PragmaticsにおけるGratitude表現 佐 野紀子 1.はじめに Gratitudeは人種・国籍などにかかわりなく普遍的に人類が抱く意識で あり、その表出には言語手段のみならず非言語的手段が用いられる。一般 的には、ある事柄に対して恩恵・利益を得る者(receiver)がそれを与える 者(giver)に対して一方通行的に表現するものと思われがちだが、実際に は、gratitude表現は話し手と聞き手の相互関係によって複雑に左右され、 「根本的に様々な規則があり、適切に表現されない場合は誤解を生む」 (Eisenstein&Bodman,1993)。適切なgratitude表現が出来るようになる のは、pragmaticsの側面から重要な言語修得目標の一つと考えられるが、 その達成は目標言語に単にexposeされるだけでは十分でなく、Schmidt (1993)は学習者の親などの果たす言語習得過程における教育的役割の実用 性を説いている: Simp}e exposure to socielinguistically apPropriate input is unlikely to be sufficient for second language acquisition of pragmatic and discoursal knowledge because the linguistic realizations of pragmatic functions are sometimes opaque to language learners and because the relevant contextual factors to be noticed are likely to be defined differently 118 or may be nollsalient for the learner. Second language learners may fail to experience the crucial noticings for years. The fact that this does not seem to happen in first language learning is attributable not to any sort of pragmatlcs acqulsltlon device, but to the efforts that parents and other caregivers make in order to teach communicative competence to children, using a variety of strategles. (Schmidt,1993,p.36) Schmidt(1993)の上記の観点は第2言語習得に関するものであるが、日 本における英語教育のように、社会環境や文化を異にする外国語の習得で は、第2言語習得の場合よりなお一層、意図的なpragmalinguisticなスト ラテジーの習得の指導が必要になる。 本論では、gratitude表現のpragmalinguisticな特性を先行研究に基づ いて整理・概括し、続いて、日本の中学校の文部省検定済英語教科書にお けるgratitude表現の扱いについて分析し、あわせて中学校段階における 日本語と英語のgratitude表現の差に対する学習者の理解の程度を調査し、 それに考察を加える。 2.Gratitude表現の言語行動上の特性 Gratitude表現の言語行動上の特性を3つの観点で以下に整理・概括す る。 2.1.人間関係の円滑化 通常、apologyは先行する出来事に関係するが、これとは対照的に、 gratitudeは未生起の事柄にも関係する。未生起の事柄に関してgratitude を表出すれば、receiverに対して、先行する出来事に関してそれをすると きよりも社会的威圧感が生じることがある。Coulr叩s(1981)は、 gratitude 表現には恩義を感じて発話されるものもあると指摘している; 119 The link between object of gratitude and object of regret is the concept of indebtedness. Thanks implying the indebtedness of,the recipient of the benefit closely resemble apQlogies where the speaker actually recognizes his indebtedness to his interlocutor. (Columus,1981,p.79) Brown&Levinson(1987)は、 “face−treatening acts”を “positive face”と“negative face”に区別し、 gratitudeの表出は話者のネガティブ フェイスに不快感をあたえるものとして下記のように分類している; Those that offend S’s negative face: (a)expressillg thanks(S accepts a debt, humbles his own face) (b)acceptance of H’s thanks or H’s apology(S may feel constrained to minimize H’s debt or transgression, as in ‘lt was nothing, don’t mention it’.)_ (Brown&1」evinson,1987,p.67) 熊取谷(1988)は発話行為理論に基づいて、 「感謝は聞き手の行為によっ てもたらされた不均衡を修正しようとする行為」であり、同じく熊取谷 (1994)はgratitudeの「適切性条件」として以下のものをあげている; 命題内容条件:聞き手(あるいは聞き手にとっての「ウチ」関係の 入間)による確定した行為を表す。 予 備条件:発話者は自分(あるいは「ウチ」関係にある人間) にとっての有益状況が生じたと見なしている。 誠実性条件:発話者は当核行為・状況を嬉しく感じている。 本質条件:当核行為・状況に対する誠実性条件に示された心的 態度の表明。 (熊取谷,1994,p,66) 120 Eisenstein&Bodman(1993)は、書き言葉と自然な発話の両方のデー タを分析し、次のように仮定している; This led us to postulate that expressing gratitude might not, be merely a language fullction that existed as a response to a beneficial event, but might, instead, be a negotiated and interactive event that had greater social significance. (Eisenstein&Bodman,ユ993,p.71) つまり、gratitude表現は話し手と聞き手の相互作用によって成立し、両者 が一種の協力をしながら発展させていく言語行動ということになるが、い ずれにせよWolfson(1983)が ℃omplimets are social lubricants which create or maintain rapport.”と述べているように、 gratitudeの表出は 人間関係の社会的潤滑油(lubricants)の役割を果たすのである。 2.2.Ritualな規則の存在 Goffman(ユ967)は、 face workを “the actions taken by a person to make whatever he is doing consistent with face”と定義し、その視 点から人間のinteractionにおけるfaceの役割を述べている; Aperson tends to experience an immediate emotional response to the face which a contact with others allows him;he cathects his face;his “feelings”become attached to it. If the encounter sustalns an image of him that he has long taken for granted, he probably will have few.feelings about the matter. (Goffman,1967,P.6) また、Goffman(1967)は、「自己尊生(self−respect)のルールと思いやり (considerateness)のルールの混合した効果は、出会いの間、人は自分の持 121 つfaceと他の参加者のfaceの両方を維持するために自分自身を操る傾向 にあり、特にface−to−face talkの相互作用は、お互いに相手を受け入れる ことを相互作用の基本的特色の一つととらえることができる。」と論じて いる。face−to−face talkを円滑に行うためには、確立したritualな語用論 的規則を知らないと、gratitude表現も、聞き手に対して効果的に伝わら ない。不成功に終わると、聞き手のfaceを傷つけることになる。 杉本(1994)は、言語の社会的変種(social variation)に関して、 「同 一話者は、実はいろいろな変種を使い分けており、話し手と聞き手との関 係(親密さの度合い、相対的地位)などの社会的要因により話し手・聞き 手はさまざまなスタイルを使い分けている。」と述べている。Holmes (1995)は男性と女性の言語的politenessに関して、 gratitude表現を積極 的なpolitenessの表現の一つに含めている; Expressions of gratitude and sympathy, invitations, jokes, greetings and other phatic or social utterallces, as well as the use of friendly address forms, are all ways of expressing positive politeness in approPriate contexts,... (Holmes,1995,p.ll6) o かくして、各種の社会的言語行動は、face workで見られるように、確立 したritua1な規則が存在し、その円滑な運用は社会生活を営む上で重要な 役割を果たす。 2.3.文化に依存するgratitude表現 文化が異なると考え方や物の見方が異なることがあるが、言語行動にも これは当てはまる。確かにgratitudeの気持ちを抱くのは人類に普遍的な 心的状態であるが、その表出には、文化によって異なることがある点を留 意しなければならない。Eisenstein&Bodman(1993)は、 E F L学習者 にとって、バスの運転手に対するgratitude表現や、スーパーでの店員に 122 対するgratitude表現などは自国の文化で同様の言語習慣がないと理解が 困難であるとの調査結果を報告している。なおこのような状況における gratitude表現をRubin(1983)は、 “bald thank you”と呼んでいる。 Apte(1974)は南アジア言語におけるgratitude表現に関して、マラティー 語やヒンディー語の話者は、親しい人どうしでgratitude表現を発話する ことはタブーであり、不愉快きわまりないものとされると報告している。 また、彼らの社会ではRubin(1983)の定義する “bald thank you”を行 うことはなく、業務上の行為や利益を得る当事者に対してお礼を言う必要 がないとしている。三宅(1994)は日本語には、「すみません」等のapology の表現がgratitudeとして発話されることを調査資料を基に実証している; 日本語では ユ)詫び表現は、「詫び」以外にも感謝したいとき、詫びと感謝を 同時に感じているときや、単なるあいさつとして何かいいたい ときにも用いられる。 2)日本人はイギリス人に比べて同じ状況でも詫びの気持ちを抱き やすい。 3)恩恵や相手の負担の量が多いとき詫び表現が増える傾向がある が、相手が目上でソトの関係のとき、 「借り」の気持ちの大小 を上回って詫び表現が多用される。 (三宅,1994,pp.135−136) 以上のように、文化によって異なる社会的価値観があり、その価値観を 言語的に実現するには、根底にある複雑な規則に従わなければならない。 receiverとgiverはその規則体系を理解し、相手を受容することにより、 「コミュニケーション行動」と「実質行動」 (Neustupny,1982)の両方か らgratitudeの表現を把握することが必要である。 123 3.調査と分析 3.1.調査の目的 gratitude表現などpragmaticsの観点で必要な表現の習得には、そのた めの適切な指導の機会を学習者に与えることが重要であることが本論で検 討した先行研究からも明白になったが、ここでは日本の英語教育で、主た る指導教材である英語教科書におけるgratitude表現の扱いを調査し、そ の分量や頻度の適否を検討することにする。 また、学習者にも目を向け、質問紙によるgratitude表現の定着度や運 用力の実体の調査を通して、pragmaticsの観点での学習上の問題点やそ の特性を明らかにする。 3.2.調査方法 3.2.1.教科書の調査 く調査対象〉 中学段階を英語学習上の重要な時期と考え、現行の中学校の全種類の文 部省検定済英語教科書を1∼3学年分合計21冊を調べた。 Columbzts English Course光村図書出版(以下Columbus又はCo) Ever yclay English 中教出版(〃 Everyday又はE) NeωCroωn English Series 三省堂(〃 Crown 又はCr) NeωHorizon Englishσourse 東京書籍(〃 Horizon又はH) NeωTotal English 秀文出版(〃 Tota1又はT) One I2Vorld E㎏Z‘8んCourse 教育出版(〃 One World又は0) Sunshine Englishσourse 開隆堂出版(〃 Sunshine又はS) 〈調査手順〉 各教科書で扱っている個々のgratitudeの表現を抽出し、 Eisenstein& Bodman(1993)の分類方法を援用してコード分析した。用いたコードの種 類は次の通りである。 Code 1 :<Thanking> 例:友達から誕生日プレゼントを貰ったとき、 124 Thank you.(S 1, p.8) Code 2:<(Thanking十)Complimenting the Giver/Action/Gift> 例:車椅子を押してくれた孫に礼を言うとき、 Thank you. You’re a nice child.(T 1, p.69) Code 3:〈Thanking十Complimenting the Giver/Action十 Expressing Intimacy> 例:ボーイフレンドにネックレスを贈られたとき、 Oh, thank you very much. It’s lovely. How did you hnoω thαt?It’s just what I wanted! (斜線部の疑問文は、相手に返答を求めているのではなく、自分の 気持ちがわかってくれているということで、親密さを表している。) Code 4 :<Thanking十Complimenting the Giver/Action十 Expressing an Inability to Articulate Deep Feeling> 例:友人が大金を貸してくれたとき、 Thanks!You are a lifesaver. I can’t tell you how much IapPreciate this. Code 5:<Baユd Thank You> 例:買い物で、店員から釣り銭を受け取るとき、 (Clerk)・ Here’s ten dollars. (Customer) Thank you.(O l, p.49) Code 6 :<Closing> 例:演説を終了するときに、 Thank you very much. (C o 3, p.22) 3.2.2.習得度調査 く調査対象〉 国立大学付属中学校 2年生 78名 く調査手順〉 記述式回答の質問紙「日米状況別会話」 (資料1)を使い、Eisenstein 125 &Bodman(1993)の分類方法を援用した。 質問紙は3つの状況(状況1∼3)から成り立っており、各状況はさら に日本とアメリカとに設定が分かれている。被験者はそれぞれの状況設定 のもとで、どのようなgratitude表現を用いるかを答える。 (状況1)は、未知の人であるタクシーの運転手との対話(タクシー)。 日本では乗り合わせたタクシーの運転手にgratitudeを表現することは少 ないと考えられるので、被験者は、アメリカに居る状況でも、Rubin(1983) が定義した “bald thank you”を適切に使用できないと予測してこの状 況を設定した。 (状況2)は、友達から贈り物をされたときの対話(贈り物)。一般に アメリカ人は友達からの贈り物に対して、多様な表現を用いてgratitude を表すが(Eisenstein&Bodman,1993)、被験者は日本語でも英語でもそ れほど多様なgratitude表現を用いないと予測してこの状況を設定した。 (状況3)は、友達が大金を貸してくれた時の対話(借金)。大金を借 りるような恩義を受けると、日本人は一般に「すいません」とか「すまな い」のようなapologeticな表現を用いるので、被験者はその影響でアメリ カに居る状況でも、“1’msorry.”に類する表現を用いることを予測して この状況を設定した。 3.3.調査結果と考察 3.3.1.教科書の調査結果と考察 学年毎に各教科書に出現するCodeを (表1)∼(表3)にまとめた。 「本文中の表現の数」と「出現ページの数」の数値を比較することにより、 教科書本文におけるgratitude表現の出現頻度、及びそのばらつきがわか る。 教科書の本文以外でも、見返しや巻末資料でgratitude表現は扱われて いる。このような補助的教材の扱いの軽重は教師によって差があると思わ れるが、場合によってはこれもgratitude表現習得の重要な要素となり得 るので、教科書本文と同様に調査し、その結果は(表5)にまとめた。 126 以上の調査結果により、次のようなことが考察される。 1)全教科書において、gratitude表現の種類が少ない。 (全教科書を通 してCode 3,4の出現数は0、Code 6が4(表4)。)また、出現数そ のものも決して多いとは言えず、これだけの言語材料に対するexposure だけでは状況に応じて、的確なgratitude表現を学習者が身につける ことは期待しがたい。 2)教科書の種類によってgratitude表現の数に大きな差が見られる (1 ∼3学年合計で最多21、最少3。)これでは採択する教科書によって 学習成果に差が出ることが予想される。学習指導要領には文法事項の みならず、pragmaticな表現の撞いについても、何らかの指示があっ てもいいのではないか。Everyday 3のようにgratitude表現が皆無の ものがあることがわかったが(表3)、果たしてそれでよいのかと思 わざるを得ない。 3)gratitude表現として、 Crown lを除く他の全教科書は“thank you” 単独または“thank you”を含む表現のみを使用している。 Crown 1 には “thank you”を用いない次のようなgratitude表現(Code 2)が 見られた; “Oh, a beautiful, fat duck! Are you giving it to us?” (Cr l,P.90) 中学校段階では、語彙の数が限られていても使える、状況に応じた、 このようなgratitude表現も学習する必要がありはすまいか。 4)本論でとりあげた先行研究で実証されているように、gratitude表現 は目標言語のpragmaticな側面を構成する文化的・社会的規範にのっ とって使われなければならない。しかしながら、本調査では、次の引 用に見られるように目標言語をとりまく文化を一つの状況として提示 した箇所は希であった。 She handed a box to Mrs Green. Mrs Green opened it。 (Crl, p.90) 127 日本では、贈り物をくれた当人の前で開ける行為を不礼とする伝統が あるので、異文化の社会には、上記のような習慣もあるということを 学ぶ必要があろう。 5)gratitude表現を的確に身につけるためには、 Eisenstein&Bodman (1993)は、Role−Playを最良の方法として提案しているが、全教科書 を通読してCode 2∼4のgratitude表現をRole−Playとして行うにふ さわしい箇所は見当たらなかった。そこで生きた教材としての教師の 果たす役割の重要性が改めて確認された。 6)gratitude表現はapologyやcomplimentなどその他のpragmatic的 表現に比べて使用頻度が高い表現であるが、 (表1)∼(表3)で 「0」が目立った。このことは他のpragmatic的表現の扱いの少ない ことが予想される。事実については今後の研究を待ちたい。 3.3.2.習得度調査結果と考察 質問紙(資料1)による調査結果は、 (表6)にまとめた。NU∼REの 尺度はEisenstein&Bodman(1993)を参考に独自に定めた。状況1(タ クシー)では、返答として1の「何も言わない」を選んだ被験者(NU) は、日本語で10.2%、英語で16.7%となり、これは他の状況より高い数値 と言える。また、状況2(贈り物)では、ほとんどの被験者は日本語・英 語に関わらず、的確にgratitudeを表現することができた(日本語AC+ PE・=78%、英語AC+PE=100%)。状況3では,英語の場合に適切な gratitude表現を何等問題なく完全に使えた被験者(PE)は23%のみで、 何らかの問題があるNU,NA,PR,ACは全体の77%であった。 以上の調査結果により、次のようなことが考察される。 1)状況1において、タクシーの運転手に対して日本語でgratitudeを表 現することは少ないと予測したが、実際は88.5%(PE)の被験者が的 確に表現した。 例1)ご苦労さまでした。 例2)ありがとうございました。 128 日本の社会では、一般に、利益を得る人(タクシーやバスの運転手等) に対してgratitudeを表現することは少ないと考えられる通念とは異 なる結果となり、現代の中学生はRubin(1983)の‘social amenity’ を大切にしていることがわかった。 2)状況2(贈り物)のように利益関係が単純で、日本語・英語ともに文 化的な差があまりない状況では、gratitude表現の多様性は望めない と予測したが、調査結果では、表現の多様性はあまり見られなかった ものの、日本語では78%、英語では90%の被験者が的確な表現ができ た。中学校学習段階でも自分の表現力の範囲でgratitude表現をする 能力と習慣を身につけていることがわかり、社会的潤滑油としての gratitude表現がある程度活用されている。表現に多様性が見られた 英語の例を次に示す。 例1)Thank you. This sweater is very nice.1工ove this color. 例2)Thank you for giving me a nice black sweater. 例3)Oh!What a nice sweater!1’m very very happy. 3)状況ユ(タクシー)や状況3(借金)のような英語圏と日本では gratitude表現が異なる状況では、中学生は英語でのgratitude表現に 適切さを欠く傾向がやや見られた。 (状況1、NU+NA+PR=日本 語ll.5%,英語14%。状況3、NU+NA+PR=日本語6.4%,英語21 %。)文化的な言語習慣の違いを指導する必要性を感じる。 4)状況3(借金)のアメリカに居る設定で、“1’msorry”に類する表現 を用いた被験者はNAの数値13人、17%として表れた。これは被験者 が日本語の「すみません」のストラテジーをnegative transferした ものである。先行研究でも明らかなように、このような“1’msorry” の使用は日本文化が言語化された独特の表現(indebtednessを感じる) であるため、他文化の人々には、受け入れがたく、誤解を生みやすい。 質問紙を分析していくうちに、使用言語(日本語・英語)が変わると、 発想が変わりそれぞれの言語で用いられる文化的ストラテジーに応じ 129 た表現をした被験者が何人かあることが判明した。これは言語と思考 の関係(サピヤ・ウーフの仮説)に関わる大きな問題なので、機会を 改めて検討したい。 4.おわりに 上記の先行研究でpragmaticsの観点で必要なgratitude表現などの習 得には、そのための適切な指導の機会を学習者に与えられることが重要で あることがわかったのだが、現行の教科書の編集が文法事項の配列には十 分留意されているが、今回行った調査から、pragmaticsの側面にも光を あてるべきであると考えられる。上地安貞(1994)は、「‘文化における言 語’という言葉を文化の一構成要素として位置づける視点も重要である。」 と述べている。ボーダレスといわれる現代社会において、様々な文化にお けるgratitude表現の違いを受け入れ、理解することにより、話者と聞き 手がお互いにinteractionを発展させていくことが異文化摩擦を引き起こ さないための処方箋となろう。そのためには教材の工夫と教師による適切 な指導が必要とされる。 調査結果 (表1)中学校1年生の全教科書のgratitude表現 本文中の表現の数 出現ページの数 Code l Code 2 Code 3 Code 4 Code 5 Code 6 130 7652000 4300004 3212000 7650003 1101000 5332000 W41006 教科書 CoE CrH T O S 合計 11 (38) (29) (ユ8) (8) (0) (0) (13) (0) (表2)中学校2年生の全教科書のgratitude表現 出現ページの数 Codeユ Code 2 Code 3 Code 4 Code 5 Code 6 CoE CrH T O S 合計 3303001 01 010000U 050000 542ユ0025 043ユ0001T20061 3321002 12 020000 80 75300ユ 5531004 14 0310000Q0040 ユユ00000ユ1110003 03 011000 ユー010000 0000006 04 033000 5523005 04 0210002 W50062 教科書 本文中の表現の数 (23) (22) (9) (10) (0) (0) (4) (1) (表3)中学校3年生の全教科書のgratitude表現 教科書 本文中の表現の数 出現ページの数 Code l Code 2 Code 3 Code 4 Code 5 Code 6 CoE CrH T O S 合計 (18) (16) (12) (3) (0) (0) (0) (3) (表4)全教科書のgratitude表現 教科書 合 計 本文中の表現の数 21 出現ページの数 P7 Code l Code 2 Code 3 Code 4 Code 5 Code 6 16 14 11 P5 P1 P0 P1 (79) (67) (39) (21) (0) (0) (17) (4) ユ31 (表5)中学校全教科書(本文以外)のgratitude表現に関する調査結果 Code 6 13 0 (英 語) 0 0% 0% 状況3 (日本語) l l.3% (英 語) 2 3% 0% ユ 1.3% 0 0% 0 0% 4 5.1% 1 ユ% (33) (1) (1) (0) (0) (1) RE 69 88.5% 57 9自 状況2(日本語) 0 結果 Qゾ 16.7% 被験 (36) 73% 61 78% 70 90% 55 71% 18 23% 尺度NU:No utterance(Those who have chosen「何も言わない」) 0嘱0幌0幌0幌3嘱5眺 (英 語) る 10.2% に 状況1(日本語) 8 問 個 ︵ 尺 度 々 E1 860ユ0 0 P Code 5 22000 00 のC 7%η跳8賜皿脳釣隅 者A 。% O Code 4 9900︵り00 Code 3 ナR 44000 00 捌p 87100 00 質A のN −脳0幌0嘱0嘱0嘱聡賜 Code 2 1←100000 Codeユ 6 U 44000 00 表N 教科書 Co E Cr H T O S 合 計 表現の数 NA:Not aceptable(A violation of a social norm, a faux pas, alikely instance of sociopragmatic failure.) PR:Problematic (An error that might cause misunderstanding, 132 but of a less serious nature. Language so strange, unexpected, or garl)led that interpretation is difficult. Instances of pragmalinguistic and/or sociopragmatic failure.) AC:Acceptable (Clear and appropriate language, but contain− ing small errors that do not interfere seriously with native speakers’understanding.) PE:Nativelike perfect(Close to native responses in content, syntax, and lexicon. RE:Resistant (Nonnative participants, although finding it possible to answer some items, refused to answer others, or gave reasolls why they could not or would not answer particular items. . 資料1 日米状況会話 問題 次の1∼3の状況にあなたが居ると仮定して下さい。各状況は日本 語と英語に分かれていますが、同じ内容です。ただし、日本語の場合は、 あなたは日本に居ると考え、英語の場合は、アメリカに居ると考えて答え て下さい。当てはまると思、う答えの番号に○をつけてください。下線を引 いてある単語は日本語訳が(注)の欄にありますので、参考にして下さい。 状況1 (日本で)駅前で、タクシーにのり、家の前につきました。タクシー運転 手はあなたに料金をつげました。あなたは運転手に料金をわたすとき、ど のようにいいますか? 1.何も言わない。 2.何か言う。 (言うことを下に、日本語で書いて下さい。) 133 (アメリカで)One day you take a taxi from the nearest station to your house. The taxi driver tells you the price in front of your house. When you give the money to the driver, what would you say? 1.何も言わない。 2.何か言う。 (言うことを下に、英語で書いて下さい。) 状況2 (日本で)あなたの誕生日に友達からプレゼントをもらいました。プレゼ ントは、とても素敵な黒色のセーターです。あなたはどのようにいいます か? 1.何も言わない。 2.何か言う。 (言うことを下に、日本語で書いて下さい。) (アメリカで)Your friend gives you a present on your birthday. The present is a really nice black sweater. What would you say? 1.何も言わない。 (注)sweaterセーター 2.何か言う。 (言うことを下に、英語で書いて下さい。) 状況3 (日本で)友達がレコード店に行くというので、一緒に行きました。自分 が前から欲しかったビデオが一本だけその店に残っていました。別の客が それを買いそうな雰囲気があったが、自分はお金を持っていません。そこ で友達が代金の2万円を貸してくれました。 1.何も言わない。 2。何か言う。 (言うことを下に、日本語で書いて下さい。) (アメリカで)You go to a record shop with your friend. You find avideo tape. You have wanted it very much. Another person wants 134 to buy it. You have no money. But your friend lend you¥20,000 for the video tape. What would you say? (注)lend 貸す 1.何も言わない。 2.何か言う。 (言うことを下に、英語で書いて下さい。) 参考文献 Apte,M.L.(ユ974)“‘Thank you’and South Asian Language”, Intemαtionαl Joumα1(’f Sociology(ゾLαnguage,3, PP.67−89. Brown.P. and Levinson.S.(1987)Politeness:soη乙θuniversαls in lαnguαge usage, Cambridge:Cambridge University Press. Coulmas.F.(1981) “Poison to your sou1:Thanks and apologies contrastively viewed”in Coulmas(ed)σonversαtionαl routine: exρlorations in stαndardized Cαη,municαtion situαtionsαnd prepαttemed sρeech, The Hague:Mouton, pp.66−91. 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