なぜOSをアップグレードするのか

なぜOSをアップグレードするのか
Windows 7の導入検討
2009 年 10 月 22 日に Microsoft 社の新OSである Windows7 が発売された。前版の Windows Vista が
登場してから 3 年しか経っていないが、多くの雑誌や Web ページで Windows7 の新機能紹介や、
Windows7 にアップグレードすべきかの評価が掲載されている。近年の OS は既に高機能であるため、新
たな OS が販売されてもアップグレードを行う必要性をあまり感じないという声も聞かれる。そこで本レポ
ートでは、「なぜ OS をアップグレードしなくてはならないのか?」という素朴な疑問から、OS のアップグレ
ードが必要となる状況を再度整理し、レポートしたい。
Mac OS
マックオーエス。米 Apple
社のパソコンMacintoshシ
リーズに搭載されている
基本ソフト。直感的で洗練
された操作性には定評が
あり、デザインやマルチメ
ディア(ビデオやグラフィッ
クスなど)に関する質の高
いアプリケーションソフト
が 豊富に 揃っ て い る た
め、出版・映像業界での
人気が高い。
Linux
リナックス。1991 年にフィ
ンランドのヘルシンキ大
学の大学院生によって開
発された基本ソフト。その
後フリーソフトウェアとし
て公開され、全世界のボ
ランティアの開発者によっ
て 改良が 重ね ら れ た 。
Linux はインターネット用
サーバーとしても多く採用
されている。最近ではデ
ジタル家電や携帯電話な
ど組み込み型コンピュー
ターのOSとしても普及し
始めている。
TRONプロジェクト
(The Real-time Operating
system Nucleus)
トロンプロジェクト。理想
的なコンピューターアー
キテクチャの構築を目指
して、1984 年に東京大学
の坂村健氏が始めたプロ
ジェクト。このプロジェクト
で開発した日本発の組込
み型OS「ITRON」は、 デ
ジタル家電や携帯電話、
自動車のエンジン制御な
ど数多くの工業製品に広
く普及している。組み込み
型コンピューターのOSと
しては、世界最大のシェ
アを保持している。
JBT Report Vol.12 1
なお、本レポートは主にパソコン用のOSである Microsoft 社 Windows を前提としている。
OSとは Operating System の頭文字である。基
は、代表的なものに産業機器やデジタル家電、
本ソフトと訳され、パソコン(PC)の動きを総合的
携帯電話などに内蔵されている小型コンピュー
に管理する制御ソフトである。OSは、PCの電
ターを制御する組み込み型OSがある。世界で
源を入れると、自動的に起動し、PCに接続され
最も利用されている組み込み型OSは、日本が
ているディスプレイ、キーボード、マウスなどの
産学協同の TRON プロジェクトで開発した
ハードウェアを検知して使用できるようにする。
ITRON(アイトロン)である。この他にゲーム機向
OSは、起動が完了するとユーザーからの指示
けのOSなどがある。
を待つ。指示内容は表計算ソフトやインターネ
ット閲覧ソフトの起動、ファイルのコピーなど
Ⅱ OSの歴史と今後の展望
様々である。これらのアプリケーションソフト(以
1.OSの歴史
下、「ソフト」と言う)は、原則、特定のOS上で動
くよう設計されている(図1参照)。
であったが、1970 年以降コンピューターの小型
図1 OSとア プリ ケーシ ョンソフト・ ハードウェア の関係
ア プリ ケーシ ョンソフト
( 業務用ソ フ ト、
OSは 1960 年代までは大型コンピューター用
導入・削除
可能
表計算ソ フ ト 等)
化に合わせて様々なOSが登場してきた。1980
年代以降は、PCにもより高度な機能が求めら
れるようになり、OSも進化してきた。現時点では
Microsoft 社の Windows OS が、世界中のコンピ
ューターの約 91%というシェアを占めている(図2
OS
ハードウェア
( デ ィスプ レイ、キ ー ボー ド 、
マウス、プ リン タ等)
参照)。
交換・追加
可能
Ⅰ OSの種類
PC用のOSには Windows 以外にも Mac OS、
Linux などがある。PC用以外のOSの種類として
図2 OSのシ ェア ( 2 0 1 0 年3 月時点)
出所:Net Applications社ホームページ
Google がOS市場に参入
インターネット検察サービ
ス大手である米 Google 社
は 、 Google Chrome OS
(グーグル クローム オ
ーエス)と呼ぶ基本ソフト
を開発している。Linux を
基にしており、すべての
アプリケーションはウェブ
アプリケーションという形
で Chrome OS 上で実行さ
れる。Chrome OS は無料
で提供されるが、ユーザ
ーが自由に入手して好き
なハードウェアにインスト
ールすることはできず、メ
ーカーからハードウェア
に 組込ま れ て 出荷さ れ
る。現時点では、ネットブ
ックにインストールした状
態で出荷される計画。
マクロ
ワープロや表計算などの
ソフトで、特定の操作手順
をプログラムとして記述し
自動化する機能。プログ
ラムを記述する言語をマ
クロ言語という。
2.今後のOSの展望
しているかも確認する。Excelなど、マクロを組
OSはこれまで利用者の様々なニーズに対応
んでいるソフトをバージョンアップする際には、
するため、高度化、多機能化してきた。このため
ソフトのバージョンアップやプリンター等の更新
操作が複雑になり、使い勝手や処理速度面で
により、マクロの非互換が発生し、使用できなく
の課題も指摘されている。そこで昨今では、「シ
なることがある。マクロの修正が必要になるため、
ンプルなOS」が求められるようになり、
バージョンアップ前の検証が必要だ。
Windows7 でもこの部分の改良を図っている。
2010 年後半には Google がOS市場に参入す
③保守サポートの期限切れ
る。ビジネス利用ではなく一般利用をターゲット
一般的に周辺機器やソフトにはメーカーのサ
として機能を絞り、7 秒以下でOSを起動し、「テ
ポート期間が定められている。Microsoft 社のサ
レビのスイッチを入れるような感覚でウェブを利
ービス期間は図3のようなライフサイクルで構成
用できる」という点をセールスポイントにしている。
されており、各サポート期間によって、サポート
当初はネットブックをターゲットとしているが、一
内容が異なる。メインストリーム期間とは、OS販
般ユーザーには新たな選択肢が増えるため、
売直後のサポート期間であり、 延長サポート期
現在のOSシェアに影響を与えるだろう。
間とは、メインストリーム期間終了後のサポート
期間である。製品はサポート期間中、セキュリテ
Ⅲ OSのアップグレードはな
ぜ必要か?
ィ問題の修正プログラムや新機能の提供等を受
個人でPCを使用し、現状に不便を感じなけれ
重要なサポート項目は、Service Pack と、セキ
ば、無理にOSのアップグレードをする必要はな
ュリティ更新プログラムの提供である(詳細後
い。インターネットに接続しているPCは、セキュ
述)。メインストリーム期間が終了すると、Service
リティ更新やウィルス対策が施されていれば問
Pack が提供されなくなるが、セキュリティ更新プ
題ない。OSのアップグレードが必要なのは、主
ログラムの提供は続くため、OSをそのまま使用
に次のような理由からである。
し続けても大きな問題はない。ただし、メインスト
けることができる。
リームサポート期間が終了すると、ソフトウェア
①機能や性能の向上
操作性の向上やセキュリティ、データバックア
ップなどの機能強化を図る。
Windows Vista から Windows7 にアップグレー
ドするとパフォーマンスの向上が期待できる。
やハードウェアの各メーカーはサポート対象か
ら徐々に外し始める。よって、使用中のOSがメ
インストリーム期間を終えていると、利用してい
る周辺機器やソフトのメーカーのサポートが期
限切れになっていることもあるため、注意が必
要だ。
②新たな周辺機器やソフトの導入
JBT Report Vol.12 2
• Service Pack の提供
新たな周辺機器やソフトを導入する必要性か
OSのマイナーバージョンアップと言える。
ら対応OSにアップグレードを行う。この場合、
ソフトウェアはどうしても不都合が残ったま
既存利用ソフトがアップグレードするOSに対応
ま提供されることがある。このため販売後も
インストール
ソフトをPCに導入するこ
と。「セットアップ」(setup)
とも呼ぶ。ソフトを構成す
るプログラムやデータな
どのファイルをハードディ
スクなどにコピーし、必要
な設定を行ない、利用可
能にする。
計画的に修正プログラム、機能追加をまと
• Vista よりも処理速度が向上しているため、
めて Service Pack という形で提供している。
ストレスなく作業ができ、生産性の向上が
• セキュリティ更新プログラムの提供
期待できる。
ソフトにセキュリティ上の弱点が発覚した際
• Vista で追加された新機能の改善がされて
に配布される修正プログラム。情報流出な
いる(ユーザーアカウント制御、バックアッ
どさまざまなトラブルを防止するため、原則、
プ機能等。詳細後述)。
公開されたら即インストールすることが望ま
2.Windows XP から Windows7への
しい。
アップグレード
図3 M ic r o so ft 社のサポート期間
新たな周辺機器やソフトを導入する必要性が
メ インストリー ム 期間
(最短5年)
延長サポー ト期間
(最短5年)
セキ ュ リテ ィ更新プ ログラ ム の提供
無ければ暫くは Windows XP を使用し続け、時
間をかけて段階的にアップグレードを行っても
よい。この理由は次の通り。
• Windows7 は Windows XP よりも高性能なP
新しいService Packの提供
サポー ト 終了
新しい機能の提供
Cスペックが求められる。PC本体の入替え
が必要となることが多く、移行時のコスト負
担が大きい。
Ⅳ Windows7 の考察
• Windows XP は メインストリーム期間が
次に Microsoft 社の最新OSである Windows7
2009 年 4 月に終了しているが、延長サポ
について考察したい。同社は「あなたとPCにシ
ート期間は 2014 年 4 月まで続くため、あと
ンプルな毎日を」というキャッチフレーズで営
4年程度は使用できる。
業展開し、順調にシェアを伸ばしている。
2010 年 3 月時点でOSシェアの 10%を超えた
模様だ(Net Applications 社調べ)。
• 体 感 上 の 処 理 速 度 は 、 Windows7 と
Windows XP とでは大差が無い。
表1 各種 Windows OS の推奨スペック表
OS 名
Windows
XP
CPU(ク
ロック周
波数)
300MHz
以上
128MB
以上
Windows
Vista
1GHz 以
上
1GB 以
上
15GB
以上
の空き
容量
Windows7
1GHz 以
上
1GB 以
上
20GB
以上
の空き
容量
1.Windows Vista から Windows7へ
のアップグレード
メモリ
Windows7 は Vista の改善バージョンとして位
置づけられており、アップグレードを検討しても
良い。この理由は次の通り。
• Vista が動作するPCスペックであればハー
ドウェアを変更しなくてもアップグレードが
可能(表1参照)。ただし、PCメーカーが
Windows7 を動作保証しているか確認する
必要がある。
JBT Report Vol.12 3
ハード
ディス
ク
1.5GB
以上
の空き
容量
グラフィック
Super VGA
( 800×600 )
以上の高解
像度ディス
プレイ
Windows
Aero 対応か
つ
128MB 以上
のグラフィッ
クメモリ
WDDM 1.0
以上のドライ
バー
を 搭載した
DirectX 9
対応
グラフィック
チップ
仮想環境
一台のPCにインストール
したOS上で別のOSを仮
想的に起動し、複数台の
PCがあるように利用でき
る。
Windows7 上で Windows
XP Mode を起動すると一
つのウィンドウ内が
Windows XP の仮想環境
になり、あたかも一台PC
があるようになる。このウ
ィンドウ内では Windows
XP に対応するソフトが使
用できる。PC本体のUS
Bや接続したプリンターも
利用可能。
エディション
同一のOSで機能や仕様
の 異な る 提供形式の こ
と。
Windows 7 のエディション
には、下位から順に
「Starter」(ネットブックなど
一 部 の OEM 向 け ) 、
「Home Premium」(個人向
け)、「Professional」(中小
企業、 在宅ワ ー カ ー 向
け)、「Ultimate」(個人向
け 全部の 機能搭載) 、
「Enterprise」(大企業向け
全部の機能搭載)の5種
類がある。
上位のエディションは下
位のエディションの全機
能を包含している。
クラウドコンピューティン
グ
手元のPCで利用・管理し
ていたソフトウェアやデー
タを、インターネットなどを
通じて、サービスという形
で必要に応じて利用する
方式。
IT業界ではシステム構成
図でネットワークの向こう
側を雲(cloud:クラウド)の
マークで表す慣習がある
ことから、このように呼ば
れる。雲の中にはハード
ウェアやソフトウェアの実
体があるが、その中身は
気にしなくてよい。
具体的なサービス例とし
ては、電子メール、グル
ープウエア、ファイル保管
のほか、財務会計などの
業務システムまで多岐に
広がってきている。
3.Windows7 の新機能について
Windows7 はユーザーからの改善要望をもと
のメールソフトをダウンロードし、インストー
に Windows Vista 等での懸案個所の改善が図ら
ルしてからメールデータを移行する必要が
れた。Windows7 の主な新機能は次の通りであ
ある。
る。
• Windows XP Mode
Windows7 上で Windows XP 用のソフトをそ
Ⅴ まとめ
現在利用しているOSに不満は無いため、こ
のまま利用できるため、OSアップグレード
のまま長期間利用したいというユーザーの希望
に伴う業務システム等の改修対応の必要
を聞く。OSのアップグレードには、移行の手間
が無く、移行コストが抑えられる。ただし、
もコストも掛るため、抵抗感を持っているユーザ
Windows7 の仮想環境で動作するため、使
ーもいる。
い勝手、速度等の課題もある。Windows XP
一方で、クラウドコンピューティングという情
Mode を利用するにはPCに仮想環境に対
報システムの利用形態が急速に拡大している。
応したCPU(プロセッサ)が搭載されており、
ユーザーは、インターネットを通じて様々な業
Windows7Professional 以上のエディション
務サービスや表計算ソフトなどを利用できるよう
を導入する必要がある。
になってくる。データはクラウド側のサーバーに
• 自動バックアップ機能の拡充
保存・管理される。ユーザーは、PCにソフトをイ
Windows Vista から搭載されていたが、スケ
ンストールする機会が少なくなるため、OSを
ジュール機能が無いなど使い勝手が悪か
益々意識しないように変化してくると思われる。
った。Windows7 ではスケジュール機能が
これらのことから、OSのアップグレードに当
追加され、指定した時間にデータのバック
たっては、業務要件やPCの利用形態などに関
アップが可能となった。
して長期的視点で検討し、判断することがより重
• ユーザーアカウント制御の改善
Windows Vista ではソフトのインストール時
要になってくる。場合によっては暫くの間、現在
のOSを継続利用しても良い。
などにその都度、確認画面が表示されるた
め、操作が煩雑になり、あまり評判が良くな
かった。Windows7 では4つのセキュリティ
レベルが選択可能となりセキュリティポリシ
ーに応じた確認が可能になった。
• OS標準メールソフトが無くなった
Windows XP に は Outlook Express 、
Windows Vista には Windows メールが、そ
れぞれ OS 標準メールソフトとして用意され
ていた。Windows 7 には標準メールソフトが
無くなったため、これらのメールソフトを利
JBT Report Vol.12 4
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