SAMPLE - 日経BPクリーンテック研究所

IoT プロジェクト総覧 社会インフラ編
エグゼクティブサマリー
IoT とスマートシティ 2.0
さまざまなモノがネットワークでつながる IoT(Internet of Things:モノのインターネット)が注
目されている。理由は二つある。
第一に、Wi-Fi(無線 LAN)や第 3 世代携帯電話(3G)といった無線通信技術と、センサーや無線通
信機能を小さなデバイスに低コストで実装するエレクトロニクス技術が進歩したことがある。様々な
モノに通信機能を実装し、ロケーションに関係なく相互接続できるようになった。
第二に、新たなビジネスの可能性が見えてきたからである。インターネットサービスが登場して流
通業界のビジネスを変えたように、あらゆるモノをネットワーク化する IoT では、製造業のビジネス
モデルを「ものづくり」から「サービス」に変えた。その「IoT 革命」の波は、製造業にとどまらず、
インフラや健康医療、物流といった分野まで拡大してきている。
さらに注目すべきは、IoT の普及が、都市化に伴うさまざまな社会課題を解決する手段として脚光
。深刻化する渋滞の解消、地球温暖化問題解決のための CO2 削減、ご
を浴び始めたことである(図 1)
みの効率的な回収、災害対策、さらには犯罪防止といった分野で、IoT により、ソリューションを提
供できることが明らかになりつつある。
ICT を使って社会課題を解決する街を「スマートシティ」と言う。IoT の登場で、より多くの情報を
集約し、より精緻かつ高度に見える化と制御を行うことによって、課題解決への道が見えてきたので
ある。その意味で、IoT を活用した街やプロジェクトは「スマートシティ 2.0」である。
実際、欧州で始まっているスマートシティプロジェクトでは、スマートモビリティ、スマートパー
キング、スマート廃棄物管理、スマートライティングが 4 点セットで「標準装備」され、渋滞解消や
CO2 削減、廃棄物問題の解決に役立ち始めている。さらに、災害対応や環境モニタリング、犯罪防止、
エネルギー管理分野にも IoT は活用され、後述するような多くのアプリケーションが提供されるよう
になった。それらを統合的に提供して、より住みやすく、持続可能な街づくりを目指す「スマートシ
ティ」の進化形に再びスポットライトが当たってきた。
図 1:IoT の基本概念
あらゆるモノがつながるインターネットがライフスタイルやビジネスに変革をもたらす(作成:日経
BP クリーンテック研究所)
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IoT プロジェクト総覧 社会インフラ編
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プロジェクト総覧
IoT を活用したスマートシティプロジェクトの世界における分布を見ると、欧州、中でもスペイン
に集中していることが分かる(表 1)
。サンタンデール市、バルセロナ市、バレンシア市で進んでいる
スマートシティプロジェクトが典型だ。いずれも街中にセンサーを張り巡らし、情報をクラウドにあ
る IoT プラットフォームに集約して、分析・処理し、アプリケーションごとに見える化や最適制御を
かける。例えば、バレンシアでは 300km に及ぶ主要道路を走行するすべての自動車や公共交通機関、
自転車や歩行者の流れをセンサーによって見える化して、最適にコントロールしている。
ポルトガルでも IoT を活用したプロジェクト「PlanIT バレー」が進行している。街中に 1 億個(市
民 1 人当たり 450 個)ものセンサーを配置し、交通分野だけでなく、各種の分散型エネルギーをネッ
トワーク化して最適制御するスマートグリッドも統合的に管理する。
フランスのニースでも、中心市街地の約 750m の沿道に 200 個以上のセンサーを取り付け、地域住民
や来訪者、観光客の利便性や快適性を向上させる「Connected Boulevard」プロジェクトを推進。スマ
ートパーキング、ライティング、廃棄物管理などのサービスが提供されている。
米国では、スマートパーキングや犯罪防止など個別のアプリケーションのプロジェクトが多い。高
齢化社会の進行に伴い、IoT を活用して医療・健康関連の情報を市民が供給し、サービスを充実させ
るプロジェクトも始まっている。米国フロリダ州オークランドの「Lake Nona メディカルシティ」が
その例で、高齢者医療センター、小児科病院、大学医学研究所などの医療・健康関連の施設を集め、
各施設をネットワーク化し、
今後15年間に約20 種のスマートサービスを市民に提供する計画である。
表 1:IoT を活用の主要スマートシティプロジェクト一覧(作成:日経 BP クリーンテック研究所)
国
スペイン
プロジェクト名
スマートサンタンデール、バルセロナ・スマートシティ、スマートシティ・バレンシア、バレンシアスマートウ
ォータープロジェクト、ポズエロ市スマートシティ、Garrotxa スマートシティ
スペイン・ギリシャ
RERUM
ポルトガル
PlanIT バレー
英国
Future City Glasgow、マンチェスター ヒートポンプ VPP 実証
アイルランド
Smart Beehive Project
フランス
Connected Boulevar、ニースエコバレー、パリ・スマートライティングプロジェクト
ドイツ
E エナジーVPP 実証、シュタットベルケ VPP 実証
オーストリア
ウィーン市・クラウドダイナミックス実証
スウェーデン
QuickNetFree
ノルウェー
オスロ市スマートライティングプロジェクト
デンマーク
コペンハーゲン・スマートストリートライティング・プロジェクト、DOLL ストリートライティングプロジェク
ト、ヴィボー市スマートごみ収集プロジェクト
米国
Sfpark、Smart Forests、Lake Nona メディカルシティ、ハワイ EV 群管理 VPP 実証、Blue
CRUSH、MyMagic+, MagicBand、SenseAware、ShipmentWatch
マレーシア
MIMOS スマートパーキングプロジェクト
シンガポール
CityMIND Test プロジェクト
アルゼンチン
ティグレ 防犯プロジェクト
イスラエル
Alcohol Analytics
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アプリケーション分析
IoT によるスマートシティ関連の主要アプリケーションは、スマートモビリティ、スマートパーキ
ング、スマートライティング、スマート廃棄物処理、エネルギー管理、環境モニタリング、犯罪防止、
流通・小売りサービスの 8 種類あり、各アプリケーションを全体的に提供するスマートシティを入れ
ると 9 種類となる(表 2)
。
各アプリケーション共にサービス対象となる場所やモノにセンサーを設置し、情報をシティネット
ワークで集約して、クラウド上の IoT プラットフォームで処理する。処理後の情報は、自治体などの
サービス主体に送られて、行政サービスの充実や市民の利便性向上に活用されるオープンデータとし
てサービスプロバイダーに提供し、産業活性化につなげるケースもある。
2015 年現在は、欧州中心に実証実験が進んでいる段階だが、2020 年には実証によって得られた成果
を基に、ファイナンスや財政面での工夫やビジネスモデルの構築が進み、本格的な実装段階に進む。
2025 年には、先進国だけでなく新興国でも IoT によるスマート化が拡大し、各アプリケーションが同
一 IoT プラットフォームに統合・融合され、各種サービスが効率的に供給されるようになる。
表 2:主要 9 アプリケーションの概要(作成:日経 BP クリーンテック研究所)
アプリケーション
サービス・システム概要
スマートシティ(全体)
各種サービスを同一の IoT プラットフォームで街全体に提供してサステナブルな街に
スマートモビリティ
車の流れをモニターして信号制御により渋滞緩和。交通事故への迅速対応
スマートパーキング
駐車場にセンサーをつけて空きスペース情報を収集して、ドライバーに情報提供
スマートライティング
道路の街灯をネットワーク化して最適制御によって省エネと利便性を両立
スマート廃棄物処理
ごみ箱にセンサーを付けてごみ量をモニターして収集車の最適収集ルートを提示
エネルギー管理
ストレージやエネルギー機器をネットワークで結んでクラウドから情報集約、制御
環境モニタリング
屋外各所にセンサーを設置して環境面の課題解決、予防、利便性向上
犯罪防止
センサーやカメラによる画像認識、犯罪データベースの統計解析により犯罪防止
流通・小売りサービス
IoT で POS 端末情報を補い、商流状況把握・管理し、事業戦略立案サポート
図 2:スマートシティにおける情報の流れ(作成:日経 BP クリーンテック研究所)
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参入企業マップ
IoT のアプリケーションや市場の拡大を見込んで、同市場には各分野から多くの企業が参入してき
ている。本レポートでは、欧米企業中心に 25 社を選択して、その戦略を分析したが、各社は、業規模
の大小と取り扱う IoT アプリケーションの多少という尺度で見ると、4 種類のグループに大別できる
(図 3)
。多国籍企業の「百貨店・デパート型」と「ユーザー視点型」
、IT ベンチャーの「コンビニエ
ンスストア型」と「専門店・ブティック型」である。
「百貨店・デパート型」の代表は、米 Cisco Systems や米 IBM、独 SAP、スペイン Telefónica などで
ある。これらの企業は、プラットフォームとなる技術をコアとして持っており、それを様々なアプリ
ケーションにおける IoT ソリューションとして展開し顧客に提供している。
「ユーザー視点型」の代表は、物流や運送で世界最大手の米 FedEx、テーマパークを欧米亜で展開
する米 Walt Disney である。FedEx の場合、競合他社の配送や宅配サービスでも同社 IoT サービス
「ShipmentWatch」を利用可能としており、この面では IT ソリューション・プロバイダーとしての役
割を果たしている。Walt Disney はまだ「MagicBand」や「MyMagic+」の技術やソリューションを他社
には提供していないが、スポーツ関連企業などから問い合わせを受けており、ライセンス供与などを
検討していると見られる。
「コンビニエンスストア型」の代表は、スペイン Libelium Comunicaciones やスペイン Wairbut で、
小粒ながら多くのアプリケーションに対応する利便性が強みだ。
「専門店・ブティック型」の代表は、スマートライティングの米 Streetline、無料 Wi-Fi による人
流ビッグデータ解析のスウェーデン Bumbee Labs、廃棄物管理の米 BigBelly Solar、飲料の販売量管
理のイスラエル WeissBeerger などで、特定のアプリケーションに特化しており、その専門性を活かし
て他企業とアライアンスで事業展開することも多い。
図 3:スマートシティ向け IoT 参入企業のマッピング
(作成:日経 BP クリーンテック研究所)
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