貝毒は加熱しても発症します

貝毒は加熱しても発症します
昨日テレビのニュースで天草地方の貝より貝毒(麻痺性貝毒)が検出されたため注意
を喚起する報道がされていました。現在、日本中でノロウイルスによる食中毒~感染性
胃腸炎が流行しているため誤診する可能性がありそうです。
魚介類にはもともと感染症によらないさまざまな自然毒が知られています。ふぐ毒な
どがその代表です。魚介毒はマリントキシンなどとも呼ばれ厚生労働省の食中毒統計に
毎年まとめられています。年間の報告例は35~61件と全食中毒件数の中での割合は
2.7%と少ないです1)。しかし、見逃されている可能性は高く、実際はもっと多く発
生しているでしょう。しかし、死者数の割合は37.7%と高く、重症化の可能性が高い
と思われます。近年、地球温暖化の影響でいままで経験的に安全と考えられて喫食され
ていた魚介類が毒を保有することも報告されており注意が必要です1)。
魚介類はプランクトンや微生物の産生する毒素が食物連鎖により魚介類に濃縮され毒
化するものが多く、保有毒の量や種類は種差、地域差、個体差が大きく、また季節差も
あるため細かいデータ収集が必要です。また通常、魚貝毒は加熱でも失活することがな
く、魚介毒を有するものを調理しないしか防止策はありません。魚介毒は16種類程度
が知られていますがここでは貝毒についてまとめてみます1)。
貝毒は症状により、(1)麻痺性貝毒、(2)下痢性貝毒、(3)神経性貝毒、
(4)記憶喪失性貝毒の4種類が知られています。
以下それぞれの特徴等を述べます。
· 麻酔性貝毒
貝毒のなかでもっとも古くから知られているもので、アメリカインディアンの伝承に
よると1790年にロシアの探険隊がアラスカでイガイを食べて100名が死亡したのが最初
の記録とされています2)。症状が神経麻痺を主徴とすることから麻痺性貝中毒と呼ば
れ,死亡率が高いのが特徴です。症状は食後30分で口唇、舌、顔面のシビレが出現し
て、手足にも広がります。軽症の場合は、 24~48時間で回復しますが、重症の場
合は、運動障害、頭痛、嘔吐、言語障害、流 涎等の症状が現れます。麻痺が進行する
と呼吸困難で死亡することもあるそうです。治療薬はなく、対症療法として、胃洗浄、
人工呼吸を行うのみです。毒化機構は二枚貝に有毒プランクトンが蓄積されることによ
ります。貝の種類は二枚貝のホタテガイ、ムラサキガイ、アカザラ、アサリ、ヒラオウ
ギ、マガキ等です。
北海道の養殖ホタテが夏頃になると毒化したり、また、広島のカキも毒化し、その範
囲が広がっているそうです2)。
(2) 下痢性貝毒
頻度的には麻痺性貝毒よりはるかに多く、症状は,消化器系の障害で、ひとがこの毒を
摂取すると腸管上皮細胞が壊死し、食後30分から4時間で下痢、おう吐、腹痛が出現
します。予後は良好で死亡例の報告はありません。しかし、この毒は癌源性を有すると
されています3)。中毒の発生が夏期(6~9月)に限られることから、腸炎ビブリオと誤
診されやすいですが、新鮮な二枚貝や加熱調理品でも発生し発熱症状を伴わないことか
ら区別できるそうです。
毒化機構は有毒プランクトンの蓄積によるものですが、貝の中腸線に蓄積されるためホ
タテガイのように貝柱のみ摂食する場合は大丈夫です。貝の種類はムラサキイガイ、ホ
タテガイ、コマタガイ等です2)。
(3)神経性毒貝
アメリカでは赤潮被害の後にこの貝毒が出現するそうです。日本での報告はありませ
ん。
症状は食後数時間して、口内にヒリヒリ感が出現。やがて顔、のど、身体全体に広が
り、酔った状態になり、瞳孔散大、運動失調、下痢の症状が現れます。2~3日で回
復。この毒素は風で拡散し気管支炎をおこすそうです2)。
(4) 記憶喪失性貝毒
1
日本での報告例はありませんが、原因毒のドウモイ酸を産生すると言われている赤潮
は発生しているようです。南西諸島や鹿児島における紅藻類のハナヤナギはドウモイ酸
を持っているため注意が必要です。
症状は胃腸、神経症状で、記憶喪失が顕著だそうです2)。
通常、市場で売買される貝類はきちんと検査がされているため貝毒の被害にあうこと
はなく、また管理された潮干狩り場でも定期的に検査がされるために安全ですが、それ
以外の海岸で採取した貝は必ずしも安全ではなく、実際、冬季の九州の海で低濃度なが
ら下痢性貝毒が検出されており3)このような趣味のあるひとはマスメディア等の
ニュースに注意する必要があります。
平成26年2月10日
参考文献
1 ) 濱野 米一:魚介毒性食中毒における最近の動向と今後の課題 . 食衛誌 2010 ; 51 ;
302 –310 .
2 )大島 泰克:貝毒に関する研究の現状と課題. 水質汚濁研究 1989 ; 12 ; 763 –768 .
3 ) 揺本達也:冬季の九州西岸におけるDinophysis属渦鞭毛藻の分布. 水産増殖 2006 ;
54 ; 455 –464 .
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