世界湖沼ビジョン - 公益財団法人 国際湖沼環境委員会

世界湖沼ビジョン
アクションレポート
湖や貯水池の持続的な利用をめざして
世界湖沼ビジョンを実践しよう
世界湖沼ビジョン
アクションレポート編集委員会
2007 年 2 月
日本語版翻訳・編集
松本聰、笈田昭、佐藤智宏
2011 年
著作権:財団法人 国際湖沼環境委員会(ILEC)
この報告書は、出所を明確にしたうえで、教育または非営利的な目的のために一部又は全部を再利用で
きます。その場合、できれば本書を利用した刊行物のコピーを ILEC に送って下さい。
事前に書面による ILEC の許可を得ることなく、この報告書を再販したり、あるいはいかなる商業的な
目的のためにも利用してはなりません。
論文、書籍、報告書等でこの報告書を引用する場合、下記を参考にして下さい。
(例)ILEC(2007)World Lake Vision: Action Report(日本語訳:国際湖沼環境委員会(2011)『世界湖
沼ビジョン:アクションレポート』
)
この報告書は 2007 年に発刊された「World Lake Vision: Action Report」
【ISBN 4-9901546-3-0】の日本語訳
です。
(この報告書は ILEC の HP からもダウンロード可能です。)
この報告書で示されている意見は、記載されている組織の公式の意見を必ずしも代表するものではあり
ません。
本書で使用している、国・州・都市・地域およびその政庁の法的地位や領域境界に関する名称や資料の
表示は、決して何らかの見解を表明したものではありません。また、ここで示された見解は、個人およ
び関係する機関の決定や方針を必ずしも表明したものではありません。また商品名や商業取引の記載が
それらを推奨しているわけではありません。
序文
世界湖沼ビジョン(WLV:World Lake Vision)という概念とその必要性は、2000 年にハーグ(オランダ)
で開かれた第 2 回世界水フォーラムの場で(財)国際湖沼環境委員会(ILEC)の科学委員会によって最
初に表明されたものである。このビジョンの基礎となる草案は、2002 年ヨハネスブルグ(南アフリカ)
で開催された国連環境サミットで発表され、幅広い関心と強い支持を得た。その結果を受けて直ちに「世
界湖沼ビジョン委員会」が国際的に結成され、同委員会は、2003 年 3 月までに最終文書をまとめ、印刷・
製本した。
世界湖沼ビジョンは、湖沼の利用と管理のための非常に有益な指針を与えるものとして世界的に広く受
け入れられてきた。現在では、原著である英語版は 8 カ国で 8 つの言語に翻訳されている。要約版も同
様に多くの言語に翻訳されている。世界湖沼ビジョンがそのような高い評価を受けたため、国際湖沼環
境委員会(ILEC)は、同ビジョンをさらに推進するために世界湖沼ビジョン行動集を作成することにな
った。この提案は 2005 年にナイロビで開催された第 11 回世界湖沼会議の場で 14 の湖沼管理エキスパ
ートによって支持され、制作のための委員会が直ちに組織された。2006 年の夏から活動報告を収集し、
この報告書はこれまでに寄せられた 30 の事例を掲載したものである。
これらの事例報告によれば、先進国の湖や湿地では、世界湖沼ビジョンの 7 つの原則とほぼ同じような
明確で総合的な管理戦略を採用している。しかしながら、そのような場合でも、世界湖沼ビジョンは、
管理のための対策の実施過程とその結果、例えば、言葉と行動の間のギャップ(本書バイカル湖の事例
参照)などをチェックする役割を持ちうるのである。途上国の場合、急拡大する人間活動の影響を受け
て、湖の持つ環境や資源の価値が急速に失われており、世界湖沼ビジョンは、取るべき対策の種類や緊
急度を見出すために非常に有効である。
多くの報告が、
「湖沼の回復を目指す活動の推進力は、全ての利害関係者、特に湖の周囲に暮らす住民
の心の中にある環境保全の意識や関心にある」と指摘している。住民、特に若い世代に対する環境教育
が多くの場で行なわれている。しかしながら、単に「環境を変える」ことの必要性を理解するだけでは、
悪化した自然の回復を進めるためには不十分である。家庭や職場での我々の日常生活そのものが、湖を
含む我々を取り囲む環境に大きな影響を与えており、その影響を最大限小さくするように我々の生活を
変える必要があることを人々が認識すれば、大規模な対策に劣らない有益な結果を生むのである。
琵琶湖の場合には、1970 年代の終りにかけて湖水の富栄養化が極度に進行し、リンの大量流入による悪
臭を伴った植物プランクトンの大量発生を引き起こした。リンの大半が日頃洗濯で使用している市販の
合成洗剤に含まれるリン酸塩であることを知って、多くの主婦のグループが、合成洗剤の使用を止めて、
粉石鹸を使うように湖岸の住民に呼びかけた。地元の自治体の協力を得て、いわゆる「せっけん運動」
は、急速に琵琶湖の全域に拡がり、琵琶湖の富栄養化の進行を抑えただけでなく、短時間のうちにリン
を含む洗剤を日本から完全に追放してしまった。この運動で最も重要なことは、いかにすれば一人一人
の個人が環境問題の改善に貢献できるかということを日本人に教えたことである。
世界湖沼ビジョン・アクションレポートは、世界規模、国際的・地域的また個人のレベルで、さまざま
な湖の保全活動を述べている。それらから得られた教訓が、個々人の生活レベルを含めて、全てのレベ
ルで活かされることを期待している。
吉良竜夫
世界湖沼ビジョン委員会委員長
i
謝辞
この報告書(アクションレポート)は、世界各国の 27 の湖沼と貯水池に関する事例報告を作成し、こ
れらの水系について世界湖沼ビジョンの原則がどのように適用されているかを検討するため、熱心に活
動した個人および諸団体の成果である。特に、第 6 章に示されている個々の事例報告をした 18 名の著
者に対して感謝の意を表する。彼らの個々の報告をまとめるための努力がこの報告書の基礎になってい
るのである。その中で、彼らは、世界湖沼ビジョンの原則が、どのように、また、どの程度適用されて
いるのかを分析していることに特に注目したい。また、個々の事例報告から得られた教訓を評価し、地
域ごとに、また原則ごとに、世界湖沼ビジョンの原則の適用について総合的にまとめあげた人々に敬意
を表する。これらの仕事のうち、第 3 章に示す地域ごとの概要は、Dongil Seo 氏(アジア太平洋)
、Mohan
Kodarkar 氏(南アジア・インド)
、David Kuria 氏(アフリカ)
、Aitken Clark 氏(ヨーロッパ)
、Dale Hoyt
Palfrey 氏(ラテンアメリカ・カリブ)
、Jeff Thornton 氏(北アメリカ)の各氏によってなされた。第 4
章では、Lennie Santos-Borja 氏が、地域ごとの概要をもとに、すべての地域の教訓を総合的に評価した。
また、第 5 章では、Jeff Thornton 氏が、世界湖沼ビジョンの原則を世界の湖沼や貯水池で、現在および
将来に向けてどのように適用すれば良いのかについて、洞察力に富む実用的な指針を示した。
ILEC の松本聰氏は、本レポート作成の事務局として貢献した。また彼と UNEP-IETC の Vicente Santiago
氏は、報告書の内容や構成に関して示唆に富む提案を行い、その結果、本報告書は、論理的で、かつ分
かり易いものになった。また日本の環境保全再生機構(ERCA)の本プロジェクトに関する支援に感謝
する。
この報告書は多くの関係者の貢献で出来上がったものであり、事例報告に基づいて得られた教訓は、世
界各地における今後の世界湖沼ビジョンの原則の適用を促進することに役立ち、湖沼流域のコミュニテ
ィや住民だけでなく、湖の管理者や政策決定者が、人間と自然の両方の要求に応えるべく、この貴重な
水系や水資源の持続的な利用の支援をするものである。この報告書は、上述の多くの個人や団体の、勤
勉で献身的な努力がなければ出来上がらなかっただろう。ここに、彼ら全員に改めて感謝を述べるもの
である。
Walter Rast(ウォルター ラスト)
世界湖沼ビジョン・アクションレポート編集委員会委員長
ii
目次
1章
2章
3章
4章
5章
序文 …………………………………………………………………
謝辞 ………………………………………………………………...
はじめに ……………………………………………………………
湖沼流域のケーススタディ ………………………………………
はじめに …………………………………………………………
ケーススタディ …………………………………………………
アジア太平洋地域 ………………………………………………
地域の概要 ……………………………………………………
アジア太平洋地域の事例報告 ………………………………
南アジア・インド地域 …………………………………………
地域の概要 ……………………………………………………
南アジア・インド地域の事例報告 …………………………
アフリカ地域 ……………………………………………………
地域の概要 ……………………………………………………
アフリカ地域の事例報告 ……………………………………
ヨーロッパ地域 …………………………………………………
地域の概要 ……………………………………………………
ヨーロッパ地域の事例報告 …………………………………
ラテンアメリカ・カリブ地域 …………………………………
地域の概要 ……………………………………………………
ラテンアメリカ・カリブ地域の事例報告 …………………
北アメリカ地域 …………………………………………………
地域の概要 ……………………………………………………
北アメリカ地域の事例報告 …………………………………
世界湖沼ビジョンの原則の適用 ………………………………
はじめに …………………………………………………………
原則 1 ……………………………………………………………
原則 2 ……………………………………………………………
原則 3 ……………………………………………………………
原則 4 ……………………………………………………………
原則 5 ……………………………………………………………
原則 6 ……………………………………………………………
原則 7 ……………………………………………………………
適用が最も容易な原則と最も困難な原則 …………………
ケーススタディから得られた教訓 ……………………………
はじめに …………………………………………………………
原則 1 ……………………………………………………………
原則 2 ……………………………………………………………
原則 3 ……………………………………………………………
原則 4 ……………………………………………………………
原則 5 ……………………………………………………………
原則 6 ……………………………………………………………
原則 7 ……………………………………………………………
今後の展開 …………………………………………………………
はじめに …………………………………………………………
用語の定義 ………………………………………………………
世界湖沼ビジョンの適用 ………………………………………
人間と自然の協調関係 ………………………………………
論理的出発点としての湖沼流域 ……………………………
長期的視点に立った予防的な取り組み ………………………
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6章
適正な科学と入手可能な最善の情報の活用 …………………
持続可能性の原則に立った紛争の解決 ………………………
湖沼流域の利害関係者の参画 ………………………………
良好なガバナンスと利害関係者への権限付与 …………
有望な対策と今後の課題 ……………………………………
ケーススタディの要約 ………………………………………….
はじめに …………………………………………………………
アジア太平洋地域
ポーヤン湖(中国) …………………………………………
センタラム湖(インドネシア) ……………………………
琵琶湖(日本)…………………………………………………
デチェン湖(韓国) …………………………………………
タウポ湖(ニュージーランド) ……………………………
ラグナ湖(フィリピン) ……………………………………
7つの火口湖(フィリピン)…………………………………
南アジア・インド地域
ボージ湿地<ボパール湖>(インド) ……………………
チリカ湖(インド) …………………………………………
フセインサガール湖(インド) ……………………………
ポワイ湖(インド) …………………………………………
ロナー湖(インド) …………………………………………
ウジャニ貯水池(インド) …………………………………
アフリカ地域
ビクトリア湖(ケニア、タンザニア、ウガンダ) ………
ナクル湖 1(ケニア) ………………………………………
ナクル湖 2(ケニア) ………………………………………
ジョージ湖(ウガンダ) ……………………………………
カリバ湖(ジンバブエ) ……………………………………
ヨーロッパ 地域
コンスタンツ湖(オーストリア、ドイツ、スイス) ……
バラトン湖(ハンガリー) …………………………………
バイカル湖(ロシア) ………………………………………
バイカル湖・セレンガ川流域(ロシア) …………………
バートン湿地(英国) ………………………………………
スロバキアの貯水池(スロバキア) ………………………
ラテンアメリカ・カリブ地域
サンロケ湖(アルゼンチン) ………………………………
フケネ湖(コロンビア) ……………………………………
チャパラ湖(メキシコ) ……………………………………
北アメリカ地域
シャンプレン湖(カナダ、米国) …………………………
ケリー湖(米国) ……………………………………………
ウォーターフォード貯水池(米国) ………………………
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90
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184
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278
283
第1章
はじめに
世界湖沼ビジョン(WLV)要約版1は、「人類は、来たるべき時代に、資源が有限である地球という惑
星に適応し、かつ、淡水のような必須の資源の不足に対応できるような文明を築きあげるという困難
な課題に直面している」という所見で始まっている。WLV は、人類の存続と社会経済的な発展という
人間の要求に応えるために湖が提供する数多くの価値を強調するのと同様に、人間活動に対する湖特
有の脆弱性も協調している。同時に、WLV は、湖のうっとりとするような美しさや人間にとっての変
わらぬ魅力についても述べている。このような見方は、WLV(国際湖沼環境委員会、国連環境計画
(2003)『WLV』滋賀県草津市)が 2003 年第 3 回世界水フォーラムにおいて発表された時と同じよう
に、今日でも変わっていない。实際、湖は、自然湖や人造湖を問わずいかなる時においても、この地
球の表面にある淡水の大部分を占めているのである。さらに湖沼の水資源は、人間の要求に対して、
容易に、かついつでも入手可能である。そのため、自然湖や人造湖およびその水生資源は、人間の飲
料水に対する要求を満足させ、増大し続ける世界人口に対する食糧を生産するために、さらに、工業
化やそれと関連した発展に必要な天然資源を提供してくれる魅力あるモノなのである。
多くの定住社会が湖岸やその近辺から始まったのは卖なる偶然ではない。湖は紛れも無く、人間の水
に対する要求を満たす上で重要な役割を果たしてきた。实際、湖は他のどんな水体よりも広範に、人
間の多様な目的のために利用されうる重要な水系である。湖は大量の水を貯える貯水庫であり、水不
足の時期においては特に好ましい特性を備えている。また湖は大量に貯水できるので、水が過剰にな
った時の緩衝効果を持ち、下流域の洪水を緩和し、人々の命と財産の損失を軽減する機能を有してい
る。
湖は生物多様性の宝庫であり、商業漁業あるいはスポーツフィッシングの両方において大量の食料供
給を産み出している。多くの途上国において漁業は、食料源としてまた地域の生計を支えるために欠
くことのできないものである。また、湖は水の範囲を調節し、関連したレクレーション活動に便宜を
図っている。湖はしばしば遠くまで物品や人々を輸送するために利用される。さらに、主要な再生エ
ネルギー源である水力発電は湖が無ければ困難であろう。
また、これらの明確で实用的な価値を無視したとしても、湖はありのままで時には絵のように美しい
景観を持ち、多くの湖岸住民に美的な喜びさらには精神的な価値、すなわち満足感を与えてくれる。
皮肉なことだが、湖は多くの水利用に対応できるために、さまざまな水利用に関する紛争の主要な原
因になっている。多くの湖が、多様な目的で利用されるという事实がそのような紛争が起きる可能性
を高めている。そのような紛争の解決は、持続的な湖沼管理の目的の 1 つであり、国境を跨ぐ湖にお
いては特に重要である。しかしながら同時に、湖の持つ独特の特性が他の水系に比べて紛争解決をこ
とさら困難にしている。
湖の 1 つの重要な性格は、それが一般的に流域の終着点にあるということである。そのため湖には、
水だけでなくそれによって運ばれてくる汚染物も流域の全域から流れ込むことになる。さらに、湖は
大量の水を保持することができるが、汚染物を流しだす能力は、湖への水の流入速度とその滞留時間
1
世界湖沼ビジョンの要約版として、スペイン語、ドイツ語、ハンガリー語、モンゴル語、リトアニア語、韓国語、日
本語の 7 カ国語に翻訳されており、ILEC の HP からダウンロードが可能である。
1
に依存する。一般に湖は、他の水系に比べて長い滞留時間を有している。このことは、湖には汚染物
が長時間存在することを意味する。この特性は湖の複素力学系にも寄与しており、湖は容量が大きい
ので大量かつ多くの汚染物や汚濁物をその中に包含し、その後にこれらの物質に起因する負の症状が
現われてくる。要するに、湖はそこに流入してくる汚染物の巨大な「混合容器(mixing pots)」ある
いは「お椀(bowls)」として作用し、有害な化学的・生物学的プロセスを際立させてくれる。实際、
ある種の水汚染は湖でのみ起こる。代表的な例は、栄養分の増大によって起こる富栄養化という現象
であり、過剰な栄養分を含む水が湖に流れ込んで水の流れを遅くし、蓄積された栄養分によって目障
りなほど藻が成長してしまうのである。
また湖は、汚泥という形で人間活動に伴う汚染が時間をかけて湖底に蓄積し、その長期的な汚染の
「記憶」を残している。このような汚染を貯留する特性のために、再生プログラムや流入汚染低減の
努力をしても、湖はその後かなり長期にわたって改善の兆候を示さないことがある。このような特性
を持つ湖は、本質的に、流域に住む人間のマイナスの活動に対する感度の良いバロメーターとしての
役割も担っている。
湖や貯水池およびそれらの流域の科学的・技術的な特徴に加えて、多くの社会経済的な問題が、これら
の天然資源を持続的に利用していくための管理努力の大きな障害になる。その一つが、地球規模で起
きている都市化の進行である。比較的小さな地域に非常に多くの人々が集中すると長期的にどのよう
なことになるのかは、まだ充分にわかっていないし検討もされていない。また世界には、特に途上国
の湖岸におけるコミュニティに代表されるように、非常に多くの人々が毎日の生活と生計を湖や貯水
池に直接依存している(例えば漁師)。したがって、湖とその資源を持続的に利用していくための有
効な管理計画を策定するためには、貧困削減と経済発展という課題を湖沼流域管理の「方程式」にど
のようにして最も適切に組み込むかを真剣に検討する必要がある。さらに、地球規模の気候変動の影
響とその長期的な成り行きが、これらの検討に影を落としている。地球温暖化の直接的な原因はまだ
はっきりはしていないが、水系においては多くの影響がより顕著になるのは間違いない。これは、地
表の淡水の最大容量を占めている湖・貯水池にとっては特に深刻な問題である。
(財)国際湖沼環境委員会が専門家を招いて「WLV」を策定したのは、まさに、自然湖・人造湖(貯
水池)が、他の水系にない特徴を有するとともに、水系と流域に関する広範な社会・経済的な問題を包
含していることによる。湖の务化の根本的な原因となった社会経済的・ガバナンス(統治もしくは協
治)の失敗例とともに、流域の内外から人間によって引き起こされるさまざまな脅威を明らかにした
WLV の主要な特徴は、湖や貯水池を持続的に管理するために以下の 7 つの指導原則を策定したことに
ある。
原則 1:人間と自然との協調関係は、湖沼の持続可能性にとって不可欠である。
原則 2:湖沼流域は湖沼の持続的利用をめざす管理施策を立案・实施する際の論理的出発点である。
原則 3:湖沼環境の悪化を防ぐためには、長期的な予防的対応が必須である。
原則 4:湖沼管理政策の立案と決定は、適正な科学と利用可能な最良の情報とに基づいて行わなけれ
ばならない。
原則 5:持続的利用のための湖沼管理では、現世代および将来世代のニーズと自然のニーズを考慮し
つつ、競合する湖沼資源の利用者間の紛争を解決することが必要である。
2
原則 6:重要な湖沼環境問題の把握と解決のためには、住民およびその他の利害関係者の有効な形で
の参加を奨励すべきである。
原則 7:湖沼の持続的な利用のためには、公平性、透明性、すべての利害関係者への権限付与を基礎
とした良好なガバナンスが不可欠である。
ほぼ同時期に、地球環境ファシリティ(GEF:Global Environment Facility)の資金で、ILEC と世界銀
行によって補完的な取り組みが行なわれた。「湖沼流域管理イニシアチィブ(LBMI:Lake Basin
Management Initiative)」と呼ばれるこの取り組みの主たる目的は、選ばれた世界中の湖や貯水池のさ
まざまな管理対策を評価し、その中から「学ぶべき教訓」を見出し、解析することであった(持続的
資源利用のための湖沼とその流域の管理:湖沼流域管理者と利害関係者のための報告書、2005、(財)
国際湖沼環境委員会)。途上国、先進国の 28 湖沼(多くは国境にまたがる水系)の管理の経験を基に、
LBMI プロジェクトは広範囲にわたって重要な管理項目を評価した。その中には、湖の利用と価値、湖
の管理のしくみ、管理のための政策や規則、湖沼管理活動への住民や利害関係者の参画、湖の管理上
の問題に対処するための技術的な取り組み、および科学的な情報の活用、湖沼管理活動のための継続
的な資金確保の問題などが含まれる。この画期的な取り組みの結果は、2006 年メキシコシティで開催
された第 4 回世界水フォーラムで発表された。
このように、持続的な湖沼管理に向けた取り組みの成果はあがっているものの、まだ WLV の原則を
適用するためには实用的な手引きとなるものが不足している。WLV は、湖沼管理を行うための原則と
それを利用する根拠を示した。LBMI は、さまざまな管理手法の持つ長所と限界を洞察した。事实、
LBMI プロジェクトの対象となったいくつかの湖沼では、偶然かもしれないが、WLV の原則を活用し
ている。
したがって、この WLV・アクションレポートの目的は、このような展開を受けて次の論理的なステッ
プに踏み出すことであり、WLV の原則と LBMI で得られた管理手法に関する重要な洞察に基づくもの
である。新たな湖沼事例 (その一部は LBMI プロジェクトに重複するが)における経験を見出し評価
することによって、WLV と LBMI の活動を結びつけることもレポートの目的の 1 つであるが、本レポ
ートの主要な目的は、(i) WLV の原則がどのように活用されているのかを湖沼の活動事例において
確認し検証する、(ii) WLV の原則が適切に適用されているのかどうかを見極める、(iii) WLV の
原則を適用する場合、今後の湖沼管理の取り組みにおいて、それらをどのように活用できるのかを検
討する(不適切な利用も含めて)。また、WLV の主要な提言の一つは「地域ごとの湖沼ビジョン」の
策定であり、ビジョンの原則を適切に利用する中で得られた实用的な情報や経験は、他の湖沼の管理
においても有効に活用できるものと考えられる。その点で、このレポートからは大きな成果が期待で
きる。
以下の章の中では各湖沼からの事例が湖の所在地域ごとに紹介されているが、その中では、それぞれ
の湖沼が直面する問題や課題、これらの問題に取り組むために策定・实施された対策、取り組みの成
果や結果、WLV の原則の視点から見た教訓、などが述べられている。報告書はまた、WLV の原則を
効果的な適用を推進するための手引きや視点を示している。この報告書が、湖の利用者、管理者、政
策決定者にとって、彼らが、今後、重要な水体とその資源の持続的な利用のための取り組みを進める
うえで重要な指針となることを希望している。
3
第2章
湖沼流域のケーススタディ
はじめに
この章では、以下の章で議論される「得られた教訓」を特定し解析するためのデータベースとして、
個々の事例の要約を紹介する。事例報告は、各々の湖とその流域、特性、問題などに精通した一人あ
るいは複数の現地の専門家によって執筆されたものである。この調査で報告される多くの湖沼におい
ては、WLV が策定される前から活動が行なわれており、著者の役割は、事例報告のなかで、WLV の 7
つの原則が自分たちの湖沼流域管理活動において、偶然、あるいは意図的にどのように用いられてい
るか、あるいはそうでないかを明らかにすることにある。この目的に沿って、各著者には以下の項目
を含んだ事例報告をお願いした。

湖沼の基本情報、直面する課題や問題

課題や問題に取り組むために实施された戦略や対策などの管理活動

戦略や対策の中で、意図的あるいは無意識に WLV の原則がどの程度用いられたか

管理活動の成果

特に以下の 2 点について、管理活動から得られた教訓
(i)湖沼流域管理において WLV の原則をより有効に活用するためにはどうすべきか
(ii)WLV の原則を实際の管理活動にどう活かしていくか

適用が最も容易な原則と最も難しい原則の特定

WLV とその原則を实践していくための今後の活動
ケーススタディ
この章では、WLV の原則がどのように適用されているのかを評価するための知識ベースとなる、個々
の湖沼流域における事例報告の概要を紹介する(各湖沼の所在位置については次頁の図を参照。また
詳細な報告については第 6 章を参照。)。すなわち、この章のねらいは、各湖沼が存在する 6 つの広
域地域についてその概要と特徴を示し、事例報告で得られた結論の背景を説明するとともに各事例報
告の要点を紹介することにある。これらの事例報告は、各湖沼とその流域で日常的に管理活動に従事
している現地の専門家によって書かれたものであり、その内容は、個々の湖沼についての彼らの知識
と経験を反映したものになっている。したがって、この章で示される情報については、個々の湖沼に
よって多尐のばらつきがある。それを差し引いても、この要約はこれらの湖沼における WLV の原則
の有効性について見識と指針を与えるには充分である。
4
アジア太平洋地域
地域の概要
アジア太平洋地域は、地球の地表面の 23%を占め、世界の 58%以上の人が住み、中国、東单アジアな
ど世界で最も経済が成長している地域を有している。この地域は、この 30 年間で急速な都市化と人口
増加を伴い、自給自足的な生活から消費社会へと徐々に変貌してきた。この間の変化の過程で、人口
増加と過密化、脆弱な土地管理、変化を牽引した主原因である土地や資源の不公平な利用の増大によ
って、社会、経済、環境は悪化した。それぞれの地域で、過放牧、過作付け、無機肥料の多用などが
土地の务化を引き起こす原因となっている一方で、鉱山活動、木材伐採、卖作、外来種などが太平洋
諸島諸国を急速に脅かしている。
アジア太平洋地域は、地球上の水流出量の約 36%を占めているが、水の枯渇と汚染は大きな問題であ
り、一人当たりの利用可能な淡水量は最も尐ない地域となっている。年間の再生水資源が報告されて
いる 30 の大国では、1999 年の年間の再生水資源量は平均して一人当たり 3,690m3 であった。地域の全
水量の半分以上が、中国、インド、インドネシアにあり、バングラデシュ、インド、パキスタン、韓
国などは、水の枯渇あるいは不足に苦しんでいる。水の利用は農業用水が最大(86%)で、次いで産
業用水(8%)、家庭用水(6%)となっている。
アジア太平洋地域における都市化の進行速度は、2001 年~2015 年にかけて年間でほぼ 2.4%と予測さ
れている。現状の都市化の度合いは、ブータンの 7.1%からシンガポール、ナウルの 100%の間にあり、
オーストラリア、日本、ニューカレドニア、ニュージーランド、韓国では 75%以上である。この地域
には 12 の人口 100 万以上の都市(北京、カルカッタ、デリー,ダッカ、ジャカルタ、カラチ、マニラ、
ムンバイ、大阪、ソウル,上海、東京)があり、都市部住民の 12%を占めている。これらの大都市の
中には、60%近くの住民が、非合法的な居住地に住んでおり、1ha あたり 2,500 人という人口密度のと
ころもある。このような居住地では社会基盤が整備されておらず、上水、下水、排水、道路、健康管
理、教育などのサービスもない。これらの地域では、大気汚染や各種サービスの不足が主要な都市環
境問題となっている。
5
アジア太平洋地域の事例報告
この地域の事例報告は、ポーヤン湖(中国)、センタラム湖(インドネシア)、琵琶湖(日本)、デ
チェン湖(韓国)、タウポ湖(ニュージーランド)、ラグナ湖、7 つの火口湖(フィリピン)のもので
ある。
ポーヤン(鄱陽)湖(中国)
中国最大の淡水湖であるポーヤン湖地域は、中国における米と魚の宝庫の 1 つであり、中国江西省の
北部、長江(揚子江)の中下流域で長江の单側、单昌の北約 50km のところにある。湖は省内にある 5
つの川(Ganjiang、Huhe、Xinjiang、Raohe、Xiuhe)の合流地点にあり、流域面積は 162,225km2 に及ぶ。
湖の流域には泥湿地の他に、1,334km2 の草で覆われた広大な湿地がある。また、ポーヤン湖の氾濫原
は、大規模な水面変化に見舞われる。湖は乾期になると 1,000km2 以下にまで小さくなり、湿地と干潟
が現われ 50 万羽近くの水鳥がやってくる。その中には、2500 種以上のツデグロヅル(世界の鶴の
95%)や 2,000 以上のマナヅル、50,000 ものサカツラガンなどがいる。雤季には、湖は 5,000km2 まで
大きくなる。ポーヤン湖流域は、中国で最も重要な米作地帯である。湖が直面している主要な問題は、
季節ごとの洪水、下水による汚染、農業に起因する面源汚染、湿地の土砂堆積、土壌汚染、現地漁師
による乱獲、住血吸虫症による健康被害、貧困(特に農家)などである。
ポーヤン湖は、中国最大の淡水湖であり、中国政府および現地行政府の高い関心を集めている。この
20 年間に、湖の持続的な利用を促進するために、政府機関と地域住民によって多くの取り組みが行な
われた。1980 年初期に始まった「山・川・湖の(持続的な)開発運動」は、総合的な取り組みを進めな
がら、ポーヤン湖集水域全体にわたる持続的な開発に注力している。中央政府と現地政府もまた、湖
の環境保全に関する各種の規制や方針を公布した。この事例報告は、ポーヤン湖の持続的な利用とい
う目標に向かって「山・川・湖の開発運動」の枞組みのなかでなされた活動や、湖の持続的な開発を支
える中央・地方政府の取り組みをまとめたものである。
センタラム湖(インドネシア)
センタラム湖国立公園(約 1,320km2)は、インドネシア西カリマンタン州にある。公園は季節によっ
て湖となり、魚の種類は豊富である。1994 年にラムサール条約の指定地になった。公園の境界内には、
いくつかの民族が以前から定住しており、公園の中で人間と自然の間の調和した関係を保っていくこ
とは大きな課題である。公園は海抜 35~50mの比較的低い場所にあり、インドネシアで最も長いカプ
アス川の氾濫原として季節的に浅い湖となる。この地域の年間雤量は 5,000mm にも達し、乾期も時に
はあるがほとんど湿気の多い状態にある。乾期が 1 ヶ月以上続くと、センタラム湖流域の住民はたい
ていの場合水不足と山火事に悩まされる。
センタラム湖流域では、急速な人口増加、魚の乱獲、山火事、土地利用の転換、不法な木材伐採、さ
らに地球温暖化など、多くの問題が起きている。公園境界内への居住地の拡大による急速な人口増加
は最も大きな問題の 1 つである。センタラム湖流域の人間活動の影響を抑えるための唯一の道は、
WLV の原則を適切に实践することのように思われる。
琵琶湖(日本)
約 400 万年前に形成された琵琶湖は、日本で一番大きな湖で本州のほぼ中央の滋賀県にあり、バイカ
ル湖やタンガニーカ湖に次ぐ古代湖である。長い歴史を有する湖は、57 の固有種(ビワマス、瀬田し
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じみなど)を含む豊かな水生生物を育んでいる。大小約 460 本の川が湖に流れ込み、瀬田川を通じて
大阪湾に通じている。琵琶湖は、淀川流域の上流端に位置し、滋賀、京都、大阪、と兵庫の一部のほ
ぼ 1,400 万人に水を供給している。湖は、日本と滋賀県の観光名所でもあり、景観やレクリエーション
を楽しむために、毎年約 3,000 万人の人々が琵琶湖を訪れる。
琵琶湖は琵琶湖大橋を境に 2 つ(北湖と单湖)に分けられる。北湖はまだ自然が豊かで比較的良好な
水質を保っているが、対照的に、单湖は 1960 年代から工業化と都市化の影響を受け、水質の汚染、生
態系の务化、自然環境の破壊、景観美の減尐などの問題に直面している。赤野井湾流域協議会は、琵
琶湖の東单、赤野井湾に面する守山市にある。この地域は、以前は、「守山ホタル」(学名:Luciola
cruciata Motschulsky)と呼ばれるホタルの名所であったが、1965 年以降、急速な人口増加、都市化、
工場建設、農業の近代化、化学肥料の使用拡大、湧き水の枯渇などのために、ホタルが栄えた豊かな
自然環境が壊され、ついに、たくさんいたホタルが消滅した。協議会は 1996 年に発足し、豊かな生態
系を取り戻すことを目標に、赤野井湾とそれに注ぐ河川の水質を改善するための保全活動を開始した。
同協議会は、2004 年に NPO 法人格を取得し、「NPO 法人豊穣の郷」に改名した。現在も「ホタルが
乱舞するふるさとの創造」をめざして、多くの環境保全活動を展開している。
デチェン湖(韓国)
デチェン湖は韓国で 3 番目に大きい人造湖で錦江流域の中流にある。この湖は水源地にある他の多く
の貯水池と違って、その位置のため、流域内の複雑な人間活動の影響を受けている。「デチェン湖を
救う運動(DLSM)」は湖の水質と周囲の環境を守るために 2002 年に発足した。DLSM は湖に関する
韓国で唯一の NGO であり、事務局、政策フォーラム、集水域内の 4 つの NGO グループから成ってい
る。DLSM は湖保全の啓発活動の中心的な役割を果たし、それによって湖の水質保全活動を支えてい
る。DLSM はデチェン湖のためだけでなく、18,000 以上ある韓国の貯水池のために、WLV のメッセー
ジを伝えるうえで大きな力となるだろう。
タウポ湖(ニュージーランド)
ニュージーランド最大の湖タウポ湖は、一連の噴火活動(一番最近では 1,800 年前)によって、60km3
もの大地、岩、泥が噴出してできた大きな火口から作られたものである。30 以上の川が流れ込み、ワ
イカト川が唯一の流出河川となっている。湖のフルネームは Taupo–nui–a–Tia で、「Tia の偉大なマン
ト」(Tia は、Arawa Canoe の偉大な戦う酋長の一人で、湖を発見したと言われている。)を意味する。
幅 30km、長さ 40km、最深部の深さ 160m の貧栄養湖で、水は澄んでいて藻類は尐ない。湖の集水域
は湖の約 5 倍の大きさである。
この事例報告は、集水域からの影響を含めてタウポ湖の管理の取り組みを述べたものである。湖の管
理に関する大局的な計画が、社会的視点から策定され、草の根、地域レベルで設定された「地域社会
にとっての価値」に基づいて目標が定められた。地域にとってのタウポ湖の重要な価値は 1997 年に設
定されたが、重要な利害関係者を含む地域のすべての人が、最初から計画立案に取り組んだ。彼らは
「タウポ湖集水域の統合的な開発戦略」に基づく 3 ヵ年の科学プロジェクトの实施から、2004 年後半
に「タウポ湖のための総合活動計画」が発行されるまで活動に参加し続けた。2006 年の半ばには、地
域・広域地域および現地 iwi Ngati Tuwharetoa の住民が、タウポ湖の価値として大切にしているものを
保全することを目的に多くの活動が進行している。
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ラグナ湖(フィリピン)
ラグナ湖の流域は首都マニラを含む 6 つの郡を横断する 24 の支流域に分かれ、その中に 14 の市と 51
の町を代表する 61 の地方自治体(LGU)がある。流域の総人口は約 1,300 万人で、人口増加率は年
2.3%である。急速な人口増加、広範な都市化、工場用地や住宅用地のための土地開発、集水域の森林
伐採、湖とその周囲における資源搾取などがこの流域の喫緊の問題となっている。
通称「Laguna de Bay」と呼ばれるこの湖は、集水域の多様性、社会・経済的な重要性、政治的な意味、
管理と開発の取り組み、さらに比較的成熟した湖沼流域管理機関として「ラグナ湖開発公社(LLDA)」
を有しているなどの点から、アジアの事例としてよく事例研究の対象になる。ラグナ湖開発公社はフ
ィリピンで唯一の湖沼管理機関で、2004 年に「ラグナ湖管理制度確立と住民参加促進プロジェクト
(LISCOP)」と呼ばれる取り組みを開始した。このプロジェクトは、支流域を含む湖沼流域の環境の
改善とその持続的な管理を確立することを目的とした。プロジェクトの目標の中で特に重要なものは、
湖沼資源の管理と保全に住民の関与を深め、地域に根ざした環境保全プロジェクトの計画立案や实施
に参加することを通じて、流域の利用者(住民)を変革することにあった。これは「ラグナ湖の環境
保全活動計画の手順(LEAP)」と呼ばれるしくみによって取り組まれた。この手法は湖沼流域のさま
ざまな利害関係者が湖沼管理に参画することを促進し、制度化していくために有効であった。
7 つの火口湖(フィリピン)
フィリピンの旧憲章都市の 1 つであるサンパブロ市は、7 つの互いにつながった火口湖(Sampaloc、
Bunot、Palakpakin、Pandin、Mohicap、Calibato、Yambo)のあるフィリピンで唯一の町として知られて
いる。他に類の無いこの特徴によって、サンパブロ市は「7 つの火口湖の町」と呼ばれている。湖は
1960 年代までは魚やエビが豊富で、湖岸からでも容易に獲れるほであった。Sampaloc 湖は 7 つの湖の
中で最も大きく、市の中心部にある市庁舎のすぐそばにあるので最も有名であるが、残念なことに、7
つの湖の中で最も汚染された湖でもある。
サンパブロ市の 7 つの火口湖の保全、保護、修復とその集水域の管理は、ラグナ湖開発公社、NGO、
および他の行政機関によって進められた。1990 年初め、町の心ある住民は、ラグナ湖開発公社や地方
自治体によって作成された 7 つの火口湖修復のためのマスタープランが確实に实施されるように人々
を募り、「湖を救う運動(SLM)」を組織した。数ヵ月後に、この運動は NPO の設立にまで発展し、
「7 つの湖友の会(FSLF)」が 2000 年 8 月に生まれた。現在、その活動や計画の対象は Sampaloc 湖
に限定されているが、7 つの湖は互いにつながっており、似たような特性を持っているので、Sampaloc
湖の保全活動が成功すれば、他の 6 つの湖に同様な対策を展開することは容易であると思われる。
单アジア・インド地域
地域の概要
世界の人口の 6 分の 1 を占める单アジアはインド大陸にある 7 つの国を含み、「单アジア地域協力機
構(SAARC)」で知られている。この地域は古代文明発祥の地の 1 つである。しばしば「水ストレス」
と表現されているように、单アジア諸国はあらゆる分野で人間活動による水需要が増大しているため
に水危機に直面しており、淡水資源を強力に管理していく必要性に迫られている。
地形学的にはこの地域はさまざまな気候圏に属し、ヒマラヤ山脈に沿った地域は温和であるが、イン
ド半島は亜熱帯、さらに单部の地域では熱帯気候となる。雤量も地域によって大きく変わり、湿地帯
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(インド、アッサム地域など)では年間 1,200mm 以上、半島部でも年間 700~800mm の雤量がある。
一方、タール砂漠を含むインド西部の地域では雤量が尐ないこともある。この地域の東单部や北西部
の雤は季節風によってもたらされ、6~9 月の約 4 ヶ月間雤季が続く。最近、地域による大きな雤量の
違いに地球規模の気候変動が関係していると言われている。またこの地域では、サイクロンの数が増
え、特に都市部ではそれに伴う雤による洪水が問題になっている。
单アジアには幾つかの主要な河川系と並んで多くの湖や貯水池が点在している。他の表流水としては、
井戸、寺院の濠や村の池などがある。この地域の湖はその起因によって、(a)自然湖 (ロナー湖)、
(b) 河川湖(ウジャニ 貯水池)、(c)人造湖(フサインサガール湖、チリカ湖、ポワイ湖)。
歴史的には、湖は住民の管理によって守られ数世紀にわたって地域の人たちの水需要を満たしてきた。
しかしながら、20 世紀の後半になると湖の環境は、(1)人口の急増、(2)大規模な産業開発、(3)
化学肥料多用農業、(4)大量水消費生活、などによって前例のない务化に見舞われた。湖の务化を招
いた主要な原因には、(1)都市化の進行、(2)下水や農業排水中の栄養分による水汚染、(3)毒性
産業廃棄物、(4)固形廃棄物、(5)社会経済的、政治的、宗教的理由などに起因する持続的な管理
の欠如、などがある。
单アジア・インド地域の事例報告
この地域の事例報告は、ボージ湿地、チリカ湖、フサインサガール湖、ポワイ湖、ロナー湖、ウジャ
ニ貯水池(いずれもインド)のものである。
ボージ湿地
ボパールはインドのマディヤ・プラデーシュ州の州都で「湖の町」として知られている。この地域に
ある 25 の水系のなかで、「上ボージ湖」は最も古くて大きな貯水池である。11 世紀にコーランス
(Kolans)川に建設され、当時の王様の名前をとって「ボージ湿地」と名づけられた。17 世紀初頭、
下流端に土ダムが建設され、「下ボージ湖」が作られた。1947 年以前は、上下の湖は共に良好な水質
を示していた。ボパールには「上ボージ湖」から直接水が供給され、処理しなくても飲料水として利
用できた。
しかしながら、マディヤ・プラデーシュの首都になってから、ボパールの人口は急増し、その結果、
土地と水資源に大きな負荷が掛かることになった。20 世紀の間、「上ボージ湖」から水を確保できた
ので、急速な都市化に耐えることができたが、この 30 年にかけては都市化が湖の周辺まで及び、2 つ
の湖の水質に影響がでるようになった(「下ボージ湖」の方が「上ボージ湖」より水質务化が大きか
った)。行政当局は、人間活動の負荷増大による水資源の务化や水質の低下を問題と考え、ボージ湿
地保全のための対策に取り掛かった。ボージ湿地プロジェクトとして知られている「ボパール湖保全
管理プロジェクト」は、主として、上下の湖の保全と管理を目的に構想が練られ、策定されたもので
ある。このプロジェクトをとおして多くの保全対策や管理施策が实施されたおかげで、今日、ボパー
ルの湖の保全は大きく進展した。現在も、2 つの湖の持続的な管理を確实に進めるために、統合的湖沼
流域管理(ILBM)の概念を適用した取り組みが続いている。
チリカ湖
インド東海岸の最大の湖でラムサールサイトでもあるチリカ湖は、海洋、汽水、淡水の生態系を併せ
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持つユニークな河口湖である。豊かな漁業資源や生物多様性に富む極めて生産性の高いこの湖は、湖
の周囲に住む20万人以上の現地住民の生計を支えている。しかしながら、湖の生態系は、淡水流路の
変化、湖河口の詰まりと移動、流域の土地利用の変化と务化による土砂堆積などのために、务化の危
機に直面していた。このような状況は生態系特性の変化を招き、1993年にはモントルー・レコード
(Montreux Record)2のリストに載ることになった。
オリッサ州政府は、1992 年、湖の再生と統合的な湖沼管理をめざしてチリカ開発公社(CDA)を設立
した。チリカ開発公社は、適応型管理計画のなかに湖岸や流域の現象を統合的に取り込み、広範な協
議や的を絞った科学的な研究を展開した。このような取り組みによって水文体系が改善され、流域の
参加型管理が進んだ結果、湖の生態系の本来の機能が回復し、生産性の向上と地域住民の生活が向上
した。同公社の取り組みは、湿地の回復は生態系の改善のみでなく、現地住民の生活にも大きな利益
があることを示した。これらの対策の实施によって、チリカ湖はモントルー・レコードから除外され
ると共に、湖の関係者が熱心に参加して模範的な再生事業が实施されたことが認められ、チリカ開発
公社は栄えあるラムサール賞を受賞した。また、事例報告は务化した水生生態系の再生に生態系アプ
ローチが有効であることを示している。
フセインサガール湖
1562 年にハイデラバードとセカンデラバード(インド、アーンドラ・プラデーシュ州)の間に建設さ
れたフセインサガール湖は、インド半島の半乾燥地であるこの地域において、450 年近く奇跡の建築物
であり、また伝統的な水保全の知恵の象徴である。同湖は都市化と工業化が非常に進んだ流域にあり、
4 つの主要な水路から水が供給される。インド半島デカン高原の地形的な特徴を利用して作られた水域
の 1 つである。20 世紀の後半、湖の生態系は、未処理の家庭排水や産業有害廃棄物による汚染のため
に、未曾有の大きな環境破壊を経験した。この環境破壊は、侵食による湖の表面積の縮小、湖の超富
栄養化、広範な地下水汚染、生物多様性の喪失、病原性媒介物の繁殖、魚死の再発、などの形をとっ
て現われた。この状況に最も被害を受けたのは、漁師、小規模酪農家、洗濯業など、湖に依存して暮
らす弱い社会層の地域住民であった。
このような環境破壊に対処するために、1990 年には「湖を救おうキャンペーン」という市民運動が起
こり、その後、法的な対応も取られていたが、それらを受けて、州政府は「ハイデラバード環境推進
プロジェクト(GHEP)」のもとで、湖の保全と管理のための包括的な取り組みを開始した。このよう
な再生の努力がなければ、湖は都会の混雑の溜まり場となったであろう。湖の生態系環境を改善する
ための努力はさらに続いている。フセインサガール湖は、おそらく、適正な生態学的な原則に基づい
て保全の取り組みが实施されている最初の都会の湖であろう。
ポワイ湖
ポワイ湖は人口 1,000 万人以上の巨大都市ムンバイの地図上で陸票となる生態系である。湖の直近は、
アンベードカル記念公園や世界的に有名なインド工科大学が湖の西にあり、よく保全されている。し
かしながら、その集水域は都市化の悪影響を受けており、人口が密集した都市部の家庭排水によって、
2
モントルー・レコード(Montreux Record)とは、国際的に重要な湿地リストに挙げられた湿地の中でも、技術発展や
汚染または人為的干渉により、生態学的特徴が既に変化しており、変化しつつありまたは変化するおそれがあるラム
サール登録湿地の記録のことである。このリストは、保全のための国際的な取り組みが優先的に必要な場所を明らか
にするために使われる。
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湖は汚染が進んだ典型的な都市湿地となっている。現在、同湖は、漁業、洗濯、沐浴の場として広く
利用されているが、富栄養化した湖のすべての特徴を示している。ポワイ湖は、インドで最も古い釣
り愛好家協会が誕生した場であり(1939 年設立)、この数年間、陸水学的および漁業関係の調査が集
中的に行なわれた。今日、湖は増加の一途をたどるムンバイ地域の人々が最も求めるレクリエーショ
ンや憩いの場となっている。
ポワイ湖は、その生態学的、経済的、社会文化的な重要性の故に、インド政府環境森林省(MOEF)
が定めた国定保全湖(NLCM)の 1 つになっている。現在、ムンバイ市営公社が総合的な保全計画を
实施中である。その中で重要なものは、(i)溶存酸素を増やすための攪拌機の設置、(ii)微生物技
術を利用した再生処方、(iii)漁業を支えるために、絶滅に瀕している大インドマハシアなどの雑魚
の放流、(iv)水質の監視、(v)水草の生物学的管理、(vi)湖の内部や周辺の破壊行為を阻止する
ための監視活動、(vii)湖を守るための釣り愛好会と NGO の協力、(viii)湖の恩恵を明確にする意
識強化運動や共通の基盤に立ってすべての関係者が集うための「ポアイ湖保全協会」の設置、(ix)
ポアイ湖に関する一般の人々の興味を増進させるための本「ポアイ湖:釣り愛好家の天国」の発行、
である。
ロナー湖
ロナー湖は、インドのマハラシュトラ州ブルダーナー地区にある火口湖である。单アジアでは珍しい
内陸の塩湖であり命のオアシスを育んでいる。湖は北緯 19 度 58 分東経 76 度 31 分に位置し、ほぼ球
状に窪んでいる。また、独特の地表特性を持つ 5 つの地帯に分けることが出来る。湖盆は、すべて湖
面から 130mに達する険しくそそり立つ急斜面に囲まれている。急斜面には北東に向かう深い窪みが
あり、湖に容易に到達できる。湖の周囲は、外輪に沿って約 6km、内輪に沿って 3.5km である。湖水
は塩分が多く、深さは最深 5.5mである。
この陸に閉じ込められた湖の水は、その周囲だけに季節ごとに降る雤と3つの泉からやってくる。火口
自体にも自然の奇跡としての興味もあるが、湖の塩分、高いアルカリ度、5~6つに分かれる自然群は、
さらに湖をユニークなものにしている。各自然群は、その土壌、水、湿気などの条件の違いによって、
特有な生態系を育んでいる。ロナー湖の生態系は、その稀有な地水および気候条件のゆえに、独特の
進化を遂げた。湖の周囲には、考古学的、社会・宗教学的に重要な8つの場所がある。
近年、ロナー市の急速な発展に伴う家庭排水が流れ込み、湖では富栄養化が進行している。流域にお
ける建設、洗濯、沐浴、土地改変などの人間活動が湖に悪影響を及ぼしている。生態学的、経済的、
文化的に重要なこの湖の生態系を長期的に維持していくためには、統合的湖沼流域管理とWLVに述べ
られている7つの原則を適切に適用することが鍵となる。
ウジャニ貯水池
ウジャニ貯水池は、旱魃に弱い地域の貯水と灌漑水の提供を主な目的に1980年頃に建設された。この
貯水池は、流域にある大小の貯水池の最終貯水池となっている。この流域では年間降雤量の約87%が、
6月中旪から9月末までの季節風の時期に降る。このような人造湖の管理は、流域における競合的な利
用による思いがけない影響や、その結果起こる機能低下など、複雑で多面的な問題であり、所定の目
的を果たせなくなることがある。上流で水利用が想定以上に増大し、さらに土地利用の変化や木材伐
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採によって土砂量が増加すると、貯水池周辺地域で利用できる水量が大幅に減尐する。家庭や工場か
ら出る汚染物や灌漑農業の廃水は、川辺の生態系やそれらが流れ込む人造湖を汚してしまう。
残念ながら、そのような野放しの活動が人間や湖の健康に長期的に及ぼす影響について、政治家や官
僚、さらに湖の利害関係者の誰も分かっていない。そのような問題は法令や規則を作ることのみでは
解決できない。真の問題は、既得権益や政治的都合によって、重要な政策を忠实に实施しないことに
あり、政治的な意志の欠如にある。このような状況を解決する方法の1つは、水の提供者、管理者、利
用者に、健全な自然の水生生態系と人造湖を取り戻すことの重要性を認識させることである。進歩的
な利害関係者が、政治家や官僚に圧力をかけて、そのための法律、政令などを制定させ、さらにそれ
らの厳格な实施を求めることが期待される。ウジャニ貯水池の事例報告においては、世界水パートナ
ーシップの指導を受けて、この方向に向けた努力の1つである「地域パートナーシップ」が、なぜ、ど
のようにして形成されたのかが述べられている。
アフリカ地域
地域の概要
アフリカはいろいろな面で対照的な地域である。世界で 2 番目に大きな大陸であるが、世界で最も乾
燥した砂漠と、最大の熱帯雤林、赤道下で最も高い山を有している。また、鉱物、森林、野生動物、
多様な生物種など、豊かな天然資源に恵まれている。アフリカには、1200 もの自然公園、野生生物保
護地区があり、総面積の 10%を占めている。しかしながらこれらの資源は偏って分布しており、残存
する世界の熱帯雤林の 20%以上はコンゴ共和国にあり、大陸の水資源の大部分は、コンゴ、ニジェー
ル、ナイル、ザンベジなど尐数の大河流域にある。自然は長くアフリカの人々の生活の中に織り込ま
れ、地域社会ごとに異なる伝統的・文化的な価値観が、アフリカの人々と自然の係わり合いを決めてき
た。多くの地域には土地固有の知識体系がある。同時に、多くのアフリカ諸国は、独立以来、長年に
わたる社会・経済的な試練に直面しており、経済成長はほとんどの国で停滞ないしはマイナスになって
いる。この状況は、多くのアフリカ人の生活、特に農村部の生活を著しく貧しいものにしている。
都市化が最も遅れた大陸ではあるが、アフリカの都市化の速度は世界で最も高い(世界の平均の約 2
倍)。それにもかかわらず、依然として多くの国で農業が基本的な経済活動(水の利用者)であり、
労働人口の 60%以上を占めている。貧困のために開発が滞り、資源の不適切な管理が大陸中で横行し
ている。多くの地域で人々は困難な条件下にあり、世界の最貧国の大部分がアフリカにある。
アフリカにおける多くの自然災害は、繰り返しやってくる旱魃や洪水であり、それによる社会経済や
環境に与える被害は、予測技術や災害復旧資金が不充分なために、壊滅的なものになる。ずさんな土
地管理施策が原因で、土地の务化や森林破壊が起こり、危険地域では洪水による災害が増えている。
深刻な土地务化の問題には、土地侵食の増加、肥度の低下、塩分増大、土壌の圧密化、化学肥料汚染、
砂漠化などがある。
アフリカは世界の 9%に相当する約 4,050km3/年の淡水資源がある。極端に変動が大きいことが特徴で
あり、サハラの乾燥した国では年間雤量が 20mm 以下であり、一方、西部、東部および中央アフリカ
の熱帯湿地では年間降雤量は 1,000mm 以上に達する。コンゴ、ニジェールおよびナイル川の平均放流
量は、それぞれ年間で、1,460km3、320km3 および 202km3 である。アフリカにある 50 近くの川は 2 つ
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以上の国にまたがっている。ビクトリア湖は平均表面積が 69,000km2 の世界で 2 番目に大きな湖である。
その他、大きな湖には世界でも有数の古代湖であるタンガニーカ湖やマラウイ(ニヤサ)湖などがあ
る。一人当たりの利用可能な水の量は年間 5,720m3(世界の平均は 7,600m3/年)あるにもかかわらず、
アフリカの 25 の国は、今後 20~30 年にわたって水不足あるいは水枯渇を経験すると予測されている。
結論として、地球規模の気候変動によって降雤量の予測が困難でかつ変動が大きくなることが予想さ
れており、人口の増大と経済発展に必要な水需要の増大を合わせて考えると、アフリカにおける水資
源管理は、大陸をあげて持続的な水資源という目標の達成に立ち返る必要があるだろう。
アフリカ地域の事例報告
この地域の事例は、ビクトリア湖(ケニア、タンザニア、ウガンダ)、ナクル湖(ケニア)、ジョー
ジ湖(ウガンダ)、およびカリバ湖(ジンバブエ)のものである。
ビクトリア湖(ケニア、タンザニア、ウガンダ)
ビクトリア湖は、3 つの国(ケニア、ウガンダ、タンザニア)が湖面を共有しており、その割合はそれ
ぞれ、6%、45%、49%である。3 つの国をあわせた人口の約 1/3 が湖にその生計を依存し、自給自足の
漁業や農業を行なっている。したがって、湖は地域の重要な経済的資源であるとともに、流域におけ
る人間活動の影響を特に受けやすい資源でもある。ビクトリア湖の流域は、経済的な状況を向上させ
るのに充分な天然資源があるにもかかわらず、「貧困と病気の地帯」と呼ばれてきた。
ビクトリア湖流域が直面する最大の脅威は、集水域における貧困な土地利用であり、進行する森林伐
採によって、湖に流れ込む川では土砂の堆積が増大している。土地利用に関連した問題には農家によ
る化学肥料の使用量の増大があり、ビクトリア湖の汚染の原因の 1 つになっている。大都市群も液状
廃棄物を流域に排出し、直接的に汚染負荷を増大している。河川や湖は、流域各地からの陸上排水、
産業廃液、廃棄物などによって既に汚染されている。湖の魚の繁殖地は、流域内の侵食や排水によっ
てもたらされる土砂で脅かされている。地域の農業は、生産性は良いが流域の汚染の増大を招く化学
肥料や殺虫剤および外来種に過度に依存している。
OSIENALA(ビクトリア湖の友)は、地域の NGO の 1 つで、ビクトリア湖の支流域であるニャンザと
西部地区で活動しているが、同じような考えを持つ他の NGO とパートナーシップを形成した。その使
命は、ビクトリア湖が直面している問題に対する地域および国際的な関心を呼び起こすとともに、湖
流域の資源の恩恵を最大限に生かすべく、ビクトリア湖地方の住民の能力向上を図ることにある。
ナクル湖(ケニア)
リフトバレーの東方延長部にある一連の塩・アルカリ閉鎖湖の 1 つで、ケニアの主要な観光地でもあ
るナクル湖は、「百万羽のフラミンゴがいる湖」あるいは「世界で最も素晴らしい鳥の景観地」など
さまざまに形容されている。湖は 1960 年に鳥類保護地区に指定され、ついで 1968 年には国立公園、
1987 年には最初のサイ保護地区、1990 年にはケニアで最初のラムサールサイト、1999 年には重要鳥類
指定地、2005 年にはケニアで初めて ISO9000 指定の世界クラスの国立公園に指定された。
この 40 年間でナクル湖流域は人口が著しく増大し、広範囲にわたる開発や都市化が進行した。ナクル
市は、比較的短期間に鉄道に沿った小さな集落から 50 万人以上の人が住む大都市に成長した結果、町
の状況は悪化した。この発展の間に、汚染、ずさんな農業や土地利用、人的侵犯、さらに流域保全の
13
ための適切な法律や政策の欠如などが原因で、水質の低下や堆積の増大など流域の务化が進んだ。そ
れに対して、政府、多国間・二国間援助機関、NGO、宗教界、地域協議会などが、問題の所在やその原
因解明に集中的に取り組み、流域の環境管理に重要かつ本質的な貢献をした。これらの貢献には、組
織や制度の整備、問題地域や汚染負荷の管理、集水域管理、公園管理などが含まれる。さらに継続的
に包括的な取り組みを進めていくためには、責任の所在の明確化、予算や人員の適切な配分、環境基
準や規制などの導入などが課題である。湖沼流域の調和の取れた保全活動を進めるために、いろいろ
な管理施策が採られてきたが、湖を管理するための総合的な取り組みを支援する「包括的なマスター
プラン」が必要である。
ジョージ湖(ウガンダ)
ジョージ湖はアフリカ大リフトバレーの西方延長部にある、赤道下の熱帯性富栄養湖である。湖の平
均水深、最大水深はそれぞれ 2.5m、4mであり、流域面積は 9,700km2、滞留時間は短く約 4 ヶ月であ
る。ゆったり流れるカジンガ川(長さ 33km)はジョージ湖とエドワード湖を結び、エドワード湖はさ
らにアルバート湖とナイル川につながっている。ジョージ湖は周囲の地域の 2,700 人以上の経済的な生
計を直接的に支えるとともに、流域の内外に暮らす多くの人々の生活を間接的に支えている。ルウェ
ンゾリ山頂の雪解け水を運ぶ 5 つの大きな川から水をもらっているので、ジョージ湖は、土砂が堆積
しやすく、また重金属や有機物による汚染がおこりやすい。この 30 年間、非常に生産性の高かったジ
ョージ湖流域は、集水域の务化、汚染、分水、乱獲漁業、土砂堆積などの脅威に曝されている。他の
地域と同様に、湖沼資源の減尐は湖辺における急速な人口増加がその原因である。
湖とその流域の管理を向上させるために、湖全体にわたる管理組織として LAGBIMO が創設された。
漁業に関する管理と利用の責任は地域住民に与えられ、法的権限をもつ草の根組織 (BMU:Beach
Management Unit)が設立された。今日までの保全活動の成果としては、(1)湖沼管理のための組織
に対する理解の向上、(2)湖沼資源の管理に対する地域住民の意識向上と参加、(3)湖辺住民の湖
沼資源利用機会の増大、(4)直接に湖辺住民の利益となる事業への地方自治体の投資の拡大、などが
あげられる。
カリバ湖(ジンバブエ)
カリバ湖は、東部アフリカのリフトバレーの单端が西に延びた地点にある。その流域は、アンゴラ、
ザンビア、ナミビア、ボツワナ、ジンバブエに拡がっている。カリバ湖の歴史は、1953 年から 1964 年
まで続いたローデシア・ニヤサランド連邦が主権国家に分裂した時まで遡る。この期間に、連邦国家
は経済発展に必要な水力発電を産み出すためにカリバダムを建設した。1958 年に堰き止められ、1963
年には最大容量まで満水された。最初はアフリカエネルギー公社によって運転されたが、ザンビアと
ジンバブエの間の国際協定にしたがって、ザンベジ川統治機構にその権限が移った。
事例報告では、カリバ湖の管理の歴史的な経緯、流域の大きさ、政治情勢、流域住民の文化的・経済的
な状況、地域の水資源管理の現状などが議論されている。もともと水力発電施設として始まったが、
流域管理は工学的・水文学的な関心が第一との考え方から、流域の社会、環境、地政学的状況を考慮
した管理様式に変わらざるを得なかった。流域住民が湖と深い関わりを持っている先進国の湖や貯水
池の場合と違って、カリバ湖の住民は湖の存在自体を知らず、湖の問題にはほとんど関心が無い。し
たがって、政府の政策立案と实施機関や流域住民の日々の行動には溝がある。この湖の事例は、政府
の政策を地域レベルで包括的に实施することに加えて、集水域の協議会を強化し流域住民や資源利用
14
者の参画を図ることが、WLV が示す流域管理をカリバ湖で实践するための方法の 1 つであることを示
している。
ヨーロッパ地域
地域の概要
ヨーロッパは、最も先進的な大陸で人口は 8 億 2 千万で世界の人口の 13.5%を占めている。出産率が
低く平均寿命が延びた結果、人口統計に占める高年齢層の割合が高いことが大きな特徴である。女性
一人あたりの出産率は、この 30 年間に 2.3 から 1.4 に低下した。この値は人口を維持するのに必要な
2.1 に比べてはるかに低い。貧困、紛争および経済の機会格差などに起因する人の移動は、ヨーロッパ
全土で大きな問題の 1 つになっている。EU の 12 カ国、3 億人からなる欧州通貨同盟が、2002 年 1 月
に形成され、米国に次ぐ世界第 2 の経済圏が誕生した。西ヨーロッパは比較的生活水準が高く、消費
行動が多様化し天然資源に対する需要が増加している。2004 年 5 月に EU 参加国が 15 から 25 に増加
したことによって、新たな政治的、経済的課題に直面している。
西部・中部ヨーロッパには、北極圏、東ヨーロッパの一部、地中海沿岸など、限られた地域を除けば、
人の触れていない自然はほとんど残っていない。土壌の务化と汚染は、土地利用における共通の問題
である。植林は森林地帯で徐々に進んではいるが(1990 年から 2000 年で 930 万 ha)、地域によって
は、現行の森林管理は生物多様性の維持にはなっていない。農業の大規模化や遺伝子操作された品種
が生物多様性を蝕んでいる。農業肥料に起因する窒素化合物による地下水汚染は、ヨーロッパ全体で
大きな問題であり、さらに地域によっては重金属や炭化水素化合物が汚染を引き起こしている。その
結果、水質・水量の確保やそのための政策や法整備は水の分野で大きな課題になっている。沿岸・海洋
地域にも侵食や汚染の影響が現われている。西ヨーロッパの人口のほぼ 4 分の 3 は都会の密集地に住
んでいるが、これらの都市は、大気汚染、廃棄物、騒音などの環境問題に直面している。
淡水資源の分布には偏りがある。年間平均降雤量も地域によって異なり、西ノルウェーでは 3,000mm、
中央ヨーロッパでは 100~400mm、スペインの中央および单部では 25mm 以下のところもある。一人
当たりの淡水資源使用可能量も地域によって大きな差があり、マルタでは年間平均で約 100m3 しかな
いが、最も水が豊富にある北ヨーロッパでは、例えばアイスランドでは年間 50,000m3 もあり、また地
中海地域では水不足気味である。水質の評価については比較的充分にデータがあるが、水量の変化を
評価したデータはあまりない。また、水質汚染はヨーロッパ中で深刻な問題である。水質汚染を低下
させる努力は西ヨーロッパでは尐しずつなされてはいるが、中央・東ヨーロッパでの状況は芳しくない。
水の利用を規制する法整備は進んでおらず、水量の問題は、貯水池、水輸送システムなど、貯水量を
増やすことで対応してきた。しかし、西ヨーロッパ諸国の中には、需要削減策や水利用に関する意識
の向上によって全体の水消費量を低下させた国もある。家庭や産業界も次第に水を有効に利用するよ
うになってきた。实施されている水保全策としては、メータによる計量、使用料や税金の値上げ、庭
園用水の制限、漏水の低減、利用者の教育などの他に、もっと有効な水利用法(低水量・二重式水洗
トイレ、低水量洗濯機など)の奨励などがある。
ヨーロッパ地域の事例報告
この地域の事例は、コンスタンツ湖<別称:ボーデン湖>(オーストリア、ドイツ、スイス)、バラ
トン湖(ハンガリー)、バイカル湖(ロシア)、バートン湿地(英国)のものである。この他、スロ
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バキアの貯水地の土砂管理に関する事例も含む。ロシアはヨーロッパの一部と考えられる場合が多い
ため、この報告書では、バイカル湖はアジアにあるけれどもヨーロッパの事例に含めた。
コンスタンツ湖<別称:ボーデン湖>(オーストリア、ドイツ、スイス)
コンスタンツ湖は、アルプスの北にある海抜 395mの湖で(表面積 571.5km2 、水深 254m、水量
48.5km3)、中央ヨーロッパの動植物にとって重要な自然の生息地である。コンスタンツ湖の周囲の約
433,000ha(4,330 km2)は農地で、この流域はドイツで最大のリンゴ類の栽培地である。集約農業によ
って卖位面積当たりの収量は大きく増加したけれども、まだ農家の大部分は中小の農家である。コン
スタンツ湖集水域のすべての経済活動は、320 の町と 400 万人に達する住民に飲料水を提供する、この
湖の持つ重要な役割と調和したものでなければならない。
数十年にわたる農業強化策により、ここ数年間にかけて農地の拡大が進んだ。国をあげた大規模農業
化と環境農業振興によって、農家は環境に優しい農業に取り組むように動機付けられ、その活動に対
して成果に応じた報酬が与えられる。フォアアールベルク州では大規模耕作が進み、2003 年には 75%
近くに達した(隣接地域や郡ではまだ 10~15%である)。農地の約 8%で有機農法が实施されている。
地域が一帯となった事業構造を作り、新たな市場を創出することによって、有機農法による環境にや
さしい食料の市場を拡大しなければならない。このためには、農業、販売、流通、交易、さらに観光
業との間で、新しいパートナーシップや協力体制の構築が必要である。
バラトン湖(ハンガリー)
バラトン湖は中央ヨーロッパで最大の浅い湖である。バラトン湖は、過去に、管理や開発の失敗によ
って富栄養化と自然の生息地务化を招いた。それでも湖とその集水域は、自然と経済の点で、まだ非
常に大きな価値を持っている。極めて季節性を有する観光業は、地域にとって重要な収入源ではある
が、一方で、自然、社会とその基盤に大きな負荷を与えている。地域および中央政府の政策決定者は、
湖の富栄養化を止め、湖とその周囲の汚染負荷を減尐させるためには、長期的な計画が必要であるこ
とを理解した。バラトン湖国立公園の設置、旧湿地の再生、バラトン湖水管理開発計画やバラトン湖
レクリエーション地域開発計画などの策定、いわゆる「バラトン湖条例」の制定などは、バラトン湖
の水質や環境の保全のための基本的な枞組みをなすものである。
2004 年にハンガリーの EU 加入によって、ハンガリーは EU の水関連対応枞組み指針を採用すること
になったので、2009 年までに(国内の)流域の水管理計画を作成し、2015 年までに表流水および地下
水の良好な水質を確保しなければならない。バラトン湖の集水域は、全体計画の中で 1 つの流域に指
定されている。近年、JICA、EU-LIFE、OECD、GEF などの国際プロジェクトによる成果が相まって、
監視活動や意思決定の仕組み、広報活動は非常に進歩した。多くの関係者がいる中で、バラトン湖開
発協議会は、地域における意思決定と情報伝達機関として重要な役割を担っている。
バイカル湖(ロシア)
バイカル湖:全域:巨大な渓谷をなす急な森や山に囲まれたバイカル湖は、ユーラシア大陸のロシア
連邦にある。世界で最も古く、深い湖で、世界の地表淡水の 20%を保有している。流域面積は
570,000km2 で、その 47%はモンゴル共和国にある。300 以上の河川が流域から湖に流れこみ、アンガ
ラ川が唯一の流出河川である。バイカル湖は、その長い歴史に独特の水文特性や水質特性が相まって、
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地上で最も生物学的な多様性に富む湖の 1 つであり、多くの固有の動植物を育んでいる。バイカル湖
流域では、2,565 種もの動物や 700 種の植物が見出されており、その 80~85%が固有種である。
バイカル湖流域には持続的な発展のための多くの可能性がある。残念なことに、この 60 年間に流域の
人間活動が急激に増大した。わずか半世紀の間に、水力発電ダム、木材伐採、農業、都市化、2 つのパ
ルプ工場、バイカル・アムール鉄道、大気や水を汚染する各種の工場などが、2,500 万年かけて成長し
てきた敏感な生態系を撹乱した。湖の周囲での建設や観光が盛んになり、無責任な観光業や観光施設
開発は、無責任な廃棄物処理や生息地の破壊につながった。地域の持続的な開発と湖の保全をめざし
た宠言や戦略が策定されたが、これらを实際の活動に移すための政治的な意志が明確でない。持続的
な開発という概念や原則が、まだロシア社会の多くの分野・階層の人々の考え方の中で定着していない
ので、湖を巡る政治情勢は不確定である。そのような中で、バイカル湖流域の NGO は監視役として、
また持続的な湖沼管理のために、WLV の原則を实現するための活動を進めていくうえで重要な役割を
担っている。
バイカル:セレンガ川デルタ:セレンガ川デルタは、バイカル湖の中で最も壮観な場所の 1 つであり、
世界で最大の淡水デルタである。セレンガ川は、バイカル湖の最大の支流で、湖に流れ込む河川水量
の 50%を占めている。600km2 以上の湿地には、水路、島、沼、ヨシやスゲの茂みなどが各所にあり、
渡り鳥の季節には、セレンガ川デルタに重要な稀有種を含む 500 万羽以上の鳥がやってくる。この地
域は、バイカル湖周辺の中では最も人口が密集した地域の 1 つである。就業機会に乏しいので、多く
の湖辺の住民は生活のために、木材伐採、漁業、狩りなど、天然資源の搾取や工業生産を行なってき
た。そのため、デルタの保全や地域で責任ある観光開発を進めることは非常に重要な課題である。バ
イカル湖の他の地域と同様に、デルタ地域も観光地として開発されているわけではないが、周辺のウ
ラン・ウデやその近くは、急速に人気の高い観光地になりつつある。
「セレンガ川デルタにおけるエコ・ツ-リズムの開発」は、エコ・ツーリズムを進める Firn Travel
(現地 NGO の Club Firn)、英国のブローズ管理局によって实施されたプロジェクトである。その目
的は、すべての関係者が参画してセレンガ川デルタにおけるエコ・ツーリズムの計画を作成し、それ
を展開していくことにある。このプロジェクトを通じて、住民は、地域におけるエコ・ツーリズムの
発展に自分たちの考えをもちこみ、環境保全に基づいた観光ビジネスの機会を推進した。またこのプ
ロジェクトによって、住民、地元の企業家、NGO、教育機関、保全管理局、地方政府、地域の観光協
会などの協力関係が進展した。
バートン湿地(英国)
バートン湿地は、ブロード(Broad)と呼ばれる英国東部イングランドにある約 60 の浅い湖からなる
湿地帯の中で最も大きな湖である。地元ではブローズ(Broads)と呼ばれるこれらの浅い湖は、グレ
ート・ヤーマスで北海に注ぐ 5 つの低地を流れる川の水路に沿って発掘された泥炭地が、中世期に浸
水して出来たものである。バートン湿地は、面積 77ha、ノーフォークの北西の湿地内を流れるアント
川の峡谷にある。湖はブローズ管理局の特別地区にあり、英国国立公園の一部である。ブローズ管理
局は、3 つの大きな法的義務を担っており、保全、航行の安全、住民の娯楽を目的に湖を管理している。
1995 年、ブローズ管理局は 330 万ポンド(650 万ドル)の「Clear Water 2000」を開始した。その目的
は、湖を健全で魅力的な状態に再生し、野生動物を保護し、市民の楽しみを増大させることにあった。
また他に、水質改善のためにリンを含んだ汚泥 300,000 m3 を除去すること、および湖の生態系回復の
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ためにバイオマニピュレーション3(生物操作)を实施することを目的とした。この間に、統合的で持
続的なバートン湿地のための共通のビジョンや計画が、現地の関係者を含む合意形成プロセスによっ
て策定され、湖の重要性や、自然や文化遺産、航行や娯楽など地元住民にとっての価値などが明らか
にされた。
再生プロセスを通して、湖の栄養負荷の大幅な減尐が達成され、また斬新な技術を用いて、水の透明
性や植物の成長を取り戻すことに成功した。さらに、すべての船舶の航行に必要な幅と深さを確保す
ることも出来た。栄養分が減尐しても、浅い湖が回復するには 15~20 年掛かるので、このような再生
プロジェクトが長期的に成功するたには、関係者の継続的な参加と支援が重要である。
スロバキアの貯水池(土砂管理)
小さな人口貯水池は、あたかも自然湖のように集水域の中で多くの役割を果たしている。その主要な
役割は水文学的なもので、年のある期間に降った雤を貯え、下流域を洪水から守ることにある。その
他、小規模の湖に溜まった水は、水力発電、飲料水、灌漑用水などにも利用される。湖や貯水池の水
質や水量に影響する致命的な問題は、上流の集水域からやってくる土砂の堆積である。この事例報告
では、スロバキアの小さな貯水池における土砂堆積に関する問題が述べられ、土砂管理の重要性が、
WLV の 7 つの原則の観点から示されている。
ラテンアメリカ・カリブ海地域
地域の概要
ラテンアメリカ・カリブ海地域(LAC)は、世界の陸地の 15%を占め、20 の国がある。それぞれ、固
有の経済的、社会的、地形的、気候的、環境条件を備えている。この地域の人口は、2005 年の推定で
5 億 5,900 万人、2050 年には 8 億 500 万人になると予測されている。人口の 76%は都市部に住んでおり、
この地域は、発展途上国のなかで最も都市化が進んだ地域である。この地域の推定経済成長率は、他
の発展途上国には及ばず、またその数字も国や地域で大きく異なる。人口のほぼ 26%が 1 日 2 ドル以
下の生活をしており、貧困と収入格差の問題は、水や衛生などの基本的なサービスの不平等と並んで、
継続的に問題となっている。
環境面で言えば、アマゾンの熱帯雤林は CO2 吸収源として地球規模で重要である。またその一帯は巨
大な水文システムであり、生物多様性に富み、地球上の大部分の種の生息地である。この地域の森林
面積は陸地全体の 45%を占め、世界の森林面積の 25%に相当する。この地域には世界の耕作可能な土
地の 23%があり、現在、世界の作付け地の 12%と牧草地の 17%がこの地域にある。
1950 年頃から、この地域は、急速な経済成長、工業化、都市化、農業の近代化と拡大などと密接に関
連した環境問題に直面している。ほとんどが原材料の生産地であり、新たな市場経済モデルと地球規
模での取引の進展によって、この地域の天然資源の搾取が進んだ。経済発展によって、森林破壊、生
息地破壊と生物多様性の喪失、地下水汚染と枯渇、水の入手と利用をめぐる紛争、大気汚染、重金属
汚染、都市廃棄物、土地や海洋資源の搾取、土壌の栄養分減尐と浸食、過放牧と砂漠化などの問題が、
3
バイオマニピュレーションとは、人為的に水界生態系の食物連鎖システムの一部を変えることによって水質改善を図
るものであり、日本では 2000 年に初めて白樺湖で行われた。例えば、プランクトン食魚を食べる魚を放流することな
どによって、プランクトン食魚の数を減らし、ダフニア等の藻類を食する大型プランクトンの数を増加させる。そし
て、増えたダフニアが藻類の現存量を減尐させ、湖の水質が向上するというものである。
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深刻さを増している。この地域は、人間活動の影響を比較的受けていない天然生態系の割合がまだ高
いが、178 の自然生態のうちの 31 は危機的な保存状態にある。
ラテンアメリカ・カリブ海地域は、世界の水の 30%を供給しているが、その分布は非常に偏っており、
地域の再生可能な水の半分以上はアマゾン川流域に集中している。一人当たりの使用可能な水量の減
尐、水質の悪化、古いままの制度や法体系などが大きな問題となっている。農業利用が全体の水利用
の 80%を占めているが、都市部においても 35%の水が無駄あるいは用途不明である。ラテンアメリカ
は、この 30 年間、世界で最もダム建設が行なわれた地域である。この地域の都市は、現在主に川から
水を引いているが、表面水が枯渇すると、地下水に依存することになる。
ラテンアメリカ・カリブ海地域の事例報告
この地域の事例は、サンロケ湖(アルゼンチン)、フケネ湖(コロンビア)、チャパラ湖(メキシコ)
のものである。レルマ川・チャパラ湖流域の図解書が、この事例報告の作成を機に発刉された。チャ
パラ湖流域のさらなる情報源としてのこの図解書は、11 の機関の 60 人以上の科学者から寄せられた最
新の科学的情報を含んでおり、PDF の形で入手可能である(www.ine.gob.mx)。
サンロケ湖(アルゼンチン)
コルドバ州のプニラ峡谷にあるサンロケ湖流域(SPLW)は、天然資源が豊かな美しい地域である。サ
ンフランシスコ・コスキン川とサン・アントニオ川という大きな 2 つの川があり、2 つの川の合流点か
らはプリメロ(スクイア)川が流れ出している。1939 年に建設されたサンロケダムは、2 つの川の合
流地点に浸水し、周辺の生態系を変えてダメージを与えた。この地域はアルゼンチンで 2 番目の重要
な観光地であり、地域の発展に大きな影響が出た。またこの地域は、環境と社会経済が深刻かつ複雑
に絡んだ問題に直面しており、森林の喪失が地域経済をいたるところで明白に脅かしている。これら
の問題は、峡谷に暮らす 264,000 人の住民だけではなく、飲料水をサンロケ湖流域に依存し、180 万人
の市民が密集するコルドバ市にも影響を与える。流域の主要な水環境問題は、非持続的な土地利用、
水汚染、過度の水利用などである。
「サンロケ湖流域の回復をめざす支援プログラム」と呼ばれる総合的な運動は、開発と保全の問題を
同時に進める合理的な資源利用を目的に、サンロケ湖流域で進められている。その主要な活動は、(1)
統合的な集水域管理計画の实施、(2)森林の再生、(3)農業、放牧、観光の影響緩和、(4)公式・
非公式の教育、などである。
フケネ湖(コロンビア)
フケネ湖はコロンビアの「北アンデス地域」にあり、单アメリカの生態湿地の 1 つである。コンサベ
ーション・インターナショナルによれば、この地域は熱帯アンデスのホットスポットであり、保全の
優先度が極めて高い。フケネ湖は、高度 2,530mにある表面積 30km2 の湖で、(1)飲料水など人間に
必要な水提供、(2)生物資源(魚、鳥、イグサなど)、(3)絶滅危惧種の生息地、(4)物資の輸送、
(5)娯楽、などさまざまな生態系サービスを提供している。181,000 人が湖とその周辺に住み、その
うち 105,000 人は田園地区に、76,000 人が都市部に暮らしている。この地域の主要な経済活動は、牧畜、
農業、乳製品製造で、流域には 171,000 頭の家畜が飼育されており、50 ほどの乳製品工場がある。
19
湖の富栄養化が非常に進んでおり、下水、乳製品製造工場、家畜の世話に伴う排水などが主要な汚染
源である。増大する水需要、固有種や絶滅種の生息地、湖・湿地の地域・国にとっての重要性などと同
時に、この自然資源に頼る経済活動を考えると、湖の重要性は明らかである。フケネ湖では伝統的に
漁業が行なわれ、現地では食料や収入源として重要であるにもかかわらず、漁業管理局と漁業従事者
の協議による明確な理解に基づくような漁業管理計画は、2005 年になるまで作成されなかった。この
事例報告は、(1)参加型の地域診断取り組み、(2)漁業調査への住民の参画とその結果の共有、(3)
住民と漁業管理局の保全に向けた合意と対話チャンネルの設置、などに向けて取り組まれた戦略、活
動、教訓などをまとめたものである。
チャパラ湖(メキシコ)
メキシコ最大の湖であるチャパラ湖は、経済、人口、生産などにおいて、メキシコで最も重要な地域
の 1 つであるレルマ川・チャパラ湖集水域を形成している。湖は浅く、最深部でも 8mしかない。その
集水域は 5 つの州を含み、そのうちの 2 つ(ハリスコ州とミカオカン州)が湖を取り囲んでいる。レ
ルマ川・チャパラ湖集水域は水利用が最も進んでいる地域で、農業灌漑用に 80%、その他が都市や産
業用水となっている。湖に流入する水は、流域で増大する水需要のための負の影響を受け、自然の湖
面変動の幅を拡大している。2002 年、湖はその貯水可能量の 13%にまで低下した(現在は、2003~
2004 年の異常な雤量によって何とか回復している)。チャパラ湖はさまざまな役割を持っており、メ
キシコで 2 番目に大きいガダラハラ市を含む、湖周辺の約 400 万人の住民の飲料水を提供している。
また観光資源としても大きな可能性を持っているが、その開発はまだあまり進んでいない。湖の水は
泥で濁っており、それが湖の生態系プロセスに大きな役割を果たしている。ある研究者の報告によれ
ば、湖の栄養化特性はプランクトンよりも浮遊粒子に付着しているバクテリアで決まり、そのバクテ
リアを魚が食べている。この泥水は汚染物質を湖底に沈め、ある程度の汚染防止の役割を果たしてい
る。
チャパラ湖はさまざまな厳しい問題に直面しているが、中でも水量の低下と湖底への固体堆積は、
1980~2000 年にかけて 100 万 ha にも及ぶ自然の植生を喪失させた。流域の土地管理は全般的に脆弱で、
生態系の搾取と貧困につながっている。「コルデイロ・カナレス山の持続的な開発プログラム」は、
チャパラ湖への流入水と、17 の村と 2 つの中規模都市の人たちが使う年間 7,200 万トンの水を確保す
ることをめざして、2001 年に始まった。
北アメリカ地域
地域の概要
北アメリカ地域はカナダと米国しか含まないが、世界の人口の 5%が住み、資材の生産量とその消費量
の最も多い地域である。人口の増加率は低いが、ラテンアメリカ・カリブ海地域、アジア・太平洋地域
からの継続的な移民による人口増があり、民族の多様性が増加している。さらに高齢化が進み、2025
年までには地域の人口の 1/4 が 60 歳以上になると予測されている。1972 年に北米自由貿易協定が締結
され、両国の経済は次第に統合され、サービス中心の経済活動に移行しつつある。米国の一人当たり
国民総生産は平均 28,350 ドル(2001 年)、平均消費レベルは 18,200 ドル(1997 年)である(世界の
平均消費は 3,250 ドル)。この地域は世界の総エネルギーの 25%近くを消費している。このような生
産と消費行動は地域の環境に大きな圧力となっており、地表や地下の水資源にも負荷が掛かっている。
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北アメリカは世界の使用可能な淡水資源の 10~15%を保有している。水の消費の割合も世界で一番多
く、米国では 1990 年代後半には一人当たりの消費量は 1,500 トンを越えていた。米国では保全対策の
实施によってこの量は尐し低下したが、カナダでは水の消費は増大し続けている。1970 年代から实施
された水汚染対策によって点源汚染は激減したが、面源汚染は依然として水質に対する脅威である
(特に都市部の雤水と農業排水)。地下水の過度の取水は水利用の新たな脅威である。農業活動(窒
素分、殺虫剤など)や都市化に伴う汚染(染み出しの拡散、地下水貯蔵タンクの漏れ)に加えて、地
下水の枯渇が、人々だけでなく、乾期には地下水流出に依存する地下水の流れや湖にとっても脅威に
なっている。北アメリカにおける表面水や地下水の汚染は、場所によっては近年深刻な健康被害に至
り、公的水供給機関ではさらなる改良に取り組んでいる。
北アメリカには五大湖があり、世界の表面淡水資源の 20%を保有している。これらの湖は、1970 年代
までの数十年間に深刻な人為的汚染を経験した。当時、エリー湖の「死」が宠言され、米国とカナダ
は 1978 年に五大湖水質協定の調停に至り、市民、産業、市役所、政府をあげて、湖に汚染物を流すこ
とを禁じる大きな運動が始まった。この運動によって、2 つの国では、内陸湖への汚染物放流を規制す
る多くの補完的な法整備がさらに進んだ。陸上活動に起因する汚染や大気汚染を規制する努力は今も
続いているが、最近は、湖や近隣の水系に非固有の動植物が持ち込まれ、新たな問題として浮上して
いる。
北アメリカ地域の事例
この地域の事例は、シャンプレン湖(カナダ・米国)、ケリー湖(米国)、ウォーターフォード貯水
池(米国)のものである。
シャンプレン湖(カナダ・米国)
シャンプレン湖流域は北アメリカの北東部にある大きな集水域で、いくつかの州と 2 つの国に広がっ
ている。西は米国ニューヨーク州のアディロンダック地方から始まり、東はバーモント州のグリーン
山脈に至り、カナダ、单ケベック州の肥沃な大地を一部含む。流域の約 10%が、湖沼、河川である。
湖は全般的にはきれいであるが、幾つかの入り江や湖岸地域では深刻な汚染問題が見られる。湖の最
重要課題として、(1)湖へのリン成分の流入低減、(2)毒性汚染物の低減、(3)健康被害の最小化、
(4)外来種の持込と拡散の禁止、の 4 つが定められている。他の管理上の重要課題は、魚や野生動物
の保護、河川や岸辺の生息地の管理、および文化遺産やレクリエーションの場の管理である
シャンプレン湖の管理においては、意思決定プロセスに住民が参加することが大きな役割を持ってい
る。国、州、地方のパートナーが資金を出しあい、地域を越えた取り組みが巧みな調整のもとで有効
に实施されている。適切な管理政策が利用可能な最善の科学を用いて皆に伝えられ、地域の利害関係
者にできるだけの説明がされている。管理施策は全体として WLV の原則に合致している。
ケリー湖(米国)
ケリー湖は、米国ウィスコンシン州のオークシャーとミルウォーキーにある。下ケリー湖は泉の湧き
水でできた 1ha の湖で、北側に排水して湿地や排水溝を潤し、上ケリー湖につながっている。上ケリ
ー湖は 5ha の排水湖で、大部分の水は地表の排水であるが、地下水も一部流れこんでいる。湖の单西
湖岸には明確な流入口があり、年中絶えることなく水が流れ込む。一方、下ケリー湖につながる单湖
岸には間欠的に水が流れこむ。
21
下ケリー湖の最深部は 9.4mで、平均深さは 5.2m、貯水量は 26 万トンである。ケリー湖に流れ込む
398ha の流域の大部分は都市部で、一部に湿地、林や自然のままの開放地などがある。流域の都市開発
の多くが 1950~1963 年に始まり、都市部の大部分が住宅地となっている。1990 年代の後半には、人口
の増大と開発の結果、水質と洪水の危険が問題となった。
上ケリー湖は小さな排水湖で、非常に都市化した場所にあり、歴史的に水路から水が流入する。この
事例報告は、地方および州政府と協力して行なわれたケリー湖協会の取り組み湖の管理と保全のため
の補助金を獲得するまでの経緯とそれによって实施された河川・湿地の再生プロジェクトについて述
べている。
ウォーターフォード貯水池(米国)
ウォーターフォード貯水池は米国ウィスコンシン州にある大きな排水湖で、広大な排水地帯を構成す
るイリノイ・フォックス川の中ほどにある。その集水域には都市部と農地が混在している。貯水池は、
ブエナ湖、チチガン湖という 2 つの自然湖からなり、その 2 つはイリノイ・フォックス川の一部でつ
ながっている。貯水池の大きさは 458ha、最深 20m、平均の深さ 2mで、878 万トンの貯水能力がある。
貯水池には流域からの排水のほとんどが流れ込む。この貯水池に流れ込む 938km2 の流域には、都市部
と農村部が混在し、一部、湿地や林などの開放地がある。流域における急速な都市化は第二次世界大
戦のあとで始まり、流域は、田園・農村地帯から、特に水源地を中心に都市化が進んでいった。流域の
土地利用の特徴は住宅地が中心で、2000 年時点で流域面積の 20%を占めている。とはいっても、流域
の土地利用の 40%はまだ農地である。
川辺の住民の努力によってウォーターフォード水路管理局が設立された。この事例報告は、同管理局
が、地方および州政府と協力して湖の管理と保全のための補助金を獲得し、湖の再生のためのプロジ
ェクトを实施した経緯をまとめたものである。
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第3章
世界湖沼ビジョン(WLV)の原則の適用
はじめに
この章では、個々の事例報告のデータや経験、事例の分析から得られた結論などに基づいて、WLV の
原則がどのように適用されているかを議論する。WLV の原則は 7 つあるが、それぞれについて、地域
の事情も考慮しながらすべての事例について検討した。既に述べたように、事例報告は、各湖とその
流域で日常的に活動している現地の専門家によって書かれたものである。したがって、この章で示さ
れる WLV の原則の適用がどのように適用されているかについての評価は、個々の著者の見方や分析
を反映したものになっており、その議論や結論が、個々の湖沼流域によって異なっている点があるこ
とを念頭にいれておいてほしい。
世界湖沼ビジョン(WLV)の原則の適用
原則 1:人間と自然との協調関係は、湖の持続性にとって不可欠である。
アジア太平洋地域
ポーヤン湖(中国)
ポーヤン湖では 1998 年から湖に農地を再生させるための事業が实施されたが、その取り組みは、中国
政府や地方自治体が、「人間と湖に間の調和した関係」を实現しようとしたものである。
センタラム湖(インドネシア)
人間活動と湖沼環境の間の調和した関係に注意を払うことの重要性は、この公園を持続的に利用する
ための役割と機能を現地の住民が充分に理解して初めて達成される。政府がこの認識を高めるために、
センタラム湖流域に住む現地住民によって实践されてきた慣習的な規則を記録に残し発行した。現地
の地方自治体はこの本を活用して、公園内の住民が公園の保全者として行動するように指導している。
琵琶湖(日本)
「ホタルが飛び交う故郷を取り戻そう」という目標は、WLV の原則 1「自然と人間の共生」という考
え方の实践的な一例である。
デチェン湖(韓国)
「デチェン湖を救おう運動」は、教育と娯楽のイベントを開催して人々に呼びかけた。代表的なイベ
ントには、小学生を対象にした「デチェン湖を体験し、好きになろう」、現地住民を対象にした「デ
チェン湖アウトドア祭り」、「デジカメ写真コンテスト」などがある。これらの運動は、人間と自然
の間の調和した関係を育てるという目標のもとに行なわれている。
タウポ湖(ニュージーランド)
タウポ湖流域にある 3 つの異なるレベルの行政府の決意とその住民の取り組みによって「タウポ湖行
動計画」が策定された事例は、人々が協力して湖とその流域の環境を保全した明確な例の一つである。
23
ラグナ湖(フィリピン)
この湖沼流域の管理と開発のためのすべての取り組みは、すべての環境保全活動の目的を明確に示し
た WLV の原則 1 に根ざしたものである。事实、ラグナ湖ビジョンの一部には、「湖沼生態系の機能を
維持するために、すべての人が調和して力を合わせる湖を目指す」という一節がある。
7 つの火口湖(フィリピン)
「7 つの湖を守る会」は、第 1 原則を、原則というよりも環境意識啓発運動の目的あるいは成果の 1 つ
と考えている。
单アジア・インド地域
ボージ湿地
この湖は保全の取り組みの進んだ集水域にあり、地域の社会経済的な発展に必要な淡水貯水池として、
飲料水を提供している。湖の多様な関係者と湖生態系の間には調和的な関係が存在している。湖の集
水域では、有機農法が奨励され化学肥料の使用削減に力を入れるなど、適正な管理がなされている。
湖の自然、経済、社会的な質の向上を目的とした、包括的なボージ湖の保全プロジェクトが实施され
た。マディヤ・プラデーシュ州政府による湖沼保全局(LCA-MA)の設置や上ボージ湖の持続的な管
理に成功したこのプロジェクトは、单アジア全土でさまざまな対策が取られるきっかけとなった。
チリカ湖
チリカ湖の再生と持続的な管理の成功のカギは、生活の糧に同湖の資源を利用している 20 万人以上の
現地住民の参画にあった。現地住民との広範な協議と保全計画作成への彼らの積極的な参画によって、
チリカ湖開発公社(CDA)の再生事業はスムーズかつ効果的に進んだ。再生事業の成功によって、湖
の生産性は大幅に向上し、湖沼資源の持続的な利用に対する流域住民の確信が深まった。さらに、住
民は、湖沼資源の持続的な利用にとって有効な施策に自主的に取り組むようになった。
フセインサガール湖
この湖は、双子都市ハイデラバードとセカンデラバードの中心部にあり、あらゆる階層の人々にとっ
て、自然、文化、経済的に重要な意味を持っている。これまでに「水・木・大地・大気保全法」のよう
な適正な法整備や政策決定などの努力が行なわれてきた。決定された施策は、この大都市に住む 80 万
人にとっての憩いと休息の場を守る目的で既に实施されている。
ポワイ湖
この湖は、その湖岸に有名なインド工科大学(IIT)があることでも知られている。またこの湖は、人
口 1,000 万人以上の巨大都市ムンバイの人々にとっての憩いと休息の場でもある。この湖には多くの魚
が生息し、インドで最も古い釣り愛好家協会の 1 つであるマハラシュトラ州釣り愛好協会(MSAA)
がある。この協会は良く知られた NGO で、他の NGO(ムンバイ自然史協会など)と協力して、「ポ
アイ湖を救おう」という運動の先頭に立っている。
ロナー湖
自然の奇跡と呼ばれているロナー湖は、单アジアにある火口湖で塩湖である。この湖は、生態学、考
古学、地形学、社会学的に独特の特性を有している。また、社会宗教的、科学的にも非常に重要で、
毎年何千もの巡礼者がこの湖を訪れる。地下の泉以外に集水域はないが、湖の近郊での開発によって、
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地下水が湖の低い部分に染み出し始め、水質、特に塩分やアルカリ分に大きな影響が出始めている。
流域で森林局が行なっている大規模農園は湖のユニークな自然を脅かしつつある。
ウジャニ貯水池
ウジャニ貯水池は、单インドの大河クリシュナ川の支流ビーマ川に面する中規模の灌漑用貯水池であ
るが、集水域で進行した大規模な都市化と工業化の圧力を受けている。上流の都市からやってくる汚
染物や化学肥料を多用する農業からの排水で、湖の水質は悪化しつつある。異なる利用者間の競合的
な利用(灌漑、漁業、都市用水など)によって、湖の生態系には非持続的な圧力がかかっている。ま
た、湖は土砂堆積や水質汚染などの深刻な問題を抱えている。各地で増大し続ける水需要を解消させ
ることは困難で、田園部と都市部の間の紛争を招いている。もし地球規模の気候変動のために季節風
の時期が狂うと、湖の水質や水量に悪影響をもたらし、生態系のさらなる务化につながる。
アフリカ地域
ビクトリア湖(ケニア、タンザニア、ウガンダ)
ビクトリア湖の湖岸 3 国では、近年、流域の環境を改善するための適切な法整備が進んでおり、WLV
の適用が進んでいることは明らかである。事例報告は、人間と自然の間の調和した関係を強めるため
の手段として住民と有効に協力していくためには、組織化された住民のプラットフォームの果たす役
割が大きいことを示している。また、この事例報告は、湖沼流域保全の取り組みに広範な関係者が参
加できるような戦略的な湖沼管理計画の策定が必要なことを強調している。
ナクル湖(ケニア)
事例報告は、それぞれ持続的な調和を实現していくための重要な 2 つの視点を示している。最初の視
点は集水域管理に注目し、下流にある湖の生存と関連して集水域の機能を住民に充分理解してもらう
ことの必要性を述べている。もう 1 つの視点は、複雑な都市開発の状況を示し、将来にわたる湖の保
全の取り組みに対する理解を得るために、広範な関係者や住民が参加できる枞組みを作る必要性を述
べている。そのために、これまでに各種の地域組織や NGO の組織化や、民間部門、半官・政府機関な
ど重要な湖沼関係者を引き込むための努力がなされた。ナクル湖構造計画の实施に責任を持つ市当局
によって「市民のビジョン」が設置されたことは、流域の持続的な保全にすべての関係者を参画させ
ようとする努力の現われである。この事例報告は、すべての湖沼関係者の善意によって、総合的な戦
略的湖沼流域管理計画を策定することの重要性を強調している。
ジョージ湖(ウガンダ)
この湖の活動は、湖沼管理計画を策定し、人間と自然の間における調和の取れた関係を築いていくと
き、すべての湖沼関係者が有効に力を合わせると大きな利益をもたらす、ということを非常に明確に
示している。湖の流域全体を管理する機関“ジョージ湖流域統合的管理機構(LAGBIMO)”と湖の浜辺
を守る“湖岸管理組合(BMU)”が設立され、住民は、湖の天然資源の価値を正しく理解し、持続的な
保全施策を推進するようになった。ジョージ湖のような自然資源を管理するための長期的な投資や、
現地住民の主体的な管理活動は、適切な対話によって可能になる。
カリバ湖(ジンバブエ)
この湖は、湖沼流域管理における工学的な側面と社会的な側面の間の明確な溝を強調している。2 つの
関係国によってさまざまな湖沼保全活動が实施され、中でも、ザンベジ川統治機構のもとで策定され
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たザンベジ行動計画は両国の誠意の現われであった。しかし、この善意の中には流域に住む地域住民
の経済的な暮らし向きに対する配慮が欠けている。このため、この湖では WLV の原則 1 をすぐに適用
することは困難であり、まず、湖沼管理に関する方針決定や計画作成に住民を参加させ、湖沼管理の
目標やそのメリットをすべての関係者に理解してもらうための有効な対話を進めることが必要である
と強調している。
ヨーロッパ地域
コンスタンツ湖(オーストリア、ドイツ、スイス)
原則 1 は他の原則の根底をなすものと考えられるが、湖沼流域管理の状況にかかわらず、それを完全
に实現することは難しい。「コンスタンツ湖管理の手引」は、湖辺 3 国が合意したビジョンを示して
いるが、その設定において民間や研究機関を除外したために、すべての湖沼関係者が支持するものに
なっていない。そのため原則 1 は他の原則と比べて实施が容易であると考えられているものの、この
湖では原則 1 は部分的にしか实施されていない。ここでの明確な教訓は、合意に基づく湖のビジョン
を策定するためにはすべての湖沼関係者が参画する必要があるということである。
バラトン湖(ハンガリー)
この湖では、原則 1 は持続的な観光に関する EU-Life プロジェクトを通じて实施されている。このプ
ロジェクトの主要な目的は、政策決定者、観光実、現地住民など広範な人々の要求に取り組むことに
ある。バラトン湖開発協議会は、このプロジェクトを持続的な湖沼管理のための地域の意思決定モデ
ルにしたいと考えている。バラトン湖のビジョン「バラトン湖の自然」が策定され、それをもとに
2007~2013 年の一連の地域開発プログラムが計画された。関係者の参画と意思決定の透明性は、プロ
ジェクトの目的の 1 つである。したがって、この湖では原則 1 の適用は充分考慮されているといえる。
この事例報告で明らかにされていることの 1 つは、中央政府と結びついた調整機関を作り、地域の湖
沼戦略と国家政策との調和を図ることが重要だということである。地域の湖沼戦略の作成や普及には
多くの関係者が参画する。
バイカル湖(ロシア)
バイカル湖は 1996 年に UNESCO 世界遺産になり、WLV の最初の 3 つの原則が同地域(880 万 ha)の
持続的な発展のための基礎となった。原則 1 は GEF の資金援助で策定された戦略文書にも含まれた。
しかし、原則 1 の趣旨は中央政府によって確認されて承認されたものの、既得権益集団は地域の天然
資源を搾取する機会を求め続けたので、实際には原則を有意義に適用することはできなかった。持続
可能な開発という概念や原則は、流域の多くの分野や階層の人たちの考えの中でまだ定着していない。
その結果、ロシアにおける経済状況からの圧力もあり、原則 1 の宠言は後退し、それと矛盾する結果
を生んだ。ここで学んだ明確な教訓は、ビジョンの制定や原則の宠言は広範な住民の承諾を得た強力
な政策や法整備によって厳密に裏づけられなければ無意味であるということである。セレンガ川の場
合、このデルタで活動する人たちは、この包括的な原則が関係者を湖沼管理の活動に引き込むための
出発点となると考えた。すなわち、彼らは人間と自然の調和のある関係という原則を利用して、この
敏感なセレンガ川デルタを保全していくための戦略策定のプロセスに、政府、事業家、NGO、住民が
共同して取り組む体制を築いていった。この地域では原則 1 は最も实施しやすい原則の一つである。
この事例で得られた教訓は、湖沼ビジョンの目標を原則 1 に置くこと、および関係者の全員参加であ
る。
26
バートン湿地(英国)
バートン湿地の事例は、前述のバイカル湖の場合とは異なり、劇的な変化をもたらした事例の一つで
ある。「幅広くなった河川」に由来する湖(湿地)であるバートン湿地は 77ha の面積があり、国立公
園に指定された湿地(3 万 ha)の一部である。原則 1 は、広範な住民協議やすべての流域関係者の参
画によって 1987 年に生まれた流域管理計画の中で採用されている。合意された地域の将来ビジョンに
はこの原則が銘記されている。この事例は多面的なプロジェクト「Clear Water 2000」について述べた
ものである。原則 1 を適用し持続的な利用の原則に基づいて湖を管理するために、すべての関係者が
熱心に参加し活動に取り組めるように連絡会議が設立された。原則 1 は、自然と適切な人的利用をバ
ランスさせる基本的な原則を提供するもので、湖沼流域管理の道標となるべきものである。
ラテンアメリカ・カリブ海地域
サンロケ湖(アルゼンチン)
原則 1 がオラエン森林地域景観再生プログラムの中で適用された。このプログラムは、森林破壊と土
壌浸食を食い止めるために、地域農業生産システムの中に持続的な森林業を育てようとするものであ
る。
フケネ湖(コロンビア)
湖の实地調査や、湖の漁業資源、健全な環境の保全を目的とする政策や規則の策定に漁師と一緒に取
り組んだ活動は、原則 1 の適用に通ずるものである。
チャパラ湖(メキシコ)
チャパラ湖においては、コンディーロ運河山の持続可能な開発プログラムのなかで原則 1 が適用され
た。このプログラムにおいて、森林の再生、保全、持続的な利用を目的に、関係者の参加が促進され、
流域の湖沼問題の特定、住民主体の事業計画の作成とその实施が推進された。
北アメリカ地域
シャンプレン湖(カナダ、米国)
この流域では、流域環境の保全と改善および経済的な利益を守るために、適切な流域管理計画が实施
されている。シャンプレン湖流域プログラムは、環境バランスと経済的な利益を共に達成するために、
流域内のすべての関係者が採るべき対策の工程表となっている。
ケリー湖(米国)
湖沼流域のビジョンを作成し、水資源の保全を提唱していくとき、管理機構のタイプや形態も問題に
なる。ケリー湖協会は、湖沼管理計画を提唱、实施していくための有効な推進母体となった。
ウォーターフォード貯水池(米国)
政府の特命機関の 1 つである「ウォーターフォード水路管理機構」の使命は、そこに住む住民の生活
の質を高く保ちながら、同貯水池の質、漁業資源、集水域や境界域の維持、保全、改善を図ることに
ある。この使命は「1 回 1 滴がこの世界を変える」というスローガンに集約されている。
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原則 2:湖の流域は、湖の持続的利用のための計画・管理の論理的出発点である。
アジア太平洋地域
ポーヤン湖(中国)
「山・川・湖沼開発プログラム」は、集水域レベルで行なわれた統合的湖沼流域管理の一例である。樹
木の生えていない地域での植林活動が進められ、この 20 年間で植生地域は 35%から 60%に増加した。
また高山地域を中心に、工学的および生物学的な土壌管理対策が行なわれ、この地域における過度の
土壌浸食の傾向に歯止めをかけた。
センタラム湖(インドネシア)
地方自治体と地域住民の一部は、WLV の原則 2、3 に呼応して、センタラム湖の自然を脅かす人間活
動を縮小する取り組みを始めた。いくつかの湖で行なわれた漁業の停止は最善の対策の一つである。
このように閉鎖された湖はセンタラム国立公園の境界外にあるが、この対策は湖沼流域全体の漁業資
源保護につながると思われる。
デチェン湖(韓国)
デチェン湖流域の 3 つの地方政府(ポウン、オクチョン、ヨンドン)は、流域住民が行なっている河
川や小川の監視活動を支援している。最も代表的な流域レベルのプロジェクトは「デチェン湖を救お
う」という運動であるが、この運動にも限界があり、集められたデータは实際の湖沼管理計画に用い
られてはいない。その最大の理由は、この運動を進めるための資金や人的資源が充分ではないことに
ある。
タウポ湖(ニュージーランド)
タウポ湖流域に対する地域住民の関心は非常に高く、また同地域は保全活動の出発点となっている。
ラグナ湖(フィリピン)
湖沼管理計画の基礎として支流域に注目することは、利害関係者に自分たちの直近の状況を認識させ
るのに有効である。また彼らが、自分たちの生活を脅かしている環境問題を直接・間接的に理解するの
に役立つ。さらに、湖とその支流域のための、共有できるビジョンを策定するプロセスを促進する。
7 つの火口湖(フィリピン)
「7 つの火口湖を守る会」は、保全活動を通じて子供たちに集水域を保全する重要性を説き、それが湖
の水の源であることに気付かせることに注力している。このような教育を、植樹活動のような楽しい
活動を通じて行ない、彼らが实際に、水、大地、木々の苗などに親しむ喜びを育てている。
单アジア・インド地域
ボージ湿地
ボージ湿地の一つである上ボージ湖の集水域は面積 361km2 で大半は田園地帯である。そこではボージ
湿地プロジェクトと呼ばれる総合的な統合的湖沼流域管理プログラムが展開され、1)有機農業の導入、
2)化学肥料の使用削減、3)衛生施設の拡充、などが重点施策として实施された。
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チリカ湖
この湖は極めて生産性が高く、その豊富な漁業資源と豊かな生物多様性は周囲に住む 20 万人以上の地
域住民の生活を支えてきた。湖の流域は、流入淡水経路の変化、湖河口の詰りや移動、流域における
土地利用の変化や务化によって加速された土砂堆積、などによって荒廃が進んだ。その結果、チリカ
湖は 1993 年にモントルー・レコードに加えられることになった。このような状態の中で、オリッサ州
政府は、チリカ湖の再生と管理を統合的に進めるために、1992 年にチリカ湖開発公社(CDA)を設立
した。同公社は、包括的な取り組みを添加し、海岸部と淡水流域部の問題を適合的な管理計画のなか
に取り入れるとともに、広範な協議と的を絞った科学的研究を進めた。また適合的な管理計画によっ
て、この複雑な生態系の問題に柔軟に取り組み、現地の住民たちの願いや望みに柔軟に対応すること
が出来た。湖の水文体系改善のための保全施策と流域の参加型管理によって、湖の生態系の機能回復
を实現し、地域社会の生産性向上と生活改善を図ることができた。このユニークな湿地を再生するた
めに同公社が採用した施策は、生態系アプローチに基づいており、中でも集中監視・評価制度、的をし
ぼった科学的研究、などの保全施策は特徴的なものである。この取り組みは、湿地の再生が生態系の
改善につながるだけでなく、現地の住民にとっても利益があることを示した。この結果、チリカ湖は
モントルー・リコードから除外され、チリカ湖開発公社には、広範な住民参加によって再生事業を成
し遂げた事例としてラムサール賞が授与された。
フセインサガール湖
この 50 年間、湖の流域では都市化と工業化が非常に進展したが、湖への影響についてしかるべき検討
がされたことはなかった。最近、湖の汚染を防ぐために大規模な下水系の更新が行なわれ、下水や産
業排水を下流域に迂回させるなどの対策が取られた。湖の適正な水量を維持するために下水処理場が
建設され、流入してくる下水を処理している。オランダ政府の資金で行なわれているグリーン・ハイ
デラバード・環境プロジェクト(GHEP)の一環である湖沼保全プロジェクトの成果を結实させるため
に多くの支援活動が行なわれている。
ポワイ湖
湖の周囲にはインド工科大学とサンジャイ・ガーンディー国立公園があり、緑や植樹でよく保全され
ている。しかし、国立公園での違法な鉱山活動、面源負荷による汚染や湖底部の侵害など、湖とその
流域の長期的な保全を脅かす問題が起きている。
ロナー湖
この湖は隕石の衝撃によってできた自然の火口湖で、地下水が流入している。貯水池の水が染み出し、
湖の水質を変え、さらに独特の陸水系に悪影響が出始めているので、湖の周辺で行なわれている水保
全プロジェクトは関心の的となっている。静かだった村落は都市化が進み、下水などの面源汚染によ
る湖の富栄養化が進行している。このユニークな生態系は、社会的、宗教的、観光面で大きな可能性
を有しており、これ以上の環境悪化を食い止めるために、集中的な湖沼流域管理に早急に取り組む必
要がある。
ウジャニ貯水池
インド半島を流れる大河クリシュナ川の支流の 1 つビーマ川は、ウジャニ貯水池に至る 14,700km2 の集
水域を有する。ウジャニ貯水池は 1,800km2 の土地を灌漑するために 1980 年に建設されたもので、33.2
億トンの貯水能力をもつ。年間降雤量の約 87%は 6 月中旪から 9 月中旪までの 3 ヵ月半にわたる季節
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風期にもたらされる。流域の 10%が森林で、13.6%は耕作に利用されておらず、76.3%が耕作地である。
湖は大規模な都市化と工業化が進んだ集水域の影響を受けている。上流の町からの汚染物や化学肥料
を大量に使う近代農業によって、湖の水質は次第に低下しつつある。灌漑、漁業、都市用水などさま
ざまな分野間、その他湖に依存した活動の競合的な水利用によって、湖の生態系には非持続的な圧力
がかかっている。
アフリカ地域
ビクトリア湖(ケニア、タンザニア、ウガンダ)
流域管理において WLV を適用することが、対策の論理的かつ实際的な出発点であることは、ビクト
リア湖においては明白である。流域の周辺 3 カ国で進行する居住人口の増大がもたらすリスクを考え
ると、流域全体にわたる戦略と対策が策定されなければならない。これは一方で、人間生活と天然資
源の保全の 2 つを両立させる機会でもある。ビクトリア湖環境委員会の設立は、この湖を持続的な湖
沼管理を計画的に实施するためのユニークな取り組みである。この広範な枞組みは、持続的で指針に
沿った管理施策のもとに天然資源の利用が進む機会を提供するものである。
ナクル湖(ケニア)
ビクトリア湖の場合と同様に、ナクル環境管理プログラムは、この湖の本質とそのために必要な環境
保全策を理解するための明確な基礎となる。この事例報告は、近隣住民が湖とその資源を持続的に利
用するために、取水と放水を有効に管理していくための出発点は流域卖位の取り組みであるというこ
とを明らかにしている。ナクル環境管理プログラムは、まだ新しいプロジェクトであり、WLV の原則
2 を完全に实現していくプロセスはまだ始まったばかりである。
ジョージ湖(ウガンダ)
こ の 湖 は WLV の 原 則 2 の 適 用 で は 成 功 例 の 1 つ と な る 。 「 ジ ョ ー ジ 湖 流 域 統 合 管 理 機 構
(LAGBIMO)」と「湖辺管理組合(BMU)」が設立され、ジョージ湖流域管理計画が地域レベルで
策定されており、WLV を实施していくための持続的なプラットフォームができている。湖沼流域管理
計画は天然資源の問題と経済的な生活の両方に取り組むものであり、そのために住民はこの計画に主
体的に取り組んでいる。この事例報告は、流域の管理計画と対策が地域レベルで取り組まれた場合、
有効で持続的な成果につながることを示唆している。
カリバ湖(ジンバブエ)
ジョージ湖の場合と同じように、カリバ湖の管理事例は現地の計画でも共有資源について検討するこ
とができることを示している。单アフリカ開発協議会(SADC)が設立されて水路協定ができ、それを
引き継いだザンベジ行動計画(ZACPLAN)は、流域内の長期的な管理計画と対策を検討するための合
意に基づいた枞組みを提供した。一方、この事例報告は、流域の住民や資源利用者が流域管理計画や
対策についてもっと理解を深める必要があると述べている。カリバ湖のような複数の国で共有する湖
については、国を超えた制度的・行政的な問題に有効に取り組むために、湖沼の保全と管理に関して
明確で政策的な枞組みが必要である。汚染、土地の务化、生物多様性の喪失、資源の乱用などの問題
の解決には、地域としての明確な管理戦略が必要である。
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ヨーロッパ地域
コンスタンツ湖(オーストリア、ドイツ、スイス)
WLV の原則 2 は、水質,湖の保全、漁業、ボート、さらに農業や輸送に関連した分野においてある程
度適用されている。これらの問題に対して取り組むために必要な機関として国際的な枞組みができて
いるが、他の問題(土地利用、気候変動など)についての取り組みは断片的である。その結果、効果
的な湖沼管理の取り組みに至っていない。有効な湖沼流域管理は統合的なプロセスのもとで行なわれ
る必要がある。
バラトン湖(ハンガリー)
この事例報告は、湖沼流域を管理活動立案の出発点とすることは管理目標を達成する上で論理的であ
るとともに必須であると考えている。バラトン湖の事例における湖沼流域管理の成功事例の 1 つは、
それぞれが流域管理に責任を有するさまざま管理組織が集まって地域の調整機関を設立したことであ
る。バラトン湖の事例は、持続的な湖沼管理の目標に到達するためには統合的湖沼流域管理が必須の
前提であることを示している。
バイカル湖(ロシア)
バイカル湖の流域の 51%はロシア共和国にあり、残りはモンゴル共和国にある。原則 2 は湖沼管理の
論理的基礎であると同時に、最も实践しやすいものと考えられている。しかし、原則 2 は国レベルで
理論的には認識されていても、持続的な管理をめざした取り組みは、国、地域の行政レベルでなかな
か進まず、時として障害にさえなっている。その結果、計画や開発の決定は一貫性が無く、湖の環境
保全に対するリスクが増大している。この事例報告は、強力で厳密に適用される法的・制度的な仕組
みに支えられた統合的湖沼流域管理の必要性を説いている。一方、セレンガ川デルタでは原則 2 より
もむしろ原則 5 と 6 に注力したプロジェクトが实施された。
バートン湿地(英国)
この事例でも原則 2 は最も適用の容易な原則と考えられた。集水域管理と土地利用の改革が規制の下
に实施され、湖の改善だけでなく、点源汚染からの排水についても対策が取られた。この事例は、持
続的な湖沼流域管理の原則を实施する上で、強制力をもった法的規制が有効であることを示している。
ラテンアメリカ・カリブ海地域
サンロケ湖(アルゼンチン)
原則 2 はサンロケ集水域の再生支援プログラムを展開する中で適用されている。この運動はアルゼン
チンのプニラ峡谷で实施され、水資源の汚染と過度利用、および非持続的な土地利用慣習などの問題
に取り組んでいる。
チャパラ湖(メキシコ)
原則 2 を念頭において、コンディーロ運河山の森林再生と保全を目的として、流域内で進行する猛烈
な土壌浸食、土砂堆積、表流水や地下水資源の枯渇を緩和する努力がなされた。この方式は他の地域
の取り組みのモデルになった。
31
北アメリカ地域
シャンプレン湖(カナダ/米国)
シャンプレン湖流域プログラムは完全に原則 2 に合致して实施された。管理活動は政治的な境界でな
く、流域を主体として計画され、实施された。
ケリー湖(米国)
歴史的な湖への流入経路を変更するにあたり、ケリー湖協会は、湖の上流部を考慮した改善計画を策
定した。
ウォーターフォード貯水池(米国)
ウォーターフォード水路管理局は、貯水池の支流域を含む全域にわたって水質保護や管理活動を推進
するために、单ウィスコンシン州フォックス川委員会などの他の政府機関と協力関係を築いた。
原則 3:湖の環境悪化の原因を除くには、長期的な予防的対応が必須である
アジア太平洋地域
ポーヤン湖(中国)
環境保全に向けた政策を進展させるために排水料の管理回収システムが強化され、収集と利用は厳密
に区分された。集まった資金は流域の環境保全と汚染防止のための活動に限定して使用される。
センタラム湖(インドネシア)
WLV の原則 2、3 に対応して、地方政府と一部の地域住民はセンタラム湖の環境を脅かしている人間
活動を縮小させる取り組みを開始した。原則 2 のところで述べたが、漁業活動を禁止した湖を設定す
ることは、それらが国立公園の外にあるとはいえ、流域の漁業資源の保全に役立つものである。
琵琶湖(日本)
一つの重要な活動は、学校の生徒やその親たちに対して、意識向上を図るために環境教育を行なうこ
とである。琵琶湖では、赤野井湾探検会、河川ウォッチング、川辺の学校などさまざまな研修活動が
实施された。参加者は専門家の指導で湖水を調べ、過去のデータと比較した。さらに調査結果を討議
し、情報を交換した。河川ウォッチングでは、参加者は上流から下流まで川に沿って歩き、観察や清
掃を通じて川について学んだ。
デチェン湖(韓国)
「デチェン湖を救おう運動」は、デチェン湖の流域の保全をめざし、長期的な展望に立った取り組み
を進めるために「デチェン湖アジェンダ 21」を策定する委員会を結成した。これは「地域ビジョン」
策定に向けた取り組みであり、WLV の原則を紹介するための第一歩となる。
タウポ湖(ニュージーランド)
「タウポ湖協定」と科学プロジェクト「タウポ湖集水域の統合的で持続可能な開発戦略」はどちらも
「保全」を最も重要な原則に置いている。行動計画を責任持って实行し、持続的な開発原則のもとに、
継続的に保全に取り組む組織が必要である。
32
ラグナ湖(フィリピン)
湖沼管理プロジェクトの实効性の検討や計画段階で、環境だけでなく社会の安全を考慮に入れておく
ことは、長期的な利益を確保するためには必須である。どんな環境プロジェクトに対する資金援助も、
活動の持続性を保証するために能力向上プログラムと連動させる必要がある。原則 3、7 で述べられて
いるように、プロジェクトに参加しているさまざまな人々に対する指導も継続的に推進されなければ
ならない。
7 つの火口湖(フィリピン)
湖沼で活動する NGO は、学校の生徒を対象に環境教育に取り組んだ。この取り組みは、WLV・アク
ションリポートのなかで述べられている「将来必要となる資源を大切にすることを子供たちに教える
ことは、湖の保全に向けて何者にも勝る有益で長期的かつ保全的な取り組みである」という教えに沿
ったものである。
单アジア・インド地域
ボージ湿地
この湿地は成長を続けるマディヤ・プラデーシュ州の首都にとって、頼りにできる唯一の淡水源であ
り、その持続性は都市計画者や政治家の強い関心事である。ボージ湿地および同州内の他の湖の長期
持続性に関わる問題に取り組むためにマディヤ・プラデーシュ州湖沼保全局(LCA-MP)が設立され
た。
チリカ湖
おそらくこの地域で初めて、生態系アプローチに基づいた湖の再生が成功したのはチリカ湖であろう。
湖の漁業資源が増大しただけでなく、豊かな生物多様性や生態系の価値が回復された。チリカ湖開発
公社(CDA)は長期的な視点に立って、この唯一の生態系を持続させる管理活動を継続するだろう。
フセインサガール湖
2020 年ビジョンの中で、州政府は長期的な基盤に立ってフセインサガール湖を保全していくための方
策を示した。湖とその集水域の改善プロジェクトは、湖の生態系を持続的に管理していくための総合
計画を含んでおり、まもなく实施される予定である。主要なプログラムとして、1)入水ポイント数箇
所での浚渫、2)湖の汚染を阻止するための下水回収と迂回、3)1 日当たり 5 万m3 の処理能力を有す
る新たな下水処理場の建設と既存施設の能力増、4)湖岸の整備と改善、5)湖の利害関係者、湖に依
存する地域住民、双子都市の住民からなる湖沼保全管理協会の設立、などが予定されている。
ポワイ湖
ポワイ湖の管理は比較的最近の問題であり、人口増加、貧困、失業などの圧倒的に大きな課題がある
ため、湖沼管理はいつも政策としては後塵を拝してきた。かくしてポワイ湖のみならず、環境悪化し
ている他の歴史的な貯水池の保全についても、長期的なビジョンが必要なのである。
ロナー湖
ロナー湖は人里離れたところにあるために、行政機関はこの湖のもつ地球規模での科学的な意味や観
光地としての可能性に気づかなかった。また周囲が考古学的な遺跡であることも無視され、その崩壊
33
も問題にされず、科学的な理解も進まなかった。現時点では、その保全に向けた長期的な展望も計画
もない。
ウジャニ貯水池
ウジャニ貯水池のあるクリシュナ川は、マハラシュトラ、カルナータカ、アードラ・プラデーシュの
3 つの州を流域として流れる大河である。年間の平均流出量は 73 億 7300 万トンあるが、マハラシュト
ラ州が利用できる湖水量は、1976 年に結ばれた州間河川水争議調停案によって、約 47 億 5300 万トン
に制限されている。最近、下流の村と湖沼管理局の間で紛争が起こっている。下流の村はウジャニ貯
水池で貯水するために水不足に直面しているのである。この湖の流域では、川辺に沿って都市化が進
み、都市中心部には大工業団地ができつつあり、湖沼汚染、土砂堆積および富栄養化現象が発生して
いる。したがって、現状だけでなく新たな水需要の増大も考慮に入れた総合的湖沼流域管理計画の策
定が必要になっている。
アフリカ地域
4 つのアフリカの事例においては原則 3 がほとんど適用されていない。この状況は、アフリカの事例に
おいては、長期的な視点に立った取り組みを策定し实行する明確な枞組みがないことに起因している。
ほとんどの対策が現場での資源利用に関するものである。さらに、ナクル湖の事例では、集水域での
汚職行為が原則 3 の实践にとって大きな障害になっていると述べている。ナクル湖やビクトリア湖は、
流域の都市部工業地域やそこで暮らす住民からもたらされる汚染物や排水が大量に流れ込んでいる。
それらは流域にとっての脅威であるが、流域の計画と管理の間の連携は欠落している。したがって、
現状では、関連当局は都市部の务化や排水の流入を長期的に阻止することはできないでいる。
ヨーロッパ地域
コンスタンツ湖(オーストリア、ドイツ、スイス)
原則 3 はこの事例では部分的にしか適用されていない。その主な理由は、湖とその流域に対する脅威
や問題を特定ができていないことなど、湖の現状に対する分析がまだ不充分なことである。このよう
な分析は、水質についてはある程度行なわれており、国際機関が予防的な取り組みを進めているが、
まだ充分な成果にはつながっていない。一方、EU の環境に関する制度(環境影響調査、戦略的環境評
価など)は、土地利用計画に関する保全的な取り組みを含んでいる。また Natura 2000 と EU 水関連枞
組み指針は、湖沼流域に対して必要な環境基準を設けている。この事例報告は、湖沼流域の問題を充
分分析したうえで統合的な取り組みを進めること、さらに利用可能な環境制度と予防原則が示す管理
戦略とを関連付ける必要性があることを示している。
バラトン湖(ハンガリー)
この湖では原則 3 の实践が進み、2000 年に通過したバラトン湖法のなかに盛り込まれている。湖辺に
住む住民にとって厳しい規則が、背後の社会との比較を基に決められた。バラトン湖法には多くの持
続可能な要素が含まれている。しかし、この法律の条項を遵守することは困難である。その結果、有
効性を検証するのに数年掛かる見込みである。ここでの教訓の一つは、实施可能で住民が支持する規
則や法規制を策定する必要があるということである。
34
バイカル湖(ロシア)
原則 3 はバイカル湖の事例では部分的に適用された。1996 年に UNESCO が設定した原則は、WLV の
予防原則を反映したものであるが、この事例ではあまり有効ではなかった。その結果、このヨーロッ
パの大きな湖は保全に対する圧力や脅威に晒されることになるだろう。この事例は、湖沼流域の务化
を有効かつ長期的に予防していくためには、厳しく時機を得た法的対策が必要であることを示してい
る。原則 3 は、セレンガ川デルタプロジェクトでは提供が最も困難な原則と考えられた。デルタに住
む関係者の関心は短期的なものであり、湖沼の务化の表面的な問題に集中した。その結果、長期的な
予防策の策定や实施は、しばしば、短期の政治サイクルに邪魔され、将来に対しての取り組みは限ら
れたものになった。この事例は、短期的な思考を克服することが如何に困難であるかを示すと共に、
予防原則に長期的に取り組むことの重要性を示すものである。
バートン湿地(英国)
この事例報告は予防的な取り組みの必要性を充分に示している。湖沼管理機関が 25 年間にわたって予
防原則を適用してきたにも関わらず大規模な再生事業が必要になるほど湖は悪化していたという事实
は、WLV の原則 3 は避けて通れない原則であるということを如实に物語るものである。50 年前に予防
原則が適用されていれば、湖の健康は保たれていたであろう。原則 3 の適用が遅れたばかりに、死の
生態系になってしまった。健康でバランスの取れた湖に再生させるために、科学と莫大な資金が使わ
れた。
スロバキアの小規模貯水池(土砂管理)
WLV の原則 3 は、スロバキアの小規模貯水池に対しては特に有望な取り組みとなるかもしれない。国
内の集水域についての調査によって、非森林面積とこの数年間に貯水池に蓄積した土砂量の間には一
定の相関があることがわかった。このような相関があることは、集水域卖位で植生を増やし持続的な
管理と資源利用を進めれば、土砂除去に代わる、あるいはそれを補完する有効な予防策となることを
示唆している。土砂除去は卖に対症療法に過ぎない。しかし、過去の湖沼管理の経験は、予防原則の
適用を最も有効に行うためには WLV の 7 原則すべてを考慮に入れた広範な湖沼流域管理として取り組
まなければならないことを念頭にいれておくことが必要である。
ラテンアメリカ・カリブ海地域
サンロケ湖(アルゼンチン)
サンロケ湖流域では、地域の農家や酪農家の経済的な代替策として、木材生産の振興に力を入れる森
林再生プログラムが实施された。このプログラムは、地域の植生再生と土壌の务化阻止という長期的
な目標に向けた取り組みである。
フケネ湖(コロンビア)
この湖では原則 3 の適用によって、持続的な漁業活動と湖の健全な環境保全を推進する手段として、
長期的な管理目標設定、規制手段、継続的な監視制度などを明確にした。
チャパラ湖(メキシコ)
原則 3 はコンディーロ運河山の森林管理プロジェクトにおいて適用された。このプロジェクトは、チ
ャパラ湖に流入する地下水や河川水の補充、生物多様性の保全、流域内の住民の持続的な生計維持を
目指した広範な取り組みの一部として、森林モデルを作ることにあった。
35
北アメリカ地域
シャンプレン湖(カナダ・米国)
シャンプレン湖流域プログラムの重要な要素は「行動の機会」と呼ばれる湖の管理計画である。この
計画は汚染防止を流域管理計画の重要な要素と位置づけている。
ケリー湖(米国)
ケリー湖協会は、設立すると直ちに湖沼管理計画の作成に取り掛かった。この計画は、その後の同協
会の湖沼管理と保全の取り組みにおいて指導的な役割を果たした。
ウォーターフォード貯水池(米国)
ウォーターフォード水路管理局は、同貯水池の総合的な湖沼管理計画の作成を請負い实施している。
原則 4:湖沼管理政策の立案と決定は、適正な科学と入手可能な最良の情報とに基づいて行なうべき
である。
アジア太平洋地域
センタラム湖(インドネシア)
適切な情報を政府に提供することによって、種々の政策が持続的な湖沼管理活動における地域住民の
役割や機能を支援するようになる。
琵琶湖(日本)
流域内の 100 箇所における水質調査活動や近所の川辺でのホタル学習など、湖の管理に向けて可能な
限り科学的な取り組みを進めた。
デチェン湖(韓国)
「デチェン湖を救おう運動」の執行委員会は、現地 NGO と「政策フォーラム」と名づけられた専門家
の協議集団から成り立っている。フォーラムには、住民代表、地方政府の職員、大学や研究機関の専
門家が加わっており、デチェン湖を救う運動において、科学的な根拠に基づいた湖の情報を集約する
ために必要な機関である。しかし、現時点ではこのような情報は十分活用されていない。この運動を
進めるためには、科学的な装置や施設を有するデチェン湖流域内の関係機関や研究所に、フォーラム
への参加をもっと呼びかけるべきであろう。
タウポ湖(ニュージーランド)
科学と入手可能な最良の情報はタウポ湖保全活動の礎であったし、今後もそうあり続けるだろう。
ラグナ湖(フィリピン)
利用可能な意思決定ツール(GIS、水質モデリング、多基準分析など)を有効に利用することによって、
関係者の環境問題に対する理解が深まり、湖の管理についての意思決定の作業を促進できる。
7 つの火口湖(フィリピン)
データに基づく信頼性の高い将来計画や対策を推進するために、湖に関する多くの技術的・社会的な情
報を集めようとする普段の努力がなされている。
36
单アジア・インド地域
ボージ湿地
ボパールは、しばしばインドにおける陸水学の首都と称される。この湖については、水質や生物多様
性をはじめ、さまざまな陸水学的な側面から多くの情報がある。ボージ湿地プロジェクトにおいてい
ろいろな対策を策定するにあたっては、プロジェクトの独自情報以外にも多くの情報が用いられた。
チリカ湖
この湖については、有名なインド政府森林環境省(MOEF)所管のインド動物学研究所(ZSI)、国立
海洋学研究所(NIO)、州内の各大学などによって、多くの科学的な情報やデータが集積されている。
これらの情報やデータは、チリカ開発公社(CDA)が再生計画を策定するときに大いに活用された。
フセインサガール湖
この湖については広範な研究がなされており、この 50 年にわたる陸水学の記録はいつでも利用できる。
生物多様性についての理解も進み、汚染が水質に及ぼす影響についてもよく整理されている。魚の死
やアオコの研究も広範にわたって記録されている。しかし、保全政策や対策は、社会経済的あるいは
政治的な要素によって、必ずしも科学的に適正な情報に基づいたものになっていない。政策決定にお
いても、最終決定を下すのは政府の限られた関係者で、その決定に住民代表との協議結果がどの程度
反映されるかは不明である。
ポワイ湖
この湖については、陸水学、汚染、生物とその多様性に関する情報やデータが広範に存在するが、こ
のような資料が、どの程度湖沼管理政策や政策決定過程で利用されているかは不明である。保全対策
として技術的な解決策が实施されるが、生態系の本質的な問題を十分考慮していない場合が多い。
ロナー湖
この湖は、この地域における唯一の内陸塩湖で、地形学、地質学、陸水学、生態学など広範な学問の
研究対象となっている。この 25 年間に生物多様性に関する多くの情報が出版されたが、湖の科学的情
報は、その多くが学問的な興味の域を出ず、保全のための対策が提案されても实施に至っていない。
ウジャニ貯水池
水は限られた資源であるにも拘わらず、競合的な水需要や用途が増大し、それによる量的・質的な好
ましからざる影響によって、湖沼管理は、複雑で、多次元的な問題になってきた。それでも、現在の
科学・技術的な能力を用いれば、この湖の状況を改善し、再生するための施策を描くことはできる。湖
全般、あるいは特定の湖の健康を苦しめている要素について入手可能な情報を収集・照合・解析し、適
正な科学的原則に立つ政策の手引きを策定することは難しいことではないはずである。この取り組み
によって、短期・長期の保全対策を推進し、湖の状況を改善するのに有効であろう。必要な専門家の情
報が入手しやすくなれば、この作業も比較的楽になるだろう。そうなっても、問題点と可能な改善策
が明らかになり、湖沼管理に必要な改善政策を決定するための枞組みができるだけであり、湖沼管理
の取り組みとしては、ただの出発点に過ぎない。
37
アフリカ地域
ナクル湖(ケニア)
この湖は、重要な科学的な情報やデータを集めるための良い仕組みをもつ事例の 1 つである。ナクル
環境共同体とナクル市協議会は、GIS を使って市内の公共サービス網、強度汚染地帯、排水経路など
の総合的な地図を作成した。ナクル環境管理プログラムは、流域利害関係者のモニタリングや環境保
全能力の向上、主要な環境団体の組織化、住民の環境意識向上などに取り組んだ。さらにプログラム
は、ナクル湖管理の科学的な取り組みを支援し、得られた結果を関係者に伝えるために、設備が十分
整ったモニタリング研究所の設立に協力した。この成果として、ナクル市当局は、化学物質排出把握
管理制度を利用して作成した汚染防止計画、基準や規制などを市内で公表して实施した。環境共同体
は、GIS 情報を利用して、ナクル湖流域の低所得者層を対象とする「戦略的な衛生と投資計画」を作
成した。湖沼資源の利用者と有効な流域管理計画や保全策のために必要な関連情報やデータを結びつ
ける必要がある。ビクトリア湖、ジョージ湖、カリバ湖の事例には、適正な科学を活用した重要政策
の作成、そのための努力や経緯などは例示されていなかった。
ヨーロッパ地域
コンスタンツ湖(オーストリア、ドイツ、スイス)
原則 4 は、この湖沼においてほぼ適用されている。科学研究機関は、水質と湖の保全に関わるすべて
の事項について、調査・研究を進めている。また NGO は、動植物やその生息地などの科学的情報を伝
える上で重要な役割を担っている。結果として、科学は湖沼管理に関わり、その取り組みのための情
報を提供している。しかしながら、一つ重要な面が欠けている。オーストリア、ドイツ、スイスは、
湖の経済的な利用に関して異なった統計資料を有しており、整合性のある統計データがない。また流
域全体にわたる監視システムが必要である。この事例は、湖沼管理の取り組みの重要事項について合
理的な根拠を与えるためには、科学の関与が必要であることを明確に示している。
バラトン湖(ハンガリー)
原則 4 は、この湖沼において十分に適用されている。バラトン湖陸水学研究所は、中心的な機関とし
て、他の大学部門や研究センターが提供する情報を、集約し,整理している。著名な研究者、関係省
庁、その他の利害関係者などからなるバラトン湖委員会は、ハンガリー首相の職務审が管理している。
その結果、研究の成果は管理政策の決定のための情報として速やかに伝達される。科学研究の成果が
有効に伝達・適用されれば、湖沼の合理的な管理施策の決定を支援するのは明白である。
バイカル湖(ロシア)
科学的なモニタリングや個々の研究はある程度進んでいるが、湖本体およびセレンガ川デルタで、科
学が湖沼管理の政策決定において有効に関わったという明確な形跡は見当たらず、湖沼管理対策は合
理的な根拠を欠いているかもしれない。したがって、調整機関は、科学的な情報に基づいた湖沼流域
管理の意思決定がなされるように努力する必要がある。
バートン湿地(英国)
この湖の事例は、实行可能で明確な目標をもった湖沼再生プログラムを展開するとき、科学と实験に
基づく管理が有効に機能するモデルを提供している。流域の利害関係者は再生プログラムの实施に最
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初から加わった。その結果、バイオマニピュレーションや広範な保全技術などによって、湖は富栄養
化の進んだ状態から生態系のバランスを取り戻した。この再生手法は、湿地系内の他の湖だけでなく、
他の場所の湖にも適用可能である。科学を適用することによって、長期的・持続的な利益をもたらし、
有効な成果を上げることができたのである。この湖や世界の他の湖における経験は、务化した湖を再
生するための費用は、適切な予防策を事前に講ずるよりもはるかに高価なものにつくということを示
している。
ラテンアメリカ・カリブ海地域
サンロケ湖(アルゼンチン)
原則 4 は、この湖では、国立研究機関および国際機関が行った結果に基づいて实施された流域回復支
援プログラムの中で实践された。ロス・アルガボロス市民協会は、流域の住民の研修を行い、彼らが
現場に直接参加して森林景観再生プログラムを实施できるように準備を進めた。
フケネ湖(コロンビア)
原則 4 は、この流域で継続的に行なわれている漁業モニタリングデータの回収活動に取り組む基礎と
なっている。また湿地基金情報センター開設を推進する基礎にもなっている。
チャパラ湖(メキシコ)
原則 4 は、この流域ではコラソン・デ・ラ・ティエラ(Corazón de la Tierra)と呼ばれる NGO によっ
て实践された。彼らは、コンディーロ運河山で現地の住民たちのために 50 回の研修会を開催した。研
修会の目的は、代替生産物や自然に優しい技術を紹介することで、その中には、社会・農業・環境問題
に関する研究を行っている 3 つの大学の成果を含んでいる。
北アメリカ地域
シャンプレン湖(カナダ・米国)
シャンプレン湖流域プログラムは、科学者や専門家からなる技術諮問委員会(TAC)を有しており、
報告書、提案、将来湖が直面する可能性のある問題の特定などについて同委員会の審査を受ける。
ケリー湖(米国)
ケリー湖の総合的な再生対策プログラムは、最新の科学的・技術的手法や、政策ツール・原則に基づ
いて策定・实行された。その最終的な成果が、上ケリー湖の水質改善を目指した、川の再蛇行や洪水対
策用の湿地造成計画とその实施である。
ウォーターフォード貯水池(米国)
ウォーターフォード水路管理局は、集水域の各地で湖を保全するための条例と土地利用政策の立案と
实施の運動を展開している。
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原則 5:持続的利用のための湖の管理では、現世代および将来世代の需要と自然の要求とを考慮しつ
つ、競合する湖の資源の利用者間の紛争を解決することが必要である。
アジア太平洋地域
センタラム湖(インドネシア)
センタラム国立公園はユニークで豊かな自然を持っており、そのため多くの利害関係者が湖の管理に
関係している。さらに最近は先住の固有民族も公園の資源を利用している。このように競合する利益
を調整するために、協同に基づく管理の仕組みがセンタラム湖流域において提案されている(Anshari
2006)。この協同の枞組みによって、WLV の原則 5 に立脚して、さまざまな公園利用者間の紛争問題
に適切に取り組むことが期待される。
琵琶湖(日本)
豊かな自然と湖の故郷を将来の世代に伝えたいという願いで湖沼流域の保全活動が行われているが、
それは WLV の原則 5 を包含する持続性の原則に基づいたものである。
デチェン湖(韓国)
デチェン湖は 1981 年に多目的ダムとして完成し、洪水保全、飲料水確保、灌漑水供給、工業用水、水
力発電などに利用されている。最近、下流域の水質管理対策として、湖の放流量を増やすようにとの
要求が下流域から出されている。廃棄物総量規正法が实施されると、許容廃棄物量の配分によっては
地域の発展が制限されるので、この問題は取り扱いが難しい。
タウポ湖(ニュージーランド)
湖への窒素負荷を低減する取り組みは土地利用の変更を含み、現在の土地利用法(農業、下水処理、
市街地の拡大など)の多くを変えなければならない。この 2 年間、これらの問題の解決に取り組んで
いるが、多くの問題は予防対策よりも困難でお金も掛かることになるだろう。
ラグナ湖(フィリピン)
さまざまな利害関係者との協同を進めるためには、尐数グループが自分たちの問題について意見を述
べることができるようにすると同時に、「エリート主義」を主張する湖沼グループをコントロールで
きるような能力と感受性をもったファシリテーターが必要である。ラグナ湖の環境保全活動計画の手
順(LEAP)は、現地の職員や住民が協力し自分たちの町や都市の環境問題に対する現实的な解決策を
策定するために有効な手法である。このように、すべての利害関係者が、WLV の原則 5、6、7 に沿っ
た同じ解決策を自分のものと考えるようになった。
单アジア・インド地域
ボージ湿地
ボージ湿地プロジェクトは成功したが、流域には未解決の問題が残っている。その一例はヒシ(Trapa)
の栽培であり、これらの養殖農家の移転はまだ終了していない。湖の周辺では都市化が進行し、将来、
湖の汚染が問題となるだろう。LCA-MP は湖の生態系を持続的に保全するという目標を達成するため
に、これらの問題に取り組んでいる。
40
チリカ湖
この湖の流域における主要な問題は、伝統的な漁師と養殖漁業者の間の紛争であった。自分たちの伝
統的な権利を守るための漁民の争いは、数名の漁民の死を生む醜いものになった。この不幸な状況を
見て州政府は、伝統的な住民の生計維持と必ずしも環境上適性とはいえない近代漁業養殖の間で起こ
った問題の解決に乗り出した。この問題は、最終的には伝統漁民の漁業権を新たに設定することで決
着した。
フセインサガール湖
この湖の 2 つの問題は、湖岸に沿った流域への侵犯と、経済発展を優先して漁民など湖に頼って生活
する人々を置き去りにしたことである。この湖は高台の美しい場所にありレクレーションの場となっ
たが、その結果、湖にはいろいろな問題が生じた。虐げられた人々が法的な補償を求めた結果、司法
の介入により、湖とその流域保全に向けた開発戦略が策定された。
ポワイ湖
この湖の主要な利用者は漁民である。また釣り愛好協会の会員と湖周辺の多くの住民にとって、湖の
自然は自分たちの憩いの場である。彼らは、開発業者の圧力や湖への不法侵犯・不法行為力に反対す
るために力をあわせた。ボンベイ市公社(BMC)は紛争の種を解決し、湖の長期的な保全に向けた合
意形成を目指すための場を設定すべきである。
ロナー湖
この流域ではまだ湖に依存して暮す住民の間で紛争は起こっていない。しかし、湖の周囲では人口が
増大し、観光の振興が進んでいるのでこの状況が変わるかもしれない。今のところ、このような可能
性に対して政府関係機関が何らかの対策を講じている気配は見られない。
ウジャニ貯水池
水はすべての経済活動の基礎であり、水に対する需要はすべての人間活動の場で増大している。ウジ
ャニ貯水池は主として灌漑用に建設されたが、流域では工業化、都市化、田園開発が進み、競合する
水の利用者(農家、漁民、都市用水利用者、田園生活者など)の間で紛争が生じている。
アフリカ地域
アフリカの 4 つの湖の事例では、原則 5 はほとんど適用されていない。これは、これらの湖において
は、まだ長期的な予防策を策定し、实施していくための明確な枞組みができていないことが原因であ
る。实施されている多くの管理対策は資源利用に関するものである。またナクル湖の事例は、集水域
における汚職行為が原則 3 および原則 5 を实践するうえで、大きな障害になっていることを示唆して
いる。ナクル湖とビクトリア湖では、流域の工業地区や居住地区から大量の汚染物や廃液が流れ込み、
湖に対する脅威となっているが、流域の管理保全計画は不十分であり、市の当局は市街地の务化や廃
液の流入を今後も食い止めることはできそうにない。
41
ヨーロッパ地域
コンスタンツ湖(オーストリア、ドイツ、スイス)
この事例では、原則 5 は適用が最も困難な原則であると見なされている。その主な理由は、この原則
を適用するためには、湖の自然回復力と有限な湖沼資源について適正な科学的情報に基づく現实的な
対策を必要とするからである。とはいえ、この湖の事例は、持続的な農業に関しては、原則 5 を積極
的に適用した事例のひとつである。小額の報奨金と市場形成支援を必要としたが、天然資源の保全の
ために、集約農業から有機農業への転換が強い決意によって实現された。そのためには、自然環境を
維持する施策をはじめ、厳格な基準を守り抜く努力が必要であった。その結果、实績主義と結びつい
た総合的開発プログラムは、農家と消費者の双方に目に見える利益をもたらした。この事例は、流域
管理のための新たな取り組みや計画を試行するためには、革新的な試験スキームが必要であることを
示している。さらに、工程能力の開発に取り組むことが重要である。最後に、この事例は、自然保護
に対する報償制度としての補助金は正当化できることを示した。
バラトン湖(ハンガリー)
原則 5 は持続可能な開発原則に基づいた開発プログラムの中で適用され、責任ある組織であるバラト
ン湖開発協議会(LBDC)によって实践された。協議会には、関係省庁、地方自治体、地域代表、経済
界、NGO などが加わっている。計画されたさまざまな項目や事業は協議会の会合を通じて意思決定さ
れ实施される。この事例は、流域の競合する利用者間の紛争を解決することは、意思決定のプロセス
にすべての流域内の関係者が有効に参加することによって可能であることを示している。
バイカル湖(ロシア)
事例報告によれば、原則 5 はバイカル湖全体に適用するのが最も難しい。他の 6 つの WLV を適切に適
用できるかどうかも、この原則にかかっていると結論付けている。また、利益が競合する場合、政治
的に最も力あるいは影響力をもったグループによって結果は決まるとも述べている。原則 5 は部分的
にしか適用されていないので、バイカル湖の自然は危険な状態が続いている。有効な湖沼管理が实施
されるためには、利害関係者が管理や意思決定に公平に参加できる、活動的で開かれたフォーラムが
必須である。
セレンガ川デルタでは、広範な利害関係者が参加してエコ・ツアープロジェクトが实施された。この
プロジェクトは、観光業者、エコツアーを推進する NGO、持続的なエコツアーの实績をもつ英国のリ
ビング・レイクス・パートナーによって指導された。その結果、住民、現地の起業家、NGO、教育機
関、現地の自治体、地域の観光事業と保全の責任機関などの間に友好的な協力関係ができあがった。
このパートナーシップはセレンガ川デルタ地域の将来の発展を指導することになる。これにより、関
係者が対等な立場で協力し、共通の目的のために紛争解決が図られるようになれば、原則 5 は効果的
に实践されるだろう。
バートン湿地(英国)
この事例でも原則 5 は最も实践が難しいと考えられたが、湖の再生プロジェクトにおいては、恒久的
な管理協議フォーラムに広範な利害関係者が参加し、湖の環境問題に対する関心を高めることによっ
て、原則 5 は適切に实施された。一方、この報告は、湖沼の利用者が脱自然の環境に慣れすぎて、健
全な自然をめざす持続的な湖の利用方法への変更を嫌がるようになることを心配している。また湖沼
42
再生プロジェクトが全体として利益をあげることができるように、卖一利益グループには充分な指導
が必要となる。
ラテンアメリカ・カリブ海地域
原則 5 に特に言及した事例報告はないが、チャパラ湖(メキシコ)に関する補足のレポートによれば、
原則 5 は最も適用が難しい原則である。
北アメリカ
シャンプレン湖(カナダ・米国)
シャンプレン湖の保全計画「行動の機会」は 5 年ごとに見直しが行なわれる。シャンプレン湖の保全
プログラムは、この総合的な見直しによって、成功事例を明らかにしながら計画を修正し、新たな問
題を考慮に入れつつ計画を实施していく。このような適合型の管理計画によって、湖の状況変化や利
害関係者の推移を検討しつつ、計画策定の基礎となる合意形成を図っていくことができる。
ケリー湖(米国)
ケリー湖協会は、管理計画を实施するために、政府機関、地域社会、その他の利益集団との間に、互
いにメリットを共有できるような協力関係を築いて推進した。
ウォーターフォード貯水池(米国)
ウォーターフォード水路管理局は、川辺に住む住民の関心事を明らかにし、その優先順位をつけるた
めに、管轄区内のすべての利害関係者にアンケート調査を行なった。さらに公聴会を開催して、水域
を取り巻くほとんどの住民からこれらの問題や懸念事項についての意見を聞いて確認した。
原則 6:重要な湖沼問題の把握と解決のためには、住民およびその他の利害関係者の有効な形での参
加を奨励すべきである。
アジア太平洋地域
ポーヤン湖(中国)
中国政府は環境保全のために住民参加の促進に努めた。環境影響評価法は、環境に影響が出ると思わ
れるどんな保全計画や事業においても、評価のための会合や公聴会、あるいはそれに代わる適切な方
法による住民参加を義務付けており、湖沼流域管理に関連した環境評価報告書の中に、関係当局、専
門家や住民の意見を含むよう求めている。
センタラム湖(インドネシア)
利害関係者の参画はセンタラム湖国立公園の保全が成功するための鍵をにぎっている。現地の住民や
利害関係者は、協働管理を進めるために湖沼管理の取り組みについて意見交換を行ない、基本的な問
題を明らかにした。このような運動には利害関係者の参加が特に重要である。
琵琶湖(日本)
地元住民の熱心な支援だけでなく、多くの助言や協力が大学や研究機関から寄せられており、有効な
保全活動の継続につながっている。長年にわたって築かれた住民と地方自治体(滋賀県、守山市)の
間のパートナーシップは、この運動の展開に特に有益である。
43
デチェン湖(韓国)
韓国では多くの NGO が環境問題の解決に取り組んでいるが、「デチェン湖を救おう運動」は湖沼管理
の問題に取り組む唯一の NGO であり、特にデチェン湖を中心に活動を展開している。この NGO は湖
沼保全活動にとって欠かせない存在であるが、組織の性格上、その活動は NGO のネットワークに依存
してきた。地方自治体はもちろん、住民の自発的な参加が奨励されなければならない。この目標のた
めには、効果的な宠伝活動や環境教育の推進が必要である。
タウポ湖(ニュージーランド)
地域、地方、国のすべての分野の人々が、タウポ湖を保全する活動に参加している。「湖と水路の保
全グループ(LWAG)」は、湖の保全対策に取り組んでいる多くの利害関係者集団の 1 つである。
ラグナ湖(フィリピン)
さまざまな利害関係者との協同を進めるためには、尐数グループが自分たちの問題について意見を述
べることができるようにすると同時に、「エリート主義」を主張する湖沼グループをコントロールで
きるような能力と感受性をもった推進役が必要である。ラグナ湖の環境保全活動計画の手順(LEAP)
は、現地の職員や住民が協力し、自分たちの町や都市の環境問題に対する現实的な解決策を策定する
ために有効な手法である。このようにして、すべての利害関係者が、WLV の原則 5、6、7 に沿った同
じ解決策を自分のものと考えるようになった。
单アジア・インド地域
ボージ湿地
ボージ湿地はインドで最も NGO の活動が盛んな地域である。ボージ湿地プロジェクトで誕生した湖沼
観察センター(LIC)は、国内では最高級のもので、湖の環境保全に対する流域住民の関心を保つこと
に成功している。湖は飲料水源としても重要な価値を有している。
チリカ湖
地域行政府の最高の職にある長官は、チリカ湖と流域の管理活動計画を作成するために、業際的な委
員会を設立した。
フセインサガール湖
公聴会に関係組織の参加は認めているものの、彼らの意見はプロジェクトの实施に大きな影響をもつ
ことはない。保全と管理の取り組みを補完するための関係者の組織を作ろうとする真剣な努力も見当
たらない。そのなかで、一部の有志は、湖流域の保全について分野横断的な共通の場を作るよう要求
している。
ポワイ湖
この湖には豊かな漁場があり、インドで最も古い釣り愛好家協会(ボンベイ自然歴史協会)もある。
環境意識の高まりとともに、湖の保全と開発を支えようとする運動が大きくなっている。NGO は、ボ
ンベイ都市公社(BMC)が实施した保全策を認めてはおらず、湖流域の持続的な保全に向けた合意を
得るために、共同フォーラムを作って多様な意見を集約させる必要がある。
44
ロナー湖
流域の利害関係者を組織化しようとする取り組みはなく、現時点では村の自治組織である 村議会
(panchayat)がその代役を果たしている。今までのところ大きな成果は得られていないが、湖沼保全
管理協会を設立しようとする努力は続いている。
ウジャニ貯水池
自然との調和のとれた関係を樹立するための出発点として流域を考えること、および競合する利用者
の紛争を解決し、尐なくするために、予防的、現实的、前向きな施策に裏付けられた良好なガバナン
スを实施するなどの原則は重要な指針とはなるが、流域の利害関係者の有効な参画が無ければ实施で
きるものではない。多くの発展途上国(および先進国の一部)では、有効な政策、対策、規則などは、
既得権や政治的都合に起因する「政治的な意志」が欠如しているために实施されていない。もし利害
関係者が、自分たちの健康や生活との関係で湖沼保全の長期的な危害について目覚めれば、適切な方
針や対策の实施を促進するために、強力な圧力集団を結成するだろう。利害関係者の意識を高め、よ
り良い湖沼管理のために自分たちの参画を促すことは最も難しい活動の一つである。普通の人たちに、
より良い明日のために今日を犠牲にする(利用者税や汚染税など)ということを納得してもらうのは
非常に困難である。他に良い方法が無いのなら、自覚を高めるのが次善の目標となる。
アフリカ地域
ビクトリア湖(ケニア、タンザニア、ウガンダ)
この湖では、ビーチバンク(Beach Bank)と呼ばれる小額融資の仕組みを通じて、多くの住民が湖沼
保全活動に参加した。この取り組みは、魚の行商人を対象にしたもので、開発金融、投資によって貧
困地域の生計改善を図り、貧困を減尐させようとするものである。この取り組みは、責任ある漁業、
分散投資、自分たちの生計改善手段など、望ましい管理策や管理技術に対する貧困層の人たちの意識
向上と理解向上に大きく貢献した。
ナクル湖(ケニア)
この湖では、流域の住民が湖沼ビジョンの策定にいたるまで、湖沼管理対策の計画作成や实施に参画
した。持続的未来への戦略的な取り組みを検討するために、すべての流域の関係者が参加した環境共
同体の設立は、適切な施策と WLV を实施するための重要な機会となった。共同体が描いた、自然シ
ステムしての物理環境、生活基盤としての人工環境、人的、金融支援システムとしての社会経済開発
という 3 者を結合した取り組みは、保全施策や活動計画を策定するための現实的・持続的な取り組みと
なった。しかし、これらの対策の意義や流域資源の恵み(あるいは適切に保全しなかった場合の不利
益)を流域全体で十分理解するためには、上流域の地域住民の参画が不可欠である。
ジョージ湖(ウガンダ)
湖岸管理機構の設立によって、流域の住民は意思決定プロセスに適切に組み入れられ、決定された施
策の实施、規制、管理にも加わった。これにより、近隣の湖岸住民間の紛争は減尐し、経済的な活動
の機会が増大した。この事例は、湖沼管理の取り組みに住民が参加することが有効であることを示す
好い事例である。
45
カリバ湖(ジンバブエ)
アフリカの湖沼事例の中で、カリバ湖は最も住民参加が進んでいない湖と考えられる。湖沼情報の普
及の遅れ、湖沼問題に対する理解の低さ、さらに政府の無知(公務員中心の意思決定を進め、湖沼管
理に住民が参加することの利点を知らない)によって、個人や住民グループは、湖沼流域管理問題を
解決するために自分たちが貢献できることに気付いていない。また政府自身が産業活動に深く関わっ
ており、そのリーダーの任命にも影響力を持っているので、法令順守はほとんど不可能になっている。
カリバ湖の事例は、「為政者の政策」は必ずしも流域全体の管理プログラムとして实現されないとい
うことを示している。為政者の政策と流域住民の間には大きな壁があり、たいていの場合、官僚たち
は姿勢を示すのみで現場レベルでは尐しも効果が現れない。
ヨーロッパ地域
コンスタンツ湖(オーストリア、ドイツ、スイス)
原則 6 は、ヨーロッパ全土、国、地域の各レベルで制度的には支持されているが、コンスタンツ湖で
は十分に实践されているとはいえない。湖沼管理への有意義な参加はそのほとんどが自発的な取り組
みであり、NGO も重要な問題に取り組むための十分な力を持ち合わせていない。したがって、行政の
さまざまなレベルで湖沼流域管理に取り組もうとすると、政治的な意志も強くなければ必要な問題に
十分取り組むことはできない。コンスタンツ湖において有意義で有効な協働が見られるのは科学研究
機関のみである。
バラトン湖(ハンガリー)
住民や利害関係者の湖沼管理への有意義な参画はバラトン湖開発協議会を通して行なわれ、国や地域
レベルの意思決定プロセスの重要な一部となっている。事例報告は、このような制度を作るきっかけ
は草の根レベルで始まったものとはいえ、住民や利害関係者の有意義な参画を制度として確立するた
めには国が指針を設定する必要があると述べている。
バイカル湖(ロシア)
原則 6 を湖全体にわたって公式に適用した事例はない。NGO は住民の意識を高め、WLV の原則の实
践に向けた個々の対策に住民を参加させる上で重要な役割を果たしている。流域社会の各層の住民の
心の中に持続的な開発原則がゆっくり浸透しつつあるというのが現状である。湖沼管理の取り組みは、
強力な開発圧力と行政の無関心によって危機に直面している。事例報告は、有意義な住民参加の制度
確立に向けて考え方を 180 度転換することが必要であることを示している。長期的なバイカル湖の管
理と保全を指導原則とするパートナーシップが、行政、利害関係者、NGO の間に確立される必要があ
る。
セレンガ川デルタで实施されたエコ・ツアープロジェクトにおいては、原則 6 が有効に適用された。
短期間の参加型の取り組みであったがプロジェクトは成功し、所定の成果をあげることができた。す
なわち、目標を設定し、期間を限定した個々のプロジェクトは可能であることを示した。この取り組
みは、さらに広範な、より親密なパートナーシップを築くための第一歩ではあるが、紛争を長期的に
解決していくためには、十分な資金と人材に裏付けられた恒久的なフォーラムを設立する必要がある。
46
バートン湿地(英国)
この湖の再生プロジェクトには原則 6 が十分適用され、湖の再生と将来の利用について合意による取
り決めがなされた。広範な住民を代表するバートン協議会がこのプロセスを推し進め、成果に繋げた。
この事例は、もし原則 6 が適切に適用されれば、流域の広範な利害関係者の利益と、湖の持続的な利
用と管理につながるような合意に基づく結果を達成できるということを示した。もう一つの結論は、
このような利害関係者協議会は、たとえその性格上紛糾するようなことがあっても、保全プロセスの
中で恒久的な地位を保つ必要があるということである。何故なら、彼らはいつも注意深く事態を観察
しているので、個々の利害関係者の党派的な企みや行き過ぎた圧力に対して適切に対応することが可
能になるからである。
ラテンアメリカ/カリブ海地域
サンロケ湖(アルゼンチン)
原則 6 は、パンパ・デ・オラエン森林景観再生プログラムにおいて適用され、流域住民の懸念や期待
を考慮にいれて原案が作成された。現地住民は、現地調査に直接参加し、プログラムの第 1 ステップ
である 6000 本の植樹とその後の手入れを行なった。
フケネ湖(コロンビア)
原則 6 は、魚の種類や漁業手法の現状を調査・検討するプログラムに漁師を参加させる基礎となって
いる。これを通じて、利害関係者は、湖の漁業活動を有効に管理するために、目標、戦略、公式な合
意書の策定に参加した。
チャパラ湖(メキシコ)
原則 6 は、この流域で实施された「コンディーロ運河持続可能開発プログラム」の中核をなすもので
ある。このプログラムは地域住民の参加と利害関係者の権限付与に力を入れた。地域住民は、森林破
壊や土壌务化の問題、その原因と対策を認識し、再生と保全のための活動などを策定する活動に参加
した。
北アメリカ
シャンプレン湖(カナダ・米国)
シャンプレン湖運営委員会は合意に基づく意思決定を採用しており、委員会の議題となる管理や予算
をはじめすべての問題について自由に十分議論することが可能である。さらに、バーモント州、ニュ
ーヨーク州、ケベック州の各州から、地元の投票で選ばれた市民諮問委員会の議長が諮問委員会に直
接参加できる。
ケリー湖(米国)
ケリー湖管理計画で多くの取り組みが成功裏に行なわれたのは、会員、ボランティア、奉仕グループ
の人たちが、自分たちの時間と労力を提供して懸命に汗を流したからである。彼らは、外来種の取り
締まりや除去、土着種の植樹、廃棄物規制、上ケリー湖の支流にある再生河川や洪水防止湿地の維持
などに取り組んだ。
47
ウォーターフォード貯水池(米国)
行政機関だけでなく、学校、奉仕グループ、さらに地域団体連合であるフォックス川水中堆積・侵食
対抗委員会(Fox River CAUSE)などとのパートナーシップは、ウォーターフォード水路管理機構の湖
沼管理プログラムの支えとなった。
原則 7:持続可能な湖の利用のためには、公平性、透明性、すべての利害関係者への権限付与を基礎
とした良好なガバナンス体制が不可欠である。
アジア太平洋地域
ポーヤン湖(中国)
政府の対策を効果的に調整することによって湖沼流域管理を有効に推進できる。
センタラム湖(インドネシア)
統括者としての政府の役割は管理を進めるための重要な要素であり、多くの人が協力して管理に取り
組む場合、その結果を大きく左右する。協働的な取り組みにおいてはガバナンスが要求される。
デチェン湖(韓国)
「デチェン湖を救おう運動」の重要な目標の 1 つは、デチェン湖集水域に有効なガバナンスを实施し
ていこうというものである。この運動は、デチェン湖の環境問題に対する人々の態度を、それまでの
NGO 主体から住民主体に変えることに成功した。この点が他の韓国の事例と異なっている。
タウポ湖(ニュージーランド)
「タウポ湖集水域の統合的・持続的開発戦略」については、すべてのレベルの政府が署名している。
彼らの年次計画報告書には、この戦略を实施するための対策だけでなく、年間を通じた实施状況のフ
ォローアップ結果が報告される。
ラグナ湖(フィリピン)
湖の資源の共同管理は、利用者間の紛争を最小限にするばかりでなく、従来のような「一局管理」に
比べて有効で、積極的な結果を生み出す。この目的に向けて広範な利害関係者と協力していくために
は、疎外された人々にも自分たちの意見を述べさせ、かつ「エリート」意識を持った利用者の声を抑
えることができる、熟練した気配りのあるファシリテーターが必要である。
单アジア・インド地域
ボージ湿地
人的圧力の増大とそれに起因した汚染による水資源の务化や水質の低下に気づいた管理当局は、ボー
ジ湿地保全のための行動計画を開始した。通常「ボージ湿地プロジェクト」と呼ばれているボパール
湖の保全・管理プロジェクトの成果の 1 つは、上・下の湖の保全と管理に向けた枞組みが公式に作ら
れたことである。州の湖沼管理局が設立され、いくつかの短期・長期的な対策は既に实施されている
ので、長期的なボージ湿地の保全に向けて明るい展望が開けている。特に、上ボージ湖においては、
WLV の 7 つの原則のすべてが实践されており、单アジアの他の湖沼で同様な対策を实施するときの良
いモデルになるだろう。
48
チリカ湖
湖沼管理においてはセクター別アプローチを止め、流域全体で統合的な湖沼管理を推進することは難
しい。湖を統括する地方政府をその気にさせ、湖沼流域とその資源の持続的な管理に合致した明確な
政策を策定するためには多くの時間が必要である。
フセインサガール湖
この湖はいくつかの行政府の管轄下にあって、いろいろな部局間の調整(もしくは協力)が欠けてい
る。このような湖沼管理に対するセクター別アプローチのため、有効な政策を实施することが非常に
困難になっている。さらに、湖沼生態系に対する理解が不十分で、適切な湖沼管理政策を实施しよう
という熱意もあまりない。
ポワイ湖
この湖は、インド政府の取り組みの 1 つとして環境森林省が進めている全国湖沼保全プログラムで保
全の対象としている 21 湖沼の 1 つである。ボンベイ市営公社は数々の保全対策を实行したが、湖はま
だ、①湖岸の侵食、②集水域の活動(国立公園内の不法な鉱山活動など)に起因する土砂堆積、③点
源および面源汚染による水質汚染、などの問題に直面している。单アジアの他の都市部と同様に、土
地価格の高騰や開発業者の圧力のために湖周辺部の土地侵食が続き、湖の環境が破壊される状況が続
いている。強力な法律ができても、社会・政治的に甘い環境のためにほとんど執行されないため、湖
沼流域保全への挑戦はまだ続いている。
ロナー湖
自然の奇跡としてのこの湖の可能性はまだ州政府に充分認識されておらず、また、観光の可能性もま
だ開発されていない。湖の生態系は登録要件を充分満たしているので、ラムサール条約に登録しよう
という動きがある。州政府は訪れる観光実のために施設を改善するための補助金を認めたが、まだな
すべき多くのことが残っている。地区の長官をリーダーとし、政府機関、住民代表、NGO、研究者、
その他利害関係者から構成される「ロナー湖保全管理協会」の設立は、正しい方向への第一歩である。
ウジャニ貯水池
ウジャニ貯水池の持続可能な管理は、①既存の政策の厳格な实施、②保全対策、③住民参加の促進、
の 3 つにかかっている。ウジャニ貯水池を鳥の保護区に指定する提案は正しい方向への第一歩となる
だろう。
アフリカ地域
4 つのアフリカ湖沼の事例は、持続的な湖沼の利用を实現するためには、適正なガバナンスとすべての
湖沼関係者の教育が必要であることを示している。一方、これらの事例は、この目標達成を困難にす
る大きな問題を浮き彫りにしている。その 1 つは汚職行為であり、関係者が湖沼管理のための対策に
協力しようとする意欲を失ってしまう大きな原因になっている。アフリカの事例の中で注目に値する
のはビクトリア湖の事例である。そこでは、湖沼関係者、特に貧しい住民にも平等に情報が行き渡る
ような取り組みとして、ラジオ・ビクトリアというラジオ局が設立された。ラジオは、広範囲に情報
を伝達できる媒体であるだけでなく、環境問題について行政に訴えたり、住民に呼びかけたりするた
めの有効な手段にもなる。さらに、住民の環境意識を高める手段であり、彼らに関係ある湖沼流域管
理問題について地域住民を行動に立ち上がらせる手段にもなる。
49
ヨーロッパ地域
コンスタンツ湖(オーストリア、ドイツ、スイス)
この事例によれば、適正なガバナンスとは、公正で透明性の高い参加型の取り組み以上のものである
ことがわかる。すなわち、適切な法的枞組みを確立し、確实に实施していくことを含むのである。コ
ンスタンツ湖では、このプロセスが進行しているが、まだ不十分であり、適正な湖沼流域管理の原則
に基づいた総合的な行動計画の策定にまで至っていない。現時点では、湖の管理は統合的なものでな
く分断された形で行われている。事例報告は、合意に基づいて湖沼流域行動計画を作成・实施するた
めに、周辺 3 カ国を含む戦略的な枞組みを作り、適正なガバナンスの基礎を確立することが必要であ
ると述べている。
バラトン湖(ハンガリー)
この湖では原則 7 は十分適用されている。2 つの重要なフォーラム(バラトン湖閣僚間会議、バラトン
湖開発協議会)には、バラトン湖の管理と開発に関する意思決定に利害関係者が参画でき、住民に対
する権限付与が進んでいる。事例報告は、原則 7 を有効に適用するためには、適切なメンバーで構成
されたフォーラムの場におけるトップダウンとボトムアップの両方の取り組みが必要であることを示
している。もう 1 つの結論は、バラトン湖開発協議会は地方分権によってさらに権限を強化できると
いうことである。地方分権は EU 内でますます活発になっている。
バイカル湖(ロシア)
バイカル湖では原則 7 が適用されている形跡はほとんどない。湖沼管理の取り組みは分断され不十分
なために、絶えず湖と周辺の環境保全に対する脅威が増大している。WLV のすべての原則を適用する
ための適正なガバナンスの確立が必須であることは明確である。わずかにセレンガ川で实施されたプ
ロジェクトにおいて原則 7 が部分的には適用されたが、関係者への権限付与は不十分で、広範な適用
とはいえない。
バートン湿地(英国)
バートン湿地では、限られた地域内ではあるが、原則 7 は効果的に实施された。親組織であるブロー
ズ 管理局(中央政府の国立公園の管理責任部局)は原則 7 を十分適用している。したがって、湖の再
生プロジェクトは適正なガバナンスのなかで实施され、原則 7 は十分に適用された。バラトン湖の場
合と同様、この事例も、適正なガバナンス原則が国レベルで確立されることが重要であることを示し
ている。
ラテンアメリカ・カリブ海地域
サンロケ湖(アルゼンチン)
原則 7 の適用は、この流域における森林再生計画において、困難ではあるが、基本的な要素の 1 つで
あるように思われる。5 つの重要な地域から、市町村の関係機関、利害関係者、住民が参加して一連の
会合や研修会を開催し、パンパ・デ・オラエンモデルが展開された。この取り組みは、関係市町村の
取り組みや森林管理に関連する法整備にも役立つだろう。
50
フケネ湖(コロンビア)
この湖沼流域の漁業管理計画の推進においては原則 7 の適用が中心的な役割を果たした。これまでに
達成された具体的な成果には、参加型の地域診断、調査・研究活動、管理戦略に関する合意、ロス・
フンダドレス漁業組合と漁業管理委員会の結成、継続的な監視体制の設立などがある。これらは、現
地の漁師、NGO、関連行政機関が共同して取り組んだ成果である。
チャパラ湖(メキシコ)
この湖沼流域においては、国、州、市などの行政機関、学会、市民団体、民間業者など多くの人々が
湖沼管理活動に参加し、利害関係者の役割を強調する形で原則 7 が適用された。この広範な取り組み
によって、コンディーロ運河地域における森林再生や土壌回復プロジェクト、社会基盤整備、社会の
融合が進んだ。
北アメリカ地域
シャンプレン湖(カナダ・米国)
すべてのシャンプレン湖運営委員会の会合は、開催日が前もって通知され、公開で行われる。市民の
意見は、行政区ごとに市民諮問委員会(CAC)を通して整理され、運営委員会に提出される。さらに
すべての会合で市民が意見や情報を述べる時間が設けられている。
ケリー湖(米国)
ケリー湖協会は、草の根集団として意見を述べるだけでなく、すべてのレベルの行政組織に対して、
効率的で頼りになる協力者である。实際、彼らは、地域の枞組みを越えた環境再生プロジェクトを成
功させたが、そのようなパートナーシップがなければうまくいかなかっただろう。
ウォーターフォード貯水池(米国)
ウォーターフォード水路管理局とその協力者は、ウォーターフォード貯水池とその集水域の全域にわ
たる問題に関心を持っている。この住民主体の取り組みによって、同管理局が行う水路に直結した事
業だけでなく、集水域の他のパートナーが行う補完的な対策の实施が有効に实施できる。
適用が最も容易な原則と最も困難な原則
個々の事例報告およびこの章で示された地域ごとの概要の統合した整理や分析から、WLV の原則は、
原則によってその適用の容易さが異なることがわかる。この報告で示された湖沼の事例の多くは WLV
の原則が策定される前のものであり、事例報告の著者の主要な仕事は、これらの湖沼管理の取り組み
を進めるさいに、WLV の原則がどの程度用いられたのか(あるいは用いられなかったのか)を見極め
ることであった。彼らの分析によれば、いくつかの原則は、多くの事例で比較的容易に实践されてい
るが、中には实践が難しいものもある。いくつかの事例報告は、このような適用の容易さに違いが出
てくる理由を議論している。
表 1 は WLV の原則について、適用の難しさをまとめたものである。さまざまな地域における WLV の
原則の適用方法を比べると、湖沼によって取り組み方やその程度がさまざまであることがわかる。し
かし、一見して原則 4 はたいていの湖沼の事例において最も適用しやすい原則のように思われる。一
方、適用が最も困難な原則は原則 5 と 7 であり、いずれもガバナンスの欠陥によるものである。
51
表 1 湖沼流域の事例報告における適用が最も容易な世界湖沼ビジョン(WLV)の原則と
最も適用が困難な世界湖沼ビジョンの原則
世界湖沼ビジョン(WLV)の原則
1
2
3
4
5
地域/湖
アジア・太平洋
ポーヤン湖
センタラム湖
琵琶湖
デチェン湖
タウポ湖
ラグナ湖
7 つの火口湖
单アジア・インド
フセインサガール湖
ポアイ湖
ロナー湖
ウジャニ貯水池
チリカ湖
ボージ湿地
アフリカ
ビクトリア湖
ナクル湖
ジョージ湖
カリバ湖
ヨーロッパ
バイカル湖(セレンガ デルタ)
バイカル湖(湖)
コンスタンツ湖
バートン湿地
バラトン湖
スロバキアの貯水池(土砂管理)
北アメリカ
シャンプレン湖
ケリー湖
ウォーターフォード貯水池
ラテンアメリカ・カリブ海
チャパラ湖
サンロケ湖
フケネ湖
◯
6
7
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◯:適用が最も容易な原則、★:適用が最も困難な原則
52
◯
第4章
湖沼事例報告から得られた教訓
はじめに
世界湖沼ビジョン【WLV】(WLV 委員会 2003)で定められた 7 つの原則は、世界の数多くの湖沼の
経験や教訓の分析に基づいている。これらの湖の管理においては、環境問題が発生してから対応する
場合が多い。この理由は記述したように、湖とその流域に対する汚染や負荷は、その影響が明白にな
るまで一定の時間がかかるため、通常の場合、関係者がこれらの問題に対応するのが遅れてしまう。
この状況については、湖沼管理イニシアティブの報告書(ILEC、2005)の中に、明確に定義と説明が
ある。WLV の 7 つの原則は、湖沼関係者が従来のように問題が発生してから対応するのでなく、環境
問題や異常についてもっと事前の対応をとるようになることを期待して、世界中にその普及が進めら
れている。
WLV の 7 原則の实施についての事例報告は、第 2 章で述べたように 6 大陸の 27 湖沼を含んでいる。
その中の 6 つの湖はその地域で最も大きなものである(チャパラ湖(メキシコ)、ラグナ湖(フィリ
ピン)、ポーヤン湖(中国)、琵琶湖(日本)、タウポ湖(ニュージーランド)、バラトン湖(ハン
ガリー))。この報告で議論されるすべての湖が、WLV に示されているように、持続的な湖の利用に
対する障害や脅威をいろいろな形で経験しており、7 つの原則の適用や検証につながる広範な取り組み
を展開している。7 つの原則は、WLV が策定され、発表される以前から取り組まれてきた活動を基に
決められたものであり、これまで適切な湖沼管理活動に取り組んできた人たちには確証を与えるもの
であり、同時に、必要に応じて対策を取る、あるいは实施中の対策をさらに押し進める動機付けとな
る。
この報告書の事例の経験分析によれば、WLV の 7 原則は、例えば、法整備、あるいは検討中、計画中、
あるいは实施中の事業など、いろんな段階で適用が進んでいる。一方、このことを理解するうえで、
この分析の基礎となっている保全の取り組みは、これら 7 原則の適用と实施に関する現地の専門家
(科学者、管理者)の考え方によって異なることを念頭に置く必要がある。湖沼によっては、1 つか 2
つの原則にしか取り組んでいないように見えるプロジェクトでも、实際には何らかの形で 7 原則全て
を対象にしていることもある。例えば、コンスタンツ湖の事例では、WLV の原則を検証する手段とし
て「持続的な農業」に集中的に取り組んだ。チャパラ湖では、コンディーロ運河山の持続的な開発プ
ログラムが、WLV を適用する良いモデルになり、住民の直接参加に力を入れた結果、利害関係者の能
力向上につながった。ラグナ湖(フィリピン)における保全制度の確立と住民参加を進めた「ラグナ
湖管理制度確立と住民参加促進プロジェクト(LISCOP)」は、WLV の 7 原則を行動に移すために必
要な枞組みを提供した。インドのボージ湿地プロジェクトは、WLV に含まれる 7 原則が实践されてい
るもう 1 つの好事例である。同じことがハンガリーのバラトン湖にもいえる。それは、バラトン湖開
発局とバラトン湖開発協議会の設立と役割分担の明確化によって、WLV が策定・出版される 2003 年
よりも以前に、7 原則の实践を可能にしたことである。
WLV の原則は部分的に適用された湖もあり、そこでは NGO が活動を進める主要な原動力になった。
別の湖では、その顕著な一例は「デチェン湖を救おう運動(DLSM)」という NGO である。DLSM は、
デチェン湖の水質と周囲の環境保全を目的に 2002 年に設立された若い組織であり、韓国で唯一湖の保
53
全に取り組んでいる NGO である。この NGO は、デチェン湖だけでなく韓国にある 18,000 以上の大規
模貯水池の人々に対して、WLV のメッセージと原則を伝える力を秘めている。
WLV の原則は、一つ一つの原則が独立したものというよりも、それらが一緒に機能することにより、
多くの成果を生み出すように策定されている。多くの事例においてそれぞれの原則の下に報告されて
いる対策は、他の原則と切り離されているのではなく、互いに重複し、实際にはそれらを補完するも
のになっている。同じ理由で、この章で得られた教訓も、必ずしも個々の原則にのみ帰属するのでは
なく、複数の原則を实施(あるいは不实施)したなかで検討されたものと考えられるべきものである。
それらを踏まえ、この章の目的は、ある原則を最も代表する行動や一つないしは複数の対策の实施
(あるいは不实施)から得られた教訓を明らかにすることである。それぞれの原則ごとに事例報告の
経験に基づいて、实施された(あるいは实施されなかった)対策の結果を議論する。
原則 1:人間と自然との調和した関係は、湖の持続可能性にとって不可欠である。
原則 1 は、持続的な湖沼管理を追求するときに、人間と自然の要求をバランスさせるための基本条件
を提供するものである。それはまた WLV の全ての湖沼管理原則に対して全体を包む背景を提供する。
したがって、原則 1 は他の全ての原則のくさびとなる、あるいはそれらを包含するものである。フィ
リピン、サンパブロ市の 7 つの火口湖の湖沼関係者は、この原則を湖保全対策の目的を明確にする以
上のものと考えている。米国ウイスコン州のケリー湖協会も同様の考えを持っており、他の WLV の
原則を、第 1 原則を達成するために必要なものと考えている。
人間と自然の間に調和のとれた関係を維持することは、発展途上国だけでなく、先進国にとっても非
常に困難な課題である。事例報告でも示されているように、この目標達成を難しくしている要因は多
くあるが、特に発展途上国においては、貧困、関係者(政治的指導者を含め)の意識や理解の低さ、
自然のもつ人間生活に必要な物質やサービス供給能力を維持しつつ、環境保全のための制度を实施す
べき政治的意思の欠如である。原則 1 を实施することは非常に困難ではあるが、いくつかの湖で具体
的な対策が实施され、環境保全と資源の利用・開発のバランスをとろうとする行動が徐々にではある
が始まっている。事例報告の経験によれば、長期的な計画や対策を作成するとともに、関係者の目に
見えるような活動や取り組みを速やかに实施することが重要である。
原則 1 の代表的な实施事例はチリカ湖の取り組みである。そこでは、生態系は正当な水の利用者とし
て認識された。チリカ湖はインド東海岸沿いの最大の湖で、1981 年にラムサール条約指定地に認定さ
れた。河口に形成され、海水・汽水・淡水が融合したユニークな自然をもった湖である。この湖は、
豊かな漁業資源と生物多様性を持っているので、非常に生産性が高く、周囲に暮らす 20 万人以上の生
活を支えている。しかし、流域の土地利用の変化や务化にともなって土砂が堆積し、湖への流入経路
の変化、湖の河口の詰りや移動を起こしたために、この湖の生態系は悪化を続け、自然の特性が損な
われてきた。この問題の急速な悪化を受けて、オリッサ州(インド)政府は、湖の再生と統合的な管
理を行うために、チリカ開発公社(CDA)を 1992 年に設立した。同公社は、1993 年にチリカ湖がモ
ントルー・リコードに載ることになり、大きな試練に直面した。
生態系と経済活動は強く結びついているという認識に立って、チリカ開発公社は、適合型の管理計画
を進め、そのなかに湖岸と流域のプロセスを組み込むとともに、広範な話し合いと目的志向の研究を
54
通してその枞組みを展開していくという、総合的な取り組みを進めていった。適合型管理計画は、こ
の複雑な生態系の問題に柔軟に取り組むとともに、地域住民の要求や要望に応える枞組みとなった。
すなわち、水文体系を改善する施策や流域の参加型管理によって、湖の機能が全体として再生され、
湖の生産性や地域住民の生活が向上した。さらに、湿地の再生は生態系の改善のみならず、地域住民
に大きな恵みをもたらすことを示した。これらの対策の实施によって、チリカ湖はモントルー・レコ
ードから除外されるとともに、同公社の取り組みは利害関係者が熱心な取り組みによって实施された
再生事業の事例であると認定され、栄えあるラムサール賞を受賞した。WLV の原則 6 の中に具現化さ
れている参加型の取り組みは、チリカ湖の再生と持続的な管理を成功に導いた重要な要因と考えられ
た。地域住民との広範な協議と、保全計画作成プロセスへの熱心な住民の参加によって、チリカ湖開
発公社の再生への取り組みはスムーズに、また効率よく進んだ。再生事業の成功によって湖の生産性
が向上したので、関係者の資源を持続的に利用していく自信がさらに深まった。また湖沼資源の持続
的な利用に向けて住民が主体的に行動を取るようになった。
琵琶湖(日本)は、人間と自然の調和と取れた関係を促進するために指標となる生物種を用いて成功
している。この取り組みは、滋賀県守山市にある赤野井湾流域協議会(現在:NPO 法人豊穣の郷)に
よって進められている。琵琶湖の单東部にある守山市は、かつては「守山ホタル」として知られたホ
タルの名所であった。しかし、ホタルが栄えた豊かな自然環境は、急速な人口増加、都市化、工業化、
農業の近代化、化学肥料の使用増大、湧き水の枯渇などによって、1965 年頃から悪化していった。こ
の务化した状況を改善するために、住民は「ホタルが乱舞する町の再生」という共通の目標を掲げた。
守山市は、住民や NPO のホタルを呼び戻したいという活動に応えて「ホタル条例」を 2001 年に制定
した。条例は、川や水路を汚染から守り、かつてホタルが棲んでいた自然環境を再生するために必要
な保護対策を实施することをめざした。NPO の活動を評価した市当局は、「守山ホタルパークアンド
ライドプロジェクト」を共同で实施することにした。このプロジェクトは地元住民や観光実がホタル
をゆっくり見物できるように、また近隣住民のやすらぎや静けさを守るために、ホタル鑑賞地点周囲
の交通規制を行なうものである。住民と市当局との協働によって、赤野井湾流域の河川の水質は改善
されてきた。その結果、いなくなったホタルが小川に戻り、ホタルを見つけたという報告が増加して
いる。この共同プロジェクトは、赤野井湾流域協議会のたゆまない活動と決意が成果をあげ始めたこ
とを示すものであり、彼らは自分たちの目標の实現に近づいている。この成果は、原則 1、および原
則 4、5、6 が指し示す活動によってもたらされたものと考えられる。
バートン湿地(英国)の場合には、原則 1 は 1987 年に策定された同地域の保全計画に具現化され、す
べての関係者による幅広い協議と取り組みが行われた。地域の将来ビジョン「Clear Water 2000」が合
意され、1995 年に公表された。このプロジェクトは、湖を健全で魅力ある状態に復元し、野生動物に
恵みを与え、人々の憩いの場を増やすことを目的に实施され、330 万ポンド(650 万米国ドル)の資金
を要した。最初の事業は水質を改善するために 30 万m3 ものリン化合物を含む底質を除去することで
あり、ついで湿地の水系生態系を再生するためにバイオマニピュレーションが实施された。
ブローズ管理局によって設置されたバートン連絡協議会は、バートン湿地の統合的・持続的な保全の
ための共通のビジョンと計画に基づき、プロジェクトを通して地元の関係者の合意に基づく取り組み
を展開した。彼らは、自然や文化遺産、航行、住民の憩いや生活の場ととしての湖の重要性や価値を
検討した。彼らの再生努力によって水中の栄養塩による負荷は大幅に低減した。また革新的な技術に
55
よって、水の透明度や植物の成長が改善され、すべての種類の船が安全に航行できるように幅と深さ
が確保された。
1996 年、UNESCO によってバイカル湖は世界遺産に指定され、一般に持続可能性の原則と考えられて
いる WLV の最初の 3 つの原則が有効に实施されることになった。これらの原則は 8.8 万 km2 にも及ぶ
この地域の持続的な開発戦略を策定するための基礎となった。過去 20 年間にわたって湖沼保全に関す
る多数の政府文書が作られ、その開発戦略の中には、GEF の生物多様性保全プログラムも含まれてお
り、WLV に相当する一連の原則を含む戦略文書が作成され、ロシア政府天然資源省(MNS)によって
承認された。
しかし、残念なことに、WLVが中央政府によって承認されたが、既得権益者はたえず地域の天然資源
を搾取する機会を覗い、持続可能性の原則を有意義に適用する妨げとなった。持続可能な開発という
概念や原則は、地域社会のすべての分野の人々には認識されておらず理解も得られていないことが問
題である。その結果、ロシアにおける経済開発の圧力によって、持続可能性の原則の实施は、後退し
相反した結果を招いている。
バイカル湖の最大の支流は湖の一部にセレンガデルタを形成した。このデルタは世界で最大の淡水デ
ルタであり、600km2におよぶ湿地を含んでいる。1992年にClub Firnによって設立された Firn Travelの活
動は、WLVの原則1の要素である持続的な開発を实践するものである。Club Firnはバイカル地域の主導
的なNGOの1つであり、バイカル湖の住民の生活を改善するために、自然に優しい、社会的プロジェク
トを实施している。
デルタ地域はバイカル湖で最も眺望の素晴らしい場所ではあるが、バイカル地域の中では経済発展の
機会が非常に乏しいと考えられていたので、このデルタ地域でエコ・ツーリズムを展開することは
Club Firnにとって気の遠くなるようなプロジェクトであった。プログラムの活動は、持続的な開発原則
に基づいたもので、天然資源の賢明な利用、現地住民の福祉改善、文化や自然の多様性保護などを含
むものであった。観光実が見返りとして保全のためにお金を支払う(訪問者による支払い)という考
え方も受け入れられるようになった。
プロジェクトは、英国大使館の小規模環境プロジェクト制度(SEPS-3)の枞組みのなかで、英国のブ
ローズ管理局と英国政府環境食料地方局(DEFRA)の支援を受けて实施され、エコツアーの設計にあ
たっては、さまざまな利害関係者の参画が奨励された(詳細は原則6の項を参照)。このプロジェクト
は、今ではセレンガデルタ地域の他のツアー業者のモデルになっている。
世界湖沼ビジョン(WLV)の原則 1 の实践に関する教訓

開発と環境保全のバランスに向けて挑戦することが人間と自然の間の強い相互関係の基礎となる
べきであり、それによって両者の調和した関係を強め、持続性の目標を高めるべきである。

湖固有の特性とその資源に依存する人々の文化は、自然と人間の間の調和した関係の確保に必須
である。地域住民すなわち土地固有の人々は湖から直接恩恵を受けており、持続的な資源利用を
考慮した慣習的な決まりを有している。

人間と自然の間には生来共生の関係があるものの、多くの人がこの補完的な関係がどのように機
能しているのかを知らない(知ろうとしない)ために、原則 1 の实践は難しい。多くの場合、人
56
は生活の経済的な側面や金儲けの活動にのみ注目し、自然や天然資源の重要性について考えるこ
とを忘れてしまう。したがって、湖の関係者はこの関係をしっかりと認識する必要がある。漁業、
農業、エコ・ツーリズムなどの活動の中で持続的な行動の普及を図ることはこの目標への到達に
つながる。

原則 1 は、ある程度経済的な繁栄が達成された先進国では实践が比較的容易に思われ、環境の質
や人々の健康に対して関心を向けることができるようになっている。そのような事例は、琵琶湖
(日本)、バートン湿地(英国)などに見られる。

湖の持続的な利用は、流域住民、特に大部分の財やサービスを湖に依存している人々が自然と調
和して生きることの必要性や、自分たち以外にも資源を利用している人がいることをどれだけ理
解しているのかに大きく依存する。この意識が低いか、あるいはさらに欠如している場合には、
経済的利益のために天然資源を乱獲したり、他の利用者が清潔で健全な環境を享受する権利を否
定したりする行為に陥る。環境意識の低い人々に対して環境教育を行なうことは非常に有効であ
る。

経済的な利益を達成する手段としての保全策の实施は、湖に依存して暮らす人々が保全の努力の
成果として目に見えるメリットを自分の目で見て経験することによって可能になる。このような
保全活動には、補償、社会投資支援、教育などがある。
原則 2:湖の流域は、湖の持続的な利用のための計画・管理の論理的出発点である。
「湖を管理するためには川の管理が必要である、川を管理するためには山の管理が必要である、山を
管理するためには貧困の撲滅が必要である。」この引用句は、原則 2 を最も端的に表現したものであ
り、ポーヤン湖の保全をめざす山・川・湖開発プログラム(MRLDP)が指針としているものである。
このプログラムは、1980 年代のポーヤン湖に関する包括的な研究から派生したもので、1985 年、当時
の江西省の知事の「現時点および将来にわたって、ポーヤン湖が直面する問題に対する唯一の技術的
な解決策というものはない」という考えから出発した取り組みである。この運動は、1980 年代初期に、
当時中国で最も貧困地域の 1 つであったポーヤン湖周辺の郡や村における季節洪水、汚染、土壌浸食
や土砂堆積、住血吸虫病、貧困などに取り組むために、江西省で取り上げられたものである。この取
り組みは、汚染・環境・開発に関する中国のアジェンダ 21 の最重要課題に設定されている。山・川・
湖開発プログラム委員会(MRLDC)は、この総合的なアプローチに制度として取り組むために設立さ
れたもので、ポーヤン湖全域に持続的な開発を推進している。同開発の事務局(MRLDO)は、関係す
るすべての政府機関や民間機関に対して、各種の助言、計画の作成や修整、研究の遂行、模範事例の
紹介、必要な活動の組織化などを行うために設立された。この開発事務局は、中国の省レベルで設立
された唯一の主要機関であり、開発のためにこのような包括的、業際的な取り組みを進める意思を明
確に示したものである。
この 20 年間で山・川・湖開発プログラムは成果をあげた。洪水対策として農場を湖に戻し、渡り鳥の
生息地として湿地を守ることによって、湖の面積は 3,500km2 から 5,000km2 にまで増大した。洪水時の
湖の貯水能力が増え、希尐で絶滅の恐れのある野生動物(ツデグロヅル、シロエリガラス、サカツラ
ガン)などが戻ってきた。ポーヤン湖は「国際的に重要な湿地一覧」に掲載されている。さらに、こ
の湖の西岸にある魯山は UNSCO の世界遺産と中国国立地質学公園に指定されている。原則 1 は、
山・川・湖開発プログラムの中に明確な事例として示されている。
57
EU 水関連対応枞組み指針は、すべての参加国に対して 2009 年までに流域ベースの水管理計画を策定
し、2015 年までに良好な表流水と地下水の水質を確保することを義務付けている。ハンガリーは 2004
年に EU に参加したが、それ以前から、それまでの湖沼管理の過ちによって生じたバラトン湖の環境
や社会経済問題に取り組んできた。湖沼管理の目標を達成するためには、流域ベースの計画と管理活
動が論理的であり必須であった。湖沼流域管理の適用の重要な成功事例は、地域の重要な意思決定機
関であり、さらに仲介機関としての役割を持つバラトン湖協議会の設立である。バラトン湖協議会は、
湖の管理について異なる責任をもつさまざまな機関があったことが背景となって設立された。同様に、
地域調停機関としてバラトン湖開発調整機構(LBDC)が設立され、さまざまな機関が集まってそれぞ
れが流域管理の責任を担った。このような取り組みの具体的な成果として、湖に対するリン負荷が
50%減尐したことは統合的湖沼流域管理の重要性を示す証の一つである。
单アジア・インド地域の事例として、インドのチリカ湖の事例は、既に述べた原則 1 と並んで、原則 2
の实施が成功した事例の一つである。もう 1 つの具体的な事例は、通常、ボージ湿地プロジェクトと
して知られている「ボパール湖管理保全プロジェクト」である。このプロジェクトは日本の国際協力
銀行(JBIC)によって資金援助されたもので、主として、上下 2 つの湖の管理と保全のための構想と
計画が策定された。有機農法の導入、化学肥料の使用削減、田園地区での衛生施設の普及など、21 の
事業が实施され、ボパール湖の保全の取り組みが進んだ。マディヤ・プラデーシュ州全体の水資源の
保全を監督する湖沼保全局の設立はプロジェクトの重要な成果の 1 つである。
これらの事例は原則 2 を適切に实施していくためのいくつかの組織的な取り組みを紹介したに過ぎな
い。さまざまな取り組みを統合的に实施するためには、この原則 2 を实施するときの基本事項を検討
する必要がある。湖は集水域の鏡であるため、流域で实施される対策の多くは、工業、農業、家庭か
ら発生する汚染対策に向けられた。1562 年に貯水湖として 2 つの都市、ハイデラバードとセカンダラ
バードの間に建設されたフセインサガール湖(インド)は、この半乾燥地域における工学的な奇跡、
水保全の古代の知恵の象徴と考えられている。この 50 年間、この湖の生態系は、未処理の家庭排水や
有害な産業排液による汚染のために広範な環境破壊を被った。そこで、「ハイデラバード環境再生プ
ロジェクト(GHEP)」のもとで、1)湖の周囲に公園、緑の歩道、余暇地帯を設置、2)湖岸に沿って
侵食防止のための周回道路の建設、3)産業排水の迂回、4)湖の水質を維持するための下水処理場の
建設、5)管理の取り組みへの関係者の参画、などの再生策が实施された。この結果、一度は汚染され
た湖は住民の余暇の場となり、多くの人で溢れる憩いの場となった。このプロジェクトの利益を結实
させるためにはさらに資金が必要であり、そのための努力が行われている。
流域管理の取り組みは、ナクル湖(ケニア)の持続的な利用のための取水と分配を管理する有用な出
発点となった。湖とその流域の水収支を確定するために、湖面と河川流量を測定するためのメートル
表示の測定器や流量計などの設備が導入された。雤量、照射日光強度、相対湿度、蒸発量、日照時間、
温度、風速などの気象変数も 5 箇所の観測地点で測定され、流域内の利用可能な水源と必要な水量に
関する情報を提供した。その結果、今では湖の水収支に関するモデルが作成されている。この水収支
の計算には、雤季の間に道路や農場からの排水を貯めるために農民によって作られた 3,000 ものアース
ダム(8,000 万リットル以上貯水能力をもつ)も考慮されている。これらの水の蓄えは、家畜などの給
水のために使用され、湖からの取水を抑制できる。
58
北アメリカのケリー湖やシャンプレン湖では、流域を湖の管理と保全のための計画作成の出発点と考
える手法が十分实践された。ケリー湖では、「流域」という考え方を住民に周知させるために、多く
の努力がウィスコンシン州の関係機関や教育団体によって払われた。ケリー湖協会のような、州や地
域卖位で湖保全の活動に取り組んできたグループは、湖の自然や特性を脅かすような排水地域を熟知
している。同協会の最初の活動は、流域の境界を明確にし、その地勢についての理解を深めることで
あった。残念ながら、協会が設立されて活動を始めたときには、流域は密集した市街地としてほとん
ど開発が進んでおり、どの保全対策も大幅な制限の下でしか实施できなかった。
シャンプレン湖流域プログラム(LCBP)は原則 2 に準拠して实施された。湖の管理努力は、政治的な
境界ではなく、流域内を対象として計画・实施された。すべての利害関係者が、共有する集水域を改
善し、信念をもって協働する決意を持っている。同プログラムの主要なメンバーの話によれば、集水
域全体のことを考えた保全实行計画が策定され、必要な取り組みの实施に信念をもって協力する時、
この原則 2 が達成されたと实感できるとのことである。困難な課題が多いにも拘らず、原則 2 は最も
实施しやすい原則となった。このような取り組みの結果、湖の支流の 1 つであるラプラタ川のリン負
荷は最近になって減尐し、負荷削減の目標値に近づいている。
原則 2 の实践は困難であるが、湖の持続的な開発と利用のために必要なアプローチである。この实践
は境界をまたがる越境(国際)湖沼ではさらに困難である。多くの場合、この原則は不十分にしか实
践されず、越境湖沼が务化する致命的な原因の 1 つと考えられている。
バイカル湖場合、その流域はロシア共和国とモンゴルにほぼ同等に分割されているが、事例報告の著
者は、原則 2 は適用が最も容易であると考えている。しかし、この原則 2 は国家レベルで理論的には
認識されているものの、国・地域レベルで持続的な管理を实現しようとする努力は遅々として進まず、
時には阻害されている。その結果、つじつまの合わない計画や決定がなされ、湖の特質を危険に晒す
事態を招いている。
コンスタンツ湖の場合、その境界はオーストリア、ドイツ、スイスにまたがっているが、水質やその
保全、ボート、農業、輸送などについては、原則 2 はある程度实践されている。これらについては、
国際的な枞組みができてはいるが、他の重要な事項(土地利用計画、気候変動対策など)についての
取り組みは断片的なもので、統合的な湖沼流域管理はまだ不十分である。
5 つの国(アンゴラ、ボツワナ、ナミビア、ザンビア、ジンバブエ)に共有されているカリバ湖の境界
にまたがる問題は、湖が存在するザンビア、ジンバブエの 2 カ国間でのみ対処されてきた。しかしな
がら、共有する境界を越えた管轄を行う組織はまだできていない。单アフリカ開発協議会(SADC)の
要請によって UNEP が策定したザンベジ行動計画(ZACPLAN)は流域の長期的な指針を示すものであ
り、流域内で調和の取れた開発をめざすプロジェクトから構成されている。この流域での開発プログ
ラムを共同管理しようという单アフリカ開発協議会の精神に沿って、水分野を担当する事務局の本部
がレソトに設置された。
1987 年にザンベジ行動計画が開始され、いくつかのプロジェクトが实施されたけれども、同計画を原
案どおりに实施するための共通の流域政策、協定、機構はまだ確立されていない。周辺国家は、計画
の实施をドナー国の資金に依存しているので、多くの提言はまだ实施されていない。それぞれの国や、
その国内組織はほぼ無関係に活動している。その結果、ザンベジ川流域は「危険に晒された流域」
59
(Yoffe et. al. 2002)として登録されることになった。この「危険に晒された」というカテゴリーは、
水資源の管理において紛争の可能性があり、その脅威が国の政策に反映されておらず、また多国間協
定で取り上げられていないことを意味する。
カリバ湖の事例は、政府・行政レベルでの政策が必ずしも集水域の参加型の取り組みになるわけでは
ないことを示している。上級レベルの政策と湖沼流域住民の意識の間には現实に断絶の危険があり、
湖の存在さえ知らず、したがって湖沼管理の問題にほとんど関心が無い住民がいるのである。この状
況は、流域の住民が自分たちの湖と親密な関係を持っている先進国とは対照的である。しかしながら、
先進国においてさえ、上級レベルの政策はしばしば官僚のポーズのみに終わり、現場ではほとんど効
果が現れないことがある。
多くの集水域は広大であり、重要なプロジェクトを管理・实施していく資源には限度があるので、集
水域のどの重要課題を最初に集中的に取り上げるべきかを論理的に設定する必要がある。この考え方
にそって、7 つの湖財団では、持続的な湖の利用を計画し、対策を实施するための論理的出発点となる
集水域の課題は互いに関連している、と述べている。どの原則が实施しやすいか、ありは難しいかが
問題ではなく、対策の優先順位をどう付けるかである。フケネ湖に事例でも述べられているように
「集水域の务化を食い止めるための多くの努力は、すべての問題に同時に取り組むような不可能に近
いことをやろうとしたために失敗している」のである。アルゼンチンのサンロケ湖集水域(SRLW)の
取り組みは、小さい出発がより大きな発展的な成果につながるという好例である。サンロケ湖集水域
の環境が徐々に破壊されている状況をみて、ロス・アルガロボス市民協会(ACLA)は流域の環境再
生を進める取り組みを開始した。流域内の地理的条件からパンパ・デ・オラエン地区が森林景観再生
プロジェクトの試験場所に選ばれ、他の地区で土地利用計画や最適な保全活動を实施していくための
模範地区となった。
ボージ湿地の場合、下水と雤水を分離することは、湖の水文学的なバランスを維持する前提条件とし
ての論理的な出発点であった。ラグナ湖開発公社(LLDA)によって支流域で实施された「ラグナ湖の
機構整備と住民参画プロジェクト(LISCOP)」も、流域の環境条件を改善するためには、練り上げら
れた小規模の取り組みが重要であることを明らかにした。それによって、個々の支流域における資源
の保全・管理に住民が深く参画するようになり、湖とその流域の保全に相乗的な効果をもたらした。
原則 2 の实践に関する教訓

戦略的な流域管理計画を策定することは、集水域全域の計画と管理に関する理解を総合的かつ論
理的に深めていく機会となり、流域の広範な関係者の参画を推進する。

流域のなかにより重大な影響が出る前に緊急の対応を要する戦略地域を設定することは、論理的
に第 1 ステップであり、特に人的資源や資金が限られている場合はそうである。

共有湖の場合、その集水域を開発・管理していくためには、境界にまたがる制度・行政上の問題
に取り組むための明確な政策的枞組みが必要である。汚染防止、土地の务化、生物多様性の喪失、
過度の資源開発などに対処するには、明確な地域戦略を必要とする。

原則 2 を实施するためには、湖の流域サイズや流域内の別の場所への移動のしやすさ(特に共有
湖の場合)などを考慮する必要がある。流域全体の計画の枞内で支流域管理を实施することは、
60
所定の成果を分配する 1 つの手段になりうる。流域サイズ以外にも、文化的、経済的、政治的な
違いは政策を实施する時に論理的な問題となる。

流域の長期的な目標を見失うことなく、1 つずつ問題を解決していくことは、多くの場合、一時
に多くの問題を解決しようとするよりももっと具体的な成果を得ることができる。

政策的、法的、制度的、および情報伝達の枞組みは集水域全体の管理計画が機能するための前提
である。
原則 3:湖の環境悪化の原因を除くには、長期的で予防的な対応が必須である。
湖沼は 3 つの基本的な特性、1)すべてを統合する性質、2)長い滞留時間、3)複雑に絡みあう現象、
を持っている。有効な湖沼管理を考える上でこれらの特性は極めて重要である(ILEC、2005)。湖の
乱用の影響や集水域の务化はなかなか表面化してこない。また環境保全活動の効果が明らかになるの
にも時間がかかる。これらのことを考慮に入れていないと、短期的な恩恵しか産まないような受身的
な対応に陥りやすい。
湖沼流域の課題や懸念、問題は多様であり、高度なセクター間の協力や連携を必要とする業際的な取
り組みが求められる。中でも、集水域全体の管理計画の策定、水質や廃液の基準を含む法的整備(環
境基本法、規制、規則など)、湖や支流の水質モニタリングの实施、点源・面源汚染防止、および環
境教育などが重要である。水や食料確保のうえで湖の持つ重要性を考えると、湖沼流域資源の保全と
持続的な管理を行う責任部署が必須である。また統合的な湖沼管理に取り組むためには、適切な法整
備や強力な法的規制手段を实施するなどの行政的な支援が必要となる。ラグナ湖開発公社の設立にお
いてはこのような目標が明確にされ、同公社は、必要な法律に支えられた組織として、その使命を果
たすために必要な規則や規制を作成・实施することを保証されている。同様のことはバラトン湖につい
ても言え、政府の充分な支援がある。この支援には、強力な法規制を厳格に適用し、それによって支
えられた計画や事業を实施していくという政府の決意を法律の形で表すことも含まれている。州レベ
ルとして始めて設立されたマディヤ・プラデーシュ(インド)の湖沼保全局は、さまざまな取り組み
を継続的に实施し、ボージ湿地の改善に努めた。同じ意味で、チリカ開発公社は、ラムサールサイト
となっていたチリカ湖の再生に重要な役割を果たした。湖のいくつかは、地方自治体によって管理さ
れており、その代表的な例は琵琶湖(日本)であり、滋賀県に管理が任されている。
この報告書で分析された 27 の事例のなかで、湖沼管理のために明確な組織を有する湖は 7 つのすべて
の原則が機能している具体例である。同様に重要なのは、さまざまな分野の組織の協力と湖の保全に
関する多くの努力の連携である。このように、湖沼流域保全の使命が明確に規定された組織の存在と
組織間のネットワーク、これらの機関の成長や成熟、湖沼流域管理への住民の参画は、原則 3 を实施
するための土台となるものである。
湖沼流域の管理と開発のマスタープランは、個々の計画や、運動、事業を補完的に实施するための第
1 ステップである。その 1 例として、2003 年にウィスコンシン州(米国)では、同州の条例 33 章に基
づいて、特命行政部局としてウォーターフォード水路管理局(WWMD)が設立された。同局の最初の
仕事はウォーターフォード貯水池の管理計画を策定することであり、この計画を湖と流域内で实施さ
れる行政施策の基礎として推進することであった(SEWRPC 2006)。その行動指針として、同局は
「この一滴が世界を変える」というキャッチフレーズを採用したが、それは大きな集水域の中間地域
61
に位置するこの湖沼地域が直面している課題の大きさを物語るとともに、成功するためには、目標設
定、優先順位付け、それに沿った計画作成が必要であることを強調するものである。計画は 20 年かけ
て实施されることになっている。また米国 Clean Water Act に対する現地対応策の一部として 1979 年に
公布された地域水質保全計画に基づいて行政機関が取り組んでいる対策は今後も継続的に实行される
(SEWRPC 1995a)。
タウポ湖(ニュージーランド)では、タウポ湖管理局が、1997 年に地域のさまざまな関係者と協力し
て 10 年間の戦略的計画を作成した。この計画の土台になっているのは 1992 年リオデジャネイロで開
催された地球サミットで掲げられた持続性の原則である。この原則は、以下のような内容からなる。
 長期的な取り組みを進める
 予防的な対策を優先する(予防は治療に勝る)
 すべての関係者の参画を進める
 自然環境、人々と経済の相互依存性を認識する
 「トップダウン」よりもむしろ「ボトムアップ」的な取り組みを進める
 国家や国際的な視点をもちながら、草の根の対策を实行する。
その結果、1997 年以来、タウポ湖と広範な地域住民にとって有益な次のような多くの成果が得られた。
 すべての意思決定機関の協力と目標の共有
 湖沼住民によって確認された湖の価値を守るための具体的な対策と責任分担を明確にした「行動計
画」の作成
 行動計画で決定された対策の開始
フセインサガール湖(インド)の場合、湖沼の保全対策は州政府のビジョン 2020 の中に述べられてい
る。このビジョンには、日本の国際協力銀行(JBIC)の援助を受けて实施される予定の総合的な湖沼
生態系保全計画が含まれている。提案されているプロジェクトは(1)数箇所の流入ポイントでの浚渫、
(2)湖に流入する汚染を防止するための下水の収集と分水、(3)5,000 万ℓ・日の処理能力を有する下
水処理場の建設と既存処理場の能力増、(4)湖岸の修理と改善、(5)利害関係者、湖に依存して暮
らす住民、2 つの姉妹都市の市民などからなる湖沼管理・保全協会の設立、などを主要な柱にしている。
シャンプレン湖(カナダ、米国)の保全プログラム「行動への機会」(2003)は、流域で確認された
問題に対処するための戦略と具体的な対策を述べている。その中では、良好な水質を維持するための
最も費用効果のある管理戦略は、汚染防止であることが謳われている。対策の 1 つは、湖とその支流
の水質の長期的なモニタリングで、水質の経時的な変化の観測が必須であると考えられている。水質
データは、環境改善や改善策の評価や、規則や規制(廃液環境基準、環境利用税など)の有効性の評
価にあたって、有効な判断基準となる。
ナクル湖では、世界自然保護基金(WWF)やケニア自然保護局(KWS)が、適切な保全策を定めるた
めの前提として、自然、資源、汚染の経路と量、およびその湖沼環境への影響などを調査する生態系
モニタリングの取り組みを開始した。この活動に対する大きな支援の 1 つは、JICA の資金援助による
本格的な執権审の設置であった。この取り組みを継続させるために、2005 年にはナクル環境管理プロ
ジェクト(NEMP)が始まり、1)関係者の環境の監視・管理能力の向上、2)主要な関連機関の連携促
進、3)住民の環境意識向上、などを实施し、その成果にはめざましいものがあった。その 1 つはプロ
62
ジェクトの主要機関によって策定された定期および特別観測プログラムで、それらは現在も实施され
ている。
ラグナ湖開発公社(LLDA)は、37 年間にわたって湖とそのさまざまな支流で水質観測に取り組んで
きた。膨大なデータや、集積された重要な事实から得られる情報によって、同公社は、水質負荷モデ
ル、生態系モデル、水質モデルなど、湖とその流域保全のためのさまざまなモデルを開発した。現在、
これらのモデルは、同公社の政策策定や意思決定のプロセスで重要な役割をもっている。
原則 3 の实践に関する教訓
 WLV の 7 つの原則に準拠した総合的な湖沼流域の管理と開発の計画は、湖沼管理者や利害関係者
が湖の务化を阻止するために必須であり、具体的な指針の策定や、計画を確实に实施するための必
要な手段を提供してくれる。
 長期的に予防策を实施していくためには、明確な湖沼流域保全の使命を持った組織、あるいはネッ
トワークの存在が必要である。
 湖沼とその流域あるいは環境全般について、同じようなあるいはさまざまな使命を有する機関の間
で適当なフォーラムや会合の機会をもつことは、管轄間の紛争を最小限に抑えるための議論や協働
を促すために必要である。
 この原則に基づいて予防原則を有効に適用するためには、中央および地方政府の長期的な实行の意
思と、執行可能な法整備を含む持続可能な開発戦略の確立が必要である。
 活動を継続的に行なうためには、環境プロジェクトに対する資金援助は、湖沼管理プログラムのす
べてのステップで能力向上活動を含むべきである。継続的な指導は、プロジェクトに参加するすべ
ての関係者に対して推進される必要がある。
 短期の取り組みも湖沼の务化原因を阻止するために重要かつ必須であるが、それは長期的な戦略の
なかで検討されるべきである。
 予防的な対策を实施することは、多くの資金がかかる再生事業よりも効率的である。
 制度の整備と湖沼流域管理計画は、長期的な管理プロセスと、湖の务化を抑えるための基礎である。
原則 4:湖沼管理政策の立案と決定は、適正な科学と、入手可能な最良の情報とに基づいて行なうべ
きである。
湖沼は、その集水域内外の多くのさまざまな圧力や負荷の影響を受けるダイナミックな生態系である。
しかし多くの場合、その影響が顕著になるまでには時間がかかる。湖沼の研究には自然科学や社会科
学のさまざまな領域の専門家が必要であり、1)環境変化のもたらす因果関係の正確かつ総合的な解釈、
2)流域で实施された(实施中の)管理対策の成果の評価、3)情報格差の解消、4)改善対策や研究の
優先順位付け、などに取り組むことが求められる。
水資源は有限にもかかわらず競合的な水の需要と利用は増加し続けており、その結果、定量的・定性的
に望まない問題がもたらされているが、その問題に取り組むための対策は、現代の科学技術の手の中
にあるはずである。湖については膨大なデータや報告があり、その多くは年報、地域・国際学術誌、あ
るいは電子媒体として入手可能である。近年、水質や底質、点源・面源の負荷、生物系、集水域の社会
経済特性など、湖とその流域について集積されたデータを利用した、多くの意思決定支援システム
63
(DDS)が開発されている。今では、計画されたプロジェクトの結果予測は可能であり、また政策影
響評価もさまざまな意思決定ツールの利用によって次第にできるようになった。環境問題や不安に対
処するために必要な情報加工、対策提案、政策決定を行なうための体制作りなどを進めるための専門
的な知識も容易に入手できる。しかし、このような情報をどのようにうまく利用するか、また、さま
ざまな分野からの情報を政策や意思決定にどう組み込んでいくかについては、多くの湖沼事例におい
てまだ課題が残っている。「7 つの湖を守る会」(フィリピン)の事例によれば、原則 4 の实践が難し
いのは、科学的・技術的なデータが無い、あるいはそれを知らないことが原因ではなく、社会的・政治
的問題に起因する争いが原因なのである。湖沼管理の計画に関する適正な意思決定を行なうために、
科学的、社会的なデータや入手可能な最良の情報を得ることは誰にでもできる。しかし、湖沼管理が
成功するかどうかは、すべての利害関係者が入手可能な科学的・技術的情報をどのように最もうまく利
用するかについて合意に達するかどうかに大きく依存するのである。もう 1 つの不安は单アメリカの
湖沼で持ち上がったもので、多くの争いが、科学的な手順の無視からではなく、社会・政治的な問題か
ら生じたとき、政策作りや意思決定において科学は有効なのかどうかという心配がある。
事例報告にある湖沼のほとんで陸水学的なデータの集積がある。例えば、インドのボパール湖は、し
ばしばインドの「陸水学の宝庫」と称される。ボージ湿地などの湖に関するさまざまな大量の科学的
データ(水質、生物多様性など)が入手できる。この 50 年間、広範な研究の対象になったフセインサ
ガール湖についても同じことが言える。しかしながら、この湖の保全政策や行動は、多くの社会経済
的、政治的な要素のために、必ずしもこのような情報に基づいたものではなかった。政策決定の過程
では政府内の特定の利益集団を代表する一派が決定権を握っていた。市民社会の代表と協議を経て決
定された政策の数は不明のままである。ポアイ湖(インド)についても、湖の陸水学、汚染生物、生
物多様性などについて多くの調査結果が入手可能であるが、この成果が、湖に影響する政策やその決
定過程にどの程度反映されているかは明確でない。管理活動の多くは技術的な解決策であるが、生態
系重視の取り組みになっていない場合が多い。例えば、ロナー湖(インド)の場合、その情報の大部
分は学術的なものに留まっており、湖の保全策として提案されても实行に至っていない。
湖沼管理の政策やその決定が有効であるためには、例えばチリカ湖(インド)の場合、原則 4 が重要
であったように、適切な関連情報によって支持されたものでなければならない。チリカ湖の再生計画
策定に当たっては、インド動物学調査機構(ZSI)、国立海洋学研究所、州立大学などで得られた情報
が広範に用いられた。
ナクル湖(ケニア)の場合、リスクの低減と汚染の防止策の策定は化学物質排出移動量届出制度
(PRTR)に基づいている。工業施設や農場から空気、水、大地に排出される毒性物質に関して、化学
物質別、排出源別、および標準データが載った情報システムがあり、誰でもそれを見ることができる。
これらは汚染低減の取り組みを展開するとき、汚染物に関する基礎データを提供してくれる。この登
録制度を補う取り組みとしては、毎年、国家環境管理局(NEMA)が労働衛生サービス局(DOHSS)
と一緒に行なう環境監査や環境影響評価などがある。
ラグナ湖開発公社が实施した「ラグナ湖管理制度確立と住民参加促進プロジェクト」においては、地
方自治体や住民が、オランダ政府の資金援助で行なわれたラグナ湖の調査に際して開発された政策決
定支援ツールを用いて自分たちの支流域プロジェクトの優先順位をつけた。水質・廃棄物負荷モデル
64
を GIS やリモートセンシング情報と連動させて活用することによって、支流域の特性を把握し、实行
可能性を検討することができた。
ヨーロッパにおけるバートン湿地の事例は、湖沼再生プログラムの实施において、科学と实験に基づ
いた管理対策が有効に機能した例であり、それが实施可能であることが实証された。関係者は取り組
みの最初から参加した。その結果、生態系管理やその他一連の再生技術によって、かつては富栄養化
が進んでいた湖生態系のバランスを取り戻すことができた。これらの技術は他の湖にも適用可能であ
る。
コンスタンツ湖研究所(オーストリア、ドイツ、スイス)は、水質と湖の保全に関する調査と研究を
行なっている。NGO は動・植物やその生息地の成長などの科学的な情報を広く伝えるうえで重要な役
割を担っている。このように科学は湖沼管理の取り組みと深く結びついている。しかし残念なことに、
湖沼流域全体のモニタリングシステムがなく、またオーストリア、ドイツ、スイスの経済的な湖の利
用について統一的な統計データもない。
バラトン湖(ハンガリー)の場合、湖の研究と調査を調整する機関の存在が有効であった。バラトン
湖陸水研究所は、地域の大学が湖の調査や研究を行なうための中核機関であり、また調整機関として
機能した。著名な研究者、関係省の役人、その他の関係者からなるバラトン委員会は、首相の秘書审
によって統括されており、この組織的な連携により、研究成果は速やかに伝達され、管理施策を決定
するための情報となる。
同様に、シャンプレン湖流域プログラムは、科学者や技術者の独立機関である技術諮問委員会(TAC)
に、技術的な助言や、同プログラムが発行する技術的・科学的な文書類のレビューなどを依頼している。
さらに技術諮問委員会には、策定される保全施策や予算配分の順位付けなどが適正な科学情報に基づ
いてなされるよう、最新の科学・技術問題を調査・報告する責任がある。
韓国の「デチェン湖を救おう運動(DLSM)」には、地元の NGO からなる執行委員会と、デチェン湖
に関する科学的に適正な情報をとりまとめる専門家の協議機関「政策フォーラム」がある。しかし、
それらの機能は十分に活用されていない。したがって、DLSM はこのための連携強化を図り、デチェ
ン湖周辺の関係機関や科学的な設備や人材を有する団体を、政策フォーラムのメンバーとして迎える
必要がある。
原則 4 の实践に関する教訓

合理的で調整のとれた取り組みに科学を取り込むことによって、湖沼管理の重要な問題に対して
合理的な基礎を与えることができ、さらに長期的に持続可能な利益につながる有益な成果をあげ
ることができる。

効率的に伝達され、適用されることによって、科学的な研究成果は合理的な湖沼管理の施策決定
を支援する。

湖沼モニタリング技術が進歩し、それによって湖の水質特性の測定が容易になると、情報伝達技
術(ポスター、メディア)を併用することによって、湖沼管理者の湖の状態やその状態を作り出
している原因などを住民に伝達する能力が向上する。政策決定支援ツール(モデル、GIS など)
65
を活用してわかりやすい説明を行なうことによって、環境に対する理解が深まり、湖沼管理の施
策決定が促進される。

ある流域での革新的な試験プロジェクトは、適切な管理と計画の有効性を实証し、他の流域で同
じような取り組みを实施する助けになる。

若者も含め、利害関係者は基本的な調査活動に参加し、湖の健全さに関する情報や、それが住民
の暮らしにもつ意味などを考えるべきである。そのような活動は、湖の管理計画策定のための情
報や助言の基礎となる。しかし、政府の支持や支援が無ければ、この目標に達するのは困難であ
ろう。

湖の再生プロジェクトを開始する前に、科学が十分かつ適切に関わることは極めて重要であり、
それによって再生プログラムの实施にあたり、情報と指針に関する合理的・科学的な基礎が与え
られる。
原則 5:持続可能な湖の利用のための湖の管理では、現世代および将来世代の要求と自然の要求を考
慮しつつ、競合する湖の資源の利用者間の紛争を解決することが必要である。
湖沼流域における水に関する紛争の大部分は、地方や国レベル、国際湖沼の場合は国家間レベルの複
数の管轄や、湖沼資源をめぐる競合的な利用の結果起こる。原則 5 は必須不可欠な原則で、7 つの
WLV の原則の中で最も重要なものと考えられるが、多くの事例において最も实践が困難な原則の 1 つ
である。紛争の解決なくして湖の共通のビジョンを作成することはできない。同様に、湖沼保全の運
動は、流域内の紛争に現实的で实現可能なやり方で取り組まれなければ成功しないだろう。
シャンプレン湖で経験した最初の困難と同様な状況と事例は、多面的な利用が進んだ多くの湖で見ら
れる。無制限の消費習慣の伝統が文化として長く染み込んで、それが湖沼資源の利用者の世界観とな
っている。地方や地域経済の主要業者が関係する利用者間の紛争を解決し、長期的な資源の持続性の
点から許容される行動へと認識の転換を図ることは、シャンプレン湖とその流域だけでなく、他の流
域を含めて、有効な湖沼管理に向けた継続的な課題である。
シャンプレン湖流域プログラム(LCBP)は、5 年ごとに、合意によって総合的な管理計画である「行
動への機会」を改訂している。住民はこのプロセスにおいて新たな重要問題を特定し、それらの問題
に取り組むための行動計画の作成に幅広く参画している。計画が改訂され新たな対策が導入される場
合、それらは徹底的に議論され、多くの場合、広範な意見を取り入れて調整が図られる。合意形成プ
ロセスは、管理をめぐる議論においてお互いに合意できる目標に至ることに特別の努力が払われるの
で有効である。
湖の利用者間の紛争がうまく解決された有名な事例は、チリカ湖流域(インド)の伝統漁業を営む漁
師と養殖業を営む企業家の場合である。同様に、ラグナ湖(フィリピン)においても 1980 年代に利用
者間の紛争が顕著になり、伝統的な漁業権を守ろうとする漁師の闘いは悲惨な展開をとげ、漁師の中
に死者を出すように至った。チリカ湖の場合、このような状況のなかで州政府は、伝統的な住民の生
活を持続的に維持するのか、それとも必ずしも環境にやさしくない近代的な水生養殖を实施するのか
という問題に直面した。最終的には、この問題は政府が伝統的な漁業権を認めて、それを再行使する
ことで決着した。
66
フセインサガール湖(インド)の場合、開発という名のもとでの湖岸の侵食と、湖に依存して暮らす
住民の軽視という 2 つの問題があった。強硬なグループは、この問題解決のために法的手段や、管轄
権を活用して湖の保全のための戦略を策定することを求めた。
湖沼関係者、特に湖沼資源の利用者を政策決定のプロセスに含めることは、バラトン湖(ハンガリー)
の紛争解決を図る上で効果的であった。实施されるプロジェクトは、関係省庁、地方自治体、地域団
体、経済界、および NGO の代表からなるバラトン湖開発協議会を通じて、さまざまな利害関係者が参
加するフォーラムで議論・討議される。
ラグナ湖では、原則 5 は「ラグナ湖環境対策立案(LEAP)運動」を通じて、大変ではあったが、大き
な問題はなく適用された。ステップごとに進められた運動の重要なステップは住民参画であった。こ
の運動には支流域の特性評価が含まれており、さまざまな関係者が自分たちの環境にもっと親しみ、
直面している環境破壊の種類や程度を自分で理解し、最も緊急な問題が何かを知り、それらの問題に
どう取り組むかについて合意する良い機会となった。LEAP は、各市町村における環境問題に対して实
行可能な解決策を、自治体職員が住民と協力して策定するための能力を向上し合える上で有効であっ
た。このように、すべての関係者が定められた解決策について自分たちのものと考えるようになった。
この報告の多くの事例で原則 5 の实践の難しさが指摘されているのと対照的に、フケネ湖(コロンビ
ア)ではこの原則の实践は容易であると考えられた。紛争解決の取り組みは住民の意識向上運動から
始まった。感化された人々は環境問題により敏感になり、解決策は自分たち自身の中にあるというこ
とを理解した。
原則 5 の实践に関する教訓

原則 5 は WLV の原則の中で最も实践が難しい原則の 1 つである。すべての湖沼保全活動の成否
は、この原則が適切に实践されるかどうかに掛かっている。また湖沼流域に参加する利害関係者
には権限付与が行なわれ、彼らが紛争の解決や政策決定において積極的な役割を果たすことが求
められる。

住民の環境意識が高いところでは紛争解決の取り組みを始めることが容易である、なぜなら、そ
こには紛争は解決されなければならないという認識があり、また流域の住民は紛争に非常に敏感
であるからである。

大きな集水域で、複数あるいは重複するさまざまな管轄機関があり、それぞれがその使命を果た
すための法的義務を有する場合の問題は、法的な問題や「縄張り」の問題を決着させる必要があ
り、解決には時間を要する。調整機関として、委員会、協議機関、協議会などを設置することは、
相違点を解決し实行可能な対策を立案するための現实的な方法である。

利害関係者と協力していくためには、熟練し細心の注意を払うファシリテーターが必要である。
彼(彼女)は、尐数グループの意見を出させつつ、特定の選ばれたグループが議論や活動を牛耳
ることが無いようにしなければならない。

被害を被った人々が自信を持つための活動は、实行可能な解決策に取り組むことから始まる。小
さくて卖純な成果が自信を生み、他の紛争を解決するための取り組みの推進につながる。

試験的プロジェクトや特定の運動は、湖沼管理のための広範なパートナーシップの基礎作りであ
る。
67

政治的な意志や決意が国や地方政府などの法制度の中で明示されることは、原則 5 を効果的に实
施する道筋を作るために必須である。

多くの人が参加しても管理団体は、せいぜい、利害関係者たる住民を代表しているに過ぎない。
湖やその流域、資源を持続的に利用するために必要な保全活動の最終的な責任を有するのは利害
関係者一人一人である。
原則 6:重要な湖沼問題の把握と解決のためには、住民およびその他の利害関係者の有効な形での参
加を奨励すべきである。
湖沼とその流域管理は、湖沼管理当局や流域保全の使命を持つ機関のみで行なわれるものではない。
湖沼流域は大きく、またその問題や課題は多岐にわたっているので、湖沼管理や環境保全の取り組み
を計画・实施するにあたっては、すべての利害関係者の参画が必要である。
例えば、ウィスコンシン州(米国)で行なわれている住民主体の地域密着型湖沼管理は、同州の州法
第 33 条に謳われているものである。また、同 33 条は水質管理を行なう行政特別目的地区として、住
民が湖内に湖沼保全再生地区を設定する機会を与えている。これらの行政機構は、ボランティア団体
や地域団体と協力して、州内の 700 以上の地域における湖沼保全運動の中核的な役割を果たしている。
ケリー湖協会(KLA)は、ウィスコンシン州法第 181 条に基づいて、上下のケリー湖の周辺に住む住
民によって 1994 年に設置された。KLA は湖沼の問題に関する住民の関心を高め、関連行政機関やウィ
スコンシン天然資源局(WDNR)などとも連携しながら、特定の再生プログラムや事業を实施してい
る。1997 年以来、KLA は公的資金を受けて、保全計画の策定、保全地区の購入、上ケリー湖に流れ込
む水路系の再構築など行なってきた。
韓国水資源公社の資金援助を受けて 2002 年に設立された「デチェン湖を救おう運動」は民間資金の支
援の重要性を示すものである。この運動の目的は、デチェン湖とその周辺の水質や生態系を保全する
ために、住民、NGO、地方自治体、中央政府機関が協力してモニタリングや、情報の収集や交換を行
ない、情報の提供、住民活動の強化を図ろうとするものである。この運動は、デチェン湖の問題解決
のための環境保全活動に関する住民の姿勢を、従来の「NGO 主体」から「住民主体」へと変えること
に成功した。
タウポ湖(ニュージーランド)の場合、湖の集水域に関する持続的な開発戦略を策定するにあたり
「地域にとって湖の重要な価値とは何か」が検討された。そのために「湖と水路のための行動部隊
(LWAG)」が設立され、行政、民間部門、環境団体などほとんどすべての地域団体が集まり、湖の
将来的な重要性についての共通認識に基づいてこれらの価値が確認された。
カリバ湖流域においては原則 6 を適用するまでに統治のレベルが成熟していない。カリバ湖の流域は、
ザンベジ川とアフリカ大陸单部の 5 つの国からなる非常に大きな流域であり、またそこには多様な住
民が暮らしているために、湖沼管理に関していくつかの大きな課題に直面している。流域住民が自分
たちの湖と親密な関係を持っている先進国の場合とは対照的に、カリバ湖流域の住民は、湖辺にある
2 つの国の湖辺流域に住んでいる住民を除けば、湖の存在すらほとんど知らず、まして湖の問題につい
て何の共感も持ち合わせていない。また、国家も管理の努力に住民を参画させることのメリットを知
68
らない。政策決定はすべて官僚によって行なわれ、彼らは住民や地域団体が湖とその流域の管理保全
問題に貢献できるということを全く理解していない。
サンパブロ市(フィリピン)の「7 つの湖を守る会(FSLF)」では、有効で、わかりやすく、他の地
域でも实施可能な意識啓発と情報活動によって原則 6 の適用が進んだ。同財団は、学校に行けばほぼ
確实にメッセージを伝えることができると考え、出発点として若者に的を絞った。若者はすぐに、自
分たちの家族や親戚、自分たちが住み・遊び・働く地域にそのメッセージを広めた。子供たちは、環
境意識向上運動に原則 2 を利用し、「自分たちの町の火口湖の主要な水源は集水域であり、その保全
は非常に重要である」とわかりやすく説明した。このように、彼らは楽しみながら地についた植樹活
動を組織的に行ない、この原則を適用していった。FSLF は環境教育の目標を達成するために、子供た
ちのありふれた喜び(水、土、植物と遊ぶ)をうまく利用した。
ラテンアメリカの湖では、利害関係者の関心や期待を考慮に入れて原則 6 が適用された。その事例は、
サンロケ湖(アルゼンチン)の集水域パンパ・デ・オラエン地区の森林景観再生運動計画に見られる。
現地住民は調査に直接参加し、計画の第 1 ステップで行なわれた 6,000 本の植樹とその育成に努めた。
フケネ湖(コロンビア)の場合、原則 6 は、魚種や漁法の現状を評価・検討する調査活動に地元の漁
民を参加させる根拠となった。この過程を通じて、利害関係者は、有効な漁業活動を進めていくため
の目標、戦略、公的合意の策定に至った。
原則 6 は、チャパラ湖(メキシコ)のコンディーロ運河山の持続的な開発プログラの根底をなすもの
である。地元住民は、森林伐採や土壌务化問題、その原因や解決策を確認し、再生と保全の計画を策
定した。
原則 6 の实践に関する教訓

湖沼と集水域の保全対策を实施し、それを適切に(透明性を確保しながら)モニタリングし、住
民参加の機会を確保していくためには、行政、民間、市民、政策決定者を含む利害関係者の権限
付与と参画を進める適切な管理フォーラムが必要である。

利害関係者の調整役は、その性格上、立場が不安定になりがちであるが、管理プロセスを通して
一貫した立場を採り、誤解や圧力に抜かりなく対応することが要求される。

協議の場は、さまざまな利害関係者が健全な討議を行ない、関連する問題を明確に理解し、重要
な湖沼問題解決のための解決策の優先順位づけを行なうための基盤である。

多様な利害関係者の協力を進めるためには、尐数者にも意見を述べさせ、エリート主義をもった
集団の声を押さえ、熟練した、気配りができるファシリテーターが必要である。

原則 6 を实施していくうえで最も困難な課題は、さまざまな利害関係者や利益団体が持続的な湖
沼管理の議論に十分参加できるような適切な状況を、国および地域レベルの行政機関による確实
な支援のもとに作り出すことである。

合意形成は、時として非常に困難であるが、湖沼とその流域の持続的な利用に関する重要な問題
解決のための有効な対策を成功させるためには極めて重要である。

どんなに小さく見えても、自分たちの取り組みや行動の成果を認識することは、人々の自信につ
ながり、もっと行動しようという活力となる(行政を支援する取り組みの实施など)。
69
原則 7:湖の持続的な利用のためには、公平性、透明性、すべての利害関係者への権限付与を基礎と
した良好なガバナンスが不可欠である。
WLV の最初の 6 つの原則は、「水資源に関心をもつすべての住民によって、住民のための湖沼管理活
動が幅広く支持されることによって、参加、所有意識、適正な技術の知識、多面的利用の範例、計画
立案、流域をベースとする取り組みは良好なガバナンスとなる」という原則に収斂する。資源の共同
管理は奨励されるべきものであり、事实、先進国にある多くの湖の事例でうまく機能している。ケリ
ー湖(米国ウィスコンシン州)の場合、このような取り組みによって、水路と湿地再生プロジェクト
が成功裏に終了した。
サンロケ湖集水域における森林景観再生は困難な取り組みであったが、そこでは原則 7 が基本的な要
素の一つとなった。パンパ・デ・オラエンモデルは一連の会合やワークショップを経て作成されたも
ので、そのプロセスには 5 つの核となる県や市町村から行政機関、利害関係者や住民が参加した。こ
の取り組みは、県で行なわれている他のさまざまな補完的な事業や、森林管理に関連した法整備にも
役立った。
フケネ湖(コロンビア)の漁業管理計画はこの原則の適用にそって展開された。具体的には、住民参
加による現地の診断調査、それに基づいた研究活動、管理戦略に関する合意形成、ロス・フンダドレ
ス漁業組合と漁業管理委員会の設立、恒久的な監視活動の枞組み作りなどの活動が行なわれたが、こ
れらのすべてが現地の漁師、NGO、関連行政当局の共同の取り組みとして实施された。
チャパラ湖(メキシコ)の場合、市町村、州、国の関係機関、学術機関、市民団体、民間グループな
ど多くの関係者が参加し、利害関係者の成長の成果は明らかであった。この広範な取り組みによって
コンディーロ運河地域では、森林再生・土壌保全事業、インフラ整備、社会的な統合が進んだ。
ラグナ湖(フィリピン)の制度整備・住民参加プロジェクトの主要な目的の一つは、湖沼流域の管理と
保全の活動に住民をもっと参画させることによって、利害関係者の力を付けることにあった。この目
的を補完するための戦略の一つは、参加型プロジェクトを立案し、住民主体の環境プロジェクトを实
施することによって流域の資源利用者の行動を変えることであった。このような取り組みは、各々の
集水域の地方自治体や河川流域協会が湖沼とその資源の管理と保全に有意義に参加する機会となり、
ラグナ湖開発公社(LLDA)と地方自治体(LGU)とが湖沼管理をめぐって対立していた 1990 年の中
ごろとは様変わりした(ILEC&UNEP-IETC、2001)。同公社は、以前から湖沼流域を保全する使命を
もつのは自分たちだけではないことを認識していたので、实効性の高いこの共同管理という手法を採
用した。というより、自分たちの計画や取り組みをもっと有効に立案し、实施するためにはすべての
利害関係者の協力と参画が必要だったのである。
タウポ湖(ニュージーランド)の行動計画は、原則 7 の適用事例のお手本である。タウポ湖では住民
にとって最も重要な湖の価値が 1997 年に定められ、それ以来、核となる利害関係者を含むタウポ湖の
住民は保全計画の立案に参画している。彼らは「タウポ湖集水域における統合的持続的開発戦略」に
関する 3 ヵ年プロジェクトの实施段階から参画し、総合的な行動計画を作り上げた。
タウポ湖行動計画は、現地の先住民族マオリが湖底の所有者であり、保全の責任をもつことを認める
とともに、国の関連重要機関に着目し、地域や現地の評議会には、水質、土壌や水の保全、土地利用
規制などの責任を持たせ、国の 2 つの機関には、タウポ湖の港湾機能、自然の動植物や固有林の保全
の責任を持たせた。彼らは、毎年实施すべき対策を決定し、それに必要な時間や資金を確保する。ま
た彼らは、前年度に完了した対策を報告し、その情報は住民が入手できる。その中の一つの機関は、
計画が対策として实施され、所定の成果があがるように見届ける役割をもっている。また 「2020
Taupo-nui-a-Tia 共同管理グループ」は行動計画の实行成績を監視する責任を有している。
70
NGO やその他利害関係者の能力向上の先頭に立っているのは、ビクトリア湖流域のニャンザおよび西
地区で活動する NGO「ビクトリア湖の友(OSIENALA)」である。彼らの使命の一つは、ケニア、ウ
ガンダ、タンザニアのビクトリア湖周辺の住民の能力向上であり、彼らが環境管理人としてビクトリ
ア湖とその流域から最大の利益が得られるようにすることである。
OSIENALA は、次のような優れた取り組みを展開している。

漁民に「貯蓄文化」を導入し、流域のさまざまな地域に「ビーチ・バンク」を設立した。これは小
規模金融活動で、漁民の事業転換を図り、投資技術、将来の湖の持続的な利用のための保全活動
の指導を進めるものである。

電気が通じていない地域を対象とする「ラジオ・ビクトリア」による情報発信(配電網は流域人
口の 6%以下しかカバーしていない)。OSIENALA は現地語で漁民たちに環境問題を伝えている。
今では 300 万人以上の傾聴者があり、このラジオ番組は、1)環境管理に向けた働きかけや訴え、
2)湖沼流域住民の間の環境管理意識の形成、3)これらの問題に対する住民の動機付け、などの
役割を果たしている。

「村落環境委員会(VEC)」の設立。ここでは村人が自分たちの周囲、特に湿地の天然資源を持
続的に管理・活用していくための訓練がなされる。また村人は、湖の水位を計ったり、他の関係者
(工業関係者など)と協力して河川岸の保全活動に取り組んだりする。
原則 7 がうまく適用された湖はバラトン湖(ハンガリー)である。二つの重要なフォーラム(バラト
ン湖閣僚会議、バラトン湖開発協議会)は、バラトン湖の管理と開発に関する問題に利害関係者が参
画する手段となっている。この取り組みを通じて地域住民には権限の付与がなされている。
ナクル湖(ケニア)流域の保全における決定的な問題は所轄権が不明確なことで、複数の政府機関に
よって实施されるさまざまな分野別の法令もその一つである。この状況は、主要な機関の高官がしば
しば変わることによってさらに悪化している。所長や管理者が代わると必然的に方針が変わり、保全
プログラムが変更になったり無効になったりする。このような主要機関の不安定さによって、能力向
上の努力が台無しになり、流域内の取り組みを組織として取り組むことができなくなる。
コンスタンツ湖では、ドイツ、オーストリア、スイスが一緒に取り組めるような行動計画が無いため
に、公正で透明性の高い参加型の湖沼管理の取り組みを進めることのメリットを得られないでいる。
また、そのことによって湖沼資源の保全に向けた適切な法整備も遅れている。
原則 7 の实践に関する教訓

良好なガバナンスを实現し持続的な湖沼流域管理の基礎を築くためには、湖沼流域のすべての利
害関係者が参加し、公正で、責任がはっきりした、対応の早い、合意形成を基本とする、透明性
の高い取り組みが必要である。

上に述べた前提の下で、行動のための枞組み(総合計画、行動計画、流域管理計画など)を作る
ことが有効な湖沼流域ガバナンスのための必要条件である。

湖沼管理のための責任部局を作ることが必要であり、またさまざまな分野との共同管理の取り組
みは、湖沼流域管理を進めるための良好なガバナンスの实践例である。

生活を直接的に湖沼資源に依存している流域住民は、通常自分たちの問題に対する早急な解決策
を求める。しかし多くの場合、必要となる管理対策は長期的な性格をもっている。それでも解決
策の一部として住民を参加させることによって、彼らは問題はすぐに解決されるものではないこ
とを理解し納得するようになる。すなわち、有効な湖沼流域管理戦略には、直近の必要性と将来
の解決策を調和させる必要がある。
71

湖沼流域のさまざまな利害関係者を結集することは、管理計画やその取り組みの实施を促進し、
また入手可能な資源を最も有効に活用することになる。

原則 7 を有効に实施するためには、トップダウンとボットムアップ方式が適当に組み合わされた、
法的に確立されたフォーラムが必要である。

公平性、透明性、適正さをもったより良好な流域ガバナンスは、住民参加を促進する仕組みによ
って支えられる。

共同管理を進めるためには、制度の整備、関係者の能力向上、組織の成熟度評価などの手法が必
要である。

法的手法(地方、地域、国家、国際的な組織における環境政策、法律、規則や規制、ガイドライ
ンや基準など)は、湖沼流域管理を進めるための必須要件である。地域の習慣、昔からの知恵や
慣習法など、「持続的な開発」が環境政策の流行語となるずっと以前から持続的に实施されてき
たものもこの分類に入る。

必要な法整備が行政の各種レベルでできている場合でも、湖沼管理に関する問題が適格に取り組
むまれるためには「政治的な意志」が不可欠である。

広範な利害関係者が加わる参加型のプロセスが導入されたら、湖沼流域管理の主要な責任部局は、
新たな問題や懸念事項に適応できなければならない。当局の緩慢な対応は、利害関係者のいらだ
ちを招き、信頼を無くすことにつながる。

情報やデータへのアクセスは、湖沼管理者と湖沼利用者間の 2 方向性のものである。したがって、
情報やデータは対象となる関係者の能力や要望に対応したものを含むべきである。

この報告に引用されたほとんどの湖沼流域計画や管理活動は、持続的で有効な湖沼流域管理活動
の主要な障害として資金的な制約を挙げて、持続的な資金支援の必要性を強調している。

事前に合意された計画や取り組みが適時に实施されないことがないように、組織としての責務は
継続されなければならない。特に、組織の長が変わる場合にはこのことが大切である。主要部局
が不安定になると能力向上の取り組みが遅れ、事業を組織として实施するのが困難になる。

子供たちや若者は将来のリーダーであり、湖の監督者である。このことを考えると、彼らを湖沼
流域の計画立案に参加させることは不可欠である。

原則 7 の实践は湖沼流域における政治的状況に影響される。流域社会の住民が行なうボランティ
ア活動において、特に子供たちの役割を強調することによって、政治的リーダーに湖とその流域
の問題とその解決に関心を払うように仕向けることができる。

どんなに小さな活動でも、その努力と成果を認識することによって、人々はもっと多くの活動を
するようになる(政府を支援する事業への取り組みを含め)。

国際湖沼機関、政府、NGO、地域住民の間の連携を進めることによって、新たな開発概念や技術
の展開を推進できる。またそれらを特定の湖沼で、实践・検証できる。
72
第5章
今後の展開
はじめに
この報告書に掲載された事例を一見すると、WLV が实践されている湖沼や貯水池には何の共通点も無
いようにみえる。湖やその流域は、大きさ、形状、地勢などが实にさまざまである。湖沼とその流域
が存在する地域のガバナンスの形態も多岐にわたっており、管理活動の機会も異なっている。さらに、
利害の影響を被リ、それ故に流域管理に関わりを持つ利害関係者も、個人、会社、政府機関、さらに
国家など多岐にわたる。实施される施策や対策も、流域内の活動から、対象とする水辺から遠く離れ
た流域を含んで広範囲に实施される対策まで幅広い。それでいて、前章で議論されたように、この異
なる湖沼流域の事例は、ある共通性を見出すことができる一連の「教訓」を我々に提供してくれる。
この類似性が、他の地域に指針を与え、また自然景観を共有する人間と湖沼の調和の取れた共存に向
けたメカニズムの可能性を示してくれる。
したがって、この章の目的は、異なる地域、湖、国、さらには地域を越えた共通項を見出し、この共
有経験を、他の地域の人々が自分たち固有の水辺と調和の取れた関係を持とうとするときの出発点に
まで高めることにある。この章のもう一つの目的は、他の地域の人々が自分たちと湖の間に好ましい
調和の取れた関係を築こうとしている努力を奨励し支援することにある。他の地域での成功体験は、
人間と湖沼との共存関係の中で、人間の生命を支えてくれる自然の存続に必須な水を保護し、保全し、
再生するための新たな、または継続的な、あるいはやり直す努力を鼓舞する役割を持っている。
前章と同様に、この章においても WLV の 7 原則ごとに順に提案を述べていく。既に述べたように、こ
れらの原則は、我々の共有する淡水資源である湖沼とその流域を賢明に、成功裏に管理する努力の中
から共有された世界の経験を反映したものである。WLV の实践のきっかけ、即ち自分たちの湖や貯水
池と調和の取れた関係を築きたいと願っている住民にとって、出発点となる特定の原則が何であるか
は決まっているわけではない。特別な出発点などというものはないのである。WLV の基本原則は 7 つ
あるが、そのうちのどの原則に基づく行動からでも湖沼とその流域の保全のプロセスを始めることは
できる。さらに、どの原則から始めるか、あるいはどの順序で原則を实施するかは、対象とする水辺
の個々の状況によって異なるので、原則の順序に関係なく、これらの 7 原則に取り組むための行動を
始めることができる。しかし、事例報告で示されているように、7 原則に基づく行動を遂行し、あるい
は省略するにしても、我々が湖や貯水池とその周辺流域を持続的に管理するという目標を達成しよう
とすれば、結局、それぞれの原則に何らかの形で触れざるを得ないのである。
第 3 章「得られた教訓」と同様に、この章では WLV の 7 原則について、順番に、読者が自分たちの状
況に適用できると思えるような提案をしていく。しかし、湖沼流域は、この報告で示されたように多
くの共通点があるけれども、それぞれが異なっており、状況、条件、行政などはその湖固有のもので
ある。ここで示される指針を適用するに当たっては、必然的に、湖と付随する管理上の問題を考慮・
修正し、焦点を絞る必要がある。しかし、世界各地が共有する経験を引き出し、習うべき提言として
まとめることによって、賢明な湖沼管理は可能であり、有限で脆弱な水資源である湖と調和して生き
るという究極の目的を達成できるという自信を持つことができる。
73
用語の定義
これまで我々は、「湖」、「コミュニティ」、「管理」という用語を使用してきたが、その意味はこ
の報告書のいろんな所で使用されているとおりである。「湖」は、自然湖、人造湖、あるいはダムや
貯水池のような増水された水体を含み、また自然の排水システムや塩湖、河川湖や排水湖などほとん
どすべてのものを意味する。「コミュニティ」は、個人、水資源の専門家、政策決定者、市町村や特
定部局から国、多国間・地域機構などの政府機関、NGO、会社などの法人組織など、湖沼流域の「利
害関係者」とみなされるすべての共同体を含む。实際には、ここで用いられるように、コミュニティ
とは特定の水体とその集水域に利害を有するすべての人を意味する。この人たちが利害関係者として、
特定の湖沼で实施される管理対策によって、直接・間接的に影響を受ける。「管理」対策は、直接的
な行動と行動を伴わないものの両方を含むが、湖および(あるいは)その集水域の利益のために意図
的に实施される特定の介入を意味する。言い換えれば、湖沼管理とは、人間が特定の一つあるいは複
数の湖とその流域と調和の取れた関係を築きたい、あるいは回復しようとして、意識的に行なうプロ
セスである。
世界湖沼ビジョン(WLV)の適用
WLV は、世界の水体を賢明に管理していくための 7 つの普遍的な原則を基礎とする明確なメッセージ
である。WLV は、水(特に淡水)、生態系の保全、経済的な開発と生存のために、人間と自然が必要
とする基本的要求を述べたものである。それゆえ、WLV の 7 原則は、ガバナンスに関する多くの公文
書(持続可能な開発に関する世界サミットで明らかにされたアジェンダ 21、多くの国際的、地域間、
多国間の協定や合意、あらゆる種類の水に関する国内法〈尐なくとも人間の健康保全のためには水汚
染を防ぐ必要があることを普遍的に述べている〉、あるいはもっと狭い特定の地域を対象にした条例
や行動規範)などで設定されている目標に合致するものである。このことは、これらすべての文書が
互いに関連付けられ、矛盾の無いものであることを意味するものではないし、また我々はこれ以上新
たな法整備を進めたり、既存のものを改善する努力をする必要がないというものでもない。事实、
WLV の原則 7 は、湖沼流域住民の関心事と統治システムの関係に関して最も重要なものであり、人間
と周囲の環境との調和ある関係がもたらすより大きな利益を得るためには、変革を必要とするのであ
る。また我々は、人間社会を治める法律や慣習はこの目標を達成する手段であり、それらを踏まえて
行動することが必要であるということも分かっている。
そういうわけで、WLV は、個々の湖の住人によって地域レベルで、あるいは国や国の機関の人々によ
って地球規模のレベルで、湖沼管理プロジェクトや運動、あるいは政策などを策定するときの指針と
して使用できるし、またそうなるべきである。
最後に、この報告書の末尾には WLV の原則を实践しようとするとき、読者やその地域住民にとって
有益な情報源が付記されている。この表はすべてのものを網羅してはいないが、運動を進めている個
人や関係者の手助けとなる出発点の一つであり、支援の材料となる。湖沼と集水域の管理は一つのプ
ロセスである。この報告書に収められた事例は、湖やその流域は一度損なわれてしまうと、その再生
へ長い時間と多大な資金を必要とすることを示している。しかし望みを失うというわけではない。ま
たこれらの事例は、再生への道のりを成功させることはできるということも示している。事实、多く
の事例において、たとえ一つの道や手段が閉ざされても、最終的に目標を達成する道があったのであ
る。
74
この章は湖沼管理への手引きを目指したものではない。そのような目的のためには、読者は、国際湖
沼環境委員会(ILEC)がこれまでに作成、配付してきた湖沼と貯水池のための手引き書など、この章
の最後に追加資料として紹介されているものを参照いただきたい。またこの章は、湖沼および集水域
管理が有効な成果をあげるために厳守されるべき処方箋を示すためのものでもない。实際、成功のた
めの処方箋は、地形、文化、地域社会とその条件などによって、多岐にわたるものである。むしろ、
この報告書は、目的に到達するための道はいろいろあることを示す有益な道路地図のようなものであ
る。したがって、読者は共に進む仲間と一緒に、あるいは彼らからアドバイスを求めながら、関係す
る特定の湖や集水域に合わせた道を作るように求められているのである。
人間と自然の協調関係
世界の経験は、人間と湖は相互に依存していることを明確に示している。事实、人間と湖の持続性は、
人間と水生生態系およびその景観を、互いが補完しあうような調和の取れた形で結びつける関係を確
立し維持するとともに、それぞれの水の必要性に対応していくことによって高められるのである。
この目標を達成するために、WLV は、湖や貯水池に関係するすべての人が、以下の未来のビジョンを
支持し、推進していくように呼びかけている。
「湖や貯水池の务化を推し進めるのではなく、人々が保全と改善という指針をもって湖や貯水池やそ
の資源を管理していくような未来」
「湖が、周囲にあってそれを育む集水域、およびその活動が湖の健康と活力を左右する人間とは不可
分の関係にあることを十分認識しているような未来」
「清潔な湖の提供する水は、最貧地域社会の人々にとって生活と命に関わるものだということが認識
されているような未来」
「湖に関する研究が統合的に開始・追求されることによって、湖の特性や機能についての知識が増進
され、湖の健康とその生態系の持続性にとって重要だと思われる政策形成や管理施策が有効になされ
るような未来」
「湖の美的、治癒的、さらに精神的な特性に感謝し、それらが一体となって、我々地球すべてが輝く
ような、複雑な水生モザイクを形成するような未来」
湖は、この地球のなかで最もドラマチックで和やかな景観の一つであるばかりでなく、最も変化に富
んだ内陸水系システムである。さらに湖は、自然と人間の歴史の宝庫である。古代の地域政治の中心
は、しばしば湖岸や湖岸近くに現われている。事实、ある地方では全面的に湖とその資源を基盤とす
る特有の生活様式が生まれた。ボリビアとペルーにまたがるチチカカ湖集水域の先住民文化は、その
一例である。湖は多くの文化に根本的で重要な宗教的・精神的な影響を与えている。メキシコのウイ
チョル族の社会は、チャパラ湖を聖なる場所であると考えている。
これらのことを背景に、WLV は、湖は卖に、淡水や食料の手軽な入手源、あるいは興味深い余暇の場
ではないということを人々に認識させるために策定された。实際、湖の持続的な利用のためには、湖
を、深遠な生物系であり固有の美を持ったな水系として、また文化や、歴史、さらに社会発展のゆり
かごとして認識することが必要である。
湖とその資源の持続的な利用のための鍵は、現在と長期にわたって、人間の水に対する要求とこれら
の要求を満足させる自然の能力をどうバランスさせるかにある。したがって、原則 1 で支持されてい
75
るように、人間と自然の調和の取れた関係を实現することは、すべての人間社会の目標である WLV
のすべての原則を適用するための中心的な目標となる。
しかし、湖とその水が人間にとって深い精神的な意味を持っているにも関わらず、我々は、歴史的に
これらの水系を、しかも多くをかなり酷く乱用してきたという基本的な事实を考える必要がある。過
去の数十年間に環境問題に関する意識向上の役割を果たした出来事はあったけれども(例えば 1962 年
に第 1 版が発売されたレーチェル・カーソンの「沈黙の春」)、これらの経験は、たとえ状況は悪く
なくても、人間と自然の間に調和の取れた関係を構築、あるいは再構築するための行動が必要である
ことを物語っている。そのことが WLV のなかで強調されているメッセージなのである。そのような
問題に対して人間が反射的に取る最初の反応は本質的に技術的なものである。そのような例として、
特定汚染源による水汚染に対して工学的な解決策が世界中で取られた。しかし、技術的な対応によっ
てすべての問題が解決できるわけではない。湖の管理者は、湖や他の水源の水質に影響する面源汚染
の問題に次第に目を向けるようになった。面源汚染は、後でも議論するが、技術的あるいは工学的な
解決策では厳密には解決できない問題であり、むしろ、これらの汚染源を社会としてどのように管理
していくかというもっと総合的な取り組みを必要とするのである。
このような背景に立てば、WLV は、全体として成果を産みだすようなさまざまな考えが、互いに連携
し絡みあっているように見える。事实、湖沼流域の持続的な利用を進める中で、人間と自然の調和の
取れた関係を樹立するためには、我々人間が自然に対して行なう乱用を最小限にし、それらを相殺す
るような対策や介入策を实施することが必要になる。
そのような対策や介入策の一例を挙げると、ILEC の湖沼と貯水池に関する管理マニュアル(このマニ
ュアルには、富栄養化、毒性化学物質、湖岸管理、塩湖、貯水池管理、酸性化、生物学的管理、社会
経済および環境教育など多彩な問題を取り扱ったものがある)の多くが、いろんな調査や汚染防止策
などを示すなかで、地域が取るべき対策として排水あるいは下水対策を重要なものとして挙げている。
このような提案をする根拠は、家庭や商・工業活動から出る排水の大部分は市街地で作られているが、
このような活動は中心近くの一箇所で行なわれることが多いことにある。このように地理的に近い場
合は、比較的低コストで排水を集めて処理場に送り、湖などに処理排水を流す前にいろいろな処理
(卖に浮遊粒子を除去する卖純ろ過(一次処理)から、生物化学的酸素要求量を減らしたり(二次処
理)、栄養負荷を減らす(三次処理)ための高度の生物化学的処理まで)を行なうことができる。
汚水の三次処理によって、湖の生態系の健康をはじめ水を受容する水体の水質は全般的に改善された。
この方法は世界中で行なわれているが、特にヨーロッパ、北アメリカなどの都市中心部や田園地区で
多く見られる。それほど工学的な方法ではないが、コンポスト・トイレ、共同浄化槽、小規模の植物
水浄化システムなどは、ヨーロッパ、アフリカなどで広範囲に实施されており、同様に成果をあげて
いる。
このような成功にも関わらず、多くの研究によれば、既存の排水処理施設は、湖やその他の水系流域
で引き起こされている環境被害に充分対処できていないのである。それどころか、多くの国で最近注
目されているのは、雤水や排水によって持ち込まれる汚染物をどのように規制するかということであ
る。例えば、多彩な人間活動の一つである農業においては、しばしば土壌改良のために肥料、害虫駆
除のための殺虫剤を使用する必要があり、また道路交通網においては、自動車から各種の人工的な汚
76
染物がいろんな形で排出される。これらの汚染物はそれぞれ大量に環境に持ち込まれる。一旦自然界
に持ち込まれると、そのような汚染物は、雤に流され、風に拭かれ、あるいは直接表流水に流れ込ん
だり、あるいは湿気や乾気の中の凝縮物として大気輸送されたりして、いろんな水系に持ち込まれる。
面源(拡散)汚染は、点源汚染に比べて有効に規制するのが難しい。作業や工程の中で使用する薬品
を変更したり、代替技術の採用などによって汚染をある程度減尐させることはできるが、面源汚染の
除去は、卖なる排水処理に比べて一般的にコストが高くなる。雤水などの排水処理は、下水処理と同
様な技術を適用することによって可能である。しかし、面源汚染の場合、汚染は一般に非常に広範囲
にわたって発生するので、同様な技術を实施するためには経済的な困難が伴う。面源汚染に対しては、
地域あるいは準地域レベルで適切な対策を取った方がより大きな効果が得られる。
都市部における縁石や雤どい、田園地区における湿地帯や草の茂った水路などの排水系を建設するこ
とは、雤水(雪解水)に関連した水質管理策としてよく实施されている。雤水を貯め、保持・浸透さ
せる滞留地は、多くの国で水量(治水)と水質の両面で地域に利益をもたらす方策として知られてき
ている。これらの対策には水の運搬や貯水池などのために広い敶地が必要になるので、既存の都市部
で後から实施することはコストが高くなる。しかし、ヨーロッパや北アメリカでは、貯水池や処理施
設を後から地下に造ってこれらの対策を实施した例がある。
面源汚染を規制するために最近用いられている法整備や技術的な対策は、雤水(雪解水)対策を含み、
さらに流域の人間活動で発生する排水量や汚濁物質を制限するようになっている。例えば、ウィスコ
ンシン州(米国)の法律は、新興都市開発は、保持・浸透滞留池などを設け、開発前の排水量の 80%
を保持することを義務づけている。またこの法律は、浮遊粒子や全リン濃度を特定の量まで減らすこ
とも義務付けている。このような要求削減量はさまざまな数学モデル(改定された汎用土壌損失方程
式 (RUSLE)、水源負荷・管理モデル(SLAMM)、ピット、水溜まり、池を通過する汚染粒子の予測
(P8))などを用いて計算される。これらのモデルを用いれば、さまざまな地表特性(土壌の種類、
傾斜度、雤量など)に応じた条件を予測(後付け)できる。
ヨーロッパや北アメリカでは、人間活動に起因する排水中の汚濁物管理を行う際には、通常、一日当
たりの最大負荷量(TMDL)に着目する。この概念は、土地利用の活動で発生する汚濁物量を最大ど
こまで許容できるかを検討するものである。すなわち、考えられるそれぞれの汚染物についてそれが
流れ込む水系の許容度(同化能力)を決定し、その水系が持つ汚染物の同化、洗浄、あるいは中性化
する能力を考察するものである。一度その値が確定すると、排出基準を下回って汚染物を排出してい
る人(割り当てられた最大排出量を全部利用していない人)は、理論的には自分たちの割当量の一部
又は全部を、流域内で特定の汚染物の最大排出量を守るために余分の排出量を必要とする人に売るこ
とができる。
結論として、この有限で貴重な淡水資源(湖)を持続的に利用していくための試みには、技術、法整
備、政治的手段などいろいろあるが、WLV に示された 7 原則は、市民、行政府、政策決定者、管理者、
NGO、科学者など流域の利害関係者にとって、有益な指針となるのである。その中でも原則 1 は最も
基本的なもので、すべての原則の架け橋となるものである。
77
原則 1 の適用に関する实践的な助言
(1) 湖とその流域、およびそれらが人間と自然の存続と健康にとって重要であることを広く教育し、
意識向上を図る取り組みを实施する。
(2) 文化規範や信念などを補完し、社会と自然の目標の両立に寄与することができるように、利害関
係者が広く参画・関与する仕組みを作る。
(3) 水を汚染する物質の利用、発生、運搬を制限する土地利用計画を策定し、实施する。
(4) 持続的な湖の漁業管理を進めるための取り組みを策定し、实施する。
(5) 湖流域内に保護区を設ける。
論理的出発点としての湖沼流域
支流域内の対策と何の関連もなく实施される流域の管理対策は、しばしばその目的を達成できない
(特に長期的に見た場合)ということはよく経験することである。事实、地上の人間活動は、水の流
れや利用に変更をもたらすだけでなく、汚染物を集めて水路に流し、最終的に水系や河川系にある湖
や貯水池に持ち込む。したがって、湖や貯水池の水汚染問題に有効に対処するためには、できるだけ
その根本原因に取り組む必要がある。
集落に関わる問題であれ、経済的な問題であれ、湖の住人が自分たちの懸念する湖の問題を認識し、
問題の大きさを定量化するための診断的な調査活動の第一ステップは、湖の流域あるいは集水域を確
定すること、すなわち、問題とする水体に排水される表面積を知ることである。この活動でもう一つ
の大事なことは、流域で行なわれている土地利用のあり方とその大きさを知ることであるが、その理
由は、これらの活動が、流域で雤水などによって湖に運ばれる汚染物の種類や量に直接的に影響する
からである。
流域内での管理活動では、しばしば湖や河川に流れ込む汚染源を減らす、あるいは取り除くことが必
要となる。このような対策は、雤水下水管や滞留池など、建設を伴うものもあれば、流域内の人間活
動の場所や配置を決める土地区割りなど、建設を伴わないものもある。どちらの対策も湖の持続的な
利用のための流域管理の取り組みを支援するものでなければならない。
建設を伴わない対策の序列については、流域内の水や汚染物の移動に特に注意を払うことが必要であ
る。というのは、人間の生活区域の境界は、一般的には水路の地質学的な境界とは一致していないこ
とが多いのである。したがって、通常は行政のさまざまな機関と市民グループなどの利害関係者との
パートナーシップを樹立し、それを維持していくことが必要となる。非常に大きな流域の場合には支
流域ごとにこのような協力関係を作り上げることが必要となるかもしれない。一方、小さな流域の場
合には、すべての利害関係者を一つのフォーラムに包含することも可能かもしれない。
流域レベルの管理計画の策定が必要である。このような管理計画は、1)必要な水質や水量についての
明確な合意形成、2)流域内の利害関係者や新規参入者へのこれらの合意の伝達、3)契約や利害関係
者との調停、4)金銭の節約や天然資源の保全、5)最新の問題への取り組みや、提案された保全・再生
処方の有効性を検証するための将来に向けたシナリオ作り、などに役立つものである。流域レベルの
管理計画は、湖岸住民の懸念するもっと直接的な問題を対象とする湖固有の管理計画によって、補足・
強化される。そのような計画を策定するためには、1)広範な情報を集約し、分析・評価し、2)さま
ざまな湖沼流域内の土地利用計画のもとで予想される将来見通しをたてるために、環境に関わる情報
78
を活用しつつ、湖の务化を食い止めるために適切な保全施策と解決策を見出す必要がある。そのため
の手法としては、流域の概念や数学モデル、生態水文学の原則に基づいた管理の取り組み、環境上適
正な技術(EST)の活用などが有効である。
流域レベルの計画は、建設を伴う管理施策の实施においても、そのような対策が最も有効な成果が得
られるように、その位置づけや進行管理の指針となる。水資源管理計画は、流域内の他の利害関係者
の対策を統括する全体の流域管理計画と歩調をあわせながら、地域ごと、あるいは住民レベルの極め
て特定の問題に取り組むことも可能である。管理対策の調整は、特に大きな流域において、上流の対
策が下流の活動に及ぼす重大な影響を小さくするためには必須である。大きな流域において、上流の
対策が下流の活動の妨げにならないようにするためには、順序だった対策の实施が必要である。一例
をあげれば、下流域における土砂対策は、上流域で必要な対策を实施しなけば、その対策の有効期間
が大幅に短縮されてしまうのである。
集水域レベルの管理対策を計画するにあたっては、通常、上流域から下流域に沿って対策が实施され
ることが望まれる。同様に、非常に大きな流域においては、通常、上流域での修復事業は、下流域で
の対策が实施される前になされるべきである。しかし、上流域で保全施策が实施されていないことが、
集水域の他の場所での必要な対策を制限するものではない。そのような決定は、直面している問題の
特性や重大さに基づき、流域全体だけでなく、その問題の影響を受けている現地の住民の事情を考慮
してなされるべきである。越境流域あるいは複数の管轄区にまたがる流域においては、流域管理機構
を設立することが、国や地方レベルの対策を調整するのに有効である。前者の機構の例(国家間の機
構)は、ヨーロッパ,单アメリカなどにあり、それぞれライン川、ラプラタ川の管理に政府間の調整
機関が存在する。ブラジルの水管理法のもとで創設された流域協議会は後者の成功例(地方レベル)
の一つで、それぞれ特定の水陸学流域に利害関係を有するさまざまな利害関係者の問題に取り組んで
いる。
原則 2 の適用に関する实践的な助言
(1) 湖や貯水池に流れ込む排水域を確定する。排水域は大きな河川系においては支流域から構成され、
自己排水あるいは地下水湖沼の場合は卖一の流域からなる。
(2) 湖と集水域の管理計画を策定し、その普及を図る。
(3) 流域の問題を議論する場として機能する流域委員会あるいは機関を設立する。このような機関は
自発的なものであっても、行政機構の一つでも良い。
(4) 湖や貯水池の管理プロセスにすべての利害関係者を参画させる。流域によっては上流・下流の両
方の利益に注目する必要がある。
(5) 修復、評価、監視などの湖沼管理対策を行なうときには、数学モデル、生態水文学的な取り組み、
環境上適正な技術(EST)などを有益なツールとして活用する。
長期的視点に立った予防的な取り組み
湖はいろんなものが融合した生態系である。湖には元々不純物が含まれており、通常、管理や再生対
策を实施して、その対策の効果が十分現れるまでに時間的な遅れがある。この遅延時間はかなり大き
なもので、数年から、状況によっては数十年に及ぶこともある。また汚染物の中には、合成有機化学
製品などのように、分解することなく沈降して湖底に溜まるだけのものもある。同様に、湖は、都市、
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産業、農業などの発展のために、流入する川や水路から取水が進むと、それらの流量変化の影響を非
常に受けやすい。その有名な例はアラル海の消滅である。
湖が議会や立法府の決めたとおりにならないことは明らかである。多くの湖では、保全対策を实施し
て 3~5 年でその効果が現れれば早い方である。例えば、目安として、リン化合物の湖中での滞留時間
は、湖自体の水の滞留時間の 3~5 倍と言われている。したがって、大部分のリン化合物が湖から排出
され、水質の改善が一般の人の目に見えるまでには非常に多くの時間がかかる。どのような湖におい
ても、管理対策は長期的で継続的な取り組みとなる。
一般に湖の再生時間は非常に長いので、湖を务化以前の状態に戻そうとするよりも、予防的な取り組
みを進める方が有効である。例えば、汚染の防止は、道徳的な説得や、湖にやさしい生活の普及を目
指す情報・教育活動などによっても可能である。これらの取り組みは、湖岸の住民だけでなく、より
大きな集水域の住民を対象にすべきである。一般に、湖岸の住民の方が湖により早く直接的な影響を
もたらすが、湖から離れた住民の無秩序な行動も湖の生態系の务化につながる。つまり、情報・教育
活動は、啓発された住民や利害関係者を作り出し、彼らの湖沼管理の取り組みへの参画を支援する上
で必須の要素となっている。
非公式の取り組みとは別に、適正な土地利用と区画整理法などの汚染防止のための法整備に総合的な
湖沼管理の取り組みを含めることも可能である。法で決められた基準のみが強制力を持っている。し
たがって、歴史的な欠陥を正して将来の障害を予防するような対策は、適切で適格な政策、法律、基
準、指針に沿ったものでなければならない。ここで基準とは厳密に实施されるべき絶対的な制限値で
あり、指針は強制されないが推奨されるべき対策のための提言である。
法律は長年にわたる社会の経験を文書にした歴史的な所産である。しかし、今後起こるかもしれない
状況や条件を管理するための法律はほとんど無い。特に、法律が無くて過去に経験したことがないよ
うな状況や条件の場合はなおさらである。この大まかな目安の唯一の例外は、世界の他の場所で起こ
った経験に基づいて制定された法律である。例えば、ILEC や UNEP などが提供するフォーラムなどを
通じて湖沼管理の経験を共有することは、水資源管理に関する未来志向の取り組みを奨励する重要な
手立てとなる。世界湖沼会議のような国際会議は、経験や知識の伝達を促進する重要なメカニズムで
ある。同様に、「Lakes & Reservoirs - Research and Management」などのジャーナルは、経験や知識を記
録し、情報を世界的な規模で共有するための貴重な媒体である。地方、国、地域における同様な取り
組みや刉行物も情報を共有するための手段となる。最近では電子媒体(例えば Inter-American Water
Resources Network (IWRN))も、住民の湖沼管理活動を支援する重要な手段となっている。適切で、
地域にとって重要な法整備や活動を展開し、实施することは、既存のおよび将来の湖沼管理問題に対
する重要な取り組みの一つである。
水資源の専門家は、湖沼管理について専門的な知識や経験を持っているが、そのような専門家のみが
湖沼管理の取り組みに参画する利害関係者ではない。湖沼管理に関する意思決定や対策实施のプロセ
スにあらゆる利害関係者を参画させることのメリットは、单北アメリカの経験からも明らかである。
ネットワークは、共通の目的のために住民、科学者、政策決定者、教育者などが力を合わせるメカニ
ズムの一つである。例えば、ウィスコンシン湖沼パートナーシップには、行政機関 (ウィスコンシン
天然資源局)、ウィスコンシン大学公開講座、住民団体(ウィスコンシン湖沼協会)などが参画して
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いる。サンフランシスコ河川(São Francisco River)流域委員会などのブラジル流域委員会は、法律に
よって設立された機関で、多くの利害関係者が参画して、討議し、意思決定や対策を決める場となっ
ている。これらの共同体には多彩で幅広い参画があり、湖沼や貯水池の改善に向けて、合意を形成し、
変革を起こすための有力な利害関係者の一つである。
原則 3 の適用に関する实践的な助言
(1) 利害関係者には、自分たちの利益が湖沼や貯水池によって影響を受けたり、自分たちの活動が湖
沼や貯水池に影響を与えたりする、すべての個人あるいはグループが含まれる。これらの個人や
グループを確認し、彼らが意見や問題を共有するメカニズムを作ることは、湖沼保全の対策の策
定に向けた合意を形成し、またその支持を得るための重要な第一ステップである。
(2) 湖沼管理は、土地利用計画と土地区画ができている場合に最も成功する。これらの計画には、適
切な雤水管理対策によって水路に汚濁物が入らないようなしくみが必要である。
(3) 地域の取り組みは個人から始まる。
(4) パートナーシップを確立し、流域内の既存の団体や機関とは、それらが適切であれば、行政であ
ろうが非政府組織であろうが、連携を図る。必ずしも同じことをもう一度やりなおす必要は無い。
(5) ウェブ情報、印刷物、知り合いとの意見を交換する会合などを活用して、互いに学びあう。
適正な科学と入手可能な最善の情報の活用
湖沼科学あるいは陸水学は成熟しつつある。湖や貯水池に関する我々の物理的、化学的、生物学的な
理解が進展したおかげで、今では湖や貯水池に対する刺激や外的な圧力(栄養分、気候変動など)の
影響をかなりの精度と正確さで推定できる。昔から言われてように、すべての原則には例外があるが、
多くの多様な湖沼について、汚染負荷に対する湖の変化は予測可能である。この予測能力によって、
河川に放流する汚染物を規制する多くの政策決定に「一日当たりの最大総負荷量」という指標を用い
る傾向がより強まった。この量は、河川や湖が汚染物を同化あるいは無害化できる能力に対応する。
このことは、土地利用の変化と健全な排水を行うような人間活動の影響を定量的に評価することがで
きるということを基本的な前提とするならば、この無害化する能力はエルニーニョやラニーニョ現象
のような雤量の変化が起こっても解決することができることを認めている。
このように現实にはいろんな問題があるが、特定の水系において科学的な情報がないことが対策を取
らないことの口实に用いられてはならないという注意は重要である。特に、対策が明らかに必要な場
合はなおさらである。現在の陸水学は、特定の汚染問題に対する湖の反応を明確に記述することに十
分な能力を有しているので、湖固有のデータがなくても、たいていの場合に保全対策を取ることは可
能である。
従来、水資源管理は水量を確保することに重点が置かれた。しかし、原則 1 で述べられているように、
水資源管理政策は、人間活動が水資源の質を低下させてはならないということも思い起こさせてくれ
る。实際、水量と水質は密接に関連している。もし十分な量の水が利用できても、それが汚染されて
いれば人間に利用できる量は尐なくなる。すなわち、水の汚染は別の形の水の枯渇なのである。汚染
が増大すると、事前の処理なしで利用できる範囲は限られる。また事前の処理にはお金がかかり、ま
た時間が掛かる。自然汚染(例えば、单アフリカのある場所では天然のフッ素濃度が高く塩分濃度の
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高い地下水や河川がある)の場合もあるが、大部分の汚染問題は流域の人間活動によって引き起こさ
れる。したがって、有効な水資源政策は、水質と水量という 2 つの問題に取り組まければならない。
水資源政策は、しばしば表流水と地下水の利用はつながっていることを考慮に入れるべきである。最
近の地下水科学の進展により、地下水の過剰な取水は表流水、特に地下水が流出している地域の表流
水の減尐を招く可能性があることが分かってきた。同様に、表流水の流れを変えることは地下水の補
充の減尐につながる場合もある。後者の状況は、しばしば都市部の開発の結果起こる。それは地下水
の補充地域が非透水性表面で覆われるために、水の土壌中への浸透が減尐し、排水として流されてし
まうためである。これらの問題を公的な政策に織り込む場合には、地下水保全地区(しばしば自然保
護区と一致する場合が多い)を指定したり、地下水問題に対する対策として雤水管理(特に雤水の浸
透)を法制化することなどに向けられる。
健全な政策を策定するためには科学に立脚することが必須である。残念なことに、天然資源に関する
多くの法律が科学的な基礎や前提に基づいていない。大抵の場合、これは科学者が法律を作る人たち
と有効な意見交換が出来ていないことによる。科学的な訓練を受けた人のほんのわずかしか、政策立
案、コミュニケーションやプレゼンテーションの技術の研修を受けていない。多くの科学者は他の科
学者とはよく意見交換をする。管理に関する重要な論文には多くの科学用語が含まれており、科学ジ
ャーナルに発表されるか、学会で伝えられる場合がほとんどである。政策決定者や管理者はこのよう
な雑誌はあまり読まないし、学会に出席することはないので、適正な科学と政策立案に乖離が起こる。
時間がたてば多くの科学的な理論やアイデアは社会の中で受け入れられるようになり、最終的には政
策として伝えられる。しかし、既に述べたように、汚染防止のような問題においては時間が最も重要
である。汚染物が湖に流入してから修復作業に取り掛かるよりも、汚染物が周囲から流れ込まないよ
うに防止することの方が、長期的に見れば確实にコスト的に有利であることは、このアクションリポ
ートに収められた事例報告でも繰り返し強調されている。従来、科学と政策には大きな乖離があり、
住民負担の点からも科学の進歩を最新の法整備に生かすという点からも不十分であった。
法律は既に起こった問題に対処するという点で過去への対応ではあるが、科学者の側の適宜を得た対
応や、立法者の側の高い意識は、科学と政策の乖離を埋める上で非常に重要である。科学者は特定の
トピックスに集中して取り組む「贅沢」を有しているために、行政官に意見を伝える責任は一般に科
学者の側にある。したがって科学者は、科学を継続的に発展させるために必要と考えられる基礎研究
と、社会の問題に取り組むための応用研究および政策研究の間のバランスを取る必要がある。研究機
関は科学の持つこれら 3 つの面(基礎研究、応用研究、政策研究)を認識すべきである。しかし、研
究機関は、学究的なものであれ、それ以外のものであれ、政策の策定は厳密には科学の分野ではない
と考えている場合が多い。もし科学が湖沼流域管理に関する政策立案に適切なタイミングで影響力を
持とうとするならば、このような偏見を乗り越えることが決定的に重要である。
上述のことを踏まえると、政府機関が、研究者としてだけでなく、政策策定の要因として科学的な教
育を受けた人の採用を増加させていることは注目に値する。サンマルコス(米国)にある研究機関の
1 つであるテキサス州立大学では、応用水資源科学の卒業生に対して、政策立案を重要な課題とするプ
ログラムを实施している。科学と技術そして政策を関連付けることは、社会が共有する資源をより良
く管理していくための方法を提供する。
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最後に述べておきたいのは、行政においても関連技術に関する広範な専門能力が必要であるというこ
とである。国の中央機関が、科学と政策の関連を理解して政策策定に意欲的に生かすだけでなく、地
方や地域の機関もこの重要な関係を認識する必要がある。
原則 4 の適用に関する实践的な助言
(1) 科学者や技術者は立法プロセスをもっと良く知るべきである。また彼らは、政策決定者や法律の
立案者ともっと有効に意思疎通ができるように、コミュニケーションのスキルを磨く必要がある。
(2) 政策決定者や法律の立案者は、環境に関する法律や制度を作成、改善、あるいは適用するに当た
って、科学者や技術者の情報や指導をもっと求めるべきである。
(3) 適正な政策は、水文サイクルの一環として湖や貯水池の役割を認識するものでなければならない。
湖や貯水池は、変化する景観の中で本質的には静的な要素であるが、流域を包含し、表流水や地
下の帯水層と緊密につながっている。水資源政策や関連法においては、これらのことが有効かつ
総合的に検討されなければならない。
(4) 基礎研究や応用研究の实施とその成果の適用は科学的湖沼管理を補足するものである。科学者、
技術者、政策決定者、立法者は、科学的な情報の発見と適用の連鎖において、明確な連携を保つ
必要がある。したがって、技術や科学に関連した法律や規則を作成・適用する際には、これらの
専門家の集団内および集団間での意思疎通が信頼できるデータの利用に基づいて行なわれること
が必要となる。
(5) 科学的な知見(科学的なモデルから得られる予測や予見を含む)は湖沼管理の重要な一部であり、
政策の策定や法制化の過程で十分検討されなければならない。同時に、研究機関などの科学者は、
基礎研究と、社会的な問題に取り組むための研究や、有効な湖沼流域管理に必要な政策研究とを
バランスよく行なう必要がある。
持続可能性の原則に立った紛争の解決
どの社会においても、特定の経済目的のために表流水資源を十分に割り当てるような余裕を持ち合わ
せてはいない。事实、世界のほとんどの湖や貯水池はさまざまな目的のために使用されている。湖と
その流域において起こる多くの紛争の裏にはこのような現实がある。
水は地球の表面で不均一に分布しているだけでなく、人間が設定した管轄区域の境界を越えて分布し
ている。特定の管轄区域内においてさえも、水に対する要求や水利用は多くの経済分野にまたがって
いる。分野が異なると水に対する要求は異なり、必要な水の量や水質が変わってくる。これらの不均
質性はしばしば尐ない水資源に対する競争を生み出し、多くの場合、水に関する法律によって状況は
さらに悪化する。水を公共の財産と考えれば、個人や利益集団は水を管理しなくなり、实質的には誰
も水の面倒を見ないことになる。一方、水を私的な財産と考えれば、個人や利益集団の所有物となり、
今度は水の社会的な管理が行なわれなくなる。
ある水系において適用できる特定の法律があろうが無かろうが、個人や集団のなかに「所有意識」を
持つ人が現れてくる可能性は十分ある。ここでいう「所有意識」とは、水資源を守ろうとする責任感
のようなもので、それを自分の思うように利用しようとするものではない(もちろん中には实際に水
資源を自分たちの都合の良いように利用する個人やグループもある)。そうであっても、2 人以上の個
83
人や 2 つ以上の集団が、一つの水体をめぐって、特定の利害関係者の利益や要求を他の利害関係者の
ものに優先させて利用しようとすると、その間で紛争が起こる。
湖の利用者や利害関係者のことを考えるとき、水辺の利用者だけでなく、上流や下流域の利用者のこ
とも考慮することが重要である。例えば、貯水池の場合、利用者はその周囲に住む個人やグループは
もちろんであるが、そこの水で発電された電力、運ばれた水、その他(市場に出回る魚など)貯水池
の恵みを受ける人も利用者なのである。これらすべての人が、貯水池がどのように利用されるかにつ
いて関心を持っている。このように、多くの異なる利害関係があるということをあまり考えないため
に、水に関わる紛争が生まれるのである。
湖や貯水池の利用には、水供給、娯楽、漁業などの能動的利用と、美しい風景を楽しむといった受動
的利用がある。受動的な利用は自然に対して非消費的であり、また非接触の水利用である。釣り、発
電などの能動的な利用においても、貯水池の水は下流域の利用者も利用できる形で残るので、これら
は非消費的な利用といえる。一方、水供給のような能動利用では、供給された水は作物の中に保持さ
れ、あるいは排水として他の流域に流れてしまうので消費的な利用である。
湖沼流域の水利用を分析する際には、流域間の水移動(通常水の多い流域から尐ない流域に移動する)
を考慮に入れる必要がある。
これまで述べてきたすべての例において、個人も集団も水量が問題となる。また多くの場合、水質も
同様に問題となる。水量を問題にする場合でも、水質の問題で紛争が起きる事がある。例えば、窒素
やリンのような栄養分濃度の高い水は、農業用水利用者にとっては喜ばれるが、高濃度の藻や水草が
あると、娯楽目的のユーザーや水道業者は水利用の邪魔になると考えるであろう。
このような直接的な問題以外に、分野間および世代間の公正と平等の問題がある。例えば、湖の富栄
養化の場合、一次排水処理を採用している公的機関の費用負担は尐なくて済むが、高度処理の必要な
水利用者はそのためのコスト負担を求められることになる。現世代の人々が享受している低コストの
水は、湖の再生という形で将来世代のコスト負担になるかもしれない。
したがって、水資源を持続的に管理するための湖沼管理においては、このようなすべての問題を考慮
する必要がある。既に述べたように、ブラジルの水法には流域委員会の設置と運営の条項が含まれて
おり、このフォーラムには同じ水文流域内の主要な利害関係者が参加し、すべての関係者の利益を念
頭において流域内で实施する対策を討議し、合意に達した後にそれらを实施することになっている。
さらに、单アフリカの水法では、人間の水に対する要求と共に、自然に対しても流域内に降る年間平
均の雤量の約 11%を自然の有する「水の権利」として割り当てている。これらの革新的な法律は、利
用者(利害関係者)だけでなく、世代間の公正と平等の問題を考慮して生態系をより良く維持しよう
と努めている。
生態系が健全な機能を果たすために必要な自然の役割を認識しないと、経済的にも価値の高い種を失
うことになり、それによる損失を招くことになる。さらに、河川のもつ自然の作用を無視すると、土
手の侵食、川辺の氾濫、作物や家屋などの社会基盤の崩壊につながる。貯水池の上流におけるそのよ
うな失敗は、過剰な侵食を引き起こし、貯水池はその設計寿命の前に土砂で一杯になってしまう。水
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資源管理においては、他の人間と自然の関わりと同様に「自然と共に生きる設計」が適切な指針の一
つである。
单アフリカの水法では雤量の一定量を環境保全のために割り当てているが、貯水池からの放水量を決
めるのに特定の種(通常は魚)に必要な最低流量を用いるやり方もある。例えば、米国のテネシー峡
谷機構(TVA)は、水力発電と自然の要求をバランスさせる手段として環境流量を用いている。同機
構の取り組みは、その地にある貯水池と河川系の多様な利用(発電、釣り、景観)と将来の世代のた
めに湖や河川を保全する必要性の両方を考慮したものになっている。環境保全のための放流は、湖や
河川から何らかの種が根絶されてしまう危険性を減らすために行なわている。
天然資源、特に水のような再生可能な資源の持続的な利用という考え方が育ちつつある。気象変数、
人口構成の変化、経済や社会の発達度などの関数として持続性を定義する議論も始まっている。この
ような進化の過程のなかで、水に対する要求や利用について、量的・質的な議論の不確定さがまだ残
っているが、流域レベルの意思決定において利害関係者が参画することは、水に関する紛争を減らす
だけでなく、環境の移り変わるなかで将来を予測する能力を身につける手段にもなる。
原則 5 の適用に関する实践的な助言
(1) 意思決定プロセスにおいて、すべての利害関係者が参加する公式・非公式の協議機関を設置する
ことは、水資源の公正かつ公平な分配を保証するための有効な手法である。公的な協議機関は、
非公式なものに比べて、法で定められた法的機関であり、より大きな権限を持つ。
(2) 利害関係者には、貯水池の場合には特にそうであるが、湖岸から離れているが湖の恵みを受けて
いる個人やグループも含まれ、湖の上流および下流域の個人やグループも含まれる。
(3) 自然は正当な湖沼流域の利害関係者である。生態系の構造と機能を維持するためには一定の滞留
量と流量が必要である。自然を省みない管理の場合、余分な維持コストが嵩み、人工湖(貯水池)
などの寿命が短くなる。
(4) 適切な法体系の活用は利害関係者の能力向上につながり、持続的な水利用の可能性を拡大する。
湖沼流域の利害関係者の参画
「利害関係者」という用語は、ある流域内の一つの水体に、慣習的あるいは非慣習的に影響を与える
か、またその影響を受ける個人やグループの利益や関心を表す方法として用いられるようになったも
のである。利害関係者の中には流域を個々の流域を越えて利害を有する人もいれば、湖岸あるいは河
川に沿った特定の地域に利害を有する人もいる。いずれの場合にも、水資源管理のプロセスにおいて、
住民を含む利害関係者の参画によって、すべての利害がはっきりし議論されるので、競合する要求の
バランスが最大限に保たれる。
「参画」という用語は、意思決定プロセスにおける利害関係者の熱心な関与を想起させる。この言葉
は、行政府や行政機関によってすでに決定された政策を住民に伝達するだけのような一般的な会合を
超えたものであり、懸念、考え、姿勢などを交換しあうことを意味する。例えば、水に関するブラジ
ルの法律では、そのような参画を可能にする法的な枞組みを作り、法的拘束力をもったフォーラムの
決定をすることができる。公的なフォーラムでなくても、公的な計画や政策を立案するにあたって同
じように効果を持たせることは可能である。しかし、そのような場合、利害関係者の参画が建設的で
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重要であるとの認識を行政機関が持っている必要がある。「参画」とは、たとえ特定の参加者が規制
や意志決定の資格を有する場合でも、対等な関係で行なわれるプロセスでなければならない。
参画は利害関係者が法的な地位を持っている場合にはもっと有効である。米国西部地域のように、そ
の所有権が許されているところでは、水の所有者は確实に参加する。しかし、水の所有者の権利は剥
奪される事例が増えており、特に市街地では水の所有権などは存在しない場合もある。インドでは、
司法局が環境を保全する運動において重要かつ主導的な役割を果たした。この運動は 「公益訴訟
(PIL)」あるいは「公益陳情」という考え方を生み、市民は公益をめぐって裁判に訴えることができ、
裁判所はこの考えに沿って判決を下すことができる。ハイデラバード州の湖の場合、あらゆる民主的
な手段を尽くしたあと「湖を救おうキャンペーン」に参加した人たちはアードラ・プラデーシュの高
等裁判所に訴えた。一連の審議を経て裁判所は、政府に対してハイデラバードの内外にある 170 の水
体を保全するようにとの決定を下した。この決定によって、湖の保全は州政府の最重要課題になり、
対策が進んだ。「湖を救おうキャンペーン」そのものは、インド中で問題となった湖などの表流水資
源の务化を食い止めようとする市民社会の運動として始まったものである。ハイデラバード州におけ
るこの運動は、州の 2 つの有名な湖「フセインサガール湖」と「サルールナガル湖」で魚が大量死し
たことを受けて 1991 年に、漁師、社会活動家、学者、専門家などによって始められた。
水の所有権が存在する場合には話し合いの場が持たれることが多い。共有資源が乱用はよくある事象
であり、公共の財産や資源が务化していくことをギャレット・ハーディンは「コモンズ(共有地)の
悲劇」と呼んだ(1986 Tragedy of the Commons, Science 162; 1243-1248)。もともとこの言葉は、個人の
所有する家畜が共有地の牧草を食い荒らすことに対して用いられたものである。水は一般に人間に備
わった権利とみなされ、生存に必要な消費財とは考えられていない。そのため、水道水、製造用水、
灌漑用水などに経済的な価値を付与することには抵抗がある。自然の水、例えば湖や河川の水に価格
を付けることは一層難しい。なぜなら、これらの貴重で有限な資源に対しては、歴史的に価格を付け
ることが行なわれなかったからである。この数十年間で環境経済学は大きく進歩したが、共有する天
然資源に経済的な価値を付与することは、他の製造物の価格付けに比べてまだ遅れている。
湖に関わる問題を確認するために、住民による調査やアンケートを用い、それを基に具体的に問題を
挙げて優先順位を決めることが、多くの管理事業で行なわれるようになった。そのような調査は、米
国やカナダで五大湖の管理計画を策定する過程で最初に始められたものである。同様の調査は、同じ
ような目的で单アフリカやその他の国々で实施され、聞き取り調査やアンケート方式などの手法が用
いられた。調査を行なうことによって、問題を共有できるだけでなく、水資源の重要性を住民や利害
関係者に認めさせ、個々の対策に対する説明資料を配布することによって、政府の対策の支持を得る
ことが可能になる。また調査によって政府と住民は対策の順位付けを行なうことができる。このよう
な手法は、世論の評価や、公式的な参加機会を補完する仕組みにもなる。
湖沼管理の取り組みへの利害関係者の積極的な参画は、必要な対策に対する利害関係者の支持の拡大
につながる。一方、合意プロセスを経た結論に対しても不平を感じる利害関係者はいるので、ある程
度の争いは残る。決定に参画したからといって、その決定に失望したり、承服しかねるといった問題
が自動的になくなるわけではない。
86
原則 6 の適用に関する实践的な助言
(1) 湖の流域の住民や利害関係者の参画を奨励し持続させるために、さまざまな手法やメディアを活
用する。湖や貯水池の水に関心をもつ個人やグループの関与や積極的な参加は、共有する問題に
対する持続的な解決策につながることが多い。
(2) 水資源は社会的な価値、環境価値を有しているが、それを通常の経済的な手法で定量化すること
は難しい。それにもかかわらず、湖や貯水池の社会にとっての真の価値を適切に評価するための
努力や開発が行なわれており、その成果が出つつある。
(3) 住民参加に法的な根拠を与えることによって、意思決定プロセスにおける利害関係者や住民の役
割が明確になる。
(4) 湖岸から遠く離れた利害関係者もいるので、「利害関係者」を広く定義する。
(5) 湖沼管理の取り組みにおいては自然も利害関係者と考え、取り組みの中に組み入れる。そうする
ことによって自然の生態系プロセスが守られる。
良好なガバナンスと利害関係者への権限付与
湖沼管理を始めとして水資源管理は共同作業である。人間も自然も生存のためには水を必要とする。
ところが、多くの場合、自然が水を必要としていることは、人間の経済的な利益のために無視される。
しかし、長期的に経済的な利益を得るためには、持続的な自然環境が必要なのである。持続的な自然
環境は、汚染されていない水が十分に供給されて初めて可能になる。
流域に暮らす全ての生物の中で、人間は、流域での生存が不可能になるところまで土地と水資源の両
方を务化させる最大の要因である。歴史的にみれば、人間が移住生活を送っていた頃には、ある場所
で天然の資源を獲りすぎても、さらに資源が豊かで住むのに適した場所に移動することは可能であっ
た。21 世紀に入ってこのような機会は次第に限られ、数も減尐している。したがって、湖沼や貯水池
を利用可能にするための取り組みが行なわれているのは、政策として好ましいだけでなく、経済的な
合理性にも適っているのである。
人間は、非常に汚染された水でさえ回収する技術を開発したが、そのためのコストは非常に高くつく。
したがって、資源を管理するために、すべての受益者と住民を含むあらゆる経済分野の人がコストを
分担するというのは合理的である。このような取り組みは、1900 年の中ごろから世界の多くの国で实
施される水汚染防止プログラムの底流をなすものである。このような取り組みがまだ实施されていな
いところもあるが、多くの人は、水資源、特に人間社会にとって最も容易に入手できる淡水資源であ
る湖沼の固有の価値を理解するようになった。またこれらの水資源は、地域の人々にとって容易に入
手できる蛋白源であるとともに、消費資源や受動的資源として、多様な経済的な利益をもたらしてく
れている。消費的利用例としては、飲料水や灌漑水が挙げられる。また湖沼と貯水池の受動間接的な
利用の代表例としては、ボートや釣りなどを挙げる事ができる。
既述したように、多くの湖沼や貯水池は人間によって多面的に利用されている。したがって、特定の
目的、例えば、飲料水の供給だけに水資源を管理するということはまずあり得ない。貯水池が公用地
内に設けられている米国でさえ、貯水池に流れ込む全ての流域を管理することはほぼ不可能である。
したがって、水汚染の恐れは残っている。他の地域、例えばジンバブエや单アフリカでは、政策とし
て貯水池利用の多面性を認識し、貯水池の周囲に公用地を取得して、余暇の楽しみや漁業の営みがで
きるように配慮している。
87
ハートビースプルト・ダム(单アフリカ)の場合、ダムは住宅地域の真ん中にあり、市の処理排水や
未処理の雤水を主な流入水とし、灌漑水の提供や下流住民のための水供給を行なっている。このダム
は 1920 年代に、灌漑目的のためにだけ作られたが、時間と共に新たな要求が加わり、意思決定を行な
うための利害関係者も変わってきた。一つの例を挙げると、湖岸の住民は、貯水池の富栄養化を食い
止めるための取り組みを始め、地域,州、国の政策に影響力を持つようになった。ハートビースプル
ト・ダムやその他の経済的な中心地にある貯水池での経験に基づいて、单アフリカは国中の下水処理
場に対して 1mg P/ℓ のリン排出基準を設けた。この施策によってダムの超富栄養化状態を完全には修
復することができなかったが、1mg P/ℓ排出基準によって、1970~1980 年代に経験したような極端な富
栄養化状態は大幅に改良された。この事例では、住民や利害関係者が意思決定のプロセスに参画する
ことによって環境面で大きな改善が見られ、排水処理のコストは大幅に上昇したが、余暇利用の増大、
資産価値の増加、流域経済の活性化など、实質的な経済的見返りをもたらした。
この報告書の事例の中には同様な利益が多く見られる。多くの利益は、利害関係者が参画し、科学者、
技術者、政策決定者、立法者などと協調して活動することによって達成されたものである。このよう
な協調的な活動は、すべての利害関係者の価値が認められ、湖沼管理施策の討議に平等な立場で参画
できるような公開フォーラムがあって初めて可能になる。单アフリカにおける参画型の取り組みでは、
環境保護者も参加した結果、表層水資源の正当な利用者として自然の役割を公然と銘記した。
公開で透明な意思決定の枞組みにおける住民や利害関係者への権限付与を進めるさまざまな手法が開
発され、この報告書の中にも多くの事例が記載されている。効率的で透明性の高い意思決定の仕組み
を作るためには、1)いろいろな人々からなる社会の文化的な要件と調和すること、2)さまざまな宗
教的な信条と相容れること、3)多くの経済的・社会的な目的を補完するものであること、4)さまざ
まな政治制度のもとで機能すること、5)貯水池の寿命の間維持されること、などが求められる。これ
らのプロセスの詳細は地域で決定されるべきものであるが、湖沼や貯水池の管理活動に住民の参加を
認めた場合、一般に建設的かつ生産的な効果を産む。逆に、住民を認めず参加を拒んだ場合は、しば
しば紛争や環境破壊をもたらした。
WLV 委員会は、持続的な人間の利益のために湖沼や貯水池の管理を進める住民や、あるいはまた水が
枯渇している地域で活動する人たちにとって、この章および報告書の事例報告の中に示された指針が
役立つことを願うものである。
原則 7 の適用に関する实践的な助言
(1)
水は経済財であり、その価値はさまざまに定義される。人間社会と自然環境は、良質な淡水が十
分に供給されないと持続的に維持されない。
(2)
水を統括する取り組みへの住民の積極的な参加は、公正で公平な意思決定を可能にする。住民が
参加できる公開討議の場は、地域で最良の方法を定めるべきである。
(3)
湖沼や貯水池は卖に表流水を貯えるだけのものではない。多くの湖は、直接的に水を供給するだ
けでなく、文化的な価値を有しており、この役割の大きさを認識することによって、水資源管理
対策の歴史的な意義や社会的価値がはっきりする。
(4)
持続的な水利用を推進するための対策としては、1)個人による水の節約(水道水を確实に止め
る、家庭における低流量水道の利用など)、2)湖沼管理のための地域活動、3)湖沼や貯水池を
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保全・修復するための、法整備、政策、指針などを策定・实施する国や国家間の社会的な活動、
などがある。
(5)
市民社会だけでなく、自然のすべてに利益がもたらされるように水資源を管理していく鍵は人間
にある。
有望な対策と今後の課題
WLV の原則の適用を拡大していくための目標は、湖沼や貯水池のような重要な水システムの持続的な
利用について、流域の広範な利害関係者に適用のための指針を与えることである。实際問題としては、
第 3 章に示す地域ごとの湖沼流域の分析や第 4 章の原則の適用に関する得られた教訓は、ある地域で
は有効であっても他の地域ではそれほど有効でないかもしれない。このことは、個々の湖における最
も实施しやすい原則と最も实施が困難な原則を要約した表 1 についても言える。そうであっても、こ
のレポートや、その前に ILEC によって行なわれた LBMI プロジェクト(湖沼流域管理イニシアティブ)
の報告(ILEC、2005、さまざまな対策の効果や限界を考察した貴重な報告である)の中のさまざまな
事例の中から見出された経験は、ひとつの流域で持続可能な湖沼管理を行うためには、WLV のすべて
の原則の实践が必要であることを明確に示している。第 1 章でも述べられているように、偶然にも、
LBMI の報告書にも WLV を活用した事例がある。
このプロジェクトの目標は、1)WLV の原則、2)LBMI プロジェクトで得られた管理に関する洞察、
および 3)このレポートに収められたさまざまな湖沼管理事例における WLV の原則の適用に関する分
析を基に、持続的な湖沼流域管理を達成する手段を提供することにある。明記されていないもう一つ
の目標は、現行の持続的な水資源に関する地球規模の議論において、湖沼管理の必要性とその可能性
を主流化することにある。この努力は、持続的な水資源を实現するための合理的な取り組みとして次
第に受け入れられつつある統合的水資源管理(IWRM)に取り組む議論においても同様である。
WLV 委員会は、世界湖沼ビジョン【WLV】(WLV 委員会、2003)の中で掲げられた湖沼管理に関す
る 7 つの原則の有効で实際的な適用例を示すために、湖沼や貯水池の事例を収集することにした。こ
れらの事例は、世界中の湖沼や貯水池にて保全・修復に取り組んでいる住民を鼓舞し、指針を与え、
元気づける目的をもって収集された。しかし現实には、これらの指導原則を有効な対策に活用してい
くために、次の勇敢なステップに踏み出し、地域、地方、国レベルで他の人たちに手を差し伸べてい
くのはあなた方自身(読者)である。この手助けとして、WLV 委員会は、あなた方に役立つかもしれ
ない資料を巻末に用意した(付録 4)。
さらにもう一つ言及しておきたいのは、ILEC によって作成されている新しい世界湖沼データベースで
ある。このデータベ-スは、従来のような個々の湖に関する情報(位置、特性など)だけでなく、社
会経済に関する情報、制度や法整備など湖沼管理に関するさまざまなデータ、知見、指針などを提供
するものである。このシステムが動くようになると、湖沼管理に取り組んでいる住民だけでなく、政
策決定者や管理者にとっても有力なツールになるだろう。この新たな重要なシステムについてさらに
知りたい読者は ILEC のウェブサイト (www.ilec.or.jp)を参照いただきたい。
2003 年に作成された WLV の結語の中に込められた目的と希望は、同ビジョンが作成された当時と同
じ重要性を今でも持っているので、ここでもう一度引用する。
「確かに、もし我々が湖を持続的かつ責任ある形で利用できたなら、生命の鍵である汚れのない淡水
を湖に依存する人類社会と自然の生物社会と、両者の要求をともに満たしていける希望が十分持てる
のである」
89
第6章
ケーススタディの要約
はじめに
この章では個々の事例報告をまとめて示す。個々の報告は、それぞれの湖の事情に精通した一人また
は複数の現地の専門家によって書かれたものであり、湖とその流域、その特性や問題と並んで、流域
の管理や保全の取り組みにおいて、WLV の 7 原則がどの程度活用されたのかを明確にすることを目的
にしている。それぞれの著者は報告の中で、1)湖に関する基礎的な情報、2)明らかになった湖沼流
域問題に対する管理の取り組み(戦略と対策)とその成果、3)その戦略や対策の中で WLV の原則が
直接的もしくは偶然にどの程度活用されたか、4)これらの取り組みから得られた教訓、特に、WLV
の原則を实際の保全活動の中に活かしていくための指針、さらに 5)WLV を实践していくための将来
の計画、などを示すように求められている。
ここに掲載されている報告は、それぞれの著者によって書かれたものであり、これまでの章における
分析に際しての知識ベースとして利用された。全ての報告の著者が同じような報告を行ったとはいえ、
報告に含まれる情報、データ、経験や結論は、それぞれの湖沼流域に関する著者の知識、経験および
意見を反映していることは言うまでもない。第 2 章に記された各湖沼流域のある地域の概略的記述は、
これらの事例報告の背景をいくらかは提供するであろう。読者がある特定の湖沼についてさらに情報
を得たい場合は、その湖沼の事例報告の著者に問い合わせて頂きたい。
この事例報告は、アジア・太平洋、单アジア・インド、アフリカ、ヨーロッパ、ラテンアメリカ・カ
リブ海、および北アメリカの各地域にある 27 の湖と貯水池を対象とする 30 の報告から成っている。
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ポーヤン湖の持続可能な管理
Dai Xingzhao
Promotion Association for Mountain-River-Lake Regional Sustainable Development of Jiangxi Province
(MRLSD)
007 South One Road, Provincial Government Complex, Nanchang 330046 PR China
Email: [email protected]
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要旨
ポーヤン湖は中国最大の淡水湖であり、中国政府ならびに江西省はその管理に常に高い関心を払って
いる。この 20 年間に政府機関および地域住民によって湖の持続的な利用を促進するために多くの努力
が払われてきた。「山岳河川湖沼(MRL)開発運動」は 1980 年代に始まったプログラムで、総合的な
取り組みを進めて湖の集水域全体の持続的な開発を促進することを目指している。この運動を進める
なかで中国政府ならびに江西省から環境保全に関連するさまざまな規則や政策が公布された。この報
告書は、MRL 運動という総合的な取り組みの中で、湖の持続的な利用、特にポーヤン湖の持続的な利
用のために中央・地方政府によって行なわれた事業や施策をとりまとめたものである。
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はじめに
ポーヤン湖は、中国最大の淡水湖であり、その流域は中国における米や魚の主要な生産地である。湖
は中国单東部の江西省北部にあり、单昌(江西省の省都)の北約 50km、長江の中下流の单側地帯にあ
る。この湖の集水域は 162,225km2 に及び、湖は江西省を流れる 5 つの川(Ganjiang、Huhe、Xinjiang、
Raohe、Xiuhe)の合流点にある。これらの川の水は、湖に流入したあと 1km の水路を通って長江に流
れ出すので、ポーヤン湖は自然の貯水湖として機能している。
湖の周囲一体は、水路、湿地、島、内湖、川床などが混在した地形となっている。さらに海抜 14~17
mの湿泥地や広大な草湿地が 1,334km2 にわたって広がっている。ポーヤン湖の氾濫原は水位によって
大きく変動する。湖の大きさは乾季には 1,000km2 以下にまで小さくなり、雤季(夏の終り)には
5,000km2 まで大きくなり、湿地と干潟が複雑に現れる。そこには 2,500 種以上の貴重なツデグロヅル
(世界の鶴の 95%に相当する)、2,000 羽以上のマナヅル、50,000 羽のサカツラガンなど、50 万羽も
の水鳥がやってくる。湖の平均の深さは 8.4m、最大の深さは 25.1mであり、湖の流域は中国の最も重
要な米作地帯の 1 つである。
湖が直面する問題
ポーヤン湖が直面している問題には、季節的な洪水、下水による点源汚染や農業に起因する面源汚染、
汚泥堆積、湿地や土壌の务化、地元漁師による魚の乱獲、住血吸虫症、貧困(特に農民)などがある。
季節的な洪水
湖の流域は、モンスーン地帯にあるので雤が多く、年によっては年間 1,600mm もの雤量がある。雤量
は季節によって異なる。近年、この地域では、気象条件、地質学的環境要因、さらには人間活動の影
響で洪水の被害がより頻繁に起こるようになり、洪水は湖の直面する主要な問題の 1 つとなっている。
1990 年代には水位が危険レベルである 20mを超えた年が 6 年もあった。最悪だったのは 1995 年と
1998 年で、住民と経済に大きな損失を与えた。
91
汚染
湖の流域における近年の急速な経済発展は、湖の環境に大きな問題を投げかけている。環境モニタリ
ングのデータによると、湖の大部分で水質はまだ良好で、半数以上のモニタリング地点でクラスⅡの
水質を保っている。しかし、湖近くの河川デルタの中には毒性汚染の影響が出ている箇所もある。全
リン、揮発性ヒドロキシベンゼン、マグネシウムなどが主要な汚染物である。この 10 年で湖の富栄養
化が進行し、特にカン江の单部でひどくなっている。また農業で殺虫剤や化学薬剤の使用量が増大す
るのにつれて面源汚染も進んでいる。
土壌浸食と汚泥沈積
この 20 年で状況は改善されてきてはいるものの、土壌浸食は湖の直面する大きな問題の 1 つである。
その主な原因は不合理な土地利用と恵まれない自然条件にあり、流域内では長江の集水域をはじめと
して、深刻な土壌浸食が進んでいる。同川の集水域のうち、約 3,522,400ha が土壌浸食されており、そ
れは同省の全面積の 21.1%にもあたる。1996~2000 年の記録によると、14,090,000 トンの泥や砂が湖
に流れ込んだが、そのうち 6,580,000 トンしか流出しておらず、その結果、7,510,000 トンの泥や砂が湖
に沈積したことになる。土壌浸食と汚泥堆積は、湿地、5 つの河川の下流地域や湖周囲の土地の务化を
招いた。湖流域には 10,000ha 以上の砂漠化した土地があると推定されている。
住血吸虫症
湿地内の広大な植生密集地帯は、日本住血吸虫(Schistosoma japonicum)を仲介する巻貝であるミヤイ
リガイ(Oncomelania)の最適な生息地を提供している。ポーヤン湖一帯は、気候、地理的環境、およ
び湿地特性が巻貝の増殖にとって好都合で、中国における住血吸虫症の主要な風土地帯となっている。
2002 年の調査によると、この地域一帯の 495.5km2 が、巻貝に起因する住血吸虫症感染地帯となってお
り、83,000 人の人々と 3,872 頭の牛が感染し、250 万人に感染の恐れがある。
貧困
湖周辺の郡や村落は、中国および江西省の中で最も貧困な地域の 1 つである。
戦略と対策、その成果
中国では、持続的な開発が国家戦略の一つとして採用されている。「金や銀の取れる山を探すよりも、
緑の山と清浄な水を望む」という考え方は、政府および江西省の人々に充分理解されている。これま
でにさまざまな戦略、運動、対策が实施され、良好な結果が得られている。
山岳河川湖沼(MRL)開発運動
MRL 運動は、WLV の原則 2「湖の流域は、湖の持続的利用のための計画・管理の論理的出発点である」
および原則 3「湖の環境悪化の原因を除くには、長期的で予防的な対応が必須である」に完全に合致
するものである。
江西省政府は、直面する課題や困難に立ち向かうために、1980 年代の初めにポーヤン湖集水域全域に
わたって持続的な開発を促進するための総合的な取り組みを開始した。MRL は Mountain River Lake
(山岳河川湖沼)の略称であり、ポーヤン湖集水域を意味する。MRL 運動は 1980 年初期のポーヤン
湖に関する総合的な調査に基づき、その思想は 1985 に当時の江西省知事が述べた「現在および将来に
92
ポーヤン湖流域が直面する問題に対する解答はある 1 つの技術的なものではない」である。MRL 運動
の指導原則は総合計画の中で次のように述べられている。
「湖を保全するためには河川の保全が必要である。河川を保全するためには山の保全が必要で
ある。山を保全するためには、貧困が解消されなければならない」
MRL 運動は、人口、環境、開発に関する中国の重要施策であるアジェンダ 21 政策の中の一つである。
地域の持続的な開発と集水域の統合的な管理を進めるために、MRL 運動は、天然資源の活用と環境保
全を進めて、この 20 年間に建設的な成果を生み出した。
MRL 開発委員会(MRLDC)は、総合的な取り組みを成文化し、ポーヤン湖全域に持続的な開発を推
進していくために設置されたものである。MRL 開発事務局(MRLDO)は、MRLDC の活動实施機関
であり、助言、計画案の作成・修正、調査活動、实証活動、関連する政府・民間機関の活動の横断的な
調整などをその使命としている。MRLDO は、開発のために総合的、業際横断的な取り組みを進める
ことをその使命として設置された、中国における唯一の省レベルの主要行政機関である。
1998 年から实施された「畑を湖に戻す」事業は、ポーヤン湖流域において「人と湖の調和のとれた関
係」を实現するために、中央政府と江西省政府が实施した事業の一つである。1998 年のポーヤン湖の
大洪水は大きな被害をもたらしたが、(一方で)もっと重要なのは、人と自然の間で調和の取れた関
係を維持することの重要性に人々が気付いたことである。「畑を湖に戻す」事業の实施によって、ポ
ーヤン湖の面積は 3,500km2 から 5,000km2 に増大した。洪水時の貯水能力も増大し、湿地環境も回復し
た。自然にやさしい環境を作り、調和のとれた湖を築くために多くの対策が实施された。
植生再生
裸の土地に植樹するために多大な努力が払われた結果、この 20 年間で植生域が 35%から 60%に増大
した。
自然貯水池の設定(環境保全区域)
中国政府は、自然にやさしい環境を保全するための重要な対策として、自然の貯水池を維持すべきだ
と考えている。ポーヤン湖は国の自然地域にリストアップされており、また国際的に重要な湿地のリ
ストにも掲載されている。湖の西岸にある盧山(Lushan)は UNESCO の世界遺産リストに登録されて
おり、国立地質学公園に指定されている。
生物多様性の保存
ポーヤン湖は、生物多様性が豊かで野生生物保全区域が設けられている。また住民主体の取り組みが
湖岸の村で实施されている。ツデグロヅル、マナヅル、サカツラガンなどの希尐で絶滅に瀕している
野生動物が保護されている。
土壌浸食防止
上流の侵食された山岳地帯では、工学的あるいは生物学的な取り組みが進み、過度の侵食は抑えられ
つつある。最近、環境保全に向けて良好なガバナンスを实現するための関連規則や政策が中央・地方政
府の両方で策定された。そこでは科学的な開発というコンセプトが中国の持続的な開発のための指導
原則として採用され、これらの規則や政策の策定に使用された。
93
環境保全政策の進展
廃棄物料金制度と徴収方法の改善が進み、徴収と利用が厳密に仕分けされ、料金は環境保全と汚染防
止にのみ使用されるようになった。各種の環境保全施設の建設や運転などには社会資本を使う一方、
汚染防止(事業)の市場経済化や工業化を促進するために、都市部の下水、ゴミ、その他の危険な廃
棄物の処理は有料になった。都市部では下水やゴミ処理に運転免許制度が導入された。单昌や九江な
ど周辺の大都市ではさらに多くの下水処理施設や廃棄物処理場が建設されている。
環境影響評価
中国政府は 1998 年に、環境影響評価の考えを推し進めるために建設プロジェクトの環境管理に関する
規則を交付し、建設事業については、事業の進捗に合わせて必要な環境保全施設を計画・建設・導入す
ることを義務付けた。2003 年に实施された環境影響評価に関する中国の法律は環境評価の实施対象を
建設事業から全ての開発のための建設計画にまで拡げている。
住民参画
中国政府は環境保全に対してさらなる住民参画を推し進めている。環境影響評価(EIA)实施法は、事
業への住民参画を義務付けており、環境に悪い影響を及ぼす可能性のあるどんな計画や建設事業にお
いても、環境影響評価レポートについて当局、専門家、住民の意見を聞くための評価委員会や公聴会
などの開催を求めている。2006 年 2 月、中央政府は、環境影響評価への住民参画促進に関する暫定措
置を公布した。そこには、住民参画の目的、手順、および組織形態などが銘記されている。NGO や奉
仕活動家などは住民参画の重要な勢力である。
得られた教訓
統合的湖沼流域管理(ILBM)
湖沼管理の計画は、湖だけでなく集水域全体を含む必要がある。ポーヤン湖は、1980 年代のはじめか
ら ILBM モデルを採用してきた。その結果、湖の持続的な管理において良好な結果が得られている。
政府機関の活動の有効な連携
機関が違えば目的も違ってくる。農業課の目的は、必要なら多くの化学肥料を使ってでも、農作物や
水産物の収穫を上げることにあり、一方、環境保全局は、経済優先の農業活動の影響を最小限に食い
止めようとする。江西省政府はこの認識の違いを考慮して、省の機関と地方自治体との調整を行なう
機関を設立した。
小規模プロジェクトによる例示
27 の小規模プロジェクトと 10 の持続開発地域の設定が流域全体で行なわれ、湖の持続的な管理のため
の経験が集められ、实践例が示された。
国際協力
国際協力は新しい開発の考え方や新しい技術をもたらしてくれる。ポーヤン湖は 30 カ国以上の組織や
研究機関と協力や交換プログラムを实施している。
今後の取り組み
ポーヤン湖の管理は江西省の重要課題の一つである。ポーヤン湖についての関心は国家機関および地
方当局の両方で高まっている。湖の持続的な利用は、江西省の関係機関が作る計画の中に織り込まれ
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ているが、幾つかの点でさらに強化が必要である。また湖の持続的な利用を实現するためには、さら
なる集中的な努力が今後とも必要である。
政府は湖流域の水汚染の防止と保全のための事業を全て確实に完了させる。また都市部および農村部
の環境保全と生物にやさしい環境作りに力を入れる。
政府は 3 つの変革のスピードアップを図る。この 3 つの変革とは、第 1 に「環境保全を無視した経済
成長重視からの変革」、第 2 に「経済成長に比べて遅れている環境保全を経済成長と同調して進める
ための変革」、第 3 に「湖の環境問題解決に向けて、行政的な手法だけに頼らず、法的、経済的、技
術的な手法とを合わせた総合的な環境保全対策を進めるための変革」である。
政府は環境保全に関する政策や法整備改善の取り組みを継続して行なう。これにより、先進的な環境
モニタリング、早期警告制度、適正な環境関連法の实施とその監視システムなどが確立されるであろ
う。
なかでも、持続的な湖の利用に向けて科学的な研究を強化する必要がある。その中には水質汚染防止
技術、湿地保全技術、洪水防止監視とその管理システム、住血吸虫症防止と駆除対策、環境にやさし
い生産技術、排水処理技術などが含まれる。
行政機関と住民の両方に対して、環境保全のための広報活動や教育を強化する。
情報共有を進めるためのメカニズムを強化する。
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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
センタラム湖国立公園と世界湖沼ビジョン
Gusti Z Anshari
Lecturer at Tanjungpura University and Director of Yayasan Konservasi Borneo
Jl. Paris 2, Perumahan Bali Mas 2 No 5B Pontianak, Kalimantan Barat 78124, Indonesia
Email: [email protected], [email protected]
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要旨
センタラム湖国立公園は共有の水資源であり、WLV を实践するのに適切な場所である。この公園はあ
る季節ごとに湖となり、魚の種類が豊富であるため、いくつかの民族が公園内に定住している。この
ような公園において人間と自然がバランスの取れた関係をどのように確立していくかは大きな挑戦で
ある。著者は 2002 年から 2006 年まで、センタラム湖で暮らす人々と一緒に活動した。その経験から
いえば、もし WLV の原則が適切に实行されれば、現在センタラム湖に及ぼしている人間活動の悪影
響を阻止できる可能性は十分にある。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
はじめに
センタラム湖国立公園(約 132,000 ha)は、インドネシア共和国西部カリマンタン州にある。公園は海
抜 35~50m の低地にある湿地で、一定の季節ごとに湖となり、カプアス川の氾濫原として機能してい
る。カプアス川はインドネシアで最も長い川(1086km)でナトゥナ海に注いでいる。センタラム湖国
立公園は川口からほぼ 700 km の所にある。
この地域の年間雤量は最高 5,000 mm で、乾季を除けば常に湿度が高い。毎月の雤量が 200mm 以下に
なると乾季になるが、それは通常 6 月から 8 月に起こる。公園は 2~3 年ごとに干上がっていたと言わ
れている(Giesen 1987)。事实、公園は 1997~2006 年の間に、4 回(1997 年、2001 年、2004 年、
2006 年)干上がった。1997 年の乾季は、深刻なエルニーニョ現象と一緒に発生した。乾季の最初のこ
ろは、水位が低くなり魚を捕まえやすいので、釣りシーズンが始まる。乾季が一ヶ月以上続くと、セ
ンタラム湖に居住する人々は、水不足と山火事に苦しむ。
カプアス川流域に沿ったこの公園は魚の種類が豊富で、300~500 種類の魚がいる。豊かな水系生態系
に加えて、公園には重要な泥炭地がある。完新世に形成されたと言われている沿岸地域の熱帯泥炭と
は対照的に、センタラム湖の泥炭は更新世の後期以降に蓄積されたものである(Anshari 他 2001、
2004)。氷河時代に泥炭が蓄積されたことは、カプアス川の上流域の気候は、(その頃から)ずっと
湿気に富んでいたことを示唆している。この湿気の高い条件は、多様な生物が成長するのに非常に適
していたであろう。公園は、1994 年以降、ラムサール条約湿地に指定されている(Jeanes 1997、
Frazier 1999)
湖が直面している問題
現在、センタラム湖流域では多くの問題が起こっている。急速な人口増加、魚の乱獲、山火事、土地
利用の変化、違法な材木伐採と地球温暖化などが代表的な問題である。なかでも、人間が公園境界内
に集落を拡大したために起こった急速な人口増加は重大な問題の一つである。公園境界内の人の集落
数はおよそ 40 ヶ村であるが、急速な人口増加が続いており、その増加率は年間 2%を超えると推定さ
れている。公園境界内に住んでいる人口の増加は、周辺の町、特にカプアス川沿いの町からの移動に
96
よって生じている。10 年前までは人々は公園内には定住せず、釣りシーズンの間だけ一時的に滞在し
ていた。Dudley(2000)は、公園に定住にする人々に住むための許可証を発行し、公園に移住するの
を禁止してはどうかと提言しているが、实際にこれを实行するのは困難である。
センタラム湖の周辺で暮らす人口の急速な増加の結果、乱獲は日常茶飯事的に見られる。人々は稚魚
を採集するために網の目の小さな漁網を使う。捕えられた稚魚はケージで飼育されるライギョに与え
られる。湖で暮らすほとんどの家庭がこの肉食魚を飼育するためのケージを持っている。ライギョ類
は飢えに強く、汚れた水質のなかでも生き抜くことができるということ、即ちリスクが無いことを
人々は知ったのである。魚の養殖には 1 年半から 2 年を要する。この魚の養殖は、不作の時に現金を
得るための貯蓄法の 1 つと考えられている。
人々は漁場を拡大するために沼沢林にも松明を灯す。これは通常水位と湿気がかなり低い乾季に行わ
れる。この外釣りシーズン中に起こる山火事は、部外者の不注意が原因だと多くの人が言っているが、
实際には泥炭沼沢林の山火事を制御することは、ほとんどの場合不可能である。火事は地中で起こり、
決して炎を出さない。火はゆっくり乾燥泥炭を燃やして、泥炭沼沢林の植物を枯らし、豪雤の後、自
然に消える。
一方で、小規模のゴム農園(パラゴムノキ)を開く目的で森の木を除去するために火が使われる。魚
の個体数の減尐と小規模ゴム農園者による森林の(農園への)転換の間には強い関係がある。人々は
「ここ 10 年来、漁獲高が減尐してきているうえに、水質が悪化したためにライギョ以外の魚を養殖で
きない」と一様に不平を言っている(Anshari and Armiyarsih 2005)。
この地域の水質と水文状況の変化には、違法な木材伐採と地球規模の気候変動が関係していると思わ
れる。インドネシアでは、スハルト政権が 1997 年に崩壊した後、新たな民主主義の時代に入り、地方
自治の力が強まった。1966 年から 1997 年までは、政府が強力に中央集権的な施策を進めたが、その結
果、地方自治体や多くの市民社会組織の天然資源管理能力が弱まった。熱帯地方の材木に対する高い
需要に応えようと、地元の人々は、海外のバイヤー、特にマレーシアの材木業界の大物实業家から援
助を得て不法に森の木を切った。この違法伐採は、センタラム湖国立公園の水質に有害な影響を引き
起こしていると考えられる。
地球規模の気候変動は、この重要な湿地の水文体系に大きな影響を及ぼす。現在でも異常な水位変動
が急激に起こることがある。雤不足(1 ヵ月につき 100mm 以下)が続くと湖の水位はかなり下がる。
以前は 3 ヶ月連続で毎月の雤量が 250mm 以下になると、湖の水はカプアス川に流入していた(Giesen
1987)。2006 年の 8 月末には湖の大部分が干上がった。9 月初めには大幅に水位が回復したが、9 月末
には再び水位が低下した。1997 年にエルニーニョ現象が発生したとき、湖は 3 ヵ月以上完全に干上が
ったままであった。
戦略と行動
センタラム湖ではさまざまな問題があり、それによって生息地の急速な破壊が進んでいる(Anshari
2006)。その状況を覆し、持続可能な湖沼管理の戦略を持つ必要がある。WLV の原則 1 に沿って、人
間の活動と湖沼環境の調和の取れた関係を促進することが重要である。この戦略は、地域住民が公園
の維持者としての役割と機能を十分に認識して初めて实行が可能になる。地域住民の役割と機能を政
97
府に認識してもらうために、センタラム湖の地域住民によって行なわれてきた慣習的な規則がまとめ
られ、出版された。この本は、地域住民が公園の保護者として活動できることを政府に理解してもら
うためのツールとして利用されている(Anshari 他 2006a)。このような情報を行政に伝えることは、
持続可能な湖の管理において住民がその役割と機能を果たせるような行政施策の立案につながる。こ
の取り組みは WLV の原則 4 に沿ったものである。
公園境界内の急激な人間の居住が重大な問題の一つであることは明らかであるが、この問題を解決す
ることは難しい。利益を得る者がいる一方で誰かが不利益を被るような、ゼロサムの人口政策が实行
されれば増加を最小に抑えることができるかもしれないが、そのためには、地区政府が公園内の人間
居住域の拡大をくい止めるために真剣な対策を取る必要がある。おそらく、人間の居住を禁止するた
めの新しい規則を導入する必要がある。また、保全の見地からは、公園内における全ての開発活動を
制限し、(開発は)公園境界線の外側においてのみ許されることになる。公園境界線内での定住は防
止しなければならないし、センタラム湖地域の住民の増加率も適切に規制されなければならない。
前章で述べたとおり、センタラム湖の異変の原因は湖沼流域の人間活動にあり、そのなかには、違法
な材木伐採や土地利用の転換なども含まれる。これらの問題は、保全活動よりも開発を重要と考える
現在の政策と強く関係している。政府は、保全地区を設けたために開発のための土地が減尐している
と言っている。開発の取り組みを短期的な戦略のみに基づいて考えればそういうことになる。対照的
に、長期的な開発の取り組みにおいては、生態系の機能保全が要求される。センタラム湖を保全する
計画と管理活動は、WLV の原則 2 と 3 に沿って、湖沼流域と長期展望を基盤に据えられるべきである。
これらの原則を支持し、地方行政と一部の地域住民はセンタラム湖の自然を脅かしている人間活動を
減らすための活動に取り組んできた。漁業活動の行えない湖を選定・指定することは最良の施策の一
つだと考えられる。このような湖は公園の境界外にあるので、この施策によってセンタラム湖国立公
園内の魚の保全を進めることができるだろう。
センタラム湖の独自性と豊かさを求めて多くの利害関係者が集まってくる。そのうえ、現在公園の資
源を利用している先住民族もいる。これらの競合する利益を調整するために、センタラム湖の管理計
画の提案は、協同的な取り組みを基本とする必要がある(Anshari 2006)。協同的な枞組みによれば、
異なる公園利用者間の潜在的な紛争を適切に処理することができると思われる。この取り組みは WLV
の原則 5 と一致している。
利害関係者の参加はセンタラム湖国立公園管理が成功するための鍵を握っている。協同的な管理の取
り組みを通して、地域住民と他の利害関係者は、意見交換だけでなく、湖沼管理における重大な問題
を認識する機会を得る。この取り組みは、WLV 原則 6 に一致する。
最後に、専門家としての行政の役割も重要であり、協同的な管理の取り組みの成果に影響を与えるだ
ろう。このためには、WLV の原則 7 で述べられているように良好なガバナンスが必要である。
管理・保全活動の成果
2002 年から 2006 年の期間においていくつかの重要な成果が得られた。2003 上カプアス地域政府は保
全地区になると宠言した。この方針はセンタラム湖の周囲で現在進められている開発事業を変更させ
98
る可能性をもっている。この地域の将来の開発事業が、生態系重視の考え方に立ち、人間活動と環境
の調和の取れた関係を確立することにもっと力を入れるようになることが期待される。
この政策変更に伴い、センタラム湖周辺のいくつかの湖が閉鎖湖として選定され、その指定を受けて
いる(表 1 参照)。これらの閉鎖湖は、現地の地域住民によって管理され、これらの湖への人為的な
干渉を制限するために、慣習法が厳重に適用される。地域行政府の役割は、地域のこの施策を公式に
承認し、行政府長の命令としてそれを公布し、实施のための動機付けを行なうことである。地方行政
府は地域住民にこれらの閉鎖湖で育てる固有種の魚を提供して援助している。この取り組みの主な成
果の一つはセンタラム湖の共同管理計画を作成することである。この計画はまだ進行中であり、2007
年の初めには終了できるよう願っている。地域住民 NGO、行政など多くの利害関係者は、この計画を
实現させるため協同して活動を行ってきた。
表 1 センタラム湖国立公園周辺の指定閉鎖湖
6
閉鎖湖の名前
Marsedan 湖
Pengulan 湖(TNDS 境界線内)
Vega 湖(TNDS 境界線内)
Sadong 湖
Jongkong Kiri Hilir 湖、Pekayau Siawan 湖、
Pulau Begansar ・ Bagot 湖 、 Pilin dan 湖 、
Sentajau 湖
Terduata 湖、Pulau 湖
7
8
9
Aur 湖
Perantu 湖
Empangau 湖
1
2
3
4
5
位置・場所
Semitau Village, Semitau sub-district
Dalam Village, Selimbau sub-district
Nibung Village, Selimbau sub-district
Padua Mendalam Village, Putussibau sub-district
Jongkong Kiri Hilir Village, Embau sub-district; Nanga
Tuan, Bunut Hilir dan Bunut Hulu Villages, Bunut
Hilir sub-district
Tanjung Entibab, and Nanga Tuan Villages, Bunut
Hilir sub-district
Teluk Aur Village, Bunut Hilir sub-district
Nanga Embaloh Village, Embaloh Hilir sub-district
Teluk Aur Village, Bunut Hilir sub-district
得られた教訓
WLV を効果的に实践するためには以下の教訓が重要であると思われる。第一に、湖の生態系に関する
情報が充分に政策立案者に伝えられなければならない。信頼できる正確な情報と事实は、政策立案者
が持続可能な湖沼管理のための適切な政策を作成するために効果的であることが証明されている。第
二に、地域住民には自然との調和した関係を確立する能力があるということである。このためには、
湖沼資源の主要な利用者である地域住民は、天然資源を管理するための所有権と住民権を有している
ということが明確にされる必要がある。第三に、規則と慣習法が地域住民によって作成され、また实
践されなければならない。このためには地域住民の行動を統括するための独立した現地機関が必要で
ある。Ostrom(1999)は「森や漁場のような共通の水資源を持続的に管理するためのしくみを保証し
ていくためには、外部ではなく内部の人間を有効に採用する必要がある」と述べている。
共同の水資源を管理する人々を支援するためには、センタラム湖国立公園の管理に大きな役割を果た
す現地の機関を合法化し、認定することはその前提となる。多くの場合、共有の水資源は、だれでも
利用できるように変わるだろう。そして、この自由に利用できる状態を管理していくためには、現地
に住む公園の利用者が、保護者としての責任や公認された役割を与えられていないと困難である。
WLV の原則は、湖沼関係者に対して自由な利用から湖沼資源を上手に統括していくための適切な指針
を提供するだろう。
99
今後の取り組み
センタラム湖国立公園の森と漁業資源の务化を阻止するためには以下の対策をとることが重要である。

慣習法と現在の保全上の課題を書面で明確にする。それにより、さまざまな地域社会の人々によ
る情報や知識の共有を進め、湖沼資源のさらなる务化を阻止するための持続可能な資源管理を实
行に移す。

地域や村で規則になっているセンタラム湖国立公園の慣習法を实施する。この対策は、湖沼資源
の利用を統括するとともに、人と湖の間における調和のとれた関係を促進するという地方機関の
役割を強化するものとして期待される。

協同的な管理機構を確立する。これは、競合する利害関係者間の紛争の解決、良好なガバナンス
の促進、すべての利害関係者の意思決定への参加を促し、対策の实行と計画の評価を進めるのに
役立つ。
謝辞
多くの人に支援をいただきながら、ここに名前を記載できなかった人が多くいる。著者は、特にセン
タラム湖国立公園の地域住民、上カプアス地区の政府と BKSDA Kalimantan Barat に感謝している。こ
のプロジェクトは、オランダの NC-IUCN から資金を供給して頂いた。より多くの方に我々の経験を共
有する機会を与えてくれた ILEC の松本聰氏にも感謝している。
参考
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collaborative management save Danau Sentarum National Park?). Forest and Governance Program No.7.
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Anshari, Gusti., Zulkifli., Handayani, Niken.2006a. Aturan-aturan tradisional: Basis pengelolaan Taman Nasional
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Anshari, Gusti., Zulkifli., Handayani, Niken., Hamdani. 2006b. Factors that inhibit the implementation law in
Danau Sentarum National Park. Paper presented on 11th World Lake Conference. “Management for Lake
Basins for their Sustainable Use: Global Experiences and African Issues.”31 October – 4 November 2005.
Kenyatta International Conference Centre, Nairobi, Kenya
Anshari, Gusti., Modjodo, Haryatiningsih., Andrijanto, Suharso, Yusuf. 2006c. Roles of governments, scientists,
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“Management for Lake Basins for their Sustainable Use: Global Experiences and African Issues.”31 October
– 4 November 2005. Kenyatta International Conference Centre, Nairobi, Kenya
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Anshari, G., Kershaw, A.P., van der Kaars, S., and Jacobsen, G. 2004. Environmental change and peatland forest
dynamics in the Lake Sentarum area, West Kalimantan, Indonesia. JQS 19(7): 637-656
Anshari, G. 2004. Managing anthropogenic impacts on Danau Sentarum National Park. This paper is presented in
the UNEP-IETC 10th Anniversary International Symposium on Integrated Water Resource Management.
Lakes as the Initial Point at Lake Biwa Museum, Kusastu City , Japan on June 6th – 7th, 2004.
100
Anshari, G., Kershaw, AP., van der Kaars, S. 2001. A Late Pleistocene and Holocene pollen and charcoal record
from peat swamp forest, Lake Sentarum Wildlife Reserve, West Kalimantan, Indonesia. Palaeogeography,
Palaeoclimatology, Palaeoecology 171: 213-228
Dudley, Richard. G. 2000. The fishery of Danau Sentarum. Colfer, Carol., Borneo Research Bulletin 31: 261-306
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Giesen, W. 1987. Danau Sentarum Wildlife Reserve. Inventory, Ecology and Management Guidelines. A World
Wildlife Fund Report for The Directorate of Forests Protection and Nature Conservation (PHPA), Bogor.
International Lake Environment Committee Foundation (ILEC) and United Nations Environment Programme
(UNEP). 2003. World Lake Vision: A call to action. ILEC. Japan
Jeanes, Kevin. 1997. Guidelines for conservation management: Danau Sentarum Wildlife Reserve West
Kalimantan. Project 5-Forest Conservation Indonesia-UK Tropical Forest Management Programme. Dirjen
PHPA, ODA, Wetlands International-Indonesia Prograame. Pontianak.
Ostrom, E. 1999. Self governance and forest resources. CIFOR Occasional Paper 20. CIFOR. Bogor
101
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ホタルを呼び戻すための住民の水質保全活動
北田俊夫、長尾是史、竹内辰郎、成瀬茂夫、木村直子
NPO 法人 びわこ豊穣の郷
〒524-8585 滋賀県守山市吉身二丁目 5 番 22 号
TEL:077-583-8686 E-mail: [email protected]
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要旨
琵琶湖は日本の本州のほぼ中心に位置する滋賀県の中央部にある。特定非営利活動法人びわこ豊穣の
郷は、琵琶湖東单の岸にある滋賀県守山市にその所在を置いている。守山市は琵琶湖の一部である赤
野井湾に面しており、かつては「守山ボタル」と呼ばれるホタルでその名を知られていた。しかし、
ホタルが住んでいた豊かな自然環境は、1965 年以降の急激な人口増加、都市化、工場進出、農業の近
代化、農薬の大量使用、湧水の枯渇等により破壊された。また、閉鎖性水域である赤野井湾は流域の
汚濁水が流入し、恒常的な悪臭とアオコが発生し、豊かな漁場が失われ、流域河川はヘドロの溜まっ
たドブ川となった。その結果、ゲンジボタルは姿を消してしまった。豊穣の郷は、1996 年に赤野井湾
流域協議会として設立され、その後 2004 年に NPO 法人格を取得し、名称を特定非営利活動法人びわ
こ豊穣の郷と改めた。1996 年に赤野井湾とそこに流入する河川の水質を改善し、一時も早く豊かな生
態系を取り戻したい思いで設立し、「ホタルが乱舞する故郷の再現」を身近な目標として活動を展開
している。
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琵琶湖の概要
琵琶湖は日本一大きな湖である。同湖は日本列島のほぼ中央に位置する滋賀県にあり、同県の面積の
約 6 分の 1 を占めている。琵琶湖には大小あわせて約 460 本の河川が流入しているが、流れ出るのは
瀬田川(淀川へと続き、大阪湾に注ぐ)のみで、全部の水が入れ替わるのには約 19 年かかると言われ
ている。同湖は琵琶湖淀川水系の最上流部に位置しており、滋賀県のみならず下流の京都府、大阪府、
兵庫県の近畿 1400 万人の重要な水源でもある。
琵琶湖は同湖の单部のくびれた部分にかかる琵琶湖大橋を境に、北湖と单湖に分けられる。北湖には
まだ多くの自然が残されており、水質も比較的良好であるが、单湖は 1960 年代以降の急速な工業化、
都市化の影響を受けて水質の低下、生態系の务化、自然的環境の撹乱、景観地の減尐などが問題にな
っている。
琵琶湖は 400~500 万年前に誕生したといわれ、世界でもバイカル湖、タンガニーカ湖に次いでもっと
も古い古代湖の一つである。このように古い歴史をもち、湖内の環境も変化に富むことから生物相も
豊かで、約 600 種の動物、約 500 種の植物が生息し、ビワマスやセタシジミなど 57 種の固有種を有し
ている。
また同湖は国内でも有数の観光地の一つでもあり、毎年 3000 万人の観光実が滋賀県を訪れ、琵琶湖の
景勝や湖でのレクリエーションを楽しんでいる。
琵琶湖を抱える滋賀県は古くから湖国と呼ばれてきた。人々と湖の暮らしは密接に結びついており、
数万年にもおよぶ両者の相互作用が独特の食文化や習俗を育んできた。滋賀県に生まれ育った人々に
とって同湖は精神的な中心であり、また信仰の対象ですらある。
102
湖と人々が直面する問題
琵琶湖の水質は、1960 年代の高度成長期に急激に悪化したといわれる。また 1970 年代から 80 年代に
かけては、淡水赤潮やアオコが発生し、富栄養化が問題となっている。これらの現象は住民と県庁双
方に危機感をもたらした。1970 年、主婦たちは「せっけん運動」を主導し、合成洗剤の代わりに自然
石鹸を使おうというキャンペーンを行った。この運動は力強く、1979 年に滋賀県議会は「富栄養化防
止条例」を宠言し、翌年に施行した。(滋賀県では、琵琶湖の水質保全のために、富栄養化防止条例
の制定や下水道の整備などに取り組んできた。)それによって一部の水質指標には改善の兆しが見ら
れるようになった。一方、化学的酸素要求量(COD)や全窒素量(TN)に関しては、漸増の傾向また
は予断を許さない状況にある。また、いまだに赤潮やアオコの発生は止まっていない。さらに現在は、
開発による湖岸生態系の务化や、ブルーギル、ブラックバスに代表される外来魚の増加、湖のレジャ
ー利用の高まりに伴う影響などが大きな問題となっている。
本報告の活動の場となっている琵琶湖の一部である赤野井湾(琵琶湖東单部、いわゆる单湖の一部)
も、その湖岸の住民たちの生活とのかかわりが深いところであり、赤野井湾近辺や流域の住民にとっ
ては、洗濯や田畑への水引、物資の運搬、娯楽の場として古くから利用され、日々の生活と非常に密
接なつながりがあった。
1950 年以前には、守山市にはこのゲンジボタルが数多く生息し、守山のゲンジボタルが他地域のもの
と比較して大きなものであったことから「守山ボタル」とも呼ばれた。その多さと美しさにより、守
山市近隣の住民はもとより、遠く大阪、京都からも見物にやってくるほどであった。しかし、ホタル
が住んでいた豊かな自然環境は、1965 年以降の急激な人口増加、都市化、工場進出、農業の近代化、
農薬の大量使用、湧水の枯渇等により破壊され、ゲンジボタルは守山から姿を消してしまった。また
さらに、赤野井湾域内ではアオコが大発生するなどし、その水質の汚染が進んだことが明らかになっ
た。この状況に住民は大きなショックを受けた。我々人間が、便利で豊かな生活のために自然環境を
犠牲にし、その代償がいかに大きいものであるか、悪臭が漂い、アオコが発生し、ドブ川になって初
めて気づいたのである。
ホタルを取り戻すための住民の取り組み
豊穣の郷の誕生
住民は、琵琶湖総合開発で利水・治水を優先し、目の前の豊かな自然や景観が破壊されているにもか
かわらず、環境問題に対して具体的な行動をともなわない行政側の対応への不信や不満を抱えていた。
1996 年 9 月、守山市の「水環境を守る生活推進協議会」の定期会合において、滋賀県から「赤野井湾
をきれいにする流域協議会を、守山市のみならず草津市、栗東町、野洲町をも巻き込んで立ち上げて
欲しい」という突然の申し出が滋賀県からあったことを機に、その不信や不満は一気に爆発した。し
かしこの時、滋賀県側が出してきた協議会の運営条件は、「事務局については滋賀県と守山市が責任
を持って設置し、資金も滋賀県と守山市で拠出する。皆さんは一人でも多く会員を集めて水環境保全
の取り組みを進めてもらいたい」というものであった。つまり、「行政側は資金提供のみにとどまり、
物事の運営は住民主導の下に行ってもらいたい」というものであった。住民主導により住民の意思が
直接生かせる活動の展開ができること、なによりも赤野井湾をきれいにしたいという思いは住民も行
政も同じであることから、住民側はこの申し出を受け入れた。そして滋賀県行政がその設立までの指
導に当たり、豊穣の郷赤野井湾流域協議会が誕生したのである。
103
豊穣の郷は、個人会員 350 名、団体会員 110 団体(2006 年 7 月現在)をかかえる、NPO としては県内
最大の環境団体であり、理事会、事務局、二つの部会と各部会内に委員会という組織構造をもってい
る。このような組織形態を持つことで、各委員会による活動目的が明確になり、会員のもっている能
力が引き出せ、かつ効率的な動きが可能になっている。もちろんすべての会員はボランティアで活動
を行なっている。
豊穣の郷の主な活動
豊穣の郷の活動は多岐にわたっている。以下に主な活動の概要を説明する。
水質調査とモニタリング
ホタルの消滅の主要な原因は水質の低下にある。豊穣の郷では、1996 年の設立以来、継続的に流域の
水質調査を進めている。琵琶湖赤野井湾へは守山市内をめぐる 8 本の川が流れ込んでおり、各河川は
集落の中に多くの支流を持っている。それらの川とその支流に 100 の調査地点を設け、1 年に 5 回の頻
度で里中河川の水質調査を实施している。調査結果は、滋賀県・琵琶湖環境科学研究センターのウェ
ブサイト上で公開されている。
調査項目は、水質、pH、透視度、水温、深さ、川幅、流速、泡立ち、臭いなどと、そこに生息する生
物である。水質に関しては、リン酸態リン、硝酸態窒素、化学的酸素要求量(COD)の 3 項目を測定
している。これらの項目を測定するために、豊穣の郷では「パックテスト」という簡易計測用キット
を使用している。パックテストは専門家でなくても誰にでも容易に取り扱うことができるため、住民
による水質調査を可能にしている。1997 年 1 月より今日まで、調査結果はデータベースとして保存し
ている。
ゲンジボタルの研究と調査
ホタルを生物指標としてみていることは、豊穣の郷の活動に関する特徴の一つとなっている。世界に
は約 2000 種、日本国内においては 46 種のホタルが存在する。しかし、その中の 1 種であるゲンジボ
タル(学名 Luciola cruciata Motschulsky)は日本国内においてのみ確認されており、その成長過程は非
常に特異である。豊穣の郷では、この経験からホタルを環境改善の生物指標の一つとして捉え、その
生息状況について調査を続けている。
2001 年に守山市は、豊穣の郷の活動と住民の要望に応え、ホタル保護条例を制定するに至っている。
豊穣の郷は卖にホタルの保護を目指しているのではなく、ホタルと人間が共存できる自然環境の保全
を实現するべく活動をしている。行政側はその活動を高く評価し、住環境に配慮したホタル観賞がで
き、かつ観光と環境を両立させる「守山ほたるパーク&ライド事業」が、協働の流れの中から生まれ
た。
環境教育
もう一つの重要な活動は、子どもを中心とした地域住民の水環境に対する意識を向上させるための環
境教育である。この目的を達成するために、毎年「赤野井湾探検会」、「河川ウォッチング」、「水
辺の楽校」を实施している。
豊穣の郷では、私たちが生活している流域河川を浄化することで、流れ着く赤野井湾が浄化すると信
じて活動を行っている。流域住民の活動結果、ライフスタイルが赤野井湾に反映するであろう。日常
104
生活そのものの鏡が赤野井湾そのものであり、活動のバロメーターが赤野井湾に映し出されているの
で、その検証のためにも比較し、教訓の材料としている。
「赤野井湾探検会」は毎年「海の日」に守山漁業協同組合の協力を得て開催され、参加者は田舟に乗
って赤野井湾へ出る。湖上では、湖の状態を観察したり、写真撮影をしたり、生物や湖底の泥を採集
したり、湖水を汲み上げたりする。そして漁港に戻り、生物学者や専門家からのアドバイスを受けな
がら、採集した生きものや水質について調べる。その調査結果を記録し、以前の記録との比較を行う。
講師である研究者や専門家の先生方が質問への回答あるいはヒントを出したり、参加している大人も
子どもも全員で意見交換したりするのである。この赤野井湾探検会は、知識供与だけに終わらず、自
らの五感により赤野井湾の状態を体感できるプログラムである。
「河川ウォッチング」は年に 1 回秋に開催される。参加者は、川の上流から下流までを沿って歩き、
川の状態、水生植物や水生生物の増減などについて観察を行う。さらに歩きながら、川の清掃活動も
同時に行う。そして川の歴史を地域の年配者から学び、川の文化、変遷を知ってもらう。「水辺の楽
校」では、青空教审のように屋外を教审とし、水生生物などについて学ぶだけでなく、ネイチャーゲ
ームや自然の中にあるものを使ってのクラフトづくりなどを行い、自然の大切さを体感してもらう。
情報の交換および共有と広報活動
年 4 回、広報活動である機関紙の発行、配布を实施している。機関紙には、イベントの案内、水質調
査結果、その他の事業についてのトピックスなどが含まれており、その同じ内容がウェブサイトにも
掲載される。ウェブサイトには意見交換の場を設け、非会員も含めた意見の書き込みにより、情報の
広い交流・共有を計っている。
活動の成果
これまでの活動を通して得られた主な結果としては以下のようなものが挙げられる。
水質の改善
多くの参加者と会員の努力、守山市の理解のおかげで、赤野井湾流域の河川の水質が改善してきた。
特に、リン酸態リン、硝酸態窒素および透視度は大幅に改善されてきた。さらに、一度は姿を消した
ゲンジボタルが流域内の小川に戻ってきている。これは豊穣の郷が継続的に活動を行い、それが効を
奏したものであるといえよう。そして何よりも、団体の活動目標の一つ、「ホタルが乱舞する故郷の
再現」に近づいたことを意味するものである。今日では、ホタルは毎年初夏(6 月初旪頃)に流域内の
多くの河川で見られるまでになった。ホタルの数は、住民の協力で豊穣の郷に報告され、集計される。
その数値は地理情報システム(GIS)を用いてウェブサイトで誰もが見られるようにフィードバックさ
れている(NPO 法人びわこ豊穣の郷 2005)。
COD 値は改善されたとはいえ、環境基準をクリアしていない。環境汚染源は、家庭や工場のような点
源汚染だけでなく、田畑や道路などの面源汚染などのように汚染源は至るところにある。よって、根
本的に生活環境・社会環境を変えていくことが迫られている。
ホタル保護条例の制定
この条例は、守山市住民の声を受けて 2001 年に守山市によって採択・施行された。これは豊穣の郷が、
住民の自然環境についての要望を届けることで、市行政の政策に対して貢献したといえるところでも
ある。豊穣の郷と守山市とのパートナーシップは住民のニーズや意識によって結ばれているのである。
105
住民の積極的な参加と行動
豊穣の郷の活動により、住民が自ら行動を起こすように内面の意識変化がもたらされてきたことは大
きな成果の 1 つである。例えば、工場廃水による地下水の汚染問題が浮上した際には、その近辺に住
む住民がそのことを市に届け出た。市内の別の地域では、コインランドリーの廃水が未処理のまま、
川に排水されていることを発見し、それを市に報告し、即座にコインランドリーのオーナーに、適切
な廃水処理を行うよう注意を促した。これを受け、オーナーも改善を試み問題は解決された。このよ
うに、以前は諸事に腰の重かった地方自治体が、住民の声に対して即時の行動をとるまでになった。
このような行動は、豊穣の郷が住民にそうするようにと説いて話して起こったものではなく、住民の
間に自然環境を良くしたいという意識が自ずと芽生えてきたからにちがいない。つまり、豊穣の郷の
活動は住民に役割や責任への意識を持たせただけでなく、それぞれの地域において自らが行動を起こ
さないと何も解決しないという高い意識を持たせたといえよう。
びわこ川づくりネットの結成
住民の自主的な行動と住民間の情報、知識、活動についての意見交換の場を提供するために「びわこ
川づくりネット」を結成した。このネットワークにおいて、情報の発信、交流、共有の手段を確立す
ることで、より多くの人に活動のノウハウを伝え、連携することができる。定期的にウェブサイトに
掲載し、更新がなされている。
以上のような活動成果が認められ、2005 年には、環境省から参加型湖沼流域管理事業の实施に向けた
湖沼流域のモデルの一つとして選定された。これは、長年にわたる豊穣の郷の活動が認められたこと
を意味しており、会員にこれまでの地道な活動を継続して行ってきたことへの誇りを抱かせ、大きな
励みとなった。会員間の士気は高まり、事業は赤野井湾流域内外の人々を巻き込んで实施された。こ
の事業には、会員だけでなく、大学教授、専門家、そして若い学生たちも深く関わった。産・官・
学・民の連携で、その得意分野を生かした事業展開は、将来へと続く一つの資産となるものであると
確信できよう。
活動から得られた教訓
豊穣の郷の活動は WLV の示す 7 原則の生きた实践例であるといえる。まず活動の出発点は、「ホタル
が乱舞する故郷の再現」という自然と人間との共生(原則 1)であり、また豊かな自然と郷土を子孫
に伝えたいという持続性への願い(原則 5)にある。また、实際の活動においては、現地に足を運ん
で水質調査やホタルの分布を調査し、できるだけ現状を科学的に把握することに務めてきた(原則
4)。これらの調査活動を長期にわたり、継続してこられた背景には、住民の熱意に加えて、それを支
える地元の大学・研究機関の指導・協力があることを忘れることはできない。また長年の实績と努力の
結果、住民と滋賀県、守山市などの地方自治体との間に一定のパートナーシップが出来上がってきた
ことも大きな財産である(原則 6)。
豊穣の郷のこれまでの活動から WLV の原則を实践していくうえで幾つかの貴重な教訓をあげる事が
できるが、特に以下のようなものが重要であると考えられる。
ビジョン・目標の共有
豊穣の郷の活動は、会員ならびに地元住民、さらに行政との協力で多くの成果をあげてきた。これを
可能にした一つは、「ホタルが乱舞する故郷の再現」というわかりやすい共通の目標にあると考えら
106
れる。出来るだけ多くの人が共鳴でき、かつそれが根本的な問題に直結しているようなビジョンや目
標を設定することが活動の成功に繋がる。
継続的な活動
目標として掲げてきた「ホタルが乱舞する故郷の再現」は、水質調査やホタルの生息や飛翔調査など
の地道な活動を続け、結果を誰にでもわかりやすく公表し、みんなで共有し施策に生かしてきたこと
が实を結んだ結果として、観賞ができるレベルまで到達したのではないかと思う。このように活動を
継続できたのは、会員間で徹底して話し合い、お互いに粘り強く相互理解を得るよう努力してきたこ
とがあげられる。また、住民と結果を共有することで、地域の水辺環境、水環境の保全は、「そこで
生活する住民が主体的に関わらない限り解決しない」という信念と、行政、学識者からのアドバイス
が得られる体制が形成されたことも活動の継続に大きく寄与している。
信念と信頼
これまでの活動を通して見てみると、信頼の好循環が生まれたといえるのではないだろうか。まず、
豊穣の郷のメンバーが自分たちの活動とその成果に対して自信を持てたことで、行政へのアピール力
が強まった。その自信は目には見えないが、信頼感を与えるだけの力を持っている。活動を遂行する
ことで、行政や学識者からの信頼を得て、それがまたさらに自信を持たせてくれた。協働相手である
守山市から次につながる信頼が得られることで、豊穣の郷はさらに自信を高めてこられたともいえる
のではないだろうか。
地域住民・行政との連携
豊穣の郷の活動は地域住民や自治会の協力によって支えられている。豊穣の郷の活動に意義と魅力を
感じ、自らの意思で入会してきた地域住民も尐なくない。2001 年に資金確保のために会費制を導入し
たが、多くの人は、会費を支払うことになってもそのまま会員として残り、活動を継続している。お
そらくは、団体として信頼しているからこそ残ってくれたのであり、地域住民にも認めてもらえてい
るという自信も得られた。また守山市の支援も大きい。豊穣の郷では、年間活動計画を作成し、その
中の市や市の予算に関連している活動計画を提案し、市議会に出される前に市の担当官への説明と協
議を行う。もちろんすべてが提案通りに受け入れられるわけではないが、市議会において認められた
活動計画に関しては、豊穣の郷へ委託され、活動のための委託金が出される。このように、豊穣の郷
は、市行政の資金的協力を得て、その事業運営を行っている。言い換えれば、豊穣の郷は、目的を達
成するための一つ一つのステップを、市行政からの事業を受託することで具現化しているといえるの
である。
今後の課題
関係機関との連携
これまでの活動で豊穣の郷が打ち出してきたものを、政策提言にまで高めていくことにも取り組みた
い。豊穣の郷は、まだ「赤野井湾の水環境改善」という目的を達成できておらず、赤野井湾内の水質
については依然として目立った改善が見られないという重要な問題が残されている。この問題解決の
ためには、さらに多くの団体や、県、国、大学、研究機関との協働のテーブルで検討することが重要
である。上・下流の連携や利害の対立する団体とも話し合い、妥協点を見つけ出すことも重要であろ
う。その中から有効な实証、实験が生まれてくる。これまでの活動を通して出てきた「なぜ水が汚れ
107
ているのか」、「なぜホタルがこの場に飛んでいるのか」などを追究・解明し、より具体的な数値と
して住民の目線で調べた結果を提出することも効果が高いのではないかと期待をしている。
財源基盤の確立
資金源は、会費・市の委託金がその 60~70%(2005 年度)を占めている。市からの委託事業などは、
やり甲斐もあり、その活動から大きな学びを得ている。そして、何よりも市との協働で地域住民にと
っても価値ある活動ができることはすばらしい(市からの補助金は、2004 年に NPO 法人格を取得して
以降、委託金へと形を変えて継続された)。しかし、市からの委託金だけに依存するのではなく、今
後は NPO として自主事業の模索等、多方面からの委託、助成等で財政的にも自立できるような取り組
みを検討することが急務である。また、事業評価に関するマニュアルを確立し、よりよい事業へと発
展させることが必要とされる。そのため、いままで以上にそれぞれの事業とマニュアルを持って企業
や財団などにアピールし、助成につながる評価を得るための努力を行っていくことが重要になる。
新たな NPO をめざして
卖なるボランティア団体ではなく、明確なビジョンを掲げてビジネス的戦略や計画、企画を行ってい
くことが、今後はさらに大きな意味を持ってくるのではないかと思う。しかし、この問題については、
豊穣の郷会員間での粘り強い話し合いと共通理解の確立が不可欠であろう。豊穣の郷はもともと地域
住民の有志が中心となって流域協議会から育ってきた団体である。新しい潮流を取り入れていく意識
をもつ会員がいる一方で、従来の活動に対するこだわりが強い会員が存在することもまた事实である。
今後は、従来の赤野井湾に軸足を置いたローカルな活動を続けつつ、更に発展していくためにこれま
での 10 年間の活動を総括し、これからの中・長期ビジョンを作る必要がある。そのために、役員や会
員間で明確な目標設定や今後の発展の方向性についての徹底した意見交換とその周知に努め、過去 10
年間のローカルな活動が、赤野井湾流域ガバナンス、琵琶湖流域、他の湖沼流域ガバナンスとして連
携できることも夢ではない。赤野井湾という小さな湾に投げた小石の波紋が琵琶湖に広がり、日本の
湖沼に伝わり、世界の湖沼と共有できる、これからの 10 年でありたい。
参考資料
財団法人淡海環境保全財団(2004)県外環境取り組み事例:市民参加型公共事業を目指して、特定非
営利活動法人アサザ基金、代表 飯島博、機関紙「明日の淡海」、vol.11、p15-18、大津市:財団法
人淡海環境保全財団
特定非営利活動法人びわこ豊穣の郷(2005)http://www.lake-biwa.net/akanoi/ [2005 年 12 月 25 日]
長尾是史(2005)びわこ赤野井湾―住民運動の生い立ち、季刉「環境研究」No.137、pp77-84、東京:
財団法人日立環境財団
豊穣の郷赤野井湾流域協議会(2002)「流域自治(経営)手法技術指針」大津市:滋賀県
守山市(2004)「守山市環境調査報告書」守山市
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世界湖沼ビジョン行動計画とデチェン湖を救う運動
Dongil Seo
Chungnam National University, Dept of Environmental Eng.
220 Gung-dong, Yuseong-gu, Daejeon, Republic of Korea, 305-764
E-mail: [email protected]
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要旨
韓国で 3 番目に大きな人造湖であるデチェン湖は錦江流域の中央部にある。そのため、デチェン湖は、
水源地域にある他の多くの貯水湖に比べて、流域の人間活動によって複雑な影響を受けている。デチ
ェン湖を救う運動(DLSM)は、2002 年にデチェン湖の水質とその周囲の環境を保全する目的で設立
された。DLSM は、湖の保全に取り組む韓国で唯一の非政府組織であり、事務局、政策フォーラム、
および湖周囲の 4 つの NGO から構成されている。DLSM は、湖保全の意識を高めるうえで中心的な役
割を果たし、デチェン湖の水質保全を支えてきた活動である。DLSM は、デチェン湖だけでなく、韓
国にある 18,000 以上の貯水池の保全のために WLV のメッセージを伝える大きな可能性を持っている。
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はじめに
錦江は、長さ約 500km の韓国で 3 番目に長い川である。デチェン湖は 1981 年に建設された韓国で 3 番
目に大きな人造湖であり、流域は 4,134km2、水量は 15 億トンである。湖(ダム)は、下流域の洪水防
止、年間 24 億 kW の電力、および約 400 万人の流域住民や産業のために必要な水を提供している。デ
チェン湖は錦江の中流にあるが、他の人造湖の多くはもっと上流にある。デチェン湖流域は、韓国の
中では森林が多く、比較的人口の尐ない地域であるが、流域内では人間活動が拡大し続けており、湖
の水質の低下を招いている可能性がある。
湖の直面する問題
デチェン湖の水質に関する問題は次のように集約される。
1.
流域で拡大する人間活動による汚染の進行
2.
夏季に繰り返される藻の増殖
3.
社会的な価値の変化に伴う水質に対する要求の高度化
全般的な水質
全窒素(TN)および全リン(TP)濃度は、1996 年に突然増大した。1999 年以降は改善しているが、
全窒素濃度は、まだ 1991 年の状態まで回復しておらず、2006 年においても、まだ農業用途に使用可能
な韓国水質基準上限の 1mg/ℓよりも高い。全リン濃度およびクロロフィルa(Chl-a)濃度は、毎年夏
に周期的なピークを示す。このことは夏の季節風の影響を強く受けていることを示している。
1991 年に観測が始まって以来、COD 濃度は増大し、BOD 濃度が減尐している。この状況は、微生物
によって分解される有機物は減尐しているものの、全体として有機物濃度レベルは増大していること
を物語っている。またこのことは、一部の情報だけに頼ると湖の水質傾向が簡卖に誤って解釈される
ことがあることを示している。BOD は韓国における一般的な水質を示す代表的な指数であり、特別な
注意が必要である。
109
富栄養化
過度の植物プランクトンの増殖、藻類の異常繁殖(2~3 ヶ月間続く)が、毎年、繰り返し起こってい
る。過度の増殖は湖の景観を損なうだけでなく、湖の生態系に悪影響を及ぼす。湖で富栄養化が進む
と、飲料水の水質を確保するための水処理場の運転コストと労力が増大する。藻の増殖量と発生期間
は、流入する水の質、量、貯蔵水の量、温度、日光などの影響を受ける。汚染の流入防止とダムの運
転は、藻の増殖を抑えるための 2 つの重要な要因であるが、藻を制御するために貯蔵量を調整するこ
とは一般には行なわれない。汚染の流入防止は流域全体で取り組む必要がある。2002 年に制定された
全廃棄物負荷管理法は、流域からの汚染負荷を減らすのに役立つだろう。
意識の向上
国の生活水準が向上するにつれて、良質の水に対する要求が利用者の間で高まってきた。このため既
存の水資源の適切な管理が以前にも増して重要になってきた。多くの非政府組織がデチェン湖の水質
保全のために、独立に、または集団として活動している。デチェン湖を救う運動(DLSM)、大田にあ
る緑の韓国、韓国環境活動連盟などが代表的な非政府組織である。
さらに、デチェン湖の流域の地方自治体や住民の湖の水質保全に対する関心が高まり、保全活動に参
加する人数が増大している。DLSM は、デチェン湖の周囲の人々をつなぎ、活動を組織していくうえ
で中心的な役割を果たしている。
戦略と行動、およびそれらの成果
デチェン湖を救う運動(DLSM)の設立
デチェン湖を救う運動(DLAM)は 2002 年に韓国水資源公社(KOWACO)の資金で設立された。
DLSM の主要な目的は、デチェン湖とその周辺の水質と生態系を守るために、住民活動のための情報
提供と権限付与を進めることにあり、そのために、住民、NGO、中央・地方の行政府が協力して、研究、
モニタリング、情報(収集)、教育を行なおうというものである。DLSM の主要な活動は、科学的な
研究活動の支援、教育や宠伝活動の組織化、グループ活動のネットワーク作り支援、環境に優しい農
業活動の促進などに集約される。以下に示すような活動が DLSM によって行なわれた。
韓国では多くの NGO が環境問題解決のために活動しているが、DLSM は、湖沼問題、なかでもデチェ
ン湖の問題に取り組んでいる唯一の NGO である。DLSM は、現地の環境 NGO、現地の行政や住民を
効果的に結びつけ、スタッフは活力ある活動を続けるために頑張っている。DLSM はデチェン湖の問
題に取り組むなかで、韓国の他の NGO 活動に比べて、環境保全活動を NGO 中心から住民中心の活動
へと転換することに成功した。
デチェン湖を感じ、愛する運動
この運動は、デチェン湖およびその周辺を訪れ、その環境、文化、歴史を参加者に経験してもらおう、
というものであり、毎月、小学 4 年生から大人にいたる 40~80 人の 1~2 つのグループを対象に行な
われている。この運動は 2005 年 4 月に始まった。
デチェン湖万物復帰祭
DLSM は住民と利害関係者の交流を支援している。このプログラムでは農家と消費者の間で農作物の
直接販売が奨励されている。この祭りは毎年秋に行なわれ、文化的催し物、地域レクリエーション、
110
環境にやさしい農業製品の販売、写真展などが行なわれる。この祭りは DLSM の主要行事として、流
域の大多数の人が参加するようになった。
デジカメ写真コンテスト
2006 年 DLSM は、デチェン湖のデジカメ写真のコンテストを主催した。このコンテストの開催により
多くの人がデチェン湖を訪れ、デチェン湖に対する人々の認識が高まることを期待している。
住民による錦江流域のモニタリング活動
デチェン湖流域の地方自治体(Boeun、Okcheon、Youngdong)は教育と研修を行い、数百人による住
民の錦江のモニタリング活動を支援した。2004 年には 84 人の住民が 4 月から 11 月にわたって流域の
小川 180 ヶ所で水質データを採取した。
デチェン湖アジェンダ 21
DLSM は、デチェン湖の長期的な予防的対応を進めるべく、デチェン湖アジェンダ 21 を策定する特別
委員会を結成した。
政策フォーラム
DLSM の執行委員会は、地域の NGO と専門知識を持った諮問グループで構成されている。後者は政策
フォーラムとも呼ばれ、住民代表、地方自治体職員、学校・各種機関からの専門家がそのメンバーであ
る。メンバーは定期的に会合を持ち、デチェン湖の問題を討議し、対策の評価を行なう。
政策フォーラムの目的は以下のようなものである。
1.
DLSM の目標と役割の策定
2.
デチェン湖の問題に対する可能な対策の策定
3.
環境に優しい町作りのモデル開発
DLSM は 2002 年に設立され、住民、利害関係者と地方自治体をつなぐとともに、デチェン湖における
良きガバナンスシステムとして中心的な役割を果たしている。
湖沼管理活動の成果
DLSM は、NGO、地方自治体、住民を結びつけるのに有効であった。また管理・保全活動を策定・实
施するのに有益な活動を行なってきた。DLSM はどの政府機関にも属していないので、一般住民との
交流が容易である。DLSM によって関係者グループの間で認識が進み、この取り組みは成功したと言
える。
得られた教訓
原則 1:人間と自然との調和した関係は、湖の持続可能性にとって不可欠である。
DLSM は小学生を対象にした「デチェン湖を感じ、愛する運動」、地域住民を対象にした「デチェン
湖万物復帰祭」、「デジカメ写真コンテスト」などの教育的で楽しい催し物を開催して人々の参加を
促してきた。人間と自然との調和的な関係を築く上で DLSM の役割は欠かせない。
原則 2:湖の流域は、湖の持続的な利用のための計画・管理の論理的出発点である。
デチェン湖の流域にある地方自治体(Boeun、Okcheon, Youngdong)は住民による河川や小川のモニタ
リング活動を支援している。このプロジェクトは DLSM が支援している最大のものであるが、これま
111
でに採集されたデータが实際の湖沼管理に有効活用されるに至っていない。この原因は主に DLSM の
資金およびスタッフ不足にある。
原則 3:湖の環境悪化の原因を防ぐための、長期的な予防的対応が必須である。
DLSM は、デチェン湖の長期的かつ予防的な対策に役立つ「デチェン湖アジェンダ 21」を策定するた
めの特別委員会を設立した。これは地域ビジョンの 1 つであり、WLV の原則を紹介する第 1 のステッ
プとして良いタイミングで設立された。
原則 4:湖沼管理政策の立案と決定は、適正な科学と、入手可能な最良の情報とに基づいて行なうべ
きである。
DLSM の執行委員会は、現地の NGO と専門家の諮問委員(政策フォーラムと呼ばれる)からなる。政
策フォーラムのメンバーは、地域のリーダー、地方自治体の代表、大学・研究機関の専門家などであ
る。同フォーラムは、DLSM にとってデチェン湖に関する情報を適正な科学に基づいて統合できる場
として必須のものである。しかしながらその機能が最大限に活用されてはおらず、DLSM はこの役割
の強化、あるいはこの方向に向けた努力を強力に進める必要がある。DLSM は、その政策フォーラム
の中に、デチェン湖保全に興味を持ち、かつ科学的装備と能力を有する研究機関やグループを入れる
べきである。
原則 5:持続的利用のための湖の管理では、現世代および将来の世代の需要と、自然が必要とする量
とを合わせ考慮しつつ、競合する湖沼資源の利用者間の紛争を解決することが必要である。
デチェン湖は、デチェン多目的ダムが 1981 年に造られたときにできたものである。このことは、デチ
ェン湖が洪水防止、飲料水・灌漑用水・工業用水、および発電用の貯水など、多くの利用目的を持って
いることを意味する。最近、下流域の地方自治体から水質管理のために、湖からの放流を増大するよ
う要求があった。湖の水による希釈は、関連地域の水質を管理するための 1 つの方法であるが、この
手法は、全廃棄物負荷管理法が施行され、許容廃棄物負荷量によって地域の発展が制限されるように
なると一層微妙な問題になる可能性がある。
原則 6:重要な湖沼問題の把握と解決のためには、住民およびその他の利害関係者の有効な形での参
加を奨励すべきである。
韓国では多くの NGO が環境問題の解決のために活動している。DLSM は韓国で唯一の湖沼問題、なか
でもデチェン湖の問題に特化した NGO であり、その存在はユニークであり、かつ必須なものとなって
いる。DLSM の活動は、その組織的な特性のために、NGO 同士のネットワーク活動に依存している。
彼らの活動に市民が自発的に参加するよう呼びかけることが必要である。また、利害関係者の 1 つで
ある流域の地方自治体の参加ももっと積極的に呼びかけるべきである。これらは、宠伝と教育活動を
通じて達成できる。
原則 7:湖の持続的な利用のためには、公平性、透明性、すべての利害関係者への権限委譲を基礎と
した良好なガバナンスが不可欠である。
DLSM で最も重要なことは、デチェン湖集水域全体の統治システム作ることである。DLSM は、他の
韓国の NGO の場合とは違って、デチェン湖の問題に関する環境保全活動を NGO 中心から住民中心に
変えることに成功した。
112
实践するのが最も容易な原則:原則 4
 どんな計画を立てるときも入手可能な情報と科学がその基礎になっている。
 デチェン湖ではもっと多くのデータを得るために多くの調査・研究活動が行なわれている。
实践するのが最も困難な原則:原則 6
 DLSM の能力・資金・人材は限られている。
 湖周囲のすべての人に関心を持って参加してもらうことは困難である。
 DLSM の存在やその活動についてまだ知らない人が多くいる。
その他の教訓
DLSM は、NGO、地方自治体、住民の連携を進めるために活動してきた。この必要性は充分認識され
ているけれども、DLSM は、卖なる NGO から、湖に関連した問題を有効に解決するための環境管理の
専門家集団へと成長していく必要がある。
提言
1. DLSM は、資金的に独立し自分たちの力をつける必要がある。現在の主要な収入源は、KOWACO
(韓国水資源公社)のみであり、会員の拡大や他の活動機関との連携を進めるべきである。
2. DLSM は、湖の管理の専門家からもっと貪欲に支援を求める必要がある。このために、必要な人
を招待したり、また学会にも参加するなどして、関連学会とのパイプを拡げることも有効である。
3. DLSM は、自らの活動をもっと効果的に宠伝する必要がある。また人々は、DLSM の活動をもっ
とよく知り、有意義に参加する必要がある。
今後の活動
2002 年韓国政府は、国内の主要な水資源の水質を管理するために、新たな法律「全廃棄物負荷管理法」
を通過させた。この法律によれば、水資源に流れ込むすべての流域で、地域ごとに設定された水質基
準に合格する必要がある。したがって、地方自治体と住民との協力がこれまで以上に重要になってく
る。法的な枞組みが整備されており、それによって流域卖位での廃棄物負荷対策のために資金が手当
てされるようになれば、韓国は、WLV の原則 2 の良い事例を提供することができるだろう。
DLSM は、NGO、地方自治体、住民の連携を効率よく進めてきた。またその多くの活動は、保全活動
を計画し、实施するのに役立つであろう。
DLSM は、デチェン湖アジェンダ 21 の策定を進めている。WLV は 1 つの手本となるものであり、地
域ビジョンの作成に貢献するものである。
DLSM は、韓国の中で湖の保全を目的に活動している唯一の組織である。適切なビジョンと綿密な計
画に基づいた DLSM の成功事例は韓国の他の多くの湖の管理の良い手本になるだろう。
謝辞
著者は、この報告を作成するにあたり数々の支援ならびにデータを提供してくれた「デチェン湖を救
う運動」事務局のクンヒー・リー氏およびスーヨン・オー氏に感謝する。
参考文献
1) Dongil Seo, “Daecheong Lake Saving Movement A Case Study of Republic of Korea”, International
Symposium on Integrated Resource Management, Lakes as the Initial Point, ILEC, Japan, 2004.
2) DLSM (Daecheong Lake Save Movement) <http://www.daecheoNGOr.kr (in Korean)>, 2006.
3) National Institute of Environment Research, Korea, Water Environment Information System,
<http://water.nier.go.kr/weis/ (In Korean)>, 2006.
4) Green Korea Daejeon Home Page (in Korean) <www.greendaejeon.org>
5) Photos obtained from Secretariat of Daecheong Lake Save Movement, 2005.
113
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
タウポ湖:問題解決に向けた取り組みとその展開
Doug Gartner
Lakes and Waterways Incorporated, C/O 67 Forest Road, Taupo, New Zealand
E-mail:[email protected]
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
要旨
本報告は、集水域を含むタウポ湖の管理に向けて实施された取り組みをまとめたものである。これら
の取り組みは社会的な考察から出発し、草の根、地域レベルで設定された。それぞれの地域でタウポ
湖のもつ住民にとっての価値を確認し、それに基づいて目標が定められた。
1997 年にタウポ湖の重要な価値が初めて住民の間で認識されて以後、主要な利害関係者を含む地域社
会の全ての人が企画立案に参加するようになった。3 年間の科学プロジェクト「タウポ湖集水域の統合
的持続的開発戦略」が实施され、さらに 2004 年後半にはタウポ湖の包括的な「行動計画」が発表され
た。
1997 年は「タウポ湖の試み」の始まりであった。2004 年後半にはタウポ湖とその集水域のための包括
的な「行動計画」が作成され、活動が始まった。2006 年中頃になると、現地、周辺地域だけでなく、
先住民族である iwi Ngati Tuwharetoa の人々が考える「タウポ湖の価値」を保護することを重点に多く
の取り組みが進行した。
タウポ湖を保護する道のりは、この 2~3 年で非常に進展した。今後も今まで同様に進歩的で生産的な
進展があることが望ましい。これまで参画してきた地域住民、政府機関、研究機関を含むすべての利
害関係者の決意と、前進のための道標となる「持続可能な開発」の原則によって、住民が確認したタ
ウポ湖の価値を守っていける可能性は高い。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
はじめに
タウポ湖の概要
タウポ湖は、一連の噴火活動(最近のものではおよそ 1800 年前)によって造られたもので、約 60km3
の土・岩・泥が吹き飛ばされ、大きな噴火口が残ったものである。30 本以上の川や小川が湖に流入し、
ワイカト川が唯一の流出口である。
湖の正式な名前は「Taupo-nui-a-Tia(Tia の偉大なるマント)」であり、Arawa Canoe 民族の偉大な戦
う酋長の一人である Tia が発見したと信じられている。タウポ湖は、幅 30km、長さ 40km、最深部は
約 160m で、59km3 の水を擁している。海抜は流入量や水力発電の運転状況にもよるが、355.85m から
357.20m の間である。タウポ湖の面積は 622km2 で、その集水域は湖のおよそ 5 倍の面積がある。タウ
ポ湖は、貧栄養湖で栄養分や藻類のレベルは低い。青く透き通った湖で、ニュージーランドの最大の
湖である。
1997 年「タウポ湖の試み」
1990 年代初頭には、タウポ湖の管理目的について明確な信念はなかった。湖に法的責任を持つさまざ
まな機関や地元の企業は、お互いの仕事を十分知らず、統合的な形で機能していなかった。さらに地
域住民が、湖の管理計画の作成に直接参加することもほとんどなかった。湖に関しては多くの研究が
行なわれていたが、その結果が集水域の総合的な政策を決めるために利用されることはなかった。し
114
かし、住民の間には湖の環境が悪化しているという共通の認識があり、科学的な研究結果はそれを支
持しているようにみえた。
1997 年タウポ地区会議は地区の 10 ヵ年戦略計画を作成した。それは地域のさまざまな分野間のパート
ナーシップによって策定されたもので、同地区を現在・将来の世代のために望ましい居住地にしよう
ということに力点が置かれた。この計画は新しい出発であり、1992 年のリオデジャネイロ地球サミッ
トの持続可能な開発の原則に基礎を置く「試み(取り組み)」であった。この計画の中では特に以下
の点に注意が払われた。

長期的な取り組みをすること

予防的対応に力点を置くこと(予防は治療に勝る)

全ての利害関係者の協力関係を進展させること

自然環境、人間、経済の間の相互依存性を認識すること

トップダウンでなく、ボトムアップの取り組みをすること

国家的および国際的な展望をもちながら、地域で活動すること
1997 年に始まった取り組みを通して、タウポ湖とその広域社会に利益をもたらす多くの建設的な変革
が实施された。本報告ではこれまでに行われた活動と得られた教訓および今後の展望を述べる。
タウポ湖が直面している問題
課題と問題の明確化
1997 年に取り組みが始まり、地域のほとんどすべての分野の人が参加して「湖と水路のための行動グ
ループ」(LWAG:Lakes and Waterways Action Group)が結成された。それは湖の将来に対する人々の
不安の表れであった。この運動には、法的責任を有する組織、水力発電会社、環境関連の協会なども
参加した。LWAG が最初に取り組んだのは「タウポ湖協定」の作成であり、そのなかで以下に示すよ
うな地域社会が重要と考える 14 のタウポ湖の価値が定められた。
i.
文化的価値
viii.
マス釣りの楽しみ
ii.
透き通った水
ix.
レクレーションの機会
iii.
安全に泳げること
x.
なぎさ保存地区
iv.
雑草がない湖
xi.
自然保護区域
v.
安心して飲める水
xii.
素晴らしい景観
vi.
良質な水の流入
xiii.
地質学的な特質
vii.
豊富な動植物
xiv.
商業的な機会
2001 年には「タウポ湖協定」の作成をうけて科学プロジェクトが開始され、地域で特定された 14 の価
値(地域価値)を業際的・科学的な取り組みに結びつけ、「タウポ湖集水域の統合的な持続的開発戦
略」が策定された。
この科学プロジェクトにおいては、重要な課題、地域の価値に対する脅威や危険を明らかにすること
に重点が置かれた。130 以上の脅威が特定され、性質や影響によって 6 つのカテゴリーに分類された。
これまでに 4 つの脅威群に対して比較リスク評価がなされた。比較リスク評価によって湖に対する危
険と脅威の順位付けがなされ、取り組みまれるべき湖の保全活動が明らかになった。専門家は、脅威
の程度を相対的に評価し、重大のものからランク付けした。下の表は地域価値を脅かす重大な脅威を
示している。
115
地域の価値に対する重大な脅威(2020 Taupo-nui-a-Tia 行動計画より)
生態系の健全性
水質汚染をもたらす原因
 農業に起因する富栄養化(農業排水の湖への流入)
 大きな火山噴火からの堆積物(灰)
 下水に起因する富栄養化
 生息地や望ましい種の喪失
 動植物の害虫による固有植生や望ましい魚種への脅威(競合)
 新しい種の導入による生態系プロセス(食物連鎖や種の分布など)への影響
 富栄養化によるマスの成長抑制と個体数の減尐
人の健康
バクテリアなどの病原性微生物の発生場所
 屋上タンク‐鳥や袋ネズミの糞を含む
 湖水‐野鳥、浄化槽、パイプ破損や雤水の影響
 地下水‐地表の(汚染水)漏れ(不十分な井戸水源の保護)
 湖水‐船からの下水放出
浜辺のゴミ
 釘やガラスの破片‐傷感染症を引き起こす
毒性藻類
 湖水‐飲料水水源の水質低下
化学物質
 地下水‐汚染に敏感な人々に対する化学汚染(ヒ素、ホウ素、モリブデン)
 食物飲物‐幼児の健康を損なっている高濃度の硝酸塩
生活の質
 水の下水汚染
 有毒な藻類
 水質の低下
 沿岸の雑草繁殖
 新規分譲の場として不適当
 侵入性の害虫と雑草
 タウポ湖畔の乱開発
 湖への出入りに関する法規制の強化
 窃盗と公共物破壊
 浜辺のゴミ
 視覚公害
 騒音公害
 固有な地質特性の破壊
Ngati Tuwharetoa
 Ngati Tuwharetoa 地区内の天然資源管理に関する行政機関の役割と責任の混乱
 Ngati Tuwharetoa 地区内の天然資源管理に関する Ngati Tuwharetoa と政府機関との協力関係の不足
 tangata whenua の知的・文化財産権の保護が必要
 他の集水域からの水の混入による mauri への悪影響
 生活排水や雤水の湖への流入
 hapu と tribal wahi tapu を確实に保護することの必要性(彼らの实際の生活や居所を kaitiaki には秘
密にしておくこと)
 wahi tapu 地域の状況や状態に関する知識不足
 土着種を収穫するときの役割と責務についての混乱(この混乱によって mahinga kai の保護が充分
にできなかった)
 鉱物発掘地域における関係機関の Crown Minerals 条例 1991 および資源管理条例 1991 の場当たり
的な实施
地熱資源の管理は nga hapu o Ngati Tuwharetoa とは反対に国家機関によって管理されている。
116
このプロジェクトは、iwi、地域社会、科学の 3 つのグループで展開された。初めの 2 年間で多くの重
要な出版物が各グループから刉行された。これら出版物の全リストは、2020 Taupo-nui-a-Tia ホームペ
ージで見ることができる(www:taupoinfo.or.nz)。
戦略・活動とその成果
活動計画の立案
「活動計画」の作成が科学プロジェクトの主な成果であった。「活動計画」は、確認された価値を守
り、それをさらに改善する手段として取られる一連の活動を定めたものである。これらの活動は、主
要 な 法 的 責 任 機 関 ( 湖 底 の 所 有 者 で 保 護 者 ( kaitiaki ) の 責 務 を 有 す る 現 地 の 固 有 民 族 で あ る
Tuwharetoa、水質、土壌、水保全および土地利用規制などの責務を有する現地・地方協議会、タウポ
湖の港湾管理と自然の動植物の保全、固有林の保全などに責務を有する 2 つの中央政府機関)を対象
にしたものである。「活動計画」は、個々の活動に対してその成果に責任を持つ 1 つの主要な法定機
関を指定している。また活動の成果に貢献する他の機関も定められている。
監視活動
各機関は、毎年、实行しようと思う活動を定め、その活動に必要な時間と資源を確定する。彼らは前
年に行なった活動を報告し、その情報は市民が利用できるようにする。
科学プロジェクトの策定と完了を監督した「2020 Taupo-nui-a-Tia 共同管理グループ」は「活動計画」
の成果を監視する責任を負っている。本年(2006 年)は「活動計画」の实施 2 年目にあたっている。
WLV の 7 原則は Taupo-nui-a-Tia 活動計画を作成する時にどのように適用されたか?
行政の 3 つのレベルの決意と、住民主導の取り組みによ
人間と自然の関係は調和が取れて って「活動計画」が作成された。この事实は人々が湖と
原則 1
いるか?
その集水域の環境を守るため協力したということの明白
な証拠である。
集水域は(活動の)出発点になっ 湖の流域は地域住民にとって最も重要であり、このプロ
原則 2
ているか?
ジェクトの出発点である。
「タウポ湖協定」と「タウポ湖集水域のための統合的な
持続的開発戦略」の科学プロジェクトは、「予防」を根
湖务化の原因を防ぐことを目指し 本原則にしているが、「活動計画」の实施に責任を持つ
原則 3
た長期予防策を实施しているか? 人々とそれを支援する人々が、「持続可能な開発」を重
要な原則の 1 つとして予防対策を継続的かつ重点的に实
施し続けることが必要である。
湖管理のための政策立案と意思決
科学と最良の入手可能な情報は、この取り組みの基礎で
原則 4 定は、適正な科学と最良の入手可
あって、将来もそうあり続ける。
能な情報に基づくべきである
湖を持続的に利用するための管理 湖に流入する窒素のレベルを減らすための現在の取り組
においては、現世代および将来の みにおいては、土地利用の改変をはじめ、多くの既存の
世代の需要と自然が必要とする量 慣行を変える必要がある(農業、汚水の処理、都市開発
原則 5
とを考え合わせ考慮しつつ、競合 のあり方など)。この 2 年間に解決へのプロセスが進展
する湖沼資源の利用者間の紛争を している。困難で犠牲が大きいかもしれないが、解決に
解決することが必要である。
向けて進んでいる。
現地、地域、国内のすべての分野の人が、湖を保全しよ
住民、その他の利害関係者は、タ
うとする運動に参加している。LWAG は、タウポ湖の保
原則 6 ウポ湖を保全するプロセスに参加
全対策に参加している多くの利害関係者の一例に過ぎな
しているか?
い。
117
原則 7
公正さ、透明性および全ての利害
関係者の権限付与に基づく良好な
ガバナンスは、タウポ湖で機能し
ているか?
すべての行政レベルが「タウポ湖集水域の統合的な持続
的開発戦略」の調印者である。彼らの活動は、自分たち
の年間計画書に記されるだけでなく、活動の成果は、年
間を通して監視され、報告される。
現在、「行動計画」で特定された多くの活動が实施されている。タウポ湖の保全活動の 1 つに、最も
重要な地域社会の価値の 1 つである「澄んだ水」に基盤を置いているものがある。その活動は、タウ
ポ湖に入る窒素のレベルを 20%減らすことによって、水の透明度を守り、水質を向上させることを目
指している。「行動計画」のこの価値に関する部分の抜粋を下に記す。
地域社会の価値「澄んだ水」
澄んだ水と高品質な流入水に対する大きな脅威

農業(湖に流入する排水)と下水に起因する富栄養成分
健康への影響

湖水中、野鳥、下水処理浄化槽、パイプ欠陥、雤水とボート汚水の中の病原体

河川、小川、地下水の中の病原体(例えば浄化槽タンクからの漏れに起因)

河川、小川、地下水の中の化学物質(例えば高濃度の硝酸塩やスプレー浮遊物)
生活の質への影響

下水汚染

有毒な藻類

水の透明度の低下

湖岸沿いの雑草繁殖
「活動計画」では、これらの価値を守っていくために、どの機関がどのような対策を行なっているか
を記録し続けることになっている。湖に入る窒素量を 20%減らすために、現在行なわれている主な活
動の概要を以下に示す。

過去 2 年に開催された地域の全分野(の人)が参画した会合で以下のことを確認した。

湖水の透明度が時とともに低下した。

湖水の健全性は危機に瀕している。

湖への窒素流入は主として農業活動の結果であるが、雤水の流入、汚水の漏出、全般的な都
市化の進行もその原因である。

現在起きている湖水の透明度の低下を食い止め、2001 年のレベルに戻すためには、湖に入る
窒素量を 20%減らすことが不可欠である。

湖周囲の土地から湖に流入する窒素量の減尐を目的に、15 年の期間にわたる 8 千 2 百万ニュージ
ーランドドル(5 千万米国ドル)の基金が設立された(湖の周囲の土地を買い取とって窒素規制を
設け、将来の土地利用者にその土地を再販する)。全体の基金のうち 3 千 7 百万ニュージーラン
ドドルがニュージーランド中央政府により提供され、残りは地方・地域議会が拠出することにな
っている。これまでに 3 百万ドルが地方・地域議会から集まった。

この 8 千 2 百万ドルの基金を管理運営するために「タウポ湖保護信託管理機構」が設立された。

地方政府では、土地利用によって漏れる窒素量を制限するために暫定的な規則が整備されつつあ
る。
118

地方議会は、現在の窒素排出レベルを減らすために、既存の下水処理場の性能向上を図るための
計画と予算を計上した。2 百万ドルを掛けて性能向上が図られ、処理場からの窒素排出量は大幅に
減尐した。

地方議会は、農業地域における宅地造成の急速な拡大を抑制するために「地区開発管理戦略」を
策定した。都市開発を特定の地域に制限し、これらの地域内の開発には下水処理プラントによる
高い下水処理基準の達成を条件とする。このようにして排出汚水を処理し、窒素放流を抑制する。
もしくは、個人の住宅は下水処理基準のより低い農村地域に建てられる。
その他にも湖に流入する窒素を減らすための多くの取り組みがあるが、上記のものが主要なものであ
る。窒素流入を減らすために行われているこれらの活動によって、湖の水質の改善効果が見られる
(監査結果から十分な証拠が出てくる)までには何年もかかるだろう。
WLV の原則は、これらの取り組み全体の事例に多かれ尐なかれ適用されるものである。しかし、最尐
のコストで所有地を開発しようとする土地開発業者と、タウポ湖への窒素流入を 20%減らすことを必
要としている多くの地域住民との間には緊張関係がある。一般的に、土地開発業者の目的と環境保護
の間には葛藤がある(原則 1)。地方および中央政府には、両者の間に立って開発の必要性と未来の
世代のために天然資源を保護する必要性とのバランスを取ることが求められている(原則 5)。
管理活動の成果
1997 年に「タウポ湖の試み」が始まる前には、タウポ湖を管理する目的についての明確な信念はなか
った。現在、9 年を経て、地方・地域の住民は、中央政府や全ての利害関係者と一緒になって、タウポ
湖を守るために、更なる悪化を防ぐためだけでなく、すでに生じた务化状況を覆すべく努力している。
これまでの保全管理活動の主な成果は以下の通りである。

合意した目標に向かって、全ての意思決定機関が共同して働くようになった。

住民が定めた湖の価値を守るために、具体的な活動と一定の責務を有する「活動計画」が作成さ
れた。

「行動計画」で定められた多くの「活動」が開始された。
得られた教訓
教訓 1
最初に定めたビジョンを見据えて活動を継続することは、その過程で人材が代わることがあるため、
どのプロジェクトにとっても困難な挑戦課題である。設定したビジョンに集中して取り組みむために
は、「一連の『命がけの取り組み』」と呼んでいる、重要課題が見出されるか、あるいは創造され続
けられる必要がある。「タウポ湖保全」ビジョンの場合、「科学プロジェクト」を監督したグループ
に、「行動計画」の实施監査という新しい役割を続けてもらうことが重要であった。そのとき、その
グループには、主要な業務が「行動計画」の監視ということであっても、「タウポ湖保全」というも
ともとのビジョンを前進させる責務もあるということを認識してもらう必要がある。
教訓 2
もう 1 つの挑戦課題は、それが適切であるかぎり、出発点となったプロジェクトの基本原則を絶えず
思い起こし、適用し続けることである。「タウポ湖保全」プロジェクトの場合には、1992 年リオデジ
119
ャネイロ地球サミットの「持続的な開発」の原則がこれにあたる。「2020 Taupo-nui-a-Tia 共同管理グ
ループ」は、「行動計画」の实施責務を担ってから、この原則に立ち返ることはなかった。今後の検
討課題の 1 つである。
いかに、効果的に WLV 原則を適用/運用し、原則から行動に変換するか?
人々に健全な湖沼自然環境を保全・維持するすべを知ってもらうためには、教育と参画が主要な方法
になると思われる。学校として「科学プロジェクト」や「保全の日」に参加したり、教科に環境の科
目を取り入れることは、地域住民全体の持続可能な開発、WLV の原則、さらに湖保全活動に対する理
解を深めるのに効果的な方法である。
今後の活動
行動計画の实施と監査はタウポ湖の今後にとって重要な課題である。次の重要な課題は、将来の計画
を立てることである。これの計画立案には、長期にわたる湖の健全性の保全につながるように、政策
決定プロセスに地域の人々が参画することが必要である。また、情熱とリーダーシップの手腕を持っ
た人々がいて、湖保全の取り組みに参加するように絶えず地域住民に動機付けしていくことも必要で
ある。
最後に、最も重要なことだが、我々は地域社会として科学者を大切にし、地域と世界の湖沼を保全す
るための彼らの大きな貢献に感謝する必要がある。彼らの参加とリーダーシップは、我々の湖と湖を
大切にする持続可能な地域社会の未来を形成するのに大きな役割を果たし続けるだろう。
謝辞
タウポ地区のすべての住民、ニュージーランド全土の関係者など、多くの人々による近年の努力がな
ければ、タウポ湖を保全するための一連の取り組みは進展し得なかったであろう。
参考資料
- A Review of current information on Taupo Community Values. Prepared for 2020 Taupo-nui-a-Tia,
Environment Waikato. Huser, B(2002).
- Human Health Risk Assessment. Prepared for 2020 Taupo-nui-a-Tia, NIWA/Environment Waikato: McBride,
G.(2003).
- Ngati Tuwharetoa Comparative Risk Assessment report. Prepared for 2020 Taupo-nui-a-Tia by Maria Nepia,
Ngati Tuwharetoa Maori Trust Board: Ngati Tuwharetoa.
- Quality of Life risk assessment. Report prepared for 2020 Taupo-nui-a-Tia, Environment Waikato: Stewart, C.,
Donaldson,C and Pearson, J(2004)
- www.taupoinfo.org.nz: 2020 Taupo-nui-a-Tia website.
- 2020 Taupo-nui-a-Tia Action Plan, An Integrated Strategy for the Lake Taupo Catchment: Taupo-nui-a-Tia
2020.
- www.taupo.govt.nz: Taupo District Council website.
- www.ew.govt.nz: Waikato Regional Council (Environment Waikato) website.
120
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ビジョンから行動へ
ラグナ湖:制度の充实と地域社会参加プロジェクト
Adelina C. Santos-Borja
Chief, Research and Development Division, Laguna Lake Development Authority
Rizal Provincial Capitol Compound, 1903 Pasig City, Philippines.
Email address: [email protected], [email protected]
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
要旨
WLV の行動への呼びかけは、湖沼流域の資源に関与しているあらゆる部門にとっての課題である。
2004 年、フィリピンにおける唯一の湖沼管理機関であるラグナ湖開発局は、世界銀行とオランダ政府
から資金提供を受けて、湖の流域とその集水域の環境を改善し、持続可能な管理を实現することを目
的に、ラグナ湖に関する制度の充实と住民参加を促進するプロジェクト(LISCOP)と呼ばれるプロジ
ェクトに着手した。なかでも重要な目的は、湖流域の資源管理や保全に向けて地域社会の参画を一層
促し、参加型のプロジェクト作りや地域に密着した環境プロジェクトを实施することによって、集水
域の湖利用者の行動を変えることにある。このプロジェクトは、ラグナ湖環境活動計画(LEAP)とい
うプロセスを用いて实行されたが、この方法はさまざまな利害関係者の参画を強化・制度化するのに
有効なツールであることがわかっている。LISCOP は WLV の 7 原則を行動に移すために必要な対策を
要約している。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
はじめに
ラグナ湖流域は、首都マニラを含む 6 つの省にまたがる 24 の集水域に広がっている。その地域は、14
の都市と 51 の町を代表する 61 の地方自治体(LGU)からなっており、人口はおよそ 1300 万、人口増
加率は 2.3%である。湖は、フィリピン群島の 3 つの主要な島の中で最も大きいルソン島の中にあり、
集水域全体がラグナ湖地域となっている。
通常、ラグナ湖と呼ばれているこの湖は、集水域が多様で、社会経済・政治的にも重要であり、また
湖沼流域管理機関としては比較的成熟したラグナ湖開発局(LLDA:Lake Laguna Development Authority)
があって、保全と開発への取り組みが進んだ湖の 1 つであることなどから、しばしば事例研究の対象
となるアジアの湖の一つである。LLDA の経験と 37 年間の教訓について、ナイロビ、ケニアで開催さ
れた第 11 回世界湖沼会議において ILEC によって発表された Lake Basin Management Initiative Report
(ILEC、2005) の補足版(電子版)のなかに総合的なレポートが紹介されている。
LLDA の使命はラグナ湖集水域内に限定されているが、その先駆的な活動は全国的に知られており、
これまで(1)持続可能な水産養殖活動や湖沼資源を公正に配分するための湖の区画化、(2)LLDA
の管理・開発プログラムの中で一定の役割、機能を果たす支流集水域卖位での河川流域協議会の設立、
(3)湖や川の支流に排水を放出するさまざまな産業施設への環境利用者税制度(EUFS)の实施など
を手がけてきた。現在、LLDA は、京都議定書のクリーン開発メカニズム(CDM)の枞組みのなかで、
民間部門を含め、地方自治体施設と地域の温审効果ガスを減らすプロジェクトによって Community
Carbon Finance を他に先駆けて实現しようとしている。
121
ラグナ湖流域の課題や問題
急激な人口増加、広範な都市乱開発、工業団地開発および宅地造成のための土地改変、集水域の森林
破壊、湖沼と集水域の資源搾取は、湖沼流域の緊急の問題である。Philippine Millennium Ecosystem
Assessment Report(2005)によれば、ラグナ湖の水質はレベル C(漁業用レベル)のギリギリにある。
現在の状況を招いた主要な要因は、下水処理施設(中央・地方を問わず)の不足、有効な廃棄物管理
プログラムの欠如、森林面積の減尐、浸食や土砂堆積の増加などにあると考えられる。この結果、浅
瀬が急速にでき、汚濁が増したために光合成に必要な光が遮られ、窒素、リン、炭素レベルが高くな
ったにもかかわらず、生物学的生産性が低下したと考えられる。これは、漁業にとっては大きな脅威
であり、事实、漁獲高は 1980 年~1996 年の間に約 64%も減尐した。この状況は、生活の糧を湖沼流
域の資源に頼っている人々に、深刻な社会的かつ経済的な問題をもたらした。上記のリポートはラグ
ナ湖の復旧と復元の必要性を述べている。その使命を果たすための真摯な努力にかかわらず、湖の水
質がいまだ危険な状態であることは、LLDA にとって大きな課題である。地域内の利害関係者グルー
プと既存の制度に関する広範な分析によって紛争の種類が詳細に明らかになった。それは LLDA の計
画とプログラム(LLDA et al, 2001)を实施するうえで、大きな意味を持っている。対処すべき紛争項
目と、役割調整を必要とする湖流域内の利害関係機関とその対策を表 1 に紹介する。
表 1.ラグナ湖地域における紛争項目と利害関係者の取るべき対策(Santos-Borja&Nepomuceno, 2005)
利害関係者
規制者
政治家、計画立案
者、コーディネー
ター
インフラ開発業者
研究開発機関
資源利用者・地域
住民
地方自治体
紛争項目
調整、開発、モニタリング、土地使
用計画の執行、許認可証の発行、標
準設定、資源価格と配分に関する方
針作成、市場に準拠した手段。
政策決定と計画の矛盾。連携の欠
如。部門ごとの政策作成は矛盾・重
複を生む。政策を立案し、決まった
政策を实行するという明確な責任感
の欠如。
国・地方の LLDA 関係機関が作成す
る未調整のインフラ開発計画。マス
タープランで決められた湖沼管理の
戦略的政策の方向性と矛盾するイン
フラ開発計画。環境インフラへの投
資が尐ない公共投資。
LLDA との適切な調節の欠如。研究
成果の普及が不充分。
湖沼と集水域資源を共通の利益(漁
場、潅漑、飲料水、ナビゲーショ
ン、レクリエーション、その他)の
ために利用するのではなく、湖を廃
物受容器として使用。
所管管区内で、生態系の管理・維持
責任について時々LLDA と対立。
122
対策
使命・機能の根拠を明確にする。機能・
手順・必要事項の合理化を進める(許可
証が一箇所で処理できる等)。政策と取
り組みの調整を図る。
小集水域での参加型環境活動計画を地方
自治体卖位/政府機関レベルで制度化す
る。
推進役・触媒として、民間企業が政府と
協力できるような環境を整備する。
LLDA が情報センターとして研究開発を
調整・統合し、(a)優先度の高い分野
への研究テーマの集中化を進め、(b)
重複を最小限、成果を最大限にし、
(c)得られた成果をできる限り幅の広
い視聴者・利用者に普及させる。
規制・監視・取締まりを強化する。MBIs
を拡大する。IEC 活動を強化する。環境
利用税を家庭にも適用する。
地方自治体や利害関係者と協力して集水
域の共同管理を進める。
WLV の原則に適合した戦略と活動
WLV は行動への呼びかけである。2003 年第 3 回世界水フォーラムで発表されて 2 年後、ILEC は、ビ
ジョンと対策の隙間を埋めるべく、「具体的な湖沼管理の要求に対応して作成される实践的な活動プ
ログラム」の中に、WLV の原則と教訓を取り入れるための行動集を世に出す必要があると考えた。
LLDA は、2004 年には、WLV の 7 原則にうまく適合した具体的な対策を实施できるような機会に恵ま
れた。
ラグナ湖における制度の充实と住民参加を促進するプロジェクト(LISCOP:Laguna de Bay Institutional
Strengthening and Community Participation)は、湖沼流域とその支流域における環境の質を改善し、持続
可能な管理を实現することを目的にしている。第一番目の目標は、地域に密着した環境プロジェクト
の計画作りや实施を通じて、地域住民にもっと湖流域の資源管理および保全活動に参加してもらい、
集水域の利用者の行動を変えることである。LISCOP は、表 1 にあげた主な利害関係者間の紛争を解決
するために、必要な対策を取りまとめている。LLDA とラグナ湖地域のさまざまな利害関係者による
具体的な対応策は、2003 年の WLV の発表以前に考えられていたのであるが、WLV の行動への呼びか
けを具現化したものになっている。LISCOP では、LLDA がこれまでに築いた成果(湖沼保全の必要性
についての社会的な合意形成や、集水域の共同管理活動へのパートナーとしての住民参画)が利用さ
れた。また LISCOP は、自分達の町や自分たちの集水域の環境問題を正すための住民主導のプロジェ
クトの策定に地方自治体が深く関わっていくことを奨励する基盤となった。さらに重要なことは、そ
れによって地方自治体が、湖沼流域の管理と保全に有意義に参加するようになったことである。これ
は 、 LLDA と 地方 自治体 が湖 沼管理 の問題 で対 立し ていた 1990 年代 中ご ろとは 大違い であ る
(ILEC&UNEP-IETC、2001)。 この共同管理の取り組みは、LLDA が用いている实践的な手法の一つ
である。LLDA は、湖沼流域管理を独占的に行うような使命は持っておらず、また自分たちの考えや
取り組みをより効果的に計画・实施していくためには、全ての利害関係者の協力と参加が必要である
ことをよくわかっている。
このプロジェクトは、2004 年に始まって 2009 年まで続くことになっており、世界銀行からのローン融
資、それと同額のオランダ政府からの補助金、およびフィリピン政府からはカウンターパートとして
資金が提供された。地方自治体がサブ・プロジェクトを实施する場合の資金は、融資、助成金、およ
び自己資金からなっている。所得の低い地方自治体は、多くの助成金を利用できるようになっている。
LLDA は、地方自治体が環境サブ・プロジェクトに投資するにあたり、彼らが融資を受けやすくする
ために資金調達に必要な自己資金の 50%をプロジェクト開発ファンドから提供するとともに、財務管
理、調達システム、プロジェクトの管理・監督および監視に関する能力強化活動を行なうなどの総合
的な支援策を用意している。
LLDA は、以下の 2 つの戦略的な手法を組み合わせて、資源の利用と管理に関する環境・経済・およ
び制度などの各要素を総合的に最適化したいと考えている。この 2 つの戦略手法は LISCOP の 2 つの
不可欠な構成要素である。第 1 の要素は、集水域開発投資の共同管理に関するものであり、集水域の
保全や開発のためのプロジェクト策定、優先順位付け、合意形成における地方自治体、河川協議会、
地域社会の重要な役割を強調するものである。第 2 の要素は、主に制度や手法の整備に関するもので、
特に、統合的な水資源管理および開発プログラムをもっと効果的かつ効率的に实施するために LLDA
123
の能力を強化することに力点を置いたものである。これと平行して(重要なことは)、集水域レベル
で参加型の集水域管理を進めるために地方自治体や河川協議会の能力向上を図ることである。
ラグナ湖環境行動計画(LEAP)策定プロセス
LISCOP の基礎となる計画作成卖位はラグナ湖の 24 個の集水域である。各集水域は、いくつかの町と
都市からなるが、Tanay 集水域だけは、Rizal 省にある Tanay 町がそのほぼ全域を占めている。各地方
自治体は、自分独自のサブ・プロジェクトを行なうことができるし、複数の地方自治体が互いに資金
を出し合って、集水域全体の 1 つのサブ・プロジェクトを实施することもできる。ラグナ湖環境行動
計画(LEAP:Laguna de Bay Environmental Action Program)策定プロセスでは、地域社会の有意義な参
加と関与を確实に实現するために、共通のビジョンが作成され、サブ・プロジェクトの内容を決定す
るための重要な要素として導入された(下図)。LEAP は、参加型、課題主導型の計画手法で、利害関
係者が各々の分野で環境問題に活発かつ効果的に取り組めるように、段階的な能力向上プログラムを
含んでいる。
データ収集(支流域ごとの
特徴の明確化)
集水域ビジョン作成
委託契約とサブ・プロ
ジェクトの承認
目標の確認
ラグナ湖の
利害関係者
サブ・プロジェク
ト確定確認
対策のリストアップ
対策の選定基準策定
対策の实行可能性
の査定
選定基準の順位付け
対策の絞り込み
図
ラグナ湖環境行動計画策定プロセス
LEAP プロセスには、以下のような重要な要素が含まれている。
a.
主要な参加者は、各支流水域のさまざまな利害関係者グループの中から、河川協議会が地方自治
体と緊密に連携をとりながら決定する。会議の議長は河川協議会が務める。
b.
環境問題とその原因や根源を特定するために、参加型で集水域の特徴を明らかにする。
c.
集水域ビジョンを作成し、そこに到達する目的(意義)を明確にする。
d.
小集水域の環境問題を緩和するサブ・プロジェクトの中から、ビジョンに到達するための対策を
明確にする。
e.
サブ・プロジェクトの優先順位をつけ、目的達成に最も貢献するものを決定する。
支流水域の特徴を把握する活動に多くの人が参加したことは、さまざまな利害関係者が、自分達の環
境にもっと接することによって、自分達の町や市が直面している環境破壊の種類や程度を自分達で発
見する良い機会となった。得られた観察結果は、ほぼ各支流水域の環境の实態を示している。サブ・
プロジェクトに優先順位を付けるには、持続可能なラグナ湖環境開発プロジェクトと呼ばれる、オラ
124
ンダ政府の資金援助を受けたプロジェクトで開発された多基準分析法(MCA:Multi-Criteria Analysis)
を使用して行われる。しかし、従来の手段を用いて、より良い優先順位を決定することに満場一致の
同意があれば MCA を使わなくても良い。
地方自治体は、認定されたサブ・プロジェクトに投資し、財務局の地方自治体開発基金部とローン協
定を結ぶことになるので、LISCOP プロジェクトにおいて大きな債務を負うことになる。LLDA は、投
資家・開発者として、LEAP の实施、プロジェクトに参画する地方自治体の参画方法について、必要な
指導をしている。認定されたサブ・プロジェクトの实行可能性調査には、LISCOP を通して資金が供給
される。この調査において、LLDA は、GIS、水質モデリング、技術、財政、環境、社会保護など評価
全般にわたる専門知識を提供する。
保全活動の成果
LEAP は 2 年の間で 12 の集水域で行なわれ、地方自治体と地域社会が主体的に取り組む 16 のサブ・プ
ロジェクトがすでに誕生した(表 2)。サブ・プロジェクトの大多数は廃棄物処理に関するものであ
る。このことは、全流域において廃棄物処理が緊急の環境問題であるという地域社会と地方自治体の
反応である。この中で 9 つのサブ・プロジェクトは、行政機関代表者によって行なわれる、貸付金を
利用するための地方自治体の技術的、財政的な能力と資格に関する適正評価に合格した。2 つのサブ・
プロジェクトも既に实施段階にある。
表 2 進行中の LISCOP サブ・プロジェクト
支流水域
Alaminos-Bay -Calauan
ANGOno-BinaNGOnan- Cardona
Biñan-San Pedro
Morong-Teresa
Pagsanjan-Lumban
Siniloan-Famy
地方自治体
Alaminos
ANGOno
Cardona
General Mariano Alvarez
Morong
Teresa
Cavinti
Kalayaan
Lucban
Majayjay
Siniloan
Sta Cruz
Sta Cruz
Sta. Rosa
Tanay
Nagcarlan
Liliw
Silang
Tanay
プロジェクトのタイトル・種類
廃棄物処理
統合的廃棄物処理
コンポストによる物質回収施設
コンポストによる物質回収施設
コンポストによる物質回収施設
コンポストによる物質回収施設
エコツアー
統合的廃棄物処理
上水場と公衆衛生
滝エコツアー
環境向上
コンポストによる物質回収施設
食肉処理場排水処理施設
コンポストによる物質回収施設
食肉処理場排水処理施設
コンポストによる地域運営の物質回収施設
コンポストによる物質回収施設
極小集水域の充实
LEAP は、さまざまな利害関係者の参画を整備・制度化するのに、支流域の河川協議会を通じた取り組
みとそのプロセスが効果的な手法であることを实証するとともに、環境保全活動計画の作成能力の向
上につながった。またこのような運動における主宰者として、河川協議会や市民社会団体が重要な役
割を持っていることを示した。また LEAP の活動にもっと参加するよう呼びかけられた地元の有力者
125
が、自分たちの開発事業が近辺の環境に悪影響を及ぼしているということを正しく理解してくれたの
で、政治的な枞を超えたものになった。彼等は、このような開発の影響が積み重なって支流域の環境
に現われ、最終的にラグナ湖にマイナスの影響をもたらすということを理解するようになった。
LEAP プロセスの別の大きな強みは、さまざまな分野の利害関係者が、自分達の環境の特徴を知り、共
通のビジョンを打ち出し、さらに、対処法を誤ると自分たちの命と生活を脅かしかねない環境の質的
悪化を食い止めるために、必要な優先度の高い介入手段に関する合意を成立させるために協力した点
にある。さまざまな利害関係者間だけでなく、LLDA や他の政府機関とも連携が進んだ。それによっ
て、長年培われてきたパートナーシップがより強化された。
LEAP の有効性がわかったので、多くの地方自治体だけでなく、LLDA 内でも開発企画や予算作成につ
いて、このプロセスの採用が進んでいる。いろいろな状況で適用されるなかで、改良点や刷新するべ
き点が出てくるであろう。
LISCOP の教訓と WLV
WLV の原則 1 は、環境改善に取り組む目的を述べたものであり、残りの原則の中に LISCOP から得ら
れた教訓やこれまでに達成された成果を見ることができる。
a.
湖沼資源の共同管理は、利用者間の争いを最小限に抑え、伝統的な「独占的な統治」よりも効率
的で良い結果をもたらす(原則 7)。
b.
基本的な計画作成の卖位として支流水域に焦点をあてることは、自分の周辺の環境に利害関係者
をもっと目覚めさせ、直接的および間接的に自分たちに影響を及ぼしている環境問題のことを考
えさせるのに効果的である。それによって、集水域や湖の共通ビジョンを打ち出すプロセスが促
進される(原則 2)。
c.
多様な利害関係者達が協働するためには、尐数の取り残されたグループの人たちにも、自分達の
懸念を発言する機会を与えるとともに、特定の集団の「エリート主義」を抑えることができる熟
練した、細かい配慮のできるファシリテーターが必要である(原則 5、6、7)。
d.
LEAP プロセスは、地方自治体職員が、地域住民との協力のもとに自治体の環境問題に対する实行
可能な解決策を打ち出すのに有効である。このプロセスによって住民は決められた解決策を自分
のものとして捉えるようになる(原則 5、6)。
e.
準備段階やプロジェクトの計画作成時に、環境・社会の両面からの予防対策を取り入れることは、
長期的にメリットを確保するために必須である(原則 3)。
f.
GIS、水質モデリング、多基準分析などの意思決定支援ツールを可能な限り利用することによって、
利害関係者が自分達の周りの環境をより理解できるようになり、意思決定が容易になる(原則
4)。
g.
環境プロジェクトへの財政支援は、事業の確实な継続性を保証するために、プロジェクトのすべ
ての段階において能力開発活動と連動されなければならない。同時に、継続的な指導や教育が、
プロジェクトに参加している集団の間でもっと促進される必要がある(原則 3、7)。
ビジョンから行動へ:活動の継続
個々の地方自治体もしくは支流水域で共有できるビジョンが、ラグナ湖の総合的なビジョンとして集
約される。それは、湖と集水域のための LLDA のビジョンと調和するものである。LISCOP が進展す
126
ると、さまざまな支流水域において、支流水域ビジョンと環境向上のサブ・プロジェクトが生まれて
くるであろう。フィリピンの多くの湖沼流域で、LISCOP を再度行なうことが熱望されているが、これ
には十分な資金と人材支援が必要である。資金提供機関が重要であることは、2003 年の WLV および
2005 年の統合的湖沼流域管理に関する報告(LBMI レポート)の中で強調されている。
WLV とその原則の推進は、道を説くような仕事である。WLV は、さまざまな湖畔の町や都市の高校
生が集う環境学習キャンプ(エコ・キャンプ)で LLDA が行う講義の一部になっている。この活動は、
フィリピン湿地保全協会、フィリピン・ユニリーバとの共同プログラムであり、これらの団体は、
LLDA のパートナーとして「ラグナ湖環境と資源の保護」(CLEAR)と呼ばれる三者合同機関を構成
している。
WLV と多くの事例研究をまとめた電子補足版付きの「LBMI レポート」は、現在、環境・人・文化を
保護するための支援活動で有名なミリアムカレッジ財団の大学院環境学習プログラムで、学際的な分
野の 1 つである淡水生態学の教材として使われている。
謝辞
この報告書を執筆するにあたり、協力してくれた多くの人たち、特に、通常業務に加えて LISCOP で
も活動に取り組んでくれた LLDA の職員、LISCOP に参加し、サブ・プロジェクト選定にあたり、地
域社会の声を取り上げてくれた地方自治体の職員、参加地方自治体のプロジェクト管理チーム、ラグ
ナ湖地域の全ての利害関係者、財務局、技術審査委員会の委員、世界銀行・オランダ政府に感謝する。
また LLDA 研究開発部スタッフの方々の支援と貴重な援助に謝意を表する。
参考文献
1) ILEC. 2005. Managing Lakes and their Basins for Sustainable Use: A Report for Lake Basin Managers and
Stakeholders. International Lake Environment Committee Foundation: Kusatsu, Japan.
2) LLDA, Tetra Tech EM and PNB Capital and Investment Corp. 2001. Institutional Re-engineeriNGOf the
Laguna Lake Development Authority. LLDA: Pasig City, Philippines.
3) LLDA. 2004. LISCOP Operations Manual. Pasig City, Philippines.
4) Santos-Borja, A.C. 2002. Building Partnerships for Sustainable Lake Management, the Laguna de Bay
Experience. Proceedings of the International Symposium on Building Partnerships Between Citizens and
Local Governments for Sustainable Lake Management. IETC Freshwater Management Series No.3, UNEP International Environmental Technology Centre, Osaka/Shiga.
5) Santos-Borja, A.C. and D.N. Nepomuceno. In: ILEC. Lake Basin Management Initiative – Experience and
Lessons Learned Briefs. 2005. International Lake Environment Committee Foundation: Kusatsu, Japan.
6) The Philippine Sub-global Assessment Team. 2005. Philippine Millennium Assessment (MA) Sub-global
Assessement.. College of Forestry and Natural Resources, University of the Philippines: Los Banos, Laguna,
Philippines.
7) World Lake Vision. 2003. International Lake Environment Committee Foundation, United Nations
Environment Program-International Environment Technology Centre and the Shiga Prefectural Government:
Kusatsu, Japan.
127
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
若者による手作りの大きなビジョン
7 つの火口湖における活動の報告
Cari L. Azores and Ramon B. San Andres
Friends of the Seven Lakes Foundation
Lakeside Drive, San Pablo City, Philippines
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
要旨
サンパブロ市はフィリピン国連邦法(1940)に定められた指定都市の 1 つで、7 つの火口湖(Sampaloc、
Bunot、Palakpakin、Pandin、Mohicap、Calibato、Yambo)が連なった国内唯一の町として有名である。
フィリピン群島にも類をみないこの独特な特性のゆえに、サンパブロ市は「7 つの火口湖の町」と呼ば
れている。これらの湖は、1960 年代までは魚やエビが豊富で、時には、湖岸からそれらが簡卖に捕れ
るほどであった。また背景には、どの湖からも聖クリストバル山、バナハウ山の 2 つの峰を見ること
ができる。
サンパロク湖(Lake Sampaloc)は、7 つの湖の中で最も表面積が大きく、また町の中心部にあり首都
庁舎に隣接しているので最もよく知られている。しかし嘆かわしいことに、この湖は 7 つの湖の中で
最も汚染が進んでいる。サンパロク湖の課題や問題を検討することは、他の 6 つの湖がどんな課題や
問題に直面しているかを理解することにつながる。
サンパブロ市の 7 つの火口湖の保全・保護・再生およびその流域の管理の取り組みは、ラグナ湖開発公
社(LLDA)、NGO、関係政府機関などによって指導されてきた。これらの取り組みを進めるなかで、
心ある市民は、再生計画(ラグナ湖開発公社や地元の政府が策定)を、確实に实施・監視するために、
結集して「湖を救おう」というグループを 1999 年初頭に立ち上げた。数ヶ月後に、この運動は、現在
の「7 つの湖の友財団(FSLF)」に発展し、2000 年 8 月には、フィリピン証券取引委員会に NPO とし
て登録された。FSLF は、最初の数年間、町の環境護衛団の 1 つとして活動していたが、2003 年には子
供たちの組織「FSLF キッズ」を設立し、若者たちの環境教育・啓発の推進に乗り出した。
現在、財団の活動や計画は、サンパロク湖を中心に展開されているが、7 つの湖は似た特性を持ってお
り、互いにつながっているので、この 1 つの湖で成功すれば、それをわずかに修正するだけで他の 6
つの湖に展開することができる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
はじめに
サンパブロ市の 7 つの淡水湖は、水蒸気爆発という変わったプロセスで作られた。すなわち、聖クリ
ストバル山から出た浅い溶岩が、岩を突き破って噴出した地下水を分断し、丸い火口のような窪みを
作り、そこに雤水がたまって出来たのである。湖の深さは 27mから 135mにわたっており、これらの
湖が火山性起源を持つことを示唆している。
サンパロク湖は、サンパブロ市にある 7 つの湖で最も大きな湖である。湖は、周囲の山や丘が美しく、
昔から有名な町の観光スポットであった。またその周辺で暮らす小さな漁民社会に生活の糧を提供し
てきた。この 25 年の間に、湖には魚獲用のネットや浮島(時には住居がその上にある)が数を増し、
湖岸にはレストランや浮浪者の家があちこちにできた。
このような人的活動は、生態系、社会・経済にさまざまな問題を引き起こした。清廉で自然の美しさ
を持っていた淡水湖が、家庭の有機廃棄物や、湖の大部分を占める魚捕獲用ネットや浮島からでる汚
れで溢れ返るゴミ捨て場になってしまった。このため水質が急速に悪化し、エコ・ツーリズムの可能
128
性を奪った。湖の漁獲高の減尐、悪臭の漂うアオコ、ぞっとするような魚の死などは、極度に汚染さ
れた水がその原因である。
表 1 7 つの火口湖の緒元
湖
Mohicap
Yambo
Pandin
Palakpakin
Calibato
Bunot
Sampaloc
高度(m)
80±
160±
160±
100±
170±
110±
106±
水深(m)
データなし
データなし
最大 63.0
最大 7.5
最大 135.0
最大 23.0
最大 27.0
面積(ha)
14.5
28.5
20.5
43.0
42.0
30.5
104.0
備考
ティラピア漁
娯楽、貧栄養湖
ティラピア漁、貧栄養湖
ティラピア漁、土砂、汚染
ティラピア漁、土砂、汚染
ティラピア漁、土砂
ティラピア漁、部分汚染
7 つの火口湖が直面する課題・問題
「人々が湖やどこにでもゴミを捨てるので汚染問題がおきる。人々は環境のことを考えないので湖の
魚が死んでしまう。私たちは、湖に汚れが流れ込まないように、横丁や通りの汚れを取り除こう。」
<9 歳の尐年(FSLF の会員)>
7 つの湖は、湖岸住民の生活がもたらす汚染に極度に弱い。この問題の解決策の 1 つは湖岸から建物を
すべて取り除くことであろうが、湖岸の住人を湖から 1km 離れたところに移住させるという取り組み
も、彼らを収容するのに充分な家がないために進んでいない。7 つの湖は、漁獲用にネットやかごの設
置を湖の全表面積の 10%まで認めているが、その許容数をはるかに超える数の不法な漁獲用ネットや
かごがあり、湖は危機に曝されている。さらに大量の魚養殖用の飼料が湖底に沈み、それらが分解す
ることによって、水中の窒素濃度が増加し、汚染が進んでいる。
湖を保全するための環境法や規則がないのではなくて、地方自治体のやる気や関心がないことが、今
日の環境破壊につながったのである。法整備よりもこのような状況の方が社会的には問題であり、こ
のためにはすべての利害関係者の参画が必要である。町の多くの人が湖に問題があることはわかって
いるのだけれども、实際に何かを行動しようとする人はほんの一握りしかいない。みんなで支えあえ
ば、すべての利害関係者が 7 つの湖をもっと自分たちのものと考え、湖とその集水域の保全に対して
社会的な責任感を持つような町を築くことは可能なのである。
戦略と行動、その成果
「すべての人が果たすべき役割を持っており、何らかの貢献が出来る」<Jane Goodall 博士>
人間同士だけでなく、人間と自然環境の間でも調和した共存関係をもつことが必須である。人々が、
すべての生き物に対する愛情と自然の多様な生態系に対する畏敬の念を育むようになれば、世代を超
えて、この世の中を、人間、動物、そして自然にとってよりよい場所にしていくために行動を起こす
ようになる。
現在、各種の取り組みや計画作りは、サンパロク湖を中心に展開しているが、7 つの湖は似た特性を持
っており、互いにつながっているので、この 1 つの湖の保全に成功すれば、それを尐し修正するだけ
で他の 6 つの湖に展開することができる。
129
7 つの湖を持続的に利用していくための計画作りと同じように重要なことは、湖に水が流れ込む集水域
のことをよく理解することである。湖の保全には、集水域の保全と管理が必須である。サンパロク湖
の周囲には多くの泉があるが、湖底にはもっと多くの泉があると推定されている。これらの泉は、湖
を取り巻く集水域の地下水が地表に湧き出ているものである。湖の集水域の森林を保全することによ
って、これらの泉の湧き水を最適な状態に保つことができる。したがって、集水域の管理計画におい
ては、再生と植林を含むことが湖の保全戦略上重要なものとなる。
既に述べたように、7 つの湖を保全すべきであることを述べた法律や条令はたくさんあるが、政治的な
意志の欠如や、地方職員の保全・保護対策の不履行によって湖のさらなる务化が進んだのである。
問題点を明確にし、湖のこれ以上の务化を阻止するために力を合わせている政府の役人や NGO 団体は
あまり多くないが、中には、法律に基づいて責務を果たそうとして、あるいは、7 つの湖を守ろうとい
う良心に掻き立てられて行動しているグループもある。こういったグループの大部分は大人だけで構
成されているが、FSLF のみが、未来の環境保全者である若者が最終的にその役割を果たせるように、
彼らの育成に力を入れている。
将来自分たちにとって必要となる資源の価値を子供たちに教えることほど、有効で、長期的、予防的
な取り組みはない。幼いときに教育を受けた子供たちは、環境と人々にとってより良い世界を作るた
めに、小さくても継続的に活動を続けるだろう。FSLF キッズは、Jane Goodall 博士が唱えた「知識は
愛情につながり、それが行動を呼ぶ」という原則に基づいて活動している。FSLF キッズは、博士が指
導する Roots & Shoots International の下部団体として、人間社会、動物、環境のために、地域サービス
や学習に取り組み、励んでいる。FSLF キッズは、湖の清掃、植樹、地域・国際エコ・キャンプなどの
活動にできる限り参加している。自発的に行動する子供たちの情熱をみると、大人たちは、時として、
自分たちの怠慢や無気力を恥じることがある。
環境教育が子供たちにどの程度伝わっているのか、また、彼らと一緒に行なった宠伝・啓蒙活動を、
子供たちはどの程度理解しているのかを知ることは非常に難しい。しかし、一つ明らかなことは、子
供たちは、ボランティア活動に熱心であり、それらをうまくやっていく創造的な情熱を持っていると
いうことである。子供たちの行動は、湖や水資源に対する強い所有意識と責任感を示すものであり、
将来、それらは彼らにきっと役立つだろう。.
政府機関、地方自治体、NGO 団体が協力して、7 つの湖に関するあらゆる技術的・社会的なデータを
1 つの総合的なデータベースに統合しようという協働的な取り組みが始まった。過去の調査結果を入手
できるのは研究者しかいないので、この作業は困難かもしれないが、これまでに、教育機関や政府機
関の一部はデータの共有に同意した。このように、科学的なデータに基づいて計画や戦略が立案され
れば、その信頼性が高まっていくだろう。
これに関連して、教育機関と協力している政府機関や非政府団体は、1)サンパロク湖のこれまでの水
質データの見直しと再評価、2)水質監視プログラムの提案、3)汚染源の特定、4)望ましい湖の水質
確保のために必要な対策の検討、などを計画している。
7 つの湖のことを気にかけている市民グループは多くある。彼らは、協力して活動するために分野をま
たぐ協議会を設立しようとしている。このためには、多くの仲介や交渉が必要となるが、もしすべて
130
の関心を、健全できれいな湖をめざすという共通のビジョンに向けることができれば、多くの異なる
利益の違いを克服することができるだろう。団結することによって、市民は「我々は環境保全のため
に立ち上がった。今後も活動を続ける。」ということを、町の指導者に対して思い起こさせ、認識さ
せ続けることができる。
湖保全のための自発的な活動は、環境保全活動における一人一人の役割の重要性を住民が認識する必
要性を訴えるものである。子供たちによる湖保全活動が始まったとき、その活動は、7 つの湖の再生に
向けて、大人たちや町の職員に自分たちの役割を果たすようにとの圧力となった。FSLF キッズは、自
発的な活動に向けて、地域のさらなる関心を巻き起こし、もっと多くの参加が参加するような活動を
主導していきたいと思っている。
湖沼管理の良い事例
「小数であっても、熟考し、献身的に取り組む市民は世界を変えることができるということを決して
疑ってはならない。事实、世界を変えたのはこのような活動だけなのである。」<Margaret Mead>
誰も一人では大きな仕事をすることはできない。2000 年、8,000 人もの市民が湖の保全を祈って、サン
パロク湖の周囲 3.8km にわたって腕をつなぐ運動を始めた。この運動によって市民は、何もしなけれ
ば、近い将来、我々の湖の環境がひどい状態になるということを知った。
これを契機に、人々は、自分たちで湖の状態を調査し、湖保全の責務を政府の役人が果たしているか
を監視し、あらゆる社会層の人からさまざまな意見を聴くためのネットワーク作りを始めた。市民は、
湖岸の不適切な住居を取り壊し、居住者をサンパロク湖から 1km のところへ再移住させるように働き
かけた。湖岸の建物が取り除かれると、市民グループは、市民が楽しむための小さな公園を湖岸に造
る運動を開始した。さらに、次々と発生した新たな問題について、市民は、嘆願書、集会、政府の役
人との会合などを通じて、彼らに圧力をかけた。
子供たちも同様な運動を展開した。限界はあるかもしれないが、その新鮮な目で問題を眺め、子供た
ちは政府の役人に手紙を書いた。また大人たちの集会に参加し、湖の清掃作業や周辺での植樹活動を
实際に行なった。子供のネットワークを立ち上げるために、FSLF キッズは、エコ・キャンプをスター
トさせ、これには公立・私立の学校から生徒が参加した。漁師の子供たちを含む公立学校の子供たち
のキャンプ参加費用の一部は、私立学校の子供たちの参加費から補助された。こうしてエコ・キャン
プは、さまざまな社会層からの子供たちが友人として集まり、それぞれの立場で環境について学習す
る良い機会となった。
FSLF キッズは、国連環境計画の活動にも参加し、世界各地から集まった子供たちと環境について国際
的な話し合いを持った。彼らは、世界中の子供たちと友達になり、環境問題に取り組みむ若々しい情
熱をぶつけ合い、また地球のいろいろな所で行なわれている子供たちの同様な取り組みに刺激を受け
た。
得られた教訓
「規則を法で押し付けるので、人々は湖を大切にするしつけを学ばない。もし、政府が人々にあまり
目を向けず、教育をしなかったら、子供たちがゴミを拾っても、人々はそれ以上に投げ捨てるだけで
131
ある。環境保全と教育のための TV チャンネルを作るべきだと思う。そうすれば、人々はもっと環境
のことを考えるようになるだろう」<12 歳の尐年(FSLF の会員)>
市民による湖保全活動は、休むことなく取り組まれなければならない。我々は、利害関係者として、
規則を破る者を見張り、湖とその周辺で何が起こっているのかを、たえず監視し続けなければいけな
い。我々は、政治家、役人など、湖保全の責務を負うすべての人が、妥協せず、決意を持って仕事を
するように、圧力をかけていく責任を有している。フィリピンでは、環境は政治家の手に委ねられて
いるので、政治的・経済的な利益に目が向きがちな領域においては、彼らに我々が見ていることを分
からせなければいけない。また我々は、環境保全のために頑張っている役人や市民リーダーに対して
は、明確な支援を行なう必要がある。
すべての利害関係者は湖を保全する責務を負っている。我々は、常に環境について市民を教育し、湖
の未来が脅かされそうな時には、立ち上がるように市民を元気付けなければならない。また我々は、
環境に関する話し合いに参加するよういろいろな集団や個人に呼びかけ、彼らが、7 つの湖の将来に関
して、公正で、成熟した、全員参加による、皆が納得する決定ができるような選挙民になるように鼓
舞することが必要である。
WLV は、实現可能で有効な戦略や解決策に目を向けさせてくれる。我々は、孫のために持続可能な湖
を残せるような未来を描いた WLV の原則について人々を教育していく必要がある。
最終的な我々の願いは、7 つの湖が「きれいで、健全で、それぞれの湖の自浄能力に応じた持続的な最
大限の生産が可能で、その環境破壊を防止する法律で守られている」ようになることである。
7 つの湖は我々のものであり、我々が何もしなければ、誰が湖を守るのであろうか。
今後の取り組み
「子供たちは明日の市民である。我々は、今子供たちを教育すべきである。そうすれば、将来、彼ら
は、物を片付け、ゴミを正しい場所に捨てるのを手伝ってくれる。彼らが親になったとき、自分たち
の子供たちを良き市民になるよう導く」<11 歳の尐年(FSLF の会員)>
我々には、きれいで、健全な 7 つの湖をめざすビジョンがある。我々の戦略は、皆のため、特に町の
子供たちのために、環境に関する教育を行なうことにある。我々は、政府、民間企業、国際的な開発
機関と強力なネットワークを築くつもりである。今ではインターネットによりコミュニケーションは
容易にできるので、このようなネットワークを築かないことについて何の言い訳も弁解も出来ない。
实際、自分たちの天然資源についてできる限り多くのことを知ることは、環境の利害関係者・擁護者
としての我々の責務になっている。我々は、子供たちや若者が、環境や WLV の原則について学ぶ機
会を広げて、彼らの運動を力強いものにしていく必要がある。
政府は、サンパロク湖の区画整理計画の再評価を始めるつもりである。我々は、あらゆる視点からの
意見が反映されるように、すべての利害関係者がこの討議に参加するように呼びかけるものである。
このプロセスは、皆の情報に基づいて意思決定を行なう合意形成の 1 つの方法である。
我々は、他の利害関係者と協力して、サンパロク湖の周囲に住む正規の居住者が所定の場所に移住で
きるように働きかけるつもりである。彼らは家だけでなく、生活の糧となる代替プロジェクトも考え
る必要がある。我々が描く湖は、湖岸に面して商業施設や住宅が建っていないような湖である。
132
子供をニュースで取り上げることは有効である。特に、彼らが環境に関して何か重要なことを話すこ
とは有効な普及活動となる。我々は、WLV の原則を推し進めるためにメディアを利用する。また、子
供たちや若者、特に、環境に関する知識が豊富で、熱心な代弁者となってくれそうな子供たちや若者
に対する研修を進める。
環境問題は党派を超えたものである。子供たちのためにも、我々は環境問題から逃げることはできな
い。環境保全に賛成か反対かのどちらしかないのである。2000 年 2 月の「湖を抱く運動(The Yakap sa
Lawa)」は、環境問題に人々の心を開いてくれた。何千人もの人々(その多くは子供や若者であった)
が、「母なる大地」の保全を祈って腕を組んだ。政治家、宗教家、社会運動家はただ黙って聞くしか
なかった。市民の運動は、指導者にやる気を起こさせ、緊張感を保させ、市民は環境保全に本気であ
ることを彼らに認識させるものでなくてはならない。
大きな仕事が控えている。大人、役人、個々人、グループなど、皆が 7 つの湖を保全するためにそれ
ぞれの役割を果たしている。将来の環境擁護者である子供たちも、限られた能力の範囲内で、7 つの湖
の保全と再生のためにできることをやっている。
スパイダーマンのように「大きな力は大きな責任を伴う」という信念をもっている FSLF キッズの子
供たちからヒントを掴むことが出来る。
きれいで健全な 7 つの湖は本当に大きな夢であり、大きなビジョンでもある。そしてそれはすべての
人にとって实現できるものである。それを实現するのはまさに若者なのである。
謝辞
H.E. Gloria Macapagal Arroyo, President, Republic of the Philippines
Hon. Angelo Reyes, Secretary, Department of Natural Resources
Hon. Casimiro Ynares III, General Manager, Laguna Lake Development Authority
Hon. Vicente Amante, Mayor, San Pablo City
Friends of the Seven Lakes Foundation (FSLF) and FSLF Kids
- Mr. Bobby Azores, FSLF President
- Ms. Rachel Aquino, FSLF Vice-President
- Ramon San Andres, FSLF Board Member and Consulting Geologist
- Mr. Carina Azores, FSLF Kids Coordinator
- Ms. Loralie Quitain, FSLF Kids Moderator
参考文献
Action Plan Proposal for the Water Quality Assessment of Sampaloc Lake by Ramon San Andres, October 7,
2000.
State of Water Resources in San Pablo City (7/19/2001) - Unpublished technical manuscript written regarding the
critical geohydrological, social and political issues on the water resources of San Pablo and the causes of
water shortages in the city, due to watershed degradation and mismanagement by the local water district;
(Hydrological) Evaluation of Water Resources in SPC (6/24/2005) - A short communication manuscript on the
hydrological analysis of San Pablo to address water shortages in the city;
Evaluation of Open Dumpsite, SPC (7/4/2005) - A short communication manuscript regarding the environmental
impact of the open dumpsites to groundwater resources of San Pablo City.
133
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ボージ湿地の保全と管理
ボパール、マディヤ・プラデーシュ州、インド
S.MMisra
Officer In-charge & Senior Research Officer Lake Conservation Authority of Madhya Pradesh, Bhopal- 462016,
Madhya Pradesh, INDIA. E-mail: [email protected]
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
要旨
インド、マディヤ・プラデーシュ州の首都であるボパール(Bhopal)は、湖の町として知られている。
この地域には約 25 の貯水池があるが、上ボージ湖は最古で最大のものである。歴史的には、この湖は、
11 世紀、コーランス(Kolans)川にアースダム(現在のカムラ(Kamla)公園)を建設したことに始ま
り、後に王様の名前(ボージ)をとってボージ湿地と名づけられた。17 世紀初頭には、もう一つのア
ースダム(プル・プフタ(Pul Pukhta)と呼ばれる)が、チョーテー・ナワーブ(Nawab Chhote)王に
よって下流に建設され、下ボージ湖ができた。1947 年までは、上ボージ湖から良質の水がボパール市
内に供給され、そのまま飲料水として利用されていた。下ボージ湖においても、人口が非常に尐なか
ったので人的な圧力も無く、その水質は同様にきれいであった。
マディヤ・プラデーシュ州の首都になってから、ボパールは急激に人口が増加し、その結果、土地と
水資源に非持続的な圧力がかかることになった。前世紀における急速な都市化の進行は、上ボージ湖
からの水供給の確保によって支えられてきた。しかし、都市化は、この 30 年間に湖の周辺にまで及び、
下ボージ湖だけでなく、(上ボージ湖への影響は下ボージ湖に較べればまだ尐ないが)上ボージ湖の
水質まで脅かすようになってきた。人間活動の圧力による水源の务化や水質の悪化・汚染は、当局を
動かし、ボージ湿地の保全プログラムが始まった。この結果、「ボージ湿地プロジェクト」として知
られるボージ湿地の保全と管理プロジェクトによって、主として上下ボージ湖の保全と管理のための
構想と計画ができあがった。プロジェクトは、日本国際協力銀行(JBIC)の資金援助を受けたもので、
インドと日本の水資源保全に関する協力の好例となるものである。
ボージ湿地プロジェクトのもとで、多くの保全対策や管理施策が取られた結果、ボージ湖の保全が進
んだ。さらに、統合的湖沼流域管理(ILBM)の考え方を適用して上下 2 つの湖の持続的な管理を实現
するための努力が行なわれている。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
はじめに
上・下ボージ湖である「ボージ湿地」は、インド、マディヤ・プラデーシュ州の首都ボパールにある自
然の陸標である。上ボージ湖は大きな湖で市の单西側にあり、下ボージ湖は小さく、都会の密集地域
に囲まれている。これらの 2 つの湖(貯水池)によってボパールは湖の町と呼ばれている。歴史的に
も、丘陵地でうねりのある地形は、表流水を溜めるのに理想的であり、この地域を流れる唯一の川で
あるコーランス川に作られた 2 つの貯水池は、昔の支配者の知恵の象徴であった。上ボージ湖の上空
を单西から北東に吹く強い風は、水の供給だけでなく、町をずっと涼しいものにしてくれる。
ボパールには河川が流れていないので、増大し続ける町の水需要に応えるために湖や貯水池は欠かせ
ない。以前は、上ボージ湖だけで町の水需要に十分対応できていたが、この 30 年間の人口増加によっ
て、増え続ける町の水需要を満たすために、コラー(Kolar)地域の河川からも水を取り込むようにな
った。また最近、マディヤ・プラデーシュ州政府は需給のギャップを埋めるためにナルマダ(Narmada)
地域からも水を取り込むことを計画している。
134
表 1 上・下ボージ湖の概略
湖の建設時期
ダムの型
経度
緯度
集水域面積
建設によって水没した面積
貯水能力
最大水深
死水容量時の水位
最高水位 (R.L.)
平均水深
流入下水量
主な用途
上ボージ湖
11 世紀
アースダム
東経 77 o 18' - 77 o 24'
北緯 23o 13' - 23o 16'
361km2
30.72km2
101.5 百万トン
11.7m
503.53m
508.65m
6.0m
5.381 百万ℓ/日
水道水
主要な水源
雤水
集水域からの土砂流入量
0.36 百万 m3/年
下ボージ湖
17 世紀 (1794)
アースダム
東経 77 o 24'-77 o 26'
北緯 23 o 14'
9.6km2
1.287km2
3.5 百万トン
9.4m
499.88m
9.4m
36.627 百万ℓ/日
洗濯、ボート
雤水、上ボージ湖からの浸出、下
水の流入
し尿
表 2 ボパール市からの上・下ボージ湖への汚染負荷量の推定
No
パラメ-タ
1
2
3
4
5
6
下水流入(百万L/日)
流入下水量(百万L)
窒素(百万トン)
全リン(百万トン)
COD(百万トン)
BOD(百万トン)
上ボージ湖
年 間
最近 5 年間
14.173
5,173.145
25,865.73
22.1993
110.9965
97.09365
485.4683
270.4687
1352.343
80.50659
402.533
下ボージ湖
年 間
最近 5 年間
47.28
17,257.2
86,286
43.48814
217.4407
217.4407
1323.412
4590.415
22952.08
22952.08
7312.739
湖の汚染を引き起こしている要因
湖は集水域の鏡である。ILEC によって推進されている統合的湖沼流域管理(ILBM)は、湖生態系の
長期的な管理のためには、(湖そのものだけではなく)集水域の適切な管理が必要であることを強調
している。
土地利用や、湖に流入する下水など、すべての人間活動が水質を決めるのである(表 3)。上ボージ
湖の場合、その流域特性から 7 つの地帯に区分される。
I
上ボージ湖
1.西地域
この地帯は集水域の田園部から水が流入し、湖の西側部分を形成している。この地帯は農業が盛んで、
残留する殺虫剤や肥料が雤水と一緒にコーランス川の流れにのって湖に流れ込む。この川は雤季の間
だけ流れていて夏には干上がっている。
問題:A)土砂堆積:コーランス湿地は主として農地であり、土壌浸食とその結果として湖の土砂堆
積を加速するような農作業が行なわれている。B)残留肥料や殺菌・殺虫剤の流入:農業で使用され
る化学肥料の残渣は、雤水と一緒に湖に流れ込み、湖の汚染の原因になっている。C)水栗(ヒシ)
135
栽培:この地域ではヒシ(Trapa)の栽培が盛んで、枯れ木などの有機物だけでなく、ヒシに散布され
た栄養剤や殺虫剤が湖の栄養化を助長する。D)大型植物の繁殖:栄養分の増大によって大型植物や
雑草が浅瀬の湿地帯に繁殖する。
2.北地域(半都市化地域)
半田園地域には、衛生施設を持たない居住者が住んでいる。下水は直接湖に流れ込む。2 つの下水・雤
水ダムがあることはわかっているが、面源汚染はこの地域の主要な汚染負荷源であり、衛生施設の欠
如が大きな問題である。
問題:A)下水・排水の流入:北地域には湖の全域にわたって人が暮らしており、そこで発生する固
形・液状の廃棄物が湖に直接流入している。家庭から出る下水の流入は増加しており、水質の悪化や
富栄養化の原因になっている。B)直接的な人的圧力:湖岸の不法居住者は、湖でさまざまな生活行為
(衣服・車両・家庭用品の洗濯や入浴など)を行ない、この地域の深刻な汚染を引き起こしている。
C)バイオ医療廃棄物の流入:規制はあるものの、湖の周辺にある介護施設や病院で発生するバイオ
医療廃棄物は、直接・間接的に湖水を汚染している。D)固形廃棄物:この地帯は、過密居住区であ
るうえに、衛生・ゴミ処分施設を持たないので、深刻な水質汚染を引き起こしている。
3.北地域(都市部域)
この地帯は都市化が進んだ集水域で、人的活動の影響が最大限に及んでいる。固形廃棄物や未処理の
下水・排水が湖に流れ込み、上ボージ湖の富栄養化を増大している。この地域は、人口密集地域に近
いために最も汚染が進んでいる地域の 1 つである。
問題:A)下水・排水の流入:2 つの大きな排水口からは、1 日中、未処理の下水が湖に流入し続けてお
り、非衛生的かつ富栄養化状態を作り出している。B)人的圧力:周辺は非常な人口過密地帯であり、
人々は洗濯や入浴に湖を利用している。 住民や外来者は、固形ゴミ、食べ残し、紙、ポリエチレンな
どを湖に投げ込んでいる。C)バイオ医療廃棄物の流入:この地域には最大の病院や最も収容人数の
多い介護施設があり、病院からの排水の一部は湖に流れ込んでいる。
4.单東地域
この地域は人里離れた地域で、2002 年まで人形を沈める伝統的な儀式が行なわれていた。環境啓発活
動の結果、住民の参加と同意のもとに人形を沈める場所を移動することになり、この地域の深刻な汚
染が緩和された。
問題:人的圧力:この地域はレクリエーションを求めて大量の観光実や訪問者があり、固形ゴミ汚染
が拡がりやすい。
5.单部地域(放水路)
この地域では、放射状に水門のある Bhadbhada 放水路によって湖面が 508.65mに保たれている。湖か
ら溢れる水は、上ボージ湖の下流に建設された Kaliosote 貯水池に集められる。2002 年以降、人形を沈
める儀式はこの地域の放水路で行われている。
136
問題:A)下水・排水の流入:主要な入り江の 1 つである Kotra 下水の入り江には、この地域の放水路
が集まっている。ボージ湿地プロジェクトのもとで、下水口はせき止められて、Kotra 下水処理場に送
られることになった。これによってこの地域の放水路の状況が改善された。B)人的圧力:野外排泄や、
衣服・車両・家畜の洗浄はこの地域の汚染原因になっている。C)人形や墓(Tazias)の浸漬:現在、
人形や Tazias(小さなお墓)の浸漬には、放水路が利用されているので、この地域は宗教的な儀式の
面から非常に重要になっている。
6.单西地域
このあたりは比較的湖の浅い地域で、大型植物の繁殖が特徴的である。この集水域は、農地が多く、
田園地帯である。この地域は鳥が豊富で、84 種の渡り鳥を含む 216 種もの鳥たちの重要な生息地とな
っている。上ボージ湖の独特の特性と、豊かな鳥類多様性によって、この地域は重要な湿地としてラ
ムサールサイトになっている。地域には大型植物が密生しており、巣、休息の場、食料を得る場とし
て豊かな生物多様性を支えている。
問題:A)集水域の負荷:この集水域では、農業廃棄物、無機肥料・殺虫剤の残渣が排出されている。
また土砂や土壌の浸食によってこの地域ではさらに浅瀬化が進んでいる。B)大型植物の繁殖:この地
域は浅瀬で、太陽と栄養分が豊富なので大型植物が育つ。このような植生のため、蒸発により水が失
われやすいだけでなく、バイオマスの腐敗により栄養分が増大する。
7.遠隔地域
遠隔地域では湖は明確な変温躍層を示し、その結果、大半の期間、嫌気性状態になっている。ホテイ
アオイのような浮揚性の大型植物がこの地域の水面を覆っている。
問題:湖底深水層における溶存酸素不足:湖底の深水層は溶存酸素の不足状態になっている。嫌気状
態は生命活動を抑制し、分解速度を遅くするので、湖底には大量の有機物質が貯まることになる。
II. 下ボージ湖
問題:A)湖の沈積土砂:およそ 47.23×103 トン/日の未処理の下水が下ボージ湖に直接流入するので、
湖はいつも富栄養化状態になっている。また、大量の固形廃棄物が長年にかけて湖底に堆積している。
湖は町の中心部にあり、多くの居住者が利用する典型的な都市湖である。周辺で発生した大量の建設
廃材・固形ゴミは、湖の土砂堆積に拍車をかけた。B)下水の流入:湖には流域の居住区域やスラム街
からたれ流される下水が流入する。ボージ湿地プロジェクトのもとで、下水は回収されて処理場に送
られるようになったが、面源汚染による湖の汚染はまだ続いている。現在完成している下水回収網は
主要ラインのみで、個々の家庭はまだそれに接続されていない。大きな課題の 1 つである下水と雤水
の分離は未解決であり、雤期には下水の混じった雤水が排水として湖に流れ込む。C)洗濯:ボージ
湿地プロジェクトが实施される以前、洗濯は湖の主要な汚染原因であった。プロジェクトによって、
洗濯を生業とする住民を下流に移住させ、そこに近代的な洗濯階段が建設され、上流のタンクから清
潔な水が供給されることになった。これによって 2 つの湖における洗濯作業による汚染の問題は解決
された。D)人的圧力:湖は近いので、人々は、家外の日常作業、例えば、衣服や車の洗浄、入浴な
どの目的で、下ボージ湖のひどく汚染された水をまだ使用している。より良い生活を求めて町に来る
新たな移住者や浮浪者は、安全な水が入手できないので、最低限の水需要を満たすために湖を利用す
137
る。E)人形の浸漬:上ボージ湖の汚染を防止するために、人形浸漬の場所は下ボージ湖に移された。
何千もの人形や墓が毎年 4 箇所で沈められ、重金属(人形や墓の色付けに使われる顔料中にある)を
含む大量の固形廃棄物による汚染が引き起こされている。F)アオコ:栄養分に富む下ボージ湖では毎
年アオコが発生している。アオコは冬と夏に発生し、この期間、湖水は濃い緑色に変わる。緑のアオ
コは毒性物質を作り出すので、人間がそのような水に触れると健康被害を引き起こす。G)よどんだ
深水層の除去:湖の底部は、年間を通じて流れ込んでくる下水によっていつもよどんだままである。
水をサイホンで取り除く、あるいは新しい堰を設置するなどの水質改善策が提案されているが、下ボ
ージ湖の保全にとって優先順位は高くないとの理由でまだ实施されていない。
ボージ湿地の保全・管理のための取り組み・対策
州政府の取り組みとして、業際的なプロジェクトが環境計画調整委員会によって策定され、資金援助
を得るためにインド政府森林環境省を通じて日本政府に提出された。日本国際協力銀行(JBIC)は、
プロジェクトの支援のために、5 つの領域にわたる 21 のサブ・プロジェクトを实施するために、24.7
億ルピーを提供した。主要なサブ・プロジェクトには次のようなものがある。1)土砂や雑草の除去、
2)植樹、3)集水域の清掃・美化、4)廃棄物処理、5)衣服洗浄場所の移転、6)下水の回収・輸送・
処理、7)放水路の底と幅の拡大、8)水産養殖、9)居住区域と湖の間に道路敶設、10)住民の意識啓
発センターの開設、11)湖岸に湖観察遊歩道の建設、12)住民の意識啓発と水質監視、13)老化した
アースダムの強化、14)道路の混雑を迂回する高い橋の建設、15)湖水に新鮮な酸素を送り込むため
の曝気施設の設置、16)マディヤ・プラデーシュ州全域の表流水資源保全の管理を行う湖沼保全局の
設立、など。
プロジェクトの定性的な評価
水質は湖生態系の基礎であり、水質の回復は保全対策における最優先課題である。ボージ湿地の場合、
上ボージ湖の水質は、下ボージ湖に比べてはるかに良好であるが、後者は、家庭から流れ込む下水の
野外曝気池になっており、水の変色(青から緑、さらに濃い緑)、放出される二酸化イオウ・二硫化
水素・アンモニアによる不快な悪臭、濁度の増加や透明度の低下、水生雑草の繁殖、生産性の増大
(しかし種の多様性は減尐し、魚の死は多くなっている)、栄養分の増大、窒素やリン濃度の増加、
などが起こっている。表 3 に、プロジェクト实施前後のボージ湿地の 2 つの湖の水質を示す。
表 3 プロジェクト实施前後のボージ湖の水質
パラメーター
PH
濁 度 (FAU)
全硬度 (mg/l)
全アルカリ度(mg/l)
溶存酸素 (mg/l)
BOD (mg/l)
大腸菌最確数(100 ml 中)
Mn (mg/l)
Pb (mg/l)
Cr (mg/l)
上ボージ湖
实施前
实施後
8.08-8.95
6.9-8.66
4-6
1-6
62-190
48-120
65-160
46-104
5-11.4
6.4-26.8
10-37.6
10.9-27.5
2400+
 2100
0.148
0.02
0.06
0.03
0.32
0.009
138
下ボージ湖
实施前
实施後
8.7+
8.54+
最大 42
最大 21
98-172
120-204
70-226
50-200
1.6-18.7
1.2-20
26+
最大 30
4400+
2400+
0.3
0.06
0.09
0.03
0.026
0.006
ボージ湿地の持続的な管理のための前提条件
プロジェクトを開始するに当たって、事前に上下 2 つの湖の環境について以下のような重要なデータ
が収集された。

上・下ボージ湖について、定量可能な水質パラメーターによる定性的・定量的な汚染レベルの評
価が行われた。

固形廃棄物の流入は、1 人 1 日当たり 300g と推定された。

湖への人的圧力の度合が見積もられた。

雤水とともに流入する土砂・土壌・瓦礫・死骸などが定量的に見積もられた。

雤水排水に混入する農業廃棄物や肥料・殺虫剤残渣が定量的に見積もられた。

土砂中の堆積有機物の量が推定された。

湖内栽培、レクリエーション、観光、社会的慣習、伝統的・文化的慣習の影響が定量的に評価さ
れた。
管理・保全施策の实施とその結果
A)湖水のオゾン処理:微生物汚濁・重金属汚染対策として、湖水のオゾン処理が、初めて上ボージ
湖で实施され、成功裏に終了し、オゾン処理が汚染負荷を軽減するのに有効であることが示された。
大気中の酸素を陽子性のオゾンに変換して湖水に送り込むことによって溶存酸素が増大し、湖水の微
生物をコントロールすることができる。オゾンは、消毒に極めて有効であり、水中の有機物質を酸化
しても、後に何の影響も残さない。このように、水の浄化、排水の処理、水生動植物相を保全するた
めの方法として、オゾン処理は湖をはじめとする水資源の管理と保全に非常に有望である。
B)有機農法の推進:上ボージ湖集水域は田園農地が大部分で、化学薬品を大量に使う農業が行われて
おり、高収量と害虫駆除のために使用される化学肥料や殺虫剤の残渣が汚染原因になっている。これ
らの残渣は、湖の栄養分を増大させるだけでなく、湖水に毒性物質を付与する。この状況を改善する
ためには、農業廃棄物から作られるコンポスト有機肥料を用いた有機農法が必要である。ボージ湿地
プロジェクトにおいては、有機排出物を肥やしに変えるために土着の方法が利用され、田園地域の多
くの住民が参加して、この取り組みを成功させた。
C)湖の土砂沈殿防止のための生物学的対策:コンクリート壁の代わりにバイオフェンスを設けたこ
とによって、費用が尐なくすんだだけでなく、共生可能な水辺環境を促進した。バイオフィルターに
捕獲された微小粒子が、いろいろな草の生長を促した。これらの草は、地元の人によって、ロープを
作ったり、小屋の屋根を葺いたりするのに利用されている。このような伝統的で、自然にやさしい対
策の推進は、田園地域の住民にとって大いに役立っている。
D)大型植物を制御するための草魚の導入:生物を利用した管理方式として、柔らかい大型植物、特
に沈水植物を食する草魚(CtenopharyNGOdon idella)が湖に導入された。この対策によって漁民の収
入が増え、社会経済的な状況の改善につながった。
E)人形浸漬場所の移動:インドや单アジア社会において、祭りの最後行われる「人形浸漬」は、知恵
の神ガネーシャ(Lord Ganesha)を崇めるための社会・宗教的な慣習の 1 つである。別の宗教では、墓
(タージャ)が同様に毎年祭りの後で沈められる。残念なことに、そのような行為は、水環境をひど
く汚すものである。大量の土砂堆積(人形の材料、例えば、漆喰、鉄の棒、厚板など)や毒物混入
(人形の色付けに使う合成ペンキや顔料など)の痕跡が確認されている。上ボージ湖のような飲料水
源への汚染のインパクトは健康の面からも大きな関心事である。ボージ湿地プロジェクトにおいては、
人形の水中浸漬が湖の水質に及ぼす悪影響について集中的なキャンペーンが行われ、その中で行なわ
れた関係者による広範な対話をつうじて解決策が見出された。その結果、住民は、浸漬場所を上ボー
139
ジ湖から下ボージ湖へと移動することに同意した。人々の宗教的な感性を考えると、この対策はボー
ジ湿地プロジェクトの中で最も意味の大きい成果の 1 つであった。
F)水辺栽培:水辺栽培はインドの多くの湖で行われているが、大規模な栽培は上ボージ湖に特有なも
のである。現在、水辺栽培の廃止に向けた第 1 段階としてヒシの栽培地帯が制限されている。
G)上ボージ湖におけるモーターボート運転の制限:湖の水辺は、通常、都会の人たちにレクリエー
ションの場として利用されている。現在、上ボージ湖では、ボートの運転は制限されており、さらに、
湖に及ぼす悪影響についてたえず監視が続いている。
H)資源の再利用:湖で収穫された植物性バイオマスは、コンポストにして肥料として利用されてい
る。農家は、農地を肥沃にするために、収穫したバイオマスを利用してコンポストを作っている。除
去した土砂物質も土壌の生産性を高めるために利用されている。
I)人間活動の規制:さまざまな活動を通じて湖の受益者や利害関係者の意識が高まり、湖への人的圧
力が減尐した。固形物の投棄、入浴、衣服や車の洗浄などを規制したことによって水質が改善した。
洗濯業者や洗濯行為の湖下流域への移転は、湖に依存している人たちの生計を損なうことなく、汚染
問題を解決した好例である。
J)ホテイアオイの生物学的コントロール:ホテイアオイを生物学的にコントロールする既存の方法を
再検討し、現地の条件に即した实験が行われた。また、湖のホテイアオイ量を減尐させるために、ゾ
ウムシが導入された。
K)下水と雤水分離のための 2 階立てシステム:インドでは、下水・排水、雤水を共通の排水管で都
市にあるセンターに集めて、輸送するのが一般的であるが、これら(下水・排水と雤水)を分離する
必要がある。そのために、これらを別々に流す 2 階立てシステムが提案されている。
L)湖周辺の規制:湖資源の長期的な保全を考えると、湖周辺の土地利用が重要である。上ボージ湖で
は湖の周囲 150mが建設禁止の生態保存地域に指定された。下ボージ湖では、30mが同地域に指定さ
れた。この重要な意思決定は湖に好ましい影響を与えるだろう。
得られた教訓
1.
統合的湖沼流域管理を实践できるかどうかが、湖沼生態系の持続的な利用の鍵を握っている。特
に、流域において自然にやさしい有機農業を实践すれば、現行の農業のように化学肥料や殺虫剤
を多く使わないので、汚染が低減される。
2.
湖沼に依存している地域住民や市民のような利害関係者の参画は必須である、何故なら、政府行
政機関だけでは湖沼管理対策計画を成功させることはできないからである。特に重要なことは、
湖沼に依存している地域住民(漁民や洗濯業者)の利益を十分考慮することである。
3.
リクリエーション活動(モーターボート、入浴など)が、湖の水質に悪い影響を及ぼさないよう
監視が必要である。
4.
環境にやさしい技術(湿地造成、生物学的濾過、自然の橋、雑草や魚類資源の回収・捕獲)は、
下水に起因する富栄養化の進行を抑えるのに有望である。
5.
下水と雤水の排水を区別することは、湖の水文的なバランスを保つための前提である。この考え
方は計画段階で盛り込まれており、下水が混入して雤水と一緒に湖に入らないようにチェックさ
れる。
6.
湖の水質、生物多様性、外来侵入種の影響をたえず監視することは、生物多様性の保全計画にと
って必須であり、湖が生物学的に健全であるための鍵をにぎる。このようなデータや関連情報の
収集は、再生対策や保全戦略の立案に必須である。
140
7.
湖沼環境とその保全や科学的管理に向けた啓発は、湖の持続性を促進するための重要な要素であ
る。湖沼情報センターや博物館の設立は、湖生態系保全の必要性に関する情報と意識啓発を進め
る重要な手段となる。
8.
湖の保全は、極めて業際的で、他分野にまたがる問題であり、関係部局間の緊密な協力や調整と
住民の参加を必要とする。人々に水の安全を保障することの重要性を考えると、湖沼資源の保全
と持続的な管理のための機関が必要である。マディヤ・プラデーシュ州はそのような機関をもつ
インドにおける最初の州である。
謝辞
著者は、このレポートを書くに当たって、マディヤ・プラデーシュ州の湖沼保全協会の専務理事から
貴重な助言や援助を賜った。また彼の同僚からも支援と協力をいただいた。
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[email protected]
141
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地域住民の熱心な参加によるチリカ湖の自然環境の再生
A. K. Pattnaik, IFS
Chief Executive, Chilika Development Authority
C-5, BJB Nagar, Bhubaneswar-14, Orissa, India
Tel: 91-674-2547850, Fax: 91-674-2547840, Cell: 91-09937083636
Email: [email protected], [email protected]
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要旨
チリカ湖はインドの東沿岸にある最も大きな湖であり、ラムサール条約の指定湿地である。また、海
水、汽水、および淡水の生態系が集まる独特な性格を有する河口湖である。この湖は、漁業資源が豊
富で、多種多様の生物が棲息するために非常に生産性が高く、湖とその周囲で生活する 20 万人以上の
地域住民の暮らしを支えている。湖の生態系は、淡水流入量の変動、土地利用の変化や流域の务化に
よる土砂堆積と連動して起こる湖の開口部の閉塞や移動などの問題に直面していた。このため生態系
が変化し、チリカ湖は、1993 年にモントルー・レコードのリストに加えられた。
このことを懸念したオリッサ州政府は、1992 年に湖の再生と統合的管理のためにチリカ湖開発局
(CDA)を創設した。同開発局は、広範な協議と目標を明確にした科学的な研究の中から生まれた適
応型管理計画の中に、沿岸部の事象と流域の問題を組み入れるという包括的な取り組みを行なった。
適応型管理計画は、複雑な生態系の問題に対処でき、かつ地域社会の欲求と要望に応えられる十分な
柔軟性を有するものであった。水文体系の改善に向けた取り組みと参加型の集水域管理によって、湖
生態系の機能的な健全性と、地域社会の生産性・生計の改善がもたらされた。
このユニークな湿地の復元のためにチリカ湖開発局が採用した管理手法は、集中監視・評価システム
と目標を明確にした科学的研究と管理対策を結びつけた点に特徴があり、「生態学的なアプローチ」
に基づいている。また、湿地帯の再生が、生態系の改善だけでなく、地域社会にも非常に利点をもた
らすものだということを示した。
これらの対策の实施によって、チリカ湖はモントルー・レコードから削除され、さらに、利害関係者
が熱心に参加して模範的な再生事業に取り組みんだことが認められ、栄えあるラムサール賞がチリカ
開発局に授与された。同開発局による取り組みが、WLV の原則に合致している点は注目に値する。チ
リカ湖の事例研究は、疲弊した水生生態系の再生に生態学的なアプローチが成功するということを示
すものである。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
はじめに
チリカ湖はインドの東沿岸にある最も大きな湖で、北緯 19 度 28 分~19 度 54 分、東経 85 度 5 分~85
度 38 分に位置している。湖は、海水、汽水、および淡水の生態系が集まった独特な性格を有する河口
湖である。壊れやすい生態系を有するチリカ湖は、その驚くべき生物多様性で知られていて、ラムサ
ール条約指定の湿地帯であり、100 万羽以上の渡り鳥にとって雄大な越冬地となっている。この湖の生
態系は、豊富な漁業資源によって非常に生産性が高く、湖の内外で生活する 20 万人以上の地域住民の
暮らしを支えている。
湖が直面する問題と課題
チリカ湖は水文学的には、3 つの支流域、i)マハナディ川の分流系、ii)集水域西部から湖に流入する
小さな河川群、iii)ベンガル湾への干満による放出路、の影響を受ける。マハナディ川上流の大規模
な水力発電施設の建設によって、同川がチリカ湖に流入するパターンが変化した。ベンガル湾の沿岸
142
に沿って湖岸に土砂が堆積し、湖の開口部は毎年海の方に移動していくようになった。入江は、湖の
塩分体系を決めるうえで重要な役割を果たしており、それによって、海から自然の塩分補充や産卵の
ための種の移動、あるいはその逆のことが起きる。流域からの淡水の流入と海水の流入から生ずる塩
分の空間的・時間的な勾配が、湖の生態系にユニークな特徴を与えるとともに、その生態系における
種の淘汰にたえず影響を及ぼしている。湖を淡水生態系へと変えるような水文学的変化は、このユニ
ークな生態系の生物相と生産性に対する潜在的な脅威とみなされた。またこのような変化は、流域か
らの流入パターンの変化と沿岸作用のためにもたらされると考えられる。生態学的な特性が务化して
きたために、チリカ湖は、1993 年にモントルー・レコード(危機に直面しているラムサールサイトの
リスト)に加えられた。湖は、海とつながる排水口が部分的に閉じただけでなく、土地利用パターン
の変化と流域の务化による土砂堆積にも直面した。その結果、塩分が減尐し、侵入種の増殖、汚濁の
増加、水面の縮小、漁業資源の減尐、全体的な生物多様性の損失などを招いた。広範な生産性の低下
によって地域住民の暮らし向きも低下した。
戦略と行動
このことを懸念したオリッサ政府は、1992 年、生態学的アプローチで湖の統合的管理を進めるために
チリカ湖開発局(CDA)を創設した。20 万以上の地域住民が湖沼資源に依存していることを考えると、
湖の復元に向けた成功の鍵は人々の参加にあり、彼らの支持なしでは復元計画の持続性は保証されな
いということは分かっていた。しかし、生産性の急激な低下によって湖に望みを失った多くの利害関
係者を抱えていたチリカ湖の生態系復元の取り組みは大変困難な仕事であった。復興計画の立案にあ
たっては、できるだけみんなが参加できるように知識ベースの共有や活用が積極的に行なわれた。同
開発局は、湖沼とその流域管理の中心に「地域住民参加」の原則を採用した。地域住民は、知識と経
験を共有するための教育とその機会を与えられた。彼らは資源管理のために地域レベルの非公式機関
を作り、能力強化のための支援を受けた。これらを实施するために、同開発局は、湖沼生態系の価値
と機能を(住民に)理解してもらうことに力を注ぎ、入念に練りあげられた住民向けプログラムを实
施した。チリカ湖のような複雑で敏感な生態系の復元には、広範な協議と多くの科学的な研究とその
成果に基づいた慎重な計画が必要である。このために、チリカ湖開発局は、地域社会の智恵と適切な
科学理論の 2 つを再生計画の中に融合させることを試みた。チリカ湖開発局の使命は、資源利用者の
利益のために湖沼とその流域を管理することにあるのである。
实施された対策―WLV の原則との関連
興味深く、また驚くべきことに、チリカ湖開発局が、チリカ湖の復元と管理のために採用した戦略は、
以下のように WLV の原則に則している。

原則 1:地域社会は、湖の生態系を構成する一部であると考えられる。復元計画をできるだけ包
括的なものにするために、地域社会から広く意見が求められる。地域社会のニーズ、価値、考え
方を分析することは、湖沼とその流域の管理にとって中核を成すものであると考えられた。

原則 2:流域の管理とは、まさしくその初期段階から管理計画までを統合したものである。流域
管理の取り組みは、小流域を機能卖位とする長期的な参加プロセスである。この目標に到達する
ために、地域住民は、能力向上を通じて力をつけ、小流域ごとに計画を作成し、实施することが
できるようになる。
143

原則 3:チリカ湖開発局は、権威ある科学機関に、湿地务化の根本原因を追跡するよう依頼し、
治癒的な対策でなく、湖の生態系の更なる务化を防ぐための長期を見据えた持続的な解決策を選
択した。このような解決策は、地域住民が積極的に参加し、务化の進行を阻止し、湿地流域の社
会的公平と持続可能な管理を实現することによって達成される。

原則 4:戦略目標を明確にした科学的研究の成果が管理計画に取り込まれた。また、地域住民の
意見も科学的研究を通して検証された。

原則 5:参加型の計画立案作成と権限付与によって、湖沼と流域の長期にわたる紛争が解決され
た。草の根レベルで意思疎通の改善をはかり、天然資源管理に対する包括的な取り組みを实施す
ることによって、集落で長期間続いた紛争や意見の違いが解決された。より効果的な紛争の解決
策によって、法廷でも解決されなかった痛ましい犯罪件数が大きく減尐した。

原則 6:天然資源管理計画の作成・实施および責任ある政策決定に地域住民や利害関係者が参加
することは、チリカ湖開発局が採用した取り組みの大きな特徴である。その基本は、最初に住民、
地域組織および NGO の能力強化を通じて適切な環境を作ることであり、次いで地域住民による統
合的で総合的な管理を促進するために、ニーズの高い一連の研修プログラムを行なうことにある。

原則 7:チリカ湖開発局による再生運動の一つの特徴は、合法性、公正、知恵、受容性、透明性、
説明責任などと並んで、計画と管理において良好なガバナンスが理想的な手順を踏んで实施され
たことにある。
湖の再生
この複雑な生態系を明瞭に理解するため、国の権威ある機関が、湖沼生態系の悪化の根本原因を突き
止めるために集中的な研究を行なうよう依頼された。このような科学的研究から得られた貴重な結果
を基に、中央水力調査局(CWPRS:Central Water and Power Research Station)は数値モデルによる研究
を進めた。その結果、主要な水路に沿って浅瀬が形成され、河口が継続的に移動したために大幅な水
圧ロスを引き起こし、そのために湖への潮汐の流入が大幅に減尐したと結論付けられた。モデルによ
る研究結果をもとに、CWPRS は、新しい放水口を湖により近い所に開けるよう提言した。地域住民は、
村の会合で、草の根 NGO や住民組織から、研究の結果について説明を受けた。面白いことに、人工的
に開口部を設けることは、ずっと昔から地域社会の願いであったことが会合の間に明らかになってき
た。水文学的な復元を図ることは、複雑な湖の生態系を再生させるための必須条件であった。その結
果、もっと生態学的に有益な水文学的なシステムを選択し、水質を改善し、重要な生物の失われた生
息場所を再生し、漁業資源を増大させ、外来種を制限するという戦略が採用された。科学的調査結果
と地域社会の支持で、非常に説得力のある再生計画ができあがり、その結果、チリカ湖開発局は、再
生計画を实施するための資金をインド政府から受け取ることができた。CWPRS の提言にもとづいて、
2000 年 9 月 23 日に、新しい開口部が開けられ、流出水路の長さを 18km 減らすことになった。さらに、
海と湖(湖と海)の間で適正に水が出入りできるように主要な水路の土砂も除去された。また国立海
洋研究所によって、水文学的施策の前後で環境影響評価が实施された。
地域を基盤にした集水域管理
湖の集水域は湖沼管理の論理的な出発点となった。環境流量の評価は、湖の生態学的な健全性を維持
するうえで、流域からの淡水の流入が果たす重要性について必要な手がかりを提供してくれる。集水
域からの大量の土砂流入(流量測定をもとに評価して 36 万 5000m3)が管理上の最も大きな問題の一
つであるということがわかった。更なる評価で、流域の土地务化は、湖への土砂流入を増大させるだ
144
けでなく、流域の低い生産性を招き、その結果、貧困の根本的な原因の 1 つになることが分かった。
流域の地域住民の主要な生計手段は、年に一度の天水栽培である。年間平均雤量は 1,400mm であるが、
平均雤量は年によって変わるので、全面的な不作、もしくは部分的に不作になることはしばしば起こ
る。集水域住民に持続的な収入を生み、充分な雇用機会を与えることができるはずの生態系があるに
も拘わらず、基本的な生命維持システムの务化のために、農業生産性は低いままであった。この結果、
生活は圧迫され、仕事を求めて州の外へ移住することになっていた。生産高は、豊作の年でさえ、1 エ
ーカーにつき 5~8 キンタルという低さであった。
天然資源の総合的な管理を目指して、革新的な参加型小規模集水域管理の考え方が、「持続可能な田
園生計」への取り組みとともに導入された。この管理の目指すところは、権限付与を通じて意思決定
と能力向上を図り、住民が共同で取り組めるように支援することにある。その目標は、地域住民に権
限委譲を図り、集水域内の生産高を高めるために、彼らが生活支援システム、特に土地と水などを管
理することによって、务化した状況を修復し、地域社会の貧困の緩和と暮らしを改善できるようにす
ることにあった。小規模集水域内の务化した生活支援システムの再生と保全が集中的に行なわれた。
この目的に向けて革新的な草の根レベルの取り組みがチリカ湖開発局によって導入された。そのため
に、天然資源を持続的かつ最適に利用することと生産性の向上によって、個々の小集水域内の土地も
なくわずかな収入しかない百姓や女性達に、等しく生活の機会を与えることを目的に、土着の智恵と
専門家の適切な助言を取り入れた小規模地域計画が作成された。地域住民が持続的に参画できるよう
に、集水域の財産を維持、改善していくための集水域開発基金がプロジェクトの終了後に創設され、
修理費用の一部を住民が分担することが確認された。集水域協会と集水域利用団体は、地域住民との
話し合いを通じて効率的に小規模計画を实施することができた。
生物多様性保存と地域社会
チリカ湖の生物多様性は非常に広大であり、それらはエコ・ツーリズムを計画するための豊富な材料
となる。チリカ湖開発局は、地域住民、湖周辺に暮らしている無職の若者たちの収入源として、地域
を拠点にしたエコ・ツーリズムを推進した。チリカ湖は、毎年百万羽以上の渡り鳥の越冬地である。
残念ながら、湖沼資源とその生産性が低下したため、地域の人々は、生計を立てる手段として渡り鳥
を密猟するようになっていた。この問題を解決するため、開発局は、失業中の若者たちに、保護地区
となっている鳥の密集地域の自然案内人としてのトレーニングを始めた。これは地域の若者たちに収
入を提供するものであった。この取り組みを支援するため、観察台、自然遊歩道、船付き場が開発局
によって造られた。驚くべきことに、今では、地域が保護している鳥の自然保護区外でも、多くの鳥
が見られるようになった。カワゴンドウは、チリカ湖の最も重要な生物である。20 万人以上の人々が
イルカ観察のためにチリカ湖を訪れ、地域の人々が自分達のボートに旅行者を乗せてイルカ観察に案
内する。この目的のために 350 隻以上のボートが使用されている。開発局は、能力強化のプログラム
を通じて、失業中の若者たちのために旅行者ガイドのトレーニングを施している。驚くべきことに、
ボート協会の会員が、この重要な生き物の保護大使として、毎年 9 月 8 日にイルカ保護活動を行なう
ようになった。さらに彼等は、プラスチック禁止などの具体的な行動によって、湖保全のために必要
な意識啓発を行なっている。観測によれば、湖のカワゴンドウの数は増加しつつある。
145
住民への周知活動
NGO と草の根レベルで活動している地域協議会によって「チリカ湖保全キャンペーン」というネット
ワークが設立されている。その土地の言語で書かれたニュースレターが、年 4 回、地域の NGO と協力
して発行されている。ニュースレターの基本的な目的は、利害関係者にチリカ湖開発局のいろいろな
取り組みや提言、さらに科学的な研究および監視結果などについて最新情報を伝えることである。村
の学校の先生や環境保全を指導する人たちは、地域の問題を明確にするための記事を書くよう依頼さ
れている。ニュースレターには、湖や集水域の天然資源の賢い利用法や優れた实践事例に関する記事
の専用コーナーがある。チリカ湖の生態系を紹介するために、観光実への情報案内やオリエンテーシ
ョンを行う観光案内所も造られた。世界湿地デーのお祝いなど、多くの広報活動が地域の NGO と協力
して实施されている。能力強化活動によって力を付けた女性達も本格的な活動に組み入れられ、「自
助グループ」を結成して、そこで家計所得を補うために収入を得る活動をしている。地域住民が生態
系に関して必要な知識を充分持っていることが分かり、土着の知識も至る所で活用されはじめた。こ
のように、管理が成功すると自分達が直接利益を受けることになるので、住民は自分たち自身で好ま
しい实践活動を行なうようになった。
監視と評価
河川流域からの最適な流量の調査を決めるための監視と評価など、湿地帯管理のための研究研修セン
ターが設立され、監視業務やモデリングの検討を行うのに必要な設備(GIS、遠隔探査のツールなど)
が整備された。
保全活動の成果
湖沼生態系に及ぼす水文学的施策の影響
人工的に開口部を造り、水路にたまった大量の土砂を取り除くという水文学的な施策は、湖沼生態系
を蘇らせただけでなく、地域社会の生活を改善する手段としても非常に有効であった。開口によって、
塩分勾配が大幅に改善した(例えば、開口前、湖北の塩分濃度は一年中ほとんどゼロであった)。季
節ごと、また区域ごとに特徴を有する生態系であるためには、塩分濃度が湖口から湖本体に向けて
徐々に減尐するような塩分勾配が望ましく、また塩分勾配が季節によって変わらず、理想的にはでき
る限り一定であることが好ましい。開口以前には湖の塩分濃度が突然変化することがあったが、それ
は生物にとっては有害で好ましくない。開口によって、塩分濃度は湖口から湖の内部方向に向けて段
階的に減尐するようになり、海から湖に入る広塩性の生物の方向感覚に沿ったものとなった。これに
よって、魚類、海老、そして蟹の稚魚などが湖に自然に回帰するようになった。開口以前は、年平均
わずか 1,600 トンであった漁獲量(魚と海老)が、2003 年から 2004 年にかけては今までで最高の
14,000 トンに達した。このように、開口前と比較して平均漁獲高が 8 倍にも増加した。また新しく開
口したことによって、湖から絶滅したと考えられていた 6 種類の魚類や商業価値の高い海老の 1 種が
再び湖に戻ってきた。漁業資源が増大したので、住民は、自ら始めた良い習慣(網の目サイズの規制
や稚魚密漁の中止など)をさらに進んで行なうようになった。
集水域
小規模集水域における参加型管理は、貧しい人たちの陸上や水域の活動から得られる収入を増加させ、
借金を減らし、生活と食の安全の改善によって貧困の緩和につながり、さらに環境の悪化を抑え、同
時に湖に流れ込む土砂の低減をもたらした。最もめざましい成果の一つは、地域の住民が設計し導入
146
した、一連の雤水獲得構造物である。これにより彼等は、帯水層を充填し、地域の環境と経済を改善
することに成功した。このシステムの利点は、雤水を貯めると同時に、田畑、特に下流にある田畑に
水を供給できる点にある。この雤水捕獲システムの構築によって、天水田の生産量が増大し、不安定
な降雤によって穀物が不作に陥ることも無くなった。農夫達は、水が確保できるようになったので、
主作物を刈り取った後、次の市場作物として、麦や向日葵、食用の豆類などを栽培し始めた。卖位面
積あたりの収量は、1 エーカーあたり 8~10 キンタルに改善した。雤水捕獲システムは小さなものであ
るが、すぐに新たな結果が出る。最も目に見える変化は、井戸には水があり、村には緑地が見られる
ことである。プログラムの实施後、農業生産性が向上し、現在では、毎年 2 種類の作物を育てること
ができると村人は言う。農作物の生産が増加し、土地を持たない労働者にも雇用機会ができたので、
転出する人の数も大幅に減尐した。草の根レベルで行われる天然資源の総合管理も紛争解決に役立っ
た。長年の村同士の紛争や小規模集水域内での意見の対立は、参加型の管理によって解決された。さ
らに、参加型管理によって、旱魃に対する生態系の脆弱さが緩和され、小作農民の収入が増え、土地
を持たない人たちの賃金労働の機会が増大し、最貧困層の人々に利益が公正に行き渡るようになり、
環境务化が抑えられ、辛い仕事が減尐した。特に、貧しい人たちの陸や水の仕事から得られる収入が
増加したので、借金が減り、生活と食の安全の改善によって貧困の緩和に繋がった。また環境悪化が
抑えられ、湖に流入する土砂が減尐した。さらに、この取り組みは、自助グループ活動と集水域管理
への活発な参加を通じて地域の女性を教育し、彼女たちを本格的な活動の中に統合していくうえで先
導的な役割を果たした。
生態系の改善
湖は繊細な生態系であり、湖に対するさまざまな管理施策の影響を評価するために詳細な監視活動が
行なわれている。すなわち、生態系の異なる湖の 4 つの地域全てをカバーするように 30 の固定点で観
測が行われ、30 日ごとにデータが収集される。生態系の変化を追跡するためにいくつかの特性指標が
選定され、湖沼生態系を監視するためには遠隔探査と GIS ツールが使用されている。監視結果によれ
ば、開口以後、海草の生育領域が広がり、その種類も増えた。絶滅の危機にあったカワゴンドウの生
息域の拡大も観測されている。塩分濃度の低下によって侵入性の淡水植物が増殖していたのである。
淡水性水草の面積は 1972 年の 20km2 から 2000 年 10 月には 523 km2 に拡大し、水草のない面積はわず
か 334km2 まで減尐したが、開口によって、水草のない面積は 506 km2 まで拡大した。
得られた教訓

この再生モデル事業の主要な特徴は、集水域の統合的な管理と、地域住民の熱心な参画による意
思決定プロセスの推進にある。

生態学的な取り組みに基づいて順応的・逐次的な計画が立案され、地域住民の熱心な支持を得て
計画が实施された。

この再生モデル事業は、従来の縦割り的な取り組みからのパラダイムシフトの一例であり、地域
の関係者が、技術、制度、社会市場形成に取り組んだものである。

この再生運動の取り組みは、統合的水資源管理が湿地とその流域の再生を成功させるために必須
であることを示している。

この取り組みは「生態系は水の正当なユーザーであり、生態系と人間の生活には強い関連がある」
という概念を主軸にした取り組みの一例でもある。
147

環境にやさしい行動によって、持続性の鍵となる湿地や流域の生産性が向上し、漁師や流域住民
の貧困の緩和につながった。

チリカ湖開発局は生態学的なアプローチでこのユニークな湿地の再生を目指したが、その取り組
みの独自性は、集中的なモニタリングと評価システム、目的追求型の研究と管理施策の間との連
携にある。

生態系が提供する資源やサービス(住民の暮らしを支えている)について、住民の理解を得るた
めに地元 NGO と協力して広範囲な住民への周知プログラムを实施した結果、利害関係者の多くが
参加した。

再生モデル事業の重要な要素の 1 つは、ネットワーク、協議と調整を通じて築かれた良好な戦略
的パートナーシップである。

チリカ湖開発局による再生事業のもう一つの特徴は、「良好なガバナンス」であり、取り組みの
中では、合法性、公正、知恵、許容性、透明度、責任の概念はもちろん、計画作りや管理面にお
いても理想的な手順が踏まれたことにある。

チリカ湖開発局は卓越した資金管理と戦略的な計画立案を行なった。彼らは、インド政府からの
限られた補助金を有効に活用し、この広大な湿地と集水域再生のためのすべての施策を海外資金
に頼ることなく实施した。

再生モデル事業の基本的価値は地球規模の意味を持っている。この取り組みをさらに普及させる
ためにチリカ湖開発局が实施した多くのワークショップや現地調査には、海外の湿地管理者も参
加し、彼らの励みになっている。
このような成果は、チリカ湖が 2002 年 11 月 11 日付けでラムサール事務局によってモントルー・レコ
ードから除外されたという事实からも証明される。チリカ湖はアジアで初めてモントルー・レコード
から除外された湿地である。またチリカ湖開発局には、地域住民の熱心な参加による湖再生という素
晴らしい取り組みを行なったということで、栄えあるラムサール湿地賞 2002 およびインディラガンジ
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148
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
フセインサガール湖の保全(インド、ハイデラバード)
Mohan S. Kodarkar
Secretary, Indian Association of Aquatic Biologists (IAAB),
No. 104, V.K.Dhagenagar, Gaddiannaram,
Hyderabad – 500 060, Andhra Pradesh, India.
E-mail : [email protected]
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
要旨
インド、アンダール・プラデシュ州にある双子都市、ハイデラバードとセクンデラバードの間にある
フセインサガール湖は、450 年近く前の 1562 年に建設され、インド半島の半乾燥地域における水保全
の「工学上の奇跡」であるとともに伝統的な知恵の象徴である。都市化・工業化が高度に進んだ
275km2 の湖の集水域には 4 つの主要な水路から水が流れ込み、インド半島デカン高原の地勢学的な特
徴を活かして造られた溜め池の 1 つである。残念なことに、湖の生態系は 20 世紀の後半、未処理の家
庭排水や産業毒性物質の汚染によって、前例のない広範囲にわたる環境破壊を被った。密漁、超富栄
養化、広範な地下水汚染、生物多様性の喪失、病原菌媒介生物の繁殖、頻発する魚の死などのために
湖は破壊され、縮小した。湖汚染の最大の被害者は、漁師、小規模酪農家、洗濯業者など社会的弱者
に属する住民であった。
これを受けて、「湖を救おう」という市民運動が 1990 年に起こった。州政府は、いくつかの法的対策
を取ったあと、オランダ政府の資金援助を受けて「ハイデラバード環境緑化プロジェクト(GHEP)」
という総合的な湖の保全・保護プログラムに着手した。この取り組みのもとで实施された再生対策に
よって、汚染された湖は都会のゴミ溜め場から休息や憩いの場に変わった。このプロジェクトで实施
された主な対策は、(1)湖の周囲に、公園、緑化地帯や休息の場を設置する、(2)密漁阻止のため
に湖岸に沿って道路を建設する、(3)産業排水を下流域に分水する、(4)湖の水体系を維持するた
めに 20,000 トン/日の下水処理場を建設する、(5)湖沼管理に利害関係者を参画させる、などである。
さらに日本国際協力銀行(JBIC)の資金援助を受けて湖生態系の環境改善のための対策が提案されて
いる。主なものは、(1)下水を 5 箇所で堰き止め・分水し、50,000 トン/日の第 2 の下水処理場を建設
する、(2)堆積した栄養分や毒性廃棄物を除去するために 5 箇所の入水ポイントで浚渫を行う、(3)
廃棄物汚染防止を目的に、住民を中心とする固形廃棄物管理を实施する、(4)藻や植物を定期的に刈
り取る、(5)魚場を導入する、などである。
フセインサガール湖は、湖の生態系が適正な原則に基づいて管理されるようになった最初の都市湖で
あり、インド、ハイデラバード都市開発公社(HUDA)によって实施されたこの湖保全事業は单アジ
アの都市湖沼保全の良いモデルになるだろう。
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はじめに
双子都市、ハイデラバードとセクンデラバードの間にある美しいフセインサガール湖は、インド、ア
ンダール・プラデシュ州の中で生態系および文化の陸標となるものである(図 1)。湖は、主として
飲料水を蓄えるために 1562 年に建設され、单インドの主要河川の 1 つであるクリシナ川の支流である
ムシ川から水を引いている。この湖はデカン高原にある何千もの溜め池の代表的なものであり、年間
平均 800mm の半乾燥地域の表流水を貯えるために建設された。清廉な湖が全面的に汚染されてきたの
はつい最近のことであり、無計画な工業化と都市化の直接的な結果である。かつては汚染が進んだ湖
であったが、今では「非接触の水上スポーツ」や憩いの場として広く利用されている。
149
この数年間に实施された水質浄化策を含む湖の環境を取り戻すための集中的な努力・対策とその成果
は、单アジアの都市湖沼にとって良い模範となるだろう。またフセインサガール湖の保全を進める中
で、水質、汚染防止、湖の美化などが進み、湖の社会・文化的および観光資源としての可能性も重要
視されるようになった。このような背景もあって湖の中心 Gibraltar の岩に立つアジア最大の壮大な釈
迦像は、アメリカの自由の女神のような主要な観光名所になった。インド政府や国際機関の資金援助
のもとで、湖の環境が大きく改善したことによって、ハイデラバードは世界的な観光地になり、湖は、
歴史ある都市と地域の社会・文化を代表する陸標としてよみがえった。
フセインサガール湖の地勢(表 1)
フセインサガール湖は、北緯 15 度、東経 78 度、海抜 510mにあり、西側をバニヤラ丘陵に接している。
その 275km2 の集水域は、さらに 4 つの支流域、クカトパリ、デュラパリ、ボワンパリ、およびユスフ
グダに分けられる。集水域の中で最も高いのは北側(642m)、最も低いのは堤防近くで(500m)、
单北に約 142mの高低差があり、その間の距離は 17km である。湖にはヌラー(nullah)と呼ばれる 4
つの水路、クカトパリ(70,000 トン/日)、ピケット(5,700 トン/日)、バニャーラ(6,000 トン/日)、
バルカプール(13,300 トン/日)から水が流入する。4 つの流入口のうち、クカトパリ水路は 168km2 の
流域面積を有し、クカトパリとバラナガールという 2 つの大きな産業地域を経由する重要な水路であ
る。
表 1 フセインサガール湖の地形学的緒元
建設された年
流域面積
湖のみの集水域面積
湖岸線の長さ
最大表面積
貯水量
1562 年
240km2
67km2
14km
5.7km2
27.1 百万トン
平均水深
深さの変動幅
貯蔵量 (spill)
最大操作水面(海抜)
常時操作水面(海抜)
堤防の高さ(海抜)
5.2m
1~12m
28.6×106m3
514.93m
513.43m
518.16m
湖が直面する課題・問題
干拓と侵犯:この 50 年の間の急激な都市化によって、湖の周辺は最も密集した地域となり、その形態
を大きく変えた。今日、湖の面積は前世紀中期のころの 3 分の 2 ほどしかない。もともと岸辺の大半
の地域は不法に侵犯され、後で政府によって合法化されたものである。州政府自身も湖の周囲で干拓
を進め、道路、立体交差、庭園などを造って、水辺を狭めてきた。例えば、1994 年以降「Buddha
Purnima プロジェクト」のもとで大規模な干拓が行なわれ、周回道路、3 つの庭園(Lumbini park,
Sanjivaiyya Park、Rotary park)、Jal Vihar、Food jaunts のようなレクリエーションの場が造られた。不
思議なことに、これらの開発計画や管理施策が終了するたびに湖の形状は次第に小さくなっていった。
下水や都市排水による汚染:都市化や工業化によってもたらされた悪影響の 1 つは、汚染による水質
の悪化である。湖の流域で急速な変化が起こり始めたのは前世紀の初頭からであるが、この重大な問
題に対してほとんど関心が払われてこなかった。湖沼流域管理の欠如、特に適切な下水処理シシテム
や工業廃水処理施設を造らなかったことが、水環境の急速な悪化の原因である(表 2)。
この 100 年間、2 つの支流域(クカトパリ、デュラパリ)で工業化が著しく進んだ。クカタプリ支流域
では 3 つの工業地域(クカトパリ、バラナガール、サナツナガール)、デュラパリでは 1 つの工業地
域(ジェーディメトラ)が、産業振興計画のもとで工業化の拠点として開発が進んだ。4 つの工業地帯
150
のうち、クカトパリおよびバラナガール地域が、特に湖に悪影響を与えている。300 の工業プラントで
製造される製品は、化学薬品、有機物、医薬品、薬物、生化学製品、合成化学品、洗剤、電池、蒸留
製品、合金、ゴム製品など多岐にわたり、そこから出る排水は湖に有害な廃棄物を持ち込む。管理保
全施策の一環として、これらの産業排水をせき止め、分水や廃水処理が行われてはいるが、処理能力
以上の排水があり、クカトパリ水路からの湖への有害排液は流入し続けている。
表 2 フセインサガール湖への流量(乾期)
水路
流量(千トン/日)
下水
工業排水
総量
ピケット
5.7
-
5.7
クカトパリ
バニャーラ
バルカプール
合計
55
6
13.3
80
15
15
70
6
13.3
95
備考
汲み上げ後の堰き止めと分水。下水処理場(能
力 3 万トン/日)が提案されている。
堰き止めと分水
堰き止めと分水
下水処理場(能力 2 万トン/日)
2 つの下水処理場(能力 5 万トン/日)
自然および人的な原因による土砂堆積:集水域での建設活動に伴う土壌侵食は大量の土砂を生み、そ
れが雤水とともに最終的には湖に流れ込む。同様に、伝統的な祭りガネーシャ、Durga Puja では、最
後に大量の土製の人形を湖に沈める。これらの行事では、大量の土砂に加えて、人形作成時に使われ
る献花、ペンキ、顔料、木製・鉄製の枞などが毎年湖を汚染している。最近では、これらの問題を解
決するために人形のサイズを小さくし、粘土や自然の絵の具を使い、人形を浸漬した場所の土砂を除
去したり、浚渫したりするなど、自然に配慮した対策が取られるようになっている。
富栄養化:フセインサガール湖については多くの研究がこの 50 年間に行なわれている。初期の陸水学
レポートには、1970 年までは湖は汚染されていなかったという明白な記述がある。その後の生態系悪
化の直接的な原因は、家庭排水に基づく栄養分であり、調査によれば、1 日 1,041kg のリン酸塩と
1,204kg の窒素化合物が湖に流れ込んでいると推定されている(Kodarkar et al., 1991; Reddy et al.,
2002)。湖に流入する大量の窒素化合物の大部分は堆積土砂の中にトラップされ、一部は水中の栄養
を維持するための食物連鎖に取り込まれる(Zafar, 1959, 1966; Associated Industrial Consultant Pvt. Ltd.,
1993)。
富栄養化の顕著な兆候として、(a)アオコ(藻)やホテイアオイのような水生植物の増殖、(b)媒
介性病原生物の繁殖、(c)悪臭、(d)魚死、などが認められている。湖における魚の最初の大量死
(Notopterus notopterus, Channa punctata、Puntius sophore など)は 1976 年にさかのぼる(Kodarkar et. al.,
1991)。また汚染は湖の生態系に大きな打撃を与えている(Anitha et al., 2005; HUDA, 2005)。
地下水汚染:不適切な処理だけでなく、処理施設が充分整っていないために、下水排水中の汚染物が
開放ドレインにしばしば流入する(Kodarkar et al., 1991)。その結果、フセインサガール湖への主要な
水路であるクカトパリ水路地区の下水に沿った地下水は汚染がひどく、すべての物理化学的なパラメ
ーターは、WHO や IS 標準を超えるような値となっている(表 3)。
媒介性病原生物の繁殖:栄養分に富む湖にはホテイアオイのような水草が異常繁殖し、マラリヤ、デ
ング熱、フィラリア症といった病気を媒介する病原性生物が繁殖する。このように、湖の汚染が汚染
すると公衆衛生の経費が大幅に増大する。
151
表 3 クカトパリ工業地帯の地下水の水質
パラメーター
pH
全固形分
アルカリ度
硬度
硫黄
硝酸塩
亜硝酸塩
リン酸塩
塩素
WHO 標準
7.5
500
150
400
45
0.1
250
IS 標準
8.5
500
300
250
20
0.1
25
平均値
8.06
827
313
249
618
57
2.3
0.48
358
値域
7.3 – 9.0
435 – 1531
200 – 475
160 – 440
242 – 985
40 – 90
0.12 – 5.8
0.11 – 0.68
10 - 760
(pH を除く全ての値は mg/ℓ)
湖に依存する地域社会への打撃:漁師、洗濯業者、小規模酪農家などは、社会経済的に弱い立場にあ
る住民であり、伝統的に湖に依存して生活してきたので湖の汚染は彼らの生計を直接脅かすものとな
った。1980 年代の調査によって魚が汚染されていることが判明すると湖での漁業は禁止され、かつて
の漁師社会はごく尐数の不法漁業者のみでほとんど消滅した。湖は歴史的に社会の大きな財産であっ
たが、湖が汚染されたために、湖によって与えられていた生態学的、文化的、美的な恩恵が、水を入
手できない浮浪者だけでなく、大部分の人々から奪い去られた。
戦略と行動
湖沼管理は高度に業際的で横断的な性格を有しており、单アジアにおいてはまだ十分育っていない分
野である。フセインサガール湖の汚染は 1990 年以後警戒すべき状態になり、1993 年には大量の魚死が
発生し、対策を取らざるを得ない状況にまで追い込まれた。これを契機に市民社会運動や法整備活動
が始まった。湖を社会の財産と考え、生態系のバランスと湖の環境を回復させるために、次のような
保全施策が取られた。
A.下水と産業排水の堰き止めと下流への分水:下水や産業排水による汚染を防止するための堰き止
め・分水工事が、主要な流入口の 6 ヶ所で既に完了した(HMWS & SB, 192; HUDA, 2005)。
B.下水処理場の新設および既存施設の更新:湖の水循環を維持するために、1998 年に 2 万トン/日の
下水処理場がバニャーラ水路の流入口に建設され、湖に流入する排水を処理するようになった(表
4)。さらに JBIC の資金援助により 3 万トン/日の処理能力を有する第 2 の下水処理場の建設がピケッ
ト水路の流入口に予定されており、それが完成すれば、併せて 5 万トン/日の処理水が湖に流入される
ことになる。この対策によって湖の水質が、沐浴、遊水、商業漁業が可能になる SW-II レベルまで回
復する予定である(HUDA, 2005; Kodarkar, 2006a and b)。
表 4 下水の処理前後の水質
1
2
3
4
5
6
パラメーター
pH
浮遊固形分
BOD
COD
全リン
全窒素
流入水
7.15
252
250
540
5.9
48
処理水
7.51
20
8
46
2.5
5
152
減尐率(%)
92
96.8
91
58
90
限界値
7–8
30
20
250
5
100
C.湖岸線の整備:水上生活者の住む湖下流の東岸に沿って湖岸が整備され、鳥類動物相を維持するの
に必要な藻や底生生物が育つための場所が確保された(Kodarkar et al., 2005; Kodarkar and Joshi, 2006)。
D.100 万m3 の土砂浚渫:長年にわたって堆積した栄養分や毒性物質を除去するために、湖岸に沿っ
て湖の浚渫が行なわれた。さらに、日本開発協力銀行が予定しているフセインサガール湖とその集水
域の改善プロジェクトによって、5 つの主要な流入口で土砂の浚渫が行なわれることになっている。
E.曝気:BOD 対策として溶存酸素濃度を増大させるために曝気が行なわれた。
F.廃棄物対策:湖周囲や集水域の住民から排出される廃棄物を収集・処理するための総合的な取り組
みが住民の協力のもとに行なわれ、湖の汚染防止のために廃棄物が除去された。
G.環境意識の向上と住民参加:湖岸に沿って人目を引くように看板が設けられ、そこには湖の保全
によってもたらされる自然の恵みや、湖に関する興味ある情報が述べられている。湖の周囲は人々の
憩いの場として提供され、多くの社会・文化的な行事が定期的に開催されるようになった。それらの行
事は、湖から得られるメリットや市の水収支全体における湖の役割を市民に広く気付かせる機会とな
る。観光実や周辺住民の環境意識啓発のために、湖沼情報センターが近く建設される予定である。
行動の成果
A.下水と産業排水の流入量の減尐:集水域の下水や産業排水は、汚染防止のために、パイプライン
によって湖の下流から放流されるようになった。しかし、これによって湖水のバランスがくずれ、多
くの土地が露出し、さらなる開発を招いた。また下水処理場で処理された 20 万トン/日の水が湖に放
流されたが、水質の向上にあまり効果がなかった。
B.水面の縮小:この 25 年間の湖岸地域における開発によって湖面が次第に減尐した。
C.余暇活動:湖の周囲がきれいになったので、湖は都会の人たちの余暇と憩いの場になった。
D.水上スポーツ:湖はヨットやボートなどの水上スポーツを求める人たちの最高の場になった。
得られた教訓
A) 都市部の湖沼流域(集水域)が発展するための最重要課題は、下水管理(処理量、分水方法、処
理方法など)である。人々が湖の周辺で都市生活を営むためには、第一優先課題として下水の処
理と処分に取り組む必要がある。
B) 湖は自浄能力の範囲内においては下水貯水機能を果たすが、それを超える下水負荷は汚染と環境
破壊をもたらす。
C) 生態学の原則に立脚した生態学的アプローチが、すべての湖沼管理施策に組み込まれなければな
らない。
D) 人口湿地、自然にやさしい橋の建設や漁業など生態系に配慮した取り組みは、下水処理場や集中
処理場のような技術的な対策を補完するものである。
E)
湖岸の産業開発は許可すべきではない。また既存の設備は産業排水対策を優先して实施すべきで
ある。
F)
湖に依存する人たち(漁師、洗濯業者、小規模酪農家、近隣住民、アパート業者協会、教育機関、
政府機関、非政府機関)は、湖沼保全管理協会のような共同体に結集される必要がある。また市
153
当局や地方自治体行政機関は、湖の保護・保全を有効に進めるための重要なネットワークとなる
このような協会に資金援助すべきである。
G) 湖の周囲ではいかなる開発も湖の満水レベルより高い位置で行なわれなければならない。また生
物保全のために 500~1000mの緩衝地帯を設ける必要がある。この緩衝地帯では自然にやさしい
活動のみが許可される。
H) 利害関係者の参画は湖の保全を約束するものである。このためには啓発活動が重要であり、啓発
活動を確实に進めるためには、個々の湖に情報・普及センターが必要である。センターは、水質、
生物多様性、汚染程度、人間活動の影響などを監視する役割も持つべきである。またセンターは、
湖生態系の保全に有効な、自然にやさしい低コストの技術開発を支援すべきである。
.
今後の取り組み
フセインサガール湖の保全と持続的な管理は州政府の重要な政策課題であり、この目的のために州政
府は、Buddha Purnima 事業公社(BPPA)を設立した。またハイデラバード都市開発公社は、オランダ
政府の資金援助を受け、統合的な湖の管理を重要な要素とするハイデラバード環境改善プロジェクト
(Green Hyderabad Environment Project)を实施した。
さらに、日本国際協力銀行の資金援助によって「フセインサガール湖集水域改善プロジェクト」が
2006 年に始まる。このプロジェクトは、国際的に承認された取り組みである「統合的湖沼流域管理」
(ILEC, 2005、World Bank, 2005)と「世界湖沼ビジョン(WLV)」(World Lake Vision Committee,
2003)の原則に基づいて实施される。プロジェクトは、高度に発展した複雑な性格を持つ湖沼流域を
念頭において策定され、水質と生態系の改善を目指す多くの取り組みを含んでいる。
即ち、多くの利害関係者の間で、湖の未来のためには以下のような問題の解決が必要である、という
共通認識ができている。
(A)水文学的なバランスを維持するための水質・水量を確保する。
(B)過度の湖岸開発による湖水域の減尐を防ぐ。
(C)生物多様性や食物連鎖の研究を通じて、生物・地学・化学的なサイクルを確立する。
(D)湖に影響を与える政策決定プロセスに人々が確实に参画できるような、利害関係者からなる湖
保全協会を設立する(HUDA, 2005)。
(E)水域とその周囲を保全するための既存の法律、例えば水・土地・樹木法などを確实に執行する。
(F)湖生態系の水域で行われる今後の開発を厳格に規制する。
謝辞
著者は、ハイデラバード都市開発公社に対し、「ハイデラバード環境改善プロジェクト」、下水処理
施設、および日本国際協力銀行の「フセインサガール湖集水域改善プロジェクト」に関する情報提供
に感謝する。
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155
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ポワイ湖の事例研究(ムンバイ、インド)
Pramod B. Salaskar
Consultant, Maharashta State Angling Association,
Powai Lake, Saki –Vihar road, Andheri (East),
Mumbai – 400 072, Maharashtra, India. E-mail: [email protected]
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
要旨
ポワイ湖は、人口が 1,000 万以上の巨大都市ムンバイの自然を代表する陸標であり、ムンバイの北東
27km(北緯 19 度 8 分、東経 72 度 54 分)に位置している。湖の集水域は都市化の影響に晒されている
が、その直近地域(東側)は、アンベードカル記念公園や世界的に有名なインド工科大学があるので、
適切に保全されている。湖は、人口が密集した都市部からの家庭排水によって極度に务化し、典型的
な汚染都市湖の様相を示している。現在、この湖は、漁業、洗濯、沐浴など広範囲に利用されている
が、富栄養化した生態系のもつあらゆる特徴を有している。
この数年間、ポワイ湖を対象にして陸水学および漁業に関する多くの研究が行なわれた。またポワイ
湖は、インドで最も古い釣り愛好会が 1939 年に設立された場でもある。今日、ポワイ湖は、人口増大
の続く大都市ムンバイのレクリエーションや憩いの場として多くの人が求める場となっている。
その自然、経済的、社会文化的な重要性から、ポワイ湖は、インド政府環境森林省によって国家特別
保全湖沼(NLCM:National Lake Conservation Mission)の 1 つに指定されている。それを受けて、ムン
バイ市公社(Mumbai Maha Nagarpalika)は、同湖の総合的な保全計画を实施中である。この計画は、1)
溶存酸素増大のための曝気装置の設置、2)微生物を利用した生物学的再生技術の活用、3)インドで
絶滅の危機にある great Indian Mahseer や稚魚の導入による漁業支援、4)湖の水質監視、5)水草の生
物学的コントロール、6)湖の内外での破壊行為の禁止と監視、7)釣り愛好会や NGO と連携した湖の
保全活動、8)湖の恩恵を訴える啓発活動とすべての利害関係者が一堂に会するポワイ湖保全協会
(Powai Lake Sarovar samvardhni ) の 設立 、 9)市 民 の関 心向 上と 意識啓 発 のた めの 「 Powai–The
Angler’s Paradise」と題する本の出版、などを重要な柱としている。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
はじめに
湖は魚、鳥のほか、水辺に特有な動物や植物の自然の生息地である。また湖は、田園部においては灌
漑や漁業のための最も身近にある水源であり、都市部においては憩いに必要な場であり、各種の動植
や植物の自然の生息地でもある。不幸なことに、この 50 年間に国中でこれらの貴重な淡水資源の広範
な务化が進み、破壊さえも起きている。この务化の主要な原因は前例のない都市化や工業化であり、
それによって湖とその集水域は急激に変貌した。なかでも、適切な処理・処分施設が不足しているた
めに、無規制で流されている家庭下水や産業排水は、これら湖の存続を脅かしている最も深刻な原因
となっている。务化の過程は、どの湖でもほぼ同じような経過をたどり、流域の大規模な都市化によ
って未処理の家庭下水が直接流れ込んで水が汚染され、また、干拓や侵犯によって水面の面積が減尐
している。
ポワイ湖は、インドの金融首都、ムンバイ市にある。1881 年に建設された人口の溜め池であり、その
水域面積は 210ha である。当初、その水は人が使うためのものではなかったが、今日ではラーセン&
トゥブロのような大企業をはじめ、産業用水源として利用されている。またレクリエーションの場と
して、あるいは漁業の場としても繁栄している。
156
湖の直近周辺部はアンベードカル記念公園によって、また東側はインド工科大学の広大なキャンパス
によって適切に保全されている。近年、流域では建設や採石活動が続き、湖に大量の土砂が堆積し始
めている。その他の深刻な問題としては、廃棄物の放棄、野生の水生植物の群生などがある。
ポワイ湖の自然、文化、観光資源としての価値を保全することは、人類の利益のためであり、保全に
向けた最も重要なステップは水質の回復である。
ポワイ湖の歴史
人口が 1,000 万人を越す巨大都市ムンバイは、2 つの並行する低い丘陵にはさまれた低い平原からなる
同名の島にある。西側の峰は Colaba の Malabar 丘陵まで続き、一方東の峰の終点にあたる低い半島は、
舗装道路でムンバイとつながっている。島のほとんどの部分が後方のアラビヤ海に取り囲まれ、いく
つかの淡水の溜め池がある。ポワイ湖はそのうちの 1 つである。
湖は、ムンバイ市の北東 27km の地点(北緯 19 度 8 分、東経 72 度 54 分)にあり、海抜は 55mである。
ポワイ湖の水質は良くないので、歴史的には飲料水源としては利用されなかった。1891 年に建設され
ると、湖は、準政府機関である西インド漁業協会に貸し出され、同協会が魚の養殖や釣りの目的で利
用してきた。その後、ボンベイ直轄釣り協会が 1936 年に結成された。同協会はインドで最も古い協会
の 1 つで、1955 年にマハラシュトラ州釣り協会、ムンバイ支部と名前を変えて登録された。
ポワイ湖は、急速に成長するムンバイ市に水を供給するために、西側の峰を流れるせせらぎの水を溜
めたものである。今日では、湖の集水域(6.68km2 )は北東の丘陵にまで広がっている。湖の水面は
2.10km2、深さは場所によって約 9m異なり、最深部は 12mである(表 1)。ポアイ地区の平均降雤量
は 2,540mm もあるので、湖は、毎年 5~6 週間水が溢れる。湖の水は、主に、Dahisur 川および Gopal
川という小さな川を通じて供給される。また、ポアイ庭園の近くにあるダムは雤水を溜めるのに役立
っており、そこから溢れた水はビハール・ポワイ川を流れ、最後に Mahim 水路を通って後方のアラビ
ヤ海に流れ込む。
表 1 湖のプロフィール
所在地
地域
州
湖の名前
建設された年
目的
建設者
緯度・経度
水面の面積
平均水深
ダムの高さ
水源
主な利用
ポワイ(Powai)
ムンバイ(Mumbai)
マハラシュトラ(Maharashtra)
ポワイ(Powai)
1891 年
飲料水
ムンバイ市
北緯 19 度 8 分、東経 72 度 54 分
2.10km2
4.97m
10m
Dahisar 川、Gopal 川
漁業、釣り、レクリエーション
ポアイ湖の水質
ポアイ湖はこの地域では最も研究の進んだ淡水生態系であり、長年にわたって多くの水質の記録があ
る(表 2)。水質から湖が富栄養化状態にあることは明白である。
157
表 2 ポワイ湖水質の経年変化
ポワイ湖の水質分析データ(Mumbai, Maharashtra)
年
項目
1992*1
1996*2
2001*3
1
全アルカリ度 (mg/l)
11.6
81.25
169
2
pH
7.2
7.13
7.9
3
伝導度 (μmho/cm)
NA*
NA*
280
4
溶存酸素 (mg/l)
8
3.30
5.1
5
溶解性リン (mg/l)
0.04
0.665
0.26
6
硝酸塩 (mg/l)
1.13
0.12
0.52
7
クロロフィル a. (mg/m3)
95
NA
154
8
硝酸性窒素 (mg/l)
NA
0.168
0.002
9
硬度 (mg CaCo3/l)
104
56
105
1
2
3
*NA – データなし、* Adak et al.、* MSAA, 1996、* Chandra and Mahajan, 2001
ポワイ湖の水質(Salaskar, 2001)
項目
値域
透明度 (cm)
51.25 – 97.25
温度 (℃)
23.63 – 31.50
7.13 – 8.13
pH
全アルカリ度 (mg/l)
81.25 – 141.00
全硬度 (mg/l)
1.4.00 – 171.00
遊離二酸化炭素 Free Carbon Dioxide (mg/l)
1.10 – 5.55
溶存酸素 (mg/l)
3.60 – 6.31
88.25 – 295.00
全溶存固形分 (mg/l)
2.0 – 7.0
色(Hazen)
2.28 – 7.90
濁度 (mg/l)
伝導度 (μmho/cm)
160 - 520
塩素分 (mg/l)
25.99 – 58.48
硝酸性窒素 (mg/l)
0.120 – 0.625
溶存リン (mg/l)
0.32 – 0.67
シリカ (mg/l)
3.06 – 27.00
全一次生産性 (mg/c/m3/day)
600.58 – 4324.33
正味の一次生産性 (mg/c/m3/day)
330.29 – 3337.00
ポアイ湖の動植物相
ポアイ湖は多様な動植物を育んでいたが、魚の種類は非常に減尐した。1947 年の調査では 37 種の魚が
報告されていたが、1955 年には 32 種に、1991 年には 10 種まで減尐しており、時とともに、魚の多様
性が減尐していることを示している。スポーツフィシング用の魚の量も減尐し、釣りの魅力の点から
も湖の値打ちは下がっていることがわかった。興味深いことに、ポアイ湖のある島にはワニが 10~15
頭生息しているが、これも絶滅に瀕している。汚染は魚の数にも影響を及ぼし、湖では魚の死をよく
見かける。湖は、鷹、カワセミ、鵜、鶴、野鳥など多くの鳥たちの生息地であり、また亀も棲んでい
ることがわかっている。
158
表 3 商業・スポーツフィシング用の魚類
俗称
学名
最大重量 (kg)
Catla
Catla catla
25
Mirgal
Cirrhinus mrigala
08
Mahseer
Tor khudree
04
Calabose
Labeo calbasu
03
Beehead
Osphronemus goramy
04
Rohu
Labeo rohita
10
Silver carp
Hypophthalmichthys molitrix
30
Common carp
Cyprinus carpio
0.5
Tilapia
Tilapia mossambica
0.5
Grass carp
CtenopharyNGOdon idella
10
表 4 水族館にいる魚の仲間たち
俗称
学名
なまず
Mystus sp.
なまず
Ambasis sp.
Chilwa
Oxygaster bocaila
Giant Danio
Danio malbaricus
Rasbora
Rasbora daniconius
Malaber Killy
Anaplocheilus lineatus
Barbo
Barbus filamentasis
水生植物
ポワイ湖に良く見られる水生植物としては、ホテイアオイ、ミズワラビ、スイレン、アナカルシス、
コカナダモ、ハイグロヒィラ、アオウキクサなどが報告されている。
課題や問題:
ポワイ湖の環境調査はその厳しい現状を明らかにした。無計画な都市化の影響によって湖は悪化した。
悪化の主要な原因は人的活動がもたらす大量の土砂や汚染で、それによって湖の面積が縮小した。推
定によれば、現在までに約 3,000 m3 の土砂が堆積し、湖底が 1m上昇した(Mid-Day News No. 2755
dated 2nd June 1988)。土砂に加えて、近辺のスラム街に住む人々は、適切な衛生施設を持たず、野外
排便により湖を汚染している。さらに自分たちの車を湖で洗うトラック運転手が増えている。 このよ
うな状況のもとでは、有効な保全・管理対策が取られなければ、近い将来湖が徐々に消滅していく可
能性が十分ある。
ポワイ湖の悲劇
1993 年 5 月、開発業者による過剰な揚水によってポワイ湖は 4 つに分断され、そのために 5000 匹の魚
が死んでしまった。中には 20kg にもなる魚もいた。
159
戦略と实施された対策
ポワイ湖保全のために立ち上がったマハラシュトラ州釣り協会は、湖の保全に立ち上がった最初の
NGO である。彼らは、州および中央政府に、湖の保全に取り組むように訴えた。2001 年、ニューデリ
ーの森林環境省は、同協会の要望に応えてポワイ湖を全国湖沼保全プログラムに組み入れ、ポワイ湖
の保全と管理のために、ボンベイ市公社に対して 2 億 6000 万ルピーの予算をつけた。
以下の行為は法律違反であり、法によって罰せられる。

瓦礫類や生ごみの投棄は許可されていない。事实、これらの行為はストップし、一部の廃棄物は
除去された。

インド工科大学との境に近接してポワイ湖に向かう新しい道路建設は中止になった。

1986 年の環境保全法によって建設業者やホテル業者はポワイ湖に排水を流してはいけないことに
なった。この实効性をあげるために通告が出された。

ポワイ湖の土砂の堆積原因となる採石、砕石などの行為は不法になった。
対策行動の結果
全国湖沼保全プログラムのもとで、ボンベイ市公社によって始められた対策は次のようなものである。
1.
曝気とろ過:溶存酸素を増やすために曝気が行なわれ、BOD が低下し、湖の水質が向上した。
2.
水路の土砂堆積の原因となる集水域内の材木伐採や土地の不適切な利用が減尐した。
3.
密漁などの不法行為を阻止するためにポワイ湖の警備・パトロールが始まった。
4.
ホテイアオイなどの雑草が除去された。
得られた教訓
1.
健全な湖は多くの恵みをもたらすので、湖の経済的、自然、文化、美的な価値を守り、向上させ
ることは全ての人の利益につながる。
2.
定期的に藻や大型植物を刈り取ることは湖の負荷低減につながり、その結果、富栄養化防止にな
る。
3.
湖に鯉を飼うことは人々の食の確保と蛋白質の供給になる。また幼食性の魚は蚊の脅威を減らし
てくれる。
4.
大型植物は、殺虫剤、重金属などの湖汚染物を低減するために利用することができる。
5.
祭りが終わった 1 ヵ月後にガネーシャを沈めた場所の土砂を除去することによって、この文化行
事が湖の生態系にもたらす影響を減らせる可能性がある。
6.
季節風によって雤が十分降ったときは、湖底の沈積物を取り除くために湖水の放流を行なうべき
である。
7.
淡水は限りある資源であることや湖沼保全を進める必要性について、一般の人を教育し、啓発す
ることは、長期的な湖の保全につながる。
8.
水問題について子供たちを教育することは、湖の持続的な利用にとって長期的な利益をもたらす。
9.
研修などを通じて WLV を普及することは、統合的湖沼流域管理を实践するために有効である。
160
今後の取り組み
ポワイ湖は、100 年以上にわたり、都市化による環境务化の典型例とされてきた。集水域の土地は農業
以外の用途に転換され、 この 10 年間で多くの集落が形成された。このような発展は、ポワイ湖に次の
ような好ましくない結果をもたらした。(1) 土砂堆積、不法侵犯、干拓などによって水域や水深が減
尐した。発展の過程で湖の周囲の丘を崩し、その結果、土壌浸食や土砂堆積を引き起こした。(2) 集
水域内の未処理の家庭下水が湖に流れ込み、汚染が進んだ。(3)湖の周囲の木材伐採により、雤水排
水が増大し、土砂流入が進んだ。
湖への人間活動の圧力をできる限り減尐させる必要がある。湖の周囲の最低 100mは、生物保全・非
建設地帯に指定すべきである。
湖の水は Aarey Milk 集落では酪農農場用の灌漑用水、周辺の企業では産業用水に利用されている。さ
らに、湖の周囲は過密都市に暮らす多くの人たちにとって憩いの場となっている。人々の無視・無関
心によって湖の生態系が破壊されれば、これらの市民や企業が甚大な被害を被ることになる。
湖の保全に対する市民の関心や参画を生み出すためには、NGO、政府機関、漁師、釣り協会やその他
社会団体など広範な利害関係者を結集する必要がある。
謝辞
本レポートの作成にあたり、恩師 S.G. Yeragi 博士、およびムンバイの K.J. Somaiya College of Science &
Comm.の Supriya Yeragi 女史から激励と貴重な助言を頂いた。またインド水生植物学会の事務局長
Kodarkar 博士(Hyderabad 在住)にはこのレポートの執筆にあたり、多くの支援を頂いた。ムンバイ、
ポワイ湖の釣り教会の事務局長 Gordon Rodricks 氏の援助にも深い感謝の意を表したい。
参考文献
1) Amore, D.L (1955): “Powai” Hind Kitabs Ltd. Publisher, Mumbai.
2) Bhagat, M.J. (1977): “Ecology and Sport Fishery of Freshwater Lake”, M.Sc. Thesis, University of Mumbai,
Mumbai.
3) Biswas, S. (1973): Limnological observations during the early formation of Volta lake in Ghana, Man made
lakes, their problems and environmental effects. Ed. By W.C.Ackermann, G.E. White.
4) Hyderabad Urban Development Authority (HUDA) (2005) National seminar on Management of urban lakes –
1-2nd December, 205. Proceedings. PP : 28.
5) Kohli, M.P.S. (1981): “Plankton study of Govind Sagar reservoir (India, Comp. Physiol. Ecol., 6(1): 49-52.
6) Kulkarni, C.V. (1947): Note on Freshwater Fishes of Bombay and Salsette Islands. J. Bombay Natural
History Society, 47(2): 319-326.
7) Kodarkar, M.S. (1994): “Conservation of Saroornagar Lake” Hyderabad. Indian Association of Aquatic
Biologists Vol 3, No. 9:P21.
8) Kodarkar, M.S. (1996): “Conservation of Lake” Hyderabad. Indian Association of Aquatic Biologists (IAAB
Publication No. 3)
161
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
自然の奇跡、ロナー湖(マハラシュトラ州、インド)の保全と管理
Rammalu, D.S.Dhabade and M.S.Kodarkar*,
Secretary, Indian Association of Aquatic Biologists (IAAB) Hyderabad –500 095.
R.A.Arts, M.K.Comm. & S.R.Rathi Science College, Wahim- 444 505, Maharashtra, India.
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
要旨
隕石の衝撃で造られた世界で 3 番目に大きい火口湖であるロナー湖は、インド・マハラシュトラ州の
ブルダーナー地区にある。この火口湖は、米国アリゾナ州の火口のような不毛地ではなく、单アジア
の独特な内陸塩生態系で、生物のオアシスである。湖は、北緯 19 度 58 分、東経 76 度 31 分に位置す
る、ほぼ円形の窪みで、5 つの特徴ある区域に分けられ、それぞれが固有の地質学的特徴を有している。
火口は、湖面から 130mの高さに聳え立つ、嶮しい急斜面(真円度<0.9)に囲まれている。北東部の
斜面は急な谷で分断され、湖への通路になっている。外周に沿った湖の周囲は約 6km、内周は約
3.5km である。最大水深 5.5mの塩湖である。
岩に囲まれたこの湖は、季節ごとに周囲から流れ込む水と 3 つの湧き水(泉)によって給水されてい
る。火口自体も「地質学的上の奇跡」として大変興味あるものであるが、さらに湖をユニークなもの
にしているのは、塩分、高アルカリ性、および 5~6 つに分けられる小さな生態系である。そこでは固
有の土壌、水、湿度などの条件によって独特な生態系が営まれている。ロナー湖の生態系は、独特の
地質・陸水学的、および気象条件によって出来上がったものである。流域には、湖の他にも、考古学
的、社会・宗教的に重要な 8 つの場所がある。
ロナー湖は、近年、ロナー市の急速な発展に伴う家庭排水によって富栄養化状態になっている。さら
に、流域内の建設、洗濯や沐浴、改修工事のような人的活動が湖に打撃を与えている。この生態学的、
経済的、文化的に重要な湖沼生態系を長期的に維持していくためには、国際的な枞組みとして知られ
る統合的水資源管理(IWRM)や WLV の 7 原則などに則った統合的な取り組みが必須である。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
はじめに
「地質学上の奇跡」と称されるロナー湖は、隕石の衝撃で造られた世界で 3 番目に大きな湖で、大変
興味深い生態系の 1 つである。「不毛な奇跡」である米国アリゾナ州の火口と違って、ロナー湖には
命のオアシスが育まれている。火口自体も自然現象として大変興味深いが、塩湖としての特性もまた
ユニークである。湖の水は、高い塩分、アルカリ性を示し、そこに 5~6 の小さな生態系がある。その
1 つ 1 つの生態系には、土壌、水、湿度などの条件ごとに微妙な組み合わせの動植物種が生息している。
ロナー湖の生態系は独特の地質・水文学的、および気象条件によって成長したものである。
近年、湖はロナー市の急速な発展に伴う家庭排水によって富栄養化状態になっている。さらに、流域
内の建設、洗濯や沐浴、改修のような人的活動及び流域の変化が湖に打撃を与えている。多くの政府
機関が関与する複雑な性格を考えると、生態学的、経済的、文化的に重要なこの湖の生態系を長期に
亘って持続するためには、国際的な枞組みとして知られる地球水パートナーシップ(GWP)や WLV
の 7 原則などに則った統合的な取り組みが必須である。
地形と水文特性
ロナー湖は、北緯 19 度 58 分、東経 76 度 31 分にあるほぼ円形の窪みで、5 つの特徴ある区域に分かれ、
それぞれが固有の地質学的特徴を有しているので、異なった保全戦略が必要である。5 つの区域とは、
(a)最外部の噴火物堆積部、(b)火口の周囲、(c)火口の斜面、(d)湖を除く火口周囲、および
(e)火口湖、である。
162
火口部分の周囲は、湖面から 130mの高さまで聳え立つ、嶮しい急斜面(真円度<0.9)に囲まれてい
る。北東部の斜面は急な谷で分断され、湖への通路になっている。外周に沿った湖の周囲は約 6km、
内周は約 3.5km である。湖水は最深部で 5.5m(表 1)。分断された北東部側のふもとには、扇状地が
あり、カスタードりんごの木が密生している。
表 1 ロナー湖の水質 (Dabhade, 2006)
パラメーター
pH
全硬度
塩素
溶存酸素
総溶解固形分(TDS)
窒素分
アンモニア
リン成分
BOD
COD
値(pH 以外は ppm)
10.5
250
2,750
2.98
10,975
10.97
10.69
2.72
152
153
この岩に囲まれた湖は、季節ごとに周囲から流れ込む水と 3 つの湧き水(泉)によって給水されてい
る。「Dhar(絶えることのない水の流れ)」と呼ばれる最も大きな泉は高度 630mにあり、火口の北
東斜面を流れるせせらぎの源泉になっている。「Sitanahani(变事詩 Ramayana に出てくる伝説上の
Rama 王の配偶者 Sita が入浴する場所)」と呼ばれる 2 番目に大きな泉は同じ峡谷の低い場所にある。
3 つ目の泉「Ramgaya(Rama 王がお祈りをした場所と言われている)」は湖の近くの单東部にある。
ロナー湖の生態系
ロナー湖の火口は四方を取り囲む広大な平坦な高原の中心にある。独特の位置特性が、地質学的、地
形的、気候的、生態学的特性の面で固有の変遷をもたらした。四方が閉じた窪地にあるので、湖は強
い風から守られ、高い湿度を保ち、固有の温度体系を有している。特有の地形のせいで、湖の流域の
一部の場所は、一年中、あるいは時間によっては、日光が全く遮られるところもある。ロナー湖は低
い場所にあるので、湖には泉以外からも水が流れ込む。また浸透による水供給もある。
ロナー湖の生態系は地形形態学的に次のような特徴を有している。1)比較的隔離された火口地域であ
る。2)湿度が高い。3)地下水の位置が比較的高い。4)絶え間なく湧き出す淡水の泉がある。5)年
間をとおして塩水の貯蔵庫となっている。6)湖岸には砂と沈泥が多い。7)乾燥した落葉樹が周囲を
囲んでいる。8)外周部や斜面は、乾燥した茂みの多い植生地帯である。9)半常緑樹の生えた地域に
は湿気の多い落葉樹が多い。10)一年中水が流れている丘陵には常緑樹が生え、豊かな植生がある。
11)湖岸には塩分に強い植生が育っている。12)火口湖には微生物の動植物が多い。
管理体制
ロナー湖とその流域は複数の機関によって管理されており、WLV で述べられている良好なガバナンス
のためには、それらの機関の間で協力と連携が必要になる。関係当局とその役割は以下のようになっ
ている。
A:ロナー市協議会は、町、火口内の農業地域、噴火物堆積指定地域(3,350ha)の内部および周辺農
地を管轄する。
B:森林局は、火口内の約 200ha の土地と噴火物堆積地域内の約 150ha を所有・管理する。
163
C:財務局は、火口内の農地(21.26ha)および上記以外の噴火物堆積地域内の私有農地(約 300ha)か
ら税金を徴収する。
D:公共事業局は、ロナー市へ出入りする道路の責任部署である。
E:灌漑局は、火口の单西の方角に、噴火物堆積地域を通る濾過タンクを建設した。
F:インド考古学調査局は、専門家として火口内の遺跡や寺を保全する責任を負っている。
水や土地利用の形態
2 つの泉(Dhar、Sita Nahini)から湧き出る水は、訪れる巡礼やロナー集落の飲料水や、風呂、洗濯な
どの家庭用水として利用されている。また流域内で行われる農業活動に必要な水を地元の人たちに供
給している。3 番目の泉(Ramgaya)は、火口の外周にある 2 つの学校の飲料水としてポンプで汲み上
げられている。
火口の底部約 21ha の肥沃な土地は、地元の農家によって農業用地として利用されている。主な収穫物
は、野菜、バナナ、パパイヤなどである。森林局によって管理されている 150ha の土地の大部分はプ
ランテーションとして利用されている。
人的活動とその湖に及ぼす影響
A.
下水の火口への放流:湖の近くのホテルや厩舎から出る固形・液状の廃棄物は、直接自然の水流
に放流され、最後には湖に流れ込む。同様に、巡礼は Dhar 泉の水を沐浴や洗濯に利用し、その排
水が最後には湖に流れ込む。
B.
森林伐採、狩猟、家畜の放牧:火口内では大規模な森林伐採や放牧がいたるところで行なわれて
いる。これは農業が主として火口の内部で行なわれていることに起因している。不幸なことに、
火口に入るのに何の規制もないので鳥や動物などの狩猟も行われる。
C.
泉での沐浴、洗濯:地元の住人は、洗濯や沐浴のために Dhar 泉の水をずっと使ってきた。発生し
た排水は最終的には湖を汚染するだけでなく、生態系の富栄養化を招く。
D.
火口内での農業:火口内には 66 の地元農家があり、21.26ha の土地が耕作されている。そこでは、
殺虫剤、防虫剤、無機肥料が使用され、湖の毒性化や富栄養化を招いている。
E.
火口内での宗教的な祭りや儀式:ロナー湖のある火口には 27 の寺院、3 つの記念碑、7 つの
「kunds(寺院にある沐浴のための小さな水溜り)」および 3 つの石碑がある。これらの記念碑は
ヤーダヴァ王朝や中世の時代に造られたものである。これらの寺院では、古くから宗教的な祭り
や儀式が慣習として行われてきた。例えば、「Navaratri(聖なる母を敬う祭り)」の期間には 15
万人の巡礼が Kamaljadevi 寺院を訪れる。祭りは 10 日間で終わるが、湖の生態系への影響は大き
く、これに対して有効な対策をとることは大きな課題である。
政府機関が進める開発と湖への影響
ロナー湖周辺にあるさまざまな政府機関が進める開発は、湖の持続的な管理にさまざまな問題を引き
起こしている(表 2)。
A.
灌漑省:灌漑省は、1984 年に火口の单西約 2km にある Deulgaon-Kundapal 集落の近くに濾過タン
クを建設した。このタンクは 8,380 万トンの水を貯蔵でき、100ha を灌漑する能力を持っていた。
しかしながら火口の周辺におけるこのようなタンクの建設は、湖の水位が上昇する一因になった。
164
水文上の変化は独特の水質に良くない結果をもたらし、また水位の上昇は考古学的に重要な遺跡
を傷つけることになった。
B.
森林局:マハラシュトラ州の森林局は、1986-92 年に火口内で大規模なプランテーションの建設を
進めた。驚いたことに、このプランテーションは、火口には不適切な外来種 Prosopis juliflora(地
元では Vedibabhul と呼ばれている)を育てようというものであった。この植物は小さいけれど、
拡大しやすく、またとげをもっているので、次第に火口の内部を侵犯していった。今では、この
外来種の藪がすべての寺院を覆い、中には寺院や湖に行くこともできなくなったところもある。
この植物は、火口の斜面に沿って高く広がる性向があるので、土着の動植物相に好ましくない結
果が起きる可能性がある。
C.
公共事業局:現在、公共事業局は、火口に 1 点で接し、噴火物堆積地を横切る道路を広くする事
業に取り組んでいる。同局が、初期の段階で、ロナー火口の重要性を無視して道路の位置を決め
たために、地質学的特長を損なってしまったことは实に残念である。
D.
ロナー市協議会:適切な排水・下水管理を行うことがロナー市協議会の業務である。近年、ロナ
ー市は急速に拡大し、適切な下水処理施設が不足しており、排水が湖に流入し、汚染を引き起こ
している。
E.
考古学局:場当たり的な寺院の改修工事は、保全遺跡の考古学的・宗教的な価値を損なった。イ
ンド考古学調査局による無神経な改修は、ロナー生態系の美的、社会文化的、観光上の価値を損
なっている。
表 2 ロナー湖の生態学的・地形形態学的な特性に対する人間活動の影響
人間活動
下水の放流
洗剤・殺虫剤・無機肥料の使用
森林伐採と家畜放牧
坂道への階段や道路の建設
外来種のプランテーション
侵入や建造物
ため池の建設
原材料の商業捕獲
影響
湖に流入する有機物負荷の増大による湖水の汚染
湖水の化学的成分の変化(肥料、火口土壌)、特定種の消滅
森林伐採、短命植物への打撃、雑草の拡大、種構成の変化、生物多
様性の減尐、土壌侵食
土壌剥離や土壌侵食、火口壁の斜度低下
種構成の予期しない変化
火口外周道路や噴火物堆積地の変形
濾過水の湖への流入による水位の増大や水質の変化
脆弱な生態系への圧力や非可逆的な損失
ロナー湖の持続的な利用
A.
国際的な観光<持続的で自然にやさしい観光(エコ・ツーリズム)>:エコ・ツーリズムは、
人々が自然を楽しみたいという欲求を満足させるために行われる活動である。ロナー地域はエ
コ・ツーリズムに最適な場所である。自然の奇跡や、水鳥など生物の天国であるだけでなく、火
口には古代の遺跡がある。残念ながら寺院は壊れて廃墟になっているが、それでもその美しさと
荘厳さはあなどれないものであり、火口生態系に対する人的圧力を減らすために、適切な環境影
響評価(EIA)を行ない、エコ・ツーリズムを奨励するために活用されている。
B.
スピルリナ源:スピルリナ(Spirulina)は、ロナー湖に天然に生育する緑の藻であり、蛋白質、ビ
タミン、ミネラルを豊富に含んでいる。湖の水は、バイオ産業用にスピルリナを大量に栽培する
ために利用される。
165
C.
天然資源:ロナー湖の動植物相は長い年月をかけて成長してできたものであり、優れた薬効をも
つ天然物種についての研究が求められている。動物、植物を問わず、広範な調査が必要である。
さらに、ロナー湖を生物保全・保護区域に指定する必要がある。
保全計画
インドの憲法では自然の保全を特に強調しており、第 48 条(A)および第 51 条(A)によれば、自然
保護はすべての国民の基本的な義務とされている。第 51 条(A)は「森、湖、河川、および野生動物
を含む自然環境を保全し、改善すること、および生けるものに対して愛情を持つことはすべてのイン
ド国民の義務である」と述べている。さらに、1992 年には、生物多様性に関する条約がインドで調印
され、1994 年 2 月 18 日にインド国会で批准された。これと同様の原則は第 4 回の国立公園と保全地域
に関する世界大会において指針として提出された。インドにおける生物多様性保全に関する法律には、
インド森林法(1972 年)、森林保全法(1980 年)、野生生物保護法(1972 年)、環境保全法(1986
年)などがある。インド憲法の指針と国際的な公約に照らし、ロナー湖の火口生態系を保護・保全し、
持続的に管理することは国と政府の重要課題の 1 つである。
保全を目的とする地理的特別地域としての指定:ロナー火口とその境界地域は約 730ha あるが、その
うち、約半分の 350ha は森林局の所有地、77ha は財務局の管理地、残りの 300ha は私有農地である。
火口内外の 750ha にわたる地域が、国立公園に指定されたことは心強い。以下のような保全策が提案
されている。
1.
湖生態系の富栄養化を防ぐために、北東部から火口に流れ込む下水排水(Nabbi Nala)を迂回させ
る。
2.
公共事業局が進める Lonar と Mantha を結ぶ道路の拡大計画を直ちに再検討・修正し、火口から尐
なくとも 0.5km 迂回させる。
3.
火口内では農業用の化学肥料、殺虫剤、毒性物質の使用を禁止する。
4.
Dhar などの淡水泉で入浴・洗濯をするときには、洗剤、石鹸の使用を禁止する。
5.
火口内での樹木伐採、狩猟、放牧を厳重に禁止する。
6.
火口から外来種 Prosopis juliflora を完全に絶滅する。
7.
湖水の塩分濃度減尐の原因を詳細に調査する。
8.
近郊の灌漑用溜め池からロナー湖への水の染み出しを確認するために、蛍光テストを实施する。
9.
ロナー地区を野生特別保存区として指定し、周辺の生態系保全を進める。ロナー湖のラムサール
サイト、世界遺産への登録をめざす。
10. 火口の生態系保全を確实に進めるために、有能なスタッフを任命・配置する。
11. 住民、巡礼、観光実などの火口内における活動を有効に規制するために“外来者管理センター”
を設立する。
12. 火口に関する総合的な資料や白書を発行し、湖生態系の重要な特質に関する詳細で信頼できる情
報を提供する。
13. 火口内の宗教行事においては店や小屋などを禁止する。
14. 予防と緊急時の対応策をかねて、火口周囲の溜め池と湖の水位の関係を十分監視する。
15. 火口内での植林は、土着種のみに限定すべきである。
16. 火口における生物多様性について総合的な資料を作成する。
166
17. 政府機関、現地住民・NGO・研究機関・大学などの代表者からなるロナー湖保全・管理協会
(Lonar Sarovar Samvardhini )を設立し、地区の代表者がそれを統括する。
今後の展望
ロナー湖の生態系は、他に類のない地形水文学的な特徴と気候条件のもとで何千年もかけて成長して
きたものである。しかし、このような条件ゆえに、その生態系は人間活動の圧力に極めて脆弱で、も
ろいものである。このように孤立した状態から生じたユニークな生態系には、適切な保全と保護が必
要である。ロナー湖において、未管理・未規制のままで人間活動が放置され続けるならば、人的被害
による悪化がさらに進み、近い将来、ロナー湖の生態系に恒久的な打撃を与える恐れがある。稀有で
並外れたものは人々を引き付ける力を持っている。同じ原則がロナー火口湖にもあてはまる。ロナー
湖は、観光地として、この経済的に取り残された地域に大きな利益をもたらす可能性をもっている。
参考文献
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Banmeru, S. K. Banmeru, and V. R. Mishra , Anamaya Publishers, New Dehli, India.P47-49.
167
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湖沼管理―課題と挑戦ウジャニ 貯水池
(マハラシュトラ州、インド)の事例
Vidyanand Ranade
Chairman Upper Bhima Water Partnership
A 1/1 Rambag Colony, Navi Peth, Pune-411030 (India)
Email – [email protected]
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要旨
人造湖は、集水域における競合する水利用の結果、機能が低下し、設計上の目的を達成するのが困難
になるなど、その管理は、非常に複雑で多次元的な問題になっている。人間活動(土地利用形態の変
化と森林伐採)によって土砂の堆積速度が早まると共に、上流における予想以上の水利用の増加によ
って、貯水池にたまる水量が減尐している。家庭や産業で発生する使用後の未処理廃水や、灌漑農業
で使用する化学肥料・殺虫剤に起因する汚染物質の放出は、それらが流れ込む河川の生態系や人造湖
の悪化を招いた。溶存酸素の減尐は水系動物の生存を困難にし、大量の栄養分は不要な藻類の成長を
促進し、湖の富栄養化をもたらしている。残念なことに、政策立案者・实施者だけでなく、その他の
利害関係者も、そのような野放しの行動が、長い間に、湖や自分達自身の健康にどのような影響をも
たらすかに気づいていない。問題の解決を図るためには、ただ卖に状況を緩和させるための法律、法
令、規則を作ればよいというわけではない。真の問題は、既得権益、政治的方便と、政治的意志の不
足のために、政策が誠实に实施されていないことにある。水利用者の健康を大事に思うならば、状況
を改善させ得る解決策の一つは、「自然の水系生態系と人造湖を健全な姿に回復させる必要性がある」
ということを政策策定者、实施者、利用者たちに気付かせることである。そのために、正しい知識を
持った利害関係者が、政策立案者や实施者に対して、有効な法律や法令の制定と、それらの厳格な实
施に向けて圧力をかけることが期待され、望まれている。この報告では、この方向に向けた努力の 1
つが「何故、どのように行なわれたのか」を、GWP-SASTAC の後援によって地域水パートナーシップ
が設立され経緯と、彼らのインド半島の人造湖ウジャニにおける活動事例を例にとって紹介する。
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はじめに
インド半島の州をまたいで東へ流れるクリシュナ川の支流の 1 つであるビーマ川は、1,100m の地点か
らウジャニダムに至るまで 14,700km2 の集水域を有している。ビーマ川の始点から 305km の所にある
ウジャニ貯水池は 1980 年頃に完成し、18 万 ha の土地を潅漑するために 33.2 億トンの水を貯蔵でき、
最大 290km2 にわたって水を流すことができる。満水時の水位は 497m、最大水深はおよそ 50mである。
单西モンスーンによって季節的にこの地に降る雤量は、西の稜線に沿って(单から北へ) 3,000~
6,000mm の範囲にあるが、雤陰地域の東方部 70km 以内ではわずか 700mm に減り、しばしば流域の
60%が旱魃に見舞われる。年間降水量の約 87%が、6 月半ばから 9 月末までの 3 ヵ月半のモンスーンの
季節に降る。年間の平均蒸発量はおよそ 1,800mm で、その 50%は夏の 4 ヵ月(3 月~6 月)におこる。
クリシュナ川の集水域は、マハラシュトラ、カルナータカ、およびアーンドラ・プラデーシュの各州
にまたがっている。クリシュナ川の平均的な流量は 73.73 億トンあるが、1976 年に発表された州間水
討議裁定の結果、同川の上流域にあるマハラシュトラ州が利用できる水量は、わずか 47.53 億トンに制
限された。
ビーマ川上流域のおよそ 10.1%(14.6 万 ha)は森、また 13.6%(20 万 ha)は耕作には利用できない土
地である。残りの 76.3%(112.2 万 ha)が耕作できる土地である。流域の 50%は軽く粗い粒土、26%は
168
薄い黒土、24%は濃い黒土からなっている。流域には全域にわたって母岩たる玄武岩がある。起伏に
富む地形、尐ない雤量、小さくて亀裂の多い岩石構造などがあいまって、地表近くには、不連続な浅
い帯水層や、崩壊した岩からなる風化したままのマントル(下層の亀裂構造と流動した玄武岩の集ま
りで支えられていると思われる)が形成されている。
この地域は雤の降る季節が限られているうえに、空間的にも時間的に変動が多いので、年間を通して
競合するすべての利用者の需要に見合うように水資源を提供するためには貯水池の建設が必要である。
1920 年頃、ムンバイ市とその周辺における産業発展に伴う電力需要に応じるために、ビーマ川上流域
の利用可能量の 16%にあたる総量 12 億トンの水を西側へ分水し、水力発電用の 5 つの大きな貯水池が
タタ水力発電会社により建設された。1870 年頃、プネ市の上流には、同市の水需要をまかない旱魃し
やすい地域に灌漑する目的で 560 万トンの大きなダムが建設された。水資源の本格的な開発は、1947
年の国の独立の後に始まり、これまでに 17 の大きな貯水池が高雤量の丘陵地帯に、また 2 つの貯水池
が平野部に建設された。これらの貯水池は、旱魃に弱い地域を潅漑するための運河を有し、36 万 ha
(耕作可能な地域の 31%)を潅漑する能力を持っている。さらに 239 の小規模のダムや堰があり、11
万 ha(耕作可能な地域の 10%)の灌漑が可能である。ウジャニは、これら全てのダムの最終的な貯水
池である。地下水は 16 万 ha(耕作地域の 14%)の灌漑能力を持っているが、流域の開発事業が完了
すれば、さらに 9 万 ha(耕作地域の 8%)を灌漑できるようになる。最終的にはビーマ川上流域内の
表面水および地下水資源の持つ灌漑可能面積は約 72 万 ha(耕作可能地域の 63%)になる予定である。
湖管理の問題
水需要の増加と限られた水資源に対するストレス
独立後、農業用灌漑水の需要が継続的に増加するとともに、60 年代には市街地や工業地で競合する水
需要が急激に増加し始めた。ムンバイ周辺が工場で溢れると、双子都市(ムンバイに次ぐ州第 2 の大
都市プネ市と隣接するピンプリ・チンチワッド市)の周辺に工場は建設されるようになったが、それ
によって都市人口が増大した。プネ市とピンプリ・チンチワッド市における家庭用と飲料用の水需要
と、2 つの都市域にある企業の水需要は、この 40 年間に増加し、乏しい水資源に過度のストレスをか
けることになった。2 つの都市の人口は、1961 年から 2001 年までの間に 54 万人から 430 万人に増加
し、水需要は、0.25 億トンから 4.35 億トンにまで増加した。この二つの都市の人口増加は、主に州内
や国の他の地域からの移動による。2 つの都市の人口は、2011 年には 640 万人に、2021 年には 930 万
人に増加し、その水需要は、2001 年の 4.35 億トンから、2021 年には 9.72 億トンまで増加すると予想
されているが、それだけで、プネ市上流にある 5 つの大きなダムのほとんど全貯水量(10.17 億トン)
を消費することになる。ちなみに、流域でさらに大きなダムを建設する計画はない。
一人当たりの利用可能な地表水は、2001 年の人口調査(676 万)の結果によると年間わずか 700 トン
であるが、2021 年にはさらに年間 400 トンにまで減尐すると予想されている。ファルケンマルク
(Falkenmark)指標によると、利用可能な地表水が年間 1,000 トン以下の地域は水の欠乏地域である。
耕作地の 1ha あたりの年間利用可能な水の総量は約 4,240 トンであるが、競合する水利用が次第に増加
しており、灌漑農業用に利用可能な正味の水量は減尐しつつある。
湖の健全性に対する汚染の影響
双子都市から発生する汚水と汚泥の大部分が、未処理のまま直接 Mula-Mutha 川に流入している。工業
排水には、有毒な化学薬品、有機物質、重金属等が含まれている。ビーマ川上流域の潅漑能力は、
169
1950 年には 2 万 ha 以下であったが、2000 年には 45 万 ha まで増大した。それによって、点源汚染に加
えて、新たに増大した灌漑農業地で使用される化学肥料、殺虫剤・農薬等の残留物が、面源汚染とし
て加わった。これらの汚染物質は、排水が放出される多くの河川だけでなく、汚染された川が最終的
に注ぐ貯水池までも悪化させている。汚染された川に存在する病原体、有毒な化学製品、重金属など
は、川岸や貯水池の周辺社会に住む人々の健康に悪影響をもたらしている。家庭排水や灌漑農業で使
用される化学肥料の残留物である有機物や硝酸塩・リンなどは、大量の藻類の成長を促進し、そのた
めウジャニ湖は富栄養化状態に陥っている。
都市と農村の対立
プネ市周辺の都市や工業地域における大量の水消費は、灌漑農業地域や旱魃に弱い東部地域における
水使用量の減尐という犠牲を招き、乏しい水資源の分配について都市と農村の対立を引き起こした。
プネ市への水供給の増大は、旱魃が起こりやすい地域があまり困らないように、「発生する排水を処
理し、ポンプで潅漑運河に戻す」という明確な条件のもとで 1996 年に認可された。しかし、实際には
排水は未処理のまま川に放出され続け、潅漑用に水をポンプで運河に戻すことも行なわれていない。
汚染河川水の灌漑利用
未処理排水の放出は水辺の生態系の悪化を招く一方で、河川の汚染排水の灌漑への利用を間接的に促
している。川を流れてきた未処理の排水は、プネからウジャニ貯水池まで 105km も続く川に建設され
た 7 つの堰から勝手に汲み上げられ、野菜や季節の穀物を育てるために使われているが、それについ
ては何の規則も制限もない。不注意にも、人々は有害であることを知らずにその農産物を食べている。
旱魃時に起こる不公平な水不足状態
流域の降水量は場所によって大きな違いがあり、丘陵地の高雤量地帯では変動は小さい。よって、そ
こにある大きなダムには確实に水が流入し、毎年ほとんど能力一杯まで水が貯まる。しかし、平野部
にあり、その集水域のほぼ 60%が渇水し易い地域にあるウジャニ湖は、降水量の変動が大きく、また
年によってごく尐量の水が流入するだけあり、渇水に弱いことが悩みとなっている。2002 年と 2003 年
には、ウジャニ湖にほとんど水が流入しなかった。現在では、そのような緊急時には上流のダムから
一定量の水を流し、ウジャニ湖から灌漑水や市水を確保できるように暫定的な決定がなされているが、
渇水に備えて、ビーマ川上流域の全域における公平な水の分配について政策形成を進める必要がある。
貯水池の土砂堆積
流域の水源近くで雤の多い丘陵地にある常緑樹や落葉樹の森の多くが、部族民の密漁や人的圧力によ
って打撃を受けている。雤の尐ない地域に散らばる森には既に大きな被害が出ている。このような行
為は貯水池の土砂堆積の速度を速め、その有効寿命を縮めることになる。幸いなことに、ビーマ川上
流域は、固い岩石地質と残留土壌のおかげで、全体的には土砂堆積の程度はあまりひどくない。集水
域にある多くの大小のダム(246 個)が、土砂溜として働き、ウジャニ貯水湖の土砂堆積速度を低下さ
せている。最近は集水域の開発において、小規模集水域の土壌保全に力を入れるようになったことも
土砂堆積速度の低下につながっている。
洪水の緩和
高い土手で明確に区切られた水路系が出来上がっており、また洪水が短期間であるために、この集水
域では耕作地の氾濫はそれほど重大な問題ではない。洪水問題は、主としてプネや Daund のような都
170
市のなかのスラム街などの侵食された地域や、川に非常に近い村落などの低地に限られる。24 の大き
な貯水池の大部分には放射状に放水門が備えられている。また集水域全体の総合的な洪水対策(管理
と規制)が整っており、起こりうる洪水の大きさを实時間ベースで推定し、洪水の起こりそうな地域
の人々に事前に警告できる。また自動雤量計測局を設置し、コンピュータで分析をするなどの体制を
整備し、放水門の操作が上手くいくような努力が為されている。ビーマ川上流域では水資源が乏しい
ので、貯水池ごとに洪水吸収設備を備えることは求められていないし、また事实設置されていない。
水産養殖
ビーマ川上流域にある大小全ての貯水池の総面積は約 45,000ha になるが、ウジャニ湖はそのうちの
29,000ha を占めている。ウジャニ湖は、主要な河川とつながる部分では深いが、大部分は浅く、植
物・動物プランクトンの成長を促進している。そこにはまだ天然の水生動物多様性が保たれているが、
科学的に養魚育成を行なうためにはまだ多くの課題が残っている。水産養殖ができるようになると、
収入増・雇用促進に加えて、栄養価の高い食物や補助食品の提供が可能になるだろう。
鳥類保護
ウジャニ湖は、ヘラシギ、トキ、ハシビロガモ、フラミンゴ、ハイイロペリカン、オナガガモ、鵜、
コウノトリなど 100 種類以上の渡り鳥を育む場所となっている。潅漑用水の放流のために、湖は次第
に小さくなっているが、新たに浅い湖が出現してそこに水生動植物が成長し、渡り鳥に大量の食べ物
を提供するので、冬が来るたびに数万という鳥が群がってくる。
ウジャニ湖への汚染の影響
マハラシュトラ州政府灌漑部の水文学プロジェクトの援助を受けて、プネ中央水力発電研究所(GOI
機関)は、最近 ビーマ上流域にある Panshet 湖(プネ市上流の丘陵地帯にある代表的な湖)とウジャ
ニ湖(最終地)から採取した水について徹底的なテストを行った。この調査の主要な結果は下記の通
りである。

Panshet 湖は、塩分や栄養分の溶けている量が尐なく、そのため飲料水、家庭、農業に適している。

ウジャニ湖で雑草や大型水生植物などが大量に増殖していることは,同湖で富栄養化が進行して
いることを示している。しかし、現時点では、富栄養化は、排水が貯水池に流れ込む上流部と湖
の周辺部に沿ったくぼみ部分に限られている。使用後の都市/産業用水に起因する栄養分の多い汚
水・スラッジや、灌漑農業から再生した水などが富栄養化の原因である。

夏季の溶存酸素の急速な減尐は、ウジャニ湖の一部で起こる熱的な溶解酸素の成層構造化に関連
しており、そのため深層部が嫌気性状態になる。
戦略、活動とその成果
アウランガバード(マハラシトラ州 - インド)の世界水パートナーシップ(GWP)の单アジア技術諮
問委員会の指導の下、ビーマ川流域の水分野で活動する団体が集まって、同流域の水問題を調査し、
流域発展の基となるビジョンレポートを作成するために水パートナーシップが 2001 年 7 月に設立され
た。問題点と可能な解決策を見出すために徹底的な調査をもとに「2025 年までの上ビーマ流域開発の
ためのビジョン」が作成され、2002 年 2 月にカトマンズ(ネパール)で行われた第 1 回单アジア水フ
ォーラムで発表された。策定されたビジョンは、「統合的な水資源開発と管理によって、ビーマ川上
171
流域の持続的かつ公正な社会経済開発を継続的に進めるために、汚染のない生産的な制度を確立する」
ことを目的とするものであった。
この調査の主要な結果は以下の通りである。

流域の水問題に対する認識は、全ての階層(政策立案者、实行者、専門家と水の利用者)で全面
的に不足している。

従来のようにさまざまな行政部局による細分化された取り組みが減り、水分野のあらゆる問題を
扱うようになったが、現時点では総合的に取り組む努力は不十分である。

政府の役割を「提供者・管理者」から「推進者・規制者」に変える取り組みについては、まだ前
進が見られていない。

灌漑管理を利害関係者に任せることに対する反応は、現時点ではまだ芳しくはないが、2005 年に
「灌漑管理参画法」が制定されることによって状況は改善されると期待される。

市営公社や汚染監視局の無関心と近視眼的な見通しのために、開発の優先順位がゆがめられ、都
市・産業排水の処理が極度に遅滞し、それによって水生態系と水資源の量的・質的な务化が進ん
でいる。

「利用者は料金を払い、汚染するものはその対価を支払う」という原則は、理論的には正しいが、
期待される水サービスを提供していくうえで、インフラの長期的な存続性、持続性、有用性に対
する脅威となっている。
この 5 年間に、水問題に対する利害関係者の認識を高め、地球規模で問題を訴えるために、以下の活
動が行われた。

家庭における節水対策について、都会に住む住民の認識を高める運動が発育期の児童によって展
開された。彼らは、プネ市の代表的な家族 1,000 以上を訪問し、1 日の水消費量をかなり減らすこ
とができる、市街地でも实践可能な簡卖な水節約法を彼らに教えた。

プネ市の女性団体と女性職員の代表による 2 つのワークショップが開催され、彼女たちに家庭で
の無駄な水の消費を防ぐ必要性が教育された。

飲料水の水質低下は農村地帯の慢性的な問題であり、人々の健康に悪影響を及ぼしている。そこ
で、農村でも同様に、学生による飲料水の太陽光殺菌、具体的にはプラスチックビンに満たされ
た水を 6~8 時間直射日光に曝すことによって殺菌する運動が展開された。

集水域開発事業への利害関係者の参加を促進するために、「最も上手に集水域開発を实施した村」
を競うコンテストが開催された。地域の言語で書かれた「集水域開発の技法と技術」という本が、
掛け値なしの価格(1 冊およそ 1US ドル)で販売され、7,000 部が売れた。

集水域開発事業に対する村人の認識を高めるために、その重要性を謳ったポスターが作成・印刷
され、コピーが村人や各団体に販売された。
著者は、2003 年と 2004 年の 8 月に、スウェーデンのストックホルムで開催された World Water Week
Festival に参加して、『ビーマ川上流域における現代的な水管理』および『集水域の開発 - 天水栽培に
替わる持続可能な取り組み』についてポスター発表を行なった。また著者は、2005 年と 2006 年に、オ
ーストラリアのブリズベーンで開催された国際河川のシンポジウムに参加して、『ビーマ川上流域に
おける都市と地方の紛争』、『インド半島河川の環境流量』、および『ビーマ川上流域の水資源管理
への地域住民の参画』についてポスター発表や論文発表を行った。
172
利害関係者を巻き込む運動
プネ市の数人の啓蒙慈善家が 2002 年に河川伝道運動を開始した。この 750 年間、マハラシュトラ州や
隣接している州の 20 万人以上の Dindi(神聖な伝道者集団)は、2 週間かけておよそ 225km の距離を
歩いて、生命に対する精神的な教えを人々の心に広め、自分たちを目覚めさせてくれた聖者に敬意を
表す。河川伝道者は、自分たちの涅槃の場所から、ビーマ川に沿った約 450km の工程を 12 日ほどかけ、
舟、カヤック、帄船を漕いで自らの神の寺を目指す。途中の 70 ヶ村の人々は、川の健康、水質汚染、
人間の健康管理、自然の生態系再生、自然保護などについて諭される。2005 年にはおよそ 22 の団体が
この活動に参加した。この活動は、水に対する人々の知識を増大させる運動として定着した。
旅の合間で河川の水がサンプリングされ、その水質が検査される。汚染源となっているプネ市の人た
ちは、視聴覚教材による検査結果の説明を受け、川の汚染がどこまで進んでいるかを知らされる。河
川の水汚染は場所によって異なるが、次のような範囲にある。(i)バクテリア数は 200~1,600 以上、
(ii)TDS(全溶解性物質量)は 200~300mg/L、(iii)COD(化学的酸素要求量)は 50~250mg/L、
(iv)リン酸塩は 0.3~0.8mg/L、(v)硝酸エステルは 10~20mg/L
得られた教訓
排水の汚染レベル(有毒化学物質、重金属、糞便、病原菌、硝酸エステル、リン酸塩、有機物など)
の監視、定められた基準を超えていないことの確認、灌漑農業に再利用できるような安全レベルまで
の排水処理、処理・未処理排水で育てられた農産物の基準設定とその实施などは、湖沼管理の最も重
要な部分である。水質汚染の悪影響が人間の健康被害として現れるのには時間がかかるため、関係者
は汚染問題に対して対策を取るのが遅れてしまう。誰もが誰かの下流に居住しており、また、全ての
関係者は、何らかの意味で水の利用者であると同時に汚染者であるが、誰も廃水処理のための費用を
支払う気はない。社会の快適な暮らしを長期的に保証するために「今こそ費用を負担しよう」と皆を
説得することは、最も困難な挑戦課題である。
関係者が流域の開発や生物管理に関与・参画することは、貯水池の環境改善や土砂堆積の低下につなが
るだろう。環境意識が高まり、水に関する知識が豊かになることは、関係者が事業に参画して貢献し、
政策实行者にその誠实な遂行を迫るための圧力団体となっていくうえで最も重要なことである。人々
の物の考え方を変えることは、非常に時間の掛かることであるが、他に良い対策がないのであれば、
現時点で实行可能だと考えられるものから始めるべきである。
今後の展開
インド政府は、最近、ビーマ川上流域における川の健全性を高めるために、下水処理場建設などの対
策を实施するための資金提供を確約した。そうなれば、川辺や人工の生態系にも改善が見られるだろ
う。また、旱魃を起こしやすい地域の需要を満たすために、処理された水を灌漑用水路に還流すれば、
都市と地方の対立を和らげることになるだろう。
法律で規定された川の水質基準を維持できなかったことを理由に、州政府、プネ市政府、および汚染
防止局に対して、慈善家による公益訴訟が起こされた。
ビーマ上流域水パートナーシップは、今後も、水に対する知識向上運動、すなわち水問題への意識向
上と、水問題の解消に向けた関係者の参画を促す努力を続けていくだろう。
173
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ビクトリア湖における環境活動の成功事例
Obiero Onganga
Executive Director, OSIENALA, P.O. Box 4580, Kisumu, Kenya
[email protected]
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要旨
OSIENALA(ビクトリア湖の友)はケニアの地域 NGO として登録されており、主にニャンザを始めと
するビクトリア湖流域の西部地域で活動をしている。OSIENALA は、同じような考えを持った NGO
とパートナーシップを組み、ビクトリア湖とその周囲の資源の恵みを最大限得るための環境保全とし
て、湖の周辺地域(ケニア、ウガンダ、タンザニア)の住民の能力強化を図ると同時に、湖が直面し
ている問題に対する認識を、地域的・国際的に高めていく使命を持っている。ビクトリア湖は、多く
の問題があると同時に可能性にも富んでいる。本事例研究にあたっては、1)湖のさまざまな地点で
蓄える文化を漁民の間に持ち込んだ「ビーチ・バーン運動」、2)ビクトリア湖ラジオ放送局(FM92.2)
活動、3)環境保全とそれを通じて湖を救おうとする地域住民の努力、の 3 点を強調したい。
この事例研究では、序章で読者に事例研究の背景をよく理解してもらい、次いで WLV の観点から優
秀な管理事例を紹介し、最後に湖のビジョンを共有したい。同時に、この事例研究はビクトリア湖の
一地域の事例であり、ここで得られた結論を一般化することは難しいかもしれないということも指摘
しておきたい。
ビクトリア湖地域は「貧困と病」の地帯と呼ばれている。最近の経済調査によると、ニャンザは、基
幹施設が最も充实していない地域の一つで、水道水や飲み水を利用することができるのは人口のたっ
た 0.6%しかなく、住民の大多数は、最低生活レベル以下の暮らしをしているという。HIV 感染者は、
全国平均の 6~7%に比べ、ニャンザでは 15%である。子供たちの 70~90%が、5 歳になるまでにマラ
リヤで死亡する。しかし、ビクトリア湖流域には天然資源が豊富にあり、それを上手に活用すれば流
域の経済的状況を向上させることができるのである。
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はじめに
中新世(現在から約 2500 万年前)以前、アフリカの大地は中央部が高く、そこから東西に川が流れて
いた。この河川パターンは、中新世に入ると一連の地殻上昇と火山活動によって変化し始めた。エリ
トリアからザンベジにいたるアフリカ大陸東部の大地は 1,000m以上にわたって上昇した。その両端は
さらに上昇し、2 つのアフリカ・グレート・リフト・バレー(Great Rift Valleys)を形づくることにな
った。さらに地殻変動によってこれらの峡谷の大地に窪みができ、後にその窪みに水がたまり、大峡
谷の湖をはじめとする無数の湖ができた。中には水深が 1,000mの湖もある。
地質学的な痕跡から、ビクトリア湖流域は約 40 万年前の更新世の時代に形成されたということが判明
している。現在のビクトリア湖がある地域では、当時、水は東から西に向かって流れていたが、地殻
変動によって、峡谷の肩と現在湖の西の縁を形成している土地に沿って土地が徐々に盛り上がり、隆
起した部分が沈下したために、それまでの水の流れが逆転した。西に向かって流れていた川が、いろ
んな方向に逆流した結果、沼地のような湖を作り、さらにそれらが後で一緒になりビクトリア湖とキ
ョーガ湖を形成した。さらに水の作用で下向きに削られた部分は、ビクトリア・ナイル(白ナイルと
しても知られている)に通じる北向きの流出口となった。
174
初期にはビクトリア湖周辺にいくつもの小さな湖があった。これらの湖は中新世期に完全に干上がっ
てしまった。ビクトリア湖は更新世に形成されたが、それ以来水位は変動し続けている。この原因は、
地殻変動と、乾季・雤季が交互に起きる気候変動にある。堆積物の成分に関する研究によれば、1 万
4730 年~1 万 2000 年前までは、水面は周囲の土地より低い位置で変動したので水の出口は無かった。
1 万 2000 年ほど前になると、湖は溢れるほどに満水した。湖は、ほぼ 1 万年前に一時的に溢れなくな
り、その時に水の出口が出来たが、それ以来、湖はビクトリア・ナイルを経由して流出している。
湖の集水域には各地を流れる数本の川がある。湖への主たる流入河川であるカゲラ川は、ルワンダと
ブルンジの山から流れ込んでいる。ケニアの川は、山岳地帯の傾斜を北西部に向かって流れ、ウガン
ダの川は沼沢地を潤して西方に流れている。タンザニアの川は单東部のセレンゲティ平野に流れてい
る。湖岸線は多くの湾や河口を形成し、不規則である。また湖には多くの島がある。
1 万 3500 年~1 万 2500 年前、ビクトリア湖流域の北部は、半落葉性の森があるサバンナ植生域であっ
たことが化石からわかっている。また 1 万 2200 年~7000 年前にかけては常緑樹の大きな森林ができた。
常緑樹の森は、6000 年前以後、雤量が減尐したために半落葉性の森に変わった。この 3000 年間に森林
はさらに減尐したが、その主要な原因は人間活動や降雤量の減尐である。
19 世紀中頃、ビクトリア湖の北部・ウガンダ流域の大半は森と湿地が散在する森林サバンナであり、
タンザニアの乾燥地域の大半は森林であった。またケニアには森林地帯とサバンナ・樹木の混ざり合
った地域があった。湖の周辺や川辺にある低く傾斜した氾濫原は、パピルスのスゲがある沼地となっ
ていた。
湖が直面している問題
ビクトリア湖の湖面は、三つの国、ケニア(6%)、ウガンダ(45%)、タンザニア(49%)に共有さ
れている。また三国の合計人口の約 3 分の 1 が、漁業や農業を通して、湖から生きるための生活の糧
を得ている。このように湖は地域にとって大切な経済的資源である。この資源は、湖の豊かで多様な
生態系が適切に維持されることによってのみ、持続的に保たれる。湖は、人間活動の影響に対して、
特に敏感であるということを忘れてはならない。
流域が直面している最も大きな脅威は、集水域内の貧困な土地利用である。流域では森林伐採が進み、
それがまた湖に流れる川で土砂堆積を引き起こしている。これと並ぶ脅威は、集水域で農民が使用す
る化学薬品の増加であり、新たな汚染問題の原因となっている。
湖流域の主要都市では、未処理のまま流される廃液による汚染が増大しつつある。このような行為は
環境破壊を招くものであり、流域内の河川や湖は、集水域から流れ込む排水、産業廃液、固形廃棄物
によってすでに汚染されている。
湖が直面している大きな問題の一つは魚の産卵場所の破壊であり、その原因は、土砂堆積と、企業が
水路を通じて直接湖に流す廃棄物による湖の汚染にある。流域では、森林伐採や浸食などの削剥作用
による务化が進んでいる。地域の農業は、化学肥料、殺虫剤、外来種に大きく依存しているので、生
産性の向上は、一方で湖の汚染の増大につながる。さらにもう一つの問題点は、漁業技術が未熟で、
多くの人が 1 つの区域で漁をする結果、乱獲に陥ってしまうことである。湖の周辺地域は、年間 3%以
上という国内で最も人口増加率の高い地域の 1 つである。食の需要を満たそうとする行為がこのよう
175
な傾向をもたらしたといえよう。漁業資源の激減は、他の生態系、特に魚を食する鳥に大きな影響を
与え、その数は 1980 年以降顕著に減尐した。
生物多様性も減尐している。1960 年代には存在していた 200 種類以上の生物が絶滅した。湿地帯は、
水が湖に流入する直前でフィルターとしての役割を果たしているが、開発の名においてそれらが憂慮
すべき早さで破壊されつつある。
湖水面も低くなってきている。この原因の 1 つとして、ウガンダにおいて発電用に使用量が増えたこ
とがあげられているが、スーダンやエジプトでは洪水や水面の上昇などは報告されていない。一方、
集水域における木材伐採のせいで雤量が減尐したという意見もある。また、ビクトリア湖は大地溝帯
の 2 つの断層間にあるが、亀裂が大きくなって地下水の減尐を招いたのかもしれない。
持続可能な金融サービスの手段がない。湖の流域に住んでいる貧しい人たちの生活の特徴は、小額の
お金が出入りするところにある。たいていの場合、時間がたてば収入が支出を超えることになるが
(そうでないと貧しい人々は生きていくことができないことになる)、貧しい家計にとっては、収入
と支出の不均衡が最も大きな経済的不安や危険要因になっている。貧しい世帯の現金収入の不足を、
どの程度どのように埋めるかが、彼らの経済的、肉体的、また精神的な幸せには決定的となる。金融
サービスがある湖の流域においても、金融その他のサービスは貧乏な人たちにとって適切な形では行
なわれてはいない。その結果、貧乏な家庭は、経済的、社会的なショックを和らげることができず、
貧困に対する無力感や脆弱さを強めている。この無力感が彼らを資源の乱用へと走らせている。
さらに問題なのは、ビクトリア湖の資源管理や利用に地域住民がほとんど参加していないことである。
低い識字率や、「魚は皆の共有資源である」という考えが住民の間に根強いことが主な原因であるが、
共有する資源の分配について政府が何の方針も持っていないことが、状況を悪化させている。
年間 3%という急激な人口増加によって、流域人口の大部分が 15 歳から 29 歳の間の若者達になり、大
家族が増えた。この結果、減尐しつつある資源を争って獲るようになり、漁民の間で紛争が増えるよ
うになった。法の執行が不充分なうえに監視能力が低いので、保護区域である湿地帯、国有保安林や
公園に人が棲みつき、侵害している。このために水質が低下し、入手が困難になった。
ホテイアオイは湖における深刻な問題である。その大部分が管理されるようになったけれども、地域
によってはまだ漁業に深刻な問題を引き起こしている。ホテイアオイについては、酸素の減尐による
漁獲高の減尐や、漁師が適当な船積み場や浜辺を判定することが困難になるなどの問題もある。
最後に、湖には魚や各種の資源が豊富にあるにもかかわらず、漁民層の多くがひどく貧しいという問
題がある。湖周辺の広範囲にわたる貧困は、湖資源の乱獲の原因となった。また魚の値段の決定権を
持つ中間業者によって漁民は搾取され、状況はさらに悪化している。魚は腐りやすく、獲った魚を無
駄にしたくない漁師達は、安値で売りさばくことを余儀なくされる。漁師達は魚の貯蔵設備も無く、
交渉力も弱いため、中間業者は低価格を提示するのである。一般的に、価値付加を付けるための十分
な知識も加工設備も無いため、ほとんどの農作物は未加工のまま売られている。
戦略と行動
OSIENALA は、地域を基盤にした環境保全戦略によって漁民たちの貧困を改善させる活動の最前線に
立っている。以下にこのことを最もよく示す事例を紹介する。
176
ビーチ・バーン
OSIENALA は、漁民たちの間に広がっている貧困、汚染、乱獲、産卵地の破壊、漁民による投資の欠
如に対応するため、何年もの研究の後、地域住民と共同して、「浜辺銀行」と呼ばれる小規模金融の
取り組みを始めた。この取り組みは、漁民が行う仕事のやり方を変えることを目的にしている。
浜辺銀行は、ビクトリア湖の漁民たちのための小規模金融事業であり、本部はキスム市のドゥンガビ
ーチにある OSIENALA 研究開発センターに置かれている。この事業は、主に漁民や漁師をターゲット
にし、「金融の発展、投資と漁民達の収入向上には関連がある」と説く。浜辺銀行は、1 つの「脱貧困
戦略」であり、ビクトリア湖岸に沿った農村地帯の貧しい人たちの持続可能な発展と貧困緩和のため
に、包括的で基本的なサービスを提供する自己金融革新である。また、貧困地域の漁民たちの元手を
増やすため、住民が自分たちの必要性と経験に応じて借り入れる、需要対応型の活動である。
このプロジェクトでは、一生懸命働いて儲けたお金をいかに投資するか、そして将来も続けて使うこ
とができるように、自分たちの財産をいかに保護するかを教えている。参加するために必要なものは、
アメリカ通貨で 20 セントのみである。会員は、貯蓄法、投資法、投資の賢い活用法を教わり、さらに
持続可能な漁法の訓練を受ける。また適切な漁業用具の検討も行なわれる。「浜辺管理部門」は、ト
イレの設置、魚を保存するための冷蔵用倉庫の建設、浜辺でのプラスチック製品の使用規制、そして
何よりも、清潔な水の提供を奨励している。
この浜辺銀行は、ビクトリア湖流域内の漁民の間に、貯蓄、貸付、投資の文化を育てるために、2004
年の 4 月に始まり、同年 5 月に Nyandiwa に第 1 支店を設立した。元手と資金調達は OSIENALA の内
部資金で賄われた。現在までに 4,000 人強の顧実を基盤に、17 万 US ドルを超える預金と、6 万 US ド
ル 強 の 漁 民 へ の 貸 付 が あ る 。 銀 行 は 、 2005 年 末 ま で に は Port Victoria 、 Busia 、 Sori 、 Osieko 、
Wichlummigori、Muhuru Bay、Usenga、Lwanda Kotieno、Mbita などいろいろな浜辺に支店を開いた。
貸し出されたローンは、漁民が、野菜作りや、店の経営、とうもろこしの粉引き工場などのベンチャ
ービジネスを展開する元手になっている。今では、彼らは、たとえ漁獲高が減っても、頼るべき最後
の手段を持っている。このように、彼らの所得基盤の多様化を促進しながら、湖への依存を減らして
きた。
網などの漁具購入のための融資を拡大することによって、漁民達が適正な漁業法を实践すると、銀行
は確信している。以前は融資制度がなかったので、漁師達による化学薬品や不適切な網の使用が日常
茶飯事であり、そのために湖が汚染され、魚の健康が脅かされていた。このように漁民を組織化する
ことによって、湖流域の管理は良い方向に向かっている。
ビーチ・バーンは、漁民達を社会的に組織化することによって、彼らが、責任ある漁業、多角化、さ
らに自分たちの活動の管理・調整など、望ましい管理手法を实践するのを手助けした。ビーチ・バー
ンなくして、このような大きなグループ(漁民)を一つにまとめることはできなかっただろう。
ラジオ・レイク・ビクトリア(RLV FM)」(最良の实践)
湖の周辺ではインフラ整備が遅れ、人口の 6%しか国の電気網に接続しておらず、電池式ラジオが主
たる情報の入手手段である。この地域では、尐なくとも一家に 1 台の電池式ラジオがある。ラジオは、
177
漁民達に環境問題を伝えるために OSIENALA が選択した伝達媒体である。ラジオは漁民達の方言で放
送され、今では 300 万人の人が聴いている。
ラジオは情報を伝達するのに効果的な媒体であり、環境保全を働きかけ・奨励する手段であり、環境
保全意識を湖の住人に植え付けるための手段であり、また環境問題について地域住民を活性化させる
手段でもある。
RLV FM は独立した無党派・非営利の地域ラジオ局である。そのため、公共の重要事項について公正
かつ公平な態度で意見を延べ、批判する権利を有している。
OSIENALA の活動の一つとして RLV FM が始まって以来、多くの制度変遷があった。このラジオ局は、
OSIENALA とは独立した事業体と見られているが、实際は OSIENALA の代弁人であり、またそうでな
ければならない。
重要な課題
最も視聴者に関係が深く、従って、RLV FM が重点的に取り扱っている話題と問題は次の通りである。
・環境
環境の分野でこの局が関係した事例はいくつかあり、その中のいくつかを示す。住民が政府の土地
に侵入し、森林を破壊した Gwassi Hills の再生はその 1 つである。RLV FM は、地域住民に情報を提
供し、森林や土地管理に関する講演を放送するなど、多くの活動を行った。これらの活動によって、
住民の感情が和らぎ、環境問題に対する広い視野を住民が持つようになった。
・紛争解決
タンザニアやウガンダで拘束された漁民達の解放のニュースや、解放後に OSIENALA が(彼らの)
罰金を支払ったことなどの情報提供を行った。
・市民の権利(女性・子供の権利を含む)
・健康(HIV/エイズを含む)
現在 HIV/AIDS 問題のために活動し、関連プログラムを实施している。
・文化とライフスタイル
・漁業
・農業
・商業
・ニュースと天気
RLV FM は、関連機関はもちろん、地域の各種団体、グループ、個人、パートナーや協力者を継続
的に招き、局の専門スタッフの経験を基に、情報の取り上げ方を共同で開発したり、番組制作に参
加してもらっている。
・視聴者
RLV FM は、放送の中ではすべての問題を包括的に取り上げるが、中でも、地方・都会を問わず、
社会的に不利な、情報の届きにくい人々の生活状態に重点を置くものである。したがって、RLV の
主要な視聴者は、漁民、湖流域の農民、湿地生活者、すなわち、ビクトリア湖やその環境で生計を
立てている人々である。地域のラジオ局としては、大きすぎる視聴者層であるが、地理的・人口統
計学的には明確に定義される。RLV ラジオは視聴者から高い評価を受けており、環境に関する番組
178
の多くが、視聴者によって賞賛され、湖流域の隅々から便りがある。毎日放送される環境番組には、
携帯電話など多くの賞品があり、多くの市民がその放送を聞くようになっている。
Gwassi hills
Gwassi hills では、住民運動によって丘が保全された。この丘には大変な環境負荷がかかっており、所
構わず、理不尽な森林破壊が大規模に起こっている。この地域の資源の急速な破壊と枯渇にはいろい
ろな原因があるが、昨今、この地域に多くの人が移り住み、住居建設や炭焼きのために勝手に木を切
り倒したり、燃料用に木材を伐採したりしたことが主要な原因となっている。Gwassi hills の資源枯渇
は、多くの深刻な結果を招いた。天候パターンや気象条件が変化し、その結果、降雤量が不安定にな
り、湧き水量が減尐し、土壌浸食が増え、土地があちこちで窪み、生物多様性が減尐し、作物の収量
が減り、ビクトリア湖岸には土砂が堆積した。丘のいくつかは乾いたサバンナになってしまった。恵
みの雤の減尐は、農産物生産の減尐、食物の不足、そして貧困を意味した。Gwassi hills 集水域の森林
の再生と保全は住民にとって大変重要である。Gwassi Hills の現状は、憂慮すべきであり、住民主体の
統合的な資源管理の取り組みが必要である。OSIENALA は、Gwassi の住民と長いつきあいがあり、
2002 年に地域の長老から教育支援を要請された。住民は、OSIENALA に対して、Gwassi hills 保全のた
めの(議員)への働きかけや(住民)に対する啓蒙活動を主導してくれるように依頼した。
OSIENALA が行なった徹底的な監査をうけて、Gwassi の住民は、保全のための運動の指針となる活動
計画を立てた。
この住民による努力の結果、(今では)丘にはもっと雤が浸透すると同時に、川によって土砂として
湖に運ばれる土壌の量が減尐した。これは、人間と自然の「win-win(お互いにメリットがある関係)」
の関係である。さらに、住民は、環境保全に関する研修を受けて樹木の苗床を作り、Gwassi Hills の保
全につとめた。
COSMER-LAV プログラムは、ビクトリア湖の生態系をさまざまな形で脅かしている、あらゆる分野に
おける前例のない開発課題・問題・争点を背景として始められたものである。その中には、貧困、汚
染と排水処理、水質の悪化、粗末な衛生施設と国内の低い水質レベル、貧困な土地利用管理制度、湿
地帯の悪化、資源の濫用、などが含まれる。このプロジェクトは、東アフリカの三国(ケニア、ウガ
ンダ、タンザニア)を対象にしているが、このように範囲を拡大したのは、ビクトリア湖は、この三
国によって共有された共通の自然資源であり、その管理の問題については地域として取り組むほうが
賢明である、と考えたからである。現在、プロジェクトは、ケニア、ウガンダ、タンザニアの厳選さ
れた連携機関によって、ビクトリア湖流域の各地で实施されているが、適宜、ビクトリア湖に流入す
る最大の川であるカゲラ川が流れるルワンダやブルンジの関連機関との間に連携が広がっていくこと
が期待される。
プロジェクトは、環境の悪化につながる全ての問題に対して、効果的に参加し、自分達の権利を主張
できるように人々を教育し、それによって環境悪化を抑え、持続可能な資源管理を促進することを目
的としている。
プロジェクトは現在までにある程度の成功を収めているが、中でも以下のような取り組みに力を入れ
てきた。

資源として再利用するための適切な産業廃棄物管理
179

ビクトリア湖周辺の貧困にあえぐ多くのスラム住民のための公衆衛生の改善

地域の資源管理機構設立と、必要に応じて自分たちの権利を主張できるようになるための訓練と
教育

貧困を地域に定着させることになった問題に対して、社会としてもっと責任を持って取り組むた
めの住民主体の温情的 HIV/AIDS 管理戦略の策定

責任感を持ち、熱心に環境保全に取り組む住民を育てるために主導的役割を果たせるよう
OSIENALA の能力向上を図ること
このプロジェクトから生まれた良い事例は、集落環境委員会(VEC)である。村人たちは、そこで自
分達の資源、特に湿地帯を持続可能な方法で利用・管理する方法を訓練された。彼らは、湖の水位を
計測したり、河川の堤防管理を行うこともできるようになった。これらは産業界などの利害関係者と
共同して行われている。以下に一例を示す。

Karachounyo の Kusa 村は絶好の事例である。同村では、湿地帯の更生に成功し、現在では持続可
能な方法で湿地帯を管理し、牧草の無い場所で山羊を育てるといったような収入を生む活動まで
計画されている。
このような対策を实施した結果、湖の能力は改善され、飲み水だけでなく、汚物処理や経済発展のた
めの水まで提供できるようになった。

魚を燻製にする窯を改良した。伝統的な土窯は、魚を乾燥したり、燻製にしたりするために長い
間使用されてきたが、効率が悪く、煙を出すため、それを扱う女性達に健康被害を引き起こす。
さらに薪は乏しくなりつつあり、女性達は木を取ってくるために長距離を歩かなければならない。
Kotieno(ルワンダ)では、3 台の窯がこのプロジェクトで作られた。この窯はレンガで作られ、
粘土で断熱されているので、魚を乾燥したり、燻製にしたりするのに尐量の木があれば大丈夫で
ある。伝統的な窯の場合、壁が薄くて通気孔が空いているので、熱と煙が浪費されていたけれど
も、改良窯は壁が厚く、魚が何層にも置けるように段重ね用の棚が付いている。すなわち、(改
良窯では)もっと多くの魚を比較的尐ない薪で乾燥することができるということになる。燃料効
率でいうと、改良窯は、伝統的な窯に比べて 40%薪を節約することができる。
管理活動の成果
いろいろな管理活動が定着し、湖を保全するための適切な対策を取りやすくなった。湖の資源を管理・
統括していくためのいろいろな法律もできた。代表的なものは、The Physical Planning Act 1999、The
Water Act 2000, The Forest Act 2005, The National Environment and Coordination Act 1999, The Agriculture
Act などであり、これらは、環境保全を進めるうえで、互いに支えあって機能を果たすものである。
徐々にこれらの法律の多くが守られなくなっている。植民地時代に出来た農業法や漁業法などは、人
間を環境の破壊者と見なし、政府を環境の後見人だとみなしていた。このため人々は、湖の資源は、
政府の財産であり、自分達のものではない、と思うようになった。
「森林と水の保全法」のように、
人の参加を強調し、資源管理に参画させるような革新的な法律ができるのはまだ先のことである。だ
から、我々は、各種の法律を施行するよりも、管理活動そのものに重きを置いているのである。
180
得られた教訓(WLV の原則との関連)
人間と自然の調和した関係は、湖沼の持続可能性にとって不可欠である(原則 1)。政府は、「この
原則は湖の持続的な利用にとって基本的である」と認識し、環境管理保全法を制定し、さらにすべて
の開発プロジェクトにおいて環境影響評価を行うように要求した。このことは、自然と人間の(両方
の)問題が常に考慮されていることを意味する。しかし、もっとも基本的な問題は、環境に関する認
識が低く、一般市民には清潔で健全な環境を求める権利を行使する機会が与えられていないことであ
る。法律、政策、政府の計画などの情報が地域住民に流れることは稀で、多くの場合、定期的ではな
い。先に述べた Gwassi hills の事例はこのことの 1 つの例証である。
湖の流域は、湖沼の持続的利用をめざす管理施策を立案・实施する際の論理的出発点である(原則
2)。流域を流れる河川は、ルワンダ、ブルンジ、ウガンダ、タンザニアなど他の国を源流としている
ので、これらの国が、東アフリカ地域という枞組みの中で、国境を越えた環境保全政策を作成し、实
行することが望まれる。そうすれば、保全の取り組みが容易になり、調整もより簡卖なものになるだ
ろう。
湖沼環境を悪化させる原因を除くためには長期的な予防的な対応が必須である(原則 3)。
湖沼管理のための政策の形成と決定は、適正な科学の成果と利用可能な最良の情報に基づいて行わな
ければならない(原則 4)。市民は、出発点として漁業と湿地帯に関する方針を策定するよう要求し
ている。その後は、どんな政策決定や意思決定も、科学と入手可能な最良の情報を基本にした枞組み
のなかでなされるだろう。
持続的な利用のための湖の管理では、現世代および将来の世代のニーズと自然のニーズを考慮しつつ、
競合する湖沼資源の利用者間の紛争を解決することが必要である(原則 5)。
住民およびその他の関係者は、重要な湖沼問題の把握と解決に有効な形で参加することを奨励すべき
である(原則 6)。計画立案者、管理者、政治家、研究者は、等しく、定期的に最新情報を得て、湖
の保全に関連する複雑な要因を理解する必要がある。
公平性、透明性、すべての関係者への権限付与を基礎とした良好な統括体制が、持続可能な湖沼利用
のために不可欠である(原則 7)。この点において、湖のラジオ放送は、情報を伝え、環境意識を高
める最前線にいる。漁業・湿地帯の政策を策定し、实施する時には、もっと住民の参加を促すべきで
ある。こうすれば原則 7 を確实に遵守できる。
関連する要因の複雑さと、この国が人・資金の両面で能力が不足していることを考えれば、全体とし
て、7 つの原則は程度こそ違え、順守されているといえる。
教訓に学ぶことは我々の責務である
経験から得られる教訓に学ぶことは我々の責務である。それによって、我々は自然の資源を管理する
ために、自分達の能力を高めたり、強化したりすることができる。第 1 の教訓は、「ビクトリア湖は
東アフリカの 3 つの国が共有する資源であり、その問題に取り組むためには地域的な取り組みが賢明
である」という認識である。これは、過去には無かった状況である。
181
湖の流域に暮らす人々は、生来、先を見越して行動するタイプではなく、事が起こってから行動する
タイプである。この性格と、この地域に蔓延している貧困のために、彼らは、湖の資源の持続的な利
用に取り組む活動に参加できないのである。ここに住む人々は、疾病そのものを治すより、その症状
を何とかしたいのである。湖の問題に取り組むためには、人々の気質を変えることが必須である。こ
れは、教育や経済活動を通じて地域の住民の能力を高めることによって達成することができる。
我々は、「生物の多様性が失われている」とこれまで述べてきたが、このような損失の記録が残って
いるわけではない。例えば、アテェゴ島(Mfangano 島の隣)は、かつて人間が住み着くまでは、渡り
鳥の聖地であったが、渡り鳥に関する記録は現在まで残っていない。
湖が直面している問題は国境を越えているので、その解決策は、東アフリカの 3 国が共同して取り組
むことができるかどうかにかかっている。集水域の破壊や森林破壊、土砂堆積など、全ての問題が 3
国共同の取り組みを必要としている。
今後の取り組み
長期プロジェクトの中で決められる灌漑、水力発電、農業土地利用など経済的かつ社会的に重要な決
定は、WLV の原則に基づいてなされるべきであり、それがビクトリア湖管理の将来の発展にとって信
頼すべき指針となる。特に、環境に対する影響を開発プロセスの中に組み込む環境影響評価は、厳重
に行なわれる必要がある。
一人の女性が平均 4.8 人の子供を産み、年間 3%である現行の人口増加率を年間 1%に減尐させるため
の対策が取られるべきである。そうすれば、貧困の中で生活している人々の数を次の 10 年間で著しく
減らせる。貧困人口を減らすことは、貧困と戦うために必要不可欠である。これは、「2015 年までに
貧困層を半分にする」という(国連の)ミレニアム開発目標の第 1 番目の目標を实現させるための大
きな成果になるだろう。貧困層を減らすことは、もっと真剣に取り上げられるべきであり、最も高い
優先順位を与えられるべきである。
湖の住民が自然から分け与えられた資源を効果的に保全できれば、すなわち、多様なニーズに応えら
れるよう統合的に管理し、かつ湖資源の务化を防止できれば、それによってはじめて持続可能な発展
が可能になるのである。これは、厳しい訓練と啓蒙活動を通じてのみ達成されるものであり、このこ
とを改めて強調する必要がある。
政策面についていえば、湖の流域に住む住人は、危機的な状態にある漁業と湿地における活動を規制
するための政策を策定し、实施するように、自分たちが選出した代表者を通して政府に働きかけをし
ている。共有財産、森林、その他自然資源全般に関する住民の所有権について政府は明確な方針を持
っておらず、それらの管理に対する住民参加は限定されたままである。
土地保有や土地裁定に関係する事柄、例えば、権利証書の発行に関する調査と地図化、土地をめぐる
紛争の調停や季節生産のための土地借用に関する法体系(の不備)が、農業分野の成長を阻んできた。
湖は人間活動の影響に非常に敏感なので、これは湖の存続を脅かすことにもなる。
捕獲後の魚の損失を減らすための低温貯蔵設備提供、船着場の所有権、未開発の船着場用海岸などの
問題が明確にされなければならない。業務時間の延長や捕獲後の魚の損失を減らすための冷蔵貯蔵庫
182
の提供を要求するなど、漁業や市場活動を効果的に实施していくための漁民の再組織化を検討する必
要がある。水の汚染に繋がる家庭排水や工場廃水を湖に流出することを中止することも、至急に取り
組まれなければならない。
OSIENALA は、近い将来、CBO や NGO、農業団体、漁業協同組合、他の利害関係者と協力・提携し、
前述した政策および以下のことを主張していくつもりである。
1.
土地・土地利用・土地の権利・土地の保有・共有財産・森林や他の資源管理への住民参加に関す
る明瞭で適切な政策の制定と实施。これは原則 7 に該当する。
2.
資源へのアクセスと利益配分。OSIENALA は、共有財産と自然資源に関する地域住民間の対立を
解決することを目的とした取り組みを、必要であれば法的支援を含めて支援するつもりである。
環境問題にもっと関わっていくために、(OSIENALA)は、天然資源管理の専門知識を有する
CBO、NGO、国際組織などが進める、環境保全に関する意識啓発や、環境に関する政策作り(国
家環境マネジメント法 2000)を支援する。OSIENALA は、CBO や他の NGO によって行われて
いる天然資源管理に関する要求や主張を支援する。
3.
住民参加については、住民参加を促すために、農村部の住民の技能と創造性を活用し、彼らの生
産力を拡大することに取り組みむ。この活動においては、水保全活動を持続可能に实施し、食の
安全を確保するための自立性の育成が中心となる。水計画を構想・企画するにあたっては、家庭に
必要な水と食料の管理人である女性の役割を充分考慮する必要がある。
結論として、今後被害をもたらす可能性のある土砂堆積のように、流域外に起因する要因もあるが、
生物多様性と鳥の聖域たる湖の近未来の問題の大部分は流域内にあり、住民こそがその存続の鍵を握
っているのである。
謝辞
この報告は多くの人々の努力と協力の賜であり、特に、OSIENALA の O. Mireri 氏と Elly Okeyo 氏には
執筆に当たって多大なご協力を頂いた。
参考文献
1.Poverty Reduction Strategy Paper(PRSP)
2.Action Plan of the Environment Initiative of the New Partnership for Africa’s Development(NEPAD)
3.WORLD LAKE VISION, A CALL TO ACTION
4.THE END OF POVERTY, HOW WE CAN MAKE IT HAPPEN IN OUR LIFETIME, by Jeffrey Sachs
183
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ナクル湖の未来に向けた全員参加型パートナーシップの構築
David Kuria
Intermediate Technology Development Group- Practical Action,
P.O. Box 39493, 00623 Nairobi, Kenya AAYMCA Building, Along State House Crescent, Off State House
Avenue Web site: http://www.practicalaction.org
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
要旨
ケニアの都市湖の多くは、不十分な法整備と貧困なガバナンス、流域内の住民の湖沼管理に対する認
識と熱意の欠如、さらに総合的湖沼管理を行なうための首尾一貫した方法論の欠如などが原因で、前
例の無い汚染を経験している。これらの湖は都市の存続に決定的な要素であり、都市開発の生命線で
あることを考えるとこれは不幸なことである。
ナクル湖は、脆弱な環境の中に位置している生態系であり、物理的な発展にはいろんな制約があるな
かで、都市開発者やマネージャー達は、町の総合的な管理を確实に实践していくための方策を模索、
挑戦している。ナクル市は、非常に短期間に大都会へと成長した。今日、町を見下ろすとき、この町
が 80 年以下の歴史しかないと想像するのは困難である。文字通り地形に鉄道線路を描くように、圧縮
された時間で町がゼロから 30 万人以上(現在、人口増加率は年 7%で、50 万人近くの状態になってい
ると推定される。)の大都会に成長したことが町の行く末を決めることになった(De Meulder 1998)。
De Meulder は、都市の形態、制度やしくみというものは、時代によって変わる市民の願望や声に適応
しながら長い時間をかけてできあがるものだと言っているが、ナクルの圧縮された歴史には、このよ
うな標点はあまりない。歴史的な標点がないことは、同時に、歴史の重みを軽減し、介入やビジョン
に対する自由(世界の多くの歴史に根ざした町が競って勝ち取ろうとしてきた自由)の感覚を刺激す
ることになるので、利点にもなるだろうとも彼は書いている。
ナクル湖は国内で最も人が訪れる公園の一つであり、フラミンゴをはじめ、いろいろな鳥や野生の生
き物を養っている。事实、ナクル市は、これらの動物のおかげで、戦略的な旅行地として発展し、さ
まざまな観光事業を営むことが出来るのである。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
はじめに
都市環境の質は、その町が存在する地理的条件や物理的な環境など多くの要因に影響される(Bossel:
自然のシステム、1999)。他の関係する要因には、町の大きさ、人口の成長率とその分布などがある
(同:人のシステム)。人間活動、住居などの建造物の規模や性質もまた都市環境の質に影響を与え
る(同:支持組織)。環境に放出される廃棄物や排出物は生態系を壊し、町の環境の質を低下させる。
最後に、選出・任命・依託を受けて町の管理を行う機関の能力、力量、説明責任もまた、人々の生活や
環境の質に影響を与えるのはいうまでもない(Nunan and Satterthwaite, 1999)。
町の行政区画は、町の拡大と共に外側に移動した。たえず増え続ける人口をほぼ持続可能な都市の枞
組みの中に収容することの必要性は、政治的な思惑によって退けられ、別の、さらに遠い境界線にと
広がっていった、と指摘されている。地方自治体の境界線が広がる、ということは、サービスを受け
る人が多くなる、ということである。次章でわかるように、町は、その全域に都市の基本的なサービ
スを提供するために多くの課題に直面している。
数箇所の事業所が排出する廃棄物は、最終的に、町で最も低い場所にあるナクル湖に流れ込んでいる。
町に点在している自動車修理工場は、廃棄物を適切に処理していないので、湖沼生態系の環境の質を
184
低下させている。このような活動は組織的に正される必要があり、ナクル市当局は、環境の質を確实
に改善するために、協力を必要とする全ての関係者を巻き込む必要がある。
ナクルには非公式の集落が非常に多く、不安全で、非衛生的である。(そこでは)ほぼ 3~6m2 の大き
さの部屋に平均 5~6 人が暮らしている。1 部屋だけの小屋がぎっしり並び、1ha あたりの小屋の数は、
中流階級地域の 25 軒、高所得者地域の 10 軒に対して、平均して 250 軒もある。唯一ある歩道は、狭
くて汚れた道で、しばしば洪水になり、また雤季には通れなくなる。環境衛生に対する地域住民の考
え方はさまざまであり、Kaptebwo を例にとってみても、(衛生施設より)電気やましな道路が必要だ
という人もいる。集落では、ほとんどの人がトイレや風呂を利用できるが、その数が尐ないので、1 つ
の施設を非常に多くの人が使用することになる。ほとんどのトイレは、落とし穴のついた換気式の改
良仮設便所である。集落には公衆トイレが無く、全て家主や土地所有者のもので、そのうち尐数のも
のを管理人が維持している。
このような非公式な地域では、都市の基本的なサービスが事实上存在しない。住民は電気を利用する
ことができない。水道水は、地方自治体料金の 10 倍の値段で、業者から買わなければならない。住民
の 95%以上が、適切な衛生設備を利用できない。人々は、お金を払って、50 人あたり 1 つしかない落
とし穴トイレを使用するか、空き地を使わざるをえない。市当局は長い間、ゴミの収集を止めている
ので、ゴミが山となり、悪臭を放つとともに、しばしば排水口を塞ぐ。人々の出す廃棄物やゴミを処
理する衛生設備が無いため、腸チフス、コレラ、結核のような病気の発生など、深刻な環境・健康被
害に至っている。
非公式な地域でも腐敗がはびこっている。この地域に住む大多数の人は、土地を借用しており、途方
も無い借地代を、地域の権力者や、そこに住んでいない大金持ちの土地所有者に払わざるを得ない。
地域の権力者やその子分たちは、マフィアのような組織を作っており、住民は、権力者に話しを聞い
てもらうためだけにも賄賂を払う必要がある。ある事例では、住民が屋根の漏れを修理する許可を取
るために、3,000 ケニアシリング(US$40)もの賄賂を払わざるを得なかった。
さらに、権力者は、住民が会合し、協力しあう権利を認めていない。したがって、住民は、団結して、
このような抑圧に抵抗し、自分達の家、生活条件、暮らしを改善する運動を展開することができない。
権力者は、統制と威嚇の見せしめとして、住民を捕まえたり、鞭打ったりする。このような恐喝シス
テムは、極度の不安と暴力を生み出し、社会・地域社会の仕組みを弱体化させている。
正式な雇用機会が尐ないので、町の中心商業区域では非公式な売買活動が急激に増加し、町のあらゆ
る所で、小売、食料販売、青空市場(jua kali)が行なわれている。土地の使用に関する争いは、bus
and Matatu 公園地域で多く見られる。そこは公園・遊園地であるとともに、小売・卸売市場であり、
その他数多くの非公式の売買活動が行なわれている(MCN/ケニア共和国/UNCHS/ABOS-BADC,1999)。
我々は、ナクル地区の非公式産業が、多くの人に対して雇用を生み出すうえで非常に重要な役割を果
たしていることに注目する必要がある。非公式セクターは、ゴミの収集、給水、下水道のメンテナン
スなどのサービスを住宅地域で提供している。しかしながら、彼らの活動は認可されておらい。税金
を払わず、町のどこでも営業活動をするので、彼らと市当局の間には、多くの対立がある。ナクル市
の当局は、地元警察の助けを借りて、いわゆる「違法な商業施設」を撤去し、行商人を地区から追い
出した。そのような行動は、所期の目的を達成しないばかりか、非公式業者と市当局役人の間に緊張
185
を引き起こすことになりかねない。低所得者が収入を得るためには彼らの役割が非常に重要なので、
非公式労働者が自由に仕事をしても良い地域を指定する必要がある。
都市環境保全に向けたナクル市の挑戦
各種情報を総合すると、ナクル市における都市環境保全のための挑戦課題はほぼ以下のとおりである。

都市の貧困

不適切な固形廃棄物収集

不適切な排水

不充分な給水

境界の拡大、農村から都市への人口移動、自然増加による人口の急激な増加

ナクル市当局と地域協議会の環境保全能力の不足

粗末な住宅

貧しい公衆衛生

ストリート・チルドレンの問題

環境保全活動への地域住民の未参加

砂利捕集と土壌の务化

雤水のたれ流し

住民に対する情報提供の不足

町の発展に必要な土地の不足

非公式産業従事者(ゴミ収集人、水を売る人、行商人)とナクル市当局との対立
ナクル湖の汚染:主要な環境問題
ナクル市は 1970 年代初期に産業の発展を目指して開かれた町であるが、産業が土地環境や湖の生態系
に及ぼす影響についてはほとんど考慮されなかった。また深刻な環境問題を起こす可能性のある産業
を意識的に選別・除外するような努力も全く為されなかった。その結果、殺菌剤(オキシ塩化銅)工
場が町に建設され、丸一年間稼動してはじめて環境への影響や湖を汚染する恐れが認識され、工場は、
政府が多大なお金をかけて別の場所に移転された。また市内で最初の廃棄物埋め立て地は、北湖岸か
ら 0.5km の場所に設けられ、数年後、この地域が公園の一部となって、埋立地が移転するまで埋め立
てが続けられた。この間に埋め立て地から浸出した廃液は、湖と地下の帯水層に流れこんだ。市の最
初の下水処理施設は 1953 年に稼動が始まったが、まもなく汚水を湖に放出し始めた。このような集水
域の変化とナクル市の開発によって湖の汚染が進んだ。最近、湖から流れ出す川の水と泥分を分析し
た結果、重金属と農薬残渣が大量に含まれていることが明らかになった。また集水域で使用されてい
る農薬の調査で、農民が、DDT、エンドスルファン、アルドリン、ディルドリンなどの禁止あるいは
使用を制限された有機塩素農薬をまだ使っていることが分かった。
集水域流域における底生性の大型無脊椎動物群の調査によれば、川の源流から湖への流入点に向けて
群構造が次第に卖純になっている。このようなことが起こる要因としては、川の流れの変更や、土砂
堆積による川床基質の変化、林冠の減尐、農薬残査や重金属属の毒性の影響など、が考えられる。ナ
クル湖で行なわれている水鳥数の調査によれば、この 8 年間で種の多様性と個体数が次第に減尐して
いる。これは、この 10 年間に頻発した、長期にわたる湖の干上がりによるものと考えられる。
186
この地域の生物多様性に対する上記のような脅威を考慮すると、湖沼管理が直面している主な課題は
次のようなものであろう。

集水域の活力と健全性を維持する。

既存の土地利用体系の中で、可能な限り、集水域に植生地域を復元させる。

より良い土地の利用方法と持続的な水管理によって、集水域の水収支と水質を回復する。

集水域の住民の間に環境保全意識を定着化させ、能力向上を図りつつ、保全と開発意欲の实現を
連動させることによって継続的に保全活動を推進する。

進捗状況を評価し、新たな脅威を見出すために、生物多様性と環境保全に関する趨勢を監視する。
Frank et al.(1977)は、ケニアにいる猛禽類の塩素化炭化水素の残留物レベルを調査した。彼らは、ナ
クル湖にいる鷹の 1 種 Haliaeetus vocifer 5 検体の胸筋組織を調べた。その結果 p,p1-DDE の量は中央値
が 1.6 mgkg-1 で、0.3~7 mgkg-1 の範囲にあった。Dieldrin は 2 つの試料で見つかったが、それらは最
も高い p,p 1-DDE レベルを示した 3 つの試料のうちの 2 つであった。Kallqvist & Meadows(1978)は、
ナクル湖の藻(A.fusi-formis)と輪虫綱(Brachionus)に対する銅の毒性作用の研究を行なった。彼ら
は、0.1mg、0.15-0.20mg の Cul-1 を添加することにより、光合成における酸素の生産が、基準試料と比
べてそれぞれ 80%、50%のレベルに低下することを見出した。Cul-1 を 0.02mg 加えると、藻の成長率
が非常に低下し、0.2mg 加えると完全に成長が妨げられた。Klein Breteler の結果(1974、未発表)では、
0.21mg の Cul-1 を加えると全酸素生産量が 50%に減尐することが分かった。この値は、Kallqvist 他
(1978)によって報告された Cul-1 についての値 0.15-0.2mg に良く一致している。彼らは、安全濃度
は 0.5ppm 以下にすべきだと勧告している。
Wandiga(1976)は、ナクル湖の水では銅の濃度が 2~8ppm であることを見出し、その値は限界値よ
りずっと以下だと考えた。ティラピア(Tilapia grahami)を用いたナクル湖水の銅毒性試験では安全濃
度は 0.42ppmであったが、Baharini 温泉水の場合、その安全濃度は 0.9ppm であった。ティラピアは、
湖の緩衝動作にもかかわらず、淡水よりアルカリ水において銅の影響を受けやすいことが示された。
ティラピアに対する亜鉛の安全濃度は、0.5ppm と推定されている。ティラピアに対する銅と亜鉛の複
合毒性作用は、銅卖独のものより、非常に高かった。Greichus et al.(1978)は、ナクル湖水中の銅と
亜鉛の濃度が、それぞれ 0.002ppm と 0.049ppm であることを見出した。Kairu によるナクル湖の魚と鳥
の 体 内 の 有 機 塩 素農 薬と 金 属 残 渣 の 研 究に よれ ば 、 高 濃 度の DDE(12mgKg-1 ) と カ ド ミ ウ ム
(2.4mgKg-1)が観測された水中から採取された 2、3 の試料を除けば、殺虫剤と金属残基のレベルは
概ね低い、ということがわかった。以前の調査と比較した結果、魚と鳥の体内には殺虫剤が次第に蓄
積していることがわかったが、金属残渣の大幅な上昇は見られなかった。WWF と KWS によって採集
された沈殿物と水試料の測定によって、鉛、銅、カドミウム、ヒ素と亜鉛などいくつかの重金属が存
在していることが明らかになった( 1994、1995、1998)。検出された農薬には DDT、Paraquat、
heptachlor-epoxide などが含まれていた。Kock et al.(1994)は、ナクル湖国立公園にいるハイエナ
(Kobus ellisyprimnus defassa)の体内の微量元素の量を調査した。彼らの細胞は、高濃度の鉛(腎臓
6.3-18.75、中央値:12.08mg/kgD.M、肝臓 7.2-53.1、中央値:40.6mg/kg の D.M)や、カドミウム‖(腎
臓
11.73-117.82、中央値:15.05
肝臓
0.4-6.58、中央値:1.92mg/kg DM)を含んでいた。これら
の汚染物の原因は、公園の北部にある古いゴミ捨て場であると言われている。Nelson et al.(1998)は、
クロム、銅、鉛、亜鉛が土砂に蓄積していることを見出だした。この原因は、規制のない垂れ流しと、
このアルカリ湖には出口がないことにある。
187
ナクル湖の汚染のほとんどが市内からもたらされていると結論づけることができる。その原因が、人
口の急激な増加とそれに続く人間の定住活動にあると断言はできないが、湖の場所を考えると、その
汚染の主要な原因が、おそらく集水域内での人間活動にあるといってもよいだろう。それゆえ、湖沼
生態系の環境保全に向けたあらゆる対策において、人間の定住活動に関連した問題に取り組む必要が
ある。ナクルの環境保全に携わるものは、通常、包括的な取り組みを進める。我々とそのパートナー
も、長年、このような取り組みを進めながら、都市環境保全のさまざまな課題に取り組んできた。
实践
この 2 年間、パートナーシップを拡大しながら、都市環境の保全活動に实践してきた。大部分の活動
が、都会に住む貧しい人たちの暮らしを改善するためのものであるが、それらは環境の持続性と湖沼
生態系の保全に直接関係している。経験によると、公、民、市民社会の関係者を含む幅広いパートナ
ーシップを築き、それをうまく機能させることは、言われているほど簡卖でない。運営上の困難や、
さまざまな関係者の長所と欠点を認識しておく必要がある。これは、都市環境問題を協働して解決し
ようとする全員参加型の活動を支えていくためには、適宜、制度の変更や改良を進めていくことが必
要であることを意味している。
市民、地域住民を問わず、全ての関係者が、パートナーシップを進めるために必要な、意志、能力、
資質を有しているわけではない。したがって、国は、活動に参加できない市民や地域住民を保護する
「安全ネット(保護システム)」や補償の仕組みを持つ必要がある。ここで強調すべきもう一つの問
題は、地域性が増した新しいパートナーシップにおいては、「連携」という複雑な問題が生ずるとい
うことである。すなわち、市民と地域住民のそれぞれが自分のやりたいように行動していては、「公
共の利益」という広い概念を伝えることができないということである。このことは、国(地方局を通
じて)には、戦略的な方針の伝達と行政機関の連携という重要な役割があることを意味している。
我々の知るところでは、パートナーシップに関する既存の文献は、パートナーシップによって達成さ
れる实質的な成果よりも、パートナーシップを築く過程に重点を置いている。パートナーシップの結
成が必要であると説く前に、我々は、いろいろなパートナーシップでどんな成果があったのか、また、
实際どのようにして付加価値のある成果につながっていったのかを緊急に精査する必要があると結論
付けた。一般に、パートナーシップを通じて都市環境保全の課題に取り組むにあたって、さまざまな
機関が参加する介入モデルを作成することができる。次に示すのはその一例である。
188
枞組みモデルの概念図
The physical environment
(the natural system)
The built environment
(the infrastructural system)
The socio-economic environment
(the human and support system)
system)
Nakuru Urban Environment
SOCIO-ECONOMIC PROBLEMS
URBAN ENVIRONMENTAL
PROBLEMS IN NAKURU TOWN
PUBLIC SECTOR
URBAN
MANAGEMENT
PARTNERSHIPS
URBAN
GOVERNANCE
COLLECTIVE ACTION:
household responses and CBO
activities
PRIVATE SECTOR
(commercial and social)
CIVIL SOCIETY (CBOs and NGOs)
PRACTICAL ACTION
CO-MANAGEMENT
URBAN ENVIRONMENTAL
MANAGEMENT (UEM)
PARTNERSHIPS IN
PRACTICAL ACTION AND PARTNERS
LA 21 PROCESS (coordinated by MCN) eg. JICA
INTERVENTIONS: ISSUE and COMIC RELIEF Project
PROJECT OUTCOMES, CHANGES IN MANAGEMENT AND POLICY ISSUES LEADING TO
SUSTAINABLE URBAN ENVIRONMENT; PROTECTION OF LAKE NAKURU ECOSYSTEM
持続可能な都会環境に向けた統合的な支援(ISSUE プログラム)
この 2 年間、ナクル市内の環境活動機関の連合体結成を实践してきた。この連合体は、市内で活動も
しくは業務を行っているさまざまな環境機関、連合体の共同議長を務める地方行政府、連合体を主催
するナクル市の環境局、連合体の業務を調整する中間技術開発グループ、ナクル・ビジネス協会、農
業システム(FSK)、SENVINET、Jua Kali 協会、ナクル廃棄物管理協会(NAWACOM)、NEMA、ナ
クル市上下水道公社(NAWASSCO)、KWS、Green Globe Foundation および エガートン大学から構成
されている。連合体は、DGIS Netherlands の財政援助を受けている ISSUE プログラムによって支援さ
れている。ISSUE プログラムの全体的な目標は「ナクルの利害関係者が、市街地域における環境管理
に向けた持続可能な施策を作成・实行できるように環境を整備すると共に、实際に取り組みを進める」
ことにある。運動は、4 つの段階(計画作成のための準備、地域の環境に配慮した公衆衛生解決策の作
189
成、实施のための環境整備、市全体の戦略的な公衆衛生計画の作成)から成り立つ。目的および結果
をさらに明確にするために、4 段階の意図は、以下のように 4 つの目的の形をとっている。

強力な地域・市プログラム連合体の設置と、それを支えるための綱領、協働、覚書、など利害関
係者間の制度的な取り決めの締結。この段階は完了した。

生態学的衛生原則に基づく環境にやさしい公衆衛生問題の解決策の有効性を、ナクルで行なう实
験的、例示的なプロジェクトによって实証するとともに、この代替モデルの情報を、地域だけで
なく国際的にも、意思決定者、实践者、寄贈者、金融機関などに広めること。

公衆衛生管理のための統合的な廃棄物管理(ISWM)を推奨するための制度、政策、財政、情報
伝達のための環境を結成し、維持していくために、地方、地域、国際的なレベルで、協力的な関
係者を集め、教育を進めること。

ISWM の枞組みを使用して、町と周辺の健全な環境、安全、生活の向上を目的に、利害関係者が
中心となり、環境にやさしい公衆衛生、有機廃棄物管理、栄養循環に焦点をあてた、戦略的な環
境および公衆衛生の計画を立案する。
ISSUE プログラムには、2 つの主要コース、環境にやさしい公衆衛生と廃棄物追跡があり、2 つのコー
スは、Knowledge-Sharing と Waste ventures という 2 つのビジネス開発支援機関に支援されている。以
下に示すパートナーがさまざまな活動を实施している。

MCN:サービス提供のための LASDAP 支援

JICA:市民相談、環境管理と計画立案

NBA:市の Askari の研修と都市整備

Waste Netherlands:戦略的な公衆衛生計画作成のための連合体の強化

ILO:協議会スタッフの環境に関する能力強化

エガートン 大学:技術的な研究・設計などの専門的な支援
重要な成果

尿を堆肥作成に利用する实験的研究がエガートン大学によって行われている。

地域社会の開発情報を流す窓口が設置された(さまざまな支援機関や政府による進行中のプロジ
ェクト情報も同時に提供されるべきであろう)

町の環境保全とサービス提供を指導するために強力な環境連合体が設立された。

NAWASSCO 戦略計画が改訂された。このための手順やその最終的な結果は、Rhonda, Mwariki,
Kaptembwa 居住区の衛生に関する対策・代替案に取り入れられる予定であり、また、町の他の地
域でも模写・応用されるだろう。

以下のような出版物が作成され、広く配布された。
○起業家精神に溢れた最新の統合的な廃棄物管理
○最新の市民ビジョン
○専門家フォーラムの冊子
○政策立案者の出版物

NAHECO と NAWACOM の独立した事務所が建設され、スタッフの派遣、事務所への備品提供が
行なわれた。これにより、2 つのグループが進める会員や広範な都市住民に対するサービスの提供
が強化された。
190

NAHECO を通じて地域協力者が行なうプロジェクトに対する利用可能な小規模金融を行なう施設
が増えた。これまで、住民が取り組む環境ビジネスに対して NAHECO が貸し出せる金額は総額で
240,000 であったが、この最初のお金がすべて貸し出されても、さらに 300,000 以上の資本金が
NAHECO に追加される。能力があるグループは、NAHECO を通じて応募し始めた。

NAWACOM は、エガートン大学の技術指導を受けて有機肥料の製造を始め、販売準備を進めてい
る。これまでに 34 トンが加盟団体によって購入された。彼らは、岩リン酸塩で栄養強化された肥
料の荷造りを待っている。

NAWACOM は、CBO を卒業して協同組合という法的な身分を得た。これによって NAWACOM は、
有機肥料製品事業を真剣に取り組む地位についた。

NAWACOM が投資している堆肥作成プロジェクトに関する社会影響評価および環境影響評価が实
施された。NAWACOM の会員は、環境関連の法令があることを知り、地方および環境当局との紛
争を避けるためには法令を遵守する必要があるということを認識しつつある。
得られた教訓

湖を総合的に管理していくためには、すべての関係者が参画し、この努力を支えていくための戦
略的なパートナーシップを成長させ、適切な対策を確实に計画・实施していく必要がある。この
パートナーシップは、ナクル共同体という形態をとり、湖沼管理機関、市議会、中央政府、二国
間機関(JICA と UN-HABITAT)、民間部門、市民グループ、地域団体、学校などが参加した。

パートナーシップは、適正な組織力、基礎となる総合計画、青写真に基づいた明確な活動戦略を
展開させることが必要である。このためには、統合的な戦略計画立案の策定に向けて、さまざま
な機関の異なる長期目標を互いに理解しあうための自主的な交流が必要である。

GIS の技術は、基本的な合意形成に向けて、空間的に問題を理解するうえで重要な役割を果たし
ている。ナクルでは GIS を利用することによって、全ての人が、ビジョン作成、優先順位づけ、
目標作成、総合的な戦略的計画の作成に参加することができるようになった。このツールは、変
化に伴う影響の大きさやその有無を判断する際にも貴重である。

パートナーシップによる支援は、子供たちの環境意識啓発や湖沼保全活動への参加を可能にし、
彼らが、早い年齢で、適切な環境保全の価値と効果を理解するうえで大きな役割があった。2005
~6 年にかけてはナクル市内の 74 校が参加して環境啓発競技会が行なわれた。表彰式は、ノーベ
ル賞受賞者のワンガリ・マータイ教授が参加して今年初めに行なわれた。

パートナーシップにおいては、すべての市民が、直面する環境問題や、個人・組織が貢献できる機
会についてあまねく知らされるように、広範に情報を共有し、戦略を伝達していく必要がある。
その一つとして、パートナーシップは、環境汚染の危険、特に、最近発生したフラミンゴの死に
関する情報を創造的に伝えることによって、市民を教育していった。

連合体傘下のパートナーは、人間の排泄物による汚染問題に取り組むために、市内にさまざまな
衛生排水設備のモデルを作り、それらを広めていった。

戦略的な資金調達プログラムを策定することによって、パートナーシップを介した資源獲得が容
易になった。これまでに、パートナーシップが進める湖と暮らしに焦点を当てた 2 つの取り組み
が承認された。1 つは、湖の主要な流入河川(Ndarugu 川)に沿った地域で起きている砂利採集問
題に取り組む UNDP-GEF 支援事業(US$ 110,000)、もう 1 つは、排水と廃水管理に焦点を当てた
欧州委員会支援の研究(US$ 300,000)である。
191
提言・今後の展開

体質を強化し、結束を強めるために、パートナーシップを正式な機関にする。これにより、ガバ
ナンスの改善と共同体の持続性が確实になる。

パートナーシップは、ナクル市の低所得者層を対象とする戦略的な公衆衛生計画の最終案を作成
中である。その後、分野別の投資計画を作成し、それらを一括して資源獲得をめざす予定である。
参考文献
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The Urban Environment. A Report by WRI, UNEP, UNDP and the World Bank. Oxford University Press.
192
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
世界湖沼ビジョンの原則に基づく湖沼管理の实践
―ナクル湖集水域の事例―
Jackson Akama Raini1, Andrew Kulecho2
1
Fmr Project Ecologist & Programme Officer, WorldWide Fund for Nature- Lake Nakuru Conservation &
Development Project, P.O Box Nakuru, Kenya. Tel: +254,0733349620. Email: [email protected],
2
Research Scientist, Municipal Council of Nakuru, P.O Box 16314 Tel: +25472572343. Email:
[email protected]
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
要旨
ナクル湖(ケニア)は、リフトバレーの東端にあるアルカリ性の閉鎖性塩湖の 1 つである。ナクル湖
は、「百万のフラミンゴの湖」あるいは「世界で最高の鳥類学的光景」など様々に描写され、この地
域の観光の要である。ナクル湖は、1960 年に鳥類保護区に、1968 年には国立公園に、1987 年にサイ禁
猟区に、また 1990 年にはケニアで最初のラムサール登録地に指定された。さらに 1999 年には「重要
鳥類地域」に、2005 年にはケニアで最初の ISO9000 を取得した世界第一級の国立公園にも指定された。
この 40 年間に、ナクル湖流域には多くの人が定住し、広範な開拓が進み、都市化が進んできた。この
ような開発によって、流域の务化が進み、ナクル湖の水質悪化や沈殿物の変質など、さまざまな環境
問題を引き起こしてきた。他の問題としては、汚染、農業を始めとする貧困な土地利用、人間の侵害
活動、地域を保全するための法的・政治的な枞組みがない、などがあげられる。流域内の環境管理に
ついては、政府、多国間・二国間の援助機関、NGO、宗教界、地域協議会の人たちが、重要で本質的
な貢献をしてきた。さまざまな問題や制約が明らかにされ、それらに対して流域全体として目標を達
成するための取り組みが行なわれた。その 1 つは、組織や制度の整備、2 つ目は、問題地域や汚染負荷
の管理、そして 3 つ目は、流域と公園の管理、である。それらの活動を通じて、責任範囲のあいまい
さ、資金・熟練したスタッフ・ノウハウの不足、環境基準や規制の欠如、などが問題点としてわかっ
てきた。一方で、さまざまな管理計画に取り組みんだおかげで、調和の取れた保全活動ができるよう
になってきた。しかし、WLV を具現化するような総合的な湖沼管理に取り組みむためには、包括的な
マスタープランが求められている。この報告は、ナクル湖が直面する課題、対策と WLV との関係、
成果、得られた教訓と今後の展開をまとめたものである。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
はじめに
ナクル湖は、リフトバレーの東方延長部(单緯 0 度 22 分、東経 36 度 5 分)にある浅いアルカリ性の
塩湖である(pH10.5 以下、伝導度 5.5~160mS/cm)。湖の面積は約 42km2、平均の深さは 2.5mである
が、数年の周期で変動し、ほとんど干上がったこともある。年間の降水量は 876mm、蒸発量は
1,800mm である。集水域の面積は 1,800km2 であるが、火山性の極度に侵食されやすい土壌で形成され
ている。このあたりは、かつては人がまばらに住み、鬱蒼とした森林地帯であったが、この 40 年間で
多くの人が住むようになり、広範囲な開発と都市化が進んだ。ナクル湖国立公園の集水域は 188km2 に
わたり、250 種以上の植物や 70 種の哺乳動物の他、リフトバレーまでを飛路として冬を過ごす渉禽類
の水鳥など 450 種の鳥類がいる。公園には毎年 30 万人の観光実(65%が外国人)が訪れ、2,400 万 US
ドルをもたらしている。湖沼管理については、多国間・二国間の資金援助を受けた政府、NGO、地域
協議会の人たちによってさまざまな湖沼管理の取り組みが戦略的に行なわれてきた。このようなプロ
ジェクト、調査結果、関係者会合については数多くの出版物がある。ナクル湖集水域の管理における
致命的な欠陥は管轄の分散性にあり、さまざまな分野の法律があって、それらが異なる機関によって
实施されている点にある。この詳細は、世界 28 湖沼で实施されている湖沼管理の取り組みの有効性を
評価した「湖沼管理イニシアチィブ」(LBMI)の中の「ナクル湖レポート」にまとめられている。
193
湖の直面する問題と課題
1) 過度の取水:ナクル市の水需要は 1985 年に 21,462m3/日であったが、2005 年には 66,572m3/日に増
大し、水文学的な均衡が崩れてしまった。都市部では、需要が供給可能量を上回ってたびたび水不
足になり、配給制や個人所有の井戸の緊急使用などが实施されている。湖に流れ込む川からの分水
も大きな問題である。5 つの川は毎年 4~6 ヶ月しか流れず、井戸から出る水量も低下した。これら
の要因が積み重なって湖の水量も減尐した。平均水深は低下し、長期平均値である 2.5mに達する
ことはほとんどなくなった。合法的な取水と非合法的な取水の間での紛争も生じている。
2) 毒性・危険物質による汚染:数多くの化学物質が、輸入・登録・輸送・貯蔵・販売・加工・廃棄され、
多大の利益をもたらす一方で、健康や環境に対するリスクとなっている。重金属や殺虫剤がナクル
湖の水や沈殿物から検出されている。魚類、動物プランクトン、植物プランクトン、レッサー・フ
ラミンゴからは、さらに高濃度の毒性金属も検出されている。工場排水やスラッジ、廃棄物投機場
所の土壌や滲出水の中にもかなりの高いレベルで重金属が含まれている。
3) 過度の栄養分負荷:年間の点源汚染は、全窒素負荷 547 トン、全リン負荷 167 トンと推定されてい
る。また年間の面源汚染は、全窒素負荷 447 トン、全リン負荷 29 トンと推定されている。最近、
シアノバクテリア毒素は、レッサー・フラミンゴにとって致命的な薬物の可能性がある、という報
告がある。シアノ毒素を作り出す可能性があるものには、Arthrospira fusiformis(レッサー・フラミ
ン ゴ の 主 食 ) 、 Phormidium 、 Oscillatoria 、 Synechococcus 、 Anabaenopsis abijatae 、 Microsystis
aeruginosa、Anabaena flos aquae などがある。
4) 侵食や土砂堆積の進行:流域内の土砂侵食は年間で 18 トン/ha 以上、勾配の急なところでは 50 トン
を超えると推定されている。伐採、伐木搬出、侵食は森林にとって最大の脅威であり、湖に流れ込
む大量の土砂の原因となっている。
5) 水生動物の多様性や生息地の喪失:この 40 年以上にわたって、集水域の大部分で、野生動物の姿
が消えつつある。森の喪失によって野生動物の生息地がなくなり、彼らは命を奪われるか、疎開す
ることになった。残った森林や周りを囲った国立公園も、伐採や放置の危機にある。岸辺が観光事
業によって乱され、多くの鳥にとって繁殖地としてふさわしくない場所になりつつある。1970 年代
に報告された爪なしカワウソ(Aonyx capensis)のような水生動物の絶滅が問題になっている。多く
の川が干上がっており、底性生物や他の微生物が絶滅するかもしれない。
6) 野生動物の健康リスク:レッサー・フラミンゴ(CITES II)は、藻類の代表的な捕食家であり、生
態系の健康度を図る重要な動物標識である。しかし、レッサー・フラミンゴの大量死の原因は、移
入魚(Sarotherodon alcalicus grahami)と並んで謎のままである。このような事件として、1993 年に
ナクル湖とボゴリヤ湖では、約 40,000 羽の鳥が死んだと推定され、1995、1997、1998、2000~2004
年、2006 年 7 月にはさらに多くの鳥が死んだ。感染性物質(特に、Mycobacterium avium, Pasteurella
multocida)、シアノバクテリア系の毒素や毒性成分は、レッサー・フラミンゴにとって致命的な薬
物の可能性があると言われている。1992 年には推定で 800 万匹の魚が死んだ。最近では 2004 年に
魚の大量死が起こった。
7) ゴミや廃棄物の蓄積:流域に住む住民や商業地区から排出される廃棄物は 1 日あたり 2,600 トンに
もなり、大量の有機物汚染物質が発生する。そのうち処理場で適切な処理がなされるのはわずか
60%で、40%は放置されるか不認可の収集業者に採集されるが、彼らは町のいたるところに投げ捨
てるので、最後には湖に流れ込む。
194
8) 相反・対立する政策:環境管理に関する政策的な指示があれば湖への脅威は低減するであろう。し
かし、時として利害関係者間で対立する政策が公布され、経済的な理由を優先して決められる結果、
環境と経済的な目標との間にトレードオフが発生する。管理責任が複数の組織や機関に分散してい
るために、湖沼管理の政策が他の政策と対立することになり、湖沼管理が有効に实施されないこと
になる。責任機関の高官の交替は問題である。なぜなら、所長や課長の交代は、政策の変更や、保
全プログラムの逆戻りや中止を意味する。このように主要機関が不安定であるために、能力向上が
進まず、プログラムの制度化が遅れることになる。
9) 資源をめぐる人的対立:貧困や人間と自然をめぐる対立が増大している。都市発展のニーズと湖の
保全ニーズを両立させることは大きな挑戦である。水と土地の入手をめぐる争いは、流域の各所で
政治的に扇動された民族間の衝突となっている。1996 年市当局は公園の境界を 188km2 まで拡大し、
KWS に対して賃貸料の値上げを要求したが、その結果、両者の間で、土地の賃借料をめぐって争
いが起こっている。
10)人口構成の変化と貧困:流域内の人口は 100 万人と推定されている。農場から得られる 1 世帯 1 ヶ
月あたりの平均収入は 24US ドルであり、52%以上の住民は 1 ヶ月あたり 3~12US ドルの収入しか
ない。この貧困のゆえに環境破壊がさらに進むことになる。ナクル地域の HIV/AID 感染率は 13%
で、住民の生活向上のために本来使われるべき時間、取り組み、お金が HIV/AID 関連の事業に費や
されており、その影響は大きい。
11)財源問題:援助機関と NGO の間には連携がなく、プロジェクトが戦略的に实施されていない。多
くの支援機関のこれまでの考え方は、プロジェクトは限られた期間行うもので、(現地の)恒久機
関に仕事を引き継いだら、自分たちは仕事を離れるというものである。その結果、援助機関は、し
ばしば、根拠のない持続性を理由に手を引いてしまう。その結果、湖沼管理のもとに行なわれた多
くの成果はどこかにいってしまう。
戦略と行動、およびその成果
(a) 取水と分水の管理に取り組む
1.湖と流域の水収支を明らかにする:湖水レベルや河川流量などを測定するための計測器や自動流量
記録計などの基本設備が導入された。気象学的変数(雤量、日射量、相対湿度、蒸発量、日照時間、
気温、風速など)は、所定の気象台で計測される。これによって流域内の利用可能な水資源と水需要
に対する情報が充分得られるようになったので、湖の水収支をモデル化することが可能になった。農
村部では、農家の人が 3,000 個の土ダムを掘削しており、雤季には道路や畑からの排水を 8,000 万ℓ貯
めることができる。これらの貯えにより、家畜の水需要を補充し、(湖からの)取水を減らすことが
できる。このような流域ベースの取り組みは、持続的な湖の利用をめざして取水・分水を管理してい
くための出発点であり、WLV の原則 2 を具現化するものである。
(b)水の社会・経済的な価値を認識する
1.水管理の改善に取り組む:JICA の資金援助で行なわれた Greater Nakuru Water Supply Project は 1991
年に完了し、ナイバシャ湖流域では Turasha 川から 1 日あたり 13,300m3 の水を供給できるようになっ
た。供給される水量は供給源と所定の場所にあるメーターに記録される。ナクル地区では 14,904 軒が
登録されており、そのうち 9,538 軒は下水処理されている。2004 年 3 月には、水の供給と衛生サービ
スを効率的、持続的に行なうために、Water Act 2002 の 53(1)項にもとづき、リフトバレー水サービ
195
ス局が設立された。上水の提供と下水処理サービスは、民営化され、ナクル 上下水道公社
(NAWASSCO)によって行なわれている。
(c)有害物質の低減と管理を進める
1.流域内の廃水処理を实施する:都市部の下水処理能力は、JICA の資金援助を受けた 2 つの市営下
水処理施設の修理・拡張プロジェクトによって、1 日あたり 16,200m3 に増大した。毎日 9,000m3 の下
水が発生し、2 つのプラントで処理されている。この取り組みは、学際的かつ長期的な予防的戦略の 1
つとして、WLV の原則 2、3、4 を具現化するものであり、都市部の汚染物と湖を管理していくために
科学的な知識を活用するものである。
2.汚染防止計画、基準、規則を導入し、实施する:有害化学物質とその人間や動物固体への影響に関
する知識を豊かにすることは、リスクの低減と汚染阻止方策を確立していくための基礎である。化学
物質排出把握管理制度(PRTRs)は、誰でもアクセスできる公的な情報システムで標準データととも
に、産業施設や農業などから大気、水、土地に排出される毒性物質が化学種別、発生源別に登録され
ている。このシステムは、汚染物質に関する基本情報を提供するもので、それに基づいて特定の有害
物質低減に向けた取り組みが展開される。この制度は、「職業健康安全サービス局(DOHSS)」も加
わることによってさらに強化された。国家環境管理局(NEMA)は、毎年、監査と環境影響評価を实
施している。ナクル市当局は、これらの報告書を活用して WLV の原則 6、7 に準拠した施策を实施し
ている。
3.ゴミや廃棄物を削減する:市内でごみ箱の設置を登録している家庭は 11,674 を超える。13 の大型
廃棄物回収コンテナが建設され、市によって管理されている。世界銀行は、廃棄物回収トラックを供
与した。トラックは、公園周辺の私有地を回り、一定料金でゴミを回収している。285m3 の廃棄物が、
住民による定期的なクリーンアップ活動で取り除かれている。その活動は、民間の廃棄物回収業者も
参加して行なわれる。ゴミを減らすための住民意識啓発の運動も行なわれている。衛生的な埋め立て
施設を建設する土地が、湖の流域外の適当な場所に見つかったので、現在の市の廃棄施設は、建設が
完了すれば移転する予定である。この取り組みは、人間と自然の間に調和の取れた関係を育てること
をねらったものである。また利害関係者を教育し、その参画を推奨するものであり、WLV の原則 1、
6、7 に準拠する。
4.湖沼と流域の健全度の調査や評価を实施する:1993 年に、WWF とケニア野生生物サービス(KWS)
は、汚染物の影響を軽減するための適切な施策を考える前提として、汚染物の特性、起源、経路、量
と環境への影響を調査するための生態系モニタリングプログラムを立ち上げた。1995 年、ナクル市当
局は、JICA の支援を受けて本格的なモニタリング研究审を開設し、WWF のプログラムが終了した後
は、大半のプログラムがその研究审に移管された。2005 年には JICA の資金援助によって 4 ヵ年の「ナ
クル環境管理プロジェクト(NEMP)」が始まった。このプロジェクトは、モニタリングと環境保全
に関する関係者の能力向上、主要機関の連携向上、住民の意識啓発をめざすものであった。これまで
の成果には目覚しいものがあり、プロジェクトの主要機関は、通常および特定の 2 つのモニタリング
プログラムを策定し、いずれも現在实施されている。プロジェクトのもう 1 つの狙いは、エガートン
大学など主要機関による協調した取り組みを推進し、集水域の情報を活用して、適正な管理の姿を描
くことにある。エガートン大学の「ンジョロ川集水域プロジェクト」は、2003 年に「持続的な集水域
管理に関する共同研究支援プログラム」の資金援助で始まったもので、地元集水域の長期的な持続性
を改善するために、集水域で起こるプロセスを支配する生物物理および人的因子を明らかにするため
196
の学際的な研究プログラムである。Earth Watch は、2003 年から Darwin Initiative のもとで、3 ヵ年の生
態系モニタリングを实施した。流域内での調査活動の大半は現地の中心的な研究者によって行なわれ、
彼らの現地での知識は湖と流域の環境条件を科学的に理解するのに非常に重要であった。これは、
WLV の原則 3、4、6 に準拠するすべての関係者を巻き込む参加型の取り組みの一例である。
5.レッサー・フラミンゴや魚の激減について調査する:レッサー・フラミンゴや魚の激減を阻止/緩
和させるための方策として、次のような方策が提言されている。1)フラミンゴの生態や、彼らのスト
レス原因について人々の意識を高める。2)フラミンゴの生息地の保護・保全を進める。3)人間の排出
物を監視し、低減する。4)病気の伝染や湖への栄養付与を最小限にするために家畜の移動を規制する。
5)フラミンゴの生息地の近くにいる家畜や家禽について非定型抗酸菌症(mycobacteriosis)やレプト
スピラ症(pasteurellosis)の検査を行なう。6)フラミンゴが生息する場所の近くでは、未調理の動物
や家禽の残渣を適切に処置する。
(d)集水域と公園の管理を進める
1.流域内の森林や植生域の保全に取り組む:この戦略のねらいは、人々が統合的で持続的な土地利用
の实践を決意し、实行することによって、その恩恵を得ることができるようにすることにある。これ
は、湖の過大な汚染負荷となっている沈積土砂を減らす上で最も重要である。 Eburru、Dondori、
Eastern Mau などの森林区画ではこの 10 年間に入植のために伐採が進んだ。政府は、森林法に基づい
てこのような伐採行為を停止させるとともに、2005 年からは約 5000 人の無断居住者をこれらの森林か
ら撤去させた。環境資源省森林局は、DANIDA の資金援助を受けて“Miti-Mingi Mashambani”と呼ば
れるプロジェクトを实施し、畑を再び森林に戻す計画を進めた。1988 年から 2003 年の間、WWF とナ
クル国立公園局は、土壌、水、エネルギー保全のための技術や材料を提供し、106 の村落環境委員会を
設立して環境活動に取り組みんだ。ナクル湖国立公園では、野生保護センターが、健全な生態系を維
持するために保全とモニタリングの取り組みを強化した。彼らは、人間と野生動物の争いを最小限に
食いとめるために、公園の境界に沿って 84km の鎖のフェンスと 74km の電気フェンスを張った。さら
に警察と連携して、公園の内外における野生観察者の安全を確保するための強力な安全対策を实施し
た。湖に影響を与えるほとんどの汚染は流域からもたらされるものであり、このような流域の森林や
植生域を保全する取り組みは、WLV の原則 2、4、5 に合致するものである。
2.ナクル湖の生物多様性の保全と回復に努める:生物にとって重要な生息場所は使用不可地域に指定
された。また、研究、レクリエーションおよび開発可能地区なども決められた。ナクル湖の北西部に
は溝を掘って車で来る者から湖岸を守った。これは、鳥やカバをできるだけ近くで見たいという旅行
者の願いと対立する危惧はあるが、よいアイデアである。これらの取り組みは WLV の原則 1 を具現化
するものである。
3.新規の代替雇用機会を創出する:ナクル湖国立公園の近郊では、ミツバチの飼育がそのような可能
性の 1 つである。公園にはミツバチの飼育に適した 200 以上の植物がある。その他の収入獲得のため
の事業としては、工芸品・珍品、苗木店、園芸、養鶏、堆肥製造、薬草医療などがある。近くにある
有史前の遺跡、メネンガイの火口や森林は、文化に親しみ、森を歩く、エコ・ツーリズム地域として
開発・振興を図るとよい。
4.住民の教育と啓発活動:この戦略のねらいは、地域の環境問題に注意を払い、自分たちの意思決定
や行動にそのことを反映させるような住民を育てることにある。WWF-LNCDP は次のような環境教育
活動、すなわち、1)マルチメディアを利用した環境教育教材や広報資料(カレンダーやポスター)の
197
作成・配布、2)環境教育教材の学習教材への活用やニュースやメディア記事への掲載、3)住民を対
象とする研修会、セミナーでの短期および長期的な環境教育の实施、4)環境キャンプ、健全な環境の
促進活動、学校での講義(ドラマや音楽)、展示会や公園内ツアーなどの实施、5)野外活動の日、集
会や会合の開催、などに取り組みんだ。このような取り組みは人間と自然の調和のとれた関係、情報
の共有と関係者の参画などを包含したもので、WLV の原則 1 と 6 に合致するものである。
5.策定された土地利用計画を实施する:ナクル市の持続的な都市開発と環境をめざした行動計画「ナ
クル戦略的再生計画(NSSP)」が 1999 年に策定された。この計画は、ナクル市を「人々と緑の町」
として振興させるためのビジョンを提供し、現在それらを实施中である。2005 年には都市のガバナン
スの改良を目的とする「市民ビジョン戦略」が発表された。この戦略のもとで、MCN、ITDG-Practical
Action、UNDP の支援を受けて、子供、市民、民間部門を対象とするいくつかのフォーラムが開催され
た。ナクル市と ITDG は、スイス政府の支援を受けて「ナクル都市展望プロジェクト」 实施している
が、その中でナクル情報センターを開設した。そこにはリモートセンシングで得られた多くの画像が
ある。2005 年には JICA と Waste-Netherland が支援して専門家を対象に都市環境フォーラムが開かれた。
これらのフォーラムにおいて“我々の望むナクル”に向けて環境保全意識を強化するための道筋が確
認された(Practical Action, 2005)。その他、实施中の計画には、LNIMP、水保全総合計画、森林保全
総合計画、ナクル地域環境行動計画、国家貧困撲滅計画 1999-2015、などがある。これらの計画は、さ
まざまな利害関係者が参加し、協議した結果出来上がったもので、それらの策定は WLV の原則 3、4
に合致するものである。
6.既存の地域協定、条約、議定書などを活用する:湖沼管理を担当するケニア野生保護センターは、
ラムサール条約、世界遺産、CITES、CMS、CBD、CBD & AEWA などを管理の指針としている。ナク
ル市は地域アジェンダ 21 を採択している。
7.補助金、小規模助成金、などの資金調達プログラムを確立する:MENR、ナクル市、ケニア野生保
護センターなどの関係機関は、湖沼管理対策を实施するために必要な予算を計上すべきである。彼ら
は、湖沼管理のための収入・予算を割り当て、湖を汚染する民間業者に課税し、湖の利用者(観光実)
から料金を徴収し、森林収入、森林税、サービスに対する利用料などを確保すべきである。また彼ら
は、議会に対して、地域開発ファンド、ドナー支援などの予算配分を求めるとともに、地域において
資金調達事業を实施すべきである。
湖沼管理イニシアティブの成果
1.
水に対してお金を払っても良いとする意識が高まり、料金収入は月あたり 109,589 ドルから
547,945 ドルに増加した。不明な水の使用は 30%減尐した。
2.
廃水はその質と量に対応して課税されるようになった。2 つの下水処理施設の修理・拡張によって
市街地の廃水は随分きれいになった。
3.
ナクル市の事業者が化学物質排出把握管理を实施するようになって、原材料がかなり節約され、
またそれによって汚染負荷も減尐していることが報告された。危険廃棄物処理のガイドラインが
ナクル市によって策定された。政府によって承認されれば实施に移される。
4.
モニタリングの結果がすべての利害関係者に伝わるようになった。データベースが開発され、ウ
ェブサイトもまもなく開設される予定なので、情報の入手が容易になるだろう。
5.
30 万本以上の木が毎年植樹されている。また集水域内の 6,004ha の丘陵地が整地され、3,855 の農
場に生まれ変わった。
198
6.
蓋なし炉の代替として裏打ち式の炉の普及を図った。この裏打ち材は粘土で作られているので 1
ドル以下と安価であり、かつ木材燃料の使用を 30~50%減らすことができる。
7.
10,000 戸以上の農家を有権者とする集落環境委員会のうち、106 を越える委員会で住民合意による
地域環境行動計画が策定された。
8.
森林法が施行され、森への侵犯、伐採が減尐した。5,000 以上の無断居住者が森から撤去させられ、
また腐敗した森林官は首になった。
9.
近代的なミツバチの巣箱の数が増え、その割合は、1996 年の 8%から、近年 40%まで増加した。
これにより 1996 年には 240kg であった蜂蜜の生産が 4,160kg にまで増大した。現地で蜜は 1kg あ
たり 2.5 ドルで売られる。
10. ケニア野生生物サービス(KWS)とケニア野生クラブが運営するナクル湖国立公園にある 2 つの
教育センターは、毎年 15 万人以上の人たちに環境教育や啓発活動を行なっている。
11. 環境問題に取り組み、環境管理に関するナクル市の付随定款の策定を行う環境部局が設置された。
あとは政府の承認を待つのみである。
得られた教訓
(a) 住民参加を伴う活動においては、メリットに気付くまでに時間が長く掛かるような活動よりも、
結果の速く出るような活動から始めることが大切である。
(b) 地域で正式に結成された集団は、団結力が強く、より多様な考えを生み出す傾向がある。また彼
らは、すぐに自ら進んで活動するようになり、その活動はきわめて持続的である。
(c) 住民の参画と教育は、長期的で人手のかかるプロセスである。この目的を達成するためには、ド
ナーを含む利害関係者は、忍耐が必要であり、早急な結果を期待してはいけない。その恩恵がわ
かるのに何年も掛かることもある。
(d) この国には、持続的でバランスのとれた開発を指導・規制するための法律、政策および計画はあ
るものの、これらが満足に实施されないことが多い。NGO や CBO は、政府が環境保全対策を实
施するにあたって、適宜必要な対策を採るように、働きかけ、動機付けを行なう力を有している。
(e) 社会の平和と秩序は開発のための前提である。最近ナクル湖流域で起こった民族間の緊張は、プ
ロジェクトの進行を遅らせただけでなく、何年も掛けて作り上げた土地資産を台無しにした。ま
た、多くの人の生命を脅かした。
(f) ナクル湖国立公園の知的財産権と生物多様性を保護するための研究方針を策定する必要がある。
例えば、1998 年に Genencor International 社(オランダ)の科学者によってナクル湖やボゴリア湖
から違法に抽出された extremophiles は、米国の巨大多国籍企業 P&G 社が購入し(年間 380 億ド
ル)、Tide Alternative Bleach Detergent の名で国際的に有名な漂白用洗剤を製造するために使われ
ているといわれている。
WLV の实践に向けて
ナクル戦略的再生構造計画(NSSP)のビジョン「人々と緑の町」と、LNIMP のゴールである「持続的
な開発と生物・天然資源のためのナクル集水域の保全」を統合的に進めるための開発と環境管理の枞
組みが提案されている。ナクル湖流域の全ての環境問題は水に関連しているので、「水管理」はキー
ワードであり、人間活動と湖の関係もこのキーワードを通じて議論される。全体として、「水管理を
通じてナクル湖流域の開発と環境保全の調和を図る」と定義される最終目標は、国連の千年紀開発目
199
標の達成に貢献するものになることが期待される。WLV の原則をこの目標の中に組み込んでいくため
には、各地域に、財源が確保され、連携してビジョンを实践するための核となる永続的な活動機関を
設置することが必要である。我々は、WLV の普及を進め、「ナクル湖ビジョン」の策定に取り組みん
でいくための利害関係者フォーラムの開催を提案するものである。ここに参加する利害関係者はナク
ルビジョン实行委員会を構成することになる(名前よりもどう機能するかが重要である)。そのため
には、地方、国、国際的なメンバーからなる自立した評議員会を設立する必要がある。また、欠かす
ことのできないメンバーとなる政府や関係機関を参画させるためには、法的に参加を拘束することを
含め、慎重な準備が必要となるであろう。そのような協働体組織を立ち上げる試みは各地に広がって
おり、また、その設立に必要な専門知識もすでにある。
謝辞
PASS、ILEC の継続的な協力に感謝する。また WWF、ナクル市協議会、およびケニア野生生物サービ
スの同僚からは有益なコメントや提言を頂いた。
参考文献
1) Flamingo Symposium White Paper, 2005. Recent Mass Die-offs of Lesser Flamingo (Phoeniconaias minor) in
East and Southern Africa. Current Knowledge and Priorities for Research. The 2nd draft proceedings of
Trans-disciplinary Symposium, September 24-26, 2004.
2) ILEC and UNEP-IETC, 2003. World Lake Vision. A call to action. International Lake Environment
Committee Foundation: Kusatsu, Japan.
3) ILEC.2005. Managing Lakes and their Basins for Sustainable Use. A Report for Lake Basin Managers and
Stakeholders. International Lake Environment Committee Foundation: Kusatsu, Japan.
4) Nelson,Y.M.,R.J.Thampy,G.KMotelin,J.A.Raini,C.I Disante & L.Wilson,1998.Yarrow N. Motelin G., Thampy
R. Raini J. et al (1998). Model for trace metal exposure in filter- feeding flamingos at alkaline Rift Valley
lakes, Kenya. Publ. Paper. Environmental Toxicology and Chemistry 17:2302-2309.
5) E. Odada, J. Raini, R. Ndetei, 2004. Experiences And Lessons Learned Brief For Lake Nakuru.
6) Lake Nakuru Integrated Ecosystemmanagement plan 2002- 2012. Plan developed in collaboration with
Netherlands Government, KWS, MCN, WWF, Moi University, and University of Nairobi.
7) Jael.N Ludeli, G.Wamukoya, Dominic Walubengo (2006).
Environmental Management in Kenya: A
framework for Sustainable Forest Management in Kenya; Understanding the New Forest Policy and the
Forests Act, 2005.
8) JICA, 2002. Final Report for Special Assistance for Project Sustainability (SAPS II).
9) Mbaria, 2004. The Daily Nation Newspaper, August 25th, 2004.
10) JICA, 1994. Nakuru Sewage Works Rehabilitation and Expansion Project Feasibility Study Final Report.
11) Practical Action, 2005. Proceedings of the Workshop Series” Strengthening #Environmental Stewardship
towards The Nakuru We Want”. 1st Professional Forum on Urban Environment, Nakuru, Kenya 18th October
2005.
12) Krienitz L. Ballot A., Kotut K., Wiegand C., Putz S., Metclaf J.S., Codd G.A., Plugmacher s.,2003.
Contribution of hotspring cyanobacteria to the mystrious deaths of Lesser Flamingos at Lake Bogoria, Kenya.
200
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ジョージ湖(ウガンダ)における世界湖沼ビジョンに向けた取り組み
Monday S Lwanga
Lake George Basin Integrated Management Organization
P.O. BOX 250, Kasese, Uganda
e-mail: [email protected]
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要旨
アフリカで最も生産性の高い湖の一つであるジョージ湖(ウガンダ)は、この 30 年間、流域内で、漁
業資源の密漁や乱獲、集水域の务化や汚染、水資源の分水や土砂沈積が進み、その存在が脅かされて
いる。
ジョージ湖(面積 260km2)は、直接的には、その周辺に居住する 2,700 人の生活の源であり、間接的
には、流域の内外で暮らす多くの人々にとっての生活の源でもある。ジョージ湖は、Rwenzori 山に源
を有し、その雪解け水を運んで流れる 5 つの大きな河川の終点にあるので、土砂でふさがれ易く、ま
た重金属や有機性物質に汚染されやすい。
管 理 戦 略 の 変 更 に よ っ て 湖 全 域 の 管 理 組 織 と し て ジ ョ ー ジ 湖 流 域 統 合 管 理 機 構 Lake George
BasinIntegrated Management Organization(LAGBIMO)が設立され、主としてジョージ湖流域の管理責
任を担うことになった。特に、漁場管理については、管理と利用の責任が地域住民に与えられ、法的
に権限を与えられた草の根組織の浜辺管理組合 Beach Management Unit(BMU)が設立された。
LABIMO と BMU は、文書としての WLV を实践に移す絶好の機会となる。ナイロビで開催された第
11 回世界湖沼会議における WLV・特別セッションの中で LAGBIMO の事例が紹介されたのを契機に、
ジョージ湖の流域管理計画は、WLV の原則に準拠して改定されることになっている。
管理・保全活動は、湖沼管理に関わっている機関に対する理解を深め、湖沼資源管理に関する住民の自
覚と参画を促し、水辺に暮らす住民の湖沼資源の利用機会を増やし、さらに、地域住民に直接的な恩
恵をもたらす事業への地方政府の投資の増大につながった。
今後は、WLV を行動に移すために、ウェブサイトを通して世界各地の経験や教訓を学ぶための施設を
開設するとともに、WLV 实践のための活動(の始動)を支援するための基金を創設すべきである。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
はじめに
ジョージ湖は、海抜約 914m、リフトバレーの西方延長部の赤道直下(東経 30 度 1 分~30 度 13 分、
北緯 0 度 5 分~单緯 0 度 5 分)にある熱帯性栄養湖である。アフリカ最大のビクトリア湖の 0.4%にも
満たず、平均水深 2.5m、最深部 4m、面積 260km2 である。湖の集水域面積は 9,700km2、約 0.8km3 の
水量があり、滞留期間は 0.3 年である。ジョージ湖は、ゆっくり流れる Kazinga 水路(長さ約 33km)
によってエドワード湖とつながり、さらにエドワード湖は Semiliki 川を通じてアルバート湖やナイル
川に繋がっている。ジョージ湖は、直接的には湖周辺地域に居住する 2,700 人以上の人々、間接的には
流域の内外に住む数多くの人々の生活の源である。
ジョージ湖は、その大部分が自然保護区、エリザベス女王保護区域、および野生生物保護区域と隣接
している。しかしながら、湖の水と漁場は、ウガンダの漁業資源局(UFRD)と、湖と水路の周囲にあ
る現地当局 Bushenyi、Kasese、Kamwenge の管理下にある。ちなみに、これらの当局は LAGBIMO の
構成メンバーである。一方、国立野生動物保護区は、ウガンダの野生生物保護局(UWA)の管理下に
ある。
201
ジョージ湖は、ルウェンゾリ山に源を有する 5 つの大きな河川の終点にあり、同山の雪解け水の大部
分が流れ込む。湖の唯一の流出口はカジンガ水路であり、Albertine Rift にある大きなエドワード湖に
ゆったり流れこんでいる。
湖が直面している問題
アフリカで最も生産的な湖の一つであるジョージ湖は、この 30 年の間、流域における漁場の密漁や乱
獲、水資源の汚染によって、その存在を脅かされてきた。世界のどこでもそうであるが、湖沼資源の
減尐は、湖周辺の急激な人口増加と関連している。
漁業資源の減尐
湖の利用は制限され、漁場への通路は閉鎖されてはいるが、まだ多くの小型釣具を使用する漁師の問
題がある。人間活動の影響を受けて、商業漁獲量が次第に減尐し、多くの商業用魚類のサイズが小さ
くなっている。1970 年代に、この湖は 5,000 トンの魚を供給していたが、今ではその半分以下である。
政府と地域を基盤にした浜辺管理組合(BMU)によって規制が实施されたが、ジョージ湖のみならず
他の湖においても、成功していない。ウガンダでは、漁場運営の責任は、法的に権限を与えられた草
の根組織の BMU を通して地域の住民に与えられている。
環境問題
過剰に流入する土砂の堆積
ジョージ湖の周囲は農業に非常に適しており、多くの作物が、リフトバレーやルウェンゾリ山のふも
との肥沃でゆるやかな火山性土壌で栽培されている。毎年、大量の土壌が浸食され、湖やその周辺に
堆積しているので、長期的には湖の土砂特性や水生生態系に影響が出る可能性がある。この影響は既
に現われており、湖の西岸で湿地帯が急に増加している。浅い湖岸地域に土砂が堆積してパピルスの
ような抽水植物が生育しやすい条件となり、繁茂するようになった。これは土砂堆積を食い止めるの
には非常に好都合かもしれないが、長い目でみれば湖の縮小につながる。
過去の研究によって明らかになったことの一つは、「丘陵地農業の推進によって流域にさまざまなも
のが流入してくるようになったことが、湖の务化に大きく影響している」ということである。しかし、
原因についての詳細な検討、当面の努力、悪化を防ぐための規制は進んでいない。ジョージ湖の非持
続的な農業活動に基づく破壊の性格、大きさや程度に関する情報はほとんどない。
丘陵から失われる土壌の量は、以前の調査、例えば Tenywa(2001)から推定すると、1 年で 1ha につ
き 70 トンであり、ウガンダが許容できる水準を越えていると考えられる。農民たちは、自分達の行動
が招いた自分たちの土地の損害については大体のことを知っているが、湖の土砂堆積のような自分た
ちの土地以外の損害については何も知らない。
分水による流入水の減尐
湖の北部には、Sebwe 川の水を利用する広大な灌漑地がある。これによって湖に流入する水量が減り、
灌漑排水によって農薬や汚泥が湖に持ち込まれることになる。また地元のコバルト工場と旧銅鉱山に
電力を供給するために 2 基の水力発電所が設置され、湖に流入する主要河川 Mubuku 川の一部を分水
した。全体の水文学的な量からみればこれらの影響は小さいかも知れないが、蒸発、濁りなど蓄積的
な影響は無視できない。
202
重金属汚染
ジョージ湖は、水が最後に流れ着く所であり、旧銅山と稼動中の Kasese コバルト会社(KCCL)から
流れ出る銅とコバルトが沈殿する所である。湖周辺の土地環境調査では、これらの金属が非常に高濃
度で検出された。湖の水中の濃度は次第に低下しているが、これは湖の北部に広がる湿地帯で保持さ
れているためであろう(Denny, 2001、Monday et al., 2003)。
Denny(2001)は、ジョージ湖の環境問題に関する初期の研究において、脅威の種類と内容、およびそ
の重要度を下記のようにまとめた。
1
脅威
傾斜地農業
詳細
主要な集水域への影響。木の伐採と傾斜地農業による
深刻な务化。河川の過度の土砂堆積につながる深刻な
侵食の証拠。
ジョージ湖の土砂堆積は傾斜地農業に起因する浸食や
排水が原因かも知れない。
2
Mubuku
灌漑定住計画
水収支と Sebwe 川に対する影響
農夫による農薬散布と灌漑計画地の下流にある天然湿
地帯への影響
3
Hima セメント
会社
セメント工事現場近くの大気・土壌・水の汚染
4
石灰工事
一週間に 100 トン以上の過剰な薪の使用
小さな石灰工事:大きいユーカリを使う土壌・水の汚
染
5
Kasese の 下水
処理
6
Kasese の飲料
水供給
Kahendero 村の
水汚染
旧 Kilembe 銅鉱
山
短期的には下水処理は行わない。長期的には資金調達
可能。浄化槽廃棄物が QENP のフェンスで仕切られた
地域に持ちだされた。汚染の悪影響が徐々に出てくる
かもしれない。
貧困な土地管理の影響と思われる飲料水中の多量の浮
遊物。
植生地から採集した試料について水汚染の検査が行な
われた。
鉱山からのポンプ揚水:廃水中には、青っぽいコロイ
ド状の浮遊物が観察された(KCCL は、水は pH6~7
で青っぽくないと報告。)試料の分析は高濃度の重金
属を示した。将来計画では、ポンプ揚水を中止。
石灰工事-薪の調達源
鉱山から出る大量の廃棄物を入れる容器が無い。
7
8
水力発電
水供給
Mubuk 第 3 水
力発電所
10 KCCL
9
水文学的な条件変化と不安定な放流は、エリザベス女
王野生動物保護地区にある湿地に影響を与える。
Ksese/Fort Portal 道路の下にある選鉱屑入れ。サンプル
の分析結果は高濃度の重金属を示している。
人造湿地-Kilembe 鉱山の流出物に技術を適用するた
め、影響を調査すること。
最終廃水の水質
現場における銅の蓄積
*
重要度
高(長期)。管理計画では
無視できない
低(土砂堆積が傾斜地農業
の結果ではないことを確認
できるデータが必要)
低(計画はほとんど实施さ
れていない。どんな再生も
支援金に頼ることになるの
で環境規制も必要になる)
低(最近洗浄フィルターが
設置され、煙やほこりを防
ぐことができる)
高-しかし木の調達場所と
代替燃料の調査要無(石灰
岩は天然地層に存在し、湖
は当然 pH が高い)
高(今後の集中下水施設建
設のための資金集めが行な
われていない)
高
無
高(Nyamwamba 川に入り、
おそらく人もしくは環境健
康被害の原因となってい
る。)
高
高(堆積した廃棄物が川に
流出し、谷川を浸食する原
因になる。)
低(もっと調査が必要)
低(上流から水を引く-も
っと調査が必要)
中~高
もし湖に流入したら大変高
い(もっと調査が必要)*
中-高
無(KCCL/DWD によって監
視されている)
低(含有)
重金属の濃度は調査され、結果は Monday et al. 2003 に掲載されている。
203
戦略と实行、およびその結果
戦略
WLV を实施するための最良の手段としては、東アフリカ共同体傘下のビクトリア湖流域委員会とナイ
ル川流域イニシアティブ以外の国家レベルの組織は存在しない。ウガンダにおいては、LAGBIMO と
LAKIMO が、地域間レベルで WLV を实施するのに非常に良い機会を提供する。ジョージ湖に関して
は、WLV の原則がもうすでに普及している。LAGBIMO EC はすでに指針の作成を進めており、ジョ
ージ湖の管理計画を WLV の原則に則って改定することにした。資金があれば、湖全域の集合体であ
る LAGBIMO の運営委員会は、提案を受け入れ、最終的に計画を承認するだろう。国レベルの湖沼ビ
ジョンを作成するためには、最初に多くの関係機関の間での協力が必要であり、トップダウンでなく、
ボトムアップ方式で作成されることになるかもしれない。WLV は、フィリピンの事例のように国家機
関を通じてではなく(Adelina, 2005)、直接個々の湖に広まっていくかもしれない。
LAGBIMO の事例は、ナイロビで行われた第 11 回世界湖沼会議の中で開催された WLV 特別セッショ
ンで発表された。それ以来、WLV の提唱はジョージ湖の重要課題の 1 つである。
成果に結びついた行動
成果に結びついた具体的な行動には次のようなものがある。資源の所有権、立ち入り権とその制限に
対する大規模な意識改革キャンペーンが行なわれた。これらの運動は、最初に地方のリーダー達を対
象に進め、次により広範な湖岸住民に拡げていった。これまでの方針や運用指針を変更して、資源
(漁場)への立ち入り、即ち漁師免許を申請する個人を評価するための権限を地方の委員会に与えた。
これは BMU 委員会の設立に先立って实施された。また政府は、漁業免許付与権の地方分権化を進め、
ジョージ湖以外の他のウガンダの湖にも適用した。これは、漁業収入が国から湖を所有する地方政府
に移ったことを意味する。これによって、湖をより適切に管理する必要性に対する理解が進み、湖岸
の地域住民に直接利益になるようなプロジェクトに対する地方政府の投資が増加した。
地域保全の奨励策として、ジョージ湖を囲むエリザベス女王国立公園の管理局は、旅行実の入場料の
10%を地域プロジェクトに再投資することに同意した。これらのプロジェクトの多くは、健康施設や
学校、湖岸保護、植樹など、漁業とは無関係である。湖に影響を及ぼす問題は、必ずしも近辺の住人
に起因するとは限らないので、湖岸の住民は、意見を共有するために農家の人たちとも対話を持つべ
きだという考え方が広くゆきわたっている。
管理・保全活動の成果

湖の管理に携わる機関の(湖沼管理に対する)理解が進んだ。

湖の資源管理に対する住民の自覚と参加が進んだ。

湖から生じる利益を享受できる湖岸住民が増加した。

湖岸住民に直接利益になるプロジェクトに対する地方政府の投資が増大した。

集水域の問題に取り組むためのより適切な取り組みが進んだ。
現在のジョージ湖(管理戦略変更後)と WLV との比較(要約)
ジョージ湖は、地域間組織の一つ、ジョージ湖流域統合管理組織(LAGBIMO)の管理下にある。湖を
共有する 3 つの地域は、湖を管理するために協力体制を築いた。
204
WLV の原則
人間と自然の調和した関係は、湖沼
の持続可能性にとって不可欠で あ
る。
湖の流域は、湖沼の持続的利用をめ
ざす管理施策を立案・实施する際の
論理的出発点である。
湖沼環境の悪化を防ぐためには、長
期を見とおした予防的対応が必須で
ある。
湖沼管理のための政策の形成と決定
は、適正な科学の成果と利用可能な
最良の情報に基づいて行わなければ
ならない。
持続的利用のための湖の管理では、
現世代および将来の世代のニーズと
自然のニーズを考慮しつつ、競合す
る湖沼資源の利用者間の紛争を解決
することが必要である。
住民およびその他の関係者が、重要
な湖沼問題の把握と解決に有効な形
で参加することを勧めるべきで あ
る。
公平性、透明性、すべての関係者へ
の権限付与を基礎とした良好な統括
体制が、持続可能な湖沼利用のため
に不可欠である。
ジョージ湖の現状
ジョージ湖流域管理計画(LGBMP)は、天然資源管理と人々
の暮らしの両方の問題に取り組んでいる。
湖は、取り組みを全流域に展開する前に、利害関係者が一同に
会し、前進するための出発点と見なされる。流域問題は、組織
やジョージ湖流域管理計画の中で取り組まれる。
長期的な管理のための土台として機構の整備と湖の流域管理計
画の策定が行なわれた。酸性銅山排水で悪化した地域でも、植
物を再生させることが可能であるという研究結果が得られた。
予防的な対応として、KCCL は、湖への流量を減らすために金
属を蓄積するための湿地帯を建設した。
政策の策定と決定は、住民と地方行政機関によって収集された
情報に基づいて行われる。行政は政策や計画への利害関係者の
意見の反映に努める。
利害関係者の大部分が地域の漁師なので、優先順位については
合意するが、漁業のやり方について意見の対立がある。優先順
位の低い問題に対しても、紛争の解決、あるいは紛争を処理す
るための機関と手順が用意されている。
市民は、BMU を通じて、湖の問題だけでなく、より広い暮ら
しの問題についても湖沼管理に参加できるようになった。BMU
は、地域住民が湖沼管理に参加する手段となっている。
民主的な選挙、有効な(意思)表示、社会参加、公平、説明責
任などが確实に行なわれるように、適正なガバナンスの原則
が、組織や運用手順に取り入れられている。BMU と LAGBIMO
は利害関係者達に対して説明責任を有する。
得られた教訓

環境に関する国の方針は、WLV を包含すべきである。

湖沼流域管理を進めるためには、水・土地・環境を保全する使命を持ち、協力し、一つのフォー
ラムにまとまった機関が必要である。ジョージ湖の場合、LAGBIMO は、湖全域の多くの利害関
係者の集まりとして、そのような良い機会となっている。

地方、国家の湖沼管理に関する政策は、地球規模の指針である WLV に準拠して、作成されるべ
きである。

国・個々の湖沼機関は、WLV を用いて計画を策定した他の地域の情報を利用できる。このような
情報は、ウェブサイト上での情報交換、もしくは实際に訪問することによって得ることができる。
いかに世界湖沼ビジョン(WLV)を行動に移すか

WLV を实践するためのネットワークを形成し、国レベルの湖沼ビジョンをウェブ上に掲載する。
このウェブサイトは、世界中の最適な事例について意見を交わす場にもなる。

WLV の实施に向けた活動を支援するための中央基金を、例えば ILEC の下に創設する。
205
今後の取り組み

WLV と新たな湖沼管理問題に対するその有用性を多くの人に理解してもらう活動を継続的に行な
う。

WLV の原則に基づいた湖沼・集水域管理計画を立てるよう奨励する。

WLV の实践に取り組むための初期的な活動に対して、経済的・物質的な支援を求める。

国や国家間の政策を通じて WLV の支持を拡大する。
謝辞
私の第 11 回世界湖沼会議への参加を支援してくれた ILEC に感謝致します。また、WLV の原則が広が
り、LAGBIMO 計画に取り入れることを約束してくれた私の組織にも感謝します。
参考文献
1) Adelina C.S 2005: Cascading the World Lake Vision to the national and Local level: paper presented at the
World Lake Vision Plenary Session during the 11th World Lake Conference, Nairobi, Kenya.
2) Denny P., R. G. Bailey, E. Tukahirwa & P. Mafabi, 1995. Heavy metal contamination of Lake George
(Uganda) and its Wetlands. Hydrobiologia 297: 229–239.
3) Denny P. 2001: Environment Strategy for Lake George. Unpublished consultancy report for the Integrated
Lake Management Project
4) Monday S.L., F. Kansiime, P. Denny & J. Scullion: “Heavy metals in Lake George, Uganda, with relation to
metal concentrations in tissues of common fish species”. Hydrobiologia 499: 83-93.
5) Tenywa MM., 2001: Hillside Agriculture Scoping Study for Lake George. Unpublished Report for the
Integrated Lake Management Project
206
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カリバ湖の管理と集水域レベルの問題
Chris. H. D. Magadza
University of Zimbabwe, Box Mp167, Harare, Zimbabwe
E-mail: [email protected]
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
要旨
この論文は、WLV をカリバ湖に適用し、管理の歴史的な経緯、集水域の広がり、政治的背景、集水域
住民の文化的・経済的な状況、地域の水資源管理環境などの観点から論ずるものである。次に、主要な
水力発電施設であるカリバ湖集水域の管理に関する指導原則を、工学的・水陸学的な課題を第一とす
る管理から、集水域の社会・環境・地政学的状況を考慮したものに変換する必要があったことを述べ
る。さらに、先進国では、集水域の住民が、湖や貯水池に対して自分たちの湖沼として親近感を持っ
ているのに対して、カリバ湖の場合、集水域の住民のほとんどがその存在すら知らず、したがって湖
沼管理の問題には関心を持っていない、という事实を指摘しておきたい。このため、上層部における
政策決定と、集水域の实行機関や住民の日常活動との間に断絶がある。しかしながら、WLV の考えに
基づいて管理を進める枞組みは、单アフリカ開発協議会(SADC)の水路協定や、それから派生したザ
ンベジ行動計画(ZACPLAN)の中に既に述べられており、次になすべきことは、この上層部の方針を
地域レベルで全員が实施することである。WLV にもあるように、流域協議会を強化し、流域の住民や
資源の利用者をカリバ湖流域管理に参画させることが求められている。WLV の原則をカリバ湖の流域
管理に適用するための、ザンベジ川管理当局(ZRA)と WLV 委員会の話し合いが望まれる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
はじめに
カリバ湖は、東アフリカリフトバレーの单端の西方延長部にあり(单緯 16 度 31 分~18 度 7 分, 東経 26
度 48 分~28 度 42 分)、その流域面積は 687,049km2 で、アンゴラ、ザンビア、ナミビア、ボツワナおよ
びジンバブエの領内にまたがっている。ザンベジ川流域は、上流ザンベジ(ビクトリア滝の上流部)、
中部ザンベジ(ビクトリア滝からカホラ・バッサダムまで)、および下流ザンベジ(カホラ・バッサ
ダムの下流からインド洋まで)の 3 つの地域に分けられる。カリバ湖集水域の上流ザンベジ地域は、
広大な氾濫原を抱えている。中でも有名なのは、Bulozi 氾濫原(ザンビア)、Chobe 沼(ボツワナ)、
Caprivi 湿原(ナミビア)で、これらは重要な生物多様性保全地域となっている。カリバ湖の歴史は旧
ローデシア・ニヤサランド連邦に遡る。この連邦国家は 1953 年から 1964 年まで続いたが、政治と経
済の発展がばらばらであったことや、ニヤサランドの 2 つの北部の州と北ローデシアが連邦国家であ
ることの实質的なメリットを見出せなかったために、連邦はそれぞれの主権国家に分裂した。しかし、
連邦国家は、その存続中に、開発に必要な水力発電エネルギーを得るためにカリバダムを建設した。
ザンベジ川は、Kariba Gorge において 1958 年に堰きとめられた。湖は増水して 1963 年に最大になった。
プロジェクトは、当時、2 つの湖辺の州、北および单ローデシアが共同所有していた中央アフリカ電力
会社(CAPCO)によって進められていたが、1984 年に中央アフリカ電力会社が解体したために、ザンベ
ジ川管理局がこれに変わり、ザンビアとジンバブエ間の国際協定の使命に従って管理することになっ
た。同管理局は 6 人の大臣間委員会(ザンビア、ジンザブエのそれぞれから 3 人の大臣が参加)によ
って統括されている。
カリバ湖が直面する問題・課題
国境にまたがるカリバ湖
カリバ湖が建設されたとき、2 つの湖辺の州、ザンビアとジンバブエは、旧ローデシア・ニヤサランド
連邦の一部であった。このような体制下、カリバ湖の管理権は連邦国家にあり、中央アフリカ電力会
207
社を作ってカリバ湖水力発電プロジェクトを進めた。最終的にザンビアとジンバブエが自治権を獲得
したとき、両国は協定を結び、新たな使命にしたがって新組織が作られた。これがザンベジ川管理局
(ZRA)であるが、従来の組織と同様に、2 つの湖辺国家に責任を持つ縦割り組織であり、流域の利用
者との調整ができるような組織的能力は持ち合わせていなかった。
流域の大きさと社会的多様性
ジンバブエやザンビアのような発展途上国では、カリバ湖のような水文学的に大きな集水域は、社会
的・経済的・文化的に多様な集団を包含している。カリバ湖の集水域の面積は 687,049 km2 で、日本、
イタリアの 2 倍近くあり、スペイン、ジンバブエより大きく、またナイジェリアの 75%近くに相当す
る。流域の最端部から湖まで直線距離で 1,100km もある。流域の大多数の住民は湖を見たことは無い
が、湖で作り出された電力で作られる製品や、湖の漁業資源の恩恵を受けている。
流域の人口は、文化、言語、政治、および経済的に非常に多様である。民族的な多様性以外にも、経
済的に大きな格差が存在し、都会の住民は、田園部の住民より経済的に恵まれている。
オレゴン州立大学の「越境淡水問題データベースプロジェクト(Wolf, 2000)」は、ザンベジ川流域に
ついて以下のようにその特徴を述べている。
 一人当たりの国内総生産の低い流域
 周辺との関係が友好的でない流域
多くの人が貧困で、民主主義は根付いておらず、国の当局は、めったに、あるいは、名目的にしか流
域の現地住民に関心を持たないような状況のため、湖沼流域管理の活動に住民の参加を促すような環
境は出来ていない。住民の大部分が貧困ライン以下で暮らし、エネルギーや食料を天然資源に依存し
ているので、WLV の原則を实践するにあたっては、集水域の悪化を正すことがまず大きな問題である。
土地の荒廃
表 1 はザンベジ流域全域の土地利用を表したものである。農業、牧畜、家庭の調理のための材木の使
用が、ザンベジ流域の森林破壊の主要な原因である(IMERCSA, 2000)流域の大部分の農民が自給農
家で、1ha あたり何トンという商業規模生産ではなく、1ha あたり何百 kg という生産量しかない。
表 1 ザンベジ流域の土地利用と割合(%)
森林
草原、サバンナ、低木地
湿地
農耕地
灌漑農耕地
乾燥地
工業市街地
失われた森林
4%
72%
7.6%
19.9%
0.1%
31.9%
0.7%
42.8%
家畜の飼いすぎは過放牧となり、土壌侵食につな
がるか?ザンビアの北部では、家庭燃料は、通常
木炭である。木炭の生産は、ミオンボの森の多く
を裸の山にしてしまった。森林破壊の進行は、集
水域の侵食と相まり、さらに
ジンバブエ側では
斜面が急傾斜であることもあって、流域の川に大
量の土砂が堆積した。土砂堆積は、水路だけでなく、川の生息地体系の分断を引き起こし、その状況
はピークに達している。ジンバブエ側の流域では、自然林の 42%が農地に転換された。大部分の植生
はサバンナに区分けされ、それに続くのが「务化したサバンナ林」と呼ばれる低木地である(表 1)。
カリバ流域の高人口密度地域(10~40 人/km2)はジンバブエ側にあり、他にはビクトリア滝やモング
近くの Barotse 氾濫原など数箇所が同様な人口密度を持っている
208
媒介動物によって伝播する病気
マラリアとトリパノソーマ症:ザンベジ流域はマラリアやトリパノソーマ症による疫病の多い地域で
ある。現時点では、海抜 1,200m以上の地域のみがマラリアの発生しない地域である。しかしながら、
Mahoya(2005)の研究によれば、地球温暖化によってこれらの地域もまもなくマラリア発生地域とな
り、全流域がそうなるであろうという。このような虫が媒介する病気は、殺虫剤、特に DDT を使用す
ることによって防止されてきた。地球温暖化によって、流域のさらに広い範囲にこれらの病気が広が
るようなことになれば、DDT のような殺虫剤の使用がさらに拡大するだろう。
表 2 はカリバ湖流域における DDT の長期使用の影響を示す。ツェツェバエ(Glossina)駆除の取り組
みの中で、DDT が 30 年以上の長期わたって使用された結果、カリバ湖集水域のザンベジ渓谷に DDT
が蓄積した。Magadza(1999)は、天然資源研究所のデータ(Douthwaite and Tingle, 1994)を調べ、カ
リバ湖の生物の体内に相当量の DDT が蓄積されていること、湖の周囲の陸上生物にもかなりの生態学
的な影響があることを示した。DDT の使用が及ぼす生態学的な影響については、Douthwaite et al
(2003)および Douthwaite(1992)らの調査もある。
表 2 母乳中の DDT、DDT 誘導体、PCB 量(Chikuni et al., 1997)(濃度:母乳 1g 脂肪分中の mg)
地域
土地利用の特
母親の平 PCB 総量 pp-DDE pp-DDT
DDT 総量
DDT/DDE 比
徴
均年齢
Kariba
23
2.78
13.61
9.08
25.26
0.6
病原菌を仲介
する虫の防除
Kadoma 綿畑
22
59.55
5.05
1.25
7.05
0.2
Esigodini 自給農業
25
13.27
1.18
0.25
1.61
0.22
カリバ湖流域における殺虫剤の人間への影響についての臨床学的なデータはないが、母乳中の殺虫剤
濃度は、カリバの母親の母乳に DDT が蓄積されていることを示している(表 2)。米国保健省は、ね
ずみの实験をもとに、肝臓に腫瘍を引き起こす口径投与量として 0.34mg/kg/日の値を提示している。
また WHO は、限界摂取量として 1 日あたり 20µg/kg を設定している。カリバにおける母乳の DDT 量
を考えると、毎日 400ml の母乳を飲む 10kg の幼児は、幼児の体重 1kg あたり 0.4mg を摂取しているこ
とになる。ちなみに、この濃度ではこうもりの子供は出生後にすべて死んでしまう(Magadza, 1999)。
EPA は、口述データをもとに DDT の危険吸入量として 9.7×10-5μg/m3 の値を出した(IRIS, 2001)。ツ
ェツェバエ予防については DDT の使用は中止されたが、流域ではマラリア予防の目的では広く使用さ
れており、审内散布などによって住民が壁に残った粉末から DDT を吸入する恐れが残っている。
Berg(1995)は、カリバ湖における DDT の動的な流れをモデル化し「カリバ湖では、水力発電のため
に保持時間(3.7 年)が自然湖に比べて短いので、大量の殺虫剤が失われている」と結論付けた。しか
しながら、表 2 のデータは、カリバの授乳中の女性が高い DDT/DDE 比を示しており、ツェツェバエ
予防のための殺虫剤使用が中止された 7 年後でも、新たに DDT を摂取していることを示している。こ
のことは、「マラリア防止のための DDT 使用は审内に限られているから、環境中には拡がらない」と
いう主張に疑いを投げかけるものである。
住血吸虫症:King(1999)、Mungomba et al.(1993)、Mungomba et al.(1998)は、湖辺の地域に住血
吸虫症がひろがっていることを見出した。感染の割合は 5%~69%で、その大多数はマンソン住血吸虫
(Schistosoma mansoni)やビルハルツ住血吸虫(S. haematobium)であった。
209
カリバ湖で漁業ができるようになったことによって、ザンビアやジンバブエから何千という伝統漁業
者がやってきた。これらの漁業住民の大部分は、まともな衛生施設や配管水もなく、また健康や教育
のための社会施設もない粗末な漁村に住んでいる。住民の大部分は、自分たちの本当の住まいを高原
に持っていて、この漁村を漁のための一時的な住まいと考えており、そのため AIDS のような性的感
染症の伝染が拡がった。
汚染と富栄養化
ザンベジにおける汚染は、点源汚染だけでなく、面的にも拡散し、多岐にわたっている(IMERCSA,
2000)。主な汚染源としては以下のようなものがある。
*下水排水
*産業排水
*熱エネルギー生産
*鉱山
*農作物保護(農薬)
ジンバブエ側の集水域にある町では、処理が不充分な下水が放流され、また施設が故障すると、しば
しば未処理の下水が放出される(Magadza, 2003)。しかしながら、これらの町は湖から 200km 以上離
れており、流れる間の自浄作用により、その影響は十分抑えられている。例えば、Kwekwe 鉄工所の
廃水の影響は、排出地点から 30km のところでは検出できない(Chinhanga, 2005)。
深刻な点源汚染は、川沿いのリビングストーンやビクトリア・フォールズなどの町からもたらされる。
Masundire(1998)は、リビングストーン(人口 10 万人、成長率 2.6%)とビクトリア・フォールズ
(人口 32,000、成長率 14%)の大部分の未処理排水は、ほとんどそのままザンベジに大部分が放出さ
れていると指摘している。Feresu and Van Sickle(1990)は、ビクトリア・フォールズからザンベジ川
に沿った 20km 以上の区間で、排泄物中の大腸菌バクテリアを追跡調査した。Kariba,、Siavonga、
Sinazongwe のような湖辺の居住地や多くの伝統漁師の村からは、充分に処理されていない排水が流さ
れ、湖の汚染原因になっている(Magadza and Dhlomo, 1996)。
拡散性汚染源による汚染は、主として飼育されている家畜からもたらされる。流域内で自由に動き回
る家畜の数は km2 あたり 5 頭以下から 50 頭以上までさまざまである。湖に近い高原地域には、一般に
km2 あたり 11 頭以上の動物がいる。動物を多く飼っている他の地域は、ザンビアの Bulozi 平原やジン
バブエの北西部の集落である。雤季にはこれらの集水域から多くの窒素やリンが湖に流れ込むので、
カリバ湖の平均リン濃度は 20µg/ℓを超える。
水の汚染は、水上輸送システムからも生ずる。Mulendema(2000)は、漁船は毎晩 3.6 トンの人間排泄
物を湖に放出すると推定している。彼女はまた、湖上でさまざまな時間を過ごす家族船の数が 1900 ほ
どあると見積もっている。したがって、湖には毎年 1,500 トンもの人間排泄物が流れ込むことになる。
Magadza と Dhlomo は、この研究に協力して Sanyati 流域沖の湖で試料を採取し、大腸菌数の数を調査
した(Magadza and Dhlomo, 1996)。
カリバ湖のジンバブエ側には幾つかの大きな鉱山があり、銅、金、錫、ニッケル、クロムなどを産出
している。選鉱屑や鉱山廃棄物にはいろんな重金属が含まれている(Piha et al., 1995, Jonnalagadda and
Nenzou, 1997, Williams and Smith, 2000)。ジンバブエ側のザンベジ渓谷ではウラニウムの埋蔵を調査す
る事業が現在行われている。Douthwaite et al.(1992)はカリバ湖のカワウの体内に水銀が存在するこ
とを示した。
210
Berg et al.(1995)は、カリバ湖の土砂や生物中の重金属レベルを求めた。これらのデータは、カリバ
湖に重金属が流入し、生態系の生物に蓄積していることを示している。亜大陸における最近の金の選
鉱鍋をめぐる暴動は、集水域における水銀やシアンの汚染の危険を増大した。Shoko and Marcello
(2004)は、カリバ湖に流入する Sanyati 川は Kadoma-Chakari 地域にあり、その地域から毎年放出さ
れる水銀の量は 3~5 トンに達すると推定している。
水草
カリバ湖は、当初、サンショウモ(Salvinia molesta)に侵食された。侵食の最高時には湖表面の 25%
がこの水草で覆われた。单アメリカから導入した草食性昆虫を使う生物学的な対策と、水が尐ない時
期に湖のレベルを変化させる、という対策を組み合わせて最終的にその水草を湖から取り除くことが
できた。一番ひどかったのは、1991~92 年の旱魃であった。そのときには湖のレベルが低下し、水草
のマットが湖岸を覆ったほどであった。Magadza は、現在のリンの濃度レベルは、湖がまだ富栄養状
態にあることを示していると指摘している。
1999 年には、ホテイアオイ(Eichhornia crassipes)が湖に発生し、発電施設の運転に深刻な脅威となっ
た 。 こ の 雑 草 対 策 と し て は 、 最 初 、 萎 れ さ せ る 目 的 で 2 、 4-D が 散 布 さ れ 、 次 い で ゾ ウ ム シ
(Neochetina eichhorniae)が導入された(Mpofu 1996)。しかしながら、最近の観測によれば、この雑
草は、湖に定着しており、条件次第では、広い地域に広がる可能性がある。
今後の大型水草管理においては、湖の富栄養化の進行とカリバ湖のジンバブエ側で拡がっているホテ
イアオイが特に問題である。ザンベジ上流ではサンショウモも拡がっており、リビングストーンやビ
クトリア・フォールズの波止場からも観察できる。そこでは観光スポットからの排水が栄養源となっ
ている。ホテイアオイはしばしばダムの壁にもマット状に群生する。
地球温暖化
湖の水温、流域の気温、ザンベジ川の流速などの解析によれば、この支流域では 10 年に 0.5~0.7℃で
温暖化が進んでいる。カリバ湖の温度上昇によって、変温層が浅くなり、温暖期にシアノバクテリア
が増殖することになった。峡谷での降水量は減尐し、ザンベジ川の流量は 60 年代中頃には 1700 m3/s
であったが、2000 年には平均 600 m3/s にまで減尐した。
カリバ湖ができるまではジンバブエには大きな水系が無かったので、伝統的な地元漁業は存在しなか
った。カリバ湖ができて、タンガニーカ湖からタンガニーカ湖イワシ(Limnothrissa miodon)が移入さ
れ漁業が始まった。このイワシ漁の急速な拡大は、湖岸住民の蛋白源を提供しただけでなく、漁業従
事者とそれを支えるサービス(例えば漁船の製造)などの雇用機会を創出し、漁業が産業として定着
した。漁獲高だけで推定年間 2,500 万 US ドル(ZIMCONSULT, Kalube and Mukupe, 2000)、また付随
するサービスについても 5,000 万 US ドルを超える資本投資があり、年間数千万ドルの売上高に達して
いたと思われる。
しかし、このイワシ漁も 1990 年頃にはピークを迎え、その後衰退していった。Magadza は、この衰退
の原因は地球温暖化にあると考えている。湖の表水層の深さは約 7m減尐し、湖の水温は場所によっ
て 0.9~1.6℃上昇した。夏場には、表水層の平均温度は、湖にアオコの増殖が盛んになる温度といわ
れている 28.9℃を超えるまでになった。タンガニーカ湖の場合と同様に、藻類種の組成によって食物
211
連鎖が変わり、イワシ漁にとっては好ましくない方向に変わっていったと考えられる(O’Reilly 2003、
Verburg 2003)。
戦略と行動、その成果
制度・組織
カリバ湖の持つ越境的な性格について、これまでは直近の湖辺国であるザンビアとジンバブエの間の
問題としてしか取り組まれてこなかった。当初、中央アフリカ電力公社の使命は以下のようなもので
あった。

湖の湖面管理と治水の観点から流域の水文学的な監視を行なう。

ダム壁の安全に関する監視と可能な修復策の提言

大電力を生産し、近隣のエネルギー局に販売する
上記の機能の中には、環境を管理するということが含まれていないが、それは 1960 年代には、この流
域において環境問題は話題に上るものではなかったからである。電力生産の責任がなくなって、ザン
ベジ川管理局は、汚染や土砂堆積などの環境管理の責任を担うようになったが、その使命は、ザンビ
アとジンバブエの共有境界部を構成するザンベジ川の一部についてだけであった。
单アフリカ開発機構(SADC)
しかし、協約国の境界部以外の部分については、カリバ湖流域の管轄は未だに明確になっていない。
流域全体を統一的に管理するしくみはない。实際に政策や管理施策を提言したといえる唯一の国際的
な組織は「共有水路に関する協定(Shared Watercourse Protocol)」に基づいてできた「单アフリカ開発
機構(SADC)」であろう。同協定の第 3 条は、参加国に対して河川流域管理機構を作るように命じて
いる。实際にそのような機構が作られ、一定の法整備がなされたけれども、流域住民の日々の行動に
活かされていない。したがって上述の問題はもう尐し続きそうである。
このように、高官レベルの政策や指示が流域の資源利用者に伝わらない主要な理由は、国家機関と流
域住民をつなぐ制度的な接点が無いからである。この点に関し、WLV の原則 6 は「重要な湖沼問題の
把握と解決のためには、住民や、その他の利害関係者の有効な形で参加しなければならない」と述べ
ている。先進国の湖沼流域管理の基礎となっているこの考えは、カリバ湖流域では全く出来上がって
いない。情報伝達の不足、流域の管理に対する一般住民の低い意識、さらに役人が中心になって行な
われる意思決定のしくみの中で、住民を参画させることの利益に国が気付いていないため、個人や住
民グループは、湖や流域の管理に自分たちが貢献できるということに気付いていない。さらに、国が
業界の長の任命に関与、あるいは影響力を行使するなど、業界との利害関係が強すぎることも法律遵
守を困難にしている。
ザンベジ川行動計画(ZACPLAN)
カリバ湖で流域全体の管理の枞組みが失敗しているもう一つの理由は、流域全体に及ぶ統一的な政策
がないことである。それぞれの流域国家、および国内の各機関がほとんどバラバラである。WLV の原
則 3 は「個々の流域における湖と貯水池の悪化の根本的な原因を防ぎ、さらに国、国際的、および地
球規模で起きている問題の影響を考慮に入れた長期的、予防的な取り組みが、持続的な利用のために
は必須である」と述べており、ザンベジ川行動計画はこのような考え方を取り入れている。このザン
ベジ川流域(すなわちカリバ湖流域)開発のための枞組みは、单アフリカ開発機構の要請に基づいて、
212
流域の長期的な開発のための手引きとして UNEP によって策定されたもので、流域の調和の取れた開
発を進めるための一連の可能な事業を網羅している。その事務局はレソトにあり、「支流域の開発計
画を共同で管理する」という单アフリカ開発機構の精神に則って水分野に対する責務を負っている。
しかしながら、河岸の国々は、事業を实施するためにドナーからの資金供与を当てにしているために、
多くの提言はまだ实施されていない。
この枞組みについて Shela(2000)は以下のように述べている。『流域全体にわたる政策や、法的・制
度的なしくみを持っていないことが、共有財産たるザンベジ川を管理していくのに、大きな制約にな
っていることは明白である。1987 年にザンベジ川行動計画が始まり、その後いくつかのプロジェクト
が实施されたが、同計画に示された工程を、初期の計画に沿って進めるための流域に共通する政策、
協定、制度は何も確立されなかった。』さらに彼は次のことにも言及している。『各々の河岸国家が、
自国内のザンベジ川の水資源のみを監視、評価、開発、保護している。水資源開発とその水利用も、
河岸国家間で協議・協力することなく、自国内のみで行われている。これまで、河岸国家は、いくつか
の個別事例を除いて、水資源開発を共同して進めたことはない。』
一方、ザンベジ川行動計画プロジェクト 2(ZACPRO2)は次のように、流域全体にわたる取り組みを
求めている。『いろいろな要求の中でも、共有するザンベジ流系を、環境上適正に管理するための協
定、およびザンベジ川行動計画をさらに展開・实践していくための付随的な手順を策定し、採択するこ
とが最優先事項である。』
水路の共有に関する单アフリカ開発機構の協定は、河川流域管理に関する指導的な文書である。Yoffe
et al.(2002)は、彼らの定義によれば、ザンベジ川流域は危険流域の第 3 分類に入ると述べている。
すなわち、ザンベジ川流域は、流域の水資源管理において紛争の可能性があるにも拘わらず、この潜
在的な脅威が公的な政策や流域横断的な協定に反映されていない。彼らは「单アフリカ開発機構の協
定は地域的な枞組みではあるが、関係国の流域固有の政策、計画、制度に反映されていない」と見て
いる。カリバ湖の流域は、5 つの国家(アンゴラ、ボツワナ、ナミビア、ザンビア、ジンバブエ)で共
有されているが、ザンベジ川統治憲章には、ザンビアとジンバブエしか入っておらず、ザンベジ川に
ついては、両国の共通部分であると言及しているに過ぎない。
ザンベジ川流域、すなわちカリバ湖流域における地球温暖化の問題は手付かずのままである。この地
域における水不足は明らかで、ボツワナ、ジンバブエ、单アフリカへの水供給を増大するためのいろ
いろな取水計画が検討されているが、そのようなカリバ湖における取水事業が将来に及ぼす影響や、
必要な環境流量や今後の漁業に対する地球温暖化の影響などが検討されなければならない。ザンベジ
川での発電所の拡張は、過去の水文学的なデータをベースに進行しているのである。
213
表 3 カリバ湖の問題、取られた戦略とその結果の要約
課題
戦略
結果
国境を越えた制度的
問題
ザンベジ川統治機構の設立
土地の务化
個々の国家の取り組みに依存。流域全体の方針は
ない。
個々の国家の取り組みに依存。ザンベジ川行動計
画への資金提供はない。
個々の国家による病原体媒介病の防止努力。殺虫
剤の使用に関する流域全体としての方針はない。
河岸国家はカリバ湖岸線開発共同計画を作成し
た。
除草剤、生物学的コントロール
統治機構は、ダムの保守、河川流量の監
視、治水対策、発電所への水の分配など 2
国間に共通する業務を行なうが、環境管
理に関する指示は尐ない。また機構とし
て流域の住民との調整能力の欠如。
問題は継続。
汚染
殺虫剤成分の生体へ
の蓄積
水中媒介による湖岸
居住者の病気
水草(ホテイアオ
イ)
流域レベルの湖沼管
理
地球温暖化
单アフリカ開発機構のとり決めに基づく国ごとの
流域委員会を設立。
流域レベルの対策なし。
流域の汚染は悪化。
殺虫剤の湖への流入は継続。
計画は未实行。
協調した取り組みにならず、水草は流域
全体に拡大。
個々の委員会の活動はばらばらで、総体
として流域レベルの湖沼管理環境に至っ
ていない。
将来的に紛争が予想される。
得られた教訓
貧困と環境保全意識の低さは、発展途上国において WLV を適用していく上で大きな検討課題である。
WLV は、湖沼流域管理の問題点を明らかにし、住民に理解できる言葉でそれらを提示することが出来
るものでなければならない。
カリバ湖の事例は、上層部の政策や取り組みが、必ずしも一般住民参加の流域管理の取り組みに翻訳
されないことを示している。上層部の政策視点が流域住民と断絶し、ほとんど草の根レベルで効果を
もたらさない「官僚的な姿勢」だけに終わってしまうという危険性が現实にあるのである。
以上のことから、ザンベジ川行動計画に立ち返り、WLV の原則を利用して取り組みを再構築すること
は大きなメリットがあると思われる。これに関連して重要なことは、WLV の原則に沿って自分たちの
生活行為を変えることによって、流域住民にとってどんな成果が得られるのかを明確にすることであ
る。そのような生活態度の転換には教育が必要であり、WLV をどう利用するのかについての指針とな
る教科書があれば有用であろう。
今後の取り組み
ザンベジ川統治機構、あるいはその派生機関は、カリバ湖流域だけでなく、ザンベジ川流域全体のた
めの真の流域管理機構にならなければならない。そのような機構は、单アフリカ開発機構が想定した
流域委員会のように、住民組織と直接協力できることが必要である(WLV の原則 3)。
達成度について評価可能な指標を組み入れた、流域全体にわたる統一的な土地利用政策が必要である。
この地域全体においては、貧困を解消し、天然資源への依存度を減らし、さらに、農業を自給自足的
なものからより生産性の高いものに変換していく必要がある。例えば牧草管理を改善することによっ
て、充分な牧草地管理を行えば土壌浸食を低減出来る。
214
WLV は、まだ支流域では広く知られていない。WLV 委員会は、WLV の示す対策や計画の实践につい
て、ザンベジ川統治機構と対話を始めることが望ましい。そのような話し合いは、同機構や関連する
国家機関の代表、单アフリカ開発機構 ELMS 職員との円卓会議へと発展していく必要がある。その円
卓会議では次のようなことが討議されるだろう。

流域管理機構としてのザンベジ川統治機構の今後のあり方

カリバ湖とその周辺において WLV の原則を如何に实践していくかについての個別の討議
結論として、カリバ湖とその流域は、集水域の特性と人々の多様性に起因する多くの湖沼管理上の課
題に直面している。この論文では、「流域全体にわたる管理の枞組みが必要である」との認識がある
一方で、「流域管理のための統一的な原則がない」ことを示した。WLV は、カリバ湖を利用する人た
ちに根ざした集水域管理のための取り決めとその手順を策定するための適切な指針を提供するもので
ある。
参考文献
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216
Base.
Oregon
State
Untiversity.
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コンスタンツ湖における持続的な農業
(オーストリア、スイス、ドイツ)
Marion Hammerl, Patrick Trötschler
Institution: Lake Constance Foundation, Fritz-Reichle-Ring 4, D-78315 Radolfzell (Germany). Tel: +49 7732
9995-40; Fax: +49 7732 9995-49
marion.hammerl@bodensee-stiftungorg; patrick.troetschler@bodensee-stiftungorg
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要旨
この事例報告は主に WLV の原則 5 に関するものである。コンスタンツ湖は、アルプスの北、海抜 395
mにある、表面積 571.5km2、水深 254m、水量 48.5 km3 の湖である。自然の生態系で、中央ヨーロッ
パを代表する動植物の重要な生息地の 1 つである。
コンスタンツ湖の周辺では、4,330km2 が農地として利用され、ドイツ最大のりんご栽培地域となって
いる。農業の集中化、特に、専業農家へ農地の集中化によって作付面積がかなり拡大したが、それで
も国際的な比較でみれば、まだ小・中規模の農場が多い。コンスタンツ湖は飲料水貯蔵庫として重要
な役割を持っており、集水域のすべての経済的な利用もこの目的との調和の中で行なわれなければな
らない。320 の町と約 400 万人の地域住民に対する飲料水の供給は、この地域の社会・経済にとって重
要な要素である。
数十年間強化農業が続いたあと、この数年間は農地拡大の傾向が抑えられているように見える。全国
的な農地拡大の減尐と環境農業に向けた運動が实って、農家は自然にやさしい農業に取り組むように
なり、また、その成果に対応した優遇措置が取られるようになった。化学肥料や殺虫剤の利用をでき
るだけ抑えた大規模耕作地域が次第に増加し、現在では 16%にまでなった。2003 年、Vorarlberg では
75%近くの土地で大規模耕作が行われた(隣接の地域や州では 10~15%程度である)。また農地の約
8%で有機農法が行なわれている。有機栽培される環境にやさしい食料の市場取引は、ビジネス環境の
整備や販路の確立が地域で進めば、さらに増えていくだろう。このためには、農業、販売、流通、交
易だけでなく、観光も含めた新たな連携や協力が必要になるだろう。
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はじめに
コンスタンツ湖は、アルプスの北、海抜 395mにある、表面積 571.5km2、水深 254m、容量 48.5 km3 の
湖である。自然の生態系で、中央ヨーロッパを代表する動植物の重要な生息地の 1 つであり、
Wollmatinger Ried や Vorarlberg 地方のラインデルタなどは国際的にも有名である。
コンスタンツ湖は、ドイツ、オーストリア、スイスにまたがる湖である。またリヒテンシュタイン王
国は、湖の流域内にある。国際的な居住地であるだけでなく、工業も盛んなこの地域には、300 万人以
上の人が生活しており、人口密度は 1km2 あたり 500 人以上である。コンスタンツ湖は、アルプスの形
成前にできたヨーロッパの湖のなかで、面積・水量の点でジュネーブ湖に次いで 2 番目に大きな湖で
ある。湖の集水域は、北アルプスのふもとの Molasse 地域にあり、湖は 1 万 5 千年以上も前の第 4 氷河
期に水と氷の活動によって作られたものである。コンスタンツ湖の集水域は、約 115,500 km2 で、3 つ
のヨーロッパ諸国に広がっている(ドイツ:28%、リヒテンシュタイン・スイス:48%、オーストリ
ア:24%)。コンスタンツ湖は、慣習的に、下コンスタンツ湖および上コンスタンツ湖に分けられる。
90%以上の水が、アルプスに源を発しており、上コンスタンツ湖の東側にある 3 つの川、Alpenrhein,
Bregenzerach、Dornbirnerach、から流入する。
217
コンスタンツ湖は、自然の生態系で、中央ヨーロッパを代表する最も重要な動植物の生息地の 1 つで
ある。約 25 万羽の水鳥が休息や越冬の場として飛来する場であるとともに、ドイツ、スイス、オース
トリアに棲む水鳥にとって、最も重要な内陸の水辺となっている。特に秋や冬に多くの水鳥が観察さ
れるので、ヨーロッパの中でも重要な場所になっている。例えば、鳥の個体数調査報告(1 日の最大数)
には、カンムリカイツブリ(Podiceps cristatus、12,700)、オカヨシガモ(Anas strepera、12,600)、赤
冠 ホ シ ハ ジ ロ ( Netta rufina 、 20,400 ) 、 ホ シ ハ ジ ロ ( Aythya ferina 、 80,000 ) 、 キ ン ク ロ ハ ジ ロ
(Aythya fuligula、116,000)、オオバン(Fulica atra、77,600)などが掲載されている。
中央ヨーロッパにおいても 350 種以上の鳥がいるのは、地理的に好ましい条件を有する場のみである
が、中でも、アルプスの北壁にあるこの湖は、多くの渡り鳥の生息に適している。カベバシリ
(Tichodroma muraria)や岩山ツバメ(Ptyonoprogne rupestris)のようなアルプス鳥に特有な鳥はコンス
タンツ地方で子供を育てる。イヌワシ(Aquila chrysaetos)、アルプスイワヒバリ(Prunella collaris)や
クビワツグミ(Turdus torquatus)などは、時折、訪問実として訪れる。アルプスのふもとにある湖と
違って、コンスタンツ湖の湖面は人間が管理しているわけではない。岸辺の植物は、冬場(低水面)
と夏場(高水面)で起こる約 2mの自然の変化によく適応している。砂利の多い土壌には、コンスタ
ンツ湖に固有のワスレナグサが、オニコメススキ(Deschampsia littoralis)、アッシュ(Littorella
uniflora)、イトキンポウゲ(Ranunculus reptans)などと一緒に生育している。
湖の直面する課題と問題
この国際的な地域が直面する土地開発上の最大の挑戦は、これ以上住人を増やさないことと、すべて
の利用可能な土地にこれ以上建設を進めないようにすることである。今後の居住計画は、今まで以上
に土地と土壌の利用に責任を持ったものでなければならない。湖岸地域は、1km2 に 500 人以上が住む
最も過密地域である。湖岸地域の舗装された居住地域面積は、区画化地域のうちのほぼ 14%を占める
「2 流の家並み」地域に比べて 2 倍以上である。コンスタンツ湖地域は、交通の面でもドイツの田園地
域の中で最も道路や交通量の多い地位の 1 つである。住宅や交通インフラに加えて、レクリエーショ
ン施設、砂や砂利の防御壁や掘削場などがある。今では、コンスタンツの Baden-Württemberg 地域にあ
る波止場の 42%は岸壁や堤防で囲まれている。
以前、自然耕作が行われていたコンスタンツ湖の地域では、今でも農業が盛んであり、集水域の 47%
で、特徴的な土地利用と景観管理が行われている。特有の自然条件(天候、地形、土壌など)は、地
域ごとに独特の景観をもつ、多様で異なる土地利用を生み出した。コンスタンツ湖の周囲およそ
4,330km2 で農業が行なわれており、その大部分 76%(3,300km2 )は緑地や牧草地である。16.4%
(710km2)で穀物が栽培されており、6.9%(300km2)で特産物(果樹園、ホップ、野菜、葡萄の順で
重要)の生産が行われている。丘陵地に面した湖の東および单側では、牧草地が大幅に増えている。
また西側では、農地が増えている。ライン川とコンスタンツ湖の境界にある平地では、集約栽培(農
場・園芸)が大半である。湖岸近くでは、東側を除いて特産物(果物、葡萄、ホップ)の生産が主流
である。コンスタンツ湖は、ドイツで最大のリンゴの生産地であり、この 10 年間で生産は 10%増加し
た(他の樹木性果物は 7%減尐)。およそ 1,600 の農家が、74km2 の果樹園でりんごを中心に果樹栽培
を営んでいる。毎年 22 万トンのりんごが生産・出荷されており、この地方だけでドイツのりんごの
20%を生産していることになる。90%の農地で一貫生産が行なわれ、そのうちの 5%の農地で有機農
法が行われている。
218
専業農家への農地の集中化によって農地の規模は増大したが、コンスタンツ湖周辺の農業は、国際的
にみれば、まだ中小規模の農業が主流である。この 20 年間で全農地面積は 5%減尐したに過ぎない。
この地方で農業に従事する人の数は徐々に減尐しており、1979 年から 1999 年で、農業収入のみに依存
する人の数は半減し、農業を第 2 の収入源とする人は 20%減尐した。現在、この地方にはまだ 24,000
の農場がある。農家間の競争によって農場面積の肥大化が進み、1979 年には 66%あった 20ha 以下の
農地は、1999 年には 38%にまで減尐した。現在平均的な農地面積は 17.8ha でる。
農業における(生産)コスト増大や構造変化によって、経済的な価値の低い土地(草地や点在する果
樹園など)を見捨てる人が増えた。これらの土地のなかには、非常に興味ある自然を有している場合
がある。絶滅の危機に瀕した多くの草原種が生育する保全生息地についてはさらに保護地域を拡大す
べきである。現在、これらの地域や牧草地を拡大し、予防的に地域管理しようという試みはなされて
いない。このままでは、動・植物はもちろん、この地に特有の価値ある景観の大部分を失うことにな
る。文化的価値を有する景観を野放しにしておくことは観光業にとっても好ましくない。
コンスタンツ湖地域に点在する特有の果樹園も、重大な脅威に晒されている。ここでも構造変化が明
らかである。樹木の大半は古く、新しく植林した木々の世話も行き届いていない。儲けにならないの
で、若者は、これらの果樹園の世話をしたり、さらに発展させようという気にならない。
湖の集水域におけるすべての経済活動は、飲料水貯蔵池であるコンスタンツ湖の重要な役割と調和し
たものでなければならない。320 の町と約 400 万人の地域住民に対する飲料水の供給は、この地域の社
会・経済にとって重要な要素であり、飲料水の質を確保することは、この地域の中心的な課題である
(湖の全リン濃度は、1950 年代の 10mg/ℓ未満から 1979 年には 87mg/ℓに増大)。60 億スイスフランを
超える国際的な協力と投資によって、下水路や 220 の処理場が建設され、全リン濃度は、2002 年には
12 mg/ℓにまで低下した。
戦略、対策とその結果
数十年来強化農業が続いたあと、この数年間は農地拡大の傾向が抑えられているように見える。全国
的な農地拡大の減尐と環境農業に向けた運動が实って、農家は自然にやさしい農業に取り組むように
なり、また、その成果に対応した優遇措置が取られるようになった。化学肥料や殺虫剤の利用をでき
るだけ抑えた大規模耕作地域が次第に増加し、現在では 16%にまでなった。2003 年、Vorarlberg では
75%近くの土地で大規模耕作が行われた(隣接の地域や州では 10~15%程度である)。また農地とし
て利用されている土地の約 8%で有機農法が行なわれている。
地域・州当局が責任者となって、コンスタンツ地域統合的開発計画の主要な取り組みである田園地区
開発計画(ELR)およびコンスタンツ湖地域環境保全計画(UBR)が实施された。持続的農業の推進
を主目的とするコンスタンツ湖地域プロジェクトでは、次のような活動が重点的に行われた。




近距離輸送網の構築と環境にやさしい農法で生産された食料品の地域市場の促進(土着農業地域、
農産物、消費者行動の連携をめざす)
この地域に特有で貴重な自然価値を有する果樹園の保存など、地域に即した自然農法の推進
野生の動植物の生息地保存とそれらの連携・拡大によるバイオトープ間の連携と規模拡大
田園生活者の生活確保と、耕作・レクリエーション地域の保全のために、観光実の関心を呼び起
こし、田園農業や耕作・レクリエーション地域に彼らを呼び込む(美食法、健康リゾート、ホテ
ル、食堂などの分野で新たな連携の機会を見出す)。
219
この地域の有機農法(環境にやさしい食料生産)は、ビジネス環境の整備や販路の確立によってさら
に普及していくだろう。この目的のためには、農業、商業、流通、交易分野だけでなく、観光をも含
めた新たな連携や協力が必要となるだろう。「地域の名産料理」プロジェクトの背景には、地域のイ
ンフラを整備し、軽食堂や美食教审に自然農法で生産される食料を供給するというねらいがあった。
このプロジェクトは、自然にやさしい食料の市場を拡大しながら、地域の経済サイクルを確立し,強
固にすることを目指したものである。
一方で、60 の生産者、加工業者、小売商、美食家、食堂シェフなどが「湖の恵み(Gutes vom See)」
という組合を組織し、それを共通のロゴとした。この共通のロゴは、コンスタンツ湖地方で収穫され
た「自然農法作物」であることを保障するものである。この組合は、地域間の緊密な協力を基礎に、
コンスタンツ湖地方の持続的な発展を目指して頑張っている。このような協力と互助はドイツでは今
日まで他に類を見ない。経済分野におけるこのような強力な共同体の重要性は、メンバーの会社が多
くの实地訓練の場や仕事を提供していることからも推し量ることができる(約 1,700 の仕事や 120 以上
の实地訓練がある)。
2006 年には、「保全農業の成果」を競うコンペが、初めてコンスタンツ地区で開催された。多くの場
合、その成果は一般にはあまり知られていないが、農業分野での取り組みは、自然保護に大きな貢献
をする。40 人の農家が、競技会に参加し、アンケートに答えてくれた。広い分野に精通した審査員が、
それぞれの農家を訪問し、8 人の受賞者が公開の場で賞を授与された。現在では、競技会の結果や農
業・自然保護に従事する活動家間の共同研究の成果が、農家が求める情報や相談に応えるために活用
されている。また農業分野の保全活動に関する適切な教科書を作るためにも利用されている。さらに
関連するメディアと契約し、その成果は公表され、参加者の名前も発表される。
活動の成果
「有機農法は、最も適切な自然保全の方法であり、州当局はこれに対して特別に支援を行なうべきで
ある」という声が、コンスタンツ湖沿岸住民から聞かれるようになった(州の資金による宠伝活動や、
事務所・大学など公営の食堂における地域栽培食物の利用なども効果をあげた)。
農家に補助金が支払われる場合、自然保護に対する最低限度の基準が満たされていなければならない。
その基準とは、1ha あたりの大型家畜の最大保有数は 1.5 頭以下で、かつ、その補償として全面積のう
ちの 10%を生垣や天然の境界などの形で、家畜の糞尿処理の場とすることである。また農作物の生産
や販売には、自然保護と社会的な観点から国際的に通用する高度な基準を導入することが必要である。
この地域の有機農法食品の販売機会を、ビジネス環境の整備や販路の確立によって増大すべきである。
そのためには、農業、商業、流通、交易の分野だけでなく、観光をも含めた新たな連携や協力が必要
となる。情報センターは、消費者(休日旅行者を含む)に対して、自然にやさしい農業・健康食品・
文化的景観保全と自然保護の関連についてもっと情報提供を行う必要がある。
他の湖地域にとって重要な教訓
コンスタンツ湖地域では、他の地域と同様に、成果に連動した農業補助金は社会的に容認されている。
補助金は、農業をつうじて自然保護を達成する努力に報いるものとして正当化されるためである。多
国間環境協定(Multilateral Environmental Agreement)の 1 つである Baden-Wurttemberg 農業環境計画は、
220
自発的な参加に基づく政治的な成功例の 1 つであるが、自然保護を達成したものには、経済的な見返
りを提供するしくみになっている。できるだけ多くの参加者に、このプログラムに参加してもらうた
めには、容易に实施できるような簡卖な対策でも褒め称えることが重要である。試験的な取り組みで
よい結果がでれば、それを広めることはさらに有効である。
新規な小規模实験を实施することは、新しい取り組みや考えをテストし、それらをさらに展開してい
くために重要である。終了してしまうと、その取り組みを隅々まで伝えることは困難になるため、实
施期間中に、有効な PR 活動によってプロジェクトに対する関心を高めることも重要である。このよう
な活動や意思決定プロセスに女性を組みこむことは、非常に重要であることがわかった。特に、田園
地区においては、女性の活力や能力は、充分に開発されており、地域固有の重要な力の 1 つである。
コンスタンツ湖におけるプロジェクトの成功要因
 (競技会)受賞者の連携を实現
 目的志向の適切なプロジェクトの構成
 豊富な人材と能力活用
 環境管理の積極的な推進
 妥協を見出す柔軟性・学習適性・意欲・能力




プロセス能力
有力な支援者の獲得
献身的に取り組む人々
持続的なプロジェクト
今後の展開
コンスタンツ湖は 400 万人のための飲料水の貯水池である。農業や林業における有害な化学肥料や殺
虫剤の使用は最小限に抑えなければならない。

地域の事情に合った、自然にやさしい土地管理を継続的に推進すべきである。推進計画の作成に
あたっては、地域や地方の要求をもっと考慮する必要がある。

コンスタンツ湖地方のすべての農家に対して、環境保全に関する適切な助言の提供が確实に行な
われるべきである。そのために、農地拡大と自然保護を進めるためのモデル農場を地域全域に設
置すべきである。

コンスタンツ地方全体の家畜所有を、目標値の 1ha あたり平均 1.4 頭まで削減する。

地域に点在する果樹園や貴重な自然保護地域を代表的な景観として保全するための努力をさらに
進めるべきである。特に果樹園の生産物の市場開発を行うとともに、十分な手入れや保全の努力
を継続することが必要である。
コンスタンツ湖地方で自然環境の中で家畜を飼育する場合、一定の制約のもとで行なう必要がある。

自然環境での家畜飼育を推進するためにもっと情報提供や助言に力を入れるべきである。またそ
のための活動資金は、特別支援プログラムから賄われるべきである。

自然環境で家畜を飼育するための対策实施に必要な資金は、特別支援資金全体の中から拠出され
るべきである。
これまでの農地拡大・景観管理計画は、地域・地方レベルの視点に基づいた構想になっていない。そ
のなかで Baden-Württemberg 支援計画「PLENUM」は、地域の要求に基づいた画期的な取り組みであ
る。

コンスタンツ湖流域における統合的で持続的な開発を支援するための手段は、地域の条件に即し
たものでなければならない。
221
進行中の農業構造変化は、コンスタンツ湖地方の持続的な農業を脅かすものである。地域に即し、貴
重な自然の管理にふさわしい農業を实現するためには以下のような施策が必要である。

農地に関する地域管理計画

農地管理計画の实施を資金面で保証するための地域景観保全資金構想とその新設
商品作物や保全地域における遺伝子組み換え個体の使用を効率的・永続的に防止するためには、以下
の方策が有効である。

コンスタンツ湖全域において遺伝子操作された種や原料の使用を禁じ、この地域を遺伝子操作技
術使用禁止地域にすべきである。

遺伝子操作されていない食品の市場を開拓するための調査を開始し、同食物の生産・加工・市場
開拓を進める具体的なプロジェクトや施策を实施すべきである。
近いうちに、有機農法は農業分野で急速な成長をとげるだろう。コンスタンツ地方では有機農法が、
農業や園芸分野で最も持続的な栽培方法として標準化されるべきである。

コンスタンツ地方のすべてのバイオ関係者の連携と協力を促進するために、コンスタンツ湖バイ
オ地帯を設置する。

2010 年までにコンスタンツ地域での有機農法を 20%まで拡大する。

地域の有機栽培食品の市場開発と市場形成のための運動を展開する。
また広域・統合的農業は、土地の持続的な利用につながる。コンスタンツ湖地方の自然にやさしい食
物の販売も多いに促進すべきであり、コンスタンツ湖周辺の関係者と地域販売担当者との連携と協力
を推進すべきである。

地域産の自然にやさしい食品を奨励・推進するために、通常の対策だけでなく刺激策も展開すべ
きである。消費者の行動と地球温暖化防止との関連も考慮にいれるべきである。
農業構造が変化したので、将来農家が食糧生産だけで生活するための収入を得るのは難しくなるだろ
う。したがって、農家が、エネルギー生産、エネルギー利用、観光など、新たな事業を行なったり、
代替収入を得ることが出来るような条件整備が必要である。

農業以外の代替収入を獲得する取り組みを支援するプログラムを導入する。

エネルギーの生産・利用、観光の分野でモデル事業を实施する。
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表 コンスタンツ湖(北緯 47 度 39 分 東経 9 度 18 分)およびその集水域の地形・地理データ
高度(海抜)
表面積(km²)
水量(106 m³)
最深(m)
平均水深 (m)
平均水面変動幅 (m)
湖岸の長さ (km)
平均流出水量(109m3/年)
滞留時間(年)
集水域面積(km²)
上湖
395.33
500
47.678
253.3
101
1.50
186
11.1
4.3
10919
下湖
395.11
71.5
0.808
46
13
1.48
87
11.7
(0.07)
568
全体
571.5
48.486
85
273
11.7
11487
図 コンスタンツ湖(オーストリア、ドイツ、リヒテンシュタイン、スイス)地域の耕作地
国ごとに例示された数字はテキストでこの順序で引用される(数字は黒で表示)。.
223
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
バラトン湖と世界湖沼ビジョン
Gábor Molnár1, Károly Kutics2,
1
managing director, 2senior advisor, Lake Balaton Development Coordination Agency,
8600 Siófok, Batthyány u. 1., Hungary
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
要旨
バラトン湖は中央ヨーロッパにおける最も大きく、浅い湖である。この湖は、不適切な湖の管理や開
発によって、富栄養化や自然生息地の環境务化などの歴史を経験したが、湖とその流域には、まだ大
きな自然と経済的な価値がある。特定の季節に集中的に行なわれるエコツーリズムは、地域で最も重
要な収入源であるが、一方で自然や生活基盤、社会に対して大きなストレスを及ぼす。地方、中央の
政策決定者は、湖の富栄養化を止め、湖とその周辺への負荷を減らすためには適正な長期計画が必要
であることを認識した。バラトン湖国立公園の創設、旧湿地の復元、バラトン湖水管理開発計画やバ
ラトン湖レクレーション地域開発計画の策定、通称「バラトン湖条例」の制定などは、湖の水質と環
境保全のための基本的な枞組みとなるものである。2004 年には、ハンガリーが EU に統合された結果、
EU の水関連対応枞組み指針を採用することになった、同指針は、加盟国に対して、2009 年までに流
域全体の水管理計画を作成し、2015 年までに良質な表層水と地下水を確保するよう義務付けている。
バラトン湖集水域は、流域計画を作成する過程で支流域の一つに指定された。近年实施されたいくつ
かの国際的なプロジェクト(JICA、EU-LIFE、OECD、GEF)には相乗効果があり、モニタリングや意
志決定支援システム、市民への情報提供などが大きく改善された。バラトン湖開発会協議会は、いろ
んな利害関係者がいる中で、地域の意思決定と調停を行なう組織として重要な役割を有している。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
はじめに
バラトン湖集水域は、西ハンガリーのドナウ川横断地域に位置し、湖を含めて 5775 km2 の面積を有す
る。バラトン湖は、中央ヨーロッパで最も大きい湖で、表面積 593 km2、長さ 78km、幅 7.6 ㎞、平均
水深 3.3mの世界で最も浅くて大きな湖の 1 つである。
バラトン湖は、ハンガリーの第 2 行政卖位である 3 つの州に、またその集水域は 4 つの州に広がって
いる。地域の資源配分はさらに複雑である。バラトン湖地域は 3 つの異なる EU 統計地域に属してい
るが、その統治責任は、現在、3 つの環境・水管理理事会、3 つの環境・水・自然保護監視局(業務地
域は、どの州とも、またEU地域とも重ならない)、および 3 つの公衆衛生局が共有している。自然
保護については、最近の再編成によってバラトン高地国立公園卖独の責任になった。
詳細な気象データは 1921 年以来入手できるようになった。バラトン湖の平均気温は 10℃であり、最も
寒い 1 月は-1℃から-2℃、最も暖かい 7 月は 20℃から 21℃である。平均降雤量は年間 686mm であ
る。降雤量については、この 80 年にかけてわずかに減尐する傾向が観察される。
集水域にある 52 の表流水のうち、20 の表流水で定期的に水質観測が行なわれている。最大の表流水で
あるザラ川の平均流量は、毎秒約 8 トンで、湖に流入する水量の約 45%にあたる。バラトン湖の支流
のほとんどは、短く、嵐の時には激しい鉄砲水となる。鉄砲水が起きると、最大流量は平時の 100 倍
程に達することもある。
湖では、約 2000 種類の藻類、1200 種の無脊椎動物、および 51 種の魚類が確認されている。大型植物
の大部分は、葦と水中植物である。バラトン湖は、その生物多様性の重要性を認められ、毎年 10 月 1
日から 4 月 30 日までの期間、季節限定のラムサール地区に指定されている。一方、湖の最西端に隣接
224
するキス・バラトン(小バラトン)は、水汚染防止のために造られた人造湿地であり、年間を通して
ラ ム サ ー ル 地 区 の 指 定 を 受 け 、 保 護 さ れ て い る ( Ramsar Convention, 2003a 、 Ramsar Convention,
2003b)。
バラトン湖とキス・バラトン湖は、カナダガンやチシマウガラスのような鳥の営巣地として、また亜
種オオヒシクイやオジロワシのような渡り鳥が立ち寄る場として特に重要である。特別保護を受けて
いる鳥としては、ダイサギ(1922 年から保護指定)の他に、コサギ、ムラサキサギ、ナベコウ、クロ
ズルなどがある。
バラトン湖のリゾート地域は、湖の集水域のほぼ全域の 3780 km2 の面積にわたり、25 万人が常住して
いる。164 の自治体で構成されており、法的な境界線は、2000 年のバラトン湖議定書に記載されてい
る。同リゾート地域のうち、49.1%の土地が農業に使われ、28.1%が森林である。耕作地、ぶどう園、
果樹園は農地のおよそ 80%を占めている。
ハンガリーの人口統計の趨勢は、全体として好ましいものではないが、特にバラトン湖リゾート地域
においては問題である。常住人口は 25 万であるが、湖周辺の地域に集中している。また 7~8 月の夏
季には、最高 70 万人に達するほどであり、環境とインフラに相当量の負荷が掛かっている。この十年
間、常住人口は、年率 0.41%減尐している。その間に出入りした移住者は差し引きで年率 0.17%増加し
ているので、結果的に、正味の人口は年間で 0.24%減尐している。
バラトン湖リゾート地域の経済は、季節限定的な観光業に牽引されている。季節性は建設業界や農業
にも影響を与える。同地域の経済における観光業、工業、農業の相対的な重みは、ほぼ 12:4:1 であ
る。官庁統計によると、この地域における観光関連の収入は年間で約 15 億 US ドルである。しかし实
際の数字は 2、3 倍高いかもしれない。というのも、観光業者の多くは、この地域の登録業者ではなく、
税金を別の地域で払っているからである。
バラトン湖は、ローマ帝国の時代からすでに利用されており、初期の書物には Lacus Pelso という名で
書かれている。中世の頃、深さと面積に変動があったが、平均深度は次第に 10m になった。湖の唯一
の排水口は、湖の单東の岸近くにあるシオー運河である。最初の排水事業は 18 世紀に始まり、1863 年
にシオー運河堰が建設されてからは、湖の水位が、次第に正確に制御されるようになった。しかし、
1863 年から第二次世界大戦にかけて实施された「水位制御と排水プロジェクト」によって、湖の容量、
湿地、野生生物生息地が大量に失われた。戦後、湖の西端にあるキス・バラトンと呼ばれる湿地帯は、
かなり小さくなった。1951 年、野生生物生息地がこれ以上失われるのを防ぐために、同地域はすべて
保護地域となった。
バラトン湖の富栄養化の歴史は何十年にもわたる。富栄養化の最初の明確な徴候は 1972 年に観察され
ていたが対策は取られず、1982 年に藻の華が大量に発生して始めて政府は緊急対策を取った。实施さ
れた対策の代表的なものは、下水道整備、下水処理廃水の近隣湿地への分水、下水処理場でのリン除
去の導入、および水質汚染防止施設となるキス・バラトン(KB)湿地の再生などである。
キス・バラトン水汚染防止システムは、2 つの人工の湖 - 主に開水面からなる 18km2 の上方の湖
(Stage I)と植物が生い茂る 54km2 の下方の湖(Stage II)から成るように設計された。Stage I は 1985
年に動き始め、次の年にキス・バラトンの全域 87km2 が保護下に置かれた。そのうち 14km2 の区域は、
1979 年にラムサール条約サイトになり、後に指定地区は 147km2 まで広げられた。キス・バラトン地域
の Stage II の北部分 16km2 では、1992 年の末に氾濫が起こった。
225
バラトン湖の歴史で最も深刻なアオコは 1994 年に発生した。その後、水質は安定し、また、不安定で
はあるが、いくぶん改善した。この改善の原因としては、国営農業の崩壊により肥料の使用が一時的
に急激に減尐したこと、1990 年代初期に農業協同組合が設立されて、土地の民営化が進んだことなど
があげられる。肥料の使用量は、現在も 1980 年代初期の使用量の 20%未満である。
計画的な対策实施、予定外の肥料使用の低下、および良好な気象条件などが複合的に効いた結果、こ
の数年間、水質は、1995 年以前のように深刻な問題にはならなかった。しかし、OECD の分類によれ
ば、湖の西半分の藻類濃度は、まだ富栄養化と超富栄養化の境界線上にある。
新たな、より深刻な脅威となるかもしれない湖の水位の低下という問題が、降雤量の低下もあって、
2000 年に浮上した。同年、水の収支が 1921 年に記録を取り始めて以来はじめてマイナスになり、2001
年から 2003 年までマイナスが続いた。継続して水の収支がマイナスになったことは、気候変動の初期
的な警告信号が、この地域で表面化したものかもしれない。2001 年後半には事態が危機的状況に近づ
いたので、バラトン湖開発協議会は、水不足に対する長期的な解決策を検討する必要に迫られた。協
議会の議論は、事態の重大さを示すもので、政府に対して、バラトン湖流域外の川からの水の迂回を
も含むような、抜本的な選対策を検討するよう求めた。幸い 2004 年以降異常に雤が続いたことによっ
て、水収支は回復したが、降水量の増大は、異常気象が増える徴候であるかもしれない。
集水域の水使用は、主として、飲料水供給、産業用水、潅漑、養魚池に区分される。蒸発分(潅漑と
養魚池)を除けば、大部分の水は、地表の水系に戻り、結局、湖に到達するか、地下水資源を増やす
ことになる。唯一の例外は、近隣の集水域に迂回される下水処理場排水の一部であるが、これは 20~
25mm/年で取るに足らない量である。
集水域の年間平均降水量は 686mm で、湖面部よりいくぶん多い。平均排水係数は低く 0.06〜0.27、平
均すると約 0.15 である。
課題・問題
バラトン湖は、非常に浅い水域で、人間活動に起因する汚染と水文気象状態の変化に非常に敏感であ
る。数十年にわたる近視眼的な開発と過去の大規模観光事業は、多数の問題を引き起こした。おそら
く、最も重要な脅威は、富栄養化と湖畔の地域社会における過剰開発であろう。表 1 は、バラトン湖
地域の最も重要な問題をまとめたものである。
表 1 バラトン湖の歴史的な問題と浮上している問題
問題の種類
環境
社会経済
従来からの問題
脆弱な水質、富栄養化
景観の悪化
湖畔における過度の建設
農薬の大量使用
遅い水質
貧困な廃棄物管理
保全と開発をめぐる紛争
高齢化や人口分布問題
複雑な統治機構、政策調整能力の欠如
観光業に過度に依存した生計
ヤミ経済と脱税
226
新たに浮上してきた問題
水収支のマイナス
漁獲高の減尐
ヨシ帯の縮小
侵入生物種の出現
水質監視システムの欠陥
水輸送をめぐる紛争
旅行者数・観光収入の減尐
経年务化したぶどう園
寸断された土地所有権
バラトン湖の開発戦略
バラトン湖レクリエーション地域の最初の地域開発計画は 1963 年にさかのぼるが、政治的かつ財政的
な事情で、その目的が真剣に追求されなかった。その後、1979 年と 1985 年に作成された計画も实行さ
れず、水質の悪化と調和のとれない開発を許すことになった。持続性とバランスのとれた開発を考慮
した最初の長期的な開発計画は 2000 年に策定された。2002 年~2010 年を实施期間とするもので、政
府決議 No.2053/2002 によって承認された。その計画では以下の 5 つの優先事項が明確にされている。
1. 環境を改善し、持続可能な開発のための条件を確立する
2. 経済資源の活用と中小企業の条件改善
3. 社会基盤網の更新
4. 人材開発と地域独自性の強化
5. 地方制度の改革と地域間協力の推進
こ の 長期 計画 に基 づき 、 2002 年 ~2006 年 の戦略 的 な地 域開 発計 画が、 バ ラト ン湖 開発 調整局
(LBDCA)の調整のもとで作成され、利害関係者や地域の人々の間で広範に議論された。
資金の確保、国際協力の拡大、国際的な専門知識の活用を進めるべく「バラトン湖の持続可能な開発
計画」がスタートした。計画は、表 2 の JICA のプロジェクトの結果に基づいて作成された。
表 2 バラトン湖の持続可能な開発計画の要素
プロジェクトタイトル/重点
湖沼生態系への気候の影響:気候変動が湖沼
生態系に及ぼす影響
持続可能な観光事業開発:持続可能な観光事
業開発のための意思決定支援機構
田園地域開発戦略:制度的枞組みと地域開発
能力の強化
バラトン湖の水質改善:水質改善対策の实現
性
スポンサー
EU
LBDC の立場
利用者
实施期間
2003~2005
EU LIFE
共同スポンサー&利用者
2003~2006
OECD / PMO
共同スポンサー&利用者
2003~2004
JICA
利用者
1997~1999
2001~2003
管理・保全活動と結果
バラトン湖の水管理と水質管理施策は、1980 代の初期から流域全体の計画に基づいて作成されている。
憂慮すべき速度で進行する富栄養化は、この取り組みをさらに強化した。また WLV の多くの原則が、
その発行以前からすでに適用されている。新たに浮上した問題は、バラトン湖地域の中長期の開発計
画において、持続性や脆弱性に関する原則を採用することが重要であることを示している。
このセクションでは、WLV の原則ごとに、バラトン湖における関連する対策やプロジェクトを紹介す
る。
原則 1:人間と自然との調和した関係は、湖の持続可能性にとって不可欠である。
バラトン湖国立公園
バラトン湖高原国立公園は、1997 年、環境・地域開発省の条例に基づいて設立された。公園は、湖の
北部と西部の集水域約 800km2 に広がっている。2005 年、バラトン湖高原国立公園の範囲は单部集水
域まで拡大され、バラトン湖国立公園となった。バラトン湖国立公園は、EU が設立したヨーロッパの
環境ネットワーク「Natura2000 地域」の 1 地域になっている。
227
持続可能な観光事業プロジェクト
このプロジェクトは、EU-LIFE ENVIRONMENT の支援をうけたもので、NGO や専門機関の協力を得
て、バラトン湖開発調整局が 2003 年に開始したものである。プロジェクトの主要な目標は、持続可能
な観光事業をめざして、政策決定者から旅行者・地域住民に至る広範な利用者の要求に取り組むこと
にある。このプロジェクトは、地域で政策決定を行なうためのモデルとなるもので、地域管理が円滑
に進むよう、時空間情報が直ちに持続可能な開発の原則と統合されている。プロジェクトには、バラ
トン湖地域の現状をリアルタイムで監視できるシステム開発が含まれている。プロジェクトの目的は、
交通、水質、旅行者をオンラインで監視できるシステムを組み込んだ意思決定支援システムを開発し、
稼動させることにある。
GIS データベースは、水質・水位、気象条件、交通量、旅行者の行動を即時監視できるシステムに繋
がっている。製作決定支援システムは、社会経済的な情報と統合されていて、経済の季節性、ツーリ
ズムや経済活動の地域的な違いも考慮できる。意思決定者は、これらのツールを用いることによって、
より正確なデータや情報に基づいた決定をすることができ、地域内の持続可能なツーリズムの管理が
容易になる(プロジェクトの实施期間:2003 年 10 月~06 年 9 月)。
バラトン湖自転車周回道
湖周辺の環境負荷を減尐し、健康的なライフスタイルや環境との調和を促進するため、バラトン湖の
周囲に自転車道が作られた。この湖周道路は、2004 年に完成した 250km の長い自転車専用道で、多く
の名所や観光地をめぐって湖を周回することができる。
原則 2:湖の流域は、湖の持続的利用のための計画・管理の論理的出発点である。
バラトン湖水管理開発計画 2001~2010
1995 年に第 1 案が作成され、2000 年に改訂されたバラトン湖の水管理プログラムは、2001 年の政府方
針 2035 に基づいて实施されている。その取り組みは、下水道や下水処理場の設置目標(集水域内の湖
周辺の地域と町では 95%、1000 人以上の住民が住む村では 60%)、流域に放出される下水処理場の排
水に対する厳しい全リン排出基準(0.5mg/ℓ)、および 2010 年までにバラトン湖の 4 つの流域において
達成すべき、有効生物学的リン負荷量(BAP)やクロロフィル(Chl-a)の年間平均濃度に関する目標
値を設定するものである。
2004 年の時点で、バラトン湖レクリエーション地域全域の下水道接続率は 67.5%であるのに対し、バ
ラトン湖辺の 52 集落の接続率は 81.7%であった。
JICA プロジェクト
JICA は、複合プロジェクト「バラトン湖の環境状況の改善」を 1997 年に開始した。調査対象地域は、
湖の全集水域を含み、湖の汚染物質負荷と富栄養化を調査するために、新たなデータベースと精巧な
モデルが開発された。
水関連対応枞組み指針
欧州連合(EU)は、2000 年 10 月 23 日に「水関連対応枞組み指針」を発表した。EU によると同指針
の目的は以下の通りである。
228
(a) 水系生態系に直接的に依存している水や陸の生態系、湿地などの更なる悪化を防ぎ、それらの保
全・改善を図る。
(b) 利用可能な水資源を長期的に保全するために、持続可能な水の使用を促進する。
(c) 水環境の保全と改善努力の強化を図る。特に、指定された物資の放出、排出、喪失の漸減を進め
るとともに、さらに危険度の高い物質については、それらの全廃、あるいは段階的な放出、排出、
減尐を進めるための具体的な対策を实施する。
(d) 地下水汚染防止を確实に前進させ、更なる汚染を防ぐ。
(e) 洪水とかんばつによる被害の軽減に努める。
水関連対応枞組み指針は、加盟国に対し、2009 年までに集水域卖位の水管理計画とその实行プログラ
ムを策定するように義務付けている。ハンガリーは、2004 年に EU に加盟し、水関連対応枞組み指針
への対応を進めているところである。ハンガリーの国土は、すべてドナウ川流域にあり、4 つの支流域
に分割される。バラトン湖集水域は、水管理の指定地区の 1 つになっているが、それはこの湖の特別
な重要性を反映したものである。EU 加盟国は、2015 年までに、表層水と地下水を生態系的にも化学
的にも良好な状態にすることを要求されている。
原則 3:湖の環境悪化の原因を除くには、長期的で予防的な対応が必須である。
バラトン湖法
バラトン湖法(法律 112、2000 年)は、バラトン湖のレクレーション区域を明確にするとともに、土
地利用、開発、自然保護、環境保全、土壌保全、経済活動、およびインフラ開発について基本的な規
則を設定している。また湖から遠い集落よりも、湖岸集落に対してより厳しい規則を設定している。
同法案のなかで最も重要な対策は以下の通りである。

適切な下水処理施設のない建築物の禁止

市民が自由に湖岸まで行けるように自治体に義務化

地域内の森林面積の縮小を禁止

湖近辺での鉱山採掘活動の禁止

6 種類の保全地区と 5 種類の機能地区を地図で明確化
バラトン湖法は、持続可能な開発のための多くの項目を含んでいる。同法案の条項を順守することは
難しいが、その实現に向け、自治体と個々人が、今後年月をかけて努力することが望まれる。
水関連対応枞組み指針
水関連対応枞組み指針は、原則 2 の点からも、湖の务化防止、湖の生態学的及び化学的な水質の回復
に貢献するものである。
原則 4:湖沼管理政策の作成と決定は、公正な科学と入手可能な最良の情報に基づいて行わなければ
ならない。
バラトン湖の研究は 19 世紀末に始まった。バラトン湖沼研究所は 1927 年に設立され、現在、ハンガ
リー科学アカデミーに属している。バラトン湖に関する研究は、他の研究機関や大学でも行なわれて
いる。研究所の運営は、著名な研究者、関係各省の代表者など多くの利害関係者の代表者で構成され
る首相直属機関である「バラトン湖委員会」によって行われる。同委員会の役割は、研究所の成果が、
229
バラトン湖の管理に関する決定に遅滞無く反映されるようにすることにある。また同委員会は、バラ
トン湖中期研究計画の調整を行なう。
国際的なプロジェクト(例えば、流体力学、熱力学を使った水質のモデリング、JICA、2003 年)は、
意思決定における健全な科学の活用に貢献するものである。またバラトン湖開発調整局の社会学研究
グループは、地域の社会経済的な調査を行い、全国的な統計データベースと比較して地域の实態を明
らかにした。
原則 5:持続的利用のための湖の管理では、現役世代および将来世代の要求と自然の要求とを考慮し
つつ、競合する湖の資源の利用者間の紛争を解決することが必要である。
バラトン湖開発協議会は、ハンガリー地域開発法にもとづいて 1996 年に各地に設立されたもので、地
域ごとに主要な利害関係者(関係省庁、地方自治体、地域機関、経済界や NGO の代表者など)が参加
している。協議会は、持続性の原則に基づく地域開発計画の实施に責任を担っている。このような持
続性に基づく事業の成果は、バラトン湖開発協議会やさまざまな地方機関を通じて、政策決定の中に
取り込まれている。今後ともそれが期待される。
原則 6:重要な湖沼問題の把握と解決のためには、住民およびその他の利害関係者の有効な形での参
加を奨励すべきである。
開発プロジェクトは、バラトン湖開発協議会で討議されるが、それ以外に、同協議会とバラトン湖連
合会(バラトン湖周辺の地方政府連合会)が共催する現地フォーラムでも討議される。この会合には、
関係圧力団体(例えば、保養所のオーナーや、釣り、ヨット協会などの NGO など)のメンバーも参加
する。
市民や NGO は、バラトン湖開発協議会を通していろいろなプロジェクトや政策決定の草案作成に参画
するが、同協議会は、必要な情報を提供し、会合や教育プログラム(例えば、バラトン・パートナー
シッププログラム)などを開催する。
原則 7:持続可能な湖の利用のためには、公平性、透明性、すべての関係者への権限付与を基礎とし
た良好なガバナンス体制が不可欠である。
バラトン湖の管理と開発に関する問題は、方針が決定される前に 2 つの重要な機関(バラトン湖関係
省間委員会とバラトン湖開発協議会)で討議される。バラトン湖開発協議会における討議は公開であ
り、参加者のうちの数名は毎回招聘される。同協議会は、年間およそ 10 億フォリントの助成金を、申
請に基づいて運用する。助成金に関連する全ての決定は、事前審査を経た上で、公開で行われる。そ
の結果は、バラトン湖開発協議会およびバラトン湖開発調整局のホームページに公開される。同協議
会が支援するプロジェクトについては、不適切な、あるいは効果の無い資金配分を最小にするために
厳しい監査が行なわれる。
利害関係者には、協議会での投票権という形で権限付与が行なわれている。開発資金の地方への移管
が進めば、協議会自体の力もさらに増すだろう。このような変化は、EU 内で起こっている趨勢の 1 つ
である。
230
得られた教訓
湖沼保全対策の立案において湖沼を流域として捉えることは、理にかなっているだけでなく、保全の
目標を達成するために不可欠である。バラトン湖においては、流域で实施された栄養負荷減尐対策に
よって、リンの負荷が 50%減り、富栄養化の進行が止まった。バラトン湖の場合、湖と流域の管理責
任は複数の組織にある。そのような場合、バラトン湖開発協議会のような、意思決定と調停機能をも
つ地域機関を設置することが必須である。地域の調停機関を幅広く容認するためには、透明性のある
意思決定と情報の伝達が必要である。国内協力・国際協力を問わず、真の協力は、大きな相乗効果が
あり、新しい知識を生み、利害関係者や社会を活性化する。
今後の計画
バラトン・ビジョン(自然の恵みの地、バラトン)
「バラトン湖地域は、自然と質の高い生活において、中央ヨーロッパのモデルになりたいと思ってい
る。湖とその環境が提供するユニークな自然や文化資産を基に、この地域は、ヨーロッパを代表する、
比類なき、魅力的な、憩いと労働の場となることをめざす」
上記ビジョンに示された目標を達成するために、2007 年~2013 年にわたる地域開発計画が策定された。
主な内容を以下に示す。
1.
地域経済の多角化を図る。革新的で、環境にやさしい企業の成長を支援し、観光業への依存を減
らす。
2.
地域の団結、バラトン湖のイメージ向上、質の高いサービスの提供によって、持続可能で競争力
のある観光事業を展開する。特定の季節に集中しているために起こる有害な環境や経済的な影響
を減らすべく、四季をとおした観光事業をめざす。
3.
教育による人材の刷新、および順応能力の向上をはかる。
4.
湖に行きやすくするために、輸送システムとネットワークを改善し、交通渋滞と環境境荷を低減
する。
5.
湖の生態学的条件の改善、自然や人工的な環境の再生、再生可能エネルギー資源の活用によって、
自然や景観価値、文化遺産の保全を進める。
6.
地域内・地域間協力を促進し、NGO など主要機関の効率と能力向上を図る。
BLRI
CBD
EU
GEF
HAS
IIASA
ILEC
JICA
K-B
LBA
LBDC
LBDCA
LBNP
バラトン陸水学研究所
生物多様性保全条約
欧州連合
地球環境ファシリティ
ハンガリー科学アカデミー
国際応用システム分析研究所
国際湖沼環境委員会
国際協力機構
キス・バラトン(小バラトン)
バラトン湖法案
バラトン湖開発協議会
バラトン湖開発調整局
バラトン湖国立公園
用語集
LBUNP
LBRA
MARD
ME&W
NDP
PMO
OECD
SDP
SME
UNDP
UNEP
WFD
WLV
231
バラトン湖高原国立公園
バラトン湖レクレーション区域
農業地方開発省
環境水資源省
国家開発計画
首相直属機関
経済協力開発機構
LBRA 戦略的開発計画
中小企業
国連開発計画
国連環境計画
水関連対応枞組み指針
世界湖沼ビジョン
参考文献
Herodek, S. Et al.: Lake Balaton Research and Management, UNEP-ILEC, Nexus, 1988.
Ministry of Transportation, Telecommunication and Water: Lake Balaton Water Management Development
Program 2000 – 2010, Budapest, 2000 (in Hungarian)
Banczerowski, J., ed. (1999) Results of Lake Balaton Research. Budapest: Prime Ministers Office-HAS.
Banczerowski, J., ed. (2000) Results of Lake Balaton Research. Budapest: Prime Ministers Office-HAS.
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establishing a framework for Community action in the field of water policy („EU Water Framework
Directive”)
232
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岐路に立つバイカル湖
Jennie Sutton
Baikal Environmental Wave, 140 Lermontov St., Irkutsk, Russian Federation
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要旨
広大な渓谷と嶮しい山々に取り囲まれた、巨大で比類まれなる湖「バイカル湖」は、地球上における
最も古く、深い湖であり、世界の表面淡水量の 20%を保有している。バイカル湖は、地球上で最も生
物多様性に富んだ湖の 1 つであり、その 80%の生物が固有種である。湖はユーラシア大陸のほぼ中央
部、ロシア共和国にある。湖の面積は 31,500km2 であるが、その流域面積は 570,000km2 に達し、その
うち 47%はモンゴル共和国にある。バイカル地域は持続的な発展を遂げる可能性を十分有するが、こ
の 60 年間に湖とその流域には人間活動の影響が劇的に増大した。わずか 50 年の間に、水力発電ダム、
森林伐採、農業、人間の居住、2 つのパルプ工場の建設、バイカル・アム-ル鉄道の敶設など、湖の空
気や流域を汚染するさまざまな産業開発が進んだ結果、2,500 万年かけて進化してきた、繊細な生態系
を脅かす変化が起きている。数々の宠言や戦略が、この地域の持続的な発展に向けて策定された。だ
が、これらを行動に移すために必要な政治的な意志があるだろうか?湖についての政策はあいまいで
あり、また持続的な開発という概念や原則は、ロシア社会のすべての党派や多くの階層の人々の考え
方の中にまだ確立されていない。NGO は、持続的な湖沼管理をめざして WLV の原則を实施し、具体
的な対策を实施していくうえで、監視役として重要な役割を有している。
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はじめに
バイカル湖は、ユーラシア大陸の中央部に位置し、強い大陸性気候を有し、気温はマイナス 50℃から
プラス 35℃まで変動する。湖はその周囲 25km にわたって大気温度に影響を与え、夏は涼しく、冬は
暖かい。湖に出入りできる夏でも湖水表面温度は 12~14℃を超えることはほとんどないが、観測によ
れば、10 年ごとに 0.1℃の温度上昇の傾向があるという(1)。これは地球温暖化の影響と考えられる。
水深 200~250m以下では、水温はほぼ 3.3~3.6℃と一定している。地球上の最も古い湖として、バイ
カルとその生態系は 2,500 万年にわたって進化してきた。その水は、驚くほどミネラル分が尐なく(通
常の淡水より 25~30%尐ない)、非常に透明で、湖全体が酸素を豊富に含んでいる。このような湖は、
科学的には貧栄養湖と呼ばれる。これらの因子は、湖の生命を決めるのに重要な役割を果たしてきた。
バイカル湖は、長い歴史と特異的な陸水学的および水特性の故に、生物多様性が豊かで、多くの固有
動植物を有している。2,565 の動物種と 700 種の植物が見出されており、その 80~85%が固有種である。
湖の集水域は 570,000km2 の面積を有し、その約 47%(268.5km2)がモンゴルにある。流域にある 300
以上の河川や小川が湖に流れ込み、アンガラ川が唯一の湖からの流出河川である。バイカル湖には地
表の全液状水の 20%がある。
バイカル自然地域(ロシア共和国内のバイカル湖とその集水域の公式名称)は、ノルウェー
(386,000km2)とほぼ同じ大きさで、約 250 万人の人口を抱え、その 70%が市街地に住んでいる。同
自然地域の大部分を占めるブリアチア共和国の人口密度は 1km2 あたり 3 人以下である。バイカル湖流
域は、世界の他の湖沼流域と比べると、持続的な開発を進めるための十分な条件を有しているが、そ
れを实現するためには、この目標に向けて絶えざる意識的な取り組みが必要である。
233
湖が直面する課題と問題
バイカル湖の流域においては、この 60 年間で経済活動が劇的に増大している。1950 年代にイルクーツ
クのアンガラ川にダムと水力発電所が建設され、その後、北西部に向けて化学、石油化学、アルミニ
ウムなどのプラント開発が進んだ。さらに、60 年代と 70 年代には、湖の近くに 2 つのパルプ工場が建
設され、北岸に沿ってバイカル・アムール鉄道が敶かれた。それに伴い、流域内では建設、森林伐採、
工業や農業が進んだ。
公式の報告書では、「定期的な観測を行なった全期間にわたって实質的に湖には変化は見られない」、
あるいは「湖水の純度も全体的には保たれている」と述べている(2)。一方で、報告書は、「湖の特定
の場所においては、重大とまではいえないが、地域に特有な汚染が見られ、今後も継続的な管理とモ
ニタリングが必要である」とも述べており(3)、そのような場所としてバイカルスクのパルプ工場、单
部の居住地域、名高い観光地である Maloye Morye、北部のバイカル・アムール鉄道などをあげている。
また科学的文献によれば、湖流域においてこのように天然資源の利用が増大したことの影響は明白で
ある。湖の水質特性が乱れ、固有の植物プランクトンのサイクルに変化が生じている。プランクトン
の組成が変化するとともに、固有種が減尐し、シベリアの淡水系で多く見出されるようなプランクト
ン種が増加している(4)。このようなプランクトンは、これまでは浅い入江にのみ見出され、バイカル
湖ではほとんど見られなかった類のものである(5)。また魚類の成長速度が減尐し、生理学的特性も低
下している(6)。代表的な商業捕獲魚であるオムリの場合、この原因として、オムリの主要な食糧源の
1 つである黄びれハゼが急激に減尐したこと、およびイルクーツクのダム建設によって水位が上昇し、
彼らの産卵場所が打撃を受けたことがあげられている(7)。最近、早春から夏にかけて、非常に小規模
なアオコが湖の沖で、またシアノバクテリアが入り江や河口で観察されることが多くなっている(8)。
研究者は、このようなアオコの出現は湖の生態系が富栄養化している証拠であると言っている。
湖岸のオングロン村で、淡水魚をたくさん食べた女性の母乳にかなりの濃度の PCB が検出された。こ
の結果から考えると、バイカルアザラシの PCB 濃度は、その子供の免疫や生殖機能に影響がでるほど
高い可能性がある。これらの汚染物質は、この地域のものであり、地球規模の移動によって他の場所
からきたものではないことが調査によって分かっている。これらの研究によって、過去、現在、未来
の PCB 汚染源がはっきりした。PCB 源は、ウソリエ・シビルスコエにある産業廃棄物集積場(湖の北
西部にあり、強い風で PCB が運ばれる)と、もう 1 つは、変圧器からの漏れである(9)。
「バイカル自然地域」に起因する空気汚染のせいで森が著しく変質し、特に单部湖沼流域で、森林の
持つ環境形成機能の低下が起きている(10)。環境形成機能は、50 万 ha で深刻に低下、190 万 ha 以上で
中程度に低下、800 万 ha 以上で軽度に低下しているという調査結果もある。
公式情報では、バイカル湖の支流域のうち、19%が非汚染地域、76%が中度汚染地域、5%が著しい汚
染地域に分類されている(3)。この情報によれば、バイカル・アムール鉄道や関連施設のある北部など
では、減尐しているものもあるが、ある種の汚染物質の濃度は増大している。バイカルスクの製粉工
場の場合、汚染物質の減尐は、有効な防止策が効いたのではなく、生産量の低下によるものである。
一般に、湖辺集落における排水処理問題に対する関心は薄く、不充分な施設しかないか、あるいは施
設そのものがまだ無い状態である。牧畜場や家庭から排出される未処理下水は、支流を経て湖に流入
し、リン汚染の原因になっている(8)。
234
これらの変化はわずか半世紀の間に起こったものであり、一方、湖の生態系は 2,500 万年をかけて形成
されてものである。バイカル湖が、今日まだ比較的高潔な状態にあるのは、有効な保全対策のためで
はなく、そのほとんどの場所が陸上経由ではなかなか到達できないためである。このような事情を考
えると、この地域の持続的な発展のためには、過去の過ちと間違った計画に基づく開発を正し、これ
以上の被害拡大を招かないように新たな脅威を防止するための対策を樹立しなければならない。
戦略、対策、成果
1980 年代から、湖の保全と地域の持続的な開発の問題があらゆる階層で討議された。その結果、1999
年、この目的を達成するために(宠言に過ぎないという人もいるが)「バイカル湖の保全に関する連
邦法」が通過し、国立公園、保護区、自然保護区など特定保全地区が湖の周辺地域に創設された。こ
れらの地域は、もともと深刻な管理上の問題があった地域ではあるが、これは湖の保全に向けた大き
なステップとなった。1996 年には、グリーンピース・ロシア、および当時の環境委員会が共同して運
動した結果、バイカル湖とその周辺地域、約 880 万 ha が UNESCO の自然遺産になった。国立公園と
保護区はそのうちの 28%の面積を占めている。
連邦法と世界遺産登録は、地域の持続的な発展のための戦略を策定・实施していくための法的文書の基
礎になっており、これらは共に、WLV の最初の 3 つの原則に対応するものである。この 20 年間で、
湖沼保全に関連していくつかの重要な政府文書が作成された。その中の一つは、GEF の資金援助を受
けた「バイカル地域の生物多様性保全プログラム」の中で作成された戦略的な文書で、WLV の原則に
対応する一連の原則を含んでおり、ロシアの自然資源省によって承認された(11)。
しかし、現在に至るまでバイカル湖集水域の持続的な管理の主要な障害になっているのは、さまざま
な既得権益の影響を受けた、持続可能の原則と矛盾するような政策そのものである。今日、従来から
の脅威は残ったまま、さらに新たな脅威が発生している。この地域は、この間のロシアの混乱で生じ
た政治・経済的な変動の中にあり、その結果、宠言にある戦略を实行しようとしても、すぐに挫折の
憂き目にあっている。持続的な開発という概念や原則が、多くの社会階層の人々の心の中にまだ確立
されていないことを考えると、このことは別段驚くことではない。イルクーツク州の社会・経済開発
プログラムは、環境保全については、卖に表面的に触れているだけであり、その第一の関心事は、以
前と変らず、地域の天然資源の開発にある。
締約国でありながら、既存の脅威を低減し、新たな脅威を防止するための必要な対策を实施しなかっ
たとして、バイカルを「危機にある世界遺産」 リストに移すべきだという議論が、既に 3 度も
UNESCO 世界遺産委員会で行なわれている。問題は、「地域の持続的な開発を進めてこのユニークな
湖の保全を目指す」という公的な宠言が、そのための対策を確实に实施することによって、どこまで
確認されるかにかかっている。
保全活動の成果
2005 年、改革の手段として、国家の環境管理機関の制度が改められたが、これに基づいて何か具体的
な進展があったようには思えない。バイカル湖が 1996 年 12 月に世界自然遺産になって 10 年が経過し
たが、湖の保全を目的とする法整備はまだその途上にある。1999 年に「バイカル湖の保全に関する連
邦法」が通過したが、その实施に必要な重要条例はまだ通っていない。この中には、3 つの区域(中心
235
部、緩衝地帯、および大気汚染地帯)の境界の定義、最大許容汚染濃度の規制などがある。法整備の
遅れは、1999 年以来、国レベルで主要な法制上の変更があったためと説明されているが、保全のため
の法整備がなされる前に、資源を搾取しようとする特定の利益団体からの圧力があったことを示すよ
うな事例も見られる。それどころか、地方当局や連邦機関は、脅威が増大しているのを知りながら、
適切な対策をタイミング良くとらなかった。連邦政府は、バイカル湖を持続的に管理するための WLV
の原則 2、3、4 を理論的には認識しているはずであるが、連邦議会や、連邦・地域機関の側における
この目的達成のための努力は、緩慢で、時には障害にさえなっている。
連邦政府は、バイカル湖とその流域保全のために国家プログラム(2002~2010)を作成したが、それ
を实施するための財政的な手当は十分とはいえない。いくつかの地域から、国家からの財政支援がな
いためにプロジェクトは完遂されないことがよくあるという報告がある。公的なレポートは、どんな
進展があったのかではなく、どれだけの金額を使ったかを中心に記述されており、プロジェクトの進
展がどうなっているのかを知ることは不可能である。計画と实施のあいだには慢性的に矛盾があるた
めに、プロジェクトの進展が阻まれている。プロジェクトの企画と初期段階には予算がつくが、その
うち予算が底をつくか、あるいは、足りなくなるのである。例えばブリヤート共和国の首都であるウ
ラン・ウデの廃棄物分別処理場は、資金不足とセレンガ川(バイカルの最大支流)に残存している毒
性廃棄物汚染のために、予定通りには機能していない。政府関係者によれば、バイカルスク市では、
市の排水処理施設を湖の岸辺に建設中であり、2007 年には運転が開始されるとのことである。これま
で市の排水は、悪名高いバイカルスクのパルプ工場の産業排水と一緒に処理されてきた。産業排水に
ついて閉じた水循環を实現し、湖への流出を防ぐためには、別の市営排水処理施設が必須である。そ
の施設建設のために連邦および地方予算が 2002 年以来計上され続けている。排水処理施設の建設に何
故 4 年もかかるのか!概して、湖の居住地では、施設が不十分、あるいは存在しておらず、廃棄物や
排水処理にどう取り組むかについての関心は不十分である。
バイカルスクの製紙工場の近代化、塩素の漏洩防止、閉じた水循環システムの導入を進めるプログラ
ムは、経営側が、ロシア政府および世界銀行に対する義務を果たしていないために遅れている。その
結果、世界銀行は、重要な改善を实施するために貸与することになっていた資金貸付の決定を撤回し
た。自然科学省が、「閉じた水循環システムの導入を、計画より 1 年遅れの 2008 年の年末まで延期す
る」という企業提案を了承しなかったのは不幸中の幸いである。これは、世界遺産保全の義務に対す
るロシアの決意を同省が示したものである。しかし、同工場は今日まで、ガス、液状・固形の廃棄物
によって、バイカル湖とその環境を汚染し続けている。スラッジタンクは 11km も延びて湖のすぐ近
くまできており、地震の多いこの地帯にとって、いつ破滅的な汚染が襲ってくるかもしれないという
不安を生み出している。製紙工場関連の対策は、それが实施されれば尐しは改善につながるが、その
他の問題の解決にはならない。
湖岸における不法な建設、密漁、不法な木材伐採、廃棄物規制を遵守しない船舶団、都市および産業
廃棄物などの問題は広く認識されている。湖の状況について監視も行なわれているが、旧ソビエト時
代と比較してもまだ十分とはいえない。企業、各種団体、住民は環境法を遵守せず、また政府もこの
問題に取り組んでいない。
法律が通過してから現時点までに、世界遺産であるバイカル自然地域の中心部に多くの侵入者があっ
た。世界遺産委員会は、2001 年から 2005 年にわたって、条例の通過の遅れ、保全計画の欠如、湖保全
236
法の侵害、セレンガ川の炭水化物の調査、および流域内の 2 つの石油、ガスのパイプライン建設プロ
ジェクトなどに懸念を表明した。同委員会は、締約国(ロシア)の報告の遅れや情報提供の不十分さ
をたびたび指摘している。
開発プロジェクト、中でも石油、ガスのパイプラインなどの重要な計画については、初期段階から地
元の NGO である Baikal Environmental Wave(BEW)や Buryat Regional Organization for Baikal(BRO)
などによる監視が続いている。これらの NGO は、可能な限り住民に情報を提供し、住民が参加する公
開討議において指導的な役割を演じ、住民と一緒に環境影響評価などを实施している。この地域にお
いて、法律に書かれた住民参画がある程度具体化しているのは、このような草の根の活動の結果であ
って、企業や政府当局が、自分たちの責務を果たそうと努力した結果ではない。WLV の原則 7 に述べ
られている「公正、透明性、およびすべての利害関係者の権限付与に基づく適切な統治」が、十分と
は言えないまでも、法律に盛り込まれ、ある程度实施されているのは、バイカル地方では比較的環境
NGO が育ち、彼らの活動があるからである。
得られた教訓 – 世界湖沼ビジョン(WLV)の適用は有効か?厳しい検証事例
バイカルの北端にあるバイカル湖世界自然遺産を通過する石油パイプラインを建設するという計画は、
言葉と行為のギャップを示す最近の象徴的な事例である。この計画は、連邦法を实施すべき立場にあ
る国家機関・省の完全な過ちである。それは、湖に関する付随定款が实施されていないことの直接的
な結果であり、企業、州機関、政府による WLV の原則 2、3、4、5 および 7 の大きな侵害を示す事例
として、特に言及しておきたい。
パイプラインの建設と操業を独占し、事業を推進していた国営企業トランスネフトは、地元の NGO
(BRO)が質問書を提出する前に、世界自然遺産サイトにおける伐採行為などを調査し、不法である
ことを知りながら、地方機関の暗黙の承認を受けていた。このことは、住民や NGO が違反をたえず監
視していなければ、致命的な結果に陥る可能性があることを示している。
ブリヤート共和国の大統領や、またつい最近までイルクーツク州の知事などが、プロジェクトを支持
していたこと、さらに国の行なう環境影響評価の实施に深刻な不正があったという事实は、エリート
政治家は、持続的な開発について真の政策を持っていないことの現われである。
当初、長さ 323km の石油の輸送用パイプラインは、マグニチュード 8 規模の地震発生の恐れのある、
極端な気候と地勢条件を持った地域を抜け、バイカル湖集水域を通る予定になっていた。そのうちの
130km は、世界自然遺産の内部を通り、バイカル湖に流れ込む 130 の川や小川を横断することになっ
ていた。またこれらの横断箇所の 3 分の 1 について、特別な安全対策は考えられていなかった。ある
場所では、パイプラインは湖岸から 800mしか離れていなかった。油が漏洩した場合、20 分から 49 時
間以内に、3,000~4,000 トンもの油がバイカル湖の支流や湖に流れ込み、湖の 3 分の 1 が油で覆われる
だろうと推定された(12)。WLV の原則 3、4 は全く無視されていたことは明らかである。
一方で、この事例は一般のロシア人、特に、イルクーツクの人々の「未来の世代のためにバイカル湖
を保存し、保全すべきだ」という願望と意思を示すことになった。事实、2006 年の出来事は、差し迫
った破滅から湖を守るための 2 番目に大きな戦いであったと言うことができる(13)。湖の保全に責任
を持ち、ロシアの法律を遵守すべき全ての国家当局が、環境法に違反することを知りながら、共謀や
237
策略を用いて、公然とプロジェクトにゴーサインを与えていたのである。ロシアの大統領が仲介して
プロジェクト(パイプライン)のルートが変更され、バイカル湖の集水域を完全に外れることになっ
たが、それは、イルクーツクの 3 つの大規模な抗議行動や、ロシアのさまざまな町で行なわれたデモ
行為などを背に、ロシアおよび国際 NGO、ロシア科学協会、さらに UNESCO 自身が必死に訴えて初
めて实現したものである。
森林伐採はもう 1 つの非持続的な行為の例である。イルクーツク州の木材輸出の 50%以上が丸太であ
るという事实は、森林資源の非持続性を示す 1 つの証佐である。森林認証制度はこの地域ではまだ育
っていない。州の機関と共謀した違法な伐採が時々行なわれ、環境と経済の両方に悪い影響を及ぼし
始めているが、当局の取り組みはまだ進んでいない。現地 NGO の BEW は、当局の要請を受けて、バ
イカルスキー自然保護区の緩衝地帯にあるカマルダバン山系の傾斜地、および湖の水質保全地帯にお
ける違法な伐採を中止させるための対策を实施した。これは、NGO と保全地域を管理する当局の協力
を示す事例である。しかし、伐採を中止させたが、当局は事態を正す対策を何もしなかった。事实、
セレンギスクのパルプ工場で起こった違法行為は、後で国家当局によってもみ消されてしまった。
一方で、当局は、自分たちの仕事に環境 NGO の代表を参加させることに力を入れている。最近行なわ
れた最も重要なものは、UNESCO 使節団が湖の視察に来る直前の 2005 年 9 月にバイカル湖世界自然遺
産の現地で開催された、環境法の執行に関する MNR 委員会であろう(14)。この会合には、2 つの現地
NGO(BEW、BRO)の代表とグリーンピース・ロシアが参加した。この会合は石油パイプライン計画
を中止に追い込むまでに至らなかったが、他の問題については地域レベルでいろんな反響を引き起こ
した。この会合において、BEW は、検察官事務所に持ち込まれたままで目に見える進展の無い不法建
築の問題や、違反があってもなかなか検察官を動かそうとしない国家当局の姿勢などを指摘した。そ
の後、湖岸に不法に建てられた「バーニャ(ロシア式サウナ)」を物理的に排除する裁判所の判決が
出され、また、違反行為に対する国家環境当局の公的な取り締まりが著しく進展した。これによって
環境法の執行が継続的に改善していくことを期待するものである。
経験からいえば、NGO、メディアと国家当局の協力は、環境法を遵守・執行させるのに有益な手法で
ある。これは、WLV の原則 6、7 を明確に反映したものである。ただし、实際にそれが起こるのは、
当局がそれを奨励するからではなく、NGO の決意の賜物である。
BEW は、イルクーツク州の尐数先住民族協会の設立に尽力した。わずか 2 年後には、14 の公的登録地
域が協会の団体会員になった。これらの地域社会は、近年の経済発展のあおりを受けてきたが、協会
の支援もあり、今では、自分たちの利益を守り、持続的な生活を継続していくための意見を述べるこ
とができる。現在、協会は、伝統的な土地利用の行なわれている地域を持続的に管理するためのプロ
ジェクトを策定中であり、また彼らが祖先から引き継いだ土地を特別保全地区にするための法案で係
争中である。イルクーツク州内のこれらの土地は、バイカル集水域にあるわけではないが、協会は、
この経験をブリヤートの土着社会に伝え、彼らも同様なことができるようにしたいと考えている。
NGO は、観光開発における社会・経済・環境の分野においても創造的な役割を果たしてきた。当局は、
同地域が持つ観光産業開発の可能性を知っており、国際的に重要な「経済・レクリエーション特別区」
を設けようと意図しているが、現時点では、そのような計画は進んでいない。当局はおろか、この分
野に資金投資を考えている関係者も、どのような可能性があり、それがどのような結果をもたらすか
238
について明確な考えを持っていないように思われる。観光名所としてのバイカルの価値は、その自然、
特質、純粋さにあるという理解は、ほんのわずかの観光業者と環境 NGO を除けば、まだ不充分である。
現地 NGO の Great Baikal Trail は、長年にわたってエコ・ツーリズムを広めようと具体的な取り組みを
進めている。彼らは、食事・宿泊施設など、地域経済を振興させるためのサービスを展開するための
セミナーを開催し、また夏には、国際ボランティア団体の支援を受けて、湖の周囲にハイキング道路
を敶設している。今では、道路は全部で 350km にもなり、土地の保全に努めてきた観光業者や個人観
光実などに利用されている。したがって、エコ・ツーリズムに必要な基盤の 1 つは、この NGO のお陰
で既に出来上がっている。湖岸線の 60%は、国立公園と自然保護区として保全されているので、この
道路は、未来に向かって前進する最良の道である。残念なことに、その他の点では、この分野(エ
コ・ツーリズム)における開発は、無計画、未管理のままであり、その結果、バイカルの傷つきやす
い陸上(および水上)の生態系や景観は、不適切、かつ、しばしば不法に建てられたビルや、固形・液
状廃棄物に関する規制の不履行、あるいは、無計画に建てられた観光施設の出す騒音などによって侵
されている。
結論として、この 16 年間、NGO として活動してきた我々の経験から得られた重要な教訓は、「NGO
は、持続性を推進していくうえで決定的に重要な役割をもっている」ということであり、特に、国家
や商業セクターがそのことに関心が無い場合は、特にそうである。
今後の取り組み
長年待ち望んできたバイカル湖保全のための付随定款が实行に移されるとき、それらが有効に機能す
るものであれば、バイカル地域の持続的な湖沼管理のための原則を实施するための目に見える進展が
始まっているということが出来よう。石油パイプラインの話は影と光の側面を持っている。明るく、
最も希望に満ちた出来事は、2006 年の春、イルクーツクの街路にあらゆる世代のロシア人たちが出て
きて、雪と日差しの中で、大統領や、地方・国家行政機関に対して「我々は、我々自身と子供たちの
ために、バイカル湖を自然で純粋な形で守りたいのだ」という決意を見せたことである。彼らの役割
は、経済問題や国際的な信望ほど重要ではないという人がいる。それは違う。彼らは確信して自分た
ちの未来を選択したのだ。大統領のギリギリの決定が湖を救い、今回の法の失敗を補ったのかも知れ
ない。しかし、これが持続性を達成するための正しい道ではない。持続性は、市民が絶えず監視し、
持続性の原則と实践を経済的な意味を含めて、わかりやすい言葉に翻訳していくことによってのみの
達成されるのである。後者については国レベルで達成される必要がある。
我々BEW は、教育機関や職場研修会のための「持続性教育」プログラムの開発や、地域当局との協力
による省エネルギーの推進やそのための心得作りを進めている。また開発プログラムが荒地を残すよ
うなことにならないよう監視する市民のネットワーク作りなども進めている。もし資金が集まれば、
湖の北西部のオリホン地区(観光実に人気があるが、非常に傷つきやすい生態系)で、「バイカル統
合的環境モニタリング」プログラムを開始したいと考えている。これを实現するためには、当局、国
立公園、地方機関および住民と協力した取り組みが必要となる。
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11. Biodiversity Conservation Project (GEF) – Baikal Component, Lake Baikal Ecosystem Biodiversity
Conservation Strategy, 2002, MNR, Russian Federation.
12. Letter from Irkutsk Branch, Russian Academy of Sciences, 27th January 2006, to Rostekhnadzor and the
EIA committee.
13. The first being the fight to prevent the pulp mill from being built and later to minimize or stop its impact
(1959 to the present).
14. Act – integrated examination of violations of environmental law at the Lake Baikal WNHS, 04.09.2005,
Rosprirodnadzor.
240
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
バイカル湖セレンガ川デルタ地帯の
エコ・ツーリズム開発を目指した利害関係者の協力
Aline Prentice
Club Firn, Ul. Kommunisticheskaya 16, office 6
Ulan Ude, Republic of Buryatia, Russia 670000
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要旨
「セレンガ川デルタのエコ・ツーリズム開発プロジェクト」は、ユネスコ世界遺産バイカル湖の一部
である繊細な湿地帯であるセレンガ川の三角州地帯において、すべての利害関係者が参画して、エ
コ・ツーリズムを企画・展開していこう、というものである。プロジェクトは、ロシアのエコ・ツー
リズム会社 Firn Travel、NGO「Club Firn」、および英国のブローズ管理局によって实施され、英国国
際文化交流機関の小規模環境プロジェクトスキーム(SEPS)Ⅲの活動の一環として、英国の環境・食
料・田園事業部(DEFRA)から助成資金を得た。住民たちは、プロジェクトを通じて、自分たちの地
域のエコ・ツーリズム開発に参加し、環境保全型観光ビジネスを展開する機会を拡大した。またこの
プロジェクトによって、住民、地元企業家、NGO、教育機関、保全機関、地方自治体、地域旅行業者
の間のパートナーシップを築くことができた。このような利害関係者間のパートナーシップは、バイ
カルの中でも特に固有で繊細な、このセレンガ川三角州地帯の開発を将来にわたって正しく導いてい
くのに役立つだろう。
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はじめに
地球上で最も古く、また最も深い湖であるバイカル湖は、世界の地表淡水の 20%を占めており、2500
種類以上の生物(その内 60%は固有種)の故郷である。その水は、表面から湖底まで酸素を豊富に含
んでおり、地球上の他のどこよりも深くまで生命を支えている。この湖は 2500 万年前に誕生したと考
えられおり、次ぎに古い湖は、タンザニアのタンガニーカ湖が 200 万年前、アメリカの五大湖の誕生
は 5000 年前にすぎない。300 以上の川や小川がバイカル湖に流入しているが、流出する川は、たった
一本のアンガラ川である。バイカル湖の水は、ミネラル含有量が極度に低いために(他のほとんどの
淡水湖より約 25~50%低い)、大変透き通ったものになっている。この極めてユニークな湖は、1996
年からユネスコの世界自然遺産に登録されている。
バイカル湖が直面している問題と課題
バイカル湖の面積は、ベルギーとオランダを合わせたほど大きいにもかかわらず、流域にはあまり人
が住んでいないために、湖の水は全体として比較的原始の状態に近い。しかしながら、この半世紀の
間に、バイカル湖の周辺では汚染や人間活動の影響が顕著に増大した。
1950 年代と 1960 年代に、周辺地域で大規模な農業開発があり、バイカル湖流域では殺虫剤の利用が大
幅に増加した。貧困な農業慣行と木材伐採のために何百万トンもの土砂が、毎年バイカルに洗い流さ
れた。さらに、当時、ウラン・ウデでは産業開発が進み、汚染が急激に増大した。最近、バイカルの
周囲では建設と観光が大きく伸びている。無責任な観光業とそのためのインフラ開発は、無責任な廃
棄物処理と生息地破壊という結果をもたらした。地域の植物相のうち、特別な保護を必要とする種の
数は 10%にも達している。また地域内で確認された動物相の約 20%がレッドブックに登録されており、
その多くが絶滅に瀕している。
241
我々が力を注いだプロジェクトは、バイカル湖で最も素晴らしい場所の 1 つであるセレンガ川の三角
州地帯で展開された。セレンガ川は、バイカル湖最大の支流であり、バイカル湖に流入する年間河川
水量の 50%を担っている。セレンガ川デルタは 600km2 以上の湿地面積を有する世界最大の三角州であ
る。運河、小島、沼地、葦やスゲの低木が入り混じった三角州で、渡り鳥が移動する時期には 500 万
羽もの鳥が生息し、その中には多くの希尐種も含まれている。この地域はバイカルの中では最も人口
密度が高い地域の 1 つでもあるが、経済的な機会がほとんどなく、周辺の多くの住民は、生活のため
に天然資源(材木、釣り、狩猟)を搾取するか、工業生産に頼らざるを得ない。デルタの保全と責任
ある観光業の発展が重要なことは明白である。セレンガ川デルタ地帯は、まだ他のバイカル地域ほど
観光地として開発が進んでいないが、ウラン・ウデに近く、比較的交通の便が良いので、人気の高い
観光地になりつつある。
戦略と対策、その成果
このセクションでは、まずプロジェクトの目標を議論し、次にバイカルにおけるエコ・ツーリズムの
発展に協力している各々の利害関係者について、彼らの戦略と結果を述べる。このプロジェクトは、
WLV の原則 6「重要な湖沼問題の把握と解決のためには、住民およびその他の利害関係者の有効な形
での参加を奨励すべきである」に関連したものである。
プロジェクトの目標は、全ての利害関係者を巻き込んで、セレンガ川デルタ地帯のエコ・ツーリズム
計画を作成し、展開していくことにあった。具体的には、1)観光業の開発を目指した調査、円卓会議
などに住民を巻き込む、2)持続可能な観光業の展開に向けて現地投資家の能力向上を図る、3)英国
のパートナーが持っている経験やノウハウを普及させる、さらに 4)セランガ三角州地域を観光地と
して宠伝する、などの活動を实施した。プロジェクトは、天然資源の賢明な利用、地元住民の福祉の
改善、文化と自然の多様性の保存など持続可能な開発原則に基づいて实施された。
プロジェクトは、英国国際文化振興会の小規模環境プロジェクトスキーム(SEPS)Ⅲの活動の一環と
して、英国の環境・食料・田園事業部(DEFRA)から助成資金を得て、Firn Travel と英国ブローズ管
理局によって 2004 年 8 月に開始された。Firn Travel は、バイカル地域の生活の質を改善するために、
自然にやさしい社会事業を实施している指導的な NGO の Club Firn によって 1999 年に結成されたエ
コ・ツーリズム会社である。Club Firn は、国際的な湖のネットワークである Living Lakes(世界中の湖
と湿地帯を保護するために Global Nature Fund によって結成された世界的規模のパートナーシップ)の
バイカル湖を代表するメンバーである。Firn Travel は、Club Firn と価値観を共有しており、設立以来、
地域社会のために、バイカル湖の脆弱な環境を保護するためのツアーやプログラムを展開している。
ブローズ管理局は Living Lakes のメンバーであり、英国で最も大きな保全湿地帯ノーフォーク・サフ
ォーク・ブローズを管理している。ブローズと呼ばれる湿地帯には毎年 100 万人以上の観光実が訪れ
る。ブローズ管理局は、湿地の管理と開発に関する計画策定や意思決定に市民を参加させるためのさ
まざまな方式を成功させて来た实績がある。セレンガ川デルタとノーフォーク・サフォーク・ブロー
ズは、類似点が多いので、2 つの組織間でパートナーシップを築き、経験の交流を進めることになった。
さらに我々は、官民のパートナーシップである VisitNorwich を巻き込んだ。VisitNorwich は、ノリッチ
市と周囲の湿地への観光実の誘致を目的に活動している。VisitNorwich は、地元の企業や団体の他に、
242
ノリッチ市議会、ブローズランド地区議会、サウス・ノーフォーク議会、ノーフォーク市議会など地
方自治体の支援を受けている。
このプロジェクトで採用された戦略や対策、その成果を以下のセクションで述べる。
(A)住民参加
Firn Travel と Club Firn は、2004 年 8 月、住民参加型のプロジェクトを行うという情報を広範な利害関
係者に流した。ついで 2004 年 10 月、セレンガ川デルタ地帯で信頼の出来る観光事業を展開するにあ
たり、関係者の関心や提案を求めて調査を实施した。調査結果の分析に基づいて、円卓会議の議題が
決定され、2004 年 10 月にカバンスクで円卓会議が实施された。参加者は、この地域における観光事業
の機会や課題を議論し、協力できる分野の確認や新たな可能性を追求し、観光開発に関する全体ビジ
ョンを策定した。この会議には、行政出先機関、旅行会社、公園や保全地区、学校、大学、カバンス
ク、ウラン・ウデ、ブリヤートの各地区、イルクーツクで活動する NGO などの代表者が参加した。こ
のように広範な利害関係者が一堂に会して、セレンガ川デルタ地帯での信頼できる観光開発について
討議したのは、これが初めてであった。この会議によって新たな協議の場が築かれ、関係者全体が参
画するための新しい対話が始まった。
円卓会議や、その結果できた新しいパートナーシップを通じて得られた情報をもとに、セレンガ三角
州地のプロモーション・ツアーを企画することができた。我々は、社会基盤や利用可能な手段を調査
するとともに、ホームステイ、交通、ボートの賃貸など、さまざまなサービスを提供できる地元の業
者を見出した。ツアー企画にあたっては、ツアーの中心となるカバンスク地区への恩恵が最大になる
ように気を配り、同地域内での具体的な収益活動については現地の小規模事業者に任せた。また地元
住民の環境に配慮し、環境負荷の悪影響を減らよう最小影響基準を用いてツアーを企画した。我々の
企画したツアーは、カヤック、ハイキング、バードウォッチング、ガイド付きの自然観察などを含ん
でいる。また我々は、信頼できる廃棄物処理、エネルギー効率向上策、バイカル湖地域に観光実を迎
えるための規則について地元の事業者と協議した。
2005 年 5 月、Firn Travel は、カバンスク地区政府の首長、カバンスク地区、セヴェロバイカリスク、
チタの観光事業部長、地域旅行業者の代表者、および英国のパートナー、ブローズ管理局と
VisitNorwich の代表者を迎えて、プロモーション・ツアーを实施した。ツアー終了後、参加者に対して
調査を实施し、そのフィードバックを最終ツアーの企画に取り入れた。
我々が住民の意見を基に企画したツアーは、セレンガ三角州地域の旅行業者が、独自のプログラムを
開発するときのモデルになっている。また、我々は、ツアーを補完する活動として、地元の住民が湖
を利用した経済成長の可能性をもっと利用できるように、地域レベルで住民の能力向上活動を实施し
ている。
(B)意識啓発
我々は、観光事業の展開についてもっと多くの現地住民に知ってもらうとともに、地域住民の利益が
最大になるような方法を議論し、見いだすために、プロジェクトの期間中に一連のイベントと PR 活動
を实施した。2004 年 12 月には、地元の住民を対象に、「観光実に対してあなたができるサービスを見
出そう」という 2 日間のセミナーを行った。セミナーでは、エコ・ツーリズム、セレンガ川デルタに
おける観光事業の可能性、パートナーシップの形成、計画の立案などについて情報や資料が配付され
243
た。また参加者が自分たちのプロジェクト案を作成し、講師からフィードバックをもらうなど、实践
的なフォーラムとなった。参加者には、地元の事業家、NGO、学校、公園・保全地区の専門家、観光
事業を所管する役人などが含まれていた。
また 2005 年 4 月には、観光事業を始めるのに必要なビジネススキルに関するセミナーを行った。セミ
ナーは、小規模事業家のための税金、投資計画、観光事業を始めるための投資の募集、サービス業や
観光事業の計画作りなどを網羅した。セミナーでは、实践的な研修として、参加者自身が实際に自分
の事業計画を作成し、それをよりよいものにするために、グループのメンバーや講師と討議する機会
が設けられた。またセミナーでは、保護区域内やその周辺で観光事業を営むときの環境保全、例えば、
廃棄物処理、エネルギー効率の良い技術の使用、バイカル保護地区内でビジネスをするための規則遵
守などについて特に注意があった。
前述した 2004 年 10 月のカバンスク地区における円卓会議には、いろんな部門から参加者が集まり、
同地域で観光事業を営む場合のチャンスとリスクを議論し、これらの課題にどのように取り組むべき
かを公開で協議する場となった。さらに、観光事業に対する若者たちの意識を高めるために、カバン
スク地区の 10 以上の学校が参加して、観光事業プランを競うコンテストが实施された。この模様は、
ラジオや地方紙で公開された。若者たちは、目玉となる地域の名所を紹介し、自分たちの地域に利益
をもたらす観光事業とはどういうものかを議論した。我々は、この PR イベントの勝者を表彰し、彼ら
のアイデアのいくつかを我々のツアーに取り込んだ。また我々は、プロジェクトを实施、またはエ
コ・ツーリズムを始めようとする地域の旅行業者、地元の事業家、NGO などに、観光事業に関する情
報を小包で送付した。
(C)地元の住民に対する幅広い影響
我々のプロジェクトには、広範な人々と団体(旅行会社、バイカル湖地域・保護地域・自然保護区内
にある観光事業関係の政府支所、NGO、学校、青尐年クラブ、博物館・図書館、民間事業者、引退し
た人々、学生など)が参加した。また我々は、広範な参加者に関心を持ってもらい、人々にプロジェ
クトについて知ってもらうために、調査、円卓会議、情報活動、コンテスト、旅行展示、セミナー、
インターネット、会議、新聞、業界誌、テレビなど、いろいろな方法を使った。
我々は、さまざまな研修セミナー、情報・資料の提供、個別の相談を实施することによって、事業を始
めたいと思っている地元企業家の事業計画立案を支援し、課税や環境規制などの問題に関する相談に
のった。また我々はプロジェクトを通じて、ホームステイ、みやげ物生産、案内業、通訳業、ボート
賃貸などサービス業に従事する小規模事業者を支援した。さらに我々は、メディアと密接に協力して、
広範な人々に情報を伝え、プロジェクトやその関連活動の实施に参加してもらうよう努めた。
我々は、プロジェクトを企画し、实行の实施にあたっては、カバンスク地区当局、カバンスク地区自
然保護局、旅行会社、博物館、NGO、その他いろんな団体とパートナーシップを築いていった。この
プロジェクトは、広範な部門間の協力の手本となるものである。
(D)地元住民の経済機会の拡大
地元に継続的に雇用機会があることは、持続的な湖沼開発にとって極めて重要である。我々は、プロ
ジェクトの期間中に 20 回以上カバンスク地区を訪問して、デルタ地帯の住民が提供している旅行者用
サービスのデータベース(民話、ホームステイ、食事、ボート賃貸、ガイドサービス等)を作成した。
244
我々は、プロジェクトを通して、地元の小規模事業者と協力して信頼できる観光事業の成長を目指し、
地域で良質の仕事を育成するのを支援した。
我々は、現地で活動するパートナーにノウハウを伝達することが重要であると考えており、プロジェ
クトでは地元の能力向上に力を入れた。旅行サービスの開始にあたって個別に相談に応じたり、周遊
旅行の实施、観光実の集実、観光事業の発展などに関する研修セミナーを開催した。これらの手段を
通して、地元の人々は、観光ビジネスには良質の雇用機会があることをよく理解し、観光事業を展開
していくための個々の分野の知識とスキルを拡大した。さらに、我々は、プロジェクトを通して、地
元住民と、ブリヤート、モスクワ、イルクーツク、チタ、セヴェロバイカリスク、モンゴル、さらに
ドイツなど他の地域の旅行会社、地域 NGO の代表との連絡網を形成し、さらに開かれた、責任ある観
光事業を推進するための新たな連携を構築した。またプロジェクトには、英国ブローズ管理局への研
修旅行が含まれており、参加者は、英国の最善の实践例や、責任ある観光旅行プログラムを实行する
革新的な方法を学んだ。参加者は、その後、2005 年 5 月のウラン・ウデで開催された「持続可能な観
光開発に関する会議」のようなフォーラムや、観光業展示会などのイベントを通して、自分たちの知
識を同僚や地元のパートナーに広めた。
英国のパートナーを訪問しているときに、ブローズ管理局の John Packman、VisitNorwich の Geoffery
Skipper は、本プロジェクトのパートナーであるカバンスク地方自治体、カバンスク自然保護局の代表
といろんな問題について協議した。彼らは、2005 年にウラン・ウデで開催された「持続可能な観光開
発に関する会議」(80 人以上の参加者が集まった)でも講演し、英国の最善の实践を広げてくれた。
また、我々は、地域の環境保全活動のための資金を集めるために、国立公園、地元住民、企業家向け
にパンフレット「訪問実のお返し:旅行者は、この地の環境保全運動のために寄付しよう」を翻訳し、
配布した。我々は、また、マーケティング用の資料として、販促ビデオ DVD やチラシを作成した。こ
れらは、旅行サービスのマーケティングと促進のための手段となったばかりでなく、環境保全のため
の慈善基金調達のための手段にもなった。
得られた教訓
我々は、多くの分野間の協力と住民参加に注力することによって、地域の責任ある観光事業を、参加
型の方法で、継続的に発展させていくための制度的な持続性を構築した。例えば、我々グループには、
カバンスク観光局と地区行政府、地元の多くの旅行業者、さらにバイカル湖周辺で一連のエコ歩道を
開発している NGO の Great Baikal Trail などの関係者が参加している。プロジェクトを通じてセレンガ
デルタ地帯で生まれた観光事業は、あらゆる関係者を包含し、関係者間の相乗効果を生み出している。
プロモーション・ツアーに関するパートナーやツアー参加者のフィードバックは、その重要性を示し
たものであった。即ち、プロモーション・ツアーを拡大することは、我々の協働の成果を広めるのに
有効である。また、この地域を売りこむための活動の強化、特に国際的あるいは国レベルでもっと観
光実を呼び込むための具体的な活動に取り組むことも有効である。活動の成果がすぐ目に見え、大き
な恩恵があることがわかれば、住民は、責任ある発展を推進する運動(観光事業の推進)にもっと強
い動機をもって参加するようになるだろう。また環境にやさしい遊覧や、観光実への環境保全献金の
呼びかけなど、ブローズ管理局のもつ授業ノウハウを他の地域を含めて、広めていくことも重要であ
る。これを達成するためには、更なる交流と継続的な情報連絡活動が必要になる。
245
更なる前進に向かって
この敏感なバイカル湖湿地地帯において、持続可能な発展の道を効果的に前進するためには、以下の
問題に対する解答が必要である。
(A) 持続可能な観光事業を实施するために、どのようにして広範な関係者の協力を維持し、恒久的
に資金提供を確保するか?
持続可能な観光事業が、セレンガデルタ地帯や他のバイカル地域で成長し続けるためには、
我々が行なったように、卖に 1 つの旅行会社や組織が短期的な取り組みを進めるのではなく、
関係機関が連携して継続的な取り組みを進められなければならない。どうしたら連携の推進力
を保ち続けることができるか?このための資金をどこから得るかのか?政府、外部資金団体、
観光事業収益、その他どんな資金源があるか?
(B) 地域社会で無関心や抵抗があるとき、「外部」の団体は、持続可能な観光事業の取り組みをい
かに展開すべきか?
我々が出くわした問題の 1 つは、地元の住民が懐疑的であったり、活動に活発に参加してくれ
ないということだった。彼らの抱く観光事業に対する期待は、プロジェクトでは如何ともし難
いものであった。例えば、「地元企業がサービスと経営を改善しても、その地域の観光事業が
必ずしも急成長するわけではない」というのである。地域住民が、持続可能な観光事業の恩恵
をすぐには理解せず、それは实行可能ではないと思ったらどうなるであろうか?
(C) 土地管理の全権を持っているが、観光実に質の高いサービスを提供することに意欲的でない保
護地区の人々といかに協力するか?
保護地区の政府機関が観光事業に商業的関心がなければ、旅行業者や NGO が彼らと協力して
いくことは困難である。観光事業の成功は、ツアーに対して、保護地区の政府機関がサービス
や社会基盤を、自分たちの仕事として提供してくれるかどうかにかかっているのである。これ
らの政府機関には、往々にして、観光事業に必要な顧実サービス精神が欠如している。このよ
うな場合、彼等とどのように効率的に仕事をやっていったらよいのか?
謝辞
我々のプロジェクトに対する、英国の環境食料田園局(DEFRA)および国際文化交流機関(小規模環
境プロジェクトスキーム(SEPS)Ⅲの資金提供とご支援を感謝する。またブローズ管理局および
VisitNorwich の協力、とくに研修ツアープロジェクトの实施に関わる協力を感謝する。さらにカバンス
ク地区政府、カバンスク自然保護区、地元企業、学校、地域会員の方々、旅行業者、プロジェクトに
参加してくれた全ての人々にお礼を申し上げる。
参考文献
参考資料は、Baikal Wave のウェブサイト http://www.baikalwave.eu.org/Oldsitebew/humimp.html.から取り
出したものである。
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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
Clear Water 2000 バートン湿地の再生~皆が楽しめる水空間の創造~
Daniel Hoare, Andrea Kelly, Trudi Wakelin & Julia Masson
Broads Authority, 18 Colegate, Norwich, NR3 1BQ, UK
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要旨
2005 年、ブローズ管理局は、自然を蘇らせ、人々の楽しみを増すべく、バートン湿地を健全で魅力的
な状態に再生す「Clear Water 2000 プロジェクト」を開始した。プロジェクトの総費用は 330 万ポンド
で、その第 1 の目的は、水質改善のためにリンを多量に含む 30 万トンの泥を除去し、湖の生態系管理
を实施することによって、湖の水生生態系を回復することにある。
本プロジェクトを实施する過程で、ブローズ管理局によって設立されたバートン連絡協議会は、地元
の利害関係者間の合意に基づいた取り組みを進め、バートン湿地帯の持続可能な管理のための共通の
ビジョンと計画を策定した。この中には、自然および文化的な遺産、舟遊びなどのレクリエーション、
地域の生活基盤、など湖(湿地)の価値と重要性が盛り込まれている。
再生計画の实施によって、湖の富栄養化をもたらしていた栄養分の流入が大幅に減尐した。また、最
新の技術を用いることにより、水の透明性や、植物の成長を回復させることができた。また、あらゆ
るタイプの舟が航行できるように空間と深さが確保された。浅い湖の場合、栄養分が減尐するのに 1520 年の時間が掛かるので、再生プロジェクトが長期的に成功するには利害関係者の継続的な参画と支
援が必須である。このレポートは、ブローズ管理局が、WLV の原則に沿って、バートン湿地をどのよ
うに再生させてきたか、その概要を述べたものである。
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はじめに
バートン湿地は、英国東部にある約 60 の浅い湖からなるユニークなブローズ(湿地帯)の中の 2 番目
に大きな湖である。地元でブローズと呼ばれるこれらの浅い湖は、中世にグレート・ヤーマス海から
北海に注ぐ 5 つの低い川に沿って掘り返された泥炭地に、水が溜まってできたものである。バートン
湿地は、77ha の広さがあり、ノーフォークの北東部、湿地帯を通って流れるアント川の渓流にある。
湖は、英国国立公園協会の一員であるブローズ管理局が管理している。同管理局は、自然保護、航行
の安全確保、および住民の余暇提供、という 3 つの法的責務を持っている。バートン湿地の水空間、
周囲を取り囲むヨシ湿地、湖岸を縁取る木々などによって、この地は自然と人々の両方にとって特別
なものになっている。
バートン湿地の生物多様性の重要性は、英国だけでなく、国際的にもよく知られておりおり、保全の
ための法整備が進んでいる。アントブローズ・湿地帯(バートン湿地はその中の主要な目玉となる湿
地の 1 つである)は、国から科学的に興味ある特定地区および国立自然保護地区に指定されている。
また EU においては、EU の生息地および鳥に関する取り決めによって、特別保全湿地および広域特別
保全地域とみなされている。さらにバートン湿地は、ラムサ-ル条約のもとで、水鳥の生息地として
国際的に重要な湿地であると認定されている。
バートン湿地の水空間は、セーリング、貸しボート、釣りなど、レクリエーションを楽しむ場として
も重要であり、その歴史は 100 年以上にも遡る。また、バートン湿地は、遊園ボートや、ウォーキン
グやサイクリングなどの陸上レクリエーションの場としても重要である。バートン湿地は、さらに、
湿地帯の最高の景色を楽しみ、野生動物とのふれあいを経験したいという人々にとって人気の高い目
的地の 1 つとなっている。
247
バートン連絡協議会は、利害関係者が湖の管理に積極的に参画・関与する基礎となるものである。関
係者の中には、法定・非法定の保全団体、レクリエーション利用者グループ、および地元住人などが
いる。ブローズ管理局は、各々のグループにバートン湿地の水空間保全の計画策定とその实施に関す
る業務を割り当てた。計画作成の基礎になった考え方は 「バートン湿地は全ての利用者にとって重要
である」ということであり、各グループはこのことを念頭に置いたうえで、野生動物や未来世代の楽
しみのための水空間を確保するために、必要な管理上の課題や事業を確認していった。この計画の主
要な目的は、バートン湿地を保全していくための統合的で持続的な取り組みを示すことにある。
湖が直面する課題と問題
アント川の低地集水域は、大半が耕作地として農業生産に利用されている。バートン湿地は、川の流
れに沿っているので、下水処理場からの分も含めて集水域からの栄養分が流入し、必然的に湖の沈殿
物にはリンが蓄積されていった。過去の記録や沈殿物の成分の研究から 20 世紀の半ばまでは、多くの
水生植物や、きれいに澄んだ水で繁殖する動物がいたことが分かっている。しかし、バートン湿地は、
栽培富栄養化による汚染が進み、1980 年代には、植物プランクトンが水生生態系の大部分を占めるよ
うになった。また、いろんな環境負荷が重なった結果、浅くてレクリエーションの場としても人気の
高かったこの湖は、全ての水生植物種と周辺のヨシ湿地帯の大部分を完全に失うことになった。
この時、上流域の下水処理場から川に流れ込むリンの負荷を減らす作戦が始まり、湖に流入してくる
量も激減した。さらに水質調査を進めた結果、栄養分を大量に含んだ沈殿物からのリンの放出が、湖
内部の重要な栄養分供給源になっており、なかでもリン酸塩はアオコ増殖の原因になっていることが
分かった。このことを念頭において、ブローズ管理局は、バートン湿地のきれいな水を取り戻すため、
全湖再生計画を開始した。その主要な対策は、湖の底にある栄養分を多く含んだ沈殿物を除去するこ
とにあった。
戦略と対策、その結果
Clear Water 2000 プロジェクトは 1995 年に始まったが、その主要な目的は以下のようなものであった。

水質の改善

安全航行に必要な水深と水面積の拡大

水生植物の再生促進のための清浄水域の設置

野生動物が棲みつくための生息地湖を湖の内外に創生

訪問者のための通路(陸路、水路)や施設の改善

訪問者の理解を深めるための科学的な説明
プロジェクトの内容は、ブローズ管理局の任務や付託事項だけでなく、補助金団体の要求にも配慮し
て決めていった。外部から多くの資金援助がなかったら、同管理局は、これらの事業を实施できなか
ったからである。アングリアン水道会社(地元の水関係の会社)、環境局、英国法定環境監督機関な
どのパートナー団体も、上流の下水処理場における高度リン酸塩除去手法の導入や、科学的な調査や
水質モニタリングに協力してくれた。
プロジェクトには、環境教育のための淡水生態学研究センターを設置することも含まれていた。湖の
ほとりには、陸上から見学でき、かつ教育的な機会を提供するために長さ 600mの説明書き付きの板
張り道路が、木の茂った生息地を通って建設された。また水空間を上方からも楽しめるように展望台
が設けられた。さらに、環境に優しい遊覧を一般の人に味わってもらうために、英国最初の乗実船
「Ra」号に乗り、ガイドが説明するツアーも用意されている。
248
湖からは 30 万トンの土砂が吸引浚渫によって除去され、湖内部のリン酸塩の供給源が減尐した。さら
に水深が深くなったので船の航行の安全確保が確保された。この工事が完了するのに 6 年を要した。
浚渫された土砂は、近くの耕作地で有意義に利用された。計算によれば、20 年近くの流入量に相当す
る 50 トンのリン酸塩が除去されたことになる。浚渫工事が行なわれている間、年間の平均リン酸塩濃
度は年々減尐していった。实験によれば、浚渫後、堆積土砂からは、工事前と比べて 50%以下のリン
酸塩しか放出されておらず、浚渫は、水柱のリン酸塩の濃度低減に十分効果があった。さらに藻が減
尐し、水の濁りも尐なくなった。
しかし、バートン湿地は、湖本来の生態系が極度にこわされて、水中植物のほとんどが消滅し、魚の
数も減尐し、周期的にアオコが発生するような状態になっていたので、生態系を再生させるためには
さらなる対策が必要であった。バートン湿地には藻を食べる動物プランクトンやミジンコのような個
体群が尐なかったので、これらの個体群を増やすための手法としてバイオマニピュレーションが選択
された。この方法は、水柱の藻の濃度を自然に抑えるのに有効である。通常、バイオマニピュレーシ
ョンにおいては、動物プランクトンを食する魚を除去するのであるが、バートン湿地には自由な航行
が出来るよう、広い航路があるので、湖全体でこれを行うことは困難であった。そこで、2 列のうきで
水柱に保持した PVC を塗布した柔軟なポリエステル障壁を用いて、孤立した入り江、即ち「囲い水域」
を本湖から分離して作り、電気漁獲法と呼ばれる方法で、魚を網に捕獲した。魚は、一時的に目を回
していたようだったが、ゆっくりと本湖に移されると、しばらくして元気を回復した。
図
生態系管理地域で使用された魚の侵入を防止する障壁(厚さ 0.53mm)
人々がバートン湿地を見て、楽しみ、学ぶことができるように、訪問者の通行を改善することは、
Clear Water 2000 プロジェクトの目的の 1 つであった。英国最初の太陽電池可動の Ra 号に乗船すれば、
だれでも革新的なート旅行が楽しめる。この船には車椅子でも乗船できる。訪れた人々は、車椅子で
通行可能な散歩道を通って、古風で、やや湿っぽい「carr」の茂みを抜けると、湖の端にある展望台へ
行くことが出来る。バートン湿地のすぐ下流の How Bill にあるノーフォークブローズ学習センターは、
緑色の新しい建物で、そこには教育目的で訪れる人たちのために最新の施設が備えられた。
活動の成果
再生事業プログラムの完了後、最初に見られた成功の証は、湖の全体にわたって水(水柱)が澄んで
きたことである。魚を遮断した生態系管理地域では、魚の個体数が減尐し、動物プランクトンが大量
に増加した。ミジンコのような大型プランクトンは効率的に藻を食し、今では、夏場になると水底の
土砂がはっきり見えるほど透きとおっている。
囲い水域では水中植物が繁殖した。これは、水が澄んだこと、魚障壁によって背後の風や波の影響を
受けないので堆積土砂の表面が安定したことによると考えられる。水が澄んだおかげで、2005 年には、
30 数年ぶりに水生植物が、魚障壁の外側でも育ってきた。これは生態系管理手法の成果であり、この
自然再生が今後とも続くことを期待している。
249
浚渫によって平均 0.43m、航行深度は、冬場で約 2m、夏場は 1.5m以上深くなった。深くなった上に、
以前は多くの船が通行できなかった浅い周辺部も浚渫されたので、航行可能な面積が増大した。Clear
Water 2000 プロジェクトの結果、湖の 3 分の 1 以上(28ha)が航行可能な水辺となり、レース愛好家
だけでなく初心者もその恩恵を受けている。
得られた教訓
この浅い湖の再生手法として、かくも大規模な土砂除去戦略を实行するためには、事前に、「集水域
からの栄養分、特に点源汚染源からの栄養分の流入が減尐した」という適正な科学的証拠が必須であ
った。このようなデータを採集するためには、環境機関と親密なパートナーシップを結び、協力して
作業を進めることが必要であった。定期的な水質モニタリングデータは、意思決定プロセスを支援す
るとともに、その後の再生の成果を評価することを可能にした。
湖沼保全の取り組みの成果として、我々は快適な余暇の楽しみを味わえるようになった。取り組みの
成果が、自然環境と人間活動の両方に恩恵を与える場合、その成功はさらに広範囲に实感されるもの
である。利害関係者と地域住民に計画作成とその实施に参画してもらったのは、それによりプロジェ
クトが全員で共有され、長期にわたる成功を保証できる、という事をねらったものである。このよう
な取り組みは、将来、湖の利用者間で起こるかもしれない紛争を、持続的な方法で処理するための透
明性の高いしくみを提供する。再生の取り組みによって新たな分野で紛争が発生し、そのために関係
者が集まってその問題解決に当たる必要があるかもしれない。水中植物が大量に増殖し、快適な水空
間の価値を損ねる可能性もある。特に、ヨットやモーターボートの場合、水中植物は、舵やプロペラ
に付着して問題になるかもしれない。今後の取り組みを決めるのはバートン湿地連絡協議会の役割で
ある。湖とその周辺は、自然と人間の相互作用を通じて今後も進化し続けるのである。バートン湿地
連絡協議会は、将来紛争が起こった場合、合意形成を通じて解決していくための 1 つのしくみである。
今後の展開
バートン湿地の管理を歴史的に見ると、しばしば多くの競合する利害が並存し、各々が自分たちだけ
の目的を達成しようとしてきた。今日、ブローズ管理局は、「WLV の原則は、管理を成功に導くため
の意思決定をおこなうために必須なものである」と考えている。同管理局は、バートン湿地の水空間
保全計画を策定するために、地元の利用者グループや団体と緊密に協力してきた。2006 年に完了する
予定のこの計画は、湖の利用と景観に関する現状を総括・評価するとともに、将来の再生事業の重点
化を行い、10 年以上にわたって再生事業を支えてきた利害関係者の継続的な対話の枞組みを提供して
いる。
水生生態系に対する過度の栄養分負荷や、その他さまざまな圧力に対する持続的な解決策を得るため
には、最終的には総合的な管理戦略が必要となってくる。これらの問題に対する解決策は、EU 水関連
対応枞組み指針の实施をとおして实現されるだろう。最後に、我々は辛抱強くならねばならならない。
生態系の再生は長期的な目標である。浅い湖は、栄養分を減らしても約 15~20 年かけてやっと元に戻
るのであり、このような再生プロジェクトが長期的に成功を収めるためには、利害関係者の継続的な
参画と支援が鍵となる。
参考文献
Kelly, A. (2006) From Darkness to Light – the restoration of Barton Broad. Broads Authority, Norwich, UK. 20p.
Broads Authority (2006) Barton Broad Waterspace Management Plan. Broads Authority, Norwich, UK. 58 p.
250
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スロバキアにおける小規模人造湖の土砂管理対策
Libor Jansky
Environment and Sustainable Development Programme (ESD), United Nations University (UNU)
53-70, Jingumae 5-chome, Shibuya-ku, Tokyo 150-8925, Japan
E-mail: [email protected]
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要旨
小規模人造湖は、自然湖と同じく、集水域の中でさまざまな役割を果たしている。第 1 の役割は水文
学的なもので、1 年の間に降る雤を貯めるともに、洪水から地域を守ることである。これらの小規模人
造湖に貯えられた水は、水力発電、飲料水の供給、農地の灌漑など多方面に利用される。湖や貯水池
の水質や水量に影響を与える重要な事象の 1 つが、上流から流されてくる土砂の堆積である。この論
文は、スロバキアにおける小規模人造湖(貯水池)における土砂堆積の問題を述べる。この報告を持
続的な湖沼管理の原則の観点から見ることにより、土砂管理に関するいろいろな示唆が得られる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
はじめに
小規模人造湖:歴史、定義、機能
人間によるダム建設の歴史は 5,000 年前に遡る(UNESCO-WWAP, 2003)。ヨーロッパでは、歴史上記
録されている最初の小規模貯水池の建設は 15~16 世紀に始まった(Jansky and Jakubis, 2005)。19 世
紀になると、木材運搬用の「closure」と呼ばれる貯水地の建設がヨーロッパの各地で盛んになった。
水力発電施設は、20 世紀の初めに建設が始まったもので、歴史的には最も新しい水事業である。ダム
建設に用いられている技術は、当時としては非常に進んだ建設法であり興味深い。ダムのいくつかは
アンバーセン式のコンクリートダム(バットレス・ダム)である。
18 世紀の中央ヨーロッパは、水施設建設の黄金時代であった。スロバキア領土内に現存する大規模な
水管理システム(貯水池やダム)の一部は、この時期に建設されたのもである。このような水施設の
誕生とその発展は、この地方で金や銀の採掘が急速に進んだことによって拍車がかかった。システム
の設計や特性には、当時の最新の工学技術が利用されていることがわかる。これらの技術を使って、
8.5~30mの高さのいろいろなアースダムが建設された。中でも有名なのは、1747 年に建設された
Rozgrund ダム貯水池(高さ 30.5m)であろう(Abaffy and Lukac, 1991)。
ヨーロッパでは、貯水池は最も重要な人造湖である。1 万以上の重要な貯水池があり、その総面積は
10 万 km2 以上を占めている(Kristensen and Hansen, 1994)。貯水池は、貯水量によって大規模貯水池、
小規模貯水池に分けられる。一般には、大規模貯水池はコンクリートで造られ、小規模貯水池は土で
造られる。国によっては、所定の技術標準に基づいて、さらに詳細な貯水池(ダム)建設に関する土
木工学的な仕様が決められている。チェコ共和国およびスロバキアでは、貯水能力 200 万トン以下、
水深 9m以下、排出流量 60 トン/秒以下のダムが小規模貯水池に分類される。
小規模貯水池はいろいろな機能を持っている。雤水の流れを速め、集水域全体の水収支を改善し、降
水の有効な利用を可能にし、地域を洪水から守り、魚の産卵場所となり、また余暇の場所を提供する。
また、生物圏の気候や環境を局地的に決定する重要な要因の 1 つとなる。しかしながら、このような
小規模貯水池の機能が認識されるようになったのは、つい最近のことである。それ以前には、主要な
関心は、飲料水供給と灌漑目的にあった。
251
湖と貯水池が直面する問題
土砂堆積:小規模貯水池にとって極めて重要な問題
湖や貯水池にはいろいろな機能があるが、その利用と保全に影響する決定的な要因は、水量、水質の
2 つである。
土砂堆積は、貯水池の水量・水質の両方に影響する重要な問題である。土砂の堆積は、多くの場合、い
ろんな自然事象と上流での人間活動の複合的な結果として起こり、貯水池の貯水能力を減尐させ、そ
の運転に支障をきたす。このことは、技術的には貯水池の有用年数が短くなることを意味する。さら
に、堆積した土砂により水がせき止められるので、貯水池の上流部での洪水制御能力の低下、継続的
な環境の質の低下(蚊などの繁殖場となる)、衛生条件の低下、貯水池内レクリエーションの機会の
減尐、貯水池施設の流量制御障害などの問題を引き起こす。
世界ダム委員会の報告書【World Commission on Dams(2000)】によれば、毎年、土砂堆積が原因で、
世界の貯水地の水が、推定で 0.5~1%失われている。また土砂堆積は小さなダムほど被害が大きくな
っている。照合調査によれば、この 25 年間に实施されたプロジェクトを検証した結果、その 10%で、
貯水能力の 50%以上が土砂堆積のために失われている。たいていの河川が、浮遊負荷や底質物を運ん
でいるが、その中にはしばしば、重金属、化学薬品、その他の有害物質が含まれている(UNESCOWWAP, 2003)。浮遊土砂の全量は、世界全体では毎年 510 億トンにもなる(Walling and Webb, 1996)。
戦略と实施された対策
スロバキアにおける小規模貯水池の土砂対策
土砂堆積は、スロバキアにある 200 の小規模貯水池で深刻な問題になっている。現实に起きている問
題の詳細は、33 の事例を対象にした土砂の堆積過程に関する最新の研究の中で明らかにされている
(Fulajtar and Jansky, 2001)。解析結果によると、年間の平均土砂堆積量(浮遊・底質の両方を含む数
年間の平均値)は、貯水池 1 つあたりで、10.4~44.2 トン/km2 となる。調査された貯水池の堆積土砂量
は、全貯水能力の 4.8~83.6%にもなる。土砂堆積による貯水量の低下は、100 年の設計寿命での予測
値に対して、年間 0.32~9.3%になる。
1980 年代までのスロバキアでは、小規模貯水池の土砂管理といえば、必要な貯水能力を保つことを目
的に行われる定期的な土砂除去のみであった。土砂除去は、平均 15 年に 1 度必要であると考えられ、
国がその予算措置をした。これは、旧チェコスロバキアの中央集権的な水管理制度からきたものであ
った。国家計画経済から市場経済への移行とそれに伴う地方分権化のプロセスは、この 15 年、この国
の発展を特徴づけるものとなったが、古い水管理、特に土砂管理は、経済的にも組織的にも立ち行か
なくなってきた。
その結果、従来の小規模貯水池の土砂対策を変更するか、あるいは代替策を見つけなければならない
ということが、スロバキアにおける重要な問題として浮上してきた。アースダムであることや、他の
構造上および機能的な特性から見て、小規模ダムは自然湖と多くの点で共通点がある。関連する最良
の湖沼管理事例、ならびに WLV が示している持続的な湖沼管理のための主要な原則(ILEC-UNEP,
2003)は、スロバキアの山間部地域にある小規模貯水池の土砂管理問題の代替解決策を見いだすため
の基礎となる。
252
湖沼务化の原因をとり除くことを目指す、長期的・予防的な取り組みを推奨している WLV の原則 3 は、
特に希望を与えるものであり、参考とすべきであろう。国内の集水域卖位ごとに行なわれた調査によ
って、集水域の全非植生地域面積と過去数年間で堆積した土砂量には重要な関係があることが分かっ
た(図 1、Fulajtar and Jansky, 2001)。このことは、集水域レベルで、植生を進め、持続的な資源の利
用と管理のメカニズムを導入していくことが、土砂除去に代わる、あるいはその補完的な対策になる
ことを示している。土砂除去は、問題に対する対症療法でしかない。過去の湖沼管理の経験は、有効
で持続的に湖沼管理を進めるためには、WLV の 7 原則を考慮に入れた集水域管理システムへの大きな
変革の第 1 歩として、予防原則の適用に取り組まなければならないことを示している。
Annual accumulation of sediments [m3]
8000
y = 976 - 83,1 x + 18,63 x2
6000
r2 = 0.615
4000
2000
0
0
10
20
30
2
Nonforested watershed area [km ]
図1
スロバキアの集水域における小規模貯水池の年間堆積土砂量(縦軸)と
非植生地域面積(横軸)との関係
(Fulajtar and Jansky, 2001、Haigh et al., 2004)
得られた教訓
中央ヨーロッパで現在实施されている水管理制度は、それが作られたとき、その時点で最新の科学
的・技術的知識と、その時代その地域に存在していた社会経済的・政治的な制度のもとで設定された
開発目標と環境基準をもとに設計されたものである。しかし、科学知識、望ましい開発の定義、さら
にそれを達成するための代償として何が許容されるかなどは時代と共に変化してきた。これらの変化
は、現状の制度の運営において、また新たな水管理制度を設計するにあたって考慮されなければなら
ない。
土砂堆積は、湖沼や貯水池が持っている機能や役割に打撃を与えているものとして、世界各地で大き
な問題の 1 つになっているが、スロバキアにおいても、山間部にある小規模貯水池で特に深刻な問題
となっている。これらの地域における土砂堆積の進行に関する最近の情報によれば、小規模貯水池に
おける土砂堆積は、生態圏の状態や事象、集水域で行われる人間活動の累積的な影響の結果である。
土砂堆積の問題に対する解決策は、これらのことを踏まえて追求され、検討されなければならない。
253
この国では、過去 10 年にわたる社会経済的、政治的、および制度的な変化があったので、小規模湖沼
に関する現行システム、特に、土砂管理のシステムの再評価も必要になっている。
小規模湖沼や貯水池における土砂堆積過程の調査結果は、山の斜面部への植林や、流域をベースとす
る管理などの予防的な対策が、現行の貯水池土砂問題に対する取り組みの代替対策、あるいは補完対
策になり得ることを示している。しかしながら、これらの代替案、あるいは環境税のような他の代替
案の有効性は、参加型の取り組みの中で、地域の住民や関係者が、専門家と協議しながら検討する必
要がある。その時初めて WLV が現地のニーズに応えるものとなる。
参考文献
Abaffy, D. , Lukac, M. 1991. Dams and Reservoirs in Slovakia. ALFA, Bratislava (In Slovak).
Haigh, J. M., Jansky, L. & Hellin, J., 2004. Headwater Deforestation: A Challenge for Environmental
Management, Global Environmental Change, Human and Policy Dimension, 14, 1, 51-62.
Fulajtar, E. & L. Jansky. 2001. Soil erosion and soil conservation (In Slovak). Soil Fertility Research Institute,
Bratislava.
Jansky and Jakubis. 2005. The mining ponds of Banska Stiavnica: Large-scale technology transfer 300 years ago.
In: Coopey, R., H. Fahlbusch, N. Hatcho & L. Jansky (eds.). 2005. A History of Water Issues: Lessons to
Learn. UNU Tokyo, p. 13-19.
Kristensen P. & H.O.Hansen (Eds.) 1994. European Rivers and Lakes – Assessment of their Environmental State.
Environmental Monographs 1. European Environment Agency, Copenhagen.
UNESCO-WWAP. 2003. Water for People, Water for Life. The UN World Water Development Report.
UNESCO Publishing, Berghahn Books, Barcelona.
World Commission on Dams. 2000. Dams and Development. A New Framework for Decision-Making. Earthscan,
London.
Walling, D.E. and B.W. Webb. 1996. Erosion and Sediment Yield: A Global View. In: D.E Whalling and B.W.
Webb (eds.). Erosion and Sediment Yield: Global and RegionalPerspectives. Wallingford, International
Association of Hydrological Sciences, Publ. No. 236.
ILEC-UNEP. 2003. World Lake Vision: A Call to Action. ILEC, Shiga.
254
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サンロケ湖集水域の環境再生支援オラン草原地帯における森林景観の再生
(アルゼンチン、コルドバ州)
Teresa Moncarz, MLA, Andrew Hamilton Joseph
プログラム・コーディネーター、Asociación Civil Los Algarrobos
25 de Mayo 376 (5178).
La Cumbre Provincia de Córdoba – Argentina
Email:[email protected]、www.acla.org.ar
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要旨
アルガロボス市民協会は、持続可能な開発という思想の普及に努めている NGO で、主として砂漠化防
止や貧困の減尐に取り組んでいる。我々は、アルゼンチン・コルドバ州のプニラ峡谷に広がるサンロ
ケ湖の集水域で「サンロケ集水域再生支援プログラム」という総合的な取り組みを推進している。こ
のプログラムは、文化・産業開発局の資金援助を受けており、アルゼンチンのコルドバ大学、カナダ
(オンタリオ)のゲルフ大学と共同で实施した予備調査とその結果にもとづいて進められている。
サンロケ湖集水域は、陸地に囲まれたコルドバ州のプニラ峡谷に位置する 1,750km2 の流域で、豊富な
天然資源と美しい景観に溢れる自然環境を有している。近年、観光産業の発展がめざましく、地域の
発展に大きく貢献している。その一方で、この地域は、環境、経済、社会が、深刻かつ複雑に絡んだ
重大な局面に直面しており、特に森林の消失は、地域経済にとってきわめて明白な脅威となっている。
この影響は、峡谷で暮す住民だけでなく、その下流にあって、サンロケ湖集水域を飲料水供給源とす
る人口密集地、首都コルドバの 180 万人にも深刻になっている。
サンロケ集水域再生支援プログラムは、1)集水域の統合的な管理計画の实施、2)被害を受けた森林
の再生、3)農業、放牧、観光産業の影響調査、4)公式・非公式に行なう教育、などの活動に精力的
に取り組んでいる。その目的は、自然の生態系の機能を守りつつ、開発と保全を両立し、社会的・経
済的な要求にも対応できるような合理的な資源の活用を实現することにある。森林再生プログラムは、
現行の土地利用計画の中に森林を組みこむもので、A)被害を受けた森林の再生、B)河川地区の植生
の推進、C)雤水による侵食の低減、D)生物多様性の増大、E)洪水の減尐、F)現地農民への農林技
術の普及、などの成果が期待される。
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はじめに
天然資源に対する人間の要求を満たしながら、それらをバランスよく、統合的に管理し、利用するこ
とによって、我々は、さまざまな利害関係の調和をはかり、環境への負荷を軽減させてきた。アルガ
ロボス市民協会の使命は、このアルゼンチンの乾燥・亜乾燥地帯において、持続的な開発を推進、实
施、達成することにあり、具体的には、地域住民の能力向上の促進・強化につながる活動や取り組みを
展開することによって、砂漠化の防止、森林の持続的な利用、田園部・都市近郊地域の人々の生活様
式の変革を進め、それらを通して人々の生活の向上を目指すものである。
この数年間に、集水域環境の現状調査と、それを補完する森林の管理と再生に関する現地調査が、地
元関係機関(コルドバ国立大学、国立農業技術研究所(INTA)、コルドバ環境局)と海外機協力機関
(グランド・リバー保全局、ゲルフ大学(ともにカナダ・オンタリオ州))などと協力して实施され
た。これらの調査結果を受け、アルガロボス市民協会は、進行する環境被害を食い止めるために、
2001 年「サンロケ集水域再生支援プログラム」を提案した。それ以来、このプログラムの進展によっ
て集水域内の環境は大きく改善され、我々の戦略的計画も定着してきた。
255
この提案は、持続可能な経済発展のための基盤を築く集水域の管理プログラムで、その基礎になるの
は、要求を正しく評価し、解決策を提供できる計画作りである。このプログラムには、財政的な支援
と技術移転の両方が必要となる。土地利用の改善とそのための教育活動が必要なことは明らかであり、
集水域内の各地で、必要な対策が計画の進行に合わせて速やかに实施された。
集水域における有害な影響の多くは、土地利用に関する不適切な政策決定もしくは实践の結果もたら
されたものである。住民に充分な情報がゆきわたり、政策決定とその实施に、住民があまねく参画し、
責任を取るようにしなければいけない。政府と地域住民は、協力して解決策を見出すことができるし、
そうなって初めて、健全な環境を支えるシステムを作り出すことができる。アルガロボス市民協会は、
オラエン(Olaen)草原地帯を森林景観再生のパイロットプロジェクトを实施する最適な場所と考えた。
集水域内における大きさと地理的位置から、そこをモデルに、最善の土地利用实践地域のネットワー
クを作り、事業を拡大することが、環境や社会に与える影響の点から重要であると考えたのである。
湖と流域が直面している問題と課題
サンロケ湖集水域は、コルドバ州の中西部のプニラ峡谷にあり、单緯 30 度 58 分~31 度 37 分、西経
64 度 25 分~64 度 45 分に位置している。この谷は、北から单に向かう長さ 70km の構造的な窪みであ
り、西側はグランド(Grandes)山(2364m)、東側はチカス(Chicas)山(1260m)に囲まれている。
河川は 4 つの支流域を形成しており、海抜 600m のサンロケ湖で合流する。主流は、北から单に流れて
いるサンフランシスコ・コスキン川と单西から北東に流れているサン・アントニオ川である。これら
の 2 つの主な支流の合流点はプリメロ(スクイア)川の源となっている。1939 年に建設されたサンロ
ケダムは、合流地点を氾濫させ、川岸の生態系を変えた。
気候は穏やかであるが、最高、最低温度は、それぞれ 45℃以上、-5℃になることもある。すなわち
50°以上の絶対的な温度変動があることになる。毎年、周期的な乾季と雤季の時期があり、年間の平
均雤量は 700mm である。高地(altipampas)では、夏期(11 月から 5 月)の雤量が時には 1100mm に
達することがあるが、それ以外では長い乾季が続く。山の植生は、高度、経度、および日照時間の程
度により 3 段階に分かれる。海抜 650m~1350m の間は山林原野、1300m~1500m の間は低木もしくは
潅木地、そして 1500m~2300m の間は森林地帯となっている。
サンロケ湖集水域には、プニラ峡谷で暮す人口(260,000)の 85.6%が住んでいる(これはプニラ地方
の 70%にあたる)。しかしながら、夏や冬休みには、観光実が来るので人口は 250 万に達するかもし
れない(この地域は、アルゼンチンで二番目に重要な観光リゾートである)。観光産業は、主要な経
済活動であり、この地方の景観と環境に拠るところが大きい。第二の経済活動は牧畜であり、わずか
な差で農業、鉱業、その他製造業などがそれに続く。
以下に示すのは、流域全般に共通の問題であるが、特にサンロケ湖流域で重要なものである。多くの
流域で見られる問題であるということは、提案されたプログラムの中でも示されているように、解決
策の实行が迫られており、かつ重要であることを物語るものである。
土地利用:頻発する火事、森林伐採、不適切な農作行為などのために、生物多様性の減尐、土壌务化、
浸透水の減尐と地下水の充足不足、氾濫水の増加とその被害、湖や河川の堆積物増大、洪水の頻発と
被害の拡大、河川の基底流量と水供給量の減尐、水生生息地の縮小・漁獲高の減尐などを招いた。
256
水質汚染:家庭・工場・車両などから大気中に放出されるガス、農薬・肥料・塩類・糞尿などの農業
汚染物質、栄養分・重金属・石油化学製品・バクテリアなど処理が不充分な汚水による汚濁物、ゴミ
埋め立て地など、これらの汚染源が、レクリエーション・観光・水生生息地の価値、上水道の水質、
経済の持続性、生活の質を低下させている。
過度の水使用:水は明らかに限りある資源であり、特に半乾燥地では特にそうである。水の需要は人
口と共に増大し続ける。その結果、さまざまな水利用者間や異なる地域間で対立が起きる。
このような流域の务化によって、サンロケ湖集水域とコルドバ市の将来に向けた成長と経済発展、環
境持続性と生活の質は、危険に晒されている。
我々が提案するプログラムは、流域管理に関する以下のような原則に基づく。
 水は、人にとって、最も基本的な需要であり、他の需要を満たすために必要である
 水は、経済成長と持続性、生活の質、多様で豊かな農業を制限する要因である
 水は、政府、地域住民、あらゆる階層の意思決定者の共有責任である
 水は、その絶対的な重要性と枯渇性を考慮したうえで、フルコスト原則にもとづいて価格設定さ
れなければならない。適切な価格設定は、保全活動を促進し、必要な取り組みや基盤整備を支援
するものである。
水や土壌回復のような環境商品(生態系サービス)について、それらの経済的価値を定量的に定める
方法が無い中で、この最も不可欠な要素である「水」を我々は守らなければならない。この点におい
て、集水域管理は我々の最も有望な希望である。
環境の务化を阻止するための努力の多くは、あらゆる問題や課題に同時に取り組むような、無理なや
り方をしたために失敗に終わっている。我々は、体系的な解決策につながる総合的な取り組みを毀損
しないように、いくつかの重要な問題に絞って集中的に取り組むことを提案した。問題の選定にあた
っては、カナダの国際開発研究センターの資金援助を受けて 1993~94 年に实施された、コルドバ国立
大学(アルゼンチン)、ゲルフ大学(カナダ)、アルガロボス市民協会の共同予備調査の結果を参考
にした。集中的に取り組まれるべき問題として選定された問題は以下の 4 つである。
 流域管理に関する全体計画の欠如
 環境に対する意識と理解の不足、有害な慣習の名残(牧草地改善のために火を付けることなど)
 観光産業の経済的、社会的、文化的、環境的な持続可能性に関する情報不足
 土壌浸食の進行
戦略と取り組まれた対策
我々は、上述の 4 つの問題を解決するために、以下に示すような取り組みを段階的に進めて行くプロ
グラムを提案した。
流域管理計画の作成:すべての地域住民、全行政関係者が参加して作成する。地域の経済と環境の持
続性を改善するために、流域の特徴を明らかにし、ニーズを分析し、一連の活動を設定する。
環境教育プログラムの支援:流域管理計画の重要性を明確にするために、学校、公式・非公式の教育
プロジェクトを通して、地域住民の自覚を促し、指導にあたる。
257
持続的な観光産業プログラム:同産業に従事する従業員や作業員を訓練し、地域の経済的な活力を持
続させるための革新を押し進める。
流域再生プログラム:地域全体、特に農村地域で、实演、研修会、情報提供、現地指導などを展開し、
最良の管理慣行の採用を奨励する。
この取り組みの最も重要な成果の 1 つは、下水の不十分な処理に起因する水汚染が改善されてきたこ
とである。コルドバ州当局は、サンロケ湖流域の再生支援策として、流域内の下水処理能力を大幅に
改善すること、具体的には、この提案の 5 年の期限内に、流域の重要な箇所に 3 つの新しい下水処理
場を建設するための資金調達を約束した。その目的は、未処理下水が、集水域の表流水システムのど
こにも流れ込まないようにすることにある。これは、非常に野心的な挑戦であるが、サンロケ湖流域
の完全な再生にとって不可欠である。
流域管理計画の大切な役割は、計画の实行状況の評価や必要に応じた計画変更を支援するためのフィ
ードバック機構として、指標や監視システムを確立することである。
国際的な観点からみると、この提案は、国連で喫緊の課題であると認定されている以下のような問題
に取り組むものである。
気候変動:広範囲な植林、浸食の減尐、草地の増大によって、二酸化炭素が大量に吸収される。
生物多様性保全:この提案されたプログラムは多くの負の影響を打ち消して生物多様性を豊かにする。
砂漠化防止:半乾燥地域は、砂漠化の影響を最も受ける。農場と牧場における最良の管理慣行の採用
は、砂漠化の防止に有効である。
湿地保全:チキタ湖は、アルゼンチン、およびラムサール湿地の中で、最も大きな内陸水体である。
この湖(湿地)は、コルドバ市の下流にあるので、サンロケ湖流域のどんな改善もこの世界的に重
要な湿地にとって有益である。
サブ・プログラムⅣ:流域の再生(オラエン草原地帯における森林景観再生プログラム)
提案されたプログラムの中で、このサブ・プログラム IV は、あらゆる最善の保全慣行の採用を奨励し、
社会森林学、農林業、生物多様性保全、環境農業の要素を取り入れることによって、異常に高くなっ
た土壌侵食の程度を改善することを目指すものである。この取り組みは、自然生態系にある天然資源
の保全と持続的な利用を進める手法の 1 つとして「森林景観の再生」という考え方を普及させること
を狙ったもので、国際自然保護連合(IUCN)の資金協力を得て行なわれた。プロジェクトでは、土地
の不適切な利用に基づく荒廃を食い止めるためのパイロット事業が行なわれ、後に他の集水域で同じ
ような取り組みができるように、住民を巻き込んで、模範地域が作られた。
プロジェクトの实施には、土地区画慣行の変更や山林管理の採用などが必要となる。このためプロジ
ェクトの中では、特に、教育、研修、およびモニタリングに力が入れられた。
集水域のなかで最も代表的な 5 つの地域が選定され、その牧歌的な地域環境や生態系の破壊を食い止
めるための景観再生モデルが策定され、その实現に向けた取り組みが实施された。最初のテスト地域
として選ばれたのはオラエン草原で、プロジェクトの核をなす 5 つの地域の中では西方に位置する、
面積 38,000ha、海抜 900m~1300m の高原である。この地域の経済活動は、牧畜と鉱業、小規模農業で
あり、長年の急斜面での不適切な慣行の結果、土壌侵食のような環境問題がおきている。
258
一般的に、森林の荒廃と伐採が進む原因は、経済的な力と地域の事情に関係する。地域の山岳環境に
合った、儲けの多い材木種の植生に取り組むことは、自分達の生産計画に林業を組み入れることであ
り、牧畜業者にとって、有望な経済的代替案となった。同時に、林業導入による経済的な利益は、彼
らが、森林保護と、提案されたモデルの長期的な实践に取り組んでいくことを保証することになる。
統合的な取り組みを進め、森林景観再生モデルを展開していくために必要な農・林業対策が検討され、
併せて、作物の循環生産、牧草の育成による効率的な牧畜生産を实現し、新しいシステムの導入によ
る利益増大を目指すという中期的な生産計画を内容とする経済ビジョンが作成された。
地域住民の参画と意欲、および広範な参加型の取り組みは、取り組むべき問題や、活動計画の策定と
实施に対する理解を得る上で重要かつ鍵となる要因であると考えられ、またそのことが証明された。
また、全工程を通して、活動計画策定を支援するかたわら、人々の欲求や要求を積極的に取りこむこ
とに務めた行政と技術者たちの間のチームワークは、プロジェクトを实施するうえで大きな力を発揮
した。国際自然保護連合(IUCN)からの多額の資金援助と、アルガロボス市民協会の資金・現物の両
面にわたる協力は、プロジェクトの实施を支えた。
活動の成果
プロジェクトを实施するための最初のステップは、5 つの対象地域の関係者、市や州の職員に対して森
林景観再生事業への参加と決意を促すことであった。このため、すべての地域で公式・非公式の会合
や研修会を開催した。このなかで、住民が参加した研修会は、彼らの関心、不安、優先事項などにつ
いて直接情報を入手する場となると同時に、プロジェクトに対する反応を得るのによい機会となった。
入手した情報とデータをもとに作成されたオラエン草原森林景観再生モデルの草案は、関係者や政策
決定者に送られた後、関係者によって討議された。続いて行なわれた多くの会合の場では、関係者か
ら、懸念、質問、期待などが出された。これらの多くは、森林事業の経済的な持続性に関連したもの
で、このモデル事業がもたらす環境改善効果やサービスに関する質問は尐なかった。このことは、オ
ラエン草原地域では、貧しい生活環境が、最大の心配の種であることを物語っている。
コルドバ環境局は、プロジェクトを成功させ、継続的にプロジェクトを实施していくための最も重要
なパートナーとなった。同局は、生産・労働省と協力して、州の植林事業と森林振興計画を作成し、プ
ロジェクトの法的な枞組みを作った。プロジェクトに正式に参加したオラエン草原の土地所有者は、
作付け卖位面積のうち、所定の最小面積以上を植生地にすれば、さらに資金援助を受けることができ
るようになった。作付け卖位という概念は、小面積の土地が多くあるオラエン草原において、関係者
がこのモデル事業をやり通していくうえで重要な鍵をにぎることになった。事实、この概念は、森林
振興計画の恩恵を受ける関係者の間の連携を促進することになった。さらに、最近可決された州法に
おいて、農業目的で作付け地の樹木を全部伐採してしまうことが禁止された。このことは固有林およ
び植林地の保全・保護にとって重要な対策となっている。
これに加えて、新たな州営の苗床が、サンロケ湖集水域の近郊で造られている。この苗床は、サンロ
ケ湖集水域の自治体職員によって管理されており、コルドバ環境局の担当者が、監視と支援を行なっ
ている。3 年もたてば、この苗床から、良質で低コストの苗木が供給されるようになるだろう。
259
関係者、現地機関などの行政当局、アルガロボス市民協会のメンバーの協力によって、森林景観再生
モデルの最終案が出来上がった。ついで、具体的な行動計画がオラン草原地域の関係者に配布され、
プロジェクトが实施された。
プロジェクトでは、オラエン草原地帯の田園地域に特有な環境問題を解決するために、「植生と森林
再生」「山火事防止対策」「持続可能な農業・牧畜慣行の实践」「体系的な土地利用の实施」のよう
な 4 つの事業領域におけるプログラムが決定された。これらは、实施の枞組みが出来次第、順次实施
される。
事業領域 1:植生と森林再生
植生と森林再生は、森林再生計画を实施するうえで最も重要な対策の一つであり、樹木が尐なく、土
着、外来の樹木を植生できる可能性が大きな地域で特に有効である。これによって現地の農家や牧畜
業者が、経済的な代替案として木材生産を行なうことができ、地域の伝統的な経済活動に加えて補完
的に大きな収入を得ることができる。
事業の实施地域では以下の原則が守られる。

プロジェクトの設計にあたっては、自然保護、水文学、景観再生の原則を尊重する。

土壌浸食を抑えるために継続的に植生を進め、可能な限り土地の植生被覆率を上げる。

固有の生態系を増大させるために、土着種の利用をできるだけ促進し、外来種の利用を最小限に
抑える。

セラーノ森林(Bosque Serrano)の固有植物の生育地の自然を守るために、出来る限り、地域植生
再生の原則に従う。

可能な限り種の多様性を図る(卖一植生を避ける)。

植生密度を変化させる。

適切な植物群が、垂直分布するように植生を進める。

土砂や栄養分が水路に流れ込んで汚染しないよう、自然植生あるいは樹木の緩衝地帯を設けて、
土砂や栄養分を捕捉し、利用する。

再生事業では、窒素固定植物を出来る限り使用する。
植生事業は、それぞれの事業实施区画で、まず関係者による現地視察を行ない、4 つの異なる環境で、
その土地に最も合った、素性の良い、良品質な植生を段階的に進めた。
充分な水がなく、また去年の夏以来旱魃が続いていたので、成長や根付のスピードを考えて、自然条
件(降雤量、高度、最低気温など)に早くなじむ外来種の植生から始めることにした。例えば、川辺
の再生には、柳やポプラを控えめに、また建物に近くて家畜が出入りするところには、材木価値の高
いニセアカシア、黒クルミ、ナラなどが植えられた。
植生活動には多くの人々が参加した。参加者は、アルガロボス市民協会が用意した苗木を植林し、ま
た、その健全な発育のために必要な仕事をすることに賛同した。彼らは、同協会の技術者や専門家か
ら植林について事前に研修を受けた。プロジェクトの第 1 段階として、2004 年に、まず 11 箇所で
6,000 本以上の植物が植生された。山火事の被害にあった土着林の修復や、山の急斜面での植林などは、
参加者が植生体験を獲得した後、今後、段階的に進められていくことになっている。
260
得られた教訓
オラン草原における森林景観再生プロジェクトは、アルガロボス市民協会の会員と、参加した関係者
や地域住民の双方にとって、困難ではあったが十分やりがいのある経験となった。複雑で、過密な工
程の推進役を果たしてきたアルガロボス市民協会の会員は、プロジェクトはまだ初期段階で、ほんの
小さな経験にすぎないけれども、得られた成果は非常に勇気付けられるものであると考えている。参
加した関係者は非常に情熱的で、森林景観再生の取り組みの継続な实施に熱心である。パートナーシ
ップとネットワークが、プロジェクトの成功に非常に有益であることが証明された。またさらに大き
な成果として、「指導者プログラムと地域間協力に関する協定」がオンタリオ集水域(カナダ)とサ
ンロケ集水域(アルゼンチン・コルドバ)の間で締結された。この協定には、コルドバ環境局、アル
ガロボス市民協会(アルゼンチン・コルドバ)とグランド・リバー保全局(カナダ・オンタリオ)が
調印した。
この協定のサンロケ湖集水域にとってのメリットは、次の 4 つの対策を展開するとき、技術的な協力
や資金調達支援が得られることにある。1)集水域管理の枞組みや手引書の作成など集水域計画の策定。
2)学生やその両親などを対象とする環境教育プログラム。3)集水域全体での水利用や下水処理の計
画・实施を含むような持続的な観光事業や、観光事業を通じた持続的な文化育成育。4)森林景観再生
プログラムやその刺激策の拡大や普及などを通じた、集水域の自然にとって適正かつ最適な農業活動
を奨励するための集水域再生プログラム。以上のことを考えると、オラン草原で实施された森林景観
再生プログラムの経験は、集水域レベルでの同様な活動を展開するための基盤になったといえる。
今後の取り組み
我々は、これまでの活動を通じて国内外で戦略的な連携を強めてきた。これは、今後のプログラムを
進めるうえで非常に重要である。サンロケ湖集水域環境再生支援プログラムの出発点になったオラエ
ン草原における試験的な試みは次第に拡がりを見せ、地域内で勢いを持ってきた。この意味で、今年
度の活動は、今後の展開における分岐点となる。この取り組みを、サンロケ湖集水域の他の自治体に
拡大し、各自治体に取り組みの目的を理解させ、同じような活動に取り組んでもらうことが必要にな
る。このような展開を確实に進めるために、プロジェクトの初期から行なわれている効果的な取り組
みが進んでいる。そのような取り組みには、一般住民の意識啓発活動、生産者、関係者、教師、観光
業者などの能力向上・研修活動、関係者と協力して補完的な提案を作成する活動などがある。最後の
活動は、いろいろな機関の力を結集して、技術的な支援や経験を地域に提供することによって、地域
の特定の問題に対して解決策を見出すことを目的とするものである。最後にもう一つ重要なのは、あ
らゆる種類の広報活動や参画運動を利用して、普及と伝播に務めることである。
現在、次のプログラムで取り組むべき内容を討議するための会議「健全な集水域の重要性:開発と持
続性」の準備が進んでいる。この会議には、サンロケ湖集水域の関係者、研究所や各種機関の代表、
メディア、およびカナダのグランド・リバー保全局の関係者などが集まることになっている。会議の
終了後には、グランド・リバーの管理者や専門家が出席して、技術移転に関する専門家会議を開催す
る予定である。グランド・リバーの管理者や専門家は事前に、現地の専門家や生産者の案内でプロジ
ェクトの現場を視察する。プロジェクトの成果を結实させるための第 3 の取り組みは、「生物多様性
保全センター」の設立プロジェクトである。このプロジェクトは、環境教育と持続的な観光事業のプ
ログラムを補完するものである。
261
参考文献
262
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
住民参画と権限委譲による漁業保全管理計画の策定・適用・監視活動
(フケネ湖、コロンビア)
Mauricio Valderrama B. & Sandra Hernández B.
Fundación Humedales Calle 106 A N° 22ª-10 Bogotá, Colombia
www.fundacionhumedales.org fhumedales@fundaciónhumedales.org
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
要旨
WLV の原則 7 は、「良好な統治、透明性、全ての利害関係者への権限付与は持続的な湖の管理に必須
である」と述べている。本事例は、单アメリカ大陸北アンデスにあるフケネ湖(コロンビア)におい
て、漁業保全管理計画の策定を通して得られた経験、結果、展望を、WLV の原則 7 の視点から述べる
ものである。フケネ湖は、面積 30km2 の湖で、单アメリカ大陸で最も危機に瀕した生態系の 1 つであ
る。伝統的な漁業が行なわれてきたが、2005 年までこの地で漁業の管理・保全のための計画が策定さ
れたことはなかった。
この報告では、利害関係者と漁業管理局との協議を通じて、両者の間に明確な理解が出来上がった経
緯を中心に述べる。具体的には、採用した戦略、实施した対策、得られた教訓として、参加型の地域
診断の取り組み、漁場調査への住民参加と調査結果の共有、保全・管理に関する当局との合意の確認
と両者の対話チャンネルの設置などを述べる。今後、漁業管理保全計画に対する住民や地域の要求を
实現するために、生態系重視と住民参画という基本理念のもとに、1)共同管理に関する合意の確認と
2)継続的なフォローアップ(調査活動)の 2 つの取り組みが实施される予定である。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
はじめに
フケネ湖は、コロンビアの北アンデス地域にあり、单アメリカ大陸の湿地生態地域の一部である。こ
の地域は、コンサベーション・インターナショナルによれば、熱帯アンデスの中で最も絶滅の危機に
瀕した場所であり、保全の優先順位は高い。フケネ湖は、高度 2,530m、面積 30km2、あまり深い湖で
はないが、飲料水、水産資源(魚、鳥、イグサなど)、水上交通、レクリエーションなど、多くの自
然のサービスを提供している。
フケネ湖の流域は、過度の森林破壊の影響を受けている。原生林や二次林は、地域のわずか 5%しか
無く、90%が牧草地や農場である。この 30 年間に、湖の平均水深は 2m以上浅くなり、流入する水量
は 40%減尐した。今では富栄養化がかなり進行している。この急激な富栄養化によって水草が急増し、
このままいけば 10 年後には湖の 82%を覆ってしまうだろう。主要な汚染原因は、下水、牛乳加工工場、
牧場からの排出水などである(JICA, 2000)。
フケネ湖とその周囲には 181,000 人の人々が暮らしている。そのうち、105,000 人が田園部、残りの
76,000 人が市街地に暮らしている。この地域の主要な経済活動は、家畜の飼育、農業、乳製品製造な
どである。ある推定によると、この地域には、171,000 頭の家畜が草を食べ、大小さまざまな 50 の乳
製品製造工場がある。水需要、固有種・絶滅種など生物の多様性、湿地の地域・国にとっての重要性、
天然資源に依存した経済活動のことを考えると、この湖を適切に保存・管理する必要性は明白である。
フケネ湖では、古くから漁業が行なわれており(Cabrera, 1957)、食料源の確保および地域の収入源と
して漁業は重要な産業であったが、漁業を管理保全するための取り決めは長い間何もなかった。漁業
管保全理計画は、2005 年に、漁業管理当局と関係者の間ではじめて協議が行われ、その必要性が明確
に理解されるまで待たなければならなかった(Valderrama and Hernandez, 2005)。
263
ここでは、漁業保全管理計画を策定し、適用するにいたるまでの経緯、結果、展望を中心に、漁業や
漁業資源、その他さまざまな問題について、WLV の原則 7 と関連させながら述べる。この原則が述べ
ているように、良好なガバナンス、透明性、全ての利害関係者への権限付与は、持続的な湖の管理に
必須である。
湖が直面する課題
漁業の現状
フケネ湖には 2,000 人近くの漁師がいると言われており、48 人が専業漁師で、残りは兼業漁師である。
兼業漁師のうち、69%は漁業を主要な仕事としているが、他のものは、家畜を飼ったり、農業をした
り、イグサ工芸品を作ったりしている。漁業から得られる毎月の平均収入はわずか 68US ドルと非常
に尐なく、法定最低賃金の半分以下にすぎない。現在の漁獲の対象は、3 種の固有種(ナマズ、小さな
熱帯魚、蟹)と 2 種の外来種(鯉、金魚)である。湖からの水揚げは年間 19 トンで、36,000US ドルに
相当する。漁獲高の最も多いのは鯉で、次にナマズである。全漁獲高のうちの 36%は、主として地域
の家庭で食される。この地域では 1 人あたり年間 53.3kg の魚を食べており(国の平均は 6kg)、魚が
食の中心を担っている。たいていの漁師は刺し網を使うが、中には釣り糸を使ったり、手づかみや、
銛を打ち込む者もいる。銛を使う場合は、木製のカヌーに乗って行なう。一回の漁で平均して 1 日
7.2kg の漁獲がある。一般に、漁は夜間に行なわれ、漁が終わると魚類は港に直接運ばれるか、貯蔵さ
れる。鯉の場合、木製の箱に貯蔵され、需要が旺盛なときに販売される。どんな場合でも冷蔵されて
いるので、売られるときにも新鮮である(Valderrama and Hernández, 2005)。
ナマズの個体数は健全な状態にある。漁では、通常、成魚を捕獲しており、またその死亡率は、管理
保全計画で提唱されている生物学的な基準値と比較しても尐し低い値になっている。このことから、
漁獲圧力があるにも拘わらず、ナマズは、尐しずつ増えていくと考えられるが、現在の個体数を保っ
ていくためには、予防原則を適用していくことが賢明である。というのは、ナマズの個体数に影響す
る環境因子については分かっていないことが多く、事实、このナマズは、既に絶滅危惧種に指定され
ているのである(Mojica et al., 2002)。鯉は、最も頻繁に捕獲されているが、乱獲には到っていない。
しかし、個体数を増やすためには、若い鯉、特に産卵期の鯉の漁獲を減らすような保全対策を定めな
くてはいけない。鯉やナマズと同様に重要な金魚については乱獲が進んでおり、金魚の個体数を維持
するための管理が必要である。一方、熱帯魚や蟹の漁はまだあまり行なわれていない。これらについ
ては、種の現状と将来について適切な調査や研究をしたうえで捕獲を奨励することもありうるだろう。
漁業の問題点
漁獲高は、この 15 年間で 1990 年に報告された漁獲高と比較して 50%減尐した。このことは、湖が提
供してくれていた自然のサービス(漁業資源の活用と食の確保)が大幅に減尐したことを意味し、漁
師は、他の経済活動を探すことを余儀なくされている。これは、生態系の問題であるとともに、フケ
ネ湖の漁業資源とその利用に関わる多くの問題の一つでもある(Fundación Humedales, 2005)。
現在、漁業を脅かしている主要な問題には、汚染、運河の建設・修理による流量規制や水循環の変更、
土砂堆積よる貯水能力の減尐、漁場や船着場への到着を困難にしている富栄養化と水生植物(特にホ
テイアオイ、水中大型植物)の移入がある。他には、外来魚の持込や乱獲の問題がある。さらに、漁
業資源の利用状況について総合的な情報が、行政から長い間提供されていないことも問題である。
264
その他、漁業活動の妨げになっている問題としては、住民の貧困、住民の社会的組織の欠如、環境管
理局と利害関係者間の対話手段の欠落などがある。このような状況の中、ウメダレス財団(Fundación
Humedales)は、後述する漁業保全管理計画の策定・实施につながった住民の教育と参画を進めるプロ
ジェクトを 2003 年に開始した。この取り組みは、フケネ湖の統合的な管理に向けた貢献の一つである。
取り組みとその成果
地域の漁師を巻き込んで計画を策定していくために、以下の 3 つの対策が实行された。

住民参加による田園地域の診断を实施する。

地域住民の参加による漁業調査を行なう。

管理と保全に関する合意を形成し、それを漁業当局に報告する。
国立農村開発機構漁業局(スペイン語の略称名 INCODER)と協力して、住民参加による地域診断が
2004 年に实施された。この参加型の手法は、地域住民が、湖の重要な問題に取り組み、地域にとって
ふさわしい解決策や地域のための発展策を考えていく基本的な手法となった。この診断によって、地
域住民の社会的な組織化が遅れていることが、この地域で参加型管理に取り組むうえで大きな障害に
なっていることがわかった。これを受けて漁業管理局は、住民の社会的な組織化をおし進める提案を
積極的に受け入れ、組織の設立方法やリーダー選出の手法などに関する研修会を開催した(Fundación
Humedales & INCODER, 2005a)。このような努力の結果、2006 年、ファンダドレス漁業協会が設立さ
れ、地域住民の参画と教育の取り組みが正式に開始された。
田園地域の診断に続いて、参加型漁業調査が实施された。この調査には漁師たちも参加して、湖に棲
む魚種の推定や現状調査(Fundación Humedales, 2004)、魚網使用法の見直し(Fundación Humedales &
INCODER, 2005b)、さらに漁獲高調査(Fundación Humedales, 2005)が实施された。2004 年には、予
備的な住民会合が開催され、2005 年には、漁業者全員の参加によるワークショップが開催され、全員
で守るべき合意内容が確認された。このワークショップでは研究者から調査結果が報告され、問題点
や管理の目的などが討議され、当局と合意した保全管理対策が承認された。そこでは以下のような管
理目的が確認された。
a) 漁業資源と環境保全を中心とする管理保全方法を確立し、フケネ湖の再生と保全に貢献する。
b) 漁業資源の多様性と持続性を守り、その利用から生ずる経済的、社会的な利益を確保する。
c) 住民のために食の確保を保証する。
d) 漁業関係者の経済的な収入増大を戦略的に進め、彼らの貧困と社会的疎外の状況の打開に努める。
守るべき合意内容を確認したワークショップの結果は、漁業局(INCODER)と環境局(CAR)に報告
された。続いて、漁師住民、ウメダレス財団、および漁業当局からなる漁業管理委員会が立ち上げら
れた。委員会は、第 1 回目の話し合いで、フケネ湖の漁業活動を規制するために、次のような保全管
理対策を決定した。
a) 漁業資源の持続性と地域の食の確保を保証する。
b) 漁業活動の現状を改善する。
c) 利用者と環境当局との対話を促進する。
d) 漁業関係者の経済的な収入の増大に務める。
265
得られた教訓
当局の対応は遅い:参加型の取り組みや教育が始まったとき、参加者は、環境局と漁業局に、もっと
有効な対策の实施を迫ったが、多くの場合、彼らは、住民の要求に適切に対応できなかった。当局は、
新たな状況を理解し、新たな局面に対する対応するための措置をとる必要があったが、このことは容
易ではなかった。
教育水準の低さが参加型の取り組みを制限する:漁師たちは、自分たちの能力が低く、また組織され
ていないために、教育と参加の活動が進まないということに気が付いた。教育活動と能力向上のため
に時間を割かなければいけないことがわかっても、そこまでの気になれず、多くの漁師が活動から離
れていった。しかしながら、漁師の中には、時間とお金を犠牲にしてまで、能力向上のための活動を
継続した漁師もいる(多くの場合、自分で教師に授業料を払った)。
直近の要求と将来の解決策との調和を図ることの必要性:住民は「多くの湖沼管理対策は、その成果
が現われるのに中長期的に時間が掛かる」ということをなかなか理解できない。メンバーの中には疑
念を持つものも出てきた。漁師の要求は急を要するが、湖の解決策はそうではない。この現实をどう
打開するかが、参加型管理の取り組みを継続的に進めていくための緊急の課題である。
調査活動に参加した住民の高い能力:参加型調査は、一つの明確な教訓を与えてくれた。「漁師たち
は、試料の採集技術や情報処理の基本手法を学び・応用する非常に高い能力を有している」というこ
とである。さらに、調査結果や提言を受け入れる住民の増加によって、活動の妥当性がより高まった。
今後の取り組み
生態系保全と参加型の取り組みによる漁業保全管理計画の实施に向けて
漁業保全管理計画の策定によって、適切で实行可能な管理保全対策を实行しながら、地元や地域の要
求に応えていくための汎用的な手法が明らかになった。中でも 2 つの主要な手法(共同管理に向けた
合意の確立と、フォロ-アップ活動(参加型モニタリング)の継続的な实施)が推進されている。
共同管理は、フケネ湖の漁業資源を保全管理するために提案されているシステムである。このシステ
ムは「利用者、行政機関、研究機関、および地元住民の代表が協力し、意見を出し合いながら規則や
政策決定を進めていくプロセス」と定義できる(Berkes et al., 2001)。共同管理は、天然資源の新たな
保全と管理の戦略であり、当局、地域住民、その他の関係者が、ともに天然資源を分かち合っていこ
うとするものである。このシステムは、自分たちの生活様式や生計獲得手段に直接関係する事項につ
いて政策決定に参画できるという点で、利用者にとってメリットがある。一方、行政にとっては、事
務処理費用の削減になり、また当局への質問や不満を抑えることもできる。
2006 年の第 2 半期には、漁師たちと漁業管理局との間で新たな合意がなされ、以下のような共同管理
の取り組みが始まる予定である。
a) 漁業規制遵守の取り締まり
b) 統計データの収集
c) 参加型調査プロジェクトへの参画
d) 合意事項のフォロ-アップ
e) 研修、教育活動への参加
f) 参加型取り組みによる政策決定
266
漁業監視活動は、広範な人々の参加と生態系保全を基本とする参加型モニタリング制度である
(Fundación Humedales & Instituto Alexander von Humboldt, 2006)。このプロジェクトは、2006 年に活
動を開始し、活動の進行、資金の状況、湖の問題、などに対応した戦略や管理対策を決めるための必
要な情報を提供していくことになる。また、参加型モニタリングでは、住民と環境管理局との新たな
意思疎通の手段を検討中である。
現在、ウメダレス財団は、これらの活動を支援するために、GNF Living Lakes の支援を受けて情報セ
ンターを建設中である。我々は、地域住民参加と漁民教育が、もっと効果的な湖の管理につながると
期待している。このためには、生態系保全と参加型の取り組みが必要であり、これらはすべて WLV
の原則 7 に含まれている。
謝辞
漁業管理計画の实行にあたり、たえず支援してくれた漁業局(INCODER)とフンボルト・アレキサン
ダー局(Institute Alexander von Humboldt)に感謝する。またフンダドレス漁業者組合には、現地調査
や保全管理の合意確認にあたって、多大な協力と便宜を図っていただいた。
参考文献
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Valderrama y Hernández. 2005. Propuesta para un plan de ordenación pesquera en la laguna de Fúquene.
Fundación Humedales, Serie Divulgación Técnica (1): 13p.
267
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世界湖沼ビジョンの目標の達成をめざした
チャパラ湖集水域における森林管理の経験
Alejandro Juárez-Aguilar
Corazón de la Tierra, A.C.
López Cotilla #749-301, Col. Americana
Guadalajara, Jalisco. México CP 44160
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要旨
チャパラ湖は、メキシコ最大の湖であり、ラテンアメリカにおいても 3 番目に大きな湖である。湖は、
最大で 8 億トンの水を貯えることが出来るが,その深さは最深部でも 8mに過ぎない。チャパラ湖のあ
るレルマ・チャパラ流域は、メキシコで最も水利用が進んだ地域で、主に農業灌漑(80%)と都市・
産業用水に使われている。チャパラ湖は、さまざまな問題に直面しているが、中でも水の減尐と湖底
の堆積物は大きな問題であり、1980~2000 年にかけては 100 万 ha の自然植生が失われた。全体として、
流域では満足な管理がなされてはおらず、特に生態系の過度の利用と貧困が問題となっている。
2001 年、10,700ha にわたる「コンディオ・カナル山の持続的な開発プログラム」が始まった。同山は、
年間 7200 万トンの水を供給しており、21 の小さなダムや 50 の深い谷を通じて、17 の村と 2 つの都市
を潤しながら、チャパラ湖に注ぎ込む。このプログラムは、湖沼流域を対象に、人間と自然の間に調
和的な関係を醸成するとともに、プログラムへの住民の直接参加をとおして住民の能力向上を促す、
という WLV の原則を適用する良いモデルとなった
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はじめに
チャパラ湖はメキシコ最大の湖であり、ラテンアメリカにおいても 3 番目に大きな湖である。5 つの州
にまたがり、経済、人口、および生産においてメキシコで最も重要な集水域の 1 つであるレルマ・チ
ャパラ集水域の一部を湖が形成している。海抜 1,525m にあり、5 州のうち 2 つ(ハリスコ、ミチョア
カン)の州が湖をとり囲み、表面積 1,140km2、最大 8 億トンの水を貯蔵できるが、浅い湖で最深部で
も 8m の深さしかない。
レルマ・チャパラ流域は、メキシコで最も水利用が進んだ地域で、主として農業灌漑(80%)と都
市・産業用水に使われている。この水利用の影響を受けて湖に流入する水量は変動し、湖の水位の自
然変動が助長される。また変動の頻度が増すとともに、変動の程度も大きくなっている。チャパラ湖
の水量は、2002 年には(最大容量)の 13%まで減尐したが、2003~2004 年の雤季に異常に多量の降雤
があり、水量は回復した。チャパラ湖は、漁場として、また湖の周囲とメキシコ第 2 の都市グアダラ
ハラに住む約 400 万人の水源として、さまざまなサービスを提供している。さらに地域の気候調節に
も重要な役割を果たすとともに、20 種類もの異なった植生からなる森林の維持に貢献している。また、
多くの固有の魚類(この 50 年間で大きな被害がでているが)が生息しており、さらに、まだ未開発で
あるが、観光資源としても大きな可能性を秘めている。この湖の特徴は、水が濁っていることであり、
それが生態系プロセスに強く影響している。研究者の報告によれば、湖の栄養化状態は、プランクト
ンよりも、浮遊物質に付着して魚に食されるバクテリアで決まる。一方で、この泥質は、汚染物を湖
底に沈め、水中の濃度を減尐させることによって、汚染防止に一定の役割を果たしているのである(1)。
湖が直面している問題と課題
チャパラ湖を脅かしている問題には、水量減尐、外来種(ホテイアオイ、クロサギの 1 種)、固形沈
積物、農薬、家畜の糞、都市排水に起因する汚染などがある。
268
3 つの主要な原因が、これら湖の問題を引き起こしている。第 1 は、過度の水利用であり、湖に流れ込
む川(レルマ川、デュエロ川など)からの分水、11 の巨大ダムでの貯水、湖からの直接取水などがそ
の原因である。水利用の 80%が灌漑用途であるが、その大部分が、水を張るだけの卖純で、非効率的
な利用が行なわれている。国家水委員会などの分析では、灌漑水の 80%が誤った利用をしており、す
ぐに蒸発してしまっているとのことである。これによって湖の水量変化が加速され、1992~2002 年の
10 年間で最悪の事態が起こった。
第 2 の原因は、生ぬるい管理が原因で大量に流入してくる、農薬、産業廃棄物、家畜排泄物、都市廃
棄物などである。主要な汚染物質は、リン、窒素や有機物である。尐量ではあるが、重金属も湖の数
箇所で検出されている(2)。流域では大量の森林伐採も進行しており、国家環境事務局(SEMARNAT)
の計算によれば、1980~2000 年に流域で、100 万 ha もの植生が消失している。1800 年以来、全自然植
生域のうち、60%が消失した(3)。それによって洪水が頻発し、森林の土壌浸食が進行した結果、湖底
の堆積物が増大している。水文学的なプロセスにも大きな影響が出ている。
水の減尐、汚染、侵入種が相まって、生態系にも大きな影響がでている。流域は、国家生態系保存委
員会(CONABIO)によって「水陸学的重要地域」に指定されており、保全の重要性を考えると多くの
問題を抱えている(4)。数箇所で水が流れておらず、1 年の大半が干上がっている川があり、そこでは
植物や動物の生存が困難になっている。
上述のような状況を引き起こしている 3 番目の原因は、保全や土地管理の問題に人々がほとんど参画
していないことである。一般の人が情報を入手できる機会は非常に尐なく、社会的、生産性、自然保
護などの問題に取り組む組織はほんのわずかしかない。
連邦政府は、1980 年代に、水利用に関わる問題解決と合意形成のためにレルマ・チャパラ流域協議会
を結成したが、その意図に反して、協議会の場は政治的な道具として見られ(またそのように利用さ
れた)、水の分配に終始し、貯水、水質、土地利用(流域管理)の問題は無視された。また参加者
(都市の利用者、産業界、農民と 5 つの州政府の代表)の意見の対立により、連邦政府は非常に慎重
なアプローチをとったために変革は進まなかった。そのような状況のため、漁民や小作農など貧困な
グループにはほとんど参画の場がなく、地方政府も参加しなくなり、生態系の営みを保証するために
必要な水流の問題も無視された。全体として土地管理はほとんど行なわれておらず、あるのは生態系
サービスの過度の利用と貧困である。
戦略、対策とその成果
Corazon de la Tierra は、チャパラ湖の問題に 1999 年から関わっている。当時、1995 年から湖の水量が
減尐し続けていたため(2002 年に最悪時を迎え、最大貯水量の 13%まで低下した)、いろいろなグル
ープ(大学や市民団体)が湖の将来について不安を抱いていた。
2000~2002 年にかけて、水位低下は致命的な状況に陥り、グワナファト州の灌漑農民とハリスコ州の
環境団体の間ではげしい衝突が起こった。敵味方に分かれ憎み合い、お互いを攻撃しあった(宠伝合
戦)。環境団体が出した解決策は、グワナファト・ダムから水を取り湖に戻すというものであったが、
それには農民が強く反対した。レルマ・チャパラ流域協議会は、この問題を部分的には解決したが、
そこには多くの政治的な側面が含まれていた。
269
我々は、自分たちの内部勉強会において、この状況を分析し、連邦政府や(流域協議会の)関係者に
よって实施された解決策にいくつかの問題点を見出した。即ち、これらの解決策は、地方政府と住民、
漁民、雤水に依存している小作農たちの間で意思決定を行なうという過程を含んでおらず、また河川
に水を再補充する森の役割や、貧困と生態系破壊の間の関係を全く考慮していないという点である。
このような点を考慮して、我々は、チャパラ湖の流域に広く適用できるようなモデルを構築した。そ
れは、住民参加(人々の参加を促進し、彼らが自分たちの土地における生態系秩序の回復に深く参画
できるように教育すること)によって、森の再生、保全と持続的な利用を实現しようというものであ
る。我々の目標は、そのような取り組みが、中長期的な地元の住人の合意を生み出し、また彼らの生
活の質的な向上になるということを实践してみせることであった。
このモデルは、コンディーロ運河山に適用された(ハリスコ州チャパラ湖の北部にある山で、面積
107km2、水文学的面積 400km2)。この山からは毎年 7,200 万トンの水が流れ出し、21 のダムと 50 の
深い谷を潤し、17 の村落と 2 つの町の人々に水を提供し、チャパラ湖に流れ込んでいる。この山は、
耕作地を作るための伐採や傾斜地での焼却、牛ややぎの過放牧などによって、この 40 年間に大きな打
撃を受けた。この山地を取り囲む平地は、生産性の高い土壌に恵まれているにも拘わらず、山の内外
に貧困が広がっている。非効率的な耕作活動や中間搾取、住民の組織化の遅れなどによって、収入の
減尐が続き、米国への移住者の割合が 80 年代から増加している。
コンディーロ運河山の持続的な開発プログラム
「コンディーロ運河山の持続的な開発プログラム」は、2001 年の 10 月に 3 つの目標(生態系の改善、
社会の改善、生産性の改善)をもってスタートした。それぞれの目標には、問題の診断と優先順位付
け、代替案の分析と選択、プロジェクトの企画、対策案の構築、責任の割当て、資金の探索、プロジ
ェクトの实施と評価などが盛り込まれている。現地住民の教育は、直接的な参画によってのみできる
ため、これら 1 つ 1 つに住民参画が必須である。これまでに、以下のような成果が得られた。
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住民も参画したコンディーロ運河山の社会的・生態学的な診断
問題と原因の明確化(11 地域で实施)
問題とその経緯の歴史的な分析
それぞれの地域における課題の優先順位
生産プロセスの分析、問題点の把握や代替案の創出
住民による代替案や持続可能なビジョンの提案
生産と生態系保全に関する学習と实践のための研修ワークショップ(50 回实施)
エコ・ツーリズムと土地管理に関連した分析と計画案の策定
プロジェクトへの地方自治体、州・連邦機関の参画
地域固有種の植樹(62 万本)
森林(傾斜地耕作地地を含む)の土壌保全技術の实施(740ha)により 45,000 トンの土壌の喪失を
阻止した
ヤドリギ類(Psittacanthus calyculatus)の駆除(1,500ha で实施)
下水処理施設の導入(2 つの村落で实施)
田園地の道路改修(5km)と 5 つの村落を結ぶ舗装道路の改装(12km)
住民や地方自治体の将来にとっての山(森林)の重要性強調
社会、農業、生態系の問題に対する 2 つの州立大学と外国の大学との共同研究の橋渡し
9 つの村落の統合とそれらを代表する法的な機関(Ejidos 地域委員会)の設立
地元住民から構成された消防団組織の設立
生産や社会生活に関する代替的な取り組みの推進と实践(家庭果樹園、太陽熱利用ストーブ、省
燃料型ストーブ、蒸解釜、有機肥料の製造、薬木栽培、温审など)により 200 家族が潤った
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さまざまな利害関係者が一致して協力できた核心には「水」の問題、即ち、井戸やダムの貯水量が減
尐する危険があったからである。この取り組みは、2001 年以前には考えられなかったような成果をも
たらし、また、健全な小川、井戸、湖を維持するためのプログラムの重要な要素として、健全な森を
持つことが必要であることを明確にした。このため地域の関心を呼び起こしたのである。健全な森林
管理を实施するためには、人々がそのための知識、組織、手段を確实に持っていることが必要である。
この持続的な取り組みは、ハリスコ州で 2005 年に实施された水保全事業のうちの、8 つの成功事例の
1 つに、また同じく 2005 年のメキシコにおける統合的流域管理のうちの、4 つの成功事例の 1 つに選
ばれるとともに、第 4 回世界水フォーラムの一部として行なわれた京都世界水グランド大賞の最終選
考の対象にもなった。
さらに、この取り組みの成功によって、我々は、チャパラ湖の流域で实施されていた他の 4 つの事業
(土地整備事業、2 つの自然保護地域の管理計画策定、エコ・ツーリズムを含む森林管理技術育成事業)
に参加することになった。
この取り組みは、全ての WLV の原則に強く関連しているが,中でも次の 4 つの原則に関連している。
原則 1:人間と自然との調和した関係は、湖の持続可能性にとって不可欠である。
原則 2:湖の流域は、湖の持続的利用のための計画・管理の論理的出発点である。
原則 3:湖の環境悪化の原因を防ぐための、長期的な予防的対応が必須である。
原則 7:湖の持続的な利用のためには、公平性、透明性、すべての利害関係者への権限付与を基礎と
した良好なガバナンスが不可欠である。
我々は、流域内の森林の機能を整備・回復させる取り組みから始めたが、それは、直接的には、土壌
侵食を抑え、湖底の堆積物を減らし、表層および地下の水量を増すことであり、さらに、それによっ
て生物多様性の保全につなげようとするものである。人間の要求と生態系の維持とをどうバランスさ
せるかが鍵である。人々が、食料、水、住居などの要求を満たすことが必要であるが、一方、そのた
めには、自然が有効なサービスを提供してくれることが必要なのである。このような考え方を、現地
の住民が受け入れ、それに基づいて生きていくようになることが必要である。彼らの生産活動が、メ
キシコ、グアダラハラ市などの都市に住む人々が必要とする大量の食料を提供しているのである。
この取り組みを、わかりやすく、透明性が高く、また、その中でそれぞれの責任と権利を明確にする
ためには、多くの努力が必要であった。それは、協働的な取り組みであり、現在も続いている。この
取り組みが成功するかどうかは、良好なデータ、関係者の歩みよりと教育に掛かっている。これらの
プロセスを自分たちで切り開いていくことは容易ではないが、それが唯一の实際的な道である。
この取り組みは、最終的には、知識、訓練、思考、評価、対策、解析をベースにした長期的な取り組
みを基礎にしている。事实、それらこそが、この取り組みを、深く強いものにし、他の山林地域への
移転を可能にするのであり、統合的な流域管理の促進につながるのである。その過程においては、現
地住民と管理当局との強い対話が必要である。
保全に向けた取り組みの成果
現在、5 年前に比べれば、コンディーロ運河山には健全な森がよみがえっている。他の樹木の枝に寄生
するヤドリギ類の異常繁殖は、完全ではないが、広い地域にわたって防止されている。以前侵食され
た箇所に、新しい世代の木々が次第に成長して、覆い始めている。そこには新しい土壌が現われてい
るが、もし対策が取られなかったら大部分が失われていただろう。
271
森の重要性に対する新たな良心が周辺の町の住民にも育ってきており、人々は森の保全の必要性を理
解した。プロジェクトに対して、これまで 7 つの連邦機関、3 つの州政府、3 つの大学(1 つは米国)、
4 つの市民団体、2 つの民間グループから支援があった。またこの取り組みには、3 つの地方自治体、
11 の村落、3 つの市民団体が直接参画している。この取り組みは、複雑な政治的、経済的、社会的問
題はあっても、チャパラ湖流域において、プログラムを策定し、成功裏に实施することが可能である
ことを示した点で重要である。
得られた教訓
「コンディーロ運河山の持続的な開発プログラム」を企画するのに 5 年(1996~2001)、充分な成果
を示し、このモデル事業を他の地域に展開する機会を得るようになるまでに、さらに 5 年(2001~
2006)を要した。住民が行動するためには良い方法論が必要であり、そこでは、村民や農家を教育す
ることを重要なポイントにしている。
人々がプログラムの中心であり、それはコンディーロ運河山の現地住民である。彼らは、地域を保全
し、再生し、持続的に利用していくための充分な信頼できる情報を受け取る必要がある。森がうまく
管理されれば、水は井戸や小川、湖を潤し、生物は保護され、温审効果ガスが抑えられ、雇用が促進
され、生活の質が改善する。評価、ガイダンス・調査活動は、住民の自己開発や、適切な土地利用の
促進を目指すべきである。
今後の展開
「コンディーロ運河山の持続的な開発プログラム」は、民間だけでなく、公的機関の関心を呼び、チ
ャパラ湖の他の地域でも試行されることになった(これは我々の目標でもある)。現在話し合いを進
めているが、来年は、このプログラムを Travesano 山(120km2)で展開したいと考えている。そこで
は、「チャパラ湖のための森林保全」というさらに広範なプログラムによって 2 つの山を結びつけ、
公・民の支援を受けながら、住民の参画と教育を促進していく予定である。
森林管理は重要であるが、それだけでチャパラ湖の問題を解決できないのは明らかである。水の汚染、
生物多様性の保全、農業灌漑など、複雑で困難な問題があるが、それらの解決にも、本質的には、同
様な取り組み、即ち、関係者の統合、住民の直接的な参画、信頼できるデータの確保、短期・中期・
長期にわたる明確な達成目標をもつ戦略的な計画の策定などが必要となる。我々は、WLV に通じるこ
の考えを、連邦政府、州政府、地方自治体とともに、幅広く推進したいと考えている。中でも、都市
部、田園部を問わず、生態系からの利益を享受する直接の利用者と協力していきたいと考えている。
参考文献
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Texas/Baylor University. Denton, Texas.
(2) Andrés Valdez Zepeda, Manuel Guzmán Arroyo, Salvador Peniche Camps. 2000. “Chapala en crisis,
Análisis de su problemática en la marco de la gestión pública y de la sustentabilidad”. Universidad de
Guadalajara/ Guadalajara, México.
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Secretaría de Medio Ambiente y Recursos Naturales. México, D.F.
(4) Arriaga Cabrera, L., V. Aguilar Sierra, J. Alcocer Durand, R. Jiménez Rosenberg, E. Muñoz López, E.
Vázquez Domínguez (coords.). 1998. “Regiones hidrológicas prioritarias”. 2ª. edición. Comisión Nacional
para el Conocimiento y Uso de la Biodiversidad. México.
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シャンプレン湖流域プログラム:世界湖沼ビジョンに則った行動
William G. Howland, Ph.D. and Roland (Buzz) Hoerr
Lake Champlain Basin Program
54 West Shore Road Grand Isle, VT USA 05458
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要旨
シャンプレン湖の管理に関する意思決定には一般住民が深く関与している。流域管理の取り組みは、
米国とカナダの政府、州および地域のパートナーが資金を出しあい、充分な調整を行なったうえで効
果的に实施されている。順応性のある方針が、地域の利害関係者に科学的な方法で伝達され、また充
分な説明がなされる。实施される施策は、全体として WLV(UNEP/ILEC, 2003)の原則に合致したも
のである。
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はじめに
シャンプレン湖流域は、北アメリカにある、2 国(米国、カナダ)のいくつかの州にまたがる重要な集
水域である。米国側の流域は、西はニューヨーク州のアディロンダック地方から、東はバーモント州
のグリーン・マウンテンにかけて広がっている。カナダ側では、单ケベック州の肥沃な平原を含んで
いる。流域の約 10%が湖や川である。シャンプレン湖は、州や国家間に境界線を有しているので、数
十年にわたって国際的な協力を必要としてきた。
湖が直面している問題
シャンプレン湖流域プログラム(LCBP:Lake Champlain Basin Program)は、ニューヨーク州、バーモ
ント州、ケベック州、米国環境庁、その他の連邦・地方機関、市民グループの間のパートナーシップ
である。1990 年に米国議会で設立とそのための資金援助が決まったもので、その目的は、シャンプレ
ン湖の管理と保全のための計画「行動への機会:シャンプレン湖流域の未来のための発展的な計画
2003」を实施することにある。LCBP は、シャンプレン湖流域の健全な環境と社会経済的な利益の保全
と向上を図るために、お互いに協力して活動することを目指している。
シャンプレン湖は、全体的にはきれいな湖であるが、入り江や岸辺の中には深刻な汚染が見られる箇
所もある。「行動への機会(2003)」では、4 つの最優先で取り組みむべき課題が明確にされ、それに
取り組みむための管理・保全計画が策定されている。その 4 つの課題とは、1)湖に流入するリン化合
物を削減する、2)毒性物質による汚染を抑える、3)人間への健康リスクを最小限にする、4)やっか
いな水生種の導入や拡大を取り締まる、ことである。その他、管理面で重要な課題として、魚類や野
性動物の管理、湿地・小川・水辺の生息地管理、文化の継承とレクリエーション資源の管理などがある。
リン化合物の削減
湖のいろんな場所で異常に大きなリン化合物濃度を示しており、アオコの異常繁殖などの問題を引き
起こしている。高濃度のリンは、特に浅い湾や岸辺で深刻な被害をもたらしている。この問題は、岸
辺の富栄養化現象の一つであり、局所的にマット状に繁殖したアオコは、流域の人々によるシャンプ
レン湖の利用と娯楽にとって、匂いと並ぶ大きな脅威となっている。バーモント州、ニューヨーク州
およびケベック州の当局が、莫大なお金を使って廃棄物処理や下水施設を建設したことによって、シ
ャンプレン湖の支流域に特定施設から流れ込む負荷は大幅に減尐した。特に流域の 2 大市街区域であ
273
るバーリントン(バーモント州バーリントン湾)およびプラッツバーグ(ニューヨーク州カンバーラ
ンド湾)においては、長期的に大きな改善が見られた。一方、Missisquoi 湾、セント・オールバンズ湾
や单湖においては、農業地帯に起因すると思われる過剰なリン成分が観測され、増大傾向にある。
LCBP は、現在、面源からのリン化合物の削減に力を注いでいる。
毒性物質の削減
シャンプレン湖の 2 つの地域では、他の先進工業地域の湖に較べるとまだ濃度が低いものの、土砂中
の毒性物質が懸念されている。ニューヨーク州とバーモント州では、魚の細胞中の PCB や水銀濃度を
みて、これらの毒物を生体内に蓄積されることが知られている魚種を食べないようにとの手引書を発
行した。アメリカ大陸や地球規模の水銀汚染も問題であるけれども、LCBP は、地方・地域での水銀廃
棄物を阻止・処分し、不必要な水銀の使用をやめさせることに注力した。現在のシャンプレン湖の
PCB 汚染は、操業を停止した工場に起因したものであり、最も汚染のひどい土砂は、確認後、浚渫に
よって湖底から除去された。再生から 3 年間、魚の細胞中の濃度がどの程度減尐するか監視が続いて
いる。
高濃度のリンを示す湖の浅い地域では、時折、季節ごとに発生するアオコによる毒性が問題になって
いる。ただし、アオコは 85%の水量を有し、貧栄養~中栄養状態である本湖ではほとんど発生しない。
LCBP は、アオコ群に毒性物質が発生する生態系の条件を見出すとともに、その毒性物質の人間に対す
る健康リスクを広く人々に伝えていくための研究監視プログラムに資金を提供している。
人への健康リスクの最小化
浅いシャンプレン湖では、水質低下による人間の健康に対する脅威の一つは細菌性病原体であり、
2005 年の夏にはそのために浜辺が閉鎖された。病原体の侵入源としては、農業廃棄物、不良浄化槽、
雤水・下水合併システムや下水施設からのオーバーフロー、都市部の雤水の流入などがある。
水草(雑草)の管理
侵入性の水草種は、シャンプレン湖の漁業や野生資源に深刻な影響を及ぼした。最近侵入したエール
ワイフ(ニシン科の食用魚)、ヒシ、ユーラシアノコギリソウ、ゼブラ貝などは、湖の生態系を著し
く変え、人々の湖の楽しみを危うくした。また、最近、ヤツメウナギやミミヒメウのような固有種の
個体数が急激に減尐した。他の野生動植物にも被害がでていると考えられる。
戦略と行動、その結果
シャンプレン湖管理計画「行動への機会(2003)」は、これらの問題に取り組みむための戦略と具体
的な対策を以下のように述べている。

長期にわたる物理的・生物学的な監視:湖の 15 箇所の試料採取場と 18 の支流の河口で監視を継
続し、必要な清掃作業を行なう。

調査:状況に対応して方針を調整するための重要な情報を入手するための調査(研究)を進める。

競合的助成金:競合的助成金によって、地方政府や NGO は、自分たちの地域で汚染防止対策を实
施することができる。

LCBP スタッフ:LCBP のスタッフは、技術・文化継承・教育プロジェクトを流域全体で調整する。

教育と広報活動:ウェブ、発行物、番組制作、教审発表、学校教材開発など、これらすべてが、
汚染問題に対する住民の理解を深める。
274
利害関係者の参画がプログラムを主導する
ニューヨーク州、バーモント州、ケベック州の市民諮問委員会(CAC)は、広範な住民が意思決定に
参画することを可能にし、LCBP のガバナンスにおいて重要な役割を果たしている。同委員会は、流域
の各地で多くの公聴会を主催し、LCBP の年間予算計画の策定に住民を参加させ、また定期的に管理や
予算などの重要な問題に対する助言を求めた。湖と地域の河川の「健康」に関心を持つ住民グループ
は、汚染防止活動を实施する中心的な役割を持っている。多くの場合、住民は市民諮問委員会と連携
することによって LCBP の計画策定に最初から参画しており、保全方針の決定に影響力を行使できた。
このような歴史をへて、広範な住民が、シャンプレン湖の水質改善に進んで活動するようになった。
活動の成果
さまざまな管理活動を進めた結果、以下のようないくつかの成果が得られた。
リンの削減
過去 15 年のシャンプレン湖の 13 箇所のモニタリング地点におけるリン濃度のデータと傾向を分析し、
これらの傾向や他の関連データからラ・プラッタ川は、この数年間の改善によって、目標とするリン
負荷に近づいていることが分かる。7 つの主要な支流もリン負荷の低下傾向を示しており、それらが流
れ込む湖の箇所にとっては良い前兆である。しかし、他の 8 つの支流ではこのような傾向は見られず、
むしろリン負荷は悪化傾向にある。支流におけるリン負荷は、河川流量に関係し、降雤に影響される。
毒性物質管理
関連毒性汚染物質リストには解説が付いており、直接対策に役だっている(LCBP, 2003)。最近、バ
ーモント州バーリントンの Pine Street Barge Canal とニューヨーク州プラッツバーグ近くのカンバーラ
ンド湾で、毒性物質の清掃と封じ込めプロジェクトが实施された。「Brown Fields」と呼ばれる比較的
汚染の小さい場所では、水質保全のための清掃活動と併せて、経済開発も進行している。現在進行中
の調査によって湖底や湖水における新たな毒性汚染が明らかになるかもしれない。
人々の健康保全
アオコは通常無害であり、シャンプレン湖の水面にも広く散見される。しかし、生息条件が良すぎる
と、特に静かで浅い水場ではアオコが大量に発生し、ある種の株は神経系や肝臓に害を与える毒性物
質を作り出す。このような毒性物質はシャンプレン湖でも散発的に検出されているが、まだ、どのよ
うな条件で毒性物質が生産されるのかは分かっていない。最近、アオコの発生箇所で大量の水を飲ん
だペットが数匹亡くなったことは、アオコに関係する健康リスクが増大していることを示唆している。
2002 年、2003 年の夏の終わりに、Missisquoi 湾の大部分が、大量のアオコに起因する毒性物質に汚染
され、健康に関する注意が出された。その後数年間、アオコ濃度が詳細に調査され、必要に応じて毒
性が評価された。リスクを伝えることは、人々の健康を守る重要な努力の一環である。ニューヨーク
州とバーモント州は、協力して、互いに新聞発表や注意内容を事前に知らせあい、住民の教育やリス
ク伝達法でも同じような手法を用いている。
水草(雑草)の管理
シャンプレン湖の生物相は、外来水生生物種、例えば、ヒシ、ユーラシアノコギリソウ、ゼブラ貝、
また最近ではエールワイフなどが湖に入り込んだために被害を受けてきた。これらの外来種は、湖の
275
余暇利用と自然のプロセスの両方に悪影響を及ぼしている。このような外来種は、しばしば境界を越
えて移動してくるので、それらの持込や拡大を防ぐためには、さまざまな管理機関の間の連携が必要
となる。2 州間協定、Lake Champlain Aquatic Nuisance Species Management Plan(2005)は、1999 年に
ニューヨーク州とバーモント州の間で締結され、2000 年に National Aquatic Nuisance Species Task Force
に承認され、2005 年に改訂された。この計画は、自然の価値を有する生息地を保全し、迷惑種の拡大
を防止し、新たな外来種の持込を阻止するための包括的な戦略と対策である。
得られた教訓
シャンプレン湖の保全活動を通じて得られた多くの教訓は、WLV(ILEC/UNEP, 2003)に照らして見
ることが出来る。
原則 1:人間と自然との調和した関係は、湖の持続可能性にとって不可欠である。
適用例:流域内の環境保全と社会経済的な恵みを保全し、育てていくために LCBP が設立された。
原則 2:湖の流域は、湖の持続的利用のための計画・管理の論理的出発点である。
適用例:LCBP はまさにこの原則に沿って設立された。それゆえ保全活動は、政治的な境界でなく、流
域内で計画され、实施された。
原則 3:湖の環境悪化の原因を防ぐための、長期的な予防的対応が必須である。
適用例:シャンプレン湖管理計画「行動への機会」は、汚染防止が、水質の維持のための最もコスト
的に有利な管理方法であることを完全に支持するものである。
原則 4:湖沼管理政策の立案と決定は、適正な科学と、入手可能な最良の情報とに基づいて行なうべ
きである。
適用例:LCBP は、独立した科学者・技術者の団体である技術諮問委員会(TAC)に、技術的な指導を
受けるとともに、プログラムが発行する科学技術刉行物の審査をお願いしている。TACは、最新の
科学技術の問題を熟知し、報告する責務を負っている。それゆえ、LCBP の管理政策の策定や予算配分
の優先順位づけは、適正な科学の情報に基づいたものになっている。
原則 5:持続的利用のための湖の管理では、現世代および将来の世代の需要と自然が必要とする量と
を合わせ考慮しつつ、競合する湖沼資源の利用者間の紛争を解決することが必要である。
適用例:LCBP は、総合的な流域管理計画「行動への機会」を 5 年ごとに改訂するが、合意形成プロセ
スによってこれを行う。このプロセスには広範な住民が参加し、最新の優先課題を明らかにし、これ
らの問題に取り組むための計画を策定する。計画の改訂時に新たな対策が導入されるときは、徹底的
に討議され、幅広い意見を採り入れて調整が図られる。合意形成においては、対話によって互いに目
標に合意できるように充分な配慮がなされており、それが有効に機能している。「湖内のリン濃度を
急激に削減する」といった、すべての出席者が共通の結果を得たい場合、その目標達成のための対策
について合意を形成することも可能である。
原則 6:重要な湖沼問題の把握と解決のためには、住民およびその他の利害関係者の有効な形での参
加を奨励すべきである。
適用例:LCBP 湖運営委員会は、充分な議論を経てメンバーの完全な同意を得た後に、すべての対策や
予算に関する決定を行なう。
276
原則 7:持続可能な湖沼利用のためには、公平性、透明性、すべての関係者への権限付与を基礎とし
た良好なガバナンス体制が不可欠である。
適用例:すべての LCBP 運営委員会の会合は、事前に通告され、人事や競合的補助金申請の審査状況
報告のための理事会などを除いて、原則として公開である。運営委員会の決定への住民の参加は、そ
れぞれの管轄内での市民諮問委員会(CAC)を通して行なわれる。市民諮問委員会で選出される議長
が、運営委員会での投票権を有する。運営委員会の議題には、住民代表が湖沼管理の問題について意
見を述べる時間が含まれている。
結論
シャンプレン湖流域プログラムにおいては、計画が軌道に乗るとき、管理計画のなかで新たな課題に
取り組むとき、そして实施済みの対策に重点を置かなくなるときなど、常に教訓を学んでいる。流域
における土地利用は変化するものであり、新たな侵入性の迷惑種は到来するものであり、また雤量な
ど環境パラメーターは年間を通して変化するものであるから、生態系指標の観測は厳格でなければな
らず、資源管理はそれに対応していくものでなければならない。限られた経営資源の配分に関する決
定は、最良の科学技術を利用してその情報が開示されなければならない。またそのような決定は、保
全プログラムの運営に関係者が継続的に直接参加することによって、住民の信託に応えていくもので
なければならない。
参考文献
Lake Champlain Basin Program. 2003. Opportunities for Action - and Evolving Plan for the Future of the Lake
Champlain Basin 138 pp.
Lake Champlain Basin Program. 2005. State of the Lake - Lake Champlain in 2005, a Snapshot for Citizens. 24
pp.
Lake Champlain Basin Program. 2005 Lake Champlain Basin Aquatic Nuisance Species Management Plan. 80 pp.
International Lake Environments Committee, United Nations Environment Programme. 2003. World Lake Vision
- A Call to Action. 36 pp.
277
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ケリー湖における世界湖沼ビジョンの適用
(米国・Wisconsin 州の事例)
1
Jeffrey A. Thornton, Thomas M. Slawski,1 Sara W. Teske,1 Walter Rast,2 and Michael R. Cascio3
1
Southeastern Wisconsin Regional Planning Commission, P.O. Box 1607, Waukesha, Wisconsin 53187-1607,
USA. e-mails: [email protected], [email protected], [email protected]
2
Chairman, World Lake Vision Action Report Committee; Texas State University - San Marcos, 601 University
Drive, San Marcos, Texas 78666, USA. e-mail: [email protected]
3
President, Kelly Lakes Association, Inc., 5661 S. Kurtz Road, Hales Corners, Wisconsin 53130, USA. email:
[email protected].
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
要旨
WLV は国や文化を超えた湖沼管理のための基礎であり、地球規模で、我々の水資源の持続的な利用と
保全のための目標を設定するものである。WLV は、その 7 つの原則に基づいて、人々と自然のバラン
スの必要性を強調し、湖沼管理の計画作成に市民と政策立案者の両者が参画することを求めている。
最近完了した上ケリー湖(ニューベルリン市・ウォキショー郡、ヘイルズ・コーナーズ村・ミルウォ
ーキー郡、ウィスコンシン州、USA)の湖沼と水流の再生プロジェクトは、7 つの原則がうまく適用さ
れた事例の 1 つである。ケリー湖の上流域は、非常に都市化の進んだ地域にある小さな集水域で、歴
史的な経緯によって作られた水路がある。ケリー湖協会、地方・州政府の努力によって湖の保全と管
理のための補助金が獲得され、この事例報告で述べる河川と湿地再生プロジェクトが实施された。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
はじめに
ケリー湖は、ウィスコンシン州のニューベルリン市(ウォキショー郡)の单東部、ヘイルズ・コーナ
ーズ村(ミルウォーキー郡)の西部にある。下ケリー湖は、泉が涌く 1ha の湖で、北側から流れ出て、
湿地、排水溝を通って上ケリー湖に流れ込む。上ケリー湖は、5ha の面積を持ち、流域の表流水の大部
分が流入する。また地下水も一部流れ込む。上ケリー湖は、区分がはっきりしており、プロジェクト
の舞台となった单西部の湖岸からは絶えず水が流入し、单側の湖岸からは、下ケリー湖の排水が間欠
的に流入している。ケリー湖は、長く伸びた 1 つの広い流域を形成する、最大水深 9.4m、平均水深
5.2m、容量 26 万トンの湖である。
湖が直面する課題と問題
ケリー湖流域 398 ha の土地の大部分は都市部で、一部が、湿地、樹木地帯、および自然地などの開放
地となっている。1950 年までは、湖の周囲は主として農業目的に利用され、1800 年代後半に掘られ、
整備が進んだ小川は 1 年中水を湛え、上ケリー湖に注いでいた。ケリー湖に通ずる流域の都市開発は
1950~1963 年に始まった。現在では、ケリー湖集水域の都市部の大部分は住宅地である。2000 年まで
に 3,370 人が 1,120 の住居に住んでいる。1990 年代後半になると、このような急激な住民の増加によっ
て、同地域はニューベルリン雤水管理計画において水質と洪水の危険地域として認定された(Camp
Dresser & McKee, Inc., 1998)。
278
戦略と行動
原則 1:人間と自然との調和した関係は、湖の持続可能性にとって不可欠である。
ウィスコンシン州では、水は共有物であり、水路は州の住民や米国市民に開かれた「公道」である
(ウィスコンシン州憲法第 9 条)。この声明は、水路には経済的な目的があるとともに、人間社会と
生態系を根底でつなぐものとして相互接続性があることを示すものである。それはまた、我々が集水
域のどこにいようと、これらの貴重な資源を賢明に利用する責務があることを伝えるものであり、ウ
ィスコンシン州の市民の手によって湖沼管理機構を創設し、運営していくことの重要性を強調するも
のである(Lyden et al., 2006)。
ケリー湖協会(KLA:Kelly Lakes Association)は、ウィスコンシン州法 181 条によって創設された
NPO であり、1994 年に上下ケリー湖の周辺に住む住民によって結成された。州法によって作られた組
織で、内湖の保全と再生を主要な目的としているので、他の政府機関と同様に補助金を受けることが
出来る。公金を受けるための要件として、KLA は、湖の 1.6km 以内に年間最低 1 ヶ月住む人、湖の
1.6km 以内に私有財産を有する人、会員や集団会員の権利を制限・否定しない人は、誰でも会員にな
れ、25 人以上の会員を有し、年間会費は 5 ドル以上~50 ドル以下とすることになっている。KLA は、
その目的達成のために、人々の意識啓発活動を行い、町や村の関連する行政組織や機関(例えばウィ
スコンシン州天然資源局)と連携して、具体的な再生プログラムや事業を实施する。KLA は、1997 年
から活動を始め、計画作り、土地の購入、上ケリー湖に流入する河川系の再構築などを行なってきた。
原則 2:湖の流域は、湖の持続的利用のための計画・管理の論理的出発点である。
水路の幅、深さ、傾斜、迂回部がどこも同じであるとがっかりするものであり、プロジェクトの目的
は、水路が川の流れに沿って、自然にいろいろなパターンに展開していくようにすることにある
(Shields et al., 2003)。外側の土手にかかるストレス(せん断応力)は、曲率半径を適切に調節すると
ともに、氾濫原を掘削して川と再結合させ、水流が高くなると土手を越えて流れるようにすることに
よって軽減されるようになった(Johnson et al., 2002)。このプロジェクトにおいては、氾濫原の掘削
は、外来侵入種であるクサヨシ(Phalaris arundinacea)やクロウメモドキ(Ramnus cathartica)の除去に
有効であった(Hoffman & Kearns, 1997)。土手は、固有の植生が根付くよう、すべて分解性の繊維で
保護され、さらに外側の迂回部には、岩止めと自然の繊維状ロールが保全のために設けられた。
原則 3:湖の環境悪化の原因を防ぐための、長期的な予防的対応が必要である。
KLA の最初の活動は、ケリー湖の湖沼管理計画を作り、湖とその集水域において政府の取る対策の基
礎としてこの計画を普及させることであった(SEWRPC, 2000)。この計画は 10 年かけて实施される
ことになっている。
原則 4:湖沼管理政策の立案と決定は、適正な科学と、入手可能な最良の情報とに基づいて行なうべ
きである。
KLA は、湖沼管理計画の作成費用として、湖沼管理計画補助金プログラムから総額 3 万ドルの補助金
を受け取った(SEWRPC, 2000)。その後、同計画は、湖沼保全補助金プログラムから総額 34.4 万ドル
の支援を受けて实施され、川辺の土地の購入、湿地や上ケリー湖に流入する河川の再生が行なわれた。
この過程を通じて、KLA は、ニューベルリンやヘイルズ・コーナーズから選出された職員と業務上の
関係を築き、これら当局からの支援を受けるようになった。ニューベルリンからは、資金、技術面、
補完的な立法措置など大きな支援が提供され、それらが市からの補助金の大部分を占めた。これらの
279
資金を使うに当たって、市の職員や選任された代表は、KLA と契約した水資源専門家の技術的なアド
バイスをもらって、湖・河川・湿地の管理再生計画を作成した。この計画は、プロジェクト实施地域
内の既存河川の入り江が、長さ 140m、湾曲度 1.2、傾斜は 0.006 であることに着目した。この低い湾
曲度は、主に古い水路作成法によるもので、結果として、この入り江内の貯水部と浅瀬が狭くなって
いた。土手はかなりしっかりしているが、急な土手は尐し抉れている。昔と現在の航空写真を比較か
ら、この支流は自然のものではないことがわかった。そこで我々は、満水時の水路寸法を、プロジェ
クト地域のすぐ上流の入り江の基準に基づいて、幅 3.8m、深さ 0.8m、土手の傾斜は 2H:1V(水平距
離 0.6m/垂直距離 0.3m)以下、と定めた。この寸法は、この河川系において降水が 1.5 年で帰還する時
間に相当することが、U.S. Army Corps of Engineers(USACOE)HEC-RAS model, version 3.1.1 で明らか
にされた。これらの設計基準によれば、幅 2.0m~2.5m の低流量の水路、深さ 0.1m~0.3m の低流量の
深みや浅瀬の生息地ができる。深み部の生息地は、蛇行部に設けられ、自然の深みを再現するように、
外側の河床では 2:1、内側の河床では 3:1 の傾斜をもつ非対称の断面を有する(Riley, 1998)。浅瀬
の生息地は、曲がった部分の間の直線部に設けられた。浅瀬は、新たに建設された小川内の傾斜を制
御するための自然の傾斜コントロ-ル構造物として利用される。浅瀬の生息地には、2.5mm~50mm の
直径の砂利を底上げのために平均 0.1m の深さに敶き、地価水と表流水が混ざる生息地を増やすととも
に、河床が安定するようにした(Symposium, 2002)。
湾曲寸法を計算するためには、経験的な関係則が利用された(FISRWG, 1998)。实測の最大・最小水
路幅に基づいて、湾曲部の長さは 33.5m~48.8mで、その変動幅は 10.0m~15.2m、曲率半径 7.6m~
11.0mが提案された。この部分の蛇行部の長さは 25.6m~38.4m、水路の蛇行部の長さは 17.4m~25.9
m、蛇行幅は 14.6m~21.9m、曲率半径は 5.2m~7.6mになった(Williams, 1986)。
原則 5:持続的利用のための湖の管理では、現世代および将来の世代の需要と自然が必要とする量と
を合わせ考慮しつつ、競合する湖沼資源の利用者間の紛争を解決することが必要である。
ケリー湖プロジェクトは、生息地を確保し、水質の向上を図りながら、今後 100 年間洪水位を上げな
いことを目指した。USACOE HEC-RAS モデルは、ウォキショー郡の数値地勢モデル(DTM)で求め
られた 2000 年の等高線に基づいており、さらに、提案された迂回水路を最も的確に表現するように断
面図が付け加えられた。ニューベルリン区域条例とウィスコンシン行政規定の NR 116 章は、今後 100
年間の洪水路に関する工事において、すべての関係する土地使用者や行政府の同意が無い限り、洪水
位を 0.3cm 以内の増大に抑えることを要求している。今回のプロジェクトにおいて、2 箇所の断面で洪
水位が 0.3cm もしくはそれ以上の増大が予想されており、このことは現場で盛り込まれる予定である。
洪水時の貯水能力に対するプロジェクトの影響について、当局は、湿地再生事業によって、W. Grange
Avenue と Frances Avenue の交差地点の单にあるニューベルリン市の上水ポンプ場近くの氾濫原の埋め
立て分を相殺するに足るだけの洪水貯水量を充分に増大できると考えた。HEC-RAS 分析の結果によれ
ば、湿地再プロジェクトの影響を受ける地域では、Frances Avenue の東の氾濫原における今後 100 年間
の洪水時の貯水能力は、正味 7,160m3 増大する。一方、この分析によれば、今後 100 年間における洪水
位のおよその低下は、Frances Drive の西部と St. Mary’s Drive の单部に広がる氾濫原・湿地 5.75ha にお
いて平均 0.1m である。この洪水位の低下と上水場プロジェクトのための埋め立てを併せると 7,160m3
の洪水貯水量損失となる。このように貯水量の得失はバランスするので、既存の洪水貯水量が充分に
保全されることになる。
280
原則 6:重要な湖沼管理問題の把握と解決のためには、住民およびその他の利害関係者の有効な形で
の参加を奨励すべきである。
KLA は、河川再生プロジェクトを实施するために必要な官民パートナーシップの形成、補助金獲得、
計画立案・設計・建設に触媒的な役割を果たした。また KLA は、同プロジェクトを支援し、技術的な
指導を行なっていた東单部ウイスコン州地域計画委員会(SEWRPC)から、ニューベルリン市ととも
に計画立案に関する支援を受けた。さらに KLA は、補助金を適切かつ節約して活用した。KLA 会員、
アメリカボーイスカウト協会などの地域組織、地元の学校などが、プロジェクトのために労働を提供
し、ゴミ収集、現場清掃、土着植物の植え付け、外来種の監視(外来種を見つけた時は手作業で除去)
などを行なった。また KLA 会員は、WDNR 自助監視プログラムを通じて水質の監視を自発的に行な
った。
原則 7:
湖の持続的な利用のためには、公平性、透明性、すべての利害関係者への権限付与を基礎
とした良好なガバンナンス(統括体制)が不可欠である。
WLV の最初の 6 原則は、参加、所有意識、適正な技術的知識、多面的利用、計画立案、流域をベース
にした取り組みが、水資源に関心を持つすべての市民による、すべての市民のための湖沼管理活動を
目指した、広範な支援を基礎とする最善のガバナンスにつながるという原則に収斂する。ケリー湖の
場合、この成果は、上述した河川と湿地の再生プロジェクトが成功裏に完了したことに具現化されて
いる。
得られた教訓
プロジェクトにおいては、建設時の問題点を想定しておくことが重要である。我々は、プロジェクト
の工事期間は現場にいなかったので、水路計画、構造、高さなどの設計仕様を、業者がその通りに建
設できるように十分詳細に示すことが重要であった。この種のプロジェクトに入札するような大きな
力のある業者のほとんどが、道路建設やそれに関連する排水溝や湿地帯の建設のことはよくわかって
いる。彼らに、道路や溝建設に必要な均一性は、多様な流水系の再生を行なう場合には適当ではない
ことを強調してもなかなか理解を得ることはできない。そこで、この川の掘削と建設に関する計算に
役立つように、代表的な対称形浅地断面の満水時土手寸法が用いられた。浅地生息地の断面を深み生
息地のそれと重ねたことに注目してほしい。この設計によって業者は、均一に水路を掘削した後で水
溜り場の作業を進め、外側の土手を守りながら、非対称な形状を实現した。またこの進め方によって、
2 つの特異的かつ重要な生息地の基本的な違いを業者に理解させることができた。さらに、ボーリング
によってプロジェクト地域の土壌の主要成分は泥炭であることが分かったので、すべての建設作業を、
重装備の機械が使用でき、湿地の生息地に悪影響を及ぼさないように、冬期の間に終えることを提言
した。また、これによって、上ケリー湖に流入する汚泥が、オオクチバスやブルーギルの卵の成長を
脅かさずにすむことになる(これらの種は、春や夏までは産卵を始めない)。冬の間に建設作業を終
えることによって、新設された土手や湿地に次の春に間に合うよう固有種を植え付けることができる。
今後の展開
KLA は、復元された河川や湿地への外来種の侵入を最小限に食い止めるための監視努力を続ける。ま
た WDNR 自助監視プログラムの支援を受けた湖の水質監視活動は今後も続けられるだろう。KLA と
行政関係者は、ウィスコンシン州および世界の人々とこの成功体験を共有して行くつもりである。
281
参考文献
(1) Camp Dresser & McKee, Inc. 1998. Storm Water Master Plan for the City of New Berlin, December 1998.
(2) Federal Interagency Stream Restoration Work Group (FISRWG) 1998. Stream Corridor Restoration:
Principles, Processes, and Practices. U.S. Department of Agriculture. http://www.usda.gov/stream_restoration/
(3) Hoffman, R., & Kearns, K. 1997. Wisconsin Manual of Control Recommendations for Ecologically Invasive
Plants. Bureau of Endangered Resources, Madison, Wisconsin, Department of Natural Resources Publication
No. PUBL ER-090 97.
(4) Johnson, P. A., Tereska, R. L., & Brown, E. R. 2002. Using technical adaptive management to improve design
guidelines for urban instream structures. Journal of the American Water Resources Association 38(4), 11431152.
(5) Lyden, T. G., Korth, R.M., O’Connor, W.P., & Klessig, L. 2006. People of the Lakes: A Guide for Wisconsin
Lake Organizations. University of Wisconsin-Extension Publication No. G3818.
(6) Riley, A. L. 1998. Restoring Streams in Cities: A Guide for Planners, Policymaker, and Citizens. Island Press.
(7) SEWRPC [Southeastern Wisconsin Regional Planning Commission] 2000. A Lake Protection Plan for the
Kelly Lakes, Milwaukee and Waukesha Counties, Wisconsin. SEWRPC Memorandum Report No. 135,
Waukesha.
(8) Shields, F.D., Copeland, R.R., Klingeman, P.C., Doyle, M.D., & Simon, A. 2003. Design for Stream
Restoration. Journal of Hydraulic Engineering 129(8): 575-584.
(9) Symposium [Symposium on Small Stream Channels and Their Riparian Zone: Their Form, Function and
Ecological Importance in a Watershed Context]. 2002. University of British Columbia, Vancouver. February
19-20, 2002.
(10) Williams, G.P. 1986. River Meanders and Channel Size. Journal of Hydrology 88: 147-164.
282
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ウォーターフォード貯水池における世界湖沼ビジョンの適用
(ウィスコンシン州・米国)
Jeffrey A. Thornton, Thomas M. Slawski, Sara W. Teske, and Michael A. Borst
Southeastern Wisconsin Regional Planning Commission, P.O. Box 1607, Waukesha, Wisconsin 53187-1607,
USA. e-mails: [email protected], [email protected], [email protected], [email protected]
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
要旨
WLV は、国や文化的な境界を越えて世界的な湖沼管理のための確固たる基礎をなすものであり、世界
の水資源のために持続的な利用と保全の目標を提供している。7 原則に基づいて、WLV は、人と自然
の間にバランスが必要であることを強調し、湖沼管理の取り組みに、市民と政策立案者が参画するこ
とを求めている。最近完了したウィスコンシン州レイシン郡ウォーターフォードにあるウォーターフ
ォード貯水池で行われた湖沼管理計画は、これらの原則がうまく適用されたことを示す事例の 1 つで
ある。ウォーターフォード貯水池は、イリノイ州フォックス川の広大な流域の中央部にある大きな排
水池であり、その流域は都市部と農地が入り組んでいる。川辺の住民の努力によってウォーターフォ
ード水路管理局が設立され、このレポートで述べるように、湖沼再生プロジェクトの立案・資金獲得
のために、地方自治体や州政府と協力して、湖沼管理のための補助金を獲得した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
はじめに
ウォーターフォード貯水池は米国ウイスコン州レイシン郡中央部のウォーターフォードにある。同貯
水池には 2 つの自然湖(チチガン湖、ブエナ湖)があり、イリノイ州フォックス川の貯水池部分でつ
ながっている。貯水池は 458ha の広さで、水は北から流入し、单から出て行く。この貯水池には周辺
のほとんどの排水が流れ込む。貯水池は曲がりくねっていて、いくつかの入り江がある。その中で 2
つの大きな入り江が、それぞれチチガン湖とブエナ湖である。貯水池は、最深 20m、平均水深 2m、水
量は 878 万トンである。
貯水池をめぐる課題や問題
ウォーターフォード貯水池の支流域(938km2)の土地利用は、主に都市部と農地の入り混じったもの
で、その他、湿地、林、自然の空き地が尐し残っている。1900 年以前には、ウォキショー、イーグル、
ハートランド、メノモニー・フォールズ、ピウォーキーなどの集落で、都市開発が盛んに行われた。
次の 50 年間には、都市開発はビッグ・ベンド、イースト・トロイ、ラノン、ムクウォナゴ、ノース・
プレーリー、サセックス、ウェールズ、ウォーターフォードなどの集落で行われた。第 2 次大戦後、
流域内では急速な都市化の時期が続き、1950 年からはブルックフィールド、デラフィールド、ムスケ
ゴ、ニューベルリン、ピウォーキーの町が編入され、1999 年にはピウォーキー市が誕生した。それに
伴って、ウォーターフォード貯水池の支流域は、田園・農業地帯から、次第に都市部へと変遷してき
た。特に川上の地域ではそうした傾向が強い。現在では、ウォーターフォード貯水地域の主要な都市
部を特徴付けているのは居住地としての利用であり、2000 年時点で流域の 20%を占めている。農地利
用は、2000 年時点で流域内の活用地の約 40%を占めている。次の 20 年間には農地は 25%まで減尐す
るか、あるいは都市部の住宅地利用と同程度まで減尐すると予想されている。
283
戦略、实施された活動とその成果
原則 1:人間と自然との調和した関係は、湖の持続可能性にとって不可欠である。
ウィスコンシン州では、水は共有物であり、水路は州の住民や米国市民に開かれた公道である(ウィ
スコンシン州憲法第 9 条)。この声明は、水路には、経済的な目的があるとともに、人間社会と生態
系を根底でつなぐものとして相互接続性があることを示すものである。それはまた、我々が集水域の
どこにいようと、これらの貴重な資源を賢明に利用する責務があることを伝えるものであり、ウィス
コンシン州の市民の手による湖沼管理機構を創設し、運営していくことの重要性を強調するものであ
る(Lyden et al., 2006)。
ウィスコンシン州では、同州令 33 章のなかで、湖の公共性と地域を基盤にした湖沼管理が謳われてい
る。さらに、その州令によって、市民は湖の水質管理を業務とする行政の特定目的部署として、公的
な内湖保全再生局を設置する機会が与えられている。このような行政部局は、州内の 700 以上の地域
で任意団体や地域団体と協力し、湖沼に関する活動のセンターとして機能している。これらの部局は、
集合してウィスコンシン湖沼協会を結成し、ウィスコンシン州天然資源局(WDNR)や拡大ウィスコ
ンシン大学(UWEX)と一緒にウィスコンシン湖沼パートナーシップを形成し、「Wisconsin Idea(ウ
ィスコンシン州の教育哲学)」(Barish, 2006)を具現している。
ウォーターフォード水路管理局(WWMD)は、ウィスコンシン州令第 33 条で設置された地方自治体
の特別部局の 1 つで、ウォーターフォード貯水池の周辺住民の請願で 2003 年に設立されたものである。
WWMD は特別課税や特別賦課金以外に、査定財産の 1,000 ドルにつき 2.5 ドルの資産税を課すことが
できる。課税額や査定額は、毎年、区内の有権者や資産所有者の参加によって年次総会で確定される。
WWMD の役割には、各種課題に対する住民啓発、関連する行政部局(ウォーターフォード、レイシン
の市町村、单部ウィスコンシン州フォックス川委員会(FRC))や WDNR など関連機関との調整、特
定の修復プログラムやプロジェクトの实施などがある。WWMD は、2003 年以来、この目的のために
計画の立案、関連行政部局・機関とのパートナーシップの確立、外来種対策、地域住民や学校に対す
る情報・教育プログラムの实施などを行い、雤水管理の法制整備、芝生管理条例、建設現場の規制な
ど、地域の取り組みを支援してきた。
ウィスコンシン州令第 33 条によれば、州は直接お金を出して行政府内に補完的な特別組織を作ること
ができる。FRC はそのような組織の 1 つで 1997 年に創設され、中部フォックス川集水域の上流部で、
ウォーターフォード貯水池を含む同地域の水質向上と航行性改善のための大規模プロジェクトの調整
と实施を行っている。FRC は、管轄区内にある同組織のメンバーである郡・市町村からの直接の充当
金で運営されている。
原則 2:湖の流域は、湖の持続的利用のための計画・管理の論理的出発点である。
ウォーターフォード貯水池流域は、同貯水池に流れ込む上流地域だけでなく、上流水系を通らず直接
流れ込む周囲の地域を含む。この広大な地域には 4 つの排水処理施設があり、フォックス川とその支
流に排水するブルックフィールド、ウォキショー、ムクウォナゴ、サセックスにサービスを提供して
いる。この流域内には、それぞれ 3,500 以上の職を提供している 5 つの産業センターと 2 つのオフィス
センター、2,000 以上の職を提供する小売センター、3,500 以上の職を提供する 2 つの商業センターが
あり、1 つの州立、5 つの郡立公園も流域内にある。支流の中ではムクウォナゴ川が、その長さゆえに、
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ウィスコンシン州行政規則の NR102 に従って、州の特例あるいは重要な水資源として分類されている。
都市の住宅街および産業・商業開発は、もとは農地であったところで進められたが(SEWRPC, 2006)、
重要な河川ルートと湖岸は、環境ルートとして保全された(Rubin & Emmerich, 1981)。1975 年以来、
ブルックフィールド、ウォキショー、サセックスの排水処理施設は、能力アップが図られ拡張された。
ムクウォナゴの処理場は完成したが、ピウォーキーの処理場とその他幾つかの私設排水処理場は廃棄
された。残った公的な施設は、すべて活性汚泥処理を用いたリン除去技術を採用している。これらの
対策によって河川のアンモニア、溶存酸素、全リン濃度が改善された(SEWRPC 1995a)。最近、州の
面源汚染緩和規則が改定されたので、そのうちさらに水質の改善が期待される。
フォックス川流域の大部分は WWMD の管轄外にあるが、フォックス川の流域で健全な集水域管理を
推進するために、WWMD は、行政および非政府団体の両方との間で戦略的な協力活動を展開している。
この活動には、FRC 会合への出席、フォックス川土砂侵食対策委員会が主催する啓発活動への参加、
フォックス川流域の環境管理に関わるすべての関係者の活動の調整と支援を目的とした WDNR の官民
イニシチィブであるフォックス川流域パートナーシップとの連絡業務などが含まれる。
原則 3:湖の環境悪化の原因を防ぐための、長期的な予防的対応が必要である。
WWMD の最初の取り組みは、ウォーターフォード貯水池の湖沼管理計画を始動させ、湖とその集水域
にある行政府の対策の基礎として、この計画に取り組むように働きかけることであった(SEWRPC,
2006)。この計画は 20 年にわたって实施される予定である。行政ごとには、この計画に基づいて、連
邦法 Clean Water Act(SEWRPC, 1995a)に対する地方の取り組みの一環として 1979 年に公布された地
域水質管理計画实行のために、継続的に種々の対策に取り組むことになる。
原則 4:湖沼管理政策の立案と決定は、適正な科学と、入手可能な最良の情報とに基づいて行なうべ
きである。
WWMD は、総額 24,500US ドルの補助金を湖沼管理計画補助金プログラムから受け取り、水質監査を
引き受け、湖沼管理計画を完了させることになっている。WWMD には、外来種(例えば紫オカトラノ
オ)の防止対策や、市民による自主的な湖の水質調査支援など、州の補完的なプログラムに対して追
加の補助金が与えられた。WWMD は、計画が完成したら、湖沼管理計画を实施するために湖沼保全補
助金プログラムからの支援を活用したいと考えている。
WWMD に次いで、FRC は、ウォーターフォード貯水池に流れ込むフォックス川の上流地帯を対象に
したプロジェクトに対して、ウィスコンシン州と地方政府機関から約 60 万米ドルの資金提供を受けた。
これらのプロジェクトは、河川の土手の強化(SEWRPC, 1995b)、雤水管理システムの維持管理、ウ
ォキショーとウォーターフォードの間の集水域における関連対策を含む。
フォックス川とウォーターフォード貯水池に関する計画立案のために行われた調査に対応し、いくつ
かの市町村が管轄区域内においてリン成分を多量に含む肥料の散布を制限する芝生管理条例を採択し
た。この条例制定の根拠は、約 12,500 年前ウィスコンシン州に氷河(ウォーターフォード貯水池の集
水域の一部はケトル・モレーンで知られており、この地域は他の一連のモレーンに属し、それらはミ
シガン湖とウィスコンシン氷河のグリーン・ベイ・ローブの間に形成されたもので、その一部は、周
囲の土地から 75~100mの高さまで突き出している。)ができたとき、表面の物質がこの地域に移動
し、单ウィスコンシン州では土壌のリン成分が比較的多くなっているという研究に基づいている。こ
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のような規制によって、流域からウォーターフォード貯水池に流れ込む人間に由来するリンの量はさ
らに減尐すると期待されている。
またウォーターフォード貯水池に排水している上流の集水域においては、都市化が急速に進行してい
る。このことを憂慮して、地域の土地利用規制、侵食防止と雤水管理に関する条例が採択され、改訂
地域水質管理計画(SEWRPC, 1995a)の見直し中に改訂された。これらの取り組みは、集水域全体に
恩恵をもたらし、ひいてはウォーターフォード貯水池の利益につながるだろう。
原則 5:持続的利用のための湖の管理では、現世代および将来の世代の需要と自然が必要とする量と
を合わせ考慮しつつ、競合する湖沼資源の利用者間の紛争を解決することが必要である。
湖沼管理計画の作成準備として、WWMD が取り組んだ最初の活動の 1 つは、管轄区域内の土地所有者
や有権者に対するアンケート調査の实施であった。この郵便による調査の目的は、FRC や政府の地方
機関によってすでに实施されている対策や活動を踏まえて、WWMD が今後何をすべきかを決めること
にあった。この調査によって、46%もの多数の土地所有者や有権者が懸念する問題として、貯水池内
の土砂堆積、水生植物管理、航行やボートに関する法の施行、漁業や水質などが明らかになった。ま
た回答者は、これらの課題に対応するために、WWMD は、行政府間の連携(貯水池とその湖岸につい
ての行政決定の監視)、雤水管理、湖岸の再生と再植生、環境教育、法・条例・規則の執行などに優
先して取り組むべきであると答えた。これらの課題や優先事項は、回答者の湖の利用方法やその程度
を反映するものであり、彼らが関心を示した活動には、モーターボート、景観、釣り、湖岸の探索、
能動的・受動的な娯楽利用の組み合わせなどがある(Thornton, 1993)。このような活動の中には、
(例えば、ボートと釣りは、湖上の同じ場所を取り合ったり、またモーターボートの騒音は静かに景
観を楽しむのを邪魔したりするように)競合するものもある。
これらの課題や問題の多くは湖沼管理計画の中で議論され、修復や管理に向けた対策が今後实施され
ていくことになっているが、いくつかの課題については、WWMD によってすでに対策が進められてい
る。このような取り組みには、ウォーターフォード市の河川への堆積土砂を管理するための法令草案、
ウォーターフォード村落におけるリンを含む肥料散布を制限するための法令草案(この村落では、以
前管理局の命を受けてこの法令を承認していた)、新しい湖岸開発に含まれる雤水管理対策に関する
政府機関や開発業者との協議、WWMD の管轄区内における開発プランに関する特別監視権の付与、な
どがある。これらの対策は、貯水池の長期的な保全と将来の世代のための保全と保護を目指したもの
である。この目的のために、WWMD は、中学生を対象に、船に乗って環境科学の授業を受けることが
できる「船上教审」プログラムを始めた。また小学生を対象に、管轄区内や近隣地域の学校に出向き、
川についての学習指導を行なった。
原則 6:重要な湖沼問題の把握と解決のためには、住民およびその他の利害関係者の有効な形での参
加を奨励すべきである。
WWMD は、機関相互・官民のパートナーシップの確立、補助金の獲得、湖沼や河川の再生プロジェク
トの实施に必要な計画立案、企画、建設の支援など、触媒としての役割を果たしてきた。WWMD は、
单ウィスコンシン地域計画立案委員会(SEWRPC)が提供する計画立案機能を活用しながら、WWMD
メンバーや地域団体(ボーイスカウト、フォックス川土砂侵食対策委員会、学校など)が自主的に取
り組む、住民啓発運動、ゴミ回収(フォックス川土砂侵食対策委員会が毎年行なう活動)、非固有種
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の監視・防止活動(通常手作業であるが、紫オカトラノオの場合は生物学的管理も行われる)、さら
に WDNR 自主管理プログラムが進める自主的な湖の水質監視活動などとの連携を進めている。
原則 7:湖の持続的な利用のためには、公平性、透明性、すべての利害関係者への権限付与を基礎と
した良好なガバナンスが不可欠である。
WLV の最初の 6 つの原則は、参加、所有意識、適正な技術的知識、多面的利用、計画立案、流域を基
本とした取り組みは、水資源に関心を持つすべての市民による、すべての市民のための湖沼管理活動
を目指した、広範な支援を基礎とする最善のガバナンスにつながるという原則に収斂する。ウォータ
ーフォード貯水池の場合には、WWMD が、行政卖位や関係機関と協力して地域と流域に特有な管理計
画や、上述した湖沼管理計画を継続的に实施しており、これらの成果が期待できる。
得られた教訓
WWMD が設立する以前に、第 33 条によって、湖沼保全・再生局がウォーターフォード貯水池のチチ
ガン湖流域の保全のために設立されていた。この部署は 1970 年代半ばに設立され、後に解散したが、
その任務はウォーターフォード市の活動の中に織り込まれている。ウォーターフォード市は、市民の
監視プログラムに対する支援を続け、湖沼委員会の審査や助言を継続的に受けていたが、委員会の活
動は、ウォーターフォード市に限られていた。その反省に立って、新たに生まれた WWMD は、組織
的にウォーターフォードの市と村の両方を含む、もっと包括的な形をとった。このように包括的にな
ったことは、WWMD が管轄区にまたがって情報活動や湖沼保全活動を決定し、实行するうえで有益で
あった。流域で NGO として活発に住民への情報活動を行っていたフォックス川土砂侵食対策委員会、
ウォーターフォード貯水池の湖岸よりずっと広範な管轄区を有する FRC など既設の非政府組織と戦略
的なパートナーシップを展開することは、取り組みの重複をなくし、フォックス川のより広い範囲に
わたって展開される湖沼管理・保全プログラムを支援していくうえで貴重であった。
WMMD 委員会は、さらに全州的に活発な呼びかけを行った。彼らは、州規模の湖沼協会の会合に参加
し、地域ワークショップを通じて考えの共有化を図り、UWEX が主催し、ウィスコンシン湖沼パート
ナーシップが後援するウィスコンシン州湖沼会議で活動を紹介した。このような場は、州内の他の湖
沼団体にとって有益であっただけでなく、WWMD 委員会の活動を豊かにする取り組みや考え方を委員
会にもたらした。このようなネットワークを利用して、WWMD は、他の政府組織、法的機関、市民と
協働していくための信頼を高めていった。
最後に、WWMD は、そのモットーとして「世界を変えよう~1 度に 1 滴~」というキャッチフレーズ
を採択した。このフレーズは、大きな集水域の中央に位置している湖沼共同体体が直面している問題
の大きさを要約したものであり、成功に向けた目標設定、重点化、計画の必要性を強調するものであ
る。行政の一組織であることは、WWMD の区内に住むすべての市民がこの取り組むに(尐なくともお
金の面では)参加することを保証し、またこの湖沼システムを保全・再生していくための活動を实施
していくのに必要な取り組みを継続していくというビジョンを強調するものである。
今後の取り組み
WWMD は、单ウィスコンシン地域計画立案委員会(SEWRPC)と協力して湖沼管理計画の最終案をつ
くる予定である。この計画は、採択された後、WWMD の理事会が目標の設定や重点化を行うときの指
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針となる。この計画は、集水域内の他の政府・非政府組織にも提供される予定であり、必要に応じて
採択され、またウォーターフォード貯水池の保全と再生のための対策を調整していくうえで役立つだ
ろう。当面、WWMD とそのパートナーは、1)WNDR 自助努力プログラムと米国地質調査栄養化監視
プログラムの後援をうけて、湖の水質調査を継続的に行う、2)フォックス川土砂侵食対策委員会や他
の市民グループと協力しながら地域活動を広げ、非固有種を实行可能な範囲で規制する、3)ニュース
レター、会合、ウェブなどによって、選挙人や土地所有者への情報提供を行なう、4)学校を基盤にし
た取り組みの实施や支援によって次世代の地域住民を教育していく、などの活動を進めていく。この
ように、WWMD と行政パートナーは、自分たちの成功・挑戦の体験を、ウィスコンシンおよび世界の
地域の人たちと共有し続けていくだろう。
参考文献
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