海面上昇問題と生存基盤の喪失 -太平洋島嶼の現実から

2009.01.29 アジア循環型社会の形成:文理対話型研究報告
GLOCOL・RISSの若手研究者による挑戦
三田貴「海面上昇問題と生存基盤の喪失」
本発表の目的
第32回GLOCOLセミナー/サステイナビリティ・サイエンス研究機構:人間の安全保障ワークショップ
アジア循環型社会の形成:文理対話型研究報告
„
「海面上昇問題と生存基盤の喪失
-太平洋島嶼の現実から-」
太平洋島嶼の現実から 」
„
パラオ共和国における
「大潮満潮時の冠水被害現状」・「海岸侵食状況」の報告
現地訪問時期
„ 2008年8月1日から13日まで
„
„
8月1日:満月
2009年1月7日から18日まで
„
1月11日:満月
大阪大学グローバルコラボレーションセンター
特任研究員 三田 貴
本発表の構成
1.
1.パラオ概要: 位置
パラオにおける現状報告
„
ビデオ映像
2.
3.
„
„
原因・要因の推測
対策・研究の方向性の検討
対策
研究の方向性の検討
„
„
場所: 西太平洋 ミクロネシア地域
気候:熱帯性海洋気候
パラオ諸島:
300以上の島 10の有人島
面積: 458平方km
人口 (2005年国勢調査)
„ 総人口19,907
„ パラオ人(市民): 14,438
„ 外国人(非市民): 5,469
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パラオ概要:
パラオ共和国:主要部
„
„
バベルダオブ島(パラオ本島)
„
首都(2006~):
„
マルキョク(Melekeok)
„
政治的地位: 独立(米国自由連合国)
(50 年間: 1994~2043)
大統領制
議会: 二院制
„ 上院(13名)
„ 下院(16名)
年間国家予算
„ 約5500万米ドル(約55億円)
16の州
ロックアイランズ
米国との「自由連合協定」に基づい
た「独立」
民主主義+伝統政治
„ 国家予算規模は、日本の「町」の
財政と同程度
(cf. 豊能町(人口2.4万人)=77億円
能勢町(人口1.3万人)=46億円)
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(Rock Islands)
„
旧首都・最大都市:
コロール(Koror)
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2009.01.29 アジア循環型社会の形成:文理対話型研究報告
GLOCOL・RISSの若手研究者による挑戦
三田貴「海面上昇問題と生存基盤の喪失」
被害の状況
主要経済指標(2005)
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使用通貨:米ドル
GDP(国内総生産): 1億4千万ドル
一人当たり GDP: $6,874
GDPに占める公的部門の割合: 29% (2005)
世帯収入:
US$15,107
失業率:
4.2%
Source: Palau Census (2005)
生活域の冠水、農地(作物)の被害、海岸浸食
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ガラルド州(海岸侵食、タロ畑の被害)
マルキョク州(海岸侵食、タロ畑の被害)
アルモノグイ州(人工物の浸水、タロ畑の被害)
アイライ州(人工物の浸水、タロ畑の被害)
コロール州都市部(人工物の浸水、タロ畑の被害)
コロール州ロックアイランズ(海岸侵食)
ペリリュー州(タロ畑の被害、墓地への影響)
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2回の訪問で確認した被害
人工構造物の冠水
海岸侵食
ガラルド州
タロ畑の被害
ビデオ映像
アルモノグイ州
マルキョク州
ロックアイランズ
アイライ州
(Rock Islands)
コロール州
ペリリュー州(島)
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被害の状況(冠水)
Koror州 Butilei地区
コロール州Butilei地区 09年1月11日 18:08 [18:00: 予測221cm 実測253.4cm]
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コロール州都市部(人工物の浸水、タロ畑の被害)
„
コロール州都市部(人工物の浸水、タロ畑の被害)
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2009.01.29 アジア循環型社会の形成:文理対話型研究報告
GLOCOL・RISSの若手研究者による挑戦
三田貴「海面上昇問題と生存基盤の喪失」
海岸侵食
住民の証言
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コロール州ガルメアウス島 08年8月11日
コロール住民(Butilei地区)の証言
„
コロール州都市部(人工物の浸水、タロ畑の被害)
10年ほど前から、まれに冠水することはあった
2年から4年前から冠水が頻発するようになった
現在は、満月と新月の前後には例外なく冠水が発生
„
„
„
„
毎回の冠水自体には慣れているが、将来に大きな不安
を感じている
„
冠水など予想もせずに5年以上前に家を建てたが、4年
ほど前から家屋周囲に水が入るようになった
土台を高くすればよいのか?
費用はだれが負担してくれるのか?
„
„
コロール州海洋レンジャー証言
海岸侵食
ガラルド州 09年1月11日
„
コロール州レンジャーの証言
„
コロール州都市部(人工物の浸水、タロ畑の被害)
Mr. Estephan Kintaro
Captain, Koror State Rangers
„ ロックアイランズの木々の根の露出は全域で発生
マラカルのレンジャー基地前の構造物が冠水する
マラカルのレンジャ
基地前の構造物が冠水する
ようになったのは2007年9月から
„ ここ2-3年、潮時表が実際とあっていない
„
„
干潮予測がマイナスとなっていても、その通りにな
らない
„
スピアフィッシングをするが、干潮時の潮が低くなら
ない
タロイモ畑の被害
ペリリュー島住民の証言
ぺリリュー州 09年1月12日
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コロール州都市部(人工物の浸水、タロ畑の被害)
„
„
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„
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„
„
2年前から水が溜まるようになった
海岸線近くのタロパッチは、8か月前から再び水が溜まり、いま
だに抜けることはない
ペリリュー島のタロパッチは、水田ではない。水が出入りする
水路もない。そのため一度水がたまると抜けにくい
タロイモはほとんどが、腐ってしまった。
収穫後 通常は茎を植え 再生産するが 今は植える場所が
収穫後、通常は茎を植えて再生産するが、今は植える場所が
ない
伝統行事のときは、コロールからタロを購入しなければならなく
なった
大統領就任式へのタロの提供は今年はできない(4年前は提
供した)
墓地で死者を埋葬する際、掘った穴から海水が湧き出てきて、
埋葬に使えなかった(2008年、2か所)。
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2009.01.29 アジア循環型社会の形成:文理対話型研究報告
GLOCOL・RISSの若手研究者による挑戦
三田貴「海面上昇問題と生存基盤の喪失」
アイライ州住民の証言
不安全要素の出現
„
„
„
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4年前に自宅付近のタロパッチで、タロの根が腐る
2004年に、自分のタロパッチの近くの(別の人が所有
する)タロパッチに海水が入る(対策をとる)
以前は4月と8月が潮が高くなる時期であったが、2008
年は毎月高いと感じる
Mengeai(マガヤイ=半月)のときに潮が高くならない
時間が長くなる日(注:長潮と思われる)があり、マン
グローブ貝の収獲に適しているが、今は、それがなく
なり、その日も日に2回の満潮があるため貝の収穫に
適さなくなった。2004年頃から。
問題の原因・要因(可能性)
生活の場への影響(冠水による不便さ、建物への影響)
住民の不安感の増大
作物への被害(農地への海水の流入、地下水の塩化)
環境の変化(木々の倒壊)
墓地への影響(埋葬地)
衛生上の問題(下水の逆流)
伝統知識が通用しない(海産物の収獲、水路交通、)
パラオ・コロール 潮位データ
予測値と実測値(毎時データ)の月別平均差
2004年1月から2009年1月
海面の上昇
地盤沈下
大陸棚
潮流の変化 波浪
潮流の変化、波浪
不適切な開発(住宅地、農地)
人間による過度の使用(ガルメアウス島など)
農地の管理方法変化(タロ、外国人労働者)
出典: University of Hawaii Sea Level Center提供データより加工
研究・対策の方向性
潮位データの分析
予測と実測データの比較
最高潮位の確認
住民の証言との比較
研究・調査による把握
民族誌、歴史資料からの生活圏の特定
考古学的研究(古代の生活圏)
オーラルヒストリー(海の利用、月の利用)
研究・対策の方向性
政策の検討
監視体制の構築
脆弱地域の特定と住民への告知
家屋の改築・土地の再造成
移転
護岸工事、防潮堤建設
住民との連携による実態調査
住民による潮位の継続的計測
写真記録
住民の証言・認識の収集
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