グローバルネットワークによる 脳情報処理

平成25年度 生理学研究所研究会
グローバルネットワークによる
脳情報処理
プログラム・抄録集
平成26年1月10日(金)13:00~11日(土)12:30
生理学研究所(明大寺) 1F 大会議室
平成25 年度 生理学研究所研究会
「グローバルネットワークによる脳情報処理」
平成26年1月10日(金)13:00~11日(土)12:30
生理学研究所(明大寺)1F 大会議室
●1月 10 日(金)
13:00-
ご挨拶(北海道大学 医学研究科・田中真樹)
13:05-14:25
座長:田中 真樹
13:05-13:45 前頭葉と大脳基底核をつなぐ連合系ループの機能
(東京都医学総合研究所 前頭葉機能プロジェクト)星 英司
13:45-14:25 Prefrontal-striatal interaction of dynamically represented
reward value during anticipating future rewards
(東京工業大学精密工学研究所)地村 弘二
<休憩>
14:40-16:00
座長:長谷川 功
14:40-15:20 サル下部側頭葉における物体の表象と記憶想起を司る
局所神経回路内の情報伝達と計算原理
(東京大学医学部統合生理学教室)平林 敏行
15:20-16:00 新世界ザルマーモセットの側頭・前頭回路の
ミラーニューロンシステム
(国立精神・神経医療研究センター 微細構造研究部)一戸 紀孝
<休憩>
16:15-18:15
座長:南部 篤
16:15-16:55 短期記憶中の前頭前皮質、中脳腹側被蓋野および
海馬ネットワークの同期活動
(理化学研究所脳総合研究センター)藤澤 茂義
16:55-17:35 ヒトの脳の大域的同期ダイナミクスの機能的役割の操作的解明
(理研 BSI-トヨタ連携センター)北城 圭一
17:35-18:15 皮質脳波法による視覚カテゴリーの復号化
(新潟大学医学部 超越学術院)長谷川 功
18:30-
懇親会
生理学研究所(明大寺)1Fセミナー室
1
●1月 11 日(土)
9:00-
諸連絡
9:05-10:25
9:05-9:45
座長:星 英司
2 種類の神経活動から淡蒼球外節の機能を考える
(北海道大学 医学研究科)吉田 篤司
9:45-10:25 神経路選択的な遺伝子導入による神経ネットワークの機能操作
(京都大学 霊長類研究所)井上 謙一
<休憩>
10:40-12:00
座長:一戸 紀孝
10:40-11:20 大脳基底核が制御する運動機能の解明を目指して
〜分子生物学的手法を利用した挑戦〜
(生理学研究所 生体システム研究部門)佐野 裕美
11:20-12:00 神経-グリアネットワークの機能と破綻
(東北大学 大学院医学系研究科 新医学領域創成分野)松井 広
12:10-12:20
12:20-
「システム脳科学の趨勢を読む」
(京都大学 霊長類研究所)高田 昌彦
3 年間を振り返って/閉会のご挨拶(田中 真樹/南部 篤)
2
前頭葉と大脳基底核をつなぐ連合系ループの機能
星
英司(東京都医学総合研究所・前頭葉機能プロジェクト)
前頭葉の高次脳領域(前頭前野と運動前野)が大脳基底核と形成する連合系ループの機能
を解析するために、一連の電気生理学的研究を行った。高次脳機能処理における重要な三要
素である「行動ゴール決定」、
「アクション選択」、そして、
「行動ゴールのモニタリング」に
着目し、これらの要素を含んだ課題を遂行しているサルの前頭葉と大脳基底核・淡蒼球にお
ける連合系ループ部位より細胞活動を記録したところ、複数の興味深い知見が得られた。ま
ず、1)視覚情報にもとづいて行動ゴールを決定する過程は、前頭葉と淡蒼球で同時に反映
されること、2)アクション選択は前頭葉が先行し、淡蒼球はこれに続くこと、そして、3)
淡蒼球におけるゴールとアクションの表現時間は、前頭葉に比べてより短時間であることが
見出された。これらの結果は、前頭葉と大脳基底核がゴール決定やアクション選択に特異的
な関与をすること、ならびに、決定されたゴールや選択されたアクションの保持には前頭葉
が主要な関与をすることを明らかとした。次に、4)行動の結果にもとづいてゴールを更新
する必要がある状況下では、ゴールに向かって到達運動を実行している最中に、前頭前野だ
けでなく淡蒼球も行動ゴールを反映することが見出された。これは、連合系ループ全体が、
行動ゴールのモニタリング過程において重要な役割を果たすことを示唆する。こうした一連
の発見は、認知的行動制御が前頭葉—大脳基底核連合系ループの機能連関によって達成され
る実態の一端を明らかとした。
参考文献
Nakayama, Y., Yamagata, T., Tanji, J., and Hoshi, E. (2008) Transformation of a virtual action plan
into a motor plan in the premotor cortex. J Neurosci 28: 10287-10297.
Yamagata, T., Nakayama, Y., Tanji, J., and Hoshi, E. (2012) Distinct information representation and
processing for goal-directed behavior in the dorsolateral and ventrolateral prefrontal cortex and the
dorsal premotor cortex. J Neurosci 32: 12934-12949.
Arimura, N., Nakayama, Y., Yamagata, T., Tanji, J., and Hoshi, E. (2013) Involvement of the globus
pallidus in behavioral goal determination and action specification. J Neurosci 33: 13639-13653.
Saga, Y., Hashimoto, M., Tremblay, L., Tanji, J., and Hoshi, E. (2013) Representation of spatial- and
object-specific behavioral goals in the dorsal globus pallidus of monkeys during reaching movement.
J Neurosci. 33: 16360-16371.
3
Prefrontal-striatal interaction of dynamically represented reward value
during anticipating future rewards
東京工業大学精密工学研究所
地村 弘二 (Jimura, Koji)
Representation of reward value is one of the factors that determines decision variables and
recruitment of executive control. Neuroimaging studies of decision-making and cognitive functions
have primarily focused on task-related transient changes in activity magnitudes. Here I demonstrate
an alternative mechanism, temporally dynamic modulation, that involves complementary changes in
temporal patterns of activity systematically occurring in brain regions and individuals.
In a series of behavioral and neuroimaging experiments, I will talk about the dynamic and
interactive neural mechanisms in decision-making situations. Functional MRI was administered
during the entire phases in intertemporal choice behavior, i.e., choice, anticipation, and consumption
of reward. While anticipating a delayed reward (~60 sec), ventromedial prefrontal cortex and
ventral striatum showed a dynamic activity pattern of subjective value of the delayed reward
formulated by behavioral economics function of delay discounting. On the other hand, anterior
prefrontal cortex showed a complementary pattern, an inverse of the subjective value dynamics.
Importantly, dynamics in the prefrontal and ventral striatum regions reflected individuals’ degree of
delay discounting. A mixed-effect functional connectivity analysis comprehensively revealed that
these three mechanisms were interactively signaling during decision-making and anticipating the
future reward. These collective evidences demonstrate shifts in activation dynamics, not simple
unitary changes in activity magnitude, modulated by representation of reward value, suggesting a
flexible fronto-striatal mechanism maximizing reward value coding.
参考文献
Jimura K, Chushak SM, Braver TS (2013) Impulsivity and self-control during intertemporal
decision-making linked to the neural dynamics of reward value representation. J Neurosci 33:
344-357.
Jimura K, Myerson J, Hilgard J, Keighley J, Braver TS, Green L (2011) Domain independence and
stability in young and old adults’ discounting of delayed rewards. Behav Proc 87: 253-259.
Jimura K, Myerson J, Hilgard J, Braver TS, Green L (2009) Are people really more patient than other
animas? Evidence from human discounting of real liquid rewards. Psychon B Rev 16: 1071-1075.
4
サル下部側頭葉における物体の表象と記憶想起を司る
局所神経回路内の情報伝達と計算原理
平林 敏行(東京大学 医学部 統合生理学教室)
霊長類の下部側頭葉は、物体についての視覚表象ならびに記憶を司る脳領域として知られ
ている。これまでに、サルを用いた単一神経細胞活動の記録により、この領域において物体
の視覚表象や記憶想起に関わる神経細胞群の活動が多く示されてきた。しかし、これらの神
経細胞群が互いにどのような回路を形成し、どのような計算原理で上記の神経表象を形成し
ているかについては未解明のままである。本研究では、物体間対連合記憶課題を遂行中のマ
カクザル下部側頭葉から多細胞同時記録を行い、Granger 因果性解析(Hirabayashi et al., 2010)
及び相互相関解析を用いて単一神経細胞間の機能的結合の強さと方向性を求めた。これによ
り、課題遂行中の局所神経回路内における、対連合記憶関連ニューロン間の情報伝達とその
ダイナミクスを解析し、回路の計算原理を明らかにした。本研究会では、まず物体間対連合
記憶の想起信号を生成する局所神経回路の動作について紹介する(Hirabayashi et al., 2013a)。
さらに、物体間対連合の視覚表象の形成が領野間の階層的な計算原理によって成立している
という新しい仮説(Hirabayashi et al., 2013b)について議論したい。
参考文献
Hirabayashi, T., Takeuchi, D., Tamura, K. and Miyashita, Y. (2010). Triphasic dynamics of
stimulus-dependent information flow between single neurons in macaque inferior temporal cortex. J.
Neurosci. 30, 10407-10421.
Hirabayashi, T., Takeuchi, D., Tamura, K., Miyashita, Y. (2013a). Functional micro-circuit recruited
during retrieval of object association memory in monkey perirhinal cortex. Neuron. 77, 192-203.
Hirabayashi, T., Takeuchi, D., Tamura, K., Miyashita, Y. (2013b). Microcircuits for hierarchical
elaboration of object coding across primate temporal areas. Science. 341, 191-195.
5
新世界ザルマーモセットの側頭・前頭回路の
ミラーニューロンシステム
一戸紀孝、鈴木航、坂野拓、宮川尚久、阿部央、佐々木哲也, 谷利樹
国立精神・神経医療研究センター
微細構造研究部
コモンマーモセット(Callithrix jacchus )は家族で協調的で模倣的に子供を育て、多産で遺伝
子改変動物作成も可能であり、近年興味を持たれているモデル動物である。自己と他者の同
様の行動や目的の両者に一個の神経細胞が発火するミラーニューロンは、模倣をすることが
知られている、この動物に存在することが証明できれば、この細胞の機能について、マカク
とは別の角度から研究する機会を提供すると考えられる。この動物のもう一つの特徴は、溝
が少なく、マカクザルでアクセスしにくい領野に、脳表から簡便に到達できると同時に、逆
に、溝というランドマークが少ないために、脳の領野の部位を事前に知る事が困難であると
いうことである。
今回、我々は側頭葉にある数少ないマーモセットの浅い溝である上側頭溝(STS)が、他
者行動を表現する領野のよいランドマークとなる事を麻酔下のマーモセットで見いだした。
その領域から、他の動物が摂餌行動中に餌に触れた時に強く反応する領野を同定し、蛍光の
逆行性のトレーサーであるCTB-Alexa555(Ichinohe et al., 2012)を注入し、1週間後に、前頭葉
を開頭して成体で蛍光実体顕微鏡で見ると、ミラーニューロンがマカクで記録される部位と
相同と考えられる腹側運動前野(area 6v)周囲に、明るいスポットが確認されたので、この
STS領野と6v周囲に多点電極を刺入・固定し、覚醒下で他者が摂餌行動を行っているのを観
察しているときと、自分が摂餌行動している際に、神経活動の記録を行った。神経活動に関
しては、自己でも他者でも、餌にタッチしているタイミングの周囲の活動に焦点を当てて解
析を行った。その結果、STS周囲は、他者がバナナ(より好ましい餌)でも、パン(それほ
ど好ましくない餌)に手で触れた時に強い反応を示した。また、この領域は、他者がピンセ
ットでバナナにタッチして持ち上げても、ほぼ同様の反応を見せた。しかし、餌を置かずに
取るふりをするだけの行動を見せると、反応は著しく現弱した。このことは、STS周囲は、
他者の行動の目的に反応していることを推測させる。これに対して、6v周囲は、他者が手で
バナナ、パンに触れた時には、強い反応を見せるが、ピンセットで触れた時には、反応が著
しく減弱し、どのような手法で餌を取るかにも、反応する事が示された。餌がない時の、手
で摂餌をする方法に関しての減弱は、STSより弱く、やはり6v周囲がより餌を取る手法に
関与している可能性を示している。また、自己が餌に触れて餌を取ったときの反応に関して
は、6v周囲の他者行動への反応を示す細胞の30%が、反応を示しミラーニューロンである事
が示された。STS周囲で同様の強い反応はごくまれに見られる程度であった。この強い結合
のある6v周囲- STS周囲の細胞は他者の行動の表現に類似点があるが、抽象的なレベルで違
いが見られ、これらの協同的な働きにより、他者および自己のモニタリング、そして、可能
性として模倣に関わっていることが示された。
6
短期記憶中の前頭前皮質、中脳腹側被蓋野および
海馬ネットワークの同期活動
藤澤茂義(理化学研究所脳総合研究センター)
前頭前皮質(PFC)、海馬、および中脳辺縁系回路は、報酬関連行動において重要な役割を
果たしていると考えられているが、これらの領域がどのように相互作用して機能を遂行して
いるかはまだ明らかになっていない。本研究では、T字型迷路を用いた短期記憶課題を遂行
中のラットにおいて、PFC、海馬 CA1、および中脳腹側被蓋野(VTA)の3領域から同時
に高密度細胞外電位記録を行い、ニューロンの発火活動と局所細胞外電位を観測した。その
結果、PFC および VTA において、2~5Hzの周波数帯域をもつ低周波オシレーション
(4-Hz オシレーション)が、特に短期記憶を必要とする区間において強く観測された。ま
た、PFC および VTA の局所回路で生成されるガンマ波(30-80Hz)およびニューロンの発
火活動を調べたところ、これらは 4-Hz オシレーションの位相において活動の強さが違うこ
とが観測され、このことよりこの 4-Hz オシレーションは PFC および VTA の局所回路の活
動に強く影響を与えていることが明らかになった。この 4-Hz オシレーションは、海馬にお
いてはほとんど観測されなかったが、海馬で強く観測されるシータ・オシレーション(~
8Hz)と 4-Hz オシレーションは位相の同期関係にあることが明らかになった。以上の結果
により、4-Hz とシータオシレーションの位相同期により、これらのオシレーションは前頭
前皮質-大脳基底核の報酬関連回路と、海馬およびその関連部位での空間・エピソード記憶
系回路の統合をサポートしているのではないかと考えられる。
参考文献
Fujisawa S & Buzsáki G. (2011) A 4-Hz oscillation adaptively synchronizes prefrontal, VTA and
hippocampal activities. Neuron, 72:153-165.
Fujisawa S, Amarasingham A, Harrison MT & Buzsáki G. (2008) Behavior-dependent short-term
assembly dynamics in the medial prefrontal cortex. Nature Neurosci., 11:823-834.
7
ヒトの脳の大域的同期ダイナミクスの
機能的役割の操作的解明
北城圭一(理研 BSI-トヨタ連携センター)
近年、ヒトの非侵襲脳計測により脳活動の大域的同期ダイナミクスにより構築されるネッ
トワークと知覚、認知、運動等の脳機能とかかわりを示す神経相関研究が数多く報告されて
いる。より因果的な機能解明をするためには同期ダイナミクスの操作が不可欠であるがこの
観点からの研究は方法論的な問題によりこれまでほとんどなされてこなかった。これに関し
て、我々は、経頭蓋磁気刺激(TMS)は脳の振動同期ダイナミクスやそれにともなう情報流の
制御手法として用いることができ、同期ダイナミクスと脳機能との因果関係を示すことがで
きると推測した。そこで TMS―脳波計測システムを用いてヒトの脳活動の同期ダイナミク
スの機能的、因果的役割を操作的に検証することを大目的とし、まずはヒトの脳の同期ダイ
ナミクスの TMS による制御可能性を実験検証した。その結果、TMS はヒト脳波の大域的
位相同期ダイナミクスを制御することができることが明らかになった。より具体的には我々
は、安静時の TMS-脳波計測で、
ヒトの脳波の振動位相を局所、大域的に TMS によりリセットできること
脳波位相リセットとその大域的伝搬は脳状態依存的であること
脳波位相リセットの大域的伝搬にともなって領野間の大域的ネットワークでの有向
情報流の変化が引き起こされていること
を示した。
さらに、ヒトの脳の同期ダイナミクスと脳機能との因果関係を操作的に示す知覚実験結果
を紹介し、脳の同期ダイナミクス、大域的ネットワークの操作解明手法としての TMS-脳波
手法の有効性を示す。
1.
2.
3.
参考文献
K Kitajo, Y Nakagawa, Y Uno, R Miyota, M Shimono, K Yamanaka, Y Yamaguchi,
A manipulative approach to neural dynamics by combined TMS-EEG.
Advances in Cognitive Neurodynamics III, 155-160, 2013.
M Kawasaki, Y Uno, J Mori, K Kobata, K Kitajo,
Transcranial magnetic stimulation-induced global propagation of transient phase resetting associated
with directional information flow. under review
8
皮質脳波法による視覚カテゴリーの復号化
長谷川 功(新潟大学医学部・超域学術院)
わたしたちは脳の表面に「網をかける」ように張りめぐらせて局所フィールド電位を多点
記録する柔軟なメッシュ型の皮質脳波(Electrocorticography: ECoG)電極を考案し、ラット
やサルの動物モデルと臨床研究で、微小電極法との比較において、皮質脳波の信号記録特性
を検証する系を開発しました(1, 2)。マカクザルでは、メッシュ型電極を脳表のみならず脳
溝に広範囲留置することも可能となりました(3)。本研究会では、マカクザル下側頭葉から
の高密度記録、およびヒト腹側後頭側頭皮質からの臨床計測で得た皮質脳波を、脳情報デコ
ーディングのアプローチで解析した結果(4; Miyakawa et al in preparation)から垣間見られる、
種々の視覚カテゴリーの脳内表現について、話題を提供します。
参考文献
Toda H, Suzuki T, Sawahata H, Majima K, Kamitani Y, Hasegawa I. Simultaneous recording of
ECoG and intracortical neuronal activity using a flexible multichannel electrode-mesh in visual
cortex. Neuroimage 54, 203-12, 2011
Matsuo T, Kawai K, Uno T, Kunii M, Miyakawa N, Usami K, Kawasaki K, Hasegawa I,Saito N.
Simultaneous
Recording
of
single-neuron
activities
and
broad-area
intracranial
electroensephalography: electrode design and implantation procedure. Neurosurgery. doi:
10.1227/01.neu.0000430327.48387.e1. 2013
Matsuo T*, Kawasaki K*, Osada T, Sawahata H, Suzuki T, Shibata M, Miyakawa N, Nakahara K,
Iijima A, Sato N, Kawai K, Saito N, Hasegawa I. Intrasulcal electrocorticography in macaque
monkeys with minimally invasive neurosurgical protocols. Front Syst Neurosci 5:34. doi:
10.3389/fnsys.2011.00034, 2011 * equal contribution
Matsuo T, Kawasaki K, Kawai K, Majima K, Masuda H, Murakami H, Kunii N, Kamitani Y,
Kameyama S, Saito N, Hasegawa I. Alternating zones selective to faces and written words in the
human ventral occipitotemporal cortex. Cereb Cortex in press
9
2種類の神経活動から淡蒼球外節の機能を考える
吉田
篤司
(北海道大学・医学研究科)
大脳基底核は複数の核で構成され、行動選択や強化学習などに関与する。これらの機能を
発現する回路として、DeLong らにより提唱された直接路、間接路、さらには南部らによっ
て提案されたハイパー直接路という概念が広く受け入れられている。しかし、これらは非常
に単純化されており、また、解剖学的研究からは、実際の経路はもっと複雑であることが示
唆されている。これまで、淡蒼球外節(GPe)は間接路の一部とされ、線条体から抑制性の
投射を受けることから行動時にはニューロンの自発活動が減少すると考えられてきた。しか
し実際は、活動を減少させるニューロン(decrease-type neuron)よりも、増加させるもの
(increase-type neuron)の方が多いことが報告されている(Goldberg and Bergman, 2011)。我々
の以前の研究でも、antisaccade や滑動性追跡眼球運動を行っているサル GPe から単一ニュー
ロン活動を記録したところ、両タイプの課題関連活動が認められた(Yoshida and Tanaka,
2009a,b)。しかし、それぞれのタイプが行動のどのような側面を反映しているのか未だ明ら
かではない。今回我々は prosaccade や antisaccade 課題に加えて NoGo 課題を導入するととも
に、固視点の色によって課題の種類を事前に知らせた場合(deliberate 条件)と、ターゲッ
トの色によって初めて課題の種類を提示し、瞬時の行動選択をさせた場合(immediate 条件)
で GPe の神経活動を比較した。その結果、increase-type ではいずれの条件でも神経活動と
antisaccade の潜時に相関を認め、decrease-type では immediate 条件でのみ antisaccade と NoGo
課題で類似した活動を示した。これらの結果から、前者が運動生成の促進に、後者が反射的
な運動の抑制に関与している可能性が示唆された。また、increase-type neuron の反応から、
これまで提唱されている3つの経路に加えて、大脳皮質-視床下核-淡蒼球外節-淡蒼球内節/
黒質網様部という経路が行動の選択に関与する可能性が考えられた。
参考文献
Yoshida A & Tanaka M. (2009a) Enhanced modulation of neuronal activity during antisaccades in
the primate globus pallidus. Cerebral Cortex, 19:206-217
Yoshida A & Tanaka M. (2009b) Neuronal activity in the primate globus pallidus during smooth
pursuit eye movements. Neuroreport, 20:121-125
10
神経路選択的な遺伝子導入による
神経ネットワークの機能操作
井上
謙一(京都大学霊長類研究所)
さまざまな症状を呈する精神・神経疾患の病態を理解し、効果的な治療法の開発に結びつ
けるためには、個々の疾患の原因となる遺伝子や細胞機能の異常を調べるとともに、発現す
る症状(機能失調)がどの神経路の関与によるものか、という神経ネットワークと脳機能と
の関係を一つ一つ解明することが極めて重要である。このことを実現するためには、ヒトと
進化的にも行動学的にも近縁のサル類において、特定の神経回路機能に介入し行動学的・生
理学的解析を行うアプローチが有効であると考えられる。私達はその1つとして、神経路選
択的な遺伝子導入による神経ネットワーク操作技術を開発し、高次脳機能解析に応用してい
る。本発表では、まず逆行性感染型レンチウイルスベクターを利用したイムノトキシン神経
路標的法により、ハイパー直接路を選択的に除去したモデルザルを作製し、運動野刺激に対
する淡蒼球内節ニューロンの早い興奮性応答がハイパー直接路を経由するものであること
を明らかにした結果を紹介する。次に、逆行性感染型レンチウイルスベクターおよびアデノ
随伴ウイルスベクターによる多重感染とテトラサイクリン誘導性転写制御システムを組み
合わせた、神経路選択的な伝達制御法を黒質線条体ドーパミン投射系に適用し、薬剤依存的
かつ可逆的にパーキンソン病様の運動障害が誘発されるモデルサルを作出した実験結果を
紹介する。
参考文献
Kato S, Inoue K, Kobayashi K, Yasoshima Y, Miyachi S, Inoue S, Hanawa H, Shimada T, Takada M,
Kobayashi K. (2007) Efficient gene transfer via retrograde transport in rodent and primate brains by
an HIV-based vector pseudotyped with rabies virus glycoprotein. Hum Gene Ther. 18:1141-51.
Inoue K, Koketsu D, Kato S, Kobayashi K, Nambu A, Takada M. (2012) Immunotoxin-Mediated
Tract Targeting in the Primate Brain: Selective Elimination of the Cortico-Subthalamic
“Hyperdirect” Pathway. PLoS ONE. 7: e39149.
11
大脳基底核が制御する運動機能の解明を目指して
〜分子生物学的手法を利用した挑戦〜
佐野裕美(生理学研究所、生体システム研究部門)
大脳基底核の障害に起因するパーキンソン病、ハンチントン病、ジストニアなどでは、重
篤な運動障害が認められることから、神経回路全体として随意運動の制御に重要であること
はよく知られている。これまでに大脳基底核に関する様々な基礎研究や臨床研究が行われて
おり、直接路、間接路、ハイパー直接路を中心とした神経回路モデルも提唱されてきた。そ
のため、教科書的には大脳基底核が制御する機能の作動原理が明らかにされているように思
われがちである。しかし、個々の神経経路が制御する生理機能についての詳細は、十分に解
明されていないのが現状である。
我々のグループでは、以下のような分子生物学的手法を用いて、大脳皮質−線条体経路や
線条体投射ニューロンが神経活動と行動に果たす役割の解明に取り組んでいる。
(1)イムノトキシン細胞標的法:標的とするニューロンに特異的にヒトインターロイキン
2 受容体を発現するトランスジェニックマウスを作製し、局所にイムノトキシンを注入する
ことにより、特定のニューロンを後天的かつ選択的に除去する。
(2)光遺伝学(optogenetics):ウイルスベクターあるいはトランスジェニックマウスを用
い、標的とするニューロン特異的に光受容体である channelrhodopsin-2 を発現させ、光照
射により特定の神経経路特異的に興奮を誘導する。
このような手法を用い、淡蒼球外節や黒質網様部などから記録するとともに、マウスの行
動変化を観察している。今回の講演では、失敗も含めたこれまでの試みと研究成果について
報告する。
参考文献
Signals through the striatopallidal indirect pathway stop movements by phasic excitation in the
substantia nigra.
Sano H, Chiken S, Hikida T, Kobayashi K, Nambu A
J Neurosci, 33(17), 7583-7594 (2013)
Identification of optogenetically activated striatal medium spiny neurons by Npas4 expression.
Bepari AK, Sano H, Tamamaki N, Nambu A, Tanaka KF, Takebayashi H
PLoS One, 7(12), e52783(2012)
12
神経-グリアネットワークの機能と破綻
松井
広(東北大学大学院医学系研究科
新医学領域創生分野)
チャネルロドプシンやアーキオロドプシンを発現している細胞に光を当てると、膜電位を
脱分極させたり過分極させたりすることができる。細胞の活動を特異的に光操作できる性質
が注目され、光遺伝学の脳科学への応用が始まったのは8年程前のことである。光遺伝学の
第一のターゲットとされたのは神経細胞であり、特定の神経細胞の活動が、どういった脳機
能と結びついているのかを調べる研究が進んだ。我々のグループでは、この技術をグリア細
胞に適用するという、これまであまり考えられてこなかった応用に挑んでいる。グリア細胞
は、脳の中の不活性な細胞と見なされ、脳内情報の担い手であるとは捉えられてこなかった。
ところが、近年のイメージング研究を通して、グリア細胞は何らかの情報を活発にコード化
していることが、明らかになりつつある。しかし、神経から情報を受け取っているとはいえ、
グリアの活動を神経へとフィードバックする術がなければ、グリアが脳内情報処理に参加し
ているとは言い難い。グリアから神経への情報伝達の道筋がきっとあるはずだ、と考えられ
るようにはなったが、これまで、グリア細胞だけを特異的に刺激する方法がなかったため、
グリア―神経間信号伝達の存在やその意義を検証することはできなかった。そんなところに、
光遺伝学という技術が登場した。我々のグループは、グリア―神経間の信号伝達を調べるこ
とにこそ、この技術を活用するべきであると気がついたわけである。さらに我々は、チャネ
ルロドプシンやアーキオロドプシンは、細胞膜電位を変化させるだけでなく、細胞内イオン
環境を操作するツールにもなることに気が付いた。この性質を活用して、これまで誰もチャ
レンジしたことのない光遺伝学応用を展開しているので、研究の一部をご紹介したい。
参考文献
Sasaki T, Beppu K, Tanaka KF, Fukazawa Y, Shigemoto R, Matsui K* (2012)
Application of an optogenetic byway for perturbing neuronal activity via glial photostimulation.
Proc Natl Acad Sci U S A, 109: 20720–20725. (* corresponding author )
Tanaka KF*, Matsui K*, Sasaki T, Sano H, Sugio S, Fan K, Hen R, Nakai J, Yanagawa Y, Hasuwa H,
Okabe M, Deisseroth K, Ikenaka K, Yamanaka A (2012)
Expanding the repertoire of optogenetically targeted cells with an enhanced gene expression system.
Cell Reports, 2: 397–406. (* co-first author )
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(メ モ)
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