行動科学概論(亀ヶ谷) 2 行動科学とは何か 1. 行動科学とは (1)「行動科学」とは、人間(や動物)の行動を「科学」的に研究すること ※「科学」とは、 「いつでも、どこでも、だれでも、同じ条件の下ならば必ず成り立つような一般 法則を見つけること(=つまり「普遍的な法則」を見つけること) ※もちろん、科学的でない側面から人間を研究することも大切。例えば「こうなれば、こうなる はず」と論理を積み重ねて、 「あるべき」人間像や世界像を考える哲学など。 (2)具体的にどんなことをするかというと (a)実験や調査をして、データを集めて仮説を裏付ける(経験主義、実証主義 経験主義、実証主義、 経験主義、実証主義、仮説検証主義) 仮説検証主義 (b)数字で計る。統計手法やモデルを使って分析する(量的アプローチ 量的アプローチ) 量的アプローチ (c)内部構造はよく分からないから無視しておいて、目に見える部分である「どうしたら(入 力) 」と「どんな結果が出たか(出力) 」だけに注目。その関係から内部構造を推測しよう (システム的発想 システム的発想) システム的発想 (d)関連するいろんな学問分野の知識を混ぜ合わせて研究する(学際化 学際化) 学際化 ※ここで、ボランティアについて行動主義的な研究と、そうでない研究を比較してみる ※データを使って分析すると何がよいかについて「統計のここがすばらしい3」をみる (3)このように「科学的」に研究する立場を共通させることで、人間(や動物)を研究する諸学問 (社会学、心理学、人類学、経営学、政治学、医学、生物学,数理科学、工学...)をまとめて一 緒に議論できる学問分野を作ろうとした → これが「行動科学」 ※実は行動科学は「社会心理学」とダブってしまう点が多い。この授業で方法論に重点を置いて いるのは、ネタが被るのを避けるためでもある... 2. 行動科学の歴史 (1)行動主義的アプローチ 1950-60年代に、行動科学の手法はいろんな学問の分野の中で「行動主義」として取り入れられ た。 たとえば ・心理学では 心理学では:行動主義的アプローチが最も成功した分野。ワトソン、パブロフ、スキナーらに 心理学では よって「条件付け(=学習行動) 」が解明された ・臨床心理学では 臨床心理学では:条件付けの逆の行動をとることにとって、学習された神経症を取り除く「行 臨床心理学では 動療法」が開発された ・政治学では: 政治学では:イーストンやアーモンドによって「政治システム論」のモデルが示され、法律や 政治学では: 制度の研究だけでなくて、人々が行う政治行動そのもの(ガバメント・イン・アクション)を 調べるようになった ・国際政治学では: 国際政治学では:戦争やアメリカとソ連の対立を「ゲーム理論」で考えて、政策を合理的に選 国際政治学では: 1 択しようと考えた。また「シミュレーション」を行って、どのような決断が最良なのかを調べ ようとした ・情報科学では: 情報科学では: 「サイバネティクス」によって複雑な仕組みを「システム」ととらえることによ って、コミュニケーションのモデルを作ったり、コンピュータの仕組みの理論的基礎を考える のに役立った ・経営学では:意思決定のモデル(デシジョン・ツリーなど)が考え出された ・経営学では: ・社会学では: 社会学では:システム的発想はマートンの「機能主義」やパーソンズの「社会構造理論」とい 社会学では: った考えに反映されているのでは ※イメージが湧くように具体例を示しておくと、摂食障害治療のビデオ、ゲーム理論によるデー ト場所の決定などがわかりやすいのでは。映画「羊たちの沈黙」の舞台もFBIアカデミーの「行 動科学課」だったりする (2) 「脱」行動主義 しかし、行動主義的アプローチは1970年代以降それぞれの学問分野で批判された。例えば ・人間も動物も、アメとムチで動くだけの存在なのかなあ ・数字ばかりにこだわると、重箱の隅をつつくような瑣末な研究しかできないよ ・どんなに現実を詳しく調べても、現実を変えるための方針は分からない。 理想や哲学も必要なんじゃないの ・やっぱ、システムの中身を知りたいよ。頭の中身がどうなっているか分からないとコンピュー タが作れないよ (3)認知科学の登場 上のような批判は、1980年代に「認知科学」を生み出した。 「考える」とはどういうことかを研 究するために、心理学者、コンピュータ研究者、脳生理学者、哲学者、動物学者など、いろんな 分野の学者が一緒に考える学問領域が生まれた。 だからといって行動科学的な考え方が廃れてしまった訳ではない。むしろデータに基づいて議 論することは「常識」となって、色々な研究方法の中に取り込まれてしまったと考えた方が適当 だと思われる。 3. 参考文献 ローゼンタール, R. & ロスノウ, R.L. 池田央(訳) 「行動研究法入門」新曜社 1976 関寛治他「行動科学入門」講談社 1970 田中靖政「コミュニケーションの科学」日本評論社 1969 2
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