J-PARC MRのビーム位置モニタのゲイン校正法 P.437

Proceedings of the 8th Annual Meeting of Particle Accelerator Society of Japan (August 1-3, 2011, Tsukuba, Japan)
BEAM BASED GAIN CALIBRATION METHOD FOR BEA M POSITION
MONITOR AT J-P
PARC MR
Masaki Tejima#,A), Takeshi Toyamaa A), Shuichiro Hatakeyama B) and Junpei Takano A)
A)
High Energy Accelerator Research Organization (KEK), Accelerator Laboratory,
1-1 Oho, Tsukuba 305-0801, Japan
B)
Japan Atomic Energy Agency (JAEA)
2--4 Shirane Shiirakata, Tokai -mura, Naka--gun, Ibaraki 319-1195, Japan
Abstract
Stability of the closed orbit
o
is one of very import ant points for stable operations to keep a small beam loss in MR..
The relative gains of the output
o
data may drift due to unpredictable imbalance among output signals from the pickup
electrodes, because the output signals must travel through separate paths, such as cable s, connectors, attenuators,,
switches, and then are measured by deteectors. In KEK B, we found noticeable errors larger than 0.1mm in the almost all
BPM readings. In KEKB,, A non-linear chi-square m ethod has received practical applicatio n to calibrate these errors
come from the imbalance among 4 output voltage o f a BPM. However, we were not able t o apply a same method as
KEKB to analyze a gain of BPMs in J-PARC. We n oticed linear relations among 4 output s voltage and analyzed the
imbalance byy the total leaast-squares method. This p aper introduce the new method to estim ate the related gains from
four output data of a BPM head.
J-PARC MR のビー ム位置モ
モニタのゲイン校正 法
も、同様の方法、即ち非線形 最小二乗法でゲイン校
ってしまった
た。
正を試みたが、解析結果は不 定解になっ
それ
は、J-PARC
の
BPM
電極
は上下の組
と左右の組
ビーム位置モニタ(BPM)は、ビーム電流モ ニタ
とチュ-ン モニタと並 んで、円形 加速器に必 須の で構成されており(図 1)、K EKB のように同じ断面
に 4 電極が構成されてい なため、上下と左右の電
ビーム診断装置である。
。特にビーム位置モニタ は、 上に
極の
の出力電圧の間には結合関 係がないことが解析不
全周に設置され、周回ビームの軌道を測定する ため
定の
の理由である。
の装置で重要な診断装置である。通常、ビーム 位置
J-PARC MR のような対 角線カット 電極を持つ
リングに設置する前にテ スト
モニタヘッドは加速器リ
に対してゲインを校正す るために、線形最小二
BPM
ベンチ上で、ワイヤを流れる信号をビーム電流 に見
乗
法
で
解 析 す る 方 法 を 開 発 し た 。 そ れ は 、 Least
立てて校正する。
Squa
res
(LS)法で解析するこ とができるが、解析の残
J-PARC の
の場合も BPM ヘッドをはじめ、信号 処理
[1]
差
を
よ
り
小 さ く す る た め に 、 Total Least Squares
回路、信号 伝送ケーブル等が校正された 。し かし、
[3]
(TLS
)法
が採用
された。本論 文では、KEKB で採用
これらの校正を全て実施したとしても、信号伝 送に
され
た非線形最
小二乗法によ
るゲイン解析法を説明
おけるコネクタ等の接続部は、切り離して再接 続を
し、
の
BPM
のゲ
イン校正のために開発
J-PARC
MR
するだけで、接触抵抗が変化するし、また周辺 の環
た、線形最
小二乗法によ
るゲイン解
析法を提案
され
境温度の変化や、信号処理回路の経年変化も、 4 電
する
。
し、これらの 校正で得ら れた
極信号のバ ランス崩し
BPM の4電極のバランスは保存されない。
KEKB では、この 4 電極信号の出力電圧のバ ラン
ス、即ち相対的な応答ゲインの変化を補正する ため
に、実際のビーム信号を使って、BPM ヘッドか ら処
の応答ゲインを各電極毎 に校
理回路までの出力電圧の
正した。これを、ビーム・ベースド・ゲイン・ キ校
正(Beam Based Gain Calibrations, BBGC)と呼 ぶが、
前提として BPM の断面形状で決まる BPM モデ ルを
仮定し、非線形最小二乗法で、出力電圧のゲイ ンを
校正する方 法である[2]。このゲインを校正した 結果、
図1:J-PARC M R の BPM
KEKB の Closed Orbit Distortion (COD) 補正をは じめ、
BPM を使用する各種のオプティクス
ス補正の再現 性は
画期的に改 善され、KE
EKB の世界 最高のルミ ノシ 2. 非線形最小二乗法に よるゲイン校正
ティ達成に貢献した。J--PARC MR の BPM に対 して
BPM の相対的な出力ゲイ ンを校正する目的で非
____________________________________________
#
線形最小二乗法による BBG C 法が KEKB で開発さ
masaki.tejim
[email protected]
1.
はじめに
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Proceedings of the 8th Annual Meeting of Particle Accelerator Society of Japan (August 1-3, 2011, Tsukuba, Japan)
れた。
。
極 i の出力電圧は次式のよう に表される。
2.1
Vi, j  g i  q j  Fi x j ,y j 
4電極 BPM の出力電圧モデル
図2のように、4 電極を持つ BPM の i 番目の 出力
とすると出力電圧は次式の
のように表す こと
電圧を Vi と
ができる。
Vi  gi  q  Fi  x, y 
i  1,2,3,4
上式の q はビームの電荷で、x, y は BPM の 幾何
学的な中心 からの相対 的な位置を意味する。F i(x,y)
はビーム位置に対する応答を意味し、Fi(0,0)=1 で規
格化された関数である。
。この応答関数は次式の よう
ができる。
な調和関数で表すことが
この時、ゲイン gi は m 回 の測定の間、変わらな
いものとし、g1 に対する比 と定義する。4m 個の測
定値 Vij に対して
て、未知数は gi qj, xj, yj の 3m+3 個で
あるから、m>4 回の測定条件 を満たせば、最小二乗
法で解析できる。
。個々の BP M の各電極の相対的な
ゲインの解析は次式のような 非線形最小二乗法によ
る。

4
 

3
 3 x 2 y  b3 3 xy 2  y 3
4
 6 x y  y  b4 x y  xy
2
2
4

m
i
j
V
i,j

 g i q j Fi x j, y j 
 i2, j
2
,
a   g 2 , g 3 , g 4 , q 1 , x1 , y1 ,  , q m ,x m ,y m 
 a2 x 2  y 2  b2 2 xy 
3
4
 a    
2
F1  x, y   1  a1 x  b1 y

 a x
 a x
i  1, , ,4, j  1,  ,m

3
3

係数 a1, a2 , , a4 と b1, b2, , b4 は、BPM の形 状に
依存する。BPM の形状が図 2 のような場合、各 電極
の応答関数は次式のよう
うな関係になる。
 F2  x,y   F1  x,y 

 F3  x,y   F1  x,  y 
 F  x,y   F x,  y 
1
 4
KEKB で、2003 年 5 月に全 BPM の BBGC を実施
したところ、図 3 のように 、ほとんど全ての BPM
のゲインは数%の値を示し 、5%以上の大きな値を
示す BPM も 20 台以上もあ ることがわかった。それ
以来、KEKB では BPM の BBGC を毎月実施し、
BPM の測定再現性を保障 してきた。この BBGC の
ためのビーム・マッピングは 、HER 及び LER の両
リングを測定するために要す る時間は約 20 分程度
である。
ーブルの伝送 特性
gi は、コネクタの接触抵抗、ケー
や処理回路のゲイン等によって決まる電極毎の 相対
的なゲインを意味する。
図 3:KEKB HER の BPM ゲイン
3.
図 2:B
BPM のモデル
2.2
ビーム・ベースド・ゲイン解析
m 回の異なるビーム軌道における電極の出力 電圧
Vij を測定してビーム・マッピング・データを得 る。
このとき、j 回目のビーム軌道における BPM の電
J-PARC BPM におけ る BBGC
J-PARC MR はビーム位置 に比例する直線性の良
い出力信号を得るために、図 1のような対角線カッ
トの静電誘導型の電極を持 つ BPM を採用した。こ
の BPM に対して、各電極毎 の出力電圧モデルを以
下の式のように定義し、KEK B と同じ非線形最小二
二
乗法でゲイン解析のシミュレ ーションをしたところ、
qi, xi, yi に与えた初期値によ って結果が変わるという
不定解に陥った。この理由に ついて現在検討中であ
るが、非線形最小二乗法は、 4 電極間の出力応答に
非線形ながら結合関係がある ことを前提にしている
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ため、図 1 のような電極においては水平と垂直 の電
極の出力応答に結合関係がないためと思われる 。そ
を持つ BPM のた
こで、私達は、対角線カット電極を
たに提案する。
めのゲイン解析法を新た
3.1
対角線カット電極を持つ BPM の出力電圧
図 1 のよ
ような BPM の
の4電極の出力電圧
次式のように定義する。
Vi は、

 x
 x
VL    1  a , VR  g R    1  a 





(1)

V  g    1  y , V  g    1  y 
U
D
D
 U
 a
 a
(2)
線形最小二乗法でゲイ ン解析
いる LS 法で
前節の連立方程式(4)はよく 知られてい
も解くことができる。
しかし、測定値である VLj , VRj, VUj, VDj には、測定
ているため、
誤差 ΔVLj,ΔVRj,ΔVUj,ΔVDj が含まれて
した LS 法で
VLj に測定誤差を含まないこ とを前提にし
解くことに問題がある。特に 誤差が大きい測定値を
う場合、LS 法は、ベスト ・フィッティングしな
扱う
い場合がある。そこで、VLj に測定誤差を含まれて
いても近似できる TLS 法で 解析することにした。
TLS 法は解析で得られた近似 線あるいは近似面から
の垂直方向の残差二乗を最小 にする結果に基づくた
め、ベスト・フィッティング の解析結果を得ること
できる。
がで
3.4
係数 a は BPM ダクトの電極内面の実効的な 半径
である。λは BPM 内を通過するビームの線電 荷で
ある。ゲイン gR, gU, gD も前章と同様に gL に対 する
比である。したがって gL=1 を与える。(1)式か ら、
x/a 及び y/a を消去すると


1
1
V R 
=  V L 
2
gR



= 1  1 V  1 V 
U
D 

2  g U
gR


3.3
ゲイン解析のシミュレー
ーション
BPM モデルのマッピング データによるゲイン解
ーションを行 った。この シミュレー
析の シミュレー
ションに使用したマッピング ・データは 3.1 節で定
義した式で計算された出力電 圧で、25 カ所のビーム
位置 に対して、0.2%のガウ スノイズが 加えられた
ッピングであ
12500 点をプロットした図の ようなマッ
る 。シ ミ ュ レー シ ョ ン の た め の ゲ イン と し て
gR=1.01, gU=1.005, gD=0.975 を与えてある。このマッ
ピング・データを使って、L S 法と TLS 法のゲイン
解析を比較したところ表 1 の ような結果になった。
さらに、上の 2 式からλを消去すると次式が得 られ
る。
VL  
3.2
1
1
1
VU 
VD
VR 
gD
gR
gU
(3)
ビーム・マッピングの連立方程式
対角線カット BPM の 4 電極出力電圧は、gR , gU,
とができた。m 個
gD の係数を付けた線形式で表すこと
のビーム位置からなるビーム・マッ
ッピングに対 する
うな行列で表す。
連立方程式を次式のよう
  VR1 VU 1 VD1  1   VL1 

 g




 R    
 1  
 V
 V 
VUj VDj 
Rj

 gU   Lj 


 1    
 
 V


 Rm VUm VDm  g D  VLmm 
(4)
図4:シミュレーショ ン用マッピング
ビー
ーム位置のプロット 赤 :補正前、黒:補正後
VLj, VRj, VUj, VDj は測定値で、gR, gU, gD が求め たい
未知数である。
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表 1:ゲイン解析の結果
TLS 法
誤差
LS 法
誤差
gR
1.0138
0.0038
1.0381
0.0281
3.6
gU
1.0066
0.0016
1.0183
0.0133
第 2 章の 3 電極ビーム位置 のコンシステンシー・
チェックで、解析結果の検定 をすることができない
ので、式(2)の VL と VR で計 算したλLR と VU と VD
で計算したλUD の値のコンス テンシーをチェックし
た。表 3 に示すように、λL R とλUD の値がゲイン補
正前の大きさに比べ、補正後 は明らかに小さくなっ
ており、コンシステンシーが 良くなった。
gD
0.97 71
0.00 21
0.98 89
0.1 39
誤差の欄は予め与えられた正解ゲインとの差 であ
る。表1に示されたように、TLS 法で解析され たゲ
インの誤差は LS 法の誤差より一桁小さい値で 、ベ
スト・フィッティングであることがわかる。
3.5
ゲイン解析結果の検定
実際のビーム・マッピングでゲイン解析
実 際 の ビ ー ム を 9 点 の 異 な る 軌 道 を 作 り 、 JPARC MR の BPM で 4 回測定した出力電圧デー
ータか
ら、ビーム・マッピングをつくり、ゲイン解析 の試
験を行った(図5)。表2に示されたゲイン解 析の
で解析されたゲインで補 正す
結果によると、TLS 法で
る と 、 そ の ビ ー ム 位 置 は BPM001 の 場 合 は Δ
X=0.24mm, ΔY=‐0.558mm、BPM002 の場合 、Δ
X=1.72mm, ΔY=‐1.4mm の図 5 に示すような 大き
なオフセッ ト値を補正す ることになる。また、 TLS
たゲインの値を比較する と小
法と LS 法で解析された
数点以下 3 桁目に違いがある。この違いをビー
ーム位
でΔX≒0.16m m、
置に換算すると、BPM0001 の場合で
ΔY≒0.001mm、BPM002 の場合でΔX≒0.2mm 、Δ
Y≒-1.4mm に相当し、無視できない値である。
表2:BBGC の試験結果
表 3:λLR とλ UD の比較
BPM001
λLR
λUD
Δλ
補正前
82584
8 1900
684
補正後
82330
8 2328
2
BPM002
λLR
λUD
Δλ
補正前
84223
8 2975
1247
補正後
86111
8 6115
-4
4.
結論
J-PARC MR では、対角 線カットの 電極を持つ
BPM の出力電圧のゲイン校 正のために、TLS 法で
解析 する新しい方法が開発 された。こ の方法でシ
ミュ レーションが行われ、 通常よく使 われている
LS 法に比べ、小さい誤差で 期待通りのゲインを得
ることができた。また、実際 のビーム信号でマッピ
ングデータを測定し、ゲイン 解析の試験が行われた
結果、その有効性が確認され た。今後、全ての BPM
でゲイン解析を定期的に実施 し、ゲイン
ンの経年変化
をチェックする必要がある。
BPM001
TLS 法
gR
gU
gD
1.0062
1.0024
0.9873
5.
LS 法
1.0103
1.0045
0.9892
BPM002
TLS 法
gR
gU
gD
0.9568
0.9811
0.9463
BBGA のビー
ームマッピン グを測定するために、異
なるビー軌道を作る際に多大 な協力をいただいた、
電磁石部門の中村 衆氏に感 謝します。
LS 法
0.9617
0.9838
0.9487
参考文献
謝辞
[1] T. Toyama, et al, POW013, P roceedings of DIPAC 2005,,
Lyon, France
[2] K. SATOH and M. TEJIM A, Proceedings of the 19977
Particle Accelerrator Conferenc e, Vancouver, 2087.
[3] Ivan Markovsky and Sabine V a Huffel. “Overview of totall
least squares methods”, Signa l Processing 87 (2007) 2283-2302.
図5:ビー
ーム・マッピング(BPM001 と BPM00 2)
黒:補正前、赤:補正後
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