8860 8861 メモリハイコーダ

8860,8861 メモリハイコーダ
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8860,8861 メモリハイコーダ
増田 耕一 *1
要 旨
8860,8861 メモリハイコーダは,多チャネルロガー領域から高速レコーダ領域までをカ
バーした新世代波形記録計である.ここに製品の概要,特長,構成について解説する.
1. はじめに
メモリハイコーダの製品群において,8841,8842
は最大 16 チャネルの多チャネル記録計として,ま
た 8855 はインバータ機器の波形観測に適した高速
レコーダとして,今まで多くの皆様に支持いただ
いてきた.
一方,主に温度計測など低速信号の記録は,多
チャネル計測の機会が多く,メモリハイコーダで
は記録チャネル数が足りない場合も多い.
メモリハイロガーにより,ロガー領域専用では
8860,8861 の外観
小型,多チャネル測定を実現している.しかしな
がら高速信号と関連づけて同時に観測することは
8841 シリーズで使用している既存入力ユニット
に新規開発入力ユニットを加えて 12 種類のユニッ
できなかった.
8860,8861 は,ロガー用途で最大 64 チャネル
(8861 では 128 チャネル ) から,20MS/s の高速レ
トを自由に選択して記録可能である.
新たに,PC カードスロットを 2 つに増やした.
コーダ用途で最大 8 チャネル (8861 では 16 チャネ
HDD,MO をオプションに用意し,USB も搭載す
ル ) までの記録を 1 台で実現したメモリハイコーダ
ることで測定データ保存時の利便性を向上させ
である.低速サンプリングしたデータと高速サン
た.また,マウス,キーボードに対応することで操
プリングしたデータを統一した時間軸で同時に観
作性の向上もはかっている.
測可能となっている.
3. 機能・特長
2. 概要
8860,8861 メモリハイコーダは,最高 20 MS/s
(1) 高速サンプリング・絶縁入力
8860 で 8 チャネル,8861 で 16 チャネルを同時
で最大 8 チャネル (8861 は 16 チャネル ),1 MS/s
20 MS/s にて記録可能である.各チャネルを絶縁す
であれば 8946 4ch アナログユニットを使用するこ
るにあたり,従来のフォトカプラに替えて新しい
とで,最大 16 チャネル (8861 は 32 チャネル ) まで
絶縁デバイスを採用した.
記録可能な波形記録計である.
(2) 大容量メモリ
メモリ容量は最大 1G ワード (8861 は 2G ワード )
搭載メモリは 32M,128M,512M,1G ワード
まで選択可能で高速サンプリング時でも余裕を
(8861 は 64M,256M,1G,2G ワード ) の中から必
持った記録長で記録可能である.
同時に 8958 16ch
要に応じて選択可能である.最高サンプリング
スキャナユニットによりロガーとして最大 64 チャ
(20MS/s) で 1 チャネル (8861 は 2 チャネル ) 記録時
ネル (8861 は 128 チャネル ) まで記録可能となって
は最高 51.2 秒の記録が可能であり,高速サンプリ
いる.
ング時にも余裕を持った測定が可能となってい
る.
*1 PMI 部 技術 1 課
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8860,8861 メモリハイコーダ
(3) 入力ユニットの充実
8860,8861 シリーズ専用に入力ユニットを 5 種
ドに保存をすることが可能となっている.さらに
類新たに開発をした.高速サンプリング,高分解
60 GB ハードディスクのどちらかを選択可能であ
能 (16 ビット ),RMS 変換機能付の各電圧入力ユ
る.ハードディスクには大容量メモリの測定デー
ニットに加え,8958 16ch スキャナユニット ( 温度,
タをそのまま保存が可能である.
従来機種では標準搭載していたフロッピーディ
電圧計測 ) を開発した.また,ストレインユニット
も高分解能化 (16 ビット ) して追加している.8826,
8835,8841 シリーズの入力ユニット 7 種類も使用
可能とし,幅広い用途に対応できるラインナップ
とした.
オプションとして,2.3 GB 対応の MO ドライブ,
スクドライブは,フラッシュ ATA カードの普及も
あり,USB 接続の外付けドライブとしてオプショ
ン化した.また USB メモリにも対応している.
(8) LAN インタフェース
Ethernet 100BASE-TXを標準搭載した.
HTTPサー
(4) 2 系統サンプリング
異なる 2 つの時間軸で測定が可能である.8958
バにより PC から 8860,8861 の遠隔操作が,FTP
16ch スキャナユニットにて多チャネルの温度を低
サーバにより 8860,8861 のファイルにアクセスが
速サンプリングにて測定しながら,他のチャネル
では高速サンプリングで速い波形を観測すること
可能である.新たに PC の共有フォルダへの接続に
が可能である.2 系統の波形は統一時間軸上に表示
直接データを保存可能である.共有フォルダへ自
され観測できる.
動保存を行うことで,PC へ保存データをわざわざ
(5) 豊富なトリガ機能
基本的なトリガ機能としてレベルトリガ,ウィ
対応した.8860,8861 から PC の共有フォルダに
転送するということなく直接PCでデータを扱える
ようになった.
ンドウトリガ,電圧降下トリガを備え,さらに拡
張機能として,上記トリガに加えて,周期トリガ,
4. 構成
グリッチ,スロープトリガを搭載した.なお,新
たに 1 つの入力に対して複数のトリガをかけるこ
図 1 に 8860,8861 メモリハイコーダの本体ブ
とを可能としたことにより,1 つの入力信号に対し
ロック図を示す.システム制御は 32 ビット CPU に
てさまざまな条件で波形捕捉が可能となってい
て行い,ストレージメモリ制御,トリガ検出,プ
る.また,すべてのトリガ種類においてイベント
リンタと外部 I/O 制御に 3 種類の FPGA を使用し
回数を設定可能であり,より複雑なトリガ設定が
た.8861 はストレージ制御 FPGA とストレージメ
可能である.
モリを増設することで対応している.
(6) FFT・演算機能
4.1 入力ユニット
FFT ファンクションを装備し,アンチエイリア
シングフィルタ搭載の入力ユニット (8957,8960,
8938,8947) により周波数解析が可能である.
同時演算数を従来機種の 4 倍 ( 最大 8 解析 ) に増
やし,演算結果の表示も重ねて表示可能とした.
取り込んだ波形に対して,ピーク値や平均値,実
効値,パルスカウントなどの数値演算,チャネル
間の四則演算,絶対値,移動平均,微分,積分な
どの波形演算も可能である.波形演算結果は,測
定チャネルとは別に格納するようにし,波形演算
プラグイン方式の入力ユニットを採用して,各
種測定信号に合わせた測定が可能となっている.
8826,8835,8841 シリーズの入力ユニットも使
用可能である.
従来の入力ユニットに加えて今回新たに 5 種類
の入力ユニットをラインナップして幅広い測定
に対応している.
(1) 8956 アナログユニット
100 mV ∼ 400 Vf.s. 対応の標準モデル,20 MS/s
のために測定データを破棄することがないように
と 10 MHz アナログ帯域の高速,高帯域ユニットで
した.
ある.
(7) 外部記憶装置
フラッシュ ATA カードにデータを保存可能であ
(2) 8957 高分解能ユニット
る.PC カードスロットを2基搭載し,片方のカー
ングで実現した.FFT 測定には欠かせないアンチエ
ドの容量がいっぱいなった場合にもう 1 つのカー
リアシングフィルタを標準で装備している.
16 ビットの高分解能を 2 MS/s という高サンプリ
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LOGIC(CH)
A
ロジックプローブ
LCD
CPU
LOGIC(CH)
D
ロジックプローブ
UNIT1-1
絶縁
ADC
デバイス
UNIT1-2
UNIT4-2
ADC
絶縁
デバイス
キーボード
コネクタ
USB
コネクタ
ストレージメモリ
(MAX 1GW)
絶縁
ADC
デバイス
UNIT5-2
UNIT8-2
マウス
コネクタ
ストレージ
コントロール
8861
UNIT5-1
モニタ出力
ストレージ
バスブリッジ
キー
コントロール
ストレージ
コントロール
ADC
絶縁
デバイス
操作部
9717
9718
MOユニット または HDユニット
(オプション)
ストレージメモリ
(MAX 1GW)
LAN
コントローラ
LAN
コネクタ
PCカード
コントローラ
PCカード
コネクタ
プリンタ
(オプション)
I/O
I/O
コントロール
図 1 ブロック図 ( 本体 )
プリンタ
CPU
ユニットデータ
ストレージ制御
FPGA
RAM
I/O FPGA
ロジックデータ
ストレージ
メモリ
ISAバス
ユニットデータ
ストレージ制御
FPGA
PCIバスブリッジ
FPGA
ストレージ
メモリ
RAM
ロジックデータ
図 2 FPGA 周辺回路図 (8861 の場合 )
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PCIバス
3
4
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本体用電源
電源(DC/DC)基板
24 V
(FAN)
本体用電源
5 V_STB
3.3 V_STB
PFC
AC/DC
DC/DC
(絶縁)
メイン、ストレージ基板
5V
1.5 V
3.3 V
DC/DC
12 V
(LCD
バックライト)
1.8 V
POL
アンプ用アイソレート電源
DC/DC
入力ユニット用電源
5V
N.F
PFC
AC/DC
DC/DC
(絶縁)
マザーボード
3.3 V
AC90~264 V
アイソレート
トランス
(絶縁)
その他電源
PFC
AC/DC
DC/DC
(絶縁)
三端子
レギュレータ
5V
三端子
レギュレータ
+8 V
三端子
レギュレータ
-8 V
CH1
+12 V
(センサ用)
-12 V
(センサ用)
24 V
(プリンタ)
16チャネル分
24 V
(充電)
図 3 ブロック図 ( 電源部 )
(3) 8958 16ch スキャナユニット
4.2 ストレージ制御回路部 (FPGA)
100 mV ∼ 40 Vf.s. 対応の電圧測定と熱電対によ
る温度測定のユニバーサルタイプである.16 ビッ
トの分解能に加え,入力部のリレーを切り替える
スキャン方式を採用し,多チャネル測定を実現し
ている.ハムノイズ除去を目的としたディジタル
フィルタを搭載し,耐ノイズ性を向上させた.
(4) 8959 DC/RMS ユニット
(1) FPGA の構成
図 2 に FPGA 周辺のブロック図を示す.I/O FPGA
および PCI バスブリッジ FPGA は,ストレージ
FPGA を最大 4 個まで制御可能で,拡張性を持たせ
ている.PCI バスブリッジとストレージ制御 FPGA
間のデータ転送は,両 FPGA のピン数の増大を抑
えることと,高速化を図るため,LVDS を用いて高
8936 アナログユニットに実効値測定機能を付加
したユニットである.従来機種に比べて広範囲の
周波数帯域で実効値測定が可能である.
(5) 8960 ストレインユニット
速シリアル転送を行っている.
I/O FPGA は,ISA バスブリッジ,トリガ信号処
理,プリンタコントロールを行っている.
PCI バスブリッジ FPGA は,PCI バスとローカル
8939 ストレインユニットの高分解能バージョン
である.FFT 測定には欠かせないアンチエリアシン
バス間のデータ引き渡し,割り込みコントロール
などを行っている.
ストレージ制御 FPGA は,ストレージ制御,ト
グフィルタを標準で装備した.
各ユニットは本体と絶縁されている.当社専用
の絶縁デバイスを採用したディジタル絶縁により
高速サンプリングと高耐ノイズ性を確保してい
る.
また各ユニットの回路情報や部品情報を共有化
リガ検出,ユニット制御を行っている.
4.3 電源部
(1) 電源について
図 3 に電源のブロック図を示す.この電源の特長
することにより開発期間の短縮と効率化を実現し
を以下に挙げる.
た.
• 入力 AC90 ∼ 264 V,総出力容量約 330 W.
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• 高調波規制対応のため,昇圧コンバータ式 PFC
る 8940 F/V ユニットを使用せずともセンサへの電
回路搭載のスイッチング電源採用.
• FPGA 用電源はデバイスのそばに配置し,POL
源供給が可能となる.
コンバータとして構成.
• 本体用電源,入力ユニット用電源,その他 ( セ
ンサなど ) 電源をそれぞれ完全に独立させるこ
とにより,出力低下 / 遮断時に相互の影響を受
5. ソフトウェア
5.1 基本機能
基本機能は,従来機種と同様のメモリファンク
ションとレコーダファンクションから構成され
けないようにした.
• 各チャネルは,アイソレートトランスで絶縁.
(2) 電源異常発生時について
従来の電源回路は各出力に電源電圧監視回路を
設け,低電圧発生時はスイッチングコントロール
部にフィードバックしその動作を停止することに
よって異常発生時の安全を確保していた.本体用
電源も入力ユニット用電源も同じ回路から給電さ
れているため,どの部分に低電圧が発生しても電
源すべてが遮断されシステム全体が停止する.
る.機 能 ア ッ プ に よ り リ ア ル タ イ ム 保 存,
REC&MEM の各ファンクションが追加される.
5.2 画面構成とユーザインタフェース
(1) 表示画面
表示については,従来からの波形表示以外に数
値表示を可能とした ( 図 4).
波形表示は,スクロール方向を縦 / 横に切り替え
られ,また「連続」という時間軸方向に圧縮する
今回,本体用電源,入力ユニット用電源,その
ことなく,長時間にわたる全体波形を確認できる
他電源をそれぞれ独立させたことにより,異常発
形式も追加した.分割画面も従来機種よりバリ
生時はその部分のみ遮断され本体用電源は動作し
エーションを増やし,時系列 +XY 合成波形の同時
ている.このため,機器画面上へエラーあるいは
表示も可能にした ( 図 5).
ワーニングメッセージを表示することにより異常
発生が認識できる点や,発生個所の特定が従来よ
りも容易になるなどのメリットが生じる.また,例
えば入力ユニット用電源が遮断された場合でも本
体用電源が不意に遮断されることはないので,本
体が行っていた処理は正常に続行されるため,こ
れもメリットとなる.
(2) 設定メニュー画面
8855 から採用したメニュー画面にタブ ( 見出し )
をつけ,現在どの設定画面にいるかわかる画面構
成は継承しつつ,若干のメニュー構成を変更した
( 図 6).
また,おもにシステム関係で設定変更を頻繁に
しない設定は,画面を分離した ( 図 7).
(3) 9684 DC 電源ユニット
DC 電源で 8860,8861 本体を駆動するためのオ
プション電源として,9684 をラインナップした.
入力電圧範囲 DC10 ∼ 16 V にて動作可能な DC/DC
コンバータである.従来機種の DC 電源駆動は,オ
(3) シート機能
多チャネル化に対応するため,シート機能を導
入した.(1 シート 32 チャネル表示 )
各シートでは,独立した表示形式を選択できる
ため,用途をシートごとに割り当てて解析したり,
プションの別置 DC 電源アダプタを使用していた.
測定グループごとにまとめて表示するといったこ
別置きのデメリットとして設置時の煩雑さなどが
とが可能である.
あり,本体一体型の DC 電源の要望が多いため,
9684 は本体の背面部に取り付けて一体型となるよ
うにした.
(4) マウスによる操作
従来の GUI による操作性はそのままに,マウス
を使ったPCアプリケーションと同様の新しい操作
(4) 9687 プローブ電源ユニット
形態が可能になった.
3270 シリーズクランプセンサや 9322 差動プロー
ブの電源を 8860,8861 本体から供給するためのオ
(5) 漢字変換機能
従来機種からの懸案事項であった日本語漢字変
プション電源ユニットである.±12 V 出力を 8 チャ
換機能を搭載した ( 図 8).また,キーボードも使
ネル有するユニットであり,本体背面に一体型と
えることから,コメントなどの入力を容易に出来
なる.これにより,センサ用電源出力端子を有す
るようになる.
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8860,8861 メモリハイコーダ
図 4 数値表示
図 5 時系列 + XY 合成画面
図 6 設定画面
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7
図 7 システム画面
図 8 漢字変換
5.3 従来機種と異なる特長
(4) 波形処理演算
演算結果の波形を測定波形とは別に保存するよ
(1) 2 系統サンプリング
各チャネルごとに異なる 2 種類の時間軸レンジ
にて測定が可能である.速い現象と遅い現象を同
時に捕らえる.特にスキャナユニット混在時は多
チャネルの低速現象と高速現象をメモリの無駄な
く同時に記録することが可能である.
うにしたため,測定時に演算のために余計にチャ
ネル数を確保する必要がなくなった.演算結果の
表示 ON/OFF や表示色,上下限値などの設定も各
チャネルとは独立したため分かりやすくなった.
5.4 FFT 機能
(2) 測定と同時に保存
従来機種では測定動作が終わらないと保存動作
8860,8861 の FFT 演算機能はこれまでに寄せら
を行うことができなかったが,8860 では時間軸の
れた要望を元にいくつかの機能強化を図ってい
る.表 1 に 8860,8861 と 8855 の FFT 機能を比較
遅いところでは,測定と同時に保存を行うため,保
存完了までの動作時間が短くて済む.使用チャネ
したものを示す.
ル数にもよるが 100 ms/DIV ぐらいから,測定終了
表 1 FFT の機能比較
とほぼ同時に保存も完了する.
項目
8860,8861
8855
(3) 測定中のバックスクロール
測定中に表示している波形をバックスクロール
同時演算数
8
2
窓関数
7
3
させたり,測定終了を待たずに表示倍率を変更す
演算項目
16
12
位相スペクトルの
ハイライト表示
○
×
ることが可能である.( レコーダファンクションお
よびメモリファンクションのロールモード表示の
とき )
メモリ波形に
対する FFT 演算
表示パターン
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画面分割により位置 カーソル位置
を確認しながら演算 から演算
14
3
8
8860,8861 メモリハイコーダ
図 8 漢字変換
図 9 FFT の設定画面
図 10 パワースペクトル表示 ( 上 ) と位相スペクトルのハイライト表示 ( 下 )
(1) 同時演算数の増加
図 9 は FFT 演算の設定画面を示す.同時演算数
衰は,これまで取り込んだ波形のパワーが等しく
は,これまでは 2 個に限られていたが,これを 4 倍
ワー」,および「平均」の 3 つを用意し,ユーザが
の 8 個にしている.演算内部は,オブジェクト指
その補正方法を選択できるようにしている.
向による設計によって完全に独立しているため,
(4) 演算項目の追加
演算項目は,新たに「パワースペクトル密度」と
なるような補正を施していたが,
「補正なし」,
「パ
演算対象のチャネルもそれぞれ独立して選ぶこと
ができる.また,演算ポイント数は従来と同じ
「LPC 分析」を追加し,1 Hz 当たりのパワースペク
1,000,2,000,5,000,および 10,000 の固定長から
トルとスペクトル包絡を測定できるようにしてい
選ぶ方式をとっているが,演算後にポイント数を
変更して解析することも可能である.
る.演算の設定に関しては,これまであった「チャ
(2) 演算速度の向上
従来機種 (8855) と同一条件 ( 最も演算時間がか
かる解析)で比較して,演算速度は約10倍向上した.
(3) 窓関数の追加
窓関数は,
「ハミング窓」,「ブラックマン窓」,
「ブラックマンハリス窓」および「フラットトップ
窓」を新たに加え周波数解析を多角的に行えるよ
うにしている.また,窓関数によるエネルギー減
ネルモード」という概念を廃止し,演算項目を指
定することで自動的にチャネル設定がアクティ
ブ,または非アクティブに切り替わることで設定
の煩わしさを解消している.
(5) 位相ハイライト表示
位相ハイライト表示は,位相計算の途中でパ
ワースペクトルを求め,これがある一定レベルを
超えたところのみを強調して表示する機能であ
る.
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8860,8861 メモリハイコーダ
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図 11 メモリ波形と FFT 波形の同時表示
メモリ波形 ( 上段 )
解析元の波形 ( 中段 )
リニアスペクトル ( 下段 )
図 10 はハイライト表示を ON にした時のパワー
6. おわりに
スペクトルと位相スペクトルを同時に表示したも
8860,8861 メモリハイコーダは,8835 から 8826,
のを示す.同図から,雑音のようになって見にく
かった波形も,注目すべきポイントをより簡単に
8841,8842,8855 まで基本プラットフォームを変
見つけることができる.
えず,従来のメモリハイコーダとしてはほぼ完成
(6) メモリ波形の同時表示
図 11 はメモリ波形と FFT 演算結果を同時に表示
した状態を示す.予めメモリファンクションで測
定しておいた波形を FFT 解析する場合,従来はメ
モリファンクションにおいてカーソルを表示さ
せ,演算開始位置までカーソルを移動させた後,
FFT ファンクションに切り替えて演算させるとい
う方法をとっていた.しかしながら,この場合ファ
ンクション間の行き来が頻繁になり,解析元の波
形と演算結果の対応関係がつかみにくいといった
問題があった.
そこで 8860,8861 では,この問題を解決するた
めにメモリファンクションの波形と演算結果を同
時に表示できる機能を搭載した.演算開始位置は
ジョグシャトルで設定し,さらに対象となる演算
の域に達していた中,新たな挑戦を始めたメモリ
ハイコーダである.ロガー領域から高速レコーダ
領域までをカバーするため,スキャナ方式のユ
ニットと 2 系統サンプリングを実現し,また更な
る大容量メモリ化を果たした.
この製品を,研究開発,保守,生産などさまざ
まな分野で活用していただければ幸いである.
今後も,ユーザニーズに応えるべく,ユーザの
立場に立って考慮した性能向上を果たしていきた
い.
鈴木 善一 *2,塚田 英一 *2,宮坂 哲也 *2,
和田 竜也 *2,酒井 健 *2,横田 修 *2,浜 崇 *2,
山本 浩一 *2,桜井 裕徳 *3,葉山 敦史 *2
水出 博司 *4
範囲を矩形の枠で囲むことで視認性を高めてい
る.連続して演算させる場合は,メモリ波形の下
部にあるアンダーバーが移動するため,演算動作
を停止させたときにどの部分が演算対象になって
いたのか探し出す必要がなくなっている.
*2 PMI 部 技術 1 課
*3 PMI 部 技術 2 課
*4 技術本部 開発支援課
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