Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 32, No. 5 ロシアのサンクトペテルブルグにおける最適な一般廃棄物 処理システム設計と導入による影響評価 Impacts evaluation of an optimal solid waste utilization system introduction in St.Petersburg city, Russia ロ ジ オ ノ フ ミ ハ イ ル *・ 中 田 俊 彦 Mikhail Rodionov ** Toshihiko Nakata (原稿受付日 2011 年 1 月 25 日,受理日 2011 年 8 月 2 日) This paper describes several benefits of the integration of designed optimal municipal solid waste (MSW) utilization system considering energy recovery options and present energy system. A linear programming model has been developed in order to analyse proposed municipal solid waste system, taking into account the 3E’s (energy, economic, and environment) aspects. The objective function of the model is to minimize the net cost of the system, under several constraints. A case study in St.Petersburg city, Russia, has been carried out for evaluation of proposed the MSW system. The results show that the introduction of an optimal MSW utilization system has energy, environmental and economic benefits compared with the present system. The proposed integrated system can produce 1,900 GWh/year of heat or 542 GWh/year of electricity in average, which can be supplied to the existing energy system. In addition, the system can reduce the amount of landfilled waste from 89% to 20%, and reduce total system’s CO2 emission by more than 70%. 比べて DHS の総熱供給量は高く、7,947 PJ/year である。現 1.まえがき 在、DHS の普及率は 70%であるが、今後さらに増加すると 近年、低炭素社会及び循環型社会を実現させるために各 予想される 国政府は、廃棄物最終処分場の削減、再資源化率の向上及 として有効利用することが望ましいと思われる。増加の一 ル ギ ー 資 源 と し て 一 般 廃 棄 物 (MSW, Municipal Solid 途をたどっている一般廃棄物をエネルギー源として利用す Waste) の利活用が注目されている。一般廃棄物は高い発熱 れば、ゴミの削減にもつながる。 量を有するバイオマスの一種であり、世界各地でエネルギ しかしながら、化石資源大国のロシアでは、大量に発生 ー資源として使われている。特に北欧やドイツなど、冬の した一般廃棄物はこれまでエネルギー資源としてほとんど 気候が厳しい国では、一般廃棄物を焼却処理し、回収した 1) 使われずに埋め立てられてきた。そのおもな原因はいくつ 。 かある。まず、現在のロシアでは最適な廃棄物処理システ さらに、北欧における一般廃棄物のエネルギー利用を対象 とした先行研究はいくつか存在する。Holmgren ら 2) 。そこで、それに対応するために、北欧やド イツの事例のようにロシアでも一般廃棄物をエネルギー源 び廃棄物処理の改善などを推進している。なかでも、エネ 熱や電気をエネルギーシステムに供給する実例が多い 5) ムが導入されていないことと、廃棄物処理方法に関する法 と 律が存在しない、再資源化市場がいまだに確立していない Luoranen ら 3)は、一般廃棄物を対象とした線形最適化モデ 等の原因もある。さらに、これまでロシアの一般廃棄物処 ルにより、エネルギーやコストフローを解析した。その結 理システムに関する研究はほとんど進んでおらず、発表さ 果、地域熱供給システム(DHS, District Heating System)に、 れた調査研究例もわずかである。Nozhevnikova ら 6)は、実 エネルギー源として一般廃棄物を利用することが可能であ 験方法を用いて、ロシア全体における埋立地からのメタン り、経済的にも有利であることを示した。焼却処理が多い 排出量を推定した。また、Hunsicker ら 7)は、アジア各国と 日本では、一般廃棄物処理システムの一部を対象にした研 ロシアとの比較研究を行い、ロシアにおける一般廃棄物施 究が存在する。山成ら 4)は、固形化燃料(RDF)発電事業の有 設の数が少ない点や老朽化が進んでいることを指摘した。 効性を、エネルギー・環境への影響・コストの面から評価 これらは、埋立地から発生するメタンガス排出量や他国と した。そして、一般廃棄物発電の有効利用や CO2 削減効果 の比較については研究されているが、一般廃棄物処理シス を明らかにした。 テム向上やシステム全体に及び経済・環境・エネルギー評 ロシアは資源が豊富な大国としてだけでなく、最大級規 価については追求されていない。これらの焦点を当てて研 模の DHS を利用する国としても知られている。また他国に 究を行う必要がある。 * 東北大学大学院工学研究科技術社会システム専攻 〒980-8579 仙台市青葉区荒巻字青葉 6-6-11-816 E-mail: [email protected] ** 東北大学大学院工学研究科技術社会システム専攻 〒980-8579 仙台市青葉区荒巻字青葉 6-6-11-815 E-mail: [email protected] 以上のような背景から、本研究の最終的な目的は、ロシ アにおけるエネルギー回収を考慮した一般廃棄物処理シス テムの最適設計、システムの性能評価と導入可能性評価で ある。 17 しかし、ロシアでは地方別の経済状態や気候など Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 32, No. 5 利用した基礎式について、以下で説明する。 の差異が著しく、統計データの取得が困難なためロシア全 体を解析するのは難しい。そこで本稿の解析では、ケース スタディとしてロシアの北西地方の州都であるサンクトペ テルブルグ市を解析対象とする。本解析では、以下の 3 点 を目的とする。まず、一般廃棄物処理システムにエネルギ ー回収技術(焼却、RDF (Refuse derived fuel)、埋立ガス(LFG, Landfill gas)回収システムなど)を導入した新たな廃棄物 処理システムを設計する。次に、開発した最適化モデルに より、設計したシステムのエネルギー収支、経済性、CO2 排出量などを解析する。最後に、サンクトペテルブルグ市 を対象としたケーススタディを行い、設計したシステムを 図2 導入するために、エネルギー・経済・環境への影響の観点 Energy system considering waste utilization を考慮した最適な条件を提案することである。 一般廃棄物の処理プロセス中に回収可能なエネルギーの 量( En, [GWh / year])を式(1)により求める。 2.解析方法 En = ∑ ∑ qij ( LHVi + LHVRDF + LHVLFG ⋅ grLFG ⋅ (1) エネルギーシステムの提案 i (1) j ⋅ effcoll LFG + LHVgas ⋅ grgas ⋅ effcoll gas ) ⋅η e ,h 現在のロシアでは一般廃棄物処理システムとエネルギ ーシステムはまったく異なるシステムとして使われている。 本研究では、エネルギー回収を考慮した一般廃棄物処理シ effcollgas effcollLFG : collection efficiency of biogas (%) : collection efficiency of landfilling gas (%) : efficiency(thermal or electric) : biogas generation rate [m3gas/ton org.waste] : landfilling gas generation rate [m3gas/ton org.waste] : lower heating value for i-waste type [MJ/ton] : lower heating value for biogas [MJ/m3gas] : lower heating value for landfilling gas [MJ/m3LFG] : lower heating value for RDF [MJ/ton] : quantity of i-waste type allocated to j-facility [ton/year] ηe,h ステム(図 1)を設計し、現在のエネルギーシステムとの grgas grLFG LHVi LHVgas LHVLFG LHVRDF qij 組み合わせが可能であると想定する。本研究の全体的な枠 組みと検討対象範囲(点線内)を図 2 に示す。なお、現在 のエネルギーシステムにおける総費用、CO2 の排出量及び エネルギー損失などについては加味していない。 一般廃棄物処理システムにおける年間の総費用 (TC, [USD/year])を式(2)により求める。 TC = ∑ qij (Ccap j ⋅ CRF j ⋅ LF / Tot j + Com j + j (2) + Ctrj ⋅ ( d j + rj ⋅ drj )) Ccapj Comj CRFj Ctrj dj drj LF rj Totj 図1 Proposed municipal solid waste management system : capital cost of j-treatment facility [USD/tcd] : operation and maintenance cost [USD/ton] : capital recovery factor : transportation cost [USD/ton/km] : round trip distance to treatment facility [km] : residue’s round trip distance to landfill [km] : country location cost factor : rate of residue production at j-treatment facility : treatment facility’s operation time [day/year] 一般廃棄物処理システムにおける温室効果ガスの排出量 (Em , [ton CO2-eq/year])を式(3)により求める。 (2)モデルの概要 一般廃棄物の最終処分(埋立処分)率(Landfilling rate, 本研究では、開発した最適化モデルを用いて解析を進 める。廃棄物と処理技術の種類、エネルギー、副産物など LF-rate)は、市内で 1 年間に発生した一般廃棄物のうちの、 の扱いと、それに加えた経済性及び環境への影響を数理モ そのまま埋め立て処分されるゴミの割合と処理後に発生す デル化して、設定する目的関数や制約条件をもとに解析を る残渣の割合を足したものである(式 4)。 行う。モデルの解を求める際には、最適化ツール GAMS (3) 目的関数と制約条件 本解析を行うために、式(5)に示したような目的関数と以 (General Algebraic Modeling System)を利用し、線形計画法 下の制約条件(6), (7), (8)を設定した。 (LP, Linear Programming) により最適化を行う。モデル中で 18 Em = ( ∑ ∑ qij ⋅ emf j + ∑ ∑ qij ⋅ ( d j + r j dr j ) ⋅ i j i j Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 32, No. 5 グ市では、2008 年の一般廃棄物合計排出量は約 106 万 ton (3) であった。このうち、再資源化施設で処理できる量は 23% captr −1 ⋅ emtr ) にすぎず、金属類の回収と堆肥化のみ行われた。 : truck load capacity [ton] : emissions factor for j-facility [ton CO2-eq /ton] : emissions factor for transportation [tons CO2-eq/km] captr emfj emtr ∑q i , landfill + ∑ ∑ qij ⋅ r j = LF − rate ⋅ ∑ qi i i qi j (4) i : amount of waste materials generated [t/year] Min ∑ NC j = Min ∑ (TC j − bk j ⋅ pk ) (5) ∑q = ∑∑q (6) j j i i ij i ∑q ij j ≤ Tcap j (7) i qij ≤ ai j ⋅ ∑ qi (8) i aij : waste material availability coefficient : amount of k-by-product generated in j-facility (ton/year or bkj GWh/year) : net cost of j-facility [USD/year] NCj : price of k-by-product [USD/ton] pk Tcapj : total capacity of j-facility [ton/year] 図3 Allocation of existing landfilling sites in St.Petersburg 表1 (4) 対象地域の特性 St.Petersburg data (2008) 8,9) Component 本研究では、ロシア北西地方の代表としてサンクトペテ Data 4.6×106 Population ルブルグ市を解析対象地域とする。北欧に最も近いサンク 1.35×103 km2 Total area トペテルブルグ市は、モスクワ市に次ぐロシア第二の大都 Average temperature 市である(図 3)。近年、サンクトペテルブルグ市では、環境 Electricity demand 保全に関する様々な活動が行われている。その中でも、排 District heating system 水処理や廃棄物処理及びゴミの分別などに力を入れている。 Heat supply network サンクトペテルブルグ市で設置されているエネルギーシス Heat demand テムは、おもに天然ガス(95%)と石炭(4%)を燃料とし Boiler facilities て利用している(表1)。さらに、市外にも行き渡るように Share in heat demand 5.3 ℃ 19,919 GWh 975.4 km 24,893 GWh >500 units Residential sector ロシア国内でも最大規模の DHS が完備されている。2008 年のサンクトペテルブルグ市での DHS の熱総需要量は、 24,893 GWh で、その内家庭部門の消費シェアは約 60% (14,935 GWh) を占めた。さらに、今後の都市開発により 58.96 % Industrial sector 4.9 % Transportation sector 0.8 % Commercial sector 23.72 % Other 11.62 % 2015 年にはそのシェアは現在より約 20% 増加すると予測 されている 8)。 表2 30 年以上前から導入されたサンクトペテルブルグ市の 一般廃棄物処理システムには、いくつかの欠点がある。そ Waste generation and composition in St.Petersburg10) Composition, % Amount, ton/year Waste type れはゴミの分別をしない、処理施設の規模が小さい、廃棄 Paper Glass 物運搬距離が長いなどである。2008 年には一般廃棄物を処 Metal 4.6 49,026 理するのに必要なコストは 112 USD/ton であった。現在 5 Plastics 11.3 120,433 Textile 3.8 40,499 1 10,658 つの廃棄物埋立処理施設と 2 つの再資源化施設 (MRF, Rubber and leather Material Recovery Facility) が設置されている。 Wood 15.6 13.7 166,261 146,011 0.8 8,526 Organic 34.9 371,955 の組成のデータは非公開のため、本解析では公開されてい Other 14.3 152,406 る 2002 年のデータを用いる(表 2)。サンクトペテルブル Total 100 1,065,775 サンクトペテルブルグ市における 2008 年の一般廃棄物 19 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 32, No. 5 c) Max Energy output (MaxE) ケース 残りの 77%の廃棄物は LFG の回収施設がない埋立地で処 分され、一般廃棄物の最終処分率は 89%となった。これら 本ケースは、設計した新たな一般廃棄物処理システムに の埋立地の容量は 10 年分しかない。また、2008 年に埋立 高性能の再資源化施設、コンポスト化施設の他、様々なエ 8 3 6 地から発生した LFG (1.1×10 m /year or 1.01×10 ton ネルギー回収施設(WTE, Waste to energy)が導入されたシ CO2-eq/year)は、メタンと CO2 及び少量の有機化合物から構 ステムを表す。MaxE ケースでは、設計した一般廃棄物処 成される温室効果ガスの一種であり、環境への影響は非常 理システムにおける最適なエネルギー源(電気また熱)及 に大きい。一般廃棄物処理による被害を削減するため、サ び回収可能なエネルギー量の値を明らかにする。そのため ンクトペテルブルグ市当局によって一般廃棄物に関する長 に設定した目的関数と制約条件を用いて解析を行う。さら 期計画(最終処分場削減、再資源化向上、焼却処理施設導 に、回収可能なエネルギー量の最大値と一般廃棄物の最終 入等)が作成された。 処分率及び目的関数の関連性を調べるために、感度解析を (5) 解析ケース設定 行う。 現在、ロシアでは MSW 処理に関する法律や条例が制定 新たな一般廃棄物処理システムには、LFG を市場価値の されていないため、本研究では、以下の 2 点をもとに解析 あるエネルギー源として利活用するため、最終処分場に ケースを設定する。一つは、都市廃棄物の埋立総重量の目 LFG の回収システム(抽出井、パイプ等)とエネルギー変 標を 75%、50%、35%に抑制するとした欧州連合 (EU) の 換装置(ボイラーや発電設備)を導入し、稼働していると 廃棄物の埋立に関する理事会命令(Landfill directive)である。 設定する。発生した電力や熱源(熱水または蒸気)を近接 そのため、一般廃棄物の最終処分率は重要なパラメータと する電力グリッドや DHS へ供給する。次に、焼却施設、 して解析に扱う。もう一つの点は、ロシア政府によって提 RDF 製造とメタン発酵施設(Anaerobic digestion)を導入する。 案された一般廃棄物長期計画である。 なお、本解析では RDF の原料に生ゴミ(organic waste)は含 設定したケースに対して、それぞれの制約条件を用いて まれていない。 解析を行った。本解析に用いた処理技術及び副産物の定単 それは、生ゴミが水分を多く含み、RDF の製造過程で発 価に関する入力データを表 3 と表 4 に示す。 酵や悪臭などの原因になり、製造した RDF の質が落ちるた a) Business as usual (BAU) ケース めである。 BAU ケースは、サンクトペテルブルグ市の現状(2008 年) エネルギー回収施設で回収した RDF やバイオガスなど を表している。市内で一年間に発生する一般廃棄物の大部 をすべて施設内でエネルギーに変換するものと仮定した。 分(70%以上)は、LFG の回収装置が設置されていない最 RDF、LFG とバイオガスの発熱量をそれぞれ、12 MJ/kg、 終処分場で埋め立てられる。残りの廃棄物は再資源化施設 17.7 MJ/m3、21 MJ/m3 とする。 で金属類回収とコンポスト化(堆肥化)を行う。しかし、作 導入した各施設でエネルギーの回収を行う際、発生する られたコンポストの質は低いため、需要は低く、ほとんど CO2 の排出量を IPCC16)が発表した手法により求める。各処 が最終処分場に戻される。 理施設の建設費と運用費をコストとして計算し、施設のス b) Landfill (LF) ケース ケールファクターと変動の大きい人件費は考慮しなかった。 本ケースは、サンクトペテルブルグ市で発生する一般廃 さらに、各ケースでは、一般廃棄物を収集場から処理施設 棄物を全く処理せず 100%埋め立てる状況を表している。 Technology 表3 Capital cost, ×103 USD/tcd に運送する際の運送費(2.1 USD/ton/km)、燃費(3.7 L/km)、 Waste treatment facilities data 17) O&M cost, Residue rate, Operation time, Emission factor, USD/ton % Days/year ton CO2-eq/ton 20 20 100 360 2.293 e) Incineration 80 c);120 d) 60 c); 60 d) 20 292 IPCC f) Landfilling a) 25 c); 40 d) 20 c); 30 d) 100 360 IPCC f) Composting 25 30 2.5 292 IPCC f) Material recovery 20 30 10 292 IPCC f) 20 c); 30 d) 30 c); 40 d) 5 292 IPCC f) 150 c); 180 d) 50 c); 60 d) 2 292 IPCC f) Landfilling RDF production Anaerobic digestion b) a) composed with landfill gas recovery system; b) assumed ; c) heat generation; d) electricity generation; e) for organic based waste (250 m3LFG/t ); f) based on IPCC methodology; CRF - Capital Recovery Factor; Discount rate=11%; Operation life=25 years; Thermal efficiency =70%; Heat losses = 15% ; Electrical efficiency = 20%; Electricity distribution losses = 12%; tcd - ton capacity per day; gas collection efficiency = 45%(LFG), 100%(biogas); 20 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 32, No. 5 表4 きる。その場合、システムにおける純費用と総費用は、そ By-product’s selling price By-product Price れぞれ 78.2×106 USD/year と 134.4×106 USD/year となる。 Reference 0.0058 8) 次に、システムから回収可能なエネルギーの量と最終処 Electricity, [USD/ kWh] 0.023 8) 分場の規模率の値を同時に変化させて感度解析を行った結 Compost, [USD/ton] 53.57 11) 果を以下に示す。設計したシステムを導入した場合、回収 38.16 12) 可能なエネルギー量の範囲は、熱の場合、16~1900 GWh/year、 Plastic, [USD/ton] 204.19 12) 電気の場合、5~542 GWh/year であることがわかった。さら Glass, [USD/ton] 45.08 13) Textile, [USD/ton] 38.16 14) 229.01 15) Heat, [USD/MJ] Paper, [USD/ton] Ferrous material, [USD/ton] に、一般廃棄物処理システムから得られるエネルギーの量 は、増加するにつれてシステムの純費用が熱回収の場合、 67.3×106 USD/year から 135.2×106 USD/year(図 4 a)、電 *1USD =25 RUB (2008) 積載量(11 ton)と平均運搬距離(40km)を一定とする。また、 処理施設で発生する残渣や灰などを最終処分場まで運搬す 気の場合、79.4×106 USD/year から 192.8×106 USD/year ま で徐々に増加する(図 4 b)。最大のエネルギー量を回収す るためには、LF-rate の値は熱と電気回収の場合は同じ 20% る距離を 10km と仮定する。 であった。一般廃棄物の最終処分率は、システムの構成と 3.解析結果と考察 回収可能なエネルギーの量に大きな影響を与えることがわ (1) BAU ケース かった。感度解析の結果から、図 5 は、各ケースにおける サンクトペテルブルグ市の現状を示す BAU ケースにお LF-rate の値とシステム構成を示す。MaxE ケースでは、焼 6 け る 一 般 廃 棄 物 処 理 シ ス テ ム の 総 費 用 は 107.8 × 10 却処理とメタン発酵システムがおもな処理技術となったた USD/year であり、その内最も高い割合(82%)を占めるの め、埋立処分される一般廃棄物が少なくなり LFG の発生量 6 は、ゴミの運送費用(88.5×10 USD/year)であることがわ が減少した。 かった。一般廃棄物処理コストは 101 USD/ton であった。 (4) システムの経済性 処理中に発生する副産物(堆肥と金属類のみ)の売却によ 新たな一般廃棄物処理システムの導入により、MaxE ケ 6 り、一般廃棄物処理システムの収益は 3.2×10 USD/year と ースにおけるシステムの総費用は 191.9×106 USD/year (熱 なった。本ケースでのシステム全体の温室効果ガスの排出 回収)から 213.4×106USD/year (電気回収)まで変化する。こ 量は 1.1×106 ton CO2-eq/year となった。これは、処理施設 れは、BAU ケース(107.8×106USD/year)に比べて、1.8~2 設備が不十分で、埋立処分がおもな処理方法であることが 倍増加する。MaxE ケースの 2 つの条件では、処理コスト 大きな影響を与えていると考えられる。 は 180.1 USD/ton(熱回収)と 200.2 USD/ton(電気回収) (2) LF ケース となった。BAU ケース(101.1 USD/ton)に比べて 1.7~1.9 倍 本ケースでは都市で発生する一般廃棄物は全く処理せず 高い。BAU ケースでは、副産物(堆肥と金属類)の割合が LFG 回収システムが設置されていない埋め立て地で処分さ 少なく、売却によって得られた収益が 3.2×106 USD/year れる。そのため、処理コストは最も低く 99.6 USD/ton とな であった。一方、MaxE ケースでは、新たなシステムの導 り、副産物が発生しないためシステム全体の年間総費用と 入により副産物の種類(プラスチック、熱、電気など)が 6 単純費用は同じ値 106.1×10 USD/year を示した。また、埋 増えたため、システムの収益が 17 倍増加した。 立処分とゴミの運搬による大量の温室効果ガスが発生し、 200 200 GWh 1200 GWh 6 System's net cost, 106 USD.year その量は 1.4×10 ton CO2-eq/year となった。 (3) MaxE ケース 2008 年にサンクトペテルブルグ市で発生した一般廃棄 物には、これまで利用されてこなかったエネルギーのポテ ンシャルが 3,073 GWh/year あることが明らかになった。設 計した一般廃棄処理システムの純費用(Net cost) を目的関 400 GWh 1400 GWh 600 GWh 1600 GWh 800 GWh 1800 GWh Maximal thermal output (LF-20%) Heat production cost: 0.027 USD/MJ 150 1000 GWh 1900 GWh BAU case 100 50 数として最小化を行った結果、回収可能なエネルギーの量 0 は 117.4 GWh/year となり、熱回収は最適な条件となった。 0 20 40 60 80 Landfilling rate, % 6 その際にシステムの純費用と総費用は、それぞれ 77.8×10 a) USD/year と 129.8×106 USD/year となった。それから、電 Heat production 図 4 Changes in annual system net cost (a) 気回収のみを目的にした場合、17.1 GWh/year 得ることがで 21 100 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 32, No. 5 施設により DHS に供給可能な熱エネルギーの量は 1,615 200 System's net cost, 106 USD/year 100 GWh 400 GWh 200 GWh 500 GWh 300 GWh 542 GWh GWh/year である。これはサンクトペテルブルグ市における 2008 年の熱消費量(24,893 GWh/year)の 6.4 %である。一 150 般廃棄物を熱資源として利用した場合、エネルギー生産コ ストは 0.027USD/MJ となり、現在の熱売却単価(0.0058 100 USD/MJ)と比べて 4 倍以上になる。 BAU case 一般廃棄物エネルギーを電気として回収した場合、供給 50 可能な電力は 476.96 GWh/year であり、これは 2008 年にお Maximal electrical output LF-rate 20% Electricity production cost: 0.354 USD/ kWh け る サ ン ク ト ペ テ ル ブ ル グ 市 の 電 力 消 費 量 (19,919 GWh/year)の 2.4%に相当する。その際に電気生産コストは 0 0 20 40 60 80 100 0.354 USD/kWh と な り 、 現 在 の 電 気 売 却 単 価 (0.023 Landfilling rate, % b) Electricity production USD/kWh)を約 15 倍上回る。現在のサンクトペテルブルグ 図 4 Changes in annual system net cost (b) 市のエネルギーシステムと新たな一般廃棄物処理システム を組み合わせることによって、現在使われている化石燃料 BAU case LF case 1 MaxE case Electricity Anaer.digestion Heat の最大 6%程度が削減可能となる。 Material recovery Composting 0.8 System's net cost, 106 USD/year Waste allocation, 106 ton/year 1.2 Incineration Landfill 0.6 0.4 0.2 0 LF-rate 89 LF-rate 100 LF-rate 20 LF-rate 20 Landfilling rate, % 200 Electrical output: 100% 150 BAU case 100 Thermal output: 100% 50 Boundary for energy production 0 図 5 System’s configuration 0 2 4 6 8 Annual energy production from waste, GJ/ton (5) システムに伴う環境への影響 図 6 Boundary for energy production from MSW 設計した一般廃棄物処理システムの導入によって、シス テム全体の CO2 排出量を削減することが可能となった。 50 BAU ケースでは 1.1×106 ton CO2-eq/year の CO2 が排出さ Total demand: 46.4 Total demand: 44.8 Total demand: 45.3 2.4% Total energy demand, 103 GWh/year れたが、MaxE ケースでは、熱また電気を回収した場合の CO2 排出量はほぼ同じ(0.37×106 ton CO2-eq/year)となった。 これは BAU ケースの 34%である。また、Landfill ケース の CO2 排出量を 100%とした場合、新しいシステムの導入 により、70% 以上の CO2 排出量を削減することが可能とな った。 (6) エネルギーシステムへの影響 Electricity from MSW 40 Electricity from fossil fuel 30 44% 6.4% 20 10 Heat from MSW 56% Heat from fossil fuel 設計した新たなシステムから得られるエネルギーの最大 0 の値と、エネルギー回収可能な範囲を図 6 に示す。図 6 の Convential with MSW for Heat 黒丸の曲線は電気回収が 100%、白丸の曲線は熱回収が Convential Convential with MSW for Electricity Type of energy system 100%であることを示している。黒色の斜線部分は、電気と 熱の両方を様々な割合で回収した時に得られる純費用の範 図 7 Share of energy produced from different sources in total 囲である。 energy demand 導入した最適な一般廃棄物処理システムが従来のエネル ギーシステムに及ぼす影響を図7に示す。新たなシステム 上記の結果をまとめると、サンクトペテルブルグ市で発 を利用し、一般廃棄物を熱源として利用した場合、依存の 生する一般廃棄物をエネルギー資源として利用した場合、 22 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 32, No. 5 2) 電気回収に比べて熱回収のほうが有利であることがわかっ K. Holmgren, S. Amiri; Internalising external costs of electricity and heat production in a municipal energy た。また、一般廃棄物からのエネルギー回収は、化石燃料 system, Energy Policy, 35 (2007), 5242-5253. に比べて生産コストが非常に高いことが分かった。多くの 3) 場合、対策のひとつとして、その生産コストを抑えるため M. Luoranen, M. Horttanainen; Co-generation based energy recovery from municipal solid waste integrated に補助金制度の導入が一般的である。しかし、一般廃棄物 with 処理に関する法律や新エネルギー市場が少なく、安い化石 the existing energy supply system, Waste Management, 28 (2008), 30-38. 燃料が豊かなロシアでは、現時点では、補助金の導入が難 4) 山成素子、島田荘平、LCA による RDF 発電事業の有 しいと考えられる。補助金額や導入可能性に関する今後の 効性に関する評価、廃棄物学会論文誌、 検討が必要である。 Vol.18,No.1,(2007),37-48. 5) 4.まとめ I. Bashmakov. District heating capacity and demand in Russia: Policy approaches for improvement. In District heating policy in transition economies. IEA/OECD DH 本稿では、ロシアの大都市サンクトペテルブルグを対象 conference. 2004: IEA/OECD: Prague. にケーススタディを行った。その結果、新たな処理システ 6) A. N. Nozhevnikova, A. B. Lifshitz, V. S. Lebedev, G. A. ムを導入することによって、これまでほとんど未利用だっ Zavarzin; Emission of methane into the atmosphere from た一般廃棄物をエネルギー源として利活用し、70%以上の landfills in the former USSR, Chemosphere, 26 (1993), CO2 排出量削減など環境への負荷を削減できること、化石 401-417. 7) 資源の一部の代替(最大 6%)が可能であることが明らか M. D. Hunsicker, T. R. Crockett, B. M. A. Labode; An overview of the municipal waste incineration industry in になった。また、副産物の種類が増加し、システムの年間 Asia and the former Soviet Union, Journal of Hazardous 収益は 17 倍まで増加することがわかった。しかしその一方 Materials, 47 (1996), 31-42. で、一般廃棄物からのエネルギー生産費用は現在の熱・電 8) 気売却単価に比べて 4~15 倍と非常に高いことも明らかに TGC-1. Annual report 2008. Saint-Petersburg, Russian Federation, Territorial Generating Company N1 (TGC-1); 2009. なった。つまり、価格が安い化石資源に恵まれているサン 9) クトペテルブルグのような大都市では、一般廃棄物をエネ TGC-1. Kharakteristika teplovih moschnostei regiona (in Russian), Territorial Generating Company N1 (TGC-1). ルギー源として利用したとき、経済的効果よりもゴミの再 2009 資源化のほうが期待できると言える。 [cited 2009 12.12.]; Available from: http://tgk1.ru/clients/sbyt/. 今後の課題として、一般廃棄物処理システムの年間の総 10) Florinskaya T.M., Ventzulis L.S., Vechtomov I., 費用、処理コスト及びエネルギー生産費用を下げるために、 Conception – Waste management in St.Petersburg, 効率的な運送による運送コストの削減、補助金制度の導入 Academy of Science of Russian Federation, St.Petersburg Scientific centre, (2002), 189p. などに関する検討が必要である。また、設計した一般廃棄 11) LLC "Sofora". Garden company "Sofora", 物処理システムがロシア各地に普及する可能性について検 [cited 討も必要である。 12.12]; Available from: http://www.sofora.ru/pesok_sheben.html. さらに、本稿の結果は、サンクトペテルブルグとは条件 12) JSC が異なる地域、例えば、地域熱供給システムを持ちながら "Rosstan". web-site. エネルギー資源に乏しい地域、沿岸部から離れた内陸部な [cited Manufactures' 2009 equipment 12.12]; company Available from: http://www.rosstan.ru/catalog/oborud/press/pat/index.php. どで資源供給に高コストがかかる地域、インフラ整備が進 13) JSC "Clean town". web-site. [cited 2009 12.12]; Available from: http://clentown.ru/. んでいない地域(農村部など)に応用できると思われる。 14) Industrial group "Statico". web-site. [cited 2009 12.12]; このような地域では、一般廃棄物のエネルギー利用が経済 Available from: http://www.statico.ru/about.htm. 面、環境面において効果的であると考えられる。今後この 15) ZAO "Otraslevie vedomosty". "Municipal solid waste" 点を検証するため、各地の経済性、人口密度、気候の差異 web-site. 等に関する正確なデータ収集が必要である。 [cited 2009 12.12]; Available from: http://www.solidwaste.ru/projects/vtorprice/4.html. 16) IPCC. Guidelines for National Greenhouse Gas Inventories, 参考文献 1) 2009 web-site. Intergovernmental panel on climate change (IPCC); 2006. K. Holmgren, D. Henning; Comparison between material and energy recovery of municipal waste from an energy 17) Tchobanoglous G., Kreith F. Handbook of solid waste perspective: a study of two Swedish municipalities, management. 2nd ed. New York: McGraw-Hill; 2002. Resources, Conservation and Recycling, 43 (2004), 51-73. 23
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