特許を受ける権利の共有に関する留意点

特許を受ける権利の共有に関する留意点
須田特許事務所
弁理士
須田
英一
1.概要
共同研究・共同開発は、研究開発にかかるコストの軽減、リスクの分散又は期間の短縮や、異な
る分野の事業者間での技術等の相互補完等を目的として一般的に行われています。このような共同
研究等の場面において、発明が共同でなされたときは、共同発明者全員が特許を受ける権利を共有
す る こ と に な り 、特 許 を 受 け る 権 利 を 単 独 で 有 し て い る と き と は 異 な る 留 意 点 が あ り ま す 。そ し て 、
そ の 中 に は 、 平 成 2 3 年 6 月 8 日 に 公 布 さ れ た 特 許 法 等 の 一 部 を 改 正 す る 法 律 ( 以 下 、「 改 正 法 」
と い う 。) で 改 正 さ れ た 事 項 も あ り ま す 。
今 回 は 、 特 許 を 受 け る 権 利 の 共 有 に 関 す る 留 意 点 ( 改 正 法 に よ る 改 正 事 項 を 含 む 。) に つ い て 主
なものを説明します。
2.共同出願
発明が共同でなされたときは、共同発明者全員が特許を受ける権利を共有することになります。
このとき、特許を受ける権利を共有する全員で出願をする必要があり、そのうちの一部の者のみが
出 願 し 特 許 を 受 け る こ と は で き ま せ ん ( 特 許 法 3 8 条 、 4 9 条 2 号 )。
しかしながら、共同研究等の実際の場面においては、当該発明が、共同研究等の成果としての発
明なのか、成果外の発明なのかをめぐって誤解が生じ、結果として一部の者のみが出願してしまい
トラブルになるケースも多いようです。従来、このようなケースにおいて、真の権利者保護の手段
は 、 特 許 権 を 無 効 と す る ( 特 許 法 1 2 3 条 1 項 2 号 )、 損 害 賠 償 を 請 求 す る ( 民 法 7 0 9 条 ) 等 に
限られていました。
そこで、改正法では、共同発明者の一部によって特許が取得されてしまった場合などに、発明者
等 が 特 許 権 等 を 自 ら に 返 還 請 求 で き る 制 度 が 導 入 さ れ て い ま す ( 改 正 後 の 特 許 法 7 4 条 等 )。 こ の
改正法は、平成23年6月8日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施
行されます。
3.出願審査の請求ができる者
出願審査の請求は何人でもすることができます(特許法48条の3)ので、特許を受ける権利を
共有する一部の者のみでも請求することもできます。
なお、特許を受ける権利を共有する一部の者による請求は、出願人の請求と扱われますので、出
願人でない者から出願審査の請求があった旨の通知(特許法48条の5第2項)が他の出願人に発
せられることはありません。
4.複数当事者の相互代表(特許法14条)
2人以上が共同して手続をしたときは、全員の不利益になるような手続を除いて、その後の手続
について各人が全員を代表します。ただし、代表者を定めて特許庁に届け出たときは、その代表者
のみが他を代表します。
全員の不利益になるような手続として、特許出願の変更、放棄及び取下げ、特許権の存続期間の
延長登録出願の取下げ、請求、申請又は申立ての取下げ、特許法41条1項(特許出願等に基づく
優先権主張)の優先権の主張及びその取下げ、出願公開の請求並びに拒絶査定不服審判の請求が規
定されており、これらの手続は全員で行う必要があります。
5.共同審判
特許を受ける権利の共有者がその共有に係る権利について、拒絶査定に対する審判(特許法12
1条)を請求するときは、共有者の全員が共同して請求しなければなりません(特許法132条3
項 )。ま た 、こ の 審 判 を 請 求 し た 者 の 1 人 に つ い て 、審 判 手 続 の 中 断 又 は 中 止 の 原 因 が あ る と き は 、
その中断又は中止は、全員について効力を生じます。
なお、この審判の審決に対する訴え(特許法178条)も共同で請求しなければなりません。
6.特許を受ける権利の持分及びその移転
特 許 を 受 け る 権 利 の 持 分 は 、 そ の 定 め が な い 限 り 平 等 と 推 定 さ れ ま す ( 民 法 2 5 0 条 )。 な お 、
持 分 の 定 め が あ る と き は 、 願 書 に そ の 旨 を 記 載 す る こ と が で き ま す ( 特 許 法 施 行 規 則 2 7 条 )。
特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分
を 譲 渡 す る こ と が で き ま せ ん ( 特 許 法 3 3 条 3 項 )。