ステンレス鋼管と異種金属とを接続する場合の絶縁施工について 平成 20 年 6 月 2 日 <第二稿> ステンレス協会 1、異種金属の接触によって起こるガルバニック腐食とは 一般的に電位の異なる金属を水等の電解溶液中で接触させた時、より電位の卑な金属 が腐食する現象をガルバニック腐食と呼んでいます。 第1表に海水中における金属の自然電位列の例を示しますが、ステンレス鋼や銅は比較 的貴な電位の金属に属し、これに対して鋼(鉄)や亜鉛は卑な電位の金属に属します。 従いまして、電解溶液中でステンレス鋼と卑な金属の炭素鋼等を接触させると、電位差 が大きくガルバニック電流が生じて炭素鋼の方が腐食することになります。 この現象を判りやすく表示したのが第 1 図の電池です。 第1表 海水中の金属の自然電位列(飽和カロメル電極基準) 2 第1図 ステンレス鋼や銅と鉄の接続によって生ずる電位差による電池 2、ステンレス鋼管と異種金属とを接続する場合の絶縁の要否 ステンレス鋼管と電位差の少ない異種金属を接続する場合は、そのまま直接接続して も良いが、電位差が大きい場合は、ガルバニック腐食を防止する為に(ガルバニック電 流が流れないように)両者の間を電気的に絶縁する必要があります。 直接接続して良いか否かは一般的に第 2 表に基づいて判断されています。 第 2 表ステンレス鋼管と異種管との直接接続の可否 接続する相手の材質 銅管 青銅 鉛管 硬質塩化ビニル管 炭素鋼管 (亜鉛メッキ鋼管含む)、 鋳鉄・中興類 黄銅 耐脱亜鉛黄銅 直接接続の可否 備考 ○ 電位が近似しているので実用的に問 題なし ○ はんだ成分に鉛を含有しており表面 が不動態化されているので問題なし 樹脂が電気の不良導体であるので問 題なし 電位差が大きいので電気的に絶縁す る必要がある ○ × 電位差が大きいので電気的に絶縁す る必要がある × 従来は電位差が大きいので電気的に 絶縁する必要があるとしていたが、 日本伸銅協会殿の最新の研究結果に よれば、青銅と同じ扱いが可能。 ○※ <詳細は、伸銅協会殿にお問合せ下さい。> http://www.copper-brass.gr.jp/ ○ :直接接続可、絶縁不要 ○※:絶縁要否は伸銅協会殿にお問い合わせ下さい。 × :直接接続不可、絶縁が必要 3 3、絶縁接続方法(継手)の種類 絶縁フランジによる方法と絶縁ねじ込み継手による方法とがあり、一般的な例を以下 に示します。 ステンレス鋼管 第2図 絶縁スリーブ・ワッシャーによるフランジ接続 ステンレス鋼管 第3図 絶縁コートフランジによる接続 4 ステンレス鋼管 第4図 絶縁シートによるフランジ接続 ユニオンナット ( 可鍛鋳鉄 ) ステンレス鋼管短管付ユニオンつば ガスケット ( ステンレス鋼 ) 絶縁材 ( 耐熱ゴム等 ) ( 合成樹脂 ) ユニオンねじ ( 可鍛鋳鉄 ) 亜鉛めっき鋼管 第5図 絶縁ユニオンによる接続 5 4、絶縁接続(継手)の一般的な使用方法 絶縁接続の一般的な施工例を以下に示します。 (1)絶縁部の前後に電気的な外部短絡が無い場合 第6図の如く、ステンレス鋼管と異種管とが電気的に外部短絡が無く完全に絶縁さ れている場合は、絶縁部に第 2 図~第 5 図のような絶縁継手を使用します。 第6図 電気的に外部短絡が無い場合の絶縁接続 (2) 絶縁部の前後に電気的な外部短絡がある場合 第7図、第8図の如く、建物躯体の鉄筋や鉄骨との接触あるいは機器類と支持架台 のアンカーによるアース等により、電気的に外部短絡が心配される場合は、第9図 の如き絶縁短管を使用します。 >500 以上かつ管径の6倍以上 (第 9 図を参照) 第7図 電気的に外部短絡がある場合の絶縁短管による接続方法(1) 6 絶縁短管(第 9 図参照) 第8図 電気的に外部短絡がある場合の絶縁短管による接続方法(2) 5、参考―国土交通省による絶縁接続方法に対する指針 絶縁接続に関しましては、国土交通省においても指針を示されておりますので以下にご 紹介致します。 国土交通省大臣官房官庁営繕部監修の「公共建築工事標準仕様書(機械設備工事編)」平 成 16 年版 におきましては、 「ステンレス鋼管と鋼管の接続は絶縁フランジ接合とし、接続 要領は特記による。 なお、特記がない場合は、標準図(施工 3) :本資料においては第 9 図 による」とされ ています。 一方、 「機械設備工事監理指針」平成 16 年版 におきましては、 「「標仕」では、給水・給 湯又は開放系の冷温水及び冷却水配管にあっては、重要機器の接水部材料と配管材料が[鋼 とステンレス]又は[鋼と銅]のように、イオン化傾向が大きく異なる場合は、絶縁継手を使 用し絶縁を行うものとし、設置箇所及び絶縁継手の仕様は、特記によるものとしている。 また、異種管の接続においては、「鋼管とステンレス鋼管」又は「銅管と鋼管」の場合は、 「標仕」に規定する絶縁フランジ接合とし、接合要領は、特記によるものとしている。な お、特記に要領が示されていない場合は、「標準図」施工 3(異種管の接合要領)によるも のとしている。」となっています。 更に、その他の絶縁継手として、 「標仕」で規定している方法の他、本資料の第 2 図、第 3 図、第 5 図に示すような絶縁継手が、鋼管と支持金物・躯体鉄筋・機器類等を通じて電気 的に短絡がない場合の接続方法として紹介されています。 従いまして、第 9 図の「標準図」施工 3 の絶縁短管による方法を採用するか、あるいは 第 2 図~第 5 図に示すような絶縁継手を用いて第 6 図の如く施工するかは、現場の状況・ 施工技術の水準等に応じて設計者の裁量にて特記で使い分け出来るようになっていると考 えられます。 7 第9図 「標準図」施工3 ステンレス鋼管又は銅管と鋼管の接続 (絶縁処置の例) 6、補足 絶縁処理の要否を配管系統、接続環境別等に整理しますと次表の如くなります。 <ステンレス鋼管と各種材質・部材との接続時の絶縁処理について> (平成 12 年 3 月 27 日ステンレス協会発行分を加筆訂正) 表1.各種材質との関係 用 途 接 鉄 給 水 管 × 給 湯 管 × *1 銅 黄銅 ○ × × ○ 続 相 耐脱亜 手 の 材 質 青銅 アルミ 樹脂 ステンレス ○※ ○ × ○ ○ ○ ※ ○ × ○ ○ ※ ○ × ○ ○ 鉛黄銅 *2 × ○ × ○ 冷却水管*2 × ○ × ○※ ○ × ○ ○ × ※ ○ × ○ ○ 冷却水管 消火管 *3 × ○ ○ 注) 1)*1:ライニング管を含む。 2)○ :絶縁処理不要, ×:絶縁処理必要、 ○※:5)項を参照 3)*2:冷却水、冷温水のクローズタイプでも、現在の設備では補給水が必 須の為。 4)*3:乾式消火管は水圧テスト後、水が抜けきれていない事例があり、こ の場合酸素の供給がある為ガルバニック腐食の可能性がある。 湿式消火管の場合は、”死に水”となり酸素の供給が無い為ガルバニ ック腐食の可能性は小さい。 8 5)○※ :従来は電位差が大きいので電気的に絶縁する必要があるとしていたが、 日本伸銅協会殿の最新の研究結果によれば、青銅と同じ扱いが可能。 <絶縁の要否等詳細は、伸銅協会殿にお問合せ下さい。 参考文献 http://www.copper-brass.gr.jp/ > 建築設備配管系でのガルバニック腐食とその防止に関する研究 論文集 第 487 号 pp51―60 日本建築学会計画系 1996 表2.各種部材及び配管状態との関係 接 配管 絶 縁 表1 水栓 金具 表1 続 相 手 の 部 材 と 環 境 継手 バルブ ポンプ 槽類 支持金具 壁貫通部 表1 a) 表1 a) × b) × b) × b) × c) a)接水部分がゴムであって、本体が水に触れない構造の継手やバルブ(弁棒・弁体 がステンレス)は、絶縁処理不要。 b)建築躯体、電気機器他機器類との絶縁を実施し、外部短絡回路が無い様にする為 の処置である。 (外部短絡回路が存在する場合、異種金属の配管・ポンプ・槽類の片側、継手・バ ルブの両側に 500 mm 以上の絶縁用短管を接続する必要がある) c)建築躯体との絶縁、及び貫通部で万一鉄筋に触れた場合、結露他の原因による外 面でのガルバニック腐食を防止するため。 なお、異種金属であっても、継手メーカーが埋設用として開発した、外面被覆が 強化され且つ内面は上記a)に該当する継手を使用する場合は、絶縁は不要。 <参考> * 埋設部に使用する場合 裸埋設の場合、土壌腐食が重要な要因となり、腐食環境としては厳しい地域が存在するた め、原則としてSUS316を使用するのが良い。 埋設配管をSUS304で施工する場合、裸埋設では地域によって腐食が発生するた め、 防食テープやポリエチレンスリーブなどで土壌とに接触を防止するのが良い。 なお、異種金属であっても、外面被覆が強化され、且つ内面は上記a)に該当する 継手を使用する場合、絶縁は不要である。 以 上 9
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