2016 年第 2 四半期見通し - プルデンシャル・インベストメント

 2016 年第 2 四半期見通し
2016 年 4 月
債券市場レビュー
市場見通し
セクター別展望
今回のプルデンシャル・フィクスト・インカム(以下、PFIM)四
半期見通しでは、チーフ・インベストメント・ストラテジストの
ロバート・ティップ(Robert Tipp)が第 1 四半期に市場が反発
する原因となった要因を列挙し、それらが今後の投資環境にどの
ように影響する可能性があるかを示しました(4 ページ)。
G-10 経済担当リード・エコノミストのエレン・ガスク(Ellen
Gaske)は、第 1 四半期の経済的背景がどのように二つの局面に
分かれたか、また世界経済はどんな分野の改善を加速する必要が
あるかについて説明しています(6 ページ)。
社債 (10 ページ):拡大したスプレッド水準、成長を続ける
米国経済、量的緩和の需給環境への好影響を考慮して、社債
市場には強気の見方をします。世界的な逆風のため、リスク
プレミアムは高水準に保たれる可能性があります。引き続き
米国金融セクターの発行体を選好します。
グローバル・レバレッジド・ファイナンス(11 ページ): 米
国のハイイールド債、とりわけ格付けが低く、デュレーショ
ンが中期的な一部の銘柄に対して引き続き強気の見方をして
います。ファンダメンタルズはピークアウトしていますが、
コモディティ関連以外の債務不履行の増加ペースは緩やかな
ものになるとみられます。欧州のハイイールド債のスプレッ
ドは魅力的とみられます。
エマージング債券 (13 ページ): エマージング債券に対し
ても強気で、ハードカレンシー建て債券のスプレッドについ
てはバーベル型の戦略を選好しています。中国経済の不確実
性のためにリターンが抑制される可能性がありますが、PFIM
の基本シナリオではソフトランディングと抑制された資本逃
避を見込んでいます。
地方債(15 ページ): 魅力的な課税債相当利回りや良好な需
給環境が地方債にとって有利な環境を提供しているため、地
方債セクターに対してやや前向きなスタンスを取っていま
す。
グローバル金利(15 ページ):第 1 四半期の大幅な低下の
後、米国債とドイツ国債の利回りは引き続きレンジ内での推
移が見込まれ、それぞれのレンジで下限方向への偏りが生じ
るとみられます。拡大が見込まれる米国の金利スワップ・ス
プレッドが非常に魅力的な投資機会を提供していており、グ
ローバル金利に対しては選別的な投資機会の追求を強調しま
す。
モーゲージ債(16 ページ): その他の高格付けスプレッド・
セクターと比較して、モーゲージ債をアンダーウェイトとし
ます。
証券化商品(17 ページ): 最優先トランシェが引き続き魅力
的で、現在の市場の混乱は投資配分を拡大する好機と考えて
います。
Page 2
債券市場見通し
スポットライト:
英国の EU 離脱の影響
2016 年 6 月 23 日に予定されている Brexit(英国の EU 離脱)を
問う国民投票を控えて不確実性が浮上してきたことから、9 ペー
ジに特別欄を設けて、Brexit がどのように欧州の経済情勢だけ
でなく、為替市場、金融市場に影響を与える可能性があるかにつ
いての PFIM の見方の注目点を示します。
ビデオおよびレポート
PFIM のウェブサイト PrudentialFixedIncome.com では、PFIM の
投資専門家による市場の見方をビデオでご覧いただけます。
チーフ・エコノミストでグローバル・
マクロエコノミック・リサーチの責任
者であるユルゲン・オデニウス
(Jürgen Odenius) は、低迷する経
済成長率を回復させるために非伝統的
な政策を実施している各国中央銀行が
直面する限界について説明します。同
じテーマが、最近発行されたオデニウ
スの詳細レポート“Are Central
Banks Losing Their Mojo?(「中央銀
行は魔力を失ったか?」)”でも説明
されています。
アジア担当のリード・エコノミスト、
ガーウィン・ベル(Gerwin Bell
PhD )はグローバル・アンド・マクロ
の責任者であるアルヴィン・ラジャン
(Arvind Rajan, PhD)と中国経済の
トレンドと改革の可能性について簡潔
な Q&A で議論しています。ベルは最
近、“A(nother) Window for Reform
Opens in China(「中国でもう 1 つの
異なる改革の手段が浮上」)”という
レポートを発行しました。
Page 3
証券化商品チームのプリンシパルであ
るゲーリー・ホルバッツ(Gary
Horbacz)は、なぜ CMBS IO(インタレ
スト・オンリー)証券が同氏が推奨す
る取引の 1 つとなっているのかについ
て説明しています。このビデオには、
アナリストであるジェイソン・パン
(Jason Pan)との共著である 2 部構
成の詳細レポートが添付されていま
す。このレポートは
PrudentialFixedIncome.com でご覧い
ただけます。
債券市場見通し
二歩前進
債券市場にとって 2015 年は難しい年だったため、2016 年初めに
は少なくとも反発が期待されました。実際、市場は反発し、下の
表に示されているように大半のセクターがかなり大きなリターン
を実現しました。数年間続いた米ドルの上昇が 2016 年に入って
も最初は続きましたが、第 1 四半期の半ばには流れが変わったよ
うです。その後、複数の通貨が対ドルで大幅に上昇し、長期間落
ち込んでいたリターンがプラスに転じました。
模な悪循環が解消されました。この悪循環では、利上げの影響を
あまり深刻に考えていないとみられていた FRB が利上げを実施す
るという懸念が、うかつにも金融環境の引き締めにつながり、こ
れが国際金融市場の混乱を招いてしまいました。利上げサイクル
は FRB が必要以上に利上げを実施して、米国経済が景気後退寸前
にまで至ることによって金利がピークをつけるのが通常ですが、
今回は FRB が引き締め懸念を劇的に沈静化させることになりまし
た。その結果、第 1 四半期の金利、スプレッド、為替市場は比較
的落ち着いた動きとなりました。
2. コモディティ: 見通しはやや改善
セクター別のパフォーマンス
第 1 四半期のリターンは堅調で、デュレーションが比較的長く、リス
クも比較的大きい債券がアウトパフォームしました。新興国通貨と現
地通貨建て債券も反発しました。
トータル・リターン(%)
2016 年
第 1 四 2015 年
半期
5.90
-3.15
3.03
0.6
3.20
0.8
1.67
3.3
2014 年
2013 年
2012 年
0.59
-2.60
4.32
グローバル総合
6.0
-2.0
4.2
米国総合
5.1
-2.8
2.0
米国債
9.1
-2.6
6.8
地方債
モーゲージ担保証券(エ
1.98
1.5
6.2
-1.5
2.6
ージェンシー債)
3.61
1.0
3.9
0.2
9.7
CMBS
3.97
-0.7
7.5
-1.5
9.8
米国投資適格社債
6.83
-4.61
15.73
-5.68
12.41
投資適格長期社債
米国レバレッジド・ロー
0.65
-0.4
2.1
6.2
9.4
ン
3.25
-4.6
2.5
7.4
15.6
米国ハイイールド債
ハードカレンシー建てエ
5.04
1.2
7.4
-5.3
17.4
マージング債
現地通貨建てエマージン
3.88
-2.2
3.2
-4.2
8.9
グ債(ヘッジあり)
5.46
-7.61
-7.03
-2.04
7.45
エマージング通貨
2.46
-0.6
8.4
2.4
13.6
欧州投資適格社債
欧州レバレッジド・ロー
1.33
3.6
2.1
9.0
10.8
ン
1.77
1.3
5.1
9.1
24.8
欧州ハイイールド債
出所:バークレイズ。ただし、エマージング債はJP モルガン、ハイイールド債
はメリルリンチ、担保付きシニア・ローンはクレディ・スイス。パフォーマン
スは2016 年3 月31 日現在のものです。インデックスの名称については後述の
インデックスの記載をご覧ください。過去の運用実績は将来の運用成果を保証
するものではなく、信頼できる指標となるものでもありません。直接インデッ
クスに投資することはできません。
エネルギー市場では、第 1 四半期に米国のエネルギー供給企業が
減産を実施する一方、OPEC(石油輸出国機構)諸国が生産上限の
可能性に言及する機会が増えるなど、供給側に動きがありました。
その結果エネルギー価格は売られ過ぎの水準から反発し、これが
資源採掘セクターの全般的な力強い回復のきっかけとなりました。
3. ECB と日銀が燃料注入(しかし何が燃えているかが問題!)
日銀による大胆なマイナス金利導入に加えて、欧州中央銀行
(ECB)が追加的な非伝統的金融政策を実施したため(「世界経
済見通し」を参照)、欧州と日本のイールドカーブは大幅に低下
しました。その恩恵は次ページに示されているように株式市場に
はもたらされませんでしたが、ECB が新たに社債を買い入れ対象
に加えたため、ユーロ建て社債のスプレッドは劇的に縮小しまし
た。
ドイツ国債、日本国債の利回りは政策金利とともに低下(%)
3.5
0.2
3.0
0.1
2.5
0.0
2.0
-0.1
1.5
-0.2
1.0
-0.3
0.5
0.0
-0.4
-0.5
-0.5
第 1 四半期にプラス・リターンをもたらした要因:
イタリア
10 年国債利回り(左軸)
10-Yr
Italian
(BTP) Yield (Lhs)
日本 JGB
10 年国債利回り(右軸)
10-Yr
Yield (Rhs)
ECB Deposit
預金金利(右軸)
ECB
Rate (Rhs)
1. FRB が市場に配慮
次節の「世界経済見通し」で言及しますように、米連邦準備制度
理事会(FRB)は、中立的な金利水準の見通しが不明確になった
と考えるようになっただけでなく、国内の金融を引き締めること
に対する懸念を持っており、国際的に景気の減速懸念が高まって
いることを理由に挙げて、予想される利上げのペースを下方修正
しました。これによって、2013 年半ば頃から強まっていた小規
出所:ブルームバーグ、2016 年 4 月現在。
Page 4
ドイツ
10 年国債利回り(左軸)
10-Yr
German
Bund Yield (Lhs)
日銀政策金利(右軸)
BoJ
Policy Rate (Rhs)
債券市場見通し
ECB と日銀の金融緩和と株価、とりわけ金融株の株価下落は同時
進行しましたが、これは金利低下が企業収益見通しを改善させ
ていないことを示しています。この点は金融セクターについて
は確実です
110
0.0
100
-0.1
90
80
-0.2
70
60
-0.3
50
40
-0.4
ユーロ・ストックス銀行指数
EURO
STOXX Banks Index
ユーロ・ストックス
指数
EURO
STOXX 5050Index
Euro
Overnight
Lending
Rate
ユーロ翌日物貸付金利(右軸)
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
-0.1
-0.2
120
110
100
90
80
70
60
50
40
今後の見通し
債券市場の見通しは、引き続きコップに水が半分以上入った(ポ
ジティブな)状況と見ています。確かに、非常に多数のリスクが
引き続き近い将来に見込まれます。こうしたリスクで思い当たる
ものをいくつか挙げると、エネルギーの供給過剰、中国の成長見
通し、FRB による利上げ、マイナス金利の潜在的な副作用、欧州
のソブリンリスク問題、Brexit(英国の EU 離脱)、地政学的リ
スクなどがあります。これらを含めたリスクが時折ボラティリテ
ィを上昇させることになるとみられますが、中長期的なリターン
は投資価値によって決まることになるため、債券市場をファンダ
メンタルズが下支えする状態に変化はないと予想しています。

経済情勢が精彩を欠くため、金利は低水準かつレンジ内での
動きを続けると考えられ、ECB と日銀の積極的金融緩和スタ
ンスの影響が世界的に広がる可能性が高いと見込まれます。

国債よりもクレジット・スプレッドの方が魅力的なアウトパ
フォーマンスの機会を提供しています。

FRB の利上げペース引き下げによりドル上昇の頭が押さえら
れた可能性があり、現地通貨建てエマージング債とエマージ
ング通貨市場に付加価値戦略の機会を生み出しています。
したがって、上述のリスクにもかかわらず、PFIM が年初に発表
した見通し、つまり債券市場では変動が大きいものの、最終的に
は収益に寄与するという予想はほとんど変化していません。特に、
長期投資を基本としつつ、ボラティリティによってもたらされる
戦術的な銘柄選定機会にも対応する、バリュー型の戦略がリター
ンをもたらすと PFIM では考えています。
要点: 時折ボラティリティが上昇すると見込まれるにもかか
わらず、国債利回りの低水準かつレンジ内での推移とスプレ
ッド・セクターの魅力的なバリュエーションのため、債券、
とりわけ国債以外のスプレッド・セクターの債券は、中長期
的にキャッシュを大幅にアウトパフォームするとみられま
す。
東証業種別株価指数
TOPIX
Bank Index銀行株
東証株価指数(TOPIX)
Tokyo
Stock Exchange Price Index (TOPIX)
10-Yr
Yield (Rhs)
日本 10JGB
年国債利回り(右軸)
出所:ブルームバーグ、2016 年 4 月現在。
Page 5
世界経済見通し
コモディティ価格への逆風は続く
依然脆弱で乱高下の展開
500
2016 年第 1 四半期の世界経済は 2 つの局面に分けて考えること
ができます。第 1 四半期の初めには、先進国市場と新興国市場で
ともに景気が悪化していることを示す経済指標、特に予想を下回
る指標の発表が相次ぎ、コモディティ価格が予想に反してさらに
下落し、金融市場ではボラティリティが上昇したことが、世界経
済の見通しに影を落としました。しかし、3 月に入ると景況感が
再び改善して、コモディティ価格が下落分を取り戻し、発表され
る経済指標が下振れするケースが減り始めるなど、ほとんどのデ
ータが、世界経済の成長は続いていて、一時的減速局面はおそら
く終了しつつあるという見方を支持するようになりました。
350
300
250
200
150
100
世界的に低インフレが続き、中央銀行は新たな実験的試みで
対応
30
20
10
0
-10
-20
-40
400
出所:ブルームバーグ、2016 年 4 月現在。
第 1 四半期の経済データは悪化後に安定化
-30
トムソン・ロイター・コアコモディ
Thomson
Reuters/Core
ティーCRB 指数
Commodity CRB Index
450
シティ新興国エコノミック・サプライズ指数
Citi
Econ. Surpise EM Index
シティ先進国エコノミック・サプライズ指数
Citi
Econ. Surprise DM Index
出所:ブルームバーグ、2016 年 4 月現在。
とはいえ、2015 年末から 2016 年の年初にかけて経済モメンタム
が弱まったため、PFIM では 2016 年の実質 GDP 成長率の見通しを
米国については従来の 2.5%から 2.1%に、中国については 5.2%か
ら 3.7%に引き下げました。日本とユーロ圏の経済見通しはそれ
ぞれ 0.9%と 1.2%に据え置きましたが、両方とも追加的景気刺激
策が実施されるという見通しが前提となっています。大半のコモ
ディティ価格が安定化しているため、資源国や資源関連セクター
は一息つける余地が生まれましたが、生産設備の大半が建設され
た時期に比べると、現在の資源価格はその半分以下になっている
ため、販売価格の調整が非常に難しいという極めて困難な問題に
引き続き直面しています。
年明け頃には実体経済活動のモメンタムが全般的に予想よりも弱
かったものの、おそらく、より重要な問題は昨年を通して名目
GDP 成長率が予想以上に減速したことでした。第 1 四半期の「世
界経済見通し」では、過去 10 年間に次々に起こった危機、つま
り 2007 年から 2008 年にかけてのサブプライム危機(リーマン・
ショック)、2012 年のユーロ圏の危機(ギリシャのユーロ圏離
脱懸念)、さらに最近のコモディティ価格の急落を取り上げまし
たが、これら危機によって、需給ギャップが大きく拡大し、デフ
レ圧力の波が世界的に伝搬しました。直近のヘッドライン・イン
フレ率の低下のために、複数の中央銀行が厳戒態勢に入りました。
とりわけ、G3(米国、欧州、日本)の中央銀行全てが第 1 四半期
に金融を緩和しました。金融政策の選択肢があまり残されていな
いという見方が強まる中で、日銀と ECB はともに新たな緩和策を
見出して実施しました。
名目 GDP 成長率は先進国市場で次第に低下…
7%
6%
5%
4%
3%
2%
1%
0%
-1%
2014
2015
avg 2007-2015
出所:ヘイパー・アナリティクス、2016 年 4 月現在。
Page 6
世界経済見通し
…新興国市場でも同様の展開
の利上げがわずか 2 回と 12 月時点の予想の半分になりました。
FRB が重視しているインフレ率の尺度である、個人消費支出
(PCE)デフレーターが目標である 2%をまだ下回っていて、賃金
上昇率は 2%強と緩やかで、3 月の失業率は、過去数カ月に多数の
個人が労働市場に復帰したことからわずかに上昇したため、FRB
のイエレン議長は FRB が忍耐強くなれることを示唆してきました。
さらに、(6 月 15 日の FOMC の 1 週間後に当たる)6 月 23 日に予
定されている英国の EU 離脱(Brexit)に関する国民投票の時期
と不確実性のために、FRB はさらに制約を受ける可能性がありま
す(特集記事「英国の EU 離脱の影響」をご覧ください)。
30%
25%
2014
2015
avg 2007-2015
20%
15%
10%
5%
0%
-5%
-10%
-15%
-20%
出所:ヘイパー・アナリティクス、2016 年 4 月現在。
1 月に日銀は、短期金融市場(マネー・マーケット)金利と銀行
の資金コストをさらに引き下げるために、政策金利(日銀当座預
金金利)をマイナス(-10bps)にまで引き下げて市場を驚かせま
した。しかし、その結果、日銀は新たな金融政策に対する金融市
場とアナリストによる強弱交錯した反応に驚かされた可能性が高
いとみられます。銀行の超過準備に対してマイナスの金利を適用
することは、実質的に銀行の資産の一部に課税することになり、
日銀の行動はマイナスの政策金利が望ましいかどうか、またはそ
の有効性についてのより広範な議論が行われるきっかけとなった
とみられます。しかし、実際には日銀は当座預金を階層に分けて、
全体の 10%程度にだけマイナス金利を適用するなど、マイナス金
利の適用範囲を最小限にとどめたため、銀行の収益性に対する打
撃の可能性は限定的になるとみられます。
一方 ECB は、マイナス金利の効果に関する公的な議論に耳を傾け
たことは間違いなく、3 月の政策理事会で追加的な景気刺激策を
発表する際には、マイナス金利の効果はあまり強調しないように
配慮しました。ECB は中銀預金金利を控えめに 10bps 引き下げて
-40bps とすることで市場の期待に応える一方、最終的に市場の
注目を集めたのは量的緩和のための資産買い入れプログラムの対
象に投資適格社債を加え、銀行の資金コストをより直接的に引き
下げるために新たなターゲット型資金供給(TLTRO)として償還
期間 4 年で利率がその銀行の貸出純増額に応じて 0bp から-40bps
の間となる貸し付けを実施するという予想外の決定でした。その
ため ECB はより直接的な金融緩和を志向するようになったとみら
れます。
FRB は、3 月の連邦公開市場委員会(FOMC)でアナリスト予想よ
りはるかにタカ派的なスタンスを和らげることよって、第 1 四半
期を締めくくりました。FRB の高官の GDP、インフレ率、失業率
の予想の中央値は昨年 12 月時点の予想からほとんど変化してい
ませんでしたが、これらの予想と整合的な利上げの回数は 25bps
しかし、第 1 四半期中の G3 中央銀行の金融政策について、おそ
らく最も重要な意味合いの一つは、中央銀行の金融政策は世界的
に大きな影響力を持つ可能性があり、さらに自国にその悪影響が
跳ね返ってくる可能性があるという明確な認識が生じた点です。
日銀と ECB は現在ではともに国内または域内の金融環境の緩和と
インフレ圧力を生み出すことに再び重点を置くようになったとみ
られます。FRB については過去 6 カ月間に、中国経済が資本流出
圧力が存在する中で、人民元の事実上のドルペッグ制を維持しな
がら、より緩やかで、国内需要主導型の経済へのソフトランディ
ングを実現する能力に対して、FRB のタカ派的スタンスと、その
結果としてのドル高が及ぼす影響を敏感に感じるようになったよ
うです。
第 1 四半期中に G20 で近隣窮乏化につながる通貨切り下げを避け
るための明確な合意は成立しなかったとしても、FRB は現在では
自らの金融政策と米国以外の諸国の金融政策が結び付いているこ
とと、実際、世界各国の間の相互関連性によって FRB が利上げを
どの程度積極的に行うことが可能か、また行うべきなのかが限定
されていることを明確に認識しているようです。要するに、この
明確な認識が、リスク市場が第 1 四半期初めに急落した後 3 月に
反発した際に拍車をかけたようです。
世界が今必要としているのは … 投資拡大と構造調整
各国の中央銀行は一段と非伝統的な金融政策を実施するようにな
りました。これは中央銀行の政策がこれまでのところ結局期待し
たほどの効果を発揮していないことが主因ですが、中央銀行の資
産、負債の規模がすでに過大になっていて、一般的な方法で借り
入れ、支出を拡大して、景気回復を加速させる余地は小さくなっ
ていることも一因となっています。G3 諸国では、少なくとも、
中央銀行による金融緩和から最大の恩恵を受けている部門の 1 つ
が企業部門であるという点で共通しています。これは、支払利子
と資本コストが共に大幅に減少したためです。日本では 2012 年
後半にアベノミクスが導入されて以来大幅な円安が進行したこと
が、日本企業の収益をさらに拡大させることになりました。全般
的な利益率は最近やや圧迫されていますが、全体としてみれば比
較的高水準に維持されています。利益水準がこのように比較的高
水準にある場合は、過去の景気循環では設備投資も同程度の拡大
を示すのが一般的でしたが、今回は設備投資の拡大が伴わない点
が特徴的です。
Page 7
世界経済見通し
利益水準が高ければ設備投資も高い伸びを示すのが一般的ですが、
今回の景気拡大局面では、企業は全般的に設備投資に対して極め
て慎重で、設備投資を抑制しているため実質的な貯蓄率は高止ま
りしています。売上高の伸びがさえないためと、すでに指摘した
ように、より全般的にみて、名目 GDP の成長率が低いため、企業
部門は設備投資を大幅に拡大するのをためらっているとみられま
す。今後、設備投資が最終的に拡大するようなことになれば、過
去 10 年間に起こった一連の経済危機からの本格的な回復に弾み
がついたことを示す重要な兆候になるとみられます。
先進国市場と新興国市場でともに全般的な構造改革がさらに進展
した場合にも、世界的な成長見通しがさらに改善するとみられま
す。日本では過去数年間に前向きな改革がいくつか実施されまし
たが、追加的な改革が必要とされています。今年初めに開かれた
中国の全国人民代表大会(全人代)では、財政改革を含み、過剰
生産能力対策を強調した構造改革をさらに進展させるための道筋
が示されました。さらにユーロ圏での目立った進展にもかかわら
ず、中核国と周辺国の一部の間に大きな不均衡が残っていること
から明らかなように、本格的な構造調整が依然として必要とみら
れています。
今後の見通し
くさん残っています。つまり、1)ユーロ圏の回復の足取りは
弱々しく、依然としておぼつかない状態で、2)日本の景気刺激
のための新たな試みは、より困難な段階に差し掛かった可能性が
あり、3)中国ではソフトランディングが試みられる一方、多数
の困難な改革も実施されていて、4)米国経済も海外諸国での変
化の影響を完全に排除することは不可能であり、5)6 月に予定
されている英国の EU からの離脱を問う国民投票を含む多数の政
治的不確定要素が残り、6)世界のコモディティ生産国が現在難
しい調整を迫られていることなどのリスクがあります。重要な点
は、コモディティ価格は年初来変化率が全般にプラスになりまし
たが、2015 年末から第 1 四半期にかけての下落後に回復すると
いう往復の動きから、今後の見通しも依然として不確実性が強い
ことが明らかです。
しかし、世界経済の見通しは今年初めに広範に段階的に引き下げ
られましたが、ある程度上振れする可能性は残されています。そ
して重要な点は、政策立案者、とりわけ G3 諸国の中央銀行は、
各国の金融政策と世界経済の間の相互関連性をこれまで以上に敏
感に察知するようになったことを示し始めているという点です。
今後については、この変化のために、自らが世界経済だけでなく
国内経済にもたらす可能性のある金融政策による二次的な逆風を、
中央銀行が逆に抑える働きをすることを期待できるとみられます。
現時点では世界経済のリスクはいくぶん均衡に近付いたものとみ
られます。しかし注目しておかなければならないリスクがまだた
Page 8
世界経済見通し
英国の EU 離脱の影響
6 月 23 日に予定されている Brexit(英国の EU 離脱)を問う国民投票を控えた英国居住者を対象にした世論調査では、EU 残留を支持
する回答者数が最大であることが示されましたが、EU からの離脱を支持する回答者数との差が最近縮小していて、未決定と答えた回
答者数が依然として有権者総数のかなり大きな比率を占めています。4 月 15 日から公式キャンペーン期間が始まれば、両陣営がます
ます活発に大げさな表現を使うとみられるため、ポピュリスト(大衆主義)的な心理が引き続き不確定要因となっています。
国民投票の結果、英国は EU に残留することになる可能性が高いと PFIM ではみています。しかし、不確実性が浮上してきたことか
ら、Brexit が実現した場合に景気だけでなく、為替、金融市場にどのような影響を受けるかに関してある程度の見通しが得られるよ
うに注目点を挙げておくことにします。

マクロ経済の見通し
離脱派が勝利を収めた場合、英国がどのように離脱するかに関する合意が、投票後最低でも 2 年間かけて交渉されることになるとみられま
す。また英国の GDP に及ぼす短中期的な影響は不透明で、-1%から-10%の間に収まるという見方もあれば影響はこれを上回る可能性があるとい
う見方もあります。経済に対する影響は、EU 加盟に関連した政策や協定の失効後、信頼性の高い新たな一連の政策または協定がいかに早急に
導入されるかにある程度依存するとみられます。一方、経済見通しの不確実性のために、国内で支出が抑制されたり、純輸出が減少すること
になる可能性もあります。英国経済の主要な弱点は経常収支が大幅な赤字(2015 年で GDP の-5.2%)となっていることであり、Brexit リスク
による英ポンドの下落が引き続き懸念されます。
EU 離脱がひとたび合意された場合には、Brexit の英国経済に対する長期的影響は、1)政策対応、2)各企業の戦略的な対応、3)金融および為
替市場の長期的な反応に依存する可能性が高いとみられます。

為替市場への影響
6 月の国民投票を控えて、英ポンドは最も直接的な影響を受けて最近対ドルレートが 7 年ぶりの低水準に下落し、対ユーロでも低下していま
す。離脱派が勝利した場合には英ポンドはさらに下落するとみられます。これは、1)離脱後にスコットランド独立派が国民投票で勝利するリ
スクが高まり、2)経常収支の赤字を埋め合わせるために必要な資本流入がさらに減少する可能性があり、3)イングランド銀行(中央銀行)
が金融政策による景気刺激を行う必要性が高まることなどが原因となっています。
Brexit に関する議論が活発化していますが、これまでのところユーロのレートは非常に堅調に推移してきました。しかし、Brexit シナリオで
は、とりわけ離脱懸念が英国から EU のほかの国まで広がるというようなシナリオでは、ユーロの対米ドルおよび対スイス・フランレートも下
落するリスクが生じるとみられます。国民投票に至るまでの期間に英国の金利および為替レートは大きく変動するとみられることから、イン
グランド銀行は政策金利を少なくとも 2017 年までは据え置くとみられます。イングランド銀行はいつでも金融を緩和して流動性を供給できる
ように待機するとみられますが、英ポンドが急落して、その結果イングランド銀行の対応が限定されることになるリスクがあります。

クレジット市場の見通し
英国が EU から離脱することになったとしても、英国と EU で債務不履行(デフォルト)率が大幅に悪化するとはないと PFIM では予想していま
す。Brexit が実現した場合にはロンドンには悪影響が表れる可能性がありますが、各企業は自らのビジネスモデルを新しい市場に適合させ
て、ロンドンでの雇用を減らす代わりに欧州域内での事業を拡大させる可能性があるとみられます。
業種別に影響を予想すると、ユーロ圏への輸出企業や銀行セクターが最大の中期的な打撃を受ける可能性が高いとみられます。英国のクレジ
ット・スプレッドはボラティリティがある程度上昇した結果、欧州企業と比較してクレジット・スプレッドは拡大した状態が続いています
が、Brexit に関する不確実性と潜在的悪影響はすでにある程度スプレッドの水準に織り込まれていると考えられます。さらに、Brexit が実現
してスプレッドが拡大した場合には、医薬品、航空宇宙、化学セクターについて魅力的な投資機会が生まれる可能性があるとみられます。逆
に、離脱が実現した場合に、不動産、空運、銀行、小売セクターのスプレッドはボラティリティが上昇する可能性があると予想されます。
Page 9
2016 年第 2 四半期セクター見通し
米国および欧州の投資適格社債
米国社債のスプレッドは、2 月中旬まではコモディティ価格の急
落と世界経済の減速の影響で拡大しましたが、その後 3 月末まで
縮小して、第 1 四半期中に 1 サイクルを経験しました。第 1 四半
期末の社債インデックスのスプレッドは 2015 年末とほぼ同一水
準となりましたが、米国社債の第 1 四半期のリターンは 3.97%と
なり、米国債に対して 16bps の超過リターンが得られました。
欧州の投資適格社債のリターンも第 1 四半期にプラスとなり、米
国の場合同様、スプレッドはリスクオフ/リスクオン・テーマに
従って変動しました。欧州の社債は、ECB が第 2 四半期末までに
量的緩和のための資産買い入れプログラムの対象を拡大して銀行
以外の投資適格社債を含めることを 3 月に発表したことから値上
がりしました。
トータル・
リターン
スプレッドの
変化
第 1 四半期
第 1 四半期
2016 年
3 月 31 日
米国社債
3.97%
-1 bps
164 bps
欧州社債
2.46%
-4 bps
130 bps
OAS
バークレイズ米国社債インデックスおよびバークレイズ欧州社債インデ
ックスのデータを示しています(ヘッジなし)。出所:バークレイズ、
2016 年 3 月 31 日現在。過去の運用実績は将来の運用成果を保証するも
のではなく、信頼できる指標となるものでもありません。直接インデッ
クスに投資することはできません。
米国社債
第 1 四半期の社債市場での大きな変動は、米国および米国以外の
両方の市場での展開と市場センチメントを反映したものです。米
国では、FRB の利上げスケジュール、経済成長ペース、エネルギ
ー価格急落の影響、企業収益に関する不確実性に加えて、債券の
発行額が大きかったことも、このセクターの価格を圧迫しました。
さらに、世界経済、とりわけ中国経済の減速に関する懸念によっ
て、リスク回避の動きが強まりました。その後、原油価格が底打
ち傾向を示し、米国の経済指標が予想を上回り、FRB が利上げの
時期を遅らせて利上げ幅を縮小し、中国と ECB が景気刺激策を拡
大したため、これらの懸念は後退しました。
米国では企業のファンダメンタルズは引き続き全般的に健全です
が、一部の産業セクターについては信用関連の指標が悪化しつつ
ある点が懸念されています。ただし、これら業種の一部について
は修復モードに入ったとみられます。米国の消費者関連業種は全
般に好調を維持していますが、米ドル高の影響を受けている企業
は逆風に直面しています。金属・鉱業は景気後退に近い局面から
回復しましたが、当セクターの多くの発行企業はエネルギー関連
の発行企業と同様に苦戦を続けており、投資適格格付けから投機
的格付けに格下げされる企業(Fallen Angel、フォーリン・エン
ジェル)が増加しています。こうした「フォーリン・エンジェル」
の数は今後数四半期で増加するとみられます。借入資金による
M&A、自社株買いの件数は依然として高水準であり、過去最高水
準の社債発行額とレバレッジ上昇の原因となっています。
第 1 四半期を通して全般に堅調だった需給環境は、ECB が資産買
い入れ対象に社債を加えることを明らかにしたあとに大幅に改善
しました。欧州と日本でのマイナス金利政策(NIRP)も利回りが
相対的に高い米国債に対する需要を拡大しました。第 1 四半期が
終了してみると、新規発行では応札倍率が 4 倍で、既発債に対す
るディスカウント(コンセッション)はほぼゼロと好調でした。
第 1 四半期も、米国のマネー・センター・バンクを中心とする金
融セクター銘柄を引き続き選好しました。金融セクターの同四半
期の業績は欧州銀行の収益が圧迫されたことが一因となって、産
業セクターのパフォーマンスを下回りましたが、依然としてイベ
ントリスクの影響を受けにくく、自己資本や流動性に関する政府
の規制をクリアするなど財務体質は大幅に改善した状況にありま
す。生命保険会社については、低金利環境下で収益が圧迫されて
いることから、より慎重に考えています。産業セクターでは、自
動車、化学および医薬品の一部を選好しています。米ドル高から
打撃を受ける可能性がある輸出主導型の多国籍企業よりも、米国
内事業が中心の発行企業を強く推奨しています。産業セクターで、
「イベント」を経た選別された比較的新しい発行企業に注目して
います。
エネルギーとコモディティ・セクターについては引き続きアンダ
ーウェイトとして、「フォーリン・エンジェル」になる可能性の
ある企業を慎重に除外していますが、スプレッドが広がっている
ことから、両セクターで投資機会がないかどうかも検証していま
す。引き続き残存期間の短い BBB 格の社債を推奨していますが、
戦術的には、残存期間の長い債券も選好しています。これはクレ
ジット・カーブの傾斜が急で、金利が上昇した場合に年金や生命
保険会社からの需要が高まる可能性があるためです。また、歳入
担保の地方債(課税債)もイベントリスクにさらされないとの理
由から選好していますが、多くの銘柄は現時点では社債に比べて
割高に評価されています。
欧州社債
欧州の社債市場も第 1 四半期初めには下落圧力を受けましたが、
その後半には反発しました。ECB が投資適格社債を資産買い入れ
プログラムの対象に加えることを決定したことが市場の明確な押
し上げ要因となり、その結果スプレッドは 3 月に大幅に縮小しま
した。130bps という最近のスプレッドでも依然として魅力的と
みられますが、ECB による支援があるため、スプレッドはさらに
縮小する余地があると PFIM は考えています。実際、1 年前には
スプレッドは 74bps という低水準でした。
Page 10
2016 年第 2 四半期セクター見通し
ECB による緩和的政策に加えて、欧州企業はかなり強固なクレジ
ットのファンダメンタルズと、低水準とはいえプラスのユーロ圏
の経済成長率に引き続き支えられています。米国に比べると企業
経営は全般的に引き続き慎重で、その結果イベントリスクは低く、
M&A の動きも限られています。予想されたとおり、新規発行によ
る供給は活発で、「リバース・ヤンキー債」の発行企業(欧州で
起債する米国企業)は利回りが相対的に低い欧州市場での発行を
続けており、発行額は過去最高に近い水準を維持しています。全
体的にみて、需給環境は堅調に推移していて、発行市場のタイト
な需給が流通市場に影響を及ぼしています(その逆ではありませ
ん)。
ク、米国における企業のイベントリスクなどが挙げられます。欧
州では英国の EU 離脱を問う国民投票の影響、さらに明るい材料
としては ECB がどの企業の社債を購入することになるのかに関す
る待ち望まれた決定を注意深く注視しています。
短期的にみると PFIM の戦略はおおむね不変です。PFIM は自らが
割安(売られ過ぎ)と考える銘柄または、魅力的なディスカウン
ト(コンセッション)で発行される新規発行銘柄に投資する機会
を求めています。また、欧州周辺国の社債よりも、英国や北欧の
銘柄に引き続き注目しています。英国銘柄および英ポンド建て債
券のクレジット・スプレッドは、6 月の英国の EU 離脱を問う国
民投票に関する懸念のために第 1 四半期には明らかにアンダーパ
フォームしましたが、多くの銘柄のスプレッドがここにきて縮小
しつつある可能性があります。セクター別では、金融セクターの
発行企業よりも、送配電事業や空港運営会社などの健全なバラン
スシートを持つ規制対象企業を含むユーロ圏の産業セクターの企
業を選好しています。ハイブリッド証券については、高格付けで
安定した公益企業が発行する特定の銘柄群に魅力があると考えま
すが、通信業界などにみられる格付けを引き上げるために発行さ
れたハイブリッド証券は避けています。銀行セクターでは、非ユ
ーロ圏の発行体や一部のシニア債を選好しています。
グローバル・レバレッジド・
ファイナンス
グローバル・ポートフォリオでは欧州のスプレッド・リスクに対
するエクスポージャーを拡大しましたが、米国、欧州両市場に対
するスタンスは引き続きロングとしています。欧州の銘柄がドラ
ギ ECB 総裁の決定に触発された需給環境の恩恵を受け続ける場合
には、PFIM はエクスポージャーを減らすことを検討する可能性
があります。米国では、産業セクターよりも金融セクターを引き
続き選好しています。欧州では、銀行セクターよりも産業セクタ
ーや保険セクターを選好しています。また、残存期間の短い BBB
格社債や米国の課税対象地方債を引き続き重視しています。米国
では、スプレッド・カーブがスティープ化していることから、長
期の社債を選好していますが、ユーロ圏の社債については、スプ
レッドが必ずしもリスクに見合わないことから、長期の社債に対
してはより選別的な姿勢をとっています。同一企業または類似の
信用格付けの企業が発行した米国社債とユーロ社債に関しては、
引き続き両債券間の価格のずれと利回り格差に着目していきます。
米国と欧州の両方の市場において、スプレッドは魅力的で、縮小
する余地があると考えていますが、ボラティリティは引き続き高
水準で推移するとみています。第 2 四半期の主なリスクとしては、
世界経済の減速、大量の新規発行、流動性の低下、地政学的リス
見通し:拡大したスプレッド水準、成長を続ける米国経済、量
的緩和の需給環境への好影響を考慮して、社債市場には強気
の見方を維持します。世界的な逆風のためにリスクプレミア
ムは高水準に保たれる可能性があります。引き続き米国金融
セクターの発行体を選好します。
第 1 四半期の世界のレバレッジド・ファイナンス市場では、ボラ
ティリティの高い状態が続いたため米国のハイイールド債のスプ
レッドは年初の 6 週間で 200bps 拡大するなど、極めて極端な動
きを示しました。ボラティリティの源泉はおなじみのもので、コ
モディティ価格と株価の下落、中国人民元がさらに低下したこと、
企業収益の伸びが失速したとみられたことなどでした。第 1 四半
期半ばになってこれらの状況が安定化したとみられたため、投資
家は速やかにハイイールド債市場に回帰し、その結果としてのス
プレッドの縮小は、好ましい需給環境と ECB による投資適格社債
の購入開始が迫っていることが明らかになったことによる市場セ
ンチメントの改善によって後押しされました。
トータル・
リターン
スプレッドの
変化
第 1 四半期
第 1 四半期
OAS
2016 年
3 月 31 日
米国ハイイールド債
3.25
+10 bps
705 bps
欧州ハイイールド債
1.77
-12 bps
508 bps
米国レバレッジド・ロー
ン
欧州レバレッジド・ロー
ン
0.65
-22 bps
621 bps
1.33
-27 bps
541 bps
出所:バンクオブアメリカ・メリル・リンチ、クレディ・スイス、2016 年3
月31 日現在。過去の運用実績は将来の運用成果を保証するものではなく、信
頼できる指標となるものでもありません。直接インデックスに投資すること
はできません。欧州のリターンはユーロをヘッジ。
米国のハイイールド債およびレバレッジド・ローン
米国のハイイールド債市場では多数の投資家が市場に回帰したた
め需給環境の改善が加速して、第 1 四半期中に週間資金流入額が
50 億米ドルという新記録を達成しましたが新規発行はわずかで
した。 今後については、クレジットの拡大が、負債を拡大させ
るかバランスシートの安定化に貢献した場合、新規発行の増加に
よりバランスの取れた需給環境がファンダメンタルズに好影響を
与えるでしょう。複数通貨間の浸透効果も期待できるため、堅調
な需要も続く可能性があります。
Page 11
2016 年第 2 四半期セクター見通し
エネルギー関連が第 1 四半期の下落をリードして 2 月中旬までに
セクターの価格は 18.25%下落しましたが、その後の原油価格の
反発の影響で四半期末までのリターンは 2.56%となりました。こ
れが回復の初期段階で BB 格や B 格に後れを取っていた、ベータ
が比較的高い CCC 格のセグメントの上昇の動きを長期化させた可
能性があります。これに引けを取らなかったのが第 1 四半期に 2
桁のリターンを達成した金属、鉱業セクターでした。しかし、こ
れらのリターンから考えて、これらセクターのスプレッドは今後
のリスクを正確に反映したものではないと PFIM では考えていま
す。
ネット・レバレッジ比率が上昇してきたため、クレジットのファ
ンダメンタルズは悪化しているとみられます。しかし、インタレ
スト・カバレッジ・レシオは、最近のコモディティ価格下落の影
響や 2000 年代後半のテレコム・バブルの影響を調整すると、金
利コスト低下のために比較的妥当な水準にあるようです。市場の
構成については、BB 格セグメントが目立って増加してきました
が、この動きは続くとみられます。というのは、今後も「フォー
リン・エンジェル」が現れるとみられることと、BB 格社債の発
行が続くことによって過去数年間同様、市場全体の質の向上につ
ながるとみられるためです。
第 1 四半期後半の市場環境の改善によって、PFIM の見通しを微
調整する必要が生じました。景気循環セクターに対するアンダー
ウェイトは維持しますが、その程度は縮小し、米国の消費関連銘
柄で割高となっているものに対するオーバーウェイトを縮小しま
す。電力会社に対するオーバーウェイトも維持します。デュレー
ションの短い銘柄の多くも第 1 四半期前半のボラティリティの高
い市場で好調なパフォーマンスを示したため、相対価値の魅力に
よる推奨を中期的なデュレーションの銘柄にシフトしました。相
対価値の観点から最も強く推奨するのは B 格および CCC 格の銘柄
で、市場の BB 格セグメントよりも深刻な不況の程度を価格に織
り込んでいるとみられます。しかし、コモディティ関連以外の債
務不履行の発生は引き続き比較的少数にとどまるとみられます。
らの流入資金が年内では最高で、過去第 3 位の高水準に達するな
ど、欧州市場にも同様な影響を及ぼしました。供給面では、ロー
ンの組成(発行額)は四半期を通して安定していましたが、ハイ
イールド債の発行は 2015 年の第 1 四半期の水準をはるかに下回
り、米国市場と同様な傾向を示しました。
欧州のレバレッジド・ファイナンス市場のリターンは米国市場の
リターンを下回りましたが、米国市場でボラティリティが再度上
昇するようなことになれば、アウトパフォームすることが期待で
きます。実際、欧州市場のファンダメンタルズはクレジット・サ
イクルの比較的初期段階にあるとみられ、そのことは 2 月時点の
過去 12 カ月の債務不履行(デフォルト)率の平均が 3.1%と 2015
年末の平均である 3.4%を下回っていることに反映されています。
同様にムーディーズでは欧州のハイイールド債の今後 12 カ月間
の債務不履行率の平均は、コモディティ・セクターでの上昇が主
因となって 3.8%に上昇すると予想していますが、それでも米国
市場についての 5.3%という予想を下回っています。
今後については、欧州のハイイールド債のスプレッドは PFIM が
予想しているよりも高い債務不履行率を織り込んでいるため魅力
的と考えられます。欧州のスプレッドは、コモディティ関連の比
率が低いのに加えて、ECB による投資適格社債の購入開始が迫っ
ていることの波及効果が期待できることも支援材料となっていま
す。新規発行額が 2015 年を下回っていることも需給環境に引き
続き追い風になるとみられます。
戦略的観点からは、BB 格のクレジットは B 格のクレジットをア
ンダーパフォームしてきましたが、BB 格の銘柄を選別的に追加
することが今後魅力的な投資機会になるとみています。
第 1 四半期半ばの市場センチメントの好転も資産クラスのリター
ンに影響を与えました。同四半期前半にはレバレッジド・ローン
がハイイールド債を 2 月初旬までに 388bps 上回りましたが、そ
の後四半期末までにレバレッジド・ローンは 148bps 下回りまし
た。この資産クラスに対する投資家の迷いは、32 週連続の資金
流出が第 1 四半期の後半まで続き、その後最後の数週間は資金流
入に転じたことにはっきりと表れました。米国市場での新規発行
も低調で調達総額は 260 億米ドルにとどまりました。
欧州ハイイールド債およびレバレッジド・ローン
欧州のレバレッジド・ファイナンス市場は第 1 四半期初めのボラ
ティリティの高い期間については、米国の類似市場よりも高い回
復力を示しましたが、同四半期後半については米国市場のパフォ
ーマンスを下回りました。それでも、上昇局面では個人投資家か
Page 12
見通し: 強気。米国のハイイールド債、とりわけ格付けが低
く、デュレーションが中期的な銘柄への投資に追加的な投資
機会があるとみています。ファンダメンタルズはピークアウ
トしていますが、需給環境が強い追い風となっていて、コモ
ディティ関連以外の債務不履行の増加ペースは緩やかものに
なるとみられます。 米国のレバレッジド・ローンの需給動向
も、ミューチュアル・ファンドの資金流出が流入に転じ、CLO
(ローン担保証券)の組成も復活の兆しを見せているため改
善しています。欧州ハイイールド債のスプレッドは魅力的と
みられます。これは、堅固なテクニカル要因に加え、ユーロ
安、燃料コスト安、コモディティ・セクターへのエクスポー
ジャーが低いことによるファンダメンタルズの恩恵を受けて
おり、また景気循環で相対的に早い段階にあるためです。
2016 年第 2 四半期セクター見通し
エマージング債券
第 1 四半期半ばに始まったエマージング債券市場の回復は、数々
の支援材料が集中したことが原動力となりました。先進国市場の
中央銀行がさらに緩和的な政策を導入したこと(FRB が従来考え
られていたよりも緩やかな引き締めの予想を発表したことも含ま
れます)、米ドルの下落、中国人民元のある程度の安定化、コモ
ディティ価格の回復、魅力的なバリュエーション環境などがこの
セクターのリターンの上昇につながりました。エマージング通貨
とハードカレンシー建てソブリン債が上昇をリードし、後者のス
プレッドは 2 月には 500bps 強まで開いたあと、第 1 四半期末ま
でに 100bps 近く縮小しました。
トータル・
リターン
スプレッドの変化
OAS/利回り
第 1 四半期
第 1 四半期
2016 年
3 月 31 日
5.04%
-6 bps
+409 bps
3.88%
-62 bps
6.51%
エマージング通貨
5.46%
-131 bps
3.69%
エマージング社債
3.89%
-8 bps
+420 bps
エマージング・ハ
ードカレンシー建
て債券
エマージング・現
地通貨建て(ヘッ
ジあり)
出所:J.P.モルガン、2016 年 3 月 31 日現在。過去の運用実績は将来の
運用成果を保証するものではなく、信頼できる指標となるものでもあり
ません。直接インデックスに投資することはできません。
エマージング・ハードカレンシー建て債券
ハードカレンシー建てソブリン債指数を構成する国のパフォーマ
ンスを調べてみると、より広範なマクロ要因と各国固有の推移が
ともに追い風となっていることが分かります。アウトパフォーム
した国に含まれるブラジル(+13%)の場合、同国に対する信任の
予想外の急回復につながる可能性がある政権交代に対する期待が
再び高まったことが背景となっています。また、ブラジルの債券
は大幅に売られ過ぎの状態で、同国の対外債務返済能力や支払い
能力に関する真のリスクがバリュエーションに適切に反映されて
いないとみられます。
ブラジル以外では、コモディティ価格の反発によって、エクアド
ル(+13.22%)、コロンビア(+7.84%)、ペルー(+7.44%)、チ
リ(+7.81%)などのコモディティ輸出国の指数が上昇しました。
同様に、ケニア(+8.70%)、タンザニア(+8.35%)、モザンビー
ク(+8.61%)などのサハラ以南のアフリカ諸国の上昇も顕著でし
た。この後者のグループの場合は、公的部門による支援に対する
期待の影響もありました。ベネズエラは-2%をわずかに上回る下
落となりましたが、2016 年初めには 15%以上下落していたことか
ら、これはその後大幅な回復を示したことになります。インドネ
シアのリターンは+8.10%でしたが、これは効果的なポリシー・ミ
ックスと魅力的なバリュエーションを反映したものです。さえな
い結果となった国としては、ステップアップ債の利払い能力に関
する懸念が高まったベリーズ(-29.41%)、格下げリスクが懸念
されたトリニダード・トバゴ(+0.96%)、加えてモンゴル
(+1.06%)などがあります。
エマージング社債のリターンはより控えめとはいえ健全な水準と
なりました。セクター別では金属・鉱業(+9.75%)、紙・パルプ
(+4.84%)、産業セクター(+5.09%)のリターンが最高でした。
ザンビア(+12.23%)、南アフリカ(+8.23%)、ガーナ
(+6.46%)、ブラジル(+9.04%)のリターンも非常に堅調でした。
インドネシアの社債も+8.1%と高いリターンとなりました。ブラ
ジルの社債の回復は、ソブリン債の上昇を支えた広範なテーマに
加えて、ペトロブラスの腐敗の摘発によっていくつかの企業の債
券が過度に下落したという認識があったためです。その後ペトロ
ブラスの短期債のスプレッドは約-220bps も縮小しました。逆に
アンダーパフォームしたのは、モンゴル(-40.9%)、ウクライナ
(-2.96%)、カザフスタン(-0.73%)、イラク(-6.39%)などで
した。
信用格付けの格下げは第 1 四半期も続き、フィッチはブラジルの
格付けを BB に引き下げ、見通しはネガティブとしたため、主要
格付け機関の格付けが肩を並べました。同様にペトロブラスの格
付けは、長期的な支払い能力の問題が残っているため B3 に引き
下げられました。ペメックスの格付けをムーディーズが Baa3 に
引下げ、見通しはネガティブとされました。格付け機関の何社か
が準ソブリン債の格付けとソブリン債の格付けに差を付けつつあ
りますが、とりわけコモディティ関連事業の比重が大きく、政府
の支援がない場合のファンダメンタルズがあまり健全とは言えな
い企業が対象となっています。市場はまた準ソブリン債の評価と
ソブリン債の評価に差を付けようとしています。例えば、メキシ
コとインドネシアのいくつかの準ソブリン債とソブリン債のスプ
レッドが+50bps にとどまるような歴史的にタイトな市場に戻る
可能性は低いとみられます。しかし、現在の水準でも投資価値は
あると考えられます。格付けの引き下げが今後、南アフリカなど
のほかの国に対しても行われる可能性がありますが、その場合に
は、ファンダメンタルズと政治的な問題により投資適格格付けが
維持できるかどうかが左右されることになります。これら以外で
は、ドミニカ、アルゼンチン、ハンガリーの格付けが引き上げら
れる可能性があるとみられます。
市場のテクニカル要因、供給、資金フロー
終了した第 1 四半期中のソブリン債、準ソブリン債、社債を合計
した発行額は約 500 億米ドルでした。かなりの数の発行体が市場
にアクセスできたのは心強いことです。例えばぺメックスはドル
建てのマルチ・トランシェ債券で 100 億米ドル近い資金を調達し
Page 13
2016 年第 2 四半期セクター見通し
たほか、ユーロ建て債券も発行しています。今後については、ア
ルゼンチンが市場に戻り第 2 四半期に 100-150 億米ドル以上の調
達を行い、債務再編を拒否していた(ホールドアウト)債権者と
の間の法廷闘争の和解金の一部に充当することになるとみられま
す。これによって同国は債務再編の際に提供された債券の利払い
を行うことが可能となり、同国の格付けが安定的な B 格に引き上
げられるのに寄与する可能性があります。エマージング社債につ
いては、アジア企業による発行が最大で、中南米企業による発行
がこれに続き、両地域の企業による発行が大部分を占めるとみら
れます。
広範な市場の上昇が定着する兆候が表れたため、エマージング・
ハードカレンシー建ておよび現地通貨建て債券市場、混合型ファ
ンドの週間資金フローが 3 月に流入超過となりました。この資産
クラスは利払いや部分償還で引き続き資金を流出させているため、
キャッシュ水準はかなり減少しました。
主要なソブリン債および準ソブリン債の発行者は今後も価値を提
供すると PFIM では予想しています。ブラジルは中期見通しの改
善を反映した再評価が続くとみられます(とはいえ、ペトロブラ
スの捜査、つまり「高圧洗車作戦」以前の水準にまでは戻る可能
性は低いとみられます)。同国の格付けは現在 BB 格で見通しは
ネガティブとされているため、さらに格下げされる可能性があり
ますが、支払いができなくなるリスクはほとんどありません。ア
ルゼンチンでは国内法に基づいて発行されるソブリン債、外国法
に基づいて発行されるソブリン債、地方債、社債などに対する投
資機会が提供されています。全般的にみて、同国は債務不履行問
題解決後の新たな世界に再度乗り出そうとしており、資本流入と
適切なポリシー・ミックスによって信用格付けを改善していくと
みられます。
PFIM では、インドネシア、ハンガリーなどの投資適格格付けで
はないクレジットを引き続き選好しています。また、メキシコ、
カザフスタン、インドネシアの準ソブリン債および厳選されたブ
ラジルの政府系銀行も選好しています。格付け機関はソブリン格
付けと国営企業の格付けに差を付け始めましたが、ぺメックスな
どの 100%政府出資の発行企業は、株主である国から事実上の強
力な支援を受けることになると PFIM ではみています。
エマージング現地通貨建て債券
エマージング現地通貨建て債券(ヘッジあり)は、先進国市場で
の緩和的な金融政策およびエマージング通貨の回復、市場センチ
メントの改善を反映して健全なリターンを実現しました。アウト
パフォームした国にはブラジル(+8.77%)とインドネシア
(+6.51%)が含まれます。ブラジルでは名目利回りが高く、利上
げ局面が終わるという期待が高まり、その後実際に利下げが行わ
れたことがパフォーマンスを押し上げました。弾劾または新たな
選挙のいずれかによる政権交代への期待によって価格の上昇が支
えられました。インドネシアでは利下げ、インフレ率とマクロ経
済の見通しが健全であることに加えて、需給環境も追い風になっ
たため、リターンは堅調でした。エマージング諸国の金融政策の
全般的な見通しはまちまちとなっています。メキシコでは第 1 四
半期に予想外の利上げが実施され、今後も FRB の金融政策の方向
性に従う可能性が高いとみられます。これら以外では、南アフリ
カとコロンビアが利上げを実施しましたが、一部のアジア諸国は
利下げを行いました。
今後については特定の国およびイールド・カーブでのデュレーシ
ョンのオーバーウェイトに投資機会があると PFIM では引き続き
考えています。メキシコの現地通貨建て債券のイールドカーブの
傾斜が急になっているのは、予想よりもはるかに多くの利上げが
実際に実施されるという見方を反映したものです。メキシコでは
イールドカーブの 6 年および 20 年近辺の債券に投資価値がある
とみています。 ブラジルでは名目債とインフレ連動債を組み合
わせる戦略を選好しています。実質金利は引き続き高水準で、政
治・経済情勢がさらに好転すればインフレ見通しも改善するとみ
られます。インドネシアの現地通貨建て債券の価値と値動きは引
き続き魅力的と考えられます。
エマージング通貨
エマージング通貨の力強い回復は、FRB のスタンスが従来よりハ
ト派寄りになったのに加えて、マイナス金利やその他の ECB と日
銀による量的緩和の影響を反映したものでした。コモディティ価
格が反発したのに加えて、中国経済と人民元が安定化している兆
候が表れた時に、利回りが高く、コモディティ関連の通貨に対し
て米ドルは下落しました。実際、ブラジル(+15.03%)、ロシア
(+11.27%)、マレーシア(+10.62%)、南アフリカ(+7.26%)、
コロンビア(+7.22%)が全てアウトパフォームしました。ブラジ
ル・レアルの上昇は、政治情勢の進展だけでなく鉄鉱石価格の回
復、経常収支の大幅な改善が背景となっています。一方、出遅れ
た国は、昨年通貨価値が大幅に下落したあと、インフレ率が上昇
したアルゼンチン(-4.54%)以外ではメキシコ(+1.52%)とイン
ド(+1.60%)でした。今後もエマージング通貨は堅調に推移する
と予想しています。これは、リスク選好の高まりに加えて、コモ
ディティ価格の上昇、FRB の金融政策の見通し、中国人民元、各
国のファンダメンタルズが背景となっています。一方、エマージ
ング諸国の成長率は非常に控えめで、4%を下回ると PFIM では予
想しています。エマージング通貨のもう 1 つの変動要因は資本の
流れの見通しです。2016 年の年初来の株式市場のパフォーマン
スは堅調で、経常収支にも改善がみられています。主要なエマー
ジング諸国での高い利回りと成長率の回復が、エマージング通貨
を下支えすることになるとみられます。
Page 14
2016 年第 2 四半期セクター見通し
別の地方債関連のニュースによると、イリノイ州最高裁は、シカ
ゴの 2014 年年金改革法は違憲であるという判決を下しました。
この判決は債券価格にはほぼ織り込み済みで、判決後も価格はほ
とんど変動しませんでした。市場参加者は現在、シカゴ市が増加
する年金の負担に対してどのように対処しようとしているのかを
明らかにする代替案が公表されるのを待ち構えています。さらに、
ニュージャージー州最高裁では、2011 年年金改革法で生活費調
整(COLA)の支払いが停止されたことに対する異議申し立てに関
する口頭弁論が行われます。判断が下されるのは 2016 年後半に
なるとみられますが、ムーディーズが、最高裁が州に不利な判決
を下した場合には、ニュージャージー州の一般財源債の格付けを
A2-から引き下げるだろうと述べたことを指摘しておきます。こ
れ以外では、ペンシルベニア州では 2016 年度予算が最終的に成
立したのに対して、イリノイ州ではまだ成立していません。政治
的な手詰まり状態のために 2017 年予算の成立の際にも同様な問
題が生じるのは確実とみられます。
見通し: 強気。セクター全般でバリュエーションが魅力的で
あるため、これまでアウトパフォームしてきたにもかかわら
ず、好調なリターンが続く余地があるとみています。スプレ
ッドについてはバーベル型の戦略を選好しています。つまり
アルゼンチン、ブラジルと一部の準ソブリン債についてはデ
ュレーションの短いポジションをオーバーウェイトします。
ぺメックスとインドネシアについては、スプレッド・カーブ
の長期ゾーンのバリューが底堅いとみられます。現地通貨建
て債券は、エマージング通貨の上昇と高い利回りから恩恵を
受けるとみられます。追加的なエクスポージャーとしては、
ブラジルとインドネシアのハイイールド債と格付けがこれら
より高い債券の組み合わせを推奨します。エマージング通貨
の見通しは現在比較的堅調です。この見方は資本の流れ、ド
ル安、先進国市場の金融政策の変化が背景となっています。
地方債
AAA 格の地方債はイールドカーブ全般で米国債をアンダーパフォ
ームし、30 年物についての米国債に対する地方債の利回りレシ
オは第 1 四半期初めの 93.6%から期末には 102.7%に上昇しました。
アンダーパフォーマンスにもかかわらず、ミューチュアル・ファ
ンドからの安定的なネットの資金流入(年初来で+144 億米ドル)
に加えて対処可能な供給(年初来で 955 億米ドル)のために、第
1 四半期のリターンは投資適格地方債で+1.67%、ハイイールド地
方債で+2.74%とともにプラスとなりました。プエルトリコ債の第
1 四半期のリターンは+0.50%と、広範なハイイールド地方債指数
をアンダーパフォームしましたが、プエルトリコ債の 2015 年の
リターンは-12.01%だったため、これはリターンの安定化と考え
ることができます。長期の課税対象地方債の第 1 四半期のリター
ンは+5.43%と長期社債インデックスをアンダーパフォームしまし
た。
予想されたように、プエルトリコ関係のニュースが引き続きこの
セクターで最大の注目を集めました。プエルトリコの財政状況に
対処するために議会の公聴会が数回開催されました。下院委員会
は最近、連邦政府による強力な監視委員会の設立と特定の状況下
で債務を再編できる権限に関する法案を発表しました。法案の最
終的仕上げのための会合は 4 月に予定されています。さらに、プ
エルトリコはプエルトリコ電力公社(PREPA)が自らの債務の再
編を開始することを可能にする法律を制定しました。プエルトリ
コ関連のボラティリティは 2016 年も続くとみられます。これは
同自治領の政府はさまざまな債券に関係する支払いを怠る可能性
があり、最近のレポートによれば、政府はプエルトリコの債務返
済に関して支払の一時停止(モラトリアム)を宣言する法律を制
定しようとしているとされているためです。投資家も連邦議会で
最終的な法律が成立するのを待つことになります。
エネルギー産業に依存しているいくつかの州や地域は、原油価格
下落によって税収が減少して、財政赤字幅が拡大したため、格下
げされました。州議会が財政赤字の問題にどう対処するかによっ
て、さらに格下げされる可能性もあります。
今後の見通しとしては、地方債市場の需給環境は第 2 四半期初め
に悪化するのが一般的ですが、金利が安定的に推移しているため
今年については着実な需要が続くと見込まれるため、今年の市場
環境は例年よりも堅調になるとみられます。需給動向の変動によ
って値下りすることがあれば買付の好機になるとみられます。過
去数年間、地方債市場で最も注目されてきた問題債券に関係する
状況が解消したわけではありません。しかし、これら債券に関係
する事態がどのように進展したとしても、地方債市場全体に影響
が広がるようなシステミック・リスクにつながることはないと引
き続き考えています。課税対象地方債は社債に近いパフォーマン
スを示すと PFIM では予想していますが、企業の M&A の動きが続
くようであればアウトパフォームする可能性があります。
見通し: 良好な需給環境や魅力的な課税債相当利回りに基づ
き、やや前向きなスタンスを取っています。
グローバル金利
先進国の市場金利の大半が第 1 四半期に下落しました。これは中
央銀行の金融緩和策、世界経済の景気減速を示す兆候がさらに明
らかになったこと、同四半期の初めに投資家の「質への逃避」の
動きが活発化したことが原因でした。利回りが広範に下落したあ
とも、魅力的なリスクプレミアムと金融政策のために投資家によ
る、相対的に高い利回りを求める動きが後押しされる中で、PFIM
では引き続きグローバル金利市場の一部には投資機会があるとみ
ています。
Page 15
2016 年第 2 四半期セクター見通し
米国では第 1 四半期にイールドカーブがフラット化しましたが、
米国市場はリスクプレミアムが引き続き先進国金利市場の中で最
高水準にある市場に含まれるため、今後もブル・フラットニング
(強気市場でのフラット化)が続くと PFIM では予想しています。
2015 年 12 月の FRB の利上げに続いて、継続的に利上げが実施さ
れると見込まれる中で、2 年債利回りは年末には 1.05%に上昇し
ました。しかし FRB は、2016 年中に予想される利上げの回数を 4
回から 2 回に減らすなど、これらの予想を第 1 四半期に修正した
ため、2 年債利回りは四半期中に 33bps 低下して期末には 72bps
になりました。FRB は「ドット・プロット(金利予想分布図)」
の 3 月の改定でも、フェデラル・ファンド金利の 2017 年と 2018
年および長期的な予想を引き下げました。長期的な予想は 3.5%
から 3.25%に引き下げられましたが、PFIM ではこれでも高過ぎる
ため、FRB は今後の会合で長期的な予想はさらに引き下げられる
可能性が高いと予想しています。
FRB はまた、直近のインフレに関するデータを引き続き引き下げ
たようです。インフレ率はかなり長期間にわたって目標を下回っ
たあと、第 1 四半期に発表されたインフレ関連の複数のレポート
では、コア・インフレ率は FRB の 2%という目標にさらに近付い
たことが指摘されています。FRB は 2016 年のコア個人消費支出
(PCE)デフレーター上昇率の予想を 1.6%に据え置きましたが、
ヘッドライン・インフレ率の予想は 1.6%から 1.2%に引き下げま
した。コア PCE デフレーターの上昇が加速する中で、5 年物イン
フレ連動債(TIPS)のブレーク・イーブン・インフレ率は上昇し
ていますが、米国のコア・インフレ率のこれ以上の上昇余地は限
られるという予想に基づいて、PFIM では第 1 四半期に TIPS に対
する投資のオーバーウェイトを解消しました。米国市場ではこの
ほかスワップ・スプレッド拡大(特に、7 年物)に引き続き投資
機会があるとみています。このポジションはキャリーコストがプ
ラスで、米国債の供給の減少が見込まれ、海外投資家が米国債の
売却を抑制している兆候があるため、このポジションの魅力は高
まっています。
FRB がタカ派的な利上げプロセスから後退する一方、日銀と ECB
は第 1 四半期に明白に金融緩和策を実施した先進国の中央銀行の
一角を占めることになりました。日本では日銀がマイナス金利政
策を導入したことが市場を驚かせ、10 年国債利回りはその結果
第 1 四半期末には-3bps にまで低下しました。今後については、
日本経済はかなり好調に推移する可能性があり、その場合日銀の
量的・質的金融緩和策(QQE)の想定よりも国債の供給は限定的
なものになり、資産買い入れ規模はピークに近付いていることが
示される可能性があると PFIM では考えています。こうした量的
金融緩和策の縮小(テーパリング)によって、30 年国債はとり
わけ大きなリスクにさらされる可能性があります。
非伝統的金融政策に関して ECB も後れを取っているわけではなく、
預金金利のマイナス幅を拡大したり、基準金利をゼロまで引き下
げました。ECB はまた量的緩和の資産買い入れ対象に、発行残高
が 5,540 億ユーロ程度のユーロ建て社債を加えました。第 1 四半
期の ECB の金融政策の変化は多くの予想を上回りましたが、マイ
ナス金利政策の限界に達した可能性があることも示しているとみ
られます。その結果、ドイツの長期国債の利回りは、ネットの供
給量がマイナスで、ECB による資産買い入れが続いているため、
さらに徐々に低下する可能性があるとみられます。
英国では、6 月 23 日の国民投票に向けて、金利はある程度不安
定な動きをする可能性があるとみられます。最後に、PFIM では 5
年物と 10 年物のオーストラリア国債のセグメントに対する長期
投資を推奨しています。これはこのセグメントのリスクプレミア
ムが魅力的で実質金利が比較的高いためです。
見通し: 選別的スタンス。 米国債とドイツ国債の利回りは
引き続きレンジ内での推移が見込まれ、米国での魅力的なリ
スクプレミアムとECBの量的緩和策によって、それぞれのレン
ジで下限方向への偏りが生じるとみられます。米国では、拡
大が見込まれるスワップ・スプレッドも選好しています。日
銀の量的・質的金融緩和策が限界に達した場合には、日本国
債とりわけ30年債のリスクが高まるとみられます。その他地
域では、英国債はEU離脱を問う国民投票を控えてボラティリ
ティが上昇する可能性があり、オーストラリア国債には長期
的投資機会があるとみられます。
モーゲージ債
モーゲージ債の第 1 四半期のリターンは 1.98%でしたがこれは米
国債をややアンダーパフォームするものでした。金利が低下した
ことを考慮すると、第 1 四半期の-38bps という超過リターンは
プリペイメント(期限前返済)と供給が季節的に増加する期間に
差し掛かったことに伴う発行額増加に対する懸念によるものでし
た。
第 1 四半期に時価総額加重の米国債に対するオプション調整後ス
プレッド(OAS)は 12bps 拡大して 31bps となり、LIBOR に対す
る OAS は、スワップ・スプレッドの堅調な拡大によって 14bps 拡
大して 48bps となりました。モーゲージ証券の期限前返済は引き
続きかなり抑制されていますが、借り入れに伴う文書の問題によ
る未処理分が減少したこと、金利の低下、季節的要因の改善など
によって、第 1 四半期中に期限前返済に対する懸念がわずかに強
まりました。連邦政府抵当金庫(GNMA、ジニーメイ)のプリペイ
メント速度は、従来型住宅ローン(政府などによる保険保障を受
けていないもの)に比べると、住宅ローン向けの保険料が再度引
き下げられることに関する懸念にもかかわらず、比較的狭い範囲
で推移しました。保険料引き下げの問題は第 1 四半期中には浮上
しませんでしたが、年内に再度浮上する可能性があります。今後
を見通すと、第 1 四半期に住宅ローン金利は低下しましたが、金
Page 16
2016 年第 2 四半期セクター見通し
証券化商品
利感応度の高い(cuspy)クーポン・レートのプリペイメント速
度は上昇し、その後再び下落に転じるとみられます。
コンベクシティをヘッジする必要性は、第 1 四半期には予想ほど
高まりませんでした。これは MBS の最大の保有者は FRB であり、
ヘッジすることがないためです。しかし、2 月には金利が最近の
ボトムを付けたため、スワップを受けるサービサーもいました。
海外からの投資が活発化したためクーポンが低下し、30 年物
GNMA 債は従来型のモーゲージ債をアウトパフォームしました。
日本が 4 月 1 日から新会計年度入りすると、さらに需要が拡大す
る可能性があります。
今後については FRB による MBS 再投資額が 4、5 月には約 50%増
の 340 億米ドルになるとみられます。これは、今年の活発な借り
換えの動きによりプリペイメントが少なくとも 40%は増加すると
みられるのに加えて、20 億米ドル以上のエージェンシー発行 MBS
が償還されるためです。FRB の MBS 再投資プログラムは最短でも
2016 年後半までは続くとみられます。海外からの需要について
は、MBS の利回りが最近のレンジの半ばまたは上限にとどまり、
米ドルが変動域の下限に近い場合には、海外からの需要は第 2 四
半期中に拡大するとみられます。
ポジティブな面としては、第 1 四半期のモーゲージ債のパフォー
マンスが社債セクターを大幅に下回ったため、モーゲージ債のス
プレッドが変動域の上限にとどまっているという点を挙げること
ができます。銀行からの需要も、おそらく 2016 年に総額 1,000
億米ドル程度で続く可能性があります。これは銀行が、自己資本
規制比率をあまり低下させない、エージェンシー発行 MBS を引き
続き選好するとみられるためです。
今後のリスクに関しては、最近の金利低下によるプリペイメント
の緩やかな増加、住宅売却シーズンのため住宅供給の拡大が予想
されます。MBS は他のセクターに後れをとっているものの、他の
高格付けセクターのスプレッドは引き続き MBS に対して十分に広
い状態にとどまると考えられます。ただし、これらセクターのス
プレッドも強い縮小トレンドにあるとみられます。
こうした背景から、MBS のスプレッドのパフォーマンスは FRB に
よる 2016 年に予想される利上げのタイミングに左右されると
PFIM では考えています。全体として、MBS のパフォーマンスは金
利水準によって左右され、金利が上昇した場合には買い切りを前
提にする投資家の恩恵を受けるとみられます。また TBA よりも特
定プールを引き続き選好します。
証券化商品にとって、過去の例から見ると第 1 四半期は全体的に
ポジティブだったにもかかわらず、2016 年は例外となりました。
1 月と 2 月を通じてスプレッドが拡大し、特に一部のケースでは
顕著でしたが、3 月に力強いラリーがあったため、一部の証券化
商品に投資している投資家は、前四半期比横ばいのスプレッドを
経験することになるでしょう。証券化商品全体でクレジット・カ
ーブがスティープ化し、ヘッジファンドの解約が原因でメザニ
ン・トランシェの需給環境が依然として油断できない状況下で、
これらのより深部のトランシェのファンダメンタルズもやや懸念
事項だと考えています。シニア・トランシェについては、CMBS
と RMBS が強気基調をリードしており、依然として全体的にポジ
ティブとなっています。サブプライム自動車市場で注目されてい
る懸念にもかかわらず、引き続き無担保消費者向けローンを選好
します。ファンダメンタルズは典型的な季節パターンに沿って改
善すると予想しています。ブローカー・ディーラーのビジネスモ
デルが、プリンシパル(自己取引中心の)モデルからエージェン
ト(委託取引中心の)モデルへと変革を遂げていることから、流
動性が引き続き悪化しています。規制機関による引き締めに伴い、
この状況が悪化し、ディーラーのバランスシートの柔軟性がさら
に制限されると考えています。1) 特に日本におけるマイナス金
利環境、2) AAA 格投資を選好する米国の保険会社に対する今後
の自己資本比率規制から、高品質なスプレッド商品に対する需要
が増えるため、証券化商品のシニア・トランシェについては全体
的に依然強気の姿勢を取っています。
CMBS : AAA 格の 10 年債は、2016 年年初のスワップ(S)+135
bps から変わっていませんが、第 1 四半期中に拡大し、一時
S+173 となりました。エージェンシーCMBS のスプレッドは同四半
期中に 15 bps 拡大しましたが、現在は 7 bps 縮小して S+78 とな
っています。単一の資産/単一の借り手(SASB)フローターのス
プレッドは同四半期にやや拡大し、LIBOR (L)+約 130 bps の水準
となりました。スプレッドはスプレッド商品全体と呼応して拡大
しましたが、今年満期を迎える 2006 年組成の CMBS の資金調達ニ
ーズに関連した供給懸念も要因でした。ただし、四半期中のスプ
レッド・ボラティリティにより、コンデュイット型 CMBS の貸手
が不透明感のある証券化エグジットに対して貸与することに躊躇
したため、商業ローンのオリジネーションが減速しました。この
ため、5 月と 6 月には供給がほとんどなくなると予想しており、
今年度のコンデュイット型 CMBS の発行は 500 億ドルと予想して
います。これは 2015 年から約 15~20%減となります。この新し
い供給見通しが、3 月末の 2 週間に定着したスプレッド縮小のカ
タリストとなりました。
見通し: その他の高格付けスプレッド・セクターと比較して
アンダーウェイト。
CMBS 資本構造の最上位トランシェは損失を回復できたものの、
低層トランシェのパフォーマンスは前途有望とは言えませんでし
た。1 年前は 325 bps だった BBB 格現物債券のスプレッドは 2016
年年初は 550 bps だったところ、約 800 bps まで拡大し、その後
Page 17
2016 年第 2 四半期セクター見通し
ラリーを経て 600 bps に戻りました。BBB 格 CMBX の方がはるか
に好調で、ラリーで 600 bps 未満にまで達しました。住宅ローン
の一番下の四分位の担保の質が疑わしいため、CMBS メザニンに
対しては依然としてネガティブです。継続中のヘッジファンドの
解約懸念により、需給環境はさえません。需給環境が良くないた
め、スプレッドが約 50 bps 拡大したことにより、第 1 四半期は
アンダーパフォームしましたが、依然として CMBS IO を選好して
います。政府支援機関(GSE)部門については、連邦住宅抵当公
庫(ファニー・メイ)と連邦住宅金融抵当公庫(フレディ・マッ
ク)は 2015 年に集合住宅を担保として 620 億ドルの CMBS を組成
しましたが、2016 年の発行額は 700 億ドルのレンジとなる見込
みです。商業用ビルの不動産価格は改善を続け、全国平均レベル
では危機前のピークを 16%上回っています。
ABS : コモディティ関連 ABS セクターを除き、全般的に流動性
が供給されている状況です。レンタカー(S+175)、タイムシェ
ア(S+190)、消費者ローン(L+300)などのシニア・トランシェ
は全て第 1 四半期に拡大し、その他のスプレッド商品と同じよう
なリバウンドはしていません。これらのオフ・ザ・ラン銘柄のシ
ニア・トランシェのバリュエーションは申し分ありません。対照
的に、ベンチマークのクレジットカードや自動車ローンの ABS は、
3 年物 AAA 格クレジットカード ABS の L+45 や 1 年物トップティ
ア AAA 格自動車ローン ABS の L+35 と約 5 bps タイトです。連邦
政府保証民間学生ローンプログラム(FFELP)学生ローンに対し
て慎重な姿勢を維持しています。ムーディーズとフィッチが、法
律上最終満期までに債券が返済されない可能性があることを理由
に、依然として格付けの見直しを進めており、格下げされる恐れ
があり、それに基づく売りのプレッシャーにさらされています。
消費者ローンの質は依然良好です。クレジットカードと自動車ロ
ーンのプールに対する低金利がこれを示しています。とはいえ、
サブプライム自動車ローンのオリジネーターが信用度を引き下げ
てローン組成を増やしたため、損失率が上昇しています。ディー
ル構造は、これらの損失を吸収するのに十分なほど堅調だと考え
ており、前払いのサブプライム自動車ローンは L+150 ですが
PFIM は強気で臨んでいます。2015 年と比較すると新発のペース
は鈍化しています。これは、市場のボラティリティと、完全に消
化するのが困難だった多くのディールがあったことが要因です。
非エージェンシー住宅モーゲージ : 全体として見れば、非エー
ジェンシー住宅モーゲージ市場は引き続き、クレジット・ファン
ダメンタルズは安定から改善傾向にあり、需給環境はポジティブ
です。これは、純供給がマイナスである(毎年、過去の残高の約
15%が償還され、新発の供給が僅少であるため)ことが要因です。
問題がある融資は解決され、住宅価格の上昇が続いている(年間
約 5%上昇)ため、金融危機前に発行されたモーゲージのパフォ
ーマンスのトレンドは依然としてポジティブです。新しい製造モ
ーゲージ、特に GSE 向けは、引き続き保守的水準で引き受けられ、
表明・保証(レプワラ)の返還リスクを軽減できるようにしてい
ます。このポジティブなファンダメンタルズと需給環境の展望に
もかかわらず、スプレッドは拡大しました。GSE クレジットリス
ク移行証券のスプレッドは 1 月と 2 月に大きく拡大しました。特
に、資本構造下部(L+500 から L+690 bps)で拡大し、その後ラ
リーで戻ったものの、元には戻らず、第 1 四半期は L+550 bps で
終えました。シニア・レガシー非エージェンシーRMBS は、ヘッ
ジファンド投資の中で最も流動性が高いというテクニカル面での
懸念で拡大しました。スプレッドは約 75 bps 拡大し、わずか約
25 bps のみ反転しました。現在は L+250 から L+315 bps の間で
取引されています。これら債券の re-REMICS(不動産モーゲージ
投資コンディット)は特に魅力的で、ストラクチャーが複雑なた
め L+400 で取引されています。レガシーRMBS シニア投資は優れ
た価値を提供すると考えています。他のニュースとしては、
Countrywide の 85 億ドルの和解が第 1 四半期中に行われる予定
でしたが、引き続き調停が続いており、受託者がどのトランシェ
に資金の受け取り資格があるのか、調停の方向を探っています。
ユーロ ABS については、英国の RMBS(AAA 格で L+100 半ば)は他
のセクターと比較すると魅力が弱く、さらに Brexit の不透明感
にさらされています。
CLOs : AAA 格の米国ローン担保証券(CLO)発行市場のスプレッ
ドは 8 bps 拡大し 3 カ月 LIBOR (3mL)+160 bps となりました。市
場のボラティリティや規制面での進展がもたらした逆風により、
スプレッドが拡大しました。第 1 四半期を通じたスプレッドの動
きは比較的小さかったにもかかわらず、四半期中にスプレッドは
2 月に 190 bps まで拡大しました。既発の AAA 格債は依然として
新規発行銘柄と比較して比較的割安な水準で推移しました。これ
は、資金流出への対応を迫られた一部のアセット・マネジャーが
流動性の高い AAA 格の CLO 売却を余儀なくされた結果、スプレッ
ドが拡大したことによるものです。第 1 四半期の新規発行は前年
比 80%近くにまで減少しました。これは、ジュニア・メザニンや
エクイティ・トランシェに確信が欠けているため、既発市場の供
給で新規発行アービトラージが困難なためです。これらのトラン
シェは引き続き損失を被るリスクにさらされており、流動性が低
下しています。これは、担保付きシニア・ローンの価格が引き続
き下落し、特にエネルギー関連企業の債券で個別バンク・ローン
のクレジット・イベントが生じているからです。欧州では、発行
市場における AAA 格の CLO のスプレッドは 15bps 拡大して
3mL+170bps となりました。米国とは異なり、欧州では CLO に対
する需要が供給に追いついていません。クレジット・ファンダメ
ンタルズが相対的に良好であるうえに、量的緩和が継続されてい
るにもかかわらず、欧州のスプレッドは米国のスプレッドに収斂
し始めています。
CLO が発行市場および流通市場の双方で優れた相対的価値を提供
しているとの見方を維持しています。米国の発行市場では、AAA
格トランシェへの投資家にとって、スプレッドやコベナンツを交
渉するうえで有利な環境が続いています。流通市場では、流動性
に対して適度なプレミアムが引き続き提供されており、長期投資
家は足元の混乱から恩恵を受けると考えられます。長期的には、
Page 18
2016 年第 2 四半期セクター見通し
CLO のスプレッドが縮小する可能性が強いと考えています。一方、
短中期的には、供給や規制動向、他商品との相対価値がスプレッ
ド動向を引き続き左右するとみられ、ファンダメンタル面で魅力
的な当該資産クラスのポジションを引き続き機動的に積み増す上
で好ましい環境がもたらされると考えられます。
見通し:最優先トランシェの債券に対して非常に強気の見方を
維持しており、市場が混乱している中で、配分を増やす機会が
提供されていると考えています。GSEクレジット・リスク・メ
ザニン・キャッシュフローに対しても強気の見方を維持してい
ます。一方、CMBSやCLOのメザニン・トランシェに対して弱気
の見方を維持しています。
Page 19
2016 年第 2 四半期セクター見通し
留意事項
データの出所(注記のある場合を除く):プルデンシャル・フィクスト・インカム 2016 年 4 月現在
プルデンシャル・フィクスト・インカムは、1940 年投資顧問法に基づき米国で登録している関連投資顧問会社であるPGIM インクおよびプルデンシャ
ル・ファイナンシャル・インクを通して事業を行っています。欧州および一部のアジアの国においては、プルデンシャル・フィクスト・インカムは
PGIM フィクスト・インカムとして事業を行っています。プルデンシャル・フィクスト・インカムはニュージャージー州ニューアークを本社とし、次の
事業も含みます。(i) ロンドンのPGIM リミテッドにおけるパブリック債券部門、(ii) 東京のプルデンシャル・インベストメント・マネジメント・ジ
ャパン株式会社(PIMJ)、(iii) シンガポールのPGIM(シンガポール)プライベート・リミテッド。プルデンシャル・ファイナンシャル・インクは、
英国を本拠地とするプルーデンシャル社とはなんら関係がありません。
本資料は、経済状況、資産クラス、有価証券、発行体または金融商品に関する資料作成者の見解、意見及び推奨を示したものです。本資料を当初の配
布先以外の方(当初の配布先の投資アドバイザーを含む)に配布することは認められておりません。またプルデンシャル・フィクスト・インカムの事
前の同意なく、本資料の一部または全部を複製することや記載内容を開示することを禁止いたします。本資料に記載されている情報は、現時点でプル
デンシャル・フィクスト・インカムが信頼できると判断した情報源から入手したものですが、その情報の正確性、完全性、および情報が変更されない
ことを保証するものではありません。本資料に記載した情報は、現時点(または本資料に記載したそれ以前の日付)における最新の情報ですが、予告
なく変更されることがあります。プルデンシャル・フィクスト・インカムは情報の一部または全部を更新する義務を負うものではありません。また、
情報の完全性または正確性について明示黙示を問わず何ら保証または表明するものでなく、誤謬についての責任を負うものでもありません。本資料は
特定の証券、その他の金融商品、または資産運用サービスの勧誘を目的としたものではなく、投資に関する判断材料として用いるべきではありません。
どのようなリスク管理技術も、いかなる市場環境においてもリスクを最小化または解消できることを保証することはできません。過去のパフォーマン
スは将来の運用成績を保証するものではなく、また信頼できる指標となるものでもありません。投資は損失となることがあります。本資料に記載され
ている情報や本資料から導出した情報を利用したことにより(直接的、間接的、または派生的に)被り得るいかなる損失ついても、一切責任を負いま
せん。プルデンシャル・フィクスト・インカムおよびその関係会社は、それぞれの自己勘定を含め、本資料で示した推奨や見解と矛盾する投資判断を
下す可能性があります。
本資料はそれぞれのお客様の置かれている状況、投資目的、あるいはニーズを考慮しておりません。また、特定のお客様もしくは見込み客に対して特
定の証券、金融商品、または投資戦略を推奨するものでもありません。いかなる証券、金融商品、または投資戦略についても、これらが特定のお客様
もしくは見込み客にとって適切であるかどうかに関する決定は下しておりません。本資料に記載された証券または金融商品についてのご判断はご自身
で行ってください。
利益相反: プルデンシャル・フィクスト・インカムおよびその関連会社が、本資料で言及した有価証券の発行体との間で、投資顧問契約や他の取引関
係を結ぶ可能性があります。時にはプルデンシャル・フィクスト・インカムおよびその関連会社や役職員が、本資料で言及した有価証券や金融商品を
ロングもしくはショートするポジションを保有する可能性、およびそれらの有価証券や金融商品を売買する可能性があります。プルデンシャル・フィ
クスト・インカムの関連会社が、本資料に記載する推奨とは無関係の異なる調査資料を作成して発行することがあります。営業、マーケティング、ト
レーディングの担当者など、本資料作成者以外のプルデンシャル・フィクスト・インカムの従業員が、本資料に表示する見解とは異なる市場に関する
コメントもしくは意見を、口頭もしくは書面でプルデンシャル・フィクスト・インカムのお客様もしくは見込み客に提示する可能性があります。利益
相反もしくはそのおそれについて、詳しくはプルデンシャル・フィクスト・インカムのフォーム ADV第2A 部をご覧ください。
情報提供については、英国では、PGIM インクの間接子会社である PGIM リミテッドが担当しています。PGIM リミテッドは英国金融行動監督機構(FCA)
の認可を受けており、FCA の規制が適用される他(登録番号 193418)、欧州経済領域(EEA)内の様々な法域でも正式に認可を受けています。本資料
は PGIM リミテッドが FCA の金融行為規制ソースブックに基づき、機関投資家や適格機関投資家向けに作成したものです。一部のアジア諸国では、シ
ンガポール金融管理庁(MAS)に登録し、その認可を受けた同国の投資運用会社である PGIM(シンガポール)プライベート・リミテッドが担当してい
ます。日本では、国内の登録投資顧問会社であるプルデンシャル・インベストメント・マネジメント・ジャパン株式会社が担当しています。香港では
香港証券先物取引委員会に登録しているプラメリカ・ファンド・マネジメント・リミテッドが証券先物条例スケジュール 1 パート 1 で定義された機関
投資家を対象に提供を行っています。PGIM、Prudential 、PGIM のロゴ、およびロック・シンボルは、プルデンシャル・ファイナンシャル・インクお
よびその関係会社のサービスマークであり、多数の国・地域で登録されています。
© 2016 Prudential Financial, Inc. and its related entities.
各セクターのパフォーマンスは下記インデックスを参照しています:

米国投資適格社債:バークレイズ米国社債インデックス

欧州投資適格社債:バークレイズ欧州社債インデックス(ヘッジなし)

米国ハイイールド債:BofA メリルリンチ米国ハイ・イールド・インデックス

欧州ハイイールド債:メリルリンチ欧州通貨建てハイ・イールド・インデックス

米国優先担保付きローン:クレディ・スイス・レバレッジド・ローン・インデックス

欧州優先担保付きローン:クレディ・スイス・ウエスタン・ヨーロピアン・レバレッジド・ローン・インデックス:(全ての通貨に対するヘッジ
なし)

米ドル建てエマージング・ソブリン債:JP モルガン・エマージング・マーケット・ボンド・インデックス・グローバル・ディバーシファイド

現地通貨建てエマージング債(ヘッジなし): JP モルガン国債インデックス - エマージング・マーケット・グローバル・ディバーシファイド・
インデックス
Page 20
2016 年第 2 四半期セクター見通し

エマージング社債:JP モルガン社債エマージング・ボンド・インデックス・ブロード・ディバーシファイド

エマージング市場通貨:JP モルガン・エマージング・ローカル・マーケット・インデックス・プラス

地方債:バークレイズ米国地方債インデックス

米国国債:バークレイズ米国国債インデックス

MBS:バークレイズ米国 MBS – エージェンシー固定金利インデックス


CMBS:バークレイズ CMBS: ERISA 適格インデックス
米国総合インデックス:バークレイズ米国総合インデックスデータの出所(注記のある場合を除く)
プルデンシャル・フィクスト・インカム
2016 年 4 月現在
Page 21
2016 年第 2 四半期セクター見通し
留意事項 2
本資料はプルデンシャル・フィクスト・インカムが作成した"2nd Quarter Outlook "をプルデンシャル・インベストメント・マネジメント・ジャパン
株式会社が翻訳したものです。
本資料は、特定の金融商品の勧誘または販売を目的としたものではありません。過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。
本資料に記載されている市場動向等に関する意見等は本資料作成日時点でのプルデンシャル・フィクスト・インカムの見解であり、事前の通知なしに
変更されることがあります。
本資料は、プルデンシャル・フィクスト・インカムが信頼できると判断した各種情報源から入手した情報に基づき作成していますが、情報の正確性を
保証するものではありません。プルデンシャル・フィクスト・インカムは、米国SEC 登録投資顧問会社であるPGIM インクのパブリック債券運用部門で
す。
原文(英語版)と本資料の間に差異がある場合には、原文(英語版)の内容が優先します。詳細は原文(英語版)をご参照ください。
“プルデンシャル”、PGIM ロゴおよびロック・シンボルは、プルデンシャル・ファイナンシャル・インクおよびその関連会社のサービスマークであり、
多数の国・地域で登録されています。プルデンシャル・インベストメント・マネジメント・ジャパン株式会社は、世界最大級の金融サービス機関プル
デンシャル・ファイナンシャルの一員であり、英国プルーデンシャル社とはなんら関係がありません。
プルデンシャル・インベストメント・マネジメント・ジャパン株式会社
金融商品取引業者関東財務局長(金商)第392 号
加入協会 一般社団法人 日本投資顧問業協会、 一般社団法人 投資信託協会
PIMJ201605100365
原文(英語版)につきましてはウェブサイト
(http://www3.prudential.com/fi/pdf/prudential‐fixed‐income‐market‐outlook‐2Q16.pdf)
をご参照ください。
Page 22