結核感染症における IL-17 産生細胞の感染防御および肉芽腫

(様式3)
琉球大学研究プロジェクト支援事業(若手研究者支援研究費)
平成 21 年 9 月 30 日
琉球大学
学長
岩
政
輝
男
殿
所属部局・職
氏
名
熱帯生物圏研究センター・助教
梅村
正幸
平成20年度研究プロジェクト支援事業(若手研究者支援研究費)研究実績報告書
このことについて、以下のとおり報告いたします。
➀研究課題
結核感染症における IL-17 産生細胞の感染防御および肉芽腫形成メカニズムの解明
感染症は今なお人類にとって最も深刻な病であり、現在 AIDS やエボラ出血熱などの
新興感染症に加え、結核、マラリアなどの再興感染症も再び猛威を広げている。その中
でも結核は世界中に蔓延する感染症であり、発症頻度が高く、しばしば致命的な疾患に
陥るにもかかわらず、感染防御メカニズムは未だに解明されていない部分が多く残って
いる。その原因として結核菌感染による発病や病態が宿主の免疫応答と複雑に関係して
いることが挙げられる。結核菌を含む細胞内寄生性細菌に対しては、細胞性免疫を担う
Th1 型免疫応答が誘導され、インターフェロン(IFN)-産生を介して感染防御に働くが、
結核菌は細胞性免疫による貪食と殺菌から巧みに逃避するため、長期間の防御免疫によ
る排除が必要である。それを担うのが Th1 型細胞とマクロファージを中心に形成される
肉芽腫である。
申請者らのグループはマウスの細胞内寄生性細菌感染症モデルを用いた宿主免疫応答
の解析過程から、IFN-のみでなく、インターロイキン(IL)-17 もマイコバクテリアに対す
る免疫応答に重要であることを見出した。IL-17 遺伝子欠損(KO)マウスを用いた感染実
➁研究の概要
験結果から、IL-17 が Mycobacterium bovis Bcille de Calmette et Guérin (M. bovis BCG)感染
肺において自然免疫レベルで感染防御に関与し、さらに感染初期の IL-17 発現がそれに
続く CD4+ T 細胞による Th1 型免疫応答の誘導に重要であることを明らかとした。IL-17
は炎症性サイトカインとして知られており、その作用としては、G-CSF、IL-6、IL-8、
MIP-2 等のサイトカイン・ケモカイン産生誘導を促すことが報告されており、近年は
IL-17 産生 CD4+ T 細胞(Th17 細胞)が、細胞性免疫を担う Th1 型細胞やアレルギー等の免
疫応答に関与する Th2 型細胞、あるいは免疫応答を抑制する Th3 型細胞のどれにも当て
はまらないユニークな T 細胞サブセットであることが注目されている。また、IL-17 が
細胞性免疫を担う Th1 型免疫応答、アレルギーに関与する Th2 型免疫応答の両者の誘導
に関与することが報告されており,我々の所見も IL-17 の Th1 応答誘導への関与に一致す
る。
2001 年に肺炎桿菌の感染早期の生体防御に IL-17 が関与していることが報告されて以
来、IL-17 の感染症への関与も追究されてきた。これまでに IL-17 の感染防御における重
要性は、細胞外寄生性細菌である肺炎桿菌マウス肺感染モデルや真菌 Candida の全身感
染モデルで明らかにされている。一方、細胞内寄生性細菌の感染症における IL-17 の関
与については、上記の BCG 感染および、申請者らの Listeria monocytogenes 感染マウス
モデルで明らかにされている。特に、マイコバクテリア感染では、IL-17 が獲得免疫のレ
ベルでも重要な役割をするものと考えられたが、その役割については明確ではない。
本研究では、マイコバクテリア感染に対する獲得免疫に焦点をあて、
「結核菌感染に対
する IL-17 の感染防御メカニズム」を分子レベルで明らかにすることを目的とした。
➂研究成果の概要
1.マイコバクテリア感染 IL-17A 遺伝子欠損マウスの肉芽腫形成異常の動態
マイコバクテリア感染により形成される肉芽腫は、病原菌の他臓器への播種を防ぐという観点からも重要な生体防
御機構のひとつと考えている。マイコバクテリア感染における肺組織での IL-17A 依存性肉芽腫形成時期を明確に
するため、正常および IL-17A 遺伝子欠損(KO)マウスに M. bovis BCG を経気道感染させた後に経時的に肺を採取
し、肉芽腫形成異常時期を調べた。IL-17A KO マウスの感染肺での肉芽腫形成は、感染 14 日目まで正常マウスと
の間に顕著な差が認められず、感染 28 日目で肉芽腫形成に有意な差が認められた。このことから、感染早期から認
められる肉芽腫の形成段階には IL-17A 以外の因子が、感染 14 日目以降に IL-17A 依存性の肉芽腫形成に発展し
ていく可能性が示唆された。この肉芽腫形成に顕著な違いが認められた感染 28 日目の各臓器の菌数を測定したと
ころ、供試菌株として用いた M. bovis BCG では正常マウスと IL-17A KO マウス間に差が認められなかったが、強毒
株である M. tuberculosis H37Rv 株を感染させた IL-17A KO マウスの肺内菌数は、正常マウスに比べ有意な増加が
認められ、菌の排除能の低下が示唆された。また、M. tuberculosis 感染肺においても M. bovis BCG 感染同様、
IL-17A KO マウスでの肉芽腫形成異常が認められた。これらのことから、M. bovis BCG 感染後の菌の封じ込めによ
る他臓器への播種を防ぐ機構に IL-17A が重要な役割を果たしている可能性が考えられた。
2. 肉芽腫形成における IL-17A 産生 TCR + T 細胞の局在
既に M. bovis BCG を感染させた肺において IL-17A が感染早期から発現し、その産生細胞が主に特定の TCR +
T 細胞(TCR V4+および V6+ + T 細胞)であることを明らかにしている。また、IL-17 産生 TCR + T 細胞を移入し
た IL-17A KO マウスは、正常マウスにおける肉芽腫形成と同等レベルまで回復させたことから、肉芽腫に直接 IL-17
産生 TCR + T 細胞が関与している可能性が考えられた。そこで、肉芽腫内の IL-17A 産生 TCR + T 細胞の局在
を確認した。正常マウスではマクロファージを中心とした肉芽腫内に TCR + T 細胞が多数存在していたが、IL-17A
KO マウスでは TCR + T 細胞が散々した状態であり、肉芽腫の形成も不完全であることが認められた。また、肉芽腫
内あるいは周囲の TCR + T 細胞の多くは IL-17A 産生細胞であることが確認された。さらに、IL-17A 産生細胞は
TCR  + T 細胞ではなく、TCR + T 細胞が主であることを確認した。これらの結果は、IL-17A を生産する TCR +
T 細胞が M. bovis BCG 感染肺の肉芽腫形成に深く関与しているというこれまでの我々の仮説を支持するものとな
った。
3. M. bovis BCG 感染肺における細胞接着分子発現への IL-17 産生 TCR + T 細胞の関与
肉芽腫形成の過程に IL-17A がどのように関与するのか、M. bovis BCG を感染させた正常マウスおよび IL-17A
KO マウスの肺組織から経時的に相補的 DNA を調製し、定量 RT-PCR 法で細胞接着分子および単球走化性因子
の発現を比較した。その結果、感染 14 日目において、ICAM-1 ならびに LFA-1 の発現が正常マウスに比べ IL-17A
KO マウスで有意に低いことが認められた。次いで、この ICAM-1 および LFA-1 の発現増強に IL-17 産生 TCR gd+ T
細胞が直接的に関与しているのか検討するため、in vitro における解析を試みた。正常マウス由来の TCR + T 細胞
の混合培養でのみ細胞接着分子の発現増強が認められた。また、この IL-17A により一部制御される細胞接着分子
の発現を抗体でブロックすることで肉芽腫形成を減弱出来るか否か検討を加えた。抗 ICAM-1 抗体あるいは抗
LFA-1 抗体を経鼻接種し、感染後の肺組織の肉芽腫形成を観察した。コントロール抗体あるいは未処理群の肉芽
腫形成に比べ、細胞接着分子を抗体処理した群は顕著な肉芽腫形成の抑制を示した。以上の結果から、TCR + T
細胞から産生される IL-17 が細胞接着分子の発現を制御し、迅速に感染局所での肉芽腫形成を誘導する役割を担
っていることが示唆された。
4. 結核菌感染肺における肉芽腫の形成および菌の排除能
これまでに、マイコバクテリア感染モデルのプロトタイプとして M. bovis BCG を供試菌株として用いた。
今回、ヒト型結核菌である M. tuberculosis の強毒株 H37Rv 株を用いて M. bovis BCG 感染モデル同様、経
気道感染後、経時的に肺組織を採取し組織学的観察を行った。その結果、IL-17A が欠如した状態では肉芽
腫形成が不完全になり、これは M. bovis BCG 感染肺における観察結果と一致した。また同時に、各臓器(肺、
肝臓および脾臓)の菌の排除能を比較したところ、正常マウスに比べ IL-17A KO マウスでは有意に臓器内菌
数が増加していた。以上のことから、ヒト型結核菌においても感染肺では、IL-17A が重要な役割を担って
いると考えられた。
➃研究成果の公表、あるいはその準備状況
原著論文
1. Importance of murine V1+  T cells expressing interferon- and interleukin-17A in innate protection
against Listeria monocytogenes infection. Immunology, 125(2):170-177. (2008)
2. IL-17A produced by  T cells plays a critical role in innate immunity against Listeria monocytogenes
infection in the liver. J. Immunol., 181(5):3456-3463. (2008)
3. Essential role of interleukin-17A in the formation of a mycobacterial infection-induced granuloma in the lung.
Submitted (2009)
4. Delayed induction of mycobacterial antigen-specific Th1-type CD4+ T cells in the lung after pulmonary
mycobacterial infection. Submitted (2009)
総説
1.
2.
3.
4.
「マイコバクテリアに対する感染制御」 感染・炎症・免疫, 38 (2):94-105. (2008)
「IL-17 産生細胞による細菌感染防御機構」 医学のあゆみ, 226(4):295-299. (2008)
「感染症に対するインターロイキン(IL)-17 の防御機能」 化学療法の領域, 24(9):70-74. (2008)
「感染症における IL-17 の役割」 炎症と免疫, 17(1):35-39. (2009)
学会発表(国内)
1.「Listeria monocytogenes 感染に対する獲得免疫応答にインターロイキン-17 は関与しない」(第 61 回日本細菌学
会九州支部総会, 熊本, 2008/10)
2.「Salmonella enterica serovar Typhimuriumの腸管感染により誘導される腸管 T 細胞のサイトカイン発現の解析」
(第61回日本細菌学会九州支部総会, 熊本, 2008/10)
3.「IL-17 産生 TCRγδ型 T 細胞の BCG 感染による肺肉芽腫形成への影響」(第 61 回日本細菌学会九州支部総
会, 熊本, 2008/10)
4.「Role of IL-17 producing gd T cells in the granuloma formation in the lung during mycobacterial infection」(第 38 回日
本免疫学会総会・学術集会演題, 京都, 2008/12)
5.「Delayed induction and vaccine-induced acceleration of Mycobacterium tuberculosis (M.tb)-specific CD8+ T cells in the
M.tb-infected lung detected by an MHC class I-Mtb32 peptide pentamer」(第 38 回日本免疫学会総会・学術集会演題,
京都, 2008/12)
6.「Th17 is dispensable but gd T cells are important in IL-17-meduated protection against Mycobacterium tuberculosis
infection in the lung」(第 38 回日本免疫学会総会・学術集会演題, 京都, 2008/12)
7.「IL-17 is an indispensable component of protective immunity against Mycobacterium tuberculosis infection」(第 82 回日
本細菌学会総会, 名古屋, 2009/3)
8.「Interleukin (IL)-17 supports acquired immunity against Listeria monocytogenes (Lm) infection」(第 82 回日本細菌学
会総会, 名古屋, 2009/3)
9.「Listeria monocytogenes感染に対する獲得免疫におけるIL-17Aの役割」(第74回日本インターフェロン・サイト
カイン学会学術集会, 京都, 2009/6)
10.「Mycobacterium tuberculosis 感染に対する IL-17 産生 T 細胞の防御機構の解明」(第 20 回日本生体防御学会学
術総会, 東京, 2009/07)
11.「Mycobacterium tuberculosis (Mtb)感染肺への Mtb 抗原特異的 CD8+T 細胞誘導に対する BCG 接種の効果の検討
(第 20 回日本生体防御学会学術総会, 東京, 2009/07)
研究会等
1.「Listeria monocytogenes 感染に対する獲得免疫応答における Interleukin-17 の役割」(第 7 回感染症沖縄フォーラ
ム, 沖縄, 2009/02)
2.「結核菌肺感染における結核菌抗原特異的CD8+T細胞誘導の遅延とBCGワクチンによる誘導増強」(第7回感染症
沖縄フォーラム, 沖縄, 2009/02)
3.「BCG感染肺の肉芽腫形成に関与するIL-17の作用機序の解明」(第7回感染症沖縄フォーラム, 沖縄, 2009/02)
➄科学研究費等の申請に向けた準備状況
平成 20 年科学研究費 基盤研究(B)(一般)「細胞内寄生性細菌感染に対するIL-17の防御機能の解明と予
防・治療への応用の検討」研究分担者として申請し、採択された。また、内藤記念科学振興財団 内藤記念研究
助成の平成 20 年度「結核症における IL-17 ネットワークの構築」に研究代表者として申請し、採択された。
採択された研究課題は、IL-17 の細菌感染症への関与を検討してきたこれまでの過程において、結核菌感染肺組
織における IL-17 依存性肉芽腫形成が存在することを見出したことから発した研究課題である。研究計画では、その
IL-17 依存性肉芽腫形成メカニズムの解析を遂行するに当たり、1)結核菌感染における肉芽腫の構成細胞群の同
定、2)肉芽腫形成による結核菌拡散・播種防止効果の検討、3)IL-17 依存性肉芽腫形成メカニズムの検討、といっ
た 3 項目を主体に解析を行っていく。この研究課題の採択は、本琉球大学研究プロジェクト支援事業(若手研究
者支援研究費)において、予備実験を含む研究の方向性の確実性および着眼点が評価されたものと考えてい
る。これまでの課題での結核菌はプロトタイプとして Mycobacterium bovis Bacillus Calmette-Guérin(BCG)を用いて
いるが、採択研究はヒト型結核菌である M. tuberculosis H37Rv を供試菌株として用いる計画であり、より一層の進展
が期待されるものと思われる。
➅今後の研究の展開、展望
我々は、細胞内寄生性菌感染における IL-17 の機能について、世界に先駆けて研究してきた。また、細胞
外に寄生する肺炎桿菌や大腸菌に対する IL-17 の役割の検討も行われている。しかし、これまでの感染にお
ける IL-17 の研究は、好中球を中心とした炎症性反応の研究が中心であり、本研究のように IL-17 の機能と、
従来から知られている細胞性免疫(Th1 型 CD4+ T 細胞)および肉芽腫形成との関係を検討した研究はない。
現在世界中で精力的に行われている IL-17 の研究は、抗原特異的な CD4+T 細胞が産生する IL-17、つまり Th17
細胞の研究が中心である。しかし、感染症では病原体抗原特異的な Th17 反応はあまり認められていない。
最初に IL-17 の感染に対する防御機能を報告した肺炎桿菌感染の研究でも、IL-17 産生は獲得免疫成立以前
から CD4+T 細胞に認められ、それが菌の排除に働いている。我々の研究でも、結核菌を含む細胞内寄生性
細菌感染に対する免疫応答では、Th17 細胞とは異なる細胞集団である TCR 型 T 細胞から高い IL-17 産生
が認められている。従って、Th17 細胞に限定せず IL-17 の感染防御機能を検討する我々の研究は、通常の
Th17 細胞によるものとは異なる IL-17 の新しい意義と機能を見い出した。本研究課題は国内のみならず海外
の研究機関から注目されており、本研究で築いた研究基盤が他者との競合で負けることがないよう、早急に
進展させなければならないと考えている。現在、マイコバクテリアのプロトタイプとして用いていた M. bovis
BCG からヒト型結核菌の強毒株である M. tuberculosis H37Rv 株に供試菌株に換え、これまでの知見の一般化
を試みている。
本研究から、細胞内寄生性細菌に対する免疫応答における IL-17 の役割を解明できるものと期待でき、こ
れまでは未知であった IL-17 の機能を理解すると同時に、IL-17 を応用した新たな感染症治療・予防法の開
発につながるものと期待される。
* 上記について、概ね4ページ程度にまとめること。また、別途関連する資料類(論文別刷など)があれ
ば添付すること。
⑤費目別収支決算表
合計
交付申請書に
記載の補助金
物品費
円
2,000,000
旅費
円
1,600,000
謝金等
円
100,000
その他
円
200,000
円
100,000
の使用内訳
円
実支給額内訳
実支出額の
使用内訳
2,000,000
円
1,600,000
円
2,000,000
円
100,000
円
1,698,280
円
200,000
円
74,720
円
100,000
円
160,000
円
67,000