食道癌に対する化学放射線療法後局所再発の内視鏡分類 山本幸子(大阪府立成人病センター 消化管内科) 要旨 当院にて経験した食道癌化学放射線療法後局所再発 19 例を、内視鏡の肉眼病型で、表在型、粘膜下腫瘍型、潰瘍型に分 類し、各内視鏡病型と予後との関連を検討した。今回定義した食道癌の局所再発時の内視鏡病型分類は局所の治療効果及 び再発後の予後とよく相関していた。 キーワード:食道癌、化学放射線療法、局所再発 【目的】 った。原発部位は、頚部食道が 16 例、胸部上部食道が 48 食道癌に対する化学放射線療法(以下 CRT)は手術と比較 例、胸部中部食道が 102 例、胸部下部食道が 45 例、腹部 し低侵襲で、根治性の高い治療である。しかし治療後には 食道が 1 例であった。CRT は、放射線を 1 回 2Gy、週 5 しばしば再発がみられ、再発の診断及び治療方針の決定は 回の計 30 回、60Gy 照射すると同時に、化学療法のレジメ 時に困難である。CRT 後の局所再発の内視鏡像を分類し、 ンとして FP 慮法(5-FU+シスプラチン)を 2 コース投与 各内視鏡病型とその臨床経過及び予後との関連を明らか するスケジュールで、80%以上の症例で FP が投与された。 にし、治療方針の決定に役立て、治療成績向上に寄与する 最初の 2 年間は 3-6 ヶ月毎に、それ以降は 6 ヶ月毎に上部 ことを目的とする。 消化管内視鏡検査及び CT 検査にて評価を行った。141 例 が CR となり、19 例に局所再発認めた。再発までの中央値 【対象】 は 9 ヶ月(5-39 ヶ月)で、14 例が 1 年以内に再発し、17 対象は 2001 年 1 月から 2008 年 12 月までに、当院にて食 例が 2 年以内に再発した。 道癌に対し根治目的で CRT を施行した 212 例のうち 、一 CRT 前に病変を認めた部位にわずかな陥凹もしくは隆起 旦完全奏効(以下 CR)となった後に局所再発を来した 19 を認める病変を表在型、粘膜下腫瘍様隆起を主体とし、明 例である。但し、局所再発以前にリンパ節転移や遠隔転移 らかな潰瘍形成を認めない病変を粘膜下腫瘍(以下 SMT) がみられた症例は除外した。 型、潰瘍形成を主体としたものを潰瘍型に分類した。その 後各内視鏡病型と臨床所見や予後との関連を検討した。局 【方法】 所再発 19 例は表在型 9 例、SMT 型 7 例、潰瘍型 3 例に分 局所再発時の内視鏡像を分類し、各内視鏡病型とその臨床 類された。潰瘍型はすべて T3 または T4 からの再発で、 経過及び予後との関連を検討した。 SMT 型は全て T1 または T2 からの再発であった。治療前 の T、N 因子と各内視鏡病型との関連について単変量解析 【結果】 し、局所再発の内視鏡病型は T 因子と有意に相関していた。 212 例の患者背景は、年齢中央値は 65 歳(41-86 歳)、男 (P=0.041) (表 1)再発病変の内視鏡病型と局所再発に対 性 181 例、女性 31 例、全例扁平上皮癌であった。治療前 する治療及び治療効果との関連を検討したところ、表在型 の T 因子は、T1 が 84 例、T2 が 30 例、T3 が 43 例、T4 9 例のうち 5 例に内視鏡的粘膜切除術(以下 EMR)、4 例 が 55 例で、N 因子では、N0 が 123 例、N1 が 89 例であ に手術を施行し、全例で局所の癌が消失した。SMT 型 7 例のうち 3 例に光線力学療法(以下 PDT)、2 例に手術、1 させた後、内視鏡下にレーザー光を照射し、光線力学反応 例に EMR と PDT の併用、1 例に化学療法等を施行し、 により癌を死滅させる治療法である。PDT は手術に比べ低 PDT の 2 例、EMR と PDT の併用 1 例、手術 1 例の計 4 侵襲で内視鏡的切除が困難な癌も治療できる。今回 CRT 例で癌が消失した。潰瘍型 3 例のうち 1 例に手術を施行し 後の再発例を検討し、CRT 前の食道癌深達度が筋層より深 たが、切除不能で、他の 2 例には積極的治療が行えなかっ い場合に局所の再発が多いことが判明した。このようなハ た。 (表 2) イリスク症例に粘膜表層の微細な変化をとらえる事がで 局所再発 19 例の再発形式および予後を解析した。19 例の きる狭帯域フィルター内視鏡を用いたフォローを行うこ うち 13 例は再発時深達度 T1(以下 rT1)と診断された。 とにより再発の多くを PDT のレーザーが届く早い段階で 表在型 9 例のうち 1 例は腹部リンパ節転移再発し原病死、 発見できることが期待される。さらに腫瘍量の少ない再発 そのほかの 8 例は無再発生存中である。SMT 型 7 例のう 早期の癌に PDT を適応し、PDT を CRT と組み合わせ、 ち rT1 と診断された 4 例は全例内視鏡治療が施行され、観 安全で根治可能な食道癌治療体系を確立することを今後 察期間中、2 例に肺転移再発を認め 1 例が原病死、1 例は の目的とする。 腹部リンパ節に再発し原病死した。表在型は半分以上が生 存中であるのに対して、SMT 型の生存期間中央値は 26 ヶ 自著論文:Esophagus; volume 6:243-8. 2009 月であった。 (P=0.09)潰瘍型は全例治療前 T3 または T4 参考文献: で生存期間中央値は 3 ヶ月と予後不良であった。 1) Salvage esophagectomy for recurrent tumors after definitive chemotherapy and radiotherapy. 【考察】 Swisher SG, Wynn P, Putnam JB, Mosheim MB, et al. J 今回の検討で、局所再発後の非局所再発の頻度は 37% Thorac Cardiovasc Sur.;123:175-83. 2002 (7/19)と高く、特に SMT 型で再発した 7 例のうち 5 例 2) Photodynamic therapy as salvage treatment for local で非局所再発しており、SMT 型で再発した場合は非局所 failures after definitive chemoradiotherapy for esophageal 再発のリスクが高いと考えられた。SMT 型での再発に対 cancer. Yano T, Muto M, Minashi K, Ohtsu A, Yoshida S, et して救済手術が適用されるが、術後遠隔リンパ節や遠隔臓 al. Gastrointest Endosc.;62:31-6. 2005 器転移で再発することもしばしば認める。また根治的 CRT 後の救済手術は縫合不全や手術関連死亡の頻度が高くな り、SMT 型再発でも、特に再発時の深達度が rT1 と診断 された場合は内視鏡的治療も選択肢の 1 つとなりうる。し かし非局所再発の早期発見のため、短期間でのフォローア ップが不可欠である。表在型 rT1 は局所再発がコントロー ルされれば、リンパ節や遠隔転移の頻度は低く、予後も良 好であった一方、SMT 型 rT1 では、局所再発後、リンパ 節や遠隔転移を来す例が多く、予後も不良であった。 今後の展望としては、食道癌に対する CRT は手術に比べ 低侵襲で、根治性のある治療であるが、一旦癌が消失して も約 14%に食道局所に再発する。CRT 後再発に対する手 術死亡率は約 10%と高く、内視鏡切除も食道壁の線維化の ため困難なことがある。一方、光線力学的療法(PDT)は 生体に光感受性物質(フォトフリン)を投与し癌巣に集積 表 1. 局所再発時の内視鏡病型と CRT 前後T因子及び治療前内視鏡病型との関連 局所再発の内視鏡病型 表在型 SMT 型 潰瘍型 P 値 0.041 T 因子 (CRT 前) T1,2 7 7 0 T3,4 2 0 3 表在型 4 2 0 隆起型 4 2 0 潰瘍型 1 3 3 rT1,2 9 6 0 rT3,4 0 1 3 内視鏡病型 (CRT 前) 0.47 T 因子 (再発時) SMT, 粘膜下腫瘍; T, 壁深達度; CRT, 化学放射線療法. 0.02 表 2. 局所再発 19 例の腫瘍背景と予後 内視鏡病型 治療前 再発時 再発時 非局所再発 予後 局所再発から TNM stage Clinical rT 治療 1: 表在型 T2N0M0 rT1 EMR 腹部リンパ節 原病死 10M 2: 表在型 T1N0M0 rT1 手術 無 無病生存 49M 3: 表在型 T2N0M0 rT1 手術 無 無病生存 48M 4: 表在型 T1N0M0 rT1 手術 無 無病生存 46M 5: 表在型 T4N0M0 rT1 手術 無 無病生存 45M 6: 表在型 T2N1M0 rT1 EMR 無 無病生存 23M 7: 表在型 T1N0M0 rT1 EMR 無 無病生存 14M 8: 表在型 T3N1M0 rT1 EMR-ablation 無 無病生存 14M 9: 表在型 T1N0M0 rT1 EMR 無 無病生存 2M 10: SMT 型 T2N0M0 rT1 PDT 肺 原病死 28M 11: SMT 型 T2N1M0 rT1 PDT 多発リンパ節 原病死 23M 12: SMT 型 T2N0M0 rT3 手術 無 原病死 16M 13: SMT 型 T2N1M0 rT2 化学療法 多発リンパ節 原病死 12M 14: SMT 型 T1N0M0 rT1 PDT 肺 有病生存 9M 15: SMT 型 T2N0M0 rT2 手術 頚部リンパ節 無病生存 7M 16: SMT 型 T2N0M0 rT1 EMR-PDT 無 無病生存 2M 17: 潰瘍型 T4N0M0 rT3 手術 無 原病死 11M 18: 潰瘍型 T3N1M0 rT4 BSC 無 原病死 3M 19: 潰瘍型 T4N1M0 rT4 BSC 縦隔リンパ節 原病死 2M の生存期間 T, 壁深達度; N, リンパ節転移; M, 臓器転移; SMT, 粘膜下腫瘍; M, 月; EMR, 内視鏡的粘膜下切除術; PDT, 光 線力学療法; BSC, best supportive care
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