平成 27 年度研究助成に係る 研修報告書の提出について

<様式3>
平成 27 年 11 月 9 日
一般社団法人 オンコロジー教育推進プロジェクト
理事長
福岡 正博 殿
所属機関・職 元新潟大学医歯学総合病院・薬剤師
研修者氏名
江面 美緒
平成 27 年度研究助成に係る
研修報告書の提出について
標記について、下記のとおり報告いたします。
記
1 研 修 課 題 MD Anderson Cancer Center Japanese Medical Exchange Program
JME Program 2015
2 研修期間
平成 27 年 9 月 17 日~平成 27 年 10 月 24 日
3 研修報告書
別紙のとおり
<様式3-別紙(A)>
平成 27 年
11 月
平成 26 年度オンコロジー教育推進プロジェクト
研 修 報 告 書
研 修 課 題
MD Anderson Cancer Center Japanese Medical Exchange Program
JME Program 2015
所属機関・職 元新潟大学医歯学総合病院・薬剤師
研修者氏名 江面 美緒
9日
研修を経て創出した Mission and Vision
●Mission:
(日本語)
組織的な教育プログラムを通して、化学療法の副作用を最小限かつ、効果を最大限に引き出す高い質の薬物
療法を提供するがん薬物療法のスペシャリストを育て発展させる。
(英語)
My mission is to establish and develop a group of clinical oncology pharmacists, through a systematic
residency program, who will provide high quality pharmacy care to improve therapeutic effects while
minimizing side effects of chemotherapy.
●Vision:
(日本語)
血液疾患の患者さんが、治療前と全く変わらずにQOLを保ち、かつ不安や苦痛を伴わない世界最高の薬物療法
を提供できるような環境を創る。
(英語)
My vision is to have an environment that provides chemotherapy and supportive care with no pain, or
fear while maintaining QOL for patients and their families with hematologic malignancies by delivering
the world's best clinical pharmacy care.
<様式3-別紙(A)>
Ⅰ 目的・方法
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1
【目的】
1. 世界有数のがんセンターと称されるMD Anderson Cancer Center(以下MDACC)におけるチーム
医療の実際と、それに携わる医師と看護師、薬剤師各職種の役割を学ぶ。
2. MDACC での医療、教育現場を見学し、日米間の違いを理解する。その上で、自施設または日本
の医療に適応し得る実践的な方法を模索する。
3. チーム医療の組織作りに必要なリーダーシップとそのスキルを学ぶ。
4. 自己のキャリア形成について考える。
【方法】
1. MDACC で 2015 年 9 月 17〜10 月 23 日に行われた JME2015 プログラム(参加者:医師 2 名、看
護師 2 名、薬剤師 2 名)にて、MDACC 各部署の見学と講義を受ける。
2. 医師、看護師、薬剤師各1名ずつによるチームで一つの oncology program を創出し、プレゼンテ
ーションを行う。
3. MDACC での見学、講義を通して、またメンターや参加メンバーのアドバイスを得ながら、自己
の mission/vision、キャリア形成の道筋を明確にする。
<様式3-別紙(A)>
Ⅱ 内容・実施経過
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2
1. MDACC におけるチーム医療の実際
MDACC では医師、医師助手(Physician Assistant: PA)、看護師、薬剤師(PharmD)、スケジューラ
ー、Medical Assistant、ソーシャルワーカー、ケースマネージャー、ボランティアなど、多岐にわた
る職種が患者の治療を支えている。看護師には上級看護師(Advanced Nurse Practitioner: APN)、看護
師(Registered Nurse: RN)、Research Nurse などの職種があり、役割が細分化されていた。PharmD
も Clinical Pharmacist(CP)と Operational Pharmacist(OP)に分けられ、それぞれ業務内容が異なる。
これらの職種の中でも APN、PA、CP は Mid-Level Provider と呼ばれ、処方権が与えられる。各診
療科によって構成メンバーは異なり、その科に合った必要度(マンパワーの関係もあるらしい)によると
のことだった。また、同じ医師でも、例えば乳腺腫瘍の場合では乳腺腫瘍内科医、乳腺腫瘍外科医、
乳腺放射線医、乳腺病理医らが密な連携をとっており、様々なチームが重なりあって、他職種連携が
成り立っているのだと感じた。
プログラム中は医師、看護師、薬剤師各 1 名ずつの 2 チームに分かれて外来や入院病棟を見学し、
各職種の役割について学んだ。基本はチームでの見学だったが、個人的な要望により一人または他チ
ームのメンバーと見学することもあった。
〈見学診療科〉
外来:乳腺内科外来、乳腺外科外来、消化器内科外来、婦人科外来、緩和ケア外来、放射線外来
入院:移植病棟(ICU 含)、白血病病棟、リンパ腫病棟
・ 外来
各科には、チーム構成メンバーが、患者から直接得た情報や電子カルテ上で得た情報を元にディ
スカッションを行うワークルームがある。一つの小さなチームが小さなワークルームに集まる科もあ
れば(次ページ写真左: 乳腺腫瘍内科外来)、一つの科全体が一つの大きなワークルームに集まる科もあ
り(次ページ写真右: 緩和ケア外来)、その形態は患者数やスタッフの数によって様々である。しかし、
どの科も職種間でのコミュニケーションを即時にとれるように同じ部屋で業務にあたる、という点は
共通していた。日本では、医師の待つ部屋へ患者が出向くのが基本スタイルだが、MDACC では患者
が待つ部屋へスタッフが出向く、というスタイルをとっている。来院後、個室に通された患者の元へ
看護師が訪室。アセスメントシートに沿って問診と診察を行い、アレルギー情報や薬剤情報、体調の
変化などの情報を収集する。その後 APN または PA が診察。それらの情報を元に、患者の問題点や今
後の治療方針について、それぞれの職種の専門的な視点からディスカッションと評価を行う。その後、
医師が患者の部屋に出向き、さらに細かい診察を行う。治療方針を決定する際には、治療成績のデー
タを患者に提示し、治療のメリット・デメリットを細かく説明していた。患者が理解できるまで、何
度も丁寧に説明をしていたのが印象的だった。新たに化学療法が開始される場合には、CP も同行する
こともあり、医師の診察後、CP から細かい化学療法についての説明がなされる。
・ 入院病棟
医師、看護師(APN、RN)、CP がチームとなり、毎日ラウンドを行う。病棟によっては Fellow や
Resident もいるチームもあり、また必要に応じてケースマネージャーが同行することもあった。白血
病病棟には 5 つのチームがあり、うち 1 チームは remission team(寛解状態の患者対象)、残り 4 チー
ムは aggressive team(初発、再発、治療抵抗性の患者対象)と分かれており、72 床ある病棟をカバーし
ていた。
始めに該当患者を担当している RN から、バイタルや患者の様子、問
題点など情報がチームに口頭で伝えられる。それを受け、検査値を確認
しながら、必要な検査や薬剤の変更がないか、チーム内でディスカッシ
ョンし、その場でオーダーする。移植病棟のチームでは、APN が画像
検査のオーダーと他科へのコンサルト、CP が薬剤オーダーを行ってい
た。退院処方も薬剤師がオーダーする。日本ではこれらの業務を医師が
全て行うが、業務を分散させることで、医師が診断や治療、研究に専念
することができ、また他スタッフも治療をより深く把握することができ
るため、患者へのより適切な治療の提供が可能になる。ラウンドでは、
患者の体調変化の確認、薬剤変更や追加の検査等がある場合はその情報提供などを中心に行う。入院
病棟には、大部屋がなく、全て個室である。どの個室にも Patient Goals and Communication Board
と呼ばれるホワイトボードが設置されており、その日の担当スタッフの名前、投与中の薬剤名が記入
されている他、患者のその日の目標が書かれているのがとても印象的だった。「水分を 2L 摂る」「病
棟内を 5 分間歩く」「口腔ケアを頑張る」など、具体的な目標が書かれており、患者が意欲的に治療
に取り組んでいる姿勢が見て取れた。リンパ腫病棟では、CP がラウンドの際にメソトレキセートの血
中濃度の値をボードに記入しており、患者教育の実際の一部を見ることができた。
米国は昔から外来治療が基本である。入院治療が外来治療に比して格段に医療費が高く、また加入
している医療保険によってカバーされる範囲が大きく異なることが背景にある。入院期間も日本と比
較して格段に短く、同種移植の場合は移植後2週間、例えば、血液疾患レジメンである Hyper-CVAD
であっても、通常抗がん剤投与終了日または翌日に退院となる。そのため、患者自身や家族によるセ
ルフケアが必須であり、患者教育の徹底が患者の治療効果、QOL 維持の重要なポイントとなる。外来、
入院問わず、患者は自分が投与されている薬を把握しており、治療への関心がとても高い。
・ ケースマネージャー、ソーシャルワーカーの存在
米国の保険制度は複雑で、多くの国民は個人で民間の保険会社の保険に加入するか、勤務先が
提供する団体保険などに加入する。ケースマネージャーは、退院調整を主な役割とし、加入している
保険の有無や種類、退院後の滞在先などについて確認し、必要であれば、介護施設などへの入所の手
はずを整える。前述したが、保険の種類も多く、また保険の内容によって、医療費や受けられる医療
が大きく異なる米国では、ケースマネージャーの存在が必須である。彼らの多くは前職が看護師だそ
うだ。日本では、こういった保険関連の仕事は、ソーシャルワーカーの役割と思われるが、米国では
ケースマネージャーが行う。米国でのソーシャルワーカーの役割は、患者の精神的サポートが大部分
を占め、日本のそれとは大きく異なる。ソーシャルワーカーは全員修士号を取得しており、院内には
約 80 人、各病棟、外来に配属されている。
・ Research Manager の存在
MDACC には 1100 もの臨床試験が存在する。Research Nurse と呼ばれる、特別な資格を持った
看護師が、この膨大な数の臨床試験をサポートする。臨床試験に参加している外来患者へは、APN、
医師による診察前に、Research Nurse による診察が施され、試験が安全に実施されているかを確認す
る。試験数が膨大のため、婦人科外来では、臨床試験の化学療法のオーダーは CP ではなく Research
Nurseが行い、
その後CPがチェックをしているそうだ。
また、
治験審査委員会(IRB)の前段階のClinical
Research Committee のメンバーでもあり、臨床試験の科学的妥当性についての審議をしている。
Clinical Research Committee をパスした試験が、IRB で審議される仕組みになっているそうで、どう
やって膨大な数の試験の審議を行っているのか質問すると、
MDACC にClinical Research Committee
は4つ、IRB は 5 つあり、ほぼ毎週のように審議会が行われているとのことだった。
・ コミュニケーションを円滑にするための連絡ツール
スタッフ間での情報共有や連絡は、e-mail か Pager と呼ばれるスマートフォン(blackberry)を介し
て行われる。他職種間での連絡は主に e-mail を使用する。処方内容に関する照会は Pager に電話がく
る。Pager でもメールを確認することができるため、どこでも情報を確認することができる。病棟看
護師は Walkie-talkie と呼ばれるトランシーバーを携帯しており、特定の人物ではなく、例えば「今日
のこの患者の担当の看護師と連絡がとりたい」などといった場合、Walkie-talkie を介することで連絡
がとれるような仕組みになっている。
・ 電子カルテ(Clinic Station)での薬剤オーダーについて
私が見た限りの化学療法は、全てテンプレート化されており、オーダー時は、リストから該当す
る化学療法を選択し、用量を記載する。化学療法の場合は、入力後に医師の承認とサインが必要とな
る。電子カルテへのオーダー入力が薬剤部への調剤オーダーへと直接連携されていないので、再度 OP
による手入力が必要であるとのことだった。この点はとても不便であると感じたが、用量調節や相互
作用などの監査も兼ねているとのこと。処方内容に問題があれば、この時点で処方した Mid-Level
Provider または医師へ照会する。来年度より、Epic と呼ばれるシステムへと切り替えるそうなので、
このシステムは今後大きく変わると思われる。
・ サバイバーシップ外来
乳がんと造血幹細胞移植後の患者のサバイバーシップ外来を見学させていただいた。
乳がんは治療
終了後 5 年経過し、再発していない患者、造血幹細胞移植後外来は退院後 3 ヶ月以上経過した患者が
対象となる。ここでは医師の診察はしておらず、APN が診察と問診を行う。多くの患者が遠方からく
るが、彼らの日常の体調フォローは community doctor が行うことが多い。乳がんのサバイバーシップ
外来の診察は、大体1年に1回なので、APN はこれまでの治療の経緯を確認し、化学療法歴や手術歴、
遺伝子異常の情報や、今後どの検査をいつまでにすべきかを記載した Patient Passport Plan を作成し
て患者へ渡し、MDACC を受診できない期間のフォローを community doctor へ委託していた。造血
幹細胞移植後のサバイバーシップ外来の受診は、初回は移植後 3 ヶ月、その後の 3 年間は 6 ヶ月毎の
受診となる。APN が運動をしているか、GVHD はないか、喫煙していないか、風邪などひいていな
いか、など質問し、患者の状況を確認。その後、血液検査結果を患者とともに確認しながら、必要な
フォローがないか検索していた。また、移植後の経過期間に合わせたパンフレットを用いて、どこに
注意して生活していくかなどの患者教育も行っていた。両外来とも、何か問題や再発の疑いがあれば、
e-mail で元の診療科の医師と情報共有をする。これらのフォローアップを APN がおこなうことで、元
の診療科のチームは初発または治療中の患者のみに専念することができる。
・ ボランティアの存在
私が研修中で最も驚いたことの一つに、ボランティアの存在がある。MDACC でボランティアと
して活動するには、そのための教育を受け、1週間に4時間病院に拘束されることが条件となる。米
国の人にはボランティア精神が根付いている、と聞いたことはあるが、仕事や家庭もある中で、4 時間
を無償で提供することは、容易ではないだろう。MDACC には 1,080 人のボランティアがいると聞い
た時はとても驚いた。彼らは、院内に 4 店舗ある gift shop(売り上げは寄付金となる)を運営し、雑誌や
新聞を配り、コーヒーカートを押して飲料を患者へ提供している。また、My Cancer Connection とい
う、患者の一人一人の不安や疑問に答えるネットワークシステムを持っていて、患者もしくは
Caregiver 一人につき、一人が担当する形式でサポートしている。2014 年度には 2,370 人もの患者ま
たは Caregiver がこの My Cancer Connection を利用していたそうだ。世界有数のがんセンターと言
われる MDACC の底力を支えているのは、ボランティアだ、といっても過言ではないだろう。
2. Division of Pharmacy の役割とその実際
Division of Pharmacy の Operation 部門のマネージャーや、多くの CP から、MDACC での薬剤
師の役割とその内容について教えていただき、見学させていただいた。
MDACC の Division of Pharmacy には、総勢約 550 人のスタッフが在籍している。うち約 340
人が薬剤師、
約180人がテクニシャンである。
さらに薬剤師は、
Clinical Pharmacist(CP)とOperational
Pharmacist(OP)に分けられ、その内訳は CP が 80 人、OP が 260 人程度である。CP はいわゆる臨床
薬剤師と呼ばれ、米国の薬学部を終了し Pharm.D 取得後、2 年間の Residency を経ることが条件とさ
れる。主に外来や入院病棟に配置される。OP はオーダーや調剤の監査、薬品管理などを主な業務とし、
調剤室や薬品管理室、外来化学療法室(ATC)に配置される。テクニシャンは調剤や注射製剤の調製を行
う。MDACC では、CP は一切調剤をせず、また OP が患者と接する事はない。これは MDACC 特有
の仕組みであり、米国も日本同様、薬剤師が CP、OP 両方の役割を担う施設がほとんどなのだそう。
Division of Pharmacy には大きく分けて 5 つの部署がある。
・ Operation Services:患者へ薬剤を供給する。調剤室など。多くの OP はここに在籍。
・ Clinical Services:患者へ治療を提供する。CP が在籍。
・ Drug Information:以前より米国で問題となっている医薬品不足に際し、代替薬の提案を行う。
・ Financial Services:財政管理を行う。薬剤師はおらず、MBA を取得したスタッフが在籍。
・ Pharmacy Research:PK に基づいた投与設計や造血幹細胞移植患者への AUC 変動に伴うブスル
ファン用量調節の提案を行う。臨床試験を扱う Investigational Pharmacy Services もここに属す
る。
これらの部署のうち、いくつかの部屋を見学させていただいた。
・ Central Pharmacy (Inventory Control Services)
化学療法以外の入院の注射薬の調製、調剤と薬品管理を
するのが主な業務であり、24 時間 3 交代制で稼働している。
1日あたりの注射薬調製件数は 1200〜1500 件ほど。薬剤の
在庫管理は、予め発注点の上限、下限を機械に入力、在庫数
が下限を下回ると、機械が自動的に感知して知らせてくれる。
それを受け、テクニシャンが発注している。麻薬の管理もこ
こで行う。日本同様、米国にも法規によって医薬品が分類さ
れており、モルヒネやオキシコドンなどの多くのオピオイドは ScheduleⅡに分類される。麻薬のみを
管理する部屋があり、鍵がなければ入室できない。さらに在庫数は PC で管理され(写真)、施錠された
棚で保管される。
・ Investigational Pharmacy Services
臨床試験で扱う薬剤の管理、
試験に関するデータシートの作成補助が主な業務。
データシートには、
プロトコル名、治験責任者名などの基本情報の他、扱う薬剤名、投与方法、調剤方法、保管方法など
の薬剤の安全性や取扱情報がかなり細かく記載されており、臨床試験を遂行する上で重要な書類とな
る。前述したが、MDACC で行われる臨床試験は 1,100 ほどもある。大半は製薬会社由来の臨床試験
であるが、MDACC 独自の臨床試験も少なくない。臨床試験に参加している患者数は 8,000 人以上。
これらのデータ、薬剤に CP1人、OP9人、テクニシャン 10 人で対応している。膨大な臨床試験数で
あるにも関わらず、円滑に試験が行われているのは、彼らの働きがあるからである。
・ Inpatient Pharmacy Satellite
化学療法の注射薬調製を 14F にある注射調製室で行う他、手術室(5F)、ICU(7F)、小児科(9F)にも
Satellite があり、14F と 7F の注射薬調剤室を見せていただいた。
入院化学療法の注射薬調製件数は1日 200 件ほど。部屋は離れているものの、人員は Central
Pharmacy からくるため、24 時間稼働している。ほぼ全ての院内の化学療法の調製をここで行ってお
り、ブスルファンやメルファランなどの安定性の低い抗がん剤の場合は、CP と連携し、オンコールで
調製をしているとのこと。ICU の Pharmacy Satellite は、ICU 病棟に入院中の患者の TPN の注射薬
調製を行う。1 日 20〜30 件のオーダーがあり、このうちの約半数は、Central Admixture Pharmacy
Services という会社に調製を委託している。MDACC では TPN キット製剤は使用していないため、
TPN 調製が非常に煩雑である。そのため、半数を外部へ委託しているそうだ。
・ CP の役割
CP はそれぞれ 2〜6 人単位で各診療科に割り当てられ、その中で外来と入院病棟をローテートし
ている。外来、入院病棟共に薬剤オーダー、患者教育、相互作用の確認、副作用管理、患者のアドヒ
アランス向上、他職種からの薬剤に関する質問応需などが、CP の主な役割であり、日本との大差はな
い。しかし、他職種からの信頼の厚さや、カルテから臨床上の問題点を素早く見出し、治療へ反映さ
せる姿を見て、日本との大きな差を感じた。また、電子カルテに登録されている化学療法のオーダー
シートの作成と更新業務もこなす。他にも、乳腺腫瘍内科の医師(臨床医、研究者含む)、看護師、その
他乳腺腫瘍内科スタッフへ制吐剤について講義を行う CP の姿をみることができた。講義では、制吐
剤のこれまでと最新のデータを提示しながら、CP の専門的な目線からの制吐剤の使用方法について話
されていた。乳腺腫瘍内科では、情報共有すべき問題がおきた場合、一堂に会し、その問題に詳しい
職種が講義を行うそうだ。
CP はこれらの薬剤師としての他、教育者としての役割も果たす。時々、大学などで講義をするこ
ともあるそうだ。このような活動が自己研鑽に繋がるとのことだった。面白いことに、逆もまた然り
で、大学の職員が CP として、病院で働くこともあるそう。米国ではよくあるシステムで、彼らの院
内での業務負担は僅かである代わり、病院からは一切給与は与えられず、大学のみから与えられると
のこと。
・ 外来化学療法センター(Ambulatory Treatment Center: ATC)
OP とテクニシャンの仕事を見学する一環として、ATC の調剤室を見学させていただいた。院内
に ATC は2ヶ所存在し、合わせて 150 床程度。抗がん剤のみなら
ず、輸血や抗生剤、ハイドレーションの点滴もここで行われる。何
度も述べるが、米国では外来治療が基本であるため、注射薬による
薬物治療のほとんどは、この ATC に集約されると言っても過言では
ないだろう。2ヶ所のうち1ヶ所の調剤室を見せていただいた。こ
こでは1日300件の抗がん剤のオーダーが入り70床程度のベッドが
ある他、30 分〜1時間程度で終わる点滴を投与するための椅子もある。この日は 4 人の OP がオーダ
ーの監査を行っていた。監査を終え、承認されたオーダーの情報は注射調剤室へ送られ、再度、注射
調剤室の OP による確認が入る。MDACC における抗がん剤オ
ーダーの確認は、
CPによる入力→医師による承認とサイン→OP
による調剤オーダーへの再入力と監査→注射薬調製前の OP の
監査→投与前の2人の RN によるダブルチェック、の5段階あ
り、患者に投与されるまでに何重もの確認が入る。注射調剤室に
は、6 つの抗がん剤調製用のユニットと、2 つの抗がん剤以外の
注射薬調製用ユニットがある。調製は全てテクニシャンが行う。
リザーバーを使用する場合と髄注以外の全ての抗がん剤は、閉鎖式システムの PhaSealTM を採用して
おり、6つある抗がん剤ユニットのうちの1つのユニットは、抗がん剤を取り揃え、PhaSealTM を取
り付ける作業のみをするユニットになっていた。
3. リーターシップとキャリアディベロップメント
3 回に渡って Janis と専門家による講義を受けた。一番初めに受けた講義は MBTI(Myers Brigs
Type Indicator) の講義だった。MBTI はユングの心理学に基づいて作成された性格分類で、物事の判
断の仕方や外向性か内向性かの性格パターンなどの4つの指標で表され、16 のタイプに分けられる。
初めは、よいチームを作るための講義で性格診断をする意図がわからなかった。診断することにより、
相性の良し悪しがわかってしまい、チーム形成に悪影響なのでは、と考えていたからだ。しかし、MBTI
により、自分を客観的に見ることができ、強みや弱点を今後に生かすことができる。また、相手との
違いや心を理解することで、人間関係作りにも有効であり、決して相性診断をするものではないとの
ことだった。MBTI はチーム、個人のキャリア、リーダーシップなどのディベロップメント過程で有
効であり、世界 30 ヶ国語に翻訳されているそうだ。
Janis からは、リーダーシップとは何かについて教えていただいた。
1. Leadership is everyone’s business.
ポジションやランクによるリーダーではなく、チーム内でそれぞれがリーダーであり、それぞれが
責任をもつ
2. Leadership is LEARNED.
3. Leadership is a relationship.
周囲の人間を尊重すること。相手のゴールや夢を理解し、共にそれに向かう
4. Leadership development is self-development.
5. Learning to lead is an ongoing process.
6. Leadership requires deliberate practice.
Active listening がリーダーのもつ最も重要なスキルであるとのこと
7. Leadership is an aspiration to a choice.
8. Leadership makes a difference.
<様式3-別紙(A)>
Ⅲ 成果
Page.
3
1. プレゼンテーション
私たち B チームでは、がんの親を持つ子供のサポートについてのプレゼンテーションを行った。プ
ログラム中、MDACC が主催する 2 日間の Survivorship Conference に参加する機会をいただいた。
Survivor、Caregiver、多数のボランティアが中心になって開かれる Conference であり、MDACC の
スタッフが無償で講師を務める。そこでは、多くの Survivor
たちが熱心に講師に質問する姿が見受けられた。私たちは、日
本ではこのような Conference を見たことがなく、大きな衝撃
を受けた。私たち日本の医療スタッフの多くは患者自身や疾患
には熱心に向き合うが、Survivor や Caregiver にまで熱心に
目を向けていないのではないだろうか。恥ずかしながら、日本
の状況はどうなのか知らなかったため、調べていくうちに、
Survivor をサポートする団体はいくつかあるが、がんの親を
持つ子供のサポートがまだ手薄であることを知った。米国では、子供をサポートするプログラムが確
立されており、さらにその第一人者ともいえる、Martha Aschenbrenner 氏から講義を受けるという、
大変貴重な機会を戴けた。同じく彼女から指導を受けた、日本人のソーシャルワーカーの方が立ち上
げた Hope Tree という、子供をサポートする団体が存在するものの、まだ全国的に広まっていないこ
とを知った。私たちは、このような Survivorship の活動を広めていくことで、患者とその家族を ”heal”
することを vision として掲げ、プレゼンテーション作成に取り掛かった。
チーム形成にあたり、チーム内で衝突があればあるほどよい、と上野先生から言われていたが、
私たちのチームには、残念ながら(?) 大きな衝突はなかった。各職種の知識と経験、技能を持ち寄り、
何度も議論を重ねる中で、それぞれがリーダーシップを発揮できるチームだったのではないかと思う。
研修前には疾患や患者自信の事にしか目を向けていなかった私が、患者の家族や治療後の生活など、
“Survivorship”にまで目を向けることができるようになったのは、大きな収穫であった。プレゼン
テーションで提示したプログラムを、理想で終わらせず実現できるよう、今後も活動を続けていきた
いと考えている。
2. 薬剤師のリーダーシップ
様々な診療科や部署で、多くのチームを見学することができた。チームの形態は様々で、全てのチ
ームに CP が配置されているわけではなかったが、どのチームの CP も患者の状況を瞬時に把握し、エ
ビデンスに基づいた薬物治療を提案しており、臨床能力の高さが窺えた。彼らは全員、卒後1年間、
ジェネラリストとしての経験を積んだ後に、専門分野を選択、スペシャリストとして実践を積んでい
る。この米国の教育体制が彼らの能力を創っていると思われる。また、常に他職種とチームとして動
くことで、チーム内でのコミュニケーションを円滑にとることができることも重要なポイントだと思
われる。さらに、各職種が役割を細分化することで、CP はそれぞれの業務に専念し、自身の研究や研
鑽の時間を確保することができる。そうして得た知識や経験が、また臨床の場へフィードバックされ
ている。これらを全て模倣する必要はなく、日本の医療の良い面をさらに発展させ、改善すべき面は
これらを参考にしながら、薬剤師のリーダーシップスキルアップに尽力していきたい。
3. Mission/Vision とキャリア形成
J-TOP Academy に参加した際も、自身の Mission/Vision について考える機会はあったが、今回
のプログラムを通して、より具体的に、明確に吟味することができた。そこに研修前には考えていな
かった SMART goal を付け加えることで、いつまでに達成させ、どう評価するのかなど、さらに具体
的に設定することができた。毎週月曜日に 1 時間程度行われる、キャリア形成の方法やよいチームを
形成するための上野先生の講義、3 回に渡る Janis の講義、毎週金曜日の Mentor/Mentee タイムは私
にとって、今後のキャリアを考える上での重要なヒントを得る、とても貴重な時間であった。これら
の時間以外にも、上野先生やメンターたちとはメールのやりとりも行ながら議論を重ねていたため、
研修中は常に Mission/Vision、Goal について考えていたように思う。
<様式3-別紙(A)>
Ⅳ 今後の課題
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4
MDACC での研修中、チーム医療だけではなく、メンターや MDACC で出会ったスタッフ、
JEM2015 のメンバーなど、多くの人からたくさんの刺激をいただき、学びを得ることができた。それ
らは私にとって大きな財産であり、薬剤師としての人生の一つのターニングポイントになった事は言
うまでもない。この大きな財産を無駄にしないための課題を以下に挙げる。
1. JME での経験を多くの人と共有し、自分の Vision に共感し協力してくれる仲間をつくる
2. プレゼンテーションで打ち立てたグループ B としての goal を実行にうつす
3. メンターや JME2015 のメンバーとの交流を保ち、
定期的に自己の Mission/Vision と Goal を見直
す機会を作る
JME を通して打ち立てた Mission/Vision は、私一人では成し得ない。上記の課題は、すぐに達成で
きるものではなく、継続していくものである。これらの課題を実行し続けることで、MDACC での経
験を生かし続けていきたい。
【謝辞】
J-TOP、JME program を創出し、MDACC での大変貴重な経験を与えてくださった上野先生、
渡米前からプログラムが円滑に進むようにサポートしてくださった事務局の笛木様、私たちのわがま
まな要望を柔軟に受け入れてくれ、細かなスケジュール調整をしてくださった Marcy、忙しいにも関
わらず、私のために時間を作り、相談に乗ってくださったメンターの Dina と Jeff、この5週間が充実
した時間になるようにと、様々な企画をしてくださった私たちのメンターの先生方、プログラムに関
するたくさんのアドバイスをくださった JME2014 の方々、忙しい業務の中、私たちに指導してくだ
さった MDACC スタッフの方、ヒューストンでの生活の手助けやアドバイスをしてくださった同じア
パートの先生方、このプログラムのスポンサーとして、この素晴らしい機会を与えてくださった一般
社団法人オンコロジー教育推進プロジェクトの関係者の皆様、また、渡米前の準備に際し、ご協力い
ただいた新潟大学医歯学総合病院の先生方、長くなってしまいましたが、心より感謝いたします。皆
様のご支援とご協力のお陰で、このような貴重な経験ができました。私にとって一生の宝となる 5 週
間になりました。最後に、この 5 週間を共に過ごした JME2015 のみなさん、みなさんのお陰で、と
ても実りある 5 週間を過ごせました。本当にありがとうございました。今後とも末長くよろしくお願
いいたします。