KODANSHA 日本の出版界でデジタル印刷は定着するか? 講談社ふじみ野工場 3年間の取り組みから 2015年12月9日 (株)講談社 デジタル製作部/業務第一部 土井秀倫 KODANSHA CONFIDENTIAL KODANSHA 講談社デジタル印刷・製本工場とは 通称:DSR(Digital Short Run) インクジェットプリンターと製本機の一貫ライン 500部前後のショートランに最適化 DSR (Digital Short Run) 連帳タイプインクジェット印刷機(HP社製T300) + 無線綴じ(ミューラー・マルティニ社製シグマライン) 製本部 印刷部 KODANSHA CONFIDENTIAL 1 KODANSHA 講談社ブックファクトリーとは 通称:KBF(Kodansha Book Factory) DSRの隣接地にオフセット(モノクロ、カラー)、製本ラインを集積 日本では類を見ない書籍専門 ハイブリッド工場 国宝社 豊国印刷 講談社 DSR 慶昌堂 KODANSHA CONFIDENTIAL 2 KODANSHA DSRの現状 オフセットと「ほぼ同等」のクオリティで製造する オフセットで製造した製品と混在することを前提 稼働率は3年で3倍以上に上昇 製 品 ・講談社文庫の重版、新刊(一部) ・吉川英治文庫、山岡荘八文庫のすべて ・講談社サイエンティフィク(一部) 重版:100~800部 新刊:~3,000部 その他 ・プルーフ本(パブリシティ用) ・製造受託 50部~ ・オフセットと「ほぼ同等」の製品を製造 ⇒クオリティの異なる製品が混在することを前提 ・年々稼働率は上昇している KODANSHA CONFIDENTIAL 3 KODANSHA DSR導入の背景 出版市場の縮小により、企画成立のハードルが上がっている。「企画力」「情報発信力」を源泉とする出版社にとって大きな問題 絶版が増えることにより、製品サイクルが短くなる 返品率上昇 出版社 ・企画が通らない ・本の価格が上昇する ・絶版が増える 作 ・印税金額が減少する ・モチベーションが下がる 家 読 者 ・本の価格が上昇し買いずらくなる ・絶版が増えて入手しずらくなる 新しい企画が作れなくなる 製品サイクルが短くなる 出典:朝日新聞 2014/6/10 朝刊 KODANSHA CONFIDENTIAL 4 KODANSHA DSRの活用モデル 製造原価、在庫費用など、コスト削減だけでなく、売上アップも同時に実現できる 書籍の販売はロングテール傾向。絶版が無くなることで過去の遺産からも売上を創出が可能 出 版 作 社 家 ・製造原価の削減 ・在庫費用の削減 ・廃棄の削減 ダブル メリット ・売り上げの創出 ・作品が長く流通する ・印税が長期間支払われる 読 者 ・作品が長期間入手できる 作家・読者・出版社 三者がメリットを永続化できる KODANSHA CONFIDENTIAL 5 KODANSHA 書籍のロングテールビジネス(イメージ) 書籍の特性は「ロングテール」。ロングテール商品をDSRで製造することで長く市場に残し、売上をアップできる オフセットとDSRのハイブリッド運用で製造・在庫を最適化できる 売 上 80:20の法則は 書籍でも成り立つか? オフセット印刷による在庫量(イメージ) 売上上位 アイテム 大量生産に向く オフセット印刷で 製造する ロングテール アイテム この差分が廃棄になったり、 長期間の在庫で保管料が 多大になる可能性が高い DSRで必要なだけ製造する 製品 ロングテール商品は在庫を極小化し、DSRで必要なだけ製造することにより 売上を創出し続けることができる KODANSHA CONFIDENTIAL 6 KODANSHA オフセットとDSRハイブリッド運用のイメージ 製造原価、在庫削減を同時に実現 絶版をなくし、売上を創出し続けることができる(旧作のマネタイズ) 原価削減と売上創出を同時に実現できる可能性がある 売上上位 アイテム KODANSHA CONFIDENTIAL 絶 オフセット 従来のモデル ハイブリッド モデル ロングテール アイテム オフセット D S 版 R 7 日本の出版界でデジタル印刷を定着させるための4つの条件 KODANSHA クオリティアップは必須条件だが、他にも問題が多い 各社の歴史や発注慣習が足枷になっている 事務処理やシステム開発など、出版社側の変化が必要 ① 標準化 ② 印刷用データ * 判型の標準化 * 印刷用データのインハウス化 * 用紙の標準化 * ポジフィルムのデータ化 ③ クオリティアップ * オフセットに限りなく近く ④ 事務処理 * 印税処理の問題 * 奥付のカウントアップ * 付物の特色問題 KODANSHA CONFIDENTIAL * 部決~発注システム 8 KODANSHA 日本の出版界でデジタル印刷を定着させるための4つの条件 ①標準化 各社の歴史が足枷になっている 編集者のこだわりが非常に大きい ・文庫・新書でもサイズが各社ごとにまちまち ・同出版社であってもシリーズが異なるとミリ単位でサイズが異なることがある ・シリーズごとの専用紙が多い ・紙厚が変更になると背幅、カバーの設計が変わる ⇒効率的な生産のために判型・用紙を標準化する必要がある 編集者 KODANSHA CONFIDENTIAL 作家 制作 9 日本の出版界でデジタル印刷を定着させるための4つの条件 ②印刷用データ KODANSHA 印刷用データを出版社がハンドリングできるようにする必要がある ポジフィルムの場合、データ化は必須 ・印刷所に製版・印刷の両方を発注する習慣がある ・本文と付物を別々な印刷所に発注する分散発注の習慣がある ・旧作はデータでなくポジフィルムであることが多い ・ポジフィルムのデータ化にはかなりの費用がかかる ⇒印刷用データを出版社主導で作成・管理する必要がある 編集者 KODANSHA CONFIDENTIAL 制作 10 KODANSHA 日本の出版界でデジタル印刷を定着させるための4つの条件 ③クオリティアップ クオリティの問題は何かと理由にされやすい クオリティアップにより、製造可能な製品数を拡大することができる ・クオリティの問題は何かと理由にされやすい(特に編集者) ・600dpi⇒1200dpiは必須 ・付物の特色を表現できるようにする ・付物の特色を擬似で表現する(もしくはプロセス4Cに制限する) ⇒クオリティアップ(もしくはクオリティを制限)することにより 製造可能な製品数を拡大することができる 編集者 KODANSHA CONFIDENTIAL 作家 制作 11 KODANSHA 日本の出版界でデジタル印刷を定着させるための4つの条件 ④事務処理 事務処理のフローが大きく変わる 作家との交渉が必要になるケースがある ・印税処理回数が増加するため、システム開発が必要になる ・印税の支払が小額化するため、契約変更や条件変更が必要になる ・奥付のカウントアップ回数が増加するため自動組版化、もしくは奥付に代わる ものを考える必要がある ・部決~発注回数が増加するため、専用システムが必要になる ⇒システム開発や契約条件の変更が必須 編集者 KODANSHA CONFIDENTIAL 作家 制作 販売 12 KODANSHA まとめ 技術的には出版社の要求レベルをクリアしつつある 標準化やデータのハンドリング、事務処理などが未解決 出版社側の問題がクリアされることが デジタル印刷定着のカギ ご清聴 ありがとうございました KODANSHA CONFIDENTIAL 13
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