Agenda 家庭用ゲーム産業の 構造と発展 I. 家庭用ゲーム産業の概要 II. ゲームソフトの製品特性と製品開発 III. ゲームソフト産業にみるイノベーション・パターン ―略史と産業構造― ―消費者感性のシミュレート― ―「開発生産性のディレンマ」― 一橋大学 イノベーション研究センター 専任講師 生稲 史彦 IV. 技術革新とコンテンツ産業 ―オンラインゲームのインパクト― 家庭用ゲーム産業の今後 V. ―インタラクティブなエンターテイメントの可能性― 1 2 I-1. コンピュータ・ゲームとその産業 z コンピュータ技術を利用した、インタラクティブ(双方 向的)なエンタテインメント z 使用する機器、プラットフォームによって、いろいろ なタイプがあり、技術と市場の両面で相互に影響し あっている I. 家庭用ゲーム産業の概要 – – – – – ―略史と産業構造― z 3 家庭用ゲーム ・・・据え置き型、携帯型 業務用ゲーム PCゲーム オンラインゲーム 携帯電話ゲーム 今回は、これまで中心的産業だった据え置き型・家 庭用ゲームの産業について見ていく 4 I-2. ゲーム産業の略史 I-3. 日本の家庭用ゲーム産業 アメリカで汎用的コンピュータを使っ たゲーム z 1970年代 ゲーム専用の機器の登場。ビジ ネスとしての誕生 z 1980年代 ゲーム産業の中心がアメリカから 日本へ z 1990年代末〜 家庭用ゲーム産業の停滞 z 2000年代〜 携帯電話ゲーム産業やオンラ インゲーム産業が成長 z 1960年代 5 z 国内の市場規模は6,000億円程度 – 全世界の市場規模は2兆円程度 z 家庭用ゲーム産業の産業構造 – 1983年に任天堂が発売した「ファミリーコンピュータ」と その対応ソフトが産業の基礎をつくった – プラットフォームを提供する企業と、ゲームソフトを提 供する企業が活動 z z 数社のプラットフォーム・フォルダ 100社以上のゲームソフト企業 6 1 I-4.(2) プラットフォーム・フォルダ 間の プラットフォーム・フォルダ間の 競争 I-4.(1) プラットフォーム・フォルダ z プラットフォーム・フォルダとは z – 据え置き型ゲーム機、携帯型ゲーム機などを開発、製造、 – 「任天堂が管理する市場で多くの企業が活動する状態」 (「プラットフォーム・リーダーシップ」を発揮) (ライセンサー、ライセンシー) z – 流通に関与 (現ソニー)が、新たに主導的プラットフォーム・フォルダに プラットフォーム・フォルダのビジネスモデル z – 任天堂が構築 z ビジネスモデルの微調整 – 家庭用ゲーム機の大幅な性能向上 – 低価格でゲーム機を提供し、ゲームソフトの収益で補う z 主導的プラットフォーム・フォルダの交代 – 1994年に参入したソニー・コンピュータ・エンタテインメント (限定的) z 1993年までのプラットフォーム・フォルダ間競争 – 任天堂が主導的プラットフォーム・フォルダ 販売 – ゲームソフト企業に、ゲームソフトの開発、発売を許諾 z 自社のゲームソフトからの収益 他社(ライセンシー)のゲームソフトからの収益 z – ただし、近年その傾向に変化も見られる 「枯れた技術の利用」から「最先端技術の利用」へ 現在は、携帯型ゲーム機、次世代ゲーム機による 競争が生じている 7 I-4.(3) プラットフォーム・フォルダ間 競争の特徴 8 I-5. 「ハードとソフトの好循環」 z z 「業界標準(デファクト・スタンダード)」を巡 「予想の自己成就・強化メカニズム」(浅羽(1995))を家 庭用ゲーム産業に則して言い換えた現象 – 家庭用ゲーム機間に互換性がない る競争 z 「ハードとソフトの好循環」 – 複数の家庭用ゲーム機が併存している – 家庭用ゲーム機とゲームソフトが補完的関係にあり、(間接 的)ネットワーク外部性が働く – ゲームソフトから収益をあげるビジネスモデル – 「ハードとソフトの好循環」 (前述) 特定の家庭用ゲーム機の普及 →対応するゲームソフトの増大 →特定の家庭用ゲーム機の普及 – デファクト・スタンダードを獲得することが極め て重要 – デファクト・スタンダードを獲得するために、 – プラットフォーム・フォルダは「ハードとソフトの好循環」が働 「ハードとソフトの好循環」の実現を企図 いて、自社家庭用ゲーム機がデファクト・スタンダードにな ることを狙う 9 10 II-1. ゲームソフトの提供 II. ゲームソフトの 製品特性と製品開発 z z z ―消費者感性のシミュレート― プラットフォーム・フォルダもゲームソフトを開発、発売 1社の経営資源では、ユーザの多様な欲求に応えるこ とはほぼ不可能 プラットフォーム・フォルダは、「準クローズド・ポリシー」 (浅羽(1995)) を採用 – 家庭用ゲーム機は、自社で独占的に供給 – ゲームソフトは、契約を結んだ他社の開発、発売を許諾 z 11 100社以上が、ゲームソフトの開発、発売に特化して家 庭用ゲーム産業で活動 (=ゲームソフト(専業)企業) 12 2 II-3. ゲームソフトの製品特性 II-2. ゲームソフト企業の役割 z スクウェア・エニックス、ナムコ、コナミなどが 代表的企業 – 日本で、家庭用ゲーム産業が確立、成長した原 動力の1つが、ゲームソフト企業によって、優れた ゲームソフトが多数発売されたこと z 中心的な活動は、ゲームソフトの開発 z 多義的で曖昧なユーザのニーズ – 画像、音声、プログラム(アルゴリズム)が、一体となっ てユーザに訴求するエンターテイメント – 製品の評価は「面白い」という主観的評価 (他のエ ンターテイメントと同様) – 主観的評価が生じる理由の特定は困難 z ソフトウェアの技術的特性 – ゲームソフトの製造工程は高度に標準化 – ゲームソフトの流通は、プラットフォーム提供企業 – 再利用が容易 – 開発中の変更が容易 が関与 13 – 製造工程が高度に標準化 IIII-5. ゲームソフト開発を 成功させるために II-4.ゲームソフト開発の特徴 z 製品開発とは (Clark and Fujimoto (1991)など) – 「将来の消費パターンのシミュレーション」 z z z z 効果的なユーザ感性のシミュレートのために 製品とユーザの間のインターフェイスの統合性(外的一貫性) 製品に含まれる各要素の統合性(内的一貫性) – 内部に開発者を抱える企業と、外部の開発者を 「ユーザ感性のシミュレート」 z z 積極的に活用する企業 ゲームソフトは、画像と音声を通じて、ユーザの感性に訴求 ユーザ・ニーズは多義的で曖昧 z – 個々人の開発者が創意工夫を続け、「このようにしたら、 z 『面白い』のでは」というアイディアなどを盛り込む z 製品コンセプトの重要性 z z 14 内部に開発者を抱えることによるノウハウ蓄積 外部の開発者を利用することによる新しいアイディア、 要素の取り込み z 異なる要素を「まとめ上げる」ために 「一体となって」が求められるユーザ・ニーズ =「仮想世界にユーザを没入させる」ために必要 変更が容易なソフトウェアの技術特性 – リーダーの役割 – 製品コンセプトによって製品の一貫性(内的一貫性)を維持 – コンセプトの創造・維持・浸透 15 16 III-1. ゲームソフト産業の イノベーション III. ゲームソフト産業の イノベーション・パターン z 2つのイノベーション類型 – Abernathy and Clark (1985) の分類枠組みを踏まえて、 ゲームソフト産業に適用 z 創造的イノベーション z ―「開発生産性のディレンマ」― z 継承的イノベーション z 17 ゲームソフトという製品の可能性を広げ、「こんな楽しみ、ゲー ムがあったのか」という感慨をユーザに抱かせて、ゲームソフ トに対する認知の地平を広げた 創造的イノベーションが切り開いたゲームソフトに対する認知 や地平の範囲内で、さらにその完成度を高めた 18 3 III-3. ゲームソフト産業の イノベーション・パターン III-2. イノベーションの測定方法 z 比較的高い新奇性の実現 – シリーズ元製品 or シリーズ製品 – ジャンル初製品 or ジャンル後続製品 z 確立期 (1986年まで) – 創造的イノベーションが中心 z z 高い完成度の実現 – ミリオンセラーになり得たか z z シリーズ元製品が多数、中心 ジャンルの発生、確立が多数 継承期 (1987年以降) – 継承的イノベーションが中心 z プラットフォームの影響 – 家庭用ゲーム機発売後一定期間内に発売さ z z れた製品か – 対応する家庭用ゲーム機向けの初製品か シリーズ製品が多数、中心 新しいジャンルはほとんど発生せず – 1995年〜1997年は、「再活性化」の時期 z z プラットフォームで非常に画期的な技術が採用された 新しいシリーズ元製品が一時的に増加 19 III-4. イノベーション・パターンを 生じさせた要因 z z 20 III-5. 「開発生産性のディレンマ」 z 家庭用ゲーム機の性能向上 プラットフォーム・フォルダの施策 – 製品開発活動のパフォーマンス z 開発生産性 (cost)・・・製品開発に投入される資源と成果の比率 z 開発リードタイム (delivery) z 製品機能(設計品質 : quality)・・・ユーザに提供する便益、価値 – 製品開発において、効率性を向上(開発生産性の向上、開発リードタイ – 決定的とは言い難い要因?? z z ユーザの消費体験の蓄積 流通の隘路 ムの短縮)を進めると、製品機能の拡充が難しくなるのではないか – 影響を及ぼした可能性が高い要因 z 製品開発活動において、効率性向上と製品機能拡充が両立 し得ない現象 z ゲームソフト企業の製品開発活動における「開発 生産性のディレンマ」 – 根本的と考えられる要因?? ゲームソフト産業の場合 – – – – ゲームソフト企業が開発ノウハウを蓄積 製品開発の効率性向上が可能になり、実行 製品機能の拡充が滞る 産業全体として、新しい製品機能を備えた製品が現れにくくなる 21 22 IV-1. オンラインゲームの特徴 IV. 技術革新と コンテンツ産業 従来のゲーム ネットワーク接続 1人で楽しむ (映画型) 求められる要素 ゲーム性 (新奇性、面白さ) ゲームバランス コミュニティ 収益獲得方法 パッケージ販売 サービス課金 ユーザの楽しみ方 23 必要 競争、出会い、 顕示欲 他者と楽しむ (参加型) ユーザの目的 ―オンラインゲームのインパクト― 不要 オンラインゲーム 攻略 【野島(2002)から抜粋し、加筆】 24 4 IV-2. オンラインゲームと 家庭用ゲーム産業 IV-3. 破壊的イノベーションの衝撃 z z 顧客に提供する価値が異なる Christensen (1997)に忠実に従えば・・・ – 日本の家庭用ゲーム産業には過去の成功体験が存在 – ユーザの目的、楽しみ方が異なる z z 収益獲得方法が異なる z z 価格性能比が非常に高い専用機 プラットフォーム・フォルダの、ゲームソフトからの収入に依存するビジ ネスモデル ゲームソフト企業の、パッケージを「売り切る」ビジネスモデル – オンラインゲームにより、新しい顧客と価値連鎖が出現 z オンラインゲームが、家庭用ゲーム産業に – 日本のプラットフォーム・フォルダ、ゲームソフト企業は、過去 対する「破壊的イノベーション」(Christensen (1997))になる可能性 の成功体験ゆえにオンラインゲームに対応できない – オンラインゲームが開拓した新しい顧客と価値連鎖に対応し た韓国企業などが成長し、日本企業は衰退 25 26 IV-5. オンラインゲームが与える 衝撃の見通し IV-4. 家庭用ゲーム産業と 破壊的イノベーション z 家庭用ゲーム産業で生じる可能性がある事象 – 家庭用ゲーム産業では、複数のサブシステムが存在し、 一体となって価値を提供 z サブシステム・・・家庭用ゲーム機とゲームソフト – 破壊的イノベーションの段階的波及 z z 1つのサブシステムを提供する企業が破壊的イノベーションの衝 撃を「吸収」 もう1つのサブシステムとそれを提供する企業には、「吸収」され た衝撃が波及 – プラットフォーム(・フォルダ)の対応により、ゲームソフト (企業)に及ぶ影響が変化する可能性 27 28 V-1. ゲーム産業から学べること z 新しい技術を取り入れることによる、新しいエンタテ インメントの提供 – コンピュータ技術 – 半導体技術 V. 家庭用ゲーム産業の今後 z z z 高性能化 小型化 多機能化 – 通信技術 ―インタラクティブなエンターテイメントの可能性― z プラットフォームとコンテンツの相互補完性 z 個人の創造性と組織の開発活動の関係 – 「ハードとソフトの好循環」 – ゲームソフト開発の現場とその管理 29 30 5 V-2. 家庭用ゲーム産業に 求められていること z <参考文献> Abernathy, W. 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