4.不完全競争市場の理論

ミクロマクロ経済学Ⅰ
4.不完全競争市場の理論
不完全競争市場では,供給者が少ないため,生産量を通じた価格コントロールが可能に
な り ま す .完 全 競 争 市 場 と ど こ が 違 う の か 確 認 し な が ら 勉 強 す る と 効 果 的 で す .講 義 で は ,
供給者の数が少ないケースを扱います.
4−1.独占
独占とは,ある財がただ 1 つの独占企業によって供給されている状態をいいます.独
占 企 業 は 生 産 量 を 通 じ た 価 格 コ ン ト ロ ー ル が 可 能 で ,価 格 を p  p (x) に 設 定 で き ま す( こ れ
は 需 要 関 数 の 逆 関 数 で あ り , 逆 需 要 関 数 と い い ま す ). 生 産 量 が 増 加 す る と 価 格 は 下 落 ,
生産量が減少すると価格は上昇していきます.つまり,需要曲線がそのまま使えるという
ことです.
独 占 企 業 で あ っ て も , 利 潤 の 式 は   TR  TC と な り , 利 潤 を 最 大 化 さ せ る た め に は , 利
潤 の 式 を 微 分 し て = 0 と お き ま す ( → 20 ペ ー ジ ).
第 2 章 と の 違 い は , 独 占 の 場 合 が 総 収 入 は , TR  x  p (x) と な る こ と で す . 完 全 競 争 と 違
い ,生 産 量 に 応 じ て 販 売 価 格 が 変 わ る た め ,1 個 ○ ○ 円 ,と 簡 単 に 決 め ら れ な い た め で す .
総 収 入 の TR を 微 分 す る と「 限 界 収 入 MR」に な り ま す .こ れ は ,販 売 量 が 1 単 位 増 え た と
きの追加収入です.たくさん生産すると価格が下がるため,限界収入も徐々に下がってい
きます.
利潤が最大となる生産量を探すためには,利潤の式を微分してゼロとおくので,
d d (TR  TC )

 MR  MC  0
dx
dx
と な り ま す .こ こ か ら ,MR=MC( 限 界 収 入 = 限 界 費 用 )と な り ま す が ,こ れ が 独 占 の 利 潤
最大化条件です.なお,この式は複占や寡占など,不完全競争市場全般で使えます
これらの関係をグラフに描いてみます.
需 要 曲 線 が 直 線 の 場 合 限 界 収 入 曲 線 ( MR) は 需 要 曲 線
p
AC 2
の 2 倍の傾きを持つ直線になります.独占企業は M 点で
生産量を決めます.価格は M 点から上に行って需要曲線
にぶつかる点 C で決まります.C 点は需要価格を表して p
M
い ま す ( → 25 ペ ー ジ ) が , 独 占 企 業 は 競 争 相 手 が い な い
C
AC 1
E
ため,需要価格での販売が可能だからです.この C 点を
「クールノーの点」といいます.
D
M
MR
もし,完全競争市場であれば,市場価格は E 点で決ま
x
り ま す .独 占 市 場 で は ,完 全 競 争 市 場 に 比 べ て 市 場 価 格 が 高 く な り ,取 引 量 が 減 少 し ま す .
この結果,企業は利潤を増やすことができますが,消費者には不利になっています.
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CHECK
POINT
独占だからといって必ずプラスの利潤が生じているとは限りません.確かに,
前 ペ ー ジ の グ ラ フ で 平 均 費 用 曲 線 が AC 1 の 時 に は プ ラ ス の 利 潤 が 発 生 し て い ま
す . し か し , 企 業 の 生 産 効 率 が 悪 く , 平 均 費 用 曲 線 が AC 2 に な る と , ク ー ル ノ ー
の点よりも平均費用曲線の方が上にくるため,利潤はマイナスになってしまいま
す.
独 占 の 度 合 い を 表 す 指 標 と し て ,「 ラ ー ナ ー の 独 占 度 」 が あ り ま す . こ れ は ,
p  MC
で
p
表 さ れ ま す . ラ ー ナ ー の 独 占 度 は 需 要 の 価 格 弾 力 性 の 逆 数 に 等 し く な り ま す ( 証 明 略 ).
p
完全競争市場
4−2.独占と社会的余剰
A
前章で用いた,余剰分析を使って独占と
完全競争を比べてみます.完全競争では,
MR
生産者余剰は B になり,社会的余剰は
一 方 , 独 占 で は 生 産 量 は xM, 価 格 は pM
S
E
に な り ま す . こ の 結 果 , 消 費 者 余 剰 は C,
生 産 者 余 剰 は D, 社 会 的 余 剰 は C+D に な り
D
D
ます.グラフより独占は,E だけ社会的余剰
MR
が減少していますが,この部分も,第 3 章
でみた「死荷重」です.
x
独占市場
C
pM
S
D
B
p
市 場 は P で 均 衡 し ま す . 消 費 者 余 剰 は A,
A+B に な り ま す .
P
x
xM
独占市場では,競争が起きず,生産量が抑えられて価格が高くなっています.つまり,
市場が歪められているので,死荷重が生じています.税金と違う点は,独占の場合,生産
者余剰が完全競争に比べて大きくなるケースがあることです.それに比べて,消費者余剰
は独占によって必ず小さくなります.独占の場合,消費者と生産者とは非対称的な影響を
受けています.
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4−3.寡占市場
現実の経済では,少数企業からなる寡占市場がよくみられます.例えば,缶ジュースは
いくつかの企業によって供給されており,寡占市場と考えることができます.自動販売機
での缶ジュースの価格はどこでもほとんど同じですが,一般的に,寡占市場では価格が横
並びになるという特徴をもっています.価格が変化しにくいことを「価格の硬直性」とい
いますが,寡占市場では,どうして価格の硬直性が生じるのかを分析します.ここでは,
「カルテル」についてみていきましょう.
カルテルとは,暗黙のまたは明示的な価格協定のことをいいます.いくつかの企業が,
価格,生産量,シェア(市場占有率)などについての協定を結び,企業が共謀するような
行為です.
カルテルに参加した企業は価格競争を行わず,広告戦略や製品差別化などの非価格競争
を行います.価格を維持することによって一定レベルの利潤を確保できますが,シェアを
大幅に伸ばすことはできません.シェアを伸ばす手っ取り早い方法は価格を引き下げるこ
とだからです.
現 実 社 会 の 企 業 に と っ て は シ ェ ア は と て も 重 要 な 数 字 で す の で ,カ ル テ ル に 参 加 し て い
る企業にはカルテルを破る誘引(インセンティブ)が常に存在します.他の企業が高い価
格を設定している中で,自分だけが価格を下げれば売上が大幅に伸びるためです.カルテ
ルが実際に破られるかどうかは,さまざまな条件で異なりますが,第 5 章のゲーム理論で
いくつかのケースを見てみましょう.
4−4.費用逓減産業(自然独占)
電力・ガス・水道などの,大規模な資本設備を必要とする産業では,大量生産をすれば
するほど生産効率が上昇します.つまり,生産量をふやせば増やすほど,限界費用と平均
費 用 は 下 が っ て い き ま す . グ ラ フ を 描 く と , 限 界 費 用 曲 線 ( MC) と 平 均 費 用 曲 線 ( AC)
は逓減的になるため,右下がりになります.このような産業を「費用逓減産業」といいま
す が , 資 本 設 備 の 規 模 が 大 き す ぎ て 新 規 参 入 が 生 じ な い た め ,「 自 然 独 占 」 と も 呼 ば れ ま
す.
費 用 逓 減 産 業 も 完 全 競 争 で は な い た め , 独 占 と 同 じ よ う に MR=MC で 生 産 を 行 い ま す .
しかし,このような産業では,社会的な基盤(インフラストラクチャー)を供給すること
が 多 い た め , MR=MC で は 価 格 が 高 く ( p M ), 供 給 量 が 不 十 分 で ( x M ), 政 策 的 に 望 ま し い
状 態 で は あ り ま せ ん . そ う は い っ て も , 需 要 曲 線 と MC 曲 線 の 交 点 で 生 産 を 行 う と ( = 完
全 競 争 と 同 じ ), 販 売 価 格 が 平 均 費 用 ( AC) を 下 回 る た め 企 業 の 利 潤 は 負 と な り , 長 期 に
わ た る 生 産 は で き な く な り ま す ( E 点 ).
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p
D
MR
C
pM
A
pAC
pMC
AC
E
MC
xM
x
そこで,この問題を解決する方法として,以下のものがあります.
平 均 費 用 価 格 形 成 : 平 均 費 用 曲 線 と 需 要 曲 線 の 交 点 で 生 産 を 行 い ま す ( 点 A). こ の と き ,
企業の利潤はゼロになります.
限 界 費 用 価 格 形 成 : 限 界 費 用 曲 線 と 需 要 曲 線 の 交 点 で 生 産 を 行 い ま す ( 点 E). こ の と き ,
企業の利潤は負になるので,政府の補助金などで損失を補います.これ
は,ホテリングが提唱しました.
§. 授 業 で 扱 っ て い な い ト ピ ッ ク
複占市場(クールノー均衡,シュタッケルベルグ均衡,ベルトラン均衡)
屈折需要曲線
独占的競争
差別価格
売上高最大化
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