第 3 部 物質・材料研究における今後の研究動向 第 6 章 信頼性・安全性を向上するための材料 3.信頼性評価技術の新展開 (3)ナノワイヤーの材料強度物性評価 土佐 正弘 材料信頼性センター、物質・材料研究機構 1 .はじめに フラーレンやナノチューブをはじめナノシートや ナノファイバーなどナノ機能材料として現在その新 規物性解析や新機能発現が注目され、特に炭素原子 第 6 章 信 頼 性 ・ 安 全 性 を 向 上 す る た め の 材 料 おける振幅強度の自乗根平均をプロットして求めて おり、平均して 1.8TPa とかなり高い値が得られて いる。 2.2 原子間力顕微鏡 から構成されるカーボンナノチューブ(CNT)に 二硫化モリブデン(MoS2)基板表面に固定した炭 ついては、高輝度電界放出電子源や超高速トランジ 化ケイ素(SiC)ナノロッド(径: 23.0 nmφ) 、およ スター等エレクトロニクスデバイス応用をめざし び、MW-CNT(径: 32.9 nmφ)一本ごとについて て、電気・電子特性の評価を主としてその測定手法 TEM 内で観察しながら原子間力顕微鏡(AFM/LFM) の開発が世界中で数多く推し進められていている。 2) を用いてヤング率や破壊強度等を測定している 。 しかしながら、微小構造材料として重要な特性であ 基板表面から伸びたナノロッドや CNT の梁に LFM る機械的強度については、ナノスケールというその プローブを水平方向に走査して当てて曲げ、梁先端 微小サイズがゆえに自由な取り扱いや持ち運びが困 部から根本の間にわたってプローブを当てる位置を 難であり、通常サイズの構造材料で一般的に行われ 順次ずらしていき、各位置での曲げを TEM 観察す る引っ張り試験器等を用いた自在な材料強度測定手 ることで、曲げ強度(水平力: LF)と曲げ量との 法については世界的にもほとんど確立されていな 関係からヤング率を求めており、SiC ナノロッドに い。ここでは CNT をはじめとする直径数 nm ∼数 ついては 610GPa とウイスカーに近い値が得られて 百 nm のナノワイヤーについての機械的強度の測定 おり、また、CNT については 1.06TPa が得られて に関する研究についてその現状と今後について簡単 いる。 に述べたい。 2 .世界の研究動向 機械的強度特性としてナノスケール材料の曲げ強 度や引っ張り強度の測定が試みられており、以下に 2.3 試料治具 TEM 内で引っ張り試験を行える応力印加治具を 微細加工により作製してアルミニウムの薄片(全長 10 µm、厚さ 100 nm)の応力歪み曲線を測定してい る 3)。 透過型電子顕微鏡(TEM)内で力学的現象に基づ く挙動を In-situ 観察しながら強度特性が計測され た主な例を示す。 CNT を主としたナノワイヤーの強度測定が行わ 2.1 熱振動 れているが、ナノワイヤーのサイズほどではなくて CNT を TEM 測定用 Ni 製リングサンプルホル ダーの坑内端に付着させ、その固有の熱振動の振幅 を TEM 内で室温から 1,000K まで徐々に加熱しな がら観察することによって CNT(全長:0.66 ∼ 5.81 µm、径: 1.0 ∼ 6.6 nmφ)一本ごとのヤング率を測 1) 定している 。これは、各所定の CNT 加熱温度に 398 3 .国内の研究動向 もミクロンスケールなら微小材料においても正確な 引っ張り強度測定が行われている。 3.1 共振周波数 引っ張り用のプローブを 2 本装備した走査型電子 顕微鏡(SEM)内で MWCNT について、プローブ 2006年度物質材料研究アウトルック 第 3 部 物質・材料研究における今後の研究動向 第 6 章 信頼性・安全性を向上するための材料 を対抗させその間に CNT を挟んで内層引き抜き強 度測定や座屈による変位-応力曲線の測定を行った り、また、片持ち梁として機械的に共振させること で比較的簡単に一本ごとにヤング率を測定すること に成功している 4)。 3.2 評価試験装置 サイズはミクロンレベルと大きめではあるが、そ のスケールの形状のまま、強度、靱性、疲労特性等、 一般的な機械的性質を正確に測定できる評価試験装 置を開発し、世界最小のミクロンサイズの試験片の 引っ張り強度や破壊靱性および疲労特性等の材料強 図 2 SiC ナノワイヤーの実測値と予測値 5) 度物性の評価が試みられている 。 3.3 NIMS の現状 現在まで、NIMS ではシリコン(Si)ナノワイ に成功しており、この値は理論予想されるよりも非 常に高い強度が示されている。ナノワイヤーの自在 なマニピュレーションについては、100 nmφ以下、 ヤーとして直径 10 ∼ 200 nm、全長 10 µm ∼ 10 mm 特に 10 nmφ以下の微小なナノワイヤーを容易に操 のものを多種類作製することに成功しており、その 作・計測するべく、レーザー光を用いたマイクロレ 作成温度については図 1 に示すように 250℃以下の ベルでの微小光硬化接合やマイクロ微小球体の光ピ 低温で結晶性長尺 Si ナノワイヤー(∼数十 nm 径) ンセット操作・接合手法、ならびに、走査型電子顕 を任意の場所に作製することに成功している。これ 微鏡内で 2 本のマイクロプローバーを用いてナノワ は低圧・低温 CVD 法などを用いて独自に開発した イヤーを持ち上げる、運ぶ、所定位置に配置という ものであり、特に 250℃以下でも結晶性ワイヤーを 基本的微小操作の確立を推し進めている。 第 3 部 物 質 ・ 材 料 研 究 に お け る 今 後 の 研 究 動 向 作製したのは世界的にも初めてであり、さらに、図 2 に示すように計算上非常に高い強度(∼ 46 GPa: 数 µm 長)が予想されている。また、ナノスケール 4 .今後の研究動向 の特性評価に関しては、ナノワイヤーの熱伝導率計 これまで単発的ながらある程度強度データが得ら 測用デバイスを設計・試作している段階であり、ま れてきているが、どのケースもかなり高度な技術や た、強度特性については、歪みゲージを装備するマ 経験が要求されるものばかりであり、やはりナノワ イクロプローバーを試作し、これを用いて約 100 イヤーの機械的強度測定における課題は構造材料一 nm 径のナノワイヤーについて大気中光学顕微鏡下 般で普通に行われているように測定したいナノワイ で簡易的に曲げ強度特性の測定(180 µN の応力で ヤーをいかに容易に測定治具にセットするかであ 1.7 倍の伸びの観察により約 160 GPa 以上の強度) り、今後はそのような簡便な測定手法の確立に向け て研究が進んでいくであろう。 5 .まとめ CNT をはじめとする直径数 nm ∼数百 nmφのナ ノワイヤーについての機械的強度の測定に関する研 究についてこれまでの主な研究について記述した が、ナノスケールというその微小サイズがゆえに自 由な取り扱いや持ち運びが困難であり、依然として 図 1 250 ℃の低温合成により作製した Si ナノワイヤー 2006年度物質材料研究アウトルック 多種多様の構造材料の系統的材料強度測定の研究と 399 第 3 部 物質・材料研究における今後の研究動向 第 6 章 信頼性・安全性を向上するための材料 は比較できるレベルにはなく、今後の一層進展が望 まれる。 引用文献 1 )M. M. J. Treacy, T. W. Ebbesen and J. M. Gibson: Nature 381(1996)678. 2 )E. W. Wong, P. E. Seehan and C. M. Lieber: Science 277 (1997)1971. 3 )M. A. Haque and T. A. Saif: Proc. National Academy of Science 101(2004)6335. 4 )秋田成司、中山喜萬:第 53 回応用物理学関連連合講 演会講演予稿集、No. 0、2006、p. 15. 5 )TIT, http://www.ames.pi.titech.ac.jp/index.html 第 6 章 信 頼 性 ・ 安 全 性 を 向 上 す る た め の 材 料 400 2006年度物質材料研究アウトルック
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