LAN ケーブルハイテスタ 3665 1 LAN ケーブルハイテスタ 3665 小山 敦史 *1 要 旨 LAN ケーブルハイテスタ 3665 は,ツイストペアケーブルの結線状況,ケーブル長,ケー ブルの接続先識別を確認することができる製品である.ここに製品の構成,特長について 解説する. 1. はじめに インターネット,イントラネットの普及に伴い ネットワーク配線はますます増加している.ネッ トワーク配線としては,同軸線,撚 ( よ ) り対線, 光ファイバなどの種類があるが,ビル,住宅など 屋内の LAN ケーブル配線は,取り扱いの容易さ, コストの低さなどを理由としてツイストペアケー ブル ( 撚り対線 ) が現在の主流になっている.取り 扱いが容易とはいえ,設置状況によってはその性 能を発揮せず,ネットワークの性能低下や障害を 3665 の外観 引き起こすことがある.現場でケーブルとコネク タの接続作業をする場合,これらの確認作業とし て工事担当者はケーブルテスタを使ってケーブル が正しく敷設されているかを確認する必要があ 3. 機能・特長 る.工事を担当するのは,ネットワークに強い通 信工事専門業者から一般の電気工事業者まで多岐 3660 との比較も交えながら機能・特長を紹介す に渡る.最近では敷設工事の増加に伴いネット る. ワーク配線にはあまり慣れていない一般の電気工 事業者による敷設工事も増加している.そのよう (1) 簡単操作 3660 と同様,TEST キーを押すだけでケーブルの な背景から,誰でも簡単に効率よく配線のテスト 検査が可能である. ができるケーブルテスタを提供すべく,当社従来 3660 では,ワイヤマップ ( 結線状況 ) 検査,ケー 品 LAN ケーブルハイテスタ 3660 をベースに 3665 ブル長測定を同時に行い,ディレクション ( ケーブ を開発した.また 3665 は 3660 と同様,ケーブル ルの接続先 ) 確認は別の作業が必要だったが,3665 敷設時だけでなくネットワーク運用時のケーブル では 3 つの検査を同時に行い,すべての検査結果 のトラブル解析としても活用できる. を 1 画面で表示するため,さらに操作が簡単になっ た. 2. 設計コンセプト 敷設工事での利便性,検査の確実性を向上し,よ り一層ユーザに満足していただける製品とするこ とを目標とした. (1) 作業効率向上 (2) コンパクト (3) 機能向上 (2) スプリットペアを含むワイヤマップ検査 ケーブル両端コネクタの各ピンの接続状況を確 認することが可能である. ツイストペアケーブルは,4 対 8 芯の撚り対線で あり,芯線とコネクタの接続順は規格 (ANSI/TIA/ EIA-568-B,ISO/IEC11801,JIS X5150) により規定 されている.これによればコネクタの 1-2,3-6,45,7-8 番ピンにそれぞれペア線を割り当てるよう *1 PMI 部 技術 2 課 日 置 技 報 VOL.28 2007 NO.1 2 LAN ケーブルハイテスタ 3665 に決められているが,作業者のミスにより誤配線 が生じる場合がある.図 1 に誤配線の例を示す. スプリットペア (Split pairs) とは両端コネクタが 同じピン番号で接続されているが,対になるペア を誤っている配線のことである.安価なテスタで は検査できないこともあり,一般の電気工事業者 などには認知度の低い誤配線である(3660でも検出 はできない ).しかしながら通信速度の低下や通信 エラーを招くことがある重大な誤配線となってい る.3665 は 3660 で検出可能だったショート,オー プン,リバース,トランスポーズの誤配線に加え, スプリットペアを検出できる.また,3660 では測 1 2 3 6 4 5 7 8 1 2 3 6 4 5 7 8 Reversed pair 1 2 3 6 4 5 7 8 1 2 3 6 4 5 7 8 Transposed pairs 1 2 3 6 4 5 7 8 1 2 3 6 4 5 7 8 Short 1 2 3 6 4 5 7 8 1 2 3 6 4 5 7 8 Split pairs 1 2 3 6 4 5 7 8 1 2 3 6 4 5 7 8 Open 定対象外であったシールド付のケーブルやクロス タイプのケーブルも検査することが可能である. 図 1 ワイヤマップ誤結線例 (3) NVP 設定機能を備えたケーブル長の測定 2 m ∼ 300 m のツイストペアケーブルの長さ検査 が可能であり,敷設工事の現場で製作したケーブ ルの長さの確認や,ケーブル途中の断線や短絡点 の位置を知ることができる. 本と比較し 3665 では最大 21 本まで対応している ため,規模が大きく敷設するケーブルの本数が多 い場合でも作業効率を上げられる.また,3660 で ツイストペアケーブルは,種類によりケーブル はワイヤマップとディレクションのターミネータ 長測定用の信号の伝搬速度が異なるため,NVP が異なるため,ターミネータの付け替え作業が発 (Nominal Velocity of Propagation: 光速に対する信号 伝搬速度の割合)がケーブル長測定結果に影響を与 える ( 詳しくは「5. 動作原理」を参照 ).NVP は 3660 では固定だったが,3665 ではケーブルに合わ せ任意に変更できるため,より精度高くケーブル 生していたが,3665 では 1 つのターミネータでワ イヤマップの検査をしながらディレクションの確 認が可能である. (5) ブザー,イラスト,文字による分かりやすい結 果出力 長測定を行うことが可能である.また,ケーブル 直感で結果を知ることが可能である. 長の単位は SI 単位の [m] であるが外国用モデル 3660 に比較して 3665 は大幅に表示を変更した. 3665-20ではネットワーク先進国である米国での使 具体的には,ワイヤマップの結果に応じて OK ま 用を考慮して [ft] での表示も可能である. たは NG と表示され,それぞれ異なるブザー音で (4) 最大 21 本のケーブルを識別できるディレク 結果を知らせるほか,ワイヤマップのイラスト表 示,日本語または英語 ( 任意選択可 ) の文字表記で ション確認 最大 21 本のケーブルのディレクション ( 接続先 ) 瞬時 に 検査 結 果を 判 断す るこ と が可 能 であ る. 3660 にはなかったブザーおよびバックライト機能 確認が可能である. ツイストペアケーブルを用いる LAN はスター配 線であり,各端末からのケーブルが一箇所に集め られるが,配線時にケーブルに識別タグなどをつ は 3665 をより使いやすいものにしている. (6) 小型,軽量化 小さく軽く片手で使用可能である. けていないとケーブルがそれぞれどこに繋がって 3660 より体積比を約 40% ダウンさせた.使用す いる物かわからなくなってしまう.しかし,ケー る電池も単 3 形アルカリ乾電池 6 本から 2 本へ変更 ブルに識別タグなどをつけておかなくても,3665 し,軽く持ちやすいものとなった.電池の容量を減 を使用すればケーブルの接続先を簡単に確認でき らしたが,動作時間は現場で使用するのに十分な約 る.さらに,識別可能ケーブル数を 3660 の最大 5 50 時間 ( 参考値 :1 測定 / 分 ) である. 日 置 技 報 VOL.28 2007 NO.1 LAN ケーブルハイテスタ 3665 3 ワイヤマップ 検査回路 メモリ 操作部 アナログ スイッチ スプリットペア 検出回路 CPU 表示部 ブザー RJ-45 コネクタ TDR測定回路 図 2 ハードウェアブロック図 ボタン部 指示板 筐体 図 3 形状図 図 4 ボタン部の筐体構造 ( 右側が指示板を外した状態 ) (2) デザイン・筐体構造 視認性の良さと片手での操作のバランスを考慮 4. 構成 (1) 回路構成 3665 のハードウェアのブロック図を図2に示す. 構成は CPU 周辺回路 ( 設定値保存用メモリ,操作 し,表示器を大きく確保しながらグリップ部に曲 面をとり,手にフィットしやすい形とした ( 図 3). また,筐体一体型のボタンでは失われがちなク 部,表示部,ブザー ),ワイヤマップ ( およびディ リック感を出すために,筐体の指示板が貼り付け レクション ) 検査回路,スプリットペア検出回路, てある下側部分において,ボタン部を保持する梁 ケ ー ブ ル 長 測 定 の た め の TDR Domain の長さを確保するため,円弧を描くようにした ( 図 Reflectometry: 時間領域反射 ) 測定回路となってい 4: 右側が指示板を外した状態 ).これにより、ボタ る ( 各回路による動作原理は「5. 動作原理」を参 ンを押す際の筐体のたわみによる反力を極力抑え 照 ).ワイヤマップ検査回路,スプリットペア検出 ることができ,基板に実装されているメカキーの 回路,TDR 測定回路はそれぞれのアナログスイッ 持っているクリック感を引き出すことができる. (Time チを介して RJ-45 コネクタへ接続される. 日 置 技 報 VOL.28 2007 NO.1 4 LAN ケーブルハイテスタ 3665 Vin 電圧発生部 コネクタ Vdt Rg 検出部 R1 R2 R3 R4 R5 R6 R7 R8 Rs アナログスイッチ 3665 コネクタ 9690 図 5 ワイヤマップの測定回路 5. 動作原理 Ra Vin (1) ワイヤマップ検査 ワイヤマップ検査には 3665 の他にターミネータ Rb Vdt 9690 を使用し,ケーブルの近端に 3665,遠端に 9690 を接続して検査を行う.図 5 に 3665 のワイヤ Rg Rg マップの測定回路を示す. 誤結線の検出は図 6 のように 3665 からケーブル 近端の任意の芯線に試験電圧 Vin を注入して,遠端 図 6 ワイヤマップの電圧検出回路 に接続した 9690 の抵抗ネットワークと 3665 内部 のレベル検出部の基準抵抗 Rg による分圧値 Vdt を 計測することで行う. 信号 Rg V dt = Vin ------------------Ra + Rb + Rg 漏れ 送信側 ここで,Vin を注入する芯線の遠端における抵抗値 Rx(=Ra+Rb) が既知であれば,ケーブルの近端と遠 受信側 NEXT 端の接続状況検出が可能となる.3665 では図 5 の R1 ∼ R8 およびシールド結線を確認するための Rs 図 7 NEXT のイメージ に個別の値を設定し,これらから求められる検出 電圧 Vdt の理論値と実際の測定値を比較して近端 と遠端のピンの対応,あるいはオープン / ショート を判断している.3660 では正しい (1 対 1 で同じ番 号が接続されている ) ピンを検出後,それを基準と して残りの各ピンを検出していた.そのため,送 受信のワイヤを故意に入れ替え,1 対 1 で同じピン トランス 信号 発生部 信号 検出部 番号が接続されているワイヤがない G ビット用の アナログスイッチ クロスタイプケーブルを検査できなかった.3665 では 1 番ピンから Vin を注入し 2 番ピンから Vdt を 3665 検出,同様に 3 番ピンから Vin を注入し 6 番ピンか らVdt を検出というようにペアを基準とするよう測 定アルゴリズムを変更することにより上記ケーブ 図 8 スプリットペア検出回路 ルを測定可能とした. 日 置 技 報 VOL.28 2007 NO.1 LAN ケーブルハイテスタ 3665 5 (2) スプリットペア検査 図 7 のように任意のペアに流れる信号は,静電結 合および電磁結合によって他のペアに漏れ,それが 送信側へ現れるものを NEXT (near end crosstalk: 近 端漏話 ) と呼ぶ. 注入パルス トランス パルス 発生部 NEXT を抑えるために各ペアはツイストされて いるが,スプリットペアでは通常と異なるワイヤ でツイストされている状態になり NEXT が大きく パルス 検出部 なる.スプリットペアは両端コネクタが同じピン 番号で接続されているので上記ワイヤマップ検査 回路では検出できないため,3665 では図 8 のよう なスプリットペア検出回路により検査する. アナログ スイッチ 注入パルス 反射波 3665 3665 では,簡易的な方法として 120 kHz の信号 図 9 ケーブル長測定回路 を任意のペアへ注入し,別のペアで漏話してくる 信号をモニタし,基準以上の信号が検出される場 合はスプリットペアであると判定している. (3) ディレクション確認 図 5 における R1 ∼ R8 の抵抗値の組み合わせが 21 種類あり,それぞれの組み合わせを 3665 で検出 注入パルス 反射波 tt し ID=0 ∼ 20 と判断する.つまり R1 ∼ R8 はワイ ヤマップ検査とディレクション確認両方の判断に 図 10 TDR 波形 使用されている.製品としては 3665 標準付属とし て 9690 (ID=0),オ プシ ョ ン製 品 とし て 9690-01 (ID=1 ∼ 5),9690-02 (ID=6 ∼ 10),9690-03 (ID=11 ∼ 15),9690-04 (ID=16 ∼ 20) 各 5 個セットを用意して いる. (4) ケーブル長測定 3665 では図 9 の回路で TDR 法によりケーブル長 注入パルス+反射波 を測定している.TDR 法では,ケーブルの近端か ら注入したパルスが遠端,あるいは開放,短絡など 図 11 TDR 波形 ( 注入パルスに対し短いケーブル ) の原因によりインピーダンス不整合が起きている 点で反射して戻るまでの時間 t ( 図 10) を測定する ことで,下記の式によりケーブル長を求めている. c × t × NVP L = ----------------------------2 注入パルス 反射波 L:ケーブル長 [m] c:光速= 3 × 108[m/s] 図 12 TDR 波形 ( 注入パルスに対し長いケーブル ) t:時間 [s] NVP:Nominal Velocity of Propagation( 光速に対す が大きすぎる場合,つまりケーブルが長すぎる場 る信号の伝播時間比 ) 合には反射波が減衰して測定不能となってしま 図 11 のように注入パルス幅よりも t が小さい場 う.3665 では 100 MHz のクロックと高速の CPLD 合,つまり注入パルス幅に対してケーブルが短い を採用し,パルス幅を自動的に 4 段階に切り替え 場合には反射波が注入パルスと重なり合いtが検出 ることで,2 m ∼ 300 m の広範囲のケーブル長を測 できない.また,図 12 のようにパルス幅に対し t 定できる. 日 置 技 報 VOL.28 2007 NO.1 6 LAN ケーブルハイテスタ 3665 NVP は,デフォルトで 0.684 としているが,任意 に変更することができ,設定した値はメモリに保存 される.NVP の値を直接設定できるほか,測定し ているケーブルの実際の物理長を入力することで 自動的に演算した結果を NVP として設定できる. 6. おわりに 3665 の概要を紹介した.情報通信産業は伸長し 続け,3660 発売後もますます発展し続けている市 場である.敷設工事やメンテナンスが一般的にな りつつある中,通信速度などの要求はより厳しい ものとなっており,速く確実な作業が求められて いる.3665 が敷設工事やメンテナンスにおいて, 多数活用されることを期待している. 多羅沢 公一 *2,柳沢 俊介 *3 *2 PMI 部 技術 2 課 *3 技術本部 技術 10 課 日 置 技 報 VOL.28 2007 NO.1
© Copyright 2024 Paperzz