第4章 公務員倫理編(PDF 785KB)

第4章
公務員倫理編
Ⅰ 公務への信頼を得るために
1
組織風土のマネジメント
国や地方公共団体は、常にその公務のあり方を問われている。
地方分権が進み、特別区は東京における基礎自治体として区民からより大きな期待を
寄せられている。
一人ひとりが公務員としての良識を持ち、公務を適切に遂行していくのはもちろんの
こと、公務員倫理を観念として語るのではなく、職場マネジメントとしても考えていく
必要がある。
管理監督者は、組織のあるべき姿を明確に示しながら職員の意識的な行動をサポート
することを通して、区民から信頼される組織風土づくりに取り組むことが重要である。
2
組織としての取り組み例
たったひとりの不注意が組織の信頼を失うような不祥事につながり、そのたびごとに
「チェック機能が働かなかった」「倫理観が浸透していなかった」と反省がなされる。
こうした状況を変えていくには、どのような取り組みが必要だろうか。
職員が心から共感できる姿勢を明確に示し、社会に受け入れられる組織や職場をつく
って行く努力が、信頼される組織風土につながる。
そのための具体的な取り組みとしては、以下のような例をあげることができる。
①組織における行動指針の策定
②チェック項目の明示
③研修の実施
④相談窓口の設置
⑤コンプライアンスの取り組み
Ⅱ 公務員の職業倫理
1
公務員の職業倫理と法律
公務員は、住民からの信託を受けて、住民福祉の増進を目的として職務に当たってい
る。その経費は税金によって賄われており、住民は公務員の行動を厳しい目で見つめて
いる。
また、区民のニーズが多様化している現在、地方分権の時代を迎え、基礎自治体とし
て多様なニーズに応えるうえで、区民とのパートナーシップを構築することが各区とも
重要な課題となっている。
こうした状況下で汚職や非行など公務員の不祥事が起これば、公務に対する住民の信
頼を失い、回復には多大な労力を要することになる。
常に倫理意識を持ち、公務員が社会から期待されている行動原理を認識した上で職務
に当たる際の行動規範としては、以下の項目があげられる。
①
公正に職務を遂行する。
②
公共の利益のために全力で取り組む。
③
公務の信用を常に意識して行動する。
④
職務や地位を私的利益のために用いない。
⑤
住民の疑惑や不信を招くようなことはしない。
公務員倫理というと「行ってはいけないこと」ばかりが強調され、住民の信頼を損なわ
ないためのものと捉えられがちである。しかし、それにとどまらず、公務の特性を踏まえ、
公共の福祉の実現や社会正義に合致した積極的な取り組みによって、住民からの信頼感を
高めていかなければならない。
2
公務の特性
特性
(1) 非営利性
内容
利潤追求を第一義的な目的とせず、活動の多くが金銭には換えられな
い価値(社会の秩序、安全の維持、人間としての生存の保障、環境の保
護など)を追求している。
活動に要する費用は、原則として税金による。
(2) 公平・中立性
法令に基づく命令により、同じ条件の者に対しては同じ扱いをしなけ
ればならず、また政治的中立性を保たなければならない。
(3) 公正性
公務は正義や公共の福祉の実現を目指さなければならない。
法令に従っていれば十分だ、違反がないから問題ないという姿勢を脱
し、公共の福祉の実現に貢献し、社会正義に合致しているかを常に意
識する必要がある。
(4) 独占性
公的機関は、特定の目的のために必要な数だけ設置されており、競争
状態になく、独占的である。
(5) 権力性
公務員の判断で区民に対してある行動を規制、命令したり、禁止した
りするほか、場合によっては罰則や強制力を持っている。
3
地方公務員法が定める公務員の服務
― 3つの義務・2つの禁止・2つの制限
地方公務員法では、第30条から38条にわたり、公務員が守るべき規律を規定し
「 すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益の
ており、 服務の根本基準として、
ために勤務し、且つ、職務の遂行に当たっては、全力を挙げてこれに専念しなければ
ならない。(地方公務員法
第 30 条)」と定めている。
また、服務の具体的内容として、3つの義務・2つの禁止・2つの制限を定めてい
る。
(1) 3つの義務
特性
①
法令等及び上司の職務
職員は、その職務の遂行に当っては法令、条例等を遵守し、
上の命令に従う義務
かつ(違法が明白な場合を除き)上司の命令に従わなければな
(地方公務員法
②
内容
第 32 条)
秘密を守る義務
らならない。
「守秘義務」といわれる。秘密とは、一般に知らされていな
(秘密を漏らすことの禁止) い事実であって、それを一般に知らせることが一定の利益侵
害になると客観的に考えられるものを指す。この義務に違反
(地方公務員法
③
第 34 条)
職務に専念する義務
した場合は、懲戒処分に加え、刑罰が科されることがある。
勤務時間中は職務に専念する義務があり、職務に関係ないこ
とをしてはならない。この義務は年次有給休暇や研修など、
(地方公務員法
第 35 条)
法律または条令に特別の定めがある場合にのみ免除される。
(2) 2つの禁止
特性
内容
① 信用失墜行為の禁止
職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務するも
(地方公務員法
のであり、勤務時間外、職務外の行為であっても、法令順守
第 33 条)
義務の違反や特別区の信用を傷つけ、職員の職全体の不名誉
となるような行為は禁止されている。
② 争議行為等の禁止
憲法第28条は、勤労者の団結する権利及び団体交渉その他
(地方公務員法
の団体行動をする権利を保障しているが、公務員は全体の奉
第 37 条)
仕者として公共の利益のために勤務するという特殊性に基づ
き、争議行為が禁止されている。
(3) 2つの制限
①
政治的行為の制限
(地方公務員法
第 36 条)
職員は、全体の奉仕者として政治的に中立な立場をとることが必要なため、政治的行
為が制限されている。
法律に定められた特定の行為について禁止され、この制限に違反した場合には、 懲
戒処分に加え、刑罰が科されることがある。
禁止される行為は以下のとおりである。
政治的行為の制限
≪ 地方公務員法第 36 条第1項 ≫
禁止される政治的行為
①
政党その他の政治的団体の結成に関与すること
②
政党その他の政治的団体の役員となること
③
政党その他の政治的団体の構成員になるよう若しくはならないよう勧誘運動する
こと
禁止される区域
①②③ともに、すべての区域で禁止
≪地方公務員法第 36 条第2項 ≫
禁止される政治的行為
特定の政党その他の政治的団体又は特定の内閣若しくは地方公共団体の執行機関を
支持し、又はこれに反対する目的を持って、あるいは公の選挙又は投票において特定の
人又は事件を支持し、又はこれに反対する目的をもって
① 公の選挙又は投票において投票をするように、又はしないように勧誘運動すること
② 署名運動を企画し、又は主宰する等これに積極的に関与すること
③ 寄附金その他の金品の募集に関与すること
④ 文書又は図画を地方公共団体又は特定地方独立行政法人の庁舎、施設等に掲示さ
せ、その他地方公共団体又は特定地方独立行政法人の庁舎、施設、資材又は資金を
利用し、又は利用させること
⑤ その他条例で定める行為
禁止される区域
①②③及び⑤の行為については、原則として、当該職員の属する地方公共団体の区域の
み
④はすべての区域で禁止
②
営利企業等の従事制限
(地方公務員法
第 38 条)
職員が営利企業等に従事することは、職務の公正な執行をさまたげ、職務に専念す
る義務に悪影響を及ぼすおそれがある。私企業経営、アルバイト等に従事することは、
勤務時間の内外を問わず制限されている。申し出によって任命権者の許可を受ければ、
営利企業等に従事することができるようになる場合もある。
≪コラム≫
兼業には許可願いを!
地方公務員法第 38 条は、職員が営利企業等に従事する行為を制限しています。
これは、職務専念義務を損なわず、職務の公正性や中立性を確保するためです。
職員が制限を受ける営利企業等に従事する行為とは、下記のとおりです。
・ 営利を目的とする私企業等の役員等の地位を兼ねること
・ 自ら私企業を営むこと
・ 報酬を得て事業等に従事すること
公務員として兼業の機会が多いものとして、農業や駐車場やアパートの経営、業務に
関連する団体(協議会等)の委員の委嘱などが考えられます。
講師謝礼、原稿謝礼は、法律上は営利企業事務従事にはあたらないとされていますが、
兼業として届出を求める自治体もあります。
兼業が認められるかどうか、謝礼を受け取ることができるかどうか、服務の取扱いな
ど、判断や取扱いが自治体により異なり、一律ではない場合もあるので、自己判断は避
け、人事担当者に相談しましょう。
Ⅲ 職員の非行行為と部下指導
1
公務員の非行行為
公務員の非行行為として挙げられるものは以下のとおり、広範囲にわたる。これらは懲
戒処分の対象になる。
区
分
内
①一般服務
関
係
1)欠勤
2)遅刻・早退
3)休暇の虚偽申請
4)勤務態度不良
5)職場内秩序びん乱
6)虚偽報告
7)秘密漏洩
8)違法な職員団体活動
②公金官物
取 扱 い
1)横領
2)窃取
3)詐取
4)紛失
5)盗難
③公 務 外
非行関係
1)放火
2)殺人
3)傷害
4)暴行・けんか
5)器物損壊
6)横領
7)窃盗・強盗
④交通事故
等
⑤監督責任
⑥公務員倫
理違反
容
9)許可のない営利企業等の従事
10)政治的目的を有する文書の配布
11)個人の秘密情報の目的外収集
12)個人情報の盗難、紛失又は流出
13)入札談合等に関与する行為
14)セクシュアルハラスメント
15)パワーハラスメント
6)官物損壊
7)失火
8)諸給与の違法支給・不正受給
9)公金官物の不適正処理
10)コンピュータの不適正使用
8)詐欺・恐喝
9)賭博
10)麻薬・覚せい剤等の所持又は使用
11)酩酊による粗野な言動等
12)淫行
13)わいせつ行為
14)ストーカー行為
1)飲酒運転
2)飲酒運転以外での人身事故
3)飲酒運転以外の交通法規違反
1)指導監督不適正
2)非行の隠ぺい・黙認
1)収賄
【解 説】
(1) 交通事故・飲酒運転
交通手段として、自動車の利用が当たり前になった現在では、自動車の事故も多
くなっている。交通事故は被害者に大きな損害を与えるとともに、交通事故を起こ
した本人の生活も破壊するなど悲惨な結果を引き起こす。
①交通事故
交通事故は、ちょっとした不注意やふとした気のゆるみから起こる。事故の態
様、程度などによっては、刑事罰や懲戒処分を受けることになる。
人身事故を起こし、人を死傷させた場合には5年以下の懲役・禁錮又は100
万円以下の罰金に処せられることになる。
(刑法第211条)また、この事故がア
ルコール等の影響による危険運転の場合は、負傷で15年以下の懲役、死亡で1
年以上の有期懲役に処せられることになる。
(刑法第208条の2)職員は職務上
はもちろん、私生活においても交通事故を起こさないよう気をつけなければなら
ない。
②飲酒運転
酒を飲んでの運転は、同乗者の責任も問われ、たとえ事故を起こさなくても 道路
「一杯くらいなら大丈夫」
「飲んで
交通法上の厳罰と大変厳しい懲戒 処分がなされる。
も時間がたてば大丈夫」と酒の影響を過少評価することは禁物である。アルコール
は脳の機能を麻痺させ、運転に必要な「情報収集力」「注意力」「判断力」を低下さ
せる。結果として、交通事故に結びつく可能性を高める。
「一滴でも飲んだら、運転
しない、させない」という確固たる自制心が必要である。職場でも交通違反や飲酒
運転を容認する雰囲気にならないように、日頃から心がける必要がある。
(2) 覚せい剤
近年、覚せい剤や麻薬等の薬物乱用が世界的な拡がりをみせており、学生や地方公務員
にも逮捕者が出ている。覚せい剤、大麻等については、単に所持していて逮捕された場
合であっても、公務への信頼を著しく損なうことから、すべて懲戒免職となっている。
覚せい剤等の薬物には、当然のことながら、絶対に手を出さないことである。
(3) ハラスメント
①「セクシュアルハラスメント」
セクシュアルハラスメントとは一般的に「相手方の意に反する性的な言動で、
それに対する対応によって、仕事を遂行するうえで、一定の不利益を与えたり、
就業環境を悪化させること」とされている。セクシュアルハラスメントの判断基
準は、以下のとおりとなる。
◇ 「相手の意に反する言動」
相手の「望まない」言動で、「不快な」ものをいう。たとえ本人が応じてい
ても、望まない言動であれば該当する。職場の人間関係の中で、必ずしも意に
反する言動であるという明確な意思表示があるとは限らない。勝手な思い込み
をしないことが必要である。
◇「不快な言動」
「平均的な女性労働者の感じ方」が判断基準となる。しかし、不快な言動と
感じるか否かは個人差が大きいので、本人にとって不快であり、それを意思表
示しているにも関わらず当該言動が繰り返される場合は、本人がどう感じるか
が基準とされるべきである。
男女雇用機会均等法でセクシャルハラスメント防止のための事業主の配慮義
務が規定され、各区では相談窓口の設置をはじめとする組織的な対応がなされ
ている。
管理監督者は、職場において職員同士が互いに同僚として尊重しあう雰囲気
を醸成するとともに、組織の指針や相談窓口を周知しておく必要がある。
②パワーハラスメント
パワーハラスメントとは「職権などのパワーを背景にして、本来の業務の範疇
を超えて、継続的に人格と尊厳を侵害する言動を行い、就業者の働く関係を悪化
させ、あるいは雇用不安を与えること」
(岡田康子著「許すな!パワーハラスメン
ト」)と定義されている。
一般的には、上司が部下に対して、その地位を利用して嫌がらせをすることと
考えられているが、専門力を利用するなど場合によっては、部下から上司へある
いは同僚から同僚へ、年上の後輩から年下の先輩へなども起こり得る。最近では、
職員の雇用形態が多様化するに伴い、係員から非常勤職員、臨時職員、派遣職員
に対する事例も見られるようになってきた。
パワーハラスメントとしては、具体的に以下の事項をあげることができる。
・ 部下の話を無視する。
・ 人前で激しく叱責する。
・ サービス残業や休日出勤を強要する。
・ 他の業務に支障をきたすほど、長時間部下を拘束する。
パワーハラスメントが起こりやすいのは、上下関係が強固な職場、住民など第
三者の出入りが少ない職場が多いといわれている。
管理監督者として、パワーハラスメントの具体例をわかりやすく職員に示し、
相談窓口の存在を職場に周知するなど、風通しの良い状況をつくる必要がある。
(4)
借金に関する問題やトラブル
収賄、横領、窃盗などの背景には、借金やその返済の問題が絡んでいる場合が多
く見られる。
借金がかさんでくると犯罪に走らないまでも、仕事に集中できない、勤務時間中も返
済に奔走する、電話等による職場への督促など、服務上の問題が生じることもある。
返済に行き詰る事態になった場合、本人がひとりで悩んでいることが多いため、気づ
いた段階で相談に乗る姿勢で働きかけをし、可能な範囲で債権者や相談機関に同行する
などの対応を検討し、早期に見通しをつけることが重要である。
Ⅳ 汚職
1 汚職とは
私たちが遵守すべき地方公務員法上等の服務規律に反する行為のほか、公務員として行
ってはならない行為がある。
汚職とは、その職を汚すこと、職権や地位を濫用して賄賂を受けるなどの不正な行為を
することを言う。公務員の汚職が犯罪として扱われるのは、公務の公正性を保持し、それ
に対する社会の信頼を確保するためである。
(1) 収賄罪(収賄罪の成立、収賄罪の種類)
① 公務員が
②その職務に関し
③賄賂を
④収受、要求、約束したとき
に、収賄罪が成立する。(刑法第 197 条第 1 項前段)
◆ 収 賄 罪 の 成 立 ◆
公務員が
職務に
関して
不正な報酬
(賄賂)を
収 受
すること
収賄罪
成立
「その地位に伴って取り扱うことが予想されているすべての職務」と解さ
れる。現に担当している事務はもちろん、内部的事務配分の上ではその権限
を有していなくても、所属部課が同じで、一般的にはその処分権限があると
みられる場合には、「職務に関し」の範囲に含まれるなど、広い範囲に及ん
でいる。
有形・無形を問わず、人の欲望をみたす、一切の利益がこれにあたる。
金、物をもらう。
金を借りる、保証人になってもらう。
利子を払ってもらう。
酒や食事のもてなしを受ける。
異性との交遊の機会を提供してもらう。
自分や家族のために就職を斡旋してもらう。
不動産の購入やその他の品物の購入にあたり、斡旋、仲介をしてもらう。
レジャー施設やゴルフクラブの会員権などを借りる。
職場または職員相互の懇親会・旅行会等の会場や旅館、乗用車などの手
配・紹介などの便宜をはかってもらう。差し入れをもらう。
⑩ 旅行や引っ越しなどの際に、車の提供や人手の提供を受ける。
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
・収受(もらう):あとで返してもダメ!
・要求(ねだる):要求して相手に拒否され、賄賂をもらえなくてもダメ!
・約束(決める):一度合意すれば、あとで“約束はやめた”といってもダメ!
◇収賄罪の種類◇
公務員になる前
在職中
罪名
犯罪の内容
刑罰
事前
収賄罪
公務員になろうとする者が、その担当すると予想する職務に関して、将来
何らかの職務行為または職務と密接に関連する行為を行うことを依頼さ
れ、賄賂を受け取ったり、要求したり、受けとることを約束して公務員になっ
た場合
5 年以下
の懲役
刑法
197 条
第2項
単純
収賄罪
職務に関して、賄賂を受け取ったり、要求したり、受けとることを約束した
場合
5 年以下
の懲役
刑法
197 条
第1項
前段
受託
収賄罪
職務に関して、請託を受け(将来何らかの職務行為または職務と密接に
関連する行為を行うことを依頼され)、賄賂を受け取ったり、要求したり、受
けとることを約束した場合
7 年以下
の懲役
刑法
197 条
第1項
後段
第三者
供賄罪
職務に関して、請託を受け(将来何らかの職務行為または職務と密接に
関連する行為を行うことを依頼され)、第三者に賄賂を供与させたり、要求し
たり、約束させた場合
5 年以下
の懲役
刑法
197 条の 2
収賄罪を犯し、その結果職務に関して不正な行為や、なすべき行為をし
なかった場合
1年以上
の有期
懲役
刑法
197 条の 3
第1項
職務に関して、不正な行為や、なすべき行為をしなかった後に、収賄罪の
行為を犯した場合
1年以上
の有期
懲役
刑法
197 条の 3
第2項
請託を受けて、他の職員にその職務上不正な行為をさせるように、また
は、なすべき行為をさせないようにあっせんすること、または、あっせんしたこ
との報酬として、賄賂を受け取ったり、要求したり、受けとることを約束した
場合
5 年以下
の懲役
刑法
197 条の 4
在職中、請託を受けて不正な行為をしたり、なすべき行為をしなかったこ
とに対して、退職後に賄賂を受け取ったり、要求したり、受けとることを約束
した場合
5 年以下
の懲役
刑法
197 条の 3
第3項
加重
収賄罪
あっせん
収賄罪
退職後
事後
収賄罪
根拠条文
(2)業務上横領・窃盗等
税金等の納入金や公的サ-ビスの対価である公金(使用料、手数料等)に手をつける
業務上横領や職務に関連しての窃盗などについても、ひとたびこれらを犯せば刑罰を受
けるだけでなく、住民の区への信頼は大きく損なわれる。
①
業務上横領罪
◆10年以下の懲役
◇業務上自己の占有する他人の物を横領すること
・社会生活上の地位に基づき
・反復または継続的に従事する仕事の上で
・委託を受けている他人の財物を
・不法に領得すること
【例】
○給与担当者が他人の給与を自分の口座に振込んだ場合
○徴税の業務に従事している職員が徴収した現金を区に納入することなく、自己のために
費消した場合
②
窃盗罪
◆10年以下の懲役
◇他人の財物を窃取すること
・不法領得の意思で、他人の所持(占有)する財物を窃取すること
※一時使用とは異なり、窃取とは財物(有体物)の占有者の意思に反して、自己又は
第三者の占有に移すこと
【例】
○区の備品などを私用のために無断で持ち帰った場合
⇒その物が犯行に及んだ職員の業務上占有状態にあった場合は横領罪となり、そうでない
場合は窃盗罪となる。
③
詐欺罪
◆10年以下の懲役
◇人を欺いて財物を交付させること、またその事により、財産上不法の利益を得、または
他人にこれを得させること
【例】
○90万円の代金の品物について、150万円を請求し差額を着服すること
○実施していない事業を実施したかのように見せかけて補助金を騙し取ること
④
背任罪
◆5年以下の懲役又は50万円以下の罰金
◇他人のためにその事務を処理する者が、自己もしくは第三者の利益を図りまたは他人に
損害を与える目的で、その任務に背く行為をし、財産上の損害を加えること
【例】
○他人のために税金の滞納未納分を不正に免除すること
○回収が不能なことが明らかなのに融資をすること
2 汚職を防止するために
(1) 管理監督者の役割
汚職防止は、管理監督者の職場マネジメントとして、重要な職務のひとつである。
万一、汚職事件が発生すると、当該職員に対する非難のみならず、関連職場、区
役所全体の社会的信用を傷つけ、住民からの信頼を一挙に失うこととなり、公務員
全体に非難の目が向けられることになる。
汚職事件は、ある日突然起こるものではない。職務に関係ある業者との付き合い
に始まり、段階を踏んで徐々に進行していくものである。このため、管理監督者は
日頃より部下職員の行動を注意深く観察していなければならない。
汚職の芽を早期に発見する能力と防止するための手段・方策をとる能力を職責と
して身に付け、自らも職員の模範となるよう潔白な行動を心がける必要がある。
(2) 汚職防止のためのチェックリスト集
●管理監督者としてのチェックリスト

部下職員に対し、いつも指導的立場でのぞんでいる。

自分の担当する職務について、その内容を十分に把握し、理解している。

部下職員の性格、能力、適正などを十分に把握している。

部下職員との信頼関係が確立されている。

部下職員に注意すべきことを見逃したり、怠ったりしていることはない。

部下職員のよきアドバイザーとしての役割を果たしている。

最近発生した汚職事件の内容・傾向について知識を得ている。

汚職防止のための自己啓発を行っている。
●職場環境のチェックリスト

勤務時間中に私語、談笑が少なく、職場の雰囲気に規律が感じられる。

職員がお互いに何でも話し合える雰囲気になっている。

業者や職務の執行に直接関係のない者がみだりに室内に出入りすることはない。

業者等との会話に節度が感じられる。

中元、歳暮と称して、カレンダー、手帳、菓子、ビール券などが気軽に届けられて
いることがない。
●人事管理面のチェックリスト

特定の職員が特定のポストに長期にわたって在職していることはない。

待遇面で不満を持ち、将来への希望を失っている職員はいない。

収入に比べて不相応に派手な生活をしている職員はいない。

ギャンブル、消費者金融、異性関係など、私生活の面で問題のある職員はいない。

勤務時間や公私のけじめにルーズな職員はいない。

職場であまりつきあいをしない「孤立型」職員はいない。

部下職員に汚職防止研修などの機会を与えている。

職員を個人として尊重し、公平に接している。
●組織管理の面から

組織面で仕事の量、権限関係などで職員相互にバランスがとれている。

組織的なチェックシステムは有効に機能している。

組織の職務権限は明確にされている。

組織の職務権限と実際の事務処理とのズレはない。
●事務管理の面から

事務処理に関する情報が上司、同僚及び職員相互に適切に伝えられている。

特定の職員に職務権限が集中していない。

ベテラン職員に仕事を任せきりにしていない。

事務処理の手引きなどが整備され、チェックシステムが機能している。

秘密扱いの文書及び決定事項の取扱に遺漏はない。

職員が出張するにあたって、業者等から車の提供などの便宜供与は受けていない。

業者等と庁舎外や勤務時間外に会う必要がある時、2 人以上の職員が同行する原則
が守られている。

業者等と庁舎外や勤務時間外に会う必要がある時、食事の時間帯を避けるよう配慮
している。
Ⅴ
1
行政情報の公開と個人情報保護
公務への信頼を得るために
公務の公正性、透明性及び迅速性を確保するために、平成6年 10 月から行政手続法が
施行され、特別区でも、この規定に基づいて、法律に準拠した行政手続条例を制定してい
る。
行政手続法
(地方公共団体の措置)
第 46 条
地方公共団体は、 第3条 第3項において第2章から前章
までの規定を適用しないこととされた処分、行政指導及び届出並び
に命令等を定める行為に関する手続について、この法律の規定の趣
旨にのっとり、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図る
ため必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
◆迅速性◆
・
申請がその事務所に到達してから、当該申請に対する処分をするまでに通常要すべき
標準的な期間を定めるよう努めるとともに、これを定めたときは、公にしておかなけれ
ばならない。(行政手続法第6条)
・
申請がその事務所に到達したときは、速やかに審査を開始しなければならない。
(行政手続法第7条)
◆透明性◆
・
許認可等をするかどうかを判断するために、必要とされる審査基準を定めて公にし
ておかなければならない。(行政手続法第5条)
・
申請に対して許認可等を拒否するときは、理由を示さなければならない。
(行政手続法第8条)
・
申請者に必要な情報の提供に努めなければならない。(行政手続法第9条)
2 情報公開
近年、区政への区民の関心と参加意識が高まり、区の施策内容や実施理由等について、
説明を求められるようになっている。区は情報公開に関する条例に基づき、開かれた信頼
される区政の実現を常にめざしている。
国においても情報公開法により、国民に対して、行政機関の保有する行政文書の開示を
行っている。
現在、区においては、行政情報を公開するという立場から、区民と共有して協働により
区政を運営するという立場に移行しつつある。そのため、個人情報などを除き、区は活動
内容や意思決定のプロセスを原則的に公開し、また、説明会の開催やパブリックコメント
の聴取などにより、区民の視点を反映させた区政運営を推進していく必要がある。
3 個人情報保護
高度情報社会における行政事務の電子化により、区は、多種多様で膨大な個人情報を電
子データとして収集・蓄積・利用するようになった。ITの進展は私たちの生活に多くの
利便と豊かさをもたらしたが、反面、データの取扱いに適性を欠いた場合は個人の権利・
利益を侵害する危険性が大きくなっている。他人に知られたくない情報が公開されたり、
自分の情報が知らないところで勝手に利用されたりすると被害の回復は極めて困難である。
特に、個人情報の取扱いを厳密にし、その流出を未然に防止するとともに、原則としては
目的外利用を禁止することが大切である。
4 知的財産権保護
(1)
著作権の保護
職場内の情報共有を図るために、業務に関連の深い雑誌や新聞の記事を配布するこ
とがある。
雑誌や新聞をコピーする際の基準は、著作権法によって定められている。
文献や雑誌、新聞などは文化的な創造物とされ、文芸、学術、美術、音楽などのジ
ャンルに入り、人間の思想、感情を創作的に表現したものとして、一般的に著作物と
いわれ、著作権法により保護されている。
職員が一個人として使用する目的で著作物を複製することは認められているが、職
場などの団体の内部で業務上利用するために複製する場合には私的使用に当たらな
いので、注意が必要である。具体的には、職場全体で共有する必要がある記事は人数
分購入するか、情報の入手方法のみを知らせる、公的な資料に著作物を引用する際に
は著作権者の許諾を得るなどの対応が求められる。
また、最近ではインターネット上の情報を転用する機会が増えている。情報への信
頼性とともに、著作権侵害に当たらないよう確認する必要がある。
(2)
知的財産権の保護
日常業務においては、他人の発明やアイデアを尊重すると共に、自分たちの発明やアイ
デアも大切にする姿勢が求められる。
知的財産立国の実現に向けた基本戦略「知的財産戦略大綱」に基づき、2002年に「知
的財産基本法」が制定され、知的財産による製品、サービスの充実化と経済、社会の活性
化を目指すことを定めている。
特許、実用新案、商標を保護することは、産業の発展に寄与するものであることを理解
し、他人の権利を侵害して大きな損害を受ける事態を避けると共に、役所が保有する権利
をしっかりと管理することも、他者による権利侵害を未然に防ぐことにつながる。
特にコンピュータのソフトウェアやプログラムに関する権利侵害には、注意が必要であ
る。
≪参考文献≫
・ 東京都産業労働局「 平成 20 年度雇用平等ガイドブック セクシュアルハラスメント防止ハ
ンドブック 」
・ マッセOSAKA平成18年度共同研究報告書「公務員倫理を考える」
・ 中村葉志生「自治体コンプライアンス入門」