トラピストの持つ今一つ重要な意味 ネーミングは苦労,楽しみ?1)を読んで 日本学士院会員 石塚喜明 過日,山下さんの御来訪をいただいた時の会話を本誌2)に載せていただきましたが,その時に同席され た鳥山氏の名文1)が前号の貴誌にのり,興味深く拝読しました。 所が,最後に小生が山下さんのことをトラピストと言った事が載っていました。このトラピストと言 うのには二つの意味があり,その一つは鳥山氏が書いておられる通り「トラップ(罠)を掛けて,捕ま えたら放さない人のこと」ですが,今一つ大事な意味のある事を併せて説明すべきであったと後晦して います。 鳥山氏が書かれたのは第一の部分だけで,これだけの意味ととられては山下さんに大変失礼になりま すので今一つ意味,之は非常に大切な一面なので改めて述べさせていただきます。 それはトラピストには初志貫徹と言う今一つの意味がある事です。之は,学問や研究に従事する人に とっては非常に大切な素質であります。従って,私はそれを含んだ意味で申したのであります。 学問,研究には,一つのテーマ(目標)をとらえたら最後まで脇見をせずに続けることが必要であります。 人間の世界には流行と言う現象があり,衣服界等がその代表者であります。そして,流行をいち早く 追う姿があります。 学問の世界にも流行と言う現象があります。具体的に言うのは控えますが,読者の方々はよく御存知 のことと思います。研究者のなかには流行を追い,常に注目を浴びて研究を目指して次から次へとテー マを追って行く人がいます。是等の方々は時代の先端を行く研究者として注目を浴びますが,余り流行 を追うとその時々にテーマが変わり,一時は注目を引きますが,研究生活が終わる頃になると研究者の 哲学が,又,研究者の特徴が全くみえなくなって来るのであります。 之に反し・一度自分の研究の目標を立てたら流行の動きには関係なく初志を貫徹して行く研究者は, 時代時代に脚光を浴びる事はありませんが,その研究の業績は何かの研究者として歴史に残ることにな り,その問題ならあの人に教えを乞いなさい,と言われる人になるのであります。 私が山下さんをトラピストと呼んだのは後者の意味を期待している,と言う意味を含めて申し上げた 事だけは御了解いただきたいと思います。 その意味では小生の敬愛する鳥山氏1)もトラピストである事を付け加えておきます。それと共にトラ ピストの真の語源は,フランスのトラップに創立された非常に戒律厳格な修道院の名によるものの様で あります事を書き添えておきます。 注 このお便りは山下宛の私的なものでしたが,まさに「交流」コーナーの主旨に合った有り難い寄稿文 いしづか よしあき 〒133−0052東京都江戸川区東小岩1 3 16 308 日本学士院会員 43一 トラビストの持つ今一つ重要な意味 と思い,石塚先生のお許しを得て,掲載させていただきます。 なお,いただいたお便りの中では私のことを山下先生,と先生付けで書かれてありましたが,石塚先 生は1907年生まれ,あの内村鑑三(この方はもう敬称をっけなくても許されるほどの高名な方)からも 教えを受けられたという大先生に「先生」という呼称をつけられるのは何とも気恥ずかしくて,本文で は,さん付けに変えさせて頂きました。(「交流」編集担当:山下洵子) 文 献 1)鳥山國士:ネーミングは苦労,楽しみ? 看護学統合研究3(2):75−76,2002. 2)石塚喜明二生物の多様性と人類の食生活 看護学統合研究3(1):62 64,2001. 一44一
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