礁購畷 囎 ・轟 窪 し 撫 趨i:藤 眈壽 通常の「まち」では住宅地の管理ということは意識にないのが普通であろう。道路や公園 などの公物の管理、消防、警察など安全にかかるサービスも行政によって受け持たれている。 電気、ガス、水道などは公益事業者によって管理されている。個人は自らの居住を、持ち家 の場合には財産として、借家の場合には契約によって確保している。子供の教育、高齢者の 介護なども企業か行政が、個別の契約によって引き受けている。個人(家族)と自治体、そ れに企業によって世の中は運営管理されているように見える。 しかしその内実を見ると、少子高齢化や情報手段の発達によるさまざまなひずみが世の中 に存在し、特に子供の教育、高齢者の生活等の分野において既存のシステムが十分機能しな い面が明らかになりつつある。地方分権、市町村合併など一連の小さな政府へ向けての努力、 民営化など市場機能の強化に加えNPOなどの役割が注目される所以である。また「地域」が 持っていた総合的な力を再評価する動きも大きなうねりになりつつある。「まち」の管理の意 味があらためて問われているともいえよう。 住宅地の管理ということを広く考えてみると、現実には少なくとも次の三つの主体が存在 していることがわかる。 一つは町内会、町会、自治会等とよばれる組織で、お祭りや消防団、公報の配布、赤十字 の寄付などの、行政の補完的役割をも引き受ける伝統的な地域単位がある。 二つ目はマンションの管理組合である。法人格の有無にかかわらず共有物である廊下、階段、 壁などの管理のルールを定めた管理規約をもつ。直接的な任務は財産管理であるが、それの みならず、生活上のサークル活動などもプロデュースする組合もある。小さなものは既存の 町内会の一部に組み込まれ、大きなものはそれ自体で町内会、自治会などを併せもったりする。 三つ目は計画的に開発された戸建て住宅地にある管理組合で、発生的には共有地や共有物 をもっていたり、植栽の共同管理をするために設けられたものである。立地が新市街地であ ることもあって、町内会、自治会などを兼ねたり、併設したりしながら地域の管理を行って いる。 この特集ではこの三つ目のタイプを取り上げ、その実態、課題、今後の方向などを探って みたい。 欝叢 欝 ない。今、出す必要はないのだけれど、目障 りだから、警察に電話しようかしら」 「それはちょっとかわいそうじゃない? あ 今までにいくつの戸建て住宅地を訪問した なたの家の車を出すときに、お向かいに『す だろうか。私の関心は、住宅地が出来上がっ みませんが車を少し動かして下さい』と言え た姿ではなく、その後の成長ぶりである。よ ばいいじゃないの? そういえば、ある住宅 い住宅地は完成時がもっともよいのではなく、 地で路上駐車の車には『○○に用事があって 時とともにますますよくなるものである。そ 行っています』というプレートを置くことに れは、見た目にわかることも多い。見た目で なっているらしいわ。これって便利じゃな もわかるということはそれを支える管理の仕 い?」 組みがしつかりしているということだ。よい さらに、こんな声も聞こえてくる。 管理は人々も住宅地も成長させる。 「隣の人に生垣と庭の手入れをしてもらう植 最近になってようやくそこに興味をもって 木屋さんを紹介してもらったの。我が家もい もらうことが多くなったようだ。まず、戸建 っしょにしてもらうことで割安になったわ」 て住宅地の管理とは何か。そこから考えてい 「みんなで使っている集会所を今度大規模修 こう。 繕することにしたの。ついでに増築もして使 いやすくなったわ」 「コモン広場に雑草が茂り、木も大きくなっ てしまったわ。今度みんなで手入れをして、 せっかくだからそのあとバーベキューパーテ ●管理とは ィでもしない?」 ある戸建て住宅地でこんなつぶやきが聞こ 「私たちの住宅地って、建築協定というのが えてくる。 あるらしいけれど、それって何? 家を増築 「隣の人が住宅を建替えたので、陽当たりが したらいけないの? 今度勉強会しない?」 悪くなった。とにかく圧迫感がある。日常生 活が暗くなってしまった。なにか人生まで暗 戸建て住宅地の管理とは、上記のような問 くなってしまったようだ」 題に取り組むことである。人々が地域で、安 また、別の住宅地ではこんな会話が聞こえ 全に、安心に、快適に居住できるように、地 てくる。 域で問題が発生しないように予防し、解消す 「お向かいの来客の車が我が家の目の前に置 る行為である。また、戸建て住宅地の管理と かれた。おかげで我が家の車を車庫から出せ は、住環境という「空間」と、そこでの「生 家とまちなみ48−2003.9 3 表1住環境の管理 側面 空間 私空間1 物的環境 維持管理b 運営管理。 iデイベロツプメント・コントロー扮 iメンテナンス) iマネジメント) iコミュニティライフ) Ia:土地利用、敷地規模、 Ib=住宅の修繕・リフォ 一ム、植栽・外構の 手入れ、留守管理 Ic:不動産の管理・賃貸・ Id:物の宅配やレンタル などの生活の共同化 Hb:共有・共用施設の清 Hc:共用施設(集会所な 建物の用途・形態・ 意匠のコントロール 共空間II 非物的環境 開発管理a Ha:共有・共用施設の建 設・計画づくり 売買のコントロール、 公租公課財産管理 掃・修繕 ど)の運営 生活管理d ・共同化行為 Hd/皿d= 地域の情報提供、防 火・防災防犯対策、 公空間lll ma:道路・公園などの公 共施設・公益施設づ 褐ン扶助、レクリェ 皿b:公園・道路の清掃・ 皿c:公共施設・公益施設 修繕 の運営 くり・整備 一ション、地域文化 づくり、ペット飼育 ・迷惑駐車対策、高 齢化対策 活」の対応関係を、住み手自身がつくり続け 要性を、また、さまざまな少年犯罪などの予 る行為である。そのため、行為の対象は、空 防でも、私たちは地域による防犯活動の必要 間そのものを対象とする場合と、そうではな 性を再認識した(表1/Id∼1皿d〈生活管理機 いものを対象とする場合がある。 能〉)。 戸建て住宅地で、最も悩みの多い問題とは、 ●管理の四つの側面 第一は路上駐車、第二はペットの飼育であり、 戸建て住宅地に限らないが、住環境を管理 マンションの場合とも似ている。こうした問 する場合には、大きく四つの側面がある。 題の発生を予防、解消することも快適な生活 第一の側面は、空間の劣化や陳腐化に対応 に大きな影響を与える。 し、維持管理を行うのが維持管理(メンテナ ンス)である。 たとえば、岐阜県のある戸建て住宅地では、 自治会で地域の空き宅地を地主から借り、駐 第二の側面は、個と個のぶつかり合いを予 車場として運営をしている。また、路上駐車 防するための調整管理をする、開発管理(デ の実態調査を行い、路上駐車禁止のキャンペ ィベロップメント・コントロール)である。 ーンの実施、さらに消防車で実際に住宅地内 第三の側面が、その空間で営まれる生活行 の道を走行してもらい、路上駐車のために通 為を対象に行うのが生活管理(コミュニティ 行できないところにはマイクでアナウンスす ライフ)である。 る。迷惑駐車の張り紙による警告、さらには、 第四の側面が、施設の運営や組織の運営な 各家の駐車場増設マニュアルの作成、バスダ ど、上記三側面を統括する運営管理(マネジ イヤの改善の交渉まで行っている。このよう メント)である。 にいかに問題を発生させないか、また個人レ このように、住宅地の管理は、居住者自身 ベルで解決が難しい問題が発生した場合は地 が個と個を調整しながら、全体を統括し、個 域の問題として取り組んでいる。禁止や規制 の力を誘発し、さらなる全体の価値をつくり のみでなく、誘導を組み合わせた、総合的対 続ける行為である(表1)。 応がなされている。 ●公共空間の維持管理 最近では、公共空間・施設の開発および維 持管理・運営管理における行政との協働があ る。たとえば、居住者が公園の計画から係わ 上記の四つの側面を持ちながら、戸建て住 り、完成後の管理を行う等がある。居住者が 宅地の管理にはいくつかの項目がある。 計画に係わることで、使い手の要求に合った ●生活管理 ものができ、行き届いた管理が効率よく実践 従来から地域社会に求められている機能と される。 して、防犯・防災活動、相互扶助・生活の助 公園の管理だけでなく、公民館の管理、河 け合い、レクリエーション・コミュニティ活 川の管理、道路の植栽管理など多様な形態が 動・地域の文化づくり、地域に密着した情報 みられる(表1/皿abc〈行政との協働機能〉)。 提供等がある。たとえば、阪神・淡路大震災 は人々の助け合い・地域に密着した情報の必 4 家とまちなみ48−2003.9 図1コモンスペース の空間構成 C,タイプ b.タイプ a.タイプ a.ボンエルフ道路 b.袋小路・人のみ f。タイプ e.タイプ d.タイプ C.袋小路・行き止まり 齊藤広子 (さいとう・ひろこ) 難 明海大学不動産学部助教 難離 轄 授。1960年大阪生まれ。 1 筑波大学第三学群社会工学 類で都市計画を学ぶ。卒業 d.緑道 9。タイプ e。道広場・通り抜け f.道広場・人のみ 後、2年間民間の不動産会 社に勤務。その後、大阪市 h.タイプ i.タイプ 立大学大学院生活科学研究 科修了。学術博士。戸建て 住宅地の新しい管理システ g.道広場・行き止まり □公道 ム、管理から計画へのフィ 國コモンスペース ードバック、集合住宅、マ ンションの管理などを研 h.広場・車進入可 i.広場・車進入不可 究。著書:『入門マンショ ン管理』大成出版社『分譲 マンションの管理』彰国社 目には、コモンライフの実現のためのコモン など。 施設である。そして、空間だけでなく、地域 にはもっとコモンがある。それが五つ目の地 以上の一般的な管理は、多くの住宅地でみ 域の価値・文化である。 られる。また、どのような住宅地でもやろう コモンは、その地区の美しい街並み・景観 と思えばできる。しかし、最近では、もっと 形成、安全性、防犯性、利便性、そして文化 積極的な管理が実践されている。つまり、先 性や歴史性を高める。つまり、地域で大切に ほどの会話やつぶやきをしっかりと踏まえた、 思い、守り育てるものが、地域のコモンであ 新たな展開がみられる。コモンの管理、デザ る。なかでも、コモンスペースに注目すると、 インコントロール、利便性の向上などである。 道としてつくる場合や、広場や公園、共同の その様子をみてみよう。 駐車場などの場合がある。コモンスペースの 戸建て住宅地で多様なコモンがつくられ、 ある全国の152住宅地を調べたところ、組み その管理を行うようになってきた。もちろん、 合わせとして35パターンがあった。 従来から、地域のごみ置き場の清掃、集会所 コモンスペースの用途は、主に「道」と の運営、街灯の維持等があるが、戸建て住宅 「広場」である。そこでこの二つの用途および 地でコモンを共有でつくることが増え、こう 空間構成の排除性(だれでも通れるのか、通 した皆で使う空間の管理機能への期待が高ま り抜けができるのか)を考慮してタイプを設 っている(表1/Habc〈空間管理機能〉)。 定してみた(図1)。 コモンは、今までと違った戸建て住宅地を 道のコモン化には、道路を積極的に非線形 実現している。戸建て住宅地でどのようなコ にし、通過交通を少なくし、コモンスペース モンがあるのだろうか。 的利用を促進している「ボンエルフ道路(歩 コモンとは、空間的にみると、一つには、 車共存道路)」と「袋小路道路(クルドサック)」、 共同住宅の共用部分のように、地域のある特 歩行者専用道路を設けた「緑道(フットパス)」 定の複数の居住者により利用される共同利用 がある。袋小路道路には行き止まりの場合と、 の空間(コモンスペース)である。二つ目に 人のみが通り抜けできる場合がある。 は、公的な利用と私的な利用の間を緩衝して 道と広場の用途を兼用しているコモンスペ いる中間的な空間である。三つ目には、利用 ースには、「アプローチ広場」がある。道路か 面だけでなく、住宅地の景観を構成するとい らアプローチ広場的なものを通り、私有宅地 った視覚的な地域のコモン空間である。四つ に入る。道路から直接住宅には入れないタイ 家とまちなみ48−2003,9 5 *1 建築協定 れている。コモンを通じて、人々は、地域に 建築基準法第4章69条に基づき、市町村の一部区域において、土地所有者などの 関心を持ち、コミュニティを形成するきっか 全員の合意によって「建築物の敷地、位置、構造、用途、形態、意匠又は建築設 けとなっている。 備に関する基準についての協定」を締結することができる。建築協定の締結には 市町村条例であらかじめ協定締結が可能であることを定めておく必要があり、特 定行政庁(建築主事をおく市町村の長または知事)の認可をうける必要がある。 計画的戸建て住宅地では開発事業者が一人協定というかたちで設定することが多 く、既成市街地ではワンルームマンションの建設を阻止する等のために協定の締 結がみられる。 ●建築協定や地区計画 街並みを意識した住宅地も増えてきた。街 *2 地区計画 都市計画法12条5に基づき、 「建築物の建築形態、公共施設その他の施設の配置 並みだけでなく、隣接住宅の建替えに伴い、 などから見て、一体としてそれぞれの区域にふさわしい態様を備えた良好な環境 工事騒音・振動の影響を受ける、景観を乱す の各街区を整備し、および保全するための計画」を行政が定める。地区計画は、 人がいる。法律に違反しないが、高さや壁面 「方針の地区計画」と「地区整備計画」からなる。昭和55年に都市計画法と建築 基準法の一部改正により創設された。用途地域規制に規制強化する原則型と、緩 後退の不足から圧迫感を感じるなど、市場に 和型がある。 任せていると住環境の悪化を阻止できず、行 政も関与できない部分の調整を行い、より高 い質の物的住環境を創出することが必要であ 表2分五時の管理ルールの設定の比率 る。具体的には、建築協定の締結・運用など (全国152の戸建て住宅地調査) がある(表1/Iabc〈利害調節自治機能〉)。 地区計画 38% 建築協定 58% 緑地協定 21% くってみたら、そのなかの6割の住宅地に まちづくり協定・憲章 14% 「建築協定」*1があり、「地区計画」*2がある その他の協定 8% 1住宅地に複数設定あり 私の研究室で魅力のある住宅地リストをつ ものは4割であった。また、法に基づかない ルールである「街づくり協定」、そのほか「緑 プである。その広場を車が通過できる場合、 地協定」などもある(表2)。 人だけが通過できる場合、行き止まりの場合 内容は、最低敷地規模を決め、敷地分割の がある。駐車場機能を持たせたものが多い。 禁止、戸建て住宅のみという用途制限、敷地 つまり、「駐車場コモン」である。 境界線から1m以上の壁面位置の後退、高さ 広場コモンには、車が進入できるものとで に、けばけばしいものをつくってはならない に配置されているものから、部分的にしか配 という色彩のことや、垣や柵は生垣にするこ 置されていないものがある。 と、緑化の推進などが決められている。 各住宅地では一つの手法のみでコモン化が 6 を10mまたは2階までとする高さ制限、さら きないものがある。また、広場の配置も全体 建築協定の締結も大変である。さらに、そ 図られているわけではない。なかには2∼3 の運営も大変である。協定内容を違反しない の手法を混成している場合もある。 ように事前チェック、事後チェックが必要で また、コモンスペースは所有形態で見ると、 ある。ルールをつくることも大変であるが、 共有である場合、公有である場合、私有と公 守ることもエネルギーが要る。このように建 有の組み合わせなど、さまざまである。 築協定や地区計画を決めると、居住者にとっ さらに、生垣などの外構も広い意味でコモ ては個人の自由を奪うことになるかもしれな ンである。コモン施設として、コミュニティ い。不動産は自由な方が評価は高いと思われ フォーラム、コミュニティホール、コミュニ るかもしれないが、最近では、良好な住環境 ティハウス、コミュニティセンター、コモン が維持されていることが経済的にも評価され ハウス、センターハウス、クラブハウスなど。 る傾向が出てきた。 こうした施設には、共同浴場や茶室、卓球室、 ●ルールについての居住者の評価 マージャン室、ショートステイ用の部屋など 最近建築協定や地区計画が増えてきている がある。集会をするための施設だけでなく、 が、本当にこういつたルールは効果があるの その他にも、ゴルフ場やテニスコート、スポ だろうか。そして、居住者はこうしたルール ーツセンターなどのスポーツ施設、またレク をどう思っているのか。 リェーション施設も充実してきている。 私の研究室の調査では、居住者で、購入時 このようなさまざまなコモンを維持し、運 に協定を「良いと思った」人は62.8%、それ 営することが必要となり、多様な形で実践さ から現在の評価は、「良いと思う」人が73.1% 家とまちなみ48 2003.9 となり、評価は上がっている。概ね、どの住 宅地でも居住者の評価は上がる(図2)。 もし購入時に、協定があることに戸惑って も、そのお蔭で自分の住環境も守られるのだ ということを、住んでから実感するためであ る。今後、この数字はもっと上がると思われ 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100(%) ■良いと思う(思った) [=コ良くないと思う(思った) ■國何も思わない(思わなかった) 囲その他 る。しかし、現段階においては「良くない」 と思う人も確かにいる。また、自分の住宅地 図2地区計画・建築協定の評価購入時と現在の評価(全体) の街並みを評価している人ほど、ルールがあ ることを高く評価している(図3)。 ●ルールは効果があるのか では、本当にルールがあれば、効果がある のだろうか。もちろん効果はある。住宅地を いろいろ見てきたが、居住者はルールがあれ ば、そのルールを守らなければいけない、守 ろうという気持ちが働くようである。こうい つたルールがある住宅地では、居住者は「な にか知らないけれど、うちの住宅地は緑化の 促進とか、いい住宅地にしょうということに 積極的な住宅地なのだ」ということを理解し、 ルールで決まっていないことでも積極的にな 地区計画・建築協定の評価 ■良いと思う [コ良くないと思う ■囲何も思わない 躍その他 る。たとえば、花や緑を門まわりにいっぱい 飾るなど、街並みに貢献する態度が生まれて 図3街並みの評価別にみた地区計画・建築協定の評価 くる。 「今の美しい街並みをこれからもみんなで守 っていこう」ということには協定などは非常 に効果があるが、何もない更地や、目標のイ メージが見えないところでは、なかなか効果 快適で、居住性・利便性の高い住環境創出 は出てこない。ルールとは、単なる規制では のための、サービスの共同や協同化もよく行 なく、その街の目標のイメージを共有し、か われるようになってきた。たとえば、住宅の つそれを実現するものでもある。 修繕や植栽の手入れを共同発注すること、宅 ●難しいけれど、大切な運営 配サービス、高齢者福祉サービス等がある 建築協定制度ができる以前から、こうした (表1/Ibcd〈利便性向上機能〉)。 私有空間のコントロールからよい街をつくろ 植栽の手入れを一緒に行う、といった居住 うという取り組みは見られた。東京大田区の 者どうしの自主的な取り組みもあるが、地域 田園調布もそうであった。しかし、ルールが で植栽組合をつくり、共同発注により、住宅 あるからといって決して、よい街ができるわ 地の住環境水準も維持している例もある。一 けではない。協定の運営も重要である。 方では、生活管理機能が広がり、コミュニテ 協定があっても、その内容を実行するため ィセンター、カルチャークラブやクラブハウ に、さらに詳細な運営規定やガイドラインを スの運営、こうした住むことのテーマを共有 つくっている事例もある。神奈川県逗子市の しようという取り組みも見られる。 披露山庭園住宅では、以前は専門家を雇用し、 これら、コモンの管理、デザインコントロ きびしいチェックや指導を行っていたという ールや、利便性向上といった積極的取り組み (『家とまちなみ』39号、46号参照)。いかに は、居住者による自然発生的、自発的なもの ルールをつくり、それを実践するのか、やは よりも、現在は供給時に開発事業者に設定さ りその基本は、よい住環境をいっしょにつく れたことから、実践されていることが多い。 りたいというコモン・マインドである。 家とまちなみ48−2003.9 7 表3分譲時に設定された管理方法(全国150戸建て住宅地 を対象に謂査) iケース数 @ i管理会社委託タイプ 97 R6 @ i分譲会社支援タイプ R n.無組織型 i管理会社無指定タイプ @ i管理会社設定タイプ ⋮i 1 3 6 型 iタイプ 1.居住者組織型i自主タイプ 管理とは、住み手によって守り育てる行為 である。守り、育てるものがその住宅地の i 8 @ 6 τ4 「コモン」である。戸建て住宅地で管理を実践 す.るには、最低二つのものがいる。一つが先 に示した管理のルールであり、そして、もう *3 HOA(ホームオーナーズ・アソシエーション) 一つが管理組織である。コモンを育てるため HOA(Homeowners Association)とは、アメリカにおける住み手が全員参加 には住み手主体の組織が必要である。みんな し財産管理から生活管理までを担う組織である。アメリカでは1844年に成立し ていたとの記録があるが、本格的な普及は1960年代後半以降のPUD(Planned の共通の価値や目標を持ち、それに向かわせ Unlt Development)開発や約款普及の影響が大きい。 PUD開発住宅地では、一 る具体的な方法がルールである。管理の実践 つのコミュニティ形成を前提とし、さまざまな共用施設がある。そのため、施設 の管理等にHOAが必要不可欠となる。 HOAが自治体のすべき公共サービス(道 には、組織、ルールは必修で、そのための費 路の維持管理、照明や街路樹の管理、清掃、ゴミ処理など)を引き受けることを 用や体制を整え、専門家の支援も必要となる。 開発許可条件とする自治体も出てくる。また、PUDの開発等には約款が必要とな 戸建て住宅地では、開発事業者が販売時に、 り、その運営にもHOAが必要である。こうして特色のある住宅地開発を意図する 開発事業者、財政的メリットのある地方自治体、そして適切な維持管理により不 管理のための組織を設定するケースが増えて 動産価値の維持・向上が可能となる住宅購入者・居住者、この三者にとって共に いる。そこで次に管理のもっとも中心となる、 魅力があるHOA制度が普及する。 管理組織についてみよう。 ■全員参加型居住者組織 戸建て住宅地の管理方法は大きく分けて二 表4全員参加型居住者組織の名称と根拠法 7 1 81 37 72 タイプ iケース数 町内会・自治会 管理組合・団地管理組合(根拠法なし) 管理組合・団地管理組合(区分所有法に基づく)i 管理組合法人(区分所有法に基づく) その他 1 ’表3の居住者組織型136住宅地のうち、二つの組織があるのは16地 域、三つの組織は丁地域 つある。組織型と無組織型である(表3)。 組織型とは、アメリカのHOA(ホーム摩可 ナーズ・アソシエーション)*3のように、全 居住者または宅地所有者等で組織を構成する もので、居住者組織が結成されるが、実質的 な管理業務は管理会社に委託するタイプや、 構成員を居住者等に限定せず開発事業者も含 めるタイプもある。 表5全員参加型居住者組織の役割 無組織型とは、居住者組織を特に結成せず、 機能タイプ役割(複数回答) ケース数 A:生活管理機能 i①地域のサービスや情報、文化・教育の場の提供 19 B:空間管縢 全居住者または宅地所有者等は管理費を管理 会社に支払い、住環境管理に参加する。管理 f撚灘謙耀請糠施設)の維持…ll i④コモンスペース維持 84 i⑤共有物・共用物の維持管理 89 i⑥共有物の所有 1 会社があらかじめ設定されている場合(専門 管理会社型)は、共用施設の管理と、各家の 植栽の管理や、別荘地や高齢者用住宅地など、 C:行政との協働機能i⑦行政と協定の締結 6 D:利害調整機能 i⑧協定の運営などデザインコントロール 37 個別住宅にサービスを提供する住宅地でみら れる。一方、管理会社が特に設定されず、費 E:利便性向上機能 i⑨専有部分の共同管理 15 用徴収のみする場合は、汚水処理施設や CAW施設の維持管理費用が必要な場合であ A:コモンライフ型(表5の①が中心) B−1:生活施設管理型(表5の②③が中心) B−2:コモン施設管理型(表5の⑤が中心) B−3=共有地管理型(表5の④が中心) D:協定運営型(表5の⑧が中心) E=緑化管理型(表5の⑨が中心) 総合型(A+DまたはA+E) 総合型(B−1+D) 総合型(B−2+DまたはB−2+E) 総合型(B−3+DまたはB−3+E) 8 家とまちなみ48 2003.9 9 2 9 13 2 321 2 8 5 5 表6居住者組織の機能(全体136住宅地のうちτ45組織) る。 全員参加型の居住者組織は、自治会・町内 会、管理組合、団地管理組合、団地管理組合 法人がある。管理組合とよんでいても、根拠 法をもつものとそうでないものがある。多く の場合は根拠法がない。いわゆる任意の団体 である。なかには、区分所有法の団地管理規 定を準用し、管理組合を結成し、法人格を所 有している場合もある(表4)。 ●全員参加型居住者組織の機能 全員参加型居住者組織は、なぜ設定される のか。どんな機能を持つのか。アメリカの HOAで見られた項目をベースに整理してみよ う(表5)。 「A:生活管理機能」は、一般的な地区では 自治会等で実施されるが、より積極的な地域 の情報サービスの提供、文化教育の場の提供 として、クラブハウスやカルチャークラブの 運営、スポーツクラブの加入、文化交流等を 行う。こうした機能を中心に行う場合がコモ ンライフ型である(表6)。 「B:空間管理機能」で、最も消極的な場合 表7新組織型の事例 ●事例1:緑園都市 神奈川県横浜市・1986年入居開始・約5000戸 「緑園都市コミュニティ協会」(RCA)。他に自治会がある。 目 的:良好な住環境を維持するために、日本型HOAを目指した組織運営・管理 構成員:居住世帯・店舗事業者・開発業者、不動産所有者は準組合員 会費:200円/月・戸 ●事例2:竜ケ崎ニュータウンの新世紀邑 千葉県龍ヶ崎市・1996年入居開始・170戸 竜ヶ崎コミュニティカルチャークラブ(RCCC) 目 的:まちづくり憲章に基づき、住民相互の親睦を図り、美しく快適な環境 を整備し資産の維持管理 構成員:正会員は自治会の会員(居住者)。建物を所有または居住するもの は、生活上必要な施設(汚水処理施設等)の 特別会員:開発事業者+ハウスメーカー(住宅建設会社) 維持だけであるが、そのほかには集会所や 会費:1350円/月・戸 CATV施設の維持、コモンスペース(土地共 ●事例3=季美の森 有)と共有物の維持、土地や施設を行政移管 千葉県東金市・1986年入居開始・2650戸 オーナーズクラブ した場合に、それらの管理を地域で行う等が 目 的:住民相互の親睦のためのスポーツ・文化活動、環境美化 ある。近年、道路や公園・広場の多様化、駐 車場の共同化からコモンスペースがつくられ、 構成員:土地所有者、地域が2っの市にまたがり、自治会が2つにわかれるため、 それを統括し全員でスポーツクラブの会員になる 会費=10,000円/2カ月・戸 共用施設もテニスコートやフラフープァクト リー等、多様化している。そのため、土地や 施設の行政移管に拘わらず、地域で管理する えてきているのである。 必要性が高まっている。また、共用空間や施 ●新組翁忌(コモンライフ+デザインコント 設等を共有で持つことの不安定さから、HOA ロール機能をもつ総合型やコモンライフ型) と同様に組合所有とする事例もでている 従来あまり見られなかった新しいタイプの (例:大分パークシティ〈『家とまちなみ』47 組織も登場してきている(表7)。 号〉)。 アメリカのHOAを意識した新型組織であ 汚水処理施設や集会所、CATV施設等の生 る。わが国の場合では、表5の「①地域のサ 活上必要な施設を管理することが中心の場合 ービスや情報、文化・教育の場の提供」と (表5/②③が中心、表6/B−1:生活施設管 「⑧協定の運営などデザインコントロール」の 理型)と、コモンスペースの土地は移管する 機能をもつ。 が、その上物をみんなで所有し管理するコモ 事例1/緑園都市も、事例2/竜ケ崎ニュー ン施設管理型(表5/⑤が中心、表6/B−2) タウンの新世紀邑(むら)も(写真1)、アメ と、コモンスペースの土地およびその上物を リカのHOAを意識している(緑園都市は別 みんなで所有し管理する共有地管理型(表 稿参照)。 5/④が中心、表6/B−3)がある。 事例2は、新しい郊外生活を実現する住環 「C:行政との協働機能」は、主に共用物や 境と住まい、暮らしづくりをコンセプトとし、 コモンスペースは移管するが、その管理を居 住者で行うことを行政と協定で締結する、あ るいは公園の管理を居住者組織で行う等があ る。 「D:利害調整機能」とは、建築協定や緑化 協定、まちづくり協定などの運営である。協 定運営型(表5の⑧が中心、表6/D)があ る。 「E:利便性向上機能」とは、生垣や私有空 間の手入れの共同化で、緑化管理型(表5の 一\ ⑧が中心、表6/E)がある。 アメリカのHOAの主要な機能である、豊 かなコモンスペースやコモン施設をもち、そ れを維持する〈空間管理機能〉と、協定運営等 く利害調節自治機能〉をもつ組織が日本でも増 写真1 竜ヶ崎ニュータウン新世紀邑(千葉県竜ヶ崎市)。アメリカのト10Aを参考にした活動を続 ける 家とまちなみ48 20039 9 表8初期設定における開発事業者・管理会社の管理支援 項目 a.コミュニティサービス 割合 る住宅地の中で、私たちの調査では、概ね三 分の一ほどあった。その役割は、全体支援型 b.共用施設の運営管理・維持管理 26.7% 82.2% (fを含み、表8のabcdeの業務を行う)、組合 。,公共空間の維持管理 … 1u%「 支援型(fのみ)、施設管理型(bが中心)、サ d.専有空間の維持管理 15.6% e,協定運営のサポート ービス提供型(adが中心)がある。 8.9% f.管理組合等の運営サポート 57.8% 複数機能をもつケースが多い。サンプル45住宅地 生活管理のなかでも文化・教育機能、設 備・施設の管理機能がある場合に管理会社委 託が多くなる。しかし入居後次第に会社支援 居住者はコミュニティ協会に入会し、趣味を を離れ、組織が自立する傾向もみられる。 通じての交流施設としてコミュニティカルチ ●管理会社の仕事 ャークラブを運営する。クラブハウスの前に 管理会社の具体的な仕事をみよう。 は広いみんなの農園が広がり、隣の農家の人 北海道の広大な大地に広がるスウェーデン が作物の作り方を教えてくれる。住むことの ヒルズ。私の友人の何人かは日本で一番好き テーマを共有しようというコモンである。し な住宅地に挙げる。スウェーデンの美しい街 かし、正直うまくいっていないようだ。現地 並みと、文化交流を図るためにつくられたこ で見た限りではクラブハウスも全く使われて の住宅地は、建築協定をしっかり運用してい いない。たしかに、農園の看板も「市民農園」 るため、魅力ある街並みをつくっている(写 にかわっていた。 真3、4)。 こうして、居住者は、費用対効果を常に考 この街のマネジメントの大きな特長は、一 え、費用削減や組織再編を行っていることも つは「街全体の街並みを皆で共有し、建築協 事実である。全国でなくなってしまった組織 定を守る」ということである。二つ目は、「町 も少なくない。 内会を通じてのコミュニティ活動と文化の交 事例3は、ゴルフ場を囲んだ住宅地として 流」である。三つ目が、「より質の高い住環境 有名である(写真2)。 のマネジメントは住民で負担する」というこ とである。 管理センターの仕事は多様である。町内会 は、街なかの花壇の手入れや、年4回の会報 の発行など忙しいので、その事務的なサポー これだけのマネジメントは、なかなか居住 トがある。別荘として利用している人もいる 者だけではやっていけない。そこで、住宅地 ので、個別の希望者への有料サービスとして、 の管理上専門性の高い設備や施設の維持やサ 建物の鍵の保管・貸し借り、防犯のための見 ービス提供のために、管理会社が分譲当初か 回り、不在時の関係先対応、室内清掃、リネ ら設定され、サポートする事例も増えてきて ンサービス、冬場の除雪、雑草の手入れ、建 いる(表8)。 物メンテナンス、庭園管理、食事出前サービ ●分譲会社や管理会社のサポート スなどもある。さらに、建築協定運営のサポ 管理会社が設定されている事例は、魅力あ ート、公共空間の管理である。もちろん、こ れらは入札でとり、町からの委託となる。し かし、それに任せただけでは街を常にきれい に維持できない。町の委託では、清掃はせい ぜい年1∼2回である。そこで、さらに清掃回 数を増やしている。これは住民負担である。 テニスコートの受付もセンターの仕事である。 居住者は年間6万円を環境維持管理費として 支払っている。 仙台市の泉パークタウンには、泉パークシ ティという管理会社がある。このスタッフは 100名ほどいるのか、その多さに正直驚いた。 街全体のマネジメントスタッフである。開発 計画では全体でマンションや戸建て住宅 写真2季美の森(千葉県東金市)。スポーツクラブによる活動にも積極的 10 家とまちなみ48∼2003.9 13,700戸の街。会員制のゴルフ場・スポーツ 組 曝露 雛1 繍鼠灘. 漁畿雛熈贈 写真3スウェーデンヒルズ(北海道当別町)。スウェーデンの町並みを町並み 写真4スウェーデンヒルズ(北海道当別町) ガーデンもある(写真5)。 ここでの管理会社の仕事も多様である。各 家のホームドクターとなり、住宅の点検を行 い、修繕計画を立案する。またこの街の一部 よい管理はよい住宅地へと成長させる。さ の戸建てエリアは植栽管理組合をつくってい らによい管理は人々も成長させる。コミュニ る。管理組合から委託を受けて外構の論定・ ティの形成や人々の自発的な街並み形成態度 消毒・施肥などを行う。植栽管理組合の管理 を誘発する。さらには、こうした態度がより 費は月1件当たり1500円である。 一層共同管理を円滑にする。こうした管理に その他、街の顔になっている幹線道路両側 よる住宅地づくりは住み手が行うものである。 の緑地や花壇の手入れなど。さらには、街の しかし、放っておいて自然に育つものではな 店舗のテナント管理、そして、居住者への生 い。それを促進し、ベクトルの方向を決める, 活サービスの提供である。旅行の手配や不動 のが、はじめの住宅地のつくり方と管理方法 産の仲介など、生活に身近なサービスを行う。 の初期設定である。 まさしく管理会社の仕事も多様化している。 ベクトルの方向転換はエネルギーがいり、 空間側の要求、人々の生活からの要求など、 なかなか困難ではある。ゆえに、初期設定は これからは、もっと多様なケースが生まれる 重要な方向を示すことになる。そこで、住宅 だろう。高齢者居住の支援サービスや、安全 地をつくり、供給する者の責任は重い。 サービス、文化サービスなど、既に新しいい 時が経てば経つほどよい住宅地になる。成 くつかの芽が吹き出している。 熟社会といわれるいまこそ、私たちはそのこ とに本当にチャレンジする必要があるだろう。 写真5泉パークタウン(宮城県仙台市)。幅広いサービスを目指した管理が注目される 家とまちなみ48−20039 11
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