌は増殖のために酵母抽出物を絶対要求しないが、S5株に関し ては培地に酵母抽出物が少なくとも 0.5g/lあった方が増殖は盛んであった。ただし、2 種の菌株を混合して共培養 を行った場合、酵母抽出物の添加による増殖への影響は認められなかった。さらにこれらの細菌の基質利用性を 調べたところ、可溶性の糖類に対しては利用性を示すが、セルロースやキシロースといった繊維成分に対しては 利用性を示さなかった。このことから、オカラを有効に利用するためには、これらの菌株のほかに繊維分解性の細 菌を共培養する必要のあることが示唆された。 A-15 プロバイオティック乳酸菌によるアレルギー性炎症反応の抑制 −炎症抑制における投与乳酸菌の役割− 中村 友紀子 (動物生産学研究室) 当研究室では、Lactobacillus johnsonii La1 株を皮膚炎モデルマウスの離乳期に経口投与すると、アレルギー性 皮膚炎の発症が有意に抑制されることを見いだしている。本研究では、La1 が宿主の免疫系を刺激して炎症反応 を直接抑制したのか、La1 が腸内細菌叢を変化させることで間接的に炎症症状を改善したのかを明らかにした。ア トピー性皮膚炎モデルマウス(NC/Nga)を、離乳期に La1 を投与する La1 群と、PBS を投与する対照群の二群に分 け、La1 の投与前、投与中、投与後に糞便を採取した。細菌 16S rRNA をターゲットとした FISH 法を用い、糞便中 の総菌数、Clostridial ClusterXIV に属する細菌、Bacteroideaceae、Lactobacillaceae、Enterobacteriaceae の菌数 を測定した。その結果、投与後の La1 群と対照群の総菌数(log10 Cell/g feces)に実験期間通して有意な差は見ら れず(La1 群: 9.72 ± 0.19 vs 対照群: 9.92 ± 0.24 , p>0.05),その他の菌数にも有意な差は見られなかった。この ことより、離乳期の La1 投与が示した皮膚炎抑制効果は La1 により腸内細菌叢が改善されるためではなく、La1 が 直接宿主免疫系を刺激することでもたらされることが示唆された。 A-16 温度勾配ゲル電気泳動法を用いたチンパンジー腸内細菌叢の解析 平口 真里 (動物生産学研究室) チンパンジーは、約 600 万年前にヒトと共通の祖先から別れた動物で、最もヒトに近い生物とされるが、チンパン ジーの腸内細菌に関しては技術的な制限から研究されてこなかった。本研究では、分子生態学的手法を用いて野 生下及び飼育下のチンパンジーの腸内細菌構成について比較すると共に、ヒトの腸内細菌構成との類似性につ いても検討した。生息環境の異なる 2 群の野生チンパンジー(ギニアおよびタンザニア)と飼育下のチンパンジー(京 大)の糞便から細菌ゲノム DNA を抽出し、16S rRNA 遺伝子の可変領域 V6 から V8 を PCR 増幅し、温度勾配ゲル 電気泳動(TGGE)法により腸内細菌構成を比較した。全検出バンド 65 本中で、全ての群に共通して認められるも のは 27 本あり 1/3 程度の腸内細菌が共通していた。2/3 が異なる結果、TGGE 泳動像に基づく階層的クラスター 解析は各個体群ごとに異なったクラスターを形成した。生活環境が異なるチンパンジーは異なる腸内細菌構成を 持つことが示された。飼育施設で分娩されたチンパンジーはヒトと同じクラスターに入ったので、飼育下のチンパン ジーはヒトに比較的類似した腸内細菌構成をもつことが明らかとなった。ヒトとの接触機会を含む離乳期の生育環 境がその後の腸内細菌構成に強く影響を与えることが示唆された。野生動物の飼育環境を考える上で重要な示 唆が得られた。 A-17 酵母抽出物を栄養要求しない新規エタノール生成好熱性細菌によるオカラと稲ワラからのエタノール生成 山野 愛理 (動物生産学研究室) 食品廃棄物であるオカラの大部分は乾燥・焼却処理されている。そのため、大気汚染や化石エネルギーの浪費 などの問題が生じ、新たな処理・利用法の開発が望まれている。これまで単離できたエタノール生成菌は、エタノ ール生成能力は高いが酵母抽出物を栄養要求するため培養コストのかかるものが多かった。そこで、今年度は酵 母抽出物を栄養要求せずエタノール生成能力の高い細菌を単離することにした。また農業副産物として生じる稲 ワラは多量に存在する未利用資源であるため、これをエタノールに変換できる細菌の単離にも着手した。馬糞堆 肥場あるいは植物の堆肥場より採取したサンプルより、エタノール生成量が高い細菌をスクリーニングし、オカラ 培地から S2 株、S5 株、S19 株、稲ワラ培地から E8 株、E10 株 、E11 株を選抜した。選抜したそれぞれの細菌を 共培養し、エタノール生成能力が高い組合せを決定した。共培養によりオカラ培地では S2 株+S5 株が、稲ワラ培 地では E8 株+E11 株の組合せが最も高いエタノール生成量を示した。それら細菌の 16S rRNA 遺伝子を解析した 結果、S2 株が Thermoanaerobium lactoethylicu と、S5 株が Thermoanaerobacter mathranii と、E8 株と E11 株がと もに Clostridium thermocellumと近縁の種であることが示唆された。 A-18 トウガラシ類青枯病抵抗性に関する遺伝解析用集団の作成と抵抗性検定 景山 朋子 (細胞工学研究室) トウガラシ(Capsicum annuum)は中南米の熱帯地方原産であるが、ブランド農産物に力を入れている京都府の 農業にとっても重要な農産物である。青枯病菌はナス科植物をはじめ、多くの植物を加害する。また、土壌性細菌 であるため防除が非常に困難であり、全国的に深刻な問題である。青枯病抵抗性は量的形質で、複数の遺伝子 によって支配されているため、育種が困難な状況にある。新品種育成の効率化を目的とし、その基礎的知見を明 らかにするために青枯病抵抗性が分離する集団を葯培養により作成した。また青枯病検定法の確立を試みた。青 枯病検定は、罹病性品種カリフォルニアワンダー、抵抗性系統 LS2341、及びそれらの F2 を用いて断根潅注接種 法により行った。その結果、湿度を 50〜60%に設定し、3 葉期頃の植物で検定を行えば安定した検定結果が得ら れると考えられた。カリフォルニアワンダーと LS2341 を両親とする F1 の葯を培養に用いた。約 1000 個の蕾から、 葯を取り出し、培養した。再分化した 160 個体中 121 個体が倍加半数体(約 76%)であった。さらに、このうち一部 の個体で SSR 多型を調べた。これらの個体は両親の対立遺伝子のいずれか一方をのみ持っており、両方の対立 遺伝子を併せ持つ個体、即ちヘテロ個体は見られなかった。したがって葯壁から分化したものではなく、花粉から 分化したものと考えられた。両方の対立遺伝子がほぼ 1:1 の比で分離することがわかった。よって、今回の葯培養 で得られた倍加半数体は今後の研究で分離集団として利用できよう。 A-19 ダイコンの連鎖地図作成と根こぶ病抵抗性遺伝子座の解析 亀井 章人 (細胞工学研究室) ダイコン Raphanus sativus L. (2n=2x=18)は、東アジアで最も重要な野菜の一つである。日本では、病気に対する 抵抗性や晩抽性、早生性といった種々の形質を持つ栽培品種が育種されている。連鎖地図はマーカー利用選抜 育種で役に立つが、これまでダイコン連鎖地図に関する報告は少ない。また、日本のダイコンの多くはアブラナ科 根こぶ病菌に対して抵抗性であるが、中国ダイコンで罹病性のものがあり、また韓国では深刻な被害が出ている。 本研究の目的はダイコン連鎖地図の作成と根こぶ病抵抗性についての遺伝子座を明らかにすることである。根こ ぶ病罹病性中国ダイコン'黄河紅丸'と根こぶ病抵抗性の'打木源助'を両親とした F2 集団(n=95)を用い、AFLP とハ クサイ SSR プライマーを用いた多型の解析により、277 の多型マーカーを解析した。連鎖地図を作成した結果、143 個のマーカー(AFLP マーカー123 個、SSR マーカー20 個)が地図上に座乗し、14 個の連鎖群を作った。134 個のマ ーカーが独立したままだった。地図の全長は 622.2cM で、マーカー間の平均距離は 4.6cM であった。F2 の根こぶ 病菌接種検定を行った。約 50%の系統が抵抗性であった。QTL 解析を行った結果、独立したマーカーに LOD 値 4.33、抵抗性の 47.4%を説明するものが見つかった。だが、抵抗性遺伝子座を明らかにするために、更に DNA 多 型を調査してゲノム全体を覆う連鎖地図を作成する必要がある。 A-20 SSR 及び AFLP マーカーを用いたメロン連鎖地図の作製 才野木 博子 (細胞工学研究室) 日本で行われているメロン生産において側枝摘除等の整枝が作業時間の大きな部分を占め、生産性向上を図 る上で問題となっている。さらに整枝作業自体がウイルス病やつる枯病の侵入原因となる場合があるので、整枝 作業を省略または軽減できる品種の育成が求められている。また、メロンつる割れ病においては抵抗性品種の開 発で克服したと思われていたが、北海道でつる割れ病菌の新しいレース 1,2y が発見された。防除の徹底は困難で 被害は他地域にも拡大し、新レースに対する抵抗性の品種開発が課題となっている。そこで、本研究では野菜・茶 業研究所で育種された短側枝性・つる割れ病レース 1,2y抵抗性の中間母本農 4 号を用いて、短側枝性・つる割れ 病抵抗性の形質に関与する遺伝子座を明らかにすることを目的とした。普通側枝性・つる割れ病罹病性の春系 3 号と中間母本農 4 号およびその F2 を用いてマイクロサテライト(SSR)解析と AFLP 解析を行い、メロンの連鎖地図 の作製を試みた。SSR マーカー290 個を用いて両親間の多型を検出した。その結果、約 30 個で多型が検出された。 そのうち 16 個は明確な多型であり、F2 集団の多型を調査した。AFLP マーカーについては 33 組み合わせを調査 した。その結果 36 個が多型を示した。JoinMap を用いた連鎖解析の結果 31 個のマーカーが 8 個の連鎖群に座乗 した。今回の研究では、得られた多型マーカー数が少ないため形質に関わる座を明らかにすることはできなかった。 今後さらに解析するマーカー数を増やし、連鎖地図を充実させる必要がある。 A-21 SSR マーカーを利用した日本産ダイコン系統の系統解析 松本 直子 (細胞工学研究室) 聖護院ダイコンは 1800 年頃に尾張の宮重ダイコンから選抜され、品種になったとされている。近年では京野菜 としてブランド指定され、主に煮物用に利用される丸大根である。本研究の目的は、聖護院ダイコンと宮重ダイコン を中心に、ダイコン系統間の遺伝的関係を探り、聖護院ダイコンの遺伝的特徴等を考察することである。SSR マー カーは検出が容易で再現性の高い共優性マーカーとして利用されている。本研究ではダイコンの SSR 濃縮ライブ ラリを構築し、SSR を含むクローンの塩基配列に基づいて SSR マーカーを作成し、多型解析することで系統樹を作 成した。又、マーカー及び品種系統間の多型頻度を調査した。NJ 法で作成した系統樹では、聖護院ダイコンの 3 品種はひとつのクラスターにまとまり、これらが遺伝的に近縁であることを示した。宮重ダイコン 2 品種も同様に近 縁であると推定された。聖護院ダイコンと宮重ダイコンは近隣に結びつけられたが、UPGMA 法による系統樹では、 離れたクラスターに分類された。以上の結果からこの 2 系統が近縁であるとは言いきれなかった。聖護院ダイコン のヘテロ接合度は他の系統のそれよりも明らかに低く、既存品種のごく少数の個体から作出されたのではないか と考えられた。元になった品種は宮重ダイコンである可能性もあるが他の品種であった可能性も否定できなかった。 今回開発し、用いたマーカーの PIC の平均は 0.72 であり、十分に多型を検出できる有用なマーカーであると言え た。 A-22 SSR マーカーによるナツハゼ類野生集団の遺伝変異解析 吉村 早百合 (細胞工学研究室) ナツハゼ類はツツジ科スノキ属の野生植物で、ナツハゼ( Vaccinium oldhamii )のほか、アラゲナツハゼ( V. ciliatum)とナガボナツハゼ(V. sieboldii)が含まれる。アラゲナツハゼおよびナガボナツハゼは互いに限られた分 布域をもち、後者は絶滅危惧 II 類に指定されている(環境省.2004)。絶滅の危険性がある種の適切な保全・管理 を行うためには、種全体及び各集団の遺伝的多様性を評価し分布の変遷の予測を行なう必要がある。本研究の 目的はマイクロサテライト Simple Sequence Repeat(SSR)マーカーによるナツハゼ類の遺伝変異解析である。アラ ゲナツハゼの DNA から SSR を単離し、得られた塩基配列情報から SSR を増幅するプライマーを設計した。また、 ブルーベリーEST 配列より開発された SSR マーカーも用いた。上記3種および近縁種の野生集団から収集したサ ンプルより DNA を抽出し、10SSR 遺伝子座にわたって対立遺伝子の解析を行った。解析データから、集団ごとの 対立遺伝子頻度および遺伝的多様性を算出するとともに系統樹を作製した。その結果、ナツハゼ類 3 種の遺伝子 多様度(HT)はほぼ同じ値を示した。ナガボナツハゼの分布域は非常に狭いが、その遺伝的多様性は他の 2 種と 差はないと考えられる。作製した系統樹において、集団は種ごとにまとまって分類された。アラゲナツハゼとナガボ ナツハゼは比較的近くに分類され、この 2 種は現在では別種とされているが以前は同一種であった可能性が高い と推測された。今後、さらなるサンプルの収集がより信頼性のあるデータを得るために望まれるだろう。 B-01 ユスラウメ台と'おはつもも'台のモモ樹における芽接ぎ部の形態 荒井 聡子 (果樹園芸学研究室) ユスラウメ台はモモのわい性台として有望視されているが,穂木品種よっては通水性が大きく劣り,樹勢が衰え, 枯死するものもある。そこで,接ぎ木部の木部形態に注目し,道管の数や走行・配列を観察し,わい化や接ぎ木不 親和との関係を考察した。ユスラウメ台と'おはつもも'台にモモ'白鳳''紅清水','天女','秀峰'の 4 品種(接ぎ木親和 性の良い順)を芽接ぎした。芽接ぎ約 40 日後の接ぎ木部に墨汁を吸引し,パラフィン包埋切片を作成して,接ぎ木 部の道管配列を立体的に調査した。ユスラウメ台,'おはつもも'台ともに,いずれのモモ品種を接いでも台木から 繋がった道管は接ぎ木部付近で表皮側に大きく湾曲し,また接線方向にも湾曲していた。1〜2 年生樹の接ぎ木部 (接ぎ木部を中央に台木部と穂木部を含む長さ約 6cm の切片)の通水速度を測定した。ユスラウメ台の接ぎ木部 の通水速度は,いずれの穂木品種においても'おはつもも'台よりも劣った。その後,その接ぎ木部に墨汁を吸引 (約−0.1MPa)し,墨汁の詰まった道管数を計測した。台木部の道管数に対する穂木部の道管数の割合は,'おは つもも'台では約 50〜80%であったが,ユスラウメ台では約 0〜20%と著しく低かった。なお,ユスラウメの道管径は 'おはつもも'よりも小さかった。以上より,ユスラウメ台と'おはつもも'台におけるモモ樹の通水速度の違いには,ユ スラウメと'おはつもも'の道管径および台木から穂木へと繋がった道管数の相違が関与していると推察された。 B-02 モモとユスラウメのヤニの分泌に関する研究 伊豆 直幸 (果樹園芸学研究室) ユスラウメはモモの矮(わい)性台として有望視されている。しかし、不親和な接ぎ木組合わせの場合には、接ぎ 木部に瘤(こぶ)や亀裂が発生するだけでなく、しばしばゴム物質(ヤニ)を分泌する。本研究では、ヤニの分泌と接 ぎ木不親和との関係を解明することを目的に、環状剥皮によってヤニを分泌させ、形態的変化、光合成・蒸散速度、 内生植物ホルモン等への影響を調査した。モモ'白桃'成木のシュートにエテホン、ナフタレン酢酸(NAA)およびジャ スモン酸メチル(JA-Me)を塗布すると、NAA と JA-Me を塗布した区ではヤニを分泌したが、エテホン塗布では分泌 しなかった。モモ'おはつもも'とユスラウメの実生苗にヤニの分泌を促すために環状剥皮を施したところ、'おはつも も'では処理後 5 日目に、ユスラウメでは処理後 11 日目にヤニを分泌し始めた。また、環状剥皮処理によって、皮 層部と木部の間に樹脂道(破生間隙)が形成された。さらに、環状剥皮区の方が無処理の対照区よりも葉の水ポテ ンシャルが高かったにもかかわらず、光合成速度と蒸散速度は劣った。環状剥皮直上部の植物ホルモンを分析す ると、ジャスモン酸(JA)、アブシジン酸(ABA)およびサリチル酸含有量の増加がみられた。以上の結果から、不親 和な接ぎ木組合せでは、内生の JA や ABA およびサリチル酸濃度の高まりが光合成速度や蒸散速度を低下させ ると共に、内生 JA の増加がヤニの分泌を誘導すると推察された。 B-03 青色光および赤色光がアーバスキュラー菌根菌の菌糸生長および胞子形成に及ぼす影響 三輪 由佳 (果樹園芸学研究室) 赤色光はアーバスキュラー菌根(AM)菌の菌糸の伸長を促進し,青色光は胞子形成を促すと言われている。そ こで,本研究では青色と赤色の LED(light-emitting diode)を用いて,in vivo での AM 菌の生長に及ぼす影響につ いて調査した。調査にはアクリル製のルートボックスを用い,植物の根の侵入は防ぐが,菌糸は通り抜けるナイロ ンメッシュの枠を設置し,5分割した。ルートボックスの中央に Gigaspora margarita 胞子約 100 個をガラスビーズと 混合して入れ,両端にはバヒアグラスを殺菌した砂土に植えつけた。中央から 2 枠目にはガラスビーズを入れ,光 源を設置した。光を照射しない(Dark)区,赤色光照射(RR)区,青色光照射(BB)区,および赤色光から赤色光と 青色光の混合光さらに青色光へと変えた照射(R→B)区,の 4 処理区を設けた。約 110 日後,ルートボックスの解 体を行った。その結果,菌糸密度および菌根感染率に光質の違いによる有意差はみられなかった。しかし,ガラス ビーズ枠内における新しく形成された胞子数には処理区間で大きな差異がみられ,BB 区の胞子数は最も少なく 11 個であった。次いで Dark 区および RR 区はそれぞれ 111 個,122 個であり,両区間に有意差は認められなかっ た。しかし,R→B 区では胞子数が著しく増加し,223 個となった。以上,青色光および赤色光が AM 菌の胞子形成 に著しい影響をもたらすことが明らかとなった。 B-04 乳酸菌による植物病害防除機構の解明に向けて 〜植物病原糸状菌に対する抗菌作用及び植物との相互作用の検討〜 井上 裕貴 (植物病理学研究室) ホウレンソウ萎凋病抑制に有効な生物防除資材として乳酸菌 Pediococcus pentosaceus KMC05 株が同定され た。本研究ではモデル植物のシロイヌナズナ感染系を利用して、そのメカニズムの解明を試みた。まず、KMC05 株 による抗菌活性についてホウレンソウ萎凋病菌 H04 株及び感染機構の異なる 2 種のシロイヌナズナ病原菌である アブラナ科野菜類炭疽病菌 MAFF305635 株、ミズナ立ち枯れ病菌 OPU693 株を利用し検討した。対峙培養の結果、 いずれに対しても顕著な菌糸生育抑制効果は認められなかった。次に、KMC05 株によるシロイヌナズナ炭疽病及 び立ち枯れ病抑制効果について接種試験により評価したが、いずれも顕著な効果は認められなかった。次に、 KMC05 株の植物内局在性について抗生物質耐性 KMC05 株を用いて検討したところ、処理後のホウレンソウ及び ミズナの根において KMC05 株の局在が確認された。以上の結果よりホウレンソウ萎凋病抑制効果は KMC05 株に よる直接的な抗菌作用に起因していないことが示され、また KMC05 株の発病抑制効果には定着以外の要因が関 与している可能性が示唆された。シロイヌナズナには病原菌に特異的な防御応答機構が複数存在することが知ら れている。そこで現在、KMC05 株処理後のシロイヌナズナにおける防御応答遺伝子群の発現変動について解析 を進めている。 B-05 ウリ類炭疽病菌の活性酸素生成に関与する遺伝子 ClaNox1、ClaNox2 の単離と機能解析 大澤 貴紀 (植物病理学研究室) ウリ類炭疽病菌(Colletotrichum lagenarium)は宿主であるウリ科植物へ感染し、植物体の茎葉や果実に壊死斑 を形成する植物病原菌である。病原菌が宿主である植物に感染する際に植物は防御応答のシグナルとして活性 酸素を生成することが知られている。それに対して病原菌においても自ら活性酸素を生成していることが明らかと なり、それが病原菌自身の形態分化や植物との相互作用に重要な働きをしている可能性が示唆されるようになっ た。本研究では、NADPHoxidase の活性酸素生成に関与する遺伝子(NADPHoxidase)の単離と機能解析を行い本 菌の感染器官の形態分化や宿主感染に果たす活性酸素の役割についての調査を試みた。はじめにウリ類炭疽 病菌は活性酸素を生成しているのかを DAB 染色法によって確認した。その結果、胞子の発芽時に茶褐色の沈殿 が見られ、活性酸素を生成していることが確認された。次に、NADPHoxidase をコードしている Nox1、Nox2 オルソ ログのクローニングを試みた。保存領域の PCR により ClaNox1 と ClaNox2 の単離に成功し、この 2 つの遺伝子の 全長解析を行った。ClaNox1、ClaNox2 はそれぞれ 1827bp、bp の遺伝子からなっており、609 アミノ酸、アミノ酸から なるタンパク質をコードしていることが判明した。 ClaNox1 と ClaNox2 の推定アミノ酸を BLAST 検索したところ Podospora anserina の PaNox1 、 PaNox2 とそれぞれ 81%、%の相同性が見られた。また、 ClaNox1 破壊株と ClaNox2 破壊株の作出も同時に行っており、ClaNox1 では破壊株を作出し、性状解析を行っているところである。 B-06 アブラナ科野菜類炭疽病菌における網羅的な遺伝子機能解析実験系確立の試み 坪井 基枝 (植物病理学研究室) アブラナ科野菜類炭疽病菌は、モデル植物シロイヌナズナに感染することから、病原糸状菌と植物間の相互作 用を解明するための実験系として注目されている。感染メカニズムの解明をめざして、感染器官形成の各段階か ら RNA を抽出し、発現遺伝子を網羅的に解析した。1742 個の発現遺伝子について塩基配列を明らかにし、 BLAST 検索にかけたところ、1110 個について機知遺伝子との有意な相同性がみつかった。得られた各遺伝子の 配列情報をマイクロアレイ解析へ応用することによって、感染器官の分化と機能発現に特異的な遺伝子群を同定 できる。しかし、その機能解明には、相同組換えを利用して個々の遺伝子の特異的遺伝子破壊株を作出し、性状 を調べる必要がある。本菌では、破壊効率が低く、破壊株の作出に多大な時間を要している。近年、アカパンカビ において、非相同組換えに関する遺伝子 mus-51 を破壊することで相同組換え効率が向上すると報告された。そこ で、本菌においても mus-51 オルソログ遺伝子の単離と破壊株における組換え効率の評価を行うことにした。糸状 菌に共通の保存配列に基づく PCR により、mus-51 オルソログ遺伝子 Chmus-51 を単離し、構造解析を行った。 Chmus-51 は、内部に2つのイントロンを含む約 2050bp からなり、651 アミノ酸からなるタンパク質をコードしている ことが推測された。推定アミノ酸配列の BLAST 検索を行ったところ、アカパンカビの mus-51 と 60%の相同性が確 認された。現在、Chmus-51 の破壊株作出を行っているところである。 B-07 イネ白葉枯病菌における hrp 依存分泌タンパク質の単離・同定 野口 由香里 (植物病理学研究室) 多くの植物病原細菌では hrp 遺伝子産物によって構成されるタイプⅢ分泌機構(TTSS)を介して分泌されるエフ ェクタータンパク質が病原性や抵抗性の誘導に重要な役割を果たす。本研究ではイネ白葉枯病菌における新規エ フェクタータンパク質を同定することを試みた。まず本菌のゲノムデータベースの中から既に同定されているエフェ クタータンパク質に共通する条件に基づいて 23 のエフェクター候補 ORF を選抜した。これらの ORF が実際に発現 しているかを GUS レポーターシステムにより調べたところ、少なくとも 14 の候補 ORF でその発現が確認された。次 にそれらの ORF 産物がタイプⅢ依存的に植物細胞内へ分泌されるかを Cya レポーターシステムを用いて検定した。 Cya はカルモジュリン存在下においてのみ活性化し cAMP を産生する(カルモジュリンは細菌細胞内にはなく植物 細胞内に存在する)。候補 ORF と cya との融合遺伝子を発現するプラスミドを構築し、白葉枯病菌の野生株に導入 して得た形質転換体をトマトの葉に注入し、cAMP の蓄積を調べた。その結果、XOO4042 と cya との融合遺伝子を 発現する株を注入した葉において cAMP の蓄積が見られた。一方、本融合遺伝子を導入した TTSS 欠損株を注入 した際には cAMP の蓄積が見られなかった。以上の結果より、白葉枯病菌の XOO4042 産物はタイプⅢ依存的に 分泌されるエフェクタータンパク質であると考えられた。 B-08 イネ白葉枯病菌における hrp 発現抑制関連遺伝子 lon の単離と同定 真嶋 綾子 (植物病理学研究室) イネの重要病害を引き起こす白葉枯病菌は、タイプⅢ分泌機構の形成に関与する一連の遺伝子群(hrp)を持ち、 この遺伝子群が病原性に必須であることが知られている。hrp 遺伝子群の感染特異的な発現には複雑な制御機 構が存在すると考えられているが、その全体像は明らかとなっていない。本研究では、イネ白葉枯病菌の新規 hrp 制御遺伝子の単離・同定を目的として行った。hrp 遺伝子の 1 つである hpa1 と発光遺伝子群 lux との融合遺伝子 をもつ白葉枯病菌発光変異株に、トランスポゾンを導入することで二重変異株を作出した。得られた変異株の 1 つ M0025 株は、hrp 非誘導の富栄養培地で強い発光が見られ、hrp 遺伝子群の発現抑制に関与する遺伝子が破壊 されていると推察された。シークエンス解析によりトランスポゾン挿入による破壊遺伝子を調べたところ、本変異株 では、ATP-dependent serine proteinase 遺伝子(lon)と高い相同性をもつ遺伝子が破壊されていることが分かった。 GUS レポーターシステムを用いて lon 変異株における他の hrp 遺伝子の発現を検討したところ、本変異株では hrp 制御遺伝子 hrpXo の発現増加が見られた。一方、hrpXo の制御遺伝子である hrpG の発現に野生株との差異はな かった。このことから Lon は、hrpXo の発現の負の制御に関与することが示唆された。 B-09 アブラナ科野菜類炭疽病菌 337-5 株に対するシロイヌナズナ抵抗性遺伝子 RCH337 の同定に向けて 渡辺 慎也 (植物病理学研究室) アブラナ科野菜類炭疽病菌野生株 337-5 株に対して、シロイヌナズナエコタイプ Col-0 は罹病性、In-0 は抵抗 性を示す。これまでの研究で、In-0 と Col-0 の交雑試験の結果、In-0 の有する抵抗性遺伝子 RCH337 (Recognition of Colletotrichum higginsianum 337-5) は 1 遺伝子支配の優性因子であり、第 4 染色体上腕部に位置することが 示唆されている。そこで本研究では RCH337 の同定を試みた。まず In-0 の子葉中の感染行動を光学顕微鏡で観 察した。Col-0 と比較して本菌の感染行動に差は見られなかったが、菌糸侵入率は低かった。この結果、In-0 は本 菌に対して抵抗性を示すことを確認した。次に RCH337 は MO1 マーカーと密接に連鎖していることから、MO1 マー カーの周辺 250kb に存在すると予想した。250kb には 72 個の遺伝子が存在する。ゲノムデータベースから MO1 周辺には抵抗性遺伝子としての報告が多い LRR モチーフを有するタンパク質をコードする 2 種の遺伝子を発見し た。また逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によってそれらが接種後に発現していることがわかった。本研究 では LRR をコードする遺伝子の 1 つである HM28 に注目し、In-0 の HM28 オルソログを HM28 と命名した。シー クエンス解析の結果、HM28 は HM28 と 2 塩基置換、1 アミノ酸変異が生じていた。また RCH337 は優性の抵抗 性遺伝子と推定されることから、罹病性の Col-0 に導入することによって Col-0 に抵抗性が付与されると考えられ る。そこで現在、HM28 相補ベクターを用いた形質転換(T1)植物の作出を行なっている。T1 植物から得られた T2 植物に本菌に対して抵抗性が付与されれば、RCH337 を同定することが可能である。また HM28 以外に RCH337 が存在することも考慮して In-0 のゲノミックコスミドライブラリーを作製している。HM28 周辺の遺伝子を含むコスミ ドクローンを選抜し、RCH337 を探索する。 B-10 アブラムシの捕食性天敵ホソバヒメカゲロウの薬剤感受性およびミヤマヒメカゲロウの生活史形質の調査 大田 啓 (応用昆虫学研究室) 野菜類の害虫であるアブラムシは各種殺虫剤に対しての抵抗性が顕在化して防除が困難になっており、そのた め殺虫剤に代わる生物的防除素材の利用が求められている。アブラムシの天敵であるヒメカゲロウは幼虫・成虫 ともにアブラムシを捕食するため、防除素材としての利用可能性が高い。本研究では、防除素材として有望なホソ バヒメカゲロウと殺虫剤との併用の可能性を探るため本種の薬剤感受性を、新たな防除素材としての利用を図る ためミヤマヒメカゲロウの生活史形質を調査した。京都産ホソバヒメカゲロウを供試し 2 種殺虫剤について局所施 用法によって LD50 値/個体を求めた。イミダクロプリドに対しては 1 齢幼虫:3.1 ng、2 齢:3.8 ng、3 齢:8.8 ng、成虫: 0.2 ng で、ベンフラカルブに対しては 1 齢幼虫:2.9 ng、2 齢:3.9 ng、3 齢:5.9 ng、成虫:0.8 ng であった。モモアカア ブラムシの LD50 値はイミダクロプリドでは 0.2〜0.4 ng、ベンフラカルブと同じカーバメート系殺虫剤のピリミカーブで は 1.4〜146.2 ng であるので、前者殺虫剤は幼虫ならば積極的な併用が可能であり、後者はアブラムシの抵抗性 の程度で併用の是非を検討する必要がある。京都産ミヤマヒメカゲロウを 5 温度区でマメアブラムシを給餌して産 卵から羽化までの発育所要日数を調べた。これから算出した発育零点は 4.8℃であった。これは害虫アブラムシお よび他の天敵昆虫の発育零点よりも低く、加害初期の低温度条件でのアブラムシ防除に利用できるものと思われ る。 B-11 京都府河川における 2 種トビケラ幼虫への PCB の蓄積と食性との関連 出井 香織 (応用昆虫学研究室) 京都府の宇治川では、魚類のオイカワ体内から環境汚染物質である PCB が高濃度で検出されている。その餌 となるトビケラ幼虫からも PCB が検出され、河川における PCB 残留の程度を確認する材料として有効であるとさ れているが、その蓄積過程は明らかではない。そこで本研究では京都府内の 3 河川からオオシマトビケラ(オオシ マと略)・ヒゲナガカワトビケラ(ヒゲナガ)の 2 種トビケラ幼虫を採集し、体内への PCB の蓄積および食性との関連に ついて調査した。オオシマは宇治川と桂川(6月・10 月)、ヒゲナガは桂川(6月・10 月)と鴨川3地点(雲ヶ畑(9月)、北 大路(6月)、二条(7月))で採集した。採れたサンプルを生体重によって区分し、それぞれの区分ごとに PCB 量の測 定をおこない、生体重1g当たりの濃度を算出した。また同じ生体重区分で数個体について消化管の内容物を生 物顕微鏡下で観察した。PCB 濃度には季節間での差は見られなかった。2 種トビケラの生体重の増加に伴って PCB 濃度が増加していたが、オオシマが比例的に増加しているのに対してヒゲナガでは指数関数的に増加してい た。しかし脂質重量当たりの PCB 量をみると、どちらも比例して増加していた。また桂川で 10 月に採れたサンプル で比較すると、オオシマの PCB 濃度はヒゲナガの 10 倍以上であった。この濃度と増加傾向の差は、両者の食性 の違いによる可能性があったが、2 種の消化管内容物の調査をしたところ、餌選好性には差がなかった。このため、 2種トビケラ体内の PCB 蓄積の違いは食性の差異によるものではないと考えられる。 B-12 炭水化物(ハチミツ)の給餌がハモグリミドリヒメコバチの寿命、寄生数および寄主体液摂取数に及ぼす影響 鳴戸 淑恵 (応用昆虫学研究室) マメハモグリバエ Liriomyza trifolii(双翅目:ハモグリバエ科)はアメリカ大陸原産で、日本では 1990 年に最初の 発生が確認され 1999 年には 40 以上の都府県で確認された。日本における寄主植物は 12 科 50 種以上に及び、 施設栽培作物や観賞用作物の重要害虫になっている。また、本種は様々な化学殺虫剤に対して高度の抵抗性を 発達させているため、天敵を利用した生物的防除法が期待されている。ハモグリミドリヒメコバチ Neochrysocharis formosa(膜翅目:ヒメコバチ科)は、潜葉性の幼虫の体内に産卵する単寄生性・内部捕食寄生バチで、寄生以外 に寄主体液摂取によっても寄主を殺す。本種は日本では本州以西に広く分布する。沖縄個体群は産雌性単為生 殖を行い増殖能力も高く飼育が容易であるため、近年、生物的防除素材としての利用が期待されている。本実験 では、ハチミツの給餌が生物的防除素材としてのハモグリミドリヒメコバチの能力を向上させるか否かを検討する ため、ハチミツと水を与えた区(処理区)と水のみを与えた区(対照区)における寿命、寄生数および寄主体液摂取 数を比較した。その結果、処理区において、寿命(処理区:29.1 日、対照区:19.2 日)と総寄生数(処理区:386.2 匹、 対照区:261.2 匹)が有意に増加した。当世代で総殺虫数(総寄生数+総寄主体液摂取数)に有意差はなかったが (処理区:866.0 匹、対照区:757.4 匹)、ハチミツの給餌は次世代以降の防除効果を向上させると考えられる。 B-13 リンドウの新害虫キオビトガリメイガの発育および幼生期の形態 二杉 篤典 (応用昆虫学研究室) 近年、キオビトガリメイガ Endotricha flavofascialis(以下キオビと略)によるリンドウの根部への加害が問題にな り始めた。キオビ幼虫は根部の表面から穿孔加害し、寄主植物の生育を阻害する。しかしその生活環や発育など についてはまだ不明な点が多い。本研究では本種の防除のため、発育と生態を調べ、近縁種のオオウスベニトガ リメイガ E.icelusalis(以下オオウスベニと略)と比較した。25℃、15-9D 条件下で、キオビにはリンドウの根部を、オ オウスベニにはクローバーの葉をそれぞれ与えて個別飼育し、産卵から羽化までの発育所要日数を調べ、各幼虫 齢期の頭幅を測定した。また、2種の終齢幼虫および蛹の形態を比較、観察した。産卵から羽化までの発育所要 日数はキオビでは 107.8 日、オオウスベニでは 68.1 日となり、キオビの方が有意に長かった。頭幅の成長率の回 帰式は、キオビ:y=0.25x−0.21[y:頭幅(㎜),x:齢]、オオウスベニ:y=0.26x−0.15 となり、2 種間に顕著な違いは見ら れなかった。また、幼虫頭部の亀甲状模様や、蛹における第 2、3 腹節背面の顕著な隆起部、尾溝の多数の微毛、 そして尾鈎など 2 種の共通形質が多数確認された。2 種間で刺毛配列には顕著な差は見られなかったが、キオビ 幼虫における腹脚鈎爪数の減少や、胸部背面の二次的硬皮状構造は、根部に穿孔するという摂食方法が関係す ると思われる。 B-14 ダイコンアブラバチを用いたバンカープラント法における代替寄主アブラムシの探索 深津 浩介 (応用昆虫学研究室) アブラナ科作物を加害するモモアカアブラムシ(以下モモアカと略記)とニセダイコンアブラムシ(ニセダイコン)は 近年、殺虫剤抵抗性の発達により難防除害虫となっている。ダイコンアブラバチ Diaeretiella rapae はこれらの生物 的防除素材として利用可能性が高い。そして、このハチのアブラムシ防除効果を高める方法の一つにバンカープ ラント法がある。本研究では、このハチの寄主としてのムギクビレアブラムシ(ムギクビレ)の適性をモモアカ、ニセ ダイコンと比較し、バンカープラント法における代替寄主としての利用可能性を検討した。さらに、代替寄主ムギク ビレの有効な寄主植物を探索した。ムギクビレ、モモアカ、ニセダイコンを寄主とした時、ダイコンアブラバチの寄生 率はそれぞれ、59、67、73%、羽化率は 76、85、79%、雌比率は 81、76、86%となり、これらの適性のいずれの指標 においても 3 寄主間に有意差がなかった。このことから、ムギクビレはバンカープラント法の代替寄主として利用可 能性があるといえる。また、ムギクビレはトウモロコシを寄主植物とした時、内的自然増加率が 0.23 となりオオムギ を寄主植物とした時(0.14)より増殖率が高くなった。この結果から、害虫アブラムシを十分に防除するだけのダイコ ンアブラバチ個体数を維持するという観点から、ムギクビレの寄主植物としてトウモロコシが適当であると考えられ た。 B-15 Genetic variation and phylogeny of the invasive plant Erigeron annuus (Asteraceae) in Japan (日本における侵入植物ヒメジョオンの遺伝的変異および系統) 榎本 修二 (農業生態学研究室) 都会地周辺の雑草の7、8割は帰化雑草と言われている。ヒメジョオン( Erigeron annuus )は北アメリカ原産で 1865 年頃に観賞用として日本に導入された。ヒメジョオンは侵入植物種の中でも、特に広範囲に生息地を獲得し ている種の一つである。本研究では、外来植物種の侵入及び拡散の阻止や侵入植物の駆除における基礎的な情 報を得るため、ヒメジョオンの遺伝的多様性や系統分化を調査した。304 個体を、島根県から茨城県にかけての東 西約 700km の範囲の 74 集団から採集した。4 個の STS マーカーと 1 個の ISSR マーカーの計 5 マーカーを開発 して PCR を行い、増幅バンドの有無に基づいて表現型を決定した。すべての採集地点を経度に沿って 9 つの地域 に大別し、その地域ごとに増幅バンドの頻度を計算した。頻度データにより算出された地域間の遺伝的距離に基 づき、近隣結合法により系統解析を行った。5マーカーの組み合わせにより 39 の表現型が検出された。そのうち 23 の表現型は 1 ないし 3 個体でのみ観察された。95%の集団で、集団内に複数の表現型が見られた。ヒメジョオ ンは無融合種子形成と有性生殖の両方を行うので、頻度の低い表現型は主に有性生殖に伴う遺伝子座間組み 換えに起因する、と推測される。ヒメジョオンの遺伝的多様性は、複数のタイプの表現型の導入と時折起こる有性 生殖によって維持されている、と考えられる。経度ごとの地域間の系統解析からは、3 つの主要な系統があること が推測された。 B-16 ブドウ台木の倍数性が 巨峰 樹水分生理および果実成熟に与える影響 小林 佐稔 (農業生態学研究室) ブドウ(Vitis spp.)では台木品種は通常 2 倍体であるが、交雑雑種 4 倍体など成育の旺盛な穂木品種を接いだ場 合、栄養成長が強く、結実確保や新梢の管理に労力を要する。一方、芽条変異やコルヒチン処理により得られた 4 倍体ブドウはもとの 2 倍体と比較して生育が劣ることが知られており、台木として用いることで穂木の樹勢を調節し、 作業の効率化および果実の高品質化が図れる可能性がある。本実験では台木品種 3309 Couderc および Riparia Gloire de Montpellier の通常の 2 倍体台木と両台木にコルヒチン処理を施して作出した 4 倍体台木を用 い、各台木の通水性および 巨峰 を接ぎ木した際の日中の水ポテンシャル、果皮アブシジン酸(ABA)および果実 品質について調査を行なった。台木の通水性は根でも地上部でも 4 倍体台木で有意に低かったことから、根域の 狭さと共に、 巨峰 接ぎ木樹で見られた生育期全般における水ポテンシャルの低さの要因となっていると考えられ る。果皮の ABA 含量は 4 倍体台木において果実成熟第Ⅲ期中旬に上昇が見られた。ブドウでは ABA は果実成 熟を早めると共にアントシアニン生合成を増加させると言われている。本実験でも果実品質において 4 倍体台木で は果実糖度の上昇が促進され、果皮のアントシアニン濃度が顕著に高くなった。以上より、ブドウ 4 倍体台木は樹 体に水ストレスを与え、果実品質を向上させる効果があると考えられる。 B-17 ブドウ園におけるカバークロップが土壌環境ならびに arbuscular 菌根菌定着に及ぼす影響 島田 早苗 (農業生態学研究室) 環境への負荷を低減する持続可能な栽培技術のひとつとして、カバークロップを利用した草生栽培や、緑肥作 物としての土壌改良法が注目されてきている。このような栽培法を構築するにあたって、植物と共生し養分吸収を 補助する arbuscular 菌根菌(AM 菌)の存在は重要である。本研究では、京丹波町に位置する丹波ワイン(株)のブ ドウ園においてナギナタガヤを利用した草生栽培を行い、黒色不繊布マルチにより雑草を排除した対照区を設け、 ブドウ樹の生育および葉の無機成分、土壌の養水分状態および AM 菌定着に及ぼす影響を検討した。また、新規 客土園地において、AM 菌を接種したソルゴーを栽培し、その生育と AM 菌定着を調査した。ナギナタガヤ草生区 で 7 月と 8 月にわたりブドウ樹の菌根菌感染率が高まる傾向が見られ、草生栽培による AM 菌活性効果が示唆さ れた。ブドウ樹の生育は春〜夏の草生区とマルチ区の土壌水分の違いが大きく影響しマルチ区の方が有意に高く 推移した。ナギナタガヤが倒伏し枯死した夏季には土壌中 N 濃度に目立った変化は見られなかったが、P 濃度は ナギナタガヤで有意に減少し、草生区土壌およびブドウ葉において夏の間にかけて上昇が見られ、ナギナタガヤ 残渣からの P の土壌への溶出およびブドウ樹への供給があったということが考えられた。ソルゴーの試験では、菌 根菌資材コーティング種子を播種することで非接種区に比べ高い感染率が得られたが、生育には両処理区間で 差は見られなかった。 B-18 4 倍体台木がブドウ樹の生育と着果率、収量ならびに果実品質に及ぼす影響 松浦 史生 (農業生態学研究室) ブドウ台木において、コルヒチンにより倍加した 4 倍体は、もとの 2 倍体に比較して根が太く短く、全体として小さ な根系を形成する。これまでに、巨峰樹に接ぎ木した 3309 Couderc 、および Riparia Gloire de Montpellier の 4 倍体台木について、その穂木の栄養成長を抑制し果実品質を向上する効果が報告されている。本研究では Kober 5BB (5BB)、 St.Goerge とそれぞれの 4 倍体台木に接ぎ木した結実 3 年目の巨峰樹における栄養生長、 ジベレリンによる無核果処理と無処理における着果率と果実収量、品質および根系について調査を行った。5BB、 St.Goerge の 4 倍体台木は 2 倍体に比べ、栄養生長抑制、果実品質の向上効果が顕著に認められた。着果率は ジベレリン無処理区では極めて低く、十分な収量を得られなかった。ジベレリン処理区において着果率、収量は、4 倍体台木が 2 倍体に比較して劣ったが、収量効率(収量/主枝断面積(g/mm2))では 4 倍体が高かった。4 倍体台 木を実用する際はジベレリン処理が必須であるとともに、収量は劣るものの収量効率は 4 倍体が優れたことから、 密植栽培をすることで収量を確保することができると考えられる。以上のように 4 倍体台木の栄養生長抑制、果実 品質の向上効果が認められたが、その要因であると思われる根域の調査では、根系の分布の違いを確認するこ とはできなかった。 B-19 農村暮らしの成立条件に関する研究 ―「農のあるライフスタイル実現」のための意向調査分析― 井上 千恵美 (農業経営学研究室) 近年、農山村は過疎化が深刻化し、豊かな自然と地域の活力を失いつつある。一方、都市住民の間では、農山 村における豊かな暮らし、地域や環境を守る活動を通じて自己実現を図りたいという思いが起こってきている。し かし、都市住民の農山村への移住には課題が多く、「農のあるライフスタイルの実現」に向けて、具体的な受け皿 の構築が必要とされている。そこで本研究では、農山村移住を希望する都市住民・受け入れ集落側双方の意向や 実態をアンケート調査によって明らかにし、また、自治体による支援のあり方について先進地域である綾部市にヒ アリング調査を行い、今後の方向性について考察を行った。その結果、移住希望者には、団塊の世代を中心とし た定年退職後に移住を検討している人や就職の一選択肢として農村暮らしを検討している若者など様々なタイプ が存在し、農村暮らしに求めるニーズも多様であること、受け入れ集落側には、集落の慣習やルールを理解した 上で移住してきて欲しいという意向が強いことがわかった。また、綾部市においては、「里山ねっと・あやべ」という 都市住民と農山村集落をつなぐ役割を担う機関の構築が成果をあげていることが明らかとなった。そこで、「農の あるライフスタイル実現」を達成するためには、都市住民と農村集落をつなぐ専門的な機関を設立し、都市住民・ 集落側双方にとってベストマッチングな地域への移住を実現するべく、移住希望者に対しニーズに合ったプログラ ムや情報を提供すること、また、集落側のニーズに合った移住者を選定することなどが必要であるといえる。 B-20 食品加工業者における企業戦略と原料調達の関係に関する研究 笹壁 友輔 (農業経営学研究室) 近年食の安全・安心に対する関心の高まりから消費者の国内志向が強まってきており、食品加工業者では国 産原材料の調達量を増やすといった動きがみられ、これに伴って自社生産という原料調達行動を行なう業者が増 加している。そこで本研究では自社生産という先進的な原料調達を行っている 2 社の企業を事例としてヒアリング 調査を行ない、原料調達形式の決定と経営戦略がどのように関連しているのかを考察した。和菓子を中心に全国 展開している T 社ではヨモギを自社生産しており、ブランドイメージを重視して他社との差別化を図る戦略をとって いる。サツマイモを使った洋菓子を中心に全国展開している S 社では、サツマイモの苗の自社生産と一次加工を 行っているが、これは国内甘藷生産農家の組織化を通して原料の安定供給の確保を図るとともに、国産原料をつ かって他社製品との差別化を図るというものであった。両社の原料自社生産の理由はそれぞれ異なっていたが、 T 社・S 社ともに農場の独立採算は成り立っておらず、自社生産がコスト増嵩をもたらしていることは共通している。 これは両社が多少のコストをかけてでも消費者の信頼やブランドイメージなどの無形資産を獲得しようとしているこ とを意味する。また、産地とのつながりを重視した顔の見える原料調達システムの構築も両社で共通しており、こう した産地と直結した原料調達システムの構築こそが今後の国内の食品加工業者にとって重要な課題になってい る。 B-21 農村における新規定住の現状と課題 〜京都府南丹市美山町・砂木集落を事例として〜 定石 壮平 (農業経営学研究室) 近年、都市住民の中で農のある暮らしを求め農村への移住を希望する人が増加している。一方、農村において は過疎化、高齢化が進行し、様々な弊害が発生している。双方のニーズは合致しているように見えるが、実際に は様々な問題が存在している。そこで、本研究では美山町の砂木集落を事例として、新規定住者にアンケート調 査を、受け入れ農村側にはヒアリング調査を行い、地域との交流の視点から新規定住のノウハウを考察した。アン ケート調査より地域住民と距離を感じる人は少数であったが親密度は馴染めていると感じている人とあまり馴染め ていないと感じる人がほぼ同じ割合であった。しかし、移住後 5 年を経た人にあまり馴染めていないと感じる人は おらず、親密度は移住後の年数を経るほど高くなると考えられる。また、新規定住の動機が美山町の環境に起因 する人はその後の農村に対するイメージが良く、満足度も高くなる傾向が見られ、さらに集落活動の参加率が高い 人にも同様の傾向が見られた。環境を目的として移住してきた新規定住者は集落の資源管理活動へ積極的に参 加し、農村に対する理解度も高いと考えられる。以上より、受け入れ農村側は新規定住者を惹きつける環境づくり に努めることにより、資源管理活動に積極的に取り組む新規定住者を迎え入れることができ、新規定住者は農村 生活に対する明確な動機、高い意識を持つことでスムーズに農村生活に入る事ができると考えられる。移住後は 互いに理解し合い歩み寄る事で双方のニーズに応じた円滑な人間関係を築くことができると考えられる。
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