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大局観――
先物と ETF のコスト⽐較
第二版
要旨
本レポートでは、S&P 500 トータルリターン指数を模した株価指数先物と ETF(上場投資信託)の
取引にかかる「総コスト」を、さまざまなシナリオと保有期間から⽐較します。
分析に⽤いた⾦融商品は、CME に上場する E-mini S&P 500 先物(ES)と米国の取引所に上場する
3 本の S&P 500 連動型 ETF(SPDR の SPY、i シェアーズの IVV、バンガードの VOO)です。
分析では、まず総コストの中身について詳しく⾒ていきます。最近、分析の前提条件となる「ロール
コスト=⾦融先物価格に組み込まれている資⾦調達⾦利」に変化がありました。この変数について深
く考察します。
4 つの⼀般的投資シナリオ(レバレッジなし、レバレッジあり、空売り、米国外の外国⼈投資家)か
ら、任意の保有期間における指数連動商品の総コストを計算しました。
分析の結果、レバレッジあり、空売り、外国⼈投資家のシナリオでは、保有期間にかかわらず、「先
物か ETF か?」という⼆者択⼀の問題ではないと分かりました。どのシナリオでも、E-mini S&P
500 先物のほうが S&P 500 連動型 ETF よりもコスト効率が良かったからです。
レバレッジなしの場合、先物のロールコストと保有期間が選択のカギとなりました。先物のロールコ
ストが Libor を下回った場合は、明らかに先物が有利です。ロールコストが Libor を上回った場合は、
最もコスト効率の良い代替⼿段が保有期間とロールコストの高さによって変わります。
最も安い選択肢
シナリオ
ロールコストが割安
ロールコストが割高
(3 カ月物米ドル Libor よりも低い)
(3 カ月物米ドル Libor よりも高い)
レバレッジなし
先物
保有期間とロールコストの高さによる
レバレッジあり(2 倍、8 倍)
先物
先物
空売り
先物
先物
外国⼈(米国外)
先物
先物
シナリオ:レバレッジなし、ロールコストが 3 カ月物米ドル Libor よりも割高
以下の保有期間でロールコストの割高分がその数値以下であれば、
3 カ月物米ドル Libor
との開き
どの投資家にも E-mini S&P 500 先物のほうが ETF よりもコスト効率が良くなる
30 ⽇間
60 ⽇間
90 ⽇間
180 ⽇間
1 年間
2 年間
4 年間
+51bps
+30bps
+20bps
+11bps
+6.3bps
+4.0bps
+2.9bps
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1
はじめに
指数連動型商品の総コストは、⼤きく2つに分けられます。
取引コストと保有コストです。
本レポートでは、S&P 500 トータルリターン 1 指数を模
した株価指数先物と ETF の取引にかかる総コストを⽐較
しました。
取引コスト
ETF と先物を利⽤する理由は、実にさまざまです。したが
って「効率が良いのはどちらの商品か?」という疑問に
“これで⼗分”という解答はありません。最適な判断は、利
⽤者自身とその取引の詳細にかかっています。
それを踏まえたうえで今回、4 つの⼀般的投資シナリオ
(レバレッジなし、レバレッジあり、空売り、米国外の外
国⼈投資家)から、指数連動型の先物商品と ETF 商品の
コストについて⽐較してみました。これらのシナリオが、
どちらの商品であれ、あらゆる可能性に適した代表例にな
るわけではありません。しかし、利⽤例の⼤半は網羅して
いるでしょう。今回のシナリオ分析は、投資家が実際に利
⽤について判断するとき、考慮すべき要素として役⽴つは
ずです。
今回の⽐較分析には、CME に上場する E-mini S&P 500
先物(ES)と、米国の取引所に上場する 3 本の ETF――
SPDR S&P 500 ETF(SPY)、i シェアーズコア S&P 500
ETF(IVV)、バンガード S&P 500 ETF(VOO)を⽤い
ました。
コスト推定値と前提条件
本レポートの目標は、S&P 500 トータルリターン指数を
模した株価指数先物と ETF のポジションを任意の期間保
有したときのコストを数値化することです。今回はその前
提条件として、中規模の機関投資家が 1 億ドル相当の注文
をブローカーに出して執⾏した形としました(つまり直接
市場アクセス=DMA ではありません)。
取引コストはポジションを建てたときと落としたときに発生
する費⽤です。保有期間に関係なく、すべての取引に均等に
かかります。
執⾏⼿数料:取引コストの構成要素で、まず挙げられるのが
執⾏⼿数料です。注文を執⾏したブローカーが徴収します。
その⾦額は、当事者同⼠の交渉で決定するため、利⽤者によ
って異なります。今回は E-mini 先物 1 枚当たり 2.50 ドル
(0.25bps)、ETF 1 ⼝当たり 2.5 セント(1.25bps)が注
文の執⾏にかかるとしました 2。
マーケットインパクト:取引コストの構成要素で、次に挙げ
られるのがマーケットインパクトです。自らの注文を執⾏す
ることで相場が不利に動いた値幅を指します。
マーケットインパクトの数値化は非常に困難です。注文が取
引所に直接、無条件で回送される最も簡単な例であれば、注
文が市場に⼊る直前の価格と約定値の差で明確に決められま
す。しかし、注文を 4 分の 1 ずつ執⾏したり、前⽇の加重
平均価格を指値にしたりするなど、執⾏⼿段が洗練され、注
文執⾏までの時間が⻑くなるほど、その取引が「原因」で生
じるマーケットインパクトと、その取引に「無関係」な値動
きを区別する難しさが増していくのです。
今回の分析では、仮に執⾏したときに予想されるマーケット
インパクト(予想インパクト)の推定値を⽤いることにしま
した。特定の取引による実際のマーケットインパクトではあ
りません。統計ベースの推定値ですので、個々の執⾏で起こ
るマーケットインパクトと非常に異なる可能性があります。
1
価格変動による評価損益に配当収⼊を加えたもの。
2
これらの料率は、機関投資家向け執⾏⼿数料の典型的なレンジの「中央値」となります。執⾏⼿数料は短期売買のトレーダーにとって
⼤きな問題のひとつです。しかし、ここでは⻑期的な分析をしているので、総コスト的には些細な問題にすぎません。
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2
なお、予想インパクトの推定値を出すにあたっては、S&P
500 に連動する各商品間で発生する流動性の伝達について
考慮しておきたいところです。
今回⽐較している商品のどれかに投資家が注文を出せば、
それに向かう流動性供給者(リクイディティプロバイダー)
は、先物、ETF、あるいは指数を複製した株式ポートフォ
リオのうち、最も安価な代替⼿段でヘッジをするでしょう。
これが S&P 500 商品全体の流動性「プール」をかさ上げ
します。つまり、各商品が他の商品の流動性から恩恵を受
け、すべての商品が流動性を増⼤させていくわけです。
ブローカーからの概算と CME グループ独自の分析に基づ
き、今回想定した取引⾦額である 1 億ドルの注文による予
想インパクトを、ES 先物で 1.25bps、SPY で 2.0bps、
IVV と VOO で 2.5bps と推定しました。
これらの数値の正当性を確認しておきましょう。ES 先物
の 2015 年 1 ⽇平均出来高は取引⾦額ベースで約 1730 億
ドルです(表1)。1 億ドルはその 0.06%にすぎません。
したがって、予想インパクトの推定値 1.25bps は、ES 先
物 1 ティックの刻みと同等であり、適当といえます。
表1
流動性⽐較
商品
市場規模・取組高
(10 億ドル)
1 ⽇平均出来高
(100 万ドル)
ES
285.0
173,102
SPY
172.9
25,311
IVV
66.1
909
VOO
40.2
382
市場規模・取組高は 2016 年 2 月 1 ⽇現在。
1 ⽇平均出来高は 2015 年全体。
出所:CME Group と Bloomberg.
SPY の流動性は ES 先物のほぼ 7 分の 1、IVV と VOO の
流動性は「合わせて」も ES 先物の 130 分の 1 です。そ
のため、これらの商品の予想インパクトが極めて低く推定
されているようにみえるかもしれません。
3
しかし、S&P500 商品全体の流動性プール効果と各商品間の
転換にかかるフリクショナルコストを勘案すると、SPY に
0.75bps、IVV と VOO に 1.25bps の割り増しで適当といえ
るでしょう。したがって、予想インパクトの推定値は、それ
ぞれおよそ 1.5bps と 2.5bps となります。
保有コスト
保有コストは、ポジションを保有する期間にわたって生じる
費⽤です。こうした費⽤は⼀般的に時間とともに直線状に増
加します。例えば、ETF では⽇々、信託報酬が発生します。
ただし、断続的に発生するものもあります。例えば、先物に
ロールオーバー(限月乗換)が発生するのは年 4 回(四半期
ごと)です。
ETF と先物で保有コストの中身が違います。それは両者の構
造が非常に異なるからです。
ETF:保有コストとなるのは信託報酬です。指数のリターン
を複製するためのサービス(⼀般的には対象となる株式ポー
トフォリオの購⼊・維持)に対し、ファンドが徴収します。
今回の分析で取り上げた 3 本の ETF は、信託報酬が年 5.00
〜9.45bps でした。
また、保有コストとなりそうなものがあります。トラッキン
グエラーです。これはファンドのリターンと対象とする指数
のリターンとのズレです(信託報酬の適⽤以外で)。しかし
今回の分析では、このリスクを無視します。今回取り上げた
ETF では、そのような問題が発生したことはなく、ブレやイ
ンパクトをもたらすだけの逸脱があるとは、ほとんど想像が
つかないからです。
先物:先物はデリバティブであり、レバレッジがあります。
ETF と異なり、最初の取引で買い⼿が売り⼿に取引⾦額を丸
ごと支払う必要がありません。両者に⾦銭のやり取りはなく、
買い⼿も売り⼿も取引⾦額の約 5.2%3 にあたる証拠⾦を差
し⼊れます。そして清算機関(クリアリングハウス)が約定
した取引に対する両者の債務を保証します。
本稿執筆時、E-mini S&P 500 先物に請求される証拠⾦は 1 枚当たり 4700 ドルでした(1 枚の取引⾦額はおよそ 9 万 1300
ドル)。なお、証拠⾦額は⼀定ではありません。
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4
図 1 S&P 500 先物の平均ロールコストとその変動幅 7
80
60
40
(20)
(40)
Average Weighted Roll (3 Weeks Prior to Expiration)
High Low Average Daily Roll Rate Range
売り⼿は話が逆になります。ETF の空売りでは現⾦が生じるので、そこに⾦利収⼊が生じます。しかし、先物の売りでは現⾦が生じま
せん。その代わり、ロールコストで補われます。
5
今回の分析では、⼝座に置かれた現⾦の利回りに「レンジ中央値」を⽤いています。他の前提条件でも同様です。
6
Goldman Sachs, “Futures-Plus”(2015 年 1 月 22 ⽇)
7
⻘⾊の折れ線グラフは満期 3 週間前からのロールコストの割高分を加重平均で出しています。灰⾊の棒グラフが⽰しているのは、その
期間でのロールコスト 1 ⽇平均の最高値と最安値です。
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Dec-15
Jun-15
Sep-15
Mar-15
Dec-14
Jun-14
Sep-14
Mar-14
Dec-13
Jun-13
Sep-13
Mar-13
Dec-12
Jun-12
Sep-12
0
Mar-12
20
Dec-11
この保有コストは、先物を買い、利付預⾦⼝座で相当額の
現⾦を維持すると生じます。先物価格をとおして取引⾦額
にかかるロールコストを払い、⼝座にある相当額の現⾦か
ら⾦利(3 カ月物米ドル Libor=「3mL」に相当すると考
えられる 5)を受け取るのです。支払ったロールコストと
受け取った⾦利の差が、ポジションの保有コストとなりま
す。それがロールコストの割高・割安に相当するわけです。
しかし、2012 年以降はロールコストの変動が激しくなり、
さまざまな水準で取引されるようになります(図 1)。
2013 年は平均+35bps、2014 年は+26bps、2015 年は+
8bps と、それぞれ割高でした。
Jun-11
⼗分な資⾦⼒のある(ポジションの取引⾦額に相当する現
⾦を有している)投資家にとって、ロールコストが割高で
あるか割安であるかは、単なる「理論的」な問題ではあり
ません。割高分が先物で指数を模した場合の保有コストと
なるからです。
歴史的に Libor と ES 先物のロールコストの開きは、あらゆ
る ETF の最も低い信託報酬よりも低額です。しかも 2002〜
2012 年の 10 年間、ES 先物のロールコストは Libor のフェ
アバリュー6 を平均 2bps 下回っていました。
Sep-11
ロールコストと同期間の米ドル Libor を⽐べれば、Libor
との開きが分かります。つまり、先物のロールコストが
「割高=ロールコストが Libor よりも高いプラスの開き」
なのか「割安=ロールコストが Libor よりも低いマイナス
の開き」なのか分かるのです。
信託報酬と異なり、四半期限先物のロールコストは、⼀定で
はありません。市場の需給要因や裁定機会によって決まりま
す。
Mar-11
市場がこうした調達資⾦に課している⾦利のコストは、先
物価格から推測できます。この⾦利コストは、あらゆる先
物の価格に組み込まれていますが、最も簡単に推測できる
のは、先物をロールオーバーするときです。そのため、こ
の⾦利コストは、よく「ロールコスト」と呼ばれます。
先物のロールコストについての考察
Financing Spread vs. 3mL
ETF では信託報酬を支払うのに対し、先物では買い⼿は、
単に指数のリターンを複製するためだけでなく、自⼰資⾦
でそれをするため、実質的に売り⼿に支払っているものが
あります。それは、そのために「調達した」資⾦ 4 にかか
る⾦利です。この⾦利は先物価格の構成要素のひとつにな
ります。
S&P 500 が⼀貫して強いリターンを出していた 2012〜
14 年(年平均 20.2%の成⻑率)、普通の売り⼿は規模を
縮⼩しました。機関投資家が売りを抑え、ポジションを買
い偏重としたのです。
そのため、まだ売り⼿側にいる流動性提供者(例えば、売
り専門トレーダー、ヘッジファンド、米系銀⾏)への需要
が高まりました。結果、どこもバランスシートからの資⾦
調達が拡⼤し、図1にあるように、ロールコストに上押し
圧⼒がかかったのです。
2015 年になると S&P 500 は低迷します。リターンは-
0.73%です。しかも 2015 年下半期から 2016 年初めに
は、株式市場のボラティリティが息を吹き返しました。こ
れによって市場に普通の売り⼿が増え、ロールコストに下
押し圧⼒がかかったのです。
この⼀連の展開とロールコストの低下から分かることがあ
ります。ロールコストがいくつか複雑な要因に左右される
こと、そしてロールコストの上押し圧⼒となった前述の要
因は、市場で永続的に変化するものではないということで
す。いいかえれば、ひとつの要因でロールコストの割高が
⼤きく左右されることはありません。
例えば、コールコストが割高になった⼤きな要因として、
流動性提供者の⼀部(例えば、銀⾏)に規制的・資本的圧
⼒がかかったからと考えるかもしれません。しかし、そう
だとすれば、割高だったロールコストが、2014 年 12 月
〜2015 年 12 月に 50bps も下がらなかったでしょう。そ
の間、米国では規制や資本規則に変化もなければ緩和もな
かったのです。
続く 2014 年 12 月に、ロールコストは反発しました。これ
は年末効果がまだあることを⽰唆しています。そして 2015
年は、相場環境に変化があり、市場の買い偏重に再調整が⼊
り、また割高なロールコストから利益を出そうと新たに市場
に参⼊する動きがあったことから、ロールコストは 2012 年
の水準まで安くなりました。2015 年 9 月と 12 月には、ロ
ールコストが Libor を下回っています。
そこで今回の分析では、ES 先物と S&P 500 連動型 ETF を
⽐較評価するとき、さらに 2 つの場合に分けることにしまし
た。ひとつはロールコストが 3mL を 20bps 上回っている場
合(3mL+20bps=2014〜2015 年の平均)、もうひとつ
はロールコストが 3mL を 5.7bps 下回っている場合です
(3mL-5.7bps=2015 年下半期の平均)。
以上、分析に⽤いられるコスト推定値を表 2 にまとめました。
四半期ごとに先物をロールオーバーするための執⾏⼿数料は、
取引コストと同じとします。したがって、ロールオーバーを
するたびに 2 倍(仕切りと仕掛け)の執⾏⼿数料がかかるこ
とになります。
表 2 前提条件まとめ(bps)
商品
執⾏⼿数料
マーケット
インパクト
保有コスト
ES
0.25
1.25
20.0 または -5.7
SPY
1.25
2.00
9.45
IVV
1.25
2.50
7.0
VOO
1.25
2.50
5.0
2014 年にロ ールコ ストが 再び正常化し始 め、3 月・
6 月・9 月のロールコストは、平均して 17bps にすぎま
せんでした。これは 2012 年 12 月〜2013 年 12 月の水
準の半分以下です。特に 9 月は 7bps にまで下げて取引さ
れています 8。
8
出所:CME Group Equity Quarterly Roll Analyzer tool
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シナリオ分析
図 2 レバレッジなしの投資家(6 カ月保有)
16
14
12
Total Cost (bps)
前提となる取引コストと保有コストの推定値が揃いました
ので、ここからはさまざまなシナリオから指数を模した先
物と ETF の総コストを算出していきましょう。本レポー
トでは 4 つのシナリオ(レバレッジなし、レバレッジあり、
空売り、米国外の海外投資家)について考察していきます。
いずれのシナリオでも算出するのは、最⼤ 12 カ月の保有
期間における総コストです。
10
8
6
4
どのシナリオも、取引コスト(往復の執⾏⼿数料と仕掛け
時のマーケットインパクト)は同じとします。先物のロー
ルコストは四半期限月が満期となる前の水曜⽇で評価する
ことにしました。
2
Holding Period
ES Futures (+0.20%)
なお、各シナリオでは特に説明していませんが、先物の保
有コストはすべて CME の清算機関に預託された証拠⾦で
調整され、証拠⾦には⾦利収⼊がないものとします。現在
の⾦利では、そのインパクトは年 1.3bps ほどです。
シナリオ 1
レバレッジなし
レバレッジを使わない投資家にとって、任意の期間中、指
数連動商品の取引にかかる総コストは、取引コストに保有
コスト(年間の相応分)を合わせたものになります。
図 2 に指数を模した先物と ETF のコストを表しました。
横軸が 6 カ月までの期間となっています。保有期間を
1 月から 6 月とし、取引コストと保有コストは表 2 の推定
値を使いました。
各グラフの始点(縦軸との交点)は、往復の取引コストを
⽰しています。先物は 2.9bps、ETF は 6.5〜7.5bps です。
⼤半のグラフが時間の経過とともに上昇しており、年間保
有コストが徐々に付加されていくと分かります。先物のグ
ラフで少し飛び跳ねている部分があるのは、四半期限月の
先物をロールオーバーしたときのコストによるものです。
ES Futures (-0.06%)
SPY
IVV
VOO
先物のロールコストが+20bps 割高の場合、ETF の年間信
託報酬のほうが先物の保有コストを下回ります。そのため、
ETF のグラフのほうが先物のグラフ(実線)よりも緩やかな
上昇傾向を描きました。
しかし、先物のロールコストが割安の場合は、話が逆です。
先物のグラフ(点線)は下降線を描き、Libor よりも安い部
分はロールオーバーのコストを割り引いています。つまり、
先物のロールコストが-5.7bps 割安の場合、ETF の信託報
酬が先物の保有コストよりも上にあり、この乖離した関係が
いつまでも続くのです。
保有期間が短いと、ETF の取引コストが高めなので、ロール
コストが割高か割安かにかかわらず、先物のほうが経済的に
魅⼒的といえます(先物のグラフが全 ETF のグラフの下に
あるかぎり)。したがって、より積極的、戦術的、短期的な
トレーダーにとっては、特に先物が魅⼒的といえるでしょう。
⻑期型のトレーダーに影響するのは、ロールコストの蓄積具
合です。先物のロールコストが割高であれば、ETF のほうが
効率的な代替⼿段となりますが、割安であれば、先物のほう
が効率的となります。
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ロールコストが 3mL+20bps の場合、ETF のほうが効率
的な代替⼿段となる変わり目は 4 カ月目です。具体的には、
VOO と交わるのが 91 ⽇目、続いて SPY が 94 ⽇目、IVV
が 104 ⽇目にありました。
しかし、ロールコストが 3mL-5.7bps の場合、ETF のグ
ラフと交わることは決してありませんでした。先物のほう
が、いつまでもコスト効率の良い代替⼿段です。
なお、割高から割安に変われば、先物のコスト効率が良く
なるとなるわけではありません。ETF の信託報酬に対して、
先物のロールコストと Libor の開きが、どれだけあり、ど
れだけ続くかにかかっています。
例えば、先物のロールコストが割高でも 3mL+2.9bps 未
満であれば、4 年にわたる保有期間で、先物のほうが ETF
よりも効率的なままでしょう。ETF の保有にかかる信託報
酬ほど、ロールコストがリターンの足かせとならないから
です。
図 3 は、保有期間を 12 カ月に延ばして分析した結果です。
ロールコストが 3mL+20bps の場合、ETF のほうが先物
よりも 10.3〜13.7bps 安く済むと分かります。しかし、
ロールコストが 3mL-5.7bps の場合、先物のほうが ETF
よりも 12.0〜15.5bps 安く済む結果となりました。
図3
株価指数先物はレバレッジ商品です。投資家は取引所に約
5%の証拠⾦を差し⼊れます。つまり、そのポジションに
20 倍を超えるレバレッジがかかっています。
今回取り上げた ETF はレバレッジ型ではありません 9。しか
し、投資家がレバレッジを望めば、信⽤買いができます。
先物との違いは、レバレッジが可能な⼤きさです。米証券取
引所法のレギュレーション T と U では、信⽤買いを望む投
資家にブローカーが貸し付けられる⾦額が限定されています。
レギュレーション T では、購⼊価格の最⼤ 50%の額を貸し
付けることができます。したがって、レバレッジは最⼤ 2 倍
です。プライムブローカーからポートフォリオ保証⾦を認め
られている洗練された投資家であれば、レギュレーション U
のもと、6〜8 倍のレバレッジをかけられる可能性がありま
す。しかし、8 倍を超えるレバレッジをかけることができま
せん。
レバレッジをかけて購⼊した ETF の保有コストを出すため、
標準的なプライムブローカーが機関投資家向けに貸し付けて
いる資⾦に付く⾦利を 3mL+40bps とします。
まず、レバレッジが 2 倍のときについて分析しましょう。投
資家は 5000 万ドルの資⾦で 1 億ドルのリスクを取ることに
なります。
26
24
22
20
Total Cost (bps)
レバレッジあり
レバレッジが 2 倍
レバレッジなし(12 カ月保有)
28
18
ETF 投資家は、まずファンド購⼊時に代⾦を全額支払う必要
があるので、プライムブローカーから 5000 万ドルを借り⼊
れます。したがって、レバレッジをかけたポジションの保有
コストは、レバレッジなし(シナリオ 1)のコストに、借り
⼊れた 5000 万ドルにかかる⾦利 3mL+40bps を加えたも
のです。
16
14
12
10
8
6
4
2
Holding Period
ES Futures (+0.20%)
9
シナリオ 2
ES Futures (-0.06%)
SPY
IVV
VOO
先物には借り⼊れの問題がありません。5000 万ドルを有し
ている投資家はすでに約 10 倍のレバレッジに必要な証拠⾦
を預託しているからです。むしろ懸念されるのは、差し⼊れ
た資⾦がロールコストの割高分(3mL の基準線を超える部
分)の支払いに足りなくなる場合です。
今回の分析では、レバレッジ型 ETF を対象外としました。リターンに経路依存性があり、標準型 ETF や先物と⼤きく異なるからです。
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レバレッジなしの場合、投資家が預けた 1 億ドルに 3mL
の⾦利がつくと想定しました。したがって、ロールコスト
の 3mL 分を相殺できます。残るは、Libor との割高分
(もしくは割安分)だけであり、つまりはポジションの保
有にかかるコスト(もしくはクレジット)です。
レバレッジ 2 倍のとき、預ける現⾦の額は 5000 万ドルま
で下げられます。しかし、投資家の預け⾦に発生する⾦利
では、取引⾦額(1 億ドル)にかかるロールコストの
3mL 分のさらに半分(5000 万ドル)しか相殺できません。
したがって、レバレッジ 2 倍のとき、取引⾦額の残る半分
で 3mL 分の資⾦調達コストがあるうえに、レバレッジな
しのシナリオで説明したように、取引⾦額(1 億ドル)に
かかるロールコストの割高分(3mL を超える部分)がコ
ストとして加わります(ただし、ロールコストが 3mL を
下回っていれば差し引かれます)。
つまり、レバレッジ 2 倍で先物を保有するシナリオでは、
レバレッジなしのシナリオに加えて、新たに 5000 万ドル
分の 3mL ⾦利コストが発生するわけです。
図 4 の点線は、指数を模した先物をレバレッジ 2 倍で 12
カ月間保有したときの総コストの推移です。
図 4 レバレッジ 2 倍と 8 倍の総コスト(12 カ月保有)10
110
100
90
Total Cost (bps)
80
70
60
50
レバレッジが 8 倍
レバレッジが 8 倍のときも、先ほど同じ流れで分析しましょ
う。この場合、1250 万ドルの資⾦で 1 億ドルのリスクを取
ることになります。したがって、ETF 投資家は、プライムブ
ローカーから 8750 万ドルを借り⼊れることになります。⼀
⽅、先物投資家は、預ける資⾦を 8750 万ドル減らせます。
図 4 の実線から、レバレッジ 8 倍で取引したときのコスト
を⽐較できます。借⼊資⾦の増加で、プライムブローカーか
らの資⾦調達で増加した ETF ポジションの借⼊コストは、
先物にレバレッジをかけて増加したロールコストよりも拡⼤
していきました。レバレッジ 8 倍では、取引⾦額の 87.5%
で 40bps のコスト差が生じています。その結果、ETF の保
有コストは先物よりも 35bps 高くなりました。
ロールコストが 3mL+20bps の場合、保有期間 1 年で、
先物のほうが ETF よりもレバレッジ 2 倍時は 8.2bps、
レバレッジ 8 倍時は 23.2bps、コスト効率が良いとい
う結果になりました。ロールコストが 3mL-5.7bps の
場合(2015 年下半期の水準)、先物のほうが ETF より
も、レバレッジ 2 倍時は 33.9bps、レバレッジ 8 倍時
は 48.9bps、コスト効率が良くなっています。
40
30
20
10
Holding Period
Avg. ETFs, 2x
Avg. ETFs, 8x
10
図 2 と 3 のレバレッジなしのシナリオと⽐べてみてくださ
い。総コストは先物でも ETF でも増えています。しかし、
ETF にはプライムブローカーから借り⼊れた資⾦に対して
Libor に上乗せをした⾦利が付くため、ETF を保有するコス
トが先物よりも年 20bps 増加しているのです(取引⾦額の
半分で 40bps のコスト差があります)。結果、先物のほう
が、期間にかかわらず経済的な選択肢となりました。
ES Futures (+0.20%) 2x
ES Futures (+0.20%) 8x
ES Futures (-0.06%) 2x
ES Futures (-0.06%) 8x
なお、今回の分析では、3mL を現在の約 0.60%で分析して
います。3mL が上昇すれば、レバレッジでリスクを取って
いる部分のコスト(絶対額)は、どちらの商品でも増加する
でしょう。しかし、ETF と先物の保有コストの違いは、3mL
(絶対レート)の関数で出すのではなく、預けた資⾦と借り
⼊れた資⾦の差の関数で出しているのであり、それは 3mL
がどうなっても変わりません。
グラフを分かりやすくするため、図 4〜6 では、SPY と IVV と VOO の総コストを平均して表⽰しました。個々の結果は、期間にかかわ
らず、その平均値から±2bps の範囲内にあります。
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シナリオ 3
空売り
空売りは悲観的な相場観からリスクを取ります。本質的に
レバレッジを利⽤した取引です。
ETF の空売りでは、プライムブローカーから ETF を借り
る形でレバレッジを発生させます。借りた ETF を売却し
て得た現⾦は、プライムブローカーにそのまま預けなけれ
ばなりません。売り⼿は ETF を貸してくれた相⼿に、貸
株料をいくらか支払います。ただし、売却して得た現⾦に
付いた⾦利で、ある程度は控除されます。
プライムブローカーの貸株料を典型的な数字である年
40bps11 としました。したがって、売却代⾦からのリター
ンは 3mL-40bps となります。
空売りで得た現⾦に加え、投資家は取引⾦額の半分にあた
る現⾦を保証⾦としてブローカーに預託しなければなりま
せん 12。この追加⾦には 3mL の⾦利収⼊があるとします。
⼀⽅、デリバティブ商品である先物の売り⼿は、株を借り
る必要もそれに伴う料⾦を支払う必要もありません。先物
の売りは、買いと同じです。清算機関に同額の証拠⾦を差
し⼊れます。
先物と ETF の売りポジション(レバレッジ 2 倍)にかかる
保有コストは、以下のように分類できます。
先物
1) 先物ポジション(取引⾦額 1 億ドル)のロールコスト
(3mL+20bps)分を受け取る
2) 現⾦ 5000 万ドルに付く⾦利(3mL)を受け取る
ETF
1) 信託報酬(5.00〜9.45bps)を受け取る
2) 売却代⾦ 1 億ドルに付く⾦利(3mL-40bps)を受け
取る
3) プライムブローカーに預託した保証⾦ 5000 万ドルに
付く⾦利(3mL)を受け取る
図 5 の下降しているグラフが⽰しているように、どちらの場
合も、時間の経過とともに保有コストが減少していきます。
つまり、売りでは、対象となる指数よりも良いリターンとな
っていくわけです。
図 5 先物と ETF の売り(12 カ月)
20
10
0
(10)
Total Cost (bps)
(20)
売りポジションのコストを分析するうえで忘れてならない
のは、買い⼿の保有コストが売り⼿にとっては有利になる
ことです。ETF の信託報酬は、その成績が対象となる指数
を下回る構造的原因となります。しかし、ETF の売り⼿に
とっては超過リターンとなるのです。同様に先物のロール
コストが割高だと、先物の売り⼿にとっては有利となりま
す。
(30)
(40)
(50)
(60)
(70)
(80)
(90)
(100)
(110)
Holding Period
ES Futures (+0.20%)
ES Futures (-0.06%)
Avg. ETF
11
貸株料(40bps)と信⽤買いのため借り⼊れている資⾦に払う⾦利(3mL+40bps)と合わせて、80 bps をプライムブローカーは上乗
せしています。これはプライムブローカーが提⽰する条件の「中間」にあたり、市場標準と同じです。
12
ポートフォリオ保証⾦を利⽤すれば、さらにレバレッジをかけられるでしょう。しかし、ここでは 2 倍のケースだけを取り上げることに
しました。
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ただし、ロールコストの割高・割安にかかわらず、また期
間にかかわらず、先物のほうがコスト効率の良い⼿段とな
っています。プライムブローカーが ETF に課している取
引コストと借⼊資⾦に上乗せされる⾦利のほうが高いから
です。
今回の分析に⽤いた 3 本の ETF は、すべて四半期ごとの分
配で、ETF が保有している株式から受け取った配当を、ファ
ンドを通して支払う形です。S&P 500 の配当利回りは約
2.15%なので、源泉徴収によって、外国⼈ ETF 投資家には
年 64.5bps の保有コストが追加されることになります。
数学的かつ理論的には、先物のロールコストが Libor に対
してあまりにも割安で、プライムブローカーから受け取る
⾦利が少なくなると、売りシナリオでもコストは上昇傾向
になるといえます。しかし、S&P 500 商品に相互依存の
関係があるかぎり、現実には起こり得ません。ロールコス
トが割安の場合、プライムブローカーは、対象となる
S&P 500 のリターンを上回り、連動させていくために、
先物のコールコストの割安分を⼩さくしなければならない
でしょう。したがって、通常は時間の経過とともに改善さ
れます。
ETF と異なり、先物には配当の支払いがありません。先物価
格に配当が組み込まれているからです。その額は通常、対象
となる指数の配当利回り総額に相当します 13。ETF 分配⾦の
源泉徴収に該当するものが先物にはありません。
図 6 外国人投資家(30%源泉引き、12 カ月間)
80
70
60
Total Cost (bps)
保有期間 12 カ月で、先物のロールコスト(3mL+
20bps)の場合、先物の売りは ETF の空売りに対して
53.8bps の 優 位 性 があ り まし た。 ロ ー ルコス ト が
Libor を下回る水準(3mL-5.7bps)の場合でも、依
然として 28.1bps もの改善がみられます。
図 6 は、30%源泉引きとなる外国⼈投資家の場合、レバレ
ッジなしの買いポジション(シナリオ1)の保有コストがど
うなるかを⽰しています。
50
40
30
20
シナリオ 4
米国外の外国人投資家
※CME グループでは税に関するアドバイスをしていませ
ん。投資家はいかなる投資判断をするときにも、事前にご
自身のアドバイザーに相談するようにしてください。
通常、米株式市場の外国⼈投資家には、米企業から支払わ
れる配当に源泉徴収が課されています。基本的な源泉税率
は 30%です。したがって、米国外の外国⼈投資家が受け
取る「正味」の配当は、米国内の投資家が受け取れる配当
「総額」の 70%となります。
この源泉徴収は、ETF から支払われる分配⾦にも適⽤され
ます。
13
10
0
(10)
Holding Period
ES Futures (+0.20%)
ES Futures (-0.06%)
ETF, WHT 30%
最初の分配⾦権利落ち⽇までの 3 カ月間は、シナリオ1と同
じです。先物の取引コストのほうが低いので、コスト効率の
良い代替⼿段となります。そして、図のオレンジ⾊のグラフ
が⽰すように、シナリオ1のままなら ETF のコスト効率の
ほうが良くなる直前に、四半期分配⾦の源泉徴収による最初
の衝撃(16.125bps)が加わり、ETF の全コストが跳ね上
がるのです。結果として、どの期間でも先物のほうがコスト
効率の良い代替⼿段となりました。
先物価格にはロールコストと予想配当が組み込まれています。先物価格と理論値にズレがあるとすれば、それは投資家の予想に基づいた
ロールコストと配当のせいだといえるでしょう。例えば、先物価格が理論値を超えていれば、市場がロールコストの上昇、あるいは配当
の減少、配当の源泉徴収を予測しているからだと考えられます。通常、個々の配当の時期や⾦額が不透明にならないかぎり、こうしたズ
レはロールコストによるものです。
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先物のロールコストが極めて割高(3mL+75bps ぐ
らい)にならないかぎり、ロールコストが割高でも割
安でも、外国⼈投資家にとっては、先物のほうに ETF
よりもコスト優位性があります。その⼤きな理由は、
ETF だけさらに保有コストが生じるためです。12 カ
月の保有で、ロールコスト 3mL+20bps の先物に
52.6bps のコスト優位性があり、3mL-5.7bps の先
物に至っては 78.3bps も有利になりました。
完全を期して、特に考慮すべきポイントを以下列挙しておき
ましょう。
ただし、ETF の分配⾦から源泉徴収された額の⼀部もしく
はすべてを還付してもらえる海外投資家もいます。還付さ
れただけ、図 6 の「段差」は⼩さくなります。税⾦が免除
された(つまり全額還付された)海外投資家は、経済的に
米国内投資家(シナリオ1)と同等です。
UCITS(訳注:EU の規制に則ったファンド):欧州 の
UCITS ファンドは株価指数先物への投資が認められていま
す。しかし、米国の取引所に上場する ETF への投資は認め
られていません。
分析の結果、分配⾦が総額の 95%に届かなかった(つま
り 5%の源泉徴収があった)ときは、先物のロールコスト
が 3mL+20bps の場合でも、保有期間にかかわらず、先
物のコスト効率のほうが良いと分かりました。
以上、分配⾦の源泉徴収を取り上げてきましたが、こうし
た⼀⽅的な性質について分析するときは、公平を期して、
先物のロールコストが割高な度合いと ETF の分配⾦に課
せられる源泉徴収率が、ちょうど釣り合うところをはっき
りさせるべきでしょう。分析の結果、先物のロールコスト
が 3mL+20bps を超えた場合、ETF 分配⾦の源泉徴収が
5%を超えないかぎり、釣り合うと分かりました。いいか
えれば、先物の割高なロールコストが穏やかな水準になる
と、ETF に課せられる源泉徴収の衝撃を和らげるには、非
常に高い還付率が求められるのです。
ETF の信託報酬(空売りでは有利となる)とは異なり、フ
ァンド分配⾦の源泉徴収によるコストは、空売りでリスク
を取ろうとしている海外投資家にとっても、さらに成績を
改善することにはなりません。貸株市場では通常、証券の
借り⼿が配当総額をすべて支払うことになるからです。
他に考慮すべきポイント
以上、コストに焦点を絞って分析をしてきました。しかし、
投資家が⾦融商品を選別するにあたっては、他にもたくさ
んの判断材料があります。
税⾦:E-mini S&P 500 先物の売買益(キャピタルゲイン)
には米 1256 条契約が適⽤され、保有期間にかかわらず、
60%が⻑期売買益、40%が短期売買益として扱われます。
したがって、先物の税務処理は他の代替⼿段に⽐べて効率的
といえるでしょう。
通貨:先物にはレバレッジが組み込まれているため、米ドル
をベースとしない投資家にとっては、ETF のようなレバレッ
ジなしの商品よりも、通貨リスク管理の自由度が広がります。
空売り:多くのファンドが、政令もしくは規制によって、証
券の空売りを制限されています(UCITS ファンドにはその
ような制限があります)。しかし、こうしたファンドは、先
物のようなデリバティブで、売りのリスクを取れるでしょう。
また先物は、所在確認義務、レギュレーション SHO、規則
201 条といった空売り規制の対象でもありません。
固定配当と変動配当:先物は約定時点で配当額が固定して組
み込まれています。⼀⽅、ETF は、ファンドの NAV(純資
産価値)に配当があるかぎり実際に分配⾦が生じます。
商品構造:米国の ETF はミューチュアルファンドです。⼀
⽅、先物はデリバティブです。ファンドの投資に関する政令
や現地規則で、両者は異なる構造の商品として扱われており、
ファンドマネジャーが使⽤するにあたっての自由度が異なり
ます。確かに資産運⽤会社(または個々のファンドマネジャ
ー)によって好みがあるでしょう。あるファンドは、デリバ
ティブの使⽤を制限し、ETF を嗜好しているように⾒えるか
もしれません。逆に、他のファンドマネジャーに信託報酬を
払うような商品の利⽤を好まないマネジャーもいるでしょう。
あるいは、顧客の目を気にしてポートフォリオに他⼈が出し
たファンドを組み込むのを躊躇するマネジャーもいるかもし
れません。
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結論
シナリオ:レバレッジなし、ロールコストが 3 カ月物米
ドル Libor よりも割高
表 3 に分析結果をまとめました。ロールコストが 2013〜
2015 年の平均である 3mL+20bps の場合、ひとつを除く
すべてのシナリオで、先物のほうが S&P 500 指数のリター
ンを模した商品として、コスト効率が良くなります。また、
ロールコストが 2015 年下半期の平均である 3mL-5.7bps
(Libor を下回る水準)の場合ともなれば、先物は S&P
500 指数のリターンを模した商品として最も効率が良いと
分かりました。
保有期間が 4 年以内で、また先物のロールコストが 3mL+
2.9bps 以下であれば、先物は常に、どの投資家にとっても、
⻑期買い持ちでレバレッジなしの投資家にとってさえ、
S&P 500 を利⽤するに最適な商品となるでしょう。
表3
結果一覧
最も安い選択肢
ロールコストが割安
ロールコストが割高
(3 カ月物米ドル
(3 カ月物米ドル
Libor よりも低い)
Libor よりも高い)
先物
保有期間とロールコ
ストの高さによる
先物
先物
空売り
先物
先物
外国⼈
先物
先物
シナリオ
レバレッジなし
レバレッジあり
(2 倍、8 倍)
3 カ月物
米ドル
Libor と
の開き
以下の保有期間でロールコストの割高分がその数値
以下であれば、どの投資家にも E-mini S&P 500 先
物のほうが ETF よりもコスト効率が良くなる。
30
⽇間
60
⽇間
90
⽇間
180
⽇間
1
年間
2
年間
4
年間
+51
bps
+30
bps
+20
bps
+11
bps
+6.3
bps
+4.0
bps
+2.9
bps
なお、今回の分析結果は、冒頭で述べた前提条件と、⼀般的
に受け⼊れられている値付け⼿法に基づいている点に留意し
てください。また、実際に発生するコストは、そのときの投
資家の状況、そして具体的な取引状況(取引規模、保有時間、
執⾏⼿数料、執⾏⽅法、取引時の⼀般的な市況など)に左右
されます。常に自分自身で分析するようにしてください。
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ご意⾒等ございましたら「[email protected]」まで
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い限り、改変・複製・検索可能なシステムへの保存・転載・複写・配布等による使⽤が禁⽌されています。Dow Jones は、Dow Jones Company, Inc.の商標
です。その他すべての商標が、各所有者の資産となります。
ここにある規則・要綱等に関するすべての記述は、CME、CBOT および NYMEX の公式規則に準拠するものであり、それらの規則が優先されます。 取引要綱
に関する事項はすべて、現⾏規則を参照するようにしてください。
CME、CBOT および NYMEX は、シンガポールでは Recognized Market Operator(認定市場運営者)として、また⾹港特別⾏政区(SAR)では Automated
Trading Service(自動取引サービス)プロバイダーとして、それぞれ登録されています。ここに掲載した情報は、⽇本の⾦融商品取引法(法令番号:昭和⼆
⼗三年法律⼆⼗五号およびその改正)に規定された外国⾦融商品市場に、もしくは外国⾦融商品市場での取引に向けられた清算サービスに、直接アクセスする
ためのものではないという認識で提供しています。CME Europe Limited は、⾹港、シンガポール、⽇本を含むアジアのあらゆる裁判管轄で、あらゆる種類の
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