量子情報科学の過去・現在・未来 ー量子計算・量子情報ー

量子情報科学の過去・現在・未来
ー 量子計算・量子情報 ー
今井 浩
東京大学情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻
ERATO今井量子計算機構, JST*
*2000年10月より5年間の創造科学技術振興事業団
創造科学技術推進プロジェクト,15名程度ポスドク研究員
東京オフィス,京都オフィス,筑波分室
量子計算・量子情報
• Why?
– 量子計算・量子情報はなぜ必要なのか?
• When?
– 量子計算はどう進んできたか?
• What?
– 量子計算・量子情報とは何なのか?
• How?
– 量子コンピュータ・通信はどう実現されようとしているの
か?
• Who?
– 情報科学からのアプローチ,ERATOプロジェクト
Why?
どうして量子計算・量子情報なのか?
1bitあたりの原子数: 2020年頃には限界
1020
ビットあたりの原子数
1
1015
1010
サブミクロンの時代
「1.5年で倍」
量子効果の
顕在化
105
100
1960 1970
1980 1990 2000 2010 2020
年
FLOPS
Traditional Computing:
How fast will it be?
Need for
Nontraditional
Computing
speed
• chip speed-up
• vector processing
• parallel processing
year
今そこにある危機
• 現VLSI方式(CMOS)のデバイス限界
– 究極の集積化 → 量子効果の具現化・限界
デバイス速度
チップ並列性,チップ内並列性
命令レベル並列性/パイプライン並列性
情報処理の クラスタ計算(LAN),Grid (WAN)
高速化研究 最適化コンパイラ
並列・分散アルゴリズム
新計算モデル,新計算原理
新計算原理要求への解答
量子情報科学
情報科学
量子コンピュータ
数理情報
=量子力学原理を用いた計算機
電子情報通信工学
情報科学の本質: ブレークスルー
• 量子コンピュータによる高速素因数分解
物理
量子力学を計算・通信に
• 古典からの原理的革命
– 量子力学重ね合わせ状態=超並列性
• (量子重ね合わせ+量子干渉)n+観測=量子計算
• 量子もつれ: 全く新しい情報共有原理
– 量子観測による状態収束=盗聴検出
• 量子計算・通信のブレークスルー
現電子商取引
方式の破綻
– 素因数分解超高速量子アルゴリズム
1001=91x11, 1009? 10進200桁で?
• 現インターネットセキュリティの崩壊をもたらす
– 完全に安全な暗号(量子観測による盗聴検出)
• 計算量理論仮定に基づかない完璧な通信機構
21世紀を支える量子通信
量子コンピュータの魅力
• 他の新計算モデルと比して量子計算モデル
が魅力的なところ
– モデルがしっかりしている ー 健全な理論に基づく.
• 土台の量子力学はまさしく20世紀の代表的成果
– 一方,実現にはまだまだ困難 ー challenging!
– 量子情報科学の理論からの貢献への期待大
When (started)?
量子計算はいつ始まって,
どう進んできたのか?
量子計算・情報のこれまでの研究
量子計算
von Neumann型コンピュータ
1973 可逆計算回路(Bennett)
1982 量子計算構想(Feynman)
1985 量子Turing機械(Deutsch)
1994 量子多項式時間素因数分
解(Shor)
1996 データ検索(Grover)
1995- 量子計算実験(NMR核スピ
ン Chuang et al.;量子ビット固体
素子実現 中村)
量子情報
von Neumann entropy
1960 レーザ
1967 光通信理論(Helstrom)
Yuen, Holevo
1984 BB84量子暗号 (Bennett,
Brassard)
1993 量子テレポテーション
(Bennett et al.)
1990’s 量子通信路符号化定理
(Holevo et al.)
1990’s 量子暗号通信実験
タイムライン
量子計算の研究の始まり
• R. P. Feynman
– 現状のコンピュータで量子力学の現象を模倣
するのには指数時間が必要 (1982)
• D. Deutsch
– 量子力学を原理とした計算モデル
– 量子Turing機械 (1985)
– 量子回路 (1989)
それ以前の関連研究
可逆回路(Bennettら)
• 非可逆性:情報エントロピーの喪失
• 熱エントロピーの発生
• 可逆性実現による回避
• 理論的に可能,しかし回路サイズ組合せ
爆発ゆえ実現無理
• 量子計算でのユニタリ性:可逆変換
ブレークスルー
• P. Shor
– 自然数の素因数分解、離散対数問題を少ない
誤り確率で多項式時間で行う量子アルゴリズム
(STOC 1994)
– 実用的な量子コンピュータが存在すれば現在
の公開鍵暗号系(RSA暗号など)の安全性が失
われる
探索アルゴリズム
• L. K. Grover (1996)
– N 個の未整列な要素からある要素がどこにあ
るか探索するアルゴリズム
– 現状のコンピュータ 平均 N/2 回
– 量子コンピュータ
O N 回
( )
– SAT などNP完全問題その他の問題に応用
その他
• 量子暗号
– 秘密鍵なしに安全に情報を伝達できる
– BB84量子暗号,その実験
• 量子情報
– 量子推定,量子クローニング
– 量子通信路符号化定理
• 量子計算理論
– 量子オートマトン,量子計算モデル
• 受理能力,時間計算量,領域計算量,決定可能性にギャップ
– 量子対話証明,量子通信計算量
• 指数時間のギャップ
– 有限群上フーリエ変換,群の表現論
– 混合状態計算理論
• 純粋状態から混合状態へ; ユニタリ変換から完全正値写像へ
– 位相アプローチ,最適化アプローチ
量子コンピュータの将来
超微細化
量子効果の壁
従来半導体デバイスの進展
量子暗号・通信 量子暗号・通信
研究
システム実現
普及へ
量子計算
量子暗号
量子通信
研究の爆発
量子コンピュータの理論研究・実現研究
2000
2010
2020
量子コンピュータ
実現
普及へ
What?
量子計算とは何?
Classical vs. Quantum computing
1 classical bit
0
Traditional Computer
1
Voltage
5V
1
0
1
Circuit of
NAND gates
0V
1 quantum bit (qubit)
|0〉 α |0〉 + β |1〉 |1〉
2
2
2
(α , β )∈C , α + β =1
superposition of |0〉,|1〉
Quantum Computer
Circuit of
U
1qubit
Unitary gate
&
+
2qubit
Controlled
NOT gate
量子力学的重ね合わせ
量子系
|1>
古典系
重ね合わせ
α |0 > + β |1>
確率 ||α ||2
|1>
確率 || β ||2
|0 >
観測
(状態収
斂)
|0>
α , β : 複素数
2
2
||α || + || β || =1
1量子ビット
1ビット
nビット
n量子ビット
n個
n量子の重ね合わせ 指数サイズ差 00…0, 00…1, … , 11…1
2nパタン→2nサイズ
サイズn
6 spins → superposition of 26=64 states
Animations valid only for separable cases.
→ Entanglemented states cannot be handled like this
2-qubit separable state: |10>+|11>
Prob. 1/2
+
+
Measurement
1st spin
Prob. 1/2
Entanglement: |10>+|01>
Prob. 1/2
New way of
information transmission
quantum teleportation
Measurement two spins can
• quantum communication
+
st spin
be far away
1
• quantum computing
•
Prob. 1/2
n ビット
• 古典 n ビット
– 2n 個の状態のうちどれかひとつをとる
• 量子 n ビット
–
–
2n 次元の複素内積空間の単位ベクトル
2n 個の基底状態の重ね合わせをとる
ψ = α1 q1 + α 2 q2 + L + α 2 n q2 n
2
2
ψ = α1 + α 2 + L + α 2 n
α1 , α 2 , L,α 2n : 振幅
2
=1
量子並列計算
| ψ 〉 = c0 | 0〉 + c1 | 1〉 + c2 | 2〉 + c3 | 3〉 + L
n
n
L L + c2n − 2 | 2 − 2〉 + c2n −1 | 2 − 1〉
状態の重ねあわせが可能
2 n −1
2
|
c
|
∑ i =1
i =0
計算過程はそれぞれの状態の振幅が
変わっていく過程
→ ユニタリ行列をかける
量子干渉効果
• 量子力学
「波」を干渉させるこ
とができる
– 負を重ね合わせて
キャンセル
– 正を重ね合わせて
増幅
– 観測は振幅の2乗
• 干渉効果
• エンタングルメント
– 量子相関
0 0 +1 1
観測
計算結果は?
| ψ 〉 = c0 | 0〉 + c1 | 1〉 + c2 | 2〉 + c3 | 3〉 + L
L L + c2n − 2 | 2 n − 2〉 + c2n −1 | 2 n − 1〉
観測
計算結果は?
|ψ 〉 == c0 | 0〉 + c1 | 1〉 + c2 | 2〉 + c3 | 3〉 + L
L L + c2n − 2 | 2 n − 2〉 + c2n −1 | 2 n − 1〉
となる確率が | c1 |
2
観測
計算結果は?
|ψ 〉 = c0 | 0〉 + c1 | 1〉 + c2 | 2〉 + c3 | 3〉 + L
L L + c2n − 2 | 2 n − 2〉 + c2n −1 | 2n − 11〉〉
となる確率が | c2n −1 |
2
状態の収縮
量子計算の単位操作
• ユニタリ変換
– ノルム1を保つ(たして1の確率の条件を保証)
– n 量子ビットに対しては2n×2nユニタリ行列を
かける操作
• 観測
–
ψ = α1 q1 + α 2 q2 + L + α 2 n q2 n
2
という状態のとき確率 α i で qi を与える
量子計算の有用性
• 重ね合わせ
– 複素数の重みがつく並列計算
• 干渉効果
– 重みの打ち消しあいなど
• 観測
– 自動的に高い重みの要素を得ることができる
論理回路
量子回路
1量子ビットの任意のユニタリ変換
U
制御 NOT (Controlled-NOT)
量子回路
• ワイア:1qubit
• 時間:左から右へ
– アルゴリズムの記述が簡単
x4
x3
x2 = 0
U
U U U
x1
x0 = 0
U
x0 = ( x 4 ∨ ¬x3 ) ∧ x1
(U = I )
Controlled-NOT
制御ビット
標的ビット
| 0〉
| 0〉
| 0〉
| 0〉
| 1〉
| 1〉
| 1〉
| 1〉
| 0〉
| 1〉
| 1〉
| 0〉
Controlled-NOT
x
x
y
x⊕ y
x
y
x x⊕ y
0
0
0
1
0
0
0
1
1
1
0
1
1
1
1
0
( x + y mod 2)
1

0
0

0

0
1
0
0
0
0
0
1
0

0
1

0 
AND
x
x
y
y
0
xy
OR
x
x
y
y
0
xy ⊕ x ⊕ y
NOT
N
 0 1


 1 0
Walsh-Hadamard 変換
1 1 1 

• 全ビットに W = 
2 1 − 1
をかける
2 n −1
1
W
W
2
n
∑ | x〉
x =0
W
W
n
O ( n2 )
O (n)
„
等重の重ね合わせ状態
„
干渉効果
観測により真にランダムな
乱数が得られる
離散フーリエ変換(1)
1

 1
R=
1

πi

e

W
R
W
R
R
W
R
R
R
W
周期を検出するための前処理
2 n
O( n 2 )
2
O( n )





2k − j 

離散フーリエ変換(2)
1

 1
R=
1

πi

e

ancilla
O ( n2
R
n +1
)
R
R
O(n)




n − k −1 
2


量子プログラミング
W: ウォルシュ・
アダマール変換
1



1


R= 

1


πi 2n−k−1 

e


1



1


R=

1


πi 2k−j 

e


W
R W
R R W
補助
ビット
R
R
R
計算目的を達成するための種々の量子制御法
• フーリエ変換の等価量子回路(上の2回路)
• デコヒーレンス対策の誤り訂正を実現する機構等の最適設計
• 量子コンピュータを制御する方式研究
量子計算ー理論から見て
• 筋がいい
– ‘古典’計算を素直な特別な場合として含む
• 計算量研究での親和性の高さ
– 確率計算量理論の延長ともみなせる
– 計算可能性は一致
→ 計算時間が本質的に違うのか?
確率計算クラス・従来計算量理論との親和性
• 素数判定・合成数判定
co-NP
Shorの
アルゴリズム
NP
co-RP
RP
• 線形計画
• グラフ同型
P
量子計算=量子もつれを制御する計算機構
1qubit Walsh-Hadamard変換Wゲートと
制御NOTで構成する量子もつれ状態
|0 >
W
1 (|0 >|0 > + |1>|1>)
2
|0 >
+
量子もつれ
量子計算=量子コヒーレンス状態の活用
→デコヒーレンスを克服する方法論
デコヒーレンス
誤り訂正機構
量子回路
コヒーレント状態を保てず
計算不能
量子回路
量子コンピュータ