HV809 EL ランプドライバー アプリケーションノート HV809 EL ランプドライバー・アプリケーションノート by Roshanak Aflatouni & Scott Lynch (Supertex) 訳:浅村素子(マイクロテック) 概要 スーパーテックス社の HV809 は大型の EL ランプを高輝度 第 1 部 ポータブルアプリケーション で駆動させるために開発されました。整流・平滑された 基本的な回路構成は図 1 に示したとおりです。DC-DC コ AC100∼120V の電源、あるいは 50∼200V の範囲の DC ンバータを設計するには多くのデバイスが必要ですが、 電源でも動作します。電池電源のアプリケーションには ここでは安価な 555 タイマーIC を DC-DC コンバータに 外付けの DC-DC コンバータが必要です。 使っています。コンバータの詳細に関しては後述します。 このアプリケーションノートはポータブルアプリケーシ ョンと商用電源アプリケーションの 2 つを紹介していま す。 第1部は、電池電源(4AA セル)用アプリケーションで 12.5 平方インチの EL ランプを 15ft-lm(51cd/m)の輝度で 駆動させる方法を解説し、高電圧出力 DC-DC コンバータ を設計するための詳細説明になっています。PDA や GPS などの携帯用コンピュータ、その他高輝度 EL が要求され る携帯機器等に利用できます。 第2部では、100 平方インチの EL を 20ft-lm(68cd/m)の 輝度で 120V の AC 電源で駆動させる方法の説明です。広 ランプドライバー回路と動作 告、看板、誘導灯、インテリア用アクセントライトなど スーパーテックス社の HV809 は 400Hz で 350nF までの に利用できます。 EL ランプの動作に最適です。 電源入力は DC50∼200V で動作します。HV809 は EL ラ ンプに、入力電圧の 2 倍のピーク電圧の矩形波を供給し ます。 日本総代理店 マイクロテック株式会社 〒168-0063 東京都杉並区和泉 2-7-5 TEL:03-5300-5535 FAX:03-5300-5530 1 7/1/99 HV809 EL ランプドライバー HV809 は、一つの抵抗、REL-OSC によって制御されるラ 消費電力のおよそ 3 分の 1 が EL ランプの等価抵抗で消 ンプドライブ・オシレータを持っています。オシレータ 費され、およそ 3 分の 2 が HV809 のブリッジ・トランジ はランプドライバーの出力周波数を制御しますが、この スタで消費されます。ランプ・ドライブ周波数が高い場 部分は図 2 に見られるように 4 個のトランジスタによる 合、ランプが大きい場合、ランプ電圧が高い場合には フルブリッジ構成となっています。電源は整流 ・平滑さ HV809 の電力は更に大きくなります。これが、8ピン SOP れた商用電源か、外部高電圧電源で供給することが出来 パッケージの HV809 を使った場合の制限要素となります。 ます。 8ピン SOP では 500mW が最大定格であり、これを超え 出力トランジスタは図 3 に見られるようにドライブ・オ て動作させることはできません。TO-220 パッケージです シレータによって交互にオンし、矩形波を発生します。 と、最大定格は 15W となります。 このデザインは優れたドライブ能力を有しており、上下 図 4、5 は 12.5 平方インチのランプを2種類のランプド 対称のバイポーラ・ドライブ波形によって直流バイアス ライブ周波数で駆動させた場合の典型的な特性です。こ の無い駆動を実現します。多くのランプメーカーはマイ のグラフは特定のランプによる実験に基づいたもので、 グレーションの問題を防ぎランプの寿命を延ばすために 別のランプの特性と全く同じとは限りません。 ゼロバイアス・ドライブを推奨しています。 ランプ・ドライバー部分の設計は基本的にランプドライ ブ周波数と電圧の設定です。ランプの周波数は REL-OSC によってコントロールされます。通常この抵抗値の範囲 は 510KΩから 5.1MΩです。抵抗値を大きくすると周波 数が低くなります。ランプドライブ電圧は高電圧電源 (HVout)によって制御されます。 日本総代理店 マイクロテック株式会社 〒168-0063 東京都杉並区和泉 2-7-5 TEL:03-5300-5535 FAX:03-5300-5530 2 7/1/99 HV809 EL ランプドライバー 電池電源 DC-DC コンバータ タイマーIC 555 を図 6 の回路のように使用することで安 コンバーターのデザインは以下の手順で行います。 価な DC-DC コンバータを作ることができます。 1. 要求項目を設定する。 図 6 の回路は、555 タイマーを用いて Qsw を PWM 制御 2. 基本的なコンバーターパラメータを設定する(周波 する基本的なフライバック・ブースト・コンバータです。 デューティ・サイクルを変えることによって出力電力が 数・デューティ・サイクル、インダクタンス(L))。 3. コントロールされます。通常は RC、RD および CT の時 スイッチング・トランジスタとダイオードを選択す る(Qsw、D) 。 定数によって周波数とデューティ・サイクルを決定しま 4. 入出力キャパシタを選択する(CIN、C HV) 。 す。この回路ではフィードバック抵抗 RFB とツェナーダ 5. 時定数部品を選択する(RC、R D、CT) 。 イオード ZFB がタイミング回路に順バイアスを加え、出 6. フィードバック部品を選択する(RFB、Z FB) 。 力電圧が増加すると、それに伴いバイアス電圧が増加し ます。このバイアスによりタイミングキャパシタ CT の充 要求項目の設定 電速度を上げると共に放電速度を下げ、出力電圧増加の HV809 用の DC-DC コンバータを設計する際には次の3 際のデューティ・サイクルを小さくします。このメカニ つのパラメータが最も重要です。 ズムによってレギュレーションに不可欠な負帰還が構成 1. 入力電圧範囲(VIN min/max) されます。この回路では部品を適切に選択することによ 2. 出力電圧(HVOUT) り、スイッチング周波数を一定に保つと同時に出力電圧 3. 出力電力(PHV) を安定化できます。 VIN はあらかじめ決まっていますが、 HV OUT、P HV に 関しては自分で設定しなければなりません。もし、EL ラ ンプドライブ周波数と電圧が決まっていれば、EL ランプ の静電容量を充電・放電することによって消費される電 力は下記の式で得られます。 日本総代理店 マイクロテック株式会社 〒168-0063 東京都杉並区和泉 2-7-5 TEL:03-5300-5535 FAX:03-5300-5530 3 7/1/99 HV809 EL ランプドライバー <数式 1> 1 P lamp = f lamp C lamp V 2 lamp 2 ここで; flamp = EL ランプ周波数 C lamp = EL ランプ静電容量 V lamp = EL ランプ p − p 電圧 <数式2> ( DVIN ) 2 2 fcL P HV = ここで; P HV = 出力電力 D = デューティ・サイクル V IN = 供給電圧 fc = コンバータ周波数 この式では、消費電力のおおよその値を算出することは L = インダクタ値 出来ますが、HV809 のドライバとランプの等価抵抗によ るパワーロスは計算に入っていません。DC-DC コンバー EMI(電磁干渉)を避けるため、多くのアプリケーショ タの要求項目を設定する際は、HVOUT、P HV は実験結果 ンでは周波数を確定することが大切です。従いまして、 によって決定した方がよいでしょう。使用予定のランプ まずコンバータの周波数から設定することをおすすめし で HV809 ランプドライバの回路を組んで下さい。ドライ ます。周波数が高いほどインダクタは小さくてすみます バに電力を供給するには、市販の実験用高電圧パワーサ が、スイッチング・ロスの度合いは上がります。逆に低 プライを使用して下さい。要求される色、輝度、消費電 い周波数だとスイッチング・ロスの度合いも低くなりま 力が全て満足されるように、入力電圧と EL ドライブ周波 すが、インダクタは大きなものが必要となります。コン 数を調整して下さい。入力電圧・電流を測定し、その数 バータ周波数は 20∼100kHz が適しています。 値を DC-DC コンバータのデザイン要求項目として使って コンバータ周波数が決定したら、次はインダクタの選択 下さい。実践的な最大電力の測定のためには、いくつか です。あらかじめ規定されているスイッチング周波数に のランプで入力電流を測定したデータをお使いになるこ 関しては、インダクタの値が大きい方がピーク電流も低 とを推奨します。 くなりますが、デューティ・サイクルがかなり大きくな 部品の誤差とコンバータの効率に余裕を持たせるため、 ります。デューティ・サイクルは以下の式で算出します。 実際に要求されるより高めに電力レベルを設定するよう 設計して下さい。通常は要求電力に対して最低 125%のレ <数式 3> ベルが適当です。 動作周波数、デューティ・サイクル、インダクタの設定 この数式では、100%より大きなデュー D= 2 fcLPHV VIN ティ・サイクルが算出される可能性が あります。インダクタの値が高すぎる 次にスイッチング・コンバータの基本的な動作パラメー 場合などです。コンバータを最も効果 タ(周波数、デューティ・サイクル、インダクタ)を設 的に動作させるるためにはデューティ・サイクルは最低 定します。スイッチ抵抗、インダクタのロス、その他の 入力電圧時において 70%程度に押さえて下さい。デュー 寄生成分を考慮に入れなければこれらのパラメータの相 ティ・サイクルが大きいほどコンバータの効率が上がり 関関係は以下の数式で表せます。 ます。 インダクタの定格を決定するためのピーク電流は以下の 式でおおよそ算出できます。 日本総代理店 マイクロテック株式会社 〒168-0063 東京都杉並区和泉 2-7-5 TEL:03-5300-5535 FAX:03-5300-5530 4 7/1/99 HV809 EL ランプドライバー <数式 4> <数式 7> IL( PK ) = 2 PHV fcL P SW = R SW ( 2 PHV )1.5 V IN fcL 正しくインダクタを選択するためには、デューティ ・サ イクル、インダクタ値、インダクタの定格が適正な値に ここで; なるように、数式 3、4 を繰り返し試してみて下さい。も RSW = スイッチ・オン抵抗 し適当な値が得られなければ、コンバータの周波数を変 コンバータ周波数はトランジスタの電力損失に大きな影 える必要があります。 響を与えません。周波数が高いとインダクタは小さくな り、fcLは一定の値を保つからです。 QSW と D の設定 スイッチングトランジスタとダイオードの耐圧は、必ず スイッチングトランジスタ QSW を設定するのに最も重要 出力電圧より高くなければなりません。 なパラメータは耐電圧、オン抵抗、ピーク電流、電力損 失です。ダイオードのために重要なパラメータは、逆方 CIN と CHV の設定 向耐電圧、ピーク反復順電流、平均順電流、逆回復時間 入力キャパシタ CIN は、入力電源インピーダンスを減少 です。 させるためのバイパスキャパシタとして機能します。ま ピーク・インダクタ電流もまた、スイッチングトランジ た、高周波電流パスをショートループに制限することで スタとダイオードを流れるので、以下の式が成り立ちま EMI も減少させます。従いまして、CIN はコンバータの す。 近くに配置し、コンバータ周波数では低インピーダンス でなければなりません。最も効率よく機能させるために <数式5> は、CIN のインピーダンスは 1Ω以下でなければなりませ ん。 ISW ( PK ) = ID( PK ) = IL( PK ) 平均ダイオード電流は単にステップ 1 で設定されたでラ <数式8> ンプ・ドライバが必要とする電流です。効率を最大に上 げるためには、逆回復時間が 100nS 以内のファーストリ CIN ≥ 1 2π fc ZIN カバリー・ダイオードを使って下さい。 トランジスタを通る平均電流は、平均入力電流とおよそ ここで; 同じです。最大平均電流は最低入力電圧の時に発生しま Z IN = CIN インピーダンス す。 出力キャパシタ CHV は高電圧エネルギーを蓄積し、また 高周波電流パスをショートループに制限することで EMI <数式6> ISW = PHV VIN を減少させます。CIN と同様にコンバータの近くに配置 しなければなりません。CHV の値は HVOUT のリプル電 圧の要求値によって大きく変化します。一般的には、出 力電圧の約 10%のリプルが適切です。 スイッチングトランジスタの平均電力損失は以下の式で 概算できます。入力電圧が最少の時、トランジスタの電 力損失は最大になります。 日本総代理店 マイクロテック株式会社 〒168-0063 東京都杉並区和泉 2-7-5 TEL:03-5300-5535 FAX:03-5300-5530 5 7/1/99 HV809 EL ランプドライバー <数式 9> RC/R D 比は 555 タイマーの適切な動作のためには 2/1 以 上でなければなりません。 IHV CHV ≥ ripple • f LAMP HVOUT もしそれ以下だとタイミング・キャパシタ電圧が 1/3V CC 以下に放電することが不可能となり、555 の出力は LOW ここで; IHV = HV 809の入力電流 ripple = Vripple( p − p) / HVOUT fLAMP = ELランプ周波数 のままになります。あらかじめ RC/RD 比が与えられてい る場合、コンバータ周波数は図 8 から求めることができ ます。コンバータ周波数は CT の値からも調整できます。 CIN と C HV は低 ESR で高周波タイプにして下さい。 時定数 RC、RD、CT の設定 時定数部品 RC、RD、C T は、コンバータ周波数と最大デ ューティ・サイクルを決定します。算出はプロセスを繰 り返して行って下さい。 RC/RD の比率で最大デューティ・ サイクルをセットします。また、RC 、R D、CT の3つの 値は周波数を決定します。フィードバック回路によって デューティ・サイクルが最大値よりも小さくなることや、 コンバータの周波数が負荷や供給電圧の状態によって変 化することを考慮する必要があります。負荷が何もない 状況ではコンバータ周波数は出力電圧を維持するために とても低くなります。 最大デューティ・サイクルは図7のグラフを使って求め ることができます。RC/R D 比が大きく、グラフの勾配が 急峻な部分の上方で、最大デューティ・サイクルを決定 することで、抵抗値の公差による影響を少なくすること ができます。一方、RC/R D 比の値が小さいと後述の様に レギュレーションの範囲が狭くなります。一般に、RC/R D 比は4が妥当です。 最大デューティ・サイクルは下記の式でも求められます。 <数式10> D (max) = 1 1 .443 1 − 2 NCD 1+ In NCD + 1 2 − NCD ここで; NCD = RC / R D 日本総代理店 マイクロテック株式会社 〒168-0063 東京都杉並区和泉 2-7-5 TEL:03-5300-5535 FAX:03-5300-5530 6 7/1/99 HV809 EL ランプドライバー コンバータ周波数は下記の式で算出できます。 スタートアップ時に出力が 0V でフィードバックツェナー ダイオードが順方向にバイアスされている場合、限界状 態になります。もし、RFB が小さすぎると、555 の通常 <数式11> fc (nom) = 1 動作で必要とされるタイミング・キャパシタの電圧が 1 1 − 2 NCD RC CT 0.693 + In N CD + 1 2 − NCD 2/3Vcc になるのを妨げ、その結果、スイッチングトラン ジスタ QSW がオン状態のままとなり、過電流となり破壊 繰り返し計算して、前に設定した周波数とデューティ・ に至ります。この状態を避けるためには、RFB/R C が常に サイクルになるように、RC 、R D、CT の値を決定して下 2 以上になっていなければなりません。 さい。 <数式 15> <数式12> RFB >2 RC HVOUT = VZ + VBIAS 最適なレギュレーションのためには、RFB/R C が 2 より大 バイアスの値は負荷と入力電圧の状態で大きく変化しま きい値(抵抗値の公差も含めた最低値)に設定すると同 す。バイアス電圧の限界値は数式 13 及び 14 で算出でき 時に RFB は可能な限り小さくします。ツェナー電圧の選 ます。入力電圧が最少且つ負荷が最大の状態でバイアス 定は、必要な出力電圧−1/2(最大バイアス電圧)として は最少になります。入力電圧が最大且つ無負荷の状態で 下さい。必要であれば、ツェナーダイオードの電圧は端 バイアスは最大になります。 数を切り下げて、次に近い標準値としてください。 HV809 は定常負荷ですので、通常動作での実際のバイア ス電圧はこの制限範囲内になります。 <数式13> 1 V BIAS (min) = VIN 3 <数式 14> 1 1 V BIAS (max) = V IN − 3 1 + NCD + 1 N FBC [1 − NFBC ( NCD + 1) ] ここで; NFBC = R FB / R C NCD = RC / RD バイアス電圧は RC/R D と、R FB/RC の関数であり、図 9 から求めることができます。VBIAS(min)はレジスタ比と は関係ありません。 グラフから読みとれるように、RFB/R C が低いとバイアス 電圧も低くなります。しかし RFB には下限があります。 日本総代理店 マイクロテック株式会社 〒168-0063 東京都杉並区和泉 2-7-5 TEL:03-5300-5535 FAX:03-5300-5530 7 7/1/99 HV809 EL ランプドライバー 回路例 このセクションでは、前出の電源設計法で 4AA セルを使 L D IL(pk) って、12.5 平方インチのランプを 15ft-L(51cd/m)の輝度 220μH 43-57% 510mA で点灯させるための EL ランプドライバ回路の設計に関し 330μH 53-70% 420mA て説明します。 470μH 63-84% 350mA 330μH のインダクタは、最小入力電圧でのデューティ 必要条件 ー・サイクルが推奨値と合致します(70% ) 。電流の定格 必要な電力を決定するために、HV809 ランプドライバを、 値は 520mA、AJ. W. Miller PM105-331K、330μH、1.15 実験用パワーサプライを使って動作させ実験を行います。 Ω、表面実装のインダクタを使用しました。 ランプの寿命とリーズナブルな効率のために、ランプ周 波数は 200Hz とします。 160V の入力電圧で輝度は 15ft-lm QSW と D (51cd/m)となります(但し、EL ランプの材料、製法は各 ダイオードには BAV21W がすべての条件を満たします。 メーカーによって異なるため、ランプの特性もそれぞれ 特性 条件 BAV21W のメーカーで変わります) 。 逆耐電圧 >160V 200V 入力電流は約 3.3mA ですので、入力電源には 528mW が ピーク反復電流 >420mA 625mA 求められます。25% の余裕を持たせると 660mW となり 平均順電流 >3.3mA 200mA ます。 逆回復時間 <100ns 50ns HV809 で入力電力の 528mW の 3 分の 2 が損失により失 スイッチはスーパーテックス社の VN2220N3 MOSFET われると仮定すると、352mW となり、SO-8 パッケージ を使用しました。 のスペックの 500mW の範囲に完全に収まります。 特性 条件 VN2220N3 最大入力電圧は新しい電池 4 本で 6V です。最小入力電圧 耐電圧 >160V 200V は 555 タイマーの最小動作電圧、4.5 ボルトです。 ピーク電流 >420mA 7.0A 必要条件を一覧に表すと下記のようになります。 平均電流 >147mA 900mA VIN=4.5∼6.0V オン抵抗 VOUT=160V 電源損失 PHV=660mW 平均スイッチ電流は数式 6 にて、スイッチの電力損失は 1.25Ω >153mW 1.0W 数式 7 で算出できます。 動作周波数、デューティ・サイクル、インダクタ コンバータの周波数は 23KHz を選択しました。この周波 CIN と CHV 数はスイッチングのロスを低くし、ノイズは可聴範囲外 コンバータ周波数 23KHz、規定されている CIN インピー になります。 ダンス 1Ω以下という条件で数式 8 を計算すると、CIN は 次に、何種類かの標準値のインダクタを評価しました。 6.9μF 以上でなければなりません。標準値の中から次に 数式 3 を使って、それぞれのインダクタの値で、入力電 大きい 10μF を選択します。 圧範囲 4.5∼6.0V でデューティ・サイクルを算出しまし 200Hz のランプ周波数、10% のリプル、先に計測した た。インダクタのピーク電流は数式 4 で求めました。設 HV809 の入力電圧 3.3mA という条件下で、数式 9 で計 計電力レベルは 660mW を採用しました。 算すると CHV は最低 1.0μF でなければなりません。こ れは標準値ですので、そのまま 1μF を選択します。 日本総代理店 マイクロテック株式会社 〒168-0063 東京都杉並区和泉 2-7-5 TEL:03-5300-5535 FAX:03-5300-5530 8 7/1/99 HV809 EL ランプドライバー 時定数部品 RC、RD、CT フィードバック部品 RFB と ZFB ステップ2で算出したように、4.5V での最大デューティ・ 最良のレギュレーションのために、RFB は RC の 2 倍よ サイクルは 70%です。 りわずかに大きい値が望まれます。RC が 51KΩなので、 数式7にこの値を代入すると RC/RD の比は 3.5 となりま RFB は 102KΩを少し上回るぐらいの値が適当です。この す。公差を考慮した余裕を持たせて 4.0 をターゲットとし 次に大きな標準値は 110KΩです。5%精度の抵抗を使う ます。タイミング・キャパシタ CT を 1nF とします。コ と、 RFB/ RC 比は 1.95 と低くなり、 「どの状態でも RFB/R C ンバータ周波数 23KHz と規定すると、数式6によって RC 比は 2 より大きい値でなければならない」という条件に は 45KΩとなります。これに最も近い標準値は 47KΩで 合致しなくなります。次に高い RFB の値は 120KΩで、 す。RC、R D のターゲット比である 4.0 にこれを代入する この値だと RFB と R C の比率は 2.35 です。更に 5%のレ と RD は 11.75KΩとなります。これに最も近い標準値は ジスタを適用すると RFB/R C 比は 2.13 となり、先の条件 12KΩです。これら 47KΩと 12KΩを使うと RC、R D の に合致するようになります。よって、RFB の値はを 120K 比率は 3.92 となります。5%精度の抵抗を使うとこの比率 Ωを選択することにします。 は 3.54 と低くなり、デューティー・サイクル 70%に適合 RC/R D 比 4.25、R FB /RC 比 2.35 を図 9 に適用すると、 します。これは上記の 70%に対して全く余裕が無い値な VBIAS(max)は供給電源の約 2.1 倍となります。というこ ので RC は 51KΩとします。すると RC/R D 比は 4.25 と とは、ツェナー電圧は VOUT−1/2(V BIAS(max))の値と なり、最悪でも RC/R D 比は 3.85 で、最大デューティ・ なります(そうでないと 147-152 となり入力電圧範囲を サイクルは 72%です。51KΩを採用しても約 23KHz のコ 越えてしまいます) 。これに最も近い一般的なツェナーダ ンバータ周波数が得られることが分かります。 イオードの値は 150V なので、これを採用します。 日本総代理店 マイクロテック株式会社 〒168-0063 東京都杉並区和泉 2-7-5 TEL:03-5300-5535 FAX:03-5300-5530 9 7/1/99 HV809 EL ランプドライバー 最終回路 上記までで決定してきた部品を使って作る回路は、最終的には下記のようになります。 上記回路のテスト結果は以下の通りです。 特性 測定値 状態 通常出力電圧 160.8V VIN=5.25V、R LOAD=39.65kΩ ライン・レギュレーション 2.8% VIN=4.5-6.0V、RLOAD=39.65kΩ ロード・レギュレーション 3.8% VIN=5.25V、R LOAD=39.65kΩ-∞ 効率 83% VIN=5.25V、R LOAD=39.65kΩ 周波数 22.67kHz VIN=4.5-6.0V、RLOAD=39.65kΩ 周波数偏差 ±16% VIN=4.5-6.0V、RLOAD=39.65kΩ 無負荷周波数 2.769kHz VIN=5.25V、R LOAD=∞ 日本総代理店 マイクロテック株式会社 〒168-0063 東京都杉並区和泉 2-7-5 TEL:03-5300-5535 FAX:03-5300-5530 10 7/1/99 HV809 EL ランプドライバー 第 2 部 オフ・ライン EL ドライバ 第 2 部では、スーパーテックス社の HV809K2 を使い、100 平方インチの EL ランプを、整流された 120V の AC ラインで駆動する回路を解説します。 HV809K2 を使用し、400Hz、ピーク・トゥ・ピーク電圧 340V で EL ランプを駆動します。さらに、EL ランプはロジック信号でオン・オフが可能です。アプリケーションとしては広告看板、誘導灯、インテリ ア用アクセントライト等に適しています。 回路解説 は、発熱を最小限に押さえるため、リプル電圧が 供給電圧は 120V の AC ラインで、170V の直流 20V 以下になるものを選んで下さい。CIN は次の に全波整流します。170V の直流は HV809 の電源 ように求められます。 に使われます。HV809K2 は内部にリニア・レギ ュレータを持ち、10VDC の Vdd を供給します。 CIN=I IN /(2×V RIPPLLE×f LINE) Vdd は EL 周波数用の内部低電圧 CMOS オシレ ここで; ータ回路の駆動に使われます。EL 周波数は REL- I IN=C IN キャパシタからの平均電流 OSC とグラウンド間の外付け抵抗で調整できます。 VRIPPLLE=最大リプル電圧 20V CMOS オシレータは高電圧出力 H ブリッジ、VA f LINE=ライン周波数、50/60Hz と VB をコントロールします。 EL ランプは VA-VB 間に接続しますが、外部 R EL I IN 電流は HV809 の動作電流と負荷電流の合計で、 レジスタによって設定された周波数で、±170V 以下の式でおおよその値が算出できます。 のピーク・トゥ・ピーク電圧で駆動されます。 I IN=I INQ+(2×f EL×C EL ×HVIN) 計算 ここで; 120V の AC ラインはダイオードブリッジ D1、D2、 I INQ=HV809 の動作電流 D3、D4 によって全波整流されます。120V の AC f EL=EL ランプ周波数 ラインのピーク電圧は 120×1.1414=170V です。 CEL=EL ランプ静電容量 ダイオードブリッジが必要とする耐電圧は 170V HVIN=入力 DC 電圧 以上です。200V かそれ以上の電圧の製品、例え ば、1N4003 が適しています。 HV809 の IINQ は 400μA が最大です。典型的な CIN は 200V 以上の電解コンデンサーです。容量 EL ランプは 400Hz 付近で最も効率が良いので、 日本総代理店 マイクロテック株式会社 〒168-0063 東京都杉並区和泉 2-7-5 TEL:03-5300-5535 FAX:03-5300-5530 11 7/1/99 HV809 EL ランプドライバー f EL は 400Hz を採用しました。CEL は、 1 平方イ ンチ当たり 3.5nF とすると C EL を概算するのに 大変役立ちます。100 平方インチだと C EL は 350nF です。HV IN は先と同様に算出すると 170V です。 I IN= 400μA+(2×400Hz×350nF×170V) =48mA よって CIN は以下のように概算できます。 CIN=48mA/(2×20V×60Hz) =20μF もしくはそれ以上 OSC1 入力 CIN は最も近いコンデンサの標準値である 22μF OSC1 ピンと GND、VDD を接続する事で出力を を選びました。CIN の電圧波形は図 12 の通りで イネーブル/ディスエーブルすることができます。 す。 OSC1 ピンを GND に接続するとイネーブル状態 になります。HV809 はスーパーテックス社製の EL ランプ周波数 TN2106K1 のような低スレッショルド MOSFET REL 抵抗値が 1MΩだと、EL ランプの周波数は を、200K Ωのプルアップ抵抗と共に使用するこ 約 400Hz となります。出力両端の電圧波形は図 13 とで、図 14 に示したようにマイクロプロセッサ に示した通りです。REL 抵抗値を大きくすると、 等の外部ロジック信号で制御が可能となります。 EL ランプ周波数は下がります。EL ランプ周波数 範囲は 100Hz から 1.2KHz まで設定可能です。 電力損失・ヒートシンクについて 高い周波数に調整すると損失も増加します。 入力電流 IIN は交流 170V で 48mA と算出されま した。入力電力は 170V×48mA=8.16W です。EL ランプと HV809 が、その 8.16W を分担します。 分担比は EL ランプの等価抵抗と、HV809 の Hブリッジのスイッチ・オン抵抗によって変わりま す。典型的な例では電力の 3 分の 1 が EL ランプ で、3 分の 2 は HV809 で消費されます。 HV809K2 は 7 ピンの TO-220 パッケージです。 外気温 25℃で、適切なヒートシンクを使用した場 合、許容電力は最大 15W です。ヒートシンクを 全く使用しない場合、同条件での損失はたったの 1.5W です。電力損失限界は最大許容ジャンクシ ョン温度、150℃です。ジャンクション温度は以 下の式で算出出来ます。 日本総代理店 マイクロテック株式会社 〒168-0063 東京都杉並区和泉 2-7-5 TEL:03-5300-5535 FAX:03-5300-5530 12 7/1/99 HV809 EL ランプドライバー TJ=P DISS×(θJC+θ CS+θSA)+T A 結び ここで; スーパーテックス社の HV809 を利用すると簡単 PDISS=HV809 の電力損失 に、しかも手早く EL ランプドライバーの回路設 θJC=ジャンクション-ケース間熱抵抗 計が行えます。 θCS=ケース-ヒートシンク間熱抵抗 このアプリケーションノートでは、電池電源のア θSA=ヒートシンク-外気間熱抵抗 プリケーション向けの簡単な DC-DC コンバータ TA=周囲温度 の設計方法を説明しています。 HV809 は大面積 θJC は 5℃/W です。θCS はデバイスが、どのよ の EL を高輝度で駆動できる大変パワフルなデバ うにヒートシンクに接続されているかによって値 イスです。SO-8 パッケージの HV809(HV809LG) が変わります。シリコン・シートやサーマル・グ は、薄さと高輝度が求められる、携帯端末等に利 リースがよく使用されます。θSA はヒートシンク 用されるランプの駆動に、ターゲットを絞ってい のサイズや、冷却方法によって値が変わります。 ます。SO-8 パッケージの HV809 はラージサイズ 雰囲気温度 25℃で、P DISS が 15W、最大ジャン の EL を駆動する際も、最大 500mW の損失に制 クション温度が 150℃である場合、ケース-ヒート 限されています。 シンク間の熱抵抗とヒートシンク-外気間の熱抵抗 7 ピン TO-220 パッケージの HV809K2 はヒート は合計で 3.3℃/W 以下でないとなりませんが、8 シンクを付けた場合 15W まで許容されるため、 立方インチの垂直ヒートシンクによる自然な対流 更に大きなサイズで、高輝度のランプに適してい で十分です。 ます。 ヒートシンクには様々なサイズ、形状のものが有 HV809 は高電圧を扱いますので、感電やショー ります。ヒートシンクメーカに製品の形状を問い トに十分注意して下さい。 合わせて、適切なヒートシンクを選んで下さい。 TO-220 パッケージをヒートシンクにネジ止めす る際は、締め付けトルクは、4kgf・cm 以下で取り 付けてください。 日本総代理店 マイクロテック株式会社 〒168-0063 東京都杉並区和泉 2-7-5 TEL:03-5300-5535 FAX:03-5300-5530 13 7/1/99
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