宇宙船地球号 命令が下されている。ハッチが開くとと もに⾷料に殺到する⼈々が『これは俺の だ!』と⾔うことを許可する命令である。」 2 フラーの世界観:有限な資源 を何に使うべきか 「宇宙船地球号(Spaceship Earth)」という⾔葉は、 20 世紀 アメリカの建築家・思想家、バックミンス ター ・フラー(Buckminster Fuller)によって有名に なった。彼は1963 年、『宇宙船地球号操縦マニュ アル(Operating manual for Spaceship Earth)』* [3] を 著し、宇宙的な視点から地球の経済や哲学を説い た。 彼はこの書籍で、地球と⼈類が⽣き残るためには、 個々の学問分野や個々の国家といった専⾨分化さ 1968 年12 ⽉ 24 ⽇ にア ロ 8 号 ミッションが した れた限定的なシステムでは地球全体を襲う問題は 「地球の 」。ア ロ で された地球の は、観 解決できないことを論じ、地球を包括的・総合的 る者に、もはや地球は無限⼤の存在ではなく、保 の必 な視点から考え理解することが重要であり、その 要な な存在という を えるようになった ために教育や世界のシステムを組みなおすべきだ とした。彼は化⽯燃料 や原⼦⼒ エネルギーや鉱 宇 宙 船 地 球 号(う ちゅ う せ ん ち きゅ う ご う、 物資源 などの消費について、彼独特の包括的アプ Spaceship Earth)とは、地球 上の資源 の有限性や、 ローチを反映しながら次のように述べた。 資源の適切な使⽤について語るため、地球を閉じ た宇宙船 にたとえて使う⾔葉。バックミンスター ・ 「私たちがまず理解するのは、物質的な フラー が提唱した概念・世界観 である。またケネ エネルギーは保存されるだけでなく、つ ス・E・ボールディング は経済学 にこの概念を導 ねに「宇宙船地球号」に化⽯燃料貯⾦と ⼊した。 してためられて、それは増える⼀⽅だと いうことだ。この貯⾦は光合成や、地球 号表⾯で続けられる複雑な化⽯化の過程 によって進められ、さらには霜や⾵や洪 1 初期の概念 ⽔や⽕⼭、地震による変動などによって、 地球の地殻深くに埋められたものだ。も 地球を「宇宙を航海する船」に⾒⽴てる概念とし し私たちが、「宇宙船地球号」の上に数⼗ て最も初期のものは、19 世紀 のアメリカ合衆国 億年にもわたって保存された、この秩序 の政治経済学 者・ヘンリー ・ジョージ の名著、『進 化されたエネルギー貯⾦を、天⽂学の時 歩と貧困(Progress and Poverty)』 (1879 年)に⾒ら 間でいえばほんの⼀瞬に過ぎない時間に れる* [1]* [2]。4 巻の 2 章にはこうあるが、この時 使い果たし続けるほど愚かでないとすれ 点では地球という「船」の貯蔵は無限であるとさ ば、科学による世界を巻き込んだ⼯業的 れている。 進化を通じて、⼈類すべてが成功するこ ともできるだろう。これらのエネルギー 貯⾦は「宇宙船地球号」の⽣命再⽣保障 「我々が宇宙 を航海するために使うこの 銀⾏⼝座に預けられ、⾃動発進(セルフ・ 地球とはよくできた船 である。もし甲板 スターター)機能が作動するときにのみ 上のパンと⾁が少なくなってきたような 使われる。」* [4] ら、我々はただハッチを開ければよい。そ こには開ける前は夢にも⾒なかった⾷料 フラーは、地球の歴史とともに蓄えられてきた有 が新たに補充されているのだ。そして他 限な化⽯資源を燃やし消費し続けることの愚を説 者への奉仕のために、⾮常にすばらしい 1 9 外 2 いた。これらの資源は⾃動⾞で⾔えばバッテリー のようなものであり、メイン・エンジンのセル フ・スターターを始動させるために蓄えておかね ばならないとした。メイン・エンジンとは⾵⼒や ⽔⼒、あるいは太陽 などから得られる放射エネル ギーなどの巨⼤なエネルギーのことであり、これ らのエネルギーだけで社会や経済は維持できると 主張し、化⽯燃料と原⼦⼒だけで開発を⾏うこと はまるでセルフ・スターターとバッテリーだけで ⾃動⾞を⾛らせるようなものだと述べた* [4]。彼 は⼈類が⽯油 やウラン といった資源に⼿を付け ることなく、地球外から得るエネルギーだけで⽣ 活できる可能性がすでにあるのに、現存する経済 や政治のシステムではこれが実現不可能であると 述べ、変⾰の必要性を強調した。 3 5 批判 地球は、⼈間の種としての起源よりはるかに古く から存在している。⾃然環境の複雑さと巨⼤さは 宇宙船などとはまったく⽐較にならない。「宇宙 船地球号」という⽐喩は、⼈間の責任を⾃覚させ る有効性はあるものの、⼈間が地球の唯⼀絶対の 主⼈であると錯覚する傲慢さにつながるという批 判もある。 6 参照 •『宇宙船地球号操縦マニュアル』バックミン スター・フラー著、芹沢⾼志訳、筑摩書房(⽂ 庫)ISBN 4480085866 •『バックミンスター・フラーの宇宙学校』バッ クミンスター・フラー著、⾦坂留美⼦訳、める くまーる、ISBN 4480085866 ボールディングの概念:宇宙 船のように有限な地球経済 1966 年、アメリカの経済学者ケネス・E・ボール ディング は『来たるべき宇宙船地球号の経済学 7 (The Economics of the Coming Spaceship Earth)』* [5] というエッセイのタイトルにこの⾔葉を使った。 [1] ボールディングはかつての「開かれた経済」は無 限の資源を想定していた(彼はこれを「カウボー イ経済」と呼びたい誘惑に駆られると述べた)と [2] し、続けてこう書いた。 「未来の『閉じた経済』は、同様に『宇宙 ⾶⾏⼠経済』と呼ばれるべきだろう。こ こでは地球は⼀個の宇宙船となり、無限 の蓄えはどこにもなく、採掘するための 場所も汚染するための場所もない。それ ゆえ、この経済の中では、⼈間は循環す る⽣態系やシステムの中にいることを理 解するのだ。」(デイヴィッド・コーテン (David Korten)は1995 年 の『企業が世界 を⽀配するとき』の中で、「宇宙船の中 のカウボーイ」というテーマを取り上げ ている。) 4 脚注 http://www.econlib.org/library/YPDBooks/George/ grgPP20.html#Book%20IV,%20Chapter%202 http://www.schalkenbach.org/library/george.henry/ pp042.html [3] http://reactor-core.org/ operating-manual-for-spaceship-earth.html [4]『宇宙船地球号操縦マニュアル』pp.126-128 バック ミンスター・フラー著、芹沢⾼志訳、筑摩書房(⽂ 庫)ISBN 4480085866 [5] http://dieoff.org/page160.htm [6] http://www.wowzone.com/mc-lee.htm 8 関連項目 • バックミンスター・フラー • ガイア理論 - 地球を⾃⼰組織化を⾏う⼀個の ⽣命体と例えた仮説で、地球を機械・宇宙船 ととらえる『宇宙船地球号』概念との間で対 ⽴を起こした。 詩的表現 国連事務総⻑ のウ・タント は1971 年3 ⽉ 21 ⽇ の 最初のアースデイ(翌年より 4 ⽉ 22 ⽇となってい る)で、「⽇本の平和の鐘」を鳴らす式典上こう述 べた。 「これから毎年、平和で喜びに満ちたアー スデイだけが、我々の美しい宇宙船地球 号に来るように。地球号が温かくて壊れ やすい⽣物という貨物とともに回転し、 厳寒の宇宙を巡り続けるかぎり。 」* [6] リンク •『素敵な宇宙船地球号』環境をテーマとした 情報・ドキュメンタリー番組(テレビ朝⽇系、 1997 年 4 ⽉〜 2009 年放送) 9 外部リンク • 松岡正剛の千夜千冊『宇宙船地球号操縦マ ニュアル』
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