漁 協 と 共 済 4 月 号 「 リ レ ー ト ー ク 21」 第 90 回 原 稿 元気な女性部活動に注目しよう お話し:海とくらし研究所 代表 インタビューアー:中島 関いずみさん 満 【リード】 JF 女 性 部 は こ れ か ら の 漁 業・漁 村 の な かで、どのような役割りを演じ、また漁 家のくらしを支えながら、どのような活 動に重点をおいていったらよいのか。 このテーマを持ち、各地の女性部活動 の情報交換とネットワークづくりの橋渡 し役ができないだろうかと、エネルギッ シュに全国を走り回っている女性グルー プがいます。それぞれ仕事を持ちながら アイデアと若いパワーで立ち上げた「う み・ひと・くらしフォーラム」の三人の 女性です。 ●プロフィール 浜の現場から地域のホットなテーマ、 「せきいずみ」さん:東 京 都 生 まれ:ダイビング経 験 から漁 業 漁 村 に興 味 を持 ち、平 成 5年 漁 港 漁 場 漁 村 技 術 研 究 所 に転 職 。平 成 19 年 同 所 を 退 職 「海 とくらし研 究 所 」を立 ち上 げる。漁 村 にく らす人 々の活 動 を主 題 に、漁 村 女 性 の就 労 環 境 ・ライフスタイル、漁 業 後 継 者 実 態 、漁 村 景 観 、 漁 村 ツーリズムなどの調 査 研 究 を行 う。また、三 木 奈 都 子 さん(水 産 大 学 校 )、副 島 久 実 さん(同 校 )と三 人 で、漁 村 にくらす女 性 の活 動 を応 援 し ようと「うみ・ひと・くらしフォーラム」をつくり、各 地 で シ ン ポ ジ ウ ム を 開 く な ど、 こ れ か ら の 沿 岸 漁 業 が向 かう方 向 を見 極 めようと、全 国 の浜 の現 場 に足 を運 んでいる。 悩みを掘り起こし、全国的な視野の広い テーマとリンクさせ、地元でなければ語 り合えない地域シンポジウムや調査活動 を地道に続けてきました。 メンバーのひとりである、関いずみさ んに、活動を通じて「今何かが変わりは じ め て い る 」と い う 、女 性 部 活 動 の 「何 か 」 について、ズバリとお話を伺ってみるこ とにしました。 1 も 、さ ら に ス テ ッ プ ア ッ プ す る た め に は 、 広がった活動を支える力 活動母体となるグループの取り組みかた に、ひと工夫が必要な段階にきているよ ― ― 漁 協「 婦 人 部 」と 呼 ば れ て い た 時 代 か ら 今 で は「 J F 女 性 部 」の 名 称 に な り ま し た 。こ の 間 、浜 の 女 性 た ち の 活 動 に ず っ と 焦 点 を 当 て 続 け 、現 場 に 精 力 的 に 足 を 運 ん で こ ら れ ま し た が 、そ の な か で 最 近 は ど ん な課題にぶつかっていますか。 うな気がします。 ――具体的にターニングポイントとはどうい うことでしょう。 「起業」を始めたところのように、は JF女性部の「役割」とか「課題」と じ め は 、無 我 夢 中 で 、資 金 不 足 ぎ み で も 、 なると、大きすぎて答えずらいので、浜 持ちこたえようと、意思を一つにして、 の女性たちと情報交換しながら、見聞き がんばってきたんですが、5年たち6年 した範囲で、最近感じていることを整理 たち、このままでよいのだろうか、とい してみましょう。 う時期が来ます。 漁村の女性たちは、これまでずっと、 このとき、その次にどうするか、とい JFの組織では業務として扱いずらい地 う場面で、いろいろな変化が起こってく 域活動をボランティア的な立場で行って るように思います。 きました。その活動の特徴は、大きく二 長く活動を続けている場合、ある特徴 つに位置づけられます。 がみられます。こうした段階を、のりこ 一つは、石鹸普及運動や植樹活動のよ えようとした結果の変化ともいえます。 うな環境を考えようという取り組みです。 もう一つは、水揚げされても値もつか 最近起きている「変化」とは な い よ う な 漁 獲 物 を 、「 商 品 化 」し て 活 か せないかという、暮らしを支える女性な らではの活動で、魚食普及の活動や食育 女性部活動を続けながらも、そのなか の啓発活動とも連動しています。 の「有志」を中心とした活動に、試行錯 最近では「起業」化という経済的な取 誤をしながら、 「 実 体 」が 移 っ て い く と い り組みを始めたところも出てきました。 う例が出てきている気がします。 さらに、もう一つ、漁村の暮らしと福 新しいアイデアがあるのだけれど、こ 祉活動がありますが、今回は前の二つに れを実行するかどうかという決断には、 絞 り ま す 。こ の 二 つ だ け を と っ て み て も 、 リーダーがどれだけリーダーシップを発 活動の幅が、とても広がってきました。 揮しても、全体の意思統一を図るには時 そして、順調にこれまできた事例の場合 2 間 が か か る も の で す 。JF( 漁 協 )の 同 意 真) も 必 要 で す 。JF( 漁 協 )合 併 に よ っ て 女 性部の加入人数が多くなる場合もありま す 。そ う す る と 、ど こ か で 、「 有 志 」の グ ループ活動として続けていく選択が求め られるわけです。 二 つ の 例 を 紹 介 し ま す 。ひ と つ は 、「 佐 賀市漁村女性の会」の場合です。 ノ リ 養 殖 漁 業 の 地 域 に あ っ て 、「 出 荷 できないキズ海苔を使って新しい製品を ( 写 真 提 供 : 関 い ず み さん ( c ) ) 作れないか」と、まず「海苔の佃煮」開 固定客も増え、夕方からの販売には、 発から始まりました。それが「うまかの 働く女性たちの味方と、市民のひとたち ばい にもとても好評です。 り 梅 」と、絶滅危惧種「アサクサノリ」 100%で〝一番摘み〟だけを使った ――個人のグループ活動も増えてきているん 「肥前あさくさ」です。さらに、アイス ですか。 クリーム「焼のりアイス」が好評です。 増えてきているト思いますが、成功す そ も そ も 、 JF(漁 協 )女 性 部 活 動 と し て ればしたで、地域のあつれきのなかに立 はじまりましたが、現在は、有志女性が たされる場面もでてくるそうです。地域 独立したグループとして経営しています。 の中で「気になる存在」になるというこ とは、活動や経営のステップアップをは かる段階で、このような課題もでてくる 有志活動として独立して起業 ことを知っておく必要があります。 成功しても、なやみを抱えながら、そ すくも さかき こ も う 一 つ 、高 知 県 宿 毛 市 の「 栄 喜 っ 娘 れをなんとか乗り越えようと、知恵を出 いち ひめ 市 」の場合は、もともと地域のな し合いながら、勇気もだしあって新しい かで女性部とは別に個人のグループ活動 活動の拠点という「風」がようやく吹き です。まき網漁業漁家のおかあさんたち 始めているのかなあというのが実感です。 が集まって5年前結成されました。まき 「物語性」をもった活動の展開 が必要です 網で漁獲され、市場流通に乗りにくい小 型魚を買い取り、天ぷら、寿司などの惣 菜に加工して、トラック行商で市内を販 ――女性部はJFの組織ですから役員の 売 し て ま わ る 活 動 を し て い ま す 。( 右 上 写 3 交 替 な ど 、組 織 内 の 問 題 も あ れ ば 、J F の 外に出て地域の人たちを巻き込んで活動 を す る 場 合 の 課 題 も あ る 。長 く 続 け て い く た め に は 、ど ん な「 風 」を 造 っ て い け ば よ いのでしょう。 がらんとした広いスペースをそのまま さ び れ た ま ま に す る の は「 も っ た い な い 」 と「朝市」を開くアイデアが、JFおお いたの女性部長さんに浮かびました。 そして彼女の奮闘によって実現したの また、難しい質問ですね。最近、感じ が「美濃崎漁師市」です。 ていることですが、長く続いている活動 には、かならず、背景にはっきりとした 女性部長さんは、遠くから車でやって 「ものがたり」があります。これを「物 きて、早朝から並んで買っていってくれ 語性」ということもあります。イベント るお客さんに食べてもらおうと「漁師の をして、参加者に「ああ!参加してよか 朝 定 」を バ イ キ ン グ 方 式 で 出 し た と こ ろ 、 っ た ! 」「 楽 し か っ た ! 」と 、訴 え か け る こ れ が「 お い し い 」「 た の し い 」と さ ら に インパクトが必要なのです。 評判を呼ぶことになりました。小さな食 堂は、使わなくなった旧漁協事務所を改 全国のJF(漁協)で数多くおこなっ 造したものでした。 てきた森に木を植える植樹活動は、女性 部が大きな役目を果たしてきました。 地域を「回して」いく役割 りに着目しよう 岩手県JF田老町婦人部の場合は、岩 手県全域で取り組んできた「合成洗剤を なくそう」という石鹸普及運動を積極的 ――女性だからこそできたアイデアとも に活動してきた実績があります。こうし いえますね。 た強いJF女性部の結束力を基盤にして 「婦人の森」づくりという植樹活動や海 女性部が、一部の意欲をもった人だけ 岸清掃を漁場環境保全活動として行って で活動するだけではなくて、みんなが参 きました。 加できるような仕組みに変化させた女性 植樹活動は、漁業者が木を植えるとい 部長さんもいます。 う「物語性」によって、魚を食べること 愛 媛 県 J F 渦 浦 女 性 部 は 、「 し ま な み と、海の環境を守ることと、JFや女性 海道」開通を機に「道の駅」に出店する 部の活動とを、市民の人たちにも、結び ために、名物じゃこ天や島ひじきの加工 つけ印象付けることになったのです。 品開発と、週末の2日間だけの販売に取 話題性を提供したということで、1県 り組みました。 1 単 協 に な っ た「 J F お お い た 」の 旧 JF こ の と き 、女 性 部 長 さ ん は 、「 女 性 部 員 (漁協)で、使わなくなった市場施設を には、参加できる人もいれば、出られな 活用した女性部の活動があります。 4 い人もいる。出たくても出られない人も いる」のだからと、聞き取りをして3つ ○ エ ピ ロ ー グ : 3人 のグループによるエネルギ ッ シュな活 動 は○うみ・ひと・くらしフォーラムHP: のタイプわけをしました。 http://www.geocities.jp/umihitokurashi/index.htm をごらんください。全 国 の女 性 部 や女 性 グループ の活 動 を紹 介 した、きれいに編 集 された「NET」誌 も発 行 しています。活 動 する人 やグループの情 報 収 集 の場 と活 動 をつなぐ「橋 渡 し役 」になろうと奮 戦 する三 人 の活 動 そのものが、これまで見 られな かった新 しい風 を生 んでいます。 「販売に出られる人」 「仕込みだけに出られる人」 「常に参加できないが時間ができたとき に袋詰め作業や加工作業を手伝える人」 漁村という小さな地域だからこそ、み んなが参加でき、しかも女性部の仕事と して長続きできるフレキシブルな事業推 進の仕組みを考えたのです。利益が出た ときの配分やプール制についても、こう した、こまやかな配慮によって「地域を 回していく」ことの役割りを女性部が演 じた好例であろうと思います。 最後にひとこと。HACCP(ハサッ プ)が注目され、どんなに資金をかけて 工場や荷捌き場を整備しても、また港湾 整備に投資をしても、肝心な魚価に反映 しずらい時代になりました。こんな時代 だからこそ、もっと、女性部のような、 ささやかな活動ではあるかもしれないけ れど「地域を回していける」実効ある活 動に対しては、もっともっと行政的な支 援が必要になるとも感じています。 (インタビュー:記事構成: MANAなかじまみつる) 5
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