ナバックレター 養鶏版Vol.31 栄養学的アプローチによる孵化率と収益性の改善(2) Jose-Maria Hernandez, DSM Nutritional Products, Maria Soto-Salanova and Catherine Hamelin, DSM Nutritional Products Europe, Isaac Bittar, DSM Nutritional Products Brazil and David Yao, DSM Nutritional Products China. 10年間の研究開発 ブロイラー種鶏用飼料の機能性飼料添加物としての25-ヒドロキシビタミンD3とカンタキサンチンの併用効果は、過去10年 にもわたってDSMや世界トップレベルの共同研究者らによって検討されてきました。 研究内容は、雌雄の種鶏の繁殖成績、孵化率および雛の質、ブロイラーの質および生産成績に対する2つの機能性飼料添加物の 効果といった内容です。その結果、素晴らしい成果を得ることが出来、特許申請がなされ、2010年には25-ヒドロキシビタミン D3及びカンタキサンチンを配合した新製品Aが上市されることとなりました。この製品は、世界中の大手種鶏場の試験で著効 を得ています。 本稿では、ブロイラー生産の諸問題による干渉−野外試験では発生しがちである−が最小限となるように計画した研究条件下で 実施した2つの大学の試験に注目し、孵化率に関する所見のみを考察します。 ブラジルのブロイラー種鶏 サンタマリア連邦大学のRosa氏とその共同研究者ら、そしてDSMの研究者らは、コブ500系統由来の雌360羽および雄36羽 に対する製品A給与効果を調査しました。 試験は45週齢から開始し、20週にわたり、継続され、2試験群(陰性対照群と製品A給与群)、1試験群あたり6反復区としまし た。供試鶏は、かんなくずを敷いた開放型鶏舎で飼育し、飼料給与を管理し、1日6回採卵しました。標準的なトウモロコシ大 豆強化配合飼料を用い、陰性対照および添加飼料中のビタミンD3含量は標準量としました。また、飼料には代謝エネルギー 2850 kcal/kg、蛋白質16%、カルシウム3%、有効リン0.4%が含まれていました。 簡潔に表現すれば、飼料中栄養素はいずれも充足されており、ブロイラー生産環境下と同様の条件下で鶏は飼料給与および管理 を受けました。予想されたように、加齢に伴って鶏の産卵率は70%前後から50%以下へ減少し、製品A添加の効果は認められ ませんでした。総入卵数あたりの孵化率は、製品A添加により4%増加しました(83%から87%以上)。これは、受精卵率が91 %から93%へ増加したこと以外に、胚死亡率が2%低下したことも一因でした(図4)。 したがって、製品Aを添加することにより、総入卵数あたりの孵化率にかなりの改善効果があったと思われますが、これは、受 精卵率(種鶏への効果)の増加と胚死亡率の減少(鶏卵への効果)の複合効果によるものでした。製品Aの機能的栄養成分である 25-ヒドロキシビタミンD3(胚が利用できる主要なビタミンD代謝産物)を使用することにより、種鶏の良好な免疫状態や高い 胚生存率を維持して繁殖成績を向上させ、また、抗酸化力を高めて卵質を改善することができました。 フランスにおける七面鳥の種鳥 アトランタで開催されたInternational Poultry Scientific Forum(国際家禽フォー ラム) (2011年1月)で報告されたBUT社 七面鳥の種雌鳥1100羽と種雄鳥270羽に ついての研究では、製品Aによって1級雛率 が79.5%から81.4%に改善したことが明 らかになりました。これは、産卵率、孵化率、 パ ー セ ン テ ー ジ ︵ % ︶ 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 90.94b 対照群 製品A添加群 5.46a 受精率 受精率の改善と関連しています(図5、6)。 製品A添加群では、33週目の精子量および 92.95a 83.03b 87.35a ab間で有意差あり (P<0.0001) 3.46b 胚死亡率 総入卵数に 対する孵化率 図4 ブラジルの試験により証明された、コブ種ブロイラー種鶏における製品Aの効果 精子濃度が6.8%高くなりました。 (Rosa et al.,2010) 1 ナバックレター 養鶏版Vol.31 10〜14日目の検卵により、試験6週間後の製品A添加群の受精率の増加(93.81%と92.95%)が明らかとなり、また、主観 的評価で製品A添加群の1級雛率が高いことが示されました。初生雛の抗酸化レベルは、チオバルビツール酸反応性物質(TBARs) 検査で明らかなように、添加群で良好でした。製品A添加群の44週齢の種鳥由来の雛の肝臓TBARsは、対照群と比べて有意に 低値でした。 1級雛の孵化率は2.9%増加し、ブロイラー種鶏から得られたデータと非常によく一致しています。その結果、製品Aの使用によ り、飼育下の雌種鳥1羽あたり少なくとも2.3羽多く雛が得られ、10万羽の繁殖農場では19万ユーロ※以上の純収入が増える可 能性があるのです! 経済的検討事項 ブロイラー種鶏に話を戻しますが、商業的観点からみた孵化率4%の改善は、経済的価値として決して小さいものではありません。 わかりやすくご説明しましょう。平均産卵率50%のレイヤー10万羽の種鶏場があると仮定します。この農場では1日5万個の 孵化用鶏卵を生産しています。孵化率が4%改善すると、初生雛の生産が2000羽増えることになります(ここでは、種鶏繁殖 成績全体に及ぼす製品Aのその他の効果については考えません)。 雛が2000羽増えれば、少なくとも1日500ユーロ(初生雛1羽の価格を25ユーロとする)、または年間18万2000ユーロを超 える増収が見込めることになります。 製品A添加費用を考慮すると、純利益は年間17万ユーロに達します。資本利益率は約15となり、これは非常に高い数字と言え ます。製品開発プロセスの一部として、さらに多くのデータが蓄積されていますが、それらは全て同じように全体として孵化率 の増加傾向を示しています。2008年のSouzaとその共同研究者らによる同様の試験では、受精率1.5%の改善、および胚死亡 率2%の低下により、孵化率は3.5%改善しました。このような明確なデータは、カンタキサンチンおよび25-ヒドロキシビタ ミンD3の機能的特性ならびに製品Aの一部であるこれらの併用効果を裏付けています。 実際にどれだけ改善が見込めるかは、各農場の孵化率低下を引き起こす条件や問題によって様々でしょう。しかし、製品Aなど の機能性飼料添加物は、問題に対処する上で不可欠な要素の一つであると言えるのです。 ※2011年3月17日現在、1ユーロ=約110円 これは「International Hatchery Practice Vol.25,No.3,P11・13」を抄訳したものです。 無 精 卵 率 ︵ % ︶ 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 入 卵 数 に 対 す る パ ー セ ン テ ー ジ ︵ % ︶ 無精卵率(%)は顕著に低下 (対照群9.31%に対して、 製品A添加群8.25%) 対照群 34 37 39 40 製品A添加群 42 47 49 50 七面鳥種鳥の週齢 図5 製品Aを給与したBUT社七面鳥の 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 79.53 81.14 対照群 製品A添加群 p<0.05 卵殻を破ることができない雛: 生存能力が不十分 2.75 1級雛率 (%) 図6 種雌鳥および種雄鳥における受精率の改善 成鳥雌1羽あたりの1級雛率の有意な増加 (対照群80.1%に対して製品A添加群82.4%) 2.71 雛淘汰率 (%) 2.36 1.86 死ごもり卵率 (%) 2.68 2.35 非孵化卵率 (%) 製品Aを給与したBUT社七面鳥の 種雌鳥および種雄鳥における孵化率の改善 (Soto et al.,2011) (Soto et al.,2011) 2
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