第5章 親のがんについて - 東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護

監修:東京大学大学院家族看護学分野 上別府 圭子
"The U.S. National Cancer Institute dose not currently endorse any foreign-language translations
of NCI information by other organizations or individuals, and no such endorsement should be
inferred."
あなたとともに−がん患者を支えるためのガイド−
目 次
1.概略―この冊子は誰のためのものか .....................................................................................................................1
2.自分の親ががんであると知ったとき.........................................................................................................................2
3.がんについて知ろう.........................................................................................................................................................7
4.がんの治療.........................................................................................................................................................................9
5.誰に質問したらいいですか?................................................................................................................................... 13
6.親の気持ち ...................................................................................................................................................................... 16
7.家族の変化...................................................................................................................................................................... 18
8.自分自身のケア............................................................................................................................................................. 23
9.サポートを見つける ...................................................................................................................................................... 27
10.友達との関係............................................................................................................................................................... 30
11.あなたが親を支える方法 ........................................................................................................................................ 33
12.治療後の生活.............................................................................................................................................................. 35
13.これからのこと............................................................................................................................................................. 39
14.自分でもっと調べたい場合 .................................................................................................................................... 41
第5章 親のがんについて
1.概略―この冊子は誰のためのものか
これは、あなたのための冊子です
この冊子は、お父さんやお母さんなど身近な大人ががんになった 10 代の皆さん(ティーン)の
ために作られました。
他の同年代の人たちがこの大変な時期をどのように乗り越えてきたかがこの冊子に書かれて
います。
医師や看護師、ソーシャルワーカー、友人、そして家族は、あなたのお母さんもしくはお父さん
の病気がよくなる手助けをするために頑張っています。あなたも、そんなチームの重要な一員な
のです。
これから数週間、数カ月、あなたはあらゆる感情を経験すると思います。以前と何も変わらな
いと思えるいい日もあれば、つらい日も来ることでしょう。
この冊子は、あなたが今後直面することに備えるための一冊です。そして、がんと闘っている
親や身内とどうしたらうまく暮らしていけるかについて学びましょう。
この冊子の使い方
この冊子を最初から最後まで読むことはもちろん、一番関心がある部分だけを読んでもかまい
ません。必要なときに取り出して読む人もいます。
お父さんやお母さん、あるいは兄弟や姉妹などとこの冊子を一緒に読むのもいいでしょう。こ
の冊子を読むと、心にわだかまっていたことを言葉にすることができるかもしれません。家族に特
定の章を読んでもらい、後でそのことについて一緒に語り合うのもいい方法です。
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あなたとともに−がん患者を支えるためのガイド−
2.自分の親ががんであると知ったとき
『台所に入った瞬間、私は何かが違うと感じました。お母さんがとても静かなのです。そし
て私に自分ががんであると告げました。私は気が遠くなるように感じました。私は涙をこらえ
るのがやっとで、怖くてしかたがありませんでした。私は自分の部屋へ駆け込んで、長い間
ずっとベッドに座り込んだままでした。私は親友に電話しましたが、もうどうしていいか分から
なくなっていました。』――親のがんを経験した Sarah, 16歳
あなたは今、人生でもっとも大切な家族の一人ががんになったと知らされました。ショックを感
じたり、呆然としていたり、怒りを感じたり、恐れを抱いたりしていることでしょう。それとも人生は
不公平だと感じていますか?平静な気持ちでいられないことは確かでしょう。
まず、こんな事実に目を向けてみましょう
• がんを経験した人はたくさんいます。
現在、米国ではがんを経験した人たち(サバイバー)が約1000万人生活しています。がん
を発見したり治療したりする方法は、科学者たちの研究によって日々進歩しているのです。
決して希望を失うことはありません。
• あなたは独りではありません。
今は、世界の中でこんな気持ちになっているのは自分だけだと思っているかもしれませ
ん。確かに、あなたとまったく同じ気持ちを持つ人なんていません。しかし、親ががんになっ
た子どもたちは他にもたくさんいることがわかれば気持ちが楽になるでしょう。あなたと同じ
ような気持ちの人たちと話すこともあなたのためになるかもしれません。あなたは決して独
りではないことを忘れないでください。
• あなたの責任ではありません。
がんはさまざまな原因で発生し、その多くは医師でもすべてが分かっているわけではあり
ません。そういった原因のどれ一つとして、あなたの行動や考えたこと、言葉とは関係あり
ません。
• バランスが大切です。
ティーンの多くは親のがんをいつも気にしています。それから目をそむけようとする人たち
もいます。バランスをとることが大切です。親の事を気にかけながらでも、あなたが大切に
している人たちとの関係や活動を今まで通り続けることができます。
• 知識は力なり。
がんやがん治療についてもっと知りましょう。現実以上に悪いイメージをもっている場合も
よくあります。
2
第5章 親のがんについて
『僕は元々のんきで楽天的でした。でもお父さんががんになってからは、ちょっとしたことに
でも腹が立つようになりました。学校の生活指導の先生は僕に、お父さんやお母さんががん
である子どもたちのグループに参加するように言いました。同じような経験をしている仲間に
会うことでとても気持ちが楽になりました。』――親のがんを経験した Aaron, 14 歳
親のがんに直面したとき、いろいろな気持ちを持つでしょう。親ががんになったティーンの多く
は、今、あなたが感じているのと同じような気持ちになります。以下にそんな感情の例を挙げてい
ます。あなたの気持ちを話せるような人はいますか?
今日感じていることをすべてチェックしてみましょう。
恐怖感
• 私の世界が壊れてしまう。
• 親が死んでしまうのではないか。
• 他の家族にもがんがうつるのではないか(がんがうつることはありません)。
• 家にいるときに親に何かあったら、何をしたらいいか分からない。
親ががんになった人はみな恐怖感を持ちます。あなたが恐れていることがすべて現実になる
とは限らず、実際には起きないこともありますし、時が経つにつれて消え去ってゆく恐怖感もあり
ます。
罪悪感
• 親が病気なのに、自分だけ元気なことに罪悪感を覚える。
• 笑ったり、楽しく過ごすことが悪いことのような気がする。
親が重病であるのに、自分が楽しむなんてできないと思うかもしれません。しかし、あなたが楽
しく過ごすことは、親をおろそかにしていることにはなりません。むしろ、あなたが楽しんでいるの
を見て、お父さん、お母さんは喜ぶことでしょう。
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あなたとともに−がん患者を支えるためのガイド−
怒り
• お父さんやお母さんが病気になったことに怒りを感じる。
• 医師に対して困惑する。
• こんなことをする神様に腹が立つ。
• こんな気持ちになる自分に苛立つ。
怒りは、表に出しにくい感情の変わりとして現れます。怒りの感情を溜め込まないようにしまし
ょう。
疎外感
• 取り残されたような気持ちになる。
• 誰もかまってくれない。
• 誰もどういう状況か教えてくれない。
• 家族の会話がなくなった。
親ががんになったとき、家族の注意がそちらに向いてしまいがちです。取り残されたような気
持ちになっている家族もいるかもしれません。あなたの親は病気を治すことに精一杯ですし、元
気なほうの親は病人を支えようと必死です。あなたの両親は決してあなたを放っておこうと思って
いるわけではありません。立て続けにあまりに多くのことが起こっているためにそうなっているだ
けなのです。
孤独
• 僕のつらさなんて誰も分からない。
• 友達は誰も会いに来てくれない。
• 友達は僕に、なんて話しかけていいか分からないみたい。
友達との関係を改善するために役立つ情報が「友達との関係」の章に書いてあります。今は、
あなたのそんな気持ちは永遠に続くわけではないということを心に留めておきましょう。
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第5章 親のがんについて
困惑
• 病気の親と一緒に出かけることに困惑する。
• みんなから何か聞かれたらどう答えたらいいか分からない。
親ががんになったことに気恥ずかしさを感じるという多くのティーンは、時間とともにそのような
感情が薄れ、気持ちが楽になるといいます。
あなたの感情は正常です
一つの『正しい』感じ方などありません。あなたは決して独りではありません――同
じような状況で、同じことを感じている人はたくさんいます。親ががんになってから、
ものの見方が変わったという人もいますし、今までの自分よりずっと強くなれたと言
う人もいます。
自分の感情とうまく付き合う
『疲れ果てるまで走ったり、キックボクシングをしたりするのが、僕にとっては一番の気分
転換だった。』――親のがんを経験した Jed, 16歳
自分の感情を表に出したがらない人はたくさんいます。そんな人たちは自分の感情を抑え込
み、さっさと消え去って欲しいと願います。なかには、本当は落ち込んでいても陽気に振舞う人た
ちもいます。明るく振舞えば悲しみも薄れ、何かに腹を立てることもなくなると考えてしまうのです。
無理すればその時は多少気が晴れますが、長く続くものではありません。実際問題として、自分
の気持ちを押し込めることで、あなたに必要な手助けを受ける機会を失ってしまうことになりま
す。
試してみよう
• あなたのことを一番分かってくれている家族や友人と話してみましょう。これはあなたが是
非すべきことです。
• あなたの気持ちを日記につけてみましょう。
• 同じような状況の人が集まるようなサポートグループに参加したり、カウンセラーと話をしま
しょう。これらについては「サポートを見つける」の章で説明します。
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あなたとともに−がん患者を支えるためのガイド−
今すぐには何もする気にならないかもしれませんが、自分の感情に対処できるようになれば、
この経験を通してあなたはずっと強くなれるでしょう。
あなたの場合はどうですか?
多くの子どもは、病気の親に心配をかけないように、問題を起こさないようにいつもきちんとし
ていなければならないと考えます。そう思っているなら、いつも完璧でいられる人なんていないこ
とを覚えておきましょう。あなたには息抜きも必要だし、悲しんだり喜んだりする時間も必要です。
両親にあなたの今の気持ちを伝えてみましょう。
『私は、絶対押しつぶされない、この苦難を乗り切ってみせるって自分に言い聞かせてい
たの。』――親のがんを経験した Lydia, 16歳
『お父さんががんになってから、姉さんはいつもなんだかんだ言って外へ出て行くようにな
ったんだ。ある日、僕は姉さんに文句を言ったんだ。そしたら姉さんは怒るどころか、泣き出
しちゃった。姉さんはお父さんが苦しんでいるのを見ているのが耐えられないと言うから、僕
も同じだよって話したよ。それから僕らは何でも話し合えるようになった。いいことだと思う。』
――親のがんを経験した Jamie, 13歳
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第5章 親のがんについて
3.がんについて知ろう
『お父さんががんだということを聞いたとき、すごく怖くなった。がんはとにかく恐ろしい病
気だとしかそれまで聞いたことがなかったから。それから僕は「自分はがんのことを本当に
分かっているのか」と考えてみたけど、自分はよく知らないことに気がついた。それで本を読
み、インターネットでいっぱい調べたんだ。僕がインターネットで調べたことの一部は、お父さ
んのがんには当てはまらないってお父さんは言ったけど。がんは今でも怖いけど、たくさん
の人たちが治っていることも分かったし、そんなに心配していない。』――親のがんを経験し
た Abdul, 14歳
覚えておきたいこと
• あなたがしたことや考えたこと、または言ったことによって親ががんになったわけではありま
せん。
• がんがうつることはありません。
• がんを発見、治療するためのよりよい方法を見つけるため、研究が続けられています。
• がんを経験し治っていく人はたくさんいます。
がんとは何ですか?
がんの種類は100以上あることが分かっています。がんは身体を構成する基本パーツである
細胞が関係した数多くの病気の一つです。正常な細胞ががん細胞になるとき、どのようなことが
生じるかを知ることががんを理解するうえで大切です。
本来、細胞は、体が必要とするときにのみ、分裂して新しい細胞を作ります。これにより健康な
身体が保たれています。しかし、新しい細胞が必要ではない場合にも、細胞が分裂を繰り返すこ
とがあります。この余分な細胞が腫瘍と呼ばれる組織の塊を作ります。腫瘍には良性のものと、
悪性のものがあります。
• 良性腫瘍はがんではありません。
良性腫瘍は切除可能であり、身体の他の部分に広がることはありません。
• 悪性腫瘍はがんです。
悪性腫瘍の細胞は無秩序・無制限に分裂する異常な細胞です。この細胞は近くの組織を傷
つけ、身体の他の臓器へと広がっていきます。身体のある部分から他の場所へがんが広が
ることを転移といいます。
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あなたとともに−がん患者を支えるためのガイド−
がんの大部分はもともと、がん細胞が生じた臓器や細胞の種類の名前が付けられます。例え
ば肺にできたがんは肺がんです。がんにはかたまり(腫瘍)になるものと、ならないものがありま
す。例えば白血病は骨髄と血液のがんです。
ほとんどのがんは原因不明です。特定のがんについてのリスクを高くするものについて研究
が続けられています。がんのリスクを高めるものとしては喫煙、日光にあたり過ぎること、不十分
な食事、運動不足、ある種の化学物質や有害物質に接触することなどがあります。
私もがんになるのですか?
自分もがんになるのではないかと心配する子どももいます。誰も未来のことなど分かりません
が、大部分のがんは親から子へ受け継がれることはありません。もっと詳しく知りたいときは医師
に相談してください。
医師はがんを治せるのですか?
がんの新しい治療法は年々開発が進み、その結果、たくさんの人のがんの治療がうまくいって
います。しかし、数年間がんの再発がないことが確認できない限り、医師は「治癒」という言葉を
使わないようにしています。治療後、残っているがんが認められなくなる「寛解」という状態になる
場合があります。それでも、がんがまた出てくることがあり、これを「再燃」、または「再発」といい
ます。あなたの親のがんが治癒するかどうかは多くの要因によるものであり、いかなる冊子でも
正確なことを示すことはできません。担当医や看護師に相談して下さい。
もっと知りたい場合は
あなたのお父さんやお母さんのがんについてもっと知りたい場合は、米国立がん研究所(NC
I)のウエブサイト(http://www.cancer.gov/)を参照してください。情報スペシャリストに相談したい
場合はNCIのがん情報サービス 1-800-4-CANCER(1-800-422-6237)に電話してくださ
い。通話は無料。あなたの話が外部に漏れることはありません。
※編集部注釈: 日本ではがん情報サイト(http://cancerinfo.tri-kobe.org/)がNCIの日本語訳を提供
しています。また、国立がんセンターがん対策情報センター(http://ganjoho.ncc.go.jp/public/index.html)も参
考になります。
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第5章 親のがんについて
4.がんの治療
『父が痛みに耐えている姿を見るのは最悪で、ある日、僕は父にどんなにつらく感じてい
るかを聞きました。すると父は「見た目ほど悪くないよ」と答えました。父にとって大変な時期
ですが、それでも僕が思っているほどではないと分かり、とてもほっとしました。』――親のが
んを経験した Ashley, 15歳
親ががん治療を受けている間にどのようなことが起こるのかを知っておくとよいでしょう。この
章ではさまざまな治療について、その効果や副作用について説明します。この章を読んだ後、い
ろいろな疑問がでてくるかもしれませんが、そのときはあなたの両親に話したり、看護師またはソ
ーシャルワーカーなどに相談することができるかどうかも聞いてみましょう。
どのような治療がなされるのですか?
がん治療の目的はがん細胞を取り除くことです。どんな治療が行われるかは以下に挙げるよ
うな条件によって変わってきます。
• がんの種類。
• どこにがんが広がっているか。
• 患者の年齢や体の健康状態。
• 患者の病歴。
• 新たに診断されたがんか、それとも再発か。
がんは100種類以上存在し、それぞれで治療の仕方が違います。
治療計画であるプロトコールにしたがって治療が行われます。しかし全く同じ種類のがんで同
じ治療を受けたとしても、人によって治療に対する反応が違うため、同じ効果がみられるわけで
はありません。
治療による副作用は何ですか?
がんの治療に副作用が伴うのは、治療の対象が成長の速い細胞だからです。というのも、成
長が速いのはがん細胞だけでなく、消化管や髪の細胞などの正常な細胞も、同じように成長が
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あなたとともに−がん患者を支えるためのガイド−
速いのです。治療薬は、がん細胞と正常な細胞を区別することができません。そのため抗がん
剤治療(がん治療の一つ)で、吐き気が生じたり、髪の毛が抜けたりするのです。
副作用には、胃のむかつきなどのように、治療後すぐによくなるものもあれば、倦怠感などの
ように、治療が終わってもしばらく続くものもあります。
あなたの親が受ける治療の予定を記入してみましょう
治療の予定
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第5章 親のがんについて
下の表を使ってがんのさまざまな治療法についてもっと調べてみましょう。
治療一覧表
この表は六つのがんの治療法について、その方法と副作用について示してあります。あなた
の親は複数の治療を受ける場合もあります。治療法によって、日帰りでできるもの、入院が必要
な場合があります。
治 療 法
目
的
方
法
治療によって
起きるかもしれないこと
(副作用)
外科手術
(単に手術とも
いいます)
放射線治療
(放射線療法とも
いいます)
化学療法
(抗がん剤治療
ともいいます)
固まり(しこり)を作るがん
(固形がん)の全部もしく
は一部を取り除く
外科医が手術でがんを取り
除きます。手術中は麻酔で
眠っています。
がんを死滅させ、腫瘍を
小さくするために高エネル
ギーの放射線や高エネル
ギーの粒子を使用
身体の外から機械で放射
線を照射するか、体内のが
ん細胞の近くに導入した放
射性物質からの放射線を用
います。
薬剤によってがん細胞を
破壊
薬剤は錠剤や注射(注入)、
静脈内(IV)ルートを通して
投与されます。ほとんどの
場合、一定の期間で投与と
休薬を繰り返します。
●手術後の痛み
●疲労感
● 手術された部位や手
術の範囲によっては、
その他の副作用
●疲労感
●皮膚の発赤や水疱
● 照射された部位や放
射線の線量によって
は、その他の副作用も
●嘔吐や胃の不快感
●下痢や便秘
●脱毛
●倦怠感
●口内炎
● 手足の感覚がなくな
ったり、ひりひりしたり、
熱感を感じる
幹細胞移植
骨髄移植
(BMT)または
末梢血幹細胞
移植(PBSCT)
ホルモン療法
生物学的療法
(免疫療法とも
いいます)
骨髄または血液の幹細胞
を用い、高用量の化学療
法や放射線治療で破壊さ
れた幹細胞を補う
幹細胞移植は患者自身もし
くは提供者の幹細胞を用い
ます。ほとんどの場合、幹
細胞の提供者は家族です。
患者には静脈から幹細胞
が注入されます。
● 化学療法や放射線治
療と似た副作用。中に
はより強い副作用とな
る場合もあります。
ホルモンを補充したり、阻
害、もしくは取り除く治療。
ホルモン療法は、ある種
のがん細胞の成長を遅く
したり、止めたりする場合
に特に有効です。
ホルモン療法は、錠剤や注
射、皮膚に貼り付けるパッ
チなどで行います。特定の
ホルモンを作る器官を切除
するための手術が行われる
場合もあります。
●ほてり
生物学的療法はがんと闘
う身体内部の防御機構
(免疫系)を利用します。
錠剤や注射、点滴などで薬
剤が投与されます。
●悪寒/発熱
●疲労感
●体重の変化
●気分の変化
●筋肉痛
●虚弱
●吐き気や嘔吐
●下痢
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あなたとともに−がん患者を支えるためのガイド−
前表に示した治療以外にも、がんの状態や治療効果を調べるための検査を受けるでしょう。よ
く行われる検査については、この冊子の巻末にある「別表A」を参照してください。
注意すべきこと
治療により感染を受けやすくなる場合があります。これは感染を防ぐ白血球が治療により影響
を受けるために起こります。感染を起こすとあなたのお母さん、もしくはお父さんはもっとつらい状
態になります。そこであなたの親は人混みや、風邪や水ぼうそうなどの病気に感染している人を
避けなければなりません。
ここで、あなたがすべきことは
• 細菌がつかないように水と石鹸で手を頻繁に洗う。
• あなたが病気や風邪の人の近くにいた場合は、そのことを親に話す。
• あなたが病気のときは親から離れる。
経過
治療の効果を待ちきれないでしょうが、主治医は一つの治療を行ったあと、複数の治療を行う
場合があります。親の調子がいい日もあれば悪い日もあるでしょう。治療は何カ月も、何年も続く
ことがあります。こんな気持ちの浮き沈みは誰にとってもつらいものです。
今は、がん細胞の増殖を止め、あなたの親の病気をよくするための時期だということを忘れな
いでください。どんな人たちがあなたの親の治療をしているかをもっと知りたい場合は、この冊子
の巻末にある「別表B」を参照してください。
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第5章 親のがんについて
5.誰に質問したらいいですか?
『私は知りたいことがあったのですが、誰に聞いたらいいか分かりませんでした。それで、
私はお母さんに診察のとき一緒に行きたいと言ったら、「いいわよ」と言ってくれました。初め
てついて行ったときは、ただ座っているだけでした。次について行ったとき、お医者さんは私
に何か質問があるか尋ねたので、私は2、3質問したのです。思っていたよりずっと簡単なこ
とでした。』――親のがんを経験した Katie, 14歳
何か分からないことがあったら、親か、信頼できる大人に尋ねましょう。お父さんやお母さんに、
診察について行ってもいいか聞いてみましょう。気持ちが楽になるよう、あなたの親はきっと看護
師やソーシャルワーカーにあなたが質問できるようにしてくれるでしょう。
• あらかじめ質問を紙に書いて持って行きましょう。
• できるだけ分かりやすい言葉で説明してくれるように頼みましょう。
• 何度でも説明してもらいましょう。
• 医師や看護師には模型や絵を使って説明してくれないか頼んでみましょう。
質問の例
• がんの種類は何ですか?
• よくなりますか?
• 私も同じようながんになる可能性はありますか?
治療についての質問
• どのような治療が必要ですか?いくつも治療を受けるのですか?
• 治療を受けたとき、どんな感じがしますか?痛いですか?
• 何回治療を受けるのですか?どのくらいの期間、治療は続くのですか?
• 治療によって見た目や、感覚、行動が変わりますか?
• 治療の効果がなかったらどうなりますか?
• どこで治療するのですか?治療のとき、一緒に行ってもいいですか?
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あなたとともに−がん患者を支えるためのガイド−
ここにあなたの質問を書き出してみましょう
質問は何回繰り返してもOKですよ。
面会したいとき
『私はパパのお見舞いに行きたかったけど、病院に行くととても緊張してしまうの。病院の
においが好きになれないし、パパが機械につながっているのを見るのも嫌だったから。いつ
も理由をつけてお見舞いに行かなかったけど、本当はパパがいなくてとても寂しかった。そ
んなある日、近所の人が私を学校の帰りに病院まで連れて行ってくれたの。私は宿題を持ち
込んで、病院で勉強したわ。パパはただ私を見ているだけだったけど、とてもうれしそうだっ
た・・・そのとき私は慣れない病院にいることを忘れていたわ。』――親のがんを経験した
Keisha, 13歳
親が入院している場合、見舞いに行くことに神経質になるかもしれません。親がどのような様
子で、どんなことが予想されるかについて前もって知っておきましょう。病気であっても、親である
ことに変わりはありません。聞きたいことはちゃんと聞いて、あなたの気持ちを伝えましょう。電話
をしたり、e-mailを送ってもいいでしょう。
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第5章 親のがんについて
もっと知りたい場合は…
がん治療についてもっと知りたい場合は、米国立がん研究所(NCI)のウエブサイト
(http://www.cancer.gov/)を参照するか、『化学療法とあなた』、『放射線治療とあなた』、『生物
療法』などの冊子を参照してください。情報スペシャリストに相談したい場合はNCIのがん情報サ
ービス1-800-4-CANCER (1-800-422-6237)に電話してください。通話は無料であなた
の秘密は守られます。
※編集部注釈: 日本ではがん情報サイト(http://cancerinfo.tri-kobe.org/)がNCIの日本語訳を提供
しています。また、国立がんセンターがん対策情報センター(http://ganjoho.ncc.go.jp/public/index.html)も参
考になります。
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あなたとともに−がん患者を支えるためのガイド−
6.親の気持ち
『ママは抗がん剤のあと髪の毛が全部抜けてしまいました。ママは帽子をかぶり始めまし
た。みんなじろじろ私たちを見るので、恥ずかしくて嫌になりました。ある日、ママは私がどう
思っているか聞いてきました。私が思っていたことを話すと、ママは、「私だって頭がはげて
いることを気に入っている訳ではないけれど、今、自分が生きていられることがうれしいの
よ」と言いました。私はママがとても強い人だと思いました。それからもう私は他人の目を気
にしなくなりました。』――親のがんを経験した Ming, 16 歳
親の気持ちを知ることができれば、どう手助けをしたらいいか、少なくとも親の考えていること
を理解できるようになるでしょう。親も自分と同じように感じていることを知って驚くのではないでし
ょうか?
悲しみと抑うつ
がんになると、今までしていたことや友達に会うことが出来なくなったりすることがあ
ります。悲しみや落ち込んだ気分は、なんとなく気が重いという程度の軽いものから、
医師の治療が必要な抑うつまでさまざまです。
恐 れ
あなたの親は自分自身のみならず家族の人生もがんによってどう変えられてしまう
かと恐れていることでしょう。そして、治療そのものに対する恐れや、自分が死んで
しまうのではないかと考えておびえていることだってあります。
不 安
あなたの親はたくさんのことを心配しています。薬を買いに行く際の支払いにもスト
レスを感じたり、治療によって外見が変わってしまうかもしれないことを不安に思っ
たりしていることもあるでしょう。そして、お父さんやお母さんは、あなたがしているこ
とも、とても気にしています。こういったさまざまなことで親は心を乱しているので
す。
怒 り
がんの治療を受けることや、その副作用はつらい経験です。恐怖とかイライラのよ
うに表現しにくい感情が怒りとして表に出ることもあります。親が怒っているのは病
気に対してであって、決してあなたに対して怒っているのではありません。
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第5章 親のがんについて
孤 独
がんになると孤独感や、疎外感を感じやすくなります。今まで楽しんでいたことに参
加できなくなったり、友達が、大変な時期だと思って見舞いに来なくなったりすること
もあります。そして誰も自分のことを理解してくれないような気持ちになるかもしれま
せん。
希 望
あなたの親が希望を持つことができる理由はたくさんあります。何百万人ものがん
になった人たちはちゃんと今日を生きています。みんな治療中であっても生き生きと
生活しています。あなたの親ががんを経験し治っていく可能性は、以前よりずっと高
くなってきているのです。
以上はすべてがんに向き合っている人たちにはよくある感情です。
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あなたとともに−がん患者を支えるためのガイド−
7.家族の変化
役割と責任の変化
『母さんががんになって、僕は何もかもに腹を立てていた。なんで僕ばかりが小さい弟の
面倒をみたり、掃除をしなければならないのかって、爆発したい気持ちだったけど、なんとか
冷静になるようにして、母さんに僕がつらいことを話してみた。今も僕は家事の手伝いをして
るけど、弟は学校から帰ったら友達の家へ行くようになり、それで僕はサッカーにいけるよう
になった。母さんはすごい。僕のことを本当に分かってくれているから。』――親のがんを経
験した Brandon, 15歳
家庭環境がどのようであっても、親が病気になれば状況は変わってきます。そういったとき、テ
ィーンがどう対処していったかをこの章で説明します。
あなたの家庭ではどうですか?
• 家事の手伝いをたくさんするようになりましたか?
• 親戚または友達と一緒にいる時間が増えましたか?
• 一人で家にいることが多くなりましたか?
• 夕食の準備や洗濯の手伝いを頼まれるようになりましたか?
• 弟や妹の面倒を見ることが増えましたか?
• 家であなたが必要とされるときでも、友達と遊びに行きたいですか?
もし自分のできる範囲を超えていると思ったら、親に伝えましょう。あなたにできることをやれば
いいのです。
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第5章 親のがんについて
状況が変わったら話し合う
毎週、たとえほんの短い時間でも家族が話し合う時間を持ちましょう。話し合うことで家族のき
ずなが保たれます。
話し合う際のアドバイス
今ここで、今持っているものを使い、あなたができることをせよ。――セオドア・ルー
ズベルト
きょうだい
• あなたがきょうだいのなかで一番年長の場合、弟や妹が頼るのはあなたでしょう。できるだけ
弟や妹を支えてあげましょう。でも、あなた自身も大変だということを伝えてもよいのです。
• あなたが年下で、お兄さんやお姉さんの支えが欲しいときは、あなたの気持ちを伝えましょう。
お兄さんやお姉さんはあなたを助けることができます。でも、そのすべてに応えることはでき
ないかもしれません。
こんなふうに言ってみましょう
『僕は目一杯のことをやっているんだ。』
『一緒にこの困難を乗り越えるためにどうすればいいんだろう?』
がんを患っていない方の親
• 親はあなたと同じようにストレスを感じていると思ってください。
• 親に叱られることもあるでしょうが、いつも親が正しいわけではありません。
• あなたが出来る範囲で手伝いましょう。
こんなふうに言ってみましょう
『調子はどう?』
『何か手伝うことある?』
がんを患っている方の親
• 親は治療で調子が悪かったりひどく疲れていたりするときもありますし、体調がよくてあなた
と一緒にいたいときもあります。
• 親の体調が良くて、あなたと話したいと思っているときには、たくさん話しましょう。そして、あ
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あなたとともに−がん患者を支えるためのガイド−
なたがどれだけ大切に思っているか伝えてみましょう。
こんなふうに言ってみましょう
『大好きよ。』
『何か取ってきて欲しいものはある?』
家族や友達の輪を広げましょう
電話に出たり、あなたの親が今どうしているかについて尋ねてくる人たちに、毎回
すべてを説明するのが負担になってきていませんか?これは誰にとっても大変な
ことです。あなたの親が今どんなことをしているか、あなたの家族が何をして欲しい
のかを他の人に頼んで伝えてもらいましょう。連絡係としては、親戚や家族付き合
いをしている友人などがよいでしょう。電話網やインターネットのメーリングリストを
使う人もいます。
家族の一員としてもっと強くなる
『両親は私のことをいつも気にかけてくれました。でも、パパが病気になってからは誰も私
をかまってくれなくなりました。みんな大変なのは分かります。でも、誰も私のことを気にして
くれないのはつらかったです。だから私は両親に手紙を書いてみました。そうしたら、2人とも
分かってくれた! 今はパパやママと、もっと親密になることができました。』――親のがんを
経験した Lisa, 15歳
親ががんになると家族がしばらく離れ離れになることもあります。しかし家族がより強く、親密
になれる方法はあります。家族ががんになったからこそ家族のきずなが深まったという人もいま
す。そのような人たちが試みたことは、
• 相手の立場になってみて、その人がどう感じるか考えてみた。
• 感情の表し方は違っても、みんなつらいのだということを理解した。ずっと泣いている人もい
れば、感情を表に出さない人、また、常にユーモアで乗り越えた人もいた。
• 個性の違いを尊重し、それぞれの気持ちを話し合うことを学んだ。相手の気持ちが分かる
ほど、お互いにもっと助け合うことができるようになった。
20
第5章 親のがんについて
他の人たちに手助けを求める
『私はママががんになる前まで病気になったことなんてなかったわ。でも、ママが病気にな
ってから頭痛がするようになったし、いつも胃の調子が悪くなったりして、自分が病気になっ
たのかと思ったわ。看護師さんにそのことを話したら、彼女はストレスがあるといろいろなこと
を引き起こすものだと教えてくれたわ。そして、私にすばらしいアドバイスをくれたり、いつで
も好きなときに相談に来ていいと言ってくれたの。少しずつだけど、気持ちが楽になってきて
いる感じがするわ。』―― 親のがんを経験した Kira, 15歳
あなたも、家族も他の人の助けを必要としています。頼みにくいかもしれませんが、周囲の人
たちに自分の望んでいることを伝えなくてはなりません。
両親やあなたが助力を頼める人たち
• 叔父、叔母、祖父母。
• 家族付き合いをしている友人。
• 近所の人。
• 先生やコーチ。
• 保健室や生徒指導室の先生。
• 宗教団体の仲間。
• 友人やその親。
• (あなたが付け加えましょう)
その人たちが援助できること
• 食料品の買出しやおつかい。
• 食事の準備。
• 芝刈り。
• 家まわりの雑用。
• あなたの親の相手。
• (あなたが付け加えましょう)
21
あなたとともに−がん患者を支えるためのガイド−
その他の援助
• 学校や、練習、診察などの送迎。
• 家事の手伝い。
• あなたを家に招待してくれる、または週末に一緒に外出する。
• あなたの話を聞いてもらう。
• (あなたが付け加えましょう)
両親との関係
あなたの親は、あなたに同世代の子供よりも責任を持つことを求めるかもしれませ
ん。最初は嫌かもしれませんが、前にも書いたように経験から学び、両親のあなた
への信頼に感謝するようになるでしょう。「サポートを見つける」の章で、あなたの
両親とうまく話すためのヒントを見つけてください。
22
第5章 親のがんについて
8.自分自身のケア
身体の内も外も 健康を維持する ことが大切です。この章では、親の闘病の間中あなた自身
が健やかであるために大切なことをまとめています。
ストレスにどう対処するか
ストレスがあると物忘れしやすくなり、イライラして、風邪やインフルエンザにもかかりやすくな
ります。ここでは、他のティーンがストレスを軽減するのに役立ったことを挙げておきます。毎週、
一つか二つ試してみてください。
あなたの身体と心のケア
誰かと一緒に過ごす
• 友達の家で過ごす。
• スポーツやクラブに参加する。
リラックスして睡眠を十分にとる
• 休憩をとりましょう。そうすれば活力がわき、気分も楽になるでしょう。
• 毎晩8時間は睡眠をとりましょう。
• 祈りや瞑想をしてみましょう。
• 演奏してみたり、音楽を聴いたりしてみましょう。
ボランティアに参加する
• 対がんイベントとしてのウォーキングに参加しましょう。
• がん撲滅の募金を集めるために、手作りお菓子販売会などのチャリティーイベントを計画し
てみましょう。
危険なことは避ける
• 喫煙や飲酒、麻薬には近づかないようにしましょう。
23
あなたとともに−がん患者を支えるためのガイド−
創造的な活動をする
• あなたの考えや経験を日記につけましょう。
• 絵を描いたり写真を撮ったりしてみましょう。
• 困難な経験を通じて何かを成し遂げた人たちの本を読みましょう。彼らが何に助けられたか
を学びましょう。
十分な食事や水分を摂る
• 1日コップ6〜8杯の水を飲むと疲れにくくなります。
• 夕方になったら目がさえないようにカフェインの入っている飲み物は避けましょう。
• 食事を選べる場合は新鮮なフルーツ、全粒パン、七面鳥などの低脂肪の肉類にしましょう。
• 糖類の多い食物は避けましょう。
活動的な生活
• スポーツや散歩、ランニングをしましょう。
• さまざまなストレッチングや呼吸のエクササイズを習いましょう。
ご存知でしたか?
運動によって気分がよくなることが明らかになっています。ランニングや水泳、早足
で歩くだけでも気分が晴れます。
いろいろな事を整理してみる
物事を整理することでストレスを軽減することができます。すぐに実行できることがらを挙げて
みます。
家で
• 予定表を作り、一番したいことをリストの一番上に書きましょう。
• 家族の予定を把握できるように大きなカレンダーを作りましょう。
24
第5章 親のがんについて
学校で
• 学校でできることをたくさんしてみましょう。
• 家の出来事を先生に話しましょう。ただし言い訳にするためではありません。
• 勉強が遅れているなら先生やカウンセラーに相談しましょう。
気持ちが落ち込んだときは誰かに相談しましょう。
親が病気になると気がめいったり、落ち込んだりします。大変な状況では悲しみや
憂うつな気持ちにもなります。でも、気分がめいる状態が 2 週間以上続き、今まで
楽しかったことが手につかないようならば、抑うつ状態といえるかもしれません。こ
んな時に、知っておいて欲しいのは、望みさえすれば、助けが得られるということ
です。カウンセラーに相談することで救われることも多いのです。次のようなことが
あれば、カウンセラーに相談してください。
こんなことはありませんか?
• ひとりで落ち込んだり絶望的になったり、生きることに意味はないと考えたりしていません
か?
• 家族や友人への興味がなくなっていませんか?
• 見ること聞くこと、または周囲の人すべてが気に障りませんか?
• 怒りっぽくなっていませんか?
• 自分の身体を傷つけたい衝動にかられませんか?
こんな状況ではありませんか?
• 今まで楽しかったことに興味がなくなっていませんか?
• いつもより食事の量が極端に増えたり、減ったりしていませんか?
• 毎日何度も泣いたり、すぐに泣き出したりしていませんか?
• 何もかも忘れたくて薬を使ったり、お酒を飲んだりしていませんか?
• いつもより睡眠時間が長い、もしくは、眠れなくなったりしていませんか?
• すごく疲れた気分ではありませんか?
25
あなたとともに−がん患者を支えるためのガイド−
もしこれらの質問のうちいくつかに当てはまるようであれば、信頼できる人に相談してみましょ
う。カウンセラーを探したり、サポートグループに参加する方法については「サポートを見つける」
の章を参照してください。
『僕と父さんはいつもけんかばかりでうまくいっていなかったんだ。父さんががんになった
ときはすごく申し訳なかったよ。そしたら、看護師さんがこのサポートグループを紹介してくれ
て、友達と行ってみることにしたんだ。最初、僕は他の人の話を聞くだけだったけど、みんな
同じなんだなぁ・・・と思ったし、本当にいいアドバイスをもらったよ。パパと僕は今ではもっと
話すようになったし、今まで僕らは、なんてわけの分からないことでけんかしていたんだろう
って二人で吹き出すくらいなんだ。』――親のがんを経験した Alex, 17歳
26
第5章 親のがんについて
9.サポートを見つける
ひとりで心配しないで、両親やカウンセラー、サポートグループの人たちに相談しましょう。話を
するのはそんなに簡単ではないでしょう。多くの人は、初めての人には話しかけにくいものです。
この年代の子たちは親とうまくいっていないこともよくあります。個人的なことを話すのが恥ずか
しいと思う人もいますし、単に今までのことを全部話す時間がないと感じている人もいます。でも、
あなたと親はお互いに心から支えあえるのです。
親と話し合うときのヒント
話しかける前に
ステップ1:
何を話したいか考えて、自分なりの解決案をいくつか用意しておきましょう。
ステップ2:
親の反応を考えておきましょう。あなたはそれにどう答えるつもりですか?
時と場所を選ぶ
ステップ1:
お父さんやお母さんに少し話をする時間があるか尋ねましょう。
ステップ2:
あなたの部屋や玄関先など、自分たちだけになれる場所を選びましょう。たとえ
ば散歩の途中や、バスケットボールのシュート練習をしながらでもよいでしょう。
ゆっくり構えましょう
ステップ1:
すべてを一度に解決しようと思わないでください。簡単に解決できない複雑な問
題もあります。
ステップ2:
一緒に解決策を考えましょう。ちょっとした会話で解決することもあります。
常に話をしましょう
ステップ1:
家族ミーティングのときだけで話し合おうとしないで、普段から会話するようにし
ましょう。
ステップ2:
ほんの数分間でも、毎日話す時間を少し作るようにしましょう。
27
あなたとともに−がん患者を支えるためのガイド−
カウンセラーに相談する
『祖母は私が学校が好きになるように育ててくれました。でも、祖母ががんになって、いろ
いろなことが気になるし、学校から帰っても祖母の世話をたくさんしなければいけなくなり、や
がて私の成績は落ち始めました。そこで私は学校のカウンセラーに事情を話しました。する
と他の人にも参考になったことをいくつか教えてくれました。今ではくじけそうになったらカウ
ンセラーに相談して、ストレスをなくします。何よりいいのは、カウンセラーは私たちの話を秘
密にしてくれることです。』――ニック, 15歳
時には・・・友達に話すことでは十分解決しないことがあります。困難なときはカウンセラーやソ
ーシャルワーカーに相談しましょう。以下の会話を見てください。
「パパには通じないのよ。私がママの病気のことでどんなに悲しく、落ち込んでいるか、ち
っとも理解してくれないもの」
「私たちは大親友よ。この話をし始めてから何カ月もたつわ。あなたはずっと悲しんでい
るし、家のドアを思い切りたたいたりするこの状況は普通ではないわ」
「分かってるわ Renne、こんなじゃいけないって」
「ねえ、あなたがおかしいと思ってるわけではないのよ。でも、カウンセラーに相談するこ
とは考えたことある?」
「いいえ・・・」
「いい考えかもしれないわ。とりあえず明日学校に行って、生活指導の先生か牧師さん
に話してみましょう。約束して。なにか手を打たなければ。あなたの憤りや悲しみは、このま
まではいけないわ」
「分かったわ。約束する」
Jena は親友の Renne の話を聞いて学校のカウンセラーに相談することにしました。病院のソ
ーシャルワーカーに相談する子供たちもいます。カウンセラーのところに行くというのは、あなた
の精神状態がおかしいということではありません。あなたには、とてもつらいときを乗り越えるた
めに支えを必要としていることを認める勇気があるということなのです。
なぜカウンセラーに相談するの?
家族以外の公平な立場の人と話すことはいいことだと、ティーンたちは言います。
カウンセラーはあなたの悩みにうまく対応して、あなたの今の状況を解決する方法
を提案し、元気を取り戻せるように助けてくれます。
28
第5章 親のがんについて
カウンセラーを見つける
• お父さんやお母さん、その他あなたが信頼できる人に相談して、あなたがカウンセラーと話
したいと思っていることを伝えましょう。カウンセラーに予約を取り、連れて行ってもらいまし
ょう。カウンセラーによっては友達も一緒でいい場合もあります。
• 病院で看護師やソーシャルワーカーにあなたが相談できる人がいないか尋ねましょう。
(※監修者注:日本の学校では、スクールカウンセラーや養護教諭の先生が、相談に乗ってくれるでしょう。)
• 学校の生徒指導員に相談してみましょう。
ヒ ン ト : 助けてもらうことを恥ずかしがってはいけません。
あなたは 自分のことは自分でできる と思っていませんか?でも、ティーンであろ
うが大人であろうが、つらいときには他の人たちの支えが必要です。
サポートグループに参加する
その他の手段としてサポートグループに参加するのもよいでしょう。サポートグループの中に
は、直接みんなが集まるものもありますし、インターネット上で集まるものもあります。みんなで外
に出かけて楽しく過ごすグループもあります。そんなグループには、あなたと同じような状況にあ
るティーンもいます。はじめは気が乗らないかもしれませんが、実際にサポートグループに行って
みるまでは、みなそうだったといいます。参加した子供たちはお互い同じようなことを感じているこ
とに驚き、すぐに役立つようなアドバイスももえられるでしょう。医師や看護師、ソーシャルワーカ
ーがサポートグループを探すのを手伝ってくれる場合もあります。
29
あなたとともに−がん患者を支えるためのガイド−
10.友達との関係
『僕は相変わらず友達に会っているけど、以前とは変わってしまっている。僕には興味の
ないことしか言わないから。学校のダンスパーティーに行くとか、手紙を出しに行くとか・・・。
自分がのけ者になったような気がすることがあるけど、僕は今はパパのことがとても心配
で、バスケットボールでどこが勝っただとかはどうでもいいんだ。でも、僕と同じようにお父さ
んががんになった子と知り合いになって、その子とは今までいた友達よりもずっと気持ちが
通じる。』――親のがんを経験した Hamid,15歳
あなたにとって友達は大切なもので、友達にとってもあなたはとても大切です。以前は何でも
話し合うことができた親友が、親ががんになったことによって、すっかり変わってしまったように感
じることもあるでしょう。そのようなときは、次のようなことを考えてみましょう。
あなたの友達は何を話したらいいか分からないのかもしれません。
• どう言ったらいいのか分からない場合や、質問することがいけないことのように思っている場
合もあります。
• 友達が、あなたの親のがんについてや、あなたが今どうしているかを尋ねようとしなくても、
優しく接しましょう。
• まずあなたから話をする必要があるかもしれません。
こんなふうに話しかけてみましょう
『私の親がどうなっているのかを話すのは大変だし、君も聞きづらいと思う。でも、
何か聞きたいことがあれば尋ねていいよ。』
友達は答えにくい質問をするかもしれません。
• 親が受けているがんや治療についてあなたが答えたくないこともあるでしょう。
• こんなふうに言ってみましょう: 『今どういう状況か全部は話せないけど、質問してくれてあり
がとう。医者が言うには、(ここにあなた自身の情報を加えましょう)。』
話したくないときは、こんなふうに言ってみましょう
『うちの親のことを心配してくれてありがとう。でも、そのことはもっとあとで話してい
いかな?』
30
第5章 親のがんについて
友達には友達の生活があります。
• 友達はもうあなたのことなど考えていないと感じるかもしれません。友達は順調な生活をして
いるのに、あなたはそうではないと思うかもしれません。友達が他の友達と一緒にいるのを
見たり、あなた抜きで何かをしているところを見るのはつらいかもしれませんが、彼らにも彼
らの生活があることを理解してあげましょう。友達はあなたのような状況にはいませんから、
関わりにくく感じているのかもしれません。
こう言ってみたらどうでしょう
『最近、君と一緒に遊びに行ってないね。父さんが病気になってから、そのことで頭がいっぱい
になっていたんだ。今でも君と友だちでいられてうれしい。ねえ、明日一緒に遊びに行かない
かい?』
楽しい時間をもち、新しい友達を作る
昔からの友達
いろんなことで頭が一杯であったとしても、友達と一緒にいたり、楽しく過ごすことはできます。
もし家を空けることができないならば、友達に遊びに来てもらいましょう。リラックスできる時間
を作りましょう。あなたにはそうした時間が必要です。友達と一緒にすると楽しいことのリストを
作ってみましょう。そして、それを実行しましょう!
31
あなたとともに−がん患者を支えるためのガイド−
新しい友達
今もあなたにはたくさんのことが起きています。以前の友達とは疎遠になってし
まったり、共通の話題が少なくなくなってしまったかもしれません。でも、新しい
友達を作ればいいのです。廊下ですれ違うだけだった子が、今は挨拶をしてく
れることもあります。以前の友人が、再びあなたの生活に入り込んでくることだ
ってあります。心を開いて新しい友情を育みましょう。
サポートグループに参加したり、病院や診療所に行くのは新しく友達を作るいい
機会です。あなたと似たような経験をしている人たちと付き合うことはあなたに
とってもよいことです。さぁ、一緒に楽しく過ごしましょう。休息をとることはすべ
ての人にとって有益です!
つらい言葉に対処する
残念なことに、意地悪なことを言う子もいます。配慮のない言葉をかけたり、事情が分らずにし
ゃべる子もいます。理由はどうあれ、他の子があなたのことや、がんのことや、あなたの親のこと
で冗談を言ったり、つらい言葉を投げかけてくると大変傷つくものです。
どうすればいいか?
• 無視しましょう。
• 『そうさ、父さんはがんなんだ。面白いことなんかじゃないさ。君のパパだったら、どんな気が
する?』と言い返してもいいでしょう。
• もしいじめられたのなら、先生や校長先生、生徒指導員にすぐ相談に行きなさい。
32
第5章 親のがんについて
11.あなたが親を支える方法
『ちょっとしたことだけどママにしてあげて、本当によかったと思うことがいくつもあるわ。私
に何もできることがないときは、ただママのそばにいたの。私たちには話をすることはそれほ
ど重要でないの。だって、言葉はなくても、たぶん、私がママを愛しているって伝わっている
から。』――親のがんを経験した Venessa,16歳
以下に家庭で親にできる手助けの例を示します。毎週、一つ二つやってみてください。
• 親と一緒に過ごす
一緒に映画を観たり、新聞を読んであげましょう。宿題の手伝いを頼んでもいいでしょう。
抱きしめて 大好き と伝えましょう。黙って一緒に過ごすだけでもよいでしょう。
• 手を貸す
水を持ってきたり、おやつや軽食を作ってあげましょう。
思いやりをもつ
明るく、ただし、いつも自分に正直に。
あなたが明るいことは、あなただけでなくあなたの家族にとってもいいことです。でも、いつも陽
気に振る舞う必要はありません。特に、気分が乗らないときなどは素直に自分の気持ちを伝えて、
家族から安らぎをもらいましょう。自然に振る舞えばいいのです。
忍耐強く。
あなたは大きなストレスにさらされています。冷静さを失ったと感じたら、音楽を聴いたり、バス
ケットボールや、ジョギングなどをしてみましょう。
みんなで笑いましょう。
笑いは最高の薬だと聞いたことがあるでしょう。お笑い番組を親と一緒に観たり、冗談を言った
りしてみましょう。でも、あなたがすべての人を楽しませなければならない義務はないことを忘れ
ないでください。そんなにたくさんのことはできないのですから。
33
あなたとともに−がん患者を支えるためのガイド−
親に新しいスカーフや帽子をプレゼントする。
治療中に髪の毛が抜けたとき、あなたが買った帽子やスカーフをつけることを楽しみにしてく
れることでしょう。
連帯感をもつ
意思疎通を図る。
お父さん、お母さんにその日あったことを話しましょう。あなたの生活でのさまざまなことを親に
話すことで共有することができます。また反対に、親のその日の調子を尋ねてみましょう。
家族の昔の話をする。
親の昔話を聞かせてもらいましょう。あなたや親が一番誇りに思っていることや、一番大好き
な思い出や、家族が乗り越えた苦労話などを話し合ってみましょう。テープに吹き込んでもいいで
すし、書き残したり、絵にかいたりしましょう。昔の手紙やアルバムを見せてもらうのもいいでしょ
う。
日記の交換。
ノートにあなたの考えていることや詩を書いたり、絵を描いたり、写真を貼ったりして親と交換し
合いましょう。そうすることで、直接言葉で言えない気持ちが伝わることでしょう。
弟や妹の世話をする。
親が一休みできるように弟や妹と遊んであげましょう。一緒にゲームをしたり、本を読んだりし
ましょう。きょうだいがもっと仲よくなれるだけでなく、親も休む時間がとれます。
『お父さんががんになる前は、僕は普段の生活を見つめるなんてことはしなかった。でも、
今はたくさんのものが見えるようになった。お父さんのがんのように、この世界は悪い事も起
こるけど、とても素晴らしい場所でもある。僕たち家族には重圧がかかっているけれど、それ
でも日々を感謝することを僕は学んだ。』――親のがんを経験した Kenyatta,18歳
34
第5章 親のがんについて
12.治療後の生活
治療後の生活はあなたやあなたの家族にとってどんな感じでしょう?
あなたの親が最後の治療を終えたとき、あなたにはさまざまな気持ちが入り混じっていること
でしょう。治療が終わったという喜びをはじめ、親が治療にかかりっきりになっていた間に得た自
由や、新たな責任といったものを失ってしまうような気持ちもあるかもしれません。戻ってきた親
がまだ病人のように見え、あなたが期待していたほど元気に見えなかったり、その後のがんの再
発を心配したりしているかもしれません。今のあなたにとっては、世界はまったく変わってしまった
ように感じられ、生活の中にもっと大きな意義を求めているかもしれません。こういう気持ちはみ
んなが持つものです。
親ががんになる前の生活のように、すべてが元通りになるわけではありません。 以前の生
活 を取り戻すまでには時間がかかりますし、あなたが願うようなものにはならないかもしれませ
ん。
治療後の生活について、次のようなことを他のティーンたちは言っています。このなかに、あな
たと同じようなティーンはいますか?
Calab は 新しい普通の生活 についてこんなことを言っています。
『ママの放射線治療と抗がん剤治療が終わったら、僕のまわりが今までとまるっきり変わ
っちゃった。兄さんはママを車で治療のために病院に送る役だったし、僕は夕食の準備と妹
のジェイダの宿題を毎晩手伝っていたんだ。でも、ママがすっかりよくなって、ジェイダは僕に
あまり頼らなくなった。僕がジェイダのヒーローだったのはほんのしばらくだけだった。もちろ
ん、ママの治療がうまくいってうれしいよ。でも、元気になったママんとの生活はなんだか…
…変な感じ。ママは、慣れるのには時間がかかるって言ってる。』――親のがんを経験した
Calab,15歳
35
あなたとともに−がん患者を支えるためのガイド−
Sarah はもっと生活を楽しんでいます。
『正直言うと、私はママが病気になるまでは自分の服装や、一緒に出歩く友達のこと、小さ
な妹にやさしくしないこと・・・とにかくたくさんのことでママと言い争いをしていたの。ママがが
んになって、私と妹はもっとしっかり協力し合うようになったの。ママは私たちがうまくやって
いることが分かって私のことを見直したみたい。私はマニキュアを塗ることや、素敵な服なん
てどうでもよくなったわ。今は、うちの学校にある、親が病気になった生徒たちのためのサポ
ートグループに行ったりもしてるのよ。』――親のがんを経験した Sarah,17歳
Jake はお父さんが家に帰ってきたことを喜んでいます。
『抗がん剤の最後の治療が終わったとき、僕は生まれて初めて、パパが泣いてるのを見
たんだ。お医者さんはパパのがんはすべてなくなっただろうって言ったよ。パパは気持ちを
高ぶらせて、自分が生きていることをとても感謝していた。そのときママも弟も気が変になる
くらい大喜びしていたっけ。僕だってパパがよくなってすごくうれしかった。以前はパパが元
気でいることは当然だと思っていたけど、今ではとてもありがたいと分かった。』――親のが
んを経験した Jake,16歳
治療後の生活は、あなたの家族にとってどのように感じられますか?
治療の効果がなかったら?
『ママの治療がもう効かなくなったと聞いてとてもつらかった。そしてママと私は毎日を最
大限に大切にしてゆくことに決めたの。二人でずっと話し続ける日もあれば、ただ座って手を
握り合っているだけの日もある。でも私は毎日、私はどれだけママのことを愛しているか伝え
ているの。愛には恐れなどない、絶対に。それが分かったの。』――親のがんを経験した
Emily,16歳
36
第5章 親のがんについて
治療の効果がなかった場合、家族はさらなる問題に直面します。親が死ぬかもしれないと耳に
することはとてもつらいことです。でも、親ががんだと聞かされたときには、同じように多くの感情
を抱いたことでしょう。
この冊子では、すべてに答を出すことや、あなたがどのような気持ちになるかを示すことは出
来ません。でも、明日が見えないようなとき、他のティーンは次のようなことをして乗り越えてきま
した。
• 残された時間を最大限に有意義に過ごしましょう
家族で特別なことをしましょう。家では親との時間を作りましょう。もし親が入院中ならば、
できるだけたくさん電話をしたり見舞いに行きましょう。手紙を書いたり絵を描いたりするの
もいいでしょう。そしていつも 愛してる の言葉を忘れないように。
できれば一緒に特別な時間をもつようにしましょう。もし以前は親とうまくいっていなかった
のなら、あなたが彼らを愛していることをちゃんと伝えましょう。
• 予定を立てて物事を進める
悪い知らせがあると、自分抜きでまわりが動いているような、まるで自分が別の世界にい
るかのような気持ちになることがあります。ですから、規則正しく、予定にしたがって生活す
ることは大切です。毎朝同じ時間に起きましょう。学校にもきちんと行き、友達にも会いまし
ょう。
• 孤独に感じたら誰かに相談しましょう
相談できる人たちがいることを忘れないでください。家族だけではなく、ソーシャルワーカー
やカウンセラー、サポートグループの人たちも力になってくれるでしょう。
さらにサポートやアドバイスが必要な場合
がんの団体も、人生のなかでもっともつらい時期を過ごしているあなたを手助けし
てくれます。「自分でもっと調べたい場合」の章に、問い合わせ機関の一覧があり
ます。
もしもあなたの親が亡くなってしまったら、これを読んでください...
37
あなたとともに−がん患者を支えるためのガイド−
親は記憶の中で生きています
あなたの親は、あなたの生活の一部として生きています。楽しかった頃の記憶を大切に
しましょう。亡くなった親がしたことや話したことでおかしかったことなどを思い返してもかま
いません。笑ったり微笑んだりすることで、親と一緒だった特別なあの日に、ほんの少しだ
け戻ることができるでしょう。
心の痛みは時間とともにやわらいでゆきます
心の痛みがはじめは強過ぎて、もう幸せなんてくるわけがないと思うかもしれません。で
も時間が心を癒してくれます。あなたが悲しみを忘れても、それは亡くなった親を忘れたわ
けではありません。それは、あなたが受けた心の傷が癒されつつあるということなのです。
みなそれぞれの方法で悲しみをあらわします
ティーンはさまざまなやり方で親の死を悼みます。泣き叫ぶ人、静かにひとりで過ごす
人、友達に会って話をする人、強い怒りをみせる人・・・。どのような方法であっても、ほとん
どの場合それで日常生活を保つことができます。死を悼む正しい方法などありません。そ
れぞれの方法で亡くした人を悲しんでよいのです。
あなたの親はあなたが幸せでいてほしいと思っていたはずです
新しいことを始めましょう。考えていることを文章にしてみましょう。そして、小さな変化を
取り入れてみましょう。それは、人生に新たな意味を与えてくれるでしょう。
人生は変わります
以前と同じではなくなったとしても、人生は再び豊かで満たされたものとなるでしょう。そ
れを信じてください。
38
第5章 親のがんについて
13.これからのこと
『誤解しないで。私は治療が終わって本当にうれしいの。お義父さんがとてもやつれてい
たので受け止められなかっただけなのよ。でも今はお義父さんが家に帰ってきたので、10 時
には寝室に行かなければならないし、もう深夜のテレビ番組は見れない、そしてどこに行く
か、そして何時に帰るか言わなきゃいけないし・・・以前の家の規則通りに戻っちゃったわ。』
――Monica,17 歳
将来待ち受けているものが何かはっきりしないときは平静でいられないものです。親はがんか
ら生き残れるだろうか?がんが再発しないだろうか?このままの生活がずっと続けられるのか?
また笑える日がくるんだろうか?などとあなたは考えているかもしれません。
誰も将来のことは分かりませんが、あなたの生活をほんの少し楽にしてくれる手段がありま
す。
家族として話し合い協力し合う。
今まで以上にがんを通してお互いのきずなが強まり感謝しあえるようになったことが分
かるでしょう。
自分自身の心の声に耳を傾ける。
あなたがどういう気持ちでいるべきかを他の人からとやかくいわれるべきものではありま
せん。自分自身のペースと方法で対処しましょう。
ひとりの人間としての成長過程であることを忘れない。
親ががんになると他の人の心が分かるようになり、責任感が高まり、強くなると多く
のティーンが言っています。
みんなの手助けを受け入れる。
今は一生のうちで一番あなたは孤独を感じる時期かもしれません。でも、あなたは一人
ではありません。家族や友達、サポートグループ、近所の人、そしてカウンセラーなどが、
大変なときは手を貸してくれ、あなたの言葉に耳を傾け、そしてあなたのそばにいてくれる
でしょう。
39
あなたとともに−がん患者を支えるためのガイド−
毎日に感謝する。
親ががんになることで周りの世界がよりはっきり見えてきたというティーンが多いです。
やがて、今まで見逃していたようなことでも、改めて良さを見い出すことができるようになる
でしょう。
最近になって、ささいなことでもあなたにとっては大きな意味があることに気がついたことだと
思います。たとえ小さなことでも、ちょっと時間をとってそんな思いを書き記してみましょう。
残念ながら解決手段をすべてあなたに教えてくれるような人も冊子もありません。がんは
困難な病気です。あなたの生活が以前と同じになることはないかもしれません。でも、あな
たはそれを乗り越えることができるでしょう。なぜなら、あなたにはその強さがあるからで
す。いつもは気づいていなくても、あなたにはそれを乗り越える能力があるのです。
40
第5章 親のがんについて
14.自分でもっと調べたい場合
もっとたくさんのことを知りたいと思うのはすばらしいことです。がん治療は日々進歩している
ので、あなたの見つけた情報が正確かどうか、最新かどうかに十分注意をはらいましょう。そして、
親や信頼できる人に、あなたが見つけた情報について意見を聞きましょう。気になる記事や本は、
そのような人たちにも読んでもらってください。そして、どんなことでも疑問に思ったことは尋ねま
しょう。下記から情報を得ることができます。
• 学校の図書館
書籍や雑誌、ビデオやインターネットで情報やサポートを探す際には図書館員に相談しま
しょう。
• インターネット
手始めに、インターネットで 親
がん といった一般的な単語の組み合わせで検索をかけ
てみましょう。インターネットには良質の情報もありますが、不十分な情報や、詐欺まがい
の情報もたくさんあるので注意してください。そのため、親や信頼できる人に、あなたが探し
た情報について判断してもらいましょう。
• 親が治療を受けている病院やクリニック
親が通う病院の患者相談室に行くか、医師の診察の際に一緒に行っていろいろ教えてもら
いましょう。
いつでも、電話やウエブサイトでアドバイスが得られます
支援を求めることができる機関をいくつか紹介します。電話や、ウエブサイトの閲覧で、さらに
情報を得ることができます。
米国立がん研究所(NCI)
がん情報サービス(CIS)
1-800-4-CANCER(1-800-422-6237)
www.cancer.gov
NCIはあなたとあなたの家族に最新の正しい情報を提供します。あなたや家族が何か疑問に
41
あなたとともに−がん患者を支えるためのガイド−
思うことがある場合はがん情報サービスに電話して情報専門家と相談するか、NCIのウエブサイ
トのLiveHelpで情報専門家とオンラインチャットができます。NCIはあなたが住んでいる地域の
サポート団体も紹介できます。NCIは英語とスペイン語で多くの資料を提供しています。聴覚障
害がある人はテレタイプでの1-800-332-8615を使用できます。
アメリカがん協会American Cancer Society(ACS)
1-800-ACS-2345(1-800-227-2345)
www.cancer.org
ACSに電話するとがん情報の専門家と話すことができます。電話での質問は24時間可能で
す。情報専門家は情報および他の問い合わせ先を紹介することができます。
CancerCare
1-800-813-HOPE (1-800-813-4673)
www.cancercare.org
CancerCareはがんになった人すべてに無償で情報やサポートを提供します。親ががん
になった子供のサポートグループを閲覧してください。
Gilda s Club
1-800-GILDA-4-U (1-800-445-3248)
www.gildasclub.org
Gilda s Clubは、がん患者たちやその家族、友人たちが協力して、社会的・情緒的支援を行
う場を提供します。Gilda s Clubはサポートグループやワークショップ、がん患者の社会活動な
どを支援するプログラムを提供しています。あなたの住所の近くにあるかどうか Gilda s Club
に電話してみましょう。
42
第5章 親のがんについて
Kids Konnected
1-800-899-2866
www.kidskonnected.org
Kids Konnected は親ががんになった子どもやがんで親を亡くした子どもの友人関係や教
育をサポートします。何か質問があったり、単に話を聞いて欲しいとき、迷わず電話で話してみま
しょう。24時間受け付けています。
The Wellness Community
1-888-793-WELL(1-888-793-9355)
www.thewellnesscommunity.org
The Wellness Community はがん患者とその関係する人たちにサポートや教育を提供
し、多くの人に希望をもたらしています。あなたの住所の近くにあるかどうか電話で確かめてみま
しょう。
※ 編 集 部 注 : 日 本 で は が ん 情 報 サ イ ト (http://cancerinfo.tri-kobe.org/)が N C I の 日 本
語 訳 を提 供 しています。また、国 立 がんセンターがん対 策 情 報 センター
(http://ganjoho.ncc.go.jp/public/index.html)も参考になります。
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あなたとともに−がん患者を支えるためのガイド−
別表A: 検査の種類
検 査
目 的
手 順 (何が行われるか)
生 検
腫瘍や異常な部分ががんであるかな
いかを確認するために行います。良性
とはがんではないことを意味し、悪性
はがんであるという意味です。
医師が長い針を用いる方法(針生
検)または小さく切除する方法(切除
生検)のどちらかで人から標本を採
取します。
細胞の比率と化学組成が正常かどう
か血液を検査します。
看護師または検査技師が一般的に
腕の静脈に針を刺し、血液を採取し
ます。
骨髄穿刺
骨の中から細胞の小さな標本を採取
し顕微鏡で検査します。
骨から組織の小さな標本を採取する
ために針を用います (通常は腸
骨)。
CT または
CTスキャン
X線とコンピュータを用いて身体内部
の三次元(3D)画像を作成します。
患者は一連のX線撮影がなされる
間、大きな輪の中を動く平坦な寝台
に横たわっています。
ラジオ波と磁気波を用いて身体内部
の 臓 器 や 他の 組 織 の 画像 を 作 り ま
す。
MRI装置が数分間身体内を走査す
る間、大きな管の中を動く平坦な寝
台に横たわっています。
がん細胞を探すために身体内部のコ
ンピュータ画像を作ります。
患者に注射した後、機械で身体内部
をコンピュータ画像として表示しま
す。
脊椎内部の液体試料を採取して顕微
鏡で検査します。
腰背部の脊椎から髄液を抜くために
針を刺します。
高周波の音波を用いて身体内部の臓
器や他の組織の画像を作ります。
検査技師が手に持った小さな機器を
患者の身体の表面で動かします。画
像はコンピュータ画面に表示されま
す。
高エネルギー波で身体内部を撮影し
ます。
患者はX線装置の正面に立つか、ま
たは寝台に横たわります。
血液検査
(コンピュータ
断層撮影法)
MRI
(磁気共鳴映像法)
PETスキャン
(陽電子放出型
断層撮影法)
脊椎穿刺
(腰椎穿刺)
超音波
(超音波検査)
X 線
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第5章 親のがんについて
別表B: がん治療チームのメンバー
チームメンバー
メンバーの役割
看護師
疾患や障害を持つ人のケアをするための教育を受けた保健の専門家。
栄養士
食餌療法士
食事の指導をする栄養学の専門教育を受けた保健の専門家。
腫瘍医
がん患者の治療を専門に行う医師。特定のがんを専門にする腫瘍医
や、特定のがん治療を専門とする腫瘍医もいます。
療養指導士
患者と家族に疾患について説明や指導をします。
薬剤師
患者に薬を調剤します。
理学療法士
患者の筋力強化や筋肉運動の改善のための訓練や身体運動の指導を
します。
精神科医
抑うつなどの精神保健上の問題を、薬物療法や会話療法で治療する医
師。
心理士
情緒的な問題や個人的な問題について、患者や家族の相談にのり意志
決定の手助けをします。薬の処方はしません。
放射線診断医
X 線や他の画像を読影する医師。
聖職者や宗教指導
患者や家族のスピリチュアルな健康や情緒的な健康を扱います。牧師、
司祭、神父、ラビ、イマーム、青年団長など。
ソーシャルワーカー
情緒的、身体的に支援が必要な人たちや、その家族などの相談にのり、
支援サービスを見つける手助けをします。
外科医
手術で、患者の身体の一部を取り除いたり、修復したりする医師。
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