クラウドソーシングの集合行為論:国際公共財の自発的供給への適用 The Crowdsourcing as a Logic of Collective Action: An Application to Voluntary Provision of International Public Goods 聖心女子大学 古川純子 報告要旨 公共財には、消費の非競合性(non-rivalness)と非排除性(non-excludability)という 特性があるため、真の選好を顕示しないフリーライダーの出現を許す。伝統的な公共 財の理論によれば、市場機構もしくは人々の自発性に任せると、公共財の供給は過少 供給になるため、強制権をもつ非市場機構(政府)による供給が必要だとされる。 一方で、1990 年代から不特定多数の主体がインターネットを介してそれぞれの知識 を用いて自発的に協働し、情報や財をオープンな形で生産する創造的集合行為が出現 し始めてきた。いわゆるクラウドソーシング(crowdsourcing)と呼ばれる現象であり、オ ープンソース・ソフトウェアや Wikipedia などが代表例である。クラウドソーシングで 生産された財は、無料で公開され、誰もが使用を制限されない。ここではフリーライ ドは歓迎され、しかも自発的な供給は続く。これを自発的に供給される公共財とみる こともできる。クラウドソーシングでは、強制が無いにもかかわらず、なぜ不特定多 数による集合行為によって公共財の自発的供給が起きるのか。人々はなぜ無償で協力 するのだろうか。本報告では、クラウドソーシングが生み出す財の性質を抽出しつつ 公共財の性質を再検討し,その集合行為を可能にするメカニズムを理論的に解明する。 クラウドソーシングにおける協力のメカニズムは、強制権のない世界で集合行為によ って公共財が自発的に供給されるしくみを一般化して示すことになるかもしれない。 小さくはコミュニティーの生成から、大きくは国際公共財の提供までの適用可能性を 検討したい。 強制権を持つ世界政府が存在しない国際社会では、国際公共財は疑似政府として振 る舞う覇権国によって提供されるという覇権安定論者の主張がある。そして、周辺国 のフリーライドもあって覇権国が衰退すれば、国際公共財の供給は過少になり、世界 は必然的に無秩序化するという見方がある。しかし、19 世紀の昔から、世界大での郵 便配達ネットワーク(万国郵便連合)、単位・規格の共有(国際度量衡事務局。現、 国際標準機構)、国境を超えた犯罪捜査ネットワーク(国際刑事警察機構)、国境を 超えた医療援助(赤十字、国境なき医師団)、河川の国際共同管理などが行われてき ており、ときに国際機構設立に発展して安定的に維持されてきた国際公共財も実は少 なくない。これらの国際公共財の成立には、上記のメカニズムが当てはまることを確 認できる。では、さらにどのような国際公共財が成立可能なのか。そのための条件は 何か。検討したい。それはアメリカの覇権の相対的脆弱化に直面する現在の世界に、 協力と秩序を生み出す条件を探っていくとうい作業でもあるだろう。
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