Wound bed preparationに基づく創傷管理とフィブラスト ® スプレーの

日本標準商品分類番号:872699
Wound bed preparationに基づく
創傷管理とフィブラスト® スプレーの使い方
NTT東日本関東病院・皮膚科部長 五十嵐
敦之 先生
ウンド ベッド プレパレーション
近年、創傷において、wound bed preparationという概念が
普及しています。Wound bed preparationでは、創傷の治
癒過程に応じて、主にデブリードマン(壊死組織の除去)
、
感染制御、過剰な滲出液の軽減などを行うことが重
要とされています。こうした新しい創傷管理方法
とフィブラスト®スプレーの使い方について、
五十嵐敦之先生に解説いただきました。
褥瘡・皮膚潰瘍治療剤
指定医薬品
処方せん医薬品(注)
トラフェルミン(遺伝子組換え)製剤
(注)注意−医師等の処方せんにより使用すること。
薬価基準収載
【禁忌(次の患者には投与しないこと)】
1. 投与部位に悪性腫瘍のある患者又はその既往歴のある患者
[本剤が細胞増殖促進作用を有するため(「重要な基本的注意」の項参照)。]
2. 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
(効能・効果、用法・用量、禁忌を含む使用上の注意等については裏表紙をご参照ください。)
Wound bed preparationと
創傷治癒のメカニズム
ウンド ベッド プレパレーション
Wound bed preparationとは、慢性創傷における創傷治癒を促進するために創床環境を分析・調整しよ
うという創傷治療コンセプトのことです。現在、さまざまな創傷治療薬やドレッシング材が普及しています
が、wound bed preparationの考えに基づき、治癒過程に応じた治療を選択することが大切です。
4つの段階にわたる創傷治癒過程
1. 出血・凝固期 ー血小板の凝集ー
受傷により組織が反応
創傷管理を実践するためには、創傷の基本的病態への理
解が不可欠です。
皮膚の創傷は、大きく分けて1. 出血・凝固期、2.炎症期、
3.増殖期、4.再構築期を経て治癒します。中でも増殖
期が障害されていると治癒が遷延化するため、治療によ
り線維芽細胞、血管内皮細胞、角化細胞の増殖・遊走を
図ることがポイントとなります。
出血・凝固期
炎 症 期
受傷直後から創周囲の血小板が活性化して凝集します。
この血小板の活性化が創傷治癒過程の最初の引き金です。
2. 炎症期(受傷後4 〜 5日まで)
ー炎症細胞の遊走ー
増 殖 期
毛細血管やリンパ管の透過性が亢進し、白血球やマクロ
ファージの遊走が起こり、細菌や壊死物質が貪食除去さ
れます。
(肉芽増殖)
炎症期に出てきた白血球やマクロファージなどから分泌
された種々の細胞増殖因子の刺激により毛細血管の新生、
線維芽細胞の増殖が始まり、肉芽が出現し、その後上皮化
が始まります。
4. 再構築期(〜 3か月)
ー肉芽の吸収、治癒の終了ー
創の上皮化が終了し肉芽が強化する時期で、増殖期に出て
きた肉芽組織の中から線維芽細胞や白血球が消失し、コ
ラーゲン線維が変化して瘢痕組織となります。
細胞が増殖、治癒が進む
3. 増殖期(受傷後1 〜 2週)
ー血管新生、肉芽形成、再上皮化ー
治 癒
赤血球
血小板
白血球
線維芽細胞
(上皮化)
再構築期
治 癒
リンパ球
筋線維芽細胞
マクロファージ
アポトーシスした細胞
コラーゲン
【イラスト監修】九州大学医学部皮膚科教授 古江
Wound bed preparationに基づく創傷管理とフィブラスト®スプレーの使い方
増隆
先生
Wound bed preparationの実践
〜看護師が行う創傷管理のポイント〜
Wound bed preparationの実践的指針として、創傷治癒阻害因子 注 1)のうち、創面に内在する因子を
T(組織:Tissue)
、I(Infection/Inflammation:感染または炎症)
、M(Moisture:湿潤)
、E(Edge of
Wound:創縁)に分けて対処する考え方が知られています。ここでは看護師が行うデブリードマンと、洗浄
による感染制御、滲出液のコントロールについて解説します。
注 1)創傷治癒阻害因子
内的因子:局所の循環障害や浮腫、過剰な滲出液、貧血や低タンパク血症などの低栄養状態、ステロイド剤内服、免疫不全状態、神経障害など。
外的因子:局所の感染、外用剤や消毒剤による接触皮膚炎、機械的圧迫、寒冷刺激、壊死組織など。
デブリードマンの方法
デブリードマンとは、創傷治癒の障害と
なる壊死組織や損傷組織を除去するこ
とを意味します。
表1に示すように、デブリードマンは外
科的、化学的、生物学的、自己融解、物理
的デブリードマンに分けられます。看護
師の方でもできる方法として、ピンセッ
トや歯ブラシなどを用いるブラッシング、
高圧洗浄、wet to dry dressing法な
どの物理的デブリードマンや自己融解
デブリードマンがあります。
Wet to dry dressing法
生理食塩水で湿らせたガーゼを創に当て、
乾燥させた後、ガーゼをはがし、ガーゼに
固着した壊死組織を除去する方法。滲出
液が比較的少なく、壊死組織が厚くないと
きに行う。
[表1:デブリードマンの分類]
分 類
方 法
適 応
外科的
デブリードマン
ハサミ、メスによる直接
切除
すべての壊死組織、不良
肉芽
化学的
デブリードマン
ブロメライン ®などの酵素
製剤
外科的デブリードマンが
困難
生物学的
デブリードマン
無菌ウジによるマゴット
療法
他のデブリードマンが
困難
ハイドロコロイドなど
浅い褥瘡
ハイドロジェルなど
ポケット形成
自己融解
(軟化による)
デブリードマン
物理的
デブリードマン
ブラッシング、高圧洗浄、
薄い黄色の壊死組織や
Wet to dry dressing法
白苔
など
洗浄による感染制御と滲出液のコントロール
■洗浄液は37℃前後、洗浄後はこすらずに
■適度な湿潤環境を保つ
感染制御のためには創傷治癒を阻害する細菌、異物、
壊死組織などを洗浄することでコントロールします。
一方、消毒薬、特にポピドンヨードは細胞毒であり、
再生した細胞を壊してしまいます。
創傷の滲出液は、創の修復に必要なさまざまな細胞
増殖因子を含んでいます。また、肉芽形成や上皮化
に関与する細胞の増殖・遊走を促進するためにも、
創面の適度な湿潤環境を保つことが大切です。
洗浄には生理食塩水を用いるのが一般的ですが、水
道水でもかまいません。細胞分裂を促進させる37℃
前後に温め、十分量を用いて適度な圧をかけて洗浄
します。再生してきた細胞を傷つけないよう、洗浄後
の創面はこすってはいけません。
Point
●慢性創傷では過剰な滲出液のコントロールを
慢性創傷の場合、滲出液には炎症を継続させる物質や細
胞増殖因子を分解してしまう物質も多量に含まれており、
かえって治癒を遷延化させてしまいます。過剰な滲出液
はコントロールが必要です。
Wound bed preparationに基づく創傷管理とフィブラスト®スプレーの使い方
Wound bed preparationの実践
〜創傷治療薬とドレッシング材の種類〜
創傷治療薬の種類
従来より用いられてきた抗菌剤や壊死組織融解剤は、創面の環境を整え生体本来の治癒力を引き出すことを目
的とした薬剤です。近年では表皮細胞・線維芽細胞・血管内皮細胞などを直接的に増殖させる薬剤が登場し
ており、治癒過程に応じて目的に沿った薬剤を用いることが大切です。また、薬剤の軟膏基剤の特性を生かし、
適度な湿潤環境を保ちながら、有効な薬剤の選択を行います(表2)
。
[表2:主な創傷治療薬と特徴]
分類
一般名
抗菌剤
壊死組織融解剤
肉芽形成促進・
上皮化促進剤
商品名
特徴
スルファジアジン銀
ゲーベン ® クリーム
浸軟作用
精製白糖・ポビドンヨード
ユーパスタコーワ® 軟膏、ソアナース® パスタ、イワデクト®
吸水作用
カデキソマー・ヨウ素
カデックス® 軟膏
吸水作用
®
ブロメライン
ブロメライン 軟膏
吸水作用
塩化リゾチーム
リフラップ® 軟膏
浸軟作用
®
トレチノイントコフェリル
オルセノン 軟膏
浸軟作用
ブクラデシン
アクトシン® 軟膏
吸水作用
プロスタンディン® 軟膏
油脂性軟膏
フィブラスト®スプレー
唯一のスプレー剤
アルプロスタジルアルファデクス
(プロスタグランジンE1)
トラフェルミン
Point
●使用の際のポイント
ヨウ素を含む薬剤は酵素製剤と併用すると酵素を失活化するほか、乾燥を促すという特徴もあり、浅くて滲出液の少なす
ぎる創傷には適しません。抗菌剤や抗生物質には、耐性菌の出現や感作による接触皮膚炎のおそれがあります。血管新生、
肉芽・表皮形成を促進する薬剤は、壊死組織および感染がコントロールされてから、細胞の増殖を図る目的で使用します。
ドレッシング材の種類
ドレッシング材は、創傷面の湿潤環境を形成・保持するために、それぞれが独自の特徴を備えています。
それぞれの特徴をよく理解した上で、滲出液の量など創面の状態に適したものを選択しましょう(表3)。
[表3:主な皮膚欠損用創傷被覆材(特定保険医療材料)の特性]
多い
使用材料
ハイドロファイバー ®
滲出液
アルギン酸塩
ポリウレタンフォーム
少ない
主な特徴
水分吸収能:
自重の倍数
ゲルを形成するために皮膚に残留しにくく除去しやすい。
25倍
主な商品名
アクアセル®
®
カルシウムによる止血効果を有する。
15 〜 20倍
®
クッション性がある。
10 〜 14倍
カルトスタット
ハイドロサイト
®
ハイドロポリマー
ティエール
滲出液の方向に向かって膨化。
ハイドロジェル
グラニュゲル®
適度な湿潤環境の維持により、壊死組織の自己融解
作用を有する。
2 〜 3倍
ハイドロコロイド
デュオアクティブ®CGF
滲出液が多いとすぐに溶けてしまい、周囲皮膚が浸軟
する。防水性が高い。
1.5倍
ハイドロジェル
イントラサイト®ジェル
適度な湿潤環境の維持により、壊死組織の自己融解
作用を有する。
1.2倍
Wound bed preparationに基づく創傷管理とフィブラスト®スプレーの使い方
8倍
フィブラスト® スプレー の使い方
フィブラスト® スプレー の作用と特徴
[フィブラスト® スプレーの作用]
本剤の主成分であるヒト塩基性線維芽細胞増
殖因子(basic fibroblast growth factor:
bFGF)は生体内物質の1つであり、創傷治癒
を促進します。
bFGFは線維芽細胞、血管内皮細胞の増殖を促
進する作用を有し、創傷部位における良性肉
芽の形成および表皮形成を促進することで、治
癒期間を短縮させます。これらの作用は、各細
胞のFGF受容体を介した直接的な細胞増殖作
用によるものです。
また、
bFGFが創傷治癒を促進するだけでなく、
瘢痕の質を改善し(治癒後の瘢痕組織が柔ら
かい、色素沈着が少ない等)
、QOWH(Quality
of wound healing:創傷治癒の質)を向上さ
せることが近年明らかになってきています。
・本剤は水溶性スプレーとして、褥瘡と皮膚潰瘍(熱傷潰瘍、下
腿潰瘍)に適応があります。
・水溶性スプレー剤のため使用が簡便で、残存する薬剤の除去
に手間がかかりません。
フィブラスト® スプレー の投与時期
■良性肉芽がみられてから上皮化が完成するまで
本剤は、線維芽細胞増殖作用、血管新生作用および
上皮化促進作用を有します。したがって、創面に肉
芽がみえはじめたときから、上皮化の完了までが、本
剤の最も有効な投与時期です。
Point
本剤は、血管や線維芽細胞に直接作用することにより効
果を発揮します。そのため、デブリードマンを積極的に
行って創面の壊死組織を除去し、良性肉芽が出現してか
ら噴霧することが重要です。
フィブラスト®スプレー投与時期
・血管新生作用
・線維芽細胞増殖作用
・上皮化促進作用
出血・凝固期
炎症期
増殖期
再構築期
Wound bed preparationに基づく創傷管理とフィブラスト®スプレーの使い方
フィブラスト® スプレー の使い方
フィブラスト® スプレー の使い方
①患部および周辺を洗浄し、水分を拭き取って
清潔にしておきます。
[フィブラスト® スプレーの噴霧の仕方]
②【最大径が6cm以内の場合】
1日1回約5cm離して5噴霧してください。
【最大径が6cmを超える場合】
最大径が6cmを超える創面には、最初の
スプレー面にできるだけ重ならないよう、
残りの部分に同様の動作を繰り返します。
③スプレーしたあとは、30秒程度待ってから、
患部を非固着性ガーゼ、軟膏ガーゼあるい
はフィルム材、ドレッシング材などで覆って
ください。
患部から約5cm離して
スプレーします。
【最大径が6cm以内】
【最大径が6cm以上】
5噴霧
☆使用後は、
速やかに10℃以下の冷暗所
(冷蔵庫など)
に保存してください。
☆溶解後は、2週間以内に使い切ってください。
5噴霧
患部へは1日1回
一度に5噴霧します。
30秒程度静置してから
患部を被覆材で
覆います。
フィブラスト® スプレー 噴霧後の処置・被覆方法
■被覆により湿潤環境を保つ
■ドレッシング材は滲出液の量に応じて
噴霧後は薬剤がなじむまで30秒程度静置し、その後
は創面の湿潤環境を保持できるように、創面を非固
着性ガーゼ、軟膏ガーゼあるいはフィルム材、ドレッ
シング材などで被覆してください。
本剤は細胞に直接作用して肉芽組織を増殖させ、よ
り速く組織を修復する薬剤であり、ドレッシング材
はその組織の修復に必要な湿潤環境を整える目的で
用います。
ガーゼは創を乾燥させるので、滲出液が少ない創で
はワセリン基材の軟膏剤やフィルム材と併用したほ
うが創面の湿潤環境を保持でき、本剤の治療効果を
より高めます。
ドレッシング材は成分により特徴があるので、創面
の状態(滲出液の量など)に適したものを使用するよ
うにしましょう(P4表3参照)
。
Point
本剤は細胞に直接作用して効果を発揮します。デブリードマンにより壊死組織や不良肉芽を除去してから噴霧し、薬剤がな
じむまで30秒程度静置後、創面を被覆します。
また、他の軟膏剤と併用する場合は、先にフィブラスト®スプレーを噴霧し、30秒程静置後、軟膏剤を使用してください。
Wound bed preparationに基づく創傷管理とフィブラスト®スプレーの使い方
フィブラスト® スプレー の使い方
感染創・ポケットのある創への対処方法
■感染に対する治療を優先
■ポケット内部は壊死組織を除去してから
感染創では治癒過程が遷延します。発熱などの全身
症状がみられる明らかな感染創に対しては、感染に
対する治療(抗生物質の全身投与など)
を優先します。
ポケット内部は処置が及びにくく、壊死組織が残存
しやすくなります。ポケットは開放するのが原則で
すが、何らかの理由で開放できない場合は、洗浄など
により内部の壊死組織や不良肉芽をできる限り除去
した後、
フィブラスト® スプレーを使用してください。
全身症状がなければ壊死組織のデブリードマンを行
い、創面に良性肉芽がみえはじめたらフィブラスト®
スプレーを噴霧してください。
フィブラスト® スプレー の医療経済性
フィブラスト® スプレー 500を1日分(0.3mL)で換算すると648円となり、他剤と比べて大きな差はありま
せん(表4)。さらに、治癒期間の短縮が期待できることから、医療経済的にも低コストであると考えられます。
[表4:主な創傷治療薬の薬価一覧(長径6cmの潰瘍に対して塗布厚5mmの場合)]
製品名
薬 価
用法・用量
6cmの潰瘍治療の 1日薬価
1日 1回
包 装
1日 2回
フィブラスト®スプレー500
5mL
10799.4
1日 1回
(5噴霧)
0.3mL
648円
5mL
フィブラスト®スプレー250
2.5mL
8176.7
1日 1回
(5噴霧)
0.3mL
981円
2.5mL
ユーパスタコーワ® 軟膏
1 g 46.6
834円
1日1〜2回
17.9 g
1668円
35.8 g
チューブ 30・100 g
ボトル 100・500 g
分包 8 g
ソアナース®パスタ
1 g 45.7
オルセノン® 軟膏
1 g 54.2
1日1〜2回
14.3 g
775円
28.6 g
1550円
チューブ 30 g
ビン 100 g
アクトシン® 軟膏
1 g 55.5
1日1〜2回
16.3 g
905円
32.6 g
1809円
チューブ 30・200 g
ボトル 200 g
プロスタンディン®軟膏
※原則として1日10 g以上
は使わない
1 g 58.7
1日 2回
818円
(薬価ならびに 1日薬価は、平成 20年 4月の改訂に基づく)
1636円
24.8 g
1456円
チューブ 10・30 g
(※ 10 g) (※587円)
美濃良夫, 診断と治療, 80(10), 147, 1998 一部改変
Wound bed preparationに基づく創傷管理とフィブラスト®スプレーの使い方
2008年 5月作成
FGF115-08E-20-SG1