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第1章
韓国におけるポータル市場の概要
みほん
Ⅰ.主要ポータル間の競争構図
1.回線とデータサービスの分離による競争構図
アクセスサービスとコンテン
ツサービス間の分離により、
ネットワークオペレータ運営
ポータルと専門ポータル間
の競争構図が形成
韓国の場合、回線サービスとインターネット・コンテンツサービスが分離されて
おり、ポータルもNO(ネットワークオペレータ)運営ポータルと専門ポータルに自ずと
分けられている。NO運営ポータルは、ブロードバンドインターネット加入者の誘致と
顧客リテンショの確保のためスタートしたため、直接運営するより子会社や委託業
者による運営が多くなっており、その結果コンテンツの多様性や差別化において、
専門ポータルよりはるかに遅れをとっている。
2003年までコンテンツ分野
で躍進していたベンチャー系
専門ポータルの善戦
一方、ISPの定額料金制と値下げ競争により、世界のどの市場よりも優れたビジ
ネス環境下にあった韓国の専門ポータルは、NO運営ポータルとの差別化に力を
入れた。定額制に基づく固定ネットワークのブロードバンド環境が整備され、専門
ポータルはユーザーのコンテキスト(Context)把握を通じた接続時間の増大に
よって、コンテンツ中心に特化したサービスを試みた。
このような動きは「P世代」と呼ばれる「Prosumer」(プロシューマ)の活躍により、
収益化および顧客ロイヤリティの向上に貢献した。これによって「ゲーム」「電子商
取引」など、個別専門ポータルのビジネス領域にまで、サービスが拡大されることに
なったのである。したがって、2003年まで韓国のポータル市場の競争はDaum、
NHN、Yahooという3社の先発専門ポータル会社向けの競争だったと言える。
2.キャリア、大企業の参入による競争構図の再編
しかし2003年を機に、巨大な有・無線ネットワークオペレータがポータルを通じ
た事業の多角化に集中し始めてから、ポータル市場の競争構造も変化している。
表1-1 ネットワークオペレータ運営ポータルvs.ベンチャー系専門ポータル
ネットワークオペレータ運営ポータル
初期ポータル
推進戦略
結果
ベンチャー系専門ポータル
ブロードバンド加入者の誘致および顧客リテンショ コンテンツ中心の特化したサービス(ゲーム, コ
ンが中心
ミュニティなど)
アクセスサービスの補助手段としてポータルを運 専門化を通じてISPのポータルと差別化を図る
営
専門ポータル社に比べて全体的なサービス面で ページ・ビュー/訪問回数など、顧客のロイヤリ
相対的に劣る
ティが高い
ブロードバンドポータルとして訪問顧客向けの収 顧客のロイヤリティをベースに、さまざまな収益
益創出が不十分
源を創出
出典: ATLAS Research Group,2004.11
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第1章 韓国におけるポータル市場の概要
図 1-1 韓国ポータル市場規模および顧客ロイヤリティの現状
* 赤い線: 専門ポータル企業/ピンクの点線: NO運営ポータル
出典: 情報通信産業動向、オジョンスク、2003.12.
数年間、Daumの独走をNHNが追いかける構図が続いてきたが、資金力とマー
ケティング力を活用したモバイル基盤のNOポータル、Nate.com(韓国最大の移動
体通信会社であるSKテレコムの子会社、SK Communicationsが運営)が、「有・無
線統合ポータル」を標榜し市場に参入してから、ビジネス領域はモバイルの領域に
2003年を機に、ネットワーク
オペレータ運営ポータルが
「有・無 線統 合 ポ ータ ル」を
標榜しながら加わることで、
競争構図が再編
まで拡大している。
2004年7月には、韓国最大の固定通信事業者であるKTのコンテンツ部門の子
会社、KTHが「PARAN」という有・無線統合ポータルの運営を開始し、有・無線通
信環境はもちろん、モバイルの領域まで合わせたバーティカル戦略を提示するな
ど、「有・無線統合ポータル」の勢いが次第に強くなっている(※1)。
実際、「Nate」の場合、コミュニティ・ポータル「Cyworld」の買収によりYahoo Koreaを抜き3位に浮上、DaumとNHNへのキャッチアップを図っている(※2) 。また
「総合メディアポータル」を目指すKTグループの「PARAN」は、新たに6位にランク
インするなど、急激な変化の要因となっている。
※1 KTグループの場合、有線
通信網を含め、韓国第2位の移
動通信社KTFまで子会社として
保有しており、「PARAN」という統
合ポータルを通じて、有・無線通
信環境における様々なサービス
を提供することによって、今後
ポータル業界で第3位へのレベ
ルアップを目指している。
※2 2002年 5月: DaumYahoo>NNH>Dreamwiz>Hanmir>Lycos>Hanafos
2003年 5月: Daum>NNH>Yahoo>Nate>Dreamwiz>Hanafos>Netian
2004年 8月: Daum>NNH>Nate>Yahoo>Empas>Dreamwiz>Paran
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韓国におけるポータル市場の競争構図変化の推移 [単位: 千人]
図1-2 韓国のポータル市場における競争構図変化の推移(単位:千人)
Daum
(19,317)
Yahoo!
(18,068)
Daum
(21,752)
Naver
(17,789)
Naver
(20,531)
2002.5月
2002.5月
Daum
(24,194)
Yahoo!
(19,449)
Naver
(24,101)
2003.5月
2003.5月
有・無線統合ポータルの台頭
有・無線統合ポータルの台頭
有・無線の巨大NOがポータル
を通じた事業の多角化に集中
したことにより、今後有・無線
統合が主な懸案になると見ら
れる
Nate
(19,625)
2004.5年
2004.5年
•Yahoo! 4位(Second Tier 墜落)
•コミュニティーポータル「Sayclub」8位
•有・無線統合ポータル‘PARAN’立ち上
げ(KTグループ, 7.17)
•有・無線統合ポータル
Nate 4位
新規BMの発掘, 新規市場開拓の必要性増加 vs. マーケティングコスト増加->
1次的に日本市場を開拓
出典:ATLAS Research Group, 2004.11.
図1-3 メジャーポータルのStickiness Trace(2003年 vs. 2004年)
Daum
24,194,257
高い
Naver
20,530,858
Yahoo
19,448,820
Sayclub
8,784,544
Dreamwiz
14,914,300 Empas
12,633,973
Hanafos
14,099,802
Nate 15,077,471
Chol
Hanmir
12,804,121
12,670,028
低い
*2003年5月
平均再訪問日数
Daum
21,752,138
Top tier group
Yahoo
18,857,462
Naver
24,191,367
Nate
19,624,524
Empas
Second tier group
Dreamwiz12,378,426
Sayclub
12,404,162
9,646,178
Hanafos
13,206,315
KTグループ
Hanmir
‘PARAN’(?)
9,573,450
Chol
低い
10,254,086
*2003年5月
平均滞留時間
高い
※バ
キャ
リ ア
以
SKテレコム、KTなどの通信事業者(NO)以外にも、CJインターネットなど、大企
業のポータル市場参入により、市場の二極化現象はさらに進んでいる。資金力を
利用した攻撃的な事業拡大とマーケティング戦略によって、中・上位を占めている
ポータルの競争が激化する一方で、下位に位置するポータルの立場は次第に不
利になってきた。2004年10月現在、上位4ポータルでシェア60%を占めている。
Ⅱ. 収益モデル分析
1.主な収益源の分析
韓国の主要ポータルは、当初、Web検索、ディレクトリサービスなどの一般的な
サービスにより、アクセス数増加に重点を置いていた。しかし、その後ページ・
ビュー(PV)とアクセス数(UV)を同時に最大化するサービスへの革新を図り、
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第1章 韓国におけるポータル市場の概要
図1-4 韓国ポータル市場における競争の現状
出典:ATLAS Research Group, 2004.11
2000年から収益構造が改善され始めた。特に、検索広告、アバターなど新たな収
益モデルの導入に成功し、トップのDaumはショッピングモール、保険仲介など、商
取引に関連する収益モデルを持続的に進化させている。
PVやUVの極大化を支えるさ
まざまなサービスの革新によ
り、収益源を多角化
これまでショッピング部門の売上が取引額として集計されていたが、2003年EC
関連の会計基準変更により、EC手数料だけがポータルの売上として計上されるこ
とになり、トップのDaumより2位のNHNが売上でリードしているという特徴が表れた。
2003年以降、ブログ、Mini Hompyなどの急成長により、ホームページをデコレー
ションするためのアイテム販売を通じたコミュニティ・サービスの有料化が定着し、
2004年にはMMORPG(多人数オンラインロールプレイングゲーム)の部分的な有
料化の許可とオンライン・ミュージックサービスの有料化が推進され、インターネッ
トサービスの有料化に向けた環境が整備されている段階にある。
コミュニティサービスを始め、
オンラインゲームや音楽
サービスの有料化によって、
有料化モデルが定着
しかし2004年に入り、全般的な市場の飽和により収益面で危機を迎えている。特
にゲーム市場の飽和に伴う競争の激化は、NHN、NeoWizなどゲームに積極的だっ
たポータルの業績悪化を煽っている。景気低迷と市場飽和により、B2C部門の収益
が悪化し始めた一方で、個人化と地域(ローカル)検索サービスを通じた登録広告
市場が拡大し、B2B部門の売上が新たな収益源として定着しつつある。これにより、
検索部門で独走を続けてきたNHNは、全般的な業績悪化をカバーしている。
コミュニティとエンターテイメント・サービスを巡る進化が個人顧客を対象にした
検索サービス市場にまで拡大したことにより、全般的なPV増加に貢献し、最終的
には検索および広告の売上増大という直接収益にまでつながっているのである。
つまり、個人顧客を対象にした様々なサービスは「アバター」や「アイテム」販売と
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図1-5 韓国における主要ポータルの売上げ規模の推移(億ウォン)
出典:各社のIR資料および金融監督院の訂正公示
いう少額決済を基盤とした収益だけでなく、企業顧客を狙った検索・広告収益をも
創出する間接収益源としての役割を果たしていると分析できる。
2.ハイブリッド型モデルによる好循環の創出
前述のように、韓国のインターネット産業は新規サービスの開発とB2B/B2C、全
領域にわたる収益モデルの多様化によってビジネスモデルの革新に成功したと言
える。上記の革新は、B2C収益モデル部門が主導したが、B2C革新による全般的な
B2Cサービスの革新が、B2B
収益増を牽引するという好
循環を創出
サービスレベルの向上により、B2B部門の収益増も牽引する好循環を生み出した。
サービスと収益モデルの間には、1 :1、1 :n、n :1のあらゆる組み合せが試みら
れている。例えば、月額料金制とアバター/アイテムの収益モデルはn:1の関係に
該当し、VOD/MOD、オンラインゲームなどは収益モデルと1 :n関係として捉える。
また、電子商取引と検索などのサービスは収益モデルと1 :1の関係に該当する。
韓国のポータル市場の場合、個別サービスの進化だけでなく、サービス間の連
携に基づくハイブリッドサービスを通じた収益の創出と、有・無線連動による
Context Awarenessサービスの進化など、独特の特性を持つ。韓国の有線ポータ
ル会社のビジネスモデルについて詳細に分析するため、以下では主要ポータルの
サービスをゲーム、コミュニティ、IM、検索の4つにまとめた。
ゲームと検索はUVに対する貢献度が高いが、コミュニティサービスはPVに対す
る貢献度が高いのが特徴である。IMの場合、高い利用率とともに、有・無線環境を
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第1章 韓国におけるポータル市場の概要
図1-6 韓国ポータル会社の主要収益モデルの動向
出典:ATLAS Research Group, 2004.11
図1-7 全体ポータルサービスのUV/PV比重(2004.05 基準)
出典:KoreanClick, 2004.05
統合するコミュニケータに進化しており、今後モバイル市場で確固たるプレゼンス
を目指す日本のポータル事業者に、重要なインプリケーションを与えるだろう。
3.決済インフラの発達が収益モデルの定着に貢献
サービスと収益モデルを組み合せる上で中核的な要素となったのは、さまざま
な少額決済インフラである。韓国のポータル会社は、コミュニティやゲーム、ミュー
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