競争制限・国家独占と規制の首尾一貫性

競争制限・国家独占と規制の首尾一貫性
─経済活動に対する規制と比例原則─
井上典之*
かという点に関しては,上述の経済的自由の保
1 はじめに
障以上の内容について特に規定するところがな
い。そのために,通常は,経済秩序の基本法と
「自由な経済活動は,……近代社会に不可欠
して「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関
1
の構成要素である」。日本の憲法学における代
する法律」(以下,一般的な呼び名である独占禁
表的な教科書の「経済的自由」の章の冒頭はこ
止法とする)が「経済憲法」としての位置づけ
の文章から始まる。そのような経済的自由は,
を与えられる。そこで,独占禁止法1条は,「公
「封建的な拘束を排して,
近代市民階級が自由な
正且つ自由な競争を促進し」て「雇傭及び国民
経済活動を行うために主張された権利」であり,
実所得の水準を高め,以て,一般消費者の利益
「市民革命当初は,
不可侵の人権として厚く保護
を確保するとともに,国民経済の民主的で健全
された」が,
「現代においては,
経済的自由はむ
な発達を促進することを目的」とする規定にな
しろ社会的に拘束を負ったものとして,法律に
るが,これがいかなる意味を持つのかは問題と
よる規制を広汎に受ける人権と理解」されるこ
なる。この点に関して,主婦連ジュース事件の
2
4
とになる 。経済的自由についてのこのような理
最高裁判決 は,独占禁止法1条の目的規定か
解から,憲法と経済秩序・経済活動の関係に関
ら,「公正な競争秩序の維持,すなわち公共の利
して,例えば,一方で「市場における事業者の
益の実現を目的としているものであることが明
自由な経済活動を直接担保し,市場経済の成立
らか」であるとするし,独占禁止法2条6項に
を法的に基礎付け」
,
その結果として「憲法には,
いう「不当な取引制限」行為のメルクマールで
市場が機能するために必要な一定の条件整備を
ある「公共の利益に反して」との文言に関する
果たす役割が期待」されることになると同時に,
解釈に関連してではあるが,石油カルテル事件
他方で「市場経済に対する国家の公的介入」を
の最高裁判決5も,
「独禁法の立法の趣旨・目的」
憲法が規律し,その結果として「市場は,ある
等に照らすと,独占禁止法は「自由競争経済秩
程度まで,憲法の存在とは無関係に自生的に発
序」の維持を「直接の保護法益」としていると
展する経済秩序」と想定されることになる3。問
の判断を下している。ここに,
「公正な競争秩
題は,この市場経済秩序というものを,憲法上,
序」を「自由競争経済秩序」とし,その維持を
どのように把握することができるのかというこ
公共の利益ととらえ,独占禁止法はそれを直接
とである。
の保護法益として制定されているとの見解が示
この市場経済のあり方について,憲法は一定
されることになる。
の価値観に基づき特定の秩序を選択しているの
しかし,どのような状態が「公正な競争秩序」
* 神戸大学大学院法学研究科長・教授
37
ないしは「自由競争経済秩序」となるのかにつ
ここで重要なことは,憲法学が念頭に置くも
いて,必ずしもその内容は明確にされてはいな
のが国家による規制のない自由に基づく経済秩
い。この点に関して,例えば,経済学の見解を
序が「公正な競争秩序」になるのかという点で
参照して,
「完全競争」を以下のように示すもの
ある。すでに述べたように,市場経済秩序との
がある。
「①市場で取り引きする売り手と買い手
係わりにおいて,憲法には,国家の公的介入を
の数が非常に多く,その売り手も買い手も市場
規律することだけでなく,市場が機能するため
価格の上にいかなる影響をも及ぼし得ないこと。
に必要な一定の条件整備を果たす役割も期待さ
②どの売り手も買い手も市場における価格その
れている。もちろん,
「経済秩序を本来自生的に
他の取引条件について完全な情報を有している
成立することが可能なもの」ととらえ,経済的
こと。
③市場で取引される商品が同質であり,
差
自由を「完成された国法体制の下でなくても」
別化されていないこと。④あらゆる生産要素の
成立する,文字通りの「自然的自由」と理解す
完全な可動性が存在し,
売り手,
買い手とも様々
ることから出発することも可能であろう10。し
な取引へ自由に参入しまたは退出することがで
かし,経済活動によって生み出される経済秩序
きること」
。ただ,
このように「完全競争」をと
を自生的なものとして放置しておくことの問題
らえると,ほとんどの場合,その実現は不可能
も認識される現在では,国家・公権力がそこに
であり,独占禁止法によって「完全競争を実現
踏み込んで一定の制約を課す必要性は否定でき
するようなことは,およそ非現実的であり,実
ないことになっている。その結果,「経済憲法」
際上不可能なこと」といわれることになる。そ
たる独占禁止法は,その規制を通じて「公正な
の結果,完全競争に代えて,概念的には不明確
競争秩序」の創造・維持を目的とすることにな
さを残すことになる有効競争論が,独占禁止法
る。結局,この「公正な競争秩序」を憲法上ど
の立法論や解釈運用に大きな影響を与えてきた
のようにとらえればよいか,それは人権制約根
6
といわれるのであった 。
拠(公共の福祉)の内容になるのか,あるいは
これに対して,
憲法学説は,
「経済的自由を規
人権保障の内容そのものかという問題がここに
制する立法の多くは,特定の市場への参入制限
提起されることになろう。
や価格統制など,競争を制限する性格を持つ」7
以上のことから,経済(営業)規制の憲法上
とする。さらに,
「国家機関を含め社会全体」を
の可否について,
「公正な競争秩序」という概念
規律する「不文の基本法」としての「見えない
が結構重要な役割を果たしていることが確認で
憲法」第1条は,「社会的公平や正義の実現と
きる。そうだとすれば,国家による経済規制の
いった特定の価値観をかぶせられた経済秩序」
問題をこの「公正な競争秩序」という観点から
としての〈社会的経済秩序〉を定め,
「純粋な自
一度検討することが必要になる。本稿の目的は,
由競争をこの上ない価値」とは考えずに,
「社会
その一端として,〈競争秩序〉という観点から,
的な公平の観点から,競争による弱肉強食の分
憲法による経済(営業)規制の問題を見直して
配過程に,
ある種の歪みを加えて」よく,
「自由
みることにある。
競争のプロセスそのものを既得権保護のために
2 競争との関係での直接規制と間接規
制
歪める」ことを認める日本の経済政策の特徴を
そこに見出す見解8も示される。その結果とし
て,憲法からの視点は,市場における経済活動
⑴ 経済活動に対する公的規制の区別
(そこには参入規制という活動そのものを事前
に統制しようとするものも含む)に対する法的
日本の最高裁は,経済規制,とりわけ営業規
規制のコントロールに主として向けられてい
制の憲法上の可否についての判断で,
「規制措置
9
る。
が憲法22条1項にいう公共の福祉のために要求
38
されるものとして是認されるかどうかは,これ
合性が審査されなければならないのかについて,
を一律に論ずることができず,具体的な規制措
それほど明確な説明はなされていない。確かに,
置について,規制の目的,必要性,内容,これ
狭義の職業選択の自由に対する制約となる場合,
によって制限される職業の自由の性質,内容及
憲法上の文言からいえば,明文で保障されてい
び制限の程度を検討し,これらを比較考量した
る自由を直接制約するものである以上,その正
11
うえで慎重に決定されなければならない」 と
当性の判定には慎重な考慮が必要になるという
の判断を示した。そのうえで,規制態様につい
ことはできる。ただ,経済(営業)規制の場合,
ては「単なる職業活動の内容及び態様に対する
個人の活動というよりもむしろ企業活動として,
規制」と「狭義における職業の選択の自由その
その開業規制が個人の活動を念頭に置いた狭義
ものに制約を課するもの」に区別する。そして,
の職業選択の自由の制約になり,本当に企業の
後者に分類できる許可制は「職業の自由に対す
開業もそれと同じように厳格に憲法適合性が判
る強力な制限である」から,
「その合憲性を肯定
定されるのか,もしそうだとすればそれはなぜ
しうるためには,原則として,重要な公共の利
かという点は問題になる。そこで,経済活動に
益のために必要かつ合理的な措置であること」
対する公的規制の二分論を,経済秩序の基本と
を要し,
また,
「積極的な目的のための措置」で
なる「公正な競争秩序」の維持と関連づけて検
はなく,
「自由な職業活動が社会公共に対しても
討することが必要になる。
たらす弊害を防止するための消極的,警察的措
この点に関して,規制目的二分論について,
置である場合には,許可制に比べて職業の自由
「積極目的・消極目的の区別は相対的」で,「消
に対するよりゆるやかな制限である職業活動の
極目的の規制とされてきたものでも,積極的規
内容及び態様に対する規制によって右の目的を
制をも同時に目的とする立法が増加しつつあ
十分に達成することができないと認められるこ
る」ことを勘案して,
「規制の目的だけではなく,
とを要する」との判断基準が示されることとな
規制の態様をも併せて考える必要がある」との
り,そこには,この判断の前提となる「国民経
指摘がある。この見解からすれば,
「市場への新
済の円満な発展や社会公共の便宜の促進,経済
規参入規制のように職業選択の自由そのものに
的弱者の保護等の社会政策及び経済政策上の積
対する制限で,しかも本人の能力と関係なく制
極的なもの」と「社会生活における安全の保障
限が課せられる場合には,規制目的のいかんを
や秩序の維持等の消極的なもの」という規制目
問わず,厳格な審査が要請される」12という見解
的の二分論が重要な役割を果たすと考えられて
が主張される。ここでは,規制目的というより
いる。
も,規制態様に焦点を当て,市場への新規参入
この日本の経済(営業)規制に対する職業の
規制となる態様での規制を厳格に審査しようと
自由からの憲法適合性判定のために用いられる
する。このようなとらえ方の理由をどのように
枠組みは,規制目的からの審査密度の濃淡に関
考えればよいのだろうか。これについて,憲法
して,様々な議論および検討が加えられている。
ランクでの〈競争秩序〉の選択の有無について,
しかし,その前段階たる規制態様・方法につい
「憲法は,〈競争秩序〉への選択については白紙
ては,狭義の職業の選択を規制するものと職業
であって,経済政策的中立性を保っている」と
活動の内容・態様に対するものとの区別がなさ
したうえで,営業の自由に対する政策を憲法ラ
れているものの,なぜ,どのような点で狭義の
ンクで拘束するのは個人権を保護する規定だけ
職業の選択に対する規制の方が職業活動の内
であり,そこから営業の自由につき,「職業選択
容・態様に対する規制よりも厳しいといえるの
の自由に対する一般的保障を介した間接的保
か,さらにそこから,なぜ前者に対する規制に
護」だけが問題となり得るとの見解13に基づく
ついては後者に対するものよりも慎重に憲法適
規制態様の二分論を参考に検討することにする。
39
「国家による規制が営業の自由を侵害するの
法22条1項の職業選択の自由にいう「職業」そ
は,いかなる場合だろうか」
。憲法が中立性を
のものを「人格的価値」と結びつけることによ
保っているとされる〈競争秩序〉に関連づけて
り,まさに文字通り職業の自由を全体として個
この問題を検討するために,公的規制は二つの
人権的な構成でとらえ,そのバイアスを緩和す
態様に区別される。まず,
「営業の自由を直接的
るために目的二分論が用いられている。そのた
に規制し得るもの」として,営業の事前抑制や
めに,経済(営業)規制そのものを〈競争秩序〉
内容規制が挙げられる。参入・参出規制,価格
との関係で憲法問題化せずともその規制の正当
の認可制などの価格統制,
健康・衛生の確保,
安
性判断は十分に可能であり,これまでの規制に
全の確保,公害防止・環境保全などの目的での
対する憲法適合性審査では,問題とされる規制
資格制,認証制などがこの直接規制の態様とし
の効果を〈競争秩序〉と関連づけて検討する必
て挙げられ,これらの態様による経済(営業)
要がなかったといえる15。
規制の場合,「競争の制限を直接に意図してお
そこで以下では,第二次大戦後,日本と同じ
り,その領域においては,競争的市場機構が成
ように「可能な限り市場の独占的要素を排除し,
立しない」とされることになる。
競争条件を整備することによって,市場の自動
これとは別に,営業の自由を直接規制するわ
調整作用の機能回復を図り,それを通じて経済
けではなく,内容中立的に「時・所・方法」を
循環を確保しようとする」市場経済秩序16に移
規制することによって「営業の自由を間接的に
行したドイツにおいて,21世紀になって市場に
規制し得るもの」も考えられる。民法,
商法,
不
おける競争原理との関係で経済(営業)規制を
当競争防止法等による「不公正な競争行為に対
問題にする連邦憲法裁判所の二つの事例を素材
する規制」がここに分類でき,独占禁止法によ
にして,
〈競争秩序〉と憲法との関係を検討する
る「私的独占や不公正な取引方法に対する規制」
ことにする。
もこの間接規制に位置づけられる。これらの態
⑵ 競争秩序についてのドイツの状況
様での規制の場合,事業者の自由な参入・退出
は認められることから,価格のみをシグナルと
ドイツ連邦憲法裁判所も,日本の最高裁と同
して自由競争を繰り広げる「競争的市場機構の
じように,基本法12条1項によって保障された
維持を前提としている」ことになる。ここでは,
職業の自由を,単に経済的な基本権としてだけ
営業の自由そのものが直接規制されていないが,
でなく,人間の自己実現の重要な要因としても
この態様での規制が強度になれば,それは「直
理解する。そのために,連邦憲法裁判所の理解
接規制と同等の効果を持ち得る」
ことになり,
そ
では,基本法12条1項によって保護される職業
の意味で営業の自由という権利侵害を構成し得
は,非常に包括的に,人間の生計を維持するた
14
る公的規制になるとされる 。
めに自己にとって適切と考えられたあらゆる活
この規制態様の二分論に依拠して,市場の自
動を意味するものとされる。したがって,そこ
由競争システムが機能する限り国家に経済に対
での保護の対象は,法律上規制されていない行
する不干渉を要求し,経済権力の形成の阻止や
為だけではなく,法律上禁止されているか否か
統制の必要性がある場合には国家による規制が
にかかわらず,「継続的に行われ,生活基盤の創
要求されるとの経済秩序についての考え方から
出と維持に役立つすべての所得を志向する活
公的規制を検討すれば,直接規制はその考え方
動」という連邦憲法裁判所によって示された「職
とは敵対的となり,間接規制に対しては必ずし
業」のメルクマールを充たす活動すべてになる。
も否定的なものとはいえないことになる。とこ
なお,このような人格的要素から広範な「職業」
ろが,日本ではこのような考え方に基づいて議
概念が展開されているが,ドイツ基本法ではそ
論が展開されているわけではない。むしろ,憲
の19条3項により性質上可能な限り国内法人に
40
も基本権は適用されることから,人格との関連
務づけるとされる。もちろん,EU基本権憲章16
性から展開される解釈の下での職業の自由も,
条は,EU基本権憲章15条の職業の自由および労
自然人・法人にかかわりなく,国家による公的
働の権利の保障,さらにEU基本権憲章17条の財
17
規制に対する統制規範として利用されている 。
産権の保障と共に,それらと協働することでEU
以上のような連邦憲法裁判所の職業の自由に
での経済的基本権を形成し,その意味で個人と
ついての理解から,それと自由な競争秩序とは
いうよりも経済活動の主体としての企業の利益
一体どのような関係が導かれるのかは問題にな
に奉仕することは明白である。ただ,企業活動
る。一般に,連邦憲法裁判所も,日本の最高裁
の自由は,それだけにとどまらず,自由な競争
と同じように,
〈競争秩序〉の選択については中
秩序という基本原則にも奉仕し,それが構成国
立的な立場をとり,特に経済(職業)規制につ
による国内規制にも影響を及ぼすことになる 。
いては立法者の形成の余地を認める判断を基礎
その結果,ドイツでも,このヨーロッパ法の基
にしている18。そのために,職業の自由と競争
本原則に拘束され,国内の経済秩序だけではな
秩序との関係については必ずしも明らかではな
く,EU域内市場での競争という観点から,企
く,連邦憲法裁判所の判断では,自由な競争そ
業・経済活動に対する規制の問題が基本法12条
のものを基本法12条1項が保護しているか否か
1項の職業の自由と共に議論されることになる
については定かでないといわれることになる。
のであった21。
ただ,連邦憲法裁判所による自由な競争に関連
以上のような規範内容に関する議論と共に,
する理解として,少なくとも市場への参入規制
ドイツではまた,
〈競争(Wettbewerb)
〉概念
は職業の自由(基本法12条1項)の制約になる
そのものが明らかではないと指摘される。もち
と考えられている。すなわち,職業の自由は競
ろん,
〈競争〉概念をめぐって様々な議論が展開
争への参加を基本権上の自由として保障するが,
されている。そして最近では,EU域内市場にお
他方,競争秩序の維持のための職業規制自体は
ける競争秩序の問題がその議論をより一層活発
必ずしも職業の自由の許されない侵害ともとら
にさせている。そのために一応,経済的な視点
えられていない,
ということである。そして,
連
で〈競争〉概念を検討すれば,市場(Markt)
邦憲法裁判所の職業の自由についての基本的コ
の概念から出発して,市場での独占権力の不在
ンセプトである人格と関連する自由との理解か
として〈競争〉状態の存在ととらえる傾向があ
らすれば,競争妨害がある者の職業活動を妨げ
る。この概念規定によると,独占権力の存在が
ることになる場合には,それがまさに基本法12
競争状態に対する脅威となり,独占それ自体が
条1項の保護領域に関連することになり,その
競争を否定する状態になる。さらに,EU法での
限りで職業の自由の侵害が問題になり得ること
議論によれば,
〈競争〉それ自体は市場経済モデ
20
19
になる 。
ルとしてのものにのみ限定されるわけではなく,
この基本権上の問題とは別に,競争秩序の維
それを比喩的にたとえて,社会的にみて競い合
持そのものは,ヨーロッパ共同体設立の際の基
う競合者(Konkurrenten)が存在する場合(例
盤であった域内市場において追求される目標で
えばスポーツや政党政治,更にはより広く法秩
あることからヨーロッパ法の重要な基本原理の
序そのものの場面など)には,
〈競争〉が存在す
一つに属し,その結果として,現在ではEU基本
るとされることになる。そこでは,独占状態の
権憲章16条による企業活動の自由に含まれると
不存在とは別に,複数の競合者によって稀少な
の考えが基本になっている。そこでは,同じく
財の獲得ないしは同一の目標へ向かって競い合
EU基本権憲章15条で保障される職業の自由と
うこと(Konkurrieren)をもって〈競争〉とと
は区別して規定される16条の企業活動の自由の
らえられることになる22。
保障は,EUそれ自体と構成国に自由な競争を義
このような規範内容と〈競争〉概念について
41
のドイツの状況から,経済市場での独占の存在
馬についての競争賭博・富くじ法により,連邦
は競争状態に対する脅威となり,それが当該市
政府によって認可された営利的ブックメーカー
場への参入規制となっている場合には職業の自
によって行われる,競馬というスポーツ競技の
由の問題として憲法上の対応が必要ではないか
結果に関する賭け事だけを認めているにすぎな
との帰結が導かれる可能性がある。
この場合,
独
い。但し,賭博・富くじに関する規制問題は,ド
占による市場参入の規制であることから,前述
イツでは公の安全と秩序に関する法に属し,そ
の規制態様の二分論によると直接規制による職
れについては基本法70条1項に基づきラントが
業の自由に対する介入(Eingriff)が問題となる。
排他的立法権限を有している。そのために,刑
それとは別に,市場に競合者が存在し,そのよ
法上の「官庁の許可」権限の規定を設けること
うな者たちによる競い合いが阻害されるような
がラントの排他的立法権限となり,営業法に基
規制がなされると,それもやはり市場での〈競
づく許可で富くじの主催・取次を認めるラント
争〉制限になる。そして,それが職業活動に対
もあれば,私法上の形式で国家によって設立さ
する規制として存在すれば,やはり職業の自由
れた企業(公営企業)による富くじや賭け事の
への介入として憲法上の問題となり得る。この
実施を認めるラントもある。その中で,バイエ
場合は,市場への参入そのものが規制されてい
ルン州では,これを,1999年4月29日のバイエ
るわけではなく,むしろ参入を認めておきなが
ルン州によって実施されるクジ及び賭け事につ
ら競い合うことを阻害する条件を賦課すること
いての法律(バイエルン・国家クジ法(Staats-
になるので,そこでの規制は職業の自由との関
lotteriegesetz)
)によって行っている。そして,
係では間接的なものとなり,その限りで憲法問
バイエルン・国家クジ法によると,スポーツク
題としての対処が必要とされることになる。以
ジはラント自身が胴元になって主催して行われ
下では,この二つの場面での問題を提起した連
たものだけが合法なものであり,その取次もバ
邦憲法裁判所での事件を概観することにより,
イエルン州のロット行政局が関与する公法上の
その問題に連邦憲法裁判所がどのように対処す
法人によってのみ行われることとされていた。
るのかを検討してみることにする。
すなわち,バイエルン州では,スポーツクジの
主催およびその取次について,バイエルン州が
⑶ ドイツ連邦憲法裁判所の二つの判決
独占的に行うものとされていたのである。
⒜ 国家独占による営業規制
これに対して,憲法異議申立人は,連邦の競
ドイツでの直接規制の問題の例としてここで
争賭博・富くじ法により認可されたブックメー
取り上げるのは,国家独占によって民間事業者
カーとしてミュンヘンで馬の公開レースにおけ
の市場参入を排除することの可否が争われた
る馬券の取次を営業として行っていたが,バイ
2006年3月28日のバイエルン・国家クジ法判
エルン州でのスポーツクジの国家独占のために
決23である。連邦憲法裁判所第一法廷は,この
EU域内で実施されているスポーツクジの取次
事件でバイエルン州によってスポーツクジの主
に事業展開することが阻害されていた。そこで,
催・取次の独占が基本法12条1項の職業の自由
異議申立人は,行政裁判所にEU域内で行われて
の保障と矛盾しないか否かの問題についての判
いるスポーツクジの取次についての許可からの
断を求められた。
自由の確認と,その確認訴訟提起後に行われた
ドイツでの賭博・富くじについての規制は次
許可申請に対する許可付与の義務づけを求めて
のようになっている。連邦の刑法典(StGB)は,
訴えを提起した。しかし,行政裁判所は,スポー
国家によって許可されていない賭博・富くじを
ツクジの実施と取次がバイエルン・国家クジ法
犯罪としている24。連邦法は,それとの関係で,
による禁止に矛盾するとの理由で異議申立人の
何度も改正されながら現在でも妥当している競
請求を棄却し,上訴審,特に連邦行政裁判所で
42
25
も下級審の判断が是認された 。そこで,異議
され,正当な公共の福祉という目標を追求し,職
申立人は,連邦憲法裁判所に,バイエルン・国
業活動の種類や介入の強度を考慮した十分な理
家クジ法によるスポーツクジの実施・取次の国
由によって比例原則に一致している場合にのみ
家独占が基本法12条1項の職業の自由の侵害に
許される,との問題とされる介入の正当性判定
なるとの理由で,この連邦行政裁判所の判決に
のための審査方法を提示する。
対する憲法異議を提起したのであった。
そこで,介入の目的審査が行われるが,その
この憲法異議について,連邦憲法裁判所第一
点で「私的なあるいは営利的な利益目的のため
法廷は,
2006年3月28日,
「スポーツクジの国家
の射幸心をむさぼることを排除すること」とい
による独占は,それがあくまでも射幸心からの
う賭博規制の目標が確認され,それ自体は正当
常習性の抑制のために行われる限りでのみ基本
な公共の利益になるとの判断が示される。すな
法12条1項の職業の自由の基本権に一致する」
わち,国家による賭け事の独占とそれによって
もので,
「その国家による独占が射幸心からの常
意図されているクジ制度の制限とそれに基づく
習の危険の抑制のために行われていない限り,
秩序についての主要な目的は,賭博についての
基本法12条1項と一致しない」との判断を下し
射幸心からの常習性の抑制,クジ提供者の側で
た。そこでの理由は以下の通りである。
の詐欺的な謀略ないしは虚偽広告の危険からの
「職業」とは,継続的に行われ,生活基盤の
消費者保護,賭け事に結びつく後発的・付随的
創出と維持に役立つすべての所得を志向する活
犯罪からの危険の防御である。なお,国家の財
動を指す。スポーツクジの開催・実施ならびに
政的利益は,それ自体,賭け事の独占の樹立の
取次も,このメルクマールを充足し,それ故に
正当化のためには問題にならない。というのも,
職業活動として基本法12条1項により職業の自
賭け事からの収益は,射幸心の抑制と常習性の
由の基本権の保護の下にある。単純法律が職業
危険の防止の方法として認められる行為の帰結
概念のメルクマールを原則的に充足する活動の
として正当化されるだけで,独自の目標として
営利的行使を禁止する場合でも,職業の自由の
正当化されるわけではないからである。
基本権による保護は,当該活動に認められない
以上の目的の正当性を前提に,次に手段とし
ことはない。ドイツの法秩序は,スポーツクジ
ての国家独占の正当性が判定される。そこでは,
の提供を一定の範囲で許された活動とみなして
消費者保護や青少年保護ならびに後発的・付随
いる。スポーツクジの提供は,ヨーロッパ法の
的犯罪の回避は,私的なクジ業者の賭け事の営
意味でも経済的活動として承認されている。そ
利的提供についての法的な要件を規範化するこ
の結果,クジの主催・実施のラントによる独占
とによっても原則的に実現し得ることが確認さ
から,関連する活動がそれ自体私人による職業
れ,手段の比例性については,もっぱら射幸心
活動としてなし得ないということにはならない。
の抑制と常習性の危険の防止という観点から検
そのために,バイエルン州でのスポーツクジの
討することが必要とされることになる。しかし
国家独占は,それによって生ずる私的な事業者
ながら,賭け事の独占の範囲で開かれたスポー
による営利的なスポーツクジの実施・取次を排
ツクジの提供は,射幸心の抑制や賭博常習性の
除することから,異議申立人の職業の自由に対
危険の防止という目標に首尾一貫(folgerich-
する正当化を必要とする介入となる。以上の保
tig)して向けられていない。スポーツクジのラ
護領域およびそれへの介入の確定に続き,連邦
ントによる独占は,それ自体としては独自の正
憲法裁判所は,職業の自由の基本権への介入は,
当な目的とはなり得ない国家の財政的利益とい
基本権制限的な法律についての憲法上の要請を
う目標設定によって射幸心を抑制し,賭博常習
充たす正当な法的根拠に基づいてのみ許される,
性を防止するという目標設定との緊張関係に立
すなわち,介入規範が正当な権限に基づき公布
つ。クジからの収入効果は,原則として国家が
43
射幸心をあおるという意味においてより大きな
保護に関する規制については,公の安全と秩序
ものになる。結局,
財政的利益を考慮すれば,
賭
に関する法になるとして基本法70条1項に基づ
け事の提供を拡張し,新たに賭け事に参加する
きラントが排他的立法権限を有しているとされ
者を獲得しようとして宣伝を行うきっかけが存
ている。各ラントの非喫煙者保護法では,多少
在することになる。国家クジ法はほとんど権限
の相違点があるものの,概ね以下のような規制
と組織についての規定しか含んでおらず,それ
内容になっていた。飲食店内部での喫煙は原則
は,射幸心を抑制し,常習性の危険を防止する
的に禁止されるが,空間的に分離され,空気清
目標と矛盾する財政的目的をも追求しているこ
浄機を設置した喫煙室を設ける可能性が認めら
との現れとなっており,販売網の拡張によって
れるという禁煙に対する例外措置が設けられる。
スポーツクジは日常生活のどこででも利用する
それは,基本法2条1項によって保護されてい
ことができる「普通の」商品になっている。国
ると考えられる喫煙者の一般的行為自由との関
家独占によって追求されるべき正当な目標は,
係で,規制を比例原則に適合させるために必要
スポーツクジを市場化することではなく,それ
なものと考えられていた(この点でバイエルン
を抑制することで達成されるべきものである。
州だけが飲食店での喫煙を全面的に禁止する法
結局,バイエルン州のスポーツクジの国家独占
律を制定していたが,この法律に対する市民の
は,常習の危険の抑止や射幸心の抑制という目
反感が強く,当該州での政権交代を引き起こす
的に首尾一貫して向けられていないが故に,そ
原因になり,後に他のラントの規制と同じよう
の内容形成に関して基本法12条1項に違反する。
に,禁煙に対する例外措置を含む規制に法律が
なお,このバイエルン・国家クジ法判決にお
改正された29)
。
ける基本法12条1項の内容は,2000年7月19日
このような法律による営業活動の態様に対す
26
の連邦憲法裁判所第一法廷決定 を先例として
る規制の結果,ドイツに多く存在する小さな居
おり,さらにこのバイエルン・国家クジ法判決
酒屋(Eckkneipe)では,構造的に,あるいは
の内容は,その後,2007年11月22日の連邦憲法
資金的に,分離された喫煙室を設けることがで
27
裁判所第一法廷第二部会決定 においても先例
きず,結果的に例外なく全面禁煙にする以外に
として引用されている。
営業を続けていくことができないようになって
おり,このような居酒屋を含めた小さな飲食店
⒝ 職業活動の内容中立的な規制
ドイツでの間接規制,すなわち開業・市場参
にとっては非喫煙者保護法による飲食店での禁
入規制ではなく,職業活動の内容中立的な規制
煙措置は例外のない規制となり,全面禁煙にし
と競争制限の例となる事例は,2008年7月30日
なければ廃業しなければならないという問題が
の連邦憲法裁判所第一法廷による非喫煙者保護
あった。憲法異議申立人は,バーデン・ヴュル
28
法違憲判決 である。ここでは,市民の受動喫
テンベルク州およびベルリンの非喫煙者保護法
煙による健康に対する危険からの保護をその立
での規制に対して,それらは彼らが経営するよ
法目的として制定され,飲食店等の営業活動に
うな小さな居酒屋に対して例外を認めず,全面
対して規制をかける非喫煙者保護法(Nichtrau-
禁煙でしか営業を続けられないようにしている
cherschutzgesetz)の,当該事業の営業活動の
ことから基本法12条1項の職業の自由を侵害し,
態様に関する規制の憲法適合性が争われた。
空間的に分離可能な規模の飲食店との比較にお
各ラントは,21世紀に入って市民の受動喫煙
いて,喫煙の可能性が認められていないことか
による健康に対する危険からの保護のために非
ら基本法3条1項の平等原則にも違反するとし
喫煙者保護法を独自に制定し,それらは2007年
て,連邦憲法裁判所に憲法異議を提起した。
8月1日から2008年7月1日までの間に施行さ
連邦憲法裁判所は,この憲法異議に対して,
れた。なお,ここでも,受動喫煙の危険からの
「立法者がそこで認められる評価・形成の余地
44
に基づき経営者の職業の自由との調整において
全面禁煙は,飲食店にとって職業活動の自由
健康保護を追求しようとする飲食店での非喫煙
に対する重大な介入になるが,市民の健康とい
者保護の構想を決定したならば,特に厳しい経
う利益(基本法2条2項により保護された利益)
済的負担を回避するために小さな飲食店のよう
に認められる高度の重要性から,立法者は,飲
な集団もその中に含めておくような形で喫煙禁
食店の経営者の職業の自由や喫煙者の行為自由
止の例外を形成しておかなければならない」と
よりも,健康という保護法益に優越性を認め,飲
の理由から,バーデン・ヴュルテンベルク州非
食店での禁煙を厳格に決定することも可能であ
喫煙者保護法およびベルリン非喫煙者保護法は
る。すなわち,健康そしてまさに人間の生命が
基本法12条1項に一致しないとの判断を下し
特に高次の利益に属するために,その保護のた
30
た 。その理由を詳述すれば以下の通りとなる。
めの手段は,職業の自由という基本権に相当程
基本法12条1項によって保護される職業活動
度介入するものであってもよく,立法者は,憲
の自由は,市場で提供される財やサービスの種
法上の理由から,飲食店経営者の職業の自由を
類・質を自らで決定する権利,それらと共に求
考慮して建物内での,あるいは閉ざされた空間
められるものを提供するか否かを決定する権利
での飲食店の営業について必ずしも禁煙の例外
を含み,その点で,飲食店での喫煙規制は,自
を許可する必要はなく,保護法益の重要性から
己の店の来客に店でのサービスと共に喫煙を認
厳格な禁煙規制を決定したのであれば,飲食店
めるのか否かについて自ら決定する可能性を店
すべてに例外なく当該規制を行うことも可能で
主から奪うことになり,飲食店経営者の職業の
ある。というのも,立法者によって決定された
自由の保護領域にも直接介入している。そして,
目的は,喫煙という行為の抑制ではなく,市民
この保護領域への介入の確認から,職業の自由
の健康保護そのものだからである。しかし,本
への介入は,公共の福祉という十分な根拠に
件でのラント立法者のように,厳格な禁煙規制
よって正当化される法律上の根拠に基づくもの
を決定せず,飲食店経営者や喫煙者の利益に意
でなければならず,当該介入の手段は,目的達
義を認め,それらを考慮して健康保護の目標を
成に適合的で,公共の福祉という利益が必要と
相対化するような構想を選択するならば,比例
する以上のものであってはならず,また,過剰
性審査は異なった結論へと導く。そして,立法
に負担を課すものであってもならず,その結果,
者が,特に飲食店経営者の利益を考慮すること
介入の重大さと介入を正当化する理由の重要性
で健康保護という正当な目標の現実的意義を相
との間の全体的な衡量において,期待可能性と
対化させたのであれば,小さな居酒屋にとって
いう限界が保持されていなければならない,と
の禁煙という特別の規制効果は,全体的な衡量
の審査基準・方法が提示される。
の範囲で首尾一貫(folgerichtig)して特に強く
そこで目的審査が行われるが,受動喫煙によ
考慮されなければならない。
る健康に対する危険から市民を保護するという
以上のような観点から現在問題になっている
目的自体は正当であるとの判断が下される。す
規制を検討すれば,それは,喫煙室を設置でき
なわち,受動喫煙の危険性については客観的な
る飲食店では健康保護という利益が相対化され
科学的根拠があり,立法者が受動喫煙を健康に
ているにもかかわらず,小さな居酒屋では全面
対する危険あるものとした評価は十分事実に基
禁煙によって厳格に保護目標が追求されており,
づく根拠があると認定され,規制目的の正当性
受動喫煙による健康に対する危険性は,飲食店
は肯定されるのである。その結果,問題の焦点
経営者の職業の自由に対する衡量において,居
は飲食店での喫煙規制という手段の比例原則適
酒屋の規模に応じて異なった意義を持つものと
合性に移り,手段審査の段階で憲法上の問題が
して取り扱われている。また,喫煙室を設置で
提起されることになる。
きる居酒屋は,喫煙者にその魅力を提供するこ
45
とができるが,小さな居酒屋はその点での不利
は,職業の自由を制限するために必要とされる
な立場に置かれることになる。
厳格な禁煙は,
小
正当な目的(射幸心の抑制と常習性の危険の防
さな居酒屋の店主にだけその経済的生き残りを
止)を達成する期待可能性がないことから,手
犠牲にするよう要求する可能性を持ち,保護目
段として比例原則に反するとされている。すな
標の後退に鑑みれば,小さな居酒屋の店主に課
わち,国家の財政的利益という目標をも同時に
せられる負担は,立法者が達成しようとした利
追求しようとする点で,国家独占という手段は,
益との関係でもはや期待可能な程度にあるとは
正当な公共の利益となる立法目的の達成手段と
いえない。結局,本件での非喫煙者保護の構想
して首尾一貫しておらず,自由な競争を制限す
を基礎にした立法者の評価・形成の内容に照ら
る手段としての国家独占という方法は正当化で
してみれば,小さな居酒屋の店主に全面禁煙に
きないということである。結局,この判断は,市
よって課せられる特別の負担を甘受するよう期
場化という形では実現し得ない,すなわち事業
待することはできず,それは,基本法12条1項
者の競争によっては達成し得ない目的を追求す
の職業の自由に対する許されない侵害となる。
るためにとられた手段であるはずの国家独占が,
ここでの連邦憲法裁判所による規制の違憲性
それと矛盾する目標の実現をも追求するが故に
判断は,ラントの立法者が,彼らに保障されて
首尾一貫したものになっていないという点で,
いる非喫煙者保護の内容形成に際して,飲食店
競争否定的な手段としての国家独占が比例的な
経営者の一定の集団に課せられる特別の負担を
ものとはいえないとされている。逆に,連邦憲
考慮すれば期待可能に思えるような規制を行っ
法裁判所の判断に従えば,国家独占という競争
ていないという点にある。すなわち,法律での
否定的手段が,憲法上,職業の自由との関係で
喫煙規制は,立法者によって構想された規制の
比例的といえるためには,そもそも〈競争秩序〉
基本的コンセプトに照らして首尾一貫していな
の中で実現し得ない正当な公共の利益を追求す
31
いことが問題だとされているのであった 。
る場合に限られ,その際には〈競争秩序〉の中
でも追求し得るような目標の達成を求めない首
3 比例原則の内容としての首尾一貫性
尾一貫したものでなければならない,というこ
とができる32。要するに,この連邦憲法裁判所
⑴ 連邦憲法裁判所の判断の検討
の判断の前提として,
〈競争秩序〉において実現
以上の連邦憲法裁判所による2つの違憲判断
し得ない公共の利益の存在を容認し,その利益
の内容を検討すれば,次のようなことがいえる。
追求のための規制自体は憲法違反ではなく職業
国家独占という職業内容に着目した職業の自由
の自由の制約を可能にするが,競争否定的手段
に対する直接規制の場合と,職業内容ではなく
によって本来追求し得ないような目標をも併せ
内容中立的な職業活動に対する間接規制の場合
て達成しようとする限り,そこでの規制は首尾
の,どちらも競争制限的な側面を持つ規制に対
一貫しないことから許されない,ということに
して,連邦憲法裁判所は,目的審査ではなく,規
なる。
制の手段審査の段階での比例原則の適用に際し
これに対して,非喫煙者保護法違憲判決での
て,規制の首尾一貫性の要求から,それぞれの
理由は以下のようにいうことができる。法律に
規制の違憲性を導いている。問題は,この規制
よって定められている健康保護と職業の自由と
の首尾一貫性の要請が〈競争秩序〉とどのよう
の優先関係を定める非喫煙者保護のための立法
な関係を持つのかという点になろう。
者の基本的構想に照らして,規制が職業の自由
バイエルン・国家クジ法判決での違憲理由を
との関係で首尾一貫していない点を問題にし,
簡単に確認すれば,法律によって内容形成され
小さな居酒屋の店主に重大な負担をかけ,期待
た国家によるスポーツクジの主催・取次の独占
可能性に欠ける点で比例原則に一致しないこと
46
を違憲理由にしている。すなわち,禁煙に対す
競争制限的効果を持つ以上,当該規制の首尾一
る例外を認めた以上,より緩やかな方法での目
貫性が,
〈競争秩序〉の維持・確保のために重要
的達成を追求する必要があるという点で禁煙を
な機能を果たすことも確認できる。但し,従来
小さな居酒屋に強要する規制に問題があり,そ
の連邦憲法裁判所の判断では,手段審査の段階
の際に用いられるのが首尾一貫性の基準である。
での比例原則の適用については,単純法律に
この基準は,基本法12条1項に対する過剰禁止
よって採用される規制手段それ自体がその適用
の要請の一要素ととらえられ,そこから立法者
対象とされていた。すなわち,立法目的が憲法
の決定した規制の基本的構想への自己拘束を職
上の正当性を有するとすれば,法律が用いる手
業活動に対する規制の正当化理由の中に取り入
段がそれを達成するために比例的か否かが審査
れる機能を果たし,健康保護のための〈競争秩
されるにすぎなかった。ところが,そのような
序〉への介入をそれによって審査し,競争制限
審査方法がとられていたにもかかわらず,バイ
的な負担を小さな居酒屋に課している点で首尾
エルン・国家クジ法判決と非喫煙者保護法違憲
一貫していないとの判断になる。結局,競争制
判決では,単純法律の実質的内容それ自体の内
限的な効果を発揮する禁煙という規制は立法者
的連関が比例原則に適っているか否か,すなわ
の基本的構想に照らして首尾一貫しておらず,
ち,規制内容それ自体の立法者による内容形成
緩められた立法目的を達成する手段として首尾
の評価のために,首尾一貫性の基準が用いられ
33
一貫していないということができる 。ここで
ている。その点で,首尾一貫性の要請は,職業
の判断も,立法者に規制の基本的構想に首尾一
の自由を規制する単純法律を制定する際に立法
貫した形で内容形成するよう求め,小さな居酒
者が従うべき一つの憲法上のルールとしての位
屋の店主にだけその経済的生き残りを犠牲にす
置づけが与えられるようになっている。
るよう要求するような競争制限的な効果を持つ
以上のように,規制の首尾一貫性の基準は,
規制を職業の自由の侵害と認定している。した
「立法者の決定した規制の基本的構想への自己
がって,この事件での判断は,競争制限的な効
拘束を職業活動に対する規制の正当化理由の中
果を持つ規制を職業の自由との関係で憲法上問
に取り入れる機能を果たす」ものとなる。しか
題にし,首尾一貫性に欠けるが故に憲法違反と
し,それは,「元々は自由権的基本権に対する規
の結論を導き出すものとなる。結局,この連邦
制の憲法から導かれる過剰禁止(比例原則)の
憲法裁判所の判断の前提には,職業活動の規制
内容に含まれるものであったわけではなく,平
が許されるためには〈競争秩序〉の維持が必要
等原則の内容として立法者の自己拘束を要請す
との見解が暗黙のうちに存在しており,たとえ
るものであった」 。これがなぜ競争制限的な職
憲法上高次に位置づけられる基本権上の利益を
業活動に対する規制の場面で,比例原則の内容
保護する正当な目的が認定できても,規制が首
として用いられるようになったのかは確認して
尾一貫したものではなく,その結果として競争
おく必要がある。そのきっかけは,連邦憲法裁
制限的な効果を持つ場合には憲法上許されない,
判所の判断の中ではなく,
〈競争秩序〉を前提に
ということになる。
するEUでの問題として,連邦憲法裁判所の判断
34
に先行する欧州司法裁判所によるイタリアでの
⑵ 違憲性判断の根拠としての首尾一貫性
スポーツクジの国家独占を違法と判断した
以上の検討から,連邦憲法裁判所のどちらの
Gambelli事件の判決35である。そこでの判断が,
判決も,規制の首尾一貫性の要請を,手段審査
ドイツ国内の問題に対処する連邦憲法裁判所の
の場面でも,比例原則の適用における目的実現
判断に大きく影響していると考えられる。
の期待可能性の判断の中で用いていることがわ
Gambelli事件の欧州司法裁判所の判決でも,
かる。そして,問題とされる職業活動の規制が
賭博に対する国家規制については比例原則を厳
47
格に適用することで,ヨーロッパ法の基本原理
響されていることから,この首尾一貫性の要請
たる基本的自由の侵害になるとの判断が下され
の適用は,
「以前から存在していた競争秩序の維
ている。そこでは,国家独占による開業の自由
持・保護と基本法上の経済的自由の保障とを関
に対する規制は,やむにやまれぬ公共的利益の
連づけるドグマーティク上の困難さを緩和して
追求を根拠にしていなければならず,そのよう
くれる」 効果も発揮することになる。
な利益追求の実現に適切な方法であり,
また,
目
以上の効果と共に,連邦憲法裁判所の二つの
標達成にとって必要以上のものであってはなら
判決で用いられた首尾一貫性の要請には違いも
ず,さらに非差別的な方法による首尾一貫した
存在する。バイエルン・国家クジ法判決では,
39
体系整合的なものでなければならないとの判断
〈競争秩序〉の否定が憲法上正当とされるが故
基準が示された。
ところが,
イタリアでのスポー
に,職業の自由の規制の首尾一貫性が要請され
ツクジの国家独占による規制は,インターネッ
ている。これに対して,非喫煙者保護法違憲判
トの利用による他のEU構成国(ここで問題とし
決では,規制自体が〈競争秩序〉を歪める結果
て取り上げられたのはスポーツクジの実施・取
となっているが故に,
〈競争秩序〉を回復するた
次を自由市場で展開しているイギリス)で行わ
めに規制の首尾一貫性が要請されている。その
れているスポーツクジの購入に対する禁止規定
ために,同じく首尾一貫性の要請を用いていて
を含まず,また,常習性の危険予防や射幸心の
も,職業の自由の規制の憲法上の正当性判断の
抑制という正当なやむにやまれざる公共的利益
中で,
〈競争秩序〉との関係ではそのベクトルは
の追求ではなく,スポーツクジの購入を煽るよ
逆方向に向いているといえる。そしてこの点に
うな財政的理由からの規制になっていることが
ついては,規制手段の目的達成についての期待
確認される。その結果として,スポーツクジの
可能性の中で用いられる首尾一貫性の要請は,
国家独占は追求されるべき正当な公共的利益追
職業の自由に対する規制についての厳密な内容
求のための首尾一貫した規制ではなく,EU域内
形成を立法者に課すことになるが,〈競争秩序〉
での自由な開業を妨げる違法な規制になるとの
との関係では,それを維持するためにも,逆に
判断が,欧州司法裁判所によって下されること
否定する場合にも,どちらの場面でも利用可能
になった。
なものになり得るということである。ただ,そ
この判断は,後に欧州司法裁判所で取り上げ
うではあっても,元々,平等の要請との関係で
られたPlacanica事件の判決36や,ポルトガルで
用いられていたが故に,また,その適用のきっ
37
の賭博規制についての判決 でも踏襲されてい
かけが欧州司法裁判所の競争制限的な規制につ
る。そのために,EU構成国は,賭博・富くじに
いての判断の中であったということから,首尾
対する規制を行う際に,特に重い正当化の負担
一貫性の要請は,平等な競合者による競争の確
38
を課せられることになる 。すなわち,競争制
保という観点で,職業の自由に関連して用いら
限的効果を持つ職業活動の規制に対して,そこ
れる場合には,
〈競争秩序〉との関係で利用され
での内容形成は,首尾一貫性の要請により,比
やすいものになっているという特徴は,ここで
例的なものであることが必要とされることに
確認していくことが重要になる。
なったということである。これは,ドイツの連
4 まとめとして─〈競争秩序〉中立
性と規制のルール─
邦憲法裁判所の判断からもわかる通り,職業の
自由との関係で首尾一貫性の要請が用いられる
結果,職業活動に対する規制を憲法違反とする
判断を導きやすいものにするという効果を持つ。
市場経済秩序のあり方と憲法との関連性は,
そしてそれ以上に,域内市場での自由な競争秩
〈競争秩序〉との関係で非常に困難な問題を提起
序の構築を目指したEUで展開された判断に影
することになる。すなわち,この「市場経済秩
48
序」は〈競争秩序〉を意味するのか,
さらに,
憲
なお,ドイツで問題になったのと同様の規制
法の下で経済秩序として一つの市場ではなく複
が日本でも存在するが,そもそもそれらが職業
数の市場が成立する可能性はないのか,職業の
活動・経済活動に対する規制になるのではない
自由が問題になる市場は常に同じ単一の〈競争
かとは考えられていない。すなわち,公営ギャ
秩序〉の下に成立しているものなのか。これら
ンブルを認めつつ賭博・富くじを犯罪として規
の問題に答えることは簡単ではない。
しかし,
職
制することが,
〈競争秩序〉を否定する国家独占
業活動に対する公的規制の問題を憲法問題とし
であり,職業の自由に対する侵害行為とならな
てとらえれば,それについては,ドイツの憲法
いのか,受動喫煙の防止のための飲食店等での
判例を参照に,以下のようにいうことができる。
禁煙・分煙の強制が,店舗の規模に応じて過剰
バイエルン・国家クジ法判決では,
本来,
〈競
な負担をかける可能性から〈競争秩序〉を歪め
争秩序〉の下に服さないはずの経済活動である
る虞のある職業(営業)活動に対する侵害行為
のに,それを市場化する傾向の下で展開するが
ではないかという点は,これまでほとんど議論
故に,国家独占を首尾一貫しない手段ととらえ
されずにいる。例えば,前者の賭博・富くじに
ている。それに対して,非喫煙者保護法違憲判
対する規制については,賭場開張図利「の反社
決では,本来,自由な〈競争秩序〉の下で展開
会性自体が否定されぬこと判旨のいうとおりで
されるべき経済活動が,特定範囲の事業者に競
あるが,国・都道府県が主として財政上の理由
争上不利益となるような効果を持つが故に,そ
に基づき,各種の公営競技等を行なう事実は,賭
こでの規制手段が首尾一貫しないものとされて
博行為の犯罪性を肯定する根拠を薄弱ならしめ
いる。その結果,職業活動に対する公的規制の
る」との見解40はかなり以前からある。また,受
憲法適合性を判定する際に,
〈競争秩序〉を念頭
動喫煙の防止といった人の生命・健康に関わる
に置いた審査が行われるためには,規制の首尾
規制等については,簡単にその必要性が確認さ
一貫性の要請は有効に機能する。但し,ドイツ
れる傾向もある。このような日本の状況に鑑み
連邦憲法裁判所のこれらの判決で用いられた首
て,国家の独占・専売事業や特許制の憲法問
尾一貫性の要請は,確かに〈競争秩序〉との関
題41,さらには規制目的だけではなく,公的規
係では中立的な,すなわち自由制限立法の正当
制の態様に応じた区分論に基づく〈競争秩序〉
性を判定する際の比例原則の一つの要素にすぎ
への効果からのアプローチによる憲法適合性判
ないということはできる。そのうえで,次のこ
定も,今後検討する必要があろう。なお,その
とも確認できる。バイエルン・国家クジ法判決
際に重要なことは,規制の首尾一貫性が必ずし
と非喫煙者保護法違憲判決において職業の自由
も日本の最高裁で認識されていない要請ではな
との関係で問題とされた規制は,共に,ラント
く,法律内容の形成に際しての「立法者の自己
の「公の安全と秩序に関する法」であり,しか
拘束」として用いられていること42をここで確
も,どちらも〈競争秩序〉を歪める効果を持つ
認しておくことになろう。
ものであった。そのような特徴を持つ職業の自
注
由に対する規制は,たとえ立法者に規制につい
ての形成の余地(すなわち立法裁量)が認められ
1 野中ほか『憲法Ⅰ[第4版]
』
(有斐閣,2006
年)435頁[高見勝利執筆]参照。
2 芦部信喜(高橋和之補訂)
『憲法[第4版]
』
(岩波書店,2007年)210頁参照。
3 憲法と市場経済秩序の係わりについてのこの
ような説明は,須網隆夫「憲法と市場経済秩序
─市場の成立条件と市場のあり方の選択
─」季刊・企業と法創造6巻4号46頁(2010
るとしても,その内容形成については首尾一貫
性が要請されている。その点で,首尾一貫性の
要請は,
〈競争秩序〉に影響を及ぼす職業規制に
ついての,
憲法上の正当性を確保するための,
ま
さに立法者に課せられた規制のルールになると
いうことができる。
49
年)参照。
4 最判昭和53年3月14日民集32巻2号211頁。
5 最判昭和59年2月24日刑集38巻4号1287頁。
6 この点については,根岸哲・舟田正之『独占
禁止法概説[第4版]』(有斐閣,2010年)28 〜
30頁参照。
7 長谷部恭男『憲法[第4版]』(新世社,2008
年)250頁参照。
8 棟居快行『憲法学再論』(信山社,2001年)55
頁参照。
9 長谷部『憲法』・前掲注(7)238頁では,
「一
般に,経済活動の規制が,正当な立法目的のた
めに必要かつ合理的といえるか否かという形で
論じられることになり,その規制が自由を『制
約』しているのか,
『促進』しているのかという
性格の違いはさほど明確化していない」と指摘
する。
10 このような見解から憲法と経済秩序にアプ
ローチするものとして,棟居快行「憲法と経済
秩序─解釈理論上の問題の所在─」季刊・
企業と法創造6巻4号102頁以下(2010年)参
照。
11 この判断は,いわゆる薬事法違憲判決におい
て示されたものである。最大判昭和50年4月30
日民集29巻4号572頁。
12 野中ほか『憲法Ⅰ』・前掲注(1)455 〜 456
頁参照。
13 この見解は,石川健治「営業の自由とその規
制」大石眞・石川健治(編)『憲法の争点』(有
斐閣,2008年)148頁以下参照。なお,本文引用
箇所は,同150頁参照。
14 石川・前掲注(13)150頁参照。
15 もちろん小売商業調整特別措置法事件の最高
裁判決(最大判昭和47年11月22日刑集26巻9号
586頁)では,零細企業たる小売商の保護を目的
にする規制について,競争制限的な事前規制た
る許可制でも,
「社会経済の均衡のとれた調和的
発展」という観点から憲法上正当化され得るも
のとの見解が示されており,その点で経済秩序
についての一定の態度表明とみなすことは可能
であるが,それが〈競争秩序〉との関係でいか
なる意味を持つのかは必ずしも自明とはいえな
いということは可能であろう。
16 戦後ドイツの経済体制についてのこの説明に
ついては,根岸・舟田『独占禁止法概説』・前
掲注(6)3頁参照。もちろん「社会的市場経
済」原理に基づくドイツの体制が日本と同じか
否かは議論の対象になるが,一応,ここではそ
の点を留保して憲法上の議論を取り上げること
にする。
17 ドイツ連邦憲法裁判所の判例からこのような
職業の自由の規範内容を説明するものとして,
Christian Bumke & Andreas Voßkuhle, Casebook Verfassungsrecht, 5. Aufl., 2008, S. 200ff.
18 この点の指摘として,
石川・前掲注(13)149
頁参照。
19 連邦憲法裁判所の判断と競争秩序との関連に
ついてのこのようなとらえ方を提示するものと
して,
Lothar Michael & Martin Morlok, Grundrechte, 2008, S. 190f.
20 Hans D. Jarass, Charta der Grundrechte der
Europäischen Union, Kommentar, 2010, S.
166f.
21 Michael & Morlok, Fn. 19, S. 190.
22 Lothar Michael, Wettbewerb von Rechtsordnungen, DVBl 2009, S. 1062 (1062f.).
23 BVerfGE 115, 276.
24 賭博開帳については刑法(StGB)284条が,
富
くじについては刑法286条がそれぞれ犯罪とし
て規定しているが,そこでの処罰の対象は,あ
くまでも「官庁の許可を受けないで,公然と」
賭博・富くじを開催・取次した者に限定されて
いる。
25 Urteil des Bundesverwaltungsgerichts vom
28. März 2001, BVerwGE 114, 92.
26 いわゆるカジノ決定:BVerfGE 102, 197. こ
のカジノ決定については,井上典之「カジノ開
設の禁止と職業の自由─カジノ決定─」ド
イツ憲法判例研究会(編)
『ドイツの憲法判例
Ⅲ』304頁以下(2008年)参照。
27 Beschl. der 2. Kammer des Ersten Senats
des Bundesverfassungsgerichts vom 22. November 2007.この決定は,2006年6月21日の連
邦行政裁判所による判決(BVerwGE 126, 149)
に対する憲法異議であり,バイエルン州でのス
ポーツクジの国家独占について再び基本法12条
1項違反が確認されている。なお,この決定に
つ い て は, 連 邦 憲 法 裁 判 所 の ホ ー ム ペ ー ジ
(http://www.bverfg.de/entscheidungen/rk20
071122_1bvr221806.html)を参照。
28 BVerfGE 121, 317.
29 なお,バイエルン州ではその後再び全面禁煙
の規制が制定され,それを対象として連邦憲法
裁判所に憲法異議が提起されたが,連邦憲法裁
判所第一法廷第二部会は,2010年8月2日,そ
の受理を拒否する決定を下している。
その中で,
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この2008年判決を引用し,全面禁煙は基本権侵
害にならないことが確認されている。この決定
は,連邦憲法裁判所のホームページ(http://
www.bverfg.de/entscheidungen/rk20100802_
1bvr174610.html)を参照。
30 なお,この判決では,飲食店だけでなく,バー
デン・ヴュルテンベルク州非喫煙者保護法が,
18歳未満の者が入店できず,喫煙室の設置可能
なディスコにおいても例外なく完全禁煙にしな
ければならないとの規制をかけていることを基
本法3条1項と連携した12条1項に違反すると
の判断も下されている。
31 この判決の内容については,井上典之「喫煙
規制をめぐる憲法問題─ドイツ連邦憲法裁判
所の禁煙法違憲判決を素材に─」法律時報81
巻5号(2009年)104頁以下参照。
32 連邦憲法裁判所の判断からこのような点を指
摘するものとして,Hans-Detlet Horn, Anmerkung vom BVerfG, Urteil vom 28. 3. 2006, JZ
2006, S. 789 (789ff.).
33 Lothar Michael, Folgerichtigkeit als Wettbewerbsgleichheit : Zur Verwerfung von Rauchverboten in Gaststäten durch das BVerfG, JZ
2008, S. 875 (876f.).
34 この点については,井上・前掲注(31)113頁
参照。
35 EuGH, Urteil vom 6. 11. 2003, NVwZ 2004, S.
87ff.
36 EuGH, Urteil vom 6. 3. 2007, JZ 2007, S. 732ff.
37 EuGH, Urteil vom 8. 9. 2009, DVBl 2009, S.
1371ff.
38 この指摘は,Hans-Detlet Horn, Anmerkung
vom EuGH, Urteil vom 6. 3. 2007, JZ 2007, S.
736 (738).
39 井上・前掲注(31)113頁参照。
40 これは,刑法186条2項の賭場開張図利罪に関
する最高裁判決(最大判昭和25年11月22日刑集
4巻11号2380頁)についての,種谷春洋「生命,
自由および幸福追求の権利」芦部信喜(編)
『憲
法判例百選Ⅰ[第2版]』(1980年)28頁によっ
て展開された判例解説である。
41 このような問題について,日本でこれまで全
く検討されていないわけではない。その一端を
示すものとして,初宿正典『憲法2基本権[第
3版]』(成文堂,2010年)340頁以下参照。ま
た,新エネルギーの利用についての法的規制を
特許制との関係で検討するものとして,棟居快
行「契約自由の原則と新エネルギー法制をめぐ
る小論」阪大法学58巻3・4号(2008年)87頁
以下も参照。
42 この点については,渡辺康行「立法者による
制度形成とその限界─選挙制度,国家賠償・
刑事補償制度,裁判制度を例として─」法政
研究76巻3号249頁(2009年)266頁以下参照。
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