自転車による 自転車による事故抑制 による事故抑制のための 事故抑制のための携帯電話 のための携帯電話及 携帯電話及びヘッドホンの ヘッドホンの使用禁止に 使用禁止に関する研究 する研究 政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU12615 田中 健太郎 平成 20 年 4 月に改正し、携帯電話、ヘッドホン 1. はじめに の使用に対する注意を呼びかけた。そして、各都 近年、自転車関連事故は減少傾向であるにも かかわらず、自転車対歩行者の事故については、 道府県の公安委員会では、この「交通の方法に関 発生件数が横ばいであるため、自転車関連事故に する教則」改正を受けて、道路交通規則等を改正 占める割合が高くなっている。こうした背景から、 し、携帯電話やヘッドホンの使用を独自に禁止し 各都道府県公安委員会が定める道路交通規則な ている。ただし、すべての都道府県において禁止 どにおいて、その原因の一つと考えられている携 が定められているわけではなく、その改正時期も 帯電話やヘッドホンの使用を独自に禁止してい まちまちである。 る都道府県がある。この禁止は、 「負の外部性」 を解消することにより、自転車事故件数を減少さ 3. 携帯電話・ 携帯電話・ヘッドホンの ヘッドホンの使用禁止 使用禁止が 禁止が自転車事 せるものであるという理論分析を行い、その仮説 故に与える効果 える効果に 効果に関する理論分析 する理論分析 を実証するため、都道府県パネルデータを用いて、 自転車は手軽に近場を移動できる交通手段と この施策が自転車事故件数に与える影響につい してその便益は高いが、その一方で、自転車に乗 て分析を行った。 ることの危険性が高まると便益は減少するもの と考えられるため、自転車乗用の限界便益は、右 2. 自転車交通事故の 自転車交通事故 の 状況及び 状況及 び 自転車交通事故 下がりの直線として描くことができる。一方、自 に対する国及 する国及び 国及び各都道府県の 各都道府県の対応 転車運転には、自転車の購入費用や維持費用がか 交通事故全体の概況については、昭和 30 年代 かり、自転車運転中には運転の注意が必要となる。 以降、交通事故死傷者数が増加の一途をたどり、 また、自転車乗用中の危険性が高まると、運転に 昭和 45 年にピークに達し、その後、死者数は大 より注意を向けるため、自転車乗用の限界費用は、 きく減少したが、昭和 55 年頃より再び増加に転 右上がりの直線として描くことができる。そして、 じ、平成 5 年以降、現在まで減少を続けている。 自転車に乗りながら、携帯電話やヘッドホンを使 交通事故の発生件数については、平成 16 年ま 用することは、自転車乗用者に必要とされる注意 で伸び続け、その後は着実に減少している。 力を減少させ、自転車乗用者が本来支払うべき限 自転車関連事故については、相手方が歩行者 界費用と比べると私的限界費用は低いものとな である事故は、平成 20 年にピークに達し、現在 っている。社会的に望ましい社会的限界費用より まで横ばいである。また、法令違反は自転車側に も、自転車乗用者が実際に支払う私的限界費用が 多く見られるという統計結果がある。主な交通違 低くなっており、本来社会的に許容される危険性 反としては、「交差点安全進行」、「動静不注視」 、 と実際の危険性との間にかい離が生じているた 「安全不確認」の3つが多いが、15 歳以下に限 め、負の外部性が生じている。この社会的限界費 ってみると、「一時不停止」の割合も高い。 用と私的限界費用の差を埋め、自転車乗用中の危 こうした自転車事故の背景から、国は交通マ 険性を社会的に望ましいレベルにするために、政 ナーなどを定めた「交通の方法に関する教則」を 府は携帯電話やヘッドホンの禁止を行っている 1 +β +β +β +β +β +β +β と考えることができる。 4. 「第一当事者事故」 第一当事者事故」及び「第二当事者事故」 第二当事者事故」 に対する携帯電話 する携帯電話及 携帯電話及びヘッドホン禁止 ヘッドホン禁止の 禁止の効果に 効果に 関する実証分析 する実証分析 ・ln 一般国道_道路部面積 ・ln 都道府県道_道路部面積 ・ln 市町村道_道路部面積 ・ln 携帯電話契約数 +β ・ln 警察官職員数 ・自転車施策ダミー +β ・自転車施策経過年数 ~β ・2003 年~2011 年のダミー変数 ~β ・都道府県ダミー変数+u 4.1 推定の 推定の方法 ◎モデル 2 過去 10 年間(平成 14 年から平成 23 年)で、 自転車が第一当事者・第二当事者となった交通事 故のデータについて都道府県別のパネルデータ を作成し、実証分析を行う。その際、各都道府県 の自転車施策として、携帯電話の禁止とヘッドホ ンの禁止について、ダミー変数としてセットする。 4.2 データの データの説明 (1) 被説明変数 被説明変数には、各都道府県で発生した自転 自転車事故件数 = α +β ・年少人口比率 +β ・生産年齢人口比率 +β ・老年人口比率 +β ・前年対前前年事故件数比 +β ・ln 自転車台数 +β ・整備自転車比率 +β ・日照時間 +β ・ln 一般国道_道路部面積 +β ・ln 都道府県道_道路部面積 +β ・ln 市町村道_道路部面積 +β ・ln 携帯電話契約数 +β ・ln 警察官職員数 +β ・携帯電話禁止ダミー +β ・携帯電話禁止経過年数 +β ・ヘッドフォン禁止ダミー +β ・ヘッドフォン禁止経過年数 +β ~β ・2003 年~2011 年のダミー変数 +β ~β ・各都道府県のダミー変数+u 車の交通事故件数(第一当事者)と交通事故件 (2) 第二当事者に対する効果を捉えるモデル 数(第二当事者)を用いた。 第二当事者事故件数に施策が与えた影響を (2) 説明変数 推定するため、モデル 3 では自転車施策全体の 効果を見て、モデル 4 では携帯電話禁止及びヘ 説明変数には、交通事故に影響があると考え る要因として都道府県の特性を表すと考えら ッドホン禁止の効果を見ることとした。 ◎モデル 3 れる、人口比率(年少、生産年齢、老年) 、 前 自転車事故件数 = α +β ・年少人口比率 +β ・生産年齢人口比率 +β ・老年人口比率 +β ・前年対前前年事故件数比 +β ・ln 自転車台数 +β ・整備自転車比率 +β ・日照時間 +β ・ln 一般国道_道路部面積 +β ・ln 都道府県道_道路部面積 +β ・ln 市町村道_道路部面積 +β ・ln 車両台数 +β ・ln 携帯電話契約数 +β ・ln 警察官職員数 +β ・自転車施策ダミー +β ・自転車施策経過年数 +β ~β ・2003 年~2011 年のダミー変数 +β ~β ・各都道府県のダミー変数+u 年対前前年事故件数比、自転車台数、整備自転 車比率、日照時間、道路部面積(一般国道、都 道府県道、市町村道)、車両台数(モデル3、 モデル 4 でのみ使用) 、携帯電話契約数、警察 官職員数を用いた。 4.3 施策効果 施策効果を 効果を捉えるモデル えるモデル (1) 第一当事者事故に対する効果を捉えるモデル 第一当事者事故件数に施策が与えた影響を ◎モデル 4 推定するため、モデル 1 では自転車施策全体の 自転車事故件数 = α +β ・年少人口比率 +β ・生産年齢人口比率 +β ・老年人口比率 +β ・前年対前前年事故件数比 +β ・ln 自転車台数 +β ・整備自転車比率 +β ・日照時間 +β ・ln 一般国道_道路部面積 +β ・ln 都道府県道_道路部面積 +β ・ln 市町村道_道路部面積 +β ・ln 車両台数 +β ・ln 携帯電話契約数 +β ・ln 警察官職員数 +β ・携帯電話禁止ダミー 効果を見て、モデル 2 では携帯電話禁止及びヘ ッドホン禁止の施策効果を見ることとした。 ◎モデル 1 自転車事故件数 = α +β ・年少人口比率 +β ・生産年齢人口比率 +β ・老年人口比率 +β ・前年対前前年事故件数比 +β ・ln 自転車台数 +β ・整備自転車比率 +β ・日照時間 2 +β +β +β +β +β ・携帯電話禁止経過年数 ・ヘッドフォン禁止ダミー ・ヘッドフォン禁止経過年数 ~β ・2003 年~2011 年のダミー変数 ~β ・各都道府県のダミー変数+u ン禁止施策経過年数の事故削減効果について は、確認することができなかった。これは、禁 止規則に基づいた取り締まり強化を行ってお らず、自転車乗用者が安全運転を行うディスイ ンセンティブとなっていないためと考えられ 5. 「第一当事者事故」 第一当事者事故」及び「第二当事者事故」 第二当事者事故」 る。 の効果に 効果に関する実証分析 する実証分析の 実証分析の推定結果 (1) 第一当事者事故の推定結果 その他、整備自転車比率については、5%水 モデル 1 では、自転車施策ダミーは、1%水 準でマイナスとなったが、これには、自転車の 整備によって、ブレーキやランプなどの故障が 準で有意にマイナスとなった一方で、自転車施 解消され、事故抑制につながった可能性と、そ 策経過年数の係数は統計的に有意ではないも ののプラスとなった。モデル 2 では、携帯電話 もそも自転車整備を行う者はリスク回避傾向 が強く、元々自転車の安全運転を心掛けている については禁止ダミーがプラス、禁止経過年数 可能性の2点が考えられる。 がマイナスとなっているが、どちらも統計的に 市町村道_道路部面積については、1%水準で 有意ではない。ヘッドホンについては、禁止ダ ミーが 1%水準で有意にマイナスとなった一方 プラスとなった。一般国道や都道府県道と比べ ると、市町村道の交通量は少なく道幅は狭いと で、経過年数は統計的には有意ではなくマイナ 考えられ、そのため、信号のない場所の横断、 スとなった。 信号や一時停止確認の無視などが行われ、安全 (2) 第二当事者事故の推定結果 に対する注意を怠りがちであると考えられる。 モデル 3 では、自転車施策ダミーは、1%水 (2) 第二当事者事故への効果 準で有意にマイナスとなった一方で、自転車施 策経過年数の係数は 1%水準で有意にプラスと 携帯電話禁止の事故削減効果は確認できな かったが、ヘッドホンの禁止についての規則導 なった。モデル4では、携帯電話については禁 入は効果があることが確認できた。第一当事者 止ダミーがプラス、禁止経過年数はマイナスと 事故同様、ヘッドホン禁止実施期間が携帯電話 なったが、どちらも統計的に有意ではない。ヘ ッドホンについては、禁止ダミーが 1%水準で 禁止の実施期間よりも長いことが影響してい ると考えられる。その一方で、ヘッドホン禁止 有意にマイナスとなった一方で、経過年数は 5%水準で有意にプラスとなった。 施策経過年数の事故削減効果については、プラ スに有意となった。第一当事者事故同様、禁止 6. 考察 規則に基づいた取り締まり強化を行っておら (1) 第一当事者事故への効果 ず、自転車乗用者が安全運転を行うディスイン センティブとなっていないためと考えられる。 携帯電話禁止による事故削減効果は確認で その他、整備自転車比率については、1%水 きなかったが、ヘッドホン禁止の導入は効果が 準でマイナスとなったが、これには、自転車の あることが確認できた。その理由としては、携 整備によってブレーキやランプなどの故障が 帯電話に先行してヘッドホン禁止を行ってい 解消され、事故抑制につながった可能性と、そ る自治体があり、ヘッドホン禁止実施期間が携 もそも自転車整備を行う者はリスク回避傾向 帯電話禁止の実施期間よりも長いことが影響 が強く、元々自転車の安全運転を心掛けている していると考えられる。その一方で、ヘッドホ 3 鑑みるに、今後、法律により自転車運転時の携帯 可能性の2点が考えられる。 都道府県道_道路部面積については、5%水準 電話やヘッドホンを禁止すべきという議論が出 でマイナスとなったが、考えられる理由として てくることも考えられるが、その際に携帯電話や は、市町村道と比べると、道幅は広くなり通行 ヘッドホン使用に起因する事故を詳細に分析す しやすくなるとともに、国道と比べると交通量 るためには、これらの要因別の分析を行う必要が が少なく、ある程度の注意を払う必要はあるも ある。そして、費用便益を十分に考慮したうえで、 のの、自転車が安全に通行しやすい環境である 施策実施の判断を行うべきである。 その他、第一当事者、第二当事者ともに事故 ためと考えられる。 に対してマイナスの効果があった自転車整備率 7. まとめ については、自転車整備により自転車の故障が改 今回の実証分析では、携帯電話禁止に係る効 善されて、事故の減少につながっていると仮定す 果を確認することはできなかったが、携帯電話の るならば、自転車整備を積極的に行う意義はある 使われ方の多様化を考慮するなら、今後の自転車 ものと考える。自動車と異なり、現状では自転車 事故の変化について、改めて携帯電話禁止の効果 に車検制度はないが、自転車車検制度の創出も考 を分析する必要があると考える。 えられるのではないだろうか。ただし、そうした ヘッドホン禁止に関しては、実証分析におい 制度のマイナス面も考慮すべきである。具体的に てその効果を確認することができた。ただし、第 は自転車利用者が支払う自転車整備に必要な費 一当事者についてはヘッドホン禁止経過年数に 用や自転車整備業務が既得権益化するリスクな 有意な効果があることは確認することができず、 どであり、こうした費用と便益の十分な検討が必 第二当事者についてはヘッドホン禁止経過年数 要である。 が有意にプラスとなった。ヘッドホンの禁止規則 を導入するものの、禁止規則に基づいて取り締ま りを行っている事例は少ない。仮にヘッドホン禁 止の規制を行うならば、その効果を維持するため に、継続的なしっかりとした取り締まりを行い、 必要があれば罰則の適用を行う必要があるもの と考える。ただし、継続的な取り締まりに係る経 費も無視できない要因である。警察が行うその他 の業務との費用対効果を検討するなど、禁止規則 の導入は慎重に行うべきと考える。 また、自転車事故の分析を行う中で、事故の 要因(事故の被害者となったり事故の加害者とな った自転車が、携帯電話やヘッドホンを使用して いたかどうかに関する情報)について入手できな いという壁に突き当たった。このため、各都道府 県の交通規則での携帯電話やヘッドホンの禁止 によって、事故が減少したかどうかの詳細な分析 が行えなかった。自転車に対する社会的な反応を 4
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