国際産業連関表から見た欧州地域統合 萩原泰治 アブストラクト: 産業

国際産業連関表から見た欧州地域統合
萩原泰治
アブストラクト: 産業連関分析において、サプライチェインの長さを計測するために平均
波及長(APL)という概念が最近提唱されている。一方、生産過程を国際間で分担する工程分
業が進み、生産過程のフラグメンテーション化の進展が議論されている。本稿では、平均波
及長を元に国境を越えた取引を把握する平均越境波及長という概念を提唱し、EU を中心と
する国際産業連関表に適用する。電気・精密機械においてはフラグメンテーション化の進展
が示されたが、多くの産業では、逆の傾向が観察された。
キーワード: 欧州地域統合、フラグメンテーション、国際産業連関表
1 はじめに
欧州連合の成立・拡大に伴い、域内の国境を越えた取引は拡大している。生産においても、
中間財の国際間取引が拡大し、最終財として完成するまでに様々な国を経由するようになっ
たといわれている。
生産のフラグメンテーション化と呼ばれ、
中間財の生産過程を細分化し、
生産過程の国際化が進んでいる。欧州地域統合はそれを加速したと考えられる。本稿では、
国際産業連関表を通じて、フラグメンテーションの状況を把握することを試みる1。
2 国境を超える取引に関する統計
2.1 国際産業連関表 WIOD
グロニンゲン大学を中心とする国際産業連関表作成プロジェクト(WIOD:World Input
Output Database)の成果公開により、EU を中心とする国際産業連関分析が可能となった。
WIOD は、EU27 か国(2013 年加盟のクロアチアを除く加盟国)、NAFTA 加盟 3 か国、東ア
ジア 4 か国(日、韓、中、台湾)、ロシア、インドなどを含める 40 か国とその他世界(RoW:
Rest of the World)をカバーし、35 産業からなり、1995 年から 2011 年までの各年の表を
提供している。元の各国の産業連関表が異なる概念で作成されていることや、毎年作成され
ていない(日本の場合 5 年に一回)という難点を様々な手法で、
加工作成されたデータであり、
精度について、問題がないわけではないが、利用価値の高いデータである2。
巨大な統計表であるため、EU27 か国を 2000 年までに加盟した 15 か国(EU-Ⅰ)と 2000
年以降に加盟した東欧諸国を含む 12 か国(EU-Ⅱ)に分け、それ以外の国をその他世界(RoW)
とする 3 地域に統合表を示すと第 1 表のようになる3。
第 1 表 3 地域 1 部門産業連関表 1995 年と 2011 年
6,873
41
473
8,351
15,738
内生部門
EU2
RoW
41
283
24
306
653
13,184
221
1,710
15,613
30,728
内生部門
EU2
RoW
212
1,019
182
1,136
2,549
1995年
EU1
EU1
EU2
RoW
付加価値
生産額
2011年
EU1
EU1
EU2
RoW
付加価値
生産額
EU1
295
10
15,033
17,369
32,708
10億US$
EU1
876
58
43,779
41,674
86,387
最終需要
生産額
EU2
RoW
8,279
28
223
15,738
23
288
8
653
242
9
16,926
32,708
最終需要
生産額
EU2
RoW
15,739
106
611
30,728
137
1,069
44
2,549
757
62
39,898
86,387
10億US$
(WIOD から筆者加工作成)
1995 年から 2011 年にかけて、EU1 地域の生産額(名目値、以下同じ)は 2 倍となったが、EU2
地域からの中間財輸入は 5.4 倍となっている。一方、EU2 地域は 3.9 倍の生産額の増加に対
して EU1 地域からの中間財輸入は 5.2 倍となっている。
2.2 付加価値ベースの国際分業
国際間分業を把握する指標として、国際産業連関表を用いて、付加価値ベースの国際分業
を計測するものがある。生産財の価値は自国の付加価値、自国中間財、輸入中間財から構成
される。自国中間財は再び自国の付加価値、自国中間財、輸入中間財から構成される。した
がって、生産財の価値は自国の付加価値と輸入中間財に分解される。輸入中間財はその生産
国において当該国の付加価値と当該国から見た輸入中間財に分解され、さらに当該国の輸入
中間財は別の国の付加価値と輸入中間財に分解される。このプロセスを通じて、最終的には
一国の生産財は各国の付加価値に分解される。付加価値ベースの国際分業に関しては、藤川・
下田・渡邉 (2006)、 Timmer, Erumban, Los, Stehrer and de Vries (2014)などが分析して
いる。
2.3 産業連関分析における波及過程
まず、経済に N 部門存在し、各部門(第 j 部門)は 1 単位の第 j 財を生産するために、第 i
部門の生産する第 i 財を aij 単位(aij≧0)投入すると考える。
産業連関分析における誘発効果は次のように考える。
第 j 財に対する 1 単位の最終需要は、
第 i 部門に与える波及効果は、第 1 段階として直接的な中間需要が aij 単位、第 2 段階として
他の財(第 h 財)への誘発効果を経由した中間需要が aih×ahj 単位、さらに第 3 段階等々の波
及効果を生み出す。これらの合計は
pij  aij   aihahj   aig aghahj  
h
h
g
行列表示では、
P  A  A 2  A 3    I  A  I  B  I
1
(1)
と表記できる。ただし、B はレオンチェフ逆行列((I-A)-1)である。
2.4 サプライチェインの指標としての平均波及長(APL)
Dietzenbacher, Romero and Bosma (2005)はこの波及効果をもとにサプライチェインの
長さを以下に述べる平均波及長(APL: Average Length of Propagation)により定義した。
第 1 段階での波及効果を距離 1、第 2 段階での波及効果の距離を 2、第 k 段階での波及効
果を距離 k として、その合計を考える。
sij  aij  2 aihahj  3 aig aghahj  
h
h
g
行列表示では、
S  A  2 A 2  3 A3 
(2)
行列 S は、
S  AS  A  A2  A3   B  I
であることを考慮すると以下のように書き換えられる。
S   I  A  B  I   B  B  I 
1
(2)’
第 j 財を最終財 1 単位生産するために第 i 財を直接・間接に発注するために要した平均波
及段階の数は、波及段階でウェイト付けした行列 S の第 i 行 j 列(sij)と中間需要波及効果 P の
第 i 行 j 列(pij)の比であらわされる。
APLij  sij / pij
これが Dietzenbacher らの言う平均波及長(APL: Average Length of Propagation)
である。
APL(平均波及長)が長いことは、波及効果の減衰率が低く、より長い部門間波及経路があ
り、サプライチェインが複雑であることを意味している。逆に、同じ条件で波及効果の減衰
率が高ければサプライチェインは短く、APL が低い値をとる。
国際産業連関表においても APL の概念は適用できる4。R 国、各国に N 産業存在するとす
る。完全特化を前提として、第 s 国第 j 部門が 1 単位の生産をするために第 r 国第 i 財に対
する需要が、aijrs 単位投入されると考える(r, s=1,..R, i, j=1,…N)。需給一致式は、
R
N
R
xir   aijrs x sj   f i rs
s 1 j 1
s 1
とあらわされる。投入係数を行列表示にすると
 A11
 21
A
A

 R1
A
 a11rs a12rs
A1R 
 rs

rs
a
a22
A2 R 
rs
, A   21


 rs

rs
ARR 
 aN 1 aN 2
A12
A22
AR 2
a1rsN 

a2rsN 

rs 
aNN

(3)
である。
N×R 部門ある経済でも APL が定義され、サプライチェインの長さの指標として用いるこ
とができる。国際産業連関表の中で計算される APL は、生産過程の中で国・産業を越えた
取引の平均回数を与えている。しかし、生産のフラグメンテーションという文脈の中では国
内の産業間取引ではなく、国境を越えた取引に関する指標が必要である。
2.5 国境を越えた取引の平均回数としての平均越境波及長
本節では、国境を越えた取引の平均回数を与える「平均越境波及長(APLxB: Average
Length of Propagation cross border)
」という概念を提示する5。
そのために、(3)式の国際産業連表の投入係数(A)を国内取引係数(Ad)と国際取引係数(Af)
に分離する。
 A11

 0
Ad  
 
 0

 0
0  0 
A12  A1R 



A22  0 
0  A2 R 
 A21
(4)
, Af  

   






 AR1 AR 2  0 
 ARR 


とする。ただし、 A  Ad  A f である。(2)式において、A のべき乗(Ak)は、Ad と Af のあら
ゆる組み合わせの k 次の積の和になる。国境を越えた取引の回数を評価するために、国内で
の取引(Ad)を数えず、国際取引係数(Af)のべき乗に対して、ウェイトがかけられる。(2)式に
おける A,2A2,3A3…はそれぞれ以下のような T1,T2,T3…となる。
T1  1 A f  0  Ad
T2  2  A f  1 A f Ad  Ad A f   0  Ad
2

2



T3  3  A f  2  A f Ad  A f Ad A f  Ad A f  1 A f Ad  Ad A f Ad  Ad A f  0  Ad
3
2
2

これらの式に、 Ad  A  A f を代入して整理すると、
2
2
2
(5)
T1  A f
T2  A f A  AA f  A f A  AT1
T3  A f A2  AA f A  A2 A f  A f A2  AT2
(6)

となる。一般に
Tk  Af Ak 1  ATk 1
(7)
が成立すると期待される。国境を越えた取引の平均回数は、行列 T
T  k 1 Tk

(8)
の各要素(第 s 国第 j 部門が 1 単位の生産をするために第 r 国第 i 財に対する需要) (tijrs) と
中間需要波及効果 P の対応する要素(pijrs)の比であらわされる。
APLxB ijrs  t ijrs / p ijrs
(9)
これを平均越境波及長(APLxB: Average Length of Propagation cross border)と呼ぶ。
一般に自国自産業に対する波及効果の多くは自国内で発生するので、当該 APLxB は非常
に小さな値をとる。
また、計算過程からわかるように、APLxB は APL の国境を超える部分を切り取ったもの
であり、その差(APL-APLxB)は、波及過程のなかで国内の波及過程を反映している。それ
が最終需要発生国である可能性は高いが、経由国あるいは供給国である可能性もある。
3 平均越境波及長によるフラグメンテーションの推移
本節では、先に定義した平均越境波及数(APLxB)を用いて、WIOD の下で観察される変化
を観察する。
3.1 ドイツ輸送機械産業とフランス電気・精密機械産業
計算は 41 か国 35 産業を用いて行われたが、膨大な量になるので、例示として、ドイツの
輸送機械産業(第 1 図、第 2 図)とフランスの電気・精密機械産業(第 3 図、第 4 図)を取り上
げ、EU27 か国との 1995-2011 年の APL と APLxB の推移を示す。自国・自産業で生じた
最終需要が同一産業の EU27 か国に及ぼした派生需要に関する APL、APLxB(第 1 図、第
3 図)と EU27 か国の対象産業が自国当該産業に及ぼした派生需要に関する APL、APLxB
(第 2 図、第 4 図)に示している。横軸に示す国の略称に対応する折れ線グラフはそれぞれ
がその国の時系列変化(1995-2011 年)を示している。
ドイツ輸送機械産業に対する最終需要がもたらす各国への波及効果の APLxB(第 1 図)は前
半(2000 年頃以前)まで一定あるいは少し低下していたが、後半(2005 年頃以降)増加している
傾向がある。例えば、イタリア(ITA)
、マルタ(MLT)、フィンランド(FIN)、ハンガリー(HUN)
は同じ形状を示している。サプライチェインの複雑化を示している。エストニア(EST)、ス
ロベニア(SVN)、ブルガリア(BGR)、ルーマニア(ROM)は 1 より低いことから当該国への直
接的な波及経路が小さく、おそらくドイツ国内での波及経路を経て当該国に影響を及ぼして
いると推測される。破線で示す gap(=APL-APLxB)は上昇傾向にあるが、APL や APLxB
の変化に比べると小さく、国内の波及の長さの変化(gap)より、生産のフラグメンテーション
化(APLxB)の進展が大きいことが示されている。
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
BEL
DEU
FRA
ITA
LUX
NLD
DNK
GBR
IRL
AUT
GRC
ESP
PRT
CYP
MLT
FIN
SWE
CZE
EST
HUN
LTU
LVA
POL
SVK
SVN
BGR
ROM
0.0
APL
APLxB
Gap=APL-APLxB
第1図 ドイツ 輸送機械 需要側 (WIOD より筆者作成)
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
BEL
DEU
FRA
ITA
LUX
NLD
DNK
GBR
IRL
AUT
GRC
ESP
PRT
CYP
MLT
FIN
SWE
CZE
EST
HUN
LTU
LVA
POL
SVK
SVN
BGR
ROM
0.0
APL
APLxB
Gap=APL-APLxB
第2図 ドイツ 輸送機械 供給側 (WIOD より筆者作成)
EU27 か国の最終需要によりドイツに及ぼした波及効果に関する APLxB は 2000 年頃から
2004 年ごろにその前後に比べて上昇している国々(ベルギー:BEL、フランス:FRA、イタ
リア:ITA、アイルランド:IRL 等)と傾向的に低下している国々(ルクセンブルグ:LUX、
オランダ:NLD、マルタ:MLT、ポーランド:POL、スロバキア:SVK、ルーマニア:ROM)
がある。これらの中で、マルタ、ポーランド、スロバキア、ルーマニアは 1 に近い値からの
低下傾向である。これについては今後の検討を要する。
フランス電気・精密機械に対する最終需要が各国に及ぼす波及効果 (第 3 図)については、
APL はいずれも上昇傾向にある。しかし、APLxB に関しては、ギリシャ GRC、フィンラン
ド FIN のほか、東欧諸国で増加しているが、西欧諸国はほぼ変化していない。EU27 か国の
フランスに対する波及効果は、APLxB について、ギリシャ GRC、ラトビア LVA を除き、上
昇する傾向がある。
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
BEL
DEU
FRA
ITA
LUX
NLD
DNK
GBR
IRL
AUT
GRC
ESP
PRT
CYP
MLT
FIN
SWE
CZE
EST
HUN
LTU
LVA
POL
SVK
SVN
BGR
ROM
0.0
APL
APLxB
Gap=APL-APLxB
第3図 フランス 電気・精密機械 需要側 (WIOD より筆者作成)
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
BEL
DEU
FRA
ITA
LUX
NLD
DNK
GBR
IRL
AUT
GRC
ESP
PRT
CYP
MLT
FIN
SWE
CZE
EST
HUN
LTU
LVA
POL
SVK
SVN
BGR
ROM
0.0
APL
APLxB
Gap=APL-APLxB
第4図 フランス 電気・精密機械 供給側 (WIOD より筆者作成)
3.2 トレンドの推定結果に関する地域別分布
EU27 か国および一次・二次産業からなる 15 産業について、産業・国別の平均越境波及
長(APLxB)のタイムトレンドを OLS により推定(APLxB=a+b・Time)し、タイムトレ
ンドの係数(b)について 5%水準で有意に正、負であるケースを分類し、先述の 2 つの地域(EUⅠ:2000 年以前からの加盟国 15 か国と EU-Ⅱ:2000 年以降加盟国 12 か国)に分け、減少、
増加の比率を第 2 表に示した。例えば、農林水産業の EU-Ⅰ地域に属する国の最終需要が
EU-Ⅰ地域に属する国にもたらす波及効果の APLxB のタイムトレンドが負である比率が
54%、正である比率が 5%である。残りの 51%は有意なトレンドを示していないことを意味
する。減少、増加の比率が 50%を超えるセルをシェードしている。
第2表 APLxB のタイムトレンド推定結果の地域別要約
産業
01農林漁業
02鉱業及び採
掘業
03食品・飲料・
たばこ
04繊維・繊維
製品
05皮革製品
06木製品
07パルプ・紙・
紙製品
08石炭・石油
製品
EU-Ⅰ
EU-Ⅱ
地域 減少 増加 減少 増加
EU-Ⅰ 54%
5% 59% 10%
EU-Ⅱ 47% 17% 42% 23%
EU-Ⅰ 56% 18% 43% 31%
EU-Ⅱ 35% 42% 33% 47%
EU-Ⅰ 45%
7% 52%
4%
EU-Ⅱ 53%
9% 60%
9%
EU-Ⅰ
8% 68%
1%
9%
EU-Ⅱ
5% 44% 16% 15%
EU-Ⅰ 46% 14% 63%
1%
EU-Ⅱ 15% 52% 24% 40%
EU-Ⅰ 14% 50% 12% 57%
EU-Ⅱ 24% 30% 31% 35%
EU-Ⅰ 84%
2% 76%
4%
EU-Ⅱ 62%
4% 64%
6%
EU-Ⅰ 42% 28% 50% 26%
EU-Ⅱ 45% 31% 63% 21%
産業
09化学製品
10ゴム・プラス
ティック
11その他非金
属製品
12一次金属・
金属製品
13一般機械
14電気・精密
機械
15輸送機械
EU-Ⅰ
EU-Ⅱ
地域 減少 増加 減少 増加
EU-Ⅰ 22% 38% 12% 53%
EU-Ⅱ 28% 31% 24% 42%
EU-Ⅰ
9% 67% 72%
7%
EU-Ⅱ 15% 46% 57% 13%
EU-Ⅰ 20% 37% 27% 22%
EU-Ⅱ 17% 38% 38% 28%
EU-Ⅰ 30% 33% 18% 53%
EU-Ⅱ 35% 17% 30% 35%
EU-Ⅰ 48% 23% 51% 26%
EU-Ⅱ 40% 28% 42% 31%
EU-Ⅰ 12% 61%
6% 69%
EU-Ⅱ
4% 63%
6% 55%
EU-Ⅰ
8% 56% 44% 27%
EU-Ⅱ
1% 47% 26% 23%
(WIOD より筆者作成)
EU-Ⅰ地域における最終需要の波及効果について、EU-Ⅰ地域では、農林水産業、鉱業及
び採掘業、パルプ・紙製品で減少し、繊維、ゴム・プラスティック、電気・精密機械、輸送
機械で増加、EU-Ⅱ地域では、食品・飲料・たばこ、パルプ・紙製品で減少、電機・精密機
械で増加する傾向があった。一次産品、軽工業で減少、組立型産業で増加しているといえる。
EU-Ⅱ地域における最終需要の波及効果については、EU-Ⅰ地域では、農林水産業、食品・
飲料・たばこ、皮革製品、パルプ・紙製品、石炭・石油製品ゴム・プラスティック、一般機
械で増加し、化学製品、一次金属、電機・精密機械で増加、EU-Ⅱ地域では、食品・飲料・
たばこ、パルプ・紙製品、石炭・石油製品、ゴム・プラスティックで減少し、電機・精密機
械で増加している。EU-Ⅰ地域と比較し、減少の傾向が強い。電機・精密での増加は両地域
で共通して増加する傾向にある。
電気・精密機械での越境分業の拡大が観察される一方で、パルプ・紙製
品では、逆の傾向がある。
4 終わりに
本稿では、国際産業連関表を用いて、国境を越える取引回数の平均を示す平均越境波及長
を定義し、計算をおこなった。電気・精密機械を代表として、フラグメンテーションの拡大
している産業が存在することを示した。逆に減少している産業も多く存在している。フラグ
メンテーションを中心に分析を行ったが、それ以前の段階である貿易の拡大を反映している
といえる。
参考文献
Dietzenbacher, E., I. Romero and N. S. Bosma (2005) "Using Average Propagation
Lengths to Identify Production Chains in the Andalusian Economy," Estudios de
Economia Aplicada, vol.23,no.2, pp.405-422.
Dietzenbacher, E. I.Romero (2007) "Production Chains in an Interregional Framework:
Identification by Means of Average Propagation Lengths," International Regional Science
Review, vol.30, no. 4, pp.362-383
Timmer, Marcel P. (ed) (2012), "The World Input-Output Database (WIOD): Contents,
Sources
and
Methods",
WIOD
Working
Paper
No.
10,
downloadable
at
http://www.wiod.org/publications/papers/wiod10.pdf
Timmer, M.P., A.A. Erumban, B. Los, R. Stehrer and G.J. de Vries (2014) "Slicing Up
Global Value Chains," Journal of Economic Perspectives, vol.28, no.2, pp.99-118.
エスカット,ユベール、猪俣哲史 編著 (2011) 『東アジアの貿易構造と国際価値連鎖 モ
ノの貿易から「価値」の貿易へ』
、日本貿易振興機構アジア経済研究所
藤川清史,下田充,渡邉隆俊(2006)「アジア太平洋地域の国際分業構造の変化」
、経営経済、
42 号、pp.73-89
1本稿で取りあげる平均越境波及長(APLxB)の概念は、神戸大学大学院経済学研
究科博士前期課程学生の岡本直樹氏との議論の中で形成された。また、神戸大学大学院経済
学研究科研究員の中西敏之氏から貴重な意見をいただいたが、十分にはいかせていない。
2
WIOD の詳細については、Timmer, Marcel P. (ed) (2012)を参照されたい。
3
EU-1 地域は、ベルギー(BEL, 1958),ドイツ(DEU, 1958),フランス(FRA, 1958),イタ
リア(ITA, 1958),ルクセンブルク(LUX, 1958),オランダ(NLD, 1958),デンマーク(DNK,
1973),イギリス(GBR, 1973),アイルランド(IRL, 1973),ギリシャ(GRC, 1981),スペイン(ESP,
1986),ポルトガル(PRT, 1986),オーストリア(AUT, 1995),フィンランド(FIN, 1995),スウェー
デン(SWE, 1995 である。EU-Ⅱ地域:キプロス(CYP, 2004),チェコ(CZE, 2004),エストニア
(EST, 2004),ハンガリー(HUN, 2004),リトアニア(LTU, 2004),ラトビア(LVA, 2004),マルタ
(MLT, 2004),ポーランド(POL, 2004),スロバキア(SVK, 2004),スロベニア(SVN, 2004),ブル
ガリア(BGR, 2007),ルーマニア(ROM, 2007)である。カッコ内は、国名の略称と EU 加盟年
を示す。その他(RoW)は、カナダ,メキシコ,米国,中国,日本,韓国,台湾,オーストラリア,ブラ
ジル,インドネシア,インド,ロシア,トルコ,その他世界である。
4
Dietzenbacher, Romero(2007)、エスカット・猪俣 (2011)を参照