〔生化学 第8 1巻 第1 1号,pp.9 6 2―9 8 3,2 0 0 9〕 総 説 TRP チャネルの構造と多様な機能 沼 田 朋 大,香 西 大 輔,高 橋 重 成 加 藤 賢 太,瓜 生 幸 嗣,山 本 伸 一 郎 金 子 雄,眞 本 達 生,森 泰 生 transient receptor potential(TRP)チャネルは,1 9 8 9年ショウジョウバエの trp 遺伝子が 同定されて以来,世界中で精力的に研究され,莫大な機能的多様性を有するイオンチャネ ルファミリーを成すことが示された.その中でも特に TRP チャネルの大きな生理的役割 として,“センサー”としての機能と“足場”としての機能が浮かび上がってきた.TRP チャネルは,直接的に,もしくは受容体を介して間接的に種々の生理活性物質により活性 化される“センサー”タンパク質として働く.また,様々なタンパク質と相互作用するこ とで,自身のイオン流入を細胞内シグナルとして効率的に伝えるシグナル複合体形成の “足場”としても働く.本総説では,このように多様な機能を持つ TRP チャネルについ て最新の知見を述べる. 1. は じ め に transient receptor potential(TRP)チャネルは,2 0年前に ショウジョウバエ TRP 遺伝子が同定されて以来,世界中 で精力的な研究がなされ,莫大な機能的多様性を有するイ 形成の“足場”としても働くと考えられている.本総説で は,このように多様な機能を持つ TRP チャネルについて 最新の知見を述べる. 2. TRP の単離と同定 オンチャネルファミリーを成していることが明らかになっ trp 遺伝子は1 9 8 9年ショウジョウバエの光受容応答変異 てきた.その中でも特に TRP チャネルの大きな生理的役 株の原因遺伝子として発見された1).trp 変異株においては 割として,“センサー”と“足場”の機能が浮かび上がっ 光受容器電位変化が一過性(transient)であることが命名 てきた(図1) .TRP チャネルは,直接的に,もしくは受 の基になっている. trp をコードするタンパク質(TRP) は, 容体からのシグナルを介して間接的に,種々の生理活性物 カチオンチャネルを形成している.遺伝子解析の結果, 質により活性化されることで,細胞における“センサー” 図1に見られるように多くの TRP ホモログが同定されて タンパク質として働く.また,TRP チャネルは様々なタ おり,TRP チャネルスーパーファミリーは,哺乳類にお ンパク質と相互作用することが明らかになり,現在ではシ いては少なくとも2 9種類の遺伝子から構成され,六つの グナル伝達素子としてのみならず,自身のイオン流入を細 サブファミリーを構成している2,3). 胞内シグナルとして効率的に下流に伝えるシグナル複合体 京都大学工学研究科 合成・生物化学専攻 分子生物化 学分野(〒6 1 5―8 5 1 0 京都府京都市西京区京都大学桂) Structures and variable functions of TRP channels Tomohiro Numata, Daisuke Kozai, Nobuaki Takahashi, Kenta Kato, Yoshitsugu Uriu, Shinichiro Yamamoto, Takeshi Kaneko, Tatsuo Shinmoto, and Yasuo Mori(Department of Synthetic Chemistry and Biological Chemistry, Kyoto University, Katsura Campus, Nishikyo-ku, Kyoto 6 1 5―8 5 1 0, Japan) TRP classic(canonical) (TRPC)ファミリーは,ショウ ジョウバエ TRP と相同性が高いファミリーであり,チャ ネルの活性化は Ca2+貯蔵部位(ストア)枯渇やホスホリ パーゼ C(PLC)の活性化と密接に関連している4∼7).直接 作用する活性化因子としては,カルシウムイオン(Ca2+) やジアシルグリセロール(DG)が考えられている.TRP melastatin(TRPM)は,メラノーマ(悪性黒色腫)細胞の 腫瘍の悪性度に反比例して発現量が減少する melastatin-1 (TRPM1)をはじめとして見出されたファミリーである8). 9 6 3 2 0 0 9年 1 1月〕 図1 哺乳類の TRP チャネルの進化系統樹と機能 TRPM ファミリーは細胞の代謝,分化,増殖,細胞死の調 で活性が見られ,繊毛での機械感受や舌での酸感受に関 節に重要な役割を果たしていると考えられており,酸化ス わっており,電位変化,細胞内 Ca2+濃度,浸透圧,機械 トレス,細胞内 Ca2+濃度上昇,温度変化,pH の変化,機 刺 激,pH の 変 化 で 活 性 化 さ れ る15∼18).TRP ア ン キ リ ン 械刺激,浸透圧の変化等で活性化する.TRP vanilloid re- (TRPA)は,N 末端に多くのアンキリンリピート(ANKR) ceptor(TRPV)ファミリーは唐辛子の辛み成分であるカ 構造を持ち,シグナル伝達,成長の制御に関わる遺伝子 プサイシンによって活性化する vanilloid receptor(TRPV1) p1 20 として報告された19).哺乳類においては,現在のと をはじめとして見出されたファミリーである.TRPV ファ ころ TRPA1の1種類だけが同定されており,pH 変化,温 ミリーは,一酸化窒素(NO)などの化学物質,温度上昇, 度変化,酸化ストレス,浸透圧,機械刺激等で活性化する. pH の変化,機械刺激,浸透圧の変化などの物理・化学的 このように TRP は,多くの遺伝子ホモログを有すると な刺激で活性化される3,9,10).TRP mucolipin(TRPML)は,4 いう点のみならず,活性化機構が多岐にわたっているとい 型ムコリピドーシスの原因遺伝子である TRPML1をはじ う点においても,他のイオンチャネルファミリーの中では めとするファミリーである 極めてユニークな存在となっている. .細胞質内のリソソームの 1 1∼1 3) 輸送やアポトーシス細胞のクリアランスに関わっており, ニコチン酸アデニンジヌクレオチドリン酸(NAADP) ,細 2―1 構造的な特徴 胞 内 Ca2+濃 度 上 昇,酸 等 で 活 性 化 す る.TRP polycystin TRP の基本構造は,いくつかの TRPP を除き,いずれも (TRPP)は,常染色体優性遺伝嚢胞腎(autosomal dominant 6回膜貫通領域を有する(図2) .N 末端,C 末端は細胞内 polycystic kidney disease:ADPKD)の原因遺伝子の一つと に面しており20),それぞれの末端部位には特徴的な構造が して単離された PKD ファミリーである14).TRPP1と P2, 存在する.第1膜貫通領域の前の N 末端細胞質内領域に TRPP2と V4,PKD1L3と TRPP3を共発現すると形質膜上 は TRPC,V,A においては ANKR を有し,TRPM におい 9 6 4 〔生化学 第8 1巻 第1 1号 図2 TRP チャネルの分類と構造 9 6 5 2 0 0 9年 1 1月〕 ては TRPM ホモロジー領域を有する.第6膜貫通領域の さ高く,密度の低い構造が見られることから,複数のシグ すぐ後の C 末端細胞質内領域には“EWKFAR”という, ナルタンパク質を集積するシグナル複合体の中心分子とし いわゆる TRP-ボックスを含む2 5アミノ酸残基からなる て働くために,広い表面積を有するのではないかと考えら TRP ドメインが存在する.この TRP ドメインや TRP-ボッ れている. クスに似た配列は,TRPC,M,V サブファミリーに見ら れるが他のサブファミリーには見られない.TRPC,M と 2―2 機能的な特徴 V の一部には,TRP ドメイン C 末端直後に TRP-ボックス TRP ホモログは,多様な機能を示すチャネルである. 2と呼ばれるプロリンリッチ配列が存在する.また,C 末 近年の研究により,TRP は,細胞内外の様々かつ複合的 端部位には,TRPP,TRPML の小胞体(ER)膜移行シグ な刺激によって活性化する“センサー”としての機能に留 ナル,TRPM2,M6や M7の酵素活性部位などの特徴的な まらず,細胞膜付近に様々なタンパク質やシグナルを集積 ドメインが見つけられている する“足場”タンパク質としての機能も併せ持つことが明 . 2, 2 1) 一般的に知られている6回膜貫通領域を持つチャネル らかになってきた. は,二つの“ドメイン”を持っている.一つは S4電位セ ンサーを含む S1―S4領域,もう一つは第5,第6膜貫通領 2―3 センサーとしての機能 域の間にポア領域を含む S5―S6領域である.TRP は,電 先にも触れたように,TRP チャネルの活性化機構は多 位依存性 K チャネルと同じく6回膜貫通型のチャネルで 岐にわたっており,温度,機械刺激,浸透圧,痛み,フェ あるが,必ずしも全ての TRP ホモログに電位依存性が見 ロモン,酸・塩基,酸化ストレスや刺激性化学物質など, られるわけではない.電位依存性チャネルである Kv/Nav/ 様々な刺激で活性化される.そのため細胞内外の環境変化 Cav においては,膜電位変化によって S1―S4領域が動くこ を感知し,細胞内シグナルに変換する,いわゆる“セン とにより,チャネルポアが開口する.TRP の中で膜電圧 サー”であるとして考えられている2).また,細胞内外の 変化によって活性化するチャネルは,TRPV1,M4,M5, リガンドを感知するだけでなく,受容体からのシグナルを + M8及 び A1が 知 ら れ て い る .ほ と ん ど の TRP は Kv/ 感知して活性化される.受容体活性化チャネル(receptor Nav/Cav チャネルに見られるような,S4に特徴的な正電荷 activated Ca2+ channel:RACC)は G タ ン パ ク 質 共 役 型, 2 2) を持ったアミノ酸残基を欠いているが,TRPM8チャネル チロシンキナーゼ型受容体などの活性化から,ホスファチ には S4領域付近に電位依存性チャネルに見られるような ジルイノーシトール代謝回転を介して活性化するカチオン 正電荷を持つアミノ酸残基が配置されており,このアミノ チャネルを形成しており,その分子実体は長く不明のまま 酸残基へ変異を導入すると電位依存性に変化が見られるこ であった.RACC の中には,ER の Ca2+枯渇によって活性 とから,Kv/Nav/Cav に見られるような電位依存性機構が示 化される,ストア作動型 Ca2+チャネル(store-operated Ca2+ 唆されている23).TRPV1,V3及び A1などは,S4に対応 channel:SOC または Ca2+ release-activated Ca2+ channel: すると考えられる領域に正電荷を持ったアミノ酸残基が配 CRAC)も含まれる.TRPC3は ATP 受容体やムスカリン 置されていないにも関わらず電位依存性を示す.S4領域 受容 体 刺 激 か ら DG を 介 し て 活 性 化 さ れ る RACC で あ 以外の電位感受性領域が想定されるが,現在のところ同定 る28,29).CRAC に 関 し て は,TRPC1欠 損 免 疫 B 細 胞 株 や に至っていない.TRP チャネルのゲートは,電位による ノックアウトマウスにおいて CRAC 活性が減弱したとい 影響よりもむしろ温度,化学物質の結合に伴う構造変化に う実験結果から,TRPC1が分子実体であると考えられて 影響を受けることから,弱い電位依存性を持ち,細胞質側 きた30,31).しかし,最近,Feske らにより,ある種の SCID の リ ガ ン ド に よ っ て チ ャ ネ ル の 開 口 を 促 す cyclic (severe combined immune deficiency)患者の T 細胞から,1 nucleotide-gated(CNG)channel が機能的な類似体として 塩基多型アレイを用いたゲノム全体の網羅的調査とショウ 挙げられるかもしれない. ジョウバエの RNA 干渉スクリーニングによって新規タン TRP チャネルにおける高解像度の構造解析は未だ達成 パク質 Orai1が CRAC の有力な候補として発見された32). されてはいないが,ポア領域は2回膜貫通型のイオンチャ Orai1は,4回膜貫通領域を持ち,四量体でポアを形成し ネル構造を持つバクテリア K+チャネル(KcsA)と同様に, ていることが,アミノ酸残基への点変異を用いた解析等か 6回膜貫通型サブユニットタンパク質がホモあるいはヘテ ら分かってきた33∼35,37).しかし,Orai1単独発現では CRAC ロ四量体を形成していると考えられている の亢進がみられないため,ER 内の Ca2+枯渇を原形質膜の .最近, 1 4, 2 4) TRP チャネルの単粒子構造 解 析 が 行 わ れ,そ の 結 果, Orai1に 伝 え る STIM1(stromal interaction molecule)を 含 TRPV1はバスケット状,C3や M2はベル状の構造を持っ めた他の分子との複合体が CRAC の分子実体であると考 ており,4回対称 の 四 量 体 で あ る こ と が 明 ら か に な っ えるべきであろう36). た .特に TRPC3は,分子量から推察されるよりもか 2 5∼2 7) 多くの TRP チャネルは温度感受性を持っており,低温 9 6 6 〔生化学 第8 1巻 第1 1号 で活性化する TRPM8や A1,平温で活性化する TRPV3, たるまで,多岐にわたる分子が TRP チャネルを中心とし V4,M2,M4及び M5,高温で活性化する TRPV1及び V2 て集積し,多様なシグナル複合体を形成している76). というように,活性化温度領域により大きく三つに分類さ 3. TRP チャネル れている38).活性の上昇は,温度変化がチャネルを開かせ るのではなく,電位依存性や活性化剤に対する感受性が上 3―1 TRPC(表1) 昇することによるものと考えられている39).機械刺激で活 1)構造的な特徴 性化する TRP チャネルは,直接的な活性化と間接的な活 シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ の TRP と 最 も 相 同 性 が 高 い TRPC 性 化 を 含 め て TRPC140,41),C642),V243),V444,45),M446), ファミリーは,TRPC1-C7が見出されている.TRPC は配 M747∼49),A150)及び TRPP1と P216)に関して報告がある.痛 列の相同性や機能的類似性から,TRPC1/4/5,TRPC2, みに関する TRP チャネルは TRPV1,V2,V3,V4,M8, TRPC3/6/7の三つのサブファミリーに分類される. そして A1が報告されており,ATP,プロスタグランジン TRPC の N 末端には ANKR,コイルドコイル(CC)領 (PG) E2 な ど の 炎 症 関 連 メ デ ィ エ ー タ ー で 活 性 化 さ れ 域,中央には6回膜貫通領域,C 末端には TRP ドメイン る38,39).またこれらの痛みに関係する TRP は,浸透圧及び が存在し,四量体でチャネルを形成すると考えられてい 機械刺激でも活性化されることから,侵害性機械受容に関 る.電子顕微鏡による単粒子構造解析により,TRPC3の わっている可能性もある51).フェロモンを感知していると 三次元構造が TRP ファミリーの中で初めて明らかにさ 考えられている TRPC2は,ヒトにおいては偽遺伝子であ れ77),その後,クライオ電子顕微鏡を用いた解析により1 5 るが,マウスを含む齧歯類ではチャネルとして機能してお Åの解像度でより微細な構造が解かれている26).TRPC3は り,TRPC2欠損マウスではフェロモンを感知しないため 電位依存性 Na+チャネルや IP3 受容体と共通の基本構造を に性特有の行動に異常が現れる .酸・塩基を感知する 有しており,小さな細胞外ドメイン,タンパク質密度の高 TRP チャネルは,酸で活性が抑制される TRPV5 や M5 , い膜貫通ドメイン,そして広がった細胞質ドメインからな 酸で活性化さ れ る TRPV155,56), M657), M757,58), C559), PKD1L3 る ベ ル 形 構 造 を し て い る26).細 部 構 造 に 注 目 す る と, と TRPP317),ML260),ML360),そして A161)が報告されてい TRPC3の細胞質構造は入れ子式で,ワイヤーフレーム状 る.また TRPML162)及び M763)は,H+も透過すると考えら の外殻は多数の活性調節タンパク質の感知,球形の内部屋 5 2) 5 3) 5 4) れている.一方,アルカリで活性化する TRP は,TRPA1 がイオン流入を調節することが可能な構造を持っている. や P365)の 報 告 が あ る.TRPM266),M767),C568),V169)及 び そのため,他のチャネルとは異なる生理多機能性を有して A1 は体内におけるシグナル伝達やエイジングに関与する いると考えられている. 6 4) 6 1) と考えられる活性酸素種,活性窒素種によって活性化され る.TRP チャネルは種々の天然物によっても活性化され, V1は唐辛子(カプサイシン) ,M8はハッカ油(メン 7 0, 7 1) 2)機能的な特徴 哺乳類の TRPC ファミリーは,Ca2+透過型非選択性カチ トール) , A1はワサビ成分の allyl isothiocyanate (AITC) , オンチャネルである.受容体刺激,ストア枯渇,及び他の ニンニク成分のアリシン によって活性化される. タンパク質との相互作用による活性化が報告されている. 7 2) 7 3) 7 4) そのため,直接的な刺激の“センサー”という機能が注目 2―4 “足場”タンパク質としての機能 されている他の TRP ファミリーとは異なり,むしろ“足 TRP は単なる Ca2+流入経路の一つとして機能するだけ 場”タンパク質の機能を有するシグナル制御チャネル複合 でなく,他の酵素分子と機能的結合することで TRP チャ 体として注目されている.TRPC ファミリーの様々な受容 ネルを中心としたシグナル複合体を形成している.ショウ 体刺激による活性化は,調節因子の違いはあるが,PLC ジョウバエ TRP は,inactivation no after potential D(INAD) の活性化を介することを共通の性質にしている.一方,い という“足場”タンパク質と結合し,シグナル複合体の一 くつかの TRPC ファミリーは受容体刺激を介さない細胞内 部を担うことが古くから知られていた .近年,哺乳類に Ca2+ストア枯渇や TRPC と ER の IP3 受容体の間の構造上 おいても,TRP チャネルのシグナル複合体形成に関わる 直接的なカップリングにより活性化される可能性を示唆す 相互作用が数多く報告されている.PLC,ホスホイノシ る報告がある78).そのため,TRPC ファミリーは,ストア 7 5) トール3キナーゼ(PI3K)といった酵素から,homer,カ 作動型チャネルの分子実体であると提案されたが,ストア ベオリン-1,snapin などの“足場”タンパク質,Na+/H+ ex- 枯渇に非依存性という報告もあり,ストア依存性に関する changer regulating factor(NHERF) ,カルモジュリン(CaM) 統一的な見解は成されていない. などのモジュレーターやイノシトール1, 4, 5-トリスリン TRPC チャネルは,INAD や PDZ ドメインを含む集積タ 酸(IP3)受容体,リアノジン受容体,sarco/endoplasmic re- ンパク質の結合を介し,CaM,PLC,G タンパク質,PKC ticulum Ca2+-ATPase(SERCA)などの ER タンパク質にい などのシグナル分子を集めることで Ca2+シグナリング複 表1 TRPC ファミリー 2 0 0 9年 1 1月〕 9 6 7 表2 TRPM ファミリー 9 6 8 〔生化学 第8 1巻 第1 1号 表3 TRPV ファミリー 2 0 0 9年 1 1月〕 9 6 9 表4 TRPA,TRPP,TRPML ファミリー 9 7 0 〔生化学 第8 1巻 第1 1号 9 7 1 2 0 0 9年 1 1月〕 合体として機能することが報告されている79,80).ノムノ Ca2+流入を担っている101).また鋤鼻器官において,TRPC2 フィリンである FKBPI2は TRPC3,C6,C7と相互作用す は DG で活性化され,フェロモンの探索に重要だとされて る一方で,FKBP5 2は TRPC1,C4,C5と相互作用する . いる102).TRPC2欠損マウスでは性別の区別ができず,雄 またこれら以外にも,TRPC ファミリーは,様々なタンパ 同士の闘争行動がなくなることから,TRPC2はフェロモ ク質と結合するのみならず,TRPC ファミリー内において ン感知を制御するチャネルであると考えられている. もヘテロマルチマーを形成するという特徴を有する. TRPC2が SOC に関わるという報告もある103,104)が,未だ確 TRPC1は C4,C5と ヘ テ ロ マ ー を 形 成 し,TRPC4/5, 立されていない. 8 1) TRPC3/6/7もそれぞれヘテロマーを形成しうる82).ヘテロ TRPC3は脳,腎臓,膀胱,骨格筋,平滑筋,心筋に発 マーはホモテトラマーとは異なるチャネル活性を示す . 現している.TRPC3は,受容体活性化型のチャネルであ このように TRPC のシグナル複合体は,そのタンパク質の り,ストア枯渇,DG などにより活性化され,その活性維 組み合わせによって細胞内局在,シグナル制御特性などを 持には Src キナーゼを介したチロシンリン酸化が必要とさ 調節している80). れ て い る105∼108).一 方,TRPC3の 活 性 は PKC を 介 し た 8 3) TRPC1は,脳,心 臓,肝 臓,精 巣,子 宮,唾 液 腺,平 PKG によるリン酸化により抑制される109,110).このように 滑筋,上皮など広範に発現しており,上皮組織の透過性や TRPC3は,複数のシグナル分子により制御されている他 平滑筋,骨格筋の収縮,細胞周期,分化,細胞死への抵 に形質膜での発現が多い時は常時活性化型であり,ストア 抗,傷の回復,アクソンガイダンスの発達制御,細胞容積 枯渇とは独立に活性化しているが,発現が少ない時は,ス 調節に関わっている40,41,84∼86).また,methyl-β-cyclodextran トア作動型であるように TRPC3自身の形質膜の発現量に や TRPC1に対する抗体の処置が thapsigargin(TG)やトロ よる活性制御が知られている112∼116).また TRPC3は他のタ ンビンによる Ca 誘導性ホスファチジルセリンの形質膜 ンパク質と複合体を形成することで新たな機能を発揮する の外層への移動を阻害したことや受容体活性化及びストア ことも知られており,例えば ER チャネルの IP3 受容体, 作動性 Ca2+流入によりリン脂質の非対称性が見られたこ リアノジン受容体,ER 輸送タンパク質の MxA,シグナル 9 7) と から形質膜の状態を制御している可能性がある. 分子の CaM,Gαq1 1,PLCβ,PLCγ,骨格系分子のカベオ TRPC1は,当初,ストア作動性 Ca2+流入を担うチャネ リン-1などとシグナル分子複合体の形成117),Na+/Ca2+ ex- ルとしてクローニングされ92),その活性化機構は STIM1 changer(NCX1)など他の膜輸送タンパクとの複合体形成125) の C 末端との相互作用 や RhoA,IP3 受容体,Orai1など などの報告がある.中でも TRPC3の形質膜移行に関わる との相互作用によるとの報告があるが,一致した理解は得 PLC を介した活性制御については詳細に調べられており, 2+ 9 4) られていない .しかし,TRPC1は,netrin-1,脳由来神 PLC による様々な役割が示されている.その役割として 経栄養因子(BDNF)などの受容体を介した PLC 活性を介 PLCγ1は形質膜への維持に必要であること119),PLCγ2は受 して活性化されることや85,86),直接的な膜伸展や低浸透圧 容体刺激やストア枯渇によって引き起こされる細胞外から 刺激による細胞容積増大によって活性化されること40,41)が の Ca2+流入で酵素活性を引き起こし,PIP2(ホスファチジ 9 5, 9 6) 報告されている.形質膜付近では,TRPC4などのヘテロ ルイノシトール4, 5-ビスリン酸)の加水分解によって産 マー形成86)及びカベオラに局在するカベオリン-191)や細胞 生された IP3 と DG によって持続的な Ca2+応答に関与する 8 8) 骨格に関与する β チューブリン(微小管形成) ,RhoA(細 ことが示されている29).TRPC3を中心としたシグナル複合 胞骨格の再構成) 及びシグナル関連分子の PLC,Gαq11, 体は生体内においても重要な役割を果たしている.TRPC3 8 9) homer,IP3 受 容 体,CaM な ど タ ン パ ク 質 の 相 互 作 用 に 遺伝子のノックダウン及びノックインマウスの解析の結 よってシグナル複合体形成87,90,91)がされていることにより 果,PLC の下流において TRPC チャネルを介する Ca2+流 TRPC1の活性のみならず,下流シグナル伝達の効率化を 入がカルシニューリンの活性化及び nuclear factor of acti- 制御している. vated T cells(NFAT)の核移行を惹起することにより心肥 TRPC2はヒトでは偽遺伝子であるが,マウスではチャ 大を引き起こすことが明らかになった119∼124).また TRPC3 ネル機能を有する.TRPC2は発現系において,他の TRPC は,BDNF 受容体 TrkB シグナルに直接に関わっていると とヘテロマルチマーを作らないことが報告されている されており111),小脳顆粒神経において TRPC3は,BDNF が98),内在的に発現する TRPC2は,C6とヘ テ ロ マ ル チ により活性化され神経伸展に重要な役割を担っていると報 マーを組み99),他のチャネルやシグナル分子である3型 告されている.TRPC3欠損マウスを用いた解析からプル IP3 受容体,STIM1及び PLCγ と相互作用をすることによ キンエ細胞において,mGlu(metabotropic glutamate)受容 りシグナル分子を形成している94,100).TRPC2は,精巣,鋤 体依存的なシナプスのシグナル伝達に TRPC3が必要とさ 鼻器官などに発現しており,精子が卵表面に存在する ZP3 れ, 歩行などの運動の協調性を制御することが示された123). と呼ばれる糖タンパク質と結合した際に生じる持続的な TRPC4は,内皮,平滑筋,脳における神経膝状核,腎 9 7 2 〔生化学 第8 1巻 第1 1号 臓,副腎に発現が見られ,TRPC5とアミノ酸配列上7 3% ナル複合体を形成し106,135∼137),他の TRPC ファミリーと同 相同性があり,ストア作動型チャネルであると言われてい 様にムスカリン受容体などの受容体刺激による PLC の活 た .TRPC4はシグナル分子である PLCβ やチロシンキ 性化を介して活性化される.Src 型チロシンキナーゼ Fyn ナーゼ,集積タンパク質である NHERF126),またカベオリ は TRPC6の活性を維持し,TRPC6に直接作用していると ン-1と相互作用し127),形質膜付近で TRPC4の C 末端に存 されている138).またラット脳動脈において,血管内圧力の 在 す る VTTRL 配 列 を 介 し て PDZ ド メ イ ン を 有 す る 上昇によって引き起こされる血管収縮に TRPC6が関わる 2 1, 1 2 5) NHERF やエズリンと相互作用をする.これらの相互作用 ことが報告された.TRPC6をアンチセンス DNA や siRNA は,成長因子受容体シグナルや TRPC4の膜移行と活性を 処置によりノックダウンすることで血管収縮が抑制された 制御している .TRPC4欠損マウスを用いた実験では, ことから機械刺激による血管収縮にも大きく関わることが 大動脈内皮細胞におけるアセチルコリン受容体活性化によ 示されている139).さらに,組換え発現系において TRPC6 る Ca2+流入の減弱,血管平滑筋の弛緩反応の異常が報告 が膜伸展による機械刺激で活性化するということも報告さ されている128). れている137).これらを裏付けるように TRPC6欠損マウス 1 2 6) TRPC5は,血管内皮,脳などで発現が認められている は血圧上昇,大動脈輪の収縮性の亢進を示した139).さら が TRPC4と 同 様 に PLC を 介 し て 活 性 化 さ れ129),La3+, に,アレルゲン投与による気道アレルギー応答の減弱が見 Gd2+でも活性化される130).細胞外の高濃度の Ca2+により られた140).TRPC6を心臓特異的に過剰発現するトランス TRPC5の活性は維持され,TRPC1とヘテロマーを形成す ジェニックマウスを用いた実験では,TRPC3と同様に圧 る.TRPC5は,他の TRPC ファミリーと同様に受容体刺 負荷による心肥大が亢進しており,ヒトの拡張型心筋症で 激によっても活性されることが知られているが,近年, TRPC6発現の上昇が見られた110). NO によっても活性化し,その活性化機構が詳細に調べら TRPC7は,心臓,肺,眼で発現が多く見られており, れた.TRPC5に存在するシステインへのアミノ酸点変異 ストア作動性,非作動性の両方で活性化されると報告され を用いた NO 修飾部位の探索の結果,チャネルのポア領域 ている.TRPC7は,受容体を介した PLC の活性を介して に存在する Cys5 5 3の S -ニトロシル化を介したポアの構造 活性化され,シグナル分子 PCL,CaM,輸送タンパク質 変化がチャネルの活性化に重要であることが分かった.こ MxA などとシグナル複合体を形成している142,143).これら のシステイン残基はアミノ酸配列上 TRPC1,C4あるいは の活性は細胞死に関与しており,白血球や心臓において TRPV1,V3,V4においても同じポア領域に保存されてお は,PGE2 あるいは,アンギオテンシンÀ誘導性アポトー り,同様のシステイン修飾によってチャネルが活性化する シスに関わっている144,145). ことを示唆している68).さらに TRPC5は血管内皮細胞に おいて,受容体刺激時で産出された NO により活性化し 3―2 TRPM(表2) て,細胞内に持続的な Ca 流入を引き起こすことが示唆 1)構造的な特徴 2+ された68).また,TRPC4と同様に C 末端に VTTRL 配列や TRPM ファミリーは,N 端に約7 0 0アミ ノ 酸 の TRPM CaM 結合領域を持っており,“足場”タンパク質である フ ァ ミ リ ー ホ モ ロ ジ ー 領 域 と CC ド メ イ ン,C 末 端 に NHERF や シ グ ナ ル 分 子 で あ る PLCβ,EBP5 0,CaM, TRP-ボックス,CC ドメインを持っている.TRPM ファミ PKC,シナプトタグミン,リン酸化タンパク質 stathmin2, リーホモロジー領域の役割は現在のところ不明であるが, 細胞骨格関連タンパク質のミオシン軽鎖,膜融合関連の C 末端における CC ドメインについては,サブユニットの SNARE,ダイナミンファミリーの MxA などを集積するプ 集積やチャネルの局在に関わることが知られている146∼148). ラットホームとして機能する.形質膜付近における細胞骨 TRPM ファミリーの中でも M2,M6及び M7は,C 末 端 格,シグナル分子,ER から形成されるシグナル複合体 の細胞質内領域に酵素モチーフを持つ.例えば TRPM2 は,TRPC5の局在やチャネル活性を制御している.TRPC5 は,C 末端に DNA 修復酵素 MutT のピロホスファターゼ は脳に多く発現しており,神経の生存や分化における として機能する Nudix モチーフを有する66,149).当初,細胞 TRPC5を介した Ca2+流入が,神経成長,成長円錐の長さ 内における ADP リボース(ADPR)や NAD+が TRPM2の や形態の決定に重要であることが示されている .また Nudix モチーフに作用してチャネル活性が引き起こされる 上皮成長因子の刺激によって形質膜へ小胞輸送されること ことが明らかにされ66,149),その後,サイクリック ADPR から,TRPC5の活性は細胞形態変化を開始させるメカニ (cADPR)が NAD+-ADPR-cADPR というような変換を介 1 3 1, 1 3 2) ズムに関与すると考えられている133). し,その活性を制御しているこ と が 分 か っ て き た150). TRPC6は,肺,脳そして平滑筋細胞に発現しており, TRPM6や M7の C 末端には一種の α-キナーゼモチーフが 細胞骨格関連タンパク質のアクチニン,アクチン,dre- 存在する.当初,TRPM7において,この酵素領域は ATP brin,輸送タンパク質の MxA と相互作用することでシグ 量を感知してチャネル活性を制御すると報告があった 9 7 3 2 0 0 9年 1 1月〕 が151),現在では,一種の α-キナーゼモチーフにおける酵 た.さらに産生された CXCL2は炎症部位へ好中球の遊走 素活性はチャネル活性には関与せず,むしろ細胞増殖に関 を惹起し,集積した好中球により潰瘍の形成など病態の悪 .また,TRPM 化を引き起こすことが示された.これらにより,TRPM2 ファミリー全般の C 末端に存在する TRP ドメイン及び はケモカイン産生を介して炎症を悪化させる重要な分子と TRP-ボックスは,チャネル活性を PIP2 との相互作用を介 して機能していることが明らかとなった160). 与するということが考えられている 1 5 2, 1 5 3) して制御しているということが,TRPM8及び M5の TRP TRPM3は,脳,腎臓,膵臓などに発現しており D-エリ ドメイン及び TRP-ボックス内の正電荷を持つアミノ酸残 トロ スフィンゴシンなどの脂質成分によって活性化され 基を中性アミノ酸残基へ変異させることで示された154).そ る161).そのため,膵 β 細胞でイオノトロピックステロイ の後,TRPM4における研究から TRP ドメイン及び TRP- ド受容体として働くと考えられている162). ボックスの役割は TRP ファミリーに共通のものではない TRPM4は,脳,心臓,マスト細胞などに発現が見られ, ということが示されるなど ,一致した見解は得られてい 脱分極によって活性化されるため,興奮性細胞における活 ない. 動電位形成に重要な役割を担っている.そのため TRPM4 1 5 5) 近年まで TRPM ファミリーの構造に関する報告は数少 の機能が欠損すると,てんかん163)や不整脈164)が起こるとい なく,TRPM7の C 末端一部分にある α キナーゼドメイ う報告がある.非興奮性細胞では,TRPM4は細胞内 Ca2+ ン 及び,CC 領域の一部の結晶構造が知られているのみ 濃度上昇165,166)で活性化され,T 細胞における Ca2+オシレー であったが146),最近,負染色画像を用いた構造解析の結果 ション167)やマスト細胞の細胞遊走168)に関わることが明らか から TRPM2の全体的な構造が得られた.TRPM2はベル にされている. 1 5 6) 状の構造を取っており,膜貫通領域にポア様の空洞を持 TRPM5は,1 5―3 5℃ の 温 か い 温 度 に よ っ て 活 性 化 さ ち,細胞質側に Nudix モチーフと思われる突起が見られ れ169),その発現は様々な組織で見られるが,最近,TRPM5 た27).これらの結果から,チャネルの C 末端に酵素活性部 が味覚に関わることが報告された169,170).TRPM5の発現は 位を持つ TRPM6や M7も同様の構造を取ることが予想さ 味蕾細胞のうち甘味,苦味,うま味を感知する細胞に発現 れる.今後,酵素活性部位を持たない TRPM に関しても, が見られる.TRPM5欠損マウスは高温下でも甘味化合物 構造解析の研究が期待される. に対する応答性の増加を示さなかったのに対し,野生型の マウスは温度を上昇させると甘味に対する応答は増加した 2)機能的な特徴 ことより,TRPM5は高い温度で活性化して甘味に対する TRPM ファミリーは,それぞれの発現部位,機能共に非 感度を上昇させると考えられている169,170). 常 に ユ ニ ー ク で あ り,腫 瘍 の 悪 性 度 に 関 連 す る 発 現 TRPM6は,小腸,腎臓などに発現が見られ,M7と同 (TRPM1,M8) ,脂質成分(TRPM3) ,細胞内 Ca2+濃度上 様にマグネシウムイオン(Mg2+)を通すことから Mg2+吸 昇(TRPM4,M5) ,温度刺激(TRPM2,M4,M5,M8)な 収体と考えられている.そのため,M6に変異が入ると体 どによる活性化,C 末端の酵素活性部位に関連する代謝 内 へ の Mg2+吸 収 が で き な く な り 低 Mg2+血 症 が 起 こ (TRPM2,M6,M7)など様々な形で機能を果たしている. る171,172). TRPM1は,メラノーマ細胞における腫瘍の悪性度に反 TRPM7は広範に分布しており,細胞内 MgATP 濃度, 比例してその発現が減少することから発見された .現在 活性酸素種,機械刺激及び pH と様々な刺激で活性が調節 のところきちんとした機能評価はできていないが,目や皮 されている.その役割は,細胞容積調節47),接着173)及び成 膚に発現が見られることから,網膜 ON 型双極細胞の応答 長174)といった生命活動の維持に関わると考えられている. や馬の体色 ,皮膚がん ,がん転移の抑制 と関わりがあ そのため,適度な活性が重要と考えられており,虚血時に 8) 1 5 7) 8) 8) ることが示唆されている . 8) 産生される活性酸素種により TRPM7が異常活性化した場 TRPM2は脳,膵臓,血球などに発現しており,過酸化 合には神経細胞死が起こり67),TRPM7を欠損させた細胞 水素などを介した酸化ストレス66)や DNA の修復過程に産 や生物においては生存ができない175,176).TRPM7は,細胞 生される NAD+,cADPR,及び3 5度以上の温度158)で活性 膨張,灌流刺激や膜伸展などの機械刺激で活性化されるた 化される149).その活性化機構から神経細胞死159)やインシュ め47∼49,177),細胞容積調節47),細胞遊走49)に関与するのみな リン分泌158)に関わっている.特にマクロファージにおける らず,TRPM7変異ゼブラフィッシュにおける個体レベル 炎症性ケモカイン産生についての生理的意義が詳細に調べ では,接触障害や骨形成異常が起きることも報告されてい られている.デキストラン硫酸ナトリウム誘導性の潰瘍性 る178).さらに pH によるチャネル活性の調節において,細 大腸炎を惹起したモデルマウスにおいて,炎症部位で産生 胞外 pH を酸性化(pH6以下)した場合,細胞外からの2 された活性酸素種が,マクロファージにおける TRPM2の 価カチオンの阻害効果を減らすことで1価カチオンの流入 活性化を促すことにより CXCL2産生の増加を引き起こし 量が増加してチャネルの活性が上昇する58,179,180).これらの 9 7 4 〔生化学 第8 1巻 第1 1号 イオンチャネルへの H+の影響は,グルタミン酸やアスパ 違いから TRPV1―4と TRPV5―6の大きく二つに分けられ ラギン酸と言った負電荷を帯びたアミノ酸残基が関与して る. いるようである.また,TRPM7は細胞内を酸性(pH5. 6) TRPV1―4は,皮膚や神経など感覚に関わる部位に発現 にした場合には不活性化を起こし,アルカリ性にした場合 しており,温度,化学物質,膜の脱分極で活性化し,ある (pH8. 4)には活性化する.この機構は,細胞内の PIP2 が 程度の Ca2+透過性を示す(Ca2+/Na+=1―1 0) .一方,TRPV 関与していると考えられている . 5―6は Ca2+透過性が高い(Ca2+/Na+>1 0 0)ことが示すよ 1 5 2) TRPM8は,後根神経節,前立腺,膀胱などに発現が見 られ,前立腺ではがんの悪性度との関係が見られる うに腎臓や腸における Ca2+の吸収に関わっており,定常 . 的活性を持っているが,厳密に細胞内 Ca2+濃度によって また,TRPM8は2 5度以下の冷刺激で活性化したり72,183), 制御されている203∼208).TRPV ファミリーを活性化する共 メントール,icilin,frescolat ML などで活性化したりす 通の因子として,熱や化学物質 が 知 ら れ て お り,熱 で ることから,周りの環境や清涼剤の感知といった冷感受性 は,TRPV1が4 3℃ 以 上55),V2が5 2℃ 以 上209),V3が3 0― を司る“センサー”と考えられている.メントール,icilin 3 9℃210∼212),V4が2 5―3 4℃213)で活性化されるというそれぞ による活性化機構は詳細に調べられており,メントールに れのチャネルで異なる温度依存性を持っている.一方, よる活性化は酸性では抑制されないが,icilin による活性 TRPV5―6に関して,温度感受性の報告はない.温度依存 化は酸性で阻害される185).このことは,これら二つの活性 性に関する詳細な部位決定はなされていないが,TRPV1 1 8 1, 1 8 2) 7 2, 1 8 4) 化機構が異なっており,実際に icilin による活性化に重要 と TRPM8の C 末端部位の置き換え実験によって,両チャ な部位は,TRPV1のカプサイシンによる活性化や TRPV4 ネルの温度感受性は C 末端が担っているということが示 のホルボールエステルによる活性化に重要な部位186)と同様 唆された214).化学物質では,NO が TRPV1,V3,V4を68), に S2―S3領域であることが報告されている . 2-aminoethoxydiphenyl borate(2-APB)が TRPV1―V4,V6 1 8 7) TRPM ファミリーも他のファミリーと同様にシグナル分 を活性化することが知られている215∼218). 子,脂質及び骨格タンパク質などと相互作用をしてシグナ TRPV1は脳,神経などに発現が見られ,カプサイシン ル伝達を効率化している.シグナル分子としては,TRPM2 のみならず痛みの原因物質と考えられている酸,熱によっ や M4が CaM189,190), M6が ERK1/2の活性191), M7が PLCβ151) ても活性化する痛み受容体として機能することが TRPV1 等と相互作用する報告がある.脂質成分では,TRPM4 , 欠損マウスを用いた解析から明らかにされた55,219).また M5 ,M7 ,M8 が PIP2,TRPM3が D-エリトロ スフィ TRPV1は ATP,PGE2,ブラジキニ ン な ど の 炎 症 関 連 メ ンゴシンによって活性化されることが報告されている. ディエーター存在下で,PKC 及び PKA によるリン酸化に TRPM7は,ミオシンÀA 重鎖 などの細胞骨格タンパク よりその活性化閾値が体温以下に低下し,体温でも活性化 質と相互作用をして活性が制御される. さ れ て 痛 み を 惹 起 し う る こ と が 分 か っ た.こ の た め 1 9 2) 1 9 3) 1 9 4) 1 5 4) 1 9 5) TRPV1は新規鎮痛薬の標的分子として盛んに研究が進め 3―3 TRPV(表3) られている.しかし,近年,TRPV1阻害剤の投与が体温 1)構造的な特徴 に影響を及ぼすことが明らかになり,それらの臨床応用の TRPV フ ァ ミ リ ー は 哺 乳 類 に お い て TRPV1―6の メ ン 際には TRPV1が担う体温調節機構の詳細を研究する必要 バーで構成され,N 末端には6回の ANKR ドメインが存 がある220).一方,チャネルの活性化機構についても数多く 在する の報告がある.酸性(pH5. 9以下)条件における TRPV1 .TRPV1,V2,V6に関しては ANKR の三次元 2, 1 9 6) ,特に TRPV1は,ANKR 内に チャネルの活性に関しては,細胞外領域に存在するグルタ チャネル活性化に重要な ATP の結合サイトと不活性化に ミン酸残基(Glu6 0 0,Glu6 4 8)の中性化に伴うチャネルコ 重要な CaM 結合サイトを持つことが示された .一方, ンフォメーション変化が重要である221).また,熱やカプサ TRPV ファミリーは C 末端領域に TRP-ボックスを有して イシンでのチャネルの活性の上昇には,電位依存性の感受 おり,チャネルの活性化ゲーティングや四量体化に重要で 性の上昇が関与し222),カプサイシンの持続投与によりチャ ある201,202). ネルのポアサイズ及び選択性が変化する等39)の詳細な活性 構造が決定されており 1 9 7∼2 0 0) 1 9 7) 近年,TRPV ファミリーでは,TRPV1の構造がクライ 化機構が明らかになりつつある. オ電子顕微鏡を用いて構造解析された.TRPC3と同様に TRPV2は後根神経節や肥満細胞に発現しており,高温 四量体であり,バスケット状の大きな細胞質領域と膜貫通 を感知するだけでなく機械刺激活性化チャネルとして働 領域にはポア構造が確認されている25). き43),細胞膨張などによっても活性化される.マスト細胞 における TRPV2の活性化は脱顆粒及び,その後に起こる 2)機能的な特徴 ここで紹介する TRPV ファミリーは,機能,配列上の ヒスタミン放出に関わっていることが示されている223).最 近,TRPV2は,大麻の成分の cannabidiol で活性化する224) 9 7 5 2 0 0 9年 1 1月〕 ことが報告されており,新たな薬物の標的となるのかもし 化が詳細に研究されており,PIP2 に関しては,TRPV5は れない. C 末端領域の TRP-ボックスと PIP2 の相互作用によって活 TRPV3は,皮膚などに発現しており,興奮,消炎作用 性が上昇する156).また,細胞内外を酸性条件にするとチャ のあるカンフル やハーブとして用いられるオレガノ(カ ネルが閉口し,アルカリ条件で開口する.このチャネルの ルバクロール) で活性化される.TRPV3遺伝子上のア 開口,閉口には S5―S6ループ付近の E5 2 2と S6の後の C ミノ酸変異(Gly5 7 3Ser)は,無毛形質を基に選抜,系統 末端部位の K6 0 7の電荷が関わっている234). 2 2 5) 2 2 6) 化されたマウスを遺伝解析した実験から,ヒトで言うアト TRPV ファミリーも他のファミリーと同様にシグナル分 ピー性皮膚炎や薄毛を引き起こす原因であることが明らか 子,脂質,骨格タンパク質などと相互作用をしてシグナル になった.本変異は TRPV3の電位依存性に重要とされて 伝達を効率化している.シグナル分子では,TRPV1,V4, いる S4―S5リンカー部に位置し,機能の亢進により細胞 V6は CaM235∼238),TRPV1は,phosphoinositide-binding pro- 内に過剰の Ca2+流入を引き起こす.角化細胞(ケラチン 2 3 9) 2 4 0) tein(Pirt) ,fat facets(FAF1) ,PI3K241),V2は,recom- 生成細胞)においては,この異常細胞内 Ca 濃度上昇に 2 4 2) binase gene activator(RGA) ,V3は,PLC226),V5は,B- より,皮膚疾患に関与すると考えられている SERCA2, 2 4 3) box and SPRY-domain containing protein(BSPRY) ,など SPCA1が異常活性化することで無毛形質を引き起こして の報告がある.脂質では,TRPV5は PIP2154)と言った脂質 いる可能性が考えられている 成分によって活性化されることが報告されている.細胞骨 2+ . 2 2 5, 2 2 7, 2 2 8) TRPV4は肺,腎臓などに発現が多く見られ,細胞外液 浸透圧の減少により活性化する .その活性化機構は, 2 2 9) 格系のタンパク質との相互作用は,V1はチューブリン244), 2 4 5) V4は,微小管結合タンパク質7(MAP7) に認められて 低浸透圧による細胞膨張により誘導されるアラキドン酸 いる.また,PKC 及び PKA によるリン酸化は TRPV1,V2 産生から,内在性のリガンドであるエイコサトリエン酸 の活性増強及び TRPV4の活性化を惹起させる223,246,247).こ (5, 6-epoxyeicosatrienoic acid)を 介 す る と 考 え ら れ て い れには TRPV1,V2のリン酸化を介した形質膜上での発現 る187,229∼231).事実,TRPV4欠損マウスは,血しょう中の浸 増大が重要であるという説もあり,リン酸化を促す“足場” 透圧調節を感知できないため,野生型と比べると摂水行動 タンパク質との相互作用も報告されている226,248∼250).TRP が損なわれており,血しょう中の浸透圧が高浸透圧になっ チャネルに相互作用するシグナル分子,脂質,骨格が集積 ていた .TRPV4は内耳の蝸牛,血管条及び螺旋神経節 しているシグナル伝達の集積場所と言える. 2 3 2) にも発現が認められ,TRPV4欠損マウスは8週齢までは 通常の聴覚能力を有するが,2 4週齢を越えると聴覚閾値 3―4 TRPA(表4) が高くなる.このように TRPV4は遅発性聴覚障害に関与 1)構造的な特徴 している可能性がある.子供に生じる感音難聴の5 0% 以 現在のところ,TRPA ファミリーは哺乳類においては 上の要因は遺伝的であり,大部分は非症候性である.常染 TRPA1の一つで構成されている.TRPA1の N 末端には 色体優性非症候性難聴(ADNSHL)に対する変異位置は ANKR モデル251)にも示されているように1 7個の ANKR の 染色体1 2b2 1―2 4であり,この位置には TRPV4遺伝子が 構造を持っており,その役割は,チャネルの四量体化やシ 存在する. ステイン残基への酸化修飾による構造変化の標的であるこ TRPV5,V6は定常活性化状態であり,Ca の透過性が 2+ とが示唆されている. 高い.TRPV5の高発現部位である腎臓233),V6の腸におけ る Ca2+の再吸収に関与し て い る.TRPV5欠 損 マ ウ ス は 2)機能的な特徴 Ca2+の再吸収が減弱しているため,高カルシウム尿が検出 TRPA1の生体内における役割は痛みに関する報告が多 される.TRPV5は常染色体優性特発的高カルシウム尿へ く,例えば喫煙や炎症による気管における痛み252),PG な の関与も示唆されている.実際,この変異において TRPV5 どの炎症性メディエーターや細胞内アルカリ化による痛 のコーディング領域は正常だが,5′ -側の遺伝子領域で三 み64,253)などの報告がなされた.近年,痛みに関する報告に つの1塩基多型(SNPs)が報告されている.TRPV5,V6 加えて,TRPA1が呼吸制御に関わるという報告があっ は年齢と共に発現量が減少し,Ca2+の再吸収が減少するこ た254).TRPA1アゴニストである次亜塩素酸,過酸化水素 とから,骨粗しょう症の発症の原因になっていると考えら をエアロゾル化し,マウスに吸入させると著しい呼吸回数 れている.加齢プロセスに重要な Klotho は TRPV5の重要 の低下を引き起こすが,TRPA1欠損マウスではこのよう な制御因子である.β-グルクロニターゼである Klotho は な変化は見られなかった.このように TRPA1は感覚神 TRPV5の細胞外に存在する糖鎖を加水分解し,それによ 経・交感神経のみならず副交感神経においても重要な役割 り形質膜上で安定に存在させることが知られている. を担っていることが明らかになっている.一方,活性化機 TRPV5においては,PIP2 や酸・アルカリ刺激による活性 構についても詳細に研究されている. TRPA1は,脱分極, 9 7 6 〔生化学 第8 1巻 第1 1号 細胞内 Ca2+濃度上昇,AITC などの刺激物,pH,機械刺 及び P2の C 末端は CC ドメインを介してチャネルを形成 激,冷感など様々な刺激によって活性化される. しているという報告がある18). 脱分極による活性化は,他の TRP チャネルと同様に S4 領域などに明確な正電荷を持つ領域が見当たらず,電位感 2)機能的な特徴 受性部位に関しては依然として謎は多い.TRPV1や M8 ADPKD は,腎の皮質,髄質に多数の嚢胞が形成される で見られた温度と電位依存性の関係で示されたように222), 高羅患率(約0. 1%)の疾患である.その原因遺伝子とし TRPA1の電位依存性も冷刺激によって感受性が増大す て単離されたのがポリシスチンファミリーである.PKD る255).また同様に,細胞内 Ca2+濃度上昇で電位感受性の の8 5% の原因は TRPP1ファミリーの変異であり,PKD 増大が見られたこと から,それぞれの活性化機構は独立 の1 5% の原因は TRPP2ファミリーの変異によって起こ していないように見える. る18,266). 2 5 6) TRPA1の活性化剤については多数の報告がある.刺激 TRPP1,P2は 腎 臓267),心 臓268),血 管 平 滑 筋269)な ど, 物として知られるワサビに含まれる AITC,シナモンに含 TRPP3は脳,心臓,舌など広範に発現している270∼274).通 まれる cinnamaldehyde73,257)やニンニクの成分であるアリシ 常,TRPP2は ER に存在し,ER からの Ca2+放出を担って ン74),汚染物質のアクロレイン253),またホルムアルデヒ いる275)が,TRPP1と複合体を形成すると細胞膜上で機能 ド などで活性化される.これらの活性化機構はいずれも する18).その機能は細胞周期に関わっており,TRPP1の発 システイン残基への求電子反応によることが明らかになっ 現が JAK-STAT 経路を活性化し p2 1wafl の発現誘導を引き起 ている.一方,TRPA1はハーブ成分であるメントール こすことで G0/G1 期に細胞周期を停止させ,恒常的に上皮 でも活性化する.この活性化機構は,S5領域にあるセリ 細胞の過剰増殖を抑制していると考えられる276).また, ン,スレオニンへのメントールの結合が重要であるらし TRPP1と P2の共発現では低浸透圧刺激による細胞膨張273) い260).また TRPA1はカフェイン261)や脂質262)によっても活 や灌流刺激によって18)活性化されることから,上皮細胞に 性化するが,これらの活性化機構は現在のところよく分 おける機械受容に関わるようである. 2 5 8) 2 5 9) かっていない. TRPP ファミリーは,電位,pH によって制御されてい pH 変化による活性化で見られるように,TRPA1は不思 るという報告があるが,背反する結果が報告されており, 議なことにアンモニアによる細胞内アルカリ化によって 未だ統一的な見解は得られていない.例えば,電位感受性 も64),酸性化によっても活性化が見られる.このことか については,TRPP2,P3は,過分極によって活性化され ら,刺激物や pH など少しの変化が加わるだけで,開閉状 る275,277,278)という報告があるが,その一方,TRPP3は脱分 態が変わるような安定性が低いチャネルなのかもしれな 極で活性化するという報告もある65).pH に関し て は, い.チャネル活性の評価に関してはその不安定さが原因か TRPP3が舌で PKD1L3と共発現しており,酸性条件から どうかは不明だが,機械刺激や 中性条件に戻すと活性化することで,酸味受容にかかわ 低温刺激 5 0, 2 5 3, 2 6 3) に関 7 3, 2 5 3, 2 6 4) しては一致した解釈がなされていない. る17)という報告がある.しかし,一方で TRPP3は単独の 発現においてアルカリで活性化されるという報告65)があ 3―5 TRPP(表4) 1)構造的な特徴 TRPP ファミリーは配列上に特有のポリシスチンモチー り,今後さらなる研究が必要だろう. TRPP5は脳,腎臓,睾丸などに発現が見られるが279), その生理的,病理的役割は明らかにされていない. フを持っており,構造上,大きく二つのポリシスチング TRPP ファミリーの特徴として,他の TRP チャネルと相 ループに分類されている.一つは polycystic kidney disease 互作用して,新たな機能を発揮させるという報告が多いこ 1-like(PKD1-like,TRPP1-like)であり,もう一つは,poly- とがあげられる.例えば,TRPP2は,P1と共発現するこ cystic kidney disease 2-like(PKD2-like,TRPP2-like)であ とによって機械刺激の感受18),TRPC1との相互作用によっ る265).PKD1-like グループは,PKD1,PKDREJ,PKD1L1, て受容体活性化による細胞内 Ca2+流入の調節281),V4との PKD1L2,PKD1L3であり,この中の PKD1が TRPP1と呼 共発現によって機械受容の増大15),TRPP3は,PKD1L3と ばれる.PKD2-like グループは,PKD2,PKD2L1,PKD2L2 相互作用による酸感受275)などがあり,今後,新たに相互作 であり,後にそれぞれ TRPP2,P3,P5と呼ばれるように 用するチャネルやタンパク質が見つかるかもしれない. なった3).TRPP1-like ファミリーと TRPP2-like ファミリー の構造は大きく異なっていて,TRPP1-like ファミリーは 3―6 TRPML(表4) 1 1回膜貫通領域と,およそ2 5 0 0アミノ酸程度の細胞外領 1)構造的な特徴 域を持ち,ポア領域は存在しない.一方,TRPP2-like ファ TRPML ファミリーは現在のところ三つのメンバーが報 ミリーは S1―S2の間に大きなループ領域を持つ.TRPP1 告されており,アミノ酸配列の長さは6 0 0bp と比較的小さ 9 7 7 2 0 0 9年 1 1月〕 い.S1―S2の間のループにはリパーゼドメインを含み,N 末端には核移行シグナル,推定上の後期エンドソーム―リ ソソーム移行シグナルを持つ. 2)機能的な特徴 TRPML ファミリーはリソソームに局在し,その発現部 位が酸性環境にあることからも予想されるように酸性条件 下(pH4. 6)で活性化され,種々の2価カチオン及び1価 カチオンを透過する60,282∼285). TRPML1は H+を透過することから62),マクロファージ における oxidative burst に関わり,アポトーシス細胞のク リアランスに重要な役割を果たすことが報告された287). TRPML1は,先天代謝異常症(4型ムコリピドーシス) の原因遺伝子として同定され62,288∼296),細胞内の小胞輸送で あるエキソサイトーシス300),リソソームやゴルジ体の輸 送299∼301)に関わることが報告されている.脳や肝臓など, その発現部位は広範にわたっている301).NAADP はリソ ソーム様の Ca2+ストアからの Ca2+放出を起こすメッセン ジャー分子であることが知られていたが,直接作用する分 子は明らかにされていなかった.最近,その分子実体とし て TRPML1が報告された301). TRPML2は B 細胞における発現が確認されており,ML1 と同じくリソソームの輸送に関わるようである303). TRPML3は脳や内耳有毛細胞などに発現が見られ,ML3 (A4 1 9P)点変異マウスは耳の疾患,行動異常(徘徊)の 他,尾の黒色が消失する等の症状を示すことが報告されて いる284,304). 4. お わ り に TRP チ ャ ネ ル の 多 く は Ca2+を 透 過 す る が,透 過 し た Ca2+によって起こる細胞応答は,それぞれの TRP チャネ ルによって異なっている.それは TRP チャネルの“足場” としての役割により,シグナル分子のマイクロドメインが 構成されている結果と考えられる. 今後の TRP チャネルの研究はセンサー素子としての TRP チャネルの分子機構解明と共に,相互作用タンパク 質やシグナル分子を含めた,チャネル分子複合体の機能解 明が焦点となると考えられる.また,近年盛んに行われて いる種々のタンパク質の構造解析は,複合体の構造と機能 連関の全容解明を大きく前進させていくだろう.さらにこ れらの総合的な研究の結果として,未解明な点の多い TRP チャネルの生理的役割の解明が期待される. 文 献 3 2 3. 1)Montell, C. et al.(1 9 8 9)Neuron,2,1 3 1 3―1 2)Clapham, D.E.(2 0 0 3)Nature,4 2 6,5 1 7―5 2 4. 3)Moran, M.M. et al.(2 0 0 4)Curr. Opin. in Neurobiol., 1 4, 3 6 2―3 6 9. 4)Nilius, B.(2 0 0 3)Cell Calcium,3 3,2 9 3―2 9 8. 5)Vazquez, G. et al.(2 0 0 4)Biochem. Biophys. 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