栃木県農業試験場 研究成果集第 29 号 精麦用二条皮麦「とちのいぶき」の高品質安定多収生産技術の確立 1.試験のねらい 麦類の生産、流通において、食用大麦の需要は高まっているが、食用大麦の低収量性が問題とな っており、高品質で安定した栽培法の確立が求められている。そこで、炊飯後の褐変が少ない精麦 特性の優れる二条皮麦有望品種「とちのいぶき」の高品質安定多収栽培技術を確立する。 2.試験方法 (1) 平成 19 年および 20 年に農業試験場本場の転換畑(厚層多腐植質多湿黒ボク土)において、以 下の処理内容で試験を実施した。播種様式は、30cm 条間ドリル播、基肥肥料には BB ビール麦 2 号を用いた。 1)平成19年 ①播種時期と播種量 播種時期 11月 2日 11月14日 ②窒素施肥量 播種量(kg/a) 0.8 × 1.0 基肥窒素量 (kg/a) 0.4 0.8 1.2 1.6 基肥窒素量:0.7kg/a、追肥:なし 追肥窒素量 (kg/a) 0 0.2 × 0 播種時期:11月2日、追肥時期:茎立期(尿素)、 2)平成20年 ①播種時期と播種量 播種時期 播種量(kg/a) 0.8 10月29日 11月 5日 × 1.0 11月13日 基肥窒素量:0.7kg/a、追肥:なし 播種量:0.8kg/a。 ②播種量と窒素施肥量 品種 とちのいぶき 播種量 (kg/a) 0.6 0.7 0.8 0.7 0.7 × 窒素施肥量(kg/a) 基肥 追肥 0.4 0 、0.3 0.7 0 、0.3 1.0 0 0.7 0 0.7 0 スカイゴールデン(比) シュンライ(比) 播種時期:11月5日、追肥時期:茎立期(尿素)。 3.試験結果および考察 (1) 播種時期は 11 月上旬以降にすることで、整粒歩合、千粒重が向上した(表−1)。 (2) 播種量については、1.0kg/a では 0.8kg/a に比べ整粒歩合が低くなり、千粒重が軽くなる傾向 があった(表−1)。 (3) 窒素施肥量は基肥 0.4kg/a+追肥 0.2〜0.3kg/a で子実重が重く、千粒重及び容積重はやや重か った。また、搗精麦白度も高まる傾向であった。基肥 0.7kg/a 以上の区では、硝子率などの精麦 品質は劣る傾向を示した(表−2、3)。 4.成果の要約 「とちのいぶき」は、播種量は 0.8kg/a 以下、播種時期は 11 月上旬にすることで、整粒歩合、千 粒重が向上した。窒素施肥量は、基肥 0.4kg/a、追肥 0.2〜0.3kg/a の施肥体系が子実重、品質とも に良い。 (担当者 作物技術部 ‑ 3 ‑ 作物研究室 飯田貴子、白間香里) 精麦用二条皮麦「とちのいぶき」の高品質安定多収生産技術の確立 表−1 実 施 年 平 成 19 年 平 成 20 年 播種時期 11月 2日 11月14日 10月29日 11月 5日 11月13日 播種時期および播種量と生育・収量・精麦品質 播種量 (kg/a) 0.8 1.0 0.8 1.0 0.8 1.0 0.8 1.0 0.8 1.0 出 穂 期 4/17 4/17 5/7 5/7 4/7 4/8 4/13 4/12 4/15 4/14 成 熟 期 5/29 5/28 6/1 6/1 5/23 5/23 5/27 5/25 5/27 5/28 稈 長 穂 長 穂有 数効 (cm) 98 98 93 97 84 84 84 92 84 90 (cm) 5.8 5.5 6.0 5.7 5.1 5.0 5.6 5.6 5.7 5.5 (本/m ) 1278 1213 835 915 752 825 668 895 657 822 倒 伏 程 度 2 3.5 3.3 3.8 3.8 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 子 実 重 歩整 合粒 千 粒 重 容 積 重 (kg/a) 71.1 72.4 61.1 65.3 58.6 56.1 52.0 52.2 49.9 59.9 (%) 57.2 50.2 80.2 79.8 83.5 79.8 93.3 90.1 93.4 88.5 (g) 34.8 33.4 40.1 39.7 39.4 38.1 42.5 40.9 43.2 40.8 (g/l) 741 733 744 738 724 721 728 730 719 726 搗 白 精 度 麦 40.5 41.2 39.1 38.3 52.1 52.8 49.5 51.1 51.4 51.0 硝 子 率 砕 粒 率 (%) 57.0 61.0 50.0 47.0 27.8 22.3 31.8 28.3 17.8 16.0 (%) 5.3 16.6 19.3 9.4 1.1 1.6 9.8 3.3 15.9 15.4 注)倒伏は 0(無)〜5(甚)の 6 段階、搗精麦白度は Ke 式白度計 C‑300‑3 による調査値(以下同じ)。 表−2 窒素施用量 (kg/a) 基肥 0.4 0.8 1.2 1.6 追肥 0 0.2 0 0.2 0 0.2 0 表−3 品種 施肥法と生育・収量・精麦品質(平成 19 年) 出 穂 期 成 熟 期 4/17 4/15 4/15 4/16 4/16 4/17 4/17 5/29 5/29 5/29 5/30 5/29 5/29 5/30 稈 長 (cm) 91 95 97 102 102 100 103 穂 長 倒 伏 程 度 穂有 数効 (cm) (本/m2) 6.6 1138 5.7 1270 5.7 1238 5.8 1297 5.8 1138 5.8 1353 5.8 1362 2.0 1.8 3.3 3.5 3.8 4.3 4.3 子 実 重 (kg/a) 63.8 72.2 71.1 72.7 71.5 68.5 65.9 歩整 合粒 千 粒 重 容 積 重 (%) 56.8 65.1 58.4 48.3 55.2 46.7 47.6 (g) 34.2 35.5 35.0 32.0 32.9 31.9 32.7 (g/l) 711 744 730 712 717 696 722 搗 白 精 度 麦 45.3 42.5 42.8 38.5 37.6 41.8 39.2 硝 子 率 砕 粒 率 (%) 42.0 43.0 43.0 48.0 70.0 52.0 43.0 (%) 23.0 19.6 15.7 14.9 11.1 13.7 13.0 施肥法および播種量と生育・収量・精麦品質(平成 20 年) 窒素施用量 播種量 (kg/a) 基肥 追肥 (kg/a) 0.6 0 0.7 0.8 0.4 0.6 0.3 0.7 0.8 0.6 0 とちのいぶき 0.7 0.8 0.7 0.6 0.3 0.7 0.8 0.6 1 0 0.7 0.8 スカイゴールデン 0.7 0 0.7 シュンライ 0.7 0 0.7 出 穂 期 成 熟 期 4/12 4/12 4/12 4/12 4/12 4/13 4/13 4/13 4/13 4/13 4/12 4/13 4/14 4/13 4/13 4/13 4/15 5/25 5/24 5/24 5/25 5/25 5/26 5/26 5/28 5/27 5/28 5/26 5/29 5/29 5/27 5/28 5/26 5/27 稈 長 穂 長 (cm) 81 82 79 88 89 89 83 88 84 93 94 94 93 95 94 88 93 (cm) 5.5 5.5 5.3 6.1 6.1 5.9 5.7 5.9 5.6 6.2 6.1 6.0 6.2 6.1 5.7 5.1 4.1 倒 伏 程 (本/m2) 度 630 0.0 552 0.0 563 0.0 658 0.0 737 0.0 775 0.0 667 0.0 672 0.0 668 0.0 757 1.3 770 0.0 818 0.0 795 0.0 808 0.0 820 0.0 640 0.0 288 0.0 穂有 数効 ‑ 4 ‑ 子 実 重 (kg/a) 42.4 38.3 41.3 54.4 57.3 59.6 50.0 40.3 52.0 65.8 59.2 65.5 62.0 57.7 61.3 46.5 74.4 千 容 搗 粒 積 白 精 重 重 度 麦 (%) (g) (g/l) 91.5 42.2 731 51.3 91.5 41.7 729 51.4 89.6 40.3 728 51.1 91.1 43.1 726 51.0 91.7 42.9 738 50.1 90.4 42.1 733 50.7 91.2 41.2 729 50.4 92.5 41.4 718 50.7 93.3 42.5 728 49.5 87.8 41.1 720 47.9 91.6 42.3 737 49.9 91.3 41.6 714 48.4 92.1 43.0 721 49.4 92.1 41.9 727 49.7 88.5 41.2 728 51.7 91.7 41.8 719 47.3 95.9 37.2 700 49.4 歩整 合粒 硝 子 率 (%) 22.6 24.4 17.8 24.8 28.1 24.0 32.0 26.3 31.8 40.3 47.5 29.4 35.8 32.0 15.8 34.7 23.4 砕 粒 率 (%) 6.7 4.7 5.5 5.2 4.4 6.9 10.5 9.9 9.8 8.4 3.9 14.0 7.4 10.0 10.2 5.9 2.7
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