アジア人間開発報告書 - 国連開発計画(UNDP)

概要
アジア太平洋人間開発報告書
未来を創る:
人口構成の変化を
人間開発の原動力に
アジア太平洋地域では、人口構成の劇的な変化が生じている。1950 年以来、総人口に占め
る子どもの割合は一貫して低下する一方で、現役世代と高齢者の割合は着実に上昇してい
る。表紙の気球型の部分は、総人口に占める子ども、現役世代、高齢者の割合が 1950 年
から 2100 年にかけ、どのような変化を遂げたか、または、変化すると予想されるかを示
している。この人口構成の変化は、アジア太平洋が今後、大きな変化を遂げる様子を反映
している。この変化は、地域の未来を形作るだけでなく、人間開発にも影響を及ぼす。
女児、男児、現役世代の女性、現役世代の男性、高齢の女性、そして高齢の男性を描いた
A S I A - PA C I F I C H U M A N D E V E L O P M E N T R E P O R T
SHAPING THE FUTURE:
HOW CHANGING DEMOGRAPHICS
CAN POWER HUMAN DEVELOPMENT
イラストは、その他のアイデンティティを有する者を含め、すべての人々は固有の価値を
有し、
家族と社会の平等な構成員となるべきであるというメッセージを伝えている。そして、
これらは全体として、協力と相互依存がお互いの幸福に結びつく様子を示す家族写真にも
なっている。人口を構成するすべての人々に平等な権利と機会を確保することは、集団と
しての力とレジリエンス強化を決定づける要因である。様々な集団の能力と創造性を活用
する国は、より高い水準の人間開発を達成することができる。
アジア太平洋地域の人々を運ぶ気球のデザインは、揺らぎや変化、風、そして楽観主義を
示している。この気球は、世界人口の過半数を抱えるこの地域をどの方向にも運ぶことが
できるが、それによって人々の機会や生活、福祉に影響が生じる。変化の時代に、各国が
正しい方向へと進める能力は、その政策選択と、ニーズの変化に適応できる能力にかかっ
ている。人口動態の恩恵を最大限に活用するためには、各国が現状の課題と機会をもっと
敏感に捉え、これに対応することが必要となる。
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概要
アジア太平洋人間開発報告書
未来を創る:
人口構成の変化を
人間開発の原動力に
国連開発計画(UNDP)
アジア太平洋人間開発報告書チーム
未来を創る:
人口構成の変化を人間開発の原動力に
室長兼主筆
Thangavel Palanivel
コア・チーム
Tasneem Mirza
Bishwa Nath Tiwari
Scott Standley
Abha Nigam
編集
Gretchen Luchsinger
ii
はじめに
私たちは不安定な激動の時代を生きている。
開発によって、すべての人が教育、医療、そ
世界人口の半数を抱えるアジア太平洋地域も、
して人間らしい生活を送れる収入を得るな
その例外ではない。その規模から見ても、アジ
ど、人口構成の移行がもたらす恩恵を実現で
ア太平洋地域が選択する開発への道は、全世
きるのだ。さらに、この恩恵を賢く利用すれ
界の人々の未来に影響することになるだろう。
ば、人間開発を加速するとともに、高齢化と
いう将来的に避けられない段階にも備えるこ
2015 年、アジア太平洋諸国は、こうした開発
とができる。
の枠組みと指針に関する野心的な国際的なコ
ンセンサスに参加した。持続可能な開発のた
今回の『アジア太平洋人間開発報告書』は、
めの「2030 アジェンダ」とその 17 の持続可
人口統計学と人間開発を斬新な形で関連づけ
能な開発目標(SDGs)は、2015 年に成立し
ている。そして、人口構成の移行期がもたら
た防災、開発資金、気候変動に関する重要な
す大きな機会だけでなく、そのリスクも考察
国際協定とともに、あらゆる社会に影響を及
している。この機会とリスクを見落とす国々
ぼす。このアジェンダは全体として、持続可
は、人間の幸福と経済的な豊かさを大幅に拡
能で包摂的かつ強靭な開発に共通の誓約を体
大できる可能性を逃すという危険を冒すこと
現するものであり、これに取り組むことは、
になる。報告書は、政策立案者が人口構成の
人間の能力を構築し、コミュニティを豊かに
移行が持つ意義を理解し、適切な対応策を国
し、将来世代にわたって人々に利益をもたら
家開発計画の全側面に盛り込む必要があるこ
す天然資源の管理を促進することにつながる。
とを示している。
経済的活力ときわめて豊富な人的資源を兼ね
今回の報告書は、国連開発計画(UNDP)に
備えたアジア太平洋地域は、持続可能な開発
とって重要な節目に発表された。ちょうど創
目標(SDGs)を実現するうえで有利な立場
設 50 周年を迎えた UNDP は、自信を持って
にあるだけでなく、その実現に必要となる転
将来を見据えている。豊富な知見とデータに
換の最前線にも立っている。多くのアジア太
基づく『アジア太平洋人間開発報告書』は、
平洋諸国では、生活水準が改善された。その
開発を牽引してきた UNDP の最新の貢献と
結果、若年と高齢の被扶養者の割合が少なく、
いえよう。私はこの報告書が、地域の政策立
開発の担い手となれる現役世代の割合が大き
案者・決定者が人間開発を進めるうえで、大
いという人口構成が、開発目標を達成するう
きな支援になることを確信している。
えでの利点となっている。
2 度とないこの機会を最大限に活用するには、
賢明な政策と投資が必要である。最も大きな
前進を生み出すのは、人間開発である。人間
Helen Clark
ヘレン・クラーク
国連開発計画(UNDP)総裁
iii
序文
今回の『アジア太平洋人間開発報告書』は、
らかである。あまりにも多くの人が置き去り
各地域と全世界がともに岐路に立つまさにそ
にされたり、社会から隔絶されたりしている
の時点に発表された。この事実を最もよく表
からである。アジア太平洋地域 42 か国のうち、
しているのは、2015 年後半、国連総会で加
今でも低所得国に分類されているのはわずか
盟国 193 か国によって採択された 17 の「持
4 か国だが、技術的には中所得国に分類され
続可能な開発目標(SDGs)
」を伴う「2030 ア
ている国々でも実に 4 億 5000 万人が極度の
ジェンダ」である。この普遍的かつ変革的な
貧困の中で暮らしているという、懸念すべき
アジェンダは、地球上の誰をも置き去りにし
データもある。
ないプロセスとして、開発を根本的に考え直
すものとなっている。
私たちにはまだ課題が残されている。これま
各地域で生じている重大な変化を反映して、
は変革を実現するための取り組みを現場で続
アジェンダは従来の開発途上国と先進国との
けていく。私たちがこれまで達成してきたこ
境界線をあいまいにしている。また、持続可
と、そして今後達成していくことは、いずれ
能な開発を完全に達成した国はないことも認
も、パートナーシップや私たちが活動する
識している。取り組むべき課題とされている
国々の優先課題への慎重な配慮を通じて実現
のは、不平等や持続不可能な消費・生産パター
される。私たちには、行政機関の人材育成へ
ン、
インフラの不備、
ディーセント・ワーク(働
の支援という長い経験があり、すでに持続可
での 50 年間と同じく、
国連開発計画(UNDP)
きがいのある人間らしい仕事)の不足といっ
能な開発目標(SDGs)を開発の中心に据え
た構造的な課題である。
たさまざまな計画策定プロセスの支援も各国
で開始している。
これらは巨大な課題であるため、私たちの解
決策もそれだけ大胆なものにならざるを得な
今回の『アジア太平洋人間開発報告書』は、
い。中核となる経済、社会、環境の次元を横
今後欠かせない開発のリーダーシップとは何
断して長期的に考える必要がある。今までの
かをも示している。また、アジア太平洋地域
やり方を続けていたのでは、十分な対策は講
が、人間開発を加速し、持続可能な開発目標
じられないからである。
(SDGs)実現に向けた前進を確固たるものに
する歴史的機会を提供する人口動態の状況に
すべての国は、十分なディーセント・ワーク
ついても紹介する。十分な情報に基づいて解
(働きがいのある人間らしい仕事)を創出す
決策についての議論を促進するために、報告
る経済が必要である。すべての社会と政治制
書は地域全体のリーダーに対し、革新性を発
度を包摂的で結束力のあるものにしなければ
揮してアジア太平洋地域のあるべき姿を実現
ならない。私たち全員が、自分自身と子ども
し、より良い未来に向けた道を示すよう呼び
たちの生活を持続できる健全な環境を必要と
かけている。
している。私たちには平和が必要である。相
互依存性が強まる中で、国内外で持続可能な
開発を追求すれば、誰もがこうした目標に近
づくことができるであろう。
アジア太平洋地域は、顕著な開発の成果を上
iv
Mr. Haoliang Xu
ハオリヤン・シュウ
げているが、それが「経済的」奇跡ではあっ
国連事務次長補・国連開発計画(UNDP)
ても、
「人間開発」の奇跡ではないことは明
総裁補兼アジア太平洋局長
謝辞
『アジア太平洋人間開発報告書』は、国連開
リー・クアンユー革新的都市センター(シン
発計画(UNDP)アジア太平洋局の代表的刊
ガポール)上級研究員から寄稿された技術背
行物である。報告書で紹介された調査結果、
景報告書を参考に作成されている。
分析および政策提言は、ひとえにアジア太平
洋局独自のものであり、UNDP 本部やその執
報告書の技術諮問委員会からも貴重なフィー
行委員会のものではない。国連総会は「世界
ドバックと助言をいただいたが、この委員会
各国の人間開発に対する意識向上のための重
に は 関 係 国 連 機 関 と し て、 食 糧 農 業 機 関
要な手段」となる「独立した知的活動」として、
(FAO)
、国際労働機関(ILO)
、国際移住機
人間開発報告書を正式に認めている。
関(IOM)
、国連アジア太平洋経済社会委員
会(UNESCAP)
、国連教育科学文化機関
今回の報告書『未来を創る:人口構成の変化
(UNESCO)
、国連児童基金(UNICEF)
、国
を人間開発の原動力に』は、多くの方々から
連人間居住計画(UN-Habitat)
、国連人口基
の協力によって作成された。報告書の調査と
金(UNFPA)および UN ウィメン(UN Women)
執筆は、Thangavel Palanivel が率いる UNDP
が参加している。
職員が担当した。Tasneem Mirza は中核チー
ムの主要メンバーとして、作成プロセス全体
バンコクとデリーで開催された当初 2 回の小
で積極的かつ持続的な支援した。その他のメ
地域協議では、政府や学界、メディア、民間
ンバーも、さまざまな時点で作成に関わった。
セクター、市民社会、シンクタンク、国連機関
Bishwa Tiwariは第4章の執筆を、Scott Standley
の関係者との間で、実りある有意義なやりと
は 第 5 章 の 執 筆を主 導した。そして Abha
りが行われた。報告書の趣旨と輪郭の鮮明化
Nigamは、
プログラムと調査の補佐役を務めた。
に協力いただいた全参加者に感謝する。特に
UNFPA、UNESCAP およびいくつかの非政
Gretchen Luchsinger は質の高い高度な編集
府組織からの識者として協議に参加いただい
技術で、報告書を読みやすくしてくれた。ま
たMoneer Alam、Peter de Souza、S. Mahendra
た、Ramesh Gampat は既刊の『アジア太平
Dev、Nagesh Kumar、Christophe Lefranc、
洋人間開発報告書』に基づく知見を共有し、
Pitamber Sharma、Srinivas Tata、Anders
重要な技術的貢献と助言を提供してくれた。
Thomsen の各氏に謝意を表したい。Rohini
魅力的なグラフィック・デザインを提供して
Kohli と Elena Borsatti からは、会議開催に
くれたのは Christina Ottolini である。各氏
不可欠な支援をいただいた。
の協力に感謝する。
また、
データの確認と更新、
参考文献の編纂、校閲については、インター
ILO、IOM、UNESCAP、UNESCO、UNFPA、
ンの Gard Heggelund、Adrianna Fishman、
UN-Habitat の各国連機関のバンコク事務所
Coralie Martin に協力をいただいた。
の査読者からは、報告書最終案について包
括的なコメントをいただいた。また、UNDP
本報告書は、S. Mahendra Dev インディラ・
人間開発報告書室全般、特に Selim Jahan、
ガンディー開 発 研 究 所(ムンバイ)所 長、
Jonathan Hall、Shantanu Mukher jee、
Cai Fang 中国社会科学院人口研究所(北京)
Tanni Mukhopadhyay の各氏からも、各段
所長、Andrew Mason ハワイ大学経済学教
階で査読者としてのコメントと提案をいただ
授兼イースト・ウエスト・センター上級研究
いた。その他、紙面の関係上、ここではすべ
員、Wangdi Norbu 元ブータン王国財務大臣、
ての名前を挙げることはできないが、ニュー
Feng Wang 清華・ブルッキングス公共政策
ヨークのプログラム・政策支援局、バンコク
研究センター所長兼カリフォルニア大学・復
地域拠点の地域プログラム・政策支援チーム、
旦大学(上海)教授、および、Belinda Yuen
アフリカ地域局、イスタンブール地域拠点、
v
ヨルダン地域拠点、デリーの国際人間開発セ
国連バンコク地域拠点、国際人間開発セン
ンターおよび UNDP ネパール事務所の同僚
ター、アジア太平洋地域の UNDP 各国事務
からのフィードバックにも感謝する。特に、
所からは、さまざまな形で小地域ステークホ
報告書の確認と、アジア太平洋地域各国から
ルダー協議開催の際の後方支援をいただい
の情報提供の調整を担当した UNDP 地域拠
た。UNDP バングラデシュ事務所には、ダッ
点の各国事務所支援・品質保証チームに感謝
カでの報告書の印刷と発表に協力いただい
する。バングラデシュ、カンボジア、中国、
た。ニューヨークのアジア太平洋局戦略計画・
マレーシア、ネパール、パキスタン、パプア
監督室のメンバー、特に Silvia Morimoto、
ニューギニア、フィリピン、東ティモール、
Samar Sinha、Irene Ilevbare、Sha Guo の
スリランカを含むいくつかの国事務所から
各氏からは、報告書の作成過程全体を通じ、
も、有益なコメントをいただいた。
不可欠な事務的支援と管理サービスを提供い
ただいた。
私たちは、当初の着想と指針を提供いただい
た Ajay Chhibber 元 UNDP アジア太平洋局
最後に、報告書作成期間全体を通じてリー
長に謝意を表したい。また、知見を共有いた
ダーシップを発揮してくれた UNDP アジア
だいた Anuradha Rajivan と、校正面で支援
太平洋局のハオリヤン・シュウ局長とニコラ
をいただいた Rajeswary Iruthayanathan の
ス・ロゼリーニ局次長に謝意を表したい。
UNDP の元同僚 2 人にも感謝する。
本報告書の重要なメッセージの積極的な発信
に つ い て は、UNDP の 広 報 顧 問 を 務 め た
ニューヨークの Stanislav Saling とバンコク
の Cedric Monteiro、および、UNDP 各国事
務所の広報官の尽力に感謝する。UNDP イン
vi
Thangavel Palanivel
タンガベル・パラニベル
ド事務所の Vinita Aggarwal には、報告書の
国連開発計画(UNDP)アジア太平洋局
オンライン版を作成いただいた。
上級戦略顧問兼主任エコノミスト・主筆
アジア太平洋人間開発報告書2016 目次
はじめに
第4章
序文
高齢化社会:新たな豊かさの機会
謝辞
急速な高齢化の時代
高齢化社会は課題に直面する一方で、活用できる強みも
概要
より長い人生を通じて人間開発の持続を
不安のない高齢化
第1章
人口構成の変化はどのように人間開発を推進するか
第5章
人間開発はアジア太平洋全体で急速に、しかし不均等に改善する
都市における人間のダイナミズムの活用
世界最多の人口を抱える地域:大きな過渡期
都市化が進む地域
人口構成変化の原動力
急速な都市化への対応:潜在性と落とし穴
人口構成移行の仕組み
都市化の将来性の全面的実現を
人口の配当はどれだけあるか
地域の未来の鍵を握る都市
歴史的な変化、限られた時間
第6章
第2章
行動アジェンダ:未来を創る
現役世代の増加:幸福実現への基盤
すべての国に共通する原則も
労働世代人口は記録的な数に
人口学的機会の最大限の活用を
人口構成の変化が人間開発にもたらす利益:4 つの経路
次世代の潜在能力の活用を
中国、日本、タイの教訓
より長い人生を通じて人間開発の持続を
人口学的機会の最大限の活用を
都市化の将来性の全面的実現を
今後の人口学的好機
勢いの持続を
第3章
子どもの育成と若者の潜在能力活用
世界の子どもと若者の半数以上が暮らす地域
教育こそが未来につながる道
普遍的初等教育は全地域で達成、またはほぼ達成
健康な幼児期は一生の財産
社会人への移行の鍵を握るディーセント・ワーク
若者の参加:多くの利益を伴う権利
次世代の潜在能力の活用を
幸先良い人生のスタートを
vii
概要
未来を創る:
人口構成の変化を
人間開発の原動力に
諸国家の真の資産は人間である。人間開発が歩む
市化のペースなど多くの分野を横断して、このプロ
道のりは、国民がどのような機会を有し、どのよう
セスをどれだけ前向きに管理できるかに大きく依存
な選択をするかによって決定される。世界人口の約
する。事前の計画を怠った国は、十分な成果を得
半分が暮らすアジア太平洋ほど、このことが当ては
られない可能性もある。例えば、教育への投資が
まる地域はない。アジア太平洋地域の将来は、世
不十分であれば、国民が労働市場で活躍できる能
界の将来を決定づけるといっても過言ではない。
力を身につけることができず、経済成長の足を引っ
張ることになる。高齢者に尊厳のある暮らしを確保
しかし、この「人口動態学的運命」の行く先は決まっ
する年金への新たな投資を怠るなどして、人口変化
ていない。その人口の規模に加え、アジア太平洋
がもたらす機会を逃せば、人間開発面でも損失が
地域は歴史的な人口構成の過渡期を迎えている。
生じかねない。
すべての国で若年世代、高齢世代、現役世代の割
合が変化し始めているからである。この変化のプロ
アジア太平洋地域には現在、世界で最も若い人口
セスは、人間開発の成果を土台としつつ、これをさ
を抱える国々と、最も高齢化の進んだ国々がいくつ
らに進める役割も果たす。その最大限の活用を図
か併存している。しかし、大半の国は、現役世代
るためには、人々が健康で、教育を受け、生産的で、
が人口の大きな割合を占める段階に突入したか、そ
しかも人生のあらゆる段階で幸福を享受できること
の最盛期にある。したがって、この地域は全体とし
が必要である。
て、人口の恩恵を享受し、人間開発を進めるうえで
有利な状況に置かれているが、これは長く続かない。
この『アジア太平洋人間開発報告書』では、人口構
アジア太平洋地域における人口構成の移行には、
成の変化がもたらす課題と機会を、人間開発という
膨大な数の人々が関わっているだけでなく、そのス
視点から検討する。そして、仕事や貯蓄、納税ので
ピードはかつてどの地域でも見られなかったほど速
きる人々の割合が増え、子どもや高齢者といった被
いため、豊かになる前に高齢化が進む社会では、
扶養者の割合が減少すれば、必ず「人口学的機会」
特殊な影響が生じることになる。
が生じることを検証する。経済的側面だけを見ても、
地域間で差はあるとはいえ、この地域のいわゆる
2015 年に合意された持続可能な開発目標(SDGs)
「人口構成の変化がもたらす恩恵」は膨大であり、
で掲げられた、各国で行動に移すべき持続可能な開
アジア太平洋 諸国は 1970 年から 2010 年にかけ、
発のグローバルで野心的なビジョンに照らせば、そ
先進国と開発途上国の経済成長の約 42%と 39%を
の意味合いはますます緊急性を帯びてくる。各国は
それぞれ占めるに至っている。多くの場合、こうし
利用できる資源をすべて結集し、公共投資の最も戦
た経済成長に伴い、人間開発も大きく前進している。
略的な配分を検討するとともに、17 の持続可能な開
発目標(SDGs)の実現に向け、人口構成の移行によっ
人口構成の変化を十分に活用できるかどうかは、
て新たに開けた経路を含め、可能な道のりをすべて
各国が労働市場や経済成長、貯蓄と投資、教育、
追求しなければならないからである。
これらの目標は、
保健と栄養、社会保障、移住、公共サービス、都
1994 年の「国際人口開発会議」で生まれた考え方の
1
集大成にも多くが反映されている。また、
開発目標は、
創出されているものの、雇用は量的にも質的にも、
人口と人間開発の間の相互作用や、人権を堅持し、
急成長する現役世代のニーズを満たせていない。さ
国民の能力を育成し、人生全体を通じて尊厳を守る
らに雇用機会を創出するためには、
雇用目標の設定、
ことによって進歩を実現できるとしている。
雇用主導型の開発計画の策定、雇用を支援するマ
クロ経済枠組みの構築、労働者の権利と安全を保
本報告書は大まかに見て、現役世代が人口の大多
障する法律の整備、大きな労働力を必要とする業
数を占める中間段階、若年人口が極めて多い初期
務部門の育成といった戦略が必要である。誰も置き
段階、高齢化が進んだ最終段階という、人口構成
去りにしないという持続可能な開発目標(SDGs)の
移行の各段階別に構成されている。アジア太平洋
誓約履行に向け、焦点を絞った対策で社会的に疎
地域には、人口構成の移行が複数の段階にまたがっ
外された集団に手を差し伸べる必要がある。
ていることから、これら全段階を考慮しなければな
らない国もある。したがって、各国の進むべき道は
女性の力と潜在能力を十分に発揮させることがで
大きく異なってはいるものの、報告書の調査結果に
きなければ、人口変化がもたらす恩恵はあっても最
よると、いくつか共通の優先課題も見られる。
低限の水準にとどまる。全般的に、この地域でジェ
ンダーの平等が進んでいないことは、国際的な人権
すべての国は、人口構成の変化を様々な公共政策
水準に対する損失であると同時に、人口構成の移
の分野で考慮する必要がある。人口構成の変化か
行を最大限に活用し、人間開発を進めるうえでも大
ら生じる機会を活用し、人間開発を加速するために
きな障害となっている。ジェンダーの平等は女性だ
は、主要な国家開発計画と戦略全体に人口変化と
けでなく、社会や経済全体にとっても、政策上の喫
いう視点を取り込む必要がある。また、経済管理や
緊の優先課題である。政治的なリーダーシップ、経
教育、保 健、ジェンダーの平 等、若 者、高齢化、
済への参加、教育、公的資金の配分、ジェンダーに
都市化などの問題に関連する政策でも、人口構成
基づく暴力の予防など、どのような生活の分野に関
の変化を考慮に入れる必要がある。これは、各国
係するものであっても、ジェンダーの平等に関する
がその開発戦略と政策で人口動態を考慮することを
持続可能な開発目標 4 の達成は最優先課題となる。
誓約した持続可能な開発目標(SDGs)
にも合致する。
アジア太平洋地域全体で人口構成の変化に関して
人間の能力への投資は不可欠である。能力開発へ
協力を強めれば、多くの課題が国境を越えた課題
の投資は、人口構成の移行段階に応じて最大限の
であることに気が付く。高齢化が進む国では労働力
恩恵を生み出し社会が高齢化する中で人間開発の
不足のために移住労働者の不均衡の是正を望む国
勢いを持続させるよう、慎重に計画する必要があ
もあれば、余剰労働力を抱える移行初期の国々も
る。世代間のバランスと公平性の原則に基づき、異
ある。また、金融統合についても、高齢化が進ん
なる優先順位を設定できるが、持続可能な開発目
だ国には投資できる資金がある一方で、若い人口を
標(SDGs)に則して社会的に最も脆弱あるいは隔絶
抱える国々では豊かな労働力と生産性向上の必要
された人々への教育、保健その他の能力の強化に
性から、資本を誘致する需要が生じている国もある。
重点を置かなければならない。長期的には、人間
の幸福に欠かせないサービスの完全普及に努める
人口構成の変化を測定し管理するには、より多くの
ことを全般的な狙いとする必要がある。
良質なデータが必要である。全体的な人口構成と、
若者や労働者、高齢者、移住者を対象とする公共
2
生産的なディーセント・ワーク(働きがいのある人
政策、さらには都市化など関連する問題の影響を
間らしい仕事)は、幸福を広げる基盤である。
『人間
モニターするには、良質のデータを活用する必要が
開発報告書 2015』グローバル版でも論じられている
ある。新たな流行や技術の進化によって将来的な
通り、生産的なディーセント・ワーク(働きがいのあ
課題に対応するには、さらに多くのデータと研究が
る人間らしい仕事)は、人間開発を強化する基本的
必要となるだろう。この活動は、持続可能な開発目
な原動力であるため、すべての人がこれを簡単に手
標(SDGs)の実現の一環として必要とされるデータ
にできるようにすべきである。アジア太平洋地域で
革命にも合致するものであり、開発推進の土台とな
は、この 10 年間に毎年 2000 万件の雇用が新たに
る可能性もある。
アジア太平洋地域における 人間開発:
急速な進展の中でばらつきも
世界で最多の人口を
抱える地域:
大きな過渡期の渦中に
所得や教育、保健の面での成果に反映され
アジア太平洋地域の総人口は、過去 65 年
る人間開発は、人口動態がもたらす機会の源
間で 3 倍に増え、2050 年には 48.4 億人に達
であると同時に、それを加速する要素でもあ
するものと見られている。世界で最も人口が
る。全世界すべての地域で、人間開発は着実
多い 10 か 国のうち 6 か 国(中国、インド、
に前進している。全世界で見ると、1990 年か
インドネシア、パキスタン、バングラデシュ、
ら 2014 年までに、20 億人以上が低水準の人
日本)がこの地域に属しているが、そのうち
間開発の状態から抜け出し、10 億人以上が
上位 3 か国だけでも、現在の世界人口の 40%
極度の貧困を脱した。そのほとんどはアジア
を占めている。その一方で、この地域にはト
太平洋地域に暮らす人々である。
ケラウ(1250 人)やニウエ(1610 人)など、
過去 25 年の間に人間開発で最も急速な前
進を遂げた開発途上地域は南アジアであり、
これに東アジアと太平洋が続く。これらの小
世界で最も人口の少ない国や地域もいくつか
存在する。
アジア太平洋地域はこれまで「人口爆発地
地域では、人間開発指数(HDI)の年平均成
域」とされてきたが、かつての急激な人口増
長率が全世界の 0.7%に対し、それぞれ 1.4%
大は今や著しく減速している。今後の地域人
と 1.3%に達した。しかし、こうした目覚まし
口増大の 4 分の 3 は、南アジアで起こると見
い前進にもかかわらず、両地域では人間開発
られており、東アジアの人口はほぼ横ばいか、
という点で、ともにラテンアメリカ・カリブ、
減少傾向で推移すると見られる。
ヨーロッパ、中央アジアに後れを取っている。
人口増加率の低下に伴い、これまでに例を
南アジアはさらに、アラブ諸国よりも低い水
見ない人口構成の変化が生じている(図 1)
。
準にある。
年齢別のデータが存在する 38 の国と地域のう
顕著な人間開発の成
ち、13 の国と地域では、15 〜 24 歳の若者が
果 に も か か わら ず、
18 の国と地域は HDI が高いか、極めて高い
人口の 20%以上を占めるという「ユースバル
多くの国々では依然と
水準にある一方で、中程度が 12 か国、低水
ジ(人口ピラミッドの若年層が大きく膨らん
準が 6 か国となっている。ここ数十年間で、
でいる状態)
」が生じている。その一方で、11
して立ち遅れている
アフガニスタンやバングラデシュ、カンボジ
の国と地域では高齢化が進み、60 歳以上の年
ア、ラオス、ミャンマー、ネパールといった
齢層が人口の 14%以上を占めている。その他、
アジア太平洋地域の後発開発途上国(LDCs)
現役世代の割合が増大している国もある。
アジア太平洋地域の 36 の国と地域のうち、
の多くは、もともと低い水準にあったとはい
え、特に急速な前進を遂げている。
今後、2015 年から 2050 年にかけては、最
も大きな変化が生じると見られている。2050
2009 年から 2014 年にかけて、アジア太平
年までに、地域全体の人口に占める 15 歳未
洋地域の 20 か国は他の国々との比較で、人
満の子どもの割合は、1950 年の半分未満に
間開発の向上を実現しているが、9 か国は下
減少する一方で、60 歳以上の人口はその 3
降、さらに 6 か国は変化が認められない。大
倍以上に増大する。現役世代が人口の中で最
幅な前進にもかかわらず、アジア太平洋地域
も大きな割合を占めるとはいえ、その割合も
では 19 か国が依然として、全世界の HDI 平
長期的には縮小していく。
均を下回っている。この地域が「経済的な奇
こうした人口構成の変化のスピードと規模
跡」は実現したが、
「人間開発の奇跡」はま
には、いくつか特徴がある。例えば、アジア
だ実現しておらず、その人口動態の移行の可
太平洋地域における高齢化は、ラテンアメリ
能性を十分に生かしきれていないことを如実
カ・カリブを除くその他いかなる地域よりも
に示す結果となっている。
はるかに速いペースで進む。欧米で約 1 世紀
を要した変化が、アジア太平洋地域では 30
3
図 1:
地域全体で若年人口の割合が減少し、高齢化が進展
■子ども(0~14歳) ■若者(15~24歳) ■現役世代(25〜59歳) ■高齢者(60歳以上)
出典:国連経済社会局 2015a
アジア太平洋地域の
人口構成変化は、他
年間から 40 年間で起きることになるが、こ
る。アジア太平洋地域では、高所得国のほぼ
れがさらに 20 年未満に短縮される国もある。
全部と、一部の中所得国が移行の進んだ段階
この地域が抱える 60 歳以上の人口は約 4 億
に達しているか、この段階を終えている一方
8900 万人と、
すでに世界で最大となっている。
で、
より貧しい国々や、
後発開発途上国
(LDCs)
2050 年までに、現在では人口の若い多くの国
の一部は、まだ初期の段階にいる(図 2)
。
でも、本格的な高齢化が進むことになる。
もう 1 つの顕著な人口構成の変化として、
人口構成の移行が進んでいるのは、ほとん
どが東アジアと東南アジアの国々である。現
地 域よりもはるか に
都市化が挙げられる。過去 30 年間で、アジ
役世代と総人口の大幅な減少をすでに経験し
速いスピードで進行
ア太平洋地域の都市人口は 10 億人以上と、
たか、間もなく経験し、今後数十年間で急速
その他全地域の合計を上回る増加を遂げた
な高齢化が進む国も多い。移行が進行中の南
が、今後 30 年間でさらに 10 億人の増加が見
アジアでは、若年人口と現役世代人口が急速
込まれる。都市人口が全体の過半数を占める
に増大しているところであるが、ほとんどす
までには、
ラテンアメリカ・カリブでは 210 年、
べての国では今後 20 〜 30 年間で、若年者と
ヨーロッパでは 150 年を要した。しかし、中
高齢者の被扶養者の割合が低くなるか、減少
国やブータン、インドネシア、ラオスなどの
に転じることになる。移行初期段階の国々は
国々は約 60 年間で、またアジア太平洋地域
ほとんどが太平洋の小島嶼開発途上国
全体も約 95 年間で、都市人口が全体の過半
(SIDS)であり、少なくとも当面の間は急速
数を占めることになる。
アジア太平洋諸国の間には、人口構成移行
な人口増加により、人口構成の移行は遅れる
ことになる。
の進展度合いに大きな差がある。すでに現役
世代の割合がピークに達している国は、移行
が進んだ状態にある。現役世代の割合は依然
として上昇を続けているが、2015 年までに予
人口構成の移行により、
人間開発はどのように進むか
測される増加分の半分を超過している国は、
4
移行の中間段階にあるといえる。2060 年以降
人口構成の変化と人間開発は相互に関係し
にならなければ、現役世代の割合がピークに
影響するが、本報告書では主に、人口構成の
達しないと見られる国は、伸び盛りだといえ
変化が人間開発にどう影響するかについて分
図 2:
人口構成の移行が進む豊かな国々
現役世代の割合(%)の増大が進む時期
進展段階
中間段階
2015年から2060年にピーク到達
東ティモール
キリバス
パキスタン
アフガニスタン
トンガ
サモア
ソロモン諸島
パプアニューギニア
フィリピン
ミクロネシア
バヌアツ
ラオス
カンボジア
ネパール
インド
モルディブ
イラン
ブータン
バングラデシュ
インドネシア
ミャンマー
マレーシア
朝鮮民主主義人民共和国
台湾
ベトナム
ブルネイ・ダルサラーム
韓国
中国
オーストラリア
フィジー
タイ
シンガポール
モンゴル
マカオ
香港
スリランカ
ニュージーランド
日本
2015年までにピーク到達
初期段階
2060年以降にピーク到達
人口変化がもたらす
出典:国連経済社会局 2015a
機会を人口の恩恵へ
と変えるに は、 戦 略
析する(図 3)
。この影響は数多くの経路を通
済生産の増大を意味するからである。第 2 は、
じて生じるが、最初に挙げられるのは労働力
より多くの労働者が生産性も高めた時点で生
の増大である。第 2 は所得と貯蓄の増大、第
まれる。これは部分的に、人材育成への投資
3 は生産性の向上がそれぞれ関係してくる。
によって、人々がさらに熟練を要する仕事を
第 4 は、教育と保健への投資を通じた人間の
こなせるようになることなどに起因する。や
能力開発である。第 5 に、人々が所得と支出
がて、国民の所得と貯蓄は増大し、家や土地、
を増やすことによる内需の増大が挙げられる
事業といった資産も増える。2 つの恩恵が重
が、これによって経済成長がさらに進むこと
なることもあるが、これらはいずれも自動的
もある。第 6 は都市化である。ますます多く
に生じるものではない。人口構成の移行は単
の人が都市部に流入する中で、保健・教育サー
に、そのための機会を提供するにすぎない。
ビスが改善したり、ディーセント・ワーク(働
人口構成の移行はどの国でも起こり得る
きがいのある人間らしい仕事)の機会が多様
が、その到来を加速し、潜在的恩恵を十分に
化したりする可能性もある。
実現できるかどうかは、このプロセスを誘導
人口構成の変化により、2 つの潜在的恩恵
的政策、長期的ビジョ
ン、良好で健全な統
治 体 制(グッド・ ガ
バナンス)が必要
する政策に大きく依存する。政策が不十分で
がもたらされるが、これらは概ね順を追って
あったり不適切な場合は、人間開発の歴史的
生じる。第 1 は、労働人口が被扶養者人口よ
な機会は失われてしまう。この意味で、人口
りも急速に成長した時点で生じる。これは単
変化がもたらす機会を人口の恩恵へと転換す
純な方程式による。失業や不完全雇用が大き
るためには、戦略的な政策と良好で健全な統
く足を引っ張らない限り、労働力の増大は経
治体制(グッド・ガバナンス)が必要である。
5
図 3:
適切な政策を導入し、環境を整備すれば、いくつかの経路を通じ、
人口構成の変化を人間開発の促進につなげることが可能
1. 労働供給の増大
2. 貯蓄と投資の増大
現役世代
人口の増大と、
被扶養者の減少
第1の
人口変化の恩恵
3. 生産性の向上
人間開発の
4. 教育と保健の改善
改善
5. 経済成長に拍車をかける
内需の成長
第2の
6. 都市化
公共投資のパターンを、人口構成の変化に合
の期間には 0.4%へと急激に落ち込むものと
わせる必要がある。例えば、若年人口が極め
見られる。
て多い国は、学校への投資を増やすことが必
労 働 力 が 拡 大 す る 中 で、 各 国 は 十 分 な
要となる。現役世代人口が多い国では、働き
ディーセント・ワーク(働きがいのある人間
がいのある雇用を数多く創出する必要があ
らしい仕事)を提供し、包摂的で人間開発に
る。そして、高齢化が進んだ国々には、十分
見合う成長を確保する形で自国の経済を刺
な年金制度の確立が必要である。
労働人口が増加中の
国々は、より良い雇用
をより多く提供するこ
とで、 人間開発を加
速させることが可能
移行の中間段階:
人口変化がもたらす機会を 最大限に活用する
多くのアジア太平洋諸国は現在、現役世代
激、管理し、貯蓄の余地を拡大するとともに、
国民がその暮らしを向上させる能力、機会お
よび自由を全般的に確保する必要がある。
人口変化がもたらす機会を最大限に活用す
るための重要な施策としては、下記が挙げら
れよう。
雇用の拡大、改善と生活の向上
人口が劇的に増大した段階にあるため、人口
の恩恵を享受できる時期は 20 〜 30 年程度し
6
人口の配当
アジア太平洋地域では依然として、働きな
か残っていない。この時間枠は大まかに見て、
がらも適正な人間生活を維持するための最低
持続可能な開発目標(SDGs)の対象期間と
限度の所得しか得られない人々の割合が大き
一致していることから、この段階にある国々
く、現在の雇用不足が続けば、その数は労働
は目標を達成するうえで有利な立場にあると
市場へ新規参入する人口が増える中で、さら
いえ、その達成に向けた取り組みによって、
に増加するおそれがある。例えば、インドだ
人口の恩恵も増幅できる可能性がある。
け を 取 っ て も、2050 年 ま で に さ ら に 2 億
しかし、人口変化がもたらす機会を捉える
8000 万人が雇用市場に参入することになる
ためには、すぐに行動を起こさなければなら
が、これは現在の水準を 3 分の 1 上回る数で
ない。南アジアでも東南アジアでも、2015 年
あ る。 し か し、 イ ン ド 経 済 は 1991 年 か ら
から 2030 年にかけて、現役世代人口は大幅
2013 年にかけ、労働市場への新規参入者の
に増大し続けるが、その後は徐々に先細りと
半分未満しか吸収できていない。
なってゆく。比較的高い伸びが続くのはオセ
失業率は地域全体で平均 4%と比較的低く
アニアのみである。地域全体で見ると、現役
なっているが、多くの国で低賃金の雇用が広
世代人口の増加率は 2015 年から 2030 年にか
がっている。雇用の質は人口変化がもたらす
け 10%に達するものの、2030 年から 2050 年
恩恵に欠かせない要素であるが、多くの人々
は今でも、賃金の低い農業や非正規労働で辛
による起業は大きな可能性を秘めている。会
うじて生活しているのが現状である。教育の
社設立や資金調達、事業への参加に関する規
改善と技術への投資増大に伴い、労働生産性
制は、ジェンダー関連の障壁を取り払い、女
は一貫して向上しているものの、労働市場は
性にも門戸を開くよう改善する必要がある。
依然として十分に成熟していないことから、
女性は政治的、経済的な意志決定にも全面的
多くの労働者が国外に移住して就職したりし
に参加できなければならない。それは当然の
ており、人口変化がもたらす恩恵が目減りし
権利であると同時に、そうしなければ、政策
ている。
や計画で女性の能力と開発への貢献が全面的
労働者の権利保護に力点を置きながら雇用
に支援される可能性が低くなるからでもあ
創出を国家開発戦略の中心に据えることは、
る。各国は、女性の定年を男性よりも低く設
喫緊の課題である。その手始めとして、中小・
定するなど、差別的な規定を含む法律を改正
中堅企業を支援する新たな政策措置が考えら
するとともに、ジェンダーに基づく暴力が違
れる。これら企業は現状で雇用の 3 分の 2 を
法とされていても、これを大目に見るような
提供しながら、多くの制約を抱えているから
社会的な風潮を根絶する必要がある。
である。生産性の低い活動から高い活動へと、
経済の構造転換を図れば、人々がよりよい仕
より多くの貯蓄を生産的投資に
事に就く新たな機会が開けるとともに、より
少ない労働者がより多くを生産し、開発から
東アジアですでに達成された人口変化がも
得られた果実を維持できるようになり、少な
たらす恩恵の約半分は、現役世代人口の割合
い人数で高齢者を支えなければならない将来
の増大と密接に関係する貯蓄と資本蓄積に起
に備えることもできる。
因する。より多くの人々が働き、世帯の規模が
女性の平等な参加の達成
縮小し、寿命が延びて老後が長くなることが
予想できれば、貯蓄率が上昇する。人口構成
の変化により、政府も、若年者人口または後
より多くの女性を有給
アジア太平洋地域が人口変化の恩恵を十分
期高齢者人口が多ければさらに多額になるは
に生かし、人間開発を推進することのネック
ずの社会サービスの経費減少などを通じ、貯
雇 用と起 業 に取り込
の 1 つとなっているのが、女性の就労率の低
蓄が可能になる。その貯蓄は、生産性向上の
めば、人口の恩恵は
さである。事実、女性就労率のデータがある
ためのインフラ整備など、人間開発や人口変
ア ジ ア 太 平 洋 30 か 国 の う ち の 3 分 の 2 が
化がもたらす恩恵に資するように活用できる。
増大する
60%以下にとどまっている。多くの女性は不
アジア太平洋地域は全体として、貯蓄を投
当に長い時間を家事に割いているため、所得
資できる金融商品を充実させる必要がある。
創出の機会が損なわれている。過去 30 年か
現時点で多額の資金が国外に流れていること
ら 40 年の間に東アジア諸国が人口構成の変
は、国内の選択肢が不足していることを示し
化から恩恵を受けた背景には、女性の就労率
ている。重要な策の 1 つとして、債券市場の
が高まったことが貢献している。
整備が考えられる。これは企業のほか、急速
女性の就労を促す政策は、人口変化の恩恵
な都市化、さらにはインフラとサービスの拡
を十分に実現するうえで不可欠となろう。女
大への対応を図る地方自治体にとっても有用
性にとって平等な賃金と権利、職場や公共の
である。銀行その他の金融サービスは金融面
場での安全と安心、適切な育児休暇、信頼で
のリテラシーや教育への取り組みを進めるこ
きるリーズナブルな育児支援などを確保する
とによって、現在金融サービスを利用できて
政策が必要である。例えばマレーシアは、育
いない多数の人々や中小企業を支援すること
児を支援する補助金など、動機付けとなるメ
ができる。
リットを提供することにより、教育を受けた
女性をさらに多く再雇用するよう民間セク
ターに積極的に働きかけている。
活用が進んでいない国が多いものの、女性
7
移行の初期段階:
次世代の潜在能力の活用を
国は、経済協力開発機構(OECD)の格付け
でも世界トップレベルにある香港、日本、韓国、
シンガポール、台湾の成功例に倣うなどして、
教育の質をさらに高めなければならない。
現在、アジア太平洋地域が直面する最大の
保健面での優先課題としては、子どもと妊
課題の 1 つとして、17 億人に上る 25 歳未満
産婦の死亡率をさらに引き下げること、一部
人口にとっての教育や保健、雇用機会をいか
の場所で依然として高い栄養不良率を低下さ
にして拡大、改善し、意思決定におけるその
せること、および、思春期の子どもを含む若
エンパワーメントを図るかという問題が挙げら
年層を対象に性と生殖に関する保健サービス
れる。ある意味で、子どもや若者は人口構成
へのアクセスを確保することが挙げられる。
移行の出発点といえる。なぜなら、子どもの
日本、韓国、シンガポール、タイなどの国々は、
生存率が高まれば出生率が低下し、それによっ
場合によって資金不足を抱えながらも、普遍
て現役世代人口の割合が増えるからである。
的な保健サービスの普及と称賛に値する医療
政策立案者は若者を問題視する傾向がある
面の成果を達成している。太平洋島嶼国の中
が、若者は次世代の労働者であり、科学者で
にも、国による制度運営の模範例となってい
あり、革新者であり、起業家であり、予言者
るものがある。キリバスやサモア、ソロモン
であり、政治指導者でもある。持続可能な開
諸島、ツバルでは、自己負担分が医療費全体
発目標(SDGs)では、国際社会が子どもと
の 10%を切り、すべての国民がサービスを利
若者に対し、その権利と能力のすべてを実現
用できるようになっている。
できる育成環境の整備を誓約している。出世
できる適切なチャンスさえ得られれば、若年
学校から仕事への移行を円滑に
人口は大きな人間開発の成果を生み出し、人
口変化の恩恵を積み増す触媒の役割を果たす
若者の教育と技能へ
の投資は、人間開発と
将来の生産的な労働
力育成への鍵となる
のである。
次世代の潜在能力を活用するための重要な
施策としては、下記が挙げられる。
基本的能力への投資:
普遍的で質の高い教育と保健サービス
アジア太平洋地域では、求職活動を行って
も就職先がなかったり、自分の能力に見合わ
なかったりすることで、若者がなかなか社会
人として活躍できない。若者全体の実に 3 分
の 1 に当たる約 2 億 2000 万人は、学校にも
通わず、仕事もしていない状態にある。方向
性を持たず、社会人生活をスタートさせるこ
ともできない若者は不満を募らせるばかり
保健と教育は人権であると同時に、人間開
発の柱でもあるが、アジア太平洋地域の諸国
なっている。若者の期待が満たされなければ、
はこの両方の分野で前進している。しかし、
社会の一体性と安定も弱まりかねない。
サービスの普及、範囲や質という点では、大
学校から仕事への移行を円滑化するには、
きなギャップが残っている。これを埋めるた
就職への多くの障壁を取り払わなければなら
めには、教育への公共投資によって国際標準
ない。各国は教育制度を通じ、若者に労働市
を満たす一方で、医療制度では、持続可能な
場で要求されるスキルを身につけさせる必要
開発目標(SDGs)で要求される取りこぼし
がある。多くの場合、ドイツのような実証済
のない普及を目指す必要がある。
みのモデルを活用し、技術教育と職業訓練を
さらに取り組みが必要な分野としては、ジェ
ンダー、障がい者、地域格差の緩和が挙げら
れる。初等教育で実現した確かな前進を、中
8
で、その膨大なエネルギーと熱意は台無しに
拡大するとともに、その質を改善することが
必要である。
若者がインターンシップや徒弟制度を利用
等、高等教育でも達成する必要がある。また、
できる機会を作り出すとともに、雇用主に若
幼児教育プログラムは、子どもが将来的に成
者の雇用を促す動機付けとなるインセンティ
功できるチャンスを劇的に高めるものである
ブを提供することも可能だ。若者向けの進路
ため、これを拡大することが必要である。各
相談所を設けて、就職支援や訓練、ガイダン
スといったサービスを提供するのである。金
融、経営関連の技術支援、法律上のアドバイ
スを提供すれば、若手起業家にイノベーショ
ンの追求や、新たなベンチャーの立ち上げを
移行進展段階:
より長い人生を通じて
人間開発の持続を
促すことができよう。市場参入の障壁削減の
好例である韓国では、
「ユース・イニシアティ
2005 年、
アジア太平洋地域では史上初めて、
ブ」という仕組みを立ち上げ、資金提供や起
60 歳を超える人の数が 5 歳未満の子どもの
業研修をしている。
数を上回った。2050 年までに、この地域には
若者の参加を奨励する
12 億人の高齢者が暮らし、人口の半数は 50
歳を超えることになる。急速な高齢化は、早
急な対策を求める早期警報といえる。
民主的プロセスへの若者の参画は、その権
高齢化の管理は、課題と機会を伴う複雑か
利を堅持し、より効果的に開発を誘導するこ
つダイナミックなプロセスである。アジア太
とにつながる。アジア太平洋地域には、急速
平洋諸国の政府はこれまで、主として若者と
な経済成長を遂げつつある国が多いことか
現役世代を対象とする政策に主眼を置いてき
ら、若者を含め、革新的でダイナミックなリー
た。しかし、人口構成の動向を考えれば、人
ダーが必要である。若者は政策対話において、
間開発面で前進を続け、人口構成の移行によ
または国もしくは地方の政策決定機関への代
る利益を持続させることができるかどうかは、
表として、新たな知見や斬新な解決策を提供
高齢化が生活のあらゆる側面に影響するとい
できる。現在の若者の中には、これまでより
う認識のもとに、高齢化問題を国家開発計画
も多くの情報を有し、ソーシャルメディアや
全体に統合できるかどうかに大きく依存する。
インターネットを利用して不特定多数の人と
高齢化は危惧されることが多いものの、適
の商取引を可能にするクラウドソーシングな
切な計画策定と準備を行えば、個人にとって
ど、最新技術を活用して革新的な解決策を考
も社会にとっても豊かさの源となりうる。日
案することに熱心な者が多い。持続可能な開
本、ニュージーランド、タイなど一部の国々
発目標(SDGs)に関する議論にも積極的に
では、高齢化を専門に担当する閣僚ポストの
高齢化は個人と社会
参加した若者たちは今、それを実現しようと
設置など、ハイレベルの政治的決断によって、
を豊かにする要因と
準備を進めている。
前向きな対策が生まれている。
なる
若者のボランティア精神と市民参加は、地
高齢化を管理し、人間開発をさらに進める
域社会に膨大な価値をもたらす可能性があ
ための重要な施策としては、下記が挙げられ
る。共通の価値観や、社会的・市民的権利と
よう。
義務の意識を育てる市民教育も、もう 1 つの
優先課題である。フィリピンの有名な
「チェッ
ク・マイ・スクールプログラム」では、若者
適切な準備を行えば、
国民年金制度を公平、
十分かつ持続可能なものへと調整する
のボランティアを動員し、地元の学校の教育
資源を監視させることで、説明責任とコミュ
高齢者の貧困率が相対的に高い国が多いこ
ニティのニーズへの対応を確保している。こ
とは、年金制度を導入する強力な根拠となっ
のプログラムが大成功を収めた要因として
ている。伝統的な家族構造が変化する中で、
は、若者と地方自治体との信頼に基づくパー
自力で生計を立てなければならない独居高齢
トナーシップや、透明性と情報公開を重視し
者の割合が増えている。年金の支給は広がり
たことがあげられる。
を見せているものの、アジア太平洋地域で年
金に加入できる人々は全人口の半数に満た
ず、年金加入者でさえも、基本的な生活費を
賄える年金を受給できないことがある。公的
年金支出という点で、アジア太平洋地域は全
世界の平均に達しておらず、しかも高齢者の
9
割合が高いことを考えれば、状況はアフリカ
よりも悪いといえる。
多くの国では、年金制度の整備は喫緊の課
えて提供される必要がある。また、高齢者に
特有の保健サービスへのアクセス障壁を取り
除くことも、重点課題としなければならない。
題である。これは簡単なことではないし、費
介護施設の拡充も必要である。独居高齢者
用もかかる。世代間で優先課題を調整し、限
の割合が増えるにつれ、家庭でもコミュニ
られた資源を公平に分配する社会的なコンセ
ティでも、介護のニーズは高まるからである。
ンサスを作り上げる必要がある。一定の支出
訪問看護師や介護者の需要は増大している
抑制を促す適切な設計と、適正な制度的メカ
が、アジア太平洋地域のほとんどの国々では、
ニズムを構築する必要がある一方で、定年の
こうしたサービスはまだほとんど提供されて
引き上げをはじめとする支援的措置も検討が
いない。個人のニーズに見合った総合的で人
必要である。
間中心型の介護への投資が必要とされてい
原則として、年金給付が公平に共有され、
る。その他、高齢者向けのリハビリや高齢化
余裕のある人々には応分の負担を義務づける
による障がいのケア、精神衛生サービスの拡
ような形で、累進的な年金制度の確立を目指
充も優先課題である。特に農村部に暮らす高
す必要がある。仕事をしない誘因を与えるよ
齢者の保健サービスへのアクセスを改善する
うな過度に寛大な給付水準を定めることはせ
必要がある。
ずに、年金受給者全員について、不可欠な給
付の公正な最低額を定めるべきであろう。ア
活動的な高齢期を支える支援
ジア太平洋地域では、年金の普及や必要な給
高齢者医療と年金の
早期計画で、高齢化
への移行を円滑に
付、持続可能性を重視する必要がある。オー
高齢者の健康維持には、友人や家族、コミュ
ストラリア、チリ、デンマークでは、公的年
ニティとのふれ合いが必要である。地域各国
金と個人年金の連携を強めて基本的な社会保
で高齢化が進み、独居高齢者の数が増え始め
障を確保するとともに、所得の水準に応じた
る中で、高齢者のコミュニティは拡大し、ア
長期的な運用方法がモデルとして検討され始
クセス手段の確保はさらに重要となってく
めている。
る。高齢者に優しい居住・労働環境は、その
高齢者向けの医療制度改革
てサービスの提供を受ける能力を高め、経済・
行動を促し、傷害の危険を低下させ、自立し
社会活動への参加を促進する。中国、インド
急速な高齢化は、医療ニーズを変化させて
10
ネシア、
フィリピン、
ベトナムなどの国々では、
おり、医療制度においても、これに応じた改
高齢者の雇用機会を推進するため、新たなプ
善が必要とされている。近年、非伝染性疾病
ログラムと政策を導入している。
に関しては、糖尿病や心臓病といった高齢者
優先度の高い措置としては、運動能力と体
に多い病気を最小限に食い止めるための健康
力の低下した高齢者が住める住居、高齢者向
的な食生活や運動の習慣を含め、予防医療の
け在宅ケア・サービスの拡充、高齢者にとっ
重要性が指摘されている。一生を通じて非伝
て優しく、金銭的・物理的に利用可能な交通
染性疾病の予防、診断、管理および適切なケ
手段、整備の行き届いた障害物のない歩道、
アを支援する体制の強化がますます必要とさ
高齢者が安全に道路を横断するために十分な
れてきている。
時間を確保する交通信号、屋外で休憩できる
高齢になればなるほど医療が必要となる
場所、運動能力が低下した高齢者が利用でき
が、低所得世帯や独居高齢者などをはじめ、
る公共施設などが挙げられる。その他、ボラ
高齢者全員が医療費を負担できるわけではな
ンティア活動や社会奉仕に参加したり、公共
い。高齢者の医療費は多くの国々で、現役世
政策に関する議論に参加したりする機会も、
代よりも 3 倍から 4 倍程度高額になっている。
活動的な高齢期を実現する道といえる。中国
普遍的な保健サービスの提供は、人間開発に
やマレーシアなど、一部の国々は、諮問機関
とってきわめて重要な意味をもつ。各国にお
に高齢者枠を設け、高齢者が政策決定に重要
いては、保健サービスがこれらの問題を踏ま
な役割を果たせるようにしている。
それぞれの高齢者が、雇用継続の道を選べ
る権利を享受すべきであるが、アジア太平洋
地域の高齢者は他の開発途上地域と比較して
都市化による恩恵を
確かなものに
も、離職率が高い。高齢者の身体的、健康的
条件に配慮して、労働環境の包摂性を高める
急速な都市化により、アジア太平洋地域は
など、制度面、法律面、社会面、技術面での
変貌を遂げている。よりよい仕事や所得、質
障壁の除去に取り組む必要がある。企業に対
の高い教育と医療を求めて、アジア太平洋地
しては、柔軟な雇用条件で高齢の労働者を継
域全体で人々が農村部から都市部へと流入
続雇用するよう促すことができよう。職業再
し、新生活を始めている。アジア太平洋地域
訓練プログラムやトレーニングを提供すれ
では、人口全体の 47%が都市部で暮らして
ば、高齢の男女が新たな職業に就き、技術的
いるが、この割合は 2050 年までに 62%へと
な変化にも対応できるであろう。
膨れ上がる見込みである。
高齢化にまつわる
否定的なイメージの変革
歴史的に見ても、都市は教育や文化、芸術、
イノベーション、生産の中心地として、人間
開発を加速させてきた。都市化は人口構成の
移行をスタートさせるきっかけにもなる。し
高齢の男女にも、他の人々と同じ権利があ
かし、爆発的な成長の中で、都市には働きが
る。しかし、多くの社会では、加齢と高齢者
いのある仕事、適切な価格の住宅、質の高い
に対する否定的な意識が根深く残っている。
サービスの提供を求める圧力がかかっている。
その他の形態の偏見や差別的意識と異なり、
国際社会は一貫して、開発における都市の
これが疑問視されたりすることはめったにな
重要性を認識してきた。例えば、2012 年のリ
い。こうした意識によって、
仕事や投票、
納税、
オ+ 20 サミットの成果文書には「…統合的な
ボランティア活動、さらには子育てをはじめ
計画・管理アプローチによるものを含め、十
とする家庭でのきわめて重要な役割を通じ、
分な計画と整備を行えば、都市は経済面、社
高齢者が社会に対して提供できる貢献の多く
会面、環境面で持続可能な社会の構築を促進
が見過ごされがちだ。
する」という文言がある。持続可能な開発目
市は、持続可能な社
標(SDGs)でも目標 11 によって、持続可能
会を支える基盤となる
国民意識を高めるキャンペーンは、高齢者
に対する差別的な意識に立ち向かううえで重
な都市とコミュニティの構築を重視している。
要な役割を果たす。差別禁止法では、高齢者
都市化による恩恵を確実に実現するための
を明 示的に虐 待 や窮乏 から守るとともに、
ジェンダーや民族的属性、障がい、所得、性
的指向、HIV 感染または識字レベルなどのさ
十分に開発された都
重要な施策としては、下記が挙げられる。
より効率的な都市管理
まざまな差別の相互関係性にも注意を払うべ
きである。アジア太平洋諸国は、雇用面での
アジア太平洋地域には、人口増加に対応す
年齢に基づく差別を法的に禁じている「EU
るために必要な制度、政策、資源を欠いてい
枠組指令」を含め、高齢者の利益と権利の保
る都市が多い。特にガバナンスに関しては、
護を目的とする欧州連合のプログラムや政策
世界で最も遅れている部類に入る。都市化を
を手本とすることもできるだろう。
うまく管理できなければ、この地域では間も
なく、経済成長の勢いも人間開発の勢いも維
持できなくなり、人口変化がもたらす恩恵を
十分に享受できない可能性がある。
喫緊の優先課題として、国と地方自治体の
関係を見直し、単なる国内行政機構の改編を
越えた積極的なボトムアップ型アプローチへ
のシフトを図ることが挙げられる。その成否
は、国内法の基盤、各種機関の能力、および
11
地方分権化を管理し、政府の各レベル間の調
ての都市住民に提供される必要がある。移住
整を図るために必要な財政手段にかかってい
者や若者、高齢者、女性と女児、障がい者に
る。地方自治体は、必要な技術面と管理面の
ついては、特別の措置が必要となる。成功事
スキル、一般市民との関係構築能力、および、
例となるのがシンガポールである。アジアで最
地方公共政策を設計、実施、監視、評価でき
も環境に優しい都市として評価され、最高のビ
る充実した能力を備える必要がある。
ジネス環境と生活環境を兼ね備えたシンガポー
規模に関係なく、各都市における全面的な自
治権の行使対象となる行政区域をはっきりと定
ルは、かつて河川の汚染やインフラの不備と住
宅の大幅な不足に苦しんでいたからである。
めるとともに、国からの権限移譲を明確に定式
多くのアジア太平洋地域の都市で市民と政府
化する必要がある。地方行政能力が充実する
との間に存在する依然として大きな溝を埋めるに
につれ、都市は課税などを通じて、その都市
は、政府の説明責任を強化するとともに透明性と
での資金調達が可能となり、インフラ投資や運
開放性を高めることが必要である。市民の参加
用、維持管理をより組織的に計画できるように
は、コンセンサスを構築し、地域のサービスを地
なることが多い。最終的な発展段階に達した都
域のニーズにうまく適合させるうえで重要である。
市は、受益者負担金や地方債、官民連携など、
他の財政手段も追求できる。インドのアフマ
ダーバード市は、地元の資金動員に関連する改
コンパクトシティなど、
より密集度の高い都市成長パターンの追求
革を進めた結果、多額の資金を調達し、その
信用格付けを AA へと改善することができた。
都市の競争力と包摂性の強化
経済活動と人間開発の成果を推し進めるに
あたって、都市は膨大な量のエネルギーや水
などの資源を消費し、農村部よりも多くの廃
棄物を生み出す。アジア太平洋地域の都市の
競争力のある都市は、新たな産業や投資、
都市の包摂性と競争
多くは、世界で最も汚染されている。このま
熟練労働者を引きつけ、これによって力強い
までは、環境負荷がますます増加し、これを
経済成長を牽引する。競争力を決定づけるの
逆転させることは不可能になりかねない。都
力 を 高 める 戦 略 で、
はインフラ、教育研究機関、行政の質などで
市 化のペースを考えればなおさらである。
人口の恩恵を飛躍的
ある。これは能力の高い労働力を育成し、世
よって、今の時点から、より持続可能な都市
に 増 大させることが
代を超えたディーセント・ワーク(働きがい
に向けた歩みを進めるほうが、はるかに費用
のある人間らしい仕事)の創出を通じて人材
対効果が高いばかりか、持続可能な開発目標
可能
を吸収できるかどうかにかかっている。
都市の集約化を促進し、環境に優しいコン
域の一部の都市は、人材と投資を誘致し、市
パクトシティを目指すことは、欠かせない措
民に豊かさと良質の公共サービスを確保する
置の 1 つである。公共サービスのコストを高
ことで、大きな成功を収めている。しかし、
め、提供を難しくしかねない都市のスプロー
大量の移住者流入などの問題の対応に苦慮し
ル化を回避するためである。都市をコンパク
ている都市は、それよりもはるかに多い。不
トにすることによって、交通渋滞と温室効果
安定な電力供給や劣悪な道路、非効率な港湾
ガス排出量を劇的に削減できる。都市の面積
や不十分な学校といった深刻なインフラの問
拡大に歯止めをかけることは、集約的な都市
題に本格的に取り組む必要がある。地方の経
開発を促す 1 つの方法である。中国、インド、
済開発と雇用創出に向けた取り組みは、地元
日本、韓国などの国々は、1 人当たり炭素排
の企業や金融・教育機関とともに進めなけれ
出量の削減を含め、スマートなコンパクトシ
ばならない。
12
(SDGs)にも貢献することになる。
香港やシンガポールなど、アジア太平洋地
ティの実現を目指している。例えばソウル市
社会的疎外は人間開発にとって大きな障壁
は、再生可能エネルギーの割合を 2007 年の
となるため、強靭で躍動的な都市というのは一
1.5%から、2030 年までに 20%へと引き上げ
般的に包摂的で多様性に富んでいる。インフラ
ることを計画しているが、この半分程度が水
やサービス、働きがいのある雇用の機会はすべ
力発電によって賄われることになっている。
報告書本文の構成
アジア太平洋人間開発報告書では、現在お
よび近い将来におけるアジア太平洋地域の人
るには、どのような投資が必要かを検証する。
第 4 章では高齢化の問題を取り上げ、その課
口構成の変化を検討するとともに、各国が人
題を検討するとともに、高齢者の社会や経済
間開発を加速するために、人口構成移行期の
への貢献についても考察する。第 5 章では、
さまざまな局面を管理する適切なメカニズム
人口構成の移行を開始させ、加速させる都市
を備えているかどうかを検証する。本報告書
化について取り上げる。都市化を適切に管理
はまた、人口構成移行の結果であり、要因で
すれば、人間開発も改善できることを示す。
もある急速な都市化と移住という問題につい
第 6 章では、それまでの各章で提示された重
ても考察する。
要な政策オプションを取りまとめる。
同報告書本体の第 1 章では、人口構成の移
諸国家の真の資産は人間であり、その幸福
行と人口変化がもたらす恩恵という重要な概
こそが本報告書の主目的である。アジア太平
念を紹介し、アジア太平洋地域における主な
洋地域には歴史的に見て、人口変化がもたら
人間開発と人口構成の変化を概観する。第 2
す恩恵を享受できる期間が 20 年から 30 年程
章では、働きがいのある生産的な雇用と貯蓄
度しか残っていない国が多くある。このよう
の効果的投資に重点を置きながら、現役世代
な機会が再び訪れるとは考えにくい。包摂的
の割合が大きい国々で人口変化がもたらす恩
で、
すべての人々に開かれた人間の能力、
機会、
恵を最大限引き出すための方法について検討
自由の前進に根差す人口構成の移行は、極め
する。第 3 章では、移行の初期において、特
て大きな進歩へとつながる。そして、現在だ
に子どもと若者が健康に育ち、良質な教育を
けでなく、今後何世代にもわたって、人間開
受け、円滑に社会人へと成長できるようにす
発に膨大な恩恵を生み出すことになるだろう。
13
読者の手引き
国の分類
東南アジア(11 か国)
ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、
本報告書では、アジア太平洋諸国とは、国
連開発計画(UNDP)地域分類に基づき、ア
マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シン
ガポール、タイ、東ティモール、ベトナム
ジア太平洋地域に含まれる国々を指す。開発
途上国・地域、先進国・地域をともに含むア
オセアニア(17 か国)
ジア太平洋地域はさらに、東アジア、南アジ
オーストラリア、クック諸島、フィジー、キ
ア、東南アジア、オセアニアの 5 つの小地域
リバス、マーシャル諸島、ミクロネシア連邦、
に分類される。中央アジア、西アジアの 2 つ
ナウル、ニュージーランド、ニウエ、パラオ、
の小地域は、アジア太平洋地域の人口その他
パプアニューギニア、サモア、ソロモン諸島、
に関するデータから除外されている。
トケラウ、トンガ、ツバル、バヌアツ
本報告書で用いられる国または経済という
言葉は適宜、領域または地域のいずれかを指
統一性を維持するため、これら 45 の国と
す。中国の人口その他に関するデータには統
地域は可能な場合常に、すべてデータ表に掲
計上、香港、マカオ、台湾が含まれないため、
げられており、データ上の限界は注記で示し
これら領域または地域は本報告書においてそ
てある。データがないことはそれ自体、統計
れぞれ、香港、マカオ、台湾と表記されている。
能力を強化する必要性があるという調査結果
本報告書で用いられる名称および資料の表示
を示している。
は、いかなる領域、都市、地域の法的地位に
本報告書は、具体的ないくつかのデータ資
ついても、その国連加盟国としての地位につ
料による場合を除き、原則的に上記の国分類
いても、国連または UNDP の意見を何ら反
を用いている。世界銀行のデータについては、
映するものではない。
小地域分類が原則として世界銀行の分類に基
「先進国」および地域、
「開発途上国」およ
づいているため、東アジア、東南アジア、オ
び地域という表現は、統計上の便宜を図る意
セアニアの開発途上国が「東アジア・太平洋
図で用いられているものであり、特定の国ま
地域」として統合されている。国際労働機関
たは地域が開発過程で到達した段階に関する
(ILO)のデータについても、原則的に独自の
判断を必ずしも示すものではない。先進国ま
小地域分類が採用されているため、東南アジ
たは先進工業国とは原則として、経済協力開
アとオセアニアの開発途上国が「東南アジア
発機構(OECD)の加盟国を指している。
太平洋地域」として統合されている。
アジア太平洋地域には 42 の国と 3 つの地
域が含まれる。その構成は下記のとおり。
UNDP と世界銀行による分類の相違点は、
下記のとおりである。
東アジア・太平洋地域(開発途上国)
:24
東アジア(5 か国と 3 地域)
か国のうち 23 か国は UNDP と世界銀行の分
中国、朝鮮民主主義人民共和国、日本、韓国、
類で共通している。UNDP の分類にはナウル
モンゴルの 5 か国と、香港、マカオ、台湾の
が含まれるのに対し、世界銀行の分類には米
3 地域
領サモアが含まれている。
南アジア:世界銀行の分類には 8 か国が含
南アジアまたは南西アジア(9 か国)
まれる。UNDP の分類にはこれら 8 か国のほ
アフガニスタン、バングラデシュ、ブータン、
か、イランが含まれる。この相違を反映し、
インド、イラン、モルディブ、ネパール、パ
一部の統計表では「南西アジア」という表現
キスタン、スリランカ
が用いられている。
別途記載のない限り、
本文または表中の「ラ
15
テンアメリカ」にはカリブ諸国を含む。
別途記載のない限り、
「サハラ以南アフリ
カ」には南アフリカを含む。
データベース(www.uis.unesco.org/Data
Centre/)を参照した。
保健に関するデータは世界保健機関(WHO)
から入手した。
主なデータ資料
都市化に関するデータ
都市化に関するデータは、国連経済社会局
本報告書中のデータは下記に掲げるとおり、
いくつかの主要なデータベースを参照した。
の「世界都市化予測」データベースを参照し
た。最新データは 2014 年データベースから
入手した。この中には都市化率、都市部と農
人口構成データ
人口構成に関するデータは、国連経済社会
村部の人口分布、小・中・大都市および年齢
構成に関するデータが含まれている。
局の「世界人口予測」データを参照している。
最新データは 2015 年に改訂されたものであ
人間開発指数その他の
る。2015 年以降の予測については、出生率に
開発指標に関するデータ
関する中央推計値を用いているが、これによ
人間開発に関するデータは、UNDP 人間開
ると、全世界の出生率は 2010 年から 2015 年
発報告書室が『人間開発報告書 2015』向け
にかけての女性 1 人当たり子ども 2.5 人から、
に作成した 2014 年のデータ一覧を参照した。
2025 年から 2030 年にかけては 2.4 人、さら
付表には人間開発指数、ジェンダー開発指数、
に 2095 年から 2100 年にかけては 2.0 人に低
多次元貧困指数および不平等調整済み指数が
下すると見られている。
掲げられている。
本報告書では 5 つの年齢層を用いている。
本報告書全体を通じ、世界銀行の「世界開
子ども、若者および若年層はそれぞれ 0 〜 14
発指標」データベースや「ミレニアム開発目
歳、15 〜 24 歳、0 〜 24 歳と定義されている。
標(MDGs)
」データベースをはじめ、その
国や機関が異なれば、定義も異なる。本報告
他各種データ資料から入手した多くの開発指
書は比較対照性を確保するため、国連の定義
標も紹介されている。
を用いている。
現役世代の分類も、おおよその就職、退職
年齢に応じ、国や地域の間で異なっている。本
報告書では原則的に、15 歳から 64 歳の年齢層
を指している。60 歳以上は高齢成人層となる。
労働市場に関するデータ
アジア太平洋地域における現役世代の雇用
と職業を把握するため、労働市場に関する
データも広く用いられている。雇用や労働参
加率、失業、労働生産性、セクター別の雇用
内訳および賃金に関するデータは、ILO の
「主要労働市場指標」第 8 版のデータを参照
した。不完全雇用や労働市場外雇用に関して
得られるデータは限られているが、これらは
具体的な ILO 刊行物から入手した。
教育と保健に関するデータ
教育に関するデータは、ほとんどが国連教
16
育科学文化機関の統計研究所オンライン・
『アジア太平洋人間開発報告書』について
過去 25 年間にわたり、人間開発の理念は国際開発に関する議
示する指針に基づき決定される。報告書作成の各段階では、政
論に影響を及ぼしてきた。人間開発はまさに人間を中心に据え
府や民間セクター、学界、市民社会、メディアとのマルチステー
ることで、幸福を追求するための各種の政策や思想、行動に示
クホルダー協議も行われる。
唆を与えている。
報告書の主な執筆者となる UNDP 職員の中核グループは、内部
現在の開発課題をよりよく理解し、新しいアイデアや解決策に
分析に加え、著名な専門家が作成した技術背景報告書を参考に
脚光を当てるため、国連開発計画(UNDP)はグローバル版、
起草を行う。報告書の素案は UNDP 本部とアジア太平洋地域の
地域版、そして国別の人間開発報告書を発行している。
『アジア
国事務所、技術諮問グループのメンバー、各専門分野の読者グ
太平洋人間開発報告書』は、UNDP アジア太平洋局の代表的刊
ループ、UNDP の地域広報担当チームに回覧し、コメントと
行物である。報告書はこの地域に共通の関心事項に焦点を当て、
フィードバックを募集する。この査読プロセスは、品質保証に
各国と地域全体での対応を要する課題に取り組み、学びと知識
不可欠であるだけでなく、報告書のメッセージを強化すること
の共有を促す内容となっている。
にも役立つ。
報告書のテーマは、UNDP 内外の主要ステークホルダーとの協
この報告書はアジア太平洋地域の人々が対話を促進し、力を合
議を含む地域的な参加型プロセスを通じて策定される。報告書
わせて人間開発を加速し、全世界にそのメッセージを訴えかけ
の概念と構造は、各種国連機関からなる技術諮問グループが提
るためのツールである。
かけがえのない地球
腐敗対策と生活の転換:
力、声、そして権利:
気候変動の中で人間開発
の持続を
アジア太平洋で人間開発
の加速を
アジア太平洋における
ジェンダー平等の転換点
人間開発の
視点から見た貿易:
アジア太平洋の人間開発
に向け、貿易の転換を
アジア太平洋人間開発報告書
未来を創る:
人口構成の変化を
人間開発の原動力に
諸国家の真の資産は人間である。人間開発が歩む道のりは、国民がどのような機会を有し、
どのような選択を行うかによって決定される。世界人口の半分が暮らすアジア太平洋地域
ほど、このことが当てはまる地域はない。アジア太平洋地域の将来は、世界の将来を決定
づけるといっても過言ではないだろう。
その人口の規模に加え、アジア太平洋地域は歴史的な人口構成の過渡期を迎えている。す
べての国で若年世代、高齢世代、現役世代の割合の変化が始まっているのである。この変
化は、これまでの人間開発の成果を土台としつつ、これをさらに進める役割も果たす。そ
れを最大限活用するには、人々が健康で、教育を受け、生産的で、しかも人生のあらゆる
段階で幸福を享受できることが必要である。
今回の『アジア太平洋人間開発報告書』では、人口構成の変化を人間開発という視点から
検討する。そして、来るべき「人口変化がもたらす機会」と、大規模な「人口の恩恵」の
可能性について考察する。歴史的なスピードで人口構成が激変しつつあり、しかもそれが
永久には続かないことに鑑み、本報告書はアジア太平洋地域の諸国に対し、持続可能な開
発目標(SDGs)を達成するための潜在的な機会と課題を把握するよう強く訴えている。人
口構成のパターンを包摂的な方向へと導き、将来世代にわたってすべての人々に利益をも
たらせるよう、賢明な政策選択を行う時が来たといえる。
アジア太平洋人間開発報告書2016 概要版
2016 年 4 月
発行:国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前 5-53-70
UN ハウス 8F
www.jp.undp.org