技 術 資 料 セシウム一次周波数標準の現状と その高精度化に向けた最近の研究動向 田邊健彦 * (2013 年 2 月 14 日受理) Review of current status and studies for improvement of cesium primary frequency standards Takehiko TANABE Abstract Recent studies on frequency standards are categorized into (i) development of optical frequency standards, e.g., optical lattice clocks and single ion optical clocks, and (ii) improvement of cesium (Cs) primary frequency standards. Particularly the rapid progresses on optical frequency standards promote the discussion of rede.nition of the second, which is one of the milestones of (i). The first step for the rede.nition of the second by optical frequency standards, the superiority of its performances such as absolute frequency, uncertainty and instability must be verified by comparison with respect to the SI second, which is realized by Cs primary frequency standards as accurate as possible. Therefore the improvements of Cs primary frequency standards, i.e., current status of researches on the 133 Cs atomic fountain, are strongly required. In this report, the 133 Cs atomic fountains and recent attempts by our group at improving them are reviewed. 史」とも言うべきノーベル賞の歴史において,標準に関 1.序論 する研究が何例も受賞対象になっていることは,科学研 1.1 時間・周波数標準とは 究における標準の重要性を物語っていると言える. 実験に基礎を置く自然科学においては,さまざまな「測 さて,物理量の測定において突出して高い精度で数値 定」が必須である.測定量を数値化するとき,それは必 化できる量が,本稿で対象とする「時間」,もしくはそ ずある基準の値,「標準」と比較する.定量的な議論を の逆数の「周波数」である.それが可能な理由は,時間・ 行い,現象のより深い理解を目指す際に欠くことができ 周波数の標準の精度が非常に高いからに他ならない.時 ないのが,堅牢な計量標準である. 間・周波数の標準は,それが他の標準や基礎物理学と密 測定量は,時間や長さなどから成る 7 つの「基本単位」 接に関連していることも特徴として挙げられる.周波数 と,複数の基本単位を組み合わせた「組立単位」を用い 測定それ自身を高精度・高感度のプローブとして用いる て記述される.もちろん,時間や長さには標準が存在し, ことで,今まで検証が困難であった物理現象,例えば微 より優れた標準,つまり不確かさが小さい標準を探索す 細構造定数の時間変化の有無などを探索することも議論 る研究が,古くから今日に至るまで脈々と続いている. されており,これも大変興味深い.レーザーを用いた精 標準は,それ自身が主役になる機会は少ないが,科学の 密分光への寄与と光周波数コムの開発により,2005 年に 研究における縁の下の力持ちとして,その重要性はいく ノーベル物理学賞を受賞した T.W.Hänsch の受賞記念論 ら強調しても強調しすぎることはない.「現代科学の歴 文 1)にある“Never measure anything but frequency”とい うフレーズは,測定において周波数測定が占める特別な 位置を端的に表していると言えるだろう. * 計測標準研究部門 時間周波数科 時間標準研究室,波長標準研 時間は日常の生活において最も馴染みのある物理量の 究室 産総研計量標準報告 Vol. 8, No. 4 395 2013 年 3 月 田邊健彦 ない高い精度である. 一つである.生活の基本にあり,日々の行動の目安であ る時間を知るための道具が「時計」である.いかなる時 計も,本質的には「発振器」,「カウンター」,「基準」の 1.2 原子時計の研究の現状 三つの要素から構成されている.「発振器」には,何ら 1967 年に,セシウム原子の超微細構造間の遷移に基づ かの周期的な物理現象を利用する.振り子時計の場合に いて秒が定義されて以来,まもなく半世紀になる.そし は振り子であり,一般的な腕時計の場合には水晶発振器 て近年,秒をめぐる研究は大き転換期にある.現在の周 である.発振器の持つ周期的な物理現象を数えるのが 「カ 波数標準の研究は,以下の 2 つの大きな柱に沿って行わ ウンター」である.振り子時計や腕時計の場合,内部の れている. ギア部がその役割を担う.さて,発振器の周波数は安定 であることが望ましいが,様々な原因により徐々にその 1.光周波数標準(光時計)の研究 周波数は変化してしまう.そこで何らかの安定な「基準」 2.現行のセシウム周波数標準の高精度化 によりずれを検知し,周波数が一定になるように発振器 にフィードバックする必要がある.一秒を定義するため 上記の「1」は以下のような背景に基づく.レーザー光 の基準として,かつては天体の運行(地球の自転や公転) が誕生した頃から,原子の光領域にある遷移を用いる原 を利用していた .その後,原子が放出もしくは吸収す 子時計, 「光周波数標準 ( 光時計 )」の可能性が議論され る電磁波の周波数を基準として用いる「原子時計」の研 てきた.先述の通り,現在の一秒はセシウム原子のマイ 究が発展し,非常に高い精度で秒が決められる目処がつ クロ波領域の周波数によって定義されている.マイクロ いた.そして 1967 年,セシウム原子に基づく「原子の秒」 波領域の周波数は約 10 GHz(1010 Hz)であるのに対して, が定義として採択され,1 秒は「基底状態にあるセシウ 光領域の周波数は数百 THz(1014 Hz)のオーダーであり, ム 133 原子の超微細構造間の遷移に対応する放射の周期 約 10 万倍周波数が高い.定性的に述べると,光周波数 の 9 192 631 770 倍の継続時間」となった.これを周波数 標準はセシウム周波数標準より細かく時間を測定するこ という観点で読み直すと,基底状態にあるセシウム 133 とができるため,時間分解能が一気に 5 桁向上する.つ 原子の超微細構造準位を取り上げ,この 2 つの準位間の まり,より高精度な周波数標準となる. エネルギー差に相当する電磁波の周波数が 9 192 631 770 そこで,光周波数標準の研究・開発が各国の研究機関 Hz であるということを意味する.これはマイクロ波領 で長年にわたり行われてきた.光周波数標準の研究が始 域の周波数である. まった当初は,光周波数標準それ自身の精度の問題に加 上記の超微細構造間の遷移周波数を測定し,定義を実 えて,光周波数の測定が困難であるという大きな問題が 際に実現する装置が「セシウム原子時計」,もしくは「セ あった.しかし 20 世紀末に,ドイツとアメリカのグル シウム周波数標準器」である.原子時計もまた,上記の ー プ で, 超 短 パ ル ス レ ー ザ ー に よ る「 光 周 波 数 コ 場合と同様に三つの要素から構成される.発振器として ム」を用いたレーザー周波数カウンターが発明されて以 マイクロ波発振器が用いられ,マイクロ波発振器の場合, 来 3)-5),光周波数測定の問題が克服され,光周波数標準 振動数が大きいために機械的なカウンターではなく,電 の研究が大きく進展した.さらに,基準として用いる原 気的なカウンターにより電磁波の振動数を測定する.そ 子の側においても, 「光格子時計」という優れた方式が して,基準が原子の準位間の遷移周波数 ( 時計遷移周波 考案・開発されたことも契機となり 6),7),現在,光周波 数 ) である.後で述べるが,得られた遷移周波数の値には, 数標準の研究は現代物理学におけるホットトピックの一 さまざまな要因による「不確かさ」が存在する.本稿の つと言えるまでに盛んに行われている.そして,この光 タイトルにある「一次周波数標準」とは,この不確かさ 周波数標準の研究の大きな目標の一つが,現在はマイク を自ら評価した標準器のことであり,本稿における周波 ロ波の領域にある秒の定義を光領域に得ることである. 数標準とは,一次周波数標準器としてのセシウム原子時 光周波数コムの不確かさは既に 10 −17 〜 10 −19 であり 8), 計のことである.セシウム原子時計の精度は 10 桁から 光周波数標準の不確かさが 10 −17 のオーダーでさらに向 始まり,先人達による地道な努力の結果,現在は 15 桁 上中である.光周波数標準の近年の急速な進展具合を受 から 16 桁にも到達している(不確かさが 10 けて,近い将来に「秒の再定義」が行われることが予測 2) −15 〜 10 ). −16 これを分かりやすく述べると,仮にセシウム原子時計を されている 9). 数千万年間動かし続けても,一秒程度しかずれないこと さて,光周波数標準の研究の目標の一つである「秒の を意味する.これは物理量の測定において,他に類を見 再定義」の実現に向けた重要なステップは,光周波数標 AIST Bulletin of Metrology Vol. 8, No. 4 396 March 2013 セシウム一次周波数標準の現状とその高精度化に向けた最近の研究動向 準の性能 ( 不確かさや安定度 ) を評価し,セシウム周波 ム原子のエネルギー構造について簡単に説明しておこ 数標準に対する優位性を実証することである.しかしそ う.図 1 を適宜参考にして欲しい.セシウム原子は原子 の性能評価においては,現在の秒の定義を実現するセシ 番号 Z = 55 のアルカリ原子であり,キセノン原子(Z = ウム周波数標準が必須であり,それにより可能な限り精 54)と等価な電子の閉殻構造の外側に,1 個の電子を配 度良く光周波数標準の性能を評価する必要がある.その 置した構造である.基底状態(6 2S 1/2)は最外殻電子の軌 ためには,現行のセシウム周波数標準のさらなる高精度 道角運動量 L がゼロであるため,核スピン I =7/2 と最外 化がきわめて重要である.これが上記の「2」の背景で 殻電子のスピン S =1/2 が結合することで,2 つの超微細 ある. 構造準位 F =3, 4 が生じる.F は全角運動量量子数である. 以上を背景として,本稿では特に上記の「2」について, 2 つの超微細構造準位 F =3 と F =4 は,それぞれ 2F +1 セシウム周波数標準の基礎と動作原理について,また各 個の磁気副準位が縮重しており,磁場を印加するとゼー 国の標準研究所と産総研におけるセシウム周波数標準の マン効果によりその縮重が解ける.このうち,磁場によ 現状について述べる.そこではセシウム周波数標準の高 るエネルギーシフト量が最も小さい(F =3, m F = 0)と 精度化に向けた本グループによる近年の取り組みについ (F =4, m F = 0)の 2 つの準位間の遷移が,セシウム原子 ても紹介する.また,セシウム周波数標準のさらなる高 時計の時計遷移として用いられる(量子化軸は磁場の印 精度化において重要な鍵を握る,黒体輻射シフトに起因 加方向である) .mF =0 同士の遷移においても,磁場によ する不確かさの低減に向けた,近年の研究動向について るわずかな周波数シフトが生じるため,磁場を測定し, まとめる. 補正を行う.以上に基づいて, 前節で述べた 「一秒の定義」 を再度記すと,「セシウム 133 原子の基底状態 6 2S 1/2 の 2.セシウム原子時計 (F =3, mF = 0)と(F =4, mF = 0)の準位間の遷移に対応 する電磁波の周波数が 9 192 631 770 Hz である」となる. 2.1 セシウム原子のエネルギー構造 2.2 ラムゼー共鳴 セシウム周波数標準について説明にする前に,セシウ セシウム原子時計は大きく分けて(i)原子ビーム方式, (ii)原子泉方式,という 2 つの方式がこれまでに考案・ 開発され,運用されてきた.(i)の方式は,加熱したオ ーブンから噴出したセシウム原子のビームを用いる方式 であるのに対して,(ii)は,レーザー冷却によりセシウ ム原子を極低温にまで冷却し,低速化された冷却セシウ ム原子を用いる方式である.現在の主流は,(ii)の原子 泉方式である.本稿では(i)の説明は省略するが,詳細 は例えば文献 10)などを参照してほしい. 高精度な周波数標準器を実現するためには,できるだ け周波数線幅が狭い信号を観測する必要がある.そのた めには,セシウム原子とマイクロ波との相互作用時間を 出来る限り長くする必要がある.そこで周波数標準器で は 「ラムゼー共鳴」 という現象を用いる.ラムゼー共鳴は, セシウム原子に限らず,他の原子やイオンの準位間の遷 移周波数の精密測定において欠かせない重要な手法であ る.ラムゼー共鳴法では原子は電磁波と 2 回相互作用す るが,1 回目と 2 回目の相互作用の間に時間間隔を設け るのが特徴である.具体的には,準位の縮重を解くため 図1 セシウム原子のエネルギー準位図.F は全角運動量量子数, mF はその射影量子数である(量子化軸は磁場の印加方向). あわせて,原子泉における原子の冷却,打ち上げ,検出に 用いる遷移(波長 852 nm)を示した. 産総研計量標準報告 Vol. 8, No. 4 397 に C 磁場と呼ばれる定常磁場を印加し,原子の状態をあ る準位に揃える.この状態で電磁波を時間 τ だけ照射し, 時間 T が経過した後に再び電磁波を時間 τ 照射する.こ のように 2 回に分けて原子と電磁波が相互作用すると, 2013 年 3 月 田邊健彦 原子が他の状態に遷移する確率が実際に相互作用する時 数計測に関係のないセシウム原子からの寄与),I 0 は定 間 τ だけでなく,2 回の相互作用の間の時間間隔 T にも 数である. 依存する干渉項が得られ,遷移確率が電磁波の周波数変 化に対して鋭敏になる.この現象を利用することで,高 い精度で遷移周波数を測定することができる.本稿では 具体的な計算の中身は示さないが,セシウム原子時計に お い て, 共 鳴 周 波 数 ν 0( セ シ ウ ム 原 子 の 場 合 は 9.192...GHz)付近における時計遷移の遷移確率 P (τ) は, 以下の(1)式で表される 10). 1 (1) P (τ ) = sin2 bτ [1 + cos 2π(ν − ν )T ]. 2 0 (1)式において τ は原子とマイクロ波との相互作用する 時間(マイクロ波共振器を通過する時間),ν は照射する 図2 本 研究グループの原子泉で得られたラムゼーフリ マイクロ波の周波数,T は 1 回目と 2 回目の相互作用の ンジの一例.横軸は周波数離調(マイクロ波の周 波数と共鳴周波数 ν0 との差) ,縦軸は時計遷移確率 時間間隔である.b は, (無次元) である.フリンジの幅は約 0.7 Hz である. µ B B (2) , b= であり,μ B はボーア磁子,B' は磁束密度である.このと 2.3 原子泉型一次周波数標準器の開発の経緯 き,観測されるスペクトルの線幅 Δν は, 1950 年代に,最初に開発されたセシウム周波数標準器 は原子ビーム方式であった.原子ビーム方式の場合,加 1 (3) , ∆ν = 2T 熱したオーブンから噴出した数百 m/s のセシウム原子ビ ームが,2 つのマイクロ波共振器を通過する時間間隔, で与えられる. (3)式より,観測される線幅は T に比例 つまり(3)式における T は数ミリ秒程度でしかなかった. して狭くなることがわかる.これがラムゼー共鳴法の特 その後,さらに長いマイクロ波との相互作用時間を確保 徴である.マイクロ波共振器(ラムゼー共振器)中のマ するため,セシウム原子を鉛直方向に打ち上げる方法が イクロ波の周波数の関数として時計遷移の遷移確率をプ 提案された.打ち上げた原子の軌道上にマイクロ波共振 ロットすると,干渉縞のようなフリンジとなり,これを 器を設置しておけば,打ち上げによる上昇時と自由落下 「ラムゼーフリンジ」と呼ぶ.例として,本グループの による下降時の 2 回,マイクロ波と相互作用することが 原子泉で得られたラムゼーフリンジを図 2 に示した.た でき,長い相互作用時間を確保できるというアイディア だし, (1)式は である.この方式は,原子が“泉”のように打ち上がり, 落下する様子に似ているため「原子泉」と呼ばれる.原 (4) 2π|ν − ν0 | b, 子泉は,原子時計の研究の黎明期からそのアイディアは を満たすときのみ成り立つことに注意してほしい.また 当時は熱原子ビームを鉛直に打ち上げたため,原子は上 (1)式では,全ての原子が等しい速度を持つことを仮定 空にいたるまでに拡散してしまい,信号が得られなかっ してるが,実際の原子は速度分布を持つ.そのため,実 たのである.原子泉の実現には,レーザーや,レーザー 際に得られる信号は速度分布 f(τ)が(1)式にコンボ で原子の運動を精密に制御するレーザー冷却技術が必要 リュートされた, であった.そして,これらの技術が成熟した 1980 年代 あったが,実現には至らなかった.詳しくは述べないが, の後半に,スタンフォード大学のグループによりナトリ ウ ム 原 子 を 用 い た 原 子 泉 が 初 め て 報 告 さ れ た(1989 off (5) 年)11).その後,1995 年にフランスの標準研究所 Sytèmes de Référence Temps Espace(以下 SYRTE)が,原子泉方 式のセシウム周波数標準器のプロトタイプを開発し,そ と表される.I off は信号におけるオフセットであり(周波 AIST Bulletin of Metrology Vol. 8, No. 4 398 March 2013 セシウム一次周波数標準の現状とその高精度化に向けた最近の研究動向 の性能を評価したことが契機となり nm, セシウム原子の D2 線)を用いる.これにより,原子 ,世界各国でその 12) 開発が始まった.レーザー冷却により冷却された(低速 を 62S1/2, F =4 の状態に揃える. 化された)セシウム原子を用いる原子泉では,T =1s と 実際には,セシウム原子の運動によるドップラー効果 長く,線幅が 1 Hz 程度と非常に狭くなるため,高い精 を考えて,6 2S 1/2, F =4-6 2P 3/2, F =5 の遷移に対して約 10 度で遷移周波数を得ることができる.この原子泉方式が MHz 負に離調を取ったレーザーを約 1 s 照射する.さら 現在のセシウム周波数標準器の主流の方式であり,本グ に,周波数離調を数 ms の間だけ約 50 MHz まで大きく ループにおいても運用・開発が行われている.では次に, することにより偏光勾配冷却を行い,1 µK(速度約 1 原子泉における周波数測定の流れを見ていこう. cm/s)程度まで原子集団を冷却する.その後,上下方向 のレーザの周波数をわずかにずらし,定在波を上方向に 3.原 子泉型一次周波数標準器における周波数測定の概 移動させて原子を打ち上た後, 冷却用のレーザーを切る. 要 2.原子とマイクロ波の相互作用(1 回目) 一般的な原子泉の概略図を図 3 に示す.原子泉におけ 62S1/2, F =4 の状態に揃えられて打ち上げられた原子は, る周波数の測定は,セシウム原子の冷却と打ち上げ →原 初めに「状態選択共振器」とよばれるマイクロ波共振器 子とマイクロ波の 1 回目の相互作用 →重力により落下し を通過する.状態選択共振器には弱い静磁場が印加され てきた原子とマイクロ波の 2 回目の相互作用 →原子の検 ている.ゼーマン効果により基底状態 62S1/2, F =4 の縮重 出, という流れで行われる. 以下, この流れを見ていこう. を解き,62S1/2(F =3, mF = 0)と 62S1/2(F =4, mF = 0)の遷 移に共鳴するπパルスを照射する.このとき,静磁場 1.セシウム原子のレーザー冷却と打ち上げ とマイクロ波の磁場は平行であり,σ 遷移(ΔmF = 0)に 超高真空に保った真空チェンバー内にセシウム原子を より, (F =4, mF = 0)の全ての原子を(F =3, mF = 0)に 気体として送り込み,互いに垂直な 6 方向からレーザー 遷移させる.その直後,6 2S 1/2, F =4-6 2P 3/2, F =5 に共鳴す 光を照射し,ドップラー冷却により冷却セシウム原子集 るレーザーを上方から照射することにより 62S1/2, F =4 の 団(光モラセス)を生成する.このとき,冷却光として 原子に散乱力を与え下方へ吹き飛ばす. 6 S1/2, F =4 -6 P3/2, F =5 の遷移周波数のレーザー(波長 852 残された 62S1/2(F =3, mF = 0)の原子はさらに打ち上が 2 2 った後, 「ラムゼー共振器」とよばれるマイクロ波共振 器を通過し,62S1/2(F =3, mF = 0)と 62S1/2(F =4, mF = 0) 間の遷移に同調したπ /2 パルスを受ける.これが原子と マイクロ波の 1 回目の相互作用である. 3.原子とマイクロ波の相互作用(2 回目) 1 回目の原子とマイクロ波の相互作用により,62S1/2(F =3, mF = 0)と(F =4, mF = 0)に半分ずつの確率でポピュ レートした原子は,ラムゼー共振器から約 1 m の高さま で打ち上がった後,重力により落下し始める.落下の途 中で再びラムゼー共振器を通過する際に π /2 パルスを受 け,62S1/2(F =4, mF = 0)に遷移する.これが原子とマイ クロ波の 2 回目の相互作用である. 4.原子の検出 下方で 62S1/2, F =4 -62P3/2, F =5 の遷移周波数のレーザー (波長 852 nm)を横方向から互いに対向させて照射し, 6 2P 3/2, F =5 の状態に励起した原子からのけい光をフォト ダイオードで検出する.けい光量は 62S1/2(F =4, mF = 0) の原子の数に比例するので,時計遷移の確率はけい光量 から得ることができる.時計遷移の確率が最大となるよ 図3 一般的な原子泉の概略図.詳細は本文を参照. 産総研計量標準報告 Vol. 8, No. 4 399 2013 年 3 月 田邊健彦 うにラムゼー共振器中のマイクロ波の周波数をロックす より具体的な議論のために,単位時間に N 個の原子を ることで,遷移周波数を得る.具体的には,ラムゼー共 観測し,周波数 ν 0 を決めるのに時間 T(<τ)を要する測 振器のマイクロ波の周波数は,局部発振器として用いる 定を繰り返すことを考えよう.この測定を平均化時間 τ 水晶発振器から与えられ,ラムゼー共鳴の信号が最大と の間繰り返すとすると,測定の回数は n = Nτ/T である.τ なるように局部発振器の周波数にフィードバックする. の間,実験条件が全く変化しないとすると,〈Δν rms〉τ は これにより,セシウム原子の時計遷移周波数を基準とす √n に反比例し,σy(τ)は, る「マイクロ波発振器」としてのセシウム原子時計が実 √ T ∆ν (7) , σy (τ ) = ν0 Nτ 現する. 以上が原子泉における周波数測定の流れである.序論 となる.Δν はスペクトルの線幅である.安定度は,簡 で述べたように,得られた周波数の値には,さまざまな 単に述べると,時間 T を要する測定を繰り返した場合, 要因による不確かさが存在する.では次に,得られた周 連続する 2 回の測定でどの程度違う周波数が得られるか 波数の評価について述べていこう. ということを表す.例えば,ある原子時計の安定度が平 均化時間が 1 日で 10 −15 であったとすると,それは 1 日 4.周波数標準器の性能の評価 前と 1 日後では ν0 × 10 −15Hz しか値がずれないことを意 味する.(7)式より,理想的には安定度は τ −1/2 に依存し セシウム原子の時計遷移の周波数(定義値)は,原子 て小さくなることが分かるが,ある τ でそれ以上は小さ が無摂動状態にある場合の値である.つまり原子を取り くならなかったり,増加に転じることもある.例として, 囲む環境の温度はゼロ K であり,原子は完全に静止して NMIJ で運用する原子泉型一次周波数標準器 NMIJ-F115) おり,外部磁場や外部電場,セシウム原子同士の衝突, (次節以降に改めて後述する)の典型的な安定度は,σy(τ) 重力の影響といった外部の摂動が全てない,理想的な孤 = 1 × 10 −12 τ −1/2 ある.慣例的に,τ = 1 s 前後の安定度を 立状態におけるセシウム原子の時計遷移周波数が 9 192 短期安定度,それ以上の安定度を長期安定度と言うこと 631 770 Hz 定義されている.しかし実際にはこのような が多いが,明確な定義はない. 実験系は存在しない.原子の運動によるドップラー効果, また(7)式からは,安定度が優れた原子時計を作る 外部磁場によるゼーマン効果,外部電場によるシュタル ためには,高い Q 値(Q = ν0 /Δν)をもつ多くの原子を, ク効果,セシウム原子同士の衝突など,さまざまな要因 長時間観測すればよいことも分かる.ここでは特に, (7) により時計遷移周波数はシフトし,不確かさの要因とな 式の右辺の分母に ν 0 があることに注目してほしい.スペ る. クトルの線幅 Δν が同程度であれば,測定する周波数 ν 0 ここで,原子時計の性能を評価する際に用いられる用 に比例して安定度が向上する.つまり,セシウム原子時 語について説明しておこう.「不確かさ(uncertainty)」は, 計よりも ν 0 の値が大きい遷移を観測する光時計は,潜在 原子時計で得られた遷移周波数の測定結果に含まれる疑 的に短期安定度が優れているのである.その結果として, わしさである.特に,秒の定義であるセシウム原子の遷 より短時間に高精度な測定が可能となる.これが序論で 移周波数をいかによく実現できているかを表す言葉とし 述べた,光周波数標準への移行を目指す理由の一つでも て,「正確さ(accuracy)」を用いる.次に,周波数のふ ある. らつきの程度を表すのが「安定度(stability)」である. もう一つ, 「再現性(reproducibility) 」は,原子時計が 安定度を表す際には,平均化時間(時計の動作時間)τ 繰り返し運転されるときに,いつも同じ周波数になるか の関数であるアラン分散,もしくはその平方根のアラン どうかを表す.再現性にはもう一つ意味があり,それは 偏差 σy(τ) , 複数の同種原子時計同士が同じ周波数になるかどうかも ∆νrms (6) σy (τ ) = , ν0 τ 表す. 9.192...GHz) ,Δν rms は観測される周波数ゆらぎ, 〈...〉τ は ず付随するが,不確かさには二つの種類がある 16).一つ 時間 τ の間の平均をそれぞれ表す.この値が小さいほど は統計学的な取り扱いができるものであり「 A タイプの 原子時計の性能は優れていることを意味する. 不確かさ」という.A タイプの不確かさは,簡単に述べ 4.1 原子泉型一次周波数標準器における不確かさ 一般に,測定においては不確かさ(uncertainty)が必 を用いる.ここで ν 0 は中心周波数(セシウム原子の場合 AIST Bulletin of Metrology Vol. 8, No. 4 400 March 2013 セシウム一次周波数標準の現状とその高精度化に向けた最近の研究動向 表1 NMIJ-F1(NMIJ, 日本),NIST-F1(NIST, 米国)17),および SYRTE-FO2(SYRTE, フランス)18) の不確かさ要因と,各補正量と不確かさのまとめ(2007 年 9 月の結果). しい 14). れば測定データの数を増やすことで小さくすることがで きる.もう一つはそれができないものであり, 「B タイ プの不確かさ」という.先述の通り,原子時計で得られ 4.2 各国の原子泉の現状 る遷移周波数は複数の要因(電場や磁場など)により共 現在,最も小さな不確かさで秒の定義を実現できる原 鳴周波数(セシウム原子の場合は定義値 9.192...GHz)か 子泉であるが,その不確かさの限界は 1 × 10 −16 あたり らシフトしており,各シフト要因に対して,その大きさ であると予想されている 19).そこで,この 10 −16 台前半 を見積もり補正を行う.その見積もりの際に生じる不確 の不確かさが原子泉開発における一つの目標値となる. かさが,各シフト要因における不確かさとなり,その二 表 1 に示したように,NIST(米国)と SYRTE(フランス) 乗和の合計の平方根が「B タイプの不確かさ」となる. の原子泉の不確かさは 2 〜 4 × 10 −16 で,ほぼ横並びの これを小さくするためには,実際に電場や磁場などによ 状況にある.NIST(米国)と SYRTE(フランス)が るシフトの大きさを小さくするか,もしくは正確に補正 10 −16 台の前半の不確かさを実現できている理由の一つと する必要がある.例えば,ゼーマン効果による影響を評 して,衝突シフトに起因する不確かさが小さいことが挙 価するために,磁場の大きさを変えながら遷移周波数の げられる.かつては,セシウム原子同士の衝突により生 変化を測定し,ゼロ磁場での周波数を求めるということ じる衝突シフトに起因する不確かさが,原子泉における を 行 う. こ こ で 本 研 究 グ ル ー プ, す な わ ち National 大きな不確かさ要因であった.しかしここでは詳しくは Metrology Insutitute of Japan(以下 NMIJ)で運用する原 述べないが, 近年は「Adiabatic Passage 法」に代表される, 子泉型一次周波数標準器 NMIJ-F1 における主な周波数シ 原子数を見積もる手法の精度が向上したため,衝突シフ フト要因と,各要因に伴う補正量とその不確かさをまと トに起因する不確かさは 10 −16 台前半にまで低減するこ めたものを表 1 に示す.参考のために,米国の標準研究 とが可能となった 21),22).SYRTE では,原子の密度を上 所 National Institute of Standards and Technology(以下 げて周波数安定度を向上させ,それにより増加した衝突 NIST)の原子泉 NIST-F1 と 17),フランスの標準研究所 シフトにより正確に見積もる方法を取っている. SYRTE の原子泉 SYRTE-FO2 の値 安定度の向上も不確かさの低減と密接に関連してい も併せて示した.表 18) 1 の値は,実際のシフト量(Hz)や不確かさ(Hz)を, る.安定度が良くなると同じ統計的不確かさを得る時間 セシウム原子の時計遷移周波数(9.192...GHz)で割った はその 2 乗で短くなり,より精密に周波数シフトを評価 相対値(無次元)であり,この不確かさを「相対不確か することができる.つまり安定度向上は不確かさ低減に さ(fractional uncertainty)」という.表 1 に挙げた不確か もつながるのである.ここでは特に,安定度向上のため さは「タイプ B の不確かさ」である.表 1 に挙げた以外 にしばしば用いられる冷却サファイア発振器 (Cryogenic にも周波数シフトの要因はあり,その不確かさを地道に Sapphire Oscillator, CSO) について触れておこう.周波数 改善していくことはもちろんであるが,新たな不確かさ 標準器の性能が向上すると,その性能は局部発振器とし 要因を見出すことも重要な課題である.原子泉における て用いる水素メーザーや水晶発振器の性能で制限されて 周波数シフトの要因については,高見澤による報告が詳 しまうことが起こる.これを打破するため,短期安定度 産総研計量標準報告 Vol. 8, No. 4 401 2013 年 3 月 田邊健彦 がより優れた CSO を局部発振器として用いて,そこか 部を置く国際度量衡局(Bureau International des Poids et ら周波数シンセサイザーでつくられたマイクロ波 Measure, BIPM)に集約される.BIPM では,集約された (9.192...GHz)がしばしば原子泉に用いられる.水素メ データから平均の時間を計算し,「自由原子時(Echelle のオーダー Atomique Libre, EAL) 」と呼ばれる時系を作り出す.こ ーザーの安定度は,平均化時間 1 秒で 10 −13 であるのに対して,CSO は平均化時間 10-100 秒で 10 の EAL に対して,一次周波数標準器による評価結果を −16 のオーダーであり,100 倍以上短期安定度が優れている. 加味して, 周波数の微調整がなされた時系が TAI である. SYRTE では,2000 年に CSO を用いて原子泉型一次周波 TAI は,自ら校正機能を持ち,それ自身が秒を実現する 数 標 準 器 に お け る 量 子 射 影 ノ イ ズ 限 界 (quantum 一次周波数標準器により校正される.標準研究所におい projection noise limit, 原子を検出する際にはそのポピュレ て,一次周波数標準器を運用する大事な目的の一つが ーションを破壊測定するが,それにより生じる量子ノイ TAI の校正である.時系についての詳細は,例えば文 ズのこと)の観測に成功した 献 10)などを参照してほしい. .NMIJ においても,平 20) 均化時間 1 秒での短期安定度が 4.3 × 10 −15 の CSO を保 さて,NMIJ では現在 3 台の原子泉を運用もしくは開 有しており 発中である.NMIJ の原子泉の 1 号機として「NMIJ-F1」 ,将来的にはこれらを用いて安定度の向上 23) を目指す予定である.この冷却サファイア発振器の強み と名付けられら原子泉は,今から約 10 年前に完成して を発揮するためにも,まず原子数を増やして原子泉の短 運用が開始された 15).NMIJ-F1 は,BIPM へその測定結 期安定度を向上させるという方針で原子泉の開発が行わ 果を定期的に報告し,4 × 10 −15 の不確かさで TAI の値付 れている.本節の最後に,近年の各国の標準研究所の原 けを行い,その校正へ寄与してきた.また以下に述べる 子泉の不確かさをまとめたものを表 2 に示す. 2 号機(NMIJ-F2)のリファレンスとして運用を目指し ているが,2011 年 3 月の震災以降運用が中断しており, 4.3 NMIJ の原子泉の現状 現在復旧作業中である. 一次周波数標準器は各国の標準研究所が所有・運用し そして現在は,10 −16 台の不確かさを目指した 2 号機 ており,この結果に基づいて「時系」が構成されている. 「NMIJ-F2」を開発中である 25).この NMIJ-F2 は,TAI へ 現在の時間・周波数標準の国際的な枠組みが「国際原子 の寄与をより高めることもちろんであるが,NMIJ で開 時(Temps Atomique International, TAI)」である.各国の 発中の 標準研究所や天文台等で稼働している原子時計(商用の ァレンスとしての運用を目指している. セシウム原子時計や,水素メーザー型周波数標準器)の 加えて, 「トランケーテッドビーム方式」という独自 相互比較のデータや,機関間の比較データが,パリに本 の方式の原子泉を新規提案した 28).これは次節で紹介す 171 Yb ,87Sr 光格子時計に対する高精度のリフ 26) ,27) 表2 近年の各国の標準研究所における原子泉の不確かさのまとめ.BIPM のホームページに発表され た資料 p p を基に作成した.不確かさ u は, = uu2A = + uu2B2A + u2B として計算した. 24) AIST Bulletin of Metrology Vol. 8, No. 4 402 March 2013 セシウム一次周波数標準の現状とその高精度化に向けた最近の研究動向 るが,これは近い将来の一次周波数標準器としてではな 子泉では,球状に整形した原子集団を打ち上げる(図 3 く, 「原子数と原子集団の体積の増大」のためのノウハ 参照).一方,このトランケーテッドビーム方式は,原 ウをここで蓄積し,将来的にそれを NMIJ-F2 へフィード 子集団を鉛直方向に引き延ばし,細長いビーム状に整形 バックすることを目的としている. して打ち上げるのが特徴である(図 4 参照) .つまりこ の方式では,原子数を増大させつつ,かつ原子集団の体 4.4 NMIJ における最近の取り組み 積も増加させて,原子密度の抑制を狙うという発想に基 NMIJ では最近,衝突シフトによる不確かさの低減を づいている.もう少し詳しく述べると以下のようになる. 目指して, 「トランケーテッドビーム方式」という独自 従来の原子泉では,捕獲領域で捕獲・冷却された原子集 の方式の原子泉を新規提案した 28).衝突シフトとは,セ 団を上方へ打ち上げる瞬間に冷却用レーザー光を遮断し シウム原子同士の衝突による周波数のシフトのことであ て後続の原子を断ち,球状の原子集団を形成して打ち上 る.セシウム原子同士が衝突すると,「スピン交換(spin げる.一方,トランケーテッドビーム方式では,打ち上 exchange)」と呼ばれる F =3 と F =4 の準位間の遷移が起 げの際にも冷却用レーザーを照射し続け,連続的に原子 き,これが周波数シフトを引き起こし不確かさとなる. を打ち上げる.その後,細長い原子集団の先頭がマイク 実際,表 1 に示すように NMIJ-F1 においては衝突シフト ロ波共振器に到達する直前に冷却用レーザーを遮断し, の不確かさが 3.3 × 10 で,不確かさ要因の中で最大で 後続の原子を断つ.これにより原子集団を鉛直方向に引 −15 .衝突シフトによる補正量はゼロであるのに対し き延ばされ,細長いビーム状になるのである.こうする て,不確かさは 3.3 × 10 −15 と大きい.これは,衝突シフ ことで,原子数は増えるが,同時に原子集団の体積も増 トそれ自体が大きいからではなく,見積もりの精度が十 加するため原子密度の抑制が期待できる. 分ではないので,安全のために大きな値を取っていると この手法を実現するためには,(i)原子ビームの長さ 考えられる. を稼ぐために,真空チェンバーを鉛直方向に延長するこ 原子同士の衝突による周波数シフト(衝突シフト) と,(ii)トランケーテッド原子集団の動径長さを増加さ Δν col は,当然ながら原子同士の衝突の頻度に比例する. せるために,冷却用レーザーを鉛直入射から斜め入射に つまり,以下の(8)式のようになる. 変更すること,などの装置の改良が必要である.特に後 ある 15) 者について,冷却用のレーザーを斜め方向に入射するこ (8) ∆νcol ∝ σnvrel . ここで,σ は衝突断面積(cm 2),n はセシウム原子の数 密度(cm -3) , 〈v rel〉はセシウム原子間の相対速度の平均 値(cm s −1)である. さて,(8)式から分かるように,数密度 n を減らせば 衝突シフトは小さくなる.一方で,検出原子数 N は原子 の数密度 n に比例する.そのため,数密度 n を減らすと σ y(τ)は増加する,つまり安定度は悪化する((7)式を 参照) .つまり「安定度の向上」と「衝突シフトの低減」 はトレードオフの関係にあるのである.このトレードオ フの関係を克服するための手段として,以下の 2 つが考 えられる. 1. 原子集団の体積を増加させる. 2. 衝突シフトの見積もりの精度を向上させる. NMIJ では前者の「1」の方針に基づいた独自の試みを開 始したので,ここで紹介しよう. 高見澤(NMIJ)らは, 「トランケーテッドビーム方式」 と名付けた新しい方式の原子泉を提唱した 28).従来の原 産総研計量標準報告 Vol. 8, No. 4 403 図4 Takamizawa(NMIJ)により提案されたトランケーテッド ビーム方式による原子泉の概略図 28).詳細は本文を参照. 2013 年 3 月 田邊健彦 とで,冷却用レーザーがマイクロ波共振器の中空部を通 いる.これらの研究の進展が,今後の原子時計のさらな 過せずにすむ.その結果として,原子集団の大きさがマ る高精度化に向けた鍵を握っていると言っても過言では イクロ波共振器の中空径で制限されることが回避でき, なく,極めて重要である.そこで本稿の最後に,BBR に 原子集団の体積を増加できることが期待できる. 起因する不確かさ低減に向けたこれらの研究の最近の動 最近 NMIJ では,このトランケーテッドビーム方式に 向についてまとめておく. より原子数と原子集団の体積を 10 倍にすることを目標 として,予備的な実験を開始した.その結果,「原子数 5.1 BBR シフトの大きさについて と原子集団の体積を 10 倍」を実現するための,装置の 原子を取り囲む環境からの黒体輻射により,温度に依 各パラメーター(打ち上げ周波数,冷却用レーザーの照 存する電場 E(ω , T )が生じる.これはプランクの法則 射時間など)の条件が分かってきた段階である . により, 38) ω 3 dω 8α π exp(ω/kB T ) − 1 , E 2 (ω, T ) = (9) 5.黒 体輻射に起因する不確かさ低減に向けた研究の取 り組みの現状 で表される.α は微細構造定数,ωは電磁波の周波数, 表 1 を見て分かるように,衝突に起因する不確かさと T は環境温度,k B はボルツマン定数である.これを ω 同程度なのが,「黒体輻射(Blackbody radiation shift,以 について積分して,以下の(10)式で表される温度に依 下 BBR) 」に起因する不確かさである.これは,原子を 存する平均的な電場〈E 2(T)〉を考える. 取り囲む環境からの黒体輻射による,時計遷移の上・下 ( T T0 )4 (10) E 2 (T ) = (831.9 V/m)2 . 準位の AC シュタルクシフト(以下 BBR シフト)に起 因する不確かさである. T 0 は原子時計を運転するときの典型的な温度,つまり室 既に何度か述べたが改めて記しておくと,原子の遷移 周波数を基準とする原子時計において,その周波数は原 温の 300 K である.この平均的な電場が原子の時計遷移 子が「無摂動状態にあるとき」のものである.つまり, の上・下準位のシフトさせ,BBR シフトを引き起こす. その遷移周波数は原子を取り囲む環境の温度がゼロ K の このエネルギー準位のシフト量 ΔE BBR は,原子の動的分 ときの値であるべきである.しかし実際には,通常原子 極率を α(ω)として以下の式により表される. 時計は室温環境下において運転する.すると,原子を取 1 4 ∫ ∞ (11) ∆EBBR = − E 2 (T )α(ω)dω, り囲む環境の温度により時計遷移の上・下準位のエネル ギーがシフトし,結果として得られる時計遷移周波数は 0 ΔE BBR を扱う際,実際には動的分極率 α(ω)ではなく, シフトしている.そこで,得られた周波数に対して環境 温度を考慮して反映した補正を行う必要がある.この際 静的分極率 α(0)を用いて近似的に以下の式を用いるこ に生じる不確かさが,BBR に起因する不確かさである. とが多い 31). セシウム原子泉において BBR に起因する不確かさは 2 15 (12) ∆EBBR = − (απ)3 α(0)T 4 (1 + η). 10 −16 のオーダーである(表 1 も参照).原子泉全体の不 確かさとして 10 −16 台前半を目指す場合,これを非常に 大きな値であり,その低減が重要な課題となる.これは (12)式において α は微細構造定数,ηは ΔE BBR を静的 セシウム原子時計に限らず,光格子時計などの光時計の 分極率 α(0)を用いて近似したことによる補正項である. 研究においても同様であり,原子時計の研究全体に共通 さて,実際の周波数における BBR シフト量 δν BBR は,原 する課題である. 子の電場に対する感度を k として, そこで以前から今日に至るまで,原子時計における BBR による不確かさの低減を目的とした実験的・理論的 (13) δνBBR = kE 2 (T ), 研究が継続して行われてきた.具体的には,(i)原子時 計に用いられる原子やイオンの分極率を高精度に測定, と書くことができる.この感度 k は Stark coefficient(シ もしくは理論計算により求め,それを用いて BBR の影 ュタルク係数)と呼ぶこともある.k は,ある 2 つの状 響を評価する, (ii)環境温度を液体窒素温度付近(約 80 態 f と i の静的分極率をそれぞれ α f (0) と α i (0)) として, K)にまで冷やす,という 2 つのアプローチがとられて AIST Bulletin of Metrology Vol. 8, No. 4 以下のように表される 29). 404 March 2013 セシウム一次周波数標準の現状とその高精度化に向けた最近の研究動向 の重要性から 1950 年代の原子時計の黎明期から行われ 1 (14) k = − [αf (0) − αi (0)]. 2 30) 感度 k のより厳密な表式については,文献 てきた 40).研究の初期に行われた測定,及び理論計算の 結果によると,k の値は − 2.2 × 10 −10 Hz/(V m −1)2 などを参照 して欲しい.そして,δν BBR は以下のような相対量として の前後であることが示唆されていたが,その後,2000 年 表すことが多い. 以降に行われた測定や理論計算の結果とは 10 % 以上の ( )2 ] ( )4 [ δνBBR T T (15) 1+ . =β ν0 T0 T0 2 違いがあり,議論の余地が残った状況であった. ここで,実際に原子泉を用いて BBR シフトを精密に 測定した研究について触れておこう 30).これはフランス ν 0 は時計遷移周波数,εは T で寄与する補正項である. のグループ (BNM-LPTF) から報告されたものである. ここまでの議論で,BBR シフト量は原子を取り囲む環境 Simon et al. は,原子泉の内部に電極を設置し,そこに静 温度 T の 4 乗に比例することが分かる.そして,パラメ 電場(0 V m −1 <E< 3000 V m −1)を印加しながら時計遷移 ーターβは k と以下の関係にある. 周波数を測定し,そのシフト量から k を求めた.彼らが 得た結果 k (16) β = (831.9 V m−1 )2 ν0 = k × 7.529 × 10−5 (V m−1 )2 Hz−1 (for Cs). (17) は,これまでに行われた実際の測定結果として最も精度 上式から,本節の冒頭で述べた BBR による不確かさ低 10 −10 Hz/(V m −1)2 を簡略化して表記したものであること 減にむけたアプローチ(i)は,k を測定,もしくは計算 に注意してほしい.一方,理論研究の側においても,近 することに帰着される. 年になり,同時期に相対論的多体計算の結果が 2 つの研 − 2.271(4)× 10 −10 Hz/(V m −1)2 が高いものである.なお,上記は ( − 2.271±0.004)× 究グループから独立に発表され 51),50),それらは互いによ 5.2 実験的・理論的アプローチ く一致しただけでなく,上記の Simon et al. による測定 これまでに行われた主な k の測定結果と計算結果をま 結果ともよく一致した.このようなことから,BBR シフ とめたものを表 3 に示す.以下に,表中のいくつかにデ トの評価においては Simon et al. による測定結果を用い ータについてコメントしておこう.k の測定と計算は そ た以下の式がよく用いられる. 表3 これまでに行われた k の測定結果と計算結果のまとめ.k の単位は [Hz/(V m − 1)2] である. k (× 10− 10 ) Expt. -2.29(7) 1957 [40] Theory -1.9(2) 1965 [41] Expt. -2.25(5) 1972 [42] Theory -2.2302 1975 [43] Expt -2.17(26) 1997 [44] Expt. -2.271(4) 1998 [30] -2.28 2003 [45] Expt. -1.89(12) 2004 [46] Theory -1.97(9) 2004 [47] Expt. -2.05(4) 2005 [48] Theory -2.26(2) 2006 [51] Theory Theory -2.06(1) 2006 [49] Theory -2.271(8) 2006 [50] 産総研計量標準報告 Vol. 8, No. 4 405 ab initio ab initio ab initio 2013 年 3 月 田邊健彦 つか何度か述べたが,重要なことは,あくまで現時点で (18) 「一秒」をもっとも高い精度で実現できるのは,セシウ ム周波数標準であることである.再定義までは,現行の 測定結果と実験結果がよく一致したため,Cs 原子時計に セシウム周波数標準により秒の定義値が実現されるとい おける BBR シフトに関する研究は近年一段落着いたよ うことであり,セシウム周波数標準や原子泉型周波数標 うに思われる.しかし本節の冒頭で述べたように,この 準器の高度化は重要な課題であり続ける.近い将来,光 BBR シフトに起因する不確かさの軽減は,光格子時計な 周波数標準に移行した後も,今日に至るまでに蓄積され どの光時計の研究においても重要であることから,近年 たノウハウが廃れることはないであろう.またそのノウ は光時計に用いられる原子種についての同様の研究が盛 ハウは,周波数標準としての用途ではなく,他の分野の んに行われている.これらの研究の最近の動向について 技術革新において思わぬ形で役立つかもしれないことは は,例えば文献 大いに考えられる.実際,セシウム原子泉型周波数標準 29) などにまとめられている. 本節で述べた研究は,もちろん原子時計の精度向上を 器を次世代の高周波電力標準に利用するというユニーク 目的として行われた研究であるが,それは結果として「原 な提案もなされている 52).セシウム原子時計を「時計」 子の分極率」という基本的な量を極めて精密に測定した としてではなく,ツールとして用いる応用研究がこれか ことに相当する.これは本稿の冒頭に述べた,原子時計 らの興味深い研究課題となっていくだろう. の研究が基礎物理学と密接に関連していることを端的に 7.謝辞 表す例であるとも言えることを,本節の終わりに強調し ておきたい. 本調査研究を行うにあたって,ご指導・ご助言をいた 5.3 冷却セシウム原子泉の開発 だきました時間周波数科科長の洪鋒雷博士,時間標準研 上に述べたように,BBR シフト量は原子を取り囲む環 究室室長の池上健博士に,本稿をまとめるにあたり貴重 境温度 T の 4 乗に比例する.そこで,環境温度を液体窒 なコメントをいただきました温度湿度科の山田善郎氏に 素温度(約 80 K)にまで冷却して BBR シフトを低減す お礼申し上げます.また,日頃よりお世話になっている ることで,不確かさを低減しようという試みが,本節の 時間周波数科の皆さまに感謝申し上げます. タイトルの趣旨である.米国の標準研究所の NIST にお 参考文献 い て は, 冷 却 原 子 泉( ク ラ イ オ ジ ェ ニ ッ ク 原 子 泉 , NIST-F2)の開発が進められているが,今のところ正式 1)Theodor W. Hänsch, “Nobel Lecture: Passion for な報告はなされていない. 原子泉の話からは外れるが,この BBR シフトに起因 precision”, Rev. Mod. Phys. 78, 2397 (2006). 2)虎尾正久著 ,“時とはなにか暦の起源から相対論的“時” する不確かさの軽減は,セシウム原子時計に限らず光格 子時計などの光時計の研究においても重要であり,原子 まで” ,講談社(2008). 時計の研究全体に共通する課題であることは先に述べた 3)Th. Udem, J. Reichert, R. Holzwarth, and T. W. Hänsch, 通りである.そこで冷却セシウム原子泉と同じように, “Absolute Optical Frequency Measurement of the Cesium 真空チェンバー全体を液体窒素温度程度に冷却して分光 D1 Line with a Mode-Locked Laser” , Phys. Rev. Lett. 82, を行う光時計の開発が,今日の光時計の研究における最 3568 (1999). 先端のトピックである.実際,約 80 K の環境で分光を 4)David J. Jones, Scott A. Diddams, Jinendra K. Ranka, 行う「クライオジェニック Sr 光格子時計」の開発が東 Andrew Stentz, Robert S. Windeler, John L. Hall, and 京大学と理研のグループにより急ピッチで進められてお Steven T. Cundiff,“Carrier-Envelope Phase Control of り,最近,予備的な実験結果が報告され始めている. Femtosecond Mode-Locked Lasers and Direct Optical Frequency Synthesis” , Science 288, 635 (2000). 6.まとめ 5)Steven Cundiff and Jun Ye,“Colloquium: Femtosecond 本稿では,セシウム一次周波数標準の基礎から,その 6)Feng-Lei Hong and Hidetoshi Katori,“Frequency 研究の現状についてレビューした.本稿において,セシ Metrology with Optical Lattice Clocks” , Jpn. J. Appl. Phys. ウム周波数標準に対して光周波数標準が有利な点をいく 49, 080001 (2010) optical frequency combs” , Rev. Mod. Phys. 75, 325 (2003) AIST Bulletin of Metrology Vol. 8, No. 4 406 March 2013 セシウム一次周波数標準の現状とその高精度化に向けた最近の研究動向 7)Andrei Derevianko and Hidetoshi Katori,“Colloquium: Lett. 16, 165 (1991). Physics of optical lattice clocks” , Rev. Mod. Phys. 83, 331 20)G. Santarelli, Ph. Laurent, P. Lemonde, A. Clairon, A. G. Mann, S. Chang, A. N. Luiten, and C. Salomon,“Quantum (2011) 8)Long-Sheng Ma, Zhiyi Bi, Albrecht Bartels, Lennart Projection Noise in an Atomic Fountain: A High Stability Robertsson, Massimo Zucco, Robert S. Windeler, Guido Cesium Frequency Standard” , Phys. Rev. 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