天然ゴムの高純度化に関する高専・技大共同研究

天然ゴムの高純度化に関する高専・技大共同研究
長岡技術科学大学 ○河原成元
東京工業高等専門学校 山本祥正,石井宏幸
1.はじめに
タンパク質を天然ゴムから完全に除去することは,
天然ゴムを原料とする医用材料や衛生材料の製造お
よび有機材料の創製において最重要課題となってい
る.これは,尿素やタンパク質分解酵素等のタンパ
ク質変性剤を用いることにより実現できると考えら
れるが,ゴム粒子表面に存在する脂質を除去するこ
とによりさらに効果的にタンパク質を除去できると
考えられる.これまで,タンパク質分解酵素を用い
る天然ゴムの精製技術および尿素を用いる天然ゴム
の精製技術が実用化および実用化に向けた検討が行
われてきた.これにより,タンパク質は天然ゴムか
らほぼ完全に除去できるようになり,製造における
迅速化および高効率化が図られた.しかしながら,
現在,さらに効果的かつ効率的にタンパク質を除去
する技術の開発が望まれている.本研究では,天然
ゴムからタンパク質を効果的かつ効率的に除去する
ことを目的とし,尿素および極性溶媒を用いてタン
パク質を完全に除去する試みを行った.
必須であった.さらに,分解されたタンパク質の一
部は,疎水性相互作用部位が露出することによって
水中で不安定になるため,洗浄を行っても天然ゴム
からタンパク質を完全に取り除くことは困難であっ
た.そこで,天然ゴムから迅速かつ高効率にタンパ
ク質を取り除くために,タンパク質の変性剤として
尿素を用いる天然ゴムの脱タンパク質化を試みた.
尿素を用いた天然ゴムの脱タンパク質化法を図1
に示す.天然ゴムラテックスに,界面活性剤および
尿素を加え,室温の開放系でタンパク質を除去した
後,遠心分離機を用いてラテックスをゴム分と漿液
に分離した.ゴム分は回収後,界面活性剤水溶液に
再分散してから遠心分離機を用いてラテックスをゴ
ム分と漿液に再度分離した.この操作によって,ゴ
ム粒子からタンパク質およびそのフラグメントを漿
液とともに取り除き,精製天然ゴムを得た.
尿素と界面活性剤を用いて脱タンパク質化した天
然ゴムラテックスの窒素含有率の処理時間依存性を
図2に示す.尿素を用いた脱タンパク化では,窒素
含有率は約 10 分間で急激に減少し,処理時間が長く
2.実験
天然ゴムラテックスには,市販の高アンモニア天
然ゴム(HANR)ラテックスを用いた.HANR ラテ
ックスに尿素,ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)お
よび極性溶媒を加えて数分間インキュベーションし
てから遠心分離を行うことにより天然ゴムの精製を
行った.精製天然ゴムの窒素含有率および脂肪酸エ
ステル含有率は Kjeldahl 法および FT-IR 測定により
それぞれ求めた.アレルギータンパク質量は Bio-Rad
DC protein assay により測定した.
3.結果と考察
3.1 脱タンパク質化
天然ゴムの脱タンパク質化は 1930 年代から主に
タンパク質分解酵素を用いて行われてきた.この脱
タンパク質化では,酵素反応によってタンパク質を
分解するため,最適温度に管理された設備を用いて
ラテックスを長時間インキュベーションすることが
図1
天然ゴムの脱タンパク質化プロセス
【連絡先】〒940-2188 新潟県長岡市上富岡長 1603-1 長岡技術科学大学 物質・材料系
河原成元 TEL:0258-47-9301 FAX:0258-47-9300 e-mail:[email protected]
【キーワード】地域連携、共同研究、天然ゴム
ゲンタンパク質量(2.9 μg/ml)の約 1/3 であった.
図2
尿素と界面活性剤を用いて脱タンパク質
化した天然ゴムラテックスの窒素含有率
図3
尿素と界面活性剤を用いて脱タンパク質化
した新鮮天然ゴムラテックスの窒素含有率
なるとさらに減少した.これは,ゴム粒子に吸着し
ているタンパク質の多くが尿素と相互作用すること
によって変性され,迅速に漿液へ移動したことを示
唆していると考えられる.タンパク質分解酵素を用
いる脱タンパク質化では,タンパク質を除去するの
に長時間(マレーシアゴム研究所では 72 時間)のイ
ンキュベーションが必要であることを考慮すると,
尿素を用いる脱タンパク質化技術は天然ゴムからタ
ンパク質を取り除くのに有効な方法であるといえる.
さらに,パラゴムの樹から採取した直後の新鮮天
然ゴムラテックスに尿素を加えて脱タンパク質化を
行った.図3に示すように窒素含有率は約 10 分間で
0.005 w/w%に減少し,処理時間が 2 時間で 0.004
w/w%になった.この脱タンパク質化天然ゴムラテ
ックスに含まれるアレルゲンタンパク量は 1 μg/ml
であり,タンパク質分解酵素を用いて調製された脱
タンパク質化天然ゴムラテックスに含まれるアレル
3.2 タンパク質フリー
表1に原料である HANR および精製天然ゴムの窒
素含有率を示す.未処理の HANR の窒素含有率は
0.279 wt%,尿素と SDS を加えてから遠心分離を2
回行った脱タンパク質化天然ゴムの窒素含有率は
0.021 wt%であり,これまでに報告されている値とほ
ぼ同程度であった.一方,尿素,SDS およびアセト
ンを加えてから遠心分離を2回行った精製天然ゴム
の窒素含有率は 0.000 wt%であり,タンパク質は完全
に除去されていることが明らかとなった.Bio-Rad
DC protein assay によりアレルギータンパク質量を求
めたところ,HANR では 115.2 μg/ml であったのに対
し,尿素,SDS およびアセトンを用いて精製した天
然ゴムでは 0.0 μg/ml であった.
また,HANR の FT-IR
-1
スペクトルには 3280 cm に吸収帯が示されたが,尿
素,SDS およびアセトンを用いて精製した天然ゴム
のスペクトルには何の吸収帯も示されなかった.
図4に天然ゴム(HANR)およびタンパク質を完
全に除去した天然ゴム(PFNR)の透過型電子顕微鏡
(TEM)イメージを示す.リンタングステン酸で染
色された黒いタンパク質の相はナノマトリックスを
形成した(図4(a))が,このナノマトリックスはタ
ンパク質を除去することにより消失した(図4(b))
以上の結果から,尿素,SDS およびアセトンを用
いることにより,天然ゴムからタンパク質を完全に
除去できることが明らかとなった.
表1
天然ゴムの窒素含有率
試料
HANR
HANR + Urea + SDS
HANR + Urea + SDS +
Acetone(PFNR)
窒素含有率
(wt%)
0.279
0.021
0.000
図4 天然ゴムの透過型電子顕微鏡観察(TEM)
写真:(a)HANR、 (b) PFNR.