1. 母指CM関節撮影法について その1

新連載
X 線撮影編
一般撮影技術を見直そう!
〈上肢 No.1〉
1.母指 CM 関節撮影法について
その 1
(radiography of thumb CM joint )
安藤
英次
奈良県立医科大学附属病院 /NTRT 世話人
CM 関節機能と形態 1),2)
はじめに
母指手根中手関節(carpometacarpal
は構造的に不安定で壊れやすく関節症
になる。
ヒトの母指には他指の機能にない,他
joint:以下,CM 関節)は,日常生活
指と向かい合う「対立運動」がある(図1)
。
において,最もよく使う重要な univer-
この運動は,
「屈曲と伸展」
,
「内転と外
sal 関節である。高齢化社会では,変性
転」運動などによる複合運動である。
母指 CM 関節症とは 3)
母指 CM 関節症は,物をつまむ時やビ
ンのフタを開ける動作で,手首の母指の
疾患を伴う手の運動器疾患として,CM
他の指にない運動機能を得るため,母
付け根に痛みがあり,日常での手の動作
関節症が増加している。その早期発見
指は第 2 〜 5 指にある基節骨がなく,関
が困難となる疾患である(図 5)。この
には,CM 関節の骨変化を評価するため
節数も少ないため指が短くなる。その動
CM 関節症の多くは,使い過ぎや老化に
X 線画像が有用である。
きを支える筋肉が母指球筋である。その
伴って,関節軟骨の摩耗が起きること
CM関節の撮影法としては,Robert法
母指の関節として,中手骨と大菱形骨
が原因である。また,45 歳以上の女性
が整形外科領域の書籍や教科書に紹介
からなる CM 関節は,他の手の CM 関節
に多く,進行すると関節が腫れ,亜脱
されている。Robert 法の撮影肢位は,
が自由度 1 に対し,独立した関節包を持
臼してきて,CM 関節が変形する。
母指背側を受像面に密着させるため,
ち,自由度 2 として,母指の骨軸に対し
前腕を過度に回内させ,母指を外転さ
てローリング動作が可能となる鞍関節
せる。その肢位では,経過観察を追う上
(saddle joint)である(図 2)。鞍関節は,
でも,体位や肢位の維持が容易でない。
そこで今回,CM 関節撮影において,
簡単な補助具を作成することで,患者が
手の運動機能の半分を担う重要な関節
治療としては,症状が軽度の場合に
は装具による固定やステロイドの注射を
軟骨の摩耗などの変性が多い関節である。
行い,症状が重度になると,手術による
この鞍関節は,楕円形で関節窩が「馬
法と比較検討を行った。また,撮影す
の鞍」のような形状で,関節頭が浅く,
る診療放射線技師にとって必要な,CM
運動は靭帯に制限される(図 3)。
床画像について報告する。
隙狭小や骨棘の有無,ときには亜脱臼
を画像評価する。
である。そのため加齢などにより,関節
楽に撮影できる撮影法について,Robert
関節の機能と画像の解剖・解析や,臨
診断には,X 線画像で CM 関節の裂
骨切り術,関節形成術,関節固定術,
人工関節置換術等がある。
CM関節(Robert法)撮影 4),5)
その鞍関節としての靭帯は,対立運
動を可能とするため,
「靭帯のゆるみ」を
必要とする(図 4)。そのため,CM 関節
C M 関 節 撮 影 法 に は 従 来 か ら,
Robert 法が使用されている。Robert 法
IP関節
MP関節
対立
中手骨
CM関節
CM関節
屈曲
図1
伸展
内転
外転
母指の対立運動を補う運動機能
〈0913-8919/13/¥300/ 論文 /JCOPY〉
図2
母指の CM 関節位置と形態
CM関節
鞍関節
大菱形骨
図3
CM 関節の鞍関節機能
INNERVISION (28・1) 2013
81
中手骨
IML
Ⅰ
Ⅱ
IML :第1中手骨間靭帯
OAI :前内側斜走靭帯
DAE:前外側直靭帯
APL:長母指外転筋腱
伸展
X-ray
痛み
過度な回内
Ⅲ
回内
APL
図4
DAE
X-ray
OAI
CM 関節を補う靭帯
図5
CM 関節症の病態
図6
母指の付け根が痛む。
Robert 法の撮影肢位
中間位
X-ray
CM関節
中手骨
X線中心点
補助具
図7
中間位正面撮影法の撮影肢位
の撮影肢位は,肘関節伸展位肩関節外
転 90°とし,前腕を回内し,母指背側を
受像面(カセッテ)に密着させる。この
Robert 法が提唱された時代は補助具も
CM
関節
図8
撮影補助具
提案する必要があると考える。
中間位での撮影肢位 3)
前腕回内位とする Robert 法に対し,
なく,X 線出力が少なく,小焦点撮影
本稿で紹介する撮影肢位は,補助具を
ではなく大焦点撮影であったため,目的
使用することで,手関節側面撮影位か
とする撮影部位を密着させて拡大ボケを
ら肘伸展して中間位とする。この撮影
大菱
補助具 形骨
実際の補助具と
手の位置
図9
CM
関節
母指とX線中心点
撮影補助具に置く母指の位置
Robert 法に比べ,母指の遠位端(爪)
から手関節まで目視により,X 線中心と
なる CM 関節の位置が容易に判断でき
る(図 9)。
X 線中心線と関節面
正面投影では, 図 10 に示すように,
小さくするため,この肢位が必須となっ
体位は座位で,手関節が中間位から軽
X 線束が通過する関節面が,大菱形骨
た経 緯 があると思われる。そのため
度回内し,補助具に母指の掌側を添え
関節面は凸状と丸い形状に対し,中手
Robert 法は,無理な上肢の回旋位を補
るだけの容易な肢位となる(図 7)。
うため,膝を軽度屈曲し,頭部を前方
に傾けた立位を考案したと考える。
さらに,最大回内位かつ前傾姿勢で,
補助具の有用性 3)
骨関節面は凹の鞍状である。そのため,
図 10 の①,②をそろえることが,関節腔
として投影する重要ポイントとなる。そ
補助具の材質は,安価な発砲スチロー
のため X 線中心線は,CM 関節面に中
手骨近位端の関節面に接線入射する。
母指背側をカセッテ面に押し付けること
ルである。補助具の成形は容易であるが,
で「母指の対立運動」を防ぐため,母指
図 8 の図面に示すように,高さは 20 〜
の外転を必要とする(図 6)。この撮影法
15 cm,指先が底辺に着く程度で,母指
は,座位の場合も撮影肢位を保持する
の CM 関節に他の骨との重なりを避ける
当院での母指 CM 関節症の X 線撮影
ため,前傾姿勢を必要とする。この密着
ため,少しの傾斜(約 10 度)を必要とす
には,CM 関節を中心にした正面と側面
肢位は,可動域が狭く,痛みのある CM
る。補助具には,患者が補助具に容易
方向の 2 方向がある。図 11 に示すように,
関節症患者の母指を受像面に押し付け
に患側を置きやすいように,図 9 に示す
正面像(赤線)では大菱形骨の鞍関節
るため,高齢者には負担の大きい検査で
ような,大きめの手の外観を書いてある。
稜線の「鞍の背」を投影し,側面像(青
X 線中心点は,補助具の天板面に中
線)では中手骨側鞍関節稜線を投影す
ある。
近年の X 線撮影環境は高出力,小焦
間位で母指を伸展させることで,中手骨
点が可能になったので,技師として,患
と大菱形骨が直線状にそろい,関節裂
者に優しい撮影肢位が可能な撮影法を
隙 が 広 く な っ た C M 関 節 で あ る。
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INNERVISION (28・1) 2013
CM 関節撮影 2 方向
ることになる。
Robert 法と同様に,母指撮影では母
指の肢位だけでなく,母指以外の指との